JP5691898B2 - 液相拡散接合用のFe系合金 - Google Patents

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本発明は、各種部品、構造物等の材料を接合するための液相拡散接合用合金に関するものである。
各種部品、構造物等の材料の接合方法として、液相拡散接合が知られている。液相拡散接合とは、被接合材間に、融点が被接合材の融点より低い接合材料を介在させ、接合材料の液相線温度以上、被接合材料の液相線温度以下の温度で加熱し、接合材料中の拡散元素を拡散させて接合する方法である。
本発明者らは、酸化雰囲気中で液相拡散接合を可能とする接合用合金を発明し、特許出願した(特許文献1)。上記合金は、P:1.0〜20原子%、Si:1.0〜10原子%、V:0.1〜20原子%、B:1.0〜20原子%を含有し、さらに、Cr、Ni、Co、W、Nb、Tiを必要に応じて含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する、厚さが3.0〜200μmの箔である。
また、このような合金箔を製造するための方法として、単ロール法や双ロール法などが知られている。これらの方法は、高速回転する金属製ドラムの外周面に、溶融金属、合金をオリフィスなどから噴出させることにより急速に凝固させて、箔を得るものである。これらの方法では、合金組成を適正に選ぶことによって、液体金属に類似した非晶質合金箔を製造することができる。
さらに、本発明者らは、上記特許文献1に開示した液相拡散接合用合金箔を改善した特許出願をした(特許文献2、3)。特許文献2及び3で開示した液相拡散接合用合金箔は、接合強度の改善を狙ったもので、その特徴は、接合用合金箔のSi含有量を低減したことである。本発明者らが接合強度劣化の原因を調査したところ、SiOが強度劣化をもたらす割れの基点となっており、このSiOは、接合箔中のSiに起因するものであることが判明したことによる。
さらに、本発明者らは、被接合材成分にも注目し、できるだけ広い範囲の被接合材に適用可能な接合用合金の提供を目的として、新たな接合用合金を開発し、特許出願した(特許文献4)。特許文献4で開示した接合用合金は、Ni:22原子%超60原子%以下、B:12〜18原子%及びC:0.01〜4原子%を含有し、さらに必要に応じて、Si:0.01〜1原子%未満、W及びMoからなる群から選択された少なくとも1種の元素を合計で0.1〜5原子%、Cr:0.1〜20原子%及び/又はV:0.1〜10原子%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する合金で、被接合材がFe系合金の場合でも、Ni系合金の場合でも適用可能である液相拡散接合用合金である。
特開平9−323175号公報 特開2004−001065号公報 特開2004−114157号公報 特開2008−119744号公報
以上のような液相拡散接合用合金の開発により、接合後の接合強度の改善が図られ、さらに、適用できる被接合材料の範囲も拡大できた。しかしながら、液相拡散接合での接合後の品質に対する要求は一層高まっている。すなわち、接合部のさらなる品質向上として、接合強度の増加と安定性が求められている。
特許文献1〜3で開示された液相拡散接合用合金は、P及び/又はSiが必須の添加元素である。合金中にPを含有させることにより、合金の融点を下げることができる。しかし、Pは、鋼材に対して悪影響を与えることがあり、条件によっては、接合用合金に積極的にPを含有させることは好ましくない。
また、Siも、合金中に含有させることにより、合金の融点を下げることができる。しかし、接合箔中にSiが含まれると、Siに起因するSiOが割れの起点となることにより、接合強度劣化の原因となる。
これに対して、特許文献4で開示された液相拡散接合用合金は、P及びSiが添加されていない。これによって、低融点化を実現し、さらに接合強度の高い液相拡散接合用合金を得ることができる。
しかし、特許文献4に記載の液相拡散接合用合金は、Cが含まれる。合金中にCが含まれると、これがWやMoの炭化物を形成し、炭化物が割れの起点となるので、接合強度が劣化する原因となる。
本発明は、拡散接合における接合強度を一層改善できる液相拡散接合用合金を提供することを目的とする。
本発明者らは、液相拡散接合用合金の成分組成の最適化による、前記課題の実現を図り、鋭意検討した。その結果、本発明者らは、液相拡散接合用合金において、箔形成に重要である非晶質形成能の向上を、SiやPを用いることなく実現できる、新たな成分系を見出した。
具体的には、液相拡散合金中にCo、並びに、W及びMoの少なくとも1種を含有させることによって、合金の融点を下げることが可能であり、また、Cを含有させないことにより、炭化物が接合界面に析出して接合強度が低下することがなくなり、さらに、Coを含有させることによって、十分な非晶質形成能を有する液相拡散合金を製造できることを見出した。
さらに、本発明者らは、これまで接合強度劣化を生んでいた、P、Si、Cの代わりにCo、W、Moを用いることで、接合箔の低融点化と接合強度の向上を同時に実現できるという知見を見出した。
