以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
(実施形態の構成)
図1は、実施形態に係るポリ塩化ビフェニル分解システムの構成を説明するための図である。図2は、実施形態に係るPCB分解槽の構成を説明するための図である。
図1において、ポリ塩化ビフェニル分解システム(以下、「PCB分解システム」と略記する。)1は、ポリ塩化ビフェニル貯油槽(以下、「PCB貯油槽」と略記する。)11と、凝縮装置12と、第1乃至第3スクラバ13、26、27と、洗浄槽14と、中和材貯水槽15と、予熱器16と、中和補助槽17と、油水分離槽18と、アルカリイオン水貯水槽19と、PCB分解槽20Aと、中和槽21と、第1乃至第3乳化機22、23、24と、燃焼炉25と、PCB分解油貯油槽28と、塩水貯水槽29とを備えて構成され、酸化還元電位が−850mV以下のアルカリイオン水を用いてPCBを例えば灯油及び軽油等の炭化水素油(以下、「PCB分解油」と呼称する。)に分解すると共に、この分解に伴って生じた塩化水素(HCl)や塩を処理する。
PCB貯油槽11は、PCB又はPCBを含む炭化水素油を貯溜する容器である。以下、実施形態では、PCB又はPCBを含む炭化水素油を総称して「PCB含有油」と総称する。
予熱器16は、PCB分解槽20Aからの燃焼ガスを利用することによって、PCB含有油を加熱して予熱する装置である。予熱器16は、例えば、PCB含有油が流通するPCB含有油管と、燃焼ガスが流通する燃焼ガス管とを備え、燃焼ガス管は、PCB含有油管の外周に巻かれ、又は、PCB含有油管内に配置されて構成され、燃焼ガス管内の燃焼ガスの熱がPCB含有油管中のPCB含有油へ熱伝導される。
アルカリイオン水貯水槽19は、酸化還元電位が−850mV以下であってpHが12以上であるアルカリイオン水を貯溜する容器である。酸化還元電位の調整方法は、様々な方法が知られており、酸化還元電位は、例えば、アルカリイオン水を電気分解すること等によって−850mV以下に調整される。
第1乳化機22は、酸化還元電位が−850mV以下であってpHが12以上であるアルカリイオン水をPCB含有油中に乳化するによって乳濁液(エマルジョン)Eを生成する装置である。乳濁液Eは、アルカリイオン水の微細粒子がPCB含有油中に分散する油中水滴型である。第1乳化機22は、例えば、撹拌羽を備え、アルカリイオン水及びPCB含有油を高速撹拌処理することによって油中水滴型の乳濁液Eを生成する。
PCB分解槽20Aは、乳濁液Eの液滴Dが当該PCB分解槽20A内における熱媒体Mの表面Sへ滴下されるように第1乳化機22が当該PCB分解槽20Aに連通されており、PCBをPCB分解油に分解する装置である。
PCB分解槽20Aは、例えば、図2に示すように、熱媒体Mを貯溜する容器である分解槽51と、分解槽51を加熱することによって熱媒体Mを加熱する加熱部52とを備え、第1乳化機22で生成された乳濁液Eの液滴Dが熱媒体Mの表面Sへ滴下されるように、第1乳化機22とPCB分解槽20Aの分解槽51が連通され、乳濁液Eの液滴Dが導入されるようになっている。
分解槽51は、例えば、比較的大きな内容積であって、有蓋有底の略円筒形状の金属製の容器であり、蓋51aには、導入口部51d及び流出口部51eが開口されている。導入口部51dは、第1乳化機22で生成された乳濁液Eの液滴Dが熱媒体Mの表面Sへ滴下されるように乳濁液Eの液滴Dを導入するための開口部であり、第1乳化機22の滴下口部22aに接続されている。流出口部51eは、後述のPCBの分解によって生成されたPCB分解油P1、塩化水素P2及び塩P3の生成混合物を流出するための開口部であり、流出口部51eは、凝縮装置12へ接続されている。
加熱部52は、分解槽51を加熱する装置である。分解槽51が加熱されることによって熱媒体Mが加熱される。加熱部52は、例えば、一方端部にバーナ52bが配設され、このバーナ52bで燃料油を燃焼することによって生じた高温の燃焼ガスが流通される加熱ガス流路部52aを備える。加熱部52は、バーナ52bで燃料油を燃焼することによって生じた高温の燃焼ガスが加熱ガス流路部52aを流れることによって分解槽51の底51cを加熱する。これによって燃焼ガスの熱が分解槽51を介して熱媒体Mに熱伝導し、熱媒体Mが加熱され、そして、対流する。また、加熱ガス流路部52aは、分解槽51の加熱後の燃焼ガスが予熱器16へ流出するように、予熱器16へ接続されている。
図1に戻って、凝縮装置12は、気体状のPCB分解油P1、気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩P3の生成混合物を冷却して気体状のPCB分解油P1のみを液体状にすることによって、液体状のPCB分解油P1と気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩P3とに分離する装置である。凝縮装置12は、例えば、冷媒が流通する冷却管を外周又は内部に備えた横長の略円筒形状の容器であって所定の温度に冷却することによって気体を液体に凝縮する凝縮器(コンデンサ)12−1と、水冷式によって冷媒の熱を放熱するクーリングタワ12−2と、凝縮器12−1とクーリングタワ12−2との間で冷媒が循環するように凝縮器12−1とクーリングタワ12−2との間に配設された配管12−3と、配管12−3に配設され、冷媒がクーリングタワ12−2から凝縮器12−1へそして凝縮器12−1から再びクーリングタワ12−2へと循環するように冷媒を圧送するポンプ12−4とを備えて構成される。