そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱応力に起因する亀裂等の不具合を防止するとともに、カルシウム成分による腐食を防止することのできるセラミックヒータを提供することにある。
以下、上記課題等を解決するのに適した各構成を項分けして説明する。尚、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果等を付記する。
構成1.
本構成のセラミックヒータは、モリブデンの珪化物、窒化物及び炭化物、並びに、タングステンの珪化物、窒化物及び炭化物のうち、少なくとも1つを主成分とする発熱体が、窒化珪素を主成分とする基体中に埋設されてなるセラミックヒータであって、
前記基体は、
希土類元素を酸化物換算で4〜25質量%、
クロムの珪化物をシリサイド換算で1〜8質量%含有するとともに、
アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で0.02〜1.0質量%含有することを特徴とする。
ここで、「主成分」とあるのは、材料中、最も質量比の高い成分を指すものである。また、「希土類元素」としては、「無機化学命名法 IUPAC 1990年勧告」(1993年3月26日発行 訳・著者 山崎一雄)に記載の周期律表第3族元素(ランタノイド元素を含む)を挙げることができ、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、イットリウム(Y)等が挙げられる。「希土類元素を酸化物換算で」とあるのは、本発明者等が本発明に想到する過程において、原材料として希土類酸化物を用いていることに基づくものである。従って、希土類が必ずしも酸化物としてのみ残存していなければならないということではない。
希土類元素の酸化物は、波長分散型X線マイクロアナライザー(加速電圧20kV、スポット径100μm)により、定量することができる。
また、クロムの珪化物としては、純粋なクロムシリサイド(CrSi2)のみならず、クロムのシリサイドとタングステンのシリサイドとの固溶体、クロムのシリサイドとモリブデンのシリサイドとの固溶体、及び、クロムのシリサイドとバナジウムのシリサイドとの固溶体等を挙げることができる。「クロムの珪化物をシリサイド換算で」とあるのは、上記同様、本発明者等が本発明に想到する過程において、原材料としてクロムシリサイド(CrSi2)を主として用いていることに基づくものである。「添加されたほぼ全てのクロム成分が珪化物として残存している」のが望ましいが、必ずしも純粋なクロムシリサイド(CrSi2)のみがクロムの珪化物として残存していなければならないということではない。
構成1のセラミックヒータの基体は、クロムの珪化物をクロムシリサイド換算で1〜8質量%含有している。尚、より望ましくは、「クロムの珪化物をクロムシリサイド換算で1.5〜5質量%含有している」ことである。これにより、基体の熱膨張係数の向上が図られ、発熱体と基体との熱膨張係数の差を少なくすることができる。これに対し、クロムの珪化物の含有量がシリサイド換算で1質量%未満の場合には、熱膨張係数の向上が見込めず、熱応力に起因して亀裂が発生する等のおそれがある。一方、クロムの珪化物の含有量がクロムシリサイド換算で8質量%を超える場合には、クロム成分の凝集が起こるおそれがある。その結果、基体の部位によって熱膨張係数にムラが生じることとなり、強度の低下を起こすおそれがある。
クロムの珪化物の含有量は、セラミックヒータを最高発熱部に対応する部分において切断し、その断面に関し外周表面から100μm内側の位置を中心として波長分散型X線マイクロアナライザーにより、クロムの珪化物をCrSi2に換算して含有量を算出することができる。
さらに、構成1のセラミックヒータの基体は、アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で0.02〜1.0質量%含有している。これにより、エンジンオイル中に含まれるカルシウム成分等による基体の腐食が抑制される。これに対し、アルミニウム成分の含有量が窒化アルミニウム換算で0.02質量%未満の場合には、上記基体の腐食抑制効果が十分に得られない。一方、アルミニウム成分の含有量が窒化アルミニウム換算で1.0質量%を超える場合には、高温下での基体の強度が低下してしまう。また、アルミニウム成分が上記規定量だけ含有されていることで、セラミックヒータ焼成過程でアルミニウム成分が発熱体中に拡散し、発熱体と基体との焼結挙動を一致させやすくなり、結果として焼結過程での歪みをより一層抑制することができる。その上、抵抗値の安定化が図られる。
尚、「前記基体のうち少なくとも表面(表層)部位が、アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で0.02〜1.0質量%含有する」構成とすることで、上述した効果がより確実に奏されることとなる。
特に基体の腐食抑制に注目すると、アルミニウム成分の含有量を窒化アルミニウム換算したときに0.2質量%以上とすることが望ましい。近年のディーゼルエンジンでは排ガスの清浄化や出力の向上等を実現するために、エンジンの運転中にグロープラグは1150℃もの高温環境に曝されることがある。このような環境においてもより確実に耐食性を得るためには次に説明する構成2を採用することが好ましい。
基体中のアルミニウム元素の含有量を測定する方法としては、適宜の測定方法を採用することができるが、例えば上述の基体に含まれる希土類元素の量を測定する方法と同様に、波長分散型X線検出器により定量し、窒化アルミニウムに換算して算出する方法等を挙げることができる。
上記構成1によれば、発熱体がモリブデンの珪化物、窒化物及び炭化物、並びに、タングステンの珪化物、窒化物及び炭化物のうち、少なくとも1つを主成分としており、かつ基体が窒化珪素を主成分としていることから、より高温条件下(例えば1200℃以上)での使用に耐え得る。また、構成1のセラミックヒータの基体は、希土類元素を酸化物換算で4〜25質量%含有している。尚、より望ましくは、「希土類元素を酸化物換算で4〜15質量%含有している」こと、更に望ましくは、「希土類元素を酸化物換算で6〜15質量%含有している」ことである。これにより、セラミックヒータ焼成時の焼結性が改善されるのみならず、基体の熱膨張係数の向上が図られる。そのため、発熱体と基体との熱膨張係数の差を少なくすることができ、熱応力に起因する亀裂の発生を防止できるというメリットがある。これに対し、希土類元素の酸化物換算での含有量が4質量%未満の場合には、セラミックヒータ焼成時にうまく焼結しないおそれがある。また、基体の熱膨張係数の向上も見込めず、熱応力に起因して亀裂が発生する等のおそれがある。一方、希土類元素の酸化物換算での含有量が25質量%を超える場合には、基体の熱膨張係数は向上するものの、希土類元素(RE)、珪素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)で構成される粒界結晶相が基体の表面に生成されてしまい、当該結晶相の存在により基体の耐酸化性が低下してしまう。尚、このような結晶相としては、J相(Er4Si2N2O7)、H相(Er20Si12N4O48)、メリライト相(Er2Si3N4O3)等が挙げられる。基体の希土類元素の含有量を測定する方法としては、適宜の測定方法を採用することができるが、例えば波長分散型X線検出器により定量し、希土類酸化物に換算して算出する方法等を挙げることができる。
構成2.
本構成のセラミックヒータは、前記構成1において、前記アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で0.2〜1.0質量%含有することを特徴とする。
尚、「アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で」とあるのは、上記同様、本発明者等が本発明に想到する過程において、原材料として、アルミナ(Al2O3)単体ではなく、窒化アルミニウム(AlN)を主として用いている(例えば、Al2O3の質量が1に対してAlNの質量比が3以上のものを用いている)ことに基づくものである。
更に説明すると、窒化アルミニウム換算でアルミニウム成分の含有量を規定するのは、原料として、酸化アルミニウム単体ではなく、窒化アルミニウムを主として用いるからである。アルミニウム成分として、窒化アルミニウムを主として用いた方が、例えば1350〜1400℃付近の高温環境下で液相を生じ難くなり、基体自体の強度の低下を抑制することができる。好ましくは、アルミニウム成分として、窒化アルミニウムと酸化アルミニウムとを両方用いるのが良い。窒化アルミニウム単体を用いるのに比べて、酸化アルミニウムも用いることにより、基体の焼結性が向上し、基体と発熱体との焼結性及び焼結挙動を一致させ易くなり、結果として焼結過程でのセラミックヒータの歪みを抑制することができる。もっとも、アルミニウム成分として、酸化アルミニウムを単体で用いることも可能である。但し、その場合1350〜1400℃の高温環境下で液相が生じ易くなる。尚、エンジンオイルに含まれるカルシウム成分等による腐食に対しては、アルミニウム成分を含有することにより基体に耐腐食性を付加することができ、窒化アルミニウム又は酸化アルミニウムの単体を用いたとしても、同様の耐腐食性を得ることができる。
基体中のアルミニウム成分の含有量を測定する方法としては、前記構成1で説明したとおりである。
構成3.
