JP2008084664A - 電気化学発光素子及び電気化学発光装置 - Google Patents

電気化学発光素子及び電気化学発光装置 Download PDF

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Abstract

【課題】応答速度が速く、駆動電圧が低く、発光強度が大きく、かつ、発光寿命が長く、信頼性が高い電気化学発光素子、及び電気化学発光装置を提供すること。
【解決手段】電気化学発光素子10を、主として、対向電極2および4と、これらの電極間に配置された電解質層3とで構成する。電解質層3として[Ru(bpy)3](PF6)2などの発光物質を溶解させた溶液を用いる。本発明では、溶媒として下記一般式

〔但し、R1及びR2は、炭素数1以上の炭化水素基で、水素原子が置換されていても、置換されていなくてもよく、X-は第四級アンモニウムイオンと対をなす陰イオンである。〕で表される脂環式第四級アンモニウム化合物からなるイオン液体を用いる。電極2および4は、FTOなどの透明導電層で構成するが、一方の電極上に酸化チタンなどのポーラス電極を形成するのがよい。また、対向電極間に方形波の交流駆動電圧を印加するのがよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、表示装置や面発光光源に好適に応用することができる電気化学発光(ECL)素子、及び電気化学発光装置に関するものである。
近年、半導体回路の高密度高集積化が進み、高機能な情報端末を小型化し、携帯機器化することが可能になった。このため、その表示装置として用いることのできる、薄型、軽量、かつ、低消費電力の表示装置の研究開発が活発化している。
液晶表示装置(LCD)は、従来から小型携帯機器やノート型パソコン(Personal Computer)の携帯型表示装置として用いられてきた。近年は、大画面表示装置としての性能も向上し、ブラウン管(CRT)表示装置に代わって用いられている。しかし、応答速度に限界があり、高速の動画表示にはやや不向きである。
そこで、動画表示に適した応答速度の速い次世代表示素子として、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子などが注目されている。有機EL素子では、対向する2つの電極から、それぞれ、電子およびホールを電荷輸送層または有機発光層にトンネル過程やショットキー過程によって注入し、注入した電子とホールとを有機発光層にて再結合させることによって発光を得る。
有機EL素子は、フルカラー表示が可能であること、消費電力が小さいこと、および大面積での面発光が可能であることから、表示装置や面発光光源への応用が期待されている。しかしながら、有機EL素子には、従来の電極材料では電子やホールの注入効率が不十分であること、電荷の注入効率を向上させるためには仕事関数の小さいリチウムやマグネシウムを電極材料として用いる必要があるが、これらの材料は水および酸素などと極めて反応しやすく、性能維持が難しいこと、および、高電圧で駆動すると、電極と有機層との界面にミクロスケールの剥離が生じたり、電極の酸化によってダークスポットが形成されたりして、素子の劣化が進行することなどの問題点がある。
また、すでに実用化されている有機EL素子の発光層の多くが、真空蒸着を主とするドライプロセスによって形成されている。素子の大面積化と製造コストの低減とを実現するには、常温、常圧下でのウェットプロセスによって作製できることがより望ましく、有機EL素子には素子製造プロセスにおける課題も残されている。
このような有機EL素子の欠点を解決するものとして、電気化学発光(ECL)素子が提案されている。電気化学発光素子は、有機EL素子と同様、自発光型の素子であるが、有機EL素子の発光層および電荷輸送層の代わりに、発光物質を含有する電解質層を有する点が異なっている。
図9は、従来の直流駆動される電気化学発光素子100の一般的な構造を示す断面図である。電気化学発光素子100は、主として、対向して配置された陽極102および陰極104と、これらの電極間に配置された電解質層103とからなる。電解質層103は、アセトニトリルなどの有機極性溶媒に、ヘキサフルオロリン酸トリス(ビピリジル)ルテニウム(II)( [Ru(bpy)3](PF6)2 )などの発光物質が溶解した溶液からなる。電解質層103は、通常は液体であるが、半固体状または固体状であってもよい。
電気化学発光素子100における発光は、次の3つの過程を経て起こる。図9にはこの過程を左から右へ模式的に示した。なお、下記の説明では、発光物質が[Ru(bpy)3](PF6)2である例を示し、図中、円で囲んだ3+は酸化種[Ru(bpy)3]3+を表し、円で囲んだ+は還元種[Ru(bpy)3]+を表すものとする。また、[Ru(bpy)3]2+はRu2+と略記した(以下、同様。)。
まず、第1の過程では、陽極102で電気化学的な酸化反応(1)
[Ru(bpy)3]2+ → [Ru(bpy)3]3+ + e-・・・(1)
によって酸化種[Ru(bpy)3]3+が生成し、陰極104で電気化学的な還元反応(2)
[Ru(bpy)3]2+ + e- → [Ru(bpy)3]+・・・(2)
によって還元種[Ru(bpy)3]+が生成する。
次に、第2の過程で、生成した酸化種および還元種が、それぞれ、拡散などによって電解質層103中を対極側へ移動する。この移動過程の間で酸化種と還元種とが衝突すると、反応式(3)
[Ru(bpy)3]3+ + [Ru(bpy)3]+ → [Ru(bpy)3]2+*+ [Ru(bpy)3]2+・・・(3)
に示すように、励起状態の[Ru(bpy)3]2+*と基底状態の[Ru(bpy)3]2+が生成する。
次に、第3の過程で、励起状態の[Ru(bpy)3]2+*が基底状態の[Ru(bpy)3]2+に遷移すると、(4)式に示すように、励起状態と基底状態とのエネルギー差に対応する振動数νの光が放出される。なお、(4)式中のhはプランク定数である。
[Ru(bpy)3]2+* → [Ru(bpy)3]2+ + hν・・・(4)
電気化学発光素子の発光物質として代表的なものは、上記の例のようなルテニウム(II)錯体である。ルテニウム(II)錯体を利用した固体型電気化学発光素子は、最初、R.W.Murrayらによって報告された(K.M.Maness, H.Masui, R.M.Wightman, and R.W.Murray, J.Am.Chem.Soc., 119, 3987-3993(1997))。R.W.Murrayらは、ルテニウム(II)錯体としてポリエチレングリコールをエステル結合したトリス(ビピリジル)ルテニウム錯体を用いたが、量子効率が低く、また素子の作製プロセスも複雑であった。
これに対して、M.F.Rubnerらは、スピンキャスト法を利用できる簡単な構造の電気化学発光素子を報告した(J.-K.Lee, D.Yoo, E.S.Handy, and M.F.Rubner, Appl.Phys.Lett., 69, 1689-1690(1996))。M.F.Rubnerらの用いたルテニウム(II)錯体は、トリス(フェナントロリン)錯体である。
