JP2009078440A - 流延ダイ、溶液製膜設備及び溶液製膜方法 - Google Patents

流延ダイ、溶液製膜設備及び溶液製膜方法 Download PDF

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Abstract

【課題】裏面層と表面層との膜厚差を抑えつつ、フイルムを製造する。
【解決手段】流延ダイ52は、積層ドープ61が通過するスロット106を有する。スロット106は、第1スロット部111、第2スロット部112及び第1幅縮小スロット部116を有する。第2スロット部112は、方向SDの流路幅が、第1スロット部111の方向SDの流路幅よりも狭く、第1幅縮小スロット部116は、方向SDの流路幅が、第1スロット部111側から第2スロット部112側に向かうに従い次第に狭くなるように形成される。スロット106の方向SDの流路幅は、内壁面100a、101aによって決定される。また、1対の内壁面100a、101aは、対称面SFに対して、面対称に形成される。ここで、対称面SFとは、方向B1に直交する断面において、内壁面100aと内壁面101aとの間に位置し、方向LDと略平行な直線として現れる平面である。
【選択図】図5

Description

本発明は、流延ダイ、溶液製膜設備及び溶液製膜方法に関する。
ポリマーフイルム(以下、フイルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フイルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フイルムは、強靭性を有し、低複屈折率であることから、写真感光用フイルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置(LCD)の構成部材である偏光板の保護フイルムまたは光学補償フイルムなどの光学機能性フイルムに用いられている。
フイルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフイルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、膜厚精度を調整することが難しく、また、フイルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学機能性フイルムへ使用することができるような高品質のフイルムを製造することが困難である。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含んだポリマー溶液(ドープ)を支持体上に流延して形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フイルムとし、さらに、この湿潤フイルムを乾燥させてフイルムとする方法である。溶融押出方法と比べて、光学等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフイルムを得ることができるため、光学機能性フイルムは、主に溶液製膜方法で製造されている。
この溶液製膜方法では、セルローストリアセテートなどのポリマーをジクロロメタンや酢酸メチルを主成分とする溶媒に溶解した高分子溶液(以下、ドープと称する)を用いる。そして、このドープに所定の添加剤を添加・混合し、流延用のドープを調製する。このドープを流延ダイより吐出させて、キャスティングドラムやエンドレスバンドなどの支持体上に流延膜を形成する。そして、流延膜の冷却により、流延膜のゲル化を進行させ、流延膜に自己支持性を発現させる。その後、この流延膜を、支持体から湿潤フイルムとして剥ぎ取り、この湿潤フイルムを乾燥させたものをフイルムとして巻き取る。
また、近年では、特許文献1のように、主ドープと副ドープとが層をなす積層ドープを用いた溶液製膜方法(以下、共流延方式と称する)が行われることが多い。この共流延方式の溶液製膜方法の概要について説明する。図9のように、流延ダイ300は、走行する支持体301の支持面301a上に積層ドープ302を吐出する。支持面301a上の積層ドープ302は、流延膜303となる。この流延膜303は、主ドープからなる中間層303aと、副ドープとからなり、支持面301aと接触する裏面層303bと、副ドープとからなり、この裏面層303bと反対側の表面層303cとが、厚さ方向において、層をなす構造を有する。このような層構造を有する流延膜303を支持面301aから剥ぎ取り、所定の乾燥工程を行うと、流延膜303と略同様の層構造を有するフイルムを製造することができる。この共流延方式の溶液製膜方法において、主ドープとして、フイルムの強度や光学的機能に適するドープを用い、副ドープとして、主ドープに比べて粘度の低いドープ、或いは、所定の添加剤を添加されたドープを用いると、製造工程におけるフイルム表面のシワの発生の防止や、剥ぎ取り性などの製造時の取り扱い性の向上を図りつつ、所望の光学特性のフイルムを容易に製造することができる。
特開昭56−162617号公報
近年において、液晶表示装置の需要の急速な増加に伴い、生産効率の高い溶液製膜方法が強く望まれている。したがって、光学性機能フイルムを効率よく製造できる溶液製膜方法及び溶液製膜設備が検討されている。
ところが、高速の製膜速度(例えば、40m/分以上)で共流延方式の溶液製膜方法を行うと、シャークスキンなどの厚みムラが発生し、これに起因して、フイルムの幅方向におけるレターデーションなど光学特性のムラが生じることがわかった。
図10に、共流延方式の溶液製膜方法により製造された、膜厚100μmのフイルムについて、フイルムの幅方向における、裏面層303b及び表面層303cの膜厚の変化量を示す。縦軸は、各層303b、303cの膜厚を表し、横軸は、フイルムの幅方向における位置を表し、Peは、フイルムの幅方向における両側端部を、Peはフイルムの幅方向における中央部を表す。また、図中の実線は裏面層303bの膜厚を、破線は、表面層303cの膜厚を表す。図10より、共流延方式の溶液製膜方法により製造されたフイルムにおいて、フイルムの両側端部Peでは、裏面層303bの膜厚と表面層303cの膜厚との差がほとんど見られないが、フイルムの幅方向の中央部Pc近傍では、裏面層303bの膜厚と表面層303cの膜厚との間に、裏面層303bや表面層303cの平均膜厚の5〜15%程度の膜厚差が生じることがわかった。そして、裏面層303bと表面層303cの膜厚の差が、フイルムの光学特性のムラの主たる原因であることがわかった。
本発明は、上記課題を解決するものであり、裏面層と表面層の膜厚の差が略等しいフイルムを効率よく製造することができる流延ダイ、溶液製膜設備及び溶液製膜方法を提供することを目的とする。
本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープが供給される供給口と、前記ドープが流延ビードとして流延される流出口と、前記供給口と前記流出口とを連通するスロットとを有し、前記ドープの流出方向に直交する断面における前記スロットの形状が、第1方向に長い1対の第1内壁面と前記第1方向に直交する第2方向に短い1対の第2内壁面とによりスリット状に形成されている流延ダイにおいて、前記スロットは、前記流出口の上流側に設けられる第1スロット部と、前記第1スロット部の上流側に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第1スロット部のものよりも広い第2スロット部と、前記第1スロット部と前記第2スロット部との間に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第1スロット部から前記第2スロット部に向かうに従い次第に広くなる第1接続スロット部とを有し、前記各スロット部は、前記流出口の前記第2方向における中心を通り前記1対の第1内壁面に平行な中心面を対称面として、前記1対の第1内壁面が面対称に形成されることを特徴とする。
前記第2スロット部の上流側に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第2スロット部のものよりも広い第3スロット部と、前記第2スロット部と前記第3スロット部との間に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第2スロット部から前記第3スロット部に向かうに従い次第に広くなる第2接続スロット部とを有し、前記第3スロット部及び前記第2接続スロット部の前記1対の第1内壁面が前記中心面を対称面として、面対称に形成されていることが好ましい。また、前記第2スロット部の上流側に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第2スロット部のものよりも広い第1ポケット部を備え、前記第1ポケット部は、前記第2スロット部との間で下流側から順に、前記1対の第1内壁面間の流路幅が上流側に向かうに従い次第に広くなる縮流内壁面と、前記1対の第1内壁面間の流路幅が変わらないポケット本体内壁面と、前記1対の第1内壁面間の流路幅が上流側に向かうに従い次第に狭くなる拡流内壁面と、を有することが好ましい。
