JP2008119744A - 液相拡散接合用合金 - Google Patents

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Abstract

【課題】Niをベースとした耐熱合金材及びFeをベースとした鋼材のいずれも接合可能であり、十分な接合強度が得られ、かつ低融点の液相拡散接用合金を提供する。
【解決手段】原子%で、Ni:22%を超え60%以下、B:12〜18%及びC:0.01〜4%を含有し、更に必要に応じて、Si:0.01%以上1%未満、W及びMoからなる群から選択された少なくとも1種の元素を合計で0.1〜5%、Cr:0.1〜20%及び/又はV:0.1〜10%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成、又は、Ni:22%を超え60%以下、B:7〜18%及びC:4%を超え11%以下を含有し、更に必要に応じて、Si:0.01%以上1%未満、W及びMoからなる群から選択された少なくとも1種の元素を合計で0.1〜5%、Cr:0.1〜20%及び/又はV:0.1〜10%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、金属材料を液相拡散接合する際に使用される液相拡散接合用合金に関し、特に、炭素鋼、ステンレス鋼及び耐熱鋼等により形成された各種部品及び構造物の接合に好適な液相拡散接合用合金に関する。
液相拡散接合は、被接合材(母材)間に、被接合材よりも融点が低い箔状若しくは粉末状の金属材料、又はめっき層(以下、これらを総称してインサートメタルという。)を介在させた後、この部分をインサートメタルの液相線温度の直上の温度まで加熱昇温してインサートメタルを溶融し、更に等温凝固させることにより、被接合材同士を接合する方法である。
従来、接合部の特性の向上を目的として、種々の液相拡散接合用インサートメタルが提案されている(例えば、特許文献1〜7参照)。例えば、特許文献1には、箔の形で利用でき、均質でかつ延性に富み、オーステナイト系ステンレス鋼の接合に有用なフィラーメタルが開示されている。この特許文献1に記載の拡散接合用フィラーメタルは、原子%で、Cr:16〜28%、Ni:6〜22%、B:5〜22%、Si:0〜12%、C:0〜17%、Mo:0〜2%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる組成としている。
特許文献2には、酸化雰囲気中における液相拡散接合を可能にするために、Vを添加したNi基接合用合金箔が開示されている。この特許文献2に記載の合金箔は、原子%で、B:0.5%以上10%未満、Si:15.0〜30.0%及びV:0.1〜20.0%を含有し、残部がNi及び不可避不純物からなる組成としており、更に付加的にCr:0.1〜20.0%、Fe:0.1〜20.0%及びMo:0.1〜20.0%、又はW:0.1〜10.0%及びCo:0.1〜10.0%を添加している。この特許文献2には、Cr、Fe及びMoは、被接合金属とインサートメタルとの機械的特性の差を減少させるために添加するものであって、これらの含有量は被接合材の合金成分に見合った範囲で設定すること、また、W及びCoは、金属間化合物又は炭化物として析出させることにより接合部の強度を上げるために添加することが記載されている。
特許文献3には、炭素鋼からなる鋼管、鉄筋及び厚板等の鋼材で代表されるFe基材料を対象として、酸化性雰囲気中でかつ低温度でかつ短時間での接合を可能とした拡散接合用合金箔が開示されている。具体的には、特許文献3に記載の液相拡散接合用合金箔においては、原子%で、P:1.0〜20.0%、Si:1.0〜10.0%、V:0.1〜20.0%、B:1.0〜20.0%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成としており、更に付加的に、Cr:0.1〜20.0%、Ni:0.1〜15.0%及びCo:0.1〜15.0%のうちの1種又は2種以上の元素、又は、W:0.1〜10.0%、Nb:0.1〜10.0%及びTi:0.1〜10.0%のうちの1種又は2種以上の元素を添加している。また、特許文献3には、これらの任意元素のうち、Niは耐食性及び耐酸化性を高める効果があり、W、Nb及びTiは接合部の強度を高める効果があると記載されている。
特許文献4には、耐熱鋼及び耐熱合金鋼を酸化性雰囲気中で液相拡散接合し、信頼性が高く、耐熱特性に優れた接合継手を実現するための合金箔が開示されている。具体的には、この特許文献4に記載の耐熱材料用液相拡散接合合金箔は、Ni基合金であり、質量%で、Si:6.0〜15.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:0.5〜30%、Mo:0.1〜5.0%、V:0.5〜10.0%、Nb:0.02〜1.0%、W:0.10〜5.0%、N:0.05〜2.0%、P:0.50〜20.0%を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなる組成としている。この液相拡散接合合金箔では、Cr及びMoは継手の耐食性を向上させるために添加し、Wは固溶強化によって高温クリープ強度を高めるために添加している。特に、Wは、高クリープ強度を有する耐熱鋼と液相拡散接合合金箔との機械的特性を一致させるために添加されている。
特許文献5には、接合強度改善を目的として、より低温での接合を可能にした低融点液相拡散接合合金が開示されている。具体的には、特許文献5に記載の鉄系低融点接合用合金は、原子%で、B:6〜14%、Si:2〜3.5%、C:0.2〜4%及びP:1〜20%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成で、融点が1100℃以下である接合用合金であり、さらに付加的にNi:0.1〜20%、Cr:0.1〜20%及び/又はV:0.1〜10%が添加されている。
