以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
(溶液製膜方法)
図1に、本実施形態で用いるフィルム製造ライン10の概略図を示す。フィルム製造ライン10は、流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
ストックタンク20は、後述する流路を介して流延室12と接続する。ストックタンク20には、モータ20aで回転する攪拌翼20bとジャケット20cとが備えられており、その内部には、溶媒とフィルム22の原料となるポリマーとを含むドープ24が貯留されている。ストックタンク20は、常時、その外周面に設けられているジャケット20cにより、ドープ24の温度が略一定となるように調整されるとともに、攪拌翼20bの回転により、ポリマーなどの凝集を抑制しながら、ドープ24を均一の状態に保持する。
ストックタンク20と後述するフィードブロックとの間には、中間層用ドープ流路30aと裏面層用ドープ流路30bと表面層用ドープ流路30cとが接続されている。ドープ24は、それぞれの流路30a〜30cに設けられているポンプ31a〜31cにより、送液される。ポンプ31a〜31cは、図示しない制御部に接続する。この制御部により、ポンプ31a〜31cは、所定の流量で各ドープを送り出す。ポンプ31a〜31cとしては、ギアポンプを用いることが好ましい。
中間層用ドープ流路30aには、配管を介してストックタンク33aが接続する。ストックタンク33aには、中間層用添加液34aが貯留する。流路30aとストックタンク33aとを接続する配管には、ポンプ35aが設けられる。ストックタンク33a中の中間層用添加液34aは、ポンプ35aにより中間層用ドープ流路30aに送液され、中間層用ドープ流路30a中のドープ24に添加される。その後、ドープ24と中間層用添加液34aとは、中間層用ドープ流路30aに設けられる静止型混合器(スタティックミキサ)38aにより攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを中間層用ドープ39aと称する。中間層用添加液34aには、例えば紫外線吸収剤,レターデーション制御剤や可塑剤などの添加剤が予め含まれた溶液(または分散液)が入れられている。
裏面層用ドープ流路30bには、配管を介してストックタンク33bが接続する。ストックタンク33bには、裏面層用添加液34bが貯留する。流路30bとストックタンク33bとを接続する配管には、ポンプ35bが設けられる。ストックタンク33b中の裏面層用添加液34bは、ポンプ35bにより裏面層用ドープ流路30bに送液され、裏面層用ドープ流路30b中のドープ24に添加される。その後、ドープ24と裏面層用添加液34bとは、裏面層用ドープ流路30bに設けられる静止型混合器38bにより攪拌混合されて均一となる。以下、攪拌混合されたドープを裏面層用ドープ39bと称する。
表面層用ドープ流路30cには、配管を介してストックタンク33cが接続される。ストックタンク33cには、表面層用添加液34cが貯留する。流路30cとストックタンク33cとを接続する配管には、ポンプ35cが設けられる。ストックタンク33c中の表面層用添加液34cは、ポンプ35cにより表面層用ドープ流路30cに送液され、表面層用ドープ流路30c中のドープ24に添加される。その後、ドープ24と表面層用添加液34cとは、表面層用ドープ流路30cに設けられる静止型混合器38cにより攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを表面層用ドープ39cと称する。
裏面層用添加液34bや表面層用添加液34cには、支持体である流延バンドからの剥離を容易とする剥離促進剤(例えば、クエン酸エステルなど)、フィルムをロール状に巻き取った際にフィルム間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)や劣化防止剤などの添加剤が予め含有されている。なお、裏面層用添加液34bや表面層用添加液34cには、可塑剤,紫外線吸収剤やレターデーション制御剤などの光学特性制御剤などの添加剤が含まれていても良い。
これらのドープ39a〜39cを用いて、後述する溶液製膜方法を行うことにより、厚さ方向に層構造をもつフィルムを製造することができる。このフィルムの断面の面積のうち大部分の面積を占める層を基層と称し、基層の片面側あるいは両面側に位置する層を表層と称する。本実施形態では、基層を形成するドープ(以下、基層形成用ドープと称する)として中間層用ドープ39aを用い、表層を形成するドープ(以下、表層形成用ドープと称する)として、裏面層用ドープ39b,表面層用ドープ39cを用いる。基層形成用ドープとしては、製造するフィルムの強度や光学的機能に適したドープを用い、表層形成用ドープとしては、光学機能性フィルムの平面性や滑り性を良くするためのドープを用いる。また、上記に加え、表層形成用ドープとして、基層形成用ドープよりも粘性が低いものを用いることが好ましい。これにより、後述する流延膜や湿潤フィルムの表面におけるスジやムラ等の欠陥の発生や、厚さムラの発生等を防ぐことができる。
