本発明は、集積光デバイスおよびその製造方法に係り、特に、半導体レーザや電界吸収型光変調器等の導波路型光素子部を複数集積形成した集積光デバイスおよびその製造方法に関する。
半導体レーザや光変調器等の複数の導波路型光素子をInP基板上に集積形成する手法の一つにバットジョイント技術がある。バットジョイント技術とは、同一基板上に光軸を揃えて、複数の光導波路を突き合わせ接合させる技術である。そのプロセス手順は、まず、第一の光導波路を半導体基板上に結晶成長し、つぎにその一部をマスクパターンで覆ってからマスクパターンに覆われていない部分をエッチング技術を用いて除去し、続いて第一の導波路をエッチング除去した部分に第二の光導波路層を有機金属気相成長法(MOVPE:Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)を用いて成長して接続するということを必要回数繰り返すというものである。本技術を用いれば、それぞれの光導波路多層構造の材料、組成、層数、および膜厚を個別に最適化できる。このため、本技術は一回の選択成長で複数の導波路型光素子を一括形成する選択成長技術と比較して、高性能な集積光デバイスの製造方法として適している。なお、光導波路とはコア領域をそれより屈折率の低いクラッド領域で挟み込んだ多層構造をもつ光導波構造であり、コア領域にInGaAlAs系材料の層を用いた光導波路や、コア領域にInGaAsP系材料の層を用いた光導波路では、基板側のクラッド領域としてInP基板がこの役割を担う形態をとることが出来る。
従来のバットジョイント技術の公知例としては、InGaAlAs系多重量子井戸型レーザ導波路層とInGaAsP系バルク導波路層を複数集積したマルチバットジョイント型レーザの特性と、そのバットジョイント接合部の光結合効率の評価結果が、非特許文献1に報告されている。また、第二の公知例としては、上記のプロセス手順において第一の導波路型光素子と第二の導波路型光素子の接合部に生じる結晶欠陥の多い領域を除去して、除去した領域にバルク結晶からなる第三の光導波路を形成した集積光デバイスが、特許文献1に公開されている。
特開2002-324936号公報
「アイトリプルイー・フォトニクス・テクノロジー・レターズ(IEEE Photonics Technology Letters)」、第17巻、p.1148
従来のバットジョイント技術では、成長温度が700℃前後と高温なInGaAlAs系材料の層を主たる構成要素として含む光導波路(以下、InGaAlAs導波路と略記する)を第二の光導波路として別の光導波路にバットジョイント接続しようとした場合に、直接接合されるべき二つの光導波路の間に、InPが挟まった形状となるという問題がある。
このように、InGaAlAs導波路をバットジョイント接続しようとしたときに導波路接続部にInPが挟まる理由を以下に、二つのInGaAlAs導波路を接続する場合のプロセスフローである図1を用いて説明する。
図1(a)は、InP基板11上に、InGaAlAs導波路層12、InPクラッド層13を形成した後、その一部に絶縁膜マスク14を形成し、マスクで覆われていない部分のInPクラッド層13およびInGaAlAs導波路層12を選択的にエッチング除去した後の断面形状模式図である。InGaAlAs導波路にInGaAlAs導波路を接続する場合には、まず図1(a)の通り絶縁膜マスク14を用いて第一のInGaAlAs導波路12の不要部分を選択的にエッチング除去した後、結晶成長炉に搬入してから第二のInGaAlAs導波路を成長する温度まで昇温する。しかし、この際、図1(b)に示す如く、第二のInGaAlAs導波路の再成長が始まる前に,高温となって熱的に不安定になったInP基板表面のInPが、マストランスポートと呼ばれる現象により接合部に移動して、第一のInGaAlAs導波路層の端部の全てあるいは一部を覆ってしまうのである。この状態で第二のInGaAlAs導波路層16およびInPクラッド層17を結晶成長すると図1(c)に示す如く、第一のInGaAlAs導波路層12の端部を覆うInP15が、第一のInGaAlAs導波路12と第二のInGaAlAs導波路16の間に部分的あるいは全面的に挟まった形状となってしまうのである。
InPのマストランスポート現象は高温ほど顕著になるため、結晶成長温度が約700℃と高いInGaAlAs系材料を第二の光導波路として第一の光導波路にバットジョイントする場合にこの問題は深刻な問題として表面化したのである。結晶成長温度が600℃程度と比較的低いInGaAsP系材料の光導波路を第二の導波路としてバットジョイント接続する場合と比較して、InPのマストランスポート現象が激しく生じるからである。