本構成のセラミックヒータは、上記構成1又は2において、前記基体は、クロムのシリサイド、クロムのシリサイドとタングステンのシリサイドとの固溶体、クロムのシリサイドとモリブデンのシリサイドとの固溶体、及び、クロムのシリサイドとバナジウムのシリサイドとの固溶体のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする。
上記構成3のように、基体には、クロムのシリサイドとタングステンのシリサイドとの固溶体(CrW)Si、及び、クロムのシリサイドとバナジウムのシリサイドとの固溶体(CrV)Siのうち少なくとも一方が含まれているのが望ましい。このような固溶体が含まれるということは、クロム成分が発熱体と基体との界面等に凝集してしまうといった事態がさほど起きていないことを意味する。すなわち、構成3のような固溶体が含まれるセラミックヒータにおいては、クロム成分の凝集による熱膨張係数のムラの発生を抑制でき、基体の強度低下防止を図ることができるという効果が奏される。また、構成3のように固溶体が含まれることで、熱膨張係数の増大が図られやすい。かかる意味で、純粋なクロムシリサイド(CrSi2)のみが残存している場合よりは、クロムのシリサイドとタングステンのシリサイドとの固溶体(CrW)Siや、クロムのシリサイドとバナジウムのシリサイドとの固溶体(CrV)Si等がクロムの珪化物として存在しているのがより望ましいといえる。尚、上記のように構成するには、セラミックヒータの製造過程(焼成前の粉体混入工程等)において、基体を構成する素材中に、タングステンシリサイド(WSi2)やバナジウムシリサイド(VSi2)を添加することが望ましい。このようにタングステンシリサイドやバナジウムシリサイドを添加することで、焼成に際して、上記のような固溶体が形成される。
構成4.
本構成のセラミックヒータは、前記構成1〜3のいずれか一つの構成において、
前記基体の表層部に存在するクロムの珪化物の最大粒径が15μm以下であることを特徴とする。
この発明においては、基体の表層部におけるクロムの珪化物の最大粒子径が15μmを超えると、クロムの珪化物の粒子と腐食の原因に成るカルシウム成分等とが反応し易くなり、クロムの珪化物の粒子が腐食の起点と成り易いという不都合を生じる。
基体の表層部におけるクロムの珪化物の最大粒子径を測定する方法としては、例えば次の方法が挙げられる。先ず、この発明のセラミックヒータの最高発熱部である先端部近傍において径方向の断面を鏡面研磨する。鏡面研磨したセラミックヒータの基体の表面から100μm以内の部位において、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率3000倍で任意の10箇所を観察してクロムの珪化物を特定し、特定した粒子の最大長径を最大粒子径とする。
構成5.
本構成のセラミックヒータは、上記構成1〜4のいずれか一つの構成において、
前記基体は、その気孔率が5%以下であることを特徴とする。
前記基体は、その気孔率が5%以下であることにより燃焼室内に曝されるセラミックヒータ表面の凹凸も微小なものとなるため、例えばエンジンオイル中に含まれるカルシウム成分等が付着しにくくなる。この発明における基体においては、基体の構成材料により耐腐食性を向上することと相俟って、基体の気孔率を5%以下に調整することにより腐食成分が基体に付着させにくくし、これによって耐腐食性が著しく向上する。基体の気孔率を5%以下に調製する方法としては、従来公知の手段を採用すればよく、例えば焼成温度若しくはプレス圧力等の焼成条件を適宜に設定する方法、又は基体の原料と混合するバインダ等を適当な量に設定する方法等、特に制限はない。
前記基体の気孔率を測定するには、例えばこの発明のセラミックヒータの最高発熱部である先端部近傍において径方向の断面を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面の表面から100μm以内の部位において、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率3000倍で任意の10箇所を観察する。観察した基体の表面において、気孔が占める面積の比率を定量化して体積%に換算し、気孔率とする方法を挙げることができる。
構成6.
本構成6は、前記構成1〜5のいずれか一つの構成において、
前記基体が、
全酸素量に対する希土類元素の酸素量の比が0.3〜0.6であることを特徴とする。
前記基体において、全酸素量に対する希土類元素の酸素量の比が0.3〜0.6、好ましくは、0.35〜0.50であることにより、この発明のセラミックヒータに通電した際に印加電圧で基体の粒界相中の金属イオン、例えばアルミニウム金属イオン又は希土類元素金属イオン等が移動する現象(以下、「マイグレーション」と称することがある。)を抑制することができ、該マイグレーションの抑制により、セラミックヒータ内でのクラック又は断線等の不具合の発生を抑制することができるので、好ましい。更に詳述すると、前記酸素量の比が0.6を超えると、焼成時にうまく焼結せずに、ポアが残存することがあり、また、耐酸化性が低下することがある。
基体の全酸素量に対する希土類元素の酸素量の比を算出するには、先ず、基体の全酸素量と希土類元素の酸素量とを測定し、得られる2つの値の比を導出すればよい。基体の全酸素量は、適宜の測定方法を用いて測定することができるが、例えば基体を粉砕した粉末を加熱溶融することにより発生する酸素を、一酸化炭素として赤外線検出器で測定する等の測定方法を用いて測定することができる。また、希土類元素の酸素量は、上述のように希土類元素の含有量を算出する際に希土類酸化物として換算しているので、この希土類酸化物の酸素分を希土類元素の酸素量として算出することができる。
構成7.
本構成7のセラミックヒータは、構成1〜6のいずれか一つの構成において、前記基体の表面に、希土類元素、珪素、窒素及び酸素で構成される結晶相が存在しないことを特徴とする。
上述のとおり、希土類元素、珪素、窒素及び酸素で構成される粒界結晶相が存在すると、特に、当該粒界結晶相が基体の表面に存在すると、基体の表層が酸化してしまい、基体が脆弱化してしまうことが懸念され、特に、1000℃以上の高温下での耐酸化性が劣ってしまう。この点、構成7によれば、希土類元素、珪素、窒素及び酸素で構成される粒界結晶相が表面に存在しないことから、表面が酸化されてしまうといった事態が起こりにくく、結果として耐酸化性の向上を図ることができる。
ここで、表面(構成1、2の項の「尚書き」で述べた「表面」も同様)とあるのは、具体的には、所定のX線分析装置を用いて分析できる程度のセラミックヒータの表層部分を指すものである(より具体的には、後述する[発明を実施するための最良の形態]を参照)。
また、本発明において、結晶相が存在しないことは、既述したX線分析装置にて、セラミックヒータ表面にX線を照射して、回折スペクトルを得、その際、希土類元素、珪素、窒素、及び酸素で構成される結晶相(例えば、J相、H相、メリライト相)のスペクトルの最大強度ピーク値が、窒化珪素の最大強度ピーク値の5%未満であるときに、前記結晶相が存在しないと、みなす。
構成8.
本構成8のセラミックヒータは、上記構成1〜7のいずれか一つの構成において、前記基体に、希土類元素のモノシリケートの結晶相及び希土類元素のダイシリケートの結晶相のうち少なくとも一方が存在することを特徴とする。
基体表面に、希土類元素、珪素、窒素及び酸度で構成される結晶相が存在しない方がよい点については構成7において既に述べたが、一方で、本構成8のように、基体には、希土類元素のモノシリケートの結晶相や、希土類元素のダイシリケートの結晶相が存在しているのがより望ましい。かかる結晶相が存在することで、耐熱性が向上し、高温条件下での基体の強度の向上を図ることができる。基体がモノシリケート結晶相及び/又はダイシリケート結晶相を有していることにより基体の耐熱性が向上するのであるが、高温環境下での強度向上を特に企図するのであれば、基体の表面に前記モノシリケート結晶相及び/又はダイシリケート結晶相を存在させるのが好ましい。尚、希土類元素のモノシリケートの結晶相としては、Er2SiO5を、希土類元素のダイシリケートの結晶相としては、Er2Si2O7をそれぞれ例示することができる。
基体の表面の結晶相を同定する方法としては、例えばX線分析装置及びJCPDSカードを用いて同定する方法等を挙げることができる。ここで、希土類元素のモノシリケート及び/又はダイシリケート結晶相は、上述のように基体の表面に存在するのが好ましいが、少なくとも基体の表面からX線分析装置で結晶相を同定できる程度の深さにおいて、希土類元素のモノシリケート及び/又はダイシリケートが存在していればよいとする。基体の内部における結晶相を同定する場合には、基体を切断することにより露出するその断面において同様に分析及び同定を行えばよい。
ここで、希土類元素のモノシリケートの結晶相及び希土類元素のダイシリケートの結晶相の最大強度ピーク値が、窒化珪素の最大強度ピーク値の5%以上であるときに、「結晶相が存在」すると、みなすことができる。
構成9.