(ドープ濃度)
なお、基層形成用ドープに含まれるポリマー濃度は、15重量%以上30重量%以下であることが好ましく、20重量%以上25重量%以下であることがより好ましい。表層形成用ドープに含まれるポリマー濃度は、10重量%以上25重量%以下であることが好ましく、15重量%以上25重量%以下であることがより好ましく、19重量%以上22重量%以下であることが特に好ましい。
流延室12には、3種類のドープ39a〜39cから、後述する積層ドープをつくるフィードブロック51と、積層ドープを流出する流延ダイ52と、支持体であり、積層ドープから流延膜53を形成するキャスティングドラム(以下、流延ドラムと称する)54と、流延ドラム54から流延膜53を剥ぎ取る剥取ローラ55と、温調装置56、57と凝縮器(コンデンサ)58と回収装置59とが備えられている。また、制御部60は、流延ドラム54、温調装置56、57、回収装置59等と接続する。
また、凝縮器58は、流延室12内に気化する溶媒を凝縮液化する。制御部60の制御の下、回収装置59は、凝縮器58により凝縮液化した溶媒を回収し、流延室12内の雰囲気のガス露点TRを、所定の範囲に保つ。ガス露点とは、流延室12内の雰囲気に気化する溶媒の凝縮液化が開始する温度である。回収された溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。制御部60の制御の下、温調装置57は、流延室12内の雰囲気の温度を所定の範囲に保つ。
(流延ドラム)
流延ドラム54は、制御部60の制御の下、図示を省略した駆動装置により軸54aを中心に、方向Z1へ回転する。流延ドラム54の回転により、周面54bは方向Z1へ所定の速度ZVで走行する。温調装置56は、制御部60の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、流延ドラム54内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム54の周面54bの温度を所望の温度TSに保つことができる。
流延ドラム54の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。周面54bの表面粗さは0.01m以下となるように研磨したものを用いることが好ましい。周面54bの表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であることが好ましい。流延ドラム54の回転に伴う周面54bの径方向の位置変動は200μm以下であることが好ましい。流延ドラム54の速度変動を3%以下とし、流延ドラム54が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は3mm以下とすることが好ましい。
流延ドラム54の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム54の周面54bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
フィードブロック51は、流路30a〜30cから送られる各ドープ39a〜39cを合流させて、積層ドープ61(図2参照)をつくり、所定の流量の積層ドープ61を流延ダイ52へ送る。そして、流延ダイ52は、回転する流延ドラム54の周面54bに向けて、積層ドープ61を吐出する。その後、流延ドラム54の周面54b上の積層ドープ61から流延膜53が形成される。そして、流延ドラム54が約3/4回転する間に、冷却ゲル化による自己支持性が流延膜53に発現し、流延膜53は剥取ローラ55によって流延ドラム54から剥ぎ取られる。
流延膜53は、表面層用ドープ39cからなる表面層と、中間層用ドープ39aからなる中間層と、裏面層用ドープ39bからなる裏面層とが層状に重なるように構成される。裏面層は、流延膜53の裏面(流延ドラム54の周面54bに接する面)側に形成される層である。表面層は、流延膜53の表面(裏面と反対側の面)側に形成される層である。これらの各層の厚さの割合は、積層ドープ61におけるものと略同一である。また、積層ドープ61における各層の厚さの割合は、後述するディストリビューションピン96b、96cの向きにより調節することができる。
中間層は、流延膜53を構成する層のうち表面層と裏面層との間に形成される層である。ここで、流延膜53の中間層の厚みをDf、流延膜53の表面層の厚みDg1及び裏面層の厚みをDg2とするとき、Dg1/Dfが0.01以上0.5以下であることが好ましく、0.04以上0.3以下であることがより好ましい。Dg1/Dfが0.01未満である場合には、流延ダイ52のスロット106を通過する際、積層ドープ61に発生するせん断応力が増大する。そして、せん断応力の増大により、積層ドープ61では、表面層用ドープ39cと中間層用ドープ39aとの界面が不安定になり、結果として、厚みムラとして発現するため好ましくない。一方、Df1/Dfが0.5を超える場合には、表面層の厚さ分布を制御することが困難になるため好ましくない。同様の理由からまた、Dg2/Dfが0.01以上0.5以下であることが好ましく、0.04以上0.3以下であることがより好ましい。
