図面を参照しながら、本発明の免震構造、免震構造の設計方法、及び免震建物を説明する。なお、本実施形態では、RC造の高層建物に本発明を適用した例を説明するが、さまざまな構造や規模の新築及び改修建物への適用が可能である。なお、以降の説明において、再現期間1年程度の風荷重とは、1年間に少なくとも1回は超える可能性がある風荷重の最大値のことであり、再現期間50年程度の風荷重とは、50年間に少なくとも1回は超える可能性がある風荷重の最大値のことである。そして、この定義は日本建築学会の建築物荷重指針・同解説で定められている。
まず、本発明の第1の実施形態に係る免震構造について説明する。
図1に示すように、免震構造10は、RC造の高層建物12の本体となる上部構造体14と、基礎となる下部構造体16との間の基礎層Gに設けられている。免震構造10は、積層ゴム支承、弾性すべり支承、増幅機構付き粘性体減衰装置(増幅機構付き粘性体減衰装置は、その機構から「減衰コマ」と称されることがある。以降、減衰コマと記載する。)、及び剛性付与装置を有する。すなわち、積層ゴム支承、弾性すべり支承、減衰コマ、及び剛性付与装置によって、基礎層Gを免震層としている。
積層ゴム支承、弾性すべり支承、減衰コマ、及び剛性付与装置の設置する数及び配置は、建物の規模(平面規模、建物高さ)や目標とする免震構造の性能に応じて適宜決めればよい。
上部構造体14と下部構造体16は、風や地震等の外乱により高層建物12に水平力が作用したときに相対移動する。
免震装置としての積層ゴム支承及び弾性すべり支承は、上部構造体14と下部構造体16の間に設けられており、上部構造体14と下部構造体16が相対移動したときに、上部構造体14を長周期化して免震する。また、弾性すべり支承は、高層建物12に作用する水平力がこの弾性すべり支承の最大静止摩擦力になると滑り出す。なお、弾性すべり支承として、図27で示した、すべり免震装置300が用いられている。
図2に示すように、減衰手段としての減衰コマ18は、速度増幅部20、伝達部22、及び減衰部24によって構成されている。
速度増設部20には、外筒26の内壁に取り付けられたスラスト軸受け28を介して、ボールナット30が設けられている。そして、このボールナット30にネジ軸32が貫入されている。
伝達部22では、外筒34の内壁に取り付けられた軸受け36によって、内輪38が回転可能に支持されている。
減衰部24では、外筒40の端部に設けられた蓋部材42に取り付けられた軸受け44によって、内筒46が回転可能に支持されている。ネジ軸32と内筒46は、内輪38を介して連結されており、ネジ軸32の回転に伴って内筒46も回転する。また、外筒40と内筒46の間には、粘性体48が充填されている。
そして、ネジ部32が上部構造体14及び下部構造体16の一方に回転可能に固定され、外筒26、34、40及び蓋部材42が一体となったハウジング50が上部構造体14及び下部構造体16の他方に固定されている。
上部構造体14と下部構造体16との相対移動量は、直線運動U(軸運動)として、ネジ軸32に伝えられ、ボールナット30によって速度が増幅された内筒46の回転運動に変換される。すなわち、減衰コマ18は、上部構造体14と下部構造体16との相対移動量を増幅してコマの回転運動に換えている。
そして、この内筒46の回転により、粘性体48が充填された減衰部24の外筒40と内筒46の間に生じる粘性抵抗力が大きな減衰性能を発揮し、上部構造体14の微小振幅の揺れを減衰することができる。
なお、微小振幅の揺れとは、日本建築学会の建築物荷重指針・同解説で定められた建築設計用再現期間が1年程度の風荷重による振幅を表す。
図3に示すように、剛性付与装置52では、上部構造物14の下面に設けられた上部材54に角筒状の上ハウジング56がアンカーボルト90によって固定され、下部構造体16の上面に設けられた下部材58に角筒状の下ハウジング60がアンカーボルト92によって固定されている。上ハウジング56と下ハウジング60には、ピン部材の取り出し穴76、78が形成されており、また、上ハウジング56と下ハウジング60の外周に沿って取り付けられたリブプレート80、82によって十分な強度が確保されている。
上ハウジング56の下部には上プレート62が設けられ、下ハウジング60の上部には下プレート64が設けられている。
また、図3のA−A断面図である図4、及び剛性付与装置52の中央部の拡大断面図である図5に示すように、上プレート62には上部収納部としての貫通孔66が形成された上ブッシュ68が嵌合されている。そして、剛性部材としての円柱状のピン部材70が上方から貫通孔66に挿入され、ピン部材70の上面に形成された鍔部84が貫通孔66の周縁部に引っ掛かった状態で保持されている。
貫通孔66の大きさは、ピン部材70の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔66とピン部材70の間に隙間を有さないようになっている。
ピン部材70の略中央部には、切欠き部86が形成され、所定のせん断力を受けたときに、この切欠き部86が形成された位置で破断するようになっている。
また、図3のB−B断面図である図6、及び図5に示すように、下プレート64には下部収納部としての貫通孔72が形成された下ブッシュ74が嵌合されている。そして、上ブッシュ68の下面から突出したピン部材70の略下半分が貫通孔72に挿入されている。
貫通孔72とピン部材70との間には隙間88が形成されており、この隙間88の大きさLが、第1所定値(ピン部材70により上部構造体14と下部構造体16の相対移動が拘束されるタイミング)となっている。
なお、ピン部材70の材料は剛性を有するものであればよく、高い剛性を有するものが好ましい。例えば、SNCM439、SCM440等の高張力鋼は所定の破断強度を実現するための断面が小さい材料なので軽量化が図れる。よって、ピン部材70の材料として適している。
また、上ブッシュ68、下ブッシュ74は、ピン部材70と同等以上の強度・硬度を有する材料を用いることが好ましい。これは、ピン部材70に大きなせん断力がかかり、この力を受けた上ブッシュ68と下ブッシュ70が支圧によって破壊されないようにするためである。
また、上ハウジング56及び下ハウジング60を角筒とした例を示したが、これに限らずに、他の断面形状の筒体を用いてもよいし、中空でない柱部材を用いて、ピン部材70の上方及び下方に空間を形成させてもよい。
また、ピン部材70の形状は円柱でなくてもよく、多角柱を用いてもよい。円柱のピン部材は、貫通孔66、72に挿入し易く、せん断力を均等に受けることができるので好ましい。
また、ピン部材70の切り欠き部86はなくてもよい。
次に、本発明の第1の実施形態に係る免震構造の作用及び効果について説明する。
図3、5に示すように、再現期間1年程度の風荷重が上部構造体14に作用した場合、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値になる(ピン部材70が貫通孔72の内壁に当たる)までは、上部構造体14と下部構造体16の相対移動は拘束されないので上部構造体14は揺れる。この揺れの振幅は微小であるが、図2で示した減衰コマ18によって効果的に減衰されるので、上部構造体14の第1所定値内での微小振幅の揺れを低減させて高層建物12の快適な居住性を確保することができる。