本構成9のセラミックヒータは、上記構成1〜8のいずれか一つの構成において、前記基体が、炭化珪素を2〜10体積%含有することを特徴とする。
上記構成9によれば、基体が炭化珪素を2〜10体積%含有していることから、セラミックヒータ焼成時の焼結性が改善されるのみならず、基体の熱膨張係数の向上が図られ、発熱体と基体との熱膨張係数の差を少なくすることができる。これに対し、炭化珪素の含有量が2体積%未満の場合には、熱膨張係数の向上が見込みづらく、高温強度も向上しにくい。また、炭化珪素の含有量が10体積%を超える場合には、焼成時における焼結性の向上が十分ではなくなるおそれがあり、また、絶縁性の低下を招くおそれがある。
さらに別の観点からいうと、前記基体が、炭化珪素を基体の全体積に対して2体積%以上、好ましくは3体積%以上含有することにより、熱応力で基体に亀裂が発生する状態を防止することができ、更に、例えば1400℃以上の高温環境下でも基体の強度の低下が起こらない。炭化珪素の含有量が2体積%未満であると、高温環境下で基体の強度が低下する状態、並びに高温環境下及び常温環境下に繰り返し曝されることで、過度の熱応力が生じる状態等を生じることがある。また、前記基体が炭化珪素を10体積%以下、好ましくは9体積%以下含有することにより、前記基体の焼結性を向上させることができる。炭化珪素の含有量が10体積%を超えると、該基体の焼結性が低下することに加えて、炭化珪素の粒子が凝集を起こすことがあり、基体の部位によって熱膨張係数のムラが生じることとなるので、結果として基体の強度及び絶縁性の低下を招くことにもなり得る。
炭化珪素の含有量は、セラミックヒータの最高発熱部を輪切りにして断面サンプルを作製し、その断面を鏡面研磨後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて基体部分の組織を観察し、炭化珪素粒子を特定し、その面積%を定量化するとともに、体積%に換算して求めることができる。
構成10
本構成10のセラミックヒータは、上記構成9において、基体中に含まれる炭化珪素の最大粒径が15μm以下である。炭化珪素の最大粒子径が15μmを超えると、クロムの珪化物の粒子と腐食の原因に成るカルシウム成分等とが反応し易くなり、クロムの珪化物の粒子が腐食の起点と成り易いという不都合を生じる。
基体に含まれる炭化珪素の最大粒径を測定する方法としては、最高発熱部である基体の端部近傍において、半径方向の断面を鏡面研磨し、鏡面研磨した試料の表面から100μm以内の部位において、走査型電子顕微鏡(SEM)で炭化珪素を特定し、倍率3000倍で任意の10箇所を観察した場合の、観察される最大の径を最大粒子径とする方法を挙げることができる。
構成11.
本構成11のセラミックヒータは、上記構成1〜10のいずれか一つの構成において、前記基体の熱膨張係数が、3.3×10−6/℃以上、4.0×10−6/℃以下であることを特徴とする。
一般に、モリブデンの珪化物、窒化物及び炭化物、並びに、タングステンの珪化物、窒化物及び炭化物のうち、少なくとも1つを主成分とする発熱体の熱膨張係数は、3.7×10−6/℃〜3.8×10−6/℃程度であることが多い。これに対し、構成11のように、前記基体の熱膨張係数が、3.3×10−6/℃以上、4.0×10−6/℃以下とすることで、発熱体と基体との熱膨張係数の差をより少なくすることができ、熱応力に起因する亀裂の発生をより確実に防止できるというメリットがある。
基体の熱膨張率は、基体を形成する際に原料として用いる希土類元素、クロムの珪化物、炭化珪素及び基体に含まれる酸素量等により調整することができる。具体的には、例えば、希土類元素、クロムの珪化物及び炭化珪素の含有量の増加、並びに、基体に含まれる全酸素量の減少によって基体の熱膨張係数を大きくすることができる。
基体の熱膨張係数を測定する方法としては、例えば石英のような標準試料と測定する基体とを常温から1000℃に変化させた場合の標準試料及び基体の長さを、温度変化前の長さと比べて熱膨張率を算出する方法を挙げることができる。
上記セラミックヒータを用いて、次の構成とすることも可能である。
構成12.
本構成12は、構成1〜11のいずれか一つの構成を有するセラミックヒータを備えるグロープラグである。
構成12のように、上記セラミックヒータを使用して、グロープラグを形成することによって、セラミックヒータに上記不具合の生じ得ないグロープラグを提供することができる。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ、説明する。まず、本発明に係るセラミックヒータを備えるグロープラグの一例について、図1,2を参照しつつ説明する。図1は、グロープラグ1の縦断面図であり、図2は、セラミックヒータ4を中心に示す部分拡大断面図である。尚、図1,2においては、図の下側をグロープラグ1(セラミックヒータ4)の先端側、上側を後端側として説明する。
図1に示すように、グロープラグ1は、主体金具2、中軸3、セラミックヒータ4、絶縁部材5,6、外筒7、かしめ部材8等を備えている。主体金具2は、略円筒状をなし、その長手方向中央部外周には、グロープラグ1をエンジンのシリンダヘッド(図示略)に取付けるための雄ねじ部11が形成されている。また、主体金具2の後端部外周には六角形状をなす鍔状の工具係合部12が形成されており、前記シリンダヘッドにグロープラグ1を螺合する際に、使用される工具が係合されるようになっている。
主体金具2の内周側には、後端側へ一端を突出させた金属製で丸棒状の中軸3の他端が収容されている。この中軸3の外周と主体金具2の内周との間にはリング状の絶縁部材5が設けられており、中軸3の中心軸と、主体金具2の中心軸とが軸線C1上で一致するように中軸3が固定されている。さらに、主体金具2の後端側より、中軸3を挿通させた状態で、別の絶縁部材6が設けられている。当該絶縁部材6は、筒状部13及びフランジ部14を具備しており、筒状部13が前記中軸3と主体金具2との隙間に嵌合されている。また、前記絶縁部材6の上端側に、略円筒状のかしめ部材8が中軸3に嵌合されている。かしめ部材8は、その先端面が前記絶縁部材6のフランジ部14に当接した状態で、その胴部外周から押圧されてかしめられている。これにより、中軸3と主体金具2との間に嵌合された絶縁部材6が固定され、中軸3からの抜けが防止されるようになっている。
また、主体金具2の先端部には金属製の外筒7が接合されている。より詳しくは、外筒7は後端側に厚肉部15を有しており、当該厚肉部15の後端外周には段状の係合部16が形成されている。そして、当該係合部16に前記主体金具2の先端内周が係合されている。
前記中軸3の先端側にはセラミックヒータ4が設けられている。セラミックヒータ4は、基体21及び発熱体22を備えている(図2参照)。すなわち、基体21は、先端が曲面状に加工された丸棒状をなし、その内部において、細長いU字状をなす発熱体22が埋設状態で保持されている。このセラミックヒータ4は、その胴部外周が、前記外筒7によって保持されている。尚、セラミックヒータ4のうち、外筒7よりも後端側の部分は、主体金具2内部に収容された格好となっているが、セラミックヒータ4が外筒7によって強固に位置決め固定されていることから、主体金具2には接触しない構造となっている。
さらに、前記中軸3の先端は、小径部17となっており、当該小径部17は主体金具2の長手方向略中央に位置している。また、前記セラミックヒータ4の後端には電極リング18が嵌め込まれており、当該電極リング18と、前記中軸3の小径部17とがリード線19によって接続され、両者間の電気的導通が図られている。
次に、セラミックヒータ4の詳細について図2を主として参照しつつ説明する。セラミックヒータ4は、絶縁性セラミックよりなり、軸線C1方向に延びる略同径で丸棒状の基体21を有し、その内部に、導電性セラミックよりなり細長いU字状をなす発熱体22が埋設状態で保持されている(これらを構成する材料組成については後に詳述する)。発熱体22は、導電部として1対の棒状のリード部23,24と、前記リード部23,24の先端部同士を連結する連結部25とを備え、連結部25のうち特に先端側の部分が発熱部26となっている。発熱部26は、いわゆる発熱抵抗体として機能する部位であり、曲面状に形成されたセラミックヒータ4の先端部分において、その曲面に合わせた略U字形状をなしている。本実施形態では、発熱部26の断面積がリード部23,24の断面積よりも小さくなるように構成されており、通電時には、主に発熱部26において積極的に発熱が行われるようになっている。
また、リード部23,24は、前記連結部25の両端に接続されており、それぞれセラミックヒータ4の後端へ向けて互いに略平行に延設されている。そして、一方のリード部23の後端寄りの位置には、電極取出部27が外周方向に突設され、セラミックヒータ4の外周面に露出状態とされている。同様に、他方のリード部24の後端寄りの位置にも、電極取出部28が外周方向に突設され、セラミックヒータ4の外周面に露出状態とされている。前記一方のリード部23の電極取出部27は、セラミックヒータ4の長手方向(軸線C1方向)において、前記他方のリード24の電極取出部28よりも後端側に位置している。