特許文献6には、接合強度改善を目的として、接合層の材質を改善すると共に、より低温での接合を可能にした液相拡散接合合金が開示されている。具体的には、特許文献6に記載の鉄系低融点接合用合金は、原子%で、B:6〜14%、Si:2%未満、C:2〜6%及びP:1〜20%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成で、融点が1100℃以下である接合用合金であり、さらに付加的にNi:0.1〜20%、Cr:0.1〜20%及び/又はV:0.1〜10%が添加されている。
特許文献7には、接合後の接合層の材質を改善できる液相拡散接用合金が開示されている。具体的には、特許文献7に記載の鉄系接合用合金は、原子%で、B:6〜14%及びP:1〜20%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成であり、さらに付加的に、Si:2%未満、C:2%未満、Ni:0.1〜20%、Cr:0.1〜20%及びV:0.1〜10%のうち少なくとも1種の元素を添加している。
また、特許文献5〜7には、Niは低融点化に効果があるが、その含有量が20原子%を超えると、その効果が得られなくなることが記載されている。
このように、従来の液相拡散接合用合金には、Ni、Cr、Fe及びMoが添加されている。これは、従来、液相拡散接合により鋼材等を接合する場合、インサートメタルと被接合材との機械的特性の差を少なくする上では、インサートメタルの組成を鋼種の成分に近づけることが重要であると考えられていたためである。また、従来の液相拡散接合用合金では、強度改善のため、インサートメタル中にW、Co、Mn及び/又はTiを添加している。更に、Fe基接合箔に関しては、1100℃以下の低融点化を達成するため、Pを積極的に添加している。
特開昭60−67647号公報 特開平2−151377号公報 特開平9−323175号公報 特開平7−276066号公報 特開2004−1064号公報 特開2004−1065号公報 特開2004−114157号公報
しかしながら、前述したNi基接合箔又はFe基接合箔等の従来の液相拡散接合用合金における技術思想は、被接合材に合わせた成分を添加することによって接合強度を確保することが主であったため、被接合材を形成する合金の種類毎に使用する接合箔を変えなければならないという問題点がある。例えば、Ni系合金からなる耐熱合金材の接合にはNi基接合箔を使用しており、Fe系合金からなる鋼材の接合には、Ni基接合箔も使用可能ではあるが、一般にはFe基合金箔が推奨されている。更に、従来の液相拡散接合用合金においては、低融点化のためにPを添加することもあるが、Pは使用条件によっては鋼材にとっては必ずしも好適ではないという問題点もある。
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、Ni系合金からなる耐熱合金材及びFe系合金からなる鋼材のいずれも接合可能であり、十分な接合強度が得られ、かつ低融点の液相拡散接用合金を提供することを目的とする。
本願第1発明に係る液相拡散接合用合金は、原子%で、Ni:22%を超え60%以下、B:12〜18%及びC:0.01〜4%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
本願第2発明に係る液相拡散接合用合金は、原子%で、Ni:22%を超え60%以下、B:7〜18%及びC:4%を超え11%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
本願第1及び第2発明においては、主要元素であるNiの含有量を適正化し、相対的にもう1つの主要元素であるFeの含有量を適正化しているため、被接合材がFe系合金材及びNi系合金材のいずれであっても、液相拡散接合することが可能となり、実用上の扱い易さが格段に向上する。また、B含有量及びC含有量を適正化することにより、低融点化しているため、接合の際の加熱温度を低く抑えることができる。これにより、被接合材における結晶粒の粗大化等の組織的劣化が抑制され、接合強度が向上する。
これらの液相拡散接合用合金は、更に、原子%で、Si:0.01%以上1%未満を含有することができる。これにより、接合用合金をより低融点化することができる。
また、前述した本願第1及び第2発明の液相拡散接合用合金は、融点が1030〜1100℃であり、かつ接合部の強度と被接合材の強度との比(接合部強度/被接合材強度)が1.00以上であることが好ましい。
更に、前述した本願第1及び第2発明の液相拡散接合用合金は、原子%で、W及びMoからなる群から選択された少なくとも1種の元素を、合計で0.1〜5%含有することもできる。これにより、接合用合金をより低融点化することができると共に、不活性雰囲気のみならず、酸化性雰囲気中での接合も可能になる。
更にまた、原子%で、Cr:0.1〜20%を含有していてもよい。これにより、融点を上昇させずに、耐食性及び耐酸化性を向上させることができる。
更にまた、原子%で、V:0.1〜10%を添加することもできる。被接合材表面に形成された酸化膜を溶融させ、酸化性雰囲気中での接合を可能にすることができる。
本発明によれば、Ni、B及びC含有量を適正化し、これによりFeの含有量も適正化しているため、低融点化を実現することができると共に、被接合材がNi系合金材及びFe系合金材のいずれであっても液相拡散接合することが可能となり、更に十分な接合強度を得ることができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。なお、以下の説明においては、合金組成における原子%は単に%と記載する。
本発明者は、炭素鋼材及びステンレス鋼材等のFe系合金材、並びに耐熱合金材等のNi系合金材を、被接合材として使用して液相拡散接合による実験を繰り返した中で、液相拡散接合用合金であるインサートメタルの組成を所定の範囲に規定することによって、Fe系合金材及びNi系合金材の両者の接合に適用が可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の液相拡散接合用合金の最も特徴とするところは、B、Si及びCの含有量を限定的な狭い範囲に規定すると共に、Fe及びNiの含有量を所定の範囲に規定していることであり、これにより、液相拡散接合用合金を低融点化することができる。また、本発明者は、更なる低融点化を狙って、これらの組成に加える20種類の添加元素の探索を実施し、W及びMoが合金の固相線温度(融点)、並びに液相線温度を大きく低下させる効果があることを見出した。特に、Wは、液相線温度を著しく低下させて液相線温度と固相線温度との差を低下させる効果があり、接合の際の加熱温度の更なる低下を可能にする。更に、本発明者は、W及び/又はMoを添加することによって、不活性雰囲気中のみならず、酸化性雰囲気中での接合も可能となることを見出した。