減衰コマ18は、上部構造体14と下部構造体16との相対移動量を増幅してコマの回転運動に換え、この増幅した変位に対して減衰抵抗を発生させるので、上部構造体14と下部構造体16との相対移動量が0.5mm〜5mm程度の微小変位であっても、優れた減衰性能を発揮することができる。
なお、積層ゴム支承及び弾性すべり支承からなる免震装置によって、上部構造体14の第1所定値内での微小振幅の揺れを低減できる場合には、減衰コマ18を用いなくてもよい。
図3、5に示すように、再現期間50年程度の風荷重が上部構造体14に作用し、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値になる(ピン部材70が貫通孔72の内壁に当たる)と、ピン部材70によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動は拘束される。すなわち、上部構造体14に設けられた貫通孔66に収納されると共に、下部構造体16に設けられた貫通孔72に収納されたピン部材70が、この状態で上部構造体14と下部構造体16との相対移動を拘束する。
よって、再現期間50年程度の風荷重に対しては、免震構造10が設けられた上部構造体14と下部構造体16との間の基礎層Gの水平剛性が高められて、基礎層Gの過大な変形を抑えることができる。
また、剛性部材にピン部材70を用い、このピン部材70を貫通孔66及び貫通孔72に収納する簡単な機構により、免震構造10が設けられた上部構造体14と下部構造体16との間の基礎層Gに剛性を付与させることができる。
また、貫通孔72とピン部材70との間に形成された隙間88の大きさLを変えることによって、第1所定値を調整することができる。
大地震等により大きな水平力が下部構造体16に作用し、上部構造体14と下部構造体16が大きく相対移動して相対移動量が第1所定値よりも大きい第2所定値になると、ピン部材70が破断する。すなわち、第2所定値は、ピン部材70が水平力を受けたときから破断するまでの破断変位量に第1所定値を足したものである。そして、ピン部材70の破断によって、上部構造体14と下部構造体16の相対移動の拘束が解除される。この解除によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動が可能になり、免震装置としての積層ゴム支承及びすべり免震装置300を機能させて上部構造体を免震する。よって、大地震等に対して免震効果を発揮することができる。
図27で示した、すべり免震装置300は、滑り出すまでは地震等の外乱により作用する水平力に対して静止摩擦力が働き、滑り出してからは動摩擦力が働くので、静止摩擦力が最大静止摩擦力に達して動摩擦力に変わるときに耐力が急激に小さくなる。
よって、上部構造体14と下部構造体16の相対移動の拘束が解除されて、すべり免震装置300が滑り出したときに、免震機能を効果的に発揮させることができる。
ここで、免震構造10において、図5に示した剛性付与装置52の下プレート64に形成された貫通孔72とピン部材70の間に隙間88を設けずに、図7に示すような一般的なピン構造とした場合、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量に対するピン部材70の耐力の値は図8(A)、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量に対する積層ゴム支承とすべり免震装置300の耐力を合計した値は図8(B)、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量に対するピン部材70、積層ゴム支承、及びすべり免震装置300の耐力を合計した値は図8(C)の傾向をそれぞれ示す。
図8(A)に示すように、ピン部材70は初期剛性が大きい。また、所定の相対移動量(変位D1)に達したときに破断して、その後は耐力がなくなる特性を有している。よって、基礎層Gに付与した剛性を解除する部材として適している。
図8(B)は、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量に対する積層ゴム支承とすべり免震装置300の耐力を合計した値を示したものである。図8(B)に示すように、積層ゴム支承とすべり免震装置300を合わせた耐力は、まず、積層ゴム支承とすべり免震装置300の単層ゴム材306のせん断変形により、ピン部材70よりも小さな初期剛性で増加する。
次に、すべり免震装置300のすべり材310が潤滑性被膜316上を滑り出す位置(変位D2)からはすべり免震装置300の動摩擦力は相対移動量に関係なく一定となるので、積層ゴム支承のせん断耐力によって、耐力は緩やかに増加する。
積層ゴム支承、すべり免震装置300、及び剛性付与装置52が併設された免震構造10においては、図8(A)と図8(B)のグラフの値を足し合わせた図8(C)のような特性を持つようになる。
ここで、再現期間50年程度の風荷重による水平力をP1としたときに、この水平力P1以下の水平力において上部構造体14と下部構造体16の相対移動を拘束し、基礎層G(免震層)に過大な変形を生じさせない(例えば、免震層変形を10mm〜20mm程度以内に抑える)ためには、積層ゴム支承、すべり免震装置300、及び剛性付与装置52のピン部材70の耐力を合計した値を水平力P1よりも大きくしなければならない。
しかし、ピン部材70が破断する位置(変位D1)における積層ゴム支承とすべり免震装置300の耐力を合計した値(図8(B)の値P2)はとても小さいので、ほとんどピン部材70のみで荷重P1に抵抗しなければならない。よって、ピン部材70の1基当りの強度にも限度があるので、必然的に設置するピン部材70の数は多くなり、コスト高になってしまう。
しかし、第1の実施形態では、免震構造10において、図5に示すように貫通孔72とピン部材70の間に隙間88を設けたピン構造としたので、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量に対するピン部材70の耐力の値は図9(A)、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量に対する積層ゴム支承とすべり免震装置300の耐力を合計した値は図9(B)、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量に対するピン部材70、積層ゴム支承、及びすべり免震装置300の耐力を合計した値は図9(C)の傾向をそれぞれ示すようになる。
図9(A)に示すように、ピン部材70は、第1所定値としての隙間88の大きさLにピン部材70の破断変位量D1を足した第2所定値(変位D2)に、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が達したときに破断する。なお、ピン部材70の破断変位量D1とは、ピン部材70が水平力を受けたときから破断するまでの変位量である。
図9(B)に示すように、積層ゴム支承とすべり免震装置300を合わせた耐力は、まず、積層ゴム支承とすべり免震装置300の単層ゴム材306のせん断耐力により、ピン部材70よりも小さな初期剛性で増加する。
