JP2008058033A - カルシウム濃度測定試薬および測定方法 - Google Patents

カルシウム濃度測定試薬および測定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
血清、血漿、尿等の体液検体中のカルシウム濃度をクロロホスホナゾ−IIIを用いて測定する際に、濁りに基づく正誤差を受けずに正確に測定できるカルシウム濃度測定試薬および測定方法を提供する。
【解決手段】
本発明のカルシウム濃度測定試薬は、クロロホスホナゾ−IIIと、アニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種とを含有する。
【選択図】なし

Description

本発明は、クロロホスホナゾ−IIIを用いたカルシウム濃度測定試薬および測定方法に関し、更に詳しくは、血清、血漿、尿、髄液、リンパ液等の体液検体中のカルシウム濃度を正確に測定することが可能なカルシウム濃度測定試薬および測定方法、特に臨床検査分野において汎用されている自動分析装置に適用可能なカルシウム濃度測定試薬および測定方法に関する。
生体中のカルシウムはそのほとんどが骨および歯牙に含まれている。血液中に存在するカルシウムは生体中の0.1%に過ぎないが、その少量のカルシウムはホルモンの調節等の様々な機能の調節に携わっている。したがって、血中カルシウム濃度の恒常性維持は生体の機能維持に非常に重要であり、その濃度異常は種々の疾患の発症を示唆することから、臨床検査において血清、血漿、尿等の体液検体中のカルシウム濃度が測定されている。
体液検体中のカルシウム濃度を測定する方法としては、キレート滴定法、比色法、原子吸光法、電極法等が知られている。これらのうち臨床検査分野においては、短時間で多数検体を分析でき、自動分析装置に適用することが可能な比色法が最も普及している。比色法では、カルシウムとキレートを形成して色調が変化するo−クレゾールフタレインコンプレクソン(OCPC)、メチルキシレノールブルー(MXB)等のキレート剤が主に用いられているが、OCPCやMXBはアルカリ性領域でカルシウムと反応させることにより色調が大きく変化するため、これらのキレート剤を用い、カルシウムとの反応による色調の変化をカルシウム濃度として測定する試薬はアルカリ性である。
アルカリ性の試薬は、自動分析装置に開栓状態で放置している間に徐々に大気中の二酸化炭素を吸収しpHの低下をまねく。試薬のpHが低下するとカルシウムとの反応性が変化し、測定値の信頼性を確保できなくなるため、OCPC法やMXB法では頻繁に標準液を測定して検量線を作成し直したり、新しい試薬に交換する等の手間がかかり、実用上問題があった。
このような問題を回避することを目的として、中性域でカルシウム濃度の測定が可能な方法が開発されている。例えば、カルシウム要求性の酵素(アミラーゼ、リパーゼ等)を用いる方法はその一つである。しかし、酵素や酵素基質はOCPCやMXBに比して高価で検査コストが高くなるため、このような酵素を用いる方法は普及し難くなっている。
また、中性域でカルシウムと反応するキレート剤としてアルセナゾ−IIIが知られている。しかし、アルセナゾ−IIIはヒ素を含む毒物であるため、一般に使用するには問題があると指摘されている。
そこで近年、アルセナゾ−IIIと同類であって、しかもヒ素を含まない化合物としてクロロホスホナゾ−IIIが注目され、カルシウム濃度測定試薬への適用が検討されている。クロロホスホナゾ−IIIを用いる方法は反応の最適pH範囲が中性から弱酸性であり、二酸化炭素吸収によるpH変化が小さく、またヒ素を含まないため、開栓放置後の試薬pHの低下に伴う試薬性能の変化の問題や試薬の毒性の問題を解消し得ると考えられる。
特許文献1には、クロロホスホナゾ−IIIを用い、マグネシウムとカルシウムを同時に測定する方法が開示されている。この方法はpH7.5の反応溶液中でクロロホスホナゾ−IIIをマグネシウムとカルシウムの両者と反応させ、その後、カルシウムに特異的なキレート剤を加えてカルシウムを解離させる反応に基づいており、カルシウムに特異的なキレート剤の添加によりもたらされる吸光度の低下の度合いからカルシウム濃度を定量するものである。しかし、この方法はクロロホスホナゾ−IIIとEGTA、BAPTA等のカルシウムに特異的なキレート剤を組み合わせて用いることから、試薬組成が複雑になり、試薬コストが高くなるといった問題がある。また、この方法は中性域で反応を行うため、EDTA血漿のようにEDTAを含む検体に対しては、カルシウムがEDTAによっても捕捉されるため、負誤差を生じるといった問題が考えられる。
