JP2008311582A - 固体電解コンデンサおよびその製造方法 - Google Patents

固体電解コンデンサおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract


【課題】 高温試験によってもESRの値が既定値より増大せず、十分な信頼性を持つ、有機導電性高分子層を有する固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 まず表面に陽極酸化皮膜2が形成されて、さらにその表面にプリコート層4および内部導電性高分子層5が順に形成された、弁作用金属からなる多孔質の陽極体1を用意する。次いでPEDOTおよびPSSAを含む水分散体に対して、1−NSA、2−NSA、1,3,6−NTSAから選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類、高分子量PSSA、ホウ酸、マンニトール、グリコール類、および水を含む溶液を混合し、それにより高分子重合溶液を作製する。この高分子重合溶液を内部導電性高分子層5の表面に塗布もしくは含浸して導電性高分子層6を設け、加熱して乾燥固化することにより固体電解コンデンサを作製する。
【選択図】 図1

Description

本発明は固体電解コンデンサに係り、とくに固体電解質として導電性高分子層を用いた固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
近年、アルミニウム、ニオブ、タンタル、チタン、マグネシウムなどの弁作用金属の多孔質体からなる陽極体の表面に、陽極酸化法により誘電体酸化皮膜を形成し、次いで前記誘電体酸化皮膜上に導電性高分子層をさらに形成して、この導電性高分子層を固体電解質として用いる固体電解コンデンサが開発されている。このようなコンデンサでは、固体電解質として二酸化マンガンの層を用いた従来の固体電解コンデンサに比較して固体電解質の導電率が10〜100倍高く、またESR(等価直列抵抗)を大きく減少させることが可能であるため、小型電子機器の高周波ノイズの吸収用など様々な用途への応用が期待されている。
一般に、固体電解コンデンサの固体電解質として用いられる導電性高分子層を誘電体酸化皮膜上に形成するためには、3,4−エチレンジオキシチオフェン(以降、EDTと表記)や、ピロール、アニリンなどのモノマーに酸化剤およびドーパント(導電補助剤)を加え、モノマーと酸化剤とを誘電体酸化皮膜上において直接反応させて導電性高分子層を形成する、化学酸化重合法が用いられている。また導電性の下地層の上にモノマーおよびドーパントを含む電解質液を塗布し、下地層と電解質液の間に電流を印加して導電性高分子層を形成する、電解重合法も知られている。
特許文献1には、EDTと、酸化剤およびドーパントを兼ねるp−トルエンスルホン酸鉄(III)を有機溶媒に溶解させて表面酸化が施されたアルミニウム電極の表面に塗布し、その場でポリマーを形成した上で有機溶媒を除去して導電性高分子層を形成するという、化学酸化重合法による導電性高分子層の形成方法などが記載されている。また、特許文献2には、化学酸化重合法により形成されたポリピロールもしくはポリアニリンの導電性高分子層を下地として、その表面に同質の導電性高分子層を電解重合法によってさらに形成する方法が記されている。
一方、これらの方法とは異なり、金属多孔質体である陽極体の誘電体酸化皮膜の表面での化学酸化重合を行わずに、予め重合反応させた導電性高分子を含む溶液を作製して、この溶液を陽極体の表面に含浸させて乾燥し、塗膜とすることにより導電性高分子層を形成する、スラリーポリマー塗布法も知られている。スラリーポリマー塗布法では前記の化学酸化重合法や電解重合法のように、誘電体酸化皮膜の表面で重合反応が進行するのではなく、容器内にモノマーおよび酸化剤、ドーパントを加え、攪拌を行うことにより化学酸化による重合反応を生じさせる。この方法では重合反応を陽極部表面の陽極酸化皮膜上で行う必要がないため、作製工程の制御が比較的容易であり、量産性の面で有利であるという特徴を持つ。
特許文献3には、再充電が可能な電池類の電極として使用されるものであるが、このスラリーポリマー塗布法による導電性の膜を形成する方法などが記載されている。特許文献3によると、EDTと酸化剤であるp−トルエンスルホン酸鉄(III)を有機溶媒に溶解させ、ポリカーボネート樹脂の表面に塗布して乾燥させることによって、表面抵抗の小さい、即ち電気伝導度の高い導電性高分子層を形成することができる。
また特許文献4には、スラリーポリマー塗布法により作製された、EDTとポリアニオンからなる導電性高分子の水溶性化合物を用いた組成物について記載されている。前記水溶性化合物に対して、導電性高分子に芳香族ジカルボン酸とジオールからなる自己乳化型ポリエステル水分散体を混合することにより、密着性、導電性、耐水性などを高める方法である。さらに特許文献5には、スラリーポリマー塗布法によってEDTとポリアニオンから同様に作製されて、水溶液に対して安定な分散体となる、導電性高分子による塗布膜について記載されている。なお前記特許文献4、特許文献5において提案されている導電性高分子化合物は、いずれも物品の表面に塗布して用いる帯電防止コーティング剤やその塗膜として用いることが想定されている。
ここで、スラリーポリマー塗布法を応用して、同方法による導電性高分子層を固体電解質層とする固体電解コンデンサを作製する場合について考える。具体的にはEDTをポリアニオンなどのドーパントを兼ねた酸化剤によって処理することで生成された導電性高分子溶液(水溶液、有機溶液)を、表面に誘電体酸化皮膜である陽極酸化皮膜が形成された多孔質の陽極体に塗布して、導電性高分子層を形成する場合を想定する。この場合は、一般に陽極酸化皮膜内部への導電性高分子溶液の浸透性とその分子量の大きさとの間には相反関係があることが知られている。一方、塗布によって形成される塗膜の導電率は、その分子量に比例する傾向がある。このことから、導電性高分子溶液の塗布により固体電解コンデンサの固体電解質層を形成する場合に、その導電率を上げてESRを低下させるためには、分子量の大きな高分子溶液を用いればよいことになる。しかしその場合には、導電性高分子溶液の浸透性の低さのために、陽極酸化皮膜の微細な凹凸の内部には固体電解質層がほとんど形成されず、そのため作製する固体電解コンデンサの静電容量が低くなってしまう。
この解決方法として、導電性高分子層の形成材料として分子量の大きな導電性高分子溶液を用い、ESRの値の低い固体電解質層を陽極体の表面酸化皮膜の最表面付近に厚く形成することで、静電容量を増加させる方法が検討された。この方法では作製する固体電解コンデンサの静電容量を増加させることは可能であるが、もともと固体電解質層と陽極体の表面酸化皮膜との間の密着性に問題があるため、浮遊容量の発生や長時間の使用による界面の物理的、化学的特性の変化などが原因となって、その静電容量や耐電圧などの電気的特性が時間経過につれて次第に劣化するという問題があった。
前記の方法に代わる固体電解コンデンサの固体電解質層の形成方法として、固体電解質層を2段階に分けて形成する方法が考案されている。この方法では、まず分子量の小さな可溶性の導電性高分子溶液を用い、導電率が低いものの、多孔質の陽極体表面に形成された場合は凹凸を有する陽極酸化皮膜の内部にも容易に浸透可能な内部導電性高分子層をまず形成する。次いでその外側に、分子量の大きな導電性高分子溶液による、高導電率の導電性高分子層を形成する方法である。なおこの場合に、内部導電性高分子層を厚くすると固体電解コンデンサのESRが大きくなってしまうので、その厚さは陽極酸化皮膜への高い密着性が得られる範囲で十分に薄く制御する必要があり、そのためスラリーポリマー塗布法ではなく、化学酸化重合法により形成することが有利である。一方、分子量の大きな導電性高分子溶液による高導電率の導電性高分子層は、スラリーポリマー塗布法によって形成することが有利である。
特許第3040113号公報 特公平3−61331号公報 特開平1−313521号公報 特開2002−60736号公報 特開平7−90060号公報
固体電解コンデンサの固体電解質層として前記の2段階の形成方法を実施する際には、少なくとも2段階目のスラリーポリマー塗布法により形成する導電性高分子層が、ESRの値の低い固体電解質層である必要がある。また製品の長期信頼性の観点からは、作製した固体電解コンデンサを長期間使用した場合でもESRの値が増加しない、電気的特性の安定したコンデンサであることが求められている。長期間の使用によるESRの値の上昇については昇温による加速試験に置き換えることができるので、このことは固体電解コンデンサを一定時間昇温した後の、ESRの値の上昇の問題と考えることができる。しかし、前記特許文献4,5に記載された従来技術にて作製される導電性高分子化合物は、その用途が物品の表面に塗布して用いる帯電防止コーティング剤であるため、固体電解コンデンサの固体電解質層として使用する場合の電気的特性については検討されておらず、また昇温による導電率の変化に対する対策などもとくに考慮されてはいない。