先ず、本発明の第1の実施形態に係る液相拡散接合用合金(以下、単に接合用合金という。)について説明する。本実施形態の接合用合金は、Ni:22%を超え60%以下、B:12〜18%及びC:0.01〜4%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するものである。以下、本実施形態の接合用合金における各成分の添加理由及び数値限定理由について説明する。
Ni:22%を超え60%以下
Niは、Feと同様に本発明の接合用合金の主要元素の1つである。しかしながら、Ni含有量が22%以下の場合、低融点化が不十分になると共に、被接合材としてNi系合金材を使用したときの接合強度が十分でなくなる。一方、Ni含有量が60%を超えると、相対的にFeの含有量を低減しなくてはならなくなるため、Fe系合金からなる被接合材を接合したときの接合強度が低下してしまう。よって、Niは22%超え60%以下の割合で含有させる。なお、Ni含有量は30〜50%とすることが好ましく、これにより、被接合材がFe系合金材及びNi系合金材のいずれの場合においても、接合強度を更に向上させることができる。
B:12〜18%
Bは、液相拡散接合の際に接合用合金から被接合材に拡散して等温凝固を生じさせる効果があり、本発明の接合用合金において重要な元素である。Bは、その含有量を特定の狭い範囲に限定し、更にFe及びNi等の本発明の接合用合金における主要元素と組み合わせることによって、その優れた効果が発現される。具体的には、B含有量が12%未満の場合、Fe及びNiを上述の範囲に規定しても十分な低融点化が達成されず、一部の鋼種の接合は可能であるものの、その他のFe系合金材及びNi系合金材へは適用することができない。その結果、「Ni系合金材及びFe系合金材のいずれも接合可能にする」という本発明の課題を解決することができなくなる。一方、B含有量が18%を超えると、融点が上昇すると共に、等温凝固におけるBの拡散に時間を要するため、長時間の加熱が必要となり、被接合材の強度劣化が生じ易くなる。よって、Bは12〜18%割合で含有させる。
C:0.01〜4%
Cは、本実施形態の接合用合金を公知の単ロール鋳造法によって、非晶質の箔に形成させる場合に、溶湯と冷却ロールとの濡れ性を改善して非晶質箔を製造しやすくする効果がある。しかしながら、C含有量が0.01%未満の場合、溶湯と冷却ロールとの濡れ性改善に十分な効果が得られず、また、C含有量が4%を超えると濡れ性改善効果は飽和し、それ以上の効果は得られない。よって、Cは0.01〜4%の割合で含有させる。
なお、本実施形態の接合用合金における残部はFe及び不可避的不純物である。Feは本実施形態の接合用合金の主要元素の1つであり、Fe含有量が27%未満の場合、被接合材にFe系合金材を使用した場合の接合強度が不十分となる場合がある。一方、Fe含有量が65%を超えると、他の元素の含有量を上述の範囲とした場合でも、接合用合金を低融点化することが困難な場合がある。このため、Fe含有量は27〜65%とすることが望ましく、35〜55%とすることがより好ましい。
上述の如く、本発明の第1の実施形態に係る接合用合金においては、Fe−Ni合金においてベースとなるFe及びNiの含有量を適正化しているため、Fe系合金材及びNi系合金材の両方に対する接合性を確保することができる。その結果、被接合材がNi系合金からなる耐熱合金材及びFe系合金からなる鋼材のいずれであっても、液相拡散接合することが可能となり、作業性を向上させることができる。また、B含有量を適正化しているため、接合用合金を低融点化することができ、従来よりも加熱温度を低く設定することができる。その結果、被接合材における結晶粒の粗大化等の組織的劣化を抑制することができるため、接合強度を向上させることができる。
次に、本発明の第2の実施形態に係る接合用合金について説明する。本実施形態の接合用合金は、Ni:22%を超え60%以下、B:7〜18%及びC:4%を超え11%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するものである。
本発明者は、前述した第1の実施形態の接合用合金の組成に比べて、C含有量を更に増加させた範囲において、B、Ni及びFeの含有量を変えて接合用合金の融点、更には接合性について詳細に検討を行った。その結果、C含有量を増やした場合においても、B含有量を適正化することにより、前述の第1の実施形態の接合用合金と同様に融点が低下し、被接合材を接合した時の接合強度に優れる組成を新たに見出した。具体的には、C含有量が4%を超え11%以下であり、かつB含有量が7〜18%の場合に、1100℃以下の低融点化を達成でき、充分な接合強度が得られることを見出した。以下、本実施形態の接合用合金における各成分の数値限定理由について説明する。なお、各成分の添加理由は、前述した第1の実施形態の接合用合金と同様である。
B:7〜18%
C含有量が4%を超える場合、B含有量が7%未満又は18%を超えると、十分な低融点化が達成されない。よって、B含有量は7〜18%とする。
C:4%を超え11%以下
C含有量が11%を超えると、炭化物等の析出物が接合界面に析出して接合強度が低下する。よって、C含有量は4%を超え11%以下とする。
なお、Ni含有量の数値限定理由は前述した第1の実施形態と同様であるが、本実施形態の接合用合金においては、Ni含有量を27〜53%とすることが好ましい。これにより、被接合材がFe系合金材及びNi系合金材のいずれの場合においても、接合強度を更に向上させることができる。
また、本実施形態の接合用合金における残部はFe及び不可避的不純物である。本実施形態の接合用合金のように、B含有量が7〜18%で、C含有量が4%を超え11%以下である場合、Fe含有量を23%未満にすると、被接合材にFe系合金材を使用したときに接合強度が不十分になる場合がある。一方、Fe含有量が60%を超えると、接合用合金を低融点化することが困難な場合がある。このため、Fe含有量は23〜60%とすることが望ましく、29〜55%とすることがより好ましい。