クロロホスホナゾ−IIIは中性域でカルシウム、マグネシウムの両者と反応するが、上述のごとく適当なキレート剤と組み合わせて用いることによりカルシウムを選択的に測定できる。一方、クロロホスホナゾ−IIIは酸性条件下でカルシウムに対する選択性が高まり、pH2〜5で測定することにより、他のキレート剤を用いずにカルシウム、マグネシウム混合試料中のカルシウムを選択的に測定できることが知られている。また、酸性条件下ではEDTAの影響を受け難くなると考えられる。ただし、臨床検査分野で対象となる検体はタンパク質成分を含むため、pH4未満ではタンパク質が変性し、不溶化して濁りを生じることがある。このため、反応溶液のpHは4以上とすることが好ましいが、クロロホスホナゾ−IIIは弱酸性の反応溶液中でタンパク質成分と非特異的な反応を示し、濁りを生じることから、体液検体中のカルシウム濃度の測定にクロロホスホナゾ−IIIを用いると正誤差を生じることが知られていた。
このような背景から、非特許文献1および特許文献2にはクロロホスホナゾ−IIIおよびバナジン酸イオンを含有するカルシウム濃度測定試薬が開示されており、非特許文献1にはバナジン酸イオンを共存させることによりクロロホスホナゾ−IIIとタンパク質との反応が回避されることが記載されている。pH5.2の反応条件においてクロロホスホナゾ−IIIはアルブミンと反応して吸光度が上昇するが、バナジン酸アンモニウムを添加した試薬ではブランクレベルのままであった。バナジン酸イオンには共存タンパク質の影響を解消する効果が示唆されている。しかし、この方法ではクロロホスホナゾ−IIIの5〜100倍の濃度のバナジン酸イオンを共存させる必要がある。このようにバナジウムは重金属であり、原料に用いるバナジン酸アンモニウムはヒトに対する毒性は明確でないものの、催奇形性の可能性、変異原性の兆候が報告されている(非特許文献2)。このため、バナジン酸塩を用いることは試薬を製造する者、およびこれを使用する者にとって必ずしも望ましいと言えない。
上述の如く、クロロホスホナゾ−IIIを用いたカルシウム濃度の測定方法としていくつか提案されているが、特に臨床検査の分野で実用化するための様々な課題、すなわち、様々な体液検体に適用でき、汎用性が高く、かつ安全性が高いことを十分満足する試薬は未だ提案されていない。
特開平4−120464号公報 特開2006−23182号公報 生物試料分析,29:81,2006 環境保健クライテリア81「バナジウム」、国立医薬品食品衛生研究所1988年発行、http://www.nihs.go.jp/DCBI/PUBLIST/ehchsg/ehctran/tran1/vanadium.html#2
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を進める中で、クロロホスホナゾ−IIIとタンパク質の反応により生じる濁りがイオン性化合物、具体的にはアニオン型界面活性剤やポリアミン類等のアミン類を共存させることによって解消されること、およびこれらのイオン性化合物を試薬に添加することによって濁りによる影響を受けずにカルシウム濃度を測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、クロロホスホナゾ−IIIと、アニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種とを含有する、カルシウム濃度測定試薬に関する。
また本発明は、アニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有する第1の試薬と、クロロホスホナゾ−IIIを含有する第2の試薬とから構成される、前記試薬に関する。
さらに本発明は、クロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムが反応する反応溶液のpHが4.0〜7.0である、前記試薬に関する。
また本発明は、クロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムが反応することによる吸光度の上昇変化をカルシウム濃度として測定する、前記試薬に関する。