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
(1)原子%で、Niを10%未満、Coを1%以上20%以下、Bを10%以上22%以下、W、Moの少なくとも一方を1%以上10%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする液相拡散接合用のFe系合金。
(2)さらに、原子%で、Cr:0.1以上13.0%以下含有することを特徴とする前記(1)に記載の液相拡散接合用のFe系合金。
(3)さらに、原子%で、Vを0.1%以上10%以下含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の液相拡散接合用のFe系合金。
本発明によれば、接合強度を一層改善できる液相拡散接合用合金の提供が可能となる。
実施例における接合実験の説明図である。 実施例における引張試験片の説明図である。
本発明の液相拡散接合用合金は、箔形成に重要である非晶質形成能の向上を、SiやPを用いることなく実現できる成分系を見出したことに起因している。箔形成にあたり、非晶質相は箔全体に形成されなくてもよいが、非晶質相の形成される割合が小さすぎると箔の形成が困難になるので、非晶質相の形成される割合は、箔全体の50%以上であることが好ましく、さらに好ましくは70%以上である。
また、液相拡散接合用合金は、低融点であることも重要である。本発明では、特に限定しないが、母材への熱影響を考慮すると融点は低いほど良く、接合用合金の融点は、1200℃以下、さらには、1100℃以下が好ましい。
以下に、本発明の液相拡散接合用合金の成分組成の限定理由を述べる。
Niは、Feと同様に本発明合金の主要元素の1つであり、非晶質形成能の向上や、低融点化に有効な元素である。しかし、Niの含有量が多くなると、鉄鋼材料等Fe系材料の接合に用いる場合に被接合材との均一性が問題となり、接合強度が低下することから、Niの含有量は10原子%未満とした。
Coは、非晶質形成能の向上や低融点化に有効な元素であるばかりでなく、接合強度向上にも有効な元素である。Coの含有量が1原子%未満では、この効果が十分に得られない。よって、Coの含有量は、1原子%以上とし、好ましくは3原子%以上である。
Coの含有量が20原子%を超えると、接合強度向上の効果が薄れ、コストが高くなる。よって、Coの含有量は、20原子%以下とする。
Bは、非晶質形成能の向上に極めて重要な元素である。Bの含有量が10原子%未満では、非晶質形成が困難となり、箔の形成能が劣化する。よって、Bの含有量は10原子%以上とし、好ましくは12原子%以上である。
Bの含有量が22原子%超となると、接合部に硼化物を生成して接合強度が低下する。よって、Bの含有量は、22原子%以下とし、好ましくは20原子%以下である。
本発明の液相拡散接合用合金は、さらに、W及びMoの1種又は2種を、合計で1原子%以上10原子%以下含む。これらの元素は融点を低下させるのに有効な元素である。W及びMoの合計の含有量が1原子%未満では、その効果はほとんど発現しない。W及びMoの合計の含有量が10原子%を超えると、その効果は薄れ、さらに、非晶質形成にも悪影響を及ぼす。よって、W及びMoの1種又は2種の合計の含有量は、1原子%以上10原子%以下とし、好ましくは、2原子%以上8原子%以下である。
Crは、主として耐食性、耐酸化性を高めるために、必要に応じて添加する。Crの含有量が0.1原子%未満では、その効果を十分に得られない。Crの含有量が20原子%を超えると、接合用合金の融点が高くなり好ましくない。よって、Crを添加する場合、その含有量は、0.1原子%以上20原子%以下とし、好ましくは1原子%以上18原子%以下である。
Vは、被接合材表面の酸化被膜形成物質と複合酸化物を形成し、融点を下げる効果があり、必要に応じて添加する。例えば、Feと、融点が約800℃の低融点複合酸化物V−Feを形成し、通常の接合温度で酸化被膜が溶融するようになる。このような酸化物は、溶けると表面張力の差によって球状化するので隙間が生成し、その結果、B等の拡散元素が自由に拡散できるようになるので、酸化雰囲気中でも液相拡散接合を達成できる。
Vの含有量が0.1原子%未満では、この効果が十分得られない。Vの含有量が10原子%超では、逆に融点が高くなる。よって、Vを添加する場合、その含有量は、0.1原子%以上10原子%以下とし、好ましくは0.5原子%以上8原子%以下である。
Vを添加することにより酸化雰囲気中での接合が可能となるが、本発明のV添加合金は、酸化雰囲気用に限定されるのもではない。
上記元素以外の残部は、Fe及び不可避的不純物からなる。
本発明の接合用合金は、液相拡散接合だけではなく、いわゆるロウ付け、あるいはロウ接とよばれる接合法にも使用できる。この接合法は、一般的に、接合材が溶融した後、接合材中の拡散元素が被接合材中に拡散する前に固化させて接合する方法である。