クーリングタワ12−2によって冷却された冷媒がポンプ12−4に圧送されることによってクーリングタワ12−2から凝縮器12−1に供給される。凝縮器12−1では、この冷媒が気体状のPCB分解油P1、気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩P3における熱を吸熱し、気体状のPCB分解油P1が液体状となって気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩P3から分離される。熱を吸熱した冷媒は、凝縮器12−1からクーリングタワ12−2へ戻り、クーリングタワ12−2で熱を放熱し、これによって冷却される。そして、凝縮器12−1には、その上方には、PCB分解油P1が取り除かれた生成混合物である気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩P3を流出する第1流出口を備え、その下方には、液体状のPCB分解油P1を流出する第2流出口を備えている。
第1スクラバ13は、気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩P3に水を混合することによって、粉粒体状の塩P3を含む塩酸を生成する装置である。第1スクラバ13は、例えば、内部の上方に散水ノズルと下方には流出口とを備える縦長の略円筒形状の容器であり、散水ノズルから水を気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩P3に散水することによって、塩化水素P2を水に溶け込ませて塩酸を生成し、粉粒体状の塩P3を含む塩酸を生成する。
中和補助槽17は、粉粒体状の塩P3を沈殿させ、粉粒体状の塩P3と塩酸とを分離する装置である。中和補助槽17は、例えば、縦長の略円筒形状の容器であり、上方には上澄みの塩酸を流出する第1流出口を備え、下方には沈殿した粉粒体状の塩P3を流出する第2流出口を備える。
中和材貯水槽15は、酸性物質を中和するためのアルカリ性物質を貯溜する容器である。アルカリ性物質は、例えば本実施形態ではアルカリ性の水溶液の一例であるカセイソーダ(水酸化ナトリウム(NaOH)の水溶液)が用いられる。
中和槽21は、塩酸にアルカリ性の水溶液を添加することによって塩酸を中和する装置である。中和槽21は、例えば、略円筒形状の容器であり、塩酸にアルカリ性の水溶液を混合することによって、塩酸を水溶性の塩と水とに中和し、塩の水溶液を生成する。例えば、本実施形態ではアルカリ性の水溶液にカセイソーダが用いられるので、塩酸が塩化ナトリウムと水とに中和し、塩化ナトリウムの水溶液が生成される。
塩水貯水槽29は、塩の水溶液を貯溜する容器である。
洗浄槽14は、塩化水素P2がPCB分解油P1に微量に混入している場合に、PCB分解油P1中に混入しているこの微量の塩化水素P2を分離することによってPCB分解油P1を洗浄する装置である。洗浄槽14は、例えば略球形の容器であり、PCB分解油P1にアルカリ性の水溶液を混合することによって、PCB分解油P1中に混入しているこの微量の塩化水素P2を塩の水溶液に変え、微量の塩化水素P2をPCB分解油P1から分離する。例えば、本実施形態ではアルカリ性の水溶液に中和槽21と同一のアルカリ性の水溶液、本実施形態ではカセイソーダが用いられ、塩酸が塩化ナトリウムと水とに中和し、塩化ナトリウムの水溶液が生成される。
油水分離槽18は、PCB分解油P1と塩の水溶液とを油水分離によって分離する装置である。油水分離槽18は、例えば、縦長の略円筒形状の容器であり、上方には油水分離したPCB分解油P1を流出する第1流出口を備え、下方には油水分離した塩の水溶液を流出する第2流出口を備える。
PCB分解油貯油槽28は、PCB分解油P1を貯溜する容器である。
第2乳化機23は、水をPCB分解油P1中に乳化するによって乳濁液を生成し、PCB分解槽20Aに燃料油として供給する装置である。第3乳化機24は、水をPCB分解油P1中に乳化するによって乳濁液を生成し、燃焼炉25に燃料油として供給する装置である。
燃焼炉25は、PCB分解油P1を焼却する炉である。燃焼炉25は、例えば、第3乳化機24から供給された燃料油の乳濁液を燃焼するバーナを備えて構成される。
第2及び第3スクラバ26、27は、燃焼ガスに水を混合することによって、仮に塩化水素が燃焼ガス中に極微量に混入している場合にこの塩化水素を塩酸に変えて除去するための装置である。本実施形態では、第2スクラバ26及び第3スクラバ27によって順次に燃焼ガスに水が混合されることによって、この塩化水素の除去率が高められている。第2及び第3スクラバ26、27は、例えば、内部の上方に散水ノズルを備える縦長の略円筒形状の容器であり、散水ノズルから水を燃焼ガスに散水することによって、塩化水素を水に溶け込ませて塩酸を生成する。
そして、これらPCB貯油槽11、凝縮装置12、第1乃至第3スクラバ13、26、27、洗浄槽14、中和材貯水槽15、予熱器16、中和補助槽17、油水分離槽18、アルカリイオン水貯水槽19、PCB分解槽20A、中和槽21、第1乃至第3乳化機22、23、24、燃焼炉25、PCB分解油貯油槽28及び塩水貯水槽29は、気体状、液体状及び粉粒体状の処理対象物が一の処理工程から次の処理工程へ流通するように、例えば本実施形態では直接的に又は配管によって接続されて、連通されており、処理対象物の流通量を調整すべくポンプ及び流量調節弁等が必要に応じて配管に配設されている。