上述の如く、本発明の第2の実施形態に係る接合用合金においては、前述した第1の実施形態の接合用合金と同様に、Fe及びNiの含有量を適正化しているため、Fe系合金材及びNi系合金材の両方に対する接合性を確保することができ、被接合材がNi系合金からなる耐熱合金材及びFe系合金からなる鋼材のいずれであっても、液相拡散接合することが可能となり、作業性を向上させることができる。更に、第1の実施形態の接合用合金よりもC含有量が多い場合について、C含有量及びB含有量を適正化しているため、接合用合金の低融点化及び接合強度向上の両方を実現することができる。
また、前述した第1及び第2の実施形態の接合用合金においては、上記各成分に加えて、Si:0.01%以上1%未満を含有していてもよい。従来、Siは、接合用合金を低融点化させるために、ある割合だけ含有されていた元素ではあるが、その一方で、Siは、液相拡散接合の際に酸素と結合して、接合強度等を劣化させる酸化物を形成する。このような理由から、本発明の接合用合金においては、Siを積極的に添加していないが、Si含有量が0.01%未満であれば前述したような接合強度の劣化は生じ難くなる。また、液相拡散接合時におけるSi酸化物の形成は、特に、大気中等のように酸素濃度が高い環境下で接合した場合に起こり易くなる。そこで、接合時に雰囲気制御を行って、例えば、不活性ガス雰囲気中、具体的には雰囲気中の酸素濃度が0.1体積%未満となる雰囲気中で加熱して接合する場合には、Siが0.01%以上含まれていても酸化物は形成されない。一方、Siを1%以上含有させてしまうと、その周囲を不活性ガス雰囲気にしたとしても、その中に含まれている僅かな酸素によってSiの酸化物が形成されてしまう。よって、Siを添加する場合は、その含有量を0.01%以上1%未満とし、不活性ガス雰囲気中で液相拡散接合する。これにより、接合部の強度を低下させずに、接合用合金を低融点化することができる。
更に、前述した第1及び第2の実施形態の接合用合金は、上記各成分に加えて、W及び/又はMoを合計で0.1〜5%含有していてもよい。W及びMoは、融点を大きく低下させる効果がある元素であり、Fe、Ni、B、Si及びCの各元素の含有量が本発明の範囲内であるときにその効果が発現される。特に、Wは接合用合金の融点を低下させる効果が大きく、接合時の加熱温度を低くすることができる。しかしながら、W及びMoの含有量が合計で0.1%未満の場合は低融点化効果が発現されず、また、これらを合計で5%を超えて含有させてもそれ以上の効果は得られない。よって、W及び/又はMoを添加する場合は、その含有量を合計で0.1〜5%とする。これらの低融点化効果によって、酸化性雰囲気中での接合においても十分な接合強度を確保することが可能となる。
更にまた、これら第1及び第2の実施形態の接合用合金は、上記各成分に加えて、Cr:0.1〜20%を添加することもできる。Crは、主として耐食性及び耐酸化性を高めるために、必要に応じて添加する。しかしながら、Cr含有量が0.1%未満の場合はその効果が不十分であり、また、Cr含有量が20%を超えると接合用合金の融点が高くなるため好ましくない。よって、Crを添加する場合は、その含有量を0.1〜20%とする。
更にまた、前述した第1及び第2の実施形態の接合用合金は、上記各成分に加えて、V:0.1〜10%を添加することもできる。Vは、酸化性雰囲気中で加熱接合する際に被接合材表面に形成される酸化皮膜を低融点の複合酸化物にする効果がある。この低融点の複合酸化物は通常の接合温度で溶融し、溶解した接合用合金中では表面張力の差によって球状化するため、他の元素の拡散の妨げとはならない。このような理由から、Vを添加することにより、酸化性雰囲気中においても更に安定した液相拡散接合が可能となる。しかしながら、V含有量が0.1%未満の場合、十分な効果が得られない。一方、V含有量が10%を超えると、接合用合金の融点が高くなるため好ましくない。よって、Vを添加する場合は、その含有量を0.1〜10%とする。なお、このVの添加によって酸化性雰囲気中での接合が可能になるが、不活性雰囲気中であっても被接合材の接合面に酸化皮膜が形成されている場合には、Vを添加する効果がある。従って、本発明の接合合金におけるVの添加は、酸化性雰囲気用に限定されるものではない。
次に、本発明の第1及び第2の実施形態に係る接合用合金の融点について説明する。本発明においては、上述した組成範囲に限定することにより、融点が1030〜1100℃である接合用合金を得ることができる。なお、接合用合金の融点が1030℃未満の場合には、接合温度を下げることは可能となるが、接合温度を下げ過ぎると原子の拡散に時間を要し、接合に必要な時間が長くなり、生産性が低下してしまう。また、融点が低過ぎる接合用合金を使用して高い接合温度で接合すると、接合温度に到達する前に接合用合金が流れ出してしまうという問題が発生する場合があるため好ましくない。一方、接合用合金の融点が1100℃を超えると、接合時の加熱温度が高くなり、被接合材の結晶粒の粗大化等の組織的劣化が発生する。よって、接合用合金の融点は、1030〜1100℃であることが好ましい。
上述の如く構成された第1及び第2の実施形態の接合用合金を用いて接合された被接合材の接合強度、即ち、接合部の強度は、被接合材(母材)の強度との比(接合部強度/比接合材強度)で1.00以上となる。
また、上述した第1及び第2の実施形態の接合用合金は、箔状又は粉末状で使用することができる。例えば、2つの被接合材の間に挟み込む場合には、箔状の方が扱いやすい。このように、接合用合金が箔状の場合には、その厚さを3〜200μmとすることが好ましい。また、被接合面の凸凹が大きい場合には、箔状よりも粉末状のものを挟み込んだ方が、被接合面の凹部に接合用合金が入り易くなるため、接合しやすくなる。接合用合金が粉末状の場合には、平均粒径が5〜300μmであることが好ましい。本発明の接合用合金を箔状又は粉末状にする方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が利用可能である。例えば、箔状にする場合には、単ロール急冷法が好適である。この単ロール急冷法とは、回転する冷却基板の上に、スロットノズルを通して溶湯を噴出して急冷凝固させ、連続した帯状の箔にする方法である。それ以外にも、ドラムの内壁を使用する遠心急冷法、エンドレスタイプのベルトで冷却する方法等を適用することができる。一方、粉末状にする場合には、ガスアトマイズ法が好適であるが、それ以外にも、インゴットを粗粉砕した後、ボールミル等で微粉砕する方法も利用可能である。