本発明の接合用合金は、急冷凝固法として知られている単ロール法や双ロール法等により箔に鋳造し、箔状の接合材として使用することができる。また、形状として、箔のほか、用途に応じて粉末等も使用することができる。さらに、非晶質に限らず、結晶質のものでも用途によっては使用可能である。
本発明を実施例に基づいて、以下に詳細に説明する。表1に示す条件で、表2に示す各合金について、単ロール法により箔を鋳造した。
Figure 0005691898
Figure 0005691898
実施例A、比較例A’は合金成分としてCr及びVを含まない合金の例である。実施例B、比較例B’は合金成分としてCr又はVを含む合金の例である。
実施例Aはいずれも原子%で、Niを10%未満、Coを1%以上20%以下、Bを10%以上22%以下、W、Moの少なくとも一方を1%以上10%以下含有するものであり、比較例A’はそれらから外れるものである。実施例Bは、原子%で、Crを0.1%以上20%以下含有する、又は、Vを0.1%以上10%以下含有するものであり、比較例B’はそれから外れるものである。
表2において、“−”は、含有量が検出限界未満であることを意味する。表3に融点及び接合実験の結果を示す。各合金は、いずれも、C、Mn、S等の不純物を0.2原子%程度含んでいる。鋳造時の溶融合金温度は、表3に示す融点よりおよそ150℃高い温度とした。各合金の融点はDTA装置により求め表3に示した。
Figure 0005691898
鋳造の結果、比較例A’のNo.19、No.21、No.22及びNo.23では良好な箔が得られず、以後の接合実験を行うことができなかった。表3の融点、接合雰囲気、接合強度、接合強度安定性の“−”は、試験未実施であることを意味する。それ以外は、実施例A、B、比較例A’、B’とも板厚が25μm程度の良好な箔が得られた。
次に、得られた箔を用いて接合実験を行った。なお、接合実験は各箔毎に10サンプルについて実施した。
接合実験は、直径20mmの円盤状にした箔を2枚重ねて接合材とし、直径20mmのSTK490丸鋼を被接合材とし、図1に示すように、2本の被接合材1の間に接合材2を挟み込んで接合して行った。
接合温度は、各接合材2の融点直上から融点+50℃の範囲として、雰囲気制御可能な加熱炉を用いて、表3に示すそれぞれの雰囲気で加熱した。加熱中は、被接合材1と接合材2の密着性を高めるため2MPaで加圧した。接合時間はすべて10分とした。
接合実験後、接合継手部の引張強度を評価するために引張試験を行った。なお、引張試験に際しては図2に示すように、被接合材1を接合した丸鋼3から接合線4を中心としてJIS2号引張試験片5を切り出し、JISA2号引張試験機を用いて引張試験を行った。
また、接合実験前の被接合材の母材からも同試験片を切り出して同様に引張試験を行い、得られた結果としての接合強度(10サンプルの平均値)を対母材強度比(接合部強度/母材強度)として表3の接合強度の欄に示した。
また、上記接合強度の安定性を評価するため、各箔毎の10個のデータについて、最大値と最小値の差を求めた。得られた結果を表3の接合強度安定性の欄に示した。
表3に示したように、実施例Aはいずれも、対母材強度比で1.0を超える接合強度となり、接合強度安定性も良好な値を示した。これに対して、比較例A’では、表3に示したように、良好な箔が得られない場合があり、箔が得られた場合でも高い接合強度が安定して得られることはなかった。
実施例Bも、対母材強度比で1.0を超える接合強度となり、接合強度安定性も良好な値を示した。しかし、比較例B’は対母材強度比で1.0を超える接合強度は得られず、接合強度安定性も良好な値を示さなかった。
Cr又はVを合金成分に含む場合は、原子%で、Niを10%未満、Coを1%以上20%以下、Bを10%以上22%以下、W、Moの少なくとも一方を1%以上10%以下含有するものであっても、Crを0.1%以上20%以下含有する、あるいは、Vを0.1%以上10%以下含有するものでなければ良好な結果は得られなかった。
複雑な接合形状を有する各種部品や構造物等の材料の接合において、接合温度の低下や一度に広い接合を可能とする液相拡散接合は産業上有益な接合方法である。本発明の液相拡散接合用合金によれば、接合部の品質向上を実現したことから、液相拡散接合の適用範囲が拡大されるので、産業上の利用可能性は大きい。
1 被接合材
2 接合材
3 接合後の丸鋼
4 接合線
5 引張試験片

Claims (3)

  1. 原子%で、Ni:10%未満、Co:1〜20%、及び、B:10〜22%を含有し、さらに、W及びMoの1種又は2種を合計で1〜10%含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする液相拡散接合用のFe系合金。
  2. さらに、原子%で、Cr:0.1〜13.0%含有することを特徴とする請求項1に記載の液相拡散接合用のFe系合金。
  3. さらに、原子%で、V:0.1〜10%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の液相拡散接合用のFe系合金。
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