電極取出部28の露出部分は、外筒7の内周面に対して接触しており、これにより外筒7とリード部24との電気的導通が図られている。また、電極取出部27の露出部分に対応して、前述した電極リング18が嵌められており、この電極リング18の内周面に電極取出部27が接触して、電極リング18とリード部23との電気的導通が図られている。すなわち、電極リング18にリード線19を介して電気的に接続された前記中軸3と、外筒7に係合し電気的に接続された主体金具2とが、グロープラグ1において、セラミックヒータ4の発熱部26に通電するための陽極・陰極として機能する。
さて、本実施形態では、上記セラミックヒータ4のうち、発熱体22は、モリブデンの珪化物、窒化物及び炭化物、並びに、タングステンの珪化物、窒化物及び炭化物のうち、少なくとも1つを主成分としている。勿論、その他の成分、例えば各種焼結助剤を含んでいてもよい。また、発熱部26においてより積極的に発熱が行われるよう、発熱部26に対してリード部23,24の導電性が高くなるように、両者の材質(配合比率)を若干異ならせることとしてもよい。これにより、発熱体22がより高温条件下(例えば1200℃以上)での使用に耐え得るようになっている。
一方、基体21は、窒化珪素を主成分としており、希土類元素を酸化物換算で4〜25質量%(より望ましくは4〜15質量%)、クロムの珪化物をシリサイド換算で1〜8質量%(より望ましくは1.5〜5質量%)含有するとともに、アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で0.02〜1.0質量%(より望ましくは0.02〜0.9質量%)含有している。「希土類元素」としては、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、イットリウム(Y)等が挙げられる。「希土類元素を酸化物換算で」とあるのは、本発明者等による実施過程において、原材料として希土類酸化物を用いていることに基づくものである。従って、希土類元素が必ずしも酸化物としてのみ残存していなければならないということではない。また、クロムの珪化物とあるのは、純粋な(狭義の)クロムシリサイド(CrSi2)のみならず、クロムとタングステンのシリサイドの固溶体、及び、クロムとバナジウムのシリサイドの固溶体等、クロムの珪化物であればよいということである。「クロムの珪化物をシリサイド換算で」とあるのは、上記同様、本発明者等による実施過程において、原材料としてクロムシリサイド(CrSi2)を主として用いていることに基づくものである。「添加されたほぼ全てのクロム成分が珪化物として残存している」のが望ましいが、必ずしも純粋なクロムシリサイド(CrSi2)のみがクロムの珪化物として残存していなければならないということではない。さらに、「アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で」とあるのは、上記同様、本発明者等による実施過程において、原材料として、アルミナ(Al2O3)単体ではなく、窒化アルミニウム(AlN)を主として用いている(例えば、Al2O3の質量が1に対してAlNの質量比が3以上のものを用いている)ことに基づくものである。
また特に、基体21のうち少なくとも表面(表層)部位において、アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で0.02〜1.0質量%(より望ましくは0.02〜0.9質量%)含有している。ここで、「表面(表層)」とあるのは、後述する実施例にてアルミニウム成分の含有量を測定する部位、即ちセラミックヒータ外表面から100μm内周側を意味する。
さらに、基体21は、クロムの珪化物として、純粋なクロムシリサイド(CrSi2)のみならず、クロムのシリサイドとタングステンのシリサイドとの固溶体、及び、クロムのシリサイドとバナジウムのシリサイドとの固溶体のうち少なくとも一方を含んでいる。当該固溶体は、後述するセラミックヒータ4の製造過程(焼成前の粉体混入段階等)において、基体21を構成する素材中に、タングステンシリサイド(WSi2)やバナジウムシリサイド(VSi2)が添加されることによって形成されるものである。
また、本実施形態では、基体21の表面には、希土類元素、珪素、窒素及び酸素で構成される結晶相[例えば、J相(Er4Si2N2O7)、H相(Er20Si12N4O48)、メリライト相(Er2Si3N4O3)等]が存在していない。
一方で、本実施形態における基体21には、希土類元素のモノシリケートの結晶相(Er2SiO5)及び希土類元素のダイシリケートの結晶相(Er2Si2O7)のうち少なくとも一方が存在している。
さらに、本実施形態における基体21は、炭化珪素(SiC)を2〜10体積%含有している。
以上、セラミックヒータ4を中心としたグロープラグ1の構成について説明したが、かかるセラミックヒータ4を作製するにあたり、本実施形態では以下の製造方法に従うこととしている。以下には、図3〜図6等を参照しつつ、セラミックヒータ4の製造方法について簡単に説明する。
図3は、セラミックヒータ4の各製造工程を示すフローチャートである。同図に示すように、セラミックヒータ4の製造工程においては、まず、発熱体成形体31(図4参照)の成形が行われる(S1)。発熱体成形体31は、前述した発熱体22のいわば前駆体である。当該発熱体成形体31の成形についてより詳しく説明すると、上記のとおり、モリブデンの珪化物、窒化物及び炭化物、並びに、タングステンの珪化物、窒化物及び炭化物のうち、少なくとも1つを主成分としたものに焼結助剤等の添加物を混入させたものを水の中でスラリー状とし、スプレードライを施すことで、粉末状態とする。当該粉末とバインダとしての樹脂チップとを混練し、射出成形を行い、その後、バインダの一部を灰化させるべく、つまり取り除くべく予備的に加熱乾燥を行うことで、発熱体成形体31が作製される。
作製される発熱体成形体31は、図4に示すように、未焼成のリード部33,34と、リード部33,34の先端側(図の左側)を連結する略U字形状の未焼成の連結部35とを備えている。さらに、本実施形態にあっては、リード部33,34の後端側を接続するサポート部39も一体形成されている。すなわち、焼成前のセラミックは機械的強度が弱く、また連結部35は比較的細いため、加工過程において割れや、折れといった不具合の発生が懸念される。本実施形態では、連結部35、リード部33,34及びサポート部39によって、発熱体成形体31を全体として環状に構成することで、リード部33,34の重量による負荷が連結部35とサポート部39とで分散され、これにより、連結部35の割れ等の不具合防止が図られている。尚、サポート部39は焼成後において切断されるものであるため、切断をより容易に行うという観点から同図よりも細いものを採用してもよい。勿論、かかるサポート部39を省略する構成を採用しても何ら差し支えない。
さて、セラミックヒータ4の製造過程の説明に戻り、発熱体成形体31の成形工程とは別に、基体21の半分を構成する半割絶縁成形体40の成形が行われる(図3のS2)。より詳しく説明すると、まず半割絶縁成形体40を構成する材料の粉末を用意する。上記のとおり窒化珪素(平均粒径0.7μm)を主成分とし、希土類酸化物、平均粒径1.0μmのCr2O3・CrSi2)等のCr化合物粉末、平均粒径1.0μmのWO3・WSi2等のW化合物粉末(や、V化合物粉末)、平均粒径1.0μmで結晶構造としてαあるいはβの炭化珪素粉末、アルミナ、窒化アルミニウム等を混入させたものを、窒化珪素製の球石を使用してエタノール中で40時間湿式混合し、次いで湯煎乾燥し、粉末(顆粒)状態とする。そして、当該絶縁性セラミック粉末を用いたうえで半割絶縁成形体40の成形が行われる。
半割絶縁成形体40の成形には所定の金型装置(図示せず)が使用される。金型装置としては、例えば枠形状をなす、つまり上から平面を見たときに長方形状をなす開口を有する外枠と、当該外枠に対し上下動可能な下型及び上型とを備えている。そして、外枠の開口に下型の凸部を挿通させた状態とし、開口内に、前述の絶縁性セラミック粉末を所定量充填し、この状態から上型を下動させ、所定圧力でプレス加圧する。これにより、図4に示すように、収容凹部48の形成された半割絶縁成形体40が得られる。尚、上記発熱体成形体31の成形(S1)と、半割絶縁成形体40の成形(S2)とは、どちらが先に行われてもよい。