スラリーポリマー塗布法によって固体電解質層を形成するために好適な導電性高分子の水溶性化合物の製品としては、商品名Baytron−P(ドイツ・スタルク社製)が知られている。これは、モノマーとしてのEDTと、および酸化剤およびドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(以降、PSSAと表記)をそれぞれ水溶液中に加え、混合攪拌により導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェン(以降、PEDOTと表記)を生成させてなる、高分子重合物の水分散体である。Baytron−Pは100重量部中にPEDOTを0.5重量部、およびPSSAを0.8重量部含み、それ以外に若干の添加物を含むものの、残部の大部分は水である。また含有されるPSSAの平均分子量は、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した値で約150,000であるとされている。
このBaytron−Pを内部導電性高分子層の表面にそのまま塗布して2段階目の導電性高分子層を形成した場合には、形成された導電性高分子層の膜導電率が低いため、それを固体電解質層として用いた固体電解コンデンサのESRの値も高くなってしまう。またその場合の固体電解コンデンサを加速試験のために昇温した場合には、昇温時間が比較的短い場合であっても、もともと高いESRの値がさらに顕著に増加してしまうことが判明しており、長期信頼性の面でも問題がある。従って本発明の技術的課題は、前記Baytron−Pのような、PEDOTとPSSAを含む導電性高分子の水分散体を塗布してなる、導電性高分子層を有する固体電解コンデンサにおいて、導電性高分子層における導電性の向上、即ちESRの値の低い固体電解コンデンサ、およびその製造方法を提供することである。
またもう1つの技術的課題は、固体電解コンデンサを特定温度に一定時間昇温した場合にもESRの値の顕著な増加が見られない、電気的特性において長期信頼性の高い固体電解コンデンサを提供することである。なお、固体電解コンデンサの長期信頼性については前記のように高温下での加速試験に再現性よく置き換えることができるので、この課題は固体電解コンデンサの耐熱性の向上と言い換えることができる。
本発明の固体電解コンデンサにおいては、容器の中でモノマーであるEDTの水溶液に酸化剤を加えて反応させて、下記の化1に示される反復構造単位を有するポリマーであるPEDOTを生成させ、その水溶液に同じく下記の化2に示される反復構造単位を有するポリマーであるPSSAをドーパントとして加えて混合、攪拌し、さらに酸化剤を加えて酸化重合処理をさせた水分散体をまず用意する。この水分散体中ではPEDOTは陽イオン形態、同じくPSSAは陰イオン形態をとっている。
Figure 2008311582
Figure 2008311582
この水分散体は前記Baytron−Pの主成分と同じ化合物であり、単純にこの水分散体による液相部を内部導電性高分子層の表面に形成して乾燥固化するのみでは、ESRの値の低減や、昇温による加速試験の後でのESRの値の上昇に対する抑制の効果を得ることはできない。発明者らは、この水分散体に対して以下に記す2種類の操作をさらに加えることによって、ESRの値の低い、高導電性の、導電性高分子層を形成することが可能であることを見出した。また、さらに記す第3の操作によって、前記導電性高分子層を有する固体電解コンデンサに対して一定温度への昇温を行った場合でも、ESRの値の増加が抑制される効果が得られることを見出した。
導電性高分子層のESRの値を低下させるための第1の操作は、前記の水分散体に対して、ホウ酸およびマンニトールを溶解したグリコール系非水溶媒を含む水溶液を混合することである。マンニトールは6基の−OH基を有する糖アルコールの一種であり、グリコール系非水溶媒に溶解しやすく、かつ高温にした場合にも変質や溶媒の導電性の劣化を起こしにくいといった特徴を持つ。このホウ酸およびマンニトールを溶解したグリコール系非水溶媒を、前記水分散体に添加することの効果については、以下のように考えられる。前記のホウ酸、マンニトール、およびグリコール系非水溶媒を混合して水を加えた混合物を加えた場合は、導電性高分子層形成のための乾燥固化の際に、この3者が存在することによって有機塩が形成される。この有機塩が導電性高分子層の導電率を向上させる役割を果たしており、その効果によって固体電解コンデンサのESRの値が低下する。このESRの値の低下が効果的に起きるためには、高分子重合溶液の液相部の乾燥固化の際に一定時間の加熱を行うことが必要であり、そうでない場合にはこのESRの値の低下の効果は小さくなる。
発明者らの研究の結果、乾燥固化の際の昇温温度を150℃またはそれ以上(ただし200℃未満)とした場合に、導電率の向上の効果はとくに顕著となることが確認されている。この有機塩が形成される場合には、ホウ酸およびマンニトールがグリコール系非水溶媒とともにあることが必要であり、このグリコール系の物質は前記の昇温温度に曝されても蒸発量が小さいことが条件なので、グリコールの中でもとくに沸点が高い物質である必要がある。この3者の添加によって形成される有機塩が具体的にどのような物質であるかについては、今のところ詳細は不明である。なお、ホウ酸、マンニトール、グリコール系非水溶媒の3者のうち、物質がいずれか1つでも欠けた場合には導電率の向上の効果は得られないことが判明している。なお高分子重合溶液の作製の際に水分散体として予め含まれている水の他に、さらに水を添加した場合にはESRの値が増加してしまうが、前記の3者を添加した場合には、この水の添加による影響が生じないことが判明している。
導電性高分子層のESRの値を低下させるための第2の操作は、固体電解コンデンサにおける導電性高分子層の形成の際に、前記のグリコール系非水溶媒を含む水溶液に対して、1−ナフタレンスルホン酸(以降、1−NSAと表記)、2−ナフタレンスルホン酸(以降、2−NSAと表記)、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸(以降、NTSAと表記)の中から選択された少なくとも1種類のナフタレンスルホン酸と、高分子量PSSAとの混合物をさらに溶解させることである。これによって形成される導電性高分子層の導電率の増加と、ESRの値のさらなる減少をもたらすことができる。
これらのスルホン酸類を前記水分散体に添加することによって、ESRの値の低下の効果が得られる具体的な理由は不明である。しかし高分子量PSSAのみ、もしくは高分子量PSSAとパラトルエンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸などの、ナフタレンスルホン酸以外の酸を共添加した場合には、ESRの値の低下の効果が小さいか、あるいは効果がほとんど得られないことが分かっており、ナフタレンスルホン酸類の共添加が必要となっている。一方、高分子量PSSAを加えずに、ナフタレンスルホン酸類のみを添加してもやはり顕著な効果を得ることはできない。またこの際に加える高分子量PSSAは、平均分子量が500,000±50,000の範囲の場合に十分な効果が得られることが判明しており、前記Baytron−Pが含有する、平均分子量が約150,000のPSSAよりも、分子量が大きいことが条件として必要である。
また、前記のPEDOTおよびPSSAを含む水分散体が含有するPSSAの平均分子量は約150,000であるが、発明者らの検討の結果、平均分子量が150,000±10,000の範囲の場合であれば、固体電解コンデンサの固体電解質層を形成するための導電性高分子の水溶性化合物として問題なく使用できることが判明している。なお以上の記述における平均分子量は、全て高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した場合の値である。
前記の1−NSA、2−NSA、1,3,6−NTSAおよび高分子量PSSAの添加量にはそれぞれ適量の範囲があることが分かっており、これらスルホン酸類を適量よりも多少多く添加してもESRの値の低下の効果が向上することにはならず、また作製した固体電解コンデンサにとくに悪影響が生じることもない。しかしスルホン酸類の添加量を過剰に増加させた場合には、高分子重合溶液の液相部の乾燥固化の際に、含有される水分が減少するにつれてこれらスルホン酸類が固体成分として析出するようになり、ここで析出した固形成分は塊状の構造を形成して導電性高分子層から分離することとなる。このような固体電解コンデンサは、製品検査の際に外観不良となってしまうだけではなく、塊状の構造がその電気的特性の劣化を引き起こす場合もある。そのためスルホン酸類の必要な添加量には電気的な効果が得られる境界となる下限だけではなく、上限を設ける必要がある。
また、前記第3の操作は、作製した固体電解コンデンサに昇温による加速試験を行う際のESRの値の増加への対策であり、前記のグリコール系非水溶媒をより多く添加することである。加速試験によってESRの値が増加する原因は、導電性高分子層とその外側に設けられたグラファイト層、または導電性高分子層とその内側の層(内部導電性高分子層やプリコート層)など、複数の層どうしの界面における、接触抵抗値の増加によるものと推定されている。従ってこれら界面における接触抵抗の増加を抑制するためには、各界面における両側の層どうしの密着性を改善する必要がある。
発明者らの研究の結果、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンの中から選択されたグリコール系非水溶媒を多く添加することにより、高分子重合溶液の表面張力を低下させることでその流動性が向上し、塗布や浸漬による液相部の形成の際の作業性および浸透性がよくなり、各界面における密着性を向上させることができることが判明した。このことにより、結果として加速試験の後のESRの値の増加が抑制されることとなる。なおこれらのグリコール系非水溶媒は、前記のようにホウ酸、マンニトールとともに有機塩を形成してESRの値を低下させるためにも必要な添加物である。