次に、すべり免震装置300のすべり材310が潤滑性被膜316上を滑り出す位置(変位D2)からは、すべり免震装置300の動摩擦力は相対移動量に関係なく一定となるので、積層ゴム支承のせん断耐力によって、耐力は緩やかに増加する。
積層ゴム支承、すべり免震装置300、及び剛性付与装置52が併設された免震構造10においては、図9(A)と図9(B)のグラフの値を足し合わせた図9(C)のような特性を持つようになる。
ここで、再現期間50年程度の風荷重による水平力をP1としたときに、この水平力P1以下の水平力において上部構造体14と下部構造体16の相対移動を拘束し、基礎層G(免震層)に過大な変形を生じさせない(例えば、免震層変形を10mm〜20mm程度以内に抑える)ためには、積層ゴム支承、すべり免震装置300、及び剛性付与装置52のピン部材70の耐力を合計した値が水平力P1よりも大きくなっていなければならない。
積層ゴム支承とすべり免震装置300を合わせた耐力は、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量に対して漸増する。
そこで、ピン部材70が上部構造体14と下部構造体16の相対移動を拘束するタイミングを、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値(隙間88の大きさL)になったときとすることによって、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が大きい位置、すなわち積層ゴム支承とすべり免震装置300の免震装置を合わせた耐力が大きい値(図9(B)の値P2)となる位置(変位D2)でピン部材70を機能させることができる。
よって、ピン部材70が負担すべき水平力は小さくなり、設置するピン部材70の数を少なくすることができるので、施工性が向上し、工期短縮や低コスト化が図れる。
例えば、図9(B)に示したように、積層ゴム支承とすべり免震装置300の免震装置を合わせた耐力P2の値は大きくなるので、図9(C)の変位D2における耐力も水平力P1に対して十分に大きくなる。図9(C)において、積層ゴム支承、すべり免震装置300、及び剛性付与装置52のピン部材70を合計した耐力は、水平力P1よりも多少大きければよいので、図9(C)の点線93のような特性を得るためには、図9(A)の点線95のような特性を有する小さな耐力のピン部材70であればよい。または、所定の耐力を持つピン部材70の数を減らすことができる。
なお、第1の実施形態では、下部収納部としての貫通孔72とピン部材70との間に隙間88を形成した例を示したが、隙間は、上部収納部としての貫通孔66とピン部材70との間に形成されていてもよい。また、例えば、図10、12の側断面図に示すように、周縁が鍔部99となる板材100をピン部材97にアイボルト102を用いて固定してもよい。
図10のC−C断面図である図11に示すように、図10では、下部収納部としての貫通孔72とピン部材97との間に隙間88を形成している。
また、図12のE−E断面図である図13に示すように、図12では、上部収納部としての貫通孔104とピン部材97との間に隙間106を形成している。
また、免震装置として、すべり免震装置300を用いた例を示したが、これに限らずに、上部構造体14と下部構造体16が相対移動したときに、上部構造体14を長周期化して免震するものであればよい。初期剛性が高く、かつ所定の水平力において耐力が無くなるか又は急変して小さくなる免震装置が好ましい。例えば、鉛プラグ入り積層ゴム支承や鋼棒ダンパー等を用いることができる。この場合、鉛プラグ入り積層ゴム支承では鉛プラグの降伏点、鋼棒ダンパーでは鋼棒の降伏点が、上部構造体14と下部構造体16の相対移動の拘束が解除されたときに免震機能を発揮させるのに有効なトリガーになる。
また、免震装置の全てを積層ゴム支承としてもよい。逆に、免震装置の全てを弾性すべり支承としてもよいが、上部構造体14を元の位置に戻す復元材の役割りを果たす積層ゴム支承と併設するのが好ましい。
また、減衰手段として減衰コマ18を用いた例を示したが、0.5mm〜5mm程度の微小振幅の揺れを減衰するものあればよく、粘弾性体を用いたダンパーや、取付け部のガタを無くし、油に予圧を加える等、微小変形領域の性質向上を図ったオイルダンパー等を用いてもよい。
次に、本発明の第2の実施形態に係る免震構造について説明する。
第2の実施形態は、第1の実施形態の上部材54の側方に剛性付与装置を配置したものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図14の側面図に示すように、第2の実施形態の剛性付与装置124では、上部材54の側面に上プレート108が突設されている。上プレート108の端部には、この上プレート108と略垂直に支持プレート110が接合されている。
図14の平面図である図15に示すように、支持プレート110には貫通孔118が形成されており、この貫通孔118にアンカーボルト114を貫通させて、支持プレート110を上部材54の側面に固定している。
上プレート108には、上部収納部としての貫通孔112が形成されている。そして、ピン部材70が貫通孔112に挿入され、ピン部材70の上面に形成された鍔部84が貫通孔112の周縁部に引っ掛かった状態で保持されている。
貫通孔112の大きさは、ピン部材70の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔112とピン部材70の間に隙間を有さないようになっている。
また、下部材58には下部収納部としての円柱状の穴120が形成されている。そして、上プレート108の下面から突出したピン部材70の略下半分が穴120に挿入されている。
穴120とピン部材70との間には隙間122が形成されており、この隙間122の大きさが、第1所定値(ピン部材70により上部構造体14と下部構造体16の相対移動が拘束されるタイミング)となっている。
支持プレート110と上プレート108はリブプレート116により補強されている。よって、上部構造体14と下部構造体16が相対移動してピン部材70が穴120の内壁に当たりピン部材70が水平力を受けた状態においても、上プレート108はピン部材70を強固に支持することができる。
なお、第1の実施形態のように、貫通孔112及び穴120の周りにブッシュを設けてもよい。
次に、本発明の第2の実施形態に係る免震構造の作用及び効果について説明する。
第2の実施形態は、第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、図14に示すように、再現期間1年程度の風荷重が上部構造体14に作用した場合、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値になる(ピン部材70が穴120の内壁に当たる)までは、上部構造体14と下部構造体16の相対移動は拘束されないので上部構造体14は揺れる。この揺れの振幅は微小であるが、図2に示す減衰コマ18によって効果的に減衰されるので、上部構造体14の第1所定値内での微小振幅の揺れを低減させて高層建物12の快適な居住性を確保することができる。
