A.実施形態:
A1.グロープラグの構成:
図1は、実施形態のグロープラグの一例の概略図である。図1(A)は、グロープラグ10の断面図であり、図1(B)は、グロープラグ10のうちのセラミックヒータ素子40を含む部分を示す拡大断面図である。図示されたラインCLは、グロープラグ10の中心軸を示している。図示された断面は、中心軸CLを含む断面である。以下、中心軸CLのことを「軸線CL」とも呼び、中心軸CLと平行な方向を「軸線方向」とも呼ぶ。中心軸CLを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、中心軸CLを中心とする円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLと平行な方向のうち、図1における下方向を第1方向D1と呼ぶ。第1方向D1は、後述する端子部材80からセラミックヒータ素子40に向かう方向である。図中の第2方向D2と第3方向D3とは、互いに垂直な方向であり、いずれも、第1方向D1と垂直な方向である。以下、第1方向D1を、先端方向D1とも呼び、第1方向D1の反対方向を、後端方向D1rとも呼ぶ。また、図1における先端方向D1側をグロープラグ10の先端側と呼び、図1における後端方向D1r側をグロープラグ10の後端側と呼ぶ。
グロープラグ10は、主体金具20と、中軸30と、セラミックヒータ素子40(以下、単に「ヒータ素子40」とも呼ぶ)と、Oリング50と、絶縁部材60と、金属外筒70(以下、単に「外筒70」とも呼ぶ)と、端子部材80と、接続部材90と、を含んでいる。主体金具20は、中心軸CLに沿って延びる貫通孔20xを有する筒状の部材である。また、主体金具20は、後端方向D1r側の端部に形成された工具係合部28と、工具係合部28よりも先端方向D1側に設けられた雄ネジ部22と、を含んでいる。工具係合部28は、グロープラグ10の脱着時に、図示しない工具と係合する部分である。雄ネジ部22は、図示しない内燃機関の取付孔の雌ネジに螺合するためのネジ山を含んでいる。主体金具20は、導電性材料(例えば、炭素鋼等の金属)で形成されている。
主体金具20の貫通孔20xには、中軸30が収容されている。中軸30は、丸棒状の部材である。中軸30は、導電材料(例えば、ステンレス鋼)で形成されている。中軸30の後端方向D1r側の端部である後端部39は、主体金具20の後端方向D1r側の開口OPbから後端方向D1rに向かって突出している。
開口OPbの近傍において、中軸30の外面と、主体金具20の貫通孔20xの内面と、の間には、Oリング50が設けられている。Oリング50は、弾性材料(例えば、ゴム)で形成されている。さらに、主体金具20の開口OPbには、リング状の絶縁部材60が装着されている。絶縁部材60は、筒状部62と、筒状部62の後端方向D1r側に設けられたフランジ部68と、を含んでいる。筒状部62は、中軸30の外面と、主体金具20の開口OPbを形成する部分の内面と、の間に挟まれている。絶縁部材60は、例えば、樹脂で形成されている。主体金具20は、これらの部材50、60を介して、中軸30を支持している。
絶縁部材60の後端方向D1r側には、端子部材80が配置されている。端子部材80は、キャップ状の部材であり、導電材料(例えば、ニッケル等の金属)で形成されている。端子部材80と主体金具20との間には、絶縁部材60のフランジ部68が挟まれている。端子部材80には、中軸30の後端部39が挿入されている。端子部材80が加締められることによって、端子部材80が後端部39に固定されている。これにより、端子部材80は、中軸30に、電気的に接続される。
主体金具20の先端方向D1側の開口OPaには、外筒70が固定されている(例えば、圧入や溶接)。外筒70は、中心軸CLに沿って延びる貫通孔70xを有する筒状の部材である。外筒70は、導電性材料(例えば、ステンレス鋼)で形成されている。
外筒70の貫通孔70xには、通電によって発熱するヒータ素子40が挿入されている。ヒータ素子40は、中心軸CLに沿って延びるように配置された棒状の部材である。外筒70は、ヒータ素子40の先端部41が露出した状態で、ヒータ素子40の中央部分の外周面を、保持している。ヒータ素子40の後端部49は、主体金具20の貫通孔20xに収容されている。以下、ヒータ素子40と金属外筒70との全体を、「セラミックヒータ490」とも呼ぶ。
ヒータ素子40の後端部49には、接続部材90が固定されている。接続部材90は、中心軸CLに沿って延びる貫通孔を有する円筒状の部材であり、導電性材料(例えば、ステンレス鋼)で形成されている。接続部材90の先端方向D1側には、ヒータ素子40の後端部49が圧入されている。接続部材90の後端方向D1r側には、中軸30の先端方向D1側の端部である先端部31が圧入されている。これにより、中軸30は、接続部材90に電気的に接続される。
次に、セラミックヒータ490の詳細について、説明する。図1(B)には、金属外筒70と接続部材90とヒータ素子40とのより詳細な断面図が示されている。ヒータ素子40は、軸線CLに沿って延びる丸棒状の基体210と、基体210の内部に埋設された、略U字状の発熱抵抗体220(以下、単に「抵抗体220」と呼ぶ)と、を含んでいる。基体210は、絶縁性セラミック材料で形成されている(詳細は後述)。抵抗体220は、導電性セラミック材料で形成されている(詳細は後述)。ヒータ素子40は、材料を焼成することによって、形成される。基体210の先端部(すなわち、ヒータ素子40の先端部41)は、先端側に向かって徐々に細くなっている。抵抗体220の電気伝導率は、基体210の電気伝導率よりも、高い。抵抗体220は、通電によって、発熱する。
抵抗体220は、2本のリード部221、222と、それらのリード部221、222に接続された発熱部223と、電極取出部281、282と、を含んでいる。各リード部221、222は、ヒータ素子40の後端部49から先端部41の近傍まで軸線CLと平行に延びている。第1リード部221と第2リード部222とは、中心軸CLを挟んでおおよそ対称な位置に、配置されている。第2リード部222から第1リード部221へ向かう方向が、第3方向D3である。
発熱部223は、ヒータ素子40の先端部41に埋設され、第1リード部221の先端方向D1側の端と第2リード部222の先端方向D1側の端とを接続する。発熱部223の形状は、ヒータ素子40の先端部41の丸い形状に合わせて湾曲する略U字状である。発熱部223の断面積は、リード部221、222のそれぞれの断面積よりも、小さい。従って、発熱部223の単位長さ当たりの電気抵抗は、リード部221、222の単位長さ当たりの電気抵抗よりも、大きい。この結果、通電時には、発熱部223の温度が、他の部分と比べて、急速に上昇する。
第1リード部221の後端方向D1r側の部分には、第1電極取出部281が接続されている。第1電極取出部281は、径方向に沿って延びる部材であり、内側の端部は第1リード部221に接続され、外側の端部は、ヒータ素子40の外面に露出する。第1電極取出部281の露出部分は、外筒70の内周面に接触している。これにより、外筒70と第1リード部221とが、電気的に接続される。
第2リード部222の後端方向D1r側の部分には、第2電極取出部282が接続されている。第2電極取出部282は、径方向に沿って延びる部材であり、第1電極取出部281よりも、後端方向D1r側に配置されている。第2電極取出部282の内側の端部は、第2リード部222に接続され、外側の端部は、ヒータ素子40の外面に露出する。第2電極取出部282の露出部分は、接続部材90の内周面に接触している。これにより、接続部材90と第2リード部222とが、電気的に接続される。
A2.セラミックヒータ素子40の構成:
A2−1.基体210の構成:
次に、セラミックヒータ素子40の構成について、詳細に説明する。まず、ヒータ素子40の基体210について、説明する。基体210は、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方と、粒界相と、を含んでいる。基体210は、さらに、結晶粒子を含み得る。サイアロンの相は、基体210の主相を形成する。ここで、主相とは、構成相のうち、含有率(重量%(wt%))が最も高い相を意味する。
サイアロンは、Si3N4の格子内に後述する焼結助剤に含まれる元素(AlとOを含む)が固溶したものである。サイアロンには、α−サイアロンとβ−サイアロンとが存在する。α−サイアロンは、組成式Mx(Si,Al)12(O,N)16(0<X≦2、MはLi,Mg,Ca,Y,R(RはLa,Ceを除く希土類元素))で示される。β−サイアロンは、組成式Si6−zAlzOzN8−z(0<Z≦4.2)で示される。