加速試験によるESRの値の増加の抑制の効果を得るために、効果のある非水溶媒は任意ではなく、前記3種類のグリコール系非水溶媒以外では問題があることが判明している。例えばN,N−ジメチルホルムアミド(以降、DMFと表記)、N−メチル−2−ピロリドン(以降、NMPと表記)、ジメチルスルホキシド(以降、DMSO表記)、プロピレンカーボネート(以降、PC表記)、エタノールなどの非水溶媒を添加した場合には、どのような添加割合であっても添加直後に高分子重合溶液がゲル化したり、加速試験によって導電率がかなり低下するなどの問題が発生し、使用できないことが判明している。また前記3種類のグリコール系非水溶媒であっても過剰に添加した場合には、乾燥固化の際に非水溶媒を完全に蒸発させることができず、従って最終的に導電性高分子層を形成することができないため、やはり使用することができない。
以上の方法により作製した高分子重合溶液を用いて導電性高分子層を形成し、固体電解コンデンサを作製するためには、この高分子重合溶液を前記のプリコート層や内部導電性高分子層の表面に塗布するか、もしくはその表面にこれらの層を形成した陽極体を高分子重合溶液の中に浸漬する方法が適しており、その後に形成された高分子重合溶液の液相部を昇温によって乾燥固化する方法が好適である。
即ち、本発明は、表面に陽極酸化皮膜を形成した多孔質の弁作用金属の表面に、導電性高分子からなる内部導電性高分子層を形成し、導電性高分子としてポリエチレンジオキシチオフェンと、ポリスチレンスルホン酸とを含んでなる水分散体と、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸の中から選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類と、高分子量ポリスチレンスルホン酸と、ホウ酸と、マンニトールと、グリコール類とを、混合してなる高分子重合溶液による液相部を、前記内部導電性高分子層の表面に設け、前記高分子重合溶液による液相部を乾燥固化して固体電解質層を形成してなることを特徴とする固体電解コンデンサである。
また、本発明は、前記高分子重合溶液が、該高分子重合溶液100重量部に対し、0.05ないし2重量部の1−ナフタレンスルホン酸、0.05ないし2重量部の2−ナフタレンスルホン酸、0.03ないし1.2重量部の1,3,6−ナフタレントリスルホン酸の中から選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類と、0.005ないし0.5重量部の高分子量ポリスチレンスルホン酸と、0.05ないし0.5重量部のホウ酸と、0.05ないし0.5重量部のマンニトールと、2.5ないし10重量部のグリコール類とを含む溶液であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記グリコール類が、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンから選択されてなることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記高分子重合溶液に含有される前記高分子量ポリスチレンスルホン酸が、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が500,000±50,000であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記高分子重合溶液が、該高分子重合溶液100重量部に対し、0.25ないし0.49重量部のポリエチレンジオキシチオフェンと、0.4ないし0.78重量部のポリスチレンスルホン酸とを含む溶液であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記水分散体に含まれる前記ポリスチレンスルホン酸が、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が150,000±10,000であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記高分子重合溶液による液相部を前記内部導電性高分子層の表面に設ける際に、前記高分子重合溶液を前記内部導電性高分子層の表面に塗布するか、もしくは表面に前記内部導電性高分子層を有する前記多孔質の弁作用金属を前記高分子重合溶液中に浸漬してなることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記高分子重合溶液による液相部を前記内部導電性高分子層の表面に設けて乾燥固化する際に、表面に前記液相部を設けた前記多孔質の弁作用金属を加熱してなることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記高分子重合溶液による液相部の、前記乾燥固化の際の加熱温度が150℃以上であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記内部導電性高分子層が、ポリピロールからなる導電性高分子の層であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記弁作用金属の表面に形成した前記陽極酸化皮膜の表面に、まずプリコート層を形成し、次いで前記プリコート層の表面に導電性高分子による前記内部導電性高分子層を形成したものであることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記プリコート層が、前記陽極酸化皮膜の表面にポリスチレンスルホン酸水溶液による液相部を形成して乾燥固化してなる膜であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記ポリスチレンスルホン酸水溶液による液相部が、表面に前記陽極酸化皮膜を形成した前記弁作用金属をポリスチレンスルホン酸水溶液に浸漬するか、前記陽極酸化皮膜の表面にポリスチレンスルホン酸水溶液を塗布して形成したものであることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、前記多孔質の弁作用金属が、アルミニウム、タンタル、ニオブから選択されてなる金属であることを特徴とする固体電解コンデンサである。
さらに、本発明は、表面に陽極酸化皮膜を形成した多孔質の弁作用金属の表面に、導電性高分子からなる内部導電性高分子層を形成し、導電性高分子としてポリエチレンジオキシチオフェンと、ポリスチレンスルホン酸とを含んでなる水分散体と、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸の中から選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類と、高分子量ポリスチレンスルホン酸と、ホウ酸と、マンニトールと、グリコール類とを、混合してなる高分子重合溶液による液相部を、前記内部導電性高分子層の表面に設け、前記高分子重合溶液による液相部を乾燥固化し、固体電解質層を形成することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記高分子重合溶液が、該高分子重合溶液100重量部に対し、0.25ないし0.49重量部のポリエチレンジオキシチオフェンと、0.4ないし0.78重量部のポリスチレンスルホン酸とを含み、0.05ないし2重量部の1−ナフタレンスルホン酸、0.05ないし2重量部の2−ナフタレンスルホン酸、0.03ないし1.2重量部の1,3,6−ナフタレントリスルホン酸の中から選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類と、0.005ないし0.5重量部の高分子量ポリスチレンスルホン酸と、0.05ないし0.5重量部のホウ酸と、0.05ないし0.5重量部のマンニトールと、2.5ないし7.5重量部のグリコール類とを含む溶液であり、前記グリコール類が、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンから選択されてなるものであることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記ポリスチレンスルホン酸が、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が150,000±10,000であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記高分子量ポリスチレンスルホン酸が、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が500,000±50,000であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記高分子重合溶液による液相部を前記内部導電性高分子層の表面に設ける際に、前記高分子重合溶液を前記内部導電性高分子層の表面に塗布するか、もしくは表面に前記内部導電性高分子層を有する前記多孔質の弁作用金属を前記高分子重合溶液中に浸漬することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記高分子重合溶液による液相部を前記内部導電性高分子層の表面に設けて乾燥固化する際に、表面に前記液相部を設けた前記多孔質の弁作用金属を加熱することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記高分子重合溶液による液相部の前記乾燥固化の際の加熱温度が150℃以上であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記内部導電性高分子層が、ポリピロールからなる導電性高分子の層であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記弁作用金属の表面に形成した前記陽極酸化皮膜の表面に、まずプリコート層を形成し、次いで前記プリコート層の表面に導電性高分子による前記内部導電性高分子層を形成することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記プリコート層として、表面に前記陽極酸化皮膜を形成した前記弁作用金属をポリスチレンスルホン酸水溶液に浸漬するか、前記陽極酸化皮膜の表面にポリスチレンスルホン酸水溶液を塗布して液相部を形成し、乾燥固化して膜を形成することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