より具体的には、PCB貯油槽11は、予熱器16に接続されている。予熱器16は、第1乳化機22及び第2スクラバ26にそれぞれ接続されている。アルカリイオン水貯水槽19は、第1乳化機22に接続されている。第1乳化機22は、PCB分解槽20Aに接続されている。PCB分解槽20Aは、凝縮装置12及び予熱器16にそれぞれ接続されている。凝縮装置12は、第1スクラバ13及び洗浄槽14に接続されている。第1スクラバ13は、中和補助槽17に接続されている。中和補助槽17は、中和槽21に接続されている。中和槽21は、塩水貯水槽29に接続されている。中和材貯水槽15は、洗浄槽14及び中和槽21にそれぞれ接続されている。洗浄槽14は、油水分離槽18に接続されている。油水分離槽18は、PCB分解槽28及び塩水貯水槽29にそれぞれ接続されている。PCB分解油貯油槽28は、第2及び第3乳化機23、24にそれぞれ接続されている。第2乳化機23は、PCB分解槽20Aに接続され、第3乳化機24は、燃焼炉25に接続されている。燃焼炉25は、第2スクラバ26に接続されている。第2スクラバ26は、第3スクラバ27に接続されている。第3スクラバ27は、中和槽21に接続されている。
また、PCB貯油槽11から予熱器16へ流量を調節しながらPCB含有油を圧送するように、PCB貯油槽11と予熱器16との間の配管にはポンプ31が配設されている。中和補助槽17から中和槽21へ流量を調節しながら塩酸を圧送するように、中和補助槽17と中和槽21との間の配管にはポンプ32が配設されている。第2スクラバ26から第3スクラバ27へ流量を調節しながら燃焼ガスを圧送するように、第2スクラバ26と第3スクラバ27との間の配管にはポンプ33が配設されている。PCB分解油貯油槽28から第2及び第3乳化機23、24のそれぞれへ流量を調節しながらPCB分解油P1を圧送するように、PCB分解油貯油槽28と第2及び第3乳化機23、24との間の配管にはポンプ34が配設されている。
さらに、凝縮装置12のクーリングタワ12−2、第1乃至第3スクラバ13、26、27、第2乳化機23及び第3乳化機24へ水を供給すべく、水道又は図略の貯水槽等の水供給系統からの給水管が凝縮装置12のクーリングタワ12−2、第1乃至第3スクラバ13、26、27、第2乳化機23及び第3乳化機24へそれぞれ配設されている。
次に、本実施形態の動作について説明する。
(実施形態の動作)
このような構成のPCB分解システム1では、まず、PCB貯油槽11にPCB含有油が貯溜され、アルカリイオン水貯水槽19にアルカリイオン水が貯溜され、中和材貯水槽15にアルカリ性物質(本実施形態ではカセイソーダの水溶液)が貯溜され、PCB分解槽20Aに熱媒体Mがその液表面Sを形成する量に投入されて貯溜される。
PCBは、芳香族塩素化合物に分類され、ビフェニル構造の水素が塩素で置換されたものの総称であり、置換塩素の数と位置とによって多数の化合物(異性体)が存在する。PCBは、理論上では1〜10個の塩素とビフェニル構造の水素とが置換可能であり、塩素置換数の少ないものは流動性の液体であり、塩素置換数が多くなるほど粘性が増大して樹脂状となる。PCBは、第1乳化機22によってアルカリイオン水が油中水滴型で乳化される必要があるので、乳化し難いPCBは、その温度を上げたり、油(炭化水素油)に溶解する等して用いられる。
アルカリイオン水Aは、本実施形態では、カルシウムイオン(Ca2+)を含むアルカリイオン水であり、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の水溶液や、水とカルシウム(Ca)とを混合することによって生成されたカルシウムの水溶液である。カルシウムイオンを含むアルカリイオン水Aは、水素を活性化して後述の水蒸気爆発によって水分子が酸素原子と水素原子とに容易に分解されるように、酸化還元電位が−850mV以下に調製される。この酸化還元電位は、より低い方が好ましい。そして、このカルシウムイオンを含むアルカリイオン水Aは、この酸化還元電位の調製及び後述のキャビテーションによって生じた活性水素を比較的安定にして後述の脱塩素反応が効率よく行われるように、pHが12以上に調製される。このpHは、より高い値の方が好ましい。このように、アルカリイオン水Aは、カルシウムイオンを含み、また、酸化還元電位が−850mV以下でpHが12以上に調製されているので、効果的にPCBをPCB分解油P1に分解することができる。
熱媒体Mは、後述するように、その表面Sに滴下された乳濁液Eの液滴Dに熱を伝導する媒体であり、PCB分解槽20Aの加熱部52で所定の温度に加熱された場合に液体状であれば、どのような油(炭化水素油)でもよく、本実施形態では、約250〜400℃に加熱されるので、例えば重油等の重質油が用いられる。
次に、第2乳化機23が稼働され、第2乳化機23では、水がPCB分解油貯油槽28からのPCB分解油P1中に乳化されることによって乳濁液が生成され、この生成された乳濁液が第2乳化機23からPCB分解槽20Aの加熱部52へ燃料油として供給される。なお、PCB分解油貯油槽28には、PCB分解システム1の初期段階では、PCB分解油P1がPCB分解油貯油槽28に貯溜されていないので、PCB分解槽20Aの加熱部52へ供給する燃料油とすべく、例えば重油等の油(炭化水素油)が貯溜される。
