JP3733704B2 - 直接型ビリルビンの測定方法及び測定用キット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料中に含まれる直接型ビリルビンの測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビリルビンは老化赤血球由来のヘモグロビンの代謝産物で胆汁色素の主成分である。血液中には、側鎖のプロピオン酸基が肝臓で酵素的に主にグルクロン酸とエステル結合し水溶性が増加した画分(抱合型)と、プロピオン酸基が遊離の状態のままであり水溶性が低い画分(遊離型)が主に存在する。前者はジアゾ試薬と容易に反応するために直接型ビリルビンと称され、後者はアルコールなどの反応促進剤の存在下において初めてジアゾ試薬と反応するため、間接型ビリルビンとして捉らえられている。間接型ビリルビンは、反応促進剤の存在下全てのビリルビンをジアゾ発色して求められる総ビリルビンから直接型ビリルビンを差し引いて求めることができる。
これらの抱合型(直接型)及び遊離型(間接型)の各ビリルビン濃度を分別測定することにより各種肝疾患、溶血性疾患などによる黄だんの鑑別及び診断を行うことができるため、ビリルビンの定量は臨床検査における重要な項目となっている。
【0003】
直接型ビリルビンの測定方法としては、以下に示すように、ジアゾ試薬によるもの、ビリルビンオキシダーゼによるもの、高速液体クロマトグラフィーによるもの、化学的酸化剤によるものなどが報告されている。
【0004】
A)ジアゾ試薬による直接型ビリルビンの測定方法
ジアゾ試薬によるものは、ビリルビンがジアゾ試薬と反応してアゾビリルビンを生成し、その結果、ビリルビン本来の可視部極大吸収波長より長波長域にアゾビリルビンの極大吸収が発生するため、この波長における吸光度変化によりビリルビンを定量するものである。これらは、間接型ビリルビンの反応促進剤の種類、反応停止条件、アゾビリルビンの検出条件の違いにより種々のものが報告されている(Malloy,H.T.,Evelyn,K.A. ; J. Biol. Chem. 119 481 (1937) ; The determination of bilirubin with the photoelectric colorimeter. Jendrassik,L.,Grof,P. ; Biochem.Z. 297 81 (1938); Vereinfachte Photometrische Methoden zur Bestimmung des Blutbilirubins.. Micha ёlsson,M ; Scand J Clin Lab Invest. 12(Supp 56) 1〜80 (1937) ; Bilirubin determination in serum and urine )。
【0005】
B)ビリルビンオキシダーゼによる直接型ビリルビンの測定方法
ビリルビンオキシダーゼによるものは、ビリルビンを含む検体にビリルビンオキシダーゼを作用させて、ビリルビンをビリベルジンに酸化させ、この際、ビリルビンの極大吸収波長域の吸光度が消失するので、この吸光度の減少量により定量するものである。この測定法では、間接型ビリルビンの反応抑制の方法に種々の工夫がなされており、下記のごとく多数報告されている。
【0006】
B1)pH3.5 〜4.5 でビリルビンオキシダーゼを作用させることを特徴とする直接型ビリルビンの測定方法(特開昭 59-125899)。
B2)陰イオン界面活性剤を含有するpH5 〜6 の酸性緩衝液中で、ビリルビンオキシダーゼを作用させることを特徴とする直接型ビリルビンの測定方法(Shogo Otsuji : Clin.Biochem. 21 33〜38 (1988) 及び特開昭 60-152955)。
B3)pH 9〜10の緩衝液中でビリルビンオキシダーゼを作用させ生じた吸光度の変化を測定することを特徴とする抱合型ビリルビンの測定方法(特開昭 62-58999 )。
B4)pH 2.0〜3.3 のフェロシアン化カリウム又は/及びフェリシアン化カリウムを含む緩衝液中でビリルビンオキシダーゼを作用させ、生じた吸光度変化を測定することを特徴とする直接型ビリルビンの測定方法(特開昭 64-5499)。
B5)ビリルビンオキシダーゼとともに、フッ素化合物又は還元剤を共存させることを特徴とする直接型ビリルビンの測定方法(特開平 5-276992 )。
B6)ビリルビンオキシダーゼとともに、テトラピロール環化合物を共存させることを特徴とする直接型ビリルビンの測定方法(特開平 7-231795 )。
