A.実施形態:
A1.グロープラグの構成:
図1は、実施形態のグロープラグの一例の概略図である。図1(A)は、グロープラグ10の断面図であり、図1(B)は、グロープラグ10のうちのセラミックヒータ素子40を含む部分を示す拡大断面図である。図示されたラインCLは、グロープラグ10の中心軸を示している。図示された断面は、中心軸CLを含む断面である。以下、中心軸CLのことを「軸線CL」とも呼び、中心軸CLと平行な方向を「軸線方向」とも呼ぶ。中心軸CLを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、中心軸CLを中心とする円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLと平行な方向のうち、図1における下方向を第1方向D1と呼ぶ。第1方向D1は、後述する端子部材80からセラミックヒータ素子40に向かう方向である。図中の第2方向D2と第3方向D3とは、互いに垂直な方向であり、いずれも、第1方向D1と垂直な方向である。以下、第1方向D1を、先端方向D1とも呼び、第1方向D1の反対方向を、後端方向D1rとも呼ぶ。また、図1における先端方向D1側をグロープラグ10の先端側と呼び、図1における後端方向D1r側をグロープラグ10の後端側と呼ぶ。
グロープラグ10は、主体金具20と、中軸30と、セラミックヒータ素子40(以下、単に「ヒータ素子40」とも呼ぶ)と、Oリング50と、絶縁部材60と、金属外筒70(以下、単に「外筒70」とも呼ぶ)と、端子部材80と、接続部材90と、を含んでいる。主体金具20は、中心軸CLに沿って延びる貫通孔20xを有する筒状の部材である。また、主体金具20は、後端方向D1r側の端部に形成された工具係合部28と、工具係合部28よりも先端方向D1側に設けられた雄ネジ部22と、を含んでいる。工具係合部28は、グロープラグ10の脱着時に、図示しない工具と係合する部分である。雄ネジ部22は、図示しない内燃機関の取付孔の雌ネジに螺合するためのネジ山を含んでいる。主体金具20は、導電性材料(例えば、炭素鋼等の金属)で形成されている。
主体金具20の貫通孔20xには、中軸30が収容されている。中軸30は、丸棒状の部材である。中軸30は、導電材料(例えば、ステンレス鋼)で形成されている。中軸30の後端方向D1r側の端部である後端部39は、主体金具20の後端方向D1r側の開口OPbから後端方向D1rに向かって突出している。
開口OPbの近傍において、中軸30の外面と、主体金具20の貫通孔20xの内面と、の間には、Oリング50が設けられている。Oリング50は、弾性材料(例えば、ゴム)で形成されている。さらに、主体金具20の開口OPbには、リング状の絶縁部材60が装着されている。絶縁部材60は、筒状部62と、筒状部62の後端方向D1r側に設けられたフランジ部68と、を含んでいる。筒状部62は、中軸30の外面と、主体金具20の開口OPbを形成する部分の内面と、の間に挟まれている。絶縁部材60は、例えば、樹脂で形成されている。主体金具20は、これらの部材50、60を介して、中軸30を支持している。
絶縁部材60の後端方向D1r側には、端子部材80が配置されている。端子部材80は、キャップ状の部材であり、導電材料(例えば、ニッケル等の金属)で形成されている。端子部材80と主体金具20との間には、絶縁部材60のフランジ部68が挟まれている。端子部材80には、中軸30の後端部39が挿入されている。端子部材80が加締められることによって、端子部材80が後端部39に固定されている。これにより、端子部材80は、中軸30に、電気的に接続される。
主体金具20の先端方向D1側の開口OPaには、外筒70が固定されている(例えば、圧入や溶接)。外筒70は、中心軸CLに沿って延びる貫通孔70xを有する筒状の部材である。外筒70は、導電性材料(例えば、ステンレス鋼)で形成されている。
外筒70の貫通孔70xには、通電によって発熱するヒータ素子40が挿入されている。ヒータ素子40は、中心軸CLに沿って延びるように配置された棒状の部材である。外筒70は、ヒータ素子40の先端部41が露出した状態で、ヒータ素子40の中央部分の外周面を、保持している。ヒータ素子40の後端部49は、主体金具20の貫通孔20xに収容されている。以下、ヒータ素子40と金属外筒70との全体を、「セラミックヒータ490」とも呼ぶ。
ヒータ素子40の後端部49には、接続部材90が固定されている。接続部材90は、中心軸CLに沿って延びる貫通孔を有する円筒状の部材であり、導電性材料(例えば、ステンレス鋼)で形成されている。接続部材90の先端方向D1側には、ヒータ素子40の後端部49が圧入されている。接続部材90の後端方向D1r側には、中軸30の先端方向D1側の端部である先端部31が圧入されている。これにより、中軸30は、接続部材90に電気的に接続される。
次に、セラミックヒータ490の詳細について、説明する。図1(B)には、金属外筒70と接続部材90とヒータ素子40とのより詳細な断面図が示されている。ヒータ素子40は、軸線CLに沿って延びる丸棒状の基体210と、基体210の内部に埋設された、略U字状の発熱抵抗体220(以下、単に「抵抗体220」と呼ぶ)と、を含んでいる。基体210は、絶縁性セラミック材料で形成されている(詳細は後述)。抵抗体220は、導電性セラミック材料や金属材料で形成されている(詳細は後述)。ヒータ素子40は、材料を焼成することによって、形成される。基体210の先端部(すなわち、ヒータ素子40の先端部41)は、先端側に向かって徐々に細くなっている。抵抗体220の電気伝導率は、基体210の電気伝導率よりも、高い。抵抗体220は、通電によって、発熱する。
抵抗体220は、2本のリード部221、222と、それらのリード部221、222に接続された発熱部223と、電極取出部281、282と、を含んでいる。各リード部221、222は、ヒータ素子40の後端部49から先端部41の近傍まで軸線CLと平行に延びている。第1リード部221と第2リード部222とは、中心軸CLを挟んでおおよそ対称な位置に、配置されている。第2リード部222から第1リード部221へ向かう方向が、第3方向D3である。
発熱部223は、ヒータ素子40の先端部41に埋設され、第1リード部221の先端方向D1側の端と第2リード部222の先端方向D1側の端とを接続する。発熱部223の形状は、ヒータ素子40の先端部41の丸い形状に合わせて湾曲する略U字状である。発熱部223の断面積は、リード部221、222のそれぞれの断面積よりも、小さい。従って、発熱部223の単位長さ当たりの電気抵抗は、リード部221、222の単位長さ当たりの電気抵抗よりも、大きい。この結果、通電時には、発熱部223の温度が、他の部分と比べて、急速に上昇する。
第1リード部221の後端方向D1r側の部分には、第1電極取出部281が接続されている。第1電極取出部281は、径方向に沿って延びる部材であり、内側の端部は第1リード部221に接続され、外側の端部は、ヒータ素子40の外面に露出する。第1電極取出部281の露出部分は、外筒70の内周面に接触している。これにより、外筒70と第1リード部221とが、電気的に接続される。
第2リード部222の後端方向D1r側の部分には、第2電極取出部282が接続されている。第2電極取出部282は、径方向に沿って延びる部材であり、第1電極取出部281よりも、後端方向D1r側に配置されている。第2電極取出部282の内側の端部は、第2リード部222に接続され、外側の端部は、ヒータ素子40の外面に露出する。第2電極取出部282の露出部分は、接続部材90の内周面に接触している。これにより、接続部材90と第2リード部222とが、電気的に接続される。