前記1対の第1内壁面に沿って副ドープを、前記副ドープ間に主ドープを積層状に供給する積層ドープ供給部を有することが好ましい。
前記第1接続スロット部の前記第1内壁面と前記第1スロット部の前記第1内壁面との接合部、または、前記第1接続スロット部の前記第1内壁面と前記第2スロット部の前記第1内壁面との接合部を断面略円弧状に面取りした第1湾曲接続面を備えることが好ましい。また、前記第2接続スロット部の前記第1内壁面と前記第2スロット部の前記第1内壁面との接合部、または、前記第2接続スロット部の前記第1内壁面と前記第3スロット部の前記第1内壁面との接合部を断面略円弧状に面取りした第2湾曲接続面を備えることが好ましい。更に、前記第1湾曲接続面、または前記第2湾曲接続面の曲率半径が、1mm以上20mm以下であることが好ましい。
前記第1接続スロット部の前記1対の第1内壁面に形成され、前記第1スロット部及び前記第2スロット部の前記1対の第1内壁面よりも動摩擦係数が小さい低摩擦層を備えることが好ましい。また、前記第2接続スロット部の前記1対の第1内壁面に形成され、前記第2スロット部及び前記第3スロット部の前記1対の第1内壁面よりも動摩擦係数が小さい低摩擦層を備えることが好ましい。
本発明の溶液製膜設備は、上記流延ダイのうちいずれか1つと、前記流延ダイに前記ドープを供給するドープ供給装置と、前記流延ビードを支持して流延膜を形成する支持体と、前記支持体上で自己支持性を有するに至った前記流延膜を、前記支持体から剥ぎ取り乾燥する乾燥装置とを備えることを特徴とする。
前記支持体の走行速度が40m/分以上であることが好ましい。また、前記支持体が、軸を中心に回転するドラムであることが好ましい。
本発明の溶液製膜方法は、上記流延ダイのうちいずれか1つを用いて、前記ドープを支持体上に流出し、前記支持体上の前記ドープから前記流延膜を形成し、前記支持体から剥ぎ取った前記流延膜を乾燥することを特徴とする。
前記ドープは、セルロースアシレートを含むことが好ましい。
本発明によれば、ドープが通過するスロットが、流出口の前記第2方向における中心を通り1対の第1内壁面に平行な中心面を対称面として、1対の第1内壁面が面対称に形成されたため、裏面層と表面層との膜厚を略等しくすることができる。特に、フイルムの幅方向の中央部近傍では、スロット中を流れる積層ドープの挙動により、裏面層と表面層との膜厚の差が生じやすいが、本発明によれば、中央部近傍における裏面層と表面層との膜厚を略等しくすることができる。また、裏面層や表面層にはレターデーション制御剤や紫外線吸収剤やマット剤などの添加剤が含まれていることが多い。したがって、本発明によれば、これら裏面層と表面層との膜厚を略等しくすることができるため、シャークスキンなどの厚みムラを抑え、フイルム全体としての光学特性が、幅方向において略均一なフイルムを効率よく製造することができる。
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
(溶液製膜方法)
図1に、本実施形態で用いるフイルム製造ライン10の概略図を示す。フイルム製造ライン10は、流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
ストックタンク20は、後述する流路を介して流延室12と接続する。ストックタンク20には、モータ20aで回転する攪拌翼20bとジャケット20cとが備えられており、その内部には、溶媒とフイルム22の原料となるポリマーとを含むドープ24が貯留されている。ストックタンク20は、常時、その外周面に設けられているジャケット20cにより、ドープ24の温度が略一定となるように調整されるとともに、攪拌翼20bの回転により、ポリマーなどの凝集を抑制しながら、ドープ24を均一の状態に保持する。
ストックタンク20と後述するフィードブロックとの間には、中間層用ドープ流路30aと裏面層用ドープ流路30bと表面層用ドープ流路30cとが接続されている。ドープ24は、それぞれの流路30a〜30cに設けられているポンプ31a〜31cにより送液される。ポンプ31a〜31cは、図示しない制御部に接続する。この制御部により、ポンプ31a〜31cは、所定の流量で各ドープを送り出す。ポンプ31a〜31cとしては、ギアポンプを用いることが好ましい。このギアポンプとしては、公知のギアポンプであればいずれでもよい。
中間層用ドープ流路30aには、配管を介してストックタンク33aが接続する。ストックタンク33aには、中間層用添加液34aが貯留する。流路30aとストックタンク33aとを接続する配管には、ポンプ35aが設けられる。ストックタンク33a中の中間層用添加液34aは、ポンプ35aにより中間層用ドープ流路30aに送液され、中間層用ドープ流路30a中のドープ24に添加される。その後、ドープ24と中間層用添加液34aとは、中間層用ドープ流路30aに設けられる静止型混合器(スタティックミキサ)38aにより攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを中間層用ドープ39aと称する。中間層用添加液34aには、例えば紫外線吸収剤,レターデーション制御剤や可塑剤などの添加剤が予め含まれた溶液(または分散液)が入れられている。
裏面層用ドープ流路30bには、配管を介してストックタンク33bが接続する。ストックタンク33bには、裏面層用添加液34bが貯留する。流路30bとストックタンク33bとを接続する配管には、ポンプ35bが設けられる。ストックタンク33b中の裏面層用添加液34bは、ポンプ35bにより裏面層用ドープ流路30bに送液され、裏面層用ドープ流路30b中のドープ24に添加される。その後、ドープ24と裏面層用添加液34bとは、裏面層用ドープ流路30bに設けられる静止型混合器38bにより攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを裏面層用ドープ39bと称する。
表面層用ドープ流路30cには、配管を介してストックタンク33cが接続される。ストックタンク33cには、表面層用添加液34cが貯留する。流路30cとストックタンク33cとを接続する配管には、ポンプ35cが設けられる。ストックタンク33c中の表面層用添加液34cは、ポンプ35cにより表面層用ドープ流路30cに送液され、表面層用ドープ流路30c中のドープ24に添加される。その後、ドープ24と表面層用添加液34cとは、表面層用ドープ流路30cに設けられる静止型混合器38cにより攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを表面層用ドープ39cと称する。
裏面層用添加液34bや表面層用添加液34cには、支持体である流延バンドからの剥離を容易とする剥離促進剤(例えば、クエン酸エステルなど)、フイルムをロール状に巻き取った際にフイルム面間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)や劣化防止剤などの添加剤が予め含有されている。なお、裏面層用添加液34bや表面層用添加液34cには、可塑剤,紫外線吸収剤やレターデーション制御剤などの光学特性制御剤などの添加剤が含まれていても良い。
(ドープの粘性)
本実施形態では、中間層を形成するドープ、いわゆる主ドープとして中間層用ドープ39aを用い、裏面層を形成するドープ及び表面層を形成するドープ、いわゆる副ドープとして、裏面層用ドープ39b及び表面層用ドープ39cをそれぞれ用いる。中間層用ドープ39aとしては、製造する光学機能性フイルムの強度や光学的機能に適するドープを用い、ドープ39b、39cとしては、光学機能性フイルムの平面性や滑り性を良くするためのドープを用いる。また、上記に加え、ドープ39b、39cとして、中間層用ドープ39aよりも粘性が低いものを用いることが好ましい。これにより、後述する流延膜や湿潤フイルムの表面におけるスジやムラの生成や、厚さムラなどを防ぐことができる。
(ドープ濃度)
なお、中間層用ドープ39aに含まれるポリマー濃度は、15重量%以上30重量%以下であることが好ましく、20重量%以上25重量%以下であることがより好ましい。表層形成用ドープに含まれるポリマー濃度は、10重量%以上25重量%以下であることが好ましく、15重量%以上25重量%以下であることがより好ましく、19重量%以上22重量%以下であることが特に好ましい。