サイアロンの焼結では、まず焼結助剤を主成分とする液相が形成され、Si3N4の緻密化が促進される(ここで、「主成分」は、含有率(wt%)が最も高い成分を意味している。)。その後、焼結の後期段階で、粒界相を形成する焼結助剤の少なくとも一部の成分が、Si3N4の格子内に取り込まれる。この結果、通常の窒化珪素と比較して、粒界相が少なくなり、高温での耐酸化性を向上できる。
β−サイアロンの組織は、窒化珪素と同様に針状粒子が複雑に絡み合った組織であるので、β−サイアロンは、高い靭性と強度とを得ることができる。一方、α−サイアロンの粒子形状は、等軸状であるので、β−サイアロンと比較して、靭性は低くなるが、硬度を向上できる。また、α−サイアロンが形成される際には、粒界相の成分のうちのAlだけでなく他の成分(例えば、Li、Mg、Ca、Y、R(RはLa,Ceを除く希土類元素))も粒内に固溶する。従って、α−サイアロンを生成させることによって、粒界相が少なくなり、耐酸化性を向上できる。しかし、サイアロンとしてβ−サイアロンが生成されずにα−サイアロンのみが生成される場合、粒界相の成分が、焼結中にサイアロン内に取り込まれ、ほとんどなくなってしまうので、緻密な焼結体を得ることが難しい。
ここで、サイアロンのうちのα−サイアロンの割合を「α率」と呼ぶ。α率は、X線回折図におけるβ−サイアロンの(101)面ピーク強度をβ1とし、(210)面ピーク強度をβ2とし、α−サイアロンの(102)面ピーク強度をα1とし、(210)面ピーク強度をα2とした時に、(α1+α2)/(β1+β2+α1+α2)で算出される。
α率が低い場合には、粒界相が多くなるので、耐酸化性が低下しやすい。良好な耐酸化性を実現するためには、α率は、2%以上であることが好ましい。一方、α率が高い場合には、粒界相が少なくなるので、緻密な焼結体の実現が難しい。緻密な焼結体を実現するためには、α率は、60%以下であることが好ましい。強度の向上と、昇温と冷却との繰り返しに対する耐久性の向上と、を考慮すると、α率は、50%以下であることが好ましく、30%以下であることが特に好ましい。
また、基体210は、ヒータ素子40の外表面を形成するので、基体210の耐酸化性が、抵抗体220の耐酸化性よりも高いことが好ましい。ここで、ヒータ素子40の全体の強度と耐酸化性とを向上するためには、基体210のα率が、抵抗体220のα率よりも、高いことが好ましい。具体的には、上述した2%以上、50%以下の範囲内、より好ましくは、2%以上、30%以下の範囲内で、基体210のα率が抵抗体220のα率よりも高いことが好ましい。ただし、基体210のα率がゼロ%であってもよい。
次に、基体210におけるβ−サイアロン中のアルミナ(酸化アルミニウム)の固溶量を表すZ値について、説明する。Z値は、X線回折測定により測定されるサイアロン相中のβ−サイアロンのa軸格子定数と、β−窒化珪素のa軸格子定数(7.60442オングストローム)の差から算出される(算出方法は、例えばWO 02/44104公報、第28頁参照)。
Z値が小さい場合には、アルミナの固溶量の低減に起因して、焼結性が低下する。良好な焼結性を実現するためには、Z値は、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることが特に好ましい。一方、Z値が大きい場合には、アルミナの固溶量の増大に起因して、β−サイアロン自体の強度が低下し、また、昇温と冷却との繰り返しに対する耐久性も低下する。良好な強度と温度変化に対する耐久性とを実現するためには、Z値が、1.3以下であることが好ましく、1.0以下であることが特に好ましく、0.8以下であることが最も好ましい。
次に、基体210の粒界相について説明する。粒界相は、焼結助剤によって形成される相を含んでいる。焼結助剤の成分は、ヒータ素子40の焼成時に、液相を形成し、そして、サイアロン(粒子)の生成、再配列、粒成長に寄与する。その後の冷却時に、焼結助剤の成分は、固化して、ガラス相あるいは結晶相を形成する。このように形成される相が、粒界相に含まれる。この粒界相は、希土類元素を含んでいる。具体的には、粒界相は、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの少なくとも1種を含んでいる。これらの中でも、粒界相の結晶化を促進し、高温時の強度を向上することができ、さらにα率の調整も容易なことから、粒界相は、Sc、Y、Dy、Er、Yb、Luのうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、特に、Y、Er、Ybのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
基体210における粒界相の割合が小さい場合には、焼結時の液相量が小さいので、焼結性が低下し易い。一方、粒界相の割合が大きい場合には、粒界相の融点がサイアロンの融点よりも低いので、耐熱性が低下し易い。適切な割合で粒界相が基体210中に形成されるように、基体210を形成するための材料の全体に対する希土類元素の含有率は、酸化物換算で1wt%以上、15wt%以下であることが好ましい。
次に、基体210に含まれ得る追加化合物について説明する。追加化合物は、サイアロンの相と粒界相とに加えて基体210に追加される化合物である。追加化合物は、熱膨張係数調整材によって形成され得る。熱膨張係数調整材は、基体210の熱膨張係数を、抵抗体220の熱膨張係数に近づけるために、基体210の材料に添加される。熱膨張係数調整材としては、例えば、Cr、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Feから選ばれる少なくとも1種の化合物(例えば、窒化物、炭化物、珪化物、酸化物の少なくとも1種)を採用可能である。このような調整材は、焼成時に窒化物、炭化物、珪化物、酸化物の結晶粒子を形成し得る。追加化合物は、例えば、Cr、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Feから選ばれる少なくとも1種の窒化物、炭化物、珪化物、酸化物から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
基体210の熱膨張係数を抵抗体220の熱膨張係数に近づけるためには、基体210における上記化合物の含有率が、0.1体積%(vol%)以上であることが好ましい。また、基体210の強度低下を抑制するためには、上記化合物の含有率が、10vol%以下であることが好ましい。
なお、基体210中の上記化合物の含有率は、以下のように算出可能である。まず、基体210の断面を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)によって断面画像を取得する。次に、取得した断面画像を解析することによって、基体210の面積に対する化合物の面積の割合(面積率)を算出する。そして、この面積率から体積率(すなわち、含有率)を近似的に算出する。具体的には、体積率として、面積率と同じ値が採用される(以下、同様)。以下、鏡面研磨された断面の画像から測定される面積を用いて近似的に算出される体積率を、「近似体積率」と呼ぶ。後述するように、抵抗体220における導電性化合物の体積率等の種々の体積率として、この近似体積率を採用可能である。
A2−2.抵抗体220の構成:
次に、抵抗体220について説明する。抵抗体220は、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方と、粒界相と、導電性化合物と、を含んでいる。
導電性化合物は、抵抗体220の主相を形成する。導電性化合物は、例えば、Moの珪化物と、Moの窒化物と、Moの炭化物と、Wの珪化物と、Wの窒化物と、Wの炭化物と、のうちの少なくとも1つである。このような導電性化合物を採用することによって、摂氏1200度以上の温度に耐える耐熱性を実現できる。より好ましい導電性化合物としては、例えば、WC、WSi2、MoSi2のうちの少なくとも1つを採用可能である。
抵抗体220の全体に対する導電性化合物の含有率が小さい場合には、電気伝導率が小さ過ぎて、発熱量が低下する場合がある。良好な発熱量を実現するためには、導電性化合物の含有率が15vol%以上であることが好ましい。また、導電性化合物の含有率が大きい場合には、電気伝導率が大きすぎて、発熱量が低下する場合がある。良好な発熱量を実現するためには、導電性化合物の含有率が35vol%以下であることが好ましい。これにより、抵抗体220の緻密性を向上でき、また、基体210と抵抗体220との間の熱膨張係数の差を小さくできる。導電性化合物の含有率の更に好ましい範囲としては、20vol%以上、30vol%以下の範囲を採用可能である。いずれの場合も、抵抗体220の導電性化合物の含有率は、基体210の導電性化合物の含有率(例えば、ゼロvol%)よりも大きい。