以下、本発明の実施例及び本発明の範囲から外れる比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。先ず、本願第1発明に関する実施例1について説明する。本実施例においては、純度が99.9質量%の電解Fe、純度が99.9質量%の電解Ni、純度が99.9質量%のB、及び純度が99.9質量%のCを使用して、Arガス雰囲気中で下記表1に示す組成の母合金を溶製した。そして、各母合金を、先端に開口部の大きさが縦0.4mm、横25mmのスロットを備えた石英坩堝内で再溶解した後、このスロットを通して各母合金の融液を周速度25m/秒で回転しているCu製の冷却ロール上に噴出して急冷凝固させ、厚さが25μmの非晶質箔にした。その後、これらの箔を加熱及び冷却し、その溶融・凝固による吸熱温度又は発熱温度から融点を求めた。その結果を下記表1に併せて示す。
Figure 2008119744
次に、上述の方法で作製した実施例及び比較例の接合用合金箔を使用して、接合実験を行い、その接合強度を測定した。具体的には、被接合材には、Fe系合金材であるSTK400及びNi系合金からなる耐熱合金材であるインコネル600を、夫々直径が20mmの丸棒に加工したものを使用した。そして、夫々2本の丸棒の間に箔を2枚重ねて挟み込み、雰囲気制御が可能な加熱炉で、融点よりも高くかつ(融点+50℃)以下の温度範囲まで加熱し、その温度で10分間保持した後冷却した。その際、2本の丸棒をその両端から2MPaの力で加圧して密着性を高めた状態で加熱した。また、加熱炉内はArガス雰囲気とした。その後、接合後の試験片から接合面を試験片の軸方向中央として、JIS規格 Z2201で規定されている4号引張り試験片を切り出し、引張り試験を実施した。その際、接合線に沿って2mmの長さのVノッチ(角度45°)を入れた。また、被接合材からも同様の引張り試験片を切り出し、その強度を測定した。そして、これらの測定結果から被接合材の強度に対する接合部の強度の比(接合部強度/被接合材強度)を求め、その値を接合強度として評価した。以上の結果を下記表2にまとめて示す。
Figure 2008119744
No.1〜No.24の接合用合金は、いずれもC含有量が0.01%以上であるため、溶湯をCu製の冷却ロール上へ噴出して箔を鋳造する工程において、問題なく箔を製造することができた。また、上記表2に示すように、B含有量が12〜18%でありかつC含有量が0.01〜4%と本発明の範囲内であり、Fe含有量が27〜65%、Ni含有量が22%を超え60%以下の範囲であり、更に、融点が1100℃以下と低融点化されているNo.5〜No.16及びNo.19〜No.23の接合用合金は、Fe系合金材のSTK400及びNi系合金材のインコネル600のいずれの被接合材においても、接合部と被接合材との強度比が1.00以上であり、優れた接合強度が得られていることがわかる。特に、Fe含有量を35〜55%とし、Ni含有量を30〜50%としたNo.7〜No.12の接合用合金は、STK400及びインコネル600のいずれの被接合材においても1.02以上の接合強度が得られ、比較例の接合用合金に比べて接合強度が大幅に向上していた。
一方、Ni含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例No.1〜No.4の接合用合金は、融点が1100℃を超えており、Ni系合金材のインコネル600に適用したときの接合強度が1.00に満たなかった。また、Ni含有量が本発明の範囲を超えているNo.17の接合用合金は、融点が低く、インコネル600における接合強度も1.00であったが、相対的にFeの含有量が低下するため、Fe系合金材のSTK400における接合強度が低下した。
更に、Fe及びNiの含有量は本発明の範囲内ではあるが、B含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例No.18の接合用合金、及びB含有量が本発明の範囲を超えている比較例No.24の接合用合金は、融点が高く、また接合強度も1.00未満であった。特に、比較例No.24の接合用合金は、接合試験の際に、等温凝固完了までの時間が他の試料に比べて2〜3割程度長かった。
次に、本願第1発明に関する実施例2について説明する。本実施例においては、純度が99.9質量%の電解Fe、純度が99.9質量%の電解Ni、純度が99.9質量%のB、純度が99.9質量%のSi及び純度が99.9質量%のCを使用し、Arガス雰囲気中で下記表3に示す組成の母合金を溶製し、前述の実施例1と同様の方法で各母合金の箔を作製した。そして、前述の実施例1と同様の方法で、接合実験を行って、その接合強度を測定した。その際、被接合材にはFe系合金材のSTK400を使用した。その結果を下記表3に併せて示す。
Figure 2008119744
上記表3に示すように、Siを本発明の範囲内で添加した実施例No.31〜No.37の接合用合金は、接合部と被接合材との強度比が1.00以上となり、優れた接合強度が得られた。これに対して、Si添加量が本発明の範囲を超えている比較例No.38の接合用合金では、低融点化は達成されはいるものの接合強度は1.00未満と低かった。この比較例No.38の接合用合金で接合した試料を、樹脂に埋め込んで研磨及びエッチングを行い、その接合面の断面を光学顕微鏡で観察したとろ、多数の酸化物が観察された。そこで、この酸化物の成分をEPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer:電子プローブX線マイクロアナライザー)で分析したところ、主元素としてSi及びOが検出された。このことから、接合面に存在していた酸化物は、Si酸化物であることがわかった。