【0007】
C)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による直接型ビリルビンの測定方法
HPLCによる直接型ビリルビンの測定法は、逆相カラムに有機溶剤の濃度勾配をかけビリルビンの画分を親水性/疎水性の序列により分画するものである。HPLCによると血清中のビリルビンは主にα、β、γ、δの4画分に分離され、それぞれ、α画分は遊離型ビリルビン、β画分は1分子中に2つある側鎖のプロピオン酸基の1つのみがグルクロン酸とエステル結合をしているビリルビン(ビリルビンモノグルクロナイド)、γ画分はプロピオン酸基が2つともグルクロン酸とエステル結合をしているビリルビン(ビリルビンジグルクロナイド)、δ画分はアルブミンとビリルビンが共有結合をしているものと同定されている。また、δ画分はγ画分とアルブミンが非酵素的に反応した結果、生成したものと推定されている(山本 俊夫 : 日内会誌 78(11) 36〜41 (1989) )。なお、HPLCでのα画分は上記A)のジアゾ試薬による方法では間接型ビリルビンに相当し、一方、βとγ及びδ画分は直接型ビリルビンに相当するとされる(John J. Lauff : Clin.Chem. 28(4) 629〜637 (1982))。HPLC法は、煩雑な検体前処理工程を極力省略した形で改良が進められており、種々の報告がなされている(Nakamura H. : Bunsekikagaku 36 352〜355 (1987).Yukihiko Adachi : Gastroenterologia Japonica 23(3) 268〜272 (1988).加藤 裕子 : 近畿大医誌 第14巻1 号 97 〜112 (1989).)。
【0008】
D)化学的酸化剤による直接型ビリルビンの測定方法
化学的酸化剤によるものは、ビリルビンオキシダーゼの代わりに、低分子量の酸化剤を作用させて、ビリルビンをビリベルジンに酸化し、この際のビリルビンに基づく吸光度減少量により定量するものである。これらも、間接型ビリルビンの反応抑制の方法に種々の工夫がなされており、下記のごとく報告されている。
D1)銅イオン及びチオ尿素もしくはその誘導体を被検液に作用させることを特徴とする直接型ビリルビンの定量方法(特開昭 63-118662)。
D2)バナジン酸イオン又は3価のマンガンイオンを酸化剤として作用させ、試料の光学的変化を測定することを特徴とするビリルビンの定量方法(特開平 5-18978)。この方法で直接型ビリルビンを測定するためには、間接型ビリルビンの反応抑制剤として、ヒドラジン類、ヒドロキシルアミン類、オキシム類、脂肪族多価アミン類、フェノール類、水溶性高分子及びHLBが15以上の非イオン型界面活性剤からなる群より選ばれた1種以上の化合物を使用する。
D3)亜硝酸を酸化剤として作用させ、試料の光学的変化を測定することを特徴とするビリルビンの測定方法(WO 96-17251 )。この方法で直接型ビリルビンを測定するためには、間接型ビリルビンの反応抑制剤として、HLBが12〜15のポリオキシエチレン(n−アルキルあるいはiso−アルキル)エーテル、チオ尿素、ヒドラジン、ポリビニルピロリドン等を使用する。
【0009】
上記A)〜D)の各測定法にはそれぞれ一長一短があり、現在のところ、必ずしも、満足のいく測定方法は存在しない。以下に各測定法の問題点を列記する。
【0010】
ジアゾ試薬による方法A)は、反応促進剤が共存しない場合での反応をジアゾ直接反応と定義し、直接型ビリルビンの名称の由来ともなっている。しかしながら、このジアゾ直接反応は間接型ビリルビンの一部に対しても起こり得ることが多数報告がなされている(例えば、Killenberg PG : Gastroenterology 78 1011〜1015 (1980) . Blankaert N : J.Lab.Clin.Med. 96 198〜212 (1980). 真鍋幸男 : 分析化学 30 736 〜740 (1981). Chan KM : Clin.Chem. 31 1560〜1563 (1985) . 高坂彰 : 検査と技術 14 971 〜975 (1986). 足立幸彦 : 生物試料分析 9 33 〜42 (1986) )。従ってジアゾ直接反応により定義されたビリルビン測定値は、正確には”直接型ビリルビン”を定量しているとは言い切れない。
【0011】