A2.セラミックヒータ素子40の構成:
A2−1.基体210の構成:
次に、セラミックヒータ素子40の構成について、詳細に説明する。まず、ヒータ素子40の基体210について、説明する。基体210は、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方と、粒界相と、を含んでいる。基体210は、さらに、結晶粒子を含み得る。サイアロンの相は、基体210の主相を形成する。ここで、主相とは、構成相のうち、含有率(重量%(wt%))が最も高い相を意味する。
サイアロンは、Si3N4の格子内に後述する焼結助剤に含まれる元素(AlとOを含む)が固溶したものである。サイアロンには、α−サイアロンとβ−サイアロンとが存在する。α−サイアロンは、組成式Mx(Si,Al)12(O,N)16(0<X≦2、MはLi,Mg,Ca,Y,R(RはLa,Ceを除く希土類元素))で示される。β−サイアロンは、組成式Si6−zAlzOzN8−z(0<Z≦4.2)で示される。
サイアロンの焼結では、まず焼結助剤を主成分とする液相が形成され、Si3N4の緻密化が促進される(ここで、「主成分」は、含有率(wt%)が最も高い成分を意味している。)。その後、焼結の後期段階で、粒界相を形成する焼結助剤の少なくとも一部の成分が、Si3N4の格子内に取り込まれる。この結果、通常の窒化珪素と比較して、粒界相が少なくなり、高温での耐酸化性を向上できる。
β−サイアロンの組織は、窒化珪素と同様に針状粒子が複雑に絡み合った組織であるので、β−サイアロンは、高い靭性と強度とを得ることができる。一方、α−サイアロンの粒子形状は、等軸状であるので、β−サイアロンと比較して、靭性は低くなるが、硬度を向上できる。また、α−サイアロンが形成される際には、粒界相の成分のうちのAlだけでなく他の成分(例えば、Li、Mg、Ca、Y、R(RはLa,Ceを除く希土類元素))も粒内に固溶する。従って、α−サイアロンを生成させることによって、粒界相が少なくなり、耐酸化性を向上できる。しかし、サイアロンとしてβ−サイアロンが生成されずにα−サイアロンのみが生成される場合、粒界相の成分が、焼結中にサイアロン内に取り込まれ、ほとんどなくなってしまうので、緻密な焼結体を得ることが難しい。
ここで、サイアロンのうちのα−サイアロンの割合を「α率」と呼ぶ。α率は、X線回折図におけるβ−サイアロンの(101)面ピーク強度をβ1とし、(210)面ピーク強度をβ2とし、α−サイアロンの(102)面ピーク強度をα1とし、(210)面ピーク強度をα2とした時に、(α1+α2)/(β1+β2+α1+α2)で算出される。
α率が低い場合には、粒界相が多くなるので、耐酸化性が低下しやすい。良好な耐酸化性を実現するためには、α率は、2%以上であることが好ましい。一方、α率が高い場合には、粒界相が少なくなるので、緻密な焼結体の実現が難しい。緻密な焼結体を実現するためには、α率は、60%以下であることが好ましい。強度の向上と、昇温と冷却との繰り返しに対する耐久性の向上と、を考慮すると、α率は、50%以下であることが好ましく、15%以下であることが特に好ましい。
また、基体210は、ヒータ素子40の外表面を形成するので、基体210の耐酸化性が、抵抗体220の耐酸化性よりも高いことが好ましい。ここで、ヒータ素子40の全体の強度と耐酸化性とを向上するためには、基体210のα率が、抵抗体220のα率よりも、高いことが好ましい。具体的には、上述した2%以上、50%以下の範囲内、より好ましくは、2%以上、15%以下の範囲内で、基体210のα率が抵抗体220のα率よりも高いことが好ましい。ただし、基体210のα率がゼロ%であってもよい。
次に、基体210におけるβ−サイアロン中のアルミナ(酸化アルミニウム)の固溶量を表すZ値について、説明する。Z値は、X線回折測定により測定されるサイアロン相中のβ−サイアロンのa軸格子定数と、β−窒化珪素のa軸格子定数(7.60442オングストローム)の差から算出される(算出方法は、例えばWO 02/44104公報、第28頁参照)。
Z値が小さい場合には、アルミナの固溶量の低減に起因して、焼結性が低下する。良好な焼結性を実現するためには、Z値は、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることが特に好ましい。一方、Z値が大きい場合には、アルミナの固溶量の増大に起因して、β−サイアロン自体の強度が低下し、また、昇温と冷却との繰り返しに対する耐久性も低下する。良好な強度と温度変化に対する耐久性とを実現するためには、Z値が、1.3以下であることが好ましく、1.0以下であることが特に好ましく、0.8以下であることが最も好ましい。
次に、基体210の粒界相について説明する。粒界相は、焼結助剤によって形成される相を含んでいる。焼結助剤の成分は、ヒータ素子40の焼成時に、液相を形成し、そして、サイアロン(粒子)の生成、再配列、粒成長に寄与する。その後の冷却時に、焼結助剤の成分は、固化して、ガラス相あるいは結晶相を形成する。このように形成される相が、粒界相に含まれる。この粒界相は、希土類元素を含んでいる。具体的には、粒界相は、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの少なくとも1種を含んでいる。これらの中でも、粒界相の結晶化を促進し、高温時の強度を向上することができ、さらにα率の調整も容易なことから、粒界相は、Sc、Y、Dy、Er、Yb、Luのうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、特に、Y、Er、Ybのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
基体210における粒界相の割合が小さい場合には、焼結時の液相量が小さいので、焼結性が低下し易い。一方、粒界相の割合が大きい場合には、粒界相の融点がサイアロンの融点よりも低いので、耐熱性が低下し易い。適切な割合で粒界相が基体210中に形成されるように、基体210を形成するための材料の全体に対する希土類元素の含有率は、酸化物換算で1wt%以上、15wt%以下であることが好ましい。
次に、基体210に含まれ得る追加化合物について説明する。追加化合物は、熱膨張係数調整材によって形成され得る。熱膨張係数調整材は、基体210の熱膨張係数を、抵抗体220の熱膨張係数に近づけるために、基体210の材料に添加される。熱膨張係数調整材としては、例えば、Cr、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Feから選ばれる少なくとも1種の化合物(例えば、窒化物、炭化物、珪化物、酸化物の少なくとも1種)を採用可能である。このような調整材は、焼成時に窒化物、炭化物、珪化物、酸化物の結晶粒子を形成し得る。追加化合物は、例えば、Cr、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Feから選ばれる少なくとも1種の窒化物、炭化物、珪化物、酸化物から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