次に、本願第1発明に関する実施例3について説明する。本実施例においては、純度が99.9質量%の電解Fe、純度が99.9質量%の電解Ni、純度が99.9質量%のB、純度が99.9質量%のSi、純度が99.9質量%のC、純度が99.9質量%のW、純度が99.9質量%のMo及び純度が99.9質量%のCrを使用し、Arガス雰囲気中で下記表4に示す組成の母合金を溶製し、前述の実施例1と同様の方法で各母合金の箔を作製した。そして、前述の実施例1と同様の方法で、接合実験を行って、その接合強度を測定した。その際、被接合材にはFe系合金材のSTK400を使用した。その結果を下記表4に併せて示す。
Figure 2008119744
上記表4に示すように、主要元素であるFe及びNiの含有量が本発明の範囲外である比較例No.41〜No.43の接合用合金は、本発明の範囲内でMoを添加しても、融点低下効果はほとんど無く、接合部と被接合材との強度比も1.00未満であった。これに対して、Fe、Ni、B、Si及びCの含有量が本発明の範囲内である実施例No.44〜No.51の接合用合金では、本発明の範囲内でMoを添加することにより、融点が最大で65℃程度低下し、接合強度も向上した。一方、本発明の範囲を超えてMoを添加した比較例No.52の接合用合金の融点は、実施例No.44〜No.51の接合用合金と同程度であり、5%を超えてMoを含有させても、融点の低下効果は向上しなかった。
また、Wに関しても同様であって、主要元素であるFe及びNiの含有量が本発明の範囲外である比較例No.41、No.53及びNo.54の接合用合金は、本発明の範囲内でWを添加しても、融点低下効果はほとんど無く、接合部と被接合材との強度比も1.00未満であった。これに対して、Fe、Ni、B、Si及びCの含有量が本発明の範囲内である実施例No.55〜No.61の接合用合金では、本発明の範囲内でWを添加することにより、融点が最大で69℃程度低下し、接合強度も向上した。一方、本発明の範囲を超えてWを添加した比較例No.62の接合用合金の融点は、実施例No.55〜No.61の接合用合金と同程度であり、5%を超えてWを含有させても、融点の低下効果は向上しなかった。
更に、Fe、Ni、B、Si及びCの含有量を本発明の範囲内とし、更に、本発明の範囲でMoとWとを複合添加した実施例No.63〜No.66の接合用合金は、融点が低下し、接合強度も向上した。一方、本発明の範囲を超えてMo及びWを複合添加した比較例No.67の接合用合金の融点は、実施例No.63〜No.66の接合用合金と同程度であり、Mo及びWの総含有量が5%を超えても、融点の低下効果は向上しなかった。
更にまた、本発明の範囲内でCrを含有させた実施例No.68〜No.72の接合用合金は、接合部と被接合材との強度比が1.00以上となり、優れた接合強度が得られた。
また、No.47〜No.49、No.57〜No.59及びNo.63の箔を使用し、接合実験の際の雰囲気を大気として同様の評価を行ったところ、これらの接合強度は、No.47が1.00、No.48が1.01、No.49が1.00、No.57が1.00、No.58が1.01、No.59が1.01、No.63が1.01であり、大気中で接合した場合においても十分な強度が確保されていることが確認された。
次に、本願第1発明に関する実施例4について説明する。本実施例においては、純度が99.9質量%の電解Fe、純度が99.9質量%の電解Ni、純度が99.9質量%のB、純度が99.9質量%のSi、純度が99.9質量%のC、純度が99.9質量%のW、純度が99.9質量%のMo、純度が99.9質量%のCr及び純度が99.9質量%のVを使用し、Arガス雰囲気中で下記表5に示す組成の母合金を溶製し、前述の実施例1と同様の方法で各母合金の箔を作製した。そして、前述の実施例1と同様の方法で、接合実験を行って、その接合強度を測定した。その際、被接合材にはFe系合金材のSTK400を使用し、接合試験は大気中で実施した。その結果を下記表5に併せて示す。
Figure 2008119744
上記表5に示すように、比較例No.81の接合用合金は、V含有量が0.1%未満であったため、大気中における接合では接合強度が1.00未満であった。また、10%を超える量のVを含有させた比較例No.90の接合用合金は、融点が上昇して、接合強度が低下した。これに対して、本発明の範囲内でVを添加した実施例No.82〜No.89の接合用合金は、酸化性雰囲気中で接合した場合でも接合部と被接合材との強度比が1.00以上となり、優れた接合強度が得られた。
次に、本願第1発明に関する実施例5について説明する。本実施例においては、No.8及びNo.64の接合用合金と同じ母合金を使用し、ガスアトマイズ法によって粒径が150μm以下の粉末状の接合用合金を製造した。その際、アトマイズのノズルは直径が0.3mmの丸穴とし、噴出用の不活性ガスにはArガスを使用した。次に、製造した粉末状接合用合金にエタノールを加えてスラリー状にした後、被接合材の接合面に厚さが100μm程度になるように塗布し、前述の実施例1と同様の方法で、接合実験を行って、その接合強度を測定した。
その結果、No.8の接合合金と同じ組成の粉末状接合用合金は、接合部と被接合材との強度比が1.02であり、No.64の接合合金と同じ組成の粉末状接合用合金は、接合部と被接合材との強度比が1.05であり、いずれも優れた接合強度が得られた。
次に、本願第2発明に関する実施例6について説明する。本実施例においては、純度が99.9質量%の電解Fe、純度が99.9質量%の電解Ni、純度が99.9質量%のB、及び純度が99.9質量%のCを使用して、Arガス雰囲気中で下記表6に示す組成の母合金を溶製した。そして、各母合金を、先端に開口部の大きさが縦0.4mm、横25mmのスロットを備えた石英坩堝内で再溶解した後、このスロットを通して各母合金の融液を周速度25m/秒で回転しているCu製の冷却ロール上に噴出して急冷凝固させ、厚さが30μmの非晶質箔にした。その後、これらの箔を加熱及び冷却し、その溶融・凝固による吸熱温度又は発熱温度から融点を求めた。その結果を下記表6に併せて示す。
Figure 2008119744