上記の電気化学発光素子はシンプルな構造を有し、ウェットプロセスによる簡易な工程で大面積のものを低コストで作製できる利点を有することから、表示素子および大面積の面発光素子として期待されている。しかし、実際には、電気化学発光素子には、発光効率が低く、十分な発光量を得ることができないという問題点があり、発光素子としての実用化が困難とされてきた。
これに対し、後述の特許文献1では、対向電極のうちの少なくとも一方にポーラス構造のポーラス電極を用いたことを特徴とする電気化学発光素子が提案されている。特許文献1には、少なくとも一方にポーラス電極を用いることによって電極反応を効率よく行わせ、酸化種と還元種の衝突確率を増加させることによって、発光強度の向上と発光開始電圧の低下を実現できると述べられている。そして、陰極側に酸化チタンからなるポーラス電極を用いることによって、発光強度が100倍近く向上した例が示されている。また、電気化学発光素子には、通常の直流電圧を印加するが、交流電圧でも発光を得ることができると、記載されている。
図10は、交流駆動される電気化学発光素子110の動作状態を従来のモデルで示す断面図である。電気化学発光素子110は、電気化学発光素子100と同様、主として、対向して配置された電極112および電極114と、アセトニトリルなどの溶媒および [Ru(bpy)3]PF6などの発光物質などからなる電解質層113とで構成されている。発光が生じる原理も直流駆動の場合と同じであるが、生成した酸化種および還元種の移動や、発光が生じる電解質層中の領域などに、直流駆動とは異なる特徴がある。以下、これらの点について説明する。
図10(a)は、1サイクルのうち、電極112が電極114よりも高電位に保たれる期間Sで起こる変化を示している。この期間では、電極112が陽極、電極114が陰極として機能するので、電極112では酸化反応(1)
[Ru(bpy)3]2+ → [Ru(bpy)3]3+ + e-・・・(1)
によって酸化種[Ru(bpy)3]3+が生成し、電極114では還元反応(2)
[Ru(bpy)3]2+ + e- → [Ru(bpy)3]+・・・(2)
によって還元種[Ru(bpy)3]+が生成する。生成した酸化種および還元種は、それぞれ、拡散などによって電解質層113中を対極側へ移動しようとする。
図10(b)は、1サイクルのうち、電極112が電極114よりも低電位に保たれる期間Tで起こる変化を示している。この期間では、電極112が陰極、電極114が陽極として機能するので、電極112では還元反応(2)
[Ru(bpy)3]2+ + e- → [Ru(bpy)3]+・・・(2)
によって還元種[Ru(bpy)3]+が生成し、電極114では酸化反応(1)
[Ru(bpy)3]2+ → [Ru(bpy)3]3+ + e-・・・(1)
によって酸化種[Ru(bpy)3]3+が生成する。生成した酸化種および還元種は、それぞれ、拡散などによって電解質層113中を対極側へ移動しようとする。
上記のように、交流駆動の特徴は、同一電極で酸化と還元が交互に起こり、酸化種と還元種とがわずかな時間差をもって生成されることである。例えば、電極112では、期間Sでは酸化によって酸化種が作られ、この酸化種は電極114側へ移動を始めるが、期間Tになって電極の極性が反転すると、図10(b)に示すように、電極112上で還元反応によって還元種が作られるとともに、期間Sで作られた酸化種の移動方向が逆転し、酸化種は電極112へ向けて移動する。このため、電極112近傍では期間Tで作られた還元種と期間Sで作られた酸化種とが共存することになり、両者の衝突によって反応式(3)および反応式(4)
[Ru(bpy)3]3+ + [Ru(bpy)3]+ → [Ru(bpy)3]2+*+ [Ru(bpy)3]2+・・・(3)
[Ru(bpy)3]2+* → [Ru(bpy)3]2+ + hν・・・(4)
に示すように反応が進行して、発光が生じる。同様に、期間Sでは、図10(a)に示すように、電極112上で生成した酸化種と、期間Tで作られていた還元種とが共存することになり、両者の衝突によって反応(3)および(4)が起こり、発光が生じる。
直流駆動と交流駆動とを比べると、直流駆動では、酸化種と還元種とが衝突して発光するまでに電解質層103を縦断する必要があるのに対し、交流駆動では、その必要はなく、電極近傍で両者が衝突して発光する。このため、直流駆動では、応答速度が電解質層103の厚さに依存し、一般に遅くなるのに対し、交流駆動では、応答速度が電解質層113の厚さに依存せず、速い利点がある。また、酸化種または還元種の寿命が短い場合、直流駆動では、衝突する前に、電解質層103中を縦断している間に消失してしまう酸化種または還元種の割合が多くなるのに対し、交流駆動では、衝突する前に失われる酸化種または還元種の割合は少なく、発光効率が高くなる利点がある。
また、直流駆動では、片方の電極に不純物が蓄積するという問題点があるのに対し、交流駆動では、そのような問題も生じない。
特開2005−302332号公報(第3及び4頁、図1及び3)
以上のように、電気化学発光素子の実用化に向けた研究が行われているものの、実用的に満足できる素子は未だ実現されていないのが現状である。例えば、特許文献1のようにポーラス電極を用いると、発光強度は向上するものの、発光寿命が短く、信頼性はまだまだ不十分である。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、応答速度が速く、駆動電圧が低く、発光強度が大きく、かつ、発光寿命が長く、信頼性が高い電気化学発光素子、及び電気化学発光装置を提供することにある。
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、電解質層の溶媒として、特別な構造を有するイオン液体を用いると、発光寿命が長く、信頼性の高い電気化学発光素子を構成できることを発見し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、対向電極間に電解質層が配置され、前記電解質層に含まれる化学種が前記対向電極において酸化されて生成した酸化種と、前記電解質層に含まれる、前記化学種と同種又は別種の化学種が前記対向電極において還元されて生成した還元種との反応によって発光する電気化学発光素子において、
前記電解質層を構成する溶媒として、脂環式第四級アンモニウム化合物からなるイオ ン液体が含まれている
ことを特徴とする、電気化学発光素子に係わるものである。
また、本発明は、前記電気化学発光素子が、前記対向電極間に接続された交流電源によって交流駆動される、電気化学発光装置に係わるものである。
後述の実施例1で示すように、脂環式第四級アンモニウム化合物の1種であるイオン液体1(図7参照。)を用いた電気化学発光素子の場合、アセトニトリルを用いた比較例1の電気化学発光素子と比較して、発光開始電圧がやや低下し、発光寿命が著しく長くなった。また、芳香族または鎖状の第四級アンモニウム化合物であるイオン液体10〜12(図8参照。)を用いた比較例2〜4の電気化学発光素子と比較して、発光開始電圧が低下し、最大発光強度到達時間が著しく短縮され、発光強度が大きく増加し、発光寿命が著しく長くなった。また、実施例2で示すように、前記対向電極の一方の電極に酸化チタンからなる多孔質電極を設けた電気化学発光素子では、より顕著な効果が見られた。また、同様の効果は、図7に示す他の脂環式第四級アンモニウム化合物からなるイオン液体2〜9を溶媒とした場合にも得られた。