ビリルビンオキシダーゼによる方法B)は、ジアゾ直接反応により定義されたビリルビン測定値と近似し得るように測定系を開発した結果、間接型ビリルビンの一部に対しても酸化反応が認められ、一般的には”直接型ビリルビン”を定量しているとは言い切れない。その中で、ビリルビンオキシダーゼにフッ素化合物を共存させる方法(特開平 5-276992 )やテトラピロール環化合物を共存させる方法(特開平 7-231795 )は、間接型ビリルビンに対する反応を回避し得るものである。しかし、フッ素化合物を使用するため環境汚染に問題を有し、またテトラピロール環化合物を試薬中に存在させるため安定性に欠け、溶液状態で長時間使用することに問題を有する。
【0012】
高速液体クロマトグラフィーによる方法C)は、高い分析性能を有するが1検体の処理に約1時間を要するので、多数の検体を処理するには不向きである。また高価で特殊な装置を必要とし汎用性に欠ける。
【0013】
化学的酸化剤による方法D)は、ビリルビンオキシダーゼによるものと同様にジアゾ直接反応により定義された直接型ビリルビン測定値と近似し得るように測定系を開発した結果、間接型ビリルビンの一部に対しても酸化反応が認められ、やはり正確には”直接型ビリルビン”を定量しているとは言い切れない。
【0014】
以上述べてきたように、間接型ビリルビンに対する反応を回避し、安定かつ安全な直接型ビリルビンの定量方法の開発が待ち望まれている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した現状に鑑みなされたもので、間接型ビリルビンの干渉を回避し、自動分析装置に適用可能な直接型ビリルビンの測定方法及び測定用キットの提供をその目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、種々の酸化条件で抱合型ビリルビンと非抱合型ビリルビンの反応性を比較検討したところ、カオトロピックイオン類共存下で酸化剤として亜硝酸を作用させると、抱合型ビリルビンに対する酸化反応が著しく促進され、さらに非抱合型ビリルビンの酸化反応が効果的に防止され、しかも、それらの促進及び防止が、弱酸性のpH範囲内において起こり得ることを偶然にも発見し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、試料にカオトロピックイオン類の存在下で亜硝酸を作用させ、該試料の光学的変化を測定することにより該試料中の直接型ビリルビンを測定することを特徴とする直接型ビリルビンの測定方法である。この場合、亜硝酸を作用させる際のpHが5〜6であることが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明では、試料は、直接型ビリルビン又は/及び間接型ビリルビンを含むものであれば特に限定しない。通常、試料は、血しょう、血清、尿等の生体体液試料、又はこれらのモデルサンプルである。
【0019】
本発明の方法において、試料に反応させるときの亜硝酸の濃度は、0.01mM〜20mMが好ましく、0.05mM〜4mMが特に好ましい。亜硝酸の濃度が高すぎると間接型ビリルビンに対する酸化反応が進みやすく、低過ぎると十分な直接型ビリルビンの定量性を得ることができない。
亜硝酸を作用させる際は、亜硝酸塩と酸性溶液を測定時に混合して亜硝酸を測定系で発生させて作用させることが好ましい。
【0020】
本発明においては、亜硝酸を作用させる際は、弱酸性溶液中で行うことができ、亜硝酸を作用させるときの液のpHは、5.0〜6.0が好ましく、5.2〜5.8がさらに好ましい。pHが高すぎると亜硝酸と直接型ビリルビンが反応しにくくなり、また、pHが低すぎると間接型ビリルビンも反応しやすくなる。
【0021】
本発明において、亜硝酸を作用させる際の温度は、20〜50℃が好ましく、25〜40℃がさらに好ましい。
反応させる際の反応時間は、反応条件により異なるが、通常、3〜15分である。
【0022】
本発明においては、カオトロピックイオン類としては、チオシアン酸イオン(SCN- )、ヨウ素イオン(I- )を例示できるが、さらに、これらイオンのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩がさらに好ましい。
【0023】
本発明において、亜硝酸を作用させる際、共存するカオトロピックイオン類の濃度範囲は、低濃度に過ぎると直接型ビリルビンの反応昂進効果が十分に得られず、また、高濃度に過ぎると亜硝酸による酸化反応が妨害され直接型ビリルビンを正確に測定しにくい。従って、試料と亜硝酸との反応中の液において、カオトロピックイオン類の濃度は、通常、1mM〜800mM、好ましくは10mM〜500mM、さらに好ましくは20mM〜300mMである。