また、再現期間50年程度の風荷重が上部構造体14に作用し、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値になる(ピン部材70が穴120の内壁に当たる)と、ピン部材70によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動は拘束される。すなわち、上部構造体14側に設けられた貫通孔112に収納されると共に、下部構造体16側に設けられた穴120に収納されたピン部材70が、この状態で上部構造体14と下部構造体16との相対移動を拘束する。
よって、再現期間50年程度の風荷重に対しては基礎層Gの水平剛性が高められて、基礎層Gの過大な変形を抑えることができる。
また、穴120とピン部材70との間に形成された隙間の大きさを変えることによって、第1所定値を調整することができる。
大地震等により大きな水平力が下部構造体16に作用し、上部構造体14と下部構造体16が大きく相対移動して相対移動量が第1所定値よりも大きい第2所定値になると、ピン部材70が破断する。これによって、上部構造体14と下部構造体16の相対移動の拘束が解除される。すなわち、第2所定値は、ピン部材70が水平力を受けたときから破断するまでの破断変位量に第1所定値を足したものである。そして、この解除によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動が可能になり、免震装置としての積層ゴム支承及び弾性すべり支承を機能させて上部構造体を免震する。よって、大地震等に対して免震効果を発揮することができる。
また、第2の実施形態では、ピン部材70の上方に十分な空間があるので、ピン部材70の抜き差しが容易となる。
次に、本発明の第3の実施形態に係る免震構造について説明する。
第3の実施形態は、第1の実施形態の上部材54及び下部材58の側方に剛性付与装置を配置し、支持部材によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動を拘束するものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図16の側面図に示すように、第3の実施形態の剛性付与装置126では、下部材58の側面に支持部材128が突設されている。支持部材128は、円柱部材130Aと円柱部材130Bによって構成されている。円柱部材130A、130Bは、共に剛性を有している。
円柱部材130Aの一方の端部は、この端部に設けられたフランジ132によって下部材58の側面に固定されている。また、円柱部材130Aの他方の端部に形成された雄ネジ134が、円柱部材130Bの一方の端部に形成された雌ネジ136に螺合されて、円柱部材130Aと円柱部材130Bが一体となっている。
円柱部材130Bの他方の端部は拡幅されて受け部138を形成している。また、支持部材128の先端部付近は、上部構造体14下面から懸架された円環状のガイド部材140によって上下方向の移動が拘束されている。支持部材128は、ガイド部材140を貫通しており、水平方向に移動可能となっている。
受け部138の端面と上部材54の側面との間に形成される隙間142は、雄ネジ134の雌ネジ136への捻じ込み量によって調節できる。この隙間142の大きさが、第1所定値(支持部材128により上部構造体14と下部構造体16の相対移動が拘束されるタイミング)となっている。
次に、本発明の第3の実施形態に係る免震構造の作用及び効果について説明する。
第3の実施形態は、第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、図16に示すように、再現期間1年程度の風荷重が上部構造体14に作用した場合、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値になる(支持部材128の受け部138が上部材54の側面に当たる)までは、上部構造体14と下部構造体16の相対移動は拘束されないので上部構造体14は揺れる。この揺れの振幅は微小であるが、図2に示す減衰コマ18によって減衰されるので、上部構造体14の第1所定値内での微小振幅の揺れを低減させて高層建物12の快適な居住性を確保することができる。
また、再現期間50年程度の風荷重が上部構造体14に作用し、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値になる(支持部材128の受け部138が上部材54の側面に当たる)と、支持部材128によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動は拘束される。
よって、再現期間50年程度の風荷重に対しては基礎層Gの水平剛性が高められて、基礎層Gの過大な変形を抑えることができる。
また、隙間142の大きさを変えることによって、第1所定値を調整することができる。
大地震等により大きな水平力が下部構造体16に作用し、上部構造体14と下部構造体16が大きく相対移動して相対移動量が第1所定値よりも大きい第2所定値になると、支持部材128が座屈する。これによって、上部構造体14と下部構造体16の相対移動の拘束が解除される。すなわち、第2所定値は、支持部材128が水平力を受けたときから座屈するまでの座屈変位量に第1所定値を足したものである。そして、この解除によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動が可能になり、免震装置としての積層ゴム支承及び弾性すべり支承を機能させて上部構造体を免震する。よって、大地震等に対して免震効果を発揮することができる。
なお、第3の実施形態では、雌ネジ136へ対する雄ネジ134の捻じ込みによって第1所定値の大きさ(隙間142の大きさ)を調整した例を示したが、固定した長さの支持部材128を下部材58の側面に突設してもよい。また、支持部材128を上部材54の側面に突設して、受け部材138の端面と下部材58の側面との間に隙間を形成するようにしてもよい。また、支持部材128は、上部材54の下面や下部材58の上面に固定してもよい。
また、円柱部材130Aと円柱部材130Bは、座屈し易い長尺部材であればよく、多角柱であってもよい。
また、第3の実施形態の剛性付与装置126は、上部構造体14と下部構造体16の一方向の相対移動に対して基礎層Gに剛性を付与するものであるので、上部構造体14と下部構造体16のいくつかの方向の相対移動に対応させる場合には、剛性付与が必要な方向に複数の剛性付与装置126を適宜設ければよい。
次に、本発明の第4の実施形態に係る免震構造について説明する。
第4の実施形態は、第1の実施形態の上部材54及び下部材58の側方に剛性付与装置を配置し、リンク機構によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動を拘束するものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図17の側面図に示すように、第3の実施形態の剛性付与装置144では、上部材54の側面に固定されたフランジ146の接続部156で、リンク部材150Aの一方の端部とリンク部材150Bの一方の端部とが回転可能に接続されている。