さらに本発明は、アニオン型界面活性剤が、N−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルタウリン塩、スルホン酸塩、アルキル硫酸塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種である、前記試薬に関する。
また本発明は、アミン類がポリアミン類である、前記試薬に関する。
さらに本発明は、ポリアミン類が、プトレッシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミン、1,3−ジアミノプロパン、ホモスペルミジン、3−アミノプロピルカタベリン、ノルスペルミン、テルモスペルミン、カルドペンタミン、およびそれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも1種である、前記試薬に関する。
また本発明は、クロロホスホナゾ−IIIを用いる試料中のカルシウム濃度を測定する方法であって、クロロホスホナゾ−IIIとカルシウムを反応させる反応溶液中にアニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種を共存させる、前記方法に関する。
さらに本発明は、クロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムが反応する反応溶液のpHが4.0〜7.0である、前記方法に関する。
また本発明は、クロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムが反応することによる吸光度の上昇変化をカルシウム濃度として測定する、前記方法に関する。
本発明のカルシウム濃度測定試薬は、上記構成により試料中、特に血清、血漿、尿、髄液、リンパ液等の体液検体中のカルシウム濃度を正確に測定することができる。クロロホスホナゾ−IIIは上記のとおり、試料中に含まれるタンパク質成分と反応し、凝集を生じる。本発明は、試料中のカルシウムとクロロホスホナゾ−IIIとの反応による色調変化をカルシウム濃度として測定する試薬において、アニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種を反応溶液中に共存させることにより、試料中のタンパク質成分とクロロホスホナゾ−IIIとの凝集による濁りを抑制してカルシウム濃度を正確に測定するものである。
また、本発明はクロロホスホナゾ−IIIとカルシウムのキレート反応に基づいて試料中のカルシウム濃度を測定する場合に、タンパク質成分とクロロホスホナゾ−IIIとによる凝集を回避することが可能な測定方法を提供する。本技術分野では分析機器の洗浄または試料に由来する脂質、変性タンパク質等の濁りの除去を目的として試薬に界面活性剤が添加されることがある。しかし、そのような目的には通常非イオン型界面活性剤が使用され、その作用効果は濁り成分の可溶化である。それに対し、本発明による効果はアニオン型界面活性剤および/またはアミン類によって試料中のタンパク質成分とクロロホスホナゾ−IIIとの反応を阻害する効果であり、従来の界面活性剤による効果とは本質的に異なる。このことは、クロロホスホナゾ−IIIと界面活性剤を含有する特許文献2に記載のカルシウム濃度測定試薬において、バナジン酸を含有しない場合は界面活性剤を含有していても濁りによるとみられる正誤差を示す(表1、比較例1)ことから明らかである。また、クロロホスホナゾ−IIIとタンパク質成分とによる凝集が、後述するように非イオン型界面活性剤では全く解消されず、アニオン型界面活性剤またはアミン類によってのみ解消されることからも明らかである。なお、本発明のカルシウム濃度測定試薬の場合、その測定pHは通常中性から弱酸性域であり、かかるpH域では変性タンパク質は生成されない。したがって、本発明の効果が酸性域で生じた変性タンパク質を可溶化するものでないことも明らかである。
以上のとおり、本発明によればアニオン型界面活性剤および/またはアミン類を試薬中に含有することにより、試料中のタンパク質成分とクロロホスホナゾ−IIIとの凝集を抑制するので、環境に影響を与える重金属等を使用することなく、中性から弱酸性域で体液検体中のカルシウム濃度を正確に測定することができる。