【0024】
本発明の直接型ビリルビン測定用キットは、i)酸性緩衝液及びii) 亜硝酸塩溶液から構成されており、かつ、上記i)又は/及びii) の液にカオトロピックイオン類を含む直接型ビリルビン測定用キットである。
【0025】
この場合、カオトロピック類は、第1試薬液にのみ含むことが好ましい。また、キット中の亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等を例示できる。
【0026】
本発明の直接型ビリルビンの測定方法は、例えば、本発明のキットにおいて、i)酸性緩衝液を第1試薬液とし、かつ、ii) 亜硝酸塩溶液を第2試薬液とすることにより、以下のように実施できる。
試料と上記の第1試薬液とを混合し、この混合液中のビリルビンに基づく波長域(430 〜460nm )の特定の波長、好ましくは波長450nm における吸光度を測定する(吸光度1)。ついで、得られる液に亜硝酸塩を含む第2試薬液を添加して 25 〜40℃で、3 〜15分間、ビリルビンの酸化反応を行った後、再度溶液中のビリルビンに基づく前記特定の波長における吸光度を測定する(吸光度2)。得られた吸光度1及び吸光度2の値に液量補正等を処した後、酸化反応前後での吸光度変化量を求める。この値と、予め濃度既知の標準液を用いて上記と同様の操作により得られた吸光度変化量に基づいて作成した検量線から、試料中の直接型ビリルビン濃度を求めることができる。このようなキットによる直接型ビリルビンの測定方法は、日立7070型自動分析装置等の汎用型の自動分析装置に適用可能である。なお、試料は、0.005〜1mlが好ましい。
【0027】
本発明の直接型ビリルビン測定用キットは、その構成中の必須成分である亜硝酸塩やカオトロピックイオン類が特に水溶液中で不安定ではないので、このキットは、水溶液の状態で液状試薬として使用することも可能である。
【0028】
また、第1試薬液又は/及び第2試薬液には、他の成分、例えば、食塩、防腐剤、キレート剤、界面活性剤等の通常の試薬やキットに使用し得るものであれば公知の方法に準じて適宜選択して使用することができる。
さらに、第1試薬液や第2試薬液には、亜硝酸による間接型ビリルビンの反応を抑制できる他の物質を共存させても構わない。そのような物質として、チオ尿素、N−メチルチオ尿素、1,3−ジメチルチオ尿素を例示できる。
【0029】
【実施例】
実施例1,2及び比較例1 カオトロピックイオン類存在下での直接型ビリルビンの反応促進効果
ビリルビンに亜硝酸を作用させる際、チオシアン酸イオン(実施例1)、ヨウ素イオン(実施例2)等のカオトロピックイオン類の存在下では、直接型ビリルビンの酸化反応が促進するかどうかを観察するため、以下の実験を行った。なお、比較として、比較例1では、カオトロピックイオン類を含まない条件で行った。それらの試薬、試料、測定、結果を以下に示す。
【0030】
【0031】
(試料)
試料は、直接型ビリルビン濃度50mg/dlでありかつヒト血清アルブミン濃度6.0g/lのものを用いた。その試料は、合成抱合型ビリルビンであるジタウロビリルビン5mgを秤量し、ヒト血清アルブミンを含む100mMトリス緩衝液(pH7.00)10mlにて溶解して調製した。
【0032】
(実施例1,2及び比較例1での測定)
日立7070型自動分析装置において、試料10μl、第1試薬液300μl、第2試薬液75μlの条件で、主波長450nm、副波長546nmにおける吸光度変化を2Point End法にて求めた。
即ち、自動分析装置上で第1試薬液と試料とを混合し、 37 ℃で5 分間インキュベーションした後、この溶液中のビリルビンに基づく吸光度を主波長450nm、副波長546nmにて測定する(吸光度1)。ついで、得られる溶液に、亜硝酸塩を含む第2試薬液を添加して 37 ℃で、5 分間ビリルビンの酸化反応を行った後、再度、溶液中のビリルビンに基づく吸光度を前記の波長で測定する(吸光度2)。得られた吸光度1及び吸光度2の値に液量補正等を処した後、酸化反応前後での吸光度減少量を求める。なお、この条件下では、ビリルビンに亜硝酸が作用する際、反応液のpHの範囲は、5.2〜5.3である。また、これらの測定及び計算は、自動分析装置で自動的に行われる。
【0033】
(実施例1,2及び比較例1での結果)