そして、下部材58の側面に固定されたフランジ148の接続部158で、リンク部材150Cの一方の端部とリンク部材150Dの一方の端部とが回転可能に接続されている。また、リンク部材150Aの他方の端部とリンク部材150Cの他方の端部とが回転可能に接続され、リンク部材150Bの他方の端部とリンク部材150Dの他方の端部とが回転可能に接続されている。
リンク部材150A〜Dは、共に剛性を有している。
そして、リンク部材150A〜Dによって菱形のリンク機構150を構築し、このリンク機構150の頂部と上部構造体14下面との間に隙間152を形成し、リンク機構150の底部と下部構造体16上面との間に隙間154を形成している。
よって、上部構造体14と下部構造体16が相対移動して、上部材54(接続部156)と下部材58(接続部158)の間の距離が縮まるとリンク機構150は縦長の菱形に変形するので、リンク機構150の頂部は上方へ移動し、リンク機構150の底部は下方へ移動する。
次に、本発明の第4の実施形態に係る免震構造の作用及び効果について説明する。
第4の実施形態は、第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、図17に示すように、再現期間1年程度の風荷重が上部構造体14に作用した場合、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値になる(リンク機構150の頂部が上部構造体14の下面に当たる、又はリンク機構150の頂部が上部構造体14の下面に当たる)までは、上部構造体14と下部構造体16の相対移動は拘束されないので上部構造体14は揺れる。この揺れの振幅は微小であるが、図2に示す減衰コマ18によって減衰されるので、上部構造体14の第1所定値内での微小振幅の揺れを低減させて高層建物12の快適な居住性を確保することができる。
また、再現期間50年程度の風荷重が上部構造体14に作用し、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値になる(リンク機構150の頂部が上部構造体14の下面に当たる、又はリンク機構150の頂部が上部構造体14の下面に当たる)と、リンク機構150によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動は拘束される。
よって、再現期間50年程度の風荷重に対しては基礎層Gの水平剛性が高められて、基礎層Gの過大な変形を抑えることができる。
また、リンク部材150A〜Dの長さや接続部156、158間の長さを変えることによって、隙間152、154の大きさを変え、第1所定値を調整することができる。隙間152と154の大きさは異ならせてもよいし、同じにしてもよい。
大地震等により大きな水平力が下部構造体16に作用し、上部構造体14と下部構造体16が大きく相対移動して相対移動量が第1所定値よりも大きい第2所定値になると、リンク機構150のリンク部材150A〜Dの少なくとも1つが座屈する。これによって、上部構造体14と下部構造体16の相対移動の拘束が解除される。すなわち、第2所定値は、リンク機構150が鉛直力を受けたときから座屈するまでの接続部156と接続部158との間の変位量に第1所定値を足したものである。そして、この解除によって上部構造体14と下部構造体16の相対移動が可能になり、免震装置としての積層ゴム支承及び弾性すべり支承を機能させて上部構造体を免震する。よって、大地震等に対して免震効果を発揮することができる。
このように、リンク部材150A〜Dを座屈させるため、リンク機構150の頂部が当たる上部構造体14の下面、及びリンク機構150の底部が当たる下部構造体16の上面は堅い面となっている。例えば、リンク機構150の頂部が当たる上部構造体14の下面、及びリンク機構150の底部が当たる下部構造体16の上面に鉄板等を取り付けてもよい。
なお、第4の実施形態では、上部材54の側面にフランジ146、下部材58の側面にフランジ148を固定した例を示したが、フランジ146、148は、上部材54の下面や下部材58の上面に固定してもよい。
また、第4の実施形態の剛性付与装置144は、上部構造体14と下部構造体16の一方向の相対移動に対して基礎層Gに剛性を付与するものであるので、上部構造体14と下部構造体16のいくつかの方向の相対移動に対応させる場合には、剛性付与が必要な方向に複数の剛性付与装置126を適宜設ければよい。
次に、本発明の第5の実施形態に係る免震構造について説明する。
第5の実施形態は、第1の実施形態の免震構造10に減衰コマ18を設けずに、上部構造体14と下部構造体16の間に粘弾性体を設けたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図18に示すように、上ハウジング56の下部には上プレート62が設けられ、下ハウジング60の上部には下プレート64が設けられている。
また、図18の剛性付与装置160の中央部の拡大断面図である図19に示すように、上プレート62には上部収納部としての貫通孔66が形成された上ブッシュ68が嵌合されている。そして、剛性部材としての円柱状のピン部材162が貫通孔66に挿入され、ピン部材162の上面に形成された鍔部164が貫通孔66の周縁部に引っ掛かった状態で保持されている。
貫通孔66の大きさは、ピン部材162の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔66とピン部材162の間に隙間を有さないようになっている。
ピン部材162の上ブッシュ68下面に位置する付近には、切欠き部166が形成され、所定のせん断力を受けたときに、この切欠き部166が形成された位置で破断するようになっている。
また、下プレート64には下部収納部としての貫通孔72が形成された下ブッシュ74が嵌合されている。そして、上プレート62の下面から突出したピン部材162の下部が貫通孔72に挿入されている。
貫通孔72とピン部材162との間には隙間88が形成されており、この隙間88の大きさが、第1所定値(ピン部材162により上部構造体14と下部構造体16の相対移動が拘束されるタイミング)となっている。
また、上プレート62と下プレート64の間には中間プレート168が設けられており、この中間プレート168と下プレート64によって減衰手段としての粘弾性体170を挟み込んでいる。すなわち、第5の実施形態では、減衰手段が粘弾性体170であり、上部構造体14と下部構造体16との間に、この粘弾性体170が設けられている。そして、この粘弾性体170が上部構造体14の第1所定値内での微小振幅の揺れを減衰する。
なお、微小振幅の揺れとは、日本建築学会の建築物荷重指針・同解説で定められた建築設計用再現期間が1年程度の風荷重による振幅を表す。
中間プレート168には貫通孔172が形成された中間ブッシュ174が嵌合されており、この貫通孔172をピン部材162が貫通している。中間ブッシュ174には、上ブッシュ68及び下ブッシュ74と同じ材料が用いられている。