イオン液体は、イオンからなるためイオン類のよい溶媒として機能する。しかも、第四級アンモニウムイオンの多くは、酸化されにくいため、対イオンである陰イオンを適切に選べば、第四級アンモニウム化合物は、電解を受けにくい、電解質層の好適な溶媒として用いることができる。芳香族または鎖状の第四級アンモニウム化合物からなるイオン液体10〜12を用いた電気化学発光素子の性能が低い理由は、現在のところ不明であるが、この理由が解明されれば、さらに優れた溶媒が見出される可能性がある。
イオン液体は、不揮発性で、しかも粘性が高いため、封止が不完全であっても、蒸発や漏洩によって失われることがない。しかも、アセトニトリルなどの蒸気圧の高い有機溶媒に比べて、難燃性が高く、人体に危害を及ぼす可能性も低い。従って、電解質を構成する溶媒としてイオン液体を用いれば、電気化学発光素子の長期的信頼性が向上するばかりでなく、安全性も向上する。
本発明の電気化学発光素子において、前記脂環式第四級アンモニウム化合物が下記一般式(1)で表される化合物であるのがよい。
一般式(1):
〔但し、R1及びR2は、炭素数1以上の炭化水素基で、水素原子が置換されていても、置換されていなくてもよく、X-は第四級アンモニウムイオンと対をなす陰イオンである。〕
或いは、前記脂環式第四級アンモニウム化合物が下記一般式(2)で表される化合物であるのがよい。
一般式(2):
〔但し、R1及びR2は、炭素数1以上の炭化水素基で、水素原子が置換されていても、置換されていなくてもよく、X-は第四級アンモニウムイオンと対をなす陰イオンである。〕
これらの場合、前記R1及び/又はR2の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子によって置換されていてもよい。また、前記X-は、化学式NO3 -、CH3COO-、BF4 -、PF6 -、(CF3SO2)2-、(C25SO2)2-、CF3COO-、CF3SO3 -、I-、Cl-、又はBr-で表される陰イオンであるのがよい。
また、前記対向電極の少なくとも一方の電極が、多孔質構造を有する多孔質電極であるのがよい。多孔質電極を用いれば、電極の表面積を飛躍的に増加させることができるので、電極表面における前記酸化種及び/又は前記還元種の生成速度を飛躍的に増加させることができる。この際、前記多孔質電極は、金属及び/又は金属酸化物からなるのがよく、前記金属酸化物に酸化チタンが含まれるのがよい。酸化チタンは、電気伝導性を有し、しかも、化学的に安定な材料である。
本発明の電気化学発光装置は、前記交流駆動の駆動電圧の波形が方形波であるのがよい。本発明者は、研究を重ねた結果、交流駆動される電気化学発光素子においては、前記化学種が酸化されて生成した前記酸化種、および、前記化学種と同種又は別種の化学種が還元されて生成した前記還元種が、それぞれ、駆動電圧の極性の反転に際して、これらの生成反応の逆反応によって前記対向電極上で消滅する反応が存在し、前記酸化種および前記還元種の発光効率を低下させる重要な反応経路になっていることを発見した。
この発見から、前記酸化種および前記還元種の発光効率を向上させるには、これらが前記逆反応によって前記対向電極上で消滅する前に、前記酸化種と前記還元種との前記反応によって発光させることが重要であることがわかる。そこで、上述したように、前記交流駆動の駆動電圧の波形が方形波であるのがよい。このようにすれば、前記駆動電圧の極性が反転する前には前記酸化種を生成していた電極での反応は、極性の反転後に瞬時に前記還元種を生成する反応に変化し、前記還元種を生成していた電極での反応は、極性の反転後に瞬時に前記酸化種を生成する反応に変化する。このため、前記酸化種および前記還元種が前記対向電極上で前記逆反応によって消滅する割合を減少させ、前記酸化種と前記還元種との前記反応によって反応して発光する割合を増加させることができる。この結果、駆動電圧が低く、発光強度が大きく、交流駆動の特徴として応答速度が速い電気化学発光装置を提供することができる。
また、本発明の電気化学発光装置は、実質的に前記対向電極の一方の電極の近傍においてのみ発光が起こるように構成されているのがよい。ここで「実質的に」とは、電気化学発光装置の発光性能が、実際上、前記一方の電極の近傍における発光で決定されるという意味であり、前記対向電極の他方の電極の近傍における発光強度が、前記一方の電極の近傍における発光強度のおおむね10%以下、多くとも20%以下であることを意味する。
前述したように、交流駆動される電気化学発光素子においては、前記酸化種および前記還元種が、それぞれ、生成反応の逆反応によって前記対向電極上で消滅する反応が存在し、発光効率を低下させる重要な反応経路になっている。直流駆動される電気化学発光素子においては、このような逆反応を考慮する必要がないから、交流駆動される電気化学発光素子の反応系は、直流駆動の場合に比べてはるかに複雑である。また、電気化学反応系では、陽極での酸化反応の速度と、陰極での還元反応の速度とは等しく、両者を独立に設定することはできない。このため、前記対向電極の両極近傍での発光を両方とも最適化できる条件を見出すことは不可能であるか、可能であるとしても極めて複雑な検討を行う必要がある。
そこで、前記対向電極の両極近傍での発光を両方とも最適化する方法を断念し、電気化学発光素子による発光を上記のように前記一方の電極の近傍に集中させ、前記一方の電極の近傍での発光を最適化する方法を選択するのがよい。この方法は、両極近傍で生じる発光の半分を捨てるのではなく、通常なら2つの電極に分散してしまう発光を前記一方の電極の近傍に集中させるのであるから、発光を前記一方の電極の近傍に集中させることによる発光強度の低下はわずかである。その上、前記一方の電極の近傍で起こる発光を最適化する条件を見出すことは、両極近傍での発光を両方とも最適化する条件を見出すことよりはるかに容易である。このため、この方法によれば、結果的に、前記対向電極の両極近傍で発光させる方法よりも容易かつ確実に、応答速度が速く、駆動電圧が低く、発光強度が大きい電気化学発光装置を提供することができる。
この際、前記一方の電極が多孔質構造を有する多孔質電極であるのがよい。或いは、前記一方の電極の表面積が、前記対向電極の他方の電極の表面積に比べて大きくなっており、例えば、前記一方の電極の表面積が、前記対向電極の他方の電極の表面積の10倍以上であるのがよい。このように、前記一方の電極の表面積を前記他方の電極の表面積よりも大きくすることによって、通常なら2つの電極の近傍に分散してしまう発光を前記一方の電極の近傍に集中させることができる。そして、前記多孔質電極が金属及び/又は金属酸化物からなるのがよく、前記金属酸化物に酸化チタンが含まれるのがよい。酸化チタンは、電気伝導性を有し、化学的に安定な材料である。