次に、PCB分解槽20Aの加熱部52が稼働され、加熱部52は、第2乳化機23からの燃料油としての乳濁液を燃焼することによってPCB分解槽20Aの分解槽51を加熱する。これによってPCB分解槽20Aの分解槽51における熱媒体Mが加熱される。この加熱により熱媒体Mは、約250〜400℃に加熱される。また、熱媒体Mが加熱されることによって熱媒体Mの一部が気化し、PCB分解槽20Aの分解槽51内部が、この気化した熱媒体Mを含むと共に、PCB分解槽20Aの分解槽51に貯溜されている熱媒体Mの温度に応じた温度のガス雰囲気となる。一方、PCB分解槽20Aの加熱部52によって生じた燃焼ガスは、PCB分解槽20Aの分解槽51を加熱後、予熱器16へ供給され、予熱器16の熱源としても利用され、その後、第2スクラバ26へ排出される。
次に、凝縮装置12、第1乃至第3スクラバ13、26、27、中和補助槽17、中和槽21、洗浄槽14及び油水分離槽18がそれぞれその機能に応じて稼働される。
次に、PCB貯油槽11からPCB含有油が予熱器16を介して第1乳化機22に供給され、アルカリイオン水貯水槽19から酸化還元電位が−850mV以下であってpHが12以上であるアルカリイオン水が第1乳化機22に供給される。予熱器16では、PCB含有油が加熱され、予熱される。予熱温度は、PCB分解槽20Aの加熱部52から供給される燃焼ガスの温度及びPCB含有油の粘度等に応じて、第1乳化機22によってアルカリイオン水が油中水滴型でPCB含有油中に乳化される温度に、より好ましくは乳化され易い温度に適宜に設定され、例えば本実施形態では約25〜95℃である。そして、第1乳化機22が稼働され、供給されたアルカリイオン水とPCB含有油とが乳化され、油中水滴型の乳濁液Eが生成される。
第1乳化機22に供給されるアルカリイオン水とPCB含有油との混合比率(容積比)は、例えばPCBに含まれる塩素数やPCB含有油から生成しようとしている炭化水素油(PCB分解油)の種類等に応じて適宜に設定され、例えばPCB含有油に対してアルカリイオン水が約5〜30体積%である。
第1乳化機22で生成される乳濁液Eの粒径は、通常、10μm以下であるが、3〜5μmが好ましい。PCBは、後述のように乳濁液Eの微爆発によるキャビテーションを利用して分解するが、この水の粒径が3μmより小さい場合は、キャビテーションの発生が不充分となるため好ましくなく、また、この水の粒径が5μmより大きい場合もキャビテーションの発生が不充分となるため好ましくない。
第1乳化機22で生成された乳濁液Eは、第1乳化機22の流出口の形状又はPCB分解槽20Aの分解槽51の流入口の形状、及び、第1乳化機22からPCB分解槽20Aの分解槽51への流量等を適宜に設定することにより、滴状とされ、液滴DでPCB分解槽20Aの分解槽51における熱媒体Mの表面Sへ向けて滴下される。滴下された液滴Dは、熱媒体Mと反応し、PCBを例えば灯油及び軽油等の炭化水素油(PCB分解油)に分解する。
この滴下された液滴DがPCBをPCB分解油に分解する過程を発明者は、次のように推察している。PCB分解槽20Aへ導入された乳濁液Eの液滴Dは、PCB分解槽20Aの分解槽51内のガスから熱を受けることによって加熱される。これによって乳濁液EのPCB含有油が加熱され、PCB含有油を介して微細粒子のアルカリイオン水も加熱される。乳濁液Eの液滴Dは、降下に従ってこの加熱により液滴Dが分離して細かくなると共に、微細粒子のアルカリイオン水が先に沸点に達して気化し、この気化したアルカリイオン水が膨張しようとするが、周囲の油膜の張力によってその膨張が妨げられ、エネルギーが蓄積される。乳濁液Eの液滴Dは、さらに降下して熱媒体Mの表面に達すると、一気に加熱される。気化しているアルカリイオン水がこれによって一気に膨張し、この膨張によって生じる圧力が周囲の油膜における張力の限界を超え、水蒸気爆発による微爆発が生じる。この際に、液滴DのPCB含有油は、飛散してその表面積が一気に数千倍(例えば約5000倍)に拡大され、加熱が促進される。また、この微爆発によって熱媒体Mにキャビテーションが生じる。このキャビテーションによって、微爆発が生じた熱媒体Mの微小部分において温度が約10000℃になると共にキャビテーションの圧力波が約350気圧になる。これによってPCB含有油のPCBにクラッキングが生じ、アルカリイオン水の水分子が酸素原子と水素原子とに分解される。そして、水分子の分解によって生じた化学的に活性な水素原子が、クラッキングによって生じた、開裂したビフェニル構造における炭素原子の結合手や塩素原子の結合手に結合し、PCBの塩素が脱塩されてPCB分解油P1が生成されると共に塩化水素P2が生成される。さらに、アルカリイオン水のアルカリイオンと塩素原子とが結合し、粉粒体状の塩P3が生成される。本実施形態ではアルカリイオン水にカルシウムイオンを用いるので、カルシウムイオンが塩素原子の結合手に結合し、粉粒体状の塩化カルシウム(CaCl2)P3が生成される。これによってPCBからPCB分解油P1、塩化水素P2及び塩(本実施形態では塩化カルシウム)P3が生成される。また、水分子の分解によって生じた化学的に活性な酸素原子が、クラッキングによって生じた、開裂したビフェニル構造における炭素原子の結合手に結合し、PCB分解油P1に酸素も添加される。このように発明者は、滴下された液滴DのPCBがPCB分解油P1に分解される過程を推察している。