また、ピン部材162には、第1の実施形態のピン部材70と同じ材料が用いられている。ピン部材162の形状は円柱でなくてもよく、多角柱を用いてもよい。円柱のピン部材は、貫通孔66、172、72に挿入し易く、せん断力を均等に受けることができるので好ましい。
また、ピン部材162の切り欠き部166はなくてもよい。
また、粘弾性体170としては、ジエン系ゴム、ブチル系ゴム、アクリル系ゴム、ウレタンアスファルト系ゴム等を用いることができる。
次に、本発明の第5の実施形態に係る免震構造の作用及び効果について説明する。
第5の実施形態は、第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることができ、また、図19に示すように、再現期間1年程度の風荷重が上部構造体14に作用した場合、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量が第1所定値になる(ピン部材162が貫通孔72の内壁に当たる)までは、上部構造体14と下部構造体16の相対移動は拘束されないので上部構造体14は揺れる。この揺れの振幅は微小であるが、粘弾性体170によって減衰されるので、上部構造体14の第1所定値内での微小振幅の揺れを低減させて高層建物12の快適な居住性を確保することができる。
また、複雑な機構を用いずに、0.5mm〜5mm程度の微小変位に対して、減衰性能を発揮することができる。
なお、第5の実施形態では、中間プレート168と下プレート64の間に粘弾性体170を挟み込んだ例を示したが、減衰手段としての粘弾性体170は上部構造体14と下部構造体16の間に設けられていればよい。例えば、上ブッシュ68とピン部材162の間に隙間を形成させて、上プレート62と中間プレート168の間に粘弾性体170を挟み込むようにしてもよい。
次に、本発明の第6の実施形態に係る免震構造の設計方法及び免震建物について説明する。
第6の実施形態は、第1の実施形態の免震構造10における設計方法を示したものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
第6の実施形態では、図1に示した免震構造10のすべり免震装置300が滑り出すときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量と、ピン部材70が破断するときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量とがほぼ等しくなるように免震構造を設計する。
次に、本発明の第6の実施形態に係る免震構造の設計方法及び免震建物の作用及び効果について説明する。
再現期間50年程度の風荷重以下の水平力が上部構造体14に作用したときに過大な変形を生じないように、上部構造体14と下部構造体16の相対移動を拘束するためには、この水平力を受けたときに、積層ゴム支承、すべり免震装置300、及び剛性付与装置52のピン部材70の耐力を合計した値が水平力よりも大きくなっていなければならない。
すべり免震装置300の耐力は、上部構造体14と下部構造体16の相対移動量に比例して大きくなり、すべり免震装置300が滑り出すときに急激に小さくなる。
そこで、すべり免震装置300が滑り出すときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量と、ピン部材70が破断又は座屈するときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量とをほぼ等しくすることによって、すべり免震装置300の耐力が最大となる(最大静止摩擦力が生じる)位置でピン部材70を機能させることができる。
よって、ピン部材70が負担すべき水平力は小さくなり、設置するピン部材70の数を少なくすることができるので、施工性が向上し、工期短縮や低コスト化が図れる。
なお、これらの作用・効果が得られれば、すべり免震装置300が滑り出すときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量と、ピン部材70が破断又は座屈するときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量とは、完全一致していてもよく、ある程度の差を有していてもよい。
また、ピン部材70が破断した後のすべり免震装置300の耐力は急激に小さくなるので、免震機能を効果的に発揮させることができる。
なお、第6の実施形態では、第1の実施形態の免震構造10における設計方法の例を示したが、第6の実施形態を第2〜5の実施形態の免震構造の設計方法に適用してもよい。第2の実施形態に適用する場合には、第6の実施形態と同様に、すべり免震装置300が滑り出すときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量を、ピン部材70が破断するときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量と等しくなるようにすればよい。また、第3の実施形態に適用する場合には、すべり免震装置300が滑り出すときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量を、支持部材128が座屈するときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量と等しくなるようにすればよい。また、第4の実施形態に適用する場合には、すべり免震装置300が滑り出すときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量を、リンク機構150のリンク部材が座屈するときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量と等しくなるようにすればよい。また、第5の実施形態に適用する場合には、すべり免震装置300が滑り出すときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量を、ピン部材162が破断するときの上部構造体14と下部構造体16の相対移動量と等しくなるようにすればよい。
また、第6の実施形態で示した免震構造の設計方法を用いて免震建物を設計して施工すれば、再現期間1年程度の風荷重に対して快適な居住性を確保し、再現期間50年程度の風荷重に対しては免震層の水平剛性を高め、大地震時には免震効果を発揮する免震建物を構築することができる。
なお、第1〜6の実施形態では、免震構造を高層建物12の本体となる上部構造体14と、基礎となる下部構造体16との間の基礎層Gに設けられた例を示したが、高層以外のさまざまな高さの建物に適用した場合においても第1〜6の実施形態と同様の効果が得られる。高層建物の方が、風荷重によって建物に作用する水平力が大きくなり、また、上層階の風揺れによる居住性悪化がより顕著な問題となるので、第1〜6の実施形態を高層建物に適用した方がより効果的である。
また、第1〜6の実施形態の免震構造を基礎層Gに設けた例を示したが、免震構造は中間層に設けられていてもよい。