また、前記交流駆動が、デューティ比が1と異なる方形波交流電圧及び/又は直流成分を有する方形波交流電圧によって行われ、前記交流駆動の1サイクルにおいて、長い時間をかけて前記一方の電極の近傍に前記酸化種又は前記還元種が蓄積され、駆動電圧の極性の反転の後、蓄積されていた前記酸化種又は前記還元種が短時間の間に速やかに反応して、前記一方の電極の近傍で発光が引き起こされるように構成されているのがよい。
また、本発明の電気化学発光装置は、面光源として構成されているのがよい。或いは、前記対向電極が、複数の発光領域を形成するパターンに設けられているのがよく、これによって、表示装置として構成されているのがよい。
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的に説明する。
実施の形態1
実施の形態1では、主として請求項1に対応する電気化学発光素子、および請求項9および10に対応する電気化学発光装置について説明する。
図1は、実施の形態1に基づく電気化学発光(ECL)装置の構造を示す断面図である。本発明は、従来報告されているすべての構造の電気化学発光素子および電気化学発光装置に適用できるが、図1に示す素子および装置は、その典型的なものである。
電気化学発光素子10は、主として、対向して配置された電極2および電極4と、これらの電極間に配置された電解質層3とからなる。電極2および電極4は、ガラス基板などの基板1および5の上にスパッタリング法などによって形成された、FTO(フッ素がドープされた酸化スズ)などの透明導電層からなり、スペーサ6を介して接着され、セルを形成している。電解質層3は、ヘキサフルオロリン酸トリス(ビピリジル)ルテニウム(II)( [Ru(bpy)3](PF6)2 )などの発光物質が溶解した溶液である。電解質層3は、通常は液体であるが、半固体状または固体状であってもよい。
本実施の形態の特徴は、電解質層3の溶媒として脂環式第四級アンモニウム化合物からなるイオン液体を用いることにある。この化合物は、例えば、前記一般式(1)または前記一般式(2)で表される化合物がよい。脂肪族環は、環の安定性や入手の容易さから、5員環または6員環であるのが最も好ましい。実施例において後述するように、脂環式第四級アンモニウム化合物であるイオン液体1(図7参照。)を用いた実施例1の電気化学発光素子の場合、アセトニトリルを用いた比較例1の電気化学発光素子と比較して、発光開始電圧がやや低下し、発光寿命が著しく長くなり、信頼性が大きく向上した。また、理由は不明であるが、芳香族または鎖状の第四級アンモニウム化合物であるイオン液体10〜12(図8参照。)を用いた比較例2〜4の電気化学発光素子は、発光が得られないか、または、実施例1の電気化学発光素子に比べて、発光開始電圧、最大発光強度到達時間、発光強度、および発光寿命などの発光特性が劣っていた。
電気化学発光素子10は、直流駆動あるいは交流駆動にて発光を得ることができる。ただし、既述したように、直流駆動と交流駆動とを比べると、直流駆動では、酸化種と還元種とが衝突して発光するまでに電解質層を縦断する必要があるのに対し、交流駆動では、その必要はなく、電極近傍で両者が衝突して発光する。このため、直流駆動では、応答速度が電解質層の厚さに依存し、一般に遅くなるのに対し、交流駆動では、応答速度が電解質層の厚さに依存せず、速い利点がある。また、酸化種または還元種の寿命が短い場合、直流駆動では、衝突する前に、電解質層中を縦断している間に消失してしまう酸化種または還元種の割合が多くなるのに対し、交流駆動では、衝突する前に失われる酸化種または還元種の割合は少なく、発光効率が高くなる利点がある。イオン液体は粘性が大きいため、交流駆動が有するこれらの利点は、アセトニトリルなどの通常の溶媒に比べて著しい。
そこで、図1の装置では、交流電源7を用いて電気化学発光素子10の対向電極間に、方形波の波形を有する交流駆動電圧を供給する。
図2および図3は、1サイクルを6つの期間に分け、各期間における電気化学発光素子10の主たる動作状態を推測を交えてモデル的に示した断面図である。ただし、図2(a)に示す期間の直前に電極2が低電位側(負)から高電位側(正)に変わる極性の反転が行われ、図3(d)に示す期間の直前に電極2が高電位側(正)から低電位側(負)に変わる極性の反転が行われるものとする。従って、図2(a)〜(c)に示す期間では、電極2が高電位側であり、電極2が陽極として機能し、電極4が陰極として機能する。また、図3(d)〜(f)に示す期間では、電極2が低電位側であり、電極2が陰極として機能し、電極4が陽極として機能する。なお、図の右側に付記した反応式において、錯イオンは配位子を省略して示した。その他の記載上の注意点は、図9などと同様である。
図2(a)に示す期間の初めには、前のサイクルの、図3(f)に示す期間における電極2での還元反応(2)
[Ru(bpy)3]2+ + e- → [Ru(bpy)3]+・・・(2)
、および電極4での酸化反応(1)
[Ru(bpy)3]2+ → [Ru(bpy)3]3+ + e-・・・(1)
によって、電極2および電極4の表面および近傍に、それぞれ、還元種[Ru(bpy)3]+および酸化種[Ru(bpy)3]3+が蓄積されている。従って、極性が反転すると、主たる反応として、電極2では、その表面および直近に存在する還元種が、還元反応(2)の逆反応(−2)
[Ru(bpy)3]+ → [Ru(bpy)3]2+ + e-・・・(−2)
によって消滅し、電極4では、その表面および直近に存在する酸化種が、酸化反応(1)の逆反応(−1)
[Ru(bpy)3]3+ + e-・→ [Ru(bpy)3]2+・・・(−1)
によって消滅する。
また、上記の反応に並行して、電極2上で[Ru(bpy)3]2+が反応(1)によって酸化され、電極4上で[Ru(bpy)3]2+が反応(2)によって還元される反応が起こる。
図2(a)に示した期間の間に、電極2の表面および直近に存在していた還元種、および、電極4の表面および直近に位置していた酸化種が、それぞれ、上記逆反応(−2)および(−1)によって失われ、これらの領域では還元種および酸化種が枯渇する。このため、図2(b)に示す期間では、これらの化学種による逆反応は起こりにくくなり、主たる反応として、電極2上では酸化反応(1)
[Ru(bpy)3]2+ → [Ru(bpy)3]3+ + e-・・・(1)
が起こり、電極4上では還元反応(2)
[Ru(bpy)3]2+ + e- → [Ru(bpy)3]+・・・(2)
が起こる。この結果生じた酸化種および還元種は、それぞれ、電極2および電極4の表面からやや離れた位置に残存している還元種および酸化種と衝突し、反応(3)および反応(4)
[Ru(bpy)3]3+ + [Ru(bpy)3]+ → [Ru(bpy)3]2+*+ [Ru(bpy)3]2+・・・(3)
[Ru(bpy)3]2+* → [Ru(bpy)3]2+ + hν・・・(4)
によって、発光を生じる。
図2(b)に示した期間の間に、電極2の近傍に蓄積されていた還元種、および、電極4の近傍に蓄積されていた酸化種はほぼすべて失われる。このため、図2(c)に示す期間では、電極2上で酸化反応(1)によって生成した酸化種は電極2の近傍に蓄積され、電極4上で還元反応(2)によって生成した還元種は電極4の近傍に蓄積される。