このような化合物は、熱膨張係数調整材としてだけでなく、結晶化促進材、粒界相強化材としても作用する。粒界相中に上記化合物の結晶粒子が存在することにより、粒界相の結晶化がより容易になるとともに、粒界相を強化することができる。そのような化合物が結晶化促進材、粒界相強化材として作用するためには、融点が摂氏1400度以上である化合物、例えば、Cr、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Feから選ばれる少なくとも1種の化合物(例えば、窒化物、炭化物、珪化物、酸化物の少なくとも1種)を採用可能である。このような化合物は、焼成後の降温過程で、焼結助剤の成分が固化して結晶化する際に、有効に作用することが可能である。また、このような化合物は、粒界相中に化合物として残存することで、粒界相を強化することができる。
基体210の熱膨張係数を抵抗体220の熱膨張係数に近づけるためには、基体210における上記化合物の含有率が、0.1体積%(vol%)以上であることが好ましい。また、基体210の強度低下を抑制するためには、上記化合物の含有率が、10vol%以下であることが好ましい。
なお、基体210中の上記化合物の含有率は、以下のように算出可能である。まず、基体210の断面を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)によって断面画像を取得する。次に、取得した断面画像を解析することによって、基体210の面積に対する化合物の面積の割合(面積率)を算出する。そして、この面積率から体積率(すなわち、含有率)を近似的に算出する。具体的には、体積率として、面積率と同じ値が採用される(以下、同様)。以下、鏡面研磨された断面の画像から測定される面積を用いて近似的に算出される体積率を、「近似体積率」と呼ぶ。後述するように、抵抗体220に対する導電性化合物の含有率等の種々の含有率として、この近似体積率を採用可能である。
A2−2.抵抗体220の構成:
次に、抵抗体220について説明する。抵抗体220は、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方と、粒界相と、導電性化合物と、を含んでいる。
導電性化合物は、抵抗体220の主相を形成する。導電性化合物は、例えば、Moの珪化物と、Moの窒化物と、Moの炭化物と、Wの珪化物と、Wの窒化物と、Wの炭化物と、のうちの少なくとも1つである。このような導電性化合物を採用することによって、摂氏1200度以上の温度に耐える耐熱性を実現できる。より好ましい導電性化合物としては、例えば、WC、WSi2、MoSi2のうちの少なくとも1つを採用可能である。
抵抗体220の全体に対する導電性化合物の含有率が小さい場合には、電気伝導率が小さ過ぎて、発熱量が低下する場合がある。良好な発熱量を実現するためには、導電性化合物の含有率が15vol%以上であることが好ましい。また、導電性化合物の含有率が大きい場合には、電気伝導率が大きすぎて、発熱量が低下する場合がある。良好な発熱量を実現するためには、導電性化合物の含有率が35vol%以下であることが好ましい。これにより、抵抗体220の緻密性を向上でき、また、基体210と抵抗体220との間の熱膨張係数の差を小さくできる。導電性化合物の含有率の更に好ましい範囲としては、20vol%以上、30vol%以下の範囲を採用可能である。いずれの場合も、抵抗体220の導電性化合物の含有率は、基体210の導電性化合物の含有率(例えば、ゼロvol%)よりも大きい。
抵抗体220は、基体210の主相と同様に、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方を、含んでいる。これにより、基体210と抵抗体220との間の焼結時の挙動と収縮の度合いとのそれぞれの差を小さくできる。従って、焼結時の不具合(例えば、基体210と抵抗体220との界面における剥離)を抑制でき、そして、昇温と冷却との繰り返しに対する耐久性を向上できる。
なお、抵抗体220のα率は、基体210のα率と同様に、緻密な焼結体を実現するためには、60%以下であることが好ましい。強度の向上と、昇温と冷却との繰り返しに対する耐久性の向上と、を考慮すると、α率は、50%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましく、5%以下であることが最も好ましい。なお、上述したように、抵抗体220の耐酸化性は、基体210の耐酸化性よりも低くてもよい。従って、抵抗体220のα率が、基体210のα率よりも低くてもよい。また、抵抗体220のα率がゼロ%であってもよい。
また、抵抗体220のβ−サイアロン中のアルミナの固溶量を表すZ値に関しては、良好な焼結性を実現するためには、Z値は、0.1以上であることが好ましい。また、良好な強度と温度変化に対する耐久性とを実現するためには、Z値が、1.3以下であることが好ましく、1.0以下であることが特に好ましく、0.7以下であることが最も好ましい。
次に、抵抗体220の粒界相について説明する。抵抗体220の粒界相は、基体210の粒界相と同様に、焼結助剤によって形成されるガラス相あるいは結晶相を含んでいる。この粒界相は、希土類元素を含んでいる。具体的には、粒界相は、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの少なくとも1種を含んでいる。これらの中でも、高温時の強度を向上することができ、さらにα率の調整も容易なことから、粒界相は、Sc、Y、Dy、Er、Yb、Luのうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、特に、Y、Er、Ybのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
抵抗体220における粒界相の割合については、基体210における粒界相の割合と同様である。具体的には、適切な割合で粒界相が抵抗体220中に形成されるように、抵抗体220を形成するための材料の全体に対する希土類元素の含有率は、酸化物換算で1wt%以上、15wt%以下であることが好ましい。
A3.セラミックヒータ素子40の製造:
図2は、セラミックヒータ素子40の製造方法の一例を示すフローチャートである。最初のステップS110では、抵抗体220の材料が生成される。具体的には、導電性化合物の粉末と、サイアロンの構成元素を含む粉末(「サイアロン構成粉末」と呼ぶ)と、焼結助剤と、水と、を混合することによって、スラリーが生成される。生成されたスラリーから、スプレードライによって、粉末が生成される。生成された粉末とバインダとを混練機によって混練することによって、抵抗体220の材料として、混合物が生成される。
導電性化合物としては、上述した種々の化合物を採用可能である。サイアロン構成粉末としては、例えば、窒化珪素(Si3N4)の粉末と、アルミナ(Al2O3)の粉末と、窒化アルミニウム(AlN)の粉末と、を採用可能である。焼結助剤としては、例えば、希土類元素の酸化物粉末を採用可能である。希土類元素としては、上述の粒界相の説明で挙げた種々の希土類元素を採用可能である。なお、アルミナは、焼結助剤としても機能する。これらの材料の配合比率としては、例えば、以下の比率を採用可能である。
導電性化合物の粉末:55wt%以上、75wt%以下
サイアロン構成粉末:25wt%以上、40wt%以下
希土類酸化物粉末 :1wt%以上、15wt%以下
また、各材料の粉末の平均粒径は、5μm以下が好ましく、3μm以下が特に好ましく、1μm以下が最も好ましい。
次のステップS120では、ステップS110で生成された混合物を成形することによって、成形体が生成される。成形方法としては、例えば射出成形が採用される。以上により、未焼成の抵抗体(以下「未焼成抵抗体」と呼ぶ)が、成形される。なお、他の成形方法(例えば、プレス成形)を採用してもよい。