さらに、本発明は、前記多孔質の弁作用金属が、アルミニウム、タンタル、ニオブから選択されてなる金属であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
本発明によれば、まず多孔質の弁作用金属の表面に陽極酸化皮膜を形成し、その表面に必要な場合にはプリコート層、さらにその表面に内部導電性高分子層を形成してなる陽極体を用意する。次いでPEDOTおよびPSSAを含む水分散体に対して、それぞれ適切な割合の範囲の1−NSA、2−NSA、1,3,6−NTSAから選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類と、高分子量PSSAと、ホウ酸と、マンニトールと、グリコール類と、水とを含む溶液を混合して攪拌し、それにより高分子重合溶液を作製する。そしてこの高分子重合溶液による液相部を前記内部導電性高分子層の表面に塗布もしくは含浸によって設け、この液相部を加熱により乾燥固化することによって固体電解質層を形成して、固体電解コンデンサを作製することとする。
この方法によって、高分子重合溶液に含有される導電性高分子における、高い導電性を維持したままで高分子重合溶液の流動性を高めるとともに、また導電性高分子層を形成した際に上下の各層との密着性を向上させることができる。それにより、初期のESRの値が十分に低く、また長期間使用した場合にもESRの値が大きく増加することのない、信頼性の面でも優れた特性を持つ固体電解コンデンサを提供することができる。
本発明の実施の形態による固体電解コンデンサについて、図1に基づいてその構成を説明する。このうち図1(a)は、本発明における固体電解コンデンサの各々の実施の形態に係る横断面図、図1(b)は図1(a)における領域Aの拡大図である。図1において、多孔質の弁作用金属からなる陽極体1は中央部の陰極部9および両側の陽極部10に分けられ、このうち陰極部9では図の上下の両側の面にそれぞれ陰極となる電極が形成されている。陰極部9における陽極体1の両面には、絶縁層である陽極酸化皮膜2が形成されており、その表面にはプリコート層4が形成されている。このプリコート層4は、その表面に設けられる内部導電性高分子層5と陽極酸化皮膜2との密着性をより高めるために設けられる層であり、内部導電性高分子層5のみでも十分に高い密着性が得られる場合には省略しても構わない。プリコート層4としては、PSSAの水溶液を用いて塗布または浸漬するなどの方法により陽極酸化皮膜2の表面に液相部を設け、乾燥固化させるなどの方法により形成することが適当である。
内部導電性高分子層5は化学酸化重合法によって形成される、比較的分子量の小さい導電性高分子の膜であり、陽極酸化皮膜2の表面やその内部の凹部を導電性高分子によって充填するように形成される。この層にはポリピロールからなる導電性高分子層とすることが好適であり、ポリピロール化学酸化重合膜、PEDOT化学酸化重合膜、ポリアニリン化学酸化重合膜、もしくはその他の高分子重合溶液の化学酸化重合膜による導電性高分子層が好適に用いられる。この層は固体電解コンデンサの静電容量の増加や、この層の表面に設けられる導電性高分子層6との密着性を向上させる役割を有している。プリコート層4、内部導電性高分子層5、導電性高分子層6の3層が固体電解コンデンサにおける固体電解質層を形成している。
導電性高分子層6はその構成が本発明の主たる内容である層であって、PEDOTおよびPSSAの水分散体をベースとして、ホウ酸、マンニトール、グリコール系非水溶媒、ナフタレンスルホン酸および前記PSSAよりもさらに分子量の大きい高分子量PSSA、水などを混合してなる液相部を、内部導電性高分子層5の表面に塗布もしくは浸漬によって設け、乾燥固化させることにより形成する。本発明による導電性高分子層6は高導電率であるためにESRの値が低く、またこの特徴は昇温による加速試験を行っても失われることはない。
ここで導電性高分子層6の形成のための乾燥固化の際には一定温度以上への昇温が必要であり、昇温を行わなかったり、昇温温度が低い場合にはESRの値の低下に関する十分な効果が得られない。導電性高分子層6に添加されるグリコール系非水溶媒の沸点はかなり高いので、昇温温度が低い場合は乾燥固化が十分ではない可能性があり、またホウ酸、マンニトール、およびグリコール系非水溶媒による有機塩の形成にも影響があると考えられる。発明者らの研究の結果、十分な電気的特性を有する導電性高分子層6の乾燥固化による形成には150℃以上の昇温が必要なことが判明している。
前記導電性高分子層6の表面には、グラファイト層7および金属層8がこの順番に形成されて、固体電解コンデンサの陰極側の電極が形成される。このうち金属層8は、図示しない外部陰極端子などと電気的に接続されている。陽極体1上の陰極部9と陽極部10との境界には絶縁体からなるレジスト部3が設けられており、それによって陰極部9と陽極部10との間は電気的に絶縁されている。また陽極部10のうち、少なくとも1ヶ所では陽極体1の表面に形成された陽極酸化皮膜2が剥離されていて、そこには外部陽極端子に電気的に接続される陽極端子リード部などが設けられ、また陽極酸化皮膜2との間は溶接などにより接続されている。図1ではこの陽極酸化皮膜2の剥離部が陽極体1の両端部の上面の2ヶ所に設けられている。なお陽極端子リード部や外部陽極端子は図示していない。このような内部構造を持ち、導電性高分子層を有する固体電解コンデンサを実際に作製して、昇温による加速試験を実施してESRの値の変化を調査した。その方法とその結果について以下で説明する。
本発明による固体電解コンデンサとしてアルミ電解コンデンサを作製する場合は、陽極体にはエッチングにより粗面化した矩形のアルミエッチング箔を用い、陽極酸化皮膜は陽極体の表面に対し、アジピン酸、クエン酸、リン酸またはその塩などを含む水溶液中で化成処理を行うことによって形成する。一方レジスト部は熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂や、熱可塑性樹脂により形成する。また金属層は、一般には銀ペーストをグラファイト層の表面に塗布した上で、温風により乾燥固化するなどの方法で形成した、金属による電極層である。
なお、作製した固体電解コンデンサの信頼性評価のための昇温による加速試験の条件としては、125℃での一定時間の高温放置を行って、昇温の前後における100kHzの測定周波数でのESRの値の変化を評価することが一般的である。100kHzの測定周波数におけるESRの値を用いることは、電解コンデンサ類の評価においては半ば慣習的に行われていることであるが、この周波数において測定したESRの値を用いた固体電解コンデンサの加速試験の評価結果は、固体電解コンデンサを実際に長期間使用したときの結果とよく合致することが経験的に確かめられている。以下の実施例では、いずれもESRの値の測定は交流インピーダンスブリッジ法により行い、1Vrms、DCバイアス0Vの条件にて測定している。
また加速試験における昇温温度と保持時間は、125℃、200時間とすることが好適である。導電性高分子を固体電解質層として用いた固体電解コンデンサにおいては、一般に昇温温度が20℃異なる試験で得られた結果は、10倍の時間差の試験に相当することが知られている。つまり、125℃にて200時間昇温を行った場合の試験結果は、105℃、2,000時間の昇温試験の結果に相当する。固体電解コンデンサの寿命としては、周囲温度+45℃の温度条件において、一般に15年程度(130,000時間程度)以上を有することが求められている。この場合の周囲温度とは一般的な室温の20℃であるから、この条件は65℃の温度条件にて試験を行った際に、固体電解コンデンサが約130,000時間の寿命を有することに相当する。ここで125℃、200時間の試験条件は65℃、200,000時間の信頼性試験に相当するため、この加速試験の条件により合格となった固体電解コンデンサは、一般的な使用条件では十分な寿命を持っているものと判定される。
(測定例1〜21)
図1に示すように、粗面化した矩形のアルミニウムエッチング箔である陽極体1の両面に、アジピン酸水溶液中で化成処理を行うことにより、陽極酸化皮膜2を形成した。さらに、陽極体1の両面に、陽極部10と陰極部9を区分するためのレジスト部3を合計4ヶ所設けた。その後、陽極酸化皮膜2の両表面のうち陰極部9の領域をPSSA水溶液に含浸し、硬化乾燥させることによってPSSAを含むプリコート層4を形成した。さらにこのプリコート層4の表面に、化学酸化重合によってポリピロールからなる内部導電性高分子層5を形成した。