本発明のカルシウム濃度測定試薬は、最終的に試料中のカルシウムと反応する反応溶液が構成されればよく、1試薬で構成されていても、2試薬以上で構成されていてもよい。濁り成分等の検体由来の妨害物質の影響を受け難くするためには、2試薬以上で構成されているのが好ましく、短時間に多数の検体の測定を行うことのできる汎用型の自動分析装置へ適用するためには、2試薬で構成されているのが最も好ましい。
本発明の試薬はいずれの試薬構成においても、カルシウム濃度測定時の反応溶液(単一の試薬からなる反応溶液または2以上の試薬を混合してなる反応溶液を意味する。以下同様。)中にクロロホスホナゾ−IIIと、アニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含む。また、本発明の目的を損なわない範囲で緩衝剤、防腐剤、塩類等の他の成分を含有してもよい。
カルシウムと反応する反応溶液は通常水溶液であるが、これに限定されず、アルコール等の有機溶媒を用いた溶液であっても、有機溶媒が添加された水溶液であってもよい。特に、汎用型の自動分析装置により体液検体中のカルシウム濃度を測定する場合は水溶液であるのが望ましい。
クロロホスホナゾ−IIIの含有量は、反応溶液に対し0.07mmol/L〜8mmol/Lが望ましい。0.08mmol/L〜4mmol/Lがさらに望ましく、0.09mmol/L〜2mmol/Lが特に望ましい。
アニオン型界面活性剤は、タンパク質成分の影響を回避する観点から、N−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルタウリン塩、スルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等を用いるのが好ましい。N−アシルアミノ酸塩としてはココイルサルコシンナトリウム、ラウロリルサルコシンナトリウム、ミリストイルサルコシンナトリウム等が挙げられ、アルキルエーテルカルボン酸塩としてはトリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ラウリルエーテル酢酸ナトリウム等が挙げられる。
N−アシルタウリン塩としては、N−ココイルメチルタウリンナトリウム、N−ラウロイルメチルタウリンナトリウム、N−ミリストイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられ、スルホン酸塩としては、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、テトラデセンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、アルキル硫酸塩としては、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられ、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
アニオン型界面活性剤は、精製水への溶解性の観点からラウロリルサルコシンナトリウム、N−ラウロイルメチルタウリンナトリウムまたはテトラデセンスルホン酸ナトリウムを用いるのが特に好ましい。
アニオン型界面活性剤の使用量はその種類により異なるが、例えばラウロリルサルコシンナトリウムやN−ラウロイルメチルタウリンナトリウムでは、反応溶液に対し0.01質量%〜1質量%が望ましく、0.05質量%〜0.75質量%がさらに望ましく、0.1質量%〜0.6質量%が特に望ましい。
アミン類としては分子内にアミノ基を1個有するモノアミン類および分子内にアミノ基を2個以上有するポリアミン類が挙げられるが、タンパク質成分とクロロホスホナゾ−IIIとの凝集抑制効果の高いポリアミン類が特に好ましい。ポリアミン類としては、プトレッシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミン、1,3−ジアミノプロパン、ホモスペルミジン、3−アミノプロピルカタベリン、ノルスペルミン、テルモスペルミン、カルドペンタミン、それらの塩等が挙げられる。ポリアミン類にはそれぞれ有効濃度があり、例えばスペルミジンでは反応溶液に対し0.05質量%〜1質量%が望ましく、0.1質量%〜0.5質量%がさらに望ましく、0.2質量%〜0.4質量%が特に望ましく、スペルミンでは反応溶液に対し0.005質量%〜0.1質量%が望ましく、0.01質量%〜0.05質量%がさらに望ましく、0.02質量%〜0.04質量%が特に望ましい。