図2の右部には、後述する未焼成のヒータ素子の分解斜視図が示されている。図中の部材220uは、未焼成抵抗体を示している(以下「未焼成抵抗体220u」と呼ぶ)。図示するように、未焼成抵抗体220uは、未焼成のリード部221u、222uと、未焼成の発熱部223uと、未焼成の電極取出部281u、282uと、を含んでいる。また、本実施例では、第1リード部221uの後端と第2リード部222uの後端とを接続するサポート部224も、一体成形されている。サポート部224は、未焼成抵抗体220uの破損を抑制するために、設けられている。後述するように、サポート部224は、ステップS190で、切断される。なお、サポート部224を省略してもよい。
次のステップS130では、基体210の材料が生成される。具体的には、サイアロン構成粉末と、焼結助剤と、水と、を混合することによって、スラリーが生成される。生成されたスラリーから、スプレードライによって、粉末が生成される。生成された粉末とバインダとを混練機によって混練することによって、基体210の材料として、混合物が生成される。
サイアロン構成粉末としては、例えば、窒化珪素(Si3N4)の粉末と、アルミナ(Al2O3)の粉末と、窒化アルミニウム(AlN)の粉末と、を採用可能である。焼結助剤としては、例えば、希土類元素の酸化物粉末を採用可能である。希土類元素としては、上述の粒界相の説明で挙げた種々の希土類元素を採用可能である。基体210の材料には、さらに、基体210の熱膨張係数を抵抗体220の熱膨張係数に近づけるために、熱膨張係数調整材を追加してもよい。熱膨張係数調整材としては、上述した種々の材料の粉末を採用可能である。これらの材料の配合比率としては、例えば、以下の比率を採用可能である。
サイアロン構成粉末:85wt%以上、97wt%以下
希土類酸化物粉末 :1wt%以上、15wt%以下
熱膨張係数調整材 :0.1wt%以上、5wt%以下
また、各材料の粉末の平均粒径は、5μm以下が好ましく、3μm以下が特に好ましく、1μm以下が最も好ましい。
次のステップS150では、ステップS130で生成された混合物を成形することによって、未焼成の成形体が成形される。図2の右部の部材40uは、成形される成形体を示している(以下「成形体40u」と呼ぶ)。図中の成形体40uの上には、成形体40uの分解斜視図が示されている。この分解斜視図は、成形体40uの基体210に対応する部分を中心軸CLを通る平面で2等分して得られる2つの部分211u、212uと、ステップS120で成形された未焼成抵抗体220uと、を示している。第1部分211uは、未焼成抵抗体220uの一部を収容するための凹部211rを有している。図示を省略するが、第2部分212uも、同様の凹部を有している。未焼成抵抗体220uは、これらの部分211u、212uに挟まれている。
このような成形体40uは、以下のように成形される。まず、第1部分211uをプレス成形する。そして、図示しない成形型の内の所定位置に第1部分211uを配置する。次に、第1部分211uの凹部211rに、未焼成抵抗体220uを嵌め込む。次に、成形型の内の第2部分212uに対応する空間内に、ステップS130で生成された材料を充填し、プレス成形によって、成形体40uを成形する。なお、他の成形方法を採用してもよい。例えば、図示しない成形型の内の所定位置に未焼成抵抗体220uを配置する。そして、射出成形によって、ステップS130で生成された材料を、未焼成抵抗体220uを覆うように、成形する。以上により、成形体40uが成形される。
なお、ステップS130は、ステップS150よりも前の任意のタイミングで実行可能である。例えば、ステップS130は、ステップS110、S120の間、または、ステップS110よりも前に、実行可能である。
次のステップS160では、成形体40uからバインダを除去するために、仮焼が行われる。仮焼は、例えば、摂氏600度以上、摂氏800度以下の温度で、行われる。仮焼の後、冷間等方圧プレス(CIP)を行っても良い。
次のステップS170では、成形体40uが焼成される。これにより、焼結された部材(焼成体とも呼ぶ)が、生成される。焼成方法としては、例えば常圧焼成法が採用される。常圧焼成法を採用する場合、例えば、摂氏1500度以上、1800度以下の温度で、0.1MPaの圧力の非酸化雰囲気下(好ましくは、窒素分圧が0.05MPa以上)で、焼成が行われる。常圧焼成法は、安価に大量の成形体40uの焼成が可能である。
なお、焼成方法としては、他の方法を採用してもよい。例えば、ガス圧焼成法、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法等を採用可能である。ガス圧焼成法を採用する場合、例えば、摂氏1500度以上、1950度以下の温度で、0.1MPa以上、1MPa以下の圧力の非酸化雰囲気下(好ましくは、窒素分圧が0.05MPa以上)で、焼成が行われる。熱間等方圧加圧法(HIP)を採用する場合、例えば、常圧焼成法、または、ガス圧焼成法で1次焼成を行った後に、摂氏1450度以上、1900度以下の温度で、1MPa以上、200MPa以下の圧力の窒素雰囲気下(好ましくは、窒素分圧が0.05MPa以上)で、焼成(2次焼成)が行われる。ホットプレス法を採用する場合、例えば、0.1MPa以上、1MPa以下の非酸化雰囲気下(好ましくは、窒素分圧が0.05MPa以上)で、摂氏1450度以上、1900度以下の温度で、10MPa以上、50MPa以下の1軸加圧の下で、焼成が行われる。
次のステップS180では、成形体40uを焼成して得られる焼成体(図示せず)が、研磨加工される。これにより、焼成体の外形が、所定の形状に加工される。そして、次のステップS190で、焼成体のうちのサポート部224を含む端部が切断されて、焼成済のヒータ素子40が生成される。なお、サポート部224が省略される場合、ステップS190を省略可能である。
なお、α率とZ値とのそれぞれは、材料粉末の配合割合と焼成温度等を上記の好ましい範囲内で調整することによって、調整可能である。例えば、α率の調整は、主に、焼結助剤の組成を調整することによって、実現可能である。例えば、焼結助剤として、希土類酸化物粉末(例えば、Sc、Y、Dy、Er、Yb、Luのうちの少なくとも1種の酸化物粉末)と、Al2O3粉末と、AlN粉末と、を用いる場合、それらの含有量を調整することによって、α率を調整可能である。具体的には、Si3N4と、Si3N4に含まれるSiO2と、希土類酸化物と、Al2O3と、AlNと、その他の焼結助剤からの全Si量、全Al量、全O量、全N量、全希土類元素量の比率を調整することにより、α率を調整可能である。一般に、比率「Al2O3/AlN」を大きくすると、α率を小さくすることができ、逆に比率「Al2O3/AlN」を小さくすると、α率を大きくすることができる。
Z値は、例えば、材料中のAl2O3とAlNの含有量の比や、材料全体に対するAl2O3とAlNの合計割合を調整することで調整できる。一般に、Al2O3/AlNの比を大きく、またAl2O3とAlNの合計割合を少なくすると、Z値を小さくすることができ、Al2O3/AlNの比を小さく、またAl2O3とAlNの合計割合を大きくすると、Z値を大きくすることができる。
B.セラミックヒータ素子の評価試験:
B1.評価試験の概要:
評価試験では、セラミックヒータ素子40のサンプルを用いて、ヒータ素子の強度と、連続通電耐久性と、オンオフ耐久性と、が評価された。以下の表1は、サンプルの種類の番号と、基体210の構成と、抵抗体220の構成と、の関係を示している。表2は、サンプルの種類の番号と、焼成時の降温速度と、焼成後の熱処理の有無と、素子の強度の評価結果と、消費電力と、急速昇温の速度と、連続通電耐久性の評価結果と、オンオフ耐久性の評価結果と、の関係を示している。「1番」から「31番」までの31種類のサンプルが、評価された。なお、各サンプルにおいて、基体210のZ値は、0.7であり、抵抗体220のα率は、ゼロ%であった。また、4番の抵抗体220のZ値は、0.7であり、他のサンプルの抵抗体220のZ値は、0.2であった。