次に、上記発熱体成形体31及び半割絶縁成形体40、並びに、絶縁性セラミック粉末を用いた保持体61(図5参照)の成形が行われる(図3のS3)。この保持体61の成形に際しても所定の金型装置(図示せず)が使用される。金型装置としては、例えば上記同様枠形状をなす外枠と、当該外枠に対し上下動可能な下型及び上型とを備えている。そして、外枠の開口に下型の凸部を挿通させた状態とし、その上に前記半割絶縁成形体40をセットして、セットされた半割絶縁成形体40上の収容凹部48に、発熱体成形体31を設置する。次に、前記開口内に、前述の絶縁性セラミック粉末を充填し、上型の凸部を開口に挿通させて上型を下動させ、所定圧力でプレス加圧する。これにより、図5に示すように、発熱体成形体31が絶縁成形体60で保持された保持体61が得られる。
次に、上記保持体61の成形後、脱脂が施される(図3のS4)。すなわち、得られる保持体61中には未だバインダが存在しているため、当該バインダを灰化する、つまり取り除くべく、窒素ガス雰囲気下800℃で1時間の仮焼(脱脂、脱バインダ処理)を行う。
その後、保持体61の外表面全体に離型剤が塗布される(図3のS5)。続いて、保持体61が焼成工程に供される(図3のS6)。この工程では、いわゆるホットプレス法による焼成が行われる。すなわち、図示しないホットプレス加工機を用い、非酸化雰囲気下で、1800℃、1.5時間、ホットプレス圧力25MPaで図6(a)に示す保持体61を加圧・加熱することによって、図6(b)に示す焼成体62を得る。尚、ホットプレス焼成炉では、焼成後の焼成体62が略円柱状となるように、その形状を矯正するための凹部が形成された(上述したセラミックヒータ4の外形に準じた形状が凹設された)カーボン治具が用いられてホットプレス焼成が行われる。このとき、保持体61は、図6(a)において矢印で示すように一軸加圧条件下で加圧され、焼成が施される。
その後、焼成体62の後端側を切断する端面切断工程が行われる(図3のS7)。すなわち、焼成体62の後端側がダイヤモンドカッタ等で切断される。これにより、上述したサポート部39が切除され、その端面からリード部33,34の後端面が露出した焼成体62が得られる。この切断は、発熱体22のリード部23とリード部24とが発熱部26を介さずに短絡することがないようにするために行うものであり、その切断位置は、前記電極取出部27よりも後端側であればよい。つまり、この切断工程を経ることで、前記射出成形工程において連結部35、リード部33,34及びサポート部39により構成されていた発熱体成形体31が、非環状となるように開放されることとなる。勿論、射出成形工程において、元来サポート部を有しない発熱体成形体を得るような場合には、当該端面切断工程は不要となる。
その後、前記焼成体62に対し、各種研磨加工(図3のS7)を施すことで、上述したセラミックヒータ4の完成体が得られる。尚、研磨加工としては、公知のセンタレス研磨機を用いて焼成体62の外周を研磨し、電極取出部27,28を外周面から露出させるセンタレス研磨や、基体21先端部の曲面加工を施し、外側面と発熱部26との距離の均一化を図るためのR研磨などがある。
以上詳述したように、本実施形態のセラミックヒータ4の基体21は、希土類元素を酸化物換算で4〜25質量%含有している。これにより、焼成時の焼結性が改善されるのみならず、基体21の熱膨張係数の向上が図られる。そのため、発熱体22と基体21との熱膨張係数の差を少なくすることができ、熱応力に起因する亀裂の発生を防止できるというメリットがある。これに対し、希土類元素の酸化物換算での含有量が4質量%未満の場合には、焼成時にうまく焼結しないおそれがある。また、熱膨張係数の向上も見込めず、熱応力に起因して亀裂が発生する等のおそれがある。一方、希土類元素の酸化物換算での含有量が25質量%を超える場合には、熱膨張係数は向上するものの、希土類元素(RE)、珪素(Si)、窒素(N)及び酸素(O)で構成される粒界結晶相が生成されてしまい、当該結晶相の存在により耐酸化性が低下してしまう。
また、基体21は、クロムの珪化物をシリサイド換算で1〜8質量%含有している。これにより、基体21の熱膨張係数の向上が図られ、発熱体22と基体21との熱膨張係数の差を少なくすることができる。これに対し、クロムの珪化物の含有量がシリサイド換算で1質量%未満の場合には、熱膨張係数の向上が見込めず、熱応力に起因して亀裂が発生する等のおそれがある。一方、クロムの珪化物の含有量がシリサイド換算で8質量%を超える場合には、クロム成分の凝集が起こるおそれがある。その結果、部位によって熱膨張係数にムラが生じることとなり、強度の低下を起こすおそれがある。
さらに、基体21は、全体に関しても表面に関しても、アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で0.02〜1.0質量%含有している。これにより、エンジンオイル中に含まれるカルシウム成分等による基体21の腐食が抑制される。これに対し、アルミニウム成分の含有量が窒化アルミニウム換算で0.02質量%未満の場合には、上記基体21の腐食抑制効果が十分に得られない。一方、アルミニウム成分の含有量が窒化アルミニウム換算で1.0質量%を超える場合には、高温下での基体21の強度が低下してしまう。
併せて、本実施形態では、基体21を構成する材料中にタングステンシリサイド(や、バナジウムシリサイド)を混入することで、クロムの珪化物としての、クロムとタングステンのシリサイドの固溶体(や、クロムとバナジウムのシリサイドの固溶体)が含まれる。すなわち、クロム成分が発熱体22と基体21との界面等に凝集してしまうといった事態がさほど起きず、結果としてクロム成分の凝集による熱膨張係数のムラの発生を抑制でき、基体21の強度低下防止を図ることができる。
加えて、本実施形態においては、基体21の表面に、希土類元素、珪素、窒素及び酸度で構成される結晶相が存在しないことから、表面が酸化されてしまうといった事態が起こりにくく、結果として耐酸化性の向上を図ることができる。また、基体21に、希土類元素のモノシリケートの結晶相及び希土類元素のダイシリケートの結晶相のうち少なくとも一方が存在するため、耐熱性が向上し、高温条件下での基体の強度の向上を図ることができる。
その上、基体21は、炭化珪素を2〜10体積%含有していることから、焼成時の焼結性が改善されるのみならず、基体21の熱膨張係数の向上が図られ、発熱体22と基体21との熱膨張係数の差を少なくすることができる。これに対し、炭化珪素の含有量が2体積%未満の場合には、熱膨張係数の向上が見込みづらく、高温強度も向上しにくい。また、炭化珪素の含有量が10体積%を超える場合には、焼成時における焼結性の向上が十分ではなくなるおそれがあり、また、絶縁性の低下を招くおそれがある。
(例1)
次に、上述した作用効果を確認するべく、種々の条件下で各種サンプルを作製するとともに、それら各サンプルの特性を評価するべく種々の実験を行った。
まず、平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末に、希土類酸化物としてEr2O3、平均粒径1.0μmのCrSi2粉末、平均粒径1.0μmのWO3・WSi2等のW化合物粉末、平均粒径1.0μmで結晶構造としてαあるいはβの炭化珪素粉末及び二酸化珪素の粉末、窒化アルミニウム及びアルミナのアルミ化合物粉末(AlN:Al2O3=3:1)を配合し、これを窒化珪素製の球石を使用してエタノール中で40時間湿式混合し、次いで湯煎乾燥した。その後、このようにして得られたヒータ部材の粉末を上記のように加工し、セラミックヒータを作製するとともに、これらセラミックヒータ(基体)とは別に、窒素雰囲気下、1800℃、25MPa、の条件で1.5時間かけホットプレスで焼成し、45mm×45mm×10mmの板状焼結体(テストピース=TP)を作製した。
この場合において、希土類酸化物(Er2O3)、クロムの珪化物(CrSi2)、アルミニウム成分の各配合比率を種々変更した上で上記セラミックヒータ(素子)、及び、テストピースを作製した。そして、セラミックヒータの基体部分に関して各成分割合を測定するとともに、結晶相についても観察を行った。尚、各成分割合については、セラミックヒータを最高発熱部(本例では先端から4mmの部位)に対応する部分において切断し、その断面に関し外周表面から100μm内側の位置を中心として波長分散型X線マイクロアナライザー(加速電圧20kV、スポット径100μm)により、希土類酸化物、クロム成分、アルミニウム成分を定量した。クロムについてはCrSi2換算して含有量を算出し、アルミニウムについてはAlN換算して含有量を算出した。
さらに、各テストピースについて、「熱膨張係数」「1100℃、1150℃でのCaSO4耐食性」を評価した。併せて、セラミックヒータ素子について「高温連続耐久性能」、「ONOFF耐久性能」を以下のようにして評価した。その結果を表1に示す。
尚、表中、結晶相の欄において、「DS」とあるのは結晶相として希土類元素のダイシリケートが主として確認され、「MS」とあるのは結晶相として希土類元素のモノシリケートが主として確認され、「MS,DS」とあるのは結晶相として希土類元素のモノシリケートとダイシリケートの混在物が主として確認されていることを意味する。また、「メリライト相」とあるのは、モノシリケート、ダイシリケートのいずれでもなく、「メリライト相」が主として確認されていることを意味する。