抵抗体220は、基体210の主相と同様に、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方を、含んでいる。これにより、基体210と抵抗体220との間の焼結時の挙動と収縮の度合いとのそれぞれの差を小さくできる。従って、焼結時の不具合(例えば、基体210と抵抗体220との界面における剥離)を抑制でき、そして、昇温と冷却との繰り返しに対する耐久性を向上できる。
なお、抵抗体220のα率は、基体210のα率と同様に、緻密な焼結体を実現するためには、60%以下であることが好ましい。強度の向上と、昇温と冷却との繰り返しに対する耐久性の向上と、を考慮すると、α率は、50%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましく、5%以下であることが最も好ましい。なお、上述したように、抵抗体220の耐酸化性は、基体210の耐酸化性よりも低くてもよい。従って、抵抗体220のα率が、基体210のα率よりも低くてもよい。また、抵抗体220のα率がゼロ%であってもよい。
また、抵抗体220のβ−サイアロン中のアルミナの固溶量を表すZ値に関しては、良好な焼結性を実現するためには、Z値は、0.1以上であることが好ましい。また、良好な強度と温度変化に対する耐久性とを実現するためには、Z値が、1.3以下であることが好ましく、1.0以下であることが特に好ましく、0.7以下であることが最も好ましい。
次に、抵抗体220の粒界相について説明する。抵抗体220の粒界相は、基体210の粒界相と同様に、焼結助剤によって形成されるガラス相あるいは結晶相を含んでいる。この粒界相は、希土類元素を含んでいる。具体的には、粒界相は、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの少なくとも1種を含んでいる。これらの中でも、高温時の強度を向上することができ、さらにα率の調整も容易なことから、粒界相は、Sc、Y、Dy、Er、Yb、Luのうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、特に、Y、Er、Ybのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
抵抗体220における粒界相の割合については、基体210における粒界相の割合と同様である。具体的には、適切な割合で粒界相が抵抗体220中に形成されるように、抵抗体220を形成するための材料の全体に対する希土類元素の含有率は、酸化物換算で1wt%以上、15wt%以下であることが好ましい。
A3.セラミックヒータ素子40の製造:
図2は、セラミックヒータ素子40の製造方法の一例を示すフローチャートである。最初のステップS110では、抵抗体220の材料が生成される。具体的には、導電性化合物の粉末と、サイアロンの構成元素を含む粉末(「サイアロン構成粉末」と呼ぶ)と、焼結助剤と、水と、を混合することによって、スラリーが生成される。生成されたスラリーから、スプレードライによって、粉末が生成される。生成された粉末とバインダとを混練機によって混練することによって、抵抗体220の材料として、混合物が生成される。
導電性化合物としては、上述した種々の化合物を採用可能である。サイアロン構成粉末としては、例えば、窒化珪素(Si3N4)の粉末と、アルミナ(Al2O3)の粉末と、窒化アルミニウム(AlN)の粉末と、を採用可能である。焼結助剤としては、例えば、希土類元素の酸化物粉末を採用可能である。希土類元素としては、上述の粒界相の説明で挙げた種々の元素を採用可能である。なお、アルミナは、焼結助剤としても機能する。これらの材料の配合比率としては、例えば、以下の比率を採用可能である。
導電性化合物の粉末:55wt%以上、75wt%以下
サイアロン構成粉末:25wt%以上、40wt%以下
希土類酸化物粉末 :1wt%以上、15wt%以下
また、各材料の粉末の平均粒径は、5μm以下が好ましく、3μm以下が特に好ましく、1μm以下が最も好ましい。
次のステップS120では、ステップS110で生成された混合物を成形することによって、成形体が生成される。成形方法としては、例えば射出成形が採用される。以上により、未焼成の抵抗体(以下「未焼成抵抗体」と呼ぶ)が、成形される。なお、他の成形方法(例えば、プレス成形)を採用してもよい。
図2の右部には、後述する未焼成のヒータ素子の分解斜視図が示されている。図中の部材220uは、未焼成抵抗体を示している(以下「未焼成抵抗体220u」と呼ぶ)。図示するように、未焼成抵抗体220uは、未焼成のリード部221u、222uと、未焼成の発熱部223uと、未焼成の電極取出部281u、282uと、を含んでいる。また、本実施例では、第1リード部221uの後端と第2リード部222uの後端とを接続するサポート部224も、一体成形されている。サポート部224は、未焼成抵抗体220uの破損を抑制するために、設けられている。後述するように、サポート部224は、ステップS190で、切断される。なお、サポート部224を省略してもよい。
次のステップS130では、基体210の材料が生成される。具体的には、サイアロン構成粉末と、焼結助剤と、水と、を混合することによって、スラリーが生成される。生成されたスラリーから、スプレードライによって、粉末が生成される。生成された粉末とバインダとを混練機によって混練することによって、基体210の材料として、混合物が生成される。
サイアロン構成粉末としては、例えば、窒化珪素(Si3N4)の粉末と、アルミナ(Al2O3)の粉末と、窒化アルミニウム(AlN)の粉末と、を採用可能である。焼結助剤としては、例えば、希土類元素の酸化物粉末を採用可能である。希土類元素としては、上述の粒界相の説明で挙げた種々の元素を採用可能である。基体210の材料には、さらに、基体210の熱膨張係数を抵抗体220の熱膨張係数に近づけるために、熱膨張係数調整材を追加してもよい。熱膨張係数調整材としては、上述した種々の材料の粉末を採用可能である。これらの材料の配合比率としては、例えば、以下の比率を採用可能である。
サイアロン構成粉末:85wt%以上、97wt%以下
希土類酸化物粉末 :1wt%以上、15wt%以下
熱膨張係数調整材 :0.1wt%以上、5wt%以下
また、各材料の粉末の平均粒径は、5μm以下が好ましく、3μm以下が特に好ましく、1μm以下が最も好ましい。
次のステップS150では、ステップS130で生成された混合物を成形することによって、未焼成の成形体が成形される。図2の右部の部材40uは、成形される成形体を示している(以下「成形体40u」と呼ぶ)。図中の成形体40uの上には、成形体40uの分解斜視図が示されている。この分解斜視図は、成形体40uの基体210に対応する部分を中心軸CLを通る平面で2等分して得られる2つの部分211u、212uと、ステップS120で成形された未焼成抵抗体220uと、を示している。第1部分211uは、未焼成抵抗体220uの一部を収容するための凹部211rを有している。図示を省略するが、第2部分212uも、同様の凹部を有している。未焼成抵抗体220uは、これらの部分211u、212uに挟まれている。
このような成形体40uは、以下のように成形される。図示しない成形型の内の所定位置に未焼成抵抗体220uを配置する。そして、射出成形によって、ステップS130で生成された材料を、未焼成抵抗体220uを覆うように、成形する。以上により、成形体40uが成形される。なお、他の成形方法を採用してもよい。例えば、第1部分211uをプレス成形する。そして、図示しない成形型の内の所定位置に第1部分211uを配置する。次に、第1部分211uの凹部211rに、未焼成抵抗体220uを嵌め込む。次に、成形型の内の第2部分212uに対応する空間内に、ステップS130で生成された材料を充填し、プレス成形によって、成形体40uを成形する。
なお、ステップS130は、ステップS150よりも前の任意のタイミングで実行可能である。例えば、ステップS130は、ステップS110、S120の間、または、ステップS110よりも前に、実行可能である。
次のステップS160では、成形体40uからバインダを除去するために、仮焼が行われる。仮焼は、例えば、摂氏600度以上、摂氏800度以下の温度で、行われる。仮焼の後、冷間等方圧プレス(CIP)を行っても良い。
次のステップS170では、成形体40uが焼成される。これにより、焼結された部材(焼成体とも呼ぶ)が、生成される。焼成方法としては、例えば常圧焼成法が採用される。常圧焼成法を採用する場合、例えば、摂氏1500度以上、1800度以下の温度で、0.1MPaの圧力の非酸化雰囲気下(好ましくは、窒素分圧が0.05MPa以上)で、焼成が行われる。常圧焼成法は、安価に大量の成形体40uの焼成が可能である。