ここで、InGaAlAsおよびInGaAsPの成長温度範囲についてその詳細を説明する。InGaAlAsの成長温度は通常650℃から750℃である。650℃よりも低い温度で成長しようとするとトリメチルアルミニウム等のAl原料の分解効率が低下するために成長層内の酸素不純物が多くなって非発光センターが増加し、結晶性が悪くなるし、また750℃より高い温度で成長しようとすると下地のInP基板の結晶が劣化するという問題がある。このためこの650℃から750℃の温度範囲で成長するのである。この650℃以上の温度領域はInPのマストランスポートが著しく生じる温度領域であるため、この温度範囲にある状態でInPが表面にさらされた状態にすることは避けなければならない。
一方のInGaAsPの成長温度範囲は通常500℃以上650℃未満である。500℃以下の温度では原料として用いるフォスフィンやターシャルブチルフォスフィンといった材料の分解効率が低くなるため成長速度が遅くなるとともに結晶性が悪くなるし、また650℃以上の温度範囲では、たとえばInGaAsPとInPのように5族組成の異なる層を積層しようとした場合に5族の置換現象が生じて界面で5族を切り替えることが困難になるという問題が生じる。このためこの500℃以上650℃未満の温度範囲で成長するのである。ただし、好ましくは、フォスフィンの分解効率が十分確保できる550℃以上の温度で成長することが望ましい。
このように、直接接続されるべき二つの光導波路の間にInPが挟まった構造となった場合には、導波路接続部において光反射や光散乱がおこって光結合効率が低下し、レーザのスロープ効率に代表される集積光素子の性能が低下するという問題がおこる。
また、二番目の公知例に開示されているように、第一の光導波路と第二の光導波路の接続部近傍の欠陥の多い領域を除去して両者の間を第三のバルク導波路で接続する場合にも、この問題による悪影響を回避することはできない。なぜならInPが挟まった導波路接合部を選択的に完全に平坦にエッチング除去することは困難であり、欠陥を含んだ導波路接合領域をエッチング除去した跡に、InPが突起状に残存する等の形状不良が生じるからである。このため、この部分に成長するバルク導波路の形状に乱れが生じて光散乱や光反射が起こり、光結合効率が低下するので、レーザのスロープ効率に代表される集積光素子の性能が低下するという問題が起こる。
このように従来技術では、InGaAlAs系材料を第二の導波路として成長させることが必要な、InGaAlAs系材料の導波路型光素子部が2つ以上集積形成された集積光デバイスを製造しようとしても、導波路内での光散乱や光反射の少ない高品質な集積光デバイスを製造することは出来なかった。
そこで、本発明の第一の目的は、InP基板上にInGaAlAs系材料を主たる構成要素とする導波路型光素子部をバットジョイント集積する場合に、接続部にマストランスポート現象でInPが挟まることがなく、二つの導波路を直接接続させることができる集積光デバイスの製造方法を提供することにある。
また、本発明の第二の目的は、光導波路内における光損失や光反射の少ない高性能な集積光デバイスを提供することである。
本発明の第一の目的は、InP基板上に形成された第一の光導波路の一部にマスクパターンを形成し、該マスクパターンに覆われていない領域の第一の光導波路をエッチングにより除去してInPを露出させ、該エッチングで光導波路を除去してInPを露出させた領域に第二の光導波路を結晶成長する工程を繰り返すことにより、InP基板上に複数の導波路型光素子部を突き合わせ接合方式により集積する集積光デバイスの製造方法において、上記第二の光導波路の主たる構成材料がInGaAlAs系材料であり、且つ該InGaAlAs系材料の結晶成長温度に昇温する前段階の低温状態においてInGaAsP層をInP上に形成することにより達成される。また、上記の集積光デバイスの製造方法において、上記第二の光導波路の結晶成長温度を650℃以上750℃以下とし、かつ上記InGaAsP層の成長温度を500℃以上650℃未満とすることにより達成される。