また基体焼結体の結晶相の同定は、次のようにして行った。分析装置は、株式会社リガク製のX線分析装置(ROTAFLEX)を使用して、分析条件は、X線源としてCuKα1を用い、印加電圧を40kV及び電流を100mAに設定し、発散スリットを1゜、散乱スリットを1゜、受光スリットを0.3mmとし、湾曲結晶モノクロメータを使用した。また、X線入射方向は、基体の軸線を水平状態した場合の、該軸線と平行になるように設定した。更に、スキャンモードが2θ/θで、2θが20゜から80゜までの範囲で6゜/分の速さで0.01゜間隔で、基体表面に照射して反射強度を測定し、JCPDSカードと測定結果とを照合することにより、粒界相を同定した。以下に示す表10においては、MSはモノシリケートを示し、かつDSはダイシリケートを示す。
作製したテストピースの熱膨張係数(10−6/℃)の測定は、次のようにして行った。分析装置は株式会社リガク製(TMA−8310)を使用して、測定する試料は基体を3mm×3mm×15mmに切り出して使用した。測定条件は窒素ガスを200ml/minで流通させ、10℃/minで室温(30℃)から1000まで昇温させて、昇温前後の試料の長さを測定した。測定した値を用いて熱膨張係数を算出するには、次式により算出した。
熱膨張係数(ppm/℃)=−[(1000℃における標準サンプル長さ−1000℃における測定サンプル長さ)/{30℃における測定サンプル長さ×(1000℃−30℃)}]+8.45×10−6 ・・・(1)
但し、上記式(1)において、「1000℃における標準サンプル長さ」は、標準サンプルとして1000℃における熱膨張係数が8.45×10−6/℃であるアルミナを使用した場合の当該アルミナの1000℃における長さを意味する。また、この標準サンプルの30℃における長さは、測定サンプルの30℃における長さと等しい長さであるものとする。
また、「CaSO4耐食性」は、次のようにして評価することとした。すなわち、CaSO4粉末を入れたアルミナ製るつぼに、上記テストピースを3mm×4mm×15mmに加工したものを入れて大気中、1100℃において20時間保持したもの、1150℃において20時間保持したものをそれぞれ取り出し、その後CaSO4を取り除くべくサンドブラスを施して質量減少率を測定した。この場合において、質量減少率が5%未満の場合には「◎」の評価を、質量減少率が5%〜10%の場合には「○」の評価を、質量減少率が10%〜20%の場合には「△」の評価を、質量減少率が20%を超える場合には「×」の評価をした。
さらに、セラミックヒータ素子についての「高温連続耐久性能」は、次のようにして評価することとした。すなわち、ヒータ最高表面温度が1350℃(さらには1400℃)になるようにヒータを昇温させて、連続通電試験を行った。そして、1000時間の通電を行った後、まず抵抗値を測定し、試験前後での抵抗値変化を計測した。抵抗値測定後、ヒータを軸方向に沿って切断し、鏡面研磨し、EPMAにて発熱体近傍の焼結助剤成分(希土類元素、クロム、アルミ)の移動(マイグレーション)の有無を観察した。この場合において、抵抗変化もなく、マイグレーションも無かった場合には「○」の評価を、抵抗変化はさほどなかったものの、マイグレーションがあった場合には「△」の評価を、抵抗値が10%以上増大し、かつ、マイグレーションがあった場合には「×」の評価をした。
併せて、セラミックヒータ素子についての「ONOFF耐久性能」は、次のようにして評価することとした。すなわち、ヒータに電圧を印加した後、1秒で1000℃に達するように電圧を印加し、その昇温速度を維持したまま最高温度たる1400℃に到達させ、その後、電圧印加をオフして30秒間ファン冷却を行い、これを1サイクルとする試験を繰り返し、1000サイクル後の抵抗値を測定した。この場合において、1000サイクル後、抵抗変化が1%未満の場合には「○」の評価を、1000サイクル後、抵抗変化が1%以上あった場合には「△」の評価を、1000サイクル以内で断線が生じてしまった場合には「×」の評価をした。
表1において、希土類酸化物(Er2O3)が6.0〜6.4質量%含有されてなり、かつ、クロムの珪化物がシリサイド換算で1.9〜2.3質量%含有されてなるサンプル1〜10を参照すると、Al成分が窒化アルミニウム換算で0.02〜1.0質量%含有されてなるサンプル3〜9(実施例)については、1100℃、1150℃におけるCaSO4耐食性が優れていることが明らかとなった。
これに対し、Al成分の含有量が窒化アルミニウム換算で0.02質量%未満の場合(サンプル1,2(比較例)の場合)には、CaSO4耐食性が劣ったものとなってしまった。特に、1100℃でのCaSO4耐食性については、さほど顕著な差は認められなかったものの、1150℃でのCaSO4耐食性は、Al成分の含有量が窒化アルミニウム換算で0.01質量%以下の場合、著しく劣ったものとなってしまうことが判った。すなわち、サンプル3〜9の構成を採用することで、1150℃という高温域での耐食性が極めて優れたものとなるということが明らかとなった。
一方、Al成分の含有量が窒化アルミニウム換算で1.0質量%を超える場合(サンプル番号10(比較例)の場合)には、高温条件下において抵抗値が変化してしまい、また、高温下でのヒータ(基体)の強度が低下してしまうことが明らかとなった(ヒータ素子評価参照)。
また、表1において、クロムの珪化物がシリサイド換算で2.0〜2.5質量%含有されてなり、かつ、Al成分が窒化アルミニウム換算で0.07〜0.11質量%含有されてなるサンプル11〜17を参照すると、希土類酸化物(Er2O3)が4.0〜25.0質量%含有されてなるサンプル12〜16(実施例)については、CaSO4耐食性に優れ、かつ、「高温連続耐久性能」、「ONOFF耐久性能」の面でも優れることが明らかとなった。これに対し、希土類酸化物(Er2O3)が3.0質量%しか含有されていないサンプル11(比較例)については、熱膨張係数が3.2と低く、また、高温条件下における「ONOFF耐久性能」の面でも劣ることが明らかとなった。一方、希土類酸化物(Er2O3)が27.0質量%も含有されているサンプル17(比較例)については、結晶相としてメリライト相が確認され、「高温連続耐久性能」、「ONOFF耐久性能」が著しく劣ったものとなってしまうことが明らかとなった。
また、表1において、希土類酸化物(Er2O3)が5.9〜6.1質量%含有されてなり、かつ、Al成分が窒化アルミニウム換算で0.07〜0.09質量%含有されてなるサンプル18〜24を参照すると、クロムの珪化物がシリサイド換算で1.0〜8.0質量%含有されてなるサンプル19〜23(実施例)については、CaSO4耐食性に優れ、かつ、「高温連続耐久性能」、「ONOFF耐久性能」の面でも優れることが明らかとなった。これに対し、クロムの珪化物がシリサイド換算で0.7質量%しか含有されていないサンプル18(比較例)については、熱膨張係数が3.2と低く、また、高温条件下における「ONOFF耐久性能」の面でも劣ることが明らかとなった。一方、クロムの珪化物がシリサイド換算で10.0質量%も含有されているサンプル24(比較例)については、1400℃での「高温連続耐久性能」、「ONOFF耐久性能」が劣ったものとなってしまうことが明らかとなった。また、当該サンプル24に関しては抵抗体界面にCrの凝集が認められ、このことから高温下での耐久性能が低下したものと考えられる。
さて、上記表1では、希土類酸化物としてEr2O3を用いた場合の結果を示している。これに対し、他の希土類を含有させた場合についても同様の効果が奏されるか否かを検討するべく、上記同様にテストピース及びセラミックヒータを作製し、上記同様に各種評価を行った。その結果を表2に示す。
表2に示すように、希土類酸化物としてEr2O3以外の化合物(例えば、サンプル26=酸化イットリウム(Y2O3)、サンプル27=酸化イッテルビウム(Yb2O3)、サンプル28=Y2O3、Yb2O3の混合物、サンプル29=Er2O3、Yb2O3の混合物)を用いた場合であっても、Er2O3と同様の作用効果が奏されることが明らかとなった。
また、上記表1では、クロムの珪化物に関し、シリサイド換算した上での数値評価を行うこととしている。これは、上述したとおり、セラミックヒータを製造する過程において、原材料としてクロムシリサイド(CrSi2)を主として用いていることに基づくものであって、クロムの珪化物の添加の仕方として、上記クロムシリサイド(CrSi2)以外にも、タングステンシリサイドや、バナジウムシリサイドを混入することとしてもよい。そこで、配合される珪化物として、タングステンシリサイドや、バナジウムシリサイドを混入させた場合について、上記同様にテストピース及びセラミックヒータを作製し、上記同様に各種評価を行うこととした。その結果を表3に示す。