次に、上述の方法で作製した実施例及び比較例の接合用合金箔を使用して、接合実験を行い、その接合強度を測定した。被接合材には、実施例1と同様に、Fe系合金材であるSTK400及びNi系合金からなる耐熱合金材であるインコネル600を、夫々直径が20mmの丸棒に加工したものを使用した。そして、夫々2本の丸棒の間に箔を2枚重ねて挟み込み、雰囲気制御が可能な加熱炉で、融点よりも高くかつ(融点+50℃)以下の温度範囲まで加熱し、その温度で10分間保持した後冷却した。その際、2本の丸棒をその両端から2MPaの力で加圧して密着性を高めた状態で加熱した。また、加熱炉内はArガス雰囲気とした。その後、接合後の試験片から接合面を試験片の軸方向中央として、JIS規格 Z2201で規定されている4号引張り試験片を切り出し、引張り試験を実施した。その際、接合線に沿って2mmの長さのVノッチ(角度45°)を入れた。また、被接合材からも同様の引張り試験片を切り出し、その強度を測定した。そして、これらの測定結果から被接合材の強度に対する接合部の強度の比(接合部強度/被接合材強度)を求め、その値を接合強度として評価した。以上の結果を下記表7にまとめて示す。
Figure 2008119744
No.91〜No.118の接合用合金は、いずれもC含有量が0.01%以上であるため、溶湯をCu製の冷却ロール上へ噴出して箔を鋳造する工程において、問題なく箔を製造することができた。また、上記表7に示すように、B含有量が7〜18%でかつC含有量が4%を超え11%以下と本発明の範囲であり、Fe含有量が23〜60%、Ni含有量が22%を超え60%以下の範囲であり、更に、融点が1100℃以下と低融点化されているNo.94〜No.104及びNo.106〜No.112の接合用合金は、Fe系合金材のSTK400及びNi系合金材インコネル600のいずれの被接合材においても、接合部と被接合材との強度比が1.00以上であり、優れた接合強度が得られていることが判る。特に、Fe含有量を29〜55%とし、Ni含有量を27〜53%としたNo.95〜No.102、No.108、No.109の接合用合金は、STK400及びインコネル600のいずれの被接合材においても1.02以上の接合強度が得られ、比較例の接合用合金に比べて接合強度が大幅に向上していた。
一方、Ni含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例No.91〜No.93の接合用合金は、融点が1100℃を超えており、Ni系合金材のインコネル600に適用したときの接合強度が1.00に満たなかった。また、Ni含有量が本発明の範囲を超えているNo.105の接合用合金は、融点が低く、インコネル600における接合強度も1.00であったが、相対的にFeの含有量が低下するため、Fe系合金材のSTK400における接合強度が低下した。
更に、Fe及びNiの含有量は本発明の範囲内ではあるが、B含有量及びCの含有量が本願第2発明の範囲から外れている比較例No.113〜No.118の接合用合金は、いずれも十分な接合強度が得られなかった。具体的には、No.113〜No.116の接合用合金は、融点が高く、更に接合強度も1.00未満であった。また、No.117及びNo.118の接合用合金は、低融点が達成される組成もあるものの、十分な接合強度が得られなかった。この比較例No.117又はNo.118の接合用合金で接合した試料を、樹脂に埋め込んで研磨及びエッチングを行い、その接合面の断面を光学顕微鏡で観察したところ、析出物が観察された。そこで、この析出物の成分をEPMAで分析したところ、炭化物であることが判った。
次に、本願第2発明に関する実施例7について説明する。本実施例においては、純度が99.9質量%の電解Fe、純度が99.9質量%の電解Ni、純度が99.9質量%のB、純度が99.9質量%のSi及び純度が99.9質量%のCを使用し、Arガス雰囲気中で下記表8に示す組成の母合金を溶製し、前述の実施例6と同様の方法で各母合金の箔を作製した。そして、前述の実施例6と同様の方法で、接合実験を行って、その接合強度を測定した。その際、被接合材にはFe系合金材のSTK400を使用した。その結果を下記表8に併せて示す。
Figure 2008119744
上記表8に示すように、Siを本発明の範囲内で添加した実施例No.120〜No.124の接合用合金は、接合部と被接合材との強度比が1.00以上となり、優れた接合強度が得られた。これに対して、Si添加量が本発明の範囲を超えている比較例No.125の接合用合金では、低融点化は達成されはいるものの接合強度は1.00未満と低かった。この比較例No.125の接合用合金で接合した試料を、樹脂に埋め込んで研磨及びエッチングを行い、その接合面の断面を光学顕微鏡で観察したところ、酸化物が観察された。そこで、この酸化物の成分をEPMAで分析したところ、主元素としてSi及びOが検出された。このことから、接合面に存在していた酸化物は、Si酸化物であることが判った。
次に、本願第2発明に関する実施例8について説明する。本実施例においては、純度が99.9質量%の電解Fe、純度が99.9質量%の電解Ni、純度が99.9質量%のB、純度が99.9質量%のSi、純度が99.9質量%のC、純度が99.9質量%のW、純度が99.9質量%のMo及び純度が99.9質量%のCrを使用し、Arガス雰囲気中で下記表9に示す組成の母合金を溶製し、前述の実施例6と同様の方法で各母合金の箔を作製した。そして、前述の実施例6と同様の方法で、接合実験を行って、その接合強度を測定した。その際、被接合材にはFe系合金材のSTK400を使用した。その結果を下記表9に併せて示す。
Figure 2008119744
上記表9に示すように、主要元素であるFe及びNiの含有量が本願第2発明の範囲外である比較例No.130〜No.132の接合用合金は、本発明の範囲内でMoを添加しても、融点低下効果は殆ど無く、接合部と被接合材との強度比も1.00未満であった。これに対して、Fe、Ni、B、Si及びCの含有量が本願第2発明の範囲内である実施例No.133〜No.140の接合用合金では、本発明の範囲内でMoを添加することにより、融点が最大で65℃程度低下し、接合強度も向上した。一方、本発明の範囲を超えてMoを添加した比較例No.141の接合用合金の融点は、実施例No.133〜No.140の接合用合金と同程度であり、5%を超えてMoを含有させても、融点の低下効果は向上しなかった。