また、本発明の第一の目的は、InP基板上に形成された第一の光導波路の一部にマスクパターンを形成し、該マスクパターンに覆われていない領域の第一の光導波路をエッチングにより除去し、該エッチングで光導波路を除去した領域に第二の光導波路を結晶成長する工程を繰り返すことにより、InP基板上に複数の導波路型光素子部を突き合わせ接合方式により集積する集積光デバイスの製造方法において、上記第一の光導波路のInP基板と接する部分がInGaAsP層であり、該第一の光導波路をエッチング除去する際に上記InGaAsP層の少なくとも一部をエッチング除去せずに残し、且つ上記第二の光導波路層の主たる構成材料がInGaAlAs系材料であり、該第二の光導波路層の主たる構成材料であるInGaAlAs系材料を上記InGaAsP層の上部に形成することにより達成される。
また、本発明の第一の目的は、上記の集積光デバイスの製造方法において、上記第二の光導波路が量子井戸構造を有し、かつ該第二の量子井戸構造を有する光導波路を形成した後に、第一の光導波路と第二の光導波路の接続部、およびその近傍領域をマスクパターンを用いて選択的に除去し、続いて第一の光導波路と第二の光導波路の一部を除去した領域に少なくともコア部がバルク結晶からなる第三の光導波路を形成する製造方法とすることにより達成される。
また、本発明の第二の目的は、InP基板上に形成された、少なくとも二つの導波路型光素子部を突き合わせ接合方式により集積させた集積光デバイスにおいて、少なくとも一つの導波路型光素子の光導波路がInGaAlAs系材料からなる層構造を主として構成されており、且つ該InGaAlAs系材料からなる層構造とInP基板との間にInGaAsP層を形成することにより達成される。
また、本発明の第二の目的は、InP基板上に形成された、少なくとも二つの導波路型光素子部を突き合わせ接合方式により集積させた、少なくとも一つのInGaAlAs系材料からなる層を含有する光導波路を備えた集積光デバイスにおいて、上記InGaAlAs系材料からなる層とInP基板との間にInGaAsP層が形成されており、且つ該InGaAsP層の少なくとも一部と同一構成の層が、少なくとも一つの、上記InGaAlAs系材料からなる層を含有する光導波路とは異なる光導波路とInP基板との間に形成された構造とすることにより達成される。また、上記の集積光デバイスにおいて、少なくとも二つの導波路型光素子部が、少なくともコア部がバルク結晶で接続された構成とすることにより達成される。
以下、本発明の作用について説明する。本発明のポイントは、InPのマストランスポートによって第一と第二の光導波路の接続部にInPが形成されることを防ぐために、InGaAlAs系材料を主体とする第二の光導波路層の結晶成長工程においてInGaAlAs系材料を成長する温度まで昇温する前に、第一の光導波路を除去した部分の半導体表面をInPではなくAsを含有するInGaAsPにしておくことにある。これにより、V族原子がPだけの場合に起こりやすいマストランスポート現象が抑制されるので、InPが第一と第二の光導波路の接続部に挟まって導波路同士の直接接続を妨げるということがなくなるのである。
このように第二の光導波路の結晶成長の昇温前に、第一の光導波路を除去した部分の表面がInGaAsPで覆われた状態にする手法として我々は二通りの製造プロセスを考案した。
第一の製造プロセスは、InGaAlAs系材料を主体とする第二の光導波路の結晶成長の最初に、600℃前後の低温の状態でInGaAsP層を成長してInP表面をカバーした後、InGaAlAs系材料を成長する700℃前後の温度まで昇温するという手法である。本プロセスを図2を用いて説明する。図2はInGaAlAs系導波路にInGaAlAs系導波路を接続するプロセスフローを示す図である。本プロセスではまず図2(a)に示すごとく、絶縁膜マスク14を用いて選択的に、InGaAlAs系材料の光導波路12の不要部分をエッチング除去する。次に第二のInGaAlAs系導波路層16を形成する前に、InPのマストランスポートが生じにくい低温状態において、InPのマストランスポートを抑制することのできるInGaAsP層21をInP上に形成する(図2(b))。この後にInGaAlAs系材料を成長する700℃前後の高温に昇温して、第二のInGaAlAs導波路16を成長させるのである。これにより、700℃前後の高温への昇温時にはInP基板の表面がAsを含有する膜で覆われているので、InP基板からInPが這い上がるように動いて第一と第二のInGaAlAs導波路の間に挟まるということがなくなるのである。InPマストランスポートを抑制するためのAsを含有する層としてInGaAsPを選択した理由は、本材料の成長温度が600℃前後とInGaAlAs系材料の典型的な成長温度である700℃前後と比較して低く、InPのマストランスポートを効果的に抑止できるからである。