図3(d)〜(f)に示す期間で起こる反応は、電極2と電極4とが役割を交代することを除けば、図2(a)〜(c)に示した期間で起こる反応と基本的には同じである。すなわち、図3(d)に示す期間の初めには、上述したように、電極2および電極4の表面および近傍に、それぞれ、酸化種および還元種が蓄積されている。従って、極性が反転すると、主たる反応として、電極2では、その表面および直近に存在する酸化種が、酸化反応(1)の逆反応(−1)によって消滅し、電極4では、その表面および直近に存在する還元種が、還元反応(2)の逆反応(−2)によって消滅する。また、上記の反応に並行して、電極2上で[Ru(bpy)3]2+が反応(2)によって還元され、電極4上で[Ru(bpy)3]2+が反応(1)によって酸化される反応が起こる。
図3(d)に示す期間の間に、電極2の表面および直近に存在していた酸化種、および、電極4の表面および直近に存在していた還元種が、それぞれ逆反応によって失われ、これらの領域では還元種および酸化種が枯渇する。このため、図3(e)に示す期間では、主たる反応として、電極2上では還元反応(2)が起こり、電極4上では酸化反応(1)が起こり、生じた還元種および酸化種は、それぞれ、電極2および電極4の表面からやや離れた位置に残存している酸化種および還元種と衝突し、反応(3)および反応(4)によって発光を生じる。
図3(e)に示した期間の間に、電極2の近傍に蓄積されていた酸化種、および、電極4の近傍に蓄積されていた還元種はほぼすべて失われる。このため、図3(f)に示す期間では、電極2で還元反応(2)によって生成した還元種が電極2の近傍に蓄積され、電極4で酸化反応(1)によって生成した酸化種が電極4の近傍に蓄積される。
以上のように、蓄積された酸化種が行う反応としては、電極上で新たに作られる還元種との反応(3)と、電極上での逆反応(−1)とが競合関係にあり、蓄積された還元種が行う反応としては、電極上で新たに作られる酸化種との反応(3)と、電極上での逆反応(−2)とが競合関係にある。反応(3)と、電極上での逆反応(−1)および(−2)との間には、反応(3)の反応速度が、蓄積された酸化種または還元種の濃度以外に、電極上で新たに作られる還元種または酸化種の濃度に依存するのに対し、逆反応(−1)および逆反応(−2)の反応速度は、それぞれ、蓄積された酸化種および還元種の濃度にのみ依存するという、反応速度上の違いがある。従って、対向電極の極性が反転した後、電極上で新たに作られる還元種または酸化種の濃度を、可能な限り速やかに増加させることができれば、蓄積されている酸化種および還元種が反応(3)によって反応して反応(4)によって発光する割合を増加させ、逆反応(−1)および(−2)によって消滅する割合を減少させることができる。
上記の条件を実現する方法の一つが、本実施の形態の方形波の波形を有する駆動電圧によって駆動する方法である。このようにすれば、対向電極間の電圧が、極性の反転後に瞬時に、反応(1)および反応(2)を起こさせるのに十分な大きさに達し、その後、その大きさに維持される。このため、反応(1)および反応(2)による電極上での酸化種および還元種の生成が瞬時に開始される。これによって、電極上で新たに作られる還元種または酸化種の濃度を、可能な限り速やかに増加させることができ、蓄積されている酸化種および還元種が反応(3)によって反応し発光する割合を増加させ、逆反応(−1)および(−2)によって消滅する割合を減少させることができる。この結果、駆動電圧が低く、発光強度が大きく、交流駆動の特徴として応答速度が速い電気化学発光装置を提供することができる。
駆動電圧の交流波形が方形波以外のノコギリ波、三角波、正弦波などで、極性の反転速度が小さい場合には、極性の反転後、対向電極間の電圧が反応(1)および反応(2)を起こさせるのに十分な大きさに達するのにかなりの時間を要し、新たな酸化種および還元種の生成が十分に行われる前に、蓄積されていた酸化種および還元種が逆反応(−1)および(−2)によって消滅してしまう。そのため、全く発光が生じなくなる場合もある。
以下、上記の特徴以外の電気化学発光素子10の構成を記述する。
電極2および電極4の形状としては、平行平板電極、および、くし形電極の2つのタイプが挙げられる。平行平板電極は、一対の平行電極の間に発光層を挟持して発光層を平行に配置したものである。この場合には、少なくとも一方の電極は、透明である必要があり、その透過率が70%以上であることが好ましい。
一方、くし形電極は、一対のくし形状の電極を交互に対電極の間に入り込むように配置したものである。この場合には、一対のくし形電極を基板上に配置する必要があり、その電極は透過率が70%以上である透明な基板を用いた方が、基板側から発光を取り出すことができるので好ましい。
電極材料としては、白金、金、銅、チタン、パラジウム、スズ、ニッケル、銀、アルミニウムなどの導電性を有する金属、およびこれらの金属を含む合金、酸化インジウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、ITO(Indium Tin Oxide)などを主成分とする酸化物半導体、および各種導電性カーボンなどが挙げられる。
電極2および4は、真空蒸着、スパッタ法、ゾル−ゲル法、めっき法、スピンコート法、スプレー法などにより形成することが可能で、その形成法は特に限定されない。またその表面も平滑であっても凹凸を持っても構わない。
電解質層3に含有させる発光物質としては、可視光領域から紫外光領域で蛍光を有する化合物であれば特に限定されない。
例えば、発光物質として、芳香族系共役化合物、芳香族アミン化合物、芳香族エナミン化合物、複素環系共役化合物、オキサゾール化合物などが好ましい化合物として挙げられる。具体的には、9,10−ジフェニルアントラセン、ルブレン(5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン)、トリフェニレン(9,10−ベンゾフェナントレン)、モノフェニルトリフェニレン、2,3−ジフェニルトリフェニレン、2,6,10−トリフェニルトリフェニレン、2,6,10−トリ(p−シアノフェニル)トリフェニレン、9−(α,−ジシアノビニル)アントラセン、9−スチリルアントラセン、2,7−ジフェニルフェナントレン、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン、N,N’−ジ(m−トリル)ベンジジン、N,N’−ジ(α−ナフチル)ベンジジン、トリ(ビフェニル−4−イル)アミンなどが挙げられる。
化学構造的には、2,6,10−トリフェニルトリフェニレンおよびトリ(ビフェニル−4−イル)アミンのように、フェニル基に代表されるアリール基が置換基数として2個以上ついているものが好ましい。アリール基は相対的には多ければ多いほどよいが、合成上および溶解性、溶融性などの点から、4個程度の置換数が適当である。したがって、発光物質としては、環状炭化水素化合物または複素環化合物の環形成炭素が少なくとも2個以上の置換もしくは非置換のフェニル基で置換された化合物が、得られる電気化学発光素子の発光効率の点で特に好ましい。