表1に示すように、基体210の構成としては、α−サイアロンの相の構成(α−サイアロンの相に含まれる希土類元素)と、β−サイアロンの相の構成と、α率と、追加化合物の組成と、追加化合物の含有率と、追加化合物の平均粒子径と、粒界相中の結晶相の組成と、が示されている。追加化合物は、サイアロンの相と粒界相とに加えて基体210に追加された化合物である。基体210は、追加化合物の結晶粒子を、含んでいる。追加化合物の結晶粒子は、例えば、サイアロンの相と別のサイアロンの相との間の粒界相中に、形成される。
基体210のα−サイアロンの相に含まれる希土類元素は、以下の通りであった。
2番、30番、31番: α−サイアロンの相なし
6番 : イットリウム(Y)
7番 : エルビウム(Er)
その他 : イッテルビウム(Yb)
α−サイアロンの相に含まれる希土類元素は、ヒータ素子のサンプルの断面(すなわち、基体210の断面)を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面の元素分析を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行うことによって、特定された。なお、基体210の材料が予め特定されている場合、材料に含まれる元素から、α−サイアロンの相に含まれる希土類元素を特定可能である。なお、α率の特定方法は、上述した通りである。
追加化合物の組成は、ヒータ素子のサンプルの断面(すなわち、基体210の断面)を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面の元素分析を、X線回折もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行うことによって、特定された。
具体的には、特定された追加化合物の組成は、以下の通りであった。
1番から12番、28番、30番:タングステン(W)の珪化物(例えば、WSi2)
13番、31番 :なし
14番 :チタン(Ti)の窒化物(例えば、TiN)
15番、29番 :モリブデン(Mo)の珪化物(例えば、MoSi2)
16番 :モリブデン(Mo)の炭化物(例えば、Mo2C)
17番 :鉄(Fe)の珪化物(例えば、FeSi2)
18番 :クロム(Cr)の珪化物(例えば、CrSi2)
19番 :タングステン(W)の炭化物(例えば、WC)
20番 :タングステン(W)の珪化物とクロム(Cr)の珪化物
21番 :シリコン(Si)の炭化物(SiC)
22番 :バナジウム(V)の珪化物(例えば、V3Si)
23番 :タンタル(Ta)の炭化物(例えば、TaC)
24番 :ジルコニウム(Zr)の炭化物(例えば、ZrC)
25番 :ニオブ(Nb)の炭化物(例えば、NbC)
26番 :ハフニウム(Hf)の酸化物(例えば、HfO2)
27番 :ジルコニウム(Zr)の酸化物(例えば、ZrO2)
追加化合物の含有率は、焼成後の基体210における追加化合物の含有率である(単位は、体積パーセント(vol%))。この含有率としては、上記の近似体積率が採用された。具体的には、基体210の面積に対する追加化合物の結晶粒子の面積の割合から得られる近似体積率が、含有率として採用された。
追加化合物の平均粒子径は、焼成後の基体210に含まれる追加化合物の結晶粒子の粒子径の平均値である(単位は、μm)。この平均粒子径は、以下のように特定された。基体210の鏡面研磨された断面のSEMによって取得された画像を解析することによって、追加化合物の100個の粒子のそれぞれの最大径を測定し、得られた100個の値の平均値を、平均粒子径として採用した。
基体210の粒界相中の結晶相の組成は、X線回折測定で、特定可能である。なお、30番と31番とでは、粒界相中にRE3Al5O12(REは、周期律表第3族元素のうちの1種以上)の結晶相が形成されなかった。
抵抗体220の構成としては、導電性化合物の組成と、導電性化合物の含有率と、粒界相に含まれる希土類元素と、が示されている。導電性化合物の組成は、ヒータ素子のサンプルの断面(すなわち、抵抗体220の断面)を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面の元素分析を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行うことによって、特定された。具体的には、1番から27番と、30番と、31番の導電性化合物は、WCであり、28番の導電性化合物は、WSi2であり、29番の導電性化合物は、MoSi2であった。なお、抵抗体220の材料が予め特定されている場合、材料に含まれる導電性化合物の組成を採用可能である。
導電性化合物の含有率は、焼成後の抵抗体220に対する導電性化合物の体積率である(単位は、vol%)。導電性化合物の含有率としては、上記の近似体積率が採用された。
抵抗体220の粒界相に含まれる希土類元素は、ヒータ素子のサンプルの断面(すなわち、抵抗体220の断面)を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面の元素分析を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行うことによって、特定された。なお、抵抗体220の材料が予め特定されている場合、材料に含まれる元素から、粒界相に含まれる元素を特定可能である。
次に、表2に示す項目について説明する。降温速度は、焼成(図2:S170)における、焼成を終了する際の冷却時の降温速度である。具体的には、摂氏1400度から摂氏1000度までの冷却に要した時間から単位時間当たりの温度変化を算出し、得られた値を降温速度として採用した(単位は、摂氏度/時)。降温速度が遅いほど、粒界相中の結晶相の形成が進みやすい。なお、降温速度は、焼成に用いた加熱装置の動作設定を調整することによって、調整された。
焼成後の熱処理は、「12番」と「13番」との2つのサンプルに対して、行われた。具体的には、図2のステップS170とステップS180との間で、0.1MPaの窒素雰囲気下で、摂氏1200度に加熱した状態を、10時間に亘って継続する処理が、行われた。このような熱処理によって、ステップS170の焼成では基体210の粒界相中に結晶相が形成されない場合であっても、基体210の粒界相中に結晶相を形成することができた。例えば、12番のサンプルでは、降温速度が、摂氏1000度/時と、他のサンプルと比べて速いにも拘わらずに、熱処理によって基体210の粒界相中に結晶相を形成できた。また、13番のサンプルでは、基体210の粒界相中に追加化合物の粒子は存在しないが、粒界相中に結晶相を形成できた。
素子強度は、サンプルの種類毎に、構成が同じである30個のヒータ素子のサンプルを用いて、以下のように算出された。すなわち、30個のサンプルのそれぞれに対して、3点支持の曲げ試験(支点間距離=10mm、クロスヘッド速度=0.5mm/分)を行い、折れた時の最大曲げ応力を算出した。この曲げ試験は、JIS R 1601に従って、行われた。そして、30個のサンプルの曲げ応力の平均曲げ応力を、素子強度として採用した(単位は、MPa)。
消費電力は、ヒータ素子の最高表面温度が摂氏1200度に維持されるように通電した場合の消費電力である(単位は、W)。消費電力が小さいことが好ましい。