このようにして形成した内部導電性高分子層5の両表面に、それぞれ以下に記す方法により形成した高分子重合溶液を塗布し、その後150℃まで一定時間加熱して乾燥硬化させることで導電性高分子層6を形成した。さらにグラファイト層7、金属層8を順次形成し、作製したコンデンサ素子を用いてそれぞれ耐電圧3V、容量300μFのアルミニウム固体電解コンデンサを試作した。これらの固体電解コンデンサはその導電性高分子層6の組成別に合計21種類を作製しており、それぞれ測定例1〜21としている。またこれらの固体電解コンデンサは組成ごとに20個ずつ作製し、それぞれに対して125℃、200時間の高温試験を行った。その結果を表1に示す。
このうち導電性高分子層6の形成では、まずスタルク社製の前記Baytron−Pを用意し、合計21個の容器にそれぞれ一定量ずつ加えた。これらの各容器に対し、1−NSA、2−NSA、NTSA、および高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が500,000の高分子量PSSAを、それぞれ添加量を変えつつ加えて溶解させた。さらにホウ酸、マンニトール、およびグリコール類を含む非水溶媒としてグリセリンをそれぞれ同様に同量ずつ加え、溶解させて水溶液を得た。次いでこの水溶液を攪拌容器に移し、室温にて500rpm(rpm=round per minuet:1分間の回転数)の速さで回転させて1時間攪拌し、それぞれ組成の異なる21種類の高分子重合溶液を得た。これらの高分子重合溶液に含有される各添加物の含有量は、表1の測定例1〜21に示す通りである。ただし表1では、高分子重合溶液全体を100重量部としている。またこの中でBaytron−Pに由来するPEDOTおよびPSSAの含有量は、測定例1〜21において共通であり、それぞれ0.4重量部、0.64重量部である。
また表1には測定例1〜21の組成による固体電解コンデンサの昇温による加速試験前のESRの値、および200時間の加速試験終了後のESRの値の測定結果を、それぞれ初期ESR、200H後として示している。各々のESRの値はそれぞれ100kHzにて測定したものであり、また測定試料数は測定例1〜21の各々について20個ずつである。表1に記載の数値は各20個の試料の測定結果の平均値である。なお測定例1〜21ではホウ酸およびマンニトールの添加量はそれぞれ0.1重量部で固定としている。またグリコール系非水溶媒としてはグリセリンを用いた場合を示しており、その添加量は測定例1〜21において5重量部で固定である。また各測定例の最終的な可否を判定して「○」(合格)および「×」(不良)と表記している。なお表1では請求項に記載した範囲内の組成の測定例(本発明に係る実施例)については、「実施」欄に「○」を記している。
Figure 2008311582
表1の結果よれば、1−NSA、2−NSA、NTSAおよび高分子量PSSAの添加量を変化させた場合には、導電性高分子層が形成されないケースはその組成に関わらず生じなかった。しかし200時間の加速試験の実施後のESRの値についてはかなりのばらつきが生じた。耐電圧3V、静電容量300μFの、導電性高分子層を有するアルミニウム固体電解コンデンサの場合は、100kHzの計測周波数にて想定されるESRの値の最大値は7mΩであり、この値を越えると一般的な用途に使用することができなくなる。加速試験前には測定例21以外の全ての測定例においてこの値を十分に下回っていたのであるが、加速試験の結果、測定例1(1−NSA、2−NSA、NTSAのいずれも添加せず、高分子量PSSAのみを0.1重量部添加した場合)、測定例11(2−NSAの添加量が3重量部の場合)、測定例16(NTSAの添加量が1.5重量部の場合)、測定例17(高分子量PSSAを添加せず、1−NSAのみを添加した場合)、および測定例21(高分子量PSSAの添加量が0.8重量部の場合)では、それぞれESRの値が7mΩを越えてしまう結果が得られた。
また測定例6(1−NSAの添加量が3重量部の場合)、および測定例11の場合は、150℃の昇温による乾燥固化の段階で、すでに導電性高分子層内にスルホン酸類による塊状の析出が確認された試料が存在していたため、ESRの値とは別に、外観評価の結果によって「×」判定とした。外観評価で異常が見られた測定例では、表1中ではESRの値を( )内に記載している。
以上により、使用上十分な寿命を有するアルミニウム固体電解コンデンサを作製するために、導電性高分子層に添加される1−NSA、2−NSA、NTSAおよび高分子量PSSAの含有量は、0.05ないし2重量部の1−NSA、0.05ないし2重量部の2−NSA、0.03ないし1.2重量部の1,3,6−NTSAのいずれかを含み、かつ0.005ないし0.5重量部の高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が500,000±50,000の高分子量PSSAを含む範囲のものである。ただし導電性高分子層を形成する高分子重合溶液全体を100重量部としている。なお、高分子重合溶液に添加して用いることのできる高分子量PSSAの前記の平均分子量の添加量の範囲については、後記の測定例54,測定例55において別途検討している。
(測定例22〜38)
高分子重合溶液に添加されるホウ酸、マンニトール、およびグリコール系非水溶媒の添加量をそれぞれ変化させて17種類の高分子重合溶液を作製し、それぞれを用いて測定例1〜21と同様の方法により、耐電圧3V、容量300μFのアルミニウム固体電解コンデンサをそれぞれ試作した。これらの固体電解コンデンサはその導電性高分子層の組成別に合計17種類を作製しており、それぞれ測定例22〜38としている。これらの固体電解コンデンサを組成ごとに20個ずつ作製して、それぞれに対して125℃、200時間の昇温による加速試験を行い、評価した。その結果を表2に示す。なお表2ではグリコール系の非水溶媒としてグリセリンを用いた場合を記載している。また添加したナフタレンスルホン酸は1−NSAのみであり、1−NSAおよび高分子量PSSAの添加量はそれぞれ0.5重量部、0.1重量部に固定している。また各測定例の最終的な可否を判定して「○」(合格)および「×」(不良)と表記している。
これら測定例22〜38の高分子重合溶液に含有される各添加物の含有量は、表2の測定例22〜38に示す通りである。ただし表2では、高分子重合溶液全体を100重量部としている。また表2では、各組成による固体電解コンデンサの昇温による加速試験前のESRの値、および加速試験終了後のESRの値の測定結果をそれぞれ初期ESR、200H後として示している。各々のESRの値はそれぞれ100kHzにて測定したものであり、また測定試料数は測定例22〜38の各々について20個ずつである。表2に記載の数値は各20個の試料の測定結果の平均値である。なお表2には関連のある表1の測定例3の値も合わせて記している。表2では請求項に記載した範囲内の組成の測定例(本発明に係る実施例)については、「実施」欄に「○」を記している。
Figure 2008311582
表2の結果によれば、ホウ酸およびマンニトールの添加量を変化させた場合には、導電性高分子層が形成されないケースはその組成に関わらず生じなかった。しかし200時間の昇温による加速試験の実施後のESRの値についてはかなりのばらつきが生じた。加速試験前には全ての測定例において、100kHzの計測周波数にて想定されるESRの値の最大値である、7mΩを十分に下回っていたが、加速試験の後の値では、測定例22(ホウ酸、マンニトール、グリセリンのいずれも添加しない場合)、測定例23、測定例28、測定例33(ホウ酸、マンニトール、グリセリンのいずれか1つを添加しない場合)において、ESRの値が7mΩを越えてしまう結果が得られた。
また測定例38(グリセリンの含有量が15重量部の場合)では、高分子重合溶液の塗布後の昇温による乾燥固化の工程で、グリセリンを含む溶媒の蒸発を完了させることができずにペースト状の高分子重合溶液が残存してしまい、導電性高分子による固体膜を形成することができなかった。これは、導電性高分子層の形成工程において、乾燥固化の際に溶媒であるグリセリンと水の混合によって溶媒の沸点がグリセリンより下がることを利用して、グリセリンを低い温度で蒸発させていることが原因と考えられる。グリセリンの含有量が多い場合には水の蒸発が先に完了してしまうため、沸点の高いグリセリンのみが残留してしまい、その時点で溶媒の蒸発が終了してしまうのである。この解決には乾燥固化時の昇温温度をさらに上げればよいが、この措置は固体電解コンデンサの使用寿命を著しく短縮することにつながるため、実施することができない。
さらに測定例27(ホウ酸の添加量が1重量部の場合)、および測定例32(マンニトールの添加量が1重量部の場合)には、加速試験後のESRの値の上昇に関しては許容範囲内の値が得られたものの、150℃の昇温による乾燥固化の段階で、すでに導電性高分子層内に前記のスルホン酸類の場合に類似した析出物が確認された試料が認められたことから、外観評価の結果によって「×」判定とした。この析出物は、他の添加物と反応できずに残留した、ホウ酸もしくはマンニトールではないかと推定されている。外観評価で異常が見られた測定例では、表2中でのESRの値を( )内に記載している。
以上により、使用上十分な寿命を有するアルミニウム固体電解コンデンサを作製するために、導電性高分子層に添加されるホウ酸、マンニトールおよびグリコール系非水溶媒の条件は、前記導電性高分子層が0.1ないし0.5重量部のホウ酸、0.1ないし0.5重量部のマンニトール、2.5ないし10重量部のグリコール系非水溶媒(グリセリンの場合)の全てを含有する場合である。