流延室12には、3種類のドープ39a〜39cから、後述する積層ドープをつくるフィードブロック51と、積層ドープを流出する流延ダイ52と、支持体であり、積層ドープから流延膜53を形成するキャスティングドラム(以下、流延ドラムと称する)54と、流延ドラム54から流延膜53を剥ぎ取る剥取ローラ55と、温調装置56、57と凝縮器(コンデンサ)58と回収装置59とが備えられている。また、制御部60は、流延ドラム54、温調装置56、57、回収装置59と接続する。
また、凝縮器58は、流延室12内に気化する溶媒を凝縮液化する。制御部60の制御の下、回収装置59は、凝縮器58により凝縮液化した溶媒を回収し、流延室12内の雰囲気のガス露点TRを、所定の範囲に保つ。ガス露点とは、流延室12内の雰囲気に気化する溶媒の凝縮液化が開始する温度である。回収された溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。制御部60の制御の下、温調装置57は、流延室12内の雰囲気の温度を所定の範囲に保つ。
(流延ドラム)
図1及び図2のように、流延ドラム54は、制御部60の制御の下、図示を省略した駆動装置により軸54aを中心に、方向Z1へ回転する。流延ドラム54の回転により、周面54bは方向Z1へ所定の速度ZVで走行する。温調装置56は、制御部60の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、流延ドラム54内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム54の周面54bの温度を所望の温度TSに保つことができる。
流延ドラム54の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。周面54bの表面粗さは0.01m以下となるように研磨したものを用いることが好ましい。周面54bの表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であることが好ましい。流延ドラム54の回転に伴う周面54b上下方向の位置変動は200μm以下であることが好ましい。流延ドラム54の速度変動を3%以下とし、流延ドラム54が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は3mm以下とすることが好ましい。
流延ドラム54の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム54の周面54bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
フィードブロック51は、流路30a〜30cから送られる各ドープ39a〜39cを合流させて、積層ドープ61をつくり、所定の流量の積層ドープ61を流延ダイ52へ送る。そして、流延ダイ52は、回転する流延ドラム54の周面54bに向けて、積層ドープ61を吐出する。その後、流延ドラム54の周面54b上の積層ドープ61から流延膜53が形成される。そして、流延ドラム54が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜53に発現し、流延膜53は剥取ローラ55によって流延ドラム54から剥ぎ取られる。
また、図1のように、減圧チャンバ63を、流延ダイ52に対し、方向Z1の上流側に配置してもよい。減圧チャンバ63は、流延ビードの背面(後に、流延ドラム54の周面54bに接する面)側を所望の圧力まで減圧する。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ63は、流延ビードの背面側を−10Pa以上−2000Pa以下の範囲で減圧することができる。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム54の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ52と流延ドラム54との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜53を形成することができる。
流延室12の下流には、渡り部65、ピンテンタ13、クリップテンタ14が順に設置されている。渡り部65は、剥取ローラ55によって剥ぎ取られた湿潤フイルム68を、ローラ66により、ピンテンタ13に導入する。ピンテンタ13は、湿潤フイルム68の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フイルム68に対し乾燥風が送られ、湿潤フイルム68は乾燥し、フイルム22となる。
クリップテンタ14は、フイルム22の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフイルム22に対し乾燥風が送られ、フイルム22には、フイルム幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。
ピンテンタ13及びクリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置70a、70bが設けられている。耳切装置70a、70bはフイルム22の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ71a、71bに送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
乾燥室15には、多数のローラ75が設けられており、これらにフイルム22が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室15の通過によりフイルム22の乾燥処理が行われる。乾燥室15には吸着回収装置76が接続されており、フイルム22から蒸発した溶媒が吸着回収される。
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16でフイルム22が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)80が設けられており、フイルム22が除電される。さらに、強制除電装置80の下流側には、ナーリング付与ローラ81が設けられており、フイルム22の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、プレスローラ83を有する巻取機84が設置されており、フイルム22が巻き芯にロール状に巻き取られる。
(フィードブロック)
図3のように、フィードブロック51は、流路30a〜30cと接続する第1〜第3流入口91a〜91cと、流延ダイ52と接続する流出口92と、第1流入口91a及び流出口92を接続する主流路93とを備える。副流路94bは、第2流入口91bと主流路93とを連通し、副流路94cは、第3流入口91cと主流路93とを連通する。副流路94b、94cとの連通部よりも下流側の主流路93に合流部95が設けられる。合流部95では、各ドープ39a〜39cが方向SDにおいて層をなす積層ドープ61がつくられる。主流路93との連通部の直前の副流路94b、94cには、円柱状に形成されたディストリビューションピン96b、96cが、横たわるように設けられる。なお、方向SDとは、流出口105の近傍における流延ドラム54(図2参照)の周面54b(図2参照)の走行方向を指す。
図4のように、ディストリビューションピン96bの周面上には、副流路94bの上流側と下流側とを連通する切欠溝97が設けられる。軸方向A1における切欠溝97の幅は、周方向SA1に沿って、幅WA1から幅WA2まで次第に狭くなるように形成される。切欠溝97の幅とは、ディストリビューションピン96bの軸A1方向における切欠溝97の長さである。切欠溝97の溝深さD1は、0mmより大きく5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0mmより大きく4mm以下であることが好ましい。溝深さD1が5mmを超えると、最外層の膜厚分布が確保することが困難となるため好ましくない。なお、ディストリビューションピン96cも、ディストリビューションピン96bと同様の形状に形成される。
図3のように、駆動部98b、98cは、ディストリビューションピン96b、96cと接続し、ディストリビューションピン96b、96cを、軸A1(図4参照)を中心に、方向SA1またはSA2へ回動させる。駆動部98b、98cにより、副流路94b、94cの断面積を所望の範囲に調節することができる。