モノアミン類は第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンまたは第4級アンモニウムのいずれでもよく、例えば、塩化コリン、テトラメチルアンモニウムクロリド、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジエチルメチルアミン、ジエチルプロピルアミン、ジプロピルメチルアミン、ジプロピルエチルアミン、それらの塩等が挙げられるが、トリプロピルアミン、ジプロピルメチルアミン、ジプロピルエチルアミン等は比較的毒性が高いため、トリメチルアミン、トリエチルアミン等を選択するのが望ましい。アミン類の含有量は、トリエチルアミンを例に挙げると反応溶液に対し0.1質量%〜10質量%が望ましく、0.5質量%〜5質量%がさらに望ましく、1.0質量%〜3質量%が特に望ましい。
反応溶液は、強酸性では試料中のタンパク質が変性して沈殿物を生じ、中性域ではマグネシウムの測り込みが大きくなるため、カルシウム濃度の正確な測定ができない。したがって、反応溶液のpHは4.0〜7.0が望ましく、4.5〜6.0がさらに望ましく、4.8〜5.2が特に望ましい。
反応溶液または構成試薬のpHを所定の範囲に保持する観点から、本発明の試薬は緩衝剤を含有するのが望ましい。緩衝剤は、pH4.0〜7.0付近に緩衝作用を有する緩衝液を生成するものが望ましい。好ましい緩衝液としては、コハク酸緩衝液、イミダゾール緩衝液、クエン酸緩衝液、りん酸緩衝液、Good緩衝液等が挙げられる。
緩衝剤の濃度は緩衝剤の種類により異なり、特に限定されない。クエン酸やリン酸緩衝液は高濃度では反応を妨害し感度の低下を招く。したがって、例えば緩衝剤としてコハク酸を使用する場合、反応溶液中の濃度は1mmol/L〜1000mmol/Lの範囲であり、5mmol/L〜500mmol/Lが望ましく、10mmol/L〜100mmol/Lがさらに望ましい。
本発明の試薬は、機器の洗浄効果や分析機器の反応セルとの親和性を向上させる目的でアニオン型界面活性剤以外の界面活性剤を含有してもよい。アニオン型界面活性剤以外の界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールp−t−オクチルフェニルエーテル等が挙げられる。かかる界面活性剤の濃度は反応溶液に対し0.01質量%〜5質量%が望ましく、0.02質量%〜1質量%がさらに望ましく、0.05質量%〜0.5質量%が特に望ましい。
防腐剤は特に限定されず、例えばアジ化ナトリウム、Procline300等を使用することができる。防腐剤の濃度も特に限定されず、アジ化ナトリウムを使用する場合、一般的に防腐剤として用いられる濃度、例えば反応溶液に対し0.1質量%程度でよい。
本発明の試薬は、試料中に共存するカルシウム以外の金属イオンによりカルシウム濃度の測定が妨害されるのを回避するため、キレート剤(マスク剤)を含有してもよい。例えば、試薬中にマグネシウムに特異的なキレート剤を共存させることにより、中性域においても試料中のマグネシウムの影響を受けることなく、カルシウム濃度を正確に測定することが可能である。
本発明の試薬は、上記のとおり1試薬で構成されていても、2試薬以上で構成されていてもよい。試薬形態も特に限定されず、例えば、クロロホスホナゾ−III、アニオン型界面活性剤および/またはアミン類、および緩衝液によりそれぞれ別々に構成され、測定前に試薬成分を緩衝液に溶解して試薬を調製する形態であってもよい。試薬が1試薬からなる場合は、そのままの状態で反応溶液を構成する。したがって、試料中のカルシウム濃度の測定は、まず試薬に試料を添加し、クロロホスホナゾ−IIIとカルシウムとの反応が終了した後、所定の波長において吸光度を測定し、反応前後の吸光度変化からカルシウム濃度を算出すればよい。例えば、濃度既知のカルシウム溶液を標準液として測定し、その反応前後の吸光度変化から検量線を作成し、この検量線に基づいて試料中のカルシウム濃度を算出することができる。