また、減圧チャンバ63を、流延ダイ52に対し、方向Z1の上流側に配置してもよい。減圧チャンバ63は、流延ビードの背面(後に、流延ドラム54の周面54bに接する面)側を所望の圧力まで減圧する。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ63は、流延ビードの背面側を−10Pa以上−2000Pa以下の範囲で減圧することができる。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム54の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ52と流延ドラム54との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜53を形成することができる。
流延室12の下流には、渡り部65、ピンテンタ13、クリップテンタ14が順に設置されている。渡り部65は、剥取ローラ55によって剥ぎ取られた湿潤フィルム68を、ローラ66により、ピンテンタ13に導入する。ピンテンタ13は、湿潤フィルム68の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フィルム68に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム68は乾燥し、フィルム22となる。
クリップテンタ14は、フィルム22の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフィルム22に対し乾燥風が送られ、フィルム22には、フィルム幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。
ピンテンタ13及びクリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置70a、70bが設けられている。耳切装置70a、70bはフィルム22の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ71a、71bに送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
乾燥室15には、多数のローラ75が設けられており、これらにフィルム22が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室15の通過によりフィルム22の乾燥処理が行われる。乾燥室15には吸着回収装置76が接続されており、フィルム22から蒸発した溶媒が吸着回収される。
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16でフィルム22が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)80が設けられており、フィルム22が除電される。さらに、強制除電装置80の下流側には、ナーリング付与ローラ81が設けられており、フィルム22の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、プレスローラ83を有する巻取機84が設置されており、フィルム22が巻き芯にロール状に巻き取られる。
次に、フィードブロック51及び流延ダイ52の詳細について説明する。
(フィードブロック)
図2のように、フィードブロック51は、流路30a〜30cと接続する第1〜第3流入口91a〜91cと、流延ダイ52と接続する流出口92と、第1流入口91a及び流出口92を接続する主流路93とを備える。副流路94bは、第2流入口91bと主流路93とを連通し、副流路94cは、第3流入口91cと主流路93とを連通する。副流路94b、94cとの連通部の近傍の主流路93に合流部95が設けられる。合流部95では、各ドープ39a〜39cが方向SDに層をなす積層ドープ61がつくられる。主流路93との連通部の直前の副流路94b、94cには、円柱状に形成されたディストリビューションピン96b、96cが、横たわるように設けられる。
図3のように、ディストリビューションピン96bの周面上には、副流路94b、94c(図2参照)の上流側と下流側とを連通する切欠溝97が設けられる。したがって、主流路93との連通部の直前の副流路94bの流路の断面積は、この切欠溝97によって形成される。軸方向A1における切欠溝97の幅は、周方向SA1に沿って、幅WA1から幅WA2まで次第に狭くなるように形成される。切欠溝97の幅とは、ディストリビューションピン96bの軸A1方向における切欠溝97の長さである。ディストリビューションピン96bの径方向における切欠溝97の溝深さD1は、0mmより大きく5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0mmより大きく4mm以下であることが好ましい。溝深さD1が5mmを超えると、表層の膜厚分布を略均一にすることが困難となるため好ましくない。なお、ディストリビューションピン96cも、ディストリビューションピン96bとほぼ同様に形成される。なお、ディストリビューションピン96b、96cは、フィードブロック51に設けられたときに、主流路93に対し対称となる形状に形成されることが好ましい。