(流延ダイ)
図5及び図6のように、流延ダイ52は、リップ板100、101と側板102、103とから構成され、フィードブロック51の流出口92と連通する流入口104と、積層ドープ61を流出する流出口105と、流入口104と流出口105とを連通するスロット106と、を備える。流出口105は、流延ダイ52の先端に設けられる。
インナーディッケル板108、109が、方向SDに垂直な方向LDに対し、スロット106の両側端部に設けられる。インナーディッケル板108、109は、図示しないパッキンを介して、リップ板100、101と側板102、103と密着するように設けられる。
こうして、リップ板100の内壁面100aとリップ板101の内壁面101aとディッケル板108の内壁面108aとディッケル板109の内壁面109aとにより、スロット106が形成される。
スロット106の形状は、積層ドープ61がスロット106中を流れる方向B1に直交する断面において、方向LDに伸びるように形成される1対の内壁面100a、101aと、方向LDと異なる方向に、内壁面100a、101aよりも短く伸びるように形成される1対の内壁面108a、109aとにより、スリット状に形成される。方向B1に直交する断面におけるスロット106の形状は、1対の方向LDに伸びる第1辺と、方向LDに垂直な方向に第1辺よりも短く伸びる1対の第2辺と、からなる略矩形に形成される。なお、方向B1に直交する断面におけるスロット106の形状は、略矩形のものに限られず、例えば、1対の第1辺をつなぐ第2辺が略円弧状に形成されてもよいし、第1辺と第2辺とは、垂直に接続せずに、当該接続部が略円弧上に接続してもよい。
スロット106には、流入口104から流出口105に向かって、第1スロット部111と、第2スロット部112と、第3スロット部113とが設けられる。また、第1スロット部111と第2スロット部112との間には、第1幅縮小スロット部116が設けられ、第2スロット部112と第3スロット部113との間には、第2幅縮小スロット部117が設けられる。
第1スロット部111は、方向LDの流路幅が、下流に向かうに従い次第に広くなるように形成される。第2スロット部112は、方向SDの流路幅が、第1スロット部111の方向SDの流路幅よりも狭くなるように形成され、第2スロット部112の方向LDの流路幅が、第1スロット部111の方向LD流路幅と略同一になるように形成される。第3スロット部113は、方向SDの流路幅が、第2スロット部112の方向SDの流路幅よりも狭くなるように形成され、第3スロット部113の方向LDの流路幅が、下流に向かうに従い次第に広くなるように形成される。
第1幅縮小スロット部116は、方向SDの流路幅が、第1スロット部111側から第2スロット部112側に向かうに従い次第に狭くなるように形成され、方向LDの流路幅が、第1スロット部111の方向LDの流路幅と略同一になるように形成される。第2幅縮小スロット部117は、方向SDの流路幅が、第2スロット部112側から第3スロット部113側に向かうに従い次第に狭くなるように形成され、方向LDの流路幅が、第2スロット部112の流路幅と略同一になるように形成される。
ここで、方向LDの流路幅とは、一対のディッケル板108の内壁面108aとディッケル板109の内壁面109aとの距離であり、方向SDの流路幅とは、一対のリップ板100の内壁面100aとリップ板101の内壁面101aとの距離である。
また、1対の内壁面100a、101aは、対称面SFに対して、面対称に形成される。ここで、対称面SFとは、方向B1に直交する断面において、流出口105の短手方向における略中心を通り、内壁面100a、101aに平行な面である。なお、対称面SFを、方向B1に直交する断面において、内壁面100aと内壁面101aとの間に位置し、方向LDと略平行な直線として現れる平面としてもよい。
第1幅縮小スロット部116を構成する内壁面100a、101aと方向B1とがなす角度θ1は、30°以上40°以下であることが好ましい。また、第2幅縮小スロット部117を構成する内壁面100a、101aと方向B1とがなす角度θ2は、30°以上40°以下であることが好ましい。
フィードブロック51及び流延ダイ52を構成するリップ板100、101とインナーディッケル板108、109の材質は析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましい。その熱膨張率が2×10-5 (℃-1 )以下の素材を用いることが好ましい。また、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものを用いることもできる。さらに、その素材はジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ52を作製することが好ましい。これにより流延ダイ52のスロット106内を流れる積層ドープ61の面状が一定に保たれる。
スロット106並びに、主流路93及び副流路94b、94c(図2参照)の内壁面の仕上げ精度は表面粗さで3μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。方向SDにおけるスロット106の流路幅の平均値が、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能なものを用いる。流延ダイ52のリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下のものを用いる。また、スロット106内でのドープ39a〜39cの剪断速度は1(1/秒)〜5000(1/秒)となるように調整されているものを用いることが好ましい。
製膜中は、所定の温度に保持されるように温調機(例えば、ヒータ,ジャケットなど)を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ52にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を所定の間隔で設けてヒートボルトによる自動厚み調整機構を取り付けることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)31a〜31c(図1参照)の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フイルム製造ライン10中に、図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm以下となるように調整することが好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
次に、図1を用いて、フイルム製造ライン10によりフイルム22を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク20では、ジャケット20cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ24の温度を25℃以上35℃以下の範囲で略一定となるように調整するとともに、攪拌翼20bの回転により常に均一化している。
ストックタンク20に貯留するドープ24と所定の中間層用添加液34aとから中間層用ドープ39aが調製される。調製された中間層用ドープ39aは、流路30aを介して、フィードブロック51へ送られる。同様にして、ドープ24と所定の添加液34bとから裏面層用ドープ39bが、ドープ24と所定の添加液34cとから表面層用ドープ39cが、それぞれ調製される。調製された裏面層用ドープ39bは、流路30bを介して、調製された表面層用ドープ39cは、流路30cを介して、フィードブロック51へ送られる。
図2のように、フィードブロック51は、各ドープ39a〜39cが、方向SDに層を成す積層ドープ61をつくり、流延ダイ52へ積層ドープ61を送る。流延ドラム54は、軸54aを中心に回転する。これにより、周面54aは、速度ZVで方向Z1へ走行する。速度ZVは、40m/分以上200m/分以下であることが好ましく、40m/分以上150m/分以下であることがより好ましい。流延ダイ52は、積層ドープ61を流延ドラム54へ流延し、流延膜53を形成する。その後、剥取ローラ55は、自己支持性が発現した流延膜53を、流延ドラム54から湿潤フイルム68として剥ぎ取る。