このようなPCBの分解によって生じた気体状のPCB分解油P1、気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩(本実施形態では塩化カルシウム)P3は、凝縮装置12の凝縮器12−1へ流出される。
凝縮装置12の凝縮器12−1では、気体状のPCB分解油P1、気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩P3は、冷媒によって熱が奪われて所定の温度に冷却され、気体状のPCB分解油P1のみが凝縮され、液体状になる。この凝縮器12−1における所定の冷却温度は、PCB分解油P1中に含まれる炭化水素油の融点等を考慮して適宜に設定され、例えば本実施形態では主に灯油が生成されるので約40℃に設定される。
気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩P3は、凝縮器12−1から、本実施形態では凝縮器12−1の第1流出口から第1スクラバ13へ流出される。凝縮器12−1で液体状となったPCB分解油P1は、凝縮器12−1から、本実施形態では凝縮器12−1の第2流出口から洗浄槽14へ流出される。
第1スクラバ13では、水が気体状の塩化水素P2及び粉粒体状の塩(塩化カルシウム)P3に混合され、気体状の塩化水素P2が水に溶け込むことによって、気体状の塩化水素P2から、比較的処理の容易な塩酸が生成され、粉粒体状の塩P3を含む塩酸が生成される。この粉粒体状の塩P3を含む塩酸は、第1スクラバ13から中和補助槽17へ流出される。
中和補助槽17では、粉粒体状の塩P3が沈降して中和補助槽17内の下部に沈殿することによって、粉粒体状の塩P3を含む塩酸は、粉粒体状の塩P3と塩酸とに分離される。中和補助槽17内の上澄みの塩酸は、中和補助槽17から、本実施形態では第1流出口から中和槽21へ流出される。粉粒体状の塩P3を含む塩酸を粉粒体状の塩P3と塩酸とに分離する中和補助槽17の機能を実質的に損なう沈殿量になると、PCB分解システム1の稼働が停止され、中和補助槽17内に沈殿した塩P3は、外部に、本実施形態では第2流出口から排出される。このようにPCBの分解に使用されたアルカリイオンが塩P3、本実施形態では塩化カルシウムとして回収される。
中和槽21では、中和材貯水槽15からアルカリ性の水溶液が供給され、このアルカリ性の水溶液によって中和補助槽17からの塩酸及び後述するように第2及び第3スクラバ26、27からの塩酸が中和され、塩の水溶液が生成される。この塩の水溶液は、中和槽21から塩水貯水槽29へ流出され、塩水貯水槽29に貯溜される。本実施形態では、アルカリ性の水溶液としてカセイソーダが中和材貯水槽15から中和槽21に供給され、これによって塩酸が中和され、塩化ナトリウムの水溶液が生成される。この塩化ナトリウムの水溶液は、中和槽21から塩水貯水槽29へ流出され、塩水貯水槽29に貯溜される。このように、PCBの分解によって生成された塩化水素P2が塩の水溶液、本実施形態では無害な塩化ナトリウムの水溶液に変えられ、処分可能となる。
一方、洗浄槽14では、中和材貯水槽15からアルカリ性の水溶液が供給され、このアルカリ性の水溶液とPCB分解油P1とが混合される。これによってPCB分解油P1に塩化水素P2が混入している場合に、その塩化水素P2が中和されて塩の水溶液に変えられ、PCB分解液中に混入している塩化水素P2がPCB分解油から分離される。本実施形態では、アルカリ性の水溶液としてカセイソーダが中和材貯水槽15から洗浄槽14に供給され、これによって塩酸が中和され、塩化ナトリウムの水溶液が生成される。このPCB分解油P1と塩の水溶液とは、洗浄槽14から油水分離槽18へ流出される。
油水分離槽18では、油水分離によって、PCB分解油P1と塩の水溶液とは、上方のPCB分解油P1と下方の塩の水溶液とに分離される。油水分離槽18で上方に分離したPCB分解油P1は、油水分離槽18から、本実施形態では第1流出口からPCB分解油貯油槽28へ流出され、PCB分解油貯油槽28に貯溜される。油水分離槽18で下方に分離した塩の水溶液、本実施形態では塩化ナトリウムの水溶液は、油水分離槽18から、本実施形態では第2流出口から塩水貯水槽29へ流出され、塩水貯水槽29に貯溜される。
PCB分解油貯油槽28にPCB分解油P1が貯溜し始めると、このPCB分解油P1もPCB分解槽20Aの加熱部52の燃料油として使用され始める。そして、PCB分解槽20Aの加熱部52における燃料油の使用量を超えて充分にPCB分解油貯油槽28にPCB分解油P1が貯溜し始めると、第3乳化機24及び燃焼炉25が順次に稼働され、第3乳化機24では、水がPCB分解油貯油槽28からのPCB分解油P1中に乳化されることによって乳濁液が生成され、この生成され乳濁液が燃焼炉25へ供給される。燃焼炉25では、第3乳化機24で生成された乳濁液がバーナで燃焼される。このように、PCBの分解によって生成されたPCB分解油P1は、焼却処分される。燃焼炉25によって生成された二酸化炭素等の燃焼ガスは、第2スクラバ26に流出される。なお、この燃焼炉25の燃焼ガスが大気に放出される場合には、万一、未分解のPCBに起因するダイオキシン等の有害物質が残留している場合を考慮して活性炭等で吸着、除去処理した後に大気に放出される。