図2のように、駆動部98b、98cは、ディストリビューションピン96b、96cと接続し、ディストリビューションピン96b、96cを、軸A1を中心に、方向SA1またはSA2へ回動させる。駆動部98b、98cにより、主流路93との連通部の直前の副流路94b、94cの断面積を所望の範囲に調節することができる。
(流延ダイ)
図4及び図5のように、流延ダイ52は、リップ板100、101と、側板102、103と、を備える。そして、リップ板100、101と側板102、103とによって、流延ダイ52には、フィードブロック51の流出口92と接続する流入口104と、積層ドープ61を流出する吐出口105と、流入口104と吐出口105とを連通するスロット106と、が形成される。
リップ板100は、板部100aと、リップ部100bとを有する。リップ部100bは、板部100aの吐出口105側の先端部に設けられる。同様にして、リップ板101は、板部101aと、リップ部101bとを有し、リップ部101bは、板部101aの吐出口105側の先端部に設けられる。
スロット106には、流入口104から吐出口105に向かって、第1スロット部106aと、拡幅スロット部106bと、第2スロット部106cとが順次設けられる。第1スロット部106aは、積層ドープ61がスロット106中を流れる方向B1に垂直な面で切断したとき断面形状が、略円、または略楕円となるように設けられることが好ましい。
第2スロット部106cは、積層ドープ61がスロット106中を流れる方向B1に垂直な面で切断したときの断面形状が、方向LDに伸びるように形成される1対の第1内壁面と、方向LDに交差する方向SDに、第1内壁面よりも短く伸びるように形成される1対の第2内壁面とにより、スリット状に設けられる。なお、第2スロット部106cの断面形状は、略矩形であることが好ましいが、本発明はこれに限られない。
拡幅スロット部106bは、方向LDにおけるスロット幅、すなわち第2内壁面間の幅が方向B1に向かうに従い次第に広くなるように、そして、方向SDにおけるスロット幅、すなわち第1内壁面間の幅が方向B1に向かうに従い次第に狭くなるように、設けられる。これにより、拡幅スロット部106bに流入した積層ドープ61を、第2スロット部106cの全域に送ることができる。
インナーディッケル板108、109を、方向LDに対し、スロット106の両側端部に設けることが好ましい。インナーディッケル板108、109は、図示しないパッキンを介して、リップ板100、101と側板102、103と密着するように設けることが好ましい。インナーディッケル板108、109を設ける場合には、リップ板100、101及びインナーディッケル板108、109によって囲まれる部分をスロットとしてもよい。
図6のように、出口スロット部121は、吐出口105近傍の第2スロット部106cに設けられる。広スロット部122は、出口スロット部121よりも方向B1の上流側の第2スロット部106cに設けられる。拡開スロット部123は、出口スロット部121と広スロット部122との間の第2スロット部106cに設けられる。こうして、各スロット部121〜123における1対の第1内壁面は、リップ部100b、101bによって形成される。
出口スロット部121は、方向B1における長さがL1となるように、そして、1対の第1内壁面121a、121b間の幅がW1となるように設けられる。広スロット部122は、方向B1における長さがL2となるように、そして、1対の第1内壁面122a、122b間の幅が幅W1よりも広いW2となるように、設けられる。拡開スロット部123は、方向B1における長さがL3となるように、そして、1対の第1内壁面123a、123b間の幅が出口スロット部121から広スロット部122に向かうに従い次第に幅W1から幅W2となるように、設けられる。
更に、第1内壁面123bは、第1内壁面121bと角度θ1で交差するように設けられる。この角度θ1が小さくなると、拡開スロット部123を通過する積層ドープ61の歪が緩和しやすくなる反面、拡開スロット部123を通過する際の積層ドープ61の圧力損失が大きくなる。したがって、拡開スロット部123を通過する際、積層ドープ61の歪が緩和できる程度の角度θ1の範囲において、角度θ1をできるだけ大きくすることが好ましい。また、角度θ1が170°を超え、180°以下の場合には、拡開スロット部123の方向B1における長さL3が必要以上に長くなってしまうため好ましくない。角度θ1の具体的な範囲は、用いる積層ドープ61の組成、積層ドープ61が拡開スロット部123を通過する速さ、スロット106や各スロット部106c、121〜123の長さ等によりよって決定してもよく、例えば、140°以上170°以下であることが好ましく、150°以上170°以下であることがより好ましい。