図1のように、流延ドラム54から剥ぎ取った湿潤フイルム68を、渡り部65を介して、ピンテンタ13へ案内する。ピンテンタ13では、多数のピンを湿潤フイルム68の両側端部に差し込んで固定した後、この湿潤フイルム68を搬送する間に乾燥を促進させてフイルム22とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフイルム22をクリップテンタ14に送り込む。このとき、クリップテンタ14に送られる直前でのフイルム22の残留溶媒量は、50〜150重量%であることが好ましい。なお、本発明では、フイルム中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものを残留溶媒量とする。また、その測定方法は、対象のフイルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
クリップテンタ14では、チェーンの動きによりエンドレスで走行する多数のクリップによりフイルム22の両側端部を挟持した後、このフイルム22を搬送する間に、乾燥を促進させる。このとき、対面するクリップ間距離(フィルム幅)を拡げてフイルム22の幅方向に張力を付与することでフイルム22を延伸する。このように、フイルム22の幅方向への延伸処理により、フイルム22中の分子が配向し、所望のレターデーション値をフイルム22に付与することができる。
ピンテンタ13及びクリップテンタ14を出たフイルム22は、耳切装置70a、70bによって両側端部が裁断される。両側端部が切断されたフイルム22は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取機84によって巻き取られる。また、耳切装置70a、70bによって切断された両側端部はクラッシャ71a、71bにより粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
巻取機84で巻き取られるフイルム22は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム22の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、フイルム22の厚みが20μm以上または80μm以下の薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
フイルム22のうち、中間層用ドープ30aからなる中間層の厚さをDg1とし、裏面層用ドープ30bからなる裏面層の厚さをDg2とすると、Dg2/Dg1が、0.01以上0.5以下であることが好ましく、0.04以上0.3以下であることがより好ましい。なお、表面層の厚さについては、上記式にて、表面層用ドープ30cからなる裏面層の厚さをDg2とすればよい。
図5及び図6のように、流延ダイ52の流入口104には、フィードブロック51の流出口92より、各ドープ39a〜39cが、方向SDに層を成す積層ドープ61(図2参照)が供給される。流入口104に供給された積層ドープ61は、スロット106を介して、流出口105から流出し、流延ドラム54の周面54b上で流延膜53(図2参照)となる。
スロット106に送られた積層ドープ61は、第1スロット部111及び第1幅縮小スロット部116を介して、第2スロット部112に流入する。第2スロット部112を通過した積層ドープ61は、第2幅縮小スロット部117及び第3スロット部113を介して、流出口105から流出する。
方向SDにおける第1幅縮小スロット部116の流路幅は、第1スロット部111側から第2スロット部112側に向かうに従い狭くなるため、第1幅縮小スロット部116に流入した積層ドープ61は、第1幅縮小スロット部116の内壁面100a、101aと接触する。積層ドープ61は、内壁面100a、101aとの接触により、方向LDに広がりながら第1幅縮小スロット部116を通過する。積層ドープ61が第1幅縮小スロット部116を通過する際、積層ドープ61は、内壁面100a、101aとの接触によりせん断応力を受け、このせん断応力により、積層ドープ61に含まれるポリマー分子に歪が生じる。同様にして、方向SDにおける第2幅縮小スロット部117の流路幅は、第2スロット部112側から第3スロット部113側に向かうに従い狭くなるため、第2幅縮小スロット部117に流入した積層ドープ61は、第2幅縮小スロット部117の内壁面100a、101aと接触する。積層ドープ61は、内壁面100a、101aとの接触により、方向LDに広がりながら第2幅縮小スロット部117を通過する。積層ドープ61が第2幅縮小スロット部117を通過する際、積層ドープ61は、内壁面100a、101aとの接触によりせん断応力を受け、このせん断応力により、積層ドープ61に含まれるポリマー分子に歪が生じる。
一定量のポリマー分子の歪が残留する積層ドープ61が、流出口105から流出すると、流出口105から周面54bまでにおける積層ドープ61の流れが非定常な流れとなる。この非定常な流れは、いわゆるメルトフラクチャーを誘発し、結果として、流延膜53の厚さムラ故障の原因となる。
この厚みムラ故障を誘発するポリマー分子の歪の発生を抑えるために、方向SD、LDにおける流路幅が、上流側から下流側にかけて略均一のスロットを用いて積層ドープ61を流延すると、スロットを通過の際、粘度の高い積層ドープ61は、LD方向に十分に広がらないまま流出口105から流出してしまい、結果として、厚さムラ故障のほか、フイルム幅が均一でない幅ムラ等が生じてしまう。
本発明では、内壁面100a、101aが、対称面SFに対して対称に形成されるため、スロット106を通過した積層ドープ61において、方向SDにおけるポリマー分子の歪の大きさの分布は、対称面SFにおいて略対称となり、裏面層となる裏面層用ドープ39bと、表面層となる表面層用ドープ39cとにおけるポリマー分子の歪の大きさは、略等しくなる。そして、スリット106中での積層ドープ61の方向SDの幅は、ほとんどそのまま、各ドープ39a〜39cが膜厚方向に層をなす流延膜53(図2参照)の膜厚となり、ポリマー分子の歪が残留する積層ドープ61が流出口105から吐出されると、ポリマー分子の歪が回復し、この歪の回復量に応じて、流延膜53の膜厚が厚くなる。したがって、内壁面100a、101aが、対称面SFに対して対称なスリット106を通過した積層ドープ61から形成された流延膜53では、裏面層と表面層との膜厚が略等しくなる。この流延膜53から所定の工程を経て、裏面層と表面層との膜厚が略等しいフイルム22を製造することができる。
また、裏面層や表面層にはレターデーション制御剤や紫外線吸収剤やマット剤などの添加剤が含まれていることが多い。したがって、本発明によれば、これら裏面層と表面層との膜厚を略等しくすることができるため、シャークスキンの発生を抑え、フイルム全体としての光学特性が略均一であり、フイルムの表面が平滑のフイルムを効率よく製造することができる。
共流延方式の溶液製膜方法において、製膜速度を向上させるためには、流延ドラムの走行速度を向上させつつ、流延ダイからの積層ドープの流速を増大させる必要がある。このような高速の共流延方式の溶液製膜方法を行うと、積層ドープ61が各幅縮小スロットの通過する際に生じるポリマー分子の歪の量が増大する。したがって、本発明の効果は、高速の共流延方式の溶液製膜方法において、より顕著に発揮される。
上記実施形態では、フィードブロック51を流延ダイ52の上流側に設けたが、本発明はこれに限られず、フィードブロック51と流延ダイ52とが一体となったものを流延ダイとして用いてもよい。なお、この場合には、フィードブロック51の流路93、94b、94c、或いはこれらに相当するものが、対称面SFにおいて、面対称に形成されることが好ましい。
上記実施形態では、スロット106における積層ドープ61の流れ方向B1の上流側から下流側に向かうに従って、方向SDの流路幅が次第に狭くなるようにスロット106を形成したが、本発明はこれに限られず、方向B1の上流側から下流側に向かうに従って、方向SDの流路幅が次第に広くなるような部分を含むスロットでもよい。
以下、本発明の第2の流延ダイについて説明する。上記実施形態と同一の部材や同一の部品などには、同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。図7に示すように、流延ダイ152は、第1スロット部111の上流側のスロット106に、第4スロット部154と、幅拡大スロット部155とを備える。
第4スロット部154は、方向SDの流路幅が、第1スロット部111の方向SDの流路幅よりも狭くなるように形成され、方向LDの流路幅が、第1スロット部111の方向LDの流路幅と略同一になるように形成される。幅拡大スロット部155は、方向SDの流路幅が、第4スロット部154側から第1スロット部111側に向かうに従い次第に広くなるように形成され、方向LDの流路幅が、第1スロット部111の方向LDの流路幅と略同一になるように形成される。