なお、焼成方法としては、他の方法を採用してもよい。例えば、ガス圧焼成法、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法等を採用可能である。ガス圧焼成法を採用する場合、例えば、摂氏1500度以上、1950度以下の温度で、0.1MPa以上、1MPa以下の圧力の非酸化雰囲気下(好ましくは、窒素分圧が0.05MPa以上)で、焼成が行われる。熱間等方圧加圧法(HIP)を採用する場合、例えば、常圧焼成法、または、ガス圧焼成法で1次焼成を行った後に、摂氏1450度以上、1900度以下の温度で、1MPa以上、200MPa以下の圧力の窒素雰囲気下(好ましくは、窒素分圧が0.05MPa以上)で、焼成(2次焼成)が行われる。ホットプレス法を採用する場合、例えば、0.1MPa以上、1MPa以下の非酸化雰囲気下(好ましくは、窒素分圧が0.05MPa以上)で、摂氏1450度以上、1900度以下の温度で、10MPa以上、50MPa以下の1軸加圧の下で、焼成が行われる。
次のステップS180では、成形体40uを焼成して得られる焼成体(図示せず)が、研磨加工される。これにより、焼成体の外形が、所定の形状に加工される。そして、次のステップS190で、焼成体のうちのサポート部224を含む端部が切断されて、焼成済のヒータ素子40が生成される。なお、サポート部224が省略される場合、ステップS190を省略可能である。
なお、α率とZ値とのそれぞれは、材料粉末の配合割合と焼成温度等を上記の好ましい範囲内で調整することによって、調整可能である。例えば、α率の調整は、主に、焼結助剤の組成を調整することによって、実現可能である。例えば、焼結助剤として、希土類酸化物粉末(例えば、Sc、Y、Dy、Er、Yb、Luのうちの少なくとも1種の酸化物粉末)と、Al2O3粉末と、AlN粉末と、を用いる場合、それらの含有量を調整することによって、α率を調整可能である。具体的には、Si3N4と、Si3N4に含まれるSiO2と、希土類酸化物と、Al2O3と、AlNと、その他の焼結助剤からの全Si量、全Al量、全O量、全N量、全希土類元素量の比率を調整することにより、α率を調整可能である。一般に、比率「Al2O3/AlN」を大きくすると、α率を小さくすることができ、逆に比率「Al2O3/AlN」を小さくすると、α率を大きくすることができる。
Z値は、例えば、材料中のAl2O3とAlNの含有量の比や、材料全体に対するAl2O3とAlNの合計割合を調整することで調整できる。一般に、Al2O3/AlNの比を大きく、またAl2O3とAlNの合計割合を少なくすると、Z値を小さくすることができ、Al2O3/AlNの比を小さく、またAl2O3とAlNの合計割合を大きくすると、Z値を大きくすることができる。
B.セラミックヒータ素子の評価試験:
B1.第1評価試験:
第1評価試験では、セラミックヒータ素子40のサンプルを用いて、ヒータ素子の素子強度と、温度変化に対する耐久性と、が評価された。以下の表1は、サンプルの種類の番号と、基体210の構成と、抵抗体220の構成と、素子強度の評価結果と、耐久性の評価結果と、の関係を示している。「A−1番」から「A−14番」までの14種類のサンプルが、評価された。
表1に示すように、基体210の構成としては、α−サイアロンの相の構成と、β−サイアロンの相の構成と、α率(単位は、%)と、希土類含有率(単位は、mol%)と、アルミニウム(Al)含有率(単位はmol%)と、酸素含有率OB(単位はwt%)と、が示されている。抵抗体220の構成としては、導電性化合物含有率(単位はvol%)と、導電性化合物の種類と、α−サイアロンの相の構成と、β−サイアロンの相の構成と、α率(単位は、%)と、希土類含有率(単位はmol%)と、アルミニウム(Al)含有率(単位はmol%)と、酸素含有率OL(単位はwt%)と、が示されている。表1は、さらに、抵抗体220の酸素含有率OLから基体210の酸素含有率OBを引いた差分DOと、素子強度(単位はMPa)と、オンオフ耐久性の評価結果と、を示している。
基体210のα率の算出方法は、上記の通りである。表1に示すように、「A−8番」のα率が、ゼロ%であり、他のサンプルのα率は、10%であった。すなわち、「A−8番」の基体210は、α−サイアロンを含まずに、β−サイアロンを含んでいる。他のサンプルの基体210は、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンを、含んでいる。
基体210の希土類含有率は、焼成後の基体210に含まれる各元素の総量(モル数)に対する希土類元素の量(モル数)の割合である。本評価試験では、基体210の材料(特に焼成後の基体210を形成する材料)として、Si3N4と、Al2O3と、AlNと、RE2O3と、が採用されている。ここで、「RE」は希土類元素である。評価試験のサンプルの製造には、希土類元素REとして、イッテルビウム(Yb)が採用された。そして、焼成済のヒータ素子40の基体210の断面を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面を、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA、日本電子製JXA−8800)を用いて、波長分散型X線検出器(WDS、加速電圧20kV、スポット径100μm)により分析することによって、希土類元素REを定量した。そして、基体210の全体に対する希土類元素REの割合を、希土類含有率として算出した。
基体210のアルミニウムの含有率は、同様に、焼成後の基体210に含まれる各元素の総量(モル数)に対するアルミニウムの量(モル数)の割合である。アルミニウムの含有率は、希土類含有率と同じ方法で、算出された。酸素含有率OBは、焼成後の基体210に含まれる各元素の総量に対する酸素元素の量の割合である。なお、酸素含有率OBは、基体210を粉砕して酸素の定量分析を行うことによって、特定した。酸素の定量分析としては、粉砕した基体210を不活性ガス雰囲気中で加熱によって溶融させ、発生したガス中の酸素量を測定することによって、酸素量を特定する方法を採用可能である。
抵抗体220の導電性化合物含有率は、焼成後の抵抗体220に対する導電性化合物の体積の割合である。導電性化合物の含有率としては、上記の近似体積率が採用された。また、本評価試験では、導電性化合物として「MoSi2(A−9番)」と「WSi2(A−10番)」と「WC(その他)」とが採用された。
抵抗体220のα率の算出方法は、上記の通りである。表1に示すように、「A−7番」のα率が、35%であり、他のサンプルのα率は、ゼロ%であった。すなわち、「A−7番」の抵抗体220は、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンを、含んでいる。他のサンプルの抵抗体220は、α−サイアロンを含まずに、β−サイアロンを含んでいる。
抵抗体220の希土類含有率は、焼成後の抵抗体220に含まれる各元素の総量(モル数)に対する希土類元素の量(モル数)の割合である。本評価試験では、抵抗体220の材料(特に焼成後の抵抗体220を形成する材料)として、導電性化合物と、Si3N4と、Al2O3と、AlNと、RE2O3と、が採用されている。評価試験のサンプルの製造には、希土類元素REとして、イッテルビウム(Yb)が採用された。そして、基体210の希土類含有率と同じ方法で、抵抗体220の希土類含有率が算出された。抵抗体220のアルミニウムの含有率は、同様に、焼成後の抵抗体220に含まれる各元素の総量(モル数)に対するアルミニウムの量(モル数)の割合である。アルミニウムの含有率は、希土類含有率と同じ方法で、算出された。
抵抗体220の酸素含有率OLは、焼成後の抵抗体220のうちの導電性化合物を除いた残りの部分における各元素の総量に対する酸素元素の量の割合である。以下、抵抗体220から導電性化合物を除いた残りの部分を「残余部分」と呼ぶ。残余部分は、サイアロンの相と粒界相との全体である。このような残余部分における酸素含有率OLは、以下の方法に従って、算出される。説明のために、以下のパラメータを用いる。
酸素重量率Wo :抵抗体220に対する酸素の重量率(wt%)
全体密度Da :抵抗体220の密度(g/cm3)
導電密度Dc :導電性化合物の密度(g/cm3)
導電体積率Vc :抵抗体220に対する導電性化合物の体積率(vol%)
残余体積率Vr :抵抗体220に対する残余部分の体積率(vol%)
残余密度Dr :残余部分の密度(g/cm3)
導電重量率Wc :抵抗体220に対する導電性化合物の重量率(wt%)