また、高分子状の発光物質が、特開平6−166743号公報に種々記載されており、これらを用いることができる。具体的には、ポリ(p−フェニレン−エチニレン)、ポリ(p−フェニレン−エチニレン−m−フェニレン−エチニレン)などのアリ−レン:アセチレン結合からなる芳香族系共役系高分子化合物が挙げられる。
また、含窒素系複素環化合物を多座配位子とする金属錯体化合物も、本実施の形態で用いる電気化学発光素子の発光物質として、好適に用いることができる。これらの化合物は、最近、有機太陽電池の分光増感色素として注目を浴び、種々の材料が得られるようになってきている(J.Am.Chem.Soc.,115,632(1993)参照。)。これらの化合物の化学構造としては、配位子としてビスピリジンならびにビスピリジンの一部および全部が2,10−フェナントロリンおよび1,8−ナフチリジンのような環状構造になったものと、ルテニウム(II)などの金属イオンとから構成される金属錯体が好ましい。具体的には、トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム(II)や、シス−ビス(チオシアナート)−ビス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム(II)などのビスピリジン系金属錯体化合物が特に好ましい。
電気化学発光素子の発光強度は、電解質層中の発光物質の濃度に略比例するので、発光物質は、電解質層の溶媒に対する溶解性が高い方が好ましい。また、発光物質は必ずしも電解質層中に溶解または分散させず、電極表面上に固定してもかまわない。あるいは、溶解または分散と、電極上への固定とを併用してもかまわない。
発光物質を溶解または分散させた電解質層は、液体状態のみならず、ゲル状または固体状など、どのような状態であってもかまわない。例えば、イオン液体のように高粘性の液体を溶媒として用いてもかまわない。あるいは、導電性ポリマーなどを添加したり、ナノ粒子と混合してゲル化したり、イオン液体あるいはポリマーに反応性部位をもたせ、重合し、固体化したりしてもかまわない。また、支持電解質や酸化防止剤、光安定化剤など、各種添加剤を加えても、何ら問題はない。
実施の形態2
実施の形態2では、主として請求項6〜8に対応する電気化学発光素子、および請求項11〜14に対応する電気化学発光装置について説明する。
図4は、本実施の形態に基づく電気化学発光装置を示す断面図である。図4に示すように、電気化学発光素子20は、主として、対向して配置された電極22および電極4と、これらの電極間に配置された電解質層3とからなる。電極22と電極4とは、スペーサ26を介して接着され、セルを形成している。電解質層3は、電気化学発光素子10と同様、脂環式第四級アンモニウム化合物からなるイオン液体を含む溶媒に、ヘキサフルオロリン酸トリス(ビピリジル)ルテニウム(II)( [Ru(bpy)3](PF6)2 )などの発光物質が溶解した溶液である。電解質層3は、通常は液体であるが、半固体状または固体状であってもよい。
電極22は、電極22aと、前記多孔質電極であるポーラス電極22bとによって構成されている。電極22aは、ガラス基板などの基板1の上にスパッタリング法などによって形成された、FTOなどの透明導電層からなる。ポーラス電極22bは、電極22aの上に塗布などによって酸化チタン微粒子層を形成し、これを焼結して形成された酸化チタンの多孔質層などからなる。対極の電極4は、ガラス基板などの基板5の上にスパッタリング法などによって形成されたFTOなどの透明導電層からなる。
電気化学発光は、電極上で還元された発光物質と、電極上で酸化された発光物質との衝突頻度によって、発光強度が左右される。このため、一方の電極を多孔質電極にして、反応が行われる電極の表面積を増加させ、電極上での酸化還元反応の速度を増加させることによって、発光強度を高めることができる。ポーラス電極22bの表面積は、その投影面積(設置面積)の100倍以上であることが好ましい。電極材料としては、白金、金、銅、チタン、パラジウム、スズ、ニッケル、銀、アルミニウムなどの導電性を有する金属、およびこれらの金属を含む合金、酸化インジウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、ITO(Indium Tin Oxide)などを主成分とする酸化物半導体、および各種導電性カーボンなどが挙げられる。ポーラス電極22bは、これらの材料を、微粒子の加熱によるネッキングや、ポリマーを鋳型にしたゾル−ゲル法、またはめっき法などで処理して形成することができ、その作製方法は何ら限定されない。
また、もう一方の電極は、真空蒸着、スパッタ法、ゾル−ゲル法、めっき法、スピンコート法、スプレー法などにより形成することが可能で、その形成法は特に限定されない。また、その表面は、平滑であっても、凹凸をもっていてもよく、更には、表面積がポーラス電極2bの表面積の1/10以下であれば、ポーラス電極であってもよい。
電気化学発光素子20の特徴は、対向電極のうちの一方に多孔質構造を有するポーラス電極22bを用いたことにあり、その他は実施の形態1で述べた電気化学発光素子10と同じである。後述の実施例2〜10として示すように、ポーラス電極22bを設けると、対向電極の両方をFTO導電層のみとした電気化学発光素子10の場合に比べて、発光開始電圧が小さくなり、発光強度が大きくなる。
また、この際、重要なことは、ポーラス電極を対向電極の両方に設けるのではなく、一方に設けるということである。本発明者は、対向電極の両方にポーラス電極を設けた電気化学発光素子を交流駆動した場合、発光が得られないことを明らかにした。特許文献1には、直流駆動の場合、陽極と陰極の両方にポーラス電極を用い、陰極側のみにポーラス電極を用いた場合と同等の発光強度を得た例が示されている。これらの例を比較すると、交流駆動による電気化学発光素子20の動作は、直流駆動時の動作に比べ、はるかに複雑であることが推測される。本発明者は、この詳細について検討し、発光強度を向上させる方法を報告した(特願2006−257329および特願2006−262030参照。)。
図5は、特願2006−257329に記載されている、最適なデューティ比を有する方形波駆動電圧に、直流電圧成分を加えて、理想的な方形波駆動電圧を形成した例である。期間(A+B+C)は電極22が電極4よりも高電位に保たれる期間であり、このうち、期間Aは発光遅れ期間であり、期間Bが発光期間である。期間Cは電極22近傍に酸化種を蓄積する期間で、電気化学発光素子20の発光には寄与しない。期間(D+E)は電極22が電極4よりも低電位に保たれる期間であり、このうち、期間Dは電極22近傍に蓄積されていた酸化種が逆反応で消滅する期間であり、電気化学発光素子20の発光には寄与しない。期間Eは電極22近傍に還元種を蓄積する期間で、電気化学発光素子20の発光を起こさせるのに重要な期間である。