第4スロット部154を流れる積層ドープ61の送液方向B1と内壁面100a、101aとがなす角度θ3は、30°以上40°以下であることが好ましい。
積層ドープ61が、第4スロット部154及び幅拡大スロット155を通過すると、上流側から下流側に向かうに従って方向SDにおける流路幅が次第に広くなるため、積層ドープ61に残留するポリマー分子の歪が緩和される。また、内壁面100aと内壁面101aとは、面SFに対して対称に形成されるため、内壁面100aと接触する裏面層用ドープ39bにおけるポリマー分子の歪の緩和量と、内壁面101aと接触する表面層用ドープ39cにおけるポリマー分子の歪の緩和量とが略等しくなるため、結果として、フイルム22の裏面層の膜厚と表面層の膜厚との差を抑えることができる。
第1幅縮小スロット部116や第2幅縮小スロット部117の内壁面100a、101aには、低摩擦層が略一様に形成されることが好ましい。内壁面100a、101aに低摩擦層を設けることにより、内壁面100a、101aとの接触により生じる、積層ドープ61に含まれるポリマー分子の歪を低減することができる。なお、低摩擦層の厚さは、5μm以上500μm以下であることが好ましい。
低摩擦層の動摩擦係数は、第1スロット部111〜第3スロット部113及び第4スロット154を構成する内壁面100a、101aの動摩擦係数よりも低い。低摩擦層の動摩擦係数は、0.4以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。本明細書における動摩擦係数は、(株)東洋精機製作所製、スラスト磨耗試験機を使用し、ASTM D-1894 に規定される方法に従って測定することができる。
厚みムラの抑制効果を十分に発現させるため、低摩擦層の表面粗さRaは、0.01μm以上3μm以下であることが好ましく、0.01μm以上2μm以下であることがより好ましい。表面粗さRaの測定方法は、JIS B 0001による。
低摩擦層の硬さHvは、350以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましい。硬さHvの測定方法は、JIS Z 2244による。
低摩擦層の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。低摩擦層としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ71と密着性が良く、ドープと密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al23 ,TiN,Cr23 などが挙げられるが、特に好ましくはWCを用いることである。WCコーティングは、溶射法や蒸着法等で行うことができる。また、低摩擦層として、フッ素コーティングを用いることも可能である。
なお、リップ板100、101の先端、すなわち、流出口105の周縁に低摩擦層が形成されていることがより好ましい。
また、積層ドープ61が流出口105から流出する前に、積層ドープ61に含まれるポリマー分子の歪を回復させるため、第2スロット部112を構成する内壁面100a、101aに、または、第3スロット部113を構成する内壁面100a、101aに、低摩擦層を設けることが好ましい。また、低摩擦層の形成位置が流出口105から近くなるほど、流出口105から流出する際の積層ドープ61に含まれるポリマー分子の歪を低減することができるため、好ましい。
また、積層ドープ61が流出口105から流出する前に、スリット106中で積層ドープ61に含まれるポリマー分子の歪を効率よく回復させるため、スロット106を構成する内壁面100a、101a、108a、109aに、低摩擦層を設けてもよい。
図8のように、内壁面100a、101aのうち第2スロット部112を構成する内壁面112aと、内壁面100a、101aのうち第2幅縮小スロット部117を構成する内壁面117aとの間に、上流湾曲接続面171が設けられる。上流湾曲接続面171は、内壁面112aと内壁面117aとを接合し、その接合部は断面略円弧状に面取りされている。また、内壁面100a、101aのうち第2幅縮小スロット部117を構成する内壁面117aと、内壁面100a、101aのうち第3スロット部113を構成する内壁面113aとの間に、下流湾曲接続面172が設けられる。下流湾曲接続面172は、内壁面113aと内壁面117aとを接合し、その接合部は断面略円弧状に面取りされている。
そして、各湾曲接続面171〜172の接合部は、曲率半径RKが1mm以上20mm以下であることが好ましく、5mm以上20mm以下であることが好ましい。
このように、上流湾曲接続面171や下流湾曲接続面172を設けることにより、スロット106の内壁面117aと接する裏面層用ドープ39b及び表面層用ドープ39c二発生する第1法線応力差の増大が抑えられるため、積層ドープ61がスロット106を通過する際、積層ドープ61に含まれるポリマー分子が歪にくくなり、結果として、フイルム22の裏面層と表面層との膜厚の差を抑えることができる。
そして、裏面層用ドープ39b及び表面層用ドープ39cに発生する第1法線応力差は、0Pa以上20000Pa以下とすることが好ましく、0Pa以上16000Pa以下とすることがより好ましく、0Pa以上6000Pa以下とすることが好ましい。裏面層用ドープドープ39b及び表面層用ドープ39cに発生する第1法線応力差が、20000Paを超えると、厚みムラ故障が発生するため好ましくない。加えて、同一のせん断ひずみ速度下では、裏面層用ドープ39b及び表面層用ドープ39cに発生する第1法線応力差が、中間層用ドープ39aに発生する第1法線応力差よりも小さくなることにより、厚みムラ故障の発生がより確実に抑えられる。
上記実施形態では、第2スロット部112と第2幅縮小スロット部117とを接続する湾曲接続面171、及び第2幅縮小スロット部117と第3スロット部113とを接続する湾曲接続面172を設けたが、本発明はこれに限られず、第1スロット部111と第1幅縮小スロット部116との接合部や第1幅縮小スロット部116と第2スロット部112との接合部に湾曲面を設けてもよい。また、各スロット部111〜117の接合部のうち、すくなくともいずれか1つの接合部に湾曲接続面を設けてもよい。なお、湾曲接続面を形成する位置は、流出口105から近い方が好ましい。
上記実施形態では、第1スロット部111、第2スロット部112、第1幅縮小スロット部116、第2幅縮小スロット部117の方向LDの流路幅が、上流側から下流側まで、略一定としたが、本発明はこれに限られず、方向LDの流路幅が、上流側から下流側になるに従い、広くなってもよい。
上記実施形態では、内壁面100a、101aに、低摩擦層や湾曲接続面を設けたが、いずれも、対称面SFに対して対称になるように設けることが好ましい。
複数層のフイルムを製造するために複数のドープを流延する方法としては、前述の同時積層共流延でも良いし、逐次流延でも良いし、双方を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、本実施形態のように流延ダイ52にフィードブロック51を取り付けても良いし、マルチマニホールド型流延ダイ(図示しない)を用いても良い。複層構造のフイルムは、共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層(エアー面層)の厚さ及び/又は支持体側の層の厚さがそれぞれ全体のフイルム厚さ中で0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープを低粘度ドープで包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に内部のドープは、そのドープよりもアルコールの組成比が大きなドープで包み込まれることが好ましい。なお、本発明は、1つの種類のドープを流延する流延工程や溶液製膜方法に用いることができる。
上記実施形態では、流延ダイ52にフィードブロック51を取りつけて、同時積層共流延を行ったが、本発明はこれに限られず、フィードブロック51を用いずに、1種類の流延ドープから流延膜を形成する形態にも適用することができる。
なお、本実施形態では、ポリマーフイルムとしてフイルム22を用いて説明を行ったが、本発明は各種ポリマーフイルムに適用可能である。
上記実施形態では、支持体として、流延ドラム54を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、エンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。