また、剛性付与装置は、上部構造体14と下部構造体16の相対移動が第1所定値になると上部構造体14と下部構造体16の相対移動を拘束し(免震層に剛性を付与し)、剛性部材の破断又は座屈によってこの拘束を解除できるものであればよく、第1〜6の実施形態で示したもの以外の装置を用いてもよい。
このように、第1〜6の実施形態では、超高層免震建物に免震性能と耐風性能を兼ね備えさせることができる。また、免震装置(弾性すべり支承、積層ゴム支承)や減衰手段(減衰コマ、粘弾性体)によって再現期間1年程度の風荷重に対して快適な居住性を確保し、剛性部材(ピン部材、支持部材、リンク機構)によって再現期間50年程度の風荷重に対しては免震層の水平剛性を高め、免震装置(弾性すべり支承、積層ゴム支承)によって大地震時には免震効果を発揮することができる。
また、剛性部材が上部構造体14と下部構造体16の相対移動を拘束するタイミングを、上部構造体14と下部構造体16の相対移動が第1所定値になったときとすることによって、剛性部材が負担すべき水平力は小さくなり、設置する剛性部材の数を少なくすることができるので、施工性が向上し、工期短縮や低コスト化が図れる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
(実施例)
図20に示す基礎免震モデル176(以降、第1基礎免震モデル176と記載する)、初期剛性の高い免震材料である鋼棒ダンパーを第1基礎免震モデル176に設けたモデル(以降、第2基礎免震モデルと記載する)、収納部(貫通孔)とピン部材の間に隙間がないピン構造(図7)の剛性付与装置を第1基礎免震モデル176に設けたモデル(以降、第3基礎免震モデルと記載する)、及び収納部(貫通孔)とピン部材の間に隙間があるピン構造(図5)の剛性付与装置を第1基礎免震モデル176に設けたモデル(以降、第4基礎免震モデルと記載する)に対して、再現期間50年の風荷重に対する免震層の変形、再現期間1年の風荷重に対する居住性、及び地震時の免震性について評価した。
図21は、図1に示した基礎層G(免震層)を図20に示す第1基礎免震モデル176とした場合における、免震層変位に対する免震層の耐力を示したものである。
高層建物12は、高さ160m(40階)の建物とし、建物重量は452,587kN(各層均一の重量分布)とした。また、建物の各層の剛性はAi分布に基いて層間変形が一定になるように設定し、免震建物の初期剛性の1次周期T1を3.51sとした。
図20に示すように、第1基礎免震モデル176の内側には、9基の弾性すべり支承178が配置されている。また、第1基礎免震モデル176の四隅には天然ゴム系積層ゴム支承180が配置され、周縁には合計9基の天然ゴム系積層ゴム支承182が配置されている。弾性すべり支承178、天然ゴム系積層ゴム支承180、182は一定の間隔を空けて格子状に配置されている。
弾性すべり支承178(900φ×4)の初期剛性K1を624kN/cm、天然ゴム系積層ゴム支承182(1,300φ×1)の初期剛性K1を26kN/cm、天然ゴム系積層ゴム支承180(950φ×1)の初期剛性K1を14kN/cmとすると、免震層全体の初期剛性Kは5,906kN/cm(=624kN/cm×9+26kN/cm×9+14kN/cm×4)となる。弾性すべり支承は、免震層変形2cmで滑り出すとし、静止摩擦係数を0.04、動摩擦係数を0.025とした。上部を剛体と仮定して求めた免震層変形が20cmのときの等価周期T2は5.33sとなる。
図21の符号184は弾性すべり支承178の9基分の値を示し、符号186は天然ゴム系積層ゴム支承182の9基分の値を示し、符号188は天然ゴム系積層ゴム支承180の4基分の値を示している。また、符号190は符号184、186、188を合計した値を示している。
符号192は、再現期間50年の風荷重において、粗度区分をIII、基準速度を34m/sとしたときに、風荷重により建物の免震層にかかる荷重13,870kNを示している。
図21の符号190に示すように、免震層全体の初期剛性Kは5,906kN/cmなので、免震層の最大耐力は免震層変位δが2cmのときに11,812kNとなる。よって、符号192の荷重13,870kNよりも2,058kN(=13,870kN−11,812kN)不足していることになる。
これにより、再現期間50年の風荷重に対して免震層の最大耐力が不足しているので、免震層に過大な変形(25cm以上)が生じる可能性があることがわかる。
また、再現期間1年の風荷重に対して建物の頂部の加速度ACは、日本建築学会の建築物荷重指針・同解説に基いて計算すると最大で9.1cm/s2となる。なお、建物全体の減衰を1%、粗度区分をIII、地域を東京地区とした。
ここで、図22は、建物の頂部における、振動数(Hz)に対する加速度(cm/s2)の値を示している。また、符号194、196、198、200、202は、日本建築学会の居住性評価値H−90、H−70、H−50、H−30、H−10の境界線を示している。例えば、H−70とH−90の境界線の間の領域では、70%以上の人が振動を感じるということなので、評価値が小さいほど人が振動を感じない、すなわち居住性がよいことになる。
図22において、再現期間1年の風荷重に対する建物頂部の加速度9.1cm/s2は符号204の点となり、H−90を超えてしまっているので、再現期間1年の風荷重に対して居住性がかなり悪いことがわかる。
図23は、建物の各階(縦軸)における固有値解析によって求まる建物の固有モード(横軸)を示したモード図である。建物の固有振動数をf(=1/T1)とすると、建物の初期剛性の1次周期T1は3.51s、建物頂部の加速度ACは9.1cm/s2なので、建物頂部の変形DはAC/(2πf)2の式より、2.84cmとなる。そして、図23の符号230では、建物頂部(41階)のモードが1であるのに対して、免震層(1階)のモードは0.157となっているので、免震層の変形は、建物頂部の変形2.84cmにこの0.157を掛けた0.44cmとなる。
これらにより、第1基礎免震モデル176では、再現期間50年の風荷重に対しては免震層の変形が過大となる可能性があり、再現期間1年の風荷重に対しては居住性が悪くなってしまうことがわかる。
なお、初期剛性の1次周期T1及び等価周期T2は、固有値解析により求めた値である。
次に、第1基礎免震モデル176の問題点である再現期間50年の風荷重に対する免震層の過大変形をなくすために、免震層を第2基礎免震モデルとし、再現期間50年の風荷重に対する免震層の変形について評価した。第2基礎免震モデルは、第1基礎免震モデル176に初期剛性の高い免震材料である鋼棒ダンパーが設けられたものである。
鋼棒ダンパーとして新日鐵製免震U型ダンパーNSUD45×8を免震層に設けた場合、この鋼棒ダンパーの初期剛性K1は152kN/cm、2次剛性K2は2.56kN/cm、降伏せん断力は368kN、降伏変位は2.42cmとなる。
第1基礎免震モデル176では、再現期間50年の風荷重によって建物の免震層にかかる荷重13,870kNよりも、免震層の最大耐力が2,058kN不足していたので、2,058kN/368kN=5.6基に余裕を持たせて、免震層に設ける新日鐵製免震U型ダンパーNSUD45×8を7基とした。このとき、7基分の鋼棒ダンパーの初期剛性は1,064kN/cm(=152kN/cm×7基)となるので、免震層の初期剛性Kは、第1基礎免震モデル176の免震層の初期剛性5,906kN/cmと鋼棒ダンパーの初期剛性1,064kN/cmを合計した6,970kN/cmとなる。