また、Wに関しても同様であって、主要元素であるFe及びNiの含有量が本願第2発明の範囲外である比較例No.142及びNo.143の接合用合金は、本発明の範囲内でWを添加しても、融点低下効果は殆ど無く、接合部と被接合材との強度比も1.00未満であった。これに対して、Fe、Ni、B、Si及びCの含有量が本願第2発明の範囲内である実施例No.144〜No.150の接合用合金では、本発明の範囲内でWを添加することにより、融点が最大で65℃程度低下し、接合強度も向上した。一方、本発明の範囲を超えてWを添加した比較例No.151の接合用合金の融点は、実施例No.144〜No.150の接合用合金と同程度であり、5%を超えてWを含有させても、融点の低下効果は向上しなかった。
更に、Fe、Ni、B、Si及びCの含有量を本願第2発明の範囲内とし、更に、本発明の範囲でMoとWとを複合添加した実施例No.152〜No.155の接合用合金は、融点が低下し、接合強度も向上した。一方、本発明の範囲を超えてMo及びWを複合添加した比較例No.156の接合用合金の融点は、実施例No.152〜No.155の接合用合金と同程度であり、Mo及びWの総含有量が5%を超えても、融点の低下効果は向上しなかった。
更にまた、本発明の範囲内でCrを含有させた実施例No.157〜No.161の接合用合金は、接合部と被接合材との強度比が1.00以上となり、優れた接合強度が得られた。
また、No.133、No.136〜No.138、No.146〜No.148、No.152及びNo.155の箔を使用し、接合実験の際の雰囲気を大気として同様の評価を行ったところ、これらの接合強度は、No.133が1.01、No.136が1.02、No.137が1.01、No.138が1.02、No.146が1.00、No.147が1.01、No.148が1.02、No.152で1.01、No.155が1.02であり、大気中で接合した場合においても十分な強度が確保されていることが確認された。
次に、本願第2発明に関する実施例9について説明する。本実施例においては、純度が99.9質量%の電解Fe、純度が99.9質量%の電解Ni、純度が99.9質量%のB、純度が99.9質量%のSi、純度が99.9質量%のC、純度が99.9質量%のW、純度が99.9質量%のMo、純度が99.9質量%のCr及び純度が99.9質量%のVを使用し、Arガス雰囲気中で下記表10に示す組成の母合金を溶製し、前述の実施例6と同様の方法で各母合金の箔を作製した。そして、前述した実施例6と同様の方法で、接合実験を行って、その接合強度を測定した。その際、被接合材にはFe系合金材のSTK400を使用し、接合試験は大気中で実施した。その結果を下記表10に併せて示す。
Figure 2008119744
上記表10に示すように、比較例No.170の接合用合金は、V含有量が0.1%未満であったため、大気中における接合では接合強度が1.00未満であった。また、10%を超える量のVを含有させた比較例No.181の接合用合金は、融点が上昇して、接合強度が低下した。これに対して、本発明の範囲内でVを添加した実施例No.171〜No.180の接合用合金は、酸化性雰囲気中で接合した場合でも接合部と被接合材との強度比が1.00以上となり、優れた接合強度が得られた。
次に、本願第2発明に関する実施例10について説明する。本実施例においては、No.96及びNo.153の接合用合金と同じ母合金を使用し、ガスアトマイズ法によって粒径が150μm以下の粉末状の接合用合金を製造した。その際、アトマイズのノズルは直径が0.3mmの丸穴とし、噴出用の不活性ガスにはArガスを使用した。そして、製造した粉末状接合用合金にエタノールを加えてスラリー状にした後、被接合材の接合面に厚さが100μm程度になるように塗布し、前述の実施例6と同様の方法で接合実験を行い、その接合強度を測定した。
その結果、No.96の接合用合金と同じ組成の粉末状接合用合金は、接合部と被接合材との強度比が1.02であり、No.153の接合用合金と同じ組成の粉末状接合用合金は、接合部と被接合材との強度比が1.04であり、いずれも優れた接合強度が得られた。

Claims (7)

  1. 原子%で、
    Ni:22%を超え60%以下、
    B:12〜18%及び
    C:0.01〜4%を含有し、
    残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする液相拡散接合用合金。
  2. 原子%で、
    Ni:22%を超え60%以下、
    B:7〜18%及び
    C:4%を超え11%以下を含有し、
    残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする液相拡散接合用合金。
  3. 更に、原子%で、Si:0.01%以上1%未満を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の液相拡散接合用合金。
  4. 融点が1030〜1100℃であり、
    かつ接合部の強度と被接合材の強度との比(接合部強度/被接合材強度)が1.00以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液相拡散接合用合金。
  5. 更に、原子%で、W及びMoからなる群から選択された少なくとも1種の元素を、合計で0.1〜5%含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液相拡散接合用合金。
  6. 更に、原子%で、Cr:0.1〜20%を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液相拡散接合用合金。
  7. 更に、原子%で、V:0.1〜10%を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液相拡散接合用合金。
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