試薬が2試薬からなる(2試薬系)場合、例えばクロロホスホナゾ−IIIを含有しない第1試薬に試料を添加し、所定の波長において吸光度を測定することにより試料に由来する濁りや色調を検体ブランク(吸光度A)として測定し、その後、第2試薬としてクロロホスホナゾ−IIIを添加することによりクロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムとの反応による色調の変化(吸光度の上昇)に基づく吸光度Bを測定する。吸光度Bから吸光度Aを差し引くことにより、試料に由来する影響を回避してカルシウム濃度を測定することができる。
2試薬系の試薬の場合、第1試薬はクロロホスホナゾ−IIIを含有せず、緩衝剤を含有するか、アニオン型界面活性剤および/またはアミン類を含有するのが好ましい。第2試薬はクロロホスホナゾ−IIIを含有するか、クロロホスホナゾ−IIIとアニオン型界面活性剤および/またはアミン類の両方を含有するのが好ましい。本発明の好ましい実施形態においては、第1試薬がアニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有し、第2試薬がクロロホスホナゾ−IIIを含有する。第1試薬および第2試薬は、それぞれ試薬を所定のpHに保持するため、より好ましくはさらに緩衝剤を含有する。この実施形態では第1試薬にアニオン型界面活性剤および/またはアミン類を処方しているため、これらの成分が試料中のタンパク質成分と相互作用し、その後第2試薬中のクロロホスホナゾ−IIIと混合したときにクロロホスホナゾ−IIIとタンパク質成分の反応を効果的に阻害することができる。
第1試薬および第2試薬のpHは特に限定されず、第1試薬と第2試薬を混合することにより得られる反応溶液のpHが好ましくは4.0〜7.0になるようにそれぞれ適宜設定すればよい。したがって、第1試薬および第2試薬のpHは同一でも異なっていてもよい。本発明の好ましい実施形態ではクロロホスホナゾ−IIIとタンパク質成分との反応を阻害する観点から、第1試薬のpHを4.0〜7.0に設定するのが望ましく、大気中の二酸化炭素を吸収しないように第2試薬のpHを4.0〜7.0に設定するのが望ましい。
さらに、本発明の試薬は3試薬以上から構成されていてもよい。例えば、第1試薬がアニオン型界面活性剤および/またはアミン類を含有し、第2試薬がクロロホスホナゾ−IIIを含有し、第3試薬がカルシウム以外の他の金属イオンと反応するキレート剤を含有することにより、カルシウムと他の金属イオンをそれぞれ異なる波長で測定してもよい。
本発明の試薬はクロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムが反応することによる吸光度の上昇変化をカルシウム濃度として測定する。カルシウムの測定波長は、カルシウムとクロロホスホナゾ−IIIによる反応の色調変化を検出できる波長であれば特に限定されず、例えば600〜720nmにおいて測定することができる。クロロホスホナゾ−IIIはキレート剤自体の吸収が大きいため、カルシウムとの反応による最大吸収波長(668nm)で測定すると、キレート剤自体の吸収により分光光度計の測定許容範囲が制限され、カルシウムの測定範囲が狭くなる。したがって、カルシウム濃度の測定範囲を広くする観点から、測定波長をピーク波長からずらし、680〜710nmで測定するのが望ましい。
本発明の試薬によるカルシウム濃度の測定は、単波長測定でも多波長測定であってもよい。したがって、例えば2波長測定する場合、主波長として680〜710nm、副波長として790〜810nmを選択することができる。
本発明の方法によるカルシウム濃度の測定温度は特に限定されず、通常約10〜50℃で測定する。汎用型の自動分析装置では測定温度が約25〜37℃に設定されることが多い。また、カルシウム濃度の測定時間も特に限定されず、通常約30秒〜1時間である。
以下に実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
クロロホスホナゾ−III(CPZ-III)とタンパク質との反応
CPZ-III添加または無添加の試薬と、下記試料との反応後のスペクトラムを比較した。
試料:
(1)Blank;精製水
(2)Ca10mg/dL;塩化カルシウム1水和物(関東化学(株)製)をカルシウム濃度として10mg/dLとなるように精製水に溶解した。