フィードブロック51及び流延ダイ52を構成するリップ板100、101とインナーディッケル板108、109の材質は析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましい。その熱膨張率が2×10-5 (℃-1 )以下の素材を用いることが好ましい。また、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものを用いることもできる。さらに、その素材はジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過し、その後研削加工したものを用いて流延ダイ52を構成することが好ましい。これにより流延ダイ52のスロット106内を流れる積層ドープ61の面状が一定に保たれる。
スロット106並びに、主流路93及び副流路94b、94c(図2参照)の内壁面の仕上げ精度は表面粗さで3μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。方向SDにおけるスロット106の流路幅の平均値が、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能なものを用いる。また、スロット106内でのドープ39a〜39cの剪断速度は1(1/秒)〜5000(1/秒)となるように調整されているものを用いることが好ましい。
流延ダイ52の各構成部材、特に、吐出口105近傍のリップ部100b、101bや、スリット106の第1、第2内壁面の表面に、所定の表面加工を施しても良い。この表面加工の一例として、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。セラミックスコーティングを行う場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ52と密着性が良く、ドープと密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al2 O3 ,TiN,Cr2 O3 などが挙げられるが、特に好ましくはWCを用いることである。WCコーティングは、溶射法や蒸着法等で行うことができる。
製膜中は、所定の温度に保持されるように温調機(例えば、ヒータ,ジャケットなど)を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ52にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、リップ部100b、101bに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を所定の間隔で設けてヒートボルトによる自動厚み調整機構を取り付けることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)31a〜31c(図1参照)の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フィルム製造ライン10(図1参照)中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm以下となるように調整することが好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
次に、図1を用いて、フィルム製造ライン10によりフィルム22を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク20では、ジャケット20cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ24の温度を25℃以上35℃以下の範囲で略一定となるように調整するとともに、攪拌翼20bの回転により常に均一化している。
ストックタンク20に貯留するドープ24と所定の中間層用添加液34aとから中間層用ドープ39aが調製される。調製された中間層用ドープ39aは、流路30aを介して、フィードブロック51へ送られる。同様にして、ドープ24と所定の添加液34bとから裏面層用ドープ39bが、ドープ24と所定の添加液34cとから表面層用ドープ39cが、それぞれ調製される。調製された裏面層用ドープ39bは、流路30bを介して、調製された表面層用ドープ39cは、流路30cを介して、フィードブロック51へ送られる。フィードブロック51では、各ドープ39a〜39cが合流して、各ドープ39a〜39cが方向SDに層を成す積層ドープ61(図2参照)となる。ここで、ディストリビューションピン96b、96cの向きを適宜調節することにより、積層ドープ61における各ドープ39a〜39cの層の厚みを適宜調節することができる。そして、積層ドープ61は流延ダイ52へ送られる。