図5に示す方形波駆動電圧では、1サイクルのうち、発光に寄与しない期間CおよびDをできるだけ短くする。一方、期間Eを十分長くとり、長い時間をかけて電極22の近傍に還元種を蓄積する。そして、瞬時の駆動電圧の極性の反転の後、期間(A+B)において酸化種を速やかに生成させ、蓄積されていた還元種と効率よく反応させて、大きな発光強度を得る。
この際、図5に示すように、直流電圧成分を重ね合わせて、直流電圧成分(オフセット)をもたせた駆動電圧を印加することで、発光効率をさらに向上させることができる。実際、電極22を負に保つ期間(D+E)に印加する電圧(絶対値)が大きい場合には、電極22を正に保つ期間期間(A+B+C)に印加する電圧(絶対値)が小さくても発光が生じる。例えば、負側の印加電圧を−2.3Vとした場合、正側の印加電圧は0.4V程度であっても発光が生じる。このように、期間Eにおいて大きな負の電圧を印加することによって十分な量の還元種を形成しておけば、期間(A+B)において酸化種の生成のために印加する電圧を小さくすることが可能である。このようにすれば、逆反応による還元種の消滅を抑制することができ、高効率な発光を実現させることが可能である。つまり、図5に示すように、正側の電圧印加時間が短く、負側の電圧印加時間が長く、かつ、負側にオフセットを有する駆動電圧が、最も効率よく発光を起こさせる駆動電圧である。
図6は、パッシブマトリックス型表示装置として構成された電気化学発光装置の例を示す図である。本発明の電気化学発光装置は、基本的には面発光光源として利用できるが、複数の発光領域を形成して、表示装置として利用することができる。図6はそのような可能性を例示するためのものである。図6に示す装置では、各対向電極が複数の帯状電極によって構成され、帯状電極が対向電極の一方の電極側では縦方向に並べられ、他方の電極側では横方向に並べられ、両者が格子状のマトリックスを形成している。対向電極に駆動電圧を印加すると、縦の電極と横の電極に挟まれた領域が選択的に発光を生じる。この例から容易にパッシブマトリックス型の表示装置が作製可能であることが示される。
次に、本発明の電気化学発光装置の実施例および比較例を挙げてより具体的に説明する。なお、本発明の電気化学発光装置は以下に示す例に限定されるものではない。
実施例1
実施例1では、実施の形態1で図1を用いて説明した電気化学発光素子10を作製した。ガラス基板からなる基板1および5の上に、それぞれ、スパッタリング法によってFTOからなる透明導電層を形成し、電極2および4とした。この電極2と電極4とを厚さ30μmのスペーサ6を介して接着し、セルを作製した。この後、両電極の間の空隙部に、脂環式第四級アンモニウム化合物の1種であるイオン液体1を溶媒とし、これに5wt%のヘキサフルオロリン酸トリス(ビピリジル)ルテニウム(II)( [Ru(bpy)3](PF6)2 )を溶解した電解液を注入し、電解質層3を形成した。イオン液体1の構造式を、後述の実施例3〜10で用いるイオン液体2〜9の構造式とともに、図7に示す。
次に、電気化学発光素子10の対向電極間に、交流電源7を用いて方形波の波形を有する駆動電圧(周波数10Hz)を印加し、発光開始電圧を測定した。また、振幅±3.0Vの駆動電圧を印加したときの、発光強度、駆動電圧の極性が反転したときから最大発光強度が得られるまでの時間、すなわち最大発光強度到達時間、および発光寿命を測定した。これらの発光特性の測定結果を、比較例1〜4の結果とともに表1に示す。発光寿命および発光強度については、良好な方から◎、○、△、×の4段階で評価した。
比較例1〜4
比較例1では、イオン液体1の代わりにアセトニトリルを用いて、電気化学発光素子10と同じ構造の電気化学発光素子を作製し、実施例1と同様にして発光特性を測定した。また、比較例2〜4では、イオン液体1の代わりに、芳香族または鎖状の第四級アンモニウム化合物であるイオン液体10〜12をそれぞれ用いて、電気化学発光素子10と同じ構造の電気化学発光素子を作製し、実施例1と同様にして発光特性を測定した。図8にイオン液体10〜12の構造式を示す。また、結果を表1に示す。
この発光実験の結果、脂環式第四級アンモニウム化合物であるイオン液体1を用いた本発明の実施例1の電気化学発光素子の場合、アセトニトリルを用いた比較例1の電気化学発光素子と比較して、発光開始電圧がやや低下し、発光寿命が著しく長くなった。また、芳香族または鎖状の第四級アンモニウム化合物であるイオン液体11および12を、それぞれ、用いた比較例3および4の電気化学発光素子と比較して、発光開始電圧が低下し、最大発光強度到達時間が著しく短縮され、発光強度が大きく増加し、発光寿命が著しく長くなった。なお、比較例2では、実施例1と同様に方形波の波形を有する駆動電圧(周波数10Hz)を印加し、発光開始電圧を測定しようとしたが、発光は観察されなかった。
実施例2
実施例2では、実施の形態2で図4を用いて説明した電気化学発光素子20を作製した。ガラス基板からなる基板1の上にスパッタリング法によってFTOからなる透明導電層を形成し、電極22aとした。この上に酸化チタン分散液P25(日本エアロジル社製)を塗布したのち、500℃に加熱し、酸化チタンからなる厚さ10μmのポーラス電極22bを形成し、電極22aと電極22bとによって電極22を構成した。対極の電極4として、ガラス基板からなる基板5の上に、スパッタリング法によってFTOからなる透明導電層を形成した。次に、厚さ30μmのスペーサ26を介して電極22と電極4とを接着し、セルを作製した。この後、両電極の間の空隙部に、イオン液体1に5wt%のヘキサフルオロリン酸トリス(ビピリジル)ルテニウム(II)( [Ru(bpy)3](PF6)2 )を溶解した電解液を注入し、電解質層3を形成した。なお、電極22のポーラス電極22bの表面積は、電極4の表面積の約1000倍とした。
電気化学発光素子20の対向電極間に、交流電源7を用いて方形波の波形を有する駆動電圧(周波数10Hz)を印加し、発光開始電圧を測定した。また、振幅±2.0Vの駆動電圧を印加したときの、発光強度、最大発光強度到達時間、および発光寿命を測定した。これらの発光特性の測定結果を、比較例5〜8の結果とともに表2に示す。発光寿命および発光強度については、良好な方から◎、○、△、×の4段階で評価した。
比較例5〜8
比較例5では、イオン液体1の代わりにアセトニトリルを用いて、電気化学発光素子20と同じ構造の電気化学発光素子を作製し、実施例2と同様にして発光特性を測定した。また、比較例6〜8では、イオン液体1の代わりにイオン液体10〜イオン液体12をそれぞれ用いて、電気化学発光素子20と同じ構造の電気化学発光素子を作製し、実施例2と同様にして発光特性を測定した。結果を表2に示す。
この発光実験の結果、脂環式第四級アンモニウム化合物であるイオン液体1を用いた本発明の実施例2の電気化学発光素子の場合、アセトニトリルを用いた比較例5の電気化学発光素子と比較して、発光開始電圧がやや低下し、発光寿命が著しく長くなった。また、芳香族または鎖状の第四級アンモニウム化合物であるイオン液体11および12を、それぞれ用いた比較例7および8の電気化学発光素子と比較して、発光開始電圧がやや低下し、最大発光強度到達時間が著しく短縮され、発光強度が大きく増加し、発光寿命が著しく長くなった。酸化チタンからなるポーラス電極22bを設けた実施例2は、ポーラス電極22bを設けていない実施例1と比較して、発光開始電圧が低下し、最大発光強度到達時間が著しく短縮され、発光強度が大きく増加した。なお、比較例6では、実施例2と同様に方形波の波形を有する駆動電圧(周波数10Hz)を印加し、発光開始電圧を測定しようとしたが、発光は観察されなかった。