(3)γグロブリン5g/dL;ヒトγグロブリン精製品(SIGMA社製)を5g/dLとなるように精製水に溶解した。
(4)透析ヒト血清;血清を少なくとも血清の1000倍量以上の容量の生理食塩水を用いて一晩透析した。
以下に示す方法で上記試料を測定し、スペクトラムの形状を比較した。
試薬1:
50mmol/L コハク酸緩衝液pH5.0
※本緩衝液に0.3質量%となるようにスペルミジンまたはテトラデセンスルホン酸ナトリウムを添加して、各試薬を調製した。
試薬2:
2.25mmol/Lクロロホスホナゾ−III((株)同仁化学研究所製)水溶液
※CPZ−IIIを添加しない検討では、精製水を使用した。
試料と試薬の混合:
1.60mLの試薬1に0.025mLの試料を添加し、撹拌して5分間放置した。次に0.40mLの試薬2を添加し、撹拌して5分間放置した(反応は室温で実施した)。試薬1および試薬2を混合した反応溶液のpHは5.0であり、反応溶液中のCPZ−IIIの濃度は約0.45mmol/Lであった。
測定:
U−3310((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用い、以下の条件で反応溶液のスペクトラムを測定した。CPZ−IIIを添加した試薬による反応後のスペクトラムを図1に示し、CPZ−III無添加の試薬による反応後のスペクトラムを図2に示す。
Figure 2008058033
図1に示すようにCPZ−IIIを添加したときのスペクトラムは、アニオン型界面活性剤およびアミン類を添加しない(a)の場合、CPZ−IIIとカルシウムによる発色以外に、タンパク質を含有するγグロブリン検体および透析ヒト血清検体において濁りによる吸光度の上昇が見られ、アニオン型界面活性剤またはアミン類を添加した(b)および(c)の場合、濁りによる影響がなく、カルシウム水溶液と同様のスペクトラムを示している。一方、図2(a)〜(c)に示すように、CPZ−III無添加のときのスペクトラムは、アニオン型界面活性剤またはアミン類の有無にかかわらず、いずれの試料においても吸光度の上昇は見られない。したがって、図1に見られる濁りが単なるタンパク質の変性によるものでなく、CPZ−IIIとタンパク質との反応によるものであることがわかる。
実施例2
試料中のカルシウム濃度測定値(1)
以下に示す測定条件で、試料A、BおよびCを測定した。
試料A:Ca水溶液
試料B:ヒト血清凍結乾燥品を通常の使用量の1/2容の精製水で溶解した試料
試料C:ウシ血清アルブミン10 g/dL水溶液
各試料のカルシウム濃度は、シカオートCa(OCPC法、関東化学(株)製)による測定値を基準に評価した。
Figure 2008058033
測定機器:BM1650形自動分析装置
Figure 2008058033
Figure 2008058033
試料Aはタンパク成分を含んでいないため、いずれの添加剤を用いても、基準であるシカオートCaの測定値と一致した。試料Bはヒト血清成分を通常の約2倍含む試料である。この試料の測定値は、添加剤無添加ではシカオートCa測定値より大幅な高値を示した。ところが、この現象はアニオン型界面活性剤またはポリアミンを添加することにより解消された。これは、実施例1に示すように、アニオン型界面活性剤またはポリアミンを添加することにより血清中のタンパク質とCPZ−IIIとの反応が阻害され、濁りの影響が回避されたことによる。また、モノアミン類においても影響が軽減された。試料Cはウシ血清アルブミン単独の試料であるが、このものの影響はアニオン型界面活性剤を添加することにより解消されたが、アミン類では解消されなかった。他方、一般に機器の洗浄効果やタンパク質の変性による濁りを除去することを目的として添加される非イオン型界面活性剤では、いずれのタンパク成分の影響も解消されなかった。
実施例3
試料中のカルシウム濃度測定値(2)
以下に示す測定条件で、試料DおよびEを測定した。
試料D:ヒト血清アルブミン(HSA)10g/dL水溶液
試料E:ヒト血清を生理食塩水で透析した試料
なお、試料Dは精製水で2倍または4倍に希釈し、試料1/2Dまたは1/4Dとしても測定した。
各試料に含まれるカルシウム量は、既存試薬であるシカオートCaにより測定、算出し、各試薬における測定値から減じた。
Figure 2008058033
測定機器:BM1650形自動分析装置
Figure 2008058033