温調装置56は、流延ドラム54の周面54bの温度TSが、−20℃以上0℃以下の範囲で略一定になるように調節する。流延ドラム54は、軸54aを中心に回転する。これにより、周面54bは、速度ZVで方向Z1へ走行する。速度ZVは、30m/分以上200m/分以下であることが好ましく、40m/分以上150m/分以下であることがより好ましい。流延ダイ52は、積層ドープ61を流延ドラム54へ流延し、流延膜53を形成する。流延膜53は、周面54b上で冷却され、ゲル化により、自己支持性が発現する。その後、剥取ローラ55は、自己支持性が発現した流延膜53を、流延ドラム54から湿潤フィルム68として剥ぎ取り、渡り部65を介して、ピンテンタ13へ案内する。
ピンテンタ13では、多数のピンを湿潤フィルム68の両側端部に差し込んで固定した後、この湿潤フィルム68を搬送する間に乾燥を促進させてフィルム22とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフィルム22をクリップテンタ14に送り込む。このとき、クリップテンタ14に送られる直前でのフィルム22の残留溶媒量は、50〜150重量%であることが好ましい。なお、本発明では、フィルム中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものを残留溶媒量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
クリップテンタ14では、チェーンの動きによりエンドレスで走行する多数のクリップによりフィルム22の両側端部を挟持した後、このフィルム22を搬送する間に、乾燥を促進させる。このとき、対面するクリップ間距離(フィルム幅)を拡げてフィルム22の幅方向に張力を付与することでフィルム22を延伸する。このように、フィルム22の幅方向への延伸処理により、フィルム22中の分子が配向し、所望のレターデーション値をフィルム22に付与することができる。
ピンテンタ13及びクリップテンタ14を出たフィルム22は、耳切装置70a、70bによって両側端部が裁断される。両側端部が切断されたフィルム22は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取機84によって巻き取られる。また、耳切装置70a、70bによって切断された両側端部はクラッシャ71a、71bにより粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
巻取機84で巻き取られるフィルム22は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フィルム22の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、フィルム22の厚みが20μm以上または80μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
図4及び図5のように、流延ダイ52の流入口104には、フィードブロック51の流出口92より、積層ドープ61(図2参照)が供給される。流入口104に供給された積層ドープ61は、スロット106を介して、吐出口105から吐出する。
ヒートボルトにより、フィルム22の目標とする膜厚に応じて、出口スロット部121の第1内壁面121a、121bの間の幅W1を調節する。スロット106に送られた積層ドープ61は、第1スロット部106a、拡幅スロット部106bを介して、第2スロット部106cに流入する。そして、第2スロット部106cを通過した積層ドープ61は、吐出口105から吐出し、第1内壁面121a、121bの間の幅W1に応じた厚みの流延膜53が、周面54b上に形成する。
スロット106の通過等で受けたせん断応力により、積層ドープ61に含まれるポリマー分子には歪が生じ、吐出口105から吐出される直前の積層ドープ61に含まれるポリマー分子は、一定の歪が残留する。歪が残留したポリマー分子を含む積層ドープを吐出口105から吐出すると、吐出後に歪が緩和され、この緩和によって、厚さムラの原因となる非定常な流れ、いわゆるメルトフラクチャーが発生する。
本発明では、図6のように、吐出口105から吐出する直前の積層ドープ61が、目標とするフィルム膜厚に応じたスロット幅W1よりも広いスロット幅をもつ広スロット部122及び拡開スロット部123を通過するため、広スロット部122及び拡開スロット部123の通過の際、ポリマー分子の新たな歪の発生を抑えつつ、残留するポリマー分子の歪を緩和することができる。したがって、本発明の流延ダイを用いることにより、吐出口105から吐出された積層ドープ61は、歪が十分に緩和されているため、膜さムラの発生を抑えることができる。
各スロット部の長さL1〜L3、幅W1,W2は、製造条件によって適宜決定すればよい。例えば、出口スロット部121の長さL1は、目標とする流延膜53の膜厚を調節しうる長さとすればよい。また、拡開スロット部123の幅W2は、通過する積層ドープ61に残留する歪を緩和させるために十分な幅であれば良い。また、出口スロット部121を通過する積層ドープ61にポリマー分子の歪が残留している場合には、出口スロット部121の長さL1、及び拡開スロット部123の長さL3を、この残留歪が回復する時間よりも、十分に短い時間で積層ドープ61が通過する長さにすればよい。