(測定例39〜45)
高分子重合溶液に添加されるグリコール系非水溶媒の種類のみをそれぞれ変化させて7種類の高分子重合溶液を作製し、測定例1〜38と同様の方法により、それぞれの高分子重合溶液を用いて耐電圧3V、容量300μFのアルミニウム固体電解コンデンサをそれぞれ試作した。各々のグリコール系非水溶媒の添加量はいずれも5重量部で同一であり、この値はグリセリンを添加した測定例3の場合と同じである。添加したグリコール系非水溶媒はDMF、NMP、DMSO、PC、エタノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコールの7種類であり、それぞれ測定例39〜45としている。各測定例の評価結果を表3に示す。なお表3ではグリコール系非水溶媒以外の添加物の量は測定例3の場合と同一としていて、添加したナフタレンスルホン酸は1−NSAのみであり、1−NSAおよび高分子量PSSAの添加量はそれぞれ0.5重量部、0.1重量部に固定、またホウ酸およびマンニトールの添加量はともに0.1重量部に固定とした。ただし高分子重合溶液全体を100重量部としている。またグリセリンを添加した測定例3の結果も表記した。また表3には各測定例の最終的な可否を判定して「○」(合格)および「×」(不良)と表記している。
グリコール系非水溶媒としてDMF、NMP、DMSO、PC、エタノールをそれぞれ添加した測定例39〜43では、前記Baytron−Pに対して各非水溶媒を混合した時点で高分子重合溶液にゲル化が発生し、粘度の高い溶液となって内部導電性高分子層の表面への塗布が困難となった。その後塗布を続けて固体電解コンデンサを作製したものの、300μFの規定のコンデンサを作製することができず、また導電率の低下とESRの値の著しい増加を引き起こすこととなり、不良であると判断してその後の昇温による加速試験を中止した。従って加速試験の結果は測定例44,45および測定例3の場合についてのみ記している。これらの固体電解コンデンサは組成ごとに20個ずつ作製し、それぞれに対して125℃、200時間の加速試験を行った。表3には各組成による固体電解コンデンサの加速試験の前後のESRの値の測定結果を、それぞれ初期ESR、200H後として示している。各々のESRの値はそれぞれ100kHzにて測定したものである。なお表3に記載の各数値は20個の試料の測定結果の平均値である。なお表3では請求項に記載した範囲の種類のグリコール系非水溶媒の測定例(本発明に係る実施例)については、「実施」欄に「○」を記している。
Figure 2008311582
表3の結果によれば、前記の通りグリコール系非水溶媒としてDMF、NMP、DMSO、PC、エタノールをそれぞれ用いた場合には、高分子重合溶液のゲル化により塗布が困難となり、良好な導電性高分子層を形成することができず、「×」判定とした。一方、エチレングリコール、ポリエチレングリコールを用いた測定例44,45の場合にはゲル化も起こらず、良好な導電性高分子層を形成することができた。125℃、200時間の昇温による加速試験の結果でも、グリコール系非水溶媒としてグリセリンを使用した測定例3の場合に比べて何ら遜色のない結果が得られており、これら3種類のグリコール類が、いずれも導電性高分子層を形成するにおいて非水溶媒として十分に有用であることが分かる。なおESRの値の低減においては、グリコール系非水溶媒がホウ酸、マンニトールとともに有機塩の形成に関与していて、その効果により導電率の向上とESRの値の低減がもたらされているものと考えられているが、この効果はエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンのいずれを用いた場合にも同様に生じるものと考えられる。
以上により、使用上十分な寿命を有するアルミニウム固体電解コンデンサを作製するために、導電性高分子層に添加される非水溶媒としては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンの中から選択されたグリコール類を用いることが適当である。
(測定例46〜51)
高分子重合溶液に含有されるBaytron−Pの含有量を変化させて、良好な導電性高分子層を形成しうる含有量の範囲について検討を行った。これはBaytron−Pに含まれるPEDOTおよびPSSAの含有量と、形成される固体電解コンデンサのESRの値との関係を調べたものである。既存の商品であるBaytron−Pを用いているため、PEDOTの含有量はBaytron−Pにおける含有量である0.5重量部より大きくすることはできない。従ってこの検討は、作製される固体電解コンデンサの特性に影響を与えずに、PEDOTの含有量を減少させる場合の限度を検討するものである。Baytron−Pは一般にかなり高価であるため、その使用量を減少させることは、作製する固体電解コンデンサの低コスト化の面で有効である。Baytron−Pの含有量をそれぞれ変化させて後記の6種類の高分子重合溶液を作製し、測定例1〜45と同様の方法により、各々の高分子重合溶液を用いて耐電圧3V、容量300μFのアルミニウム固体電解コンデンサをそれぞれ試作した。
前記の測定例1〜45による検討をもとに、水分散体であるBaytron−Pに対して新たに水を添加せず、また各添加物を最も少ない割合で添加した場合の組成を測定例46とした。次いでBaytron−Pと水とを各々一定の割合にて混合し、測定例46の場合と同量の添加物を加えた場合の試料を作製し、順に測定例47〜51とした。各々の試料に含有されるPEDOTの量は、高分子重合溶液全体を100重量部として測定例46〜51の順に、それぞれ0.49重量部、0.4重量部、0.3重量部、0.25重量部、0.2重量部、0.1重量部である。なおBaytron−Pに含有されるPSSAの、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量は約150,000であるが、PEDOTとともに水分散体に含有されるPSSAにおいて、固体電解コンデンサの導電性高分子層として使用可能な分子量の範囲については、後記の測定例52,測定例53において別途検討している。
高分子重合溶液に添加するナフタレンスルホン酸としては、その添加量を最も減少させることのできるNTSAを選択し、高分子量PSSA、ホウ酸、マンニトールの添加量は許容される添加量の範囲の中でそれぞれ最小とした。グリコール系非水溶媒としてはグリセリンを選択したが、エチレングリコール、ポリエチレングリコールを選択しても同様の結果が得られる。測定例46ではこれらの添加物をBaytron−Pに添加し、水を加えずに測定例1〜45と同様の方法により高分子重合溶液を作製した。また測定例47〜51の場合もBaytron−Pと水とを各々一定の割合にて混合している他は、測定例46と全く同様に高分子重合溶液を作製している。これらの固体電解コンデンサを組成ごとに20個ずつ作製し、それぞれに対して125℃、200時間の昇温による加速試験を行い、試験前後のESRの値をそれぞれ測定した。
表4には、測定例46〜51におけるPEDOTおよびPSSAの含有量、各添加物の添加量とともに、測定例46〜51の各組成による固体電解コンデンサの加速試験の前後のESRの値の測定結果を、それぞれ初期ESR、200H後として示している。各々のESRの値はそれぞれ100kHzにて測定したものであり、また測定試料数は各20個である。表4に記載の数値は各20個の試料の測定結果の平均値である。また表4には各測定例の最終的な可否を判定して「○」(合格)および「×」(不良)と表記している。なお表4では請求項に記載した範囲内の組成の測定例(本発明に係る実施例)については、「実施」欄に「○」を記している。
Figure 2008311582
表4の結果によれば、Baytron−Pに対して水を加えていない測定例46の場合から、PEDOTの含有量が約半分の測定例49の場合までは、加速試験の前後のESRの値において、いずれの場合も100kHzの計測周波数にて想定されるESRの値の上限である、7mΩを十分に下回る値が得られている。従ってこれらの含有量の場合は常に良好な導電性高分子層が形成可能であることが分かる。しかし測定例50、測定例51に示されるように、PEDOTの含有量がさらに減少した場合には、加速試験後のESRの値が上昇してしまうため、固体電解コンデンサとしては不適当となってしまう。
高分子重合溶液に含有される水は揮発成分であるために、その含有量に関わらず乾燥固化の際には全て蒸発してしまい、最終的に導電性高分子層に残留することはない。従って、表4における測定例ごとのESRの値の違いは、導電性高分子層に含有されるPEDOTの量の差によるものであると考えられる。高分子重合溶液のPEDOTの含有量が少ない場合、塗布により形成された導電性高分子層は揮発成分の蒸発後には薄いものになってしまい、単位面積あたりの静電容量は小さくなってしまう。このため、規格としている300μFの固体電解コンデンサを作製するために必要なコンデンサ素子には広い面積が必要となり、結果としてESRの値が増大してしまうことになる。
なお、高分子重合溶液の塗布性についてはどの測定例においてもとくに問題となることはなかった。またこれらの結果からは、PEDOTの含有量を0.49重量部より増加させた場合にも、良好な固体電解コンデンサが作製可能であることが予想されるが、市販品であるBaytron−Pを使用する限り、そのような含有量の高分子重合溶液を作製するにはPEDOTの濃縮工程などが別途必要になり、コストの面においてその実施は容易ではない。