残余重量率Wr :抵抗体220に対する残余部分の重量率(wt%)
抵抗体220に対する酸素の重量率Wo(wt%)は、抵抗体220を粉砕して酸素の定量分析を行うことによって、特定される。酸素の定量分析の方法としては、基体210の酸素含有率OBで説明した方法と同じ方法が、採用される。
抵抗体220の密度Da(g/cm3)は、抵抗体220の一部を切り出し、切り出した部分の体積と重量とを測定することによって、算出される。
導電性化合物の密度Dc(g/cm3)としては、導電性化合物の理論密度が採用される。理論密度は、導電性化合物に応じて、予め決まっている。例えば、以下の通りである。
WC :15.8g/cm3
WN :18.0g/cm3
WSi2 : 9.9g/cm3
Mo2C : 8.9g/cm3
Mo2N : 9.1g/cm3
MoSi2 : 6.3g/cm3
抵抗体220に対する導電性化合物の体積率Vc(vol%)としては、上記の近似体積率が、採用される。
抵抗体220に対する残余部分の体積率Vr(vol%)は、100vol%から導電性化合物の体積率Vcを減算することによって、算出される。
残余部分の密度Dr(g/cm3)は、以下の演算式によって、算出される。
Dr=(Da*100 − Dc*Vc)/Vr
(演算記号「*」は、乗算記号。以下、同様)
抵抗体220に対する導電性化合物の重量率Wc(wt%)は、以下の演算式によって、算出される。
Wc=(Vc*Dc)/((Vc*Dc)+(Vr*Dr))*100
抵抗体220に対する残余部分の重量率Wrは、以下の演算式によって、算出される。
Wr=(Vr*Dr)/((Vc*Dc)+(Vr*Dr))*100
なお、Wc+Wrは、100%である。
残余部分における酸素含有率OL(wt%)は、以下の演算式によって、算出される。
OL=Wo/Wr*100
ここで、導電性化合物には、酸素が含まれていないこととした。
なお、導電性化合物の種類は、X線回折を用いて特定可能である。
酸素含有率の差分DO(OL−OB)は、抵抗体220の酸素含有率OLから基体210の酸素含有率OBを引いた差分である。本評価試験では、差分DOとして、−3.6、−2.2、−2.0、−0.9、0.8、1.3、2.1、2.8、4.9、6.0、7.2、8.7(wt%)の12個の値が評価された。なお、A−2番とA−9番とA−10番との3つのサンプルの差分DOは、同じ「1.3」であった。
素子強度は、サンプルの種類毎に、構成が同じである30個のヒータ素子のサンプルを用いて、以下のように算出された。すなわち、30個のサンプルのそれぞれに対して、3点支持の曲げ試験(支点間距離=10mm、クロスヘッド速度=0.5mm/分)を行い、折れた時の最大曲げ応力を算出した。この曲げ試験は、JIS R 1601に従って、行われた。そして、30個のサンプルの曲げ応力のうちの最も小さい曲げ応力を、素子強度として採用した。
オンオフ耐久性は、以下に説明する加熱と冷却とのサイクルを繰り返すことによって、評価された。1回のサイクルでは、ヒータ素子の表面温度が1.8秒で摂氏1000度に達するようにヒータ素子に電圧を印加し、その電圧を維持しつつ表面温度が摂氏1250度になるまで電圧印加を継続し、その後、電圧印加を止めて、30秒間、ファンを用いて風冷を行った。そして、ヒータ素子の抵抗値が試験前の抵抗値に対して10%以上変化するサイクル数を測定した。A評価は、サイクル数が10万以上であることを示し、B評価は、サイクル数が2万以上10万未満であることを示し、C評価は、サイクル数が5百以上2万未満であることを示している。なお、D評価は、500サイクル未満で抵抗体220が断線したことを示している。
なお、A−12番のサンプルでは、焼結時に抵抗体220にクラックが発生した。また、A−14番のサンプルでは、焼結時に基体210にクラックが発生した。従って、これら2種類のサンプルに関しては、素子強度とオンオフ耐久性との評価を省略した。
表1に示すように、酸素含有率の差分DOが−2.0wt%以上、6.0wt%以下である場合、すなわち、酸素含有率の差の絶対値が比較的小さい場合に、650MPa以上の素子強度と、良好なオンオフ耐久性(具体的には、B評価以上)と、を実現可能であった。この理由は、基体210と抵抗体220との間の酸素含有率の差を小さくすることによって、基体210と抵抗体220との間の焼結時の挙動の差を小さくできるからだと推定される。具体的には、酸素含有率が多いことは、酸素含有率が少ない場合と比べて、焼結助剤が多いことを示している。従って、酸素含有率が多い場合には、酸素含有率が少ない場合と比べて、焼結時に形成される液相の量が多く、そして、焼結の進行が速い。ここで、基体210と抵抗体220との間の酸素含有率の差の絶対値を小さくすることによって、基体210と抵抗体220との間の焼結の進行の差を、小さくできる。この結果、焼成済の基体210と抵抗体220との間に隙間が生じる等の不具合が抑制されるので、素子強度とオンオフ耐久性を向上できる、と推定される。
なお、比較的良好な評価結果(C評価以上の評価結果)が得られた酸素含有率の差分DOは、−2.0、−0.9、0.8、1.3、2.1、2.8、4.9、6.0(wt%)であった。これらの値のうちの任意の値を、酸素含有率の差分DOの好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の下限として採用可能である。例えば、酸素含有率の差分DOとしては、−2.0wt%以上の値を採用可能である。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、酸素含有率の差分DOの好ましい範囲の上限として採用可能である。例えば、酸素含有率の差分DOとしては、6.0wt%以下の値を採用可能である。
A−11番とA−12番とが示すように、差分DOが6wt%よりも大きい場合、オンオフ耐久性の試験で抵抗体220の断線が生じ(DO=7.2wt%)、また、焼成時に抵抗体220にクラックが生じた(DO=8.7wt%)。この理由は、基体210よりも抵抗体220の焼結が先に進行したからだと推定される。
A−13番とA−14番とが示すように、差分DOが−2wt%よりも小さい場合、素子強度が小さくなり(DO=−2.2wt%)、また、焼成時に基体210にクラックが生じた(DO=−3.6wt%)。この理由は、抵抗体220よりも基体210の焼結が先に進行したからだと推定される。
また、基体210の酸素含有率OBとしては、2.0、3.5、4.1、5.7(wt%)の4つの値が評価された。表1に示すように、酸素含有率OBと差分DOとの種々の組み合わせが、650MPa以上の素子強度と、良好なオンオフ耐久性(具体的には、B評価以上)と、を実現可能であった。従って、これらの4つの値を含む範囲を、基体210の酸素含有率OBの好ましい範囲として採用可能である。例えば、酸素含有率OBとしては、2.0wt%以上、6.5wt%以下の値を採用可能である。また、上記の4つの値のうちの任意の値を、酸素含有率OBの好ましい範囲の下限として採用可能である。例えば、酸素含有率OBとしては、2.0wt%以上の値を採用可能である。また、上記の4つの値のうちの下限以上の任意の値を、酸素含有率OBの好ましい範囲の上限として採用可能である。例えば、酸素含有率OBとしては、5.7wt%以下の値を採用可能である。
また、抵抗体220の酸素含有率OLとしては、2.1、3.6、4.8、5.6、6.5、9.5、10.6、10.7(wt%)の8個の値が評価された。表1に示すように、酸素含有率OLと差分DOとの種々の組み合わせが、650MPa以上の素子強度と、良好なオンオフ耐久性(具体的には、B評価以上)と、を実現可能であった。従って、これらの8つの値を含む範囲を、抵抗体220の酸素含有率OLの好ましい範囲として採用可能である。例えば、酸素含有率OLとしては、2.0wt%以上、11wt%以下の値を採用可能である。また、上記の8つの値のうちの任意の値を、酸素含有率OLの好ましい範囲の下限として採用可能である。例えば、酸素含有率OLとしては、2.1wt%以上の値を採用可能である。また、上記の8つの値のうちの下限以上の任意の値を、酸素含有率OLの好ましい範囲の上限として採用可能である。例えば、酸素含有率OLとしては、10.7wt%以下の値を採用可能である。
また、表1に示すように、基体210がα−サイアロンを含まずにβ−サイアロンを含むサンプルと、基体210がα−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンを含むサンプルと、の両方が、650MPa以上の素子強度と、良好なオンオフ耐久性(具体的には、B評価以上)と、を実現可能であった。このように、基体210のサイアロンの相としては、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方を、採用可能である。いずれの場合も、差分DOと、基体210の酸素含有率OBと、抵抗体220の酸素含有率OLと、のそれぞれの上述の好ましい範囲を、適用可能と推定される。