尚、表中、固溶体の確認方法としては、次の手法を採用した。すなわち、ヒータ素子の最高発熱部(本例では素子先端から4mmの部位)を輪切りにして断面サンプルを作製し、その断面を鏡面研磨後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて基体部分の組織を観察し、クロムの珪化物粒子を特定した。そして、そのクロムの珪化物粒子を、観察倍率5000倍で、エネルギー分散型X線分光(EDS)にてスポット分析し、元素分析を行った。その結果、検出された元素において、クロム、珪素以外に、タングステンやバナジウムが検出された場合に、固溶体が存在しているものと判定することとした。
表3において、サンプル30は、クロムシリサイド(CrSi2)に加えてタングステンシリサイドを混入させたものであって、得られたテストピース及びセラミックヒータには、クロムのシリサイドとタングステンのシリサイドとの固溶体の存在が確認された。また、サンプル31は、クロムシリサイド(CrSi2)に加えてバナジウムシリサイドを混入させたものであって、得られたテストピース及びセラミックヒータには、クロムとバナジウムのシリサイドの固溶体の存在が確認された。尚、サンプル32は、クロムの珪化物原料としてクロムシリサイド(CrSi2)のみを用いたものであって、得られたテストピース及びセラミックヒータには、クロムシリサイド(CrSi2)の存在が確認された。
表3に示すように、必ずしも純粋なクロムシリサイド(CrSi2)のみが残存していなければならないということではなく、クロムとタングステンのシリサイドの固溶体や、クロムとバナジウムのシリサイドの固溶体が存在していても、同様の作用効果が奏されることが明らかとなった。尚、このような固溶体が含まれるということは、クロム成分が発熱体と基体との界面等に凝集してしまうといった事態がさほど起きていないことを意味する。すなわち、原材料の段階でクロムシリサイド(CrSi2)に加え、タングステンシリサイドやバナジウムシリサイドを複合添加することで、固溶体が形成され、当該固溶体が含まれるセラミックヒータにおいては、クロム成分の凝集による熱膨張係数のムラの発生を抑制でき、基体の強度低下防止を図ることができるといえる。
以上表1、表2、及び、表3に示す結果より、セラミックヒータの基体を構成する素材として、希土類元素を酸化物換算で4〜25質量%、クロムの珪化物をシリサイド換算で1〜8質量%含有するとともに、アルミニウム成分を窒化アルミニウム換算で0.02〜1.0質量%含有していることで、「熱膨張係数」を高くでき、また、「1100℃、1150℃でのCaSO4耐食性」に優れ、しかもセラミックヒータとして用いた場合における「高温連続耐久性能」、「ONOFF耐久性能」に優れたものとなることが明らかとなった。
次に、基体中における炭化珪素の含有量の影響を確認するべく、希土類酸化物(Er2O3)、クロムの珪化物、Al成分の含有量をほぼ一定とした上で、炭化珪素の含有量を種々変更したサンプルを作製し、上記と同様熱膨張係数及び「ONOFF耐久性能」を評価した。その結果を表4に示す。尚、炭化珪素の含有量は次のように特定した。すなわち、ヒータ素子の最高発熱部(本例では素子先端から4mmの部位)を輪切りにして断面サンプルを作製し、その断面を鏡面研磨後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて基体部分の組織を観察し、炭化珪素粒子を特定し、その面積%を定量化するとともに、体積%に換算した。
表4に示すように、希土類酸化物(Er2O3)が6.0〜6.2質量%含有されてなり、かつ、クロムの珪化物がシリサイド換算で1.9〜2.1質量%含有されてなり、かつ、Al成分が窒化アルミニウム換算で0.08〜0.10質量%含有されてなるサンプル33〜37において、炭化珪素の含有量が多くなるほど、熱膨張係数が増大することが明らかとなった。すなわち、炭化珪素を所定量含有させることで、基体の熱膨張係数の向上が図られ、発熱体と基体との熱膨張係数の差を少なくすることができるという効果が奏される。これに対し、炭化珪素の含有量が10体積%を超えるサンプル37(13.1体積%)の場合には、「ONOFF耐久性能」が劣ったものとなってしまった。
さて、表1等の評価結果より、アルミニウム成分が窒化アルミニウム換算で0.02〜1.0質量%含有されている必要がある点については上述した。この場合において、原材料として、アルミナ(Al2O3)単体を用いた場合と、窒化アルミニウム(AlN)を主として用いた場合(例えば、Al2O3の質量が1に対してAlNの質量比が3のものを用いた場合)とを比較することで、1400℃という高温条件下での強度特性を評価する実験を行った。その結果を表5に示す。尚、「1400℃での高温曲げ試験」については、次のように行うこととした。すなわち、上記と同様にして3mm×4mm×40mmのテストピースを得、当該テストピースをJIS 1604に準じて、1400℃にて4点曲げ強度(上スパン10mm、下スパン30mm)を測定した。
表5に示すように、AlNを主として用いた場合のほうが、Al2O3単体を用いた場合よりも、1400℃での高温曲げ強度が高いことが明らかとなった。すなわち、アルミニウム成分の添加に関しては、Al2O3のみではなく、Al2O3と、AlNとを混合添加することがより望ましく、その比率としては、例えばAl2O3の質量が1に対してAlNの質量比が3(或いはそれ以上)とすることがより望ましいといえる。こうすることで、JIS 1604に準じて1400℃にて4点曲げ強度を測定した場合に、600MPa以上(本例では639MPa)の高温曲げ強度を得ることができる。
(例2)
平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末に、希土類酸化物としてEr2O3、平均粒径1.0μmのCrSi2粉末、平均粒径1.0μmのWO3・WSi2等のW化合物粉末、サンプル毎に表6に示す原料粒径とした結晶構造としてαあるいはβの炭化珪素粉末、窒化アルミニウム及びアルミナのアルミ化合物粉末(AlN:Al2O3=3:1)を配合し、これを窒化珪素製の球石を使用してエタノール中で40時間湿式混合し、次いで湯煎乾燥した。その後、このようにして得られたヒータ部材の粉末を上記のように加工し、セラミックヒータを作製するとともに、これらセラミックヒータ(基体)とは別に、窒素雰囲気下、1800℃、25MPa、の条件で1.5時間かけホットプレスで焼成し、例1と同様にして板状焼結体(テストピース=TP)を作製した。
例1と同様にして、希土類酸化物、クロム成分、アルミニウム成分を定量した。クロムについてはCrSi2換算して含有量を算出し、アルミニウムについてはAlN換算して含有量を算出した。例1におけるのと同様にして、炭化珪素の含有量を特定し、また、例1におけるのと同様にして耐食性、熱膨張係数、ONOFF耐久性を測定し評価した。評価を表6に示した。
試料の表層部における炭化珪素の最大粒子径を測定する方法としては、最高発熱部である基体の端部近傍において、半径方向の断面を鏡面研磨し、鏡面研磨した試料の表面から100μm以内の部位において、走査型電子顕微鏡(SEM)で炭化珪素を特定し、倍率3000倍で任意の10箇所を観察した場合の、観察される最大の径を最大粒子径とする方法を採用した。
表6において、CaSO4耐食性につき、質量減少率が5%未満の場合には「◎」の評価を、質量減少率が5%〜10%の場合には「○」の評価を、質量減少率が10%〜20%の場合には「△」の評価を、質量減少率が20%を超える場合には「×」の評価をすることとした。
セラミックヒータ素子についての「ONOFF耐久性能」は、例1におけるのと同様にして測定された。測定結果を表6に示す。ただし、表6において、ONOFF耐久性につき、1000サイクル後、抵抗変化が1%未満の場合には「○」の評価を、1000サイクル後、抵抗変化が1%以上あった場合には「△」の評価を、1000サイクル以内で断線が生じてしまった場合には「×」の評価をすることとした。
表6から明らかなように、炭化珪素の粒径について最大粒径が15μmを超えると耐食性の低下が見られる。
(例3)
この例3では、クロムの珪化物の粒径と、作製された基体の腐食性との関係を示す。
平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末、希土類酸化物として酸化エルビウム(以下、「Er2O3」と称することがある。)、サンプル毎に表7に示す原料粒径としたクロム化合物粉末(珪化クロム(CrSi2))、タングステン化合物粉末(酸化タングステン・珪化タングステン(WO3・WSi2))及びバナジウム化合物粉末(酸化バナジウム・珪化バナジウム(V2O5、VSi2)、窒化アルミニウム及びアルミナのアルミ化合物粉末(AlN:Al2O3=3:1)及び、二酸化珪素粉末を窒化珪素から成る球石を用いてエタノール中で40時間湿式混合し、次いで湯煎乾燥した。その後、このようにして得られたヒータ部材の粉末を上記のように加工し、セラミックヒータを作製するとともに、これらセラミックヒータ(基体)とは別に、窒素雰囲気下、1800℃、25MPa、の条件で1.5時間かけホットプレスで焼成し、例1と同様にして板状焼結体(テストピース=TP)を作製した。