急速昇温速度は、ヒータ素子に11Vの電圧を印加した場合に、ヒータ素子の先端の温度が常温から摂氏1000度に到達するまでの時間である(単位は秒)。急速昇温速度が速いことが好ましい。
連続通電耐久性は、以下のように評価された。すなわち、ヒータ素子の最高表面温度が所定温度になるようにヒータ素子に電圧を印加し、その温度を維持するように、1200時間の連続通電を行った。所定温度としては、摂氏1250度と摂氏1300度との2つの温度が、試験された。そして、連続通電の前と後とにヒータ素子の電気抵抗値を測定し、連続通電による電気抵抗値の変化量を算出した。また、電気抵抗値の測定後、ヒータ素子を、中心軸CL(図1(B))を含む平面で切断し、断面を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面を電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって分析することによって、抵抗体220の近傍におけるヒータ素子の成分の移動(マイグレーション)が生じたか否かを確認した。通電時には、2つのリード部221、222(図1(B))の間の電位差に起因して、2つのリード部221、222の間で、ヒータ素子の成分(例えば、希土類元素やアルミニウム等の焼結助剤の成分)が移動し得る。このような移動が生じると、ヒータ素子内の成分の分布が偏るので、ヒータ素子の強度が低下し得る。
連続通電耐久性のA評価は、電気抵抗値の増大量が10%未満であり、かつ、マイグレーションが観察されなかったことを示している。B評価は、電気抵抗値の増大量が10%未満であり、かつ、マイグレーションが観察されたことを示している。C評価は、電気抵抗値の増大量が10%以上であり、かつ、マイグレーションが観察されたことを示している。
オンオフ耐久性は、以下に説明する加熱と冷却とのサイクルを繰り返すことによって、評価された。1回のサイクルでは、ヒータ素子の最高表面温度が1.8秒で摂氏1000度に達するようにヒータ素子に電圧を印加し、その電圧を維持しつつ最高表面温度が摂氏1250度になるまで電圧印加を継続し、その後、電圧印加を止めて、30秒間、ファンを用いて風冷を行った。そして、ヒータ素子の抵抗値が試験前の抵抗値に対して10%以上変化するサイクル数を測定した。A評価は、サイクル数が10万以上であることを示し、B評価は、サイクル数が2万以上10万未満であることを示し、C評価は、サイクル数が5百以上2万未満であることを示している。なお、D評価は、500サイクル未満で抵抗体220が断線したことを示している。表1、表2の31種類のサンプルのオンオフ耐久性は、いずれも、C評価以上であった。
B2.粒界相中の結晶相:
表1、表2の1番から29番のサンプルは、基体210の粒界相中にRE3Al5O12の結晶相が形成されたサンプルを示している。本評価試験では、REは、Yb、Y、Erのいずれかであった。後述するように、より一般的には、元素REとしては、周期律表第3族元素のうちの1種以上を採用可能である(以下、同様)。これらのサンプルの摂氏1300度の連続通電耐久性の評価結果は、B評価以上であった。また、30番と31番とは、基体210の粒界相中にRE3Al5O12の結晶相が形成されなかったサンプルを示している。これらのサンプルは、降温速度を速くすることによって、製造された。これらのサンプルでは、摂氏1300度の連続通電耐久性の評価結果が、C評価であった。このように、基体210の粒界相中にRE3Al5O12の結晶相を形成することによって、連続通電耐久性を向上できた。
B3.降温速度と熱処理:
表1、表2の12番の降温速度は、摂氏1000度/時であった。11番と13番との降温速度は、摂氏60度/時であった。1番から29番のうちの11番、12番、13番以外のサンプルの降温速度は、摂氏600度/時であった。
降温速度が比較的遅いサンプル(すなわち、1番から29番のうちの12番以外のサンプル)に関しては、焼成後の熱処理を行わなくても、基体210の粒界相中にRE3Al5O12の結晶相が形成された。これらのサンプルは、520MPa以上の素子強度を実現可能であり、また、B評価以上の連続通電耐久性を実現可能であった。
降温速度が比較的速い12番に関しては、焼成後の熱処理を行うことによって、基体210の粒界相中にRE3Al5O12の結晶相が形成された。このような12番の素子強度は、750MPaであり、降温速度が遅いサンプル(例えば、3番から5番)と比べても遜色なかった。また、12番の連続通電耐久性については、摂氏1250度と摂氏1300度との双方の評価結果が、A評価であった。また、オンオフ耐久性についても、A評価であった。
このように、基体210の粒界相中にRE3Al5O12の結晶相を形成する方法に拘わらず、基体210の粒界相中にRE3Al5O12の結晶相が形成されることによって、ヒータ素子の耐久性(具体的には、素子強度と連続通電耐久性とオンオフ耐久性)を向上できた。なお、粒界相中にRE3Al5O12の結晶相を形成する方法としては、種々の方法を採用可能である。例えば、1番から29番のうちの12番以外のサンプルが示すように、降温速度を遅くする方法を採用可能である。降温速度としては、例えば、摂氏60度/時以上、摂氏600度/時以下の速度を採用可能である。また、12番のサンプルが示すように、焼成後に熱処理を行う方法を採用可能である。熱処理を行う場合には、速い降温速度を採用可能である(例えば、摂氏600度/時を超え、摂氏1000度/時以下の速度)。
熱処理としては、所定の温度に加熱した状態を、所定の継続時間に亘って継続する処理を採用可能である。熱処理の条件(例えば、温度と継続時間)は、基体210の粒界相に含まれる成分の組成に合わせて決定可能である。熱処理の温度としては、例えば、摂氏1000度以上、摂氏1400度以下の温度を採用可能である。また、継続時間としては、例えば、2時間以上、20時間以下の時間を採用可能である。
なお、基体210の粒界相に含まれる成分の組成に拘わらず、遅い降温速度を採用する、または、焼成後の熱処理を行うことによって、粒界相中に結晶相を形成できると推定される。従って、基体210に含まれる希土類元素としては、種々の希土類元素を採用可能と推定される。同様に、基体210に含まれる追加化合物としても、表1に示す化合物に限らず、種々の化合物を採用可能と推定される。
B4.ヒータ素子40に含まれる希土類元素:
表1に示すように、基体210の粒界相に含まれるRE3Al5O12の結晶相の元素REは、以下の通りであった。すなわち、6番の元素REは、イットリウム(Y)であり、7番の元素REは、エルビウム(Er)であり、1番から29番のうち6番と7番とを除いた残りのサンプルの元素REは、イッテルビウム(Yb)であった。
イッテルビウムを含むサンプルは、520MPa以上の素子強度を実現可能であり、B評価以上の連続通電耐久性を実現可能であった。また、6番(Y)と7番(Er)の素子強度は、それぞれ、790MPa、820MPaであり、イッテルビウム(Yb)を含むサンプルと比べても遜色なかった。また、6番の連続通電耐久性については、摂氏1250度の評価結果は、A評価であり、摂氏1300度の評価結果は、B評価であった。また、7番の連続通電耐久性については、摂氏1250度と摂氏1300度との双方の評価結果が、A評価であった。また、オンオフ耐久性については、6番と7番との両方の評価結果が、A評価であった。
このように、イットリウム(Y)と、エルビウム(Er)と、イッテルビウム(Yb)とは、それぞれ、良好な耐久性を実現できた。また、消費電力と急速昇温速度とのそれぞれに関しても、イットリウム(Y)と、エルビウム(Er)と、イッテルビウム(Yb)とは、それぞれ、同程度の性能を実現できた。連続通電耐久性の観点から、Yb、Erがより好ましい。