また、表1に示すように、抵抗体220がα−サイアロンを含まずにβ−サイアロンを含むサンプルと、抵抗体220がα−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンを含むサンプルと、の両方が、650MPa以上の素子強度と、良好なオンオフ耐久性(具体的には、B評価以上)と、を実現可能であった。このように、抵抗体220のサイアロンの相としては、β−サイアロンと、α−サイアロンとβ−サイアロンとの混相サイアロンと、の少なくとも一方を、採用可能である。いずれの場合も、差分DOと、基体210の酸素含有率OBと、抵抗体220の酸素含有率OLと、のそれぞれの上述の好ましい範囲を、適用可能と推定される。
B2.第2評価試験:
第2評価試験では、セラミックヒータ素子のサンプルを用いて、ヒータ素子の素子強度が評価された。以下の表2は、サンプルの種類の番号と、基体210に含まれる結晶粒子の組成と、結晶粒子の含有率と、素子強度の評価結果と、の関係を示している。結晶粒子は、サイアロンの相と粒界相とに加えて基体210に追加された化合物(すなわち、「追加化合物」)の結晶粒子である。このような追加化合物の結晶粒子(すなわち、粒子状の結晶相)は、例えば、サイアロンの相と別のサイアロンの相との間の粒界相中に、形成される。後述するように、第2評価試験では、追加化合物として、アルミニウム以外の金属を含む化合物が、採用された。なお、各サンプルにおいて、基体210のα率は10%であり、抵抗体220のα率はゼロ%であった。
「B−1番」のサンプルは、表1の「A−2番」のサンプルと同一である。「B−2番」から「B−7番」の6種類のサンプルは、「B−1番」のサンプルの基体210にタングステンの珪化物(例えば、WSi2)の結晶粒子が追加されたサンプルである。「C−1番」から「C−6番」の6種類のサンプルは、「B−1番」のサンプルの基体210にクロムの珪化物(例えば、CrSi2)の結晶粒子が追加されたサンプルである。「D−1番」から「D−12番」の12種類のサンプルは、それぞれ、「B−1番」のサンプルの基体210に以下の金属の化合物の結晶粒子が追加されたサンプルである。
D− 1番:鉄(Fe)の珪化物(例えば、FeSi2)
D− 2番:タングステン(W)の珪化物とクロム(Cr)の珪化物
D− 3番:チタン(Ti)の窒化物(例えば、TiN)
D− 4番:モリブデン(Mo)の珪化物(例えば、MoSi2)
D− 5番:モリブデン(Mo)の炭化物(例えば、Mo2C)
D− 6番:タングステン(W)の炭化物(例えば、WC)
D− 7番:バナジウム(V)の珪化物(例えば、V3Si)
D− 8番:タンタル(Ta)の炭化物(例えば、TaC)
D− 9番:ジルコニウム(Zr)の炭化物(例えば、ZrC)
D−10番:ニオブ(Nb)の炭化物(例えば、NbC)
D−11番:ハフニウム(Hf)の酸化物(例えば、HfO2)
D−12番:ジルコニウム(Zr)の酸化物(例えば、ZrO2)
これらのサンプルの間では、追加化合物の結晶粒子が基体210に追加された点以外の構成は、共通であった。これらのサンプルは、基体210の材料に追加化合物の結晶粒子を形成する材料を添加することによって、製造された。
表2の結晶粒子含有率は、焼成後の基体210における結晶粒子の含有率である(単位は、体積パーセント)。この含有率としては、上記の近似体積率が採用された。
「B−1番」から「B−7番」の7種類のサンプルの結晶粒子含有率は、それぞれ、0、1、3、5、8、10、15(vol%)であった。また、「C−1番」から「C−6番」の6種類のサンプルの結晶粒子含有率は、それぞれ、1、3、5、8、10、15(vol%)であった。「D−1番」から「D−12番」の12種類のサンプルの結晶粒子含有率は、いずれも、3vol%であった。
表2の素子強度は、上記の第1評価試験の素子強度と、同じ方法で決定された。
表2に示すように、追加化合物の種類に拘わらずに、追加化合物の結晶粒子を追加することによって、追加化合物の結晶粒子が追加されていない「B−1番」の素子強度(820MPa)と比べて、素子強度を向上することができた。この理由は、以下のように推定される。すなわち、追加化合物の結晶粒子を追加することによって、窒化珪素粒子の肥大化が抑制され、そして、緻密で微細な組織が形成される。この結果、ヒータ素子の強度が向上する。
また、タングステンの珪化物を含むサンプル(「B−1番」から「B−7番」)と、クロムの珪化物を含むサンプル(「C−1番」から「C−6番」)と、が示すように、結晶粒子含有率がゼロよりも大きい場合には、素子強度は、結晶粒子含有率が大きいほど小さくなる傾向にある。ここで、結晶粒子含有率の好ましい範囲について検討する。追加化合物の結晶粒子が追加されていない「B−1番」の素子強度(820MPa)からの増加量として20MPa以上を実現する結晶粒子含有率、すなわち、840MPa以上の素子強度を実現する結晶粒子含有率は、1、3、5、8、10(vol%)であった。これらの値のうちの任意の値を、結晶粒子含有率の好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の上限として採用可能である。例えば、結晶粒子含有率としては、10vol%以下の値を採用可能である。また、これらの値のうちの上限以下の任意の値を、結晶粒子含有率の好ましい範囲の下限として採用可能である。例えば、結晶粒子含有率としては、1vol%以上の値を採用可能である。なお、結晶粒子含有率としては、1vol%以上の値に限らず、ゼロよりも大きな種々の値を採用可能と推定される。
他の追加化合物の結晶粒子を含むサンプル(「D−1番」から「D−12番」のサンプル)に関しても、3vol%の結晶粒子含有率が、840MPa以上の素子強度を実現した。従って、上述した結晶粒子含有率の好ましい範囲は、種々の追加化合物の結晶粒子に適用可能である、と推定される。
なお、ヒータ素子のサンプルに含まれる結晶粒子の組成(すなわち、追加化合物の組成)は、X線回折もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)による結晶相の同定によって特定可能である。
また、基体210の焼結時の挙動は、追加化合物よりも焼結助剤から大きな影響を受けると推定される。従って、追加化合物と結晶粒子含有率との種々の組み合わせに対して、酸素含有率の差分DOの上記の好ましい範囲を適用可能と推定される。同様に、酸素含有率OBの上記の好ましい範囲と、酸素含有率OLの上記の好ましい範囲とも、適用可能と推定される。また、基体210のサイアロンの相としては、β−サイアロンと混相サイアロンとの少なくとも一方を採用可能であると推定される。また、抵抗体220のサイアロンの相としては、β−サイアロンと混相サイアロンとの少なくとも一方を採用可能であると推定される。
B3.第3評価試験:
第3評価試験では、セラミックヒータ素子のサンプルを用いて、ヒータ素子の素子強度が評価された。以下の表3は、サンプルの種類の番号と、基体210中のSiCの含有率と、基体210中のW珪化物の含有率と、素子強度の評価結果と、オンオフ耐久性と、の関係を示している。なお、各サンプルにおいて、基体210のα率は10%であり、抵抗体220のα率はゼロ%であった。
「E−1番」のサンプルは、表1の「A−2番」のサンプルと同一である。「E−2番」から「E−6番」の5種類のサンプルは、「E−1番」のサンプルにSiCが追加されたサンプルである。「E−7番」のサンプルは、「E−1番」のサンプルに、SiCとWの珪化物(例えば、WSi2)とが追加されたサンプルである。これらのサンプルの間では、SiC、または、SiCとWの珪化物が基体210に追加された点以外の構成は、共通であった。これらのサンプルは、基体210の材料にSiC、または、SiCとWの珪化物の材料を添加することによって、製造された。
表3のSiCの含有率は、焼成済のヒータ素子40の基体210に対するSiCの体積の割合である。SiCの含有率としては、上記の近似体積率が採用された。また、表3のW珪化物の含有率は、焼成済のヒータ素子40の基体210に対するWの珪化物の体積の割合である。Wの珪化物の含有率としては、上記の近似体積率が採用された。
表3の素子強度は、上記の第1評価試験の素子強度と、同じ方法で決定された。オンオフ耐久性は、上記の第1評価試験のオンオフ耐久性と同様に評価された。ただし、通電時の最高温度は、摂氏1250度から摂氏1300度に変更された。すなわち、第3評価試験のオンオフ耐久性は、第1評価試験のオンオフ耐久性と比べて、厳しい条件下で行われた。