以上により、使用上十分な寿命を有するアルミニウム固体電解コンデンサを作製するために、高分子重合溶液が含有するPEDOTおよびPSSAの含有量の範囲としては、PEDOTが0.25重量部以上、従ってPSSAが0.4重量部以上とすることが適当である。
(測定例52〜59)
高分子重合溶液に含有される高分子量PSSA、および水分散体に含まれるPSSAの平均分子量の値をそれぞれ変化させた試料を作製して、良好な導電性高分子層を形成しうる平均分子量の範囲について検討を行った。なおここでの平均分子量とは、全て高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した場合の値である。まず高分子重合溶液に添加するBaytron−Pとして、含有するPSSAの平均分子量の値が通常とは異なる水分散体を特別に調製して、通常のPSSAの平均分子量である150,000とは異なる、平均分子量が140,000および160,000のPSSAを含有する高分子重合溶液を用意した。また添加される高分子量PSSAについても、通常の平均分子量である500,000の場合とは異なる、平均分子量が450,000および550,000の溶液を用意した。これによって、平均分子量が異なるPSSA、および高分子量PSSAを含有する高分子重合溶液をそれぞれ作製した。
以上の方法により4種類の高分子重合溶液を作製し、測定例1〜51と同様に、それぞれの高分子重合溶液を用いた耐電圧3V、容量300μFのアルミニウム固体電解コンデンサを試作して、測定例52〜55とした。これら各試料における各添加物の含有量はいずれも共通であり、高分子重合溶液100重量部に対して、PEDOTを0.4重量部、PSSAを0.64重量部、ナフタレンスルホン酸として1−NSAを0.5重量部、高分子量PSSAを0.1重量部、ホウ酸を0.1重量部、マンニトールを0.1重量部、グリコール系非水溶媒としてグリセリンを5重量部それぞれ含有している。これらの含有量は比較例とした測定例3の試料と同一である。なお比較した測定例3の場合は、含有するPSSAの平均分子量が150,000、高分子量PSSAの平均分子量は500,000である。
またこれとは別に、測定例3と添加物含有量が同一であって、添加されるPSSAおよび高分子量PSSAの平均分子量の値も同じである高分子重合溶液を用いて、4種類の耐電圧3V、容量300μFのアルミニウム固体電解コンデンサをそれぞれ試作した。これらの試料は、高分子重合溶液による液相部を一定時間の昇温によって乾燥固化させる際の昇温温度をそれぞれ変えたものである。測定例1〜55の試料での乾燥固化の際の昇温温度はいずれも150℃であるが、この昇温温度を100℃、120℃、180℃、200℃と変更した場合をそれぞれ測定例56〜59としている。なお各試料を乾燥固化させるための昇温時間は測定例1〜59の全ての場合で同一である。ただし昇温温度が100℃の測定例56の場合には、規定された一定時間の乾燥固化によっても液相部の固化が完了せず、導電性高分子層がゲル化した状態のままとなっており、300μFの規定のコンデンサを作製することができなかった。そのため不良であると判断して、その後の昇温による加速試験を中止した。
表5に、測定例3および測定例52〜59における、PEDOTおよびPSSAの含有量、1−NSAおよび高分子量PSSAの添加量とともに、PSSAおよび高分子量PSSAの平均分子量、導電性高分子層の形成のための乾燥固化の昇温温度をそれぞれ示す。このうち各含有物質の含有量は、測定例3および測定例52〜59のいずれにおいても共通である。表5では、測定例3および測定例52〜59の各組成による固体電解コンデンサの加速試験の前後のESRの値の測定結果を、それぞれ初期ESR、200H後として示している。各々のESRの値はそれぞれ100kHzにて測定したものであり、また測定試料数は各20個である。表5に記載の数値は各20個の試料の測定結果の平均値である。また表5では各測定例の最終的な可否を判定して「○」(合格)および「×」(不良)と表記している。なお表5では請求項に記載した範囲内の平均分子量、および乾燥温度の測定例(本発明に係る実施例)については、「実施」欄に「○」を記している。
Figure 2008311582
表5の結果によれば、Baytron−Pが含有するPSSAの平均分子量を140,000ないし160,000の範囲で変化させた場合でも、加速試験の前後におけるESRの値は、測定例3の場合と比べてとくに変化は見られなかった。これは添加物として加える高分子量PSSAの平均分子量を450,000ないし550,000の範囲で変化させた場合も同様である。またこのときのESRの値は、いずれの場合も100kHzの計測周波数にて想定されるESRの値の最大値である7mΩを十分に下回る値であり、作製した固体電解コンデンサがいずれも良好な特性を持つことが確認された。Baytron−Pが含有するPSSAと添加物として加える高分子量PSSAとは、互いに補完し合いながら導電性高分子層の導電率を高める役割を果たしていると考えられるが、前記測定例にて実施した程度の平均分子量の変化は、この両者の役割にとくに影響を与えないことが分かる。
また測定例3および測定例56〜59において、導電性高分子層の形成のための乾燥固化の昇温温度を変化させた場合は、測定例56では昇温温度が低いために規定の固体電解コンデンサを作製できなかった。また昇温温度が120℃である測定例57の場合も、加速試験後のESRの値が高くなって判定が「×」となった。これは、120℃での乾燥固化では導電性高分子層からの揮発成分の除去が実際には不十分であって、加速試験の最中に残留してるわずかな揮発成分の蒸発が発生し、それによって導電性高分子層と隣り合う層との界面での密着性に影響が生じたためではないかと推定される。従って加速試験後においてもESRの値を十分に低くするには、乾燥固化の際の昇温温度の条件として150℃以上とすることが必要である。またこの昇温温度の上限はせいぜい180℃程度であり、測定例59に示されるように200℃まで上げた場合には逆に加速試験後のESRの値が高くなる。これは、昇温温度が高温であるために昇温自体が加速試験と同様のダメージを固体電解コンデンサに与えることとなってしまい、この昇温が固体電解コンデンサの寿命を縮める結果につながるからである。
以上により、高分子重合溶液が含有するPSSAおよび高分子量PSSAの平均分子量に関しては、それぞれ140,000ないし160,000の範囲、および450,000ないし550,000の範囲であれば、これらを用いてESRの値が十分に低い、使用上十分な寿命を有するアルミニウム固体電解コンデンサを作製することが可能である。またこの高分子重合溶液による液相部を乾燥固化して導電性高分子層を形成する際の昇温温度としては、150℃以上とすることが適当である。ただしこの昇温温度をさらに上げて例えば200℃以上とした場合には、アルミニウム固体電解コンデンサの寿命を逆に縮める結果となることがある。
なお前記の各測定例においては、陽極体を形成する弁作用金属として多孔質化されたアルミニウムを用いる場合を示したが、電解コンデンサにおける弁作用金属として適当であり、その表面に良好な陽極酸化皮膜を形成可能な金属であれば、アルミニウム以外の金属を用いても構わない。そのような金属としては、タンタル、ニオブなどが知られており、これらの金属を多孔質化して陽極体として使用した場合にも、本発明の方法によって、アルミニウムの場合と同様の良好な固体電解コンデンサを形成することが可能である。
以上示したように、本発明の固体電解コンデンサによれば、PEDOTおよびPSSAを含む水分散体に対して、ナフタレンスルホン酸類、高分子量のPSSA、ホウ酸、マンニトール、グリコール類を添加して高分子重合溶液となし、これを乾燥固化することにより導電性高分子層を形成して、固体電解コンデンサを作製する。この方法によって、ESRの値が十分に低く、長期間使用してもESRの値が大きく増加することのない、信頼性の面で優れた特性を持つ固体電解コンデンサを提供することができる。また、上記実施例の説明は、本発明の実施の形態に係る場合の効果について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定し、あるいは請求の範囲を減縮するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
本発明の各々の実施の形態に係る固体電解コンデンサの例について示す図。図1(a)はその縦断面図、図1(b)は図1(a)における領域Aの拡大図。
符号の説明
1 陽極体
2 陽極酸化皮膜
3 レジスト部
4 プリコート層
5 内部導電性高分子層
6 導電性高分子層
7 グラファイト層
8 金属層
9 陰極部
10 陽極部

Claims (25)

  1. 表面に陽極酸化皮膜を形成した多孔質の弁作用金属の表面に、導電性高分子からなる内部導電性高分子層を形成し、
    導電性高分子としてポリエチレンジオキシチオフェンと、ポリスチレンスルホン酸とを含んでなる水分散体と、
    1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸の中から選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類と、
    高分子量ポリスチレンスルホン酸と、ホウ酸と、マンニトールと、グリコール類とを、
    混合してなる高分子重合溶液による液相部を、前記内部導電性高分子層の表面に設け、