Figure 2008058033
透析血清は総タンパク値8.5 g/dL、アルブミン値4.5
g/dLの試料である。添加剤無添加の試料では、総タンパク値10 g/dLのHSAよりも透析血清により受ける測定誤差が大きく、HSA以外のタンパク質によっても大きく影響を受けていることがわかる。HSAを試料とした場合、モノアミン類を添加する方法によってもある程度影響は回避できるものの、アニオン型界面活性剤またはポリアミン類と比較すると、効果の度合いは低いものであった。ただし、透析血清の測定誤差は小さくなっており、誤差の程度は試料中に含まれるHSAの影響程度であることから、HSA以外の血中タンパク質の影響は解消できていると考えられる。モノアミン類は、アニオン型界面活性剤やポリアミン類と併用することにより、HSA以外のタンパクに対する効果を増強させることができる。
クロロホスホナゾ−IIIを含有する試薬中に試料を添加した場合のスペクトラムであり、(a)は試薬中にアニオン型界面活性剤およびアミン類のいずれも含有しない場合を示し、(b)は試薬中に0.3質量%のスペルミンを含有する場合を示し、(c)は試薬中に0.3質量%のテトラデセンスルホン酸ナトリウムを含有する場合を示す。 クロロホスホナゾ−IIIを含有しない試薬中に試料を添加した場合のスペクトラムであり、(a)は試薬中にアニオン型界面活性剤およびアミン類のいずれも含有しない場合を示し、(b)は試薬中に0.3質量%のスペルミンを含有する場合を示し、(c)は試薬中に0.3質量%のテトラデセンスルホン酸ナトリウムを含有する場合を示す。

Claims (10)

  1. クロロホスホナゾ−IIIと、アニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種とを含有する、カルシウム濃度測定試薬。
  2. アニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有する第1の試薬と、クロロホスホナゾ−IIIを含有する第2の試薬とから構成される、請求項1に記載の試薬。
  3. クロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムが反応する反応溶液のpHが4.0〜7.0である、請求項1または2に記載の試薬。
  4. クロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムが反応することによる吸光度の上昇変化をカルシウム濃度として測定する、請求項1〜3のいずれかに記載の試薬。
  5. アニオン型界面活性剤が、N−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルタウリン塩、スルホン酸塩、アルキル硫酸塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の試薬。
  6. アミン類がポリアミン類である、請求項1〜5のいずれかに記載の試薬。
  7. ポリアミン類が、プトレッシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミン、1,3−ジアミノプロパン、ホモスペルミジン、3−アミノプロピルカタベリン、ノルスペルミン、テルモスペルミン、カルドペンタミン、およびそれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項6に記載の試薬。
  8. クロロホスホナゾ−IIIを用いる試料中のカルシウム濃度を測定する方法であって、クロロホスホナゾ−IIIとカルシウムを反応させる反応溶液中にアニオン型界面活性剤およびアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種を共存させる、前記方法。
  9. クロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムが反応する反応溶液のpHが4.0〜7.0である、請求項8に記載の方法。
  10. クロロホスホナゾ−IIIと試料中のカルシウムが反応することによる吸光度の上昇変化をカルシウム濃度として測定する、請求項8または9に記載の方法。
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