以上のように、基体210(特に、基体210の粒界相)に含まれる希土類元素としては、イッテルビウム(Yb)と、イットリウム(Y)と、エルビウム(Er)とから選択された元素を採用可能である。一般的には、複数の希土類元素の間では、化学的性質が互いに類似している。従って、これら3種類の希土類元素に限らず、他の希土類元素も、採用可能であると推定される。より一般的には、基体210の粒界相に含まれる結晶相の組成としては、RE3Al5O12(REは、周期律表第3族元素のうちの1種以上)で表される種々の組成を採用可能である。なお、周期律表第3族元素(すなわち、希土類元素)としては、スカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)に加えて、ランタノイドに含まれる種々の元素、より具体的には、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを採用可能である。
同様に、抵抗体220の粒界相に含まれる希土類元素としては、周期律表第3族元素のうちの1種以上の種々の元素を採用可能である。なお、基体210と抵抗体220との間の焼成時の挙動の差を小さくするためには、基体210に含まれる希土類元素(第1希土類元素と呼ぶ)が、抵抗体220に含まれる希土類元素(第2希土類元素と呼ぶ)と同じであることが、好ましい。ただし、基体210の第1希土類元素が、抵抗体220の第2希土類元素と異なっていてもよい。
B5.基体210に含まれる追加化合物:
表1、表2の13番のサンプルは、追加化合物が省略されたサンプルである。13番に関しては、素子強度は、580MPaであり、連続通電耐久性は、摂氏1250度と摂氏1300度とのそれぞれでA評価であり、オンオフ耐久性は、C評価であった。
1番から12番と28番との追加化合物は、タングステン(W)の珪化物である。これらのサンプルは、13番と比べて良好な素子強度とオンオフ耐久性とを実現可能であり、B評価以上の連続通電耐久性を実現可能であった。また、14番から27番と29番との追加化合物は、タングステン(W)の珪化物とは異なる種々の化合物である。これらのサンプルも、13番と比べて良好な素子強度とオンオフ耐久性とを実現可能であり、B評価以上の連続通電耐久性を実現可能であった。
このように、追加化合物を用いることによって、素子強度とオンオフ耐久性とを向上できた。この理由は、追加化合物によって、結晶化が容易になるとともに、粒界相を強化することができるからだと、推定される。また、消費電力と急速昇温速度とのそれぞれに関しても、追加化合物の組成に拘わらずに、同程度の性能を実現できた。このように、基体210に含まれる追加化合物としては、表1に示す種々の化合物を採用可能である。いずれの場合も、基体210および抵抗体220に含まれる希土類元素としては、種々の希土類元素を採用可能と推定される。
B6.基体210に含まれる追加化合物の平均粒子径:
表1、表2の1番、9番から11番の4種類のサンプルの間では、基体210に含まれる追加化合物(ここでは、タングステン(W)の珪化物)の平均粒子径が異なっている。11番の降温速度は、大きな平均粒子径を実現するために、他のサンプルの降温速度よりも遅い値に設定されている。これらのサンプルの間で、他の構成は、同じである。
表1、表2に示すように、素子強度は、平均粒子径が小さいほど、良好であった。また、オンオフ耐久性は、平均粒子径が小さいほど、良好であった。この理由は、追加化合物の細かい粒子が分散されることによって、結晶化がより容易になるとともに、粒界相をより強化できるからだと、推定される。なお、C評価以上のオンオフ耐久性の評価結果を実現可能な平均粒子径は、0.3、1、3、5(μm)であった。これらの値から任意に選択された値を、平均粒子径の好ましい範囲の上限として採用可能である。例えば、平均粒子径としては、5μm以下の値を採用可能である。また、B評価以上のオンオフ耐久性の評価結果を実現可能な平均粒子径は、0.3、1、3(μm)であった。これらの値から任意に選択された値を、平均粒子径の好ましい範囲の上限として採用可能である。例えば、平均粒子径としては、3μm以下の値を採用可能であり、また、1μm以下の値を採用可能である。
また、平均粒子径に拘わらず、基体210に含まれる追加化合物の含有率がゼロvol%よりも大きい場合には、含有率がゼロvol%である場合と比べて、粒界相中の結晶相の形成が容易になると推定される。従って、平均粒子径としては、ゼロμmよりも大きな種々の値を採用可能と推定される。また、平均粒子径の好ましい範囲の下限としては、上記の3つの値(0.3、1、3(μm))のうちの上限以下の任意の値を採用可能である。例えば、平均粒子径としては、0.3μm以上の値を採用可能である。
追加化合物がタングステン(W)の珪化物とは異なるサンプル(14番から27番と29番)については、平均粒子径は、追加化合物毎に異なっており、0.3μm以上、0.9μm以下の範囲内であった。これらの平均粒子径は、平均粒子径の上記の好ましい範囲内であった。従って、平均粒子径の上記の好ましい範囲は、種々の追加化合物に適用可能と推定される。
また、消費電力と急速昇温速度とのそれぞれに関しては、平均粒子径に拘わらずに、同程度の性能を実現できた。また、基体210および抵抗体220に含まれる希土類元素としては、種々の希土類元素を採用可能と推定される。
B7.基体210に含まれる追加化合物の含有率:
表1、表2の8番の基体210に含まれる追加化合物(ここでは、タングステン(W)の珪化物)の含有率は、5vol%であり、1番から5番のサンプルの含有率(1vol%)よりも、大きかった。また、13番のサンプルの追加化合物の含有率は、ゼロvol%であった。13番のサンプルでは、粒界相中に結晶相を形成するために、降温速度を遅くし(摂氏60度/時)、さらに、焼成後の熱処理を行った。
8番の素子強度は、690MPaであり、3番から5番と比較しても遜色なかった。また、8番の連続通電耐久性については、摂氏1250度と摂氏1300度とのそれぞれの評価結果が、A評価であった。また、8番のオンオフ耐久性の評価結果は、B評価であった。このように、化合物の含有率が5vol%である場合にも、含有率が1vol%である1番から5番と同様に、良好な耐久性を実現できた。
13番の素子強度は、580MPaであり、5番と同程度の強度を実現できた。また、13番の連続通電耐久性については、摂氏1250度と摂氏1300度とのそれぞれの評価結果が、A評価であった。また、13番のオンオフ耐久性の評価結果は、C評価であった。このように、追加化合物の含有率がゼロvol%である場合にも、粒界相中に結晶相を形成することによって、含有率が1vol%である1番から5番と同様に、良好な耐久性を実現できた。
このように、追加化合物の含有率が、ゼロ、1、5(vol%)のそれぞれの場合に、良好な耐久性(具体的には、素子強度と連続通電耐久性とオンオフ耐久性)と実用性とを実現できた。従って、これらの値を含む範囲を、追加化合物の含有率の好ましい範囲として採用可能である。追加化合物の含有率が8vol%を超えると、ヒータ素子の強度が低下する。従って、追加化合物の含有率としては、8vol%以下の値を採用することが好ましい。また、評価された3つの値(ゼロ、1、5(vol%))から任意に選択された値を、含有率の好ましい範囲の上限として採用可能である。例えば、含有率としては、5vol%以下の値を採用可能である。