実施例3〜10
実施例3〜10では、それぞれ、イオン液体1の代わりにイオン液体2〜イオン液体9を用いて、電気化学発光素子20と同じ構造の電気化学発光素子を作製し、実施例2と同様にして発光特性を測定した。結果を表3に示す。
表3に示すように、イオン液体2〜イオン液体9を用いて、イオン液体1を用いた電気化学発光素子とほぼ同じ性能の電気化学発光素子を得ることができた。
以上のように、一般式(1)または(2)の構造式で示される脂環式第四級アンモニウム化合物からなるイオン液体を溶媒として用いた電気化学発光素子は、発光開始電圧の低下、最大発光強度到達時間の短縮、発光強度の向上、発光寿命の増加による信頼性の向上が実現した。さらに、ポーラス電極を備えた発光素子では、より顕著な効果が見られた。
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
本発明によれば、低電圧で駆動でき、高い発光効率を有し、かつ、高い信頼性を有する電気化学発光素子および電気化学発光装置を提供することができ、表示デバイス、低コストで大面積の平面発光光源、照明装置およびレーザー励起光源など、多様な発光応用デバイスの実現に寄与できる。
本発明の実施の形態1に基づく電気化学発光(ECL)装置を示す断面図である。 同、電気化学発光装置の動作状態を、推測を交えてモデル的に示す断面図である。 同、電気化学発光装置の動作状態を、推測を交えてモデル的に示す断面図である。 本発明の実施の形態2に基づく電気化学発光(ECL)装置の構造を示す断面図である。 同、電気化学発光装置の理想的な駆動電圧の例を示すグラフである。 同、パッシブマトリックス型表示装置として構成された電気化学発光装置の例を示すである。 本発明の実施例で用いたイオン液体の構造式である。 比較例で用いたイオン液体の構造式である。 従来の直流駆動される電気化学発光素子の一般的な構造を示す断面図である。 交流駆動される電気化学発光素子の動作状態を従来のモデルで示す断面図である。
符号の説明
1、5…基板(ガラス基板など)、2、4…電極(FTOなどの透明導電層など)、
3…電解質層、6…スペーサ、7…交流電源、10…電気化学発光素子、
20…電気化学発光素子、22…電極、22a…電極(FTOなどの透明導電層など)、22b…ポーラス電極(TiO2など)、26…スペーサ、100…電気化学発光素子、
101、105…基板、102…陽極、103…電解質層、104…陰極、
106…スペーサ、110…電気化学発光素子、111、115…基板、
112、114…電極、113…電解質層、116…スペーサ

Claims (20)

  1. 対向電極間に電解質層が配置され、前記電解質層に含まれる化学種が前記対向電極において酸化されて生成した酸化種と、前記電解質層に含まれる、前記化学種と同種又は別種の化学種が前記対向電極において還元されて生成した還元種との反応によって発光する電気化学発光素子において、
    前記電解質層を構成する溶媒として、脂環式第四級アンモニウム化合物からなるイオ ン液体が含まれている
    ことを特徴とする、電気化学発光素子。
  2. 前記脂環式第四級アンモニウム化合物が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1に記載した電気化学発光素子。
    一般式(1):
    〔但し、R1、R2は、炭素数1以上の炭化水素基で、水素原子が置換されていても、置換されていなくてもよく、X-は第四級アンモニウムイオンと対をなす陰イオンである。〕
  3. 前記脂環式第四級アンモニウム化合物が下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1に記載した電気化学発光素子。
    一般式(2):
    〔但し、R1、R2は、炭素数1以上の炭化水素基で、水素原子が置換されていても、置換されていなくてもよく、X-は第四級アンモニウムイオンと対をなす陰イオンである。〕
  4. 前記R1及び/又はR2の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子によって置換されている、請求項2又は3に記載した電気化学発光素子。
  5. 前記X-は、化学式NO3 -、CH3COO-、BF4 -、PF6 -、(CF3SO2)2-、(C25SO2)2-、CF3COO-、CF3SO3 -、I-、Cl-、又はBr-で表される陰イオンである、請求項2又は3に記載した電気化学発光素子。
  6. 前記対向電極の少なくとも一方の電極が、多孔質構造を有する多孔質電極である、請求項1に記載した電気化学発光素子。
  7. 前記多孔質電極が金属及び/又は金属酸化物からなる、請求項6に記載した電気化学発光素子。
  8. 前記金属酸化物に酸化チタンが含まれる、請求項7に記載した電気化学発光素子。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載した電気化学発光素子が、前記対向電極間に接続された交流電源によって交流駆動される、電気化学発光装置。
  10. 前記交流駆動の駆動電圧の波形が方形波である、請求項9に記載した電気化学発光装置。
  11. 実質的に前記対向電極の一方の電極の近傍においてのみ発光が起こるように構成されている、請求項9に記載した電気化学発光装置。
  12. 前記一方の電極が多孔質構造を有する多孔質電極である、請求項11に記載した電気化学発光装置。
  13. 前記多孔質電極が金属及び/又は金属酸化物からなる、請求項12に記載した電気化学発光装置。
  14. 前記金属酸化物に酸化チタンが含まれる、請求項13に記載した電気化学発光装置。
  15. 前記一方の電極の表面積が、前記対向電極の他方の電極の表面積に比べて大きくなっている、請求項11に記載した電気化学発光装置。
  16. 前記一方の電極の表面積が、前記対向電極の他方の電極の表面積の10倍以上である、請求項15に記載した電気化学発光装置。
  17. 前記交流駆動が、デューティ比が1と異なる交流電圧及び/又は直流成分を有する交流電圧によって行われ、前記交流駆動の1サイクルにおいて、長い時間をかけて前記一方の電極の近傍に前記酸化種又は前記還元種が蓄積され、駆動電圧の極性の反転の後、前記酸化種又は前記還元種が短時間の間に速やかに反応して、発光が引き起こされる、請求項11に記載した電気化学発光装置。
  18. 面光源として構成されている、請求項9に記載した電気化学発光装置。
  19. 前記対向電極が、複数の発光領域を形成するパターンに設けられている、請求項9に記載した電気化学発光装置。
  20. 表示装置として構成されている、請求項19に記載した電気化学発光装置。
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