    前記高分子重合溶液による液相部を乾燥固化して固体電解質層を形成してなることを特徴とする固体電解コンデンサ。
  2. 前記高分子重合溶液が、該高分子重合溶液100重量部に対し、0.05ないし2重量部の1−ナフタレンスルホン酸、0.05ないし2重量部の2−ナフタレンスルホン酸、0.03ないし1.2重量部の1,3,6−ナフタレントリスルホン酸の中から選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類と、0.005ないし0.5重量部の高分子量ポリスチレンスルホン酸と、0.05ないし0.5重量部のホウ酸と、0.05ないし0.5重量部のマンニトールと、2.5ないし10重量部のグリコール類とを含む溶液であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
  3. 前記グリコール類が、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンから選択されてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
  4. 前記高分子重合溶液に含有される前記高分子量ポリスチレンスルホン酸が、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が500,000±50,000であることを特徴とする請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
  5. 前記高分子重合溶液が、該高分子重合溶液100重量部に対し、0.25ないし0.49重量部のポリエチレンジオキシチオフェンと、0.4ないし0.78重量部のポリスチレンスルホン酸とを含む溶液であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
  6. 前記水分散体に含まれる前記ポリスチレンスルホン酸が、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が150,000±10,000であることを特徴とする請求項5に記載の固体電解コンデンサ。
  7. 前記高分子重合溶液による液相部を前記内部導電性高分子層の表面に設ける際に、前記高分子重合溶液を前記内部導電性高分子層の表面に塗布するか、もしくは表面に前記内部導電性高分子層を有する前記多孔質の弁作用金属を前記高分子重合溶液中に浸漬してなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
  8. 前記高分子重合溶液による液相部を前記内部導電性高分子層の表面に設けて乾燥固化する際に、表面に前記液相部を設けた前記多孔質の弁作用金属を加熱してなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
  9. 前記高分子重合溶液による液相部の、前記乾燥固化の際の加熱温度が150℃以上であることを特徴とする請求項8に記載の固体電解コンデンサ。
  10. 前記内部導電性高分子層が、ポリピロールからなる導電性高分子の層であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
  11. 前記弁作用金属の表面に形成した前記陽極酸化皮膜の表面に、まずプリコート層を形成し、次いで前記プリコート層の表面に導電性高分子による前記内部導電性高分子層を形成したものであることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
  12. 前記プリコート層が、前記陽極酸化皮膜の表面にポリスチレンスルホン酸水溶液による液相部を形成して乾燥固化してなる膜であることを特徴とする請求項11に記載の固体電解コンデンサ。
  13. 前記ポリスチレンスルホン酸水溶液による液相部が、表面に前記陽極酸化皮膜を形成した前記弁作用金属をポリスチレンスルホン酸水溶液に浸漬するか、前記陽極酸化皮膜の表面にポリスチレンスルホン酸水溶液を塗布して形成したものであることを特徴とする請求項12に記載の固体電解コンデンサ。
  14. 前記多孔質の弁作用金属が、アルミニウム、タンタル、ニオブから選択されてなる金属であることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
  15. 表面に陽極酸化皮膜を形成した多孔質の弁作用金属の表面に、導電性高分子からなる内部導電性高分子層を形成し、
    導電性高分子としてポリエチレンジオキシチオフェンと、ポリスチレンスルホン酸とを含んでなる水分散体と、
    1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸の中から選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類と、
    高分子量ポリスチレンスルホン酸と、ホウ酸と、マンニトールと、グリコール類とを、
    混合してなる高分子重合溶液による液相部を、前記内部導電性高分子層の表面に設け、
    前記高分子重合溶液による液相部を乾燥固化し、固体電解質層を形成することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
  16. 前記高分子重合溶液が、該高分子重合溶液100重量部に対し、0.25ないし0.49重量部のポリエチレンジオキシチオフェンと、0.4ないし0.78重量部のポリスチレンスルホン酸とを含み、
    0.05ないし2重量部の1−ナフタレンスルホン酸、0.05ないし2重量部の2−ナフタレンスルホン酸、0.03ないし1.2重量部の1,3,6−ナフタレントリスルホン酸の中から選択される1種以上のナフタレンスルホン酸類と、0.005ないし0.5重量部の高分子量ポリスチレンスルホン酸と、0.05ないし0.5重量部のホウ酸と、0.05ないし0.5重量部のマンニトールと、2.5ないし7.5重量部のグリコール類とを含む溶液であり、
    前記グリコール類が、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンから選択されてなるものであることを特徴とする請求項15に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  17. 前記ポリスチレンスルホン酸が、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が150,000±10,000であることを特徴とする請求項15または請求項16に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  18. 前記高分子量ポリスチレンスルホン酸が、高速液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した平均分子量が500,000±50,000であることを特徴とする請求項15または請求項16に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  19. 前記高分子重合溶液による液相部を前記内部導電性高分子層の表面に設ける際に、前記高分子重合溶液を前記内部導電性高分子層の表面に塗布するか、もしくは表面に前記内部導電性高分子層を有する前記多孔質の弁作用金属を前記高分子重合溶液中に浸漬することを特徴とする請求項15ないし18のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  20. 前記高分子重合溶液による液相部を前記内部導電性高分子層の表面に設けて乾燥固化する際に、表面に前記液相部を設けた前記多孔質の弁作用金属を加熱することを特徴とする請求項15ないし19のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  21. 前記高分子重合溶液による液相部の前記乾燥固化の際の加熱温度が150℃以上であることを特徴とする請求項20に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  22. 前記内部導電性高分子層が、ポリピロールからなる導電性高分子の層であることを特徴とする請求項15ないし21のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  23. 前記弁作用金属の表面に形成した前記陽極酸化皮膜の表面に、まずプリコート層を形成し、次いで前記プリコート層の表面に導電性高分子による前記内部導電性高分子層を形成することを特徴とする請求項15ないし22のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  24. 前記プリコート層として、表面に前記陽極酸化皮膜を形成した前記弁作用金属をポリスチレンスルホン酸水溶液に浸漬するか、前記陽極酸化皮膜の表面にポリスチレンスルホン酸水溶液を塗布して液相部を形成し、乾燥固化して膜を形成することを特徴とする請求項23に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
  25. 前記多孔質の弁作用金属が、アルミニウム、タンタル、ニオブから選択されてなる金属であることを特徴とする請求項15ないし24のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
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