また、評価された3つの値(ゼロ、1、5(vol%))のうちの上限以下の任意の値を、下限として採用可能である。例えば、追加化合物の含有率としては、ゼロvol%以上の値を採用可能である。すなわち、追加化合物が省略されてもよい。ただし、含有率が0.1vol%未満である場合には、粒界相中に結晶相を形成させる効果が弱くなり、さらに、基体210の熱膨張係数を抵抗体220の熱膨張係数に近づけることが難しくなる。従って、追加化合物の含有率としては、0.1vol%以上の値を採用することが好ましい。また、含有率として、1vol%以上の値を採用してもよい。
また、消費電力と急速昇温速度とのそれぞれに関しては、追加化合物の含有率に拘わらずに、同程度の性能を実現できた。また、基体210および抵抗体220に含まれる希土類元素としては、種々の希土類元素を採用可能と推定される。
B8.抵抗体220の導電性化合物:
表1の1番から27番の導電性化合物は、WCであった。また、28番の導電性化合物は、WSi2であり、29番の導電性化合物は、MoSi2であった。
WCを含むサンプル(1番から27番)は、520MPa以上の素子強度を実現可能であり、B評価以上の連続通電耐久性を実現可能であった。また、28番(WSi2)と29番(MoSi2)の素子強度は、それぞれ、770MPa、760MPaであり、WCを含むサンプルと比べても遜色無かった。また、28番と29番のそれぞれの連続通電耐久性は、摂氏1240度と摂氏1300度とのそれぞれで、良好なA評価であった。また、28番と29番とのそれぞれのオンオフ耐久性は、D評価よりも良好なC評価であった。また、消費電力と急速昇温速度とのそれぞれに関しても、28番と29番は、WCを含むサンプル(1番から27番)と同程度の性能を実現できた。このように、導電性化合物としては、WCに限らず、WSi2またはMoSi2を採用可能である。また、これらの導電性化合物に限らず、他の種々の導電性化合物を採用可能と推定される。
なお、WCを採用する一部のサンプル(例えば、1番から4番)は、28番と29番よりも良好なオンオフ耐久性を実現できた。この理由は、WCの熱膨張率が、WSi2とMoSi2の熱膨張率よりも、小さいからだと推定される。導電性化合物の熱膨張率が小さい場合、基体210と抵抗体220との間の熱膨張率の差が小さくなるので、オンオフ耐久性が向上し得る。
B9.基体210のα率:
表1の1番から5番の5種類のサンプルの間では、基体210のα率が互いに異なっており、他の構成は、おおよそ同じである。例えば、基体210の粒界相に含まれる追加化合物は、タングステンの珪化物(例えば、WSi2)であり、その含有率は、1vol%であり、その平均粒子径は、0.3μmであった。また、基体210のα−サイアロンの相に含まれる希土類元素は、イッテルビウム(Yb)であり、基体210の粒界相中の結晶相の組成は、Ybを含む組成であった。また、抵抗体220の導電性化合物は、炭化タングステン(WC)であり、含有率は、25〜28vol%であった。そして、抵抗体220の粒界相に含まれる希土類元素は、Ybであった。
表1、表2に示すように、素子強度は、α率が低いほど、良好であった。また、オンオフ耐久性は、α率が低いほど、良好であった。この理由は、α率が低いほど、基体210の緻密性、すなわち、密度が高くなるからだと推定される。なお、C評価以上のオンオフ耐久性の評価結果が得られた基体210のα率は、ゼロ、15、25、50、55(%)であった。これらの値から任意に選択された値を、α率の好ましい範囲の上限として採用可能である。例えば、α率としては、55%以下の値を採用可能である。また、B評価以上のオンオフ耐久性の評価結果が得られた基体210のα率は、ゼロ、15、25、50(%)であった。これらの値から任意に選択された値を、α率の好ましい範囲の上限として採用可能である。例えば、α率としては、50%以下の値を採用可能である。
連続通電耐久性は、α率がゼロ%よりも大きい場合に(1番、3番〜5番)、α率がゼロ%である場合(2番)と比べて、良好であった(特に、摂氏1300度)。この理由は、α率がゼロ%である場合には、α率がゼロ%よりも高い場合と比べて、粒界相が多いので、高温(ここでは、摂氏1300度)での耐酸化性が低下するからだと推定される。なお、摂氏1300度の評価試験でA評価が得られたα率は、15、25、50、55(%)であった。これらの値から任意に選択された値を、α率の好ましい範囲の下限として採用可能である。例えば、α率としては、15%以上の値を採用可能である。なお、摂氏1200度の評価試験では、α率がゼロ%である2番のサンプル含む1番から5番の全ての評価結果が、A評価であった。従って、α率としては、ゼロ%以上の種々の値を採用可能である。すなわち、基体210に含まれるサイアロンの相としては、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方を採用可能である。
同様に、抵抗体220に含まれるサイアロンの相としても、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方を採用可能と、推定される。
C.変形例:
(1)基体210(特に、粒界相)に含まれる追加化合物としては、表1に示す化合物に限らず、種々の化合物を採用可能である。例えば、基体210の粒界相は、Cr、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Feから選ばれる少なくとも1種の窒化物、炭化物、珪化物、酸化物と、SiCと、から選ばれる少なくとも1種の化合物を、含んでも良い。いずれの化合物を採用する場合も、平均粒子径としては、上記の好ましい範囲(例えば、ゼロμmを超え、3μm以下)を採用可能と推定される。また、いずれの化合物を採用する場合も、化合物の含有率としては、上述の好ましい範囲(例えば、0.1vol%以上、8vol%以下)の値を採用可能と推定される。このような化合物の組成は、化合物の結晶粒子に対するX線回折もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて特定可能である。
(2)基体210と抵抗体220とのそれぞれの構成としては、評価試験で用いられたサンプルの構成に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、抵抗体220のα率がゼロよりも大きくてもよい。抵抗体220のα率の好ましい範囲としては、基体210のα率の上記の好ましい範囲と同じ範囲を採用可能である。また、基体210のZ値と抵抗体220のZ値とのそれぞれとしては、サンプルのZ値とは異なる値を採用可能である。基体210のZ値としては、例えば、ゼロよりも大きく、1以下の値を採用可能である。抵抗体220のZ値としても、例えば、ゼロよりも大きく、1以下の値を採用可能である。
また、抵抗体220に含まれる導電性化合物としては、WCとMoSi2とWSi2とに限らず、種々の導電性化合物を採用可能である。例えば、Moの珪化物と、Moの窒化物と、Moの炭化物と、Wの珪化物と、Wの窒化物と、Wの炭化物と、のうちの少なくとも1つを採用可能である。また、抵抗体220の導電性化合物の含有率としては、評価試験で用いられたサンプルの含有率に限らず、他の種々の値を採用可能である。また、抵抗体220の材料としては、金属材料を用いてもよい。例えば、発熱部223の材料として導電性セラミックスを用い、リード部221、222の材料としてタングステン(W)線を用いてもよい。
いずれの場合も、基体210の粒界相が、RE3Al5O12(REは、周期律表第3族元素のうちの1種以上)の結晶相を含む場合に、基体210、ひいては、ヒータ素子40の耐久性を向上できると推定される。
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。