図24は、図1の基礎層G(免震層)を第2基礎免震モデルとした場合における、免震層変位に対する免震層の耐力の値を示したものである。符号184の弾性すべり支承178の値、符号186の天然ゴム系積層ゴム支承182の値、符号188の天然ゴム系積層ゴム支承180の値、符号192の再現期間50年の風荷重により建物の免震層にかかる荷重の値は、第1基礎免震モデル176のとき(図21)と同じである。
符号206は、新日鐵製免震U型ダンパーNSUD45×8の7基分の値を示している。また、符号208は符号184、186、188、206を合計した値を示している。
図24の符号208に示すように、免震層全体の初期剛性Kは6,970kN/cmなので、免震層の最大耐力は免震層変位δが2cmのときに13,940kNとなる。よって、符号192の荷重13,870kNよりも大きくなっている。
これにより、再現期間50年の風荷重に対して免震層の最大耐力が足りているので、免震層に過大な変形が生じないことがわかる。
ここで、第2基礎免震モデルに減衰係数が6.21t/(cm/s)の減衰コマを14基設置すると2.0%の付加減衰を与えることができ、初期剛性の1次周期T1は3.44sとなるので、図22の符号210の状態になり、第1基礎免震モデル176の符号204に比べて再現期間1年の風荷重に対する居住性も改善される。
しかし、免震層より上部を剛体と仮定し、免震層変位δが20cmのときの等価周期T2は4.82sとなり、第1基礎免震モデルと比較して、大地震時には硬くなるために所定の免震性を発揮できない可能性があることがわかる。
次に、第2基礎免震モデルの問題点である免震性を向上させるために、免震層を第3基礎免震モデルとし、再現期間50年の風荷重に対する免震層の変形について評価した。第3基礎免震モデルは、収納部(貫通孔)とピン部材の間に隙間がないピン構造(図7)の剛性付与装置が第1基礎免震モデル176に設けられたものである。
剛性付与装置のピン部材として図7のピン部材70を6基使用し、このピン部材70の特性を破断荷重2,500kN、剛性4,000kN/cmとすると、免震層の初期剛性Kは、第1基礎免震モデル176の免震層の初期剛性5,906kN/cmとピン部材70の6基分の初期剛性24,000kN/cmを合計した29,906kN/cmとなる。
図25は、図1の基礎層G(免震層)を第3基礎免震モデルとした場合における、免震層変位に対する免震層の耐力の値を示したものである。符号184の弾性すべり支承178の値、符号186の天然ゴム系積層ゴム支承182の値、符号188の天然ゴム系積層ゴム支承180の値、符号192の再現期間50年の風荷重により建物の免震層にかかる荷重の値は、第1基礎免震モデル176のとき(図21)と同じである。
符号212は、ピン部材70の6基分の値を示している。また、符号214は符号184、186、188、212を合計した値を示している。
図25の符号214に示すように、免震層全体の初期剛性Kは29,906kN/cmなので、免震層の最大耐力は免震層変位δが0.625cmのときに18,691kNとなる。よって、符号192の荷重13,870kNよりも大きくなっている。
これにより、再現期間50年の風荷重に対して免震層の最大耐力が足りているので、免震層に過大な変形が生じないことがわかる。
ここで、第3基礎免震モデルに減衰係数が6.21t/(cm/s)の減衰コマを20基設置しても0.18%の付加減衰しか与えることができず、初期剛性のT1は3.51sとなるので、図22の符号216の状態になり、第1基礎免震モデルの符号204に比べて再現期間1年の風荷重に対する居住性が改善されていないことがわかる。
また、上部を剛体と仮定し、免震層変位δが20cmのときの等価周期T2は5.33sとなり、大地震時に所定の免震性を発揮できることがわかる。
次に、第3基礎免震モデルの問題点である再現期間1年の風荷重に対する居住性を向上させるために、免震層を第4基礎免震モデルとし、再現期間50年の風荷重に対する免震層の変形について評価した。第4基礎免震モデルは、収納部(貫通孔)とピン部材の間に隙間があるピン構造(図5)の剛性付与装置が第1基礎免震モデル176に設けられたものである。すなわち、第4基礎免震モデルは、本発明に係る第1の実施形態の免震構造10に相当する。
剛性付与装置のピン部材として図5のピン部材70を1基使用し、このピン部材70の特性を破断荷重2,500kN、剛性4,000kN/cmとすると、免震層の初期剛性Kは、第1基礎免震モデル176の免震層の初期剛性5,906kN/cmとほぼ変わらない。また、図5の隙間88の大きさLを1.375cmとした。
図26は、図1の基礎層G(免震層)を第4基礎免震モデルとした場合における、免震層変位に対する免震層の耐力の値を示したものである。符号184の弾性すべり支承178の値、符号186の天然ゴム系積層ゴム支承182の値、符号188の天然ゴム系積層ゴム支承180の値、符号192の再現期間50年の風荷重により建物の免震層にかかる荷重の値は、第1基礎免震モデル176のとき(図21)と同じである。
符号218は、ピン部材70の1基分の値を示している。また、符号220は符号184、186、188、218を合計した値を示している。
図26の符号220に示すように、免震層全体の初期剛性Kは5,906kN/cmなので、免震層の最大耐力は免震層変位δが2.0cmのときに14,312kNとなる。よって、符号192の荷重13,870kNよりも大きくなっている。
これにより、再現期間50年の風荷重に対して免震層の最大耐力が足りているので、免震層に過大な変形が生じないことがわかる。
ここで、第4基礎免震モデルに減衰係数が6.21t/(cm/s)の減衰コマを10基設置すると2.0%の付加減衰を与えることができ、初期剛性のT1は3.20sとなるので、図22の符号222の状態になり、第1基礎免震モデルの符号204に比べて再現期間1年の風荷重に対する居住性も改善されることがわかる。
また、免震層より上部を剛体と仮定し、免震層変位δが20cmのときの等価周期T2は5.33sとなり、大地震時に所定の免震性を発揮できることがわかる。
本実施例からわかるように、初期剛性の高い免震材料(鋼棒ダンパー)又はピン構造を用いた剛性付与装置を免震層に設けることにより免震層の水平剛性を高め、再現期間50年の風荷重に対する免震層の過大変形を防ぐことができる。また、ピン構造による剛性付与装置を免震層に設けることにより大地震時に所定の免震性を発揮させることができる。さらに、収納部(貫通孔)とピン部材の間に隙間があるピン構造(図5)の剛性付与装置が設けられた第1の実施形態の免震構造10とすれば、再現期間50年の風荷重に対する免震層の過大変形を防ぐことができ、大地震時に所定の免震性能を発揮できると共に、再現期間1年程度の風荷重に対して快適な居住性を確保することができる。
なお、本実施例(設計例)は、居住性改善の効果を図22を用いて比較する目的で試設計されたものであり、実際の建物の設計の際には、所定の居住性能(標準として図22のH−30以下)を満足するように配慮する必要がある。