実施例1,2及び比較例1における吸光度減少量の結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1、実施例2及び比較例1における自動分析装置での反応経過過程(反応タイムコース)をそれぞれ、図1、図2に示す。カオトロピックイオン類の存在下(実施例1,2)では、直接型ビリルビンの反応促進効果が認められる。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例3 直接型ビリルビンと間接型ビリルビンとを含む試料中の直接型ビリルビンの測定
(試料の調製)
100 mMトリス緩衝液(pH 7.00)中に合成抱合型ビリルビンであるジタウロビリルビンを 5 mg/dl(ビリルビン相当濃度)とヒト血清アルブミンを 6.0 g/l 含む溶液を直接型ビリルビン溶液として調製した。また、それとは別に、100 mMトリス緩衝液(pH 7.00)中に非抱合型ビリルビンを 5 mg/dl とヒト血清アルブミンを 6.0 g/l 含む溶液を間接型ビリルビン溶液として調製した。次いで、直接型ビリルビン溶液を間接型ビリルビン溶液にて希釈し、総ビリルビン濃度が同一( 5 mg/dl)でかつ直接型ビリルビン濃度が異なる種々の試料を調整した。なお、試料は、総ビリルビンに対する直接型ビリルビンの比が0.0、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0の6種のものを調製した。
【0036】
(測定条件)
この試料を用いた以外は、実施例1記載の測定試薬、測定条件で、吸光度減少量を測定し、実施例3のデータを得た。
【0037】
(結果)
結果を図3に示す。図3では、横軸に総ビリルビンに対する直接型ビリルビンの比、縦軸に吸光度減少量を表わしている。本発明の方法(実施例3)では、直接型ビリルビンの量に比例して吸光度減少量が大きくなり、原点回帰の良好な希釈直線性が得られた。これは、カオトロピックイオン類の存在下(実施例3)では、間接型ビリルビンの干渉がなく、直接型ビリルビンを選択的に定量していることを示している。
【0038】
比較例2 従来法による直接型ビリルビンと間接型ビリルビンとを含む試料中の直接型ビリルビンの測定
一方、実施例3に用いた試料を用いて、従来法で直接型ビリルビンを定量した。従来法は、pH3.5 〜4.5 の条件でビリルビンオキシダーゼを作用させる測定法(特開昭59-125891 .Shogo Otsuji : Clin.Biochem. 21 33〜38 (1988) )で行った。即ち、以下の組成の試薬条件によるものである。
【0039】
(従来法の第1試薬液)
クエン酸三ナトリウム・三水和物 17.65 g/l
乳酸 30.0 g/l
トリトンX−100 1.0 g/l
EDTA・2Na・2H2 O 18.6 mg/l
pH3.70
(従来法の第2試薬液)
クエン酸三ナトリウム・三水和物 3.0 g/l
乳酸 160 mg/l
トリトンX−100 1.0 g/l
CuSO4 ・5H2 O 1.25 g/l
ビリルビンオキシダーゼ 0.2 U/ml
pH6.50
【0040】
(測定法)
従来法の測定条件は、試薬液以外は、実施例1記載の測定条件と同一とした。
【0041】
(結果)
結果を図3に示す。従来法(比較例2)では、試料中の直接型ビリルビン濃度と測定された吸光度減少量との間に直線性が得られないことが判明した。従来法では、試料中の間接型ビリルビンの干渉を大きく受け、試料中の直接型ビリルビンを正確に定量していないことを示す。
【0042】
実施例4及び比較例3 本発明の測定方法条件下でビリルビン高値患者検体中の間接型ビリルビンが反応しないことをHPLCで確認した例
(試料)
試料としてビリルビン高値の患者プール血清検体を用いた。血清検体に対しては、硫酸ナトリウムによる塩析を行わず、未処理のまま分析に処した。試料中のグロブリンがカラムに吸着し劣化を早める結果となるが、ビリルビン画分の変性を防止することを目的とした為である。
【0043】
(試薬)
実施例4では、実施例1で用いた試薬を使用した。比較例3では、比較例2で用いた試薬を使用した。
【0044】
(試料中のビリルビンの酸化反応)
試料16μlに対して第1試薬液480μlを添加し、37℃で5分間加温した。さらに、得られる液に、120μlの第2試薬液を添加し、37℃で5分間加温した後、120μlの2%アスコルビン酸水溶液を添加した。
【0045】
(HPLCによる分析)
HPLCの分析は、文献(John J. Lauff : Clin.Chem. 28(4) 629〜637 (1982))記載の方法により行い、反応前後における間接型ビリルビンに基づくピーク面積の変化を調べた。反応前のデータは、第2試薬液として生理食塩水を用いた以外は、上記した酸化反応と同様の操作を行い、間接型ビリルビンに基づくピーク面積を求めた。