上記実施形態では、冷却により流延膜53に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、流延膜53に含まれる溶媒の乾燥により流延膜53に自己支持性を発現させてもよい。
(ポリマー)
以下、本発明においてドープ24を調製する際に使用する原料について説明する。
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでもよい。
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
次に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の各実施例において、実施例1、2は本発明の実施様態の例であり、比較例1、2は、実施例1、2に対する比較実験である。また、各実施例の説明は実施例1で詳細に行い、実施例2及び比較例1、2については、実施例1と同じ条件の箇所の説明は省略する。
次に、本発明の実施例1について説明する。フイルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
[ドープの調製]
ドープ24の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープ24を調製した。なお、ドープ24のTAC濃度は略23重量%になるように調整した。ドープ24を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンク20に入れた。
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
UV剤a(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール),UV剤b(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)5−クロルベンゾトリアゾール)とレターデーション制御剤(N,N’−di−M−トリル−N’’−p−メトキシフェニル−1、3、5−トリアジン−2、4、6−トリアミン)と混合溶媒Aとドープ24とを混合させた中間層用添加液34aをストックタンク33aに入れた。中間層用添加液34aをポンプ35aにより中間層用ドープ流路30a中のドープ24に送液した。そして、静止型混合器38aを介して混合させて、中間層用ドープ39aとした。
マット剤である二酸化ケイ素(粒径15nm モース硬度 約7)を0.05重量部と剥離促進剤であるクエン酸エステル混合物(クエン酸,クエン酸モノエチルエステル,クエン酸ジエチルエステル,クエン酸トリエチルエステル)を0.006重量部とドープ24と混合溶媒Aとを溶解または分散させて裏面層用添加液34bとした。裏面層用添加液34bをストックタンク33bに入れ、ポンプ35bを用いて所望の流量で裏面層用ドープ流路30b中に流れているドープ24に送液した。そして、静止型混合器38bで混合させて、裏面層用ドープ39bを作製した。添加量は、全固形分濃度が20.5重量%、フイルム形態でマット剤濃度が0.05重量%、フイルム形態で剥離促進剤濃度が0.03重量%となるように行った。
二酸化ケイ素0.05重量部を混合溶媒Aに分散させて表面層用添加液34cを調製しストックタンク33cに入れた。表面層用添加液34cをポンプ35cにより表面層用ドープ流路39c中のドープ24に送液した。そして、静止型混合器38cを介して混合させて、表面層用ドープ39cを作製した。添加量は、全固形分濃度が20.5重量%、フイルム形態でマット剤濃度が0.1重量%となるように行った。
フイルム製造ライン10を用いてフイルム22を製造した。ポンプ31a〜31cは、ストックタンク20内のドープ24を、流路30a〜30cを介して、各ドープ39a〜39cとして、フィードブロック51へ送った。フィードブロック51は、各ドープ39a〜39cから積層ドープ61をつくり、積層ドープ61を流延ダイ52へ送った。積層ドープ61の温度を略34℃に調整するために、流延ダイ52にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の温度を調節した。
流延ドラム54としては、ステンレス製の円柱であり、その周面54bにクロムメッキ及び鏡面加工処理が施されたものを用いた。制御部60の制御の下、軸54aの駆動により、流延ドラム54を回転させた。周面54bの走行方向Z1における速度ZVを、略100m/分とした。制御部60の制御の下、温調装置36は、流延ドラム54の周面54bの温度TSを、略−10℃に調節した。流延ドラム54上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。
フィードブロック51及び流延ダイ52は、フイルム22の厚みが80μmとなるように、そして、中間層、裏面層、表面層の膜厚がそれぞれ64μm,8μm,8μmとなるように、積層ドープ61を周面54b上に流延し、周面54bに流延膜53を形成した。減圧チャンバ63は、流延ビードの背面側を減圧し、流延ビードの長さが20mm〜50mmとなるように流延ビードの前面側と背面側との圧力差を調節した。流延ダイ52に設けられるスロット106は、内壁面100a、101aと、内壁面108a、109aとから構成した。スロット106には、第2スロット112と第2幅縮小スロット117と第3スロット113とを設けた。θ2は35°であった。一対の内壁面100a、101aは、対称面SFに対して対称に形成した。
冷却により、流延膜53が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ55を用いて、流延ドラム54から流延膜53を湿潤フイルム68として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム54の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。
剥取ローラ55は、湿潤フイルム68に渡り部65に案内した。渡り部65では、温度が略60℃の乾燥空気を湿潤フイルム68にあてて、湿潤フイルム68を乾燥させた。渡り部65に設けられるローラ66は、湿潤フイルム68をピンテンタ13に案内した。
ピンテンタ13では、湿潤フイルム68に乾燥空気をあてて、湿潤フイルム68を乾燥した。この乾燥により湿潤フイルム68からフイルム22を得た。その後、ピンテンタ13は、フイルム22をクリップテンタ14に送った。ピンテンタ14では、フイルム22に乾燥空気をあてて、フイルム22を乾燥しながら、幅方向に延伸処理を施した。
ピンテンタ13、クリップテンタ14から送られたフイルム22の両側縁部を、耳切装置70a、70bにて、切断した。NT型カッターを用いて、幅が略50mmの両側縁部をカットし、カットされた側縁部はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ71a、71bに風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際の原料として利用した。
耳切装置71bを経たフイルム22を、乾燥室15に送った。耳切装置71bから送り出されたフイルム22の残留溶媒量が乾量基準で略10重量%であった。乾燥室15では、フイルム22に温度が略140℃の乾燥空気をあてて、フイルム22を乾燥した。
そして、フイルム22を巻取室17に搬送した。巻取室17は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室17の内部には、フイルム22の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVとなるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。最後に、プレスローラ83で所望のテンションを付与しつつ、フイルム22を巻取室17内の巻取ローラ84で巻き取った。
流延ダイ152を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フイルムを製造した。
θ1〜θ3は、それぞれ、35°、35°、35°であった。
(比較例1)
リップ板101に代えて、方向B1との角度θ2が0°である内壁面を備えるリップ板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フイルムを製造した。
(比較例2)
リップ板101に代えて、方向B1との角度θ1〜θ3が、それぞれ、0°、0°、0°である内壁面を備えるリップ板を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、フイルムを製造した。