上記実施形態では、第1内壁面121bと角度θ1で交差するように設けられる第1内壁面123bを設けたが、本発明はこれに限られず、第1内壁面123bに代えて、第1内壁面121aと角度θ1で交差するように設けられる第1内壁面123aを設けてもよい。更に、第1内壁面121bと角度θ1で交差するように設けられる第1内壁面123b、及び第1内壁面121aと角度θ1で交差するように設けられる第1内壁面123aを1対の第1内壁面として設けてもよい。この場合には、スロット106に対し対称となるように第1内壁面123a、123bを設けることが好ましい。なお、第1内壁面123a、123bのうち一方もしくは両方を、出口スロット部121の内壁面と角度θ1で交差するように設けられる第1内壁面とすること、或いは、この角度θ1の大きさ、拡開スロット部123の1対の内壁面をスロット106に対して対称とするか否か等は、用いる各ドープ39a〜39cの組成、粘性その他の物性、或いは、フィルム22や流延膜53における各層の厚み、などによって決定すればよい。
方向B1における、拡開スロット部123の形成位置は、1対のリップ部100b、100cの間のスロット106であればいずれでもよい。例えば、1対の拡開面108a、109aの間のスロット106の部分に設けても良いし、当該部分よりも上流側のスロット106の部分に設けても良い。
上記実施形態では、吐出口105近傍の第2スロット部106cに、出口スロット部121、広スロット部122、及び拡開スロット部123を設けたが、本発明はこれに限られず、例えば、図7に示すような各スロット部121〜125を、吐出口105近傍の第2スロット部106cに設けてもよい。以下、上記実施形態と同一の部材等には同一の符号を付し、その詳細の説明を省略する。
図7のように、狭スロット部124は、広スロット部122よりも方向B1の上流側の第2スロット部106cに設けられる。縮小スロット部125は、広スロット部122と狭スロット部124との間の第2スロット部106cに設けられる。狭スロット部124は、方向B1における長さがL4となるように、そして、1対の第1内壁面218a、218b間の幅が幅W2よりも狭い幅W4となるように、設けられる。なお、幅W4は、幅W1と同一、幅W1より広い、または幅W1より狭くても良い。縮小スロット部125は、方向B1における長さがL5となるように、そして、1対の第1内壁面219a、219b間の幅が広スロット部122から狭スロット部124に向かうに従い、次第に幅W2から幅W4となるように、設けられる。
更に、第1内壁面125bは、第1内壁面124bと角度θ2で交差するように設けられる。角度θ2は、積層ドープ61中のポリマー分子の歪が緩和するように決定すればよい。したがって、角度θ2は、例えば、120°以上150°以下であることが好ましく、130°以上150°以下であることがより好ましい。第1内壁面125bのような内壁面を、狭スロット部125の1対の第1内壁面のうちの一方もしくは両方に設けること、または、角度θ2の大きさ、狭スロット部125の1対の第1内壁面をスロット106に対して対称に設けるか否かは、拡開スロット部123の1対の第1内壁面と同様にして決定すればよい。また、狭スロット部125の1対の第1内壁面の設け方の条件と、拡開スロット部123の1対の第1内壁面の設け方の条件とは、同じでも良いし、異なってもよい。
上記実施形態では、板部100a、101aによって形成される第2スロット部106cの1対の第1内壁面間の幅を略一定に形成したが、本発明はこれに限られず、この第1内壁面間の幅が方向B1に向かうに従い次第に狭くなるように、第2スロット部106cを設けても良いし、第1内壁面間の幅が方向B1に向かうに従い、次第に広がり、その後、次第に狭くなるように、第2スロット部106cを設けても良い。
上記実施形態では、隣り合う各スロット部の第1内壁面の接続部を、断面略円弧状に面取りしてもよい。この接続部の曲率半径RKは、例えば、1mm以上20mm以下であることが好ましく、5mm以上20mm以下であることが好ましい。
なお、拡開スロット部123の第1内壁面123a、123bに、低摩擦層が形成されることが好ましい。低摩擦層の厚さは、5μm以上500μm以下であることが好ましく、厚みが略一様であることが好ましい。低摩擦層の動摩擦係数は、スロット部の第1内壁面の動摩擦係数よりも低い。低摩擦層の動摩擦係数は、0.4以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。本明細書における動摩擦係数の測定方法は、(株)東洋精機製作所製、スラスト磨耗試験機を使用し、ASTM D-1894による。