第2スクラバ26では、水が燃焼ガスに混合され、仮に塩化水素が燃焼ガスに微量に混入している場合にこの塩化水素が水に溶け込むことによって、比較的処理の容易な塩酸が生成される。なお、燃焼ガス中に塩化水素が含まれていない場合には、水のままである。そして、第2スクラバ26で生成された塩酸(燃焼ガスに塩化水素が含まれていない場合には水)は、中和槽21へ流出される。また、第2スクラバ26では、水と混合後の燃焼ガスが第3スクラバ27へ流出され、さらに第3スクラバ27で水がこの燃焼ガスに混合され、塩化水素が燃焼ガスに微量に混入していた上記場合にこの燃焼ガス中の未溶解の塩化水素が水に溶け込むことによって、この燃焼ガスから塩酸が生成される。そして、第3スクラバ27で生成された塩酸は、中和槽21へ流出される。このように第2スクラバ26及び第3スクラバ27によって順次に燃焼ガスに水を混合することによって、仮に塩化水素が燃焼ガス中に微量に混入している場合にこの塩化水素の除去率を高めている。また、第3スクラバ27では、水と混合後の燃焼ガスが大気に放出される。なお、この第3スクラバ27から燃焼ガスが大気に放出される際には、上述と同様に、万一、未分解のPCBに起因するダイオキシン等の有害物質が残留している場合を考慮して活性炭等で吸着、除去処理した後に大気に放出される。
このように動作することによってPCB分解システム1は、約250〜400℃という背景技術に較べて比較的低温な温度でPCB含有油のPCBを無害な例えば灯油や軽油等の鎖状炭化水素油(PCB分解油P1)に分解すると共に、この分解によって生じた塩化水素P2を無害な塩の水溶液、本実施形態では塩化ナトリウムの水溶液に処理し、そして、アルカリイオン水のアルカリイオンをこの分解によって生じた無害な粉粒体状の塩P3として回収している。
また、PCB含有油のPCBから得られたPCB分解油P1を、PCB分解槽20Aの熱媒体Mを加熱する熱源として利用しているので、PCB分解システム1は、その稼働の初期に必要な燃料油のみで稼働することができ、稼働コストを低減することができる。
さらに、PCB分解槽20Aの熱媒体Mを加熱する熱源として必要量以上のPCB分解油P1を、燃焼炉25で燃焼し、燃焼ガスを水処理しているので、PCBを完全に無害化することができる。
そして、PCB含有油にアルカリイオン水を乳濁して、乳濁液Eの液滴Dの微爆発によってPCBを分解しているので、高濃度のPCBも分解処理することができる。
また、PCBを乳濁液Eの液滴Dの微爆発によって分解しているので、熱媒体Mの局所部分では高温、高圧になるが、PCB分解槽20A全体では、背景技術に較べて低温、低圧(例えば略大気圧)な条件で分解することができる。このため、PCB分解槽20Aは、高温、高圧に耐え得る構造、材料を利用する必要がないので、構造の簡素化、小型化及び軽量化することができる。このため、このようなPCB分解槽20A及び第1乳化機22を備えるPCB分解装置を採用したPCB分解システム1も小型化及び軽量化することができ、PCB分解システム1を積載量が数トンのトラック等の車両における荷台に積載することもできる。PCBは、その保管場所が厳しく管理されているが、本PCB分解システム1は、車両に積載することによって移動可能であるので、このような保管場所が厳しく管理されているPCBの分解処理に好適である。
なお、熱媒体Mは、油、本実施形態では特に重油等の重質油であるので、PCBのクラッキングと共に、熱媒体Mの油もその一部にクラッキングが生じ、水素が添加される。このため、熱媒体Mの油もその一部が軽質化し、PCB分解槽20Aの分解槽51から凝縮装置12へ流れ、徐々に消費されてゆく。このため、PCB分解システム1の稼働に従って、熱媒体Mは、PCBの脱塩素反応が良好に行われるように、適宜、補給される必要がある。
図3は、実施形態に係るPCB分解槽の他の構成を説明するための図である。ここで、上述の実施形態では、PCB分解槽20Aにおける分解槽51の熱媒体Mが加熱されるようにPCB分解槽20Aが構成されたが、さらに分解槽51内のガスも加熱されるようにPCB分解槽が構成されてもよい。このような構成のPCB分解槽20Bは、図1及び図2に示すPCB分解槽20Aの加熱部52の代わりに、概略図である図3に示す加熱部53を備える。この加熱部53は、例えば、一方端部にバーナ53bが配設され、このバーナ53bで燃料油を燃焼することによって生じた高温の燃焼ガスが流通される加熱ガス流路部53aを備える。加熱ガス流路部53aは、分解槽51の底51cに沿って略水平に延びる底面加熱部531と、底面加熱部531と連通し分解槽51の側壁51bに沿って略垂直上方に延びる側面加熱部532とを備えて構成される。側面加熱部532は、底面加熱部531に連通しながら略直角に上方に屈曲している。このような構成の加熱部53は、バーナ53bで燃料油を燃焼することによって生じた高温の燃焼ガスが底面加熱部531を流れることによって分解槽51の底51cを加熱する。これによって燃焼ガスの熱が分解槽51を介して熱媒体Mに熱伝導し、熱媒体Mが加熱される。そして、加熱部53は、燃焼ガスが底面加熱部531から側面加熱部532を流れることによって分解槽51の側壁51bを加熱する。これよって燃焼ガスの熱が分解槽51を介して分解槽51内のガスに熱伝導し、加熱部53は、さらに分解槽51内のガスも加熱することができる。