〔評価〕
各実施例及び比較例における製造条件及び評価結果を、表1に纏めて示す。なお、表1中の評価結果は、裏面層と表面層との膜厚差の評価結果であり、評価方法は次のとおりである。
Figure 2009078440
得られたフイルムのうち、フイルム全体の膜厚THx、裏面層の膜厚THb及び表面層の膜厚THcを測定し、フイルムの幅方向に沿って、ΔTH(=100×|THb−THc|/THx)の値の変化を調べた。そして、各実施例及び比較例で得られたフイルムについてのΔTHの最大値を、以下基準で評価した。
ΔTHが1.3%未満・・裏面層と表面層との膜厚が略等しい(◎)。
ΔTHが1.3%以上2%未満・・裏面層と表面層との膜厚に若干の差が生じている(○)。
ΔTHが2%以上・・裏面層と表面層との膜厚に、大きな差が生じている(×)。
フイルム全体の膜厚Txは、次のようにして測定した。フイルムを25℃,60RH%下でアンリツ電気社製、電子マイクロメーターを用いて、幅方向に沿って、40箇所を測定した。そして、これらの測定値の平均値を、フイルム全体の膜厚Txとした。また、裏面層の膜厚THb及び表面層の膜厚THcは、次のようにして測定した。蛍光X線分析装置を用いて、幅方向に沿って40箇所について、裏面層及び表面層におけるマット剤(二酸化ケイ素)の含有濃度をそれぞれ測定した。そして、所定の膜厚に形成された裏面層や表面層のマット剤の含有濃度を基準として、マット剤の含有濃度の測定値から裏面層及び表面層の厚みを換算した。
上記実施例より、本発明により、対称面SFに対して面対称な内壁面100a及び101aを有する流延ダイを用いることにより、裏面層と表面層との膜厚が略等しいフイルムを製造することができる。
フイルム製造ラインの概要を示す説明図である。 流延ダイ及び流延ドラムの概要を示す斜視図である。 フィードブロックの断面図である。 ディストリビューションピンの概要を示す斜視図である。 方向LDに直交する断面における第1の流延ダイの断面図である。 方向SDに直交する断面における第1の流延ダイの断面図である。 方向LDに直交する断面における第2の流延ダイの断面図である。 方向LDに直交する断面における第2幅縮小スロット部近傍の断面図である。 共流延方式の溶液製膜方法の概要を示す説明図である。 フイルムの幅方向における、裏面層及び表面層の膜厚の分布を示すプロット図である。
符号の説明
10 フイルム製造ライン
12 流延室
13 ピンテンタ
14 クリップテンタ
15 乾燥室
16 冷却室
17 巻取室
20 ストックタンク
22 フイルム
24 ドープ
51 フィードブロック
52、152 流延ダイ
53 流延膜
54 流延ドラム
54a 軸
54b 周面
55 剥取ローラ
61 積層ドープ
93 主流路
94b、94c 副流路
106 スリット
111〜113 第1〜第3スロット部
116〜117 第1〜第2接続スロット部
111a〜113a、116a、117a 内壁面
171〜172 湾曲接続面
154 第4スロット部

Claims (14)

  1. ポリマーと溶媒とを含むドープが供給される供給口と、前記ドープが流延ビードとして流延される流出口と、前記供給口と前記流出口とを連通するスロットとを有し、前記ドープの流出方向に直交する断面における前記スロットの形状が、第1方向に長い1対の第1内壁面と前記第1方向に直交する第2方向に短い1対の第2内壁面とによりスリット状に形成されている流延ダイにおいて、
    前記スロットは、
    前記流出口の上流側に設けられる第1スロット部と、
    前記第1スロット部の上流側に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第1スロット部のものよりも広い第2スロット部と、
    前記第1スロット部と前記第2スロット部との間に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第1スロット部から前記第2スロット部に向かうに従い次第に広くなる第1接続スロット部とを有し、
    前記各スロット部は、前記流出口の前記第2方向における中心を通り前記1対の第1内壁面に平行な中心面を対称面として、前記1対の第1内壁面が面対称に形成されることを特徴とする流延ダイ。
  2. 前記第2スロット部の上流側に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第2スロット部のものよりも広い第3スロット部と、
    前記第2スロット部と前記第3スロット部との間に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第2スロット部から前記第3スロット部に向かうに従い次第に広くなる第2接続スロット部とを有し、
    前記第3スロット部及び前記第2接続スロット部の前記1対の第1内壁面が前記中心面を対称面として、面対称に形成されていることを特徴とする請求項1記載の流延ダイ。
  3. 前記第2スロット部の上流側に設けられ、前記1対の第1内壁面間の流路幅が前記第2スロット部のものよりも広い第1ポケット部を備え、
    前記第1ポケット部は、前記第2スロット部との間で下流側から順に、
    前記1対の第1内壁面間の流路幅が上流側に向かうに従い次第に広くなる縮流内壁面と、
    前記1対の第1内壁面間の流路幅が変わらないポケット本体内壁面と、
    前記1対の第1内壁面間の流路幅が上流側に向かうに従い次第に狭くなる拡流内壁面と、
    を有すること特徴とする請求項1または2記載の流延ダイ。
  4. 前記1対の第1内壁面に沿って副ドープを、前記副ドープ間に主ドープを積層状に供給する積層ドープ供給部を有することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の流延ダイ。
  5. 前記第1接続スロット部の前記第1内壁面と前記第1スロット部の前記第1内壁面との接合部、または、前記第1接続スロット部の前記第1内壁面と前記第2スロット部の前記第1内壁面との接合部を断面略円弧状に面取りした第1湾曲接続面を備えることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の流延ダイ。
  6. 前記第2接続スロット部の前記第1内壁面と前記第2スロット部の前記第1内壁面との接合部、または、前記第2接続スロット部の前記第1内壁面と前記第3スロット部の前記第1内壁面との接合部を断面略円弧状に面取りした第2湾曲接続面を備えることを特徴とする請求項2ないし5のうちいずれか1項記載の流延ダイ。
  7. 前記第1湾曲接続面、または前記第2湾曲接続面の曲率半径が、1mm以上20mm以下であることを特徴とする請求項5または6記載の流延ダイ。
  8. 前記第1接続スロット部の前記1対の第1内壁面に形成され、前記第1スロット部及び前記第2スロット部の前記1対の第1内壁面よりも動摩擦係数が小さい低摩擦層を備えることを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項記載の流延ダイ。
  9. 前記第2接続スロット部の前記1対の第1内壁面に形成され、前記第2スロット部及び前記第3スロット部の前記1対の第1内壁面よりも動摩擦係数が小さい低摩擦層を備えることを特徴とする請求項2ないし8のうちいずれか1項記載の流延ダイ。
  10. 請求項1ないし9のうちいずれか1項記載の流延ダイと、
    前記流延ダイに前記ドープを供給するドープ供給装置と、
    前記流延ビードを支持して流延膜を形成する支持体と、
    前記支持体上で自己支持性を有するに至った前記流延膜を、前記支持体から剥ぎ取り乾燥する乾燥装置とを備えることを特徴とする溶液製膜設備。
  11. 前記支持体の走行速度が40m/分以上であることを特徴とする請求項10記載の溶液製膜設備。
  12. 前記支持体が、軸を中心に回転するドラムであることを特徴とする請求項10または11記載の溶液製膜設備。
  13. 請求項1ないし9のうちいずれか1項記載の流延ダイを用いて、前記ドープを支持体上に流出し、
    前記支持体上の前記ドープから前記流延膜を形成し、
    前記支持体から剥ぎ取った前記流延膜を乾燥することを特徴とする溶液製膜方法。
  14. 前記ドープは、セルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項13記載の溶液製膜方法。
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