厚みムラの抑制効果を十分に発揮するために、低摩擦層の表面粗さRaは、0.01μm以上3μm以下であることが好ましく、0.01μm以上2μm以下であることがより好ましい。表面粗さRaの測定方法は、JIS B 0001による。また、低摩擦層の硬さHvは、350以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましい。硬さHvの測定方法は、JIS Z 2244による。
低摩擦層の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。低摩擦層としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ71と密着性が良く、ドープと密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al2 O3 ,TiN,Cr2 O3 などが挙げられるが、特に好ましくはWCを用いることである。WCコーティングは、溶射法や蒸着法等で行うことができる。また、低摩擦層として、フッ素コーティングを用いることも可能である。
溶液製膜方法において、流延膜を形成する流延工程から、流延膜を支持体から剥ぎ取る剥ぎ取り工程までの時間を短縮するために、支持体として回転ドラムを用いて、流延膜53に自己支持性を発現させる方法として、流延膜の冷却を行う、ドラム冷却方式を採用する。このドラム冷却方式を行う場合には、支持体をエンドレスバンドとし、流延膜53に自己支持性を発現させる方法として乾燥方式を採用した場合に比べて、流延に用いられる積層ドープのポリマーの濃度が高くなる。そのため、ドープが流延ダイ52のスリット106を通過する際、ポリマー分子の歪が発生しやすくなる点から、前者のほうが、後者に比べて、本発明の効果がより大きく発揮される。
上記実施形態では、冷却により流延膜53に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、流延膜53に含まれる溶媒の蒸発により流延膜53に自己支持性を発現させてもよい。
上記実施形態では、支持体として、流延ドラム54を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、エンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。
上記実施形態では、リップ部100b、101bの方向B1における上流側端部を、インナーディッケル板108、109の拡開面108a、109aの方向B1における上流側端部よりも、方向B1の下流側に設けたが、本発明はこれに限られず、リップ部100b、101bの方向B1における上流側端部を、インナーディッケル板108、109の拡開面108a、109aの方向B1における上流側端部よりも、方向B1の上流側に設けてもよいし、方向B1において略同じ位置に設けても良い。
複数層のフィルムを製造するために複数のドープを流延する方法としては、前述の同時積層共流延でも良いし、逐次流延でも良いし、双方を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、本実施形態のように流延ダイ52にフィードブロック51を取り付けても良いし、マルチマニホールド型流延ダイ(図示しない)を用いても良い。複層構造のフィルムは、共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層(エアー面層)の厚さ及び/又は支持体側の層の厚さがそれぞれ全体のフィルム厚さ中で0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープを低粘度ドープで包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に内部のドープは、そのドープよりもアルコールの組成比が大きなドープで包み込まれることが好ましい。なお、本発明は、1つの種類のドープを流延する流延工程や溶液製膜方法に用いることができる。
上記実施形態では、流延ダイ52にフィードブロック51を取りつけて、同時積層共流延を行ったが、本発明はこれに限られず、フィードブロック51を用いずに、1種類のドープから流延膜を形成する形態にも適用することができる。そして、1種類のドープを用いる場合には、拡幅スロット部の代わりに、マニホールドが設けられた流延ダイを用いても良い。マニホールドの形状は、流入した積層ドープ61が方向LDに広がるように、当該断面形状は方向LDに伸びるように形成されるものが好ましい。加えて、積層ドープ61に残留するポリマー分子の歪が緩和され、新たな歪が発生しにくい形状であることが好ましい。
上記実施形態では、走行する支持体に積層ドープ61を流延したが、本発明はこれに限られず、静止する支持体に積層ドープ61を流延してもよい。
(ポリマー)
以下、本発明においてドープ24を調製する際に使用する原料について説明する。
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでもよい。
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。