図4は、実施形態に係るPCB分解槽の他の構成を説明するための図である。さらに、上述の実施形態において、図1及び図2に示すPCB分解槽20Aの代わりに、概略図である図4に示すPCB分解槽20Cを用いてもよい。このPCB分解槽20Cは、加熱部70及びこの加熱部70の加熱によって熱媒体Mが循環する分解槽60を備えて構成される。図4において、分解槽60は、熱媒体Mが上下に循環可能な閉ループ状に構成された容器である。加熱部70は、例えば、一方端部にバーナ72が配設され、このバーナ72で燃料油を燃焼することによって生じた高温の燃焼ガスが流通される加熱ガス流路部71を備える。加熱ガス流路部71は、分解槽60の閉ループ下部61における熱媒体Mを加熱する下部加熱部711と、下部加熱部711と連通し、下部加熱部711で加熱されて分解槽60の閉ループ側部62を上昇する熱媒体Mを加熱する側部加熱部712とを備えて構成される。
より具体的には、分解槽60は、その下部に比較的大きな内容積を有する下部貯溜部111を備えている。この下部貯溜部111は、閉ループの下側部を構成するものであり、上記閉ループ下部61に相当する。
図4に示すように、下部貯溜部111には、その上面部における一端側(図4の左側)から上方に延びる第1側部112と、上面部における他端側(図4の右側)から上方に延びる第2側部113とが設けられている。第1側部112は、それぞれ細管からなる多数の伝熱管114aによって構成された伝熱管部114と、この伝熱管部114の上端部に設けられた合流部115とを備えている。
上記伝熱管部114は、その下端部が下部貯溜部111の上面部に接続されており、各伝熱管114aが上下に延びる姿勢に設置されている。各伝熱管114a内は、下部貯溜部111の上面に形成された連通孔を通して下部貯溜部111内と連通されている。上記合流部115は、全伝熱管114aに跨るように設けられるもので、各伝熱管114aの上端部から流出した熱媒体Mがこの合流部115で合流するようになっている。伝熱管部114と合流部115とにより、上記閉ループ側部62が構成されている。即ち、伝熱管部114及び合流部115は、閉ループの一方の側部となっている。
一方、第2側部113は、例えば円筒状に形成されている。この第2側部113と上記合流部115とには、下部貯溜部111から上方に離間したところに配置された上部貯溜部117が架け渡されている。そして、下部貯溜部111と第1側部112と第2側部113と上部貯溜部117とで囲まれた空間が、紙面奥行き方向に貫通した貫通空間となっている。上部貯溜部117は、第1側部112から第2側部113に向かって僅かに降下する傾斜配置の例えば円筒状に形成されている。この上部貯溜部117は、閉ループの上側部となっている。
上記合流部115と第2側部113とは、上部貯溜部117を通して連通されている。この第2側部113は、下部貯溜部111の上面部に形成された連通孔を通して下部貯溜部111と連通されている。このように、分解槽60の内部は、下部貯溜部111と第1側部112と第2側部113と上部貯溜部117とが連通する閉ループ状に構成されていて、熱媒体Mが分解槽60内を上下に循環可能となっている。即ち、分解槽60内部が全体として熱対流の循環路となる閉回路となっている。本形態において、上部貯溜部117と第2側部113とにより、還流部が構成されている。即ち、第1側部112から流出した熱媒体Mが上部貯溜部117と第2側部113を通って下部貯溜部111へ向かうようになっている。分解槽60は、この形態で下部貯溜部111、第1側部112、第2側部113及び上部貯溜部117が一体的に構成されたものとなっていて、これら下部貯溜部111、第1側部112、第2側部113及び上部貯溜部117の全体に熱媒体Mが貯溜されている。
そして、加熱部70には、分解槽60の熱媒体Mを加熱する燃焼ガスを流通させる加熱ガス流路部71が設けられている。この加熱ガス流路部71は、下部加熱部711と、側部加熱部712と、両加熱部711、712を連通する連通部713とを備えている。
上記下部加熱部711は、下部貯溜部111内の熱媒体Mを加熱するためのものであり、分解槽60の外部に配設された外側加熱部715と、分解槽60の内部に配設された内側加熱部716とを備えている。外側加熱部715は、端部にバーナ72が配設され、略水平に延びる導入部715aと、この導入部715aの下流端に連通し、分解槽60の底面611に沿って略水平に延びる底面加熱部715bと、底面加熱部715bの下流端に連通し、下部貯溜部111の側壁612に沿って上方に延びる連絡部715cとからなる。外側加熱部715は、その外壁が耐火性の断熱材によって構成されており、この外側加熱部715内を流れる燃焼ガスの熱が外部に漏れないようになっている。
上記バーナ72の燃焼により、燃焼ガスが発生し、この燃焼ガスは、導入部715a、底面加熱部715b及び連絡部715cをこの順に流れる。このとき底面加熱部715bでは、燃焼ガスの熱が分解槽60の底面611を介して下部貯溜部111内の熱媒体Mに伝わる。言い換えると、分解槽60の底面611は、燃焼ガスの熱を熱媒体Mに伝える伝熱面となっている。
上記内側加熱部716は、下部貯溜部111内に配置されるものであり、複数のU字管716aによって構成されている。各U字管716aは、両端部が上下に配置されるように下部貯溜部111の一方(図4に左側)の側壁612に固定されるとともに、この側壁612から対向する側壁613に向かって水平に延びるように配設されている。そして、U字管716aの湾曲部は、対向側壁613の近傍に配置されている。このように湾曲部が側壁613から離間した状態に配設されることにより、U字管716aが熱膨張してもそれに伴ってU字管716aに熱応力が作用するのを抑制できるようになっている。