HPLCは、日立HPLCシステム(Column Oven L-7300、UV Detector L-7400、PumpL-7100、Integrator D-7500 )に関東化学(株)製の逆相系カラム Lichrspher 100 RP-18 (10 μm)を接続して使用した。
すなわち、上記の酸化反応で得られる液を、0.45μmのメンブランフィルターにてろ過し、ろ液150μlをHPLCのカラムに注入して反応後の間接型ビリルビンに基づくピーク面積を求めた。溶出は、ビリルビン画分を、A液:(精製水950容/2−メトキシエタノール50容/りん酸にてpH2.1に調製)とB液:(イソプロパノール950容/2−メトキシエタノール50容/りん酸2.5容)の2液間におけるイソプロパノールの直線勾配により行い、450nmの波長により検出した。
【0046】
(結果)
反応前のデータを100とし、そのデータと反応後の間接型ビリルビンに基づくピーク面積のデータとの比較により、間接型ビリルビンの残存比率を求めた。結果を表2に示す。反応前後で間接型ビリルビンに基づくピーク面積がほとんど変わらず、カオトロピックイオン類を含む条件下(実施例4)では、亜硝酸と間接型ビリルビンとが反応しないことが確認された。一方、従来法(比較例3)では、間接型ビリルビンが16.5%減少していた。従来法の条件下では、間接型ビリルビンの一部が反応したことを示している。
【0047】
【表2】
【0048】
【発明の効果】
本発明の測定方法によれば、カオトロピックイオン類の存在下で亜硝酸を作用させることにより、間接型ビリルビンの影響なく、試料中の直接型ビリルビンを、選択的に短時間で測定することができる。また、本発明の測定方法は、汎用型の自動分析装置に適用可能である。更にまた、本発明の測定方法は、pH5〜6の弱い酸性溶液中で実施できるので測定のため用いる試薬も安全である。しかも、本発明で測定するため用いる試薬液は、安定であるので液状試薬として使用できる。したがって、本発明は、臨床検査に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】チオシアン酸イオンを含む条件下(実施例1)での、亜硝酸による直接型ビリルビンの反応タイムコースを示す。また、カオトロピックイオン類が存在しない場合(比較例1)での亜硝酸による直接型ビリルビンの反応タイムコースを示す。横軸に測光ポイント(1ポイントは約20秒)、縦軸には、吸光度×10000を示す。
【図2】ヨウ素イオンを含む条件下(実施例2)での、亜硝酸による直接型ビリルビンの反応タイムコースを示す。また、カオトロピックイオン類が存在しない場合(比較例1)での亜硝酸による直接型ビリルビンの反応タイムコースを示す。横軸に測光ポイント(1ポイントは約20秒)、縦軸には、吸光度×10000を示す。
【図3】直接型ビリルビンと間接型ビリルビンとを含む試料中の直接型ビリルビンを、チオシアン酸イオンを含む条件下(実施例3)で亜硝酸と反応させて、測定した結果を示す。横軸に総ビリルビンに対する直接型ビリルビンの比、縦軸に吸光度減少量を示す。また、比較として従来法(比較例2)で行った結果も併せて示す。
Claims (3)
- 試料に、チオシアン酸イオン(SCN−)及びヨウ素イオン(I−)から選ばれるカオトロピックイオン類の存在下で、亜硝酸を作用させ、該試料の光学的変化を測定することにより該試料中の直接型ビリルビンを測定することを特徴とする直接型ビリルビンの測定方法。
- 亜硝酸を作用させる際のpHが5〜6である請求項1の直接型ビリルビンの測定方法。
- 直接型ビリルビン測定用キットであって、かつ、i)酸性緩衝液及びii)亜硝酸塩溶液から構成されており、かつ、上記i)又は/及びii)の液に、チオシアン酸イオン(SCN−)及びヨウ素イオン(I−)から選ばれるカオトロピックイオン類を含む直接型ビリルビン測定用キット。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP22121197A JP3733704B2 (ja) | 1997-08-04 | 1997-08-04 | 直接型ビリルビンの測定方法及び測定用キット |
Applications Claiming Priority (1)
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