表3に示すように、SiCを添加することによって、SiCが添加されていない「E−1番」の素子強度(820MPa)と比べて、素子強度を向上できた。この理由は、以下のように推定される。すなわち、SiCは、焼結中に液相に取り込まれにくいので、窒化珪素粒子の肥大化を抑制できる。この結果、緻密で微細な組織が形成されるので、ヒータ素子の強度が向上する。
また、上述したように、抵抗体220の導電性化合物の含有率は、基体210の導電性化合物の含有率(ここでは、ゼロvol%)よりも、高い。一般に、導電性化合物の含有率が高いほど、焼結の進行が遅いので、抵抗体220の焼結は、基体210の焼結よりも、遅くなる傾向がある。基体210にSiCが添加されると、基体210の焼結の進行を遅くすることができる。従って、基体210と抵抗体220との間の焼結時の挙動の差を小さくできる。この結果、焼結時の不具合を抑制でき、そして、ヒータ素子の強度を向上できる。
また、表3に示すように、SiCを添加することによって、SiCが添加されていない「E−1番」と比べて、オンオフ耐久性を向上できた。なお、良好な評価(すなわち、A評価)が得られたSiCの含有率は、0.5、1.0、3.0、5.0(vol%)であった。これらの値のうちの任意の値を、SiCの含有率の好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の上限として採用可能である。例えば、SiCの含有率としては、5vol%以下の値を採用可能である。また、これらの値のうちの上限以下の任意の値を、SiCの含有率の好ましい範囲の下限として採用可能である。例えば、SiCの含有率としては、0.5vol%以上の値を採用可能である。なお、SiCの含有率としては、0.5vol%以上の値に限らず、ゼロよりも大きな種々の値を採用可能である。また、SiCの含有率がゼロvol%であってもよい。
また、E−2番とE−7番が示すように、0.5vol%のSiCに、1.0vol%のWの珪化物を追加することによって、素子強度を向上できた。なお、Wの珪化物を追加する場合のSiCの含有率としては、0.5vol%に限らず、上記の好ましい範囲内の種々の値を採用可能と推定される。また、Wの珪化物の含有率としては、1.0vol%に限らず、表2で説明した結晶粒子含有率の好ましい範囲内の種々の値を採用可能と推定される。また、表2に示すように、Wの珪化物に限らず他の種々の化合物が、素子強度を向上可能である。従って、SiCとWの珪化物との組合せに限らず、SiCと他の化合物との組合せも、素子強度を向上可能と推定される。
なお、基体210の焼結時の挙動は、SiCよりも焼結助剤から大きな影響を受けると推定される。従って、SiCの種々の含有率に対して、酸素含有率の差分DOの上記の好ましい範囲を適用可能と推定される。同様に、酸素含有率OBの上記の好ましい範囲と、酸素含有率OLの上記の好ましい範囲とも、適用可能と推定される。また、基体210のサイアロンの相としては、β−サイアロンと混相サイアロンとの少なくとも一方を採用可能であると推定される。また、抵抗体220のサイアロンの相としては、β−サイアロンと混相サイアロンとの少なくとも一方を採用可能であると推定される。また、基体210は、SiCに加えて、種々の追加化合物(第2評価試験参照)を含んでもよい。この場合も、ヒータ素子の強度を向上できる、と推定される。
B4.第4評価試験:
第4評価試験では、セラミックヒータ素子のサンプルを用いて、ヒータ素子の耐久性が評価された。以下の表4は、サンプルの種類の番号と、基体210中のTi成分の含有率と、基体210中のSiCの含有率と、基体210中のWの珪化物の含有率と、連続耐久性と、素子強度と、オンオフ耐久性と、の関係を示している。なお、各サンプルにおいて、基体210のα率は10%であり、抵抗体220のα率はゼロ%であった。
「F−1番」のサンプルは、表1の「A−2番」のサンプルと同一である。「F−2番」から「F−5番」の4種類のサンプルは、「F−1番」のサンプルにTi成分が追加されたサンプルである。「F−6番」のサンプルは、「F−1番」のサンプルにTi成分とWの珪化物(例えば、WSi2)とが追加されたサンプルである。「F−7番」のサンプルは、「F−1番」のサンプルにTi成分とSiCとが追加されたサンプルである。「F−8番」のサンプルは、「F−1番」のサンプルにTi成分とSiCとWの珪化物とが追加されたサンプルである。これらのサンプルの間では、Ti成分とSiCとWの珪化物とのうちの対応する成分が基体210に追加された点以外の構成は、共通であった。これらのサンプルは、基体210の材料にTi成分の材料とSiCとWの珪化物の材料とのうちの対応するものを添加することによって、製造された。なお、Ti成分の材料としては、TiO2を含む材料が添加された。また、基体210中には、Ti成分として、Tiを含む種々の物質(例えば、TiO2、Tiの珪化物、Tiの窒化物等のTiを含む化合物)が、含まれ得る。
表4のTi成分の含有率は、基体210中のTi成分の量をTiO2の量に換算して得られる含有率である(単位は、重量パーセント)。この含有率は、以下のように特定された。焼成済のヒータ素子40の基体210の断面を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面を、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA、日本電子製JXA−8800)を用いて、波長分散型X線検出器(WDS、加速電圧20kV、スポット径100μm)により分析することによって、Ti成分を定量した。そして、定量したTi成分をTiO2換算し、基体210のうちの追加化合物を除いた残りの部分に対するTi成分(TiO2換算値)の割合を、Ti成分の含有率として算出した。なお、基体210中のサイアロンの相と粒界相との全体が、基体210のうちの追加化合物を除いた残りの部分に対応する。
表4のSiC含有率は、焼成済のヒータ素子40の基体210に対するSiCの体積の割合である。SiCの含有率としては、上記の近似体積率が採用された。また、表4のW珪化物の含有率は、焼成済のヒータ素子40の基体210に対するWの珪化物の体積の割合である。Wの珪化物の含有率としては、上記の近似体積率が採用された。
連続耐久性は、以下のように評価した。すなわち、ヒータ素子の表面温度が摂氏1300度になるようにヒータ素子に電圧を印加し、その温度を維持するように1000時間の連続通電を行った。そして、連続通電の前と後とにヒータ素子の電気抵抗値を測定し、連続通電による電気抵抗値の変化量を算出した。また、電気抵抗値の測定後、ヒータ素子を、中心軸CL(図1(B))を含む平面で切断し、断面を鏡面研磨し、鏡面研磨された断面を電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって分析することによって、抵抗体220の近傍におけるヒータ素子の成分の移動(マイグレーション)が生じたか否かを確認した。通電時には、2つのリード部221、222(図1(B))の間の電位差に起因して、2つのリード部221、222の間で、ヒータ素子の成分(例えば、希土類元素やアルミニウム等の焼結助剤の成分)が移動し得る。このような移動が生じると、ヒータ素子内の成分の分布が偏るので、ヒータ素子の強度が低下し得る。
表4のA評価は、電気抵抗値の増大量が10%未満であり、かつ、マイグレーションが観察されなかったことを示している。B評価は、電気抵抗値の増大量が10%未満であり、かつ、マイグレーションが観察されたことを示している。C評価は、電気抵抗値の増大量が10%以上であり、かつ、マイグレーションが観察されたことを示している。
素子強度の評価方法は、上記の第1評価試験の素子強度の評価方法と、同じである。オンオフ耐久性は、上記の第1評価試験のオンオフ耐久性と同様に評価された。ただし、通電時の最高温度は、摂氏1250度から摂氏1300度に変更された。すなわち、第4評価試験のオンオフ耐久性は、第1評価試験のオンオフ耐久性と比べて、厳しい条件下で行われた。
次に、連続耐久性から順番に、評価試験の結果について説明する。表4には示していないが、摂氏1250度で連続耐久性の評価試験を行った場合には、Ti成分の有無に拘わらず、電気抵抗値の増大量は10%未満であり、マイグレーションは観察されなかった。しかし、摂氏1300度で連続耐久性の評価試験を行う場合には、表4のF−1番が示すように、電気抵抗値の増大量が10%以上であり、マイグレーションが観察された。この場合も、表4に示すように、TiO2を添加することによって、TiO2が添加されていない「F−1番」と比べて、連続耐久性を向上できた。この理由は、以下のように推定される。すなわち、TiO2を添加すると、焼結中に形成される液相が増えるので、焼結性が向上する。また、TiO2は、焼成によって、Tiの珪化物、または、Tiの窒化物に、変換され得る。従って、TiO2を添加した場合であっても、粒界相にTiO2が残ることが抑制されるので、耐熱性を向上できる。以上により、耐久性を向上できる。