U字管716aの下側の一端部は、側壁612に形成された連通孔を通して上記連絡部715cと連通されている。一方、U字管716aの上側の一端部は、側壁612に形成された連通孔を通して上記連通部713と連通されている。この連通部713は、下端部で上記U字管716aに連通されるともに、分解槽60の外側に配設されている。そして、連通部713は、その上端部において上記側部加熱部712の下端部に連通されている。連通部713は、断熱材によって被覆されている。
上記側部加熱部712は、上記第1側部112の熱媒体Mを加熱するためのものであり、伝熱管部114を取り囲むように配設され、第1側部112の下端部から第1側部112に沿って上方に延びる例えば円筒状の部材によって構成されている。そして、側部加熱部712の下端部で上記連通部713と連通されている。即ち、側部加熱部712内において、伝熱管114aの外側を上方に向かって流れる燃焼ガスによって伝熱管部114内の熱媒体Mが加熱されるようになっている。
分解槽60には、貯溜された熱媒体Mの液表面Sを検出するための図略の液面検出計(例えば液面センサ)が設けられている。この液面検出計は、例えば第2側部113の上端部に配設されており、分解槽60内の熱媒体M量が、第2側部113の上側で熱媒体Mの液表面Sが形成されるように、かつ、正常な循環が生じる範囲内になるように、加熱部70の加熱量及び図略の投入口部から投入される熱媒体Mの投入量を制御するために設けられる。
また、分解槽60には、この分解槽60内に停留する成分を排出するための排出管路118が設けられている。この排出管路118は、下部貯溜部111における下端部に設けられ、容器底部に停留する熱媒体M(本形態では油分)を排出するのに使用される。なお、本形態では、この容器底部に停留する熱媒体Mは、油分であるので、この油分の熱媒体Mがバーナ72の燃料油として利用されるようにPCB分解槽20Cが構成されてもよい。
上記第1側部112の上端部には、上記凝縮装置12へ接続される流出口が設けられ、上記第2側部113の上端部には、上記第1乳化機22が設けられている。そして、この乳化機22は、分解槽60の第2側部113を下降する熱媒体Mの表面Sに乳濁液Eの液滴Dが滴下されるように、配設されている。
このような構成のPCB分解槽20Cでは、乳濁液Eの液滴Dが第2側部113を下降する熱媒体Mの表面Sに滴下されるとPCB含有油のPCBが分解される。
より具体的には、PCB分解槽20Cでは、まず、分解槽60に熱媒体Mがその液表面Sを形成する量に投入されて貯溜される。次に、加熱部70が稼働され、バーナ72を燃焼させて発生する例えば700〜800℃程度の燃焼ガスによって分解槽60内が加熱される。即ち、バーナ72の燃焼ガスは、導入部715aを流れた後、底面加熱部715bで分解槽底面611を加熱し、連絡部715cを通して内側加熱部716に流入する。この内側加熱部716において、燃焼ガスは下部貯溜部111内の熱媒体Mを加熱し、連通部713を通して側部加熱部712に流入する。この側部加熱部712において、燃焼ガスは、第1側部112内の熱媒体Mを加熱して第2スクラバ26及び必要に応じて予熱器16へ排出される。一方、分解槽60内部では、燃焼ガスによって下部貯溜部111で加熱された熱媒体Mは、上昇して伝熱管部114の各伝熱管114aに流入する。この熱媒体Mは、伝熱管114a内で一部が沸騰する程度に加熱される。このため、伝熱管114a内では気液混合のマクロな平均密度が低い流体となって強烈な上昇流が生じる。これにより、分解槽60内では、熱媒体Mが下部貯溜部111、第1側部112、上部貯溜部117及び第2側部113をこの順に循環する高速な循環流が生ずる。このため、第2側部113では、熱媒体Mが高速に下降しているため、第2側部113における熱媒体Mの表面Sでは、すり鉢状の渦が生じている。第1乳化機22で生成された乳濁液Eの液滴Dがこの渦が生じている表面Sに滴下されると、液滴Dは、この渦に引き込まれて第2側部113を熱媒体Mと共に降下しながら熱媒体Mから熱が伝導され、一気に加熱される。これにより液滴Dは、第2側部113を下降する間に微爆発を起こし、キャビテーションが生じる。また、極一部の液滴Dが下部貯溜部111を横流する間に微爆発を起こすこともある。このキャビテーションによってPCB含有油のPCBが分解され。PCB分解油P1、塩化水素P2及び塩(本実施形態では塩化カルシウム)P3が生成される。これらPCB分解油P1、塩化水素P2及び塩(本実施形態では塩化カルシウム)P3は、熱媒体Mと共に第1側部112へ流れ、熱媒体Mから第1側部112の上側へ分離し、第1側部112の上端部から凝縮装置12へ流出される。そして、このような構成のPCB分解槽20Cでは、上述のように加熱部70によって分解槽60内で効率的に自然対流が生じさせられ、熱媒体Mの加熱効率が向上され得る。
本願発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本願発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。従って、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。