この基体の熱膨張係数は前記例1におけるのと同様にして測定された。測定結果を表7に示す。クロムの珪化物については前記例2と同様にして測定された。
この基体の「CaSO4耐食性」は、例1におけるのと同様にして測定された。測定結果を表7に示す。ただし、表7において、CaSO4耐食性につき、質量減少率が5%未満の場合には「◎」の評価を、質量減少率が5%〜10%の場合には「○」の評価を、質量減少率が10%〜20%の場合には「△」の評価を、質量減少率が20%を超える場合には「×」の評価をすることとした。
さらに、セラミックヒータ素子についての「高温連続耐久性能」は、例1におけるのと同様にして測定された。測定結果を表7に示す。ただし、表7において、高温連続耐久性能につき、抵抗変化もなく、マイグレーションも無かった場合には「○」の評価を、抵抗変化はさほどなかったものの、マイグレーションがあった場合には「△」の評価を、抵抗値が10%以上増大し、かつ、マイグレーションがあった場合には「×」の評価をすることとした。
セラミックヒータ素子についての「ONOFF耐久性能」は、例1におけるのと同様にして測定された。測定結果を表7に示す。ただし、表7において、ONOFF耐久性につき、1000サイクル後、抵抗変化がほとんどなかった場合には「○」の評価を、1000サイクル後、抵抗変化があった場合には「△」の評価を、1000サイクル以内で断線が生じてしまった場合には「×」の評価をすることとした。
表7の結果から明らかなように、粒径が15μmを超えるクロムの珪化物が含有される基体は耐食性が低下する。
(例4)
この例4では、基体の気孔率と、基体及びセラミックヒータの特性との関係を確かめた。
平均粒径0.7μmの窒化珪素粉末、希土類酸化物として酸化エルビウム(以下、「Er2O3」と称することがある。)、平均粒径1.0μmのクロム化合物粉末(酸化クロム・珪化クロム(Cr2O3・CrSi2))、平均粒径1.0μmのタングステン化合物粉末(酸化タングステン・珪化タングステン(WO3・WSi2))、窒化アルミニウム及びアルミナのアルミ化合物粉末(AlN:Al2O3=3:1)、気孔を形成させるための炭素粉末を窒化珪素から成る球石を用いてエタノール中で40時間湿式混合し、次いで湯煎乾燥した。その後、このようにして得られたヒータ部材の粉末を上記のように加工し、セラミックヒータを作製するとともに、これらセラミックヒータ(基体)とは別に、窒素雰囲気下、1800℃、25MPa、の条件で1.5時間かけホットプレスで焼成し、例1と同様にして板状焼結体(テストピース=TP)を作製した。この作製したサンプルにつき、試料番号48とした。
前記試料番号48の基体及び前記例1における試料番号30の基体それぞれの気孔率、耐食性の評価及びセラミックヒータの高温連続耐久性及びONOFF耐久性は、他と同様にして測定評価した。熱膨張率は例1と同様にして測定評価した。測定結果を表8に示す。この基体に含まれるクロムの珪化物の含有量は前記例2と同様にして測定された。気孔率の測定は、前記セラミックヒータの最高発熱部である先端部近傍において径方向の断面を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面の表面から100μm以内の部位において、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率3000倍で任意の10箇所を観察し、観察した基体の表面において、気孔が占める面積の比率を定量化して体積%に換算し、気孔率とした。気孔率が5%以下の場合を「○」と評価し、5%を超える場合を「△」と評価した。
ただし、表8において、気孔率につき、5%以下である場合には「○」の評価を、5%を超え10%以下である場合には「△」を、10%を超える場合には「×」の評価をすることにした。
表8において、耐食性につき、質量減少率が5%未満の場合には「◎」の評価を、質量減少率が5%〜10%の場合には「○」の評価を、質量減少率が10%〜20%の場合には「△」の評価を、質量減少率が20%を超える場合には「×」の評価をすることとした。
表8において、1000時間の高温連続耐久性につき、抵抗変化もなく、マイグレーションも無かった場合には「○」の評価を、抵抗変化はさほどなかったものの、マイグレーションがあった場合には「△」の評価を、抵抗値が10%以上増大し、かつ、マイグレーションがあった場合には「×」の評価をすることとした。
セラミックヒータ素子についての「ONOFF耐久性能」は、例1におけるのと同様にして測定された。測定結果を表8に示す。ただし、表8において、ONOFF耐久性につき、1000サイクル後、抵抗変化が1%未満の場合には「○」の評価を、1000サイクル後、抵抗変化が1%以上あった場合には「△」の評価を、1000サイクル以内で断線が生じてしまった場合には「×」の評価をすることとした。
表8から明らかなように、気孔率が5%以下であると、耐食性が向上する。
(例6)
例6においては、全酸素量に対する希土類元素の酸素量の比を変化させ、かつ全酸素量に対する希土類元素の酸素量の比以外の材料の含有量は大きく変化させないようにしたことが、例5と相違する点であり、その他の作製方法、評価及び試験等は例5と同様に行った。全酸素量に対する希土類元素の酸素量の比を変化させた基体を7種類作製し、それぞれの評価及び試験を行った(試料番号49〜55)。尚、試料49および50については、全酸素量を少なくするために、酸化処理を行わなかった。例6の評価及び試験の結果を表9に示す。
作製した基体焼結体に含まれる希土類元素の酸素量(質量%)の測定は、上述の操作で希土類元素の含有量を定量する際に、希土類酸化物として換算した酸素分を希土類元素の酸素量として算出した。
作製した基体焼結体に含まれる全酸素量(質量%)の測定は、次のようにして行った。分析装置は株式会社堀場製作所製の高感度型非分散赤外線検出器(EMGA−650)を使用して、分析する試料は基体を窒化珪素の乳鉢で粉砕して得られる粉体を使用した。分析条件は、不活性ガス(ヘリウム)−インパルス加熱溶融法により粉体から酸素を抽出し、酸素を一酸化炭素とし、キャリアガスにヘリウムを用いて、高感度型非分散赤外線検出器で測定した。
尚、上述した実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
(a)上記実施形態では、保持体61(基体21)を構成する粉体に、アルミナを混入することとしているが、これは焼成後において窒化されるものである。従って、アルミナの混入を控えて、アルミニウム成分として窒化アルミニウムのみを混入することとしてもよいし、逆に、窒化アルミニウムの混入を控えて、アルミニウム成分としてアルミナのみを混入することとしてもよい。但し、アルミナが多く混入されていると1350〜1400℃で液相を形成してしまい、高温強度が低下してしまうことが懸念される。かかる観点からは、表5の項でも述べたことではあるが、当初から窒化アルミニウムを混入することとするのが望ましい。
(b)上記実施形態のセラミックヒータ4は、丸棒状、すなわち、断面円形状である場合に具体化されているが、必ずしも断面円形状である必要はなく、例えば断面楕円形状でも、断面長円形状でも断面多角形状でもよい。また、絶縁性の基体を板状に複数形成して、その間に発熱体を挟み込んだいわゆる板状ヒータに具体化することとしてもよい。
(c)上記実施形態では、保持体61の断面形状が略長円形状となるようにしたが、その断面形状は、円形であっても、矩形であっても、或いは多角形であってもよい。
(d)上記実施形態では、前記半割絶縁成形体40を成形したうえで保持体61を成形することとしているが、そのような段階を省略して、発熱体成形体31のまわりを、絶縁性セラミックを主成分とする粉末で一気に固めるプレス成形を施すことで、保持体を得ることとしてもよい。
(e)上記実施形態では、発熱体成形体31に関し予備的な乾燥を施すこととしているが、当該予備的な乾燥を省略することとしてもよい。
(f)上記セラミックヒータの構成に関し、発熱体の温度抵抗係数の変化を電圧から読み取ることに基づき、温度を検出する温度センサとしての利用も可能である。すなわち、温度センサの基体として、本発明にかかる基体の材料を用いることとしてもよい。
なお、前記テストピース(TP)及びセラミックヒータの製法についてエタノールを使用して湿式混合を行っているがこれに限らず例えば水を使用してもよいことは言うまでもない。また、粉末生成方法としても、湯煎乾燥法のほかにスプレードライ等の手段を用いてもよい。また、TPの製造においてはその成型性はセラミックヒータほどの精密さを要求されるものではないので、バインダの添加やそのバインダを抜く工程は、場合により省いてもよい。