なお、Ti成分の含有率が過剰な場合には、連続耐久性が低下する(特に「F−5番」)。この理由は、以下のように推定される。すなわち、Ti成分の含有率が過剰な場合、焼成後のヒータ素子の粒界相にTiO2が残っているので、通電時にマイグレーションが生じ得る。従って、連続耐久性が低下する。
「F−2番」から「F−4番」が示すように、連続耐久性に関して、良好な評価(すなわち、A評価)が得られたTi成分の含有率は、0.5、1.0、2.0(wt%)であった。また、「F−6番」から「F−8番」が示すように、Ti成分に加えて、SiCとWの珪化物との少なくとも一方が追加される場合にも、0.5wt%のTi成分含有率が、A評価の連続耐久性を実現した。これらの値のうちの任意の値を、Ti成分の含有率の好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の上限として採用可能である。例えば、Ti成分の含有率としては、2wt%以下の値を採用可能である。また、これらの値のうちの上限以下の任意の値を、Ti成分の含有率の好ましい範囲の下限として採用可能である。例えば、Ti成分の含有率としては、0.5wt%以上の値を採用可能である。なお、Ti成分の含有率としては、0.5wt%以上の値に限らず、ゼロwt%よりも大きな種々の値を採用可能である。また、Ti成分の含有率が、ゼロwt%であってもよい。
素子強度については、F−1番からF−8番のいずれのサンプルも、810MPa以上の素子強度を実現できた。また、オンオフ耐久性については、F−1番からF−5番の評価結果はD評価であった。この理由は、上述したように、第4評価試験では、第1評価試験と比べて、厳しい条件下でオンオフ耐久性が評価されたからである。
また、F−2番とF−6番が示すように、0.5wt%のTi成分に加えて、1.0vol%のWの珪化物を追加することによって、素子強度とオンオフ耐久性とを向上できた。また、F−2番とF−7番が示すように、0.5wt%のTi成分に加えて、0.5vol%のSiCを追加することによって、素子強度とオンオフ耐久性とを更に向上できた。また、F−2番とF−8番とが示すように、0.5wt%のTi成分に加えて、0.5vol%のSiCと1.0vol%のWの珪化物とを追加することによって、オンオフ耐久性を更に向上でき、素子強度をより一層に向上できた。
なお、SiCとWの珪化物との少なくとも一方を追加する場合のTi成分の含有率としては、0.5wt%に限らず、上記の好ましい範囲内の種々の値を採用可能と推定される。また、SiCの含有率としては、0.5vol%に限らず、表3で説明した好ましい範囲内の種々の値を採用可能と推定される。また、Wの珪化物の含有率としては、1.0vol%に限らず、表2で説明した結晶粒子含有率の好ましい範囲内の種々の値を採用可能と推定される。また、表2に示すように、Wの珪化物に限らず他の種々の化合物が、素子強度を向上可能である。従って、Ti成分とWの珪化物とを含む組合せに限らず、Ti成分と他の化合物とを含む組合せも、素子強度とオンオフ耐久性との少なくとも一方を向上可能と推定される。
なお、チタン(Ti)を含む化合物の中では、酸化チタン(TiO2)は、空気中で安定な化合物である。従って、焼成後の基体210がTi成分を含む場合、基体210の材料としてTiO2が用いられていると推定される。そして、焼成後の基体210に含まれるTi成分の量を特定することによって、基体210の材料中のTiO2の含有率を推定できる。
なお、基体210の焼結時の挙動は、希土類元素の酸化物とアルミナといった焼結助剤から大きな影響を受けると推定される。従って、Ti成分の種々の含有率に対して、酸素含有率の差分DOの上記の好ましい範囲を適用可能と推定される。同様に、酸素含有率OBの上記の好ましい範囲と、酸素含有率OLの上記の好ましい範囲とも、適用可能と推定される。また、基体210のサイアロンの相としては、β−サイアロンと混相サイアロンとの少なくとも一方を採用可能であると推定される。また、抵抗体220のサイアロンの相としては、β−サイアロンと混相サイアロンとの少なくとも一方を採用可能であると推定される。
C.変形例:
(1)表1で説明したように、酸素含有率の差分DOは、基体210と抵抗体220との間の焼結時の挙動の差の評価値に対応する。従って、基体210の構成と抵抗体220の構成とに拘わらずに、酸素含有率の差分DOの上記の好ましい範囲を適用可能と推定される。例えば、基体210のα率と抵抗体220のα率とのそれぞれとしては、上述した種々の値を採用可能である。また、基体210のZ値と抵抗体220のZ値とのそれぞれとしては、上述した種々の値を採用可能である。また、基体210(より具体的には、基体210の粒界相)に含まれる希土類元素としては、イッテルビウム(Yb)に限らず、種々の希土類元素(例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの少なくとも1種)を採用可能である。同様に、抵抗体220(より具体的には、抵抗体220の粒界相)に含まれる希土類元素としても、種々の希土類元素を採用可能である。なお、基体210と抵抗体220との間の焼成時の挙動の差を小さくするためには、基体210(特に粒界相)に含まれる希土類元素(第1希土類元素と呼ぶ)が、抵抗体220(特に粒界相)に含まれる希土類元素(第2希土類元素と呼ぶ)と同じであることが、好ましい。ただし、基体210の第1希土類元素が、抵抗体220の第2希土類元素と異なっていてもよい。
また、表2で説明したように、基体210は、種々の追加化合物の結晶粒子を含み得る(例えば、ZrO2の結晶粒子)。追加化合物としては、表2で説明した化合物に限らず、種々の化合物を採用可能である。例えば、基体210は、Cr、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Feから選ばれる少なくとも1種の窒化物、炭化物、珪化物、酸化物から選ばれる少なくとも1種の結晶粒子を、含んでも良い。このような化合物の含有率としては、第2評価試験で説明した好ましい範囲(例えば、ゼロvol%を超え10vol%以下)の値を採用可能である。なお、このような結晶粒子の組成は、X線回折を用いて特定可能である。
基体210が追加化合物の結晶粒子を含む場合、基体210の酸素含有率OBとしては、基体210から追加化合物の結晶粒子を除いた部分における酸素含有率が採用される。追加化合物の結晶粒子は、焼結の進行よりも、窒化珪素の組織の肥大化の抑制に、大きく寄与すると推定される。従って、追加化合物の結晶粒子を除いた部分における酸素含有率を採用することによって、基体210と抵抗体220との間の焼結時の挙動の差を、適切に評価できる。
いずれの場合も、基体210の酸素含有率OBは、焼成後のヒータ素子を用いて特定することも可能である。例えば、ヒータ素子に含まれる追加化合物の結晶粒子の組成を、X線回折を用いて特定する。そして、抵抗体220のうちの導電性化合物を除いた部分における酸素含有率OLを特定した方法と同じ方法を用いて、基体210のうちの追加化合物の結晶粒子を除いた部分における酸素含有率OBを特定可能である。追加化合物が酸素を含む場合、基体210に含まれる酸素量から、追加化合物の酸素量を減算して得られる酸素量を用いることによって、焼成後の基体210から追加化合物の結晶粒子を除いた残りの部分における酸素含有率OBを算出できる。
(2)抵抗体220に含まれる導電性化合物としては、WCとMoSi2とWSi2とに限らず、種々の導電性化合物を採用可能である。例えば、Moの珪化物と、Moの窒化物と、Moの炭化物と、Wの珪化物と、Wの窒化物と、Wの炭化物と、のうちの少なくとも1つを採用可能である。いずれの場合も、抵抗体220の焼結時の挙動は、導電性化合物よりも焼結助剤から大きな影響を受けると推定される。従って、種々の導電性化合物に、酸素含有率の差分DOの上記の好ましい範囲を適用可能と推定される。また、上述したように、導電性化合物の種類に拘わらず、焼成後のヒータ素子を用いて、抵抗体220の酸素含有率OLを特定可能である。
また、抵抗体220の導電性化合物含有率としては、30vol%と28vol%とに限らず、種々の値を採用可能である。また、WCとは異なる導電性化合物を採用する場合にも、種々の導電性化合物含有率を採用可能である。
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。