第二の製造プロセスは、第一の光導波路を結晶成長する際にあらかじめInP基板と接する部分にInGaAsP層を形成しておき、第一の光導波路の不要部分をエッチング除去する際にそのInGaAsP層の一部を残してInPの表面を露出させないという手法である。これにより第二の光導波路を結晶成長する際の昇温時にInPが表面に露出しておらずAsを含有する層で覆われているため、InPのマストランスポートは起こらず、第一と第二の光導波路が良好に直接接続する形状を実現できる。
本プロセスを、図3を用いて説明する。図3(a)に示すごとく、本プロセスでは第一の導波路の下部にあらかじめInGaAsP層21を形成しておく。次に、図3(b)に示す如く絶縁膜で形成したマスクパターン14で第一の光導波路の必要部分を保護してからドライエッチングやウェットエッチング技術を用いて上記のInGaAsP層の全てあるいは一部を残して第一のInGaAlAs導波路12の不要部分を除去する。この後に、結晶成長炉内に搬入し、必要な結晶成長温度まで昇温して第二の光導波路16を成長するのである。
本手法を用いれば、昇温中にInP基板表面がAsを含有する層でカバーされているので、InPのマストランスポートが抑制されて、第一と第二の導波路が直接接続した良好な導波路接続形状を得ることができる。エッチングで一部残すAsを含有する層としてInGaAsPを選択した理由は、InGaAsPはInGaAlAsと比較して酸化し難く有利だからである。Alを含み酸化しやすい性質を持つInGaAlAsを採用した場合、結晶成長前に上記エッチングで表面に晒され酸化したInGaAlAs表面のクリーニング処理が必要になる等、製造プロセスが複雑になるからである。
本発明によれば、光結合効率の高いInGaAlAs系光素子の集積化技術を実現できる。さらに、InGaAlAs系集積光デバイスの高性能化に効果がある。
以下、本発明の実施例を以下に図を用いて説明する。
本発明の第一の実施例を、図4〜7を用いて説明する。本実施例は電界吸収型(EA:Electro Absorption)変調器と分布帰還型(DFB:Distributed Feedback)半導体レーザを集積した波長1.55μm帯のEA変調器集積化半導体レーザである。図4は、本発明の第一の実施例の斜視図である。図5は、光導波路部分の光の進行方向に平行な面での断面図である。図6は、製造工程を説明する断面図である。図7は、光の進行方向に交差する面での断面図である。図4に示すように、素子はレーザ部41と変調器部42から構成され、レーザ用電極43と変調器用電極44が独立に形成されている。レーザ部41と変調器部42の間には、両者を電気的に分離するための溝45が形成されている。素子の光導波路部分はストライプ状に加工され、埋込みヘテロ型(BH:Buried Hetero)構造46を有する。この構造はよく知られたものである。この例では、埋込みへテロ構造におけるストライプ状の光導波路部分の周囲は、鉄をドープした高抵抗のInP47で埋め込まれている。
当該実施例における積層構造の断面図を図5に示す。素子特性を最適化するために、レーザ部41とEA変調器部42を独立に最適な構造としているため、それぞれ異なった積層構造を有している。ただし、基板はn型InP基板51で共通である。レーザ部41はn型InGaAlAs光閉じ込め層52、InGaAlAs歪多重量子井戸層53、p型InGaAlAs光閉じ込め層54を有する。活性領域となる量子井戸層では、厚さ7nmのウェル層と厚さ8nmのバリア層を5周期積層し、レーザとして十分な特性を実現できるように設計した。これらの層の上方には、InGaAsP系材料からなる回折格子層55を形成した。活性層領域および回折格子層55の構造は、室温でのDFBレーザの発振波長が1550nmとなるように形成した。
尚、ここで、量子井戸層を挟んで設けられた光閉じ込め層は、量子井戸層の光閉じ込めを強化するための層である。光導波機能はコア領域を、これより屈折率の低いクラッド層で挟み込むことによって生じるものであり、クラッド層/量子井戸層/クラッド層の積層構造により光導波機能が実現されるものであるが、具体的形態では、量子井戸層における光閉じ込めを強化するため、量子井戸層を挟んで光閉じ込め層を設けているのである。その目的より、クラッド層の屈折率は前記光閉じ込め層の屈折率より低い値とする。尚、本実施例では基板側のクラッド層は当該基板がこの役割を担っているが、勿論、半導体基板上に基板側クラッド層を別に設けることも可能である。
回折格子層55の極性はn型、p型のいずれでも良い。p型の場合には、DFBレーザは、光の伝播方向に屈折率のみが周期的に変化する屈折率結合型となる。また、n型の回折格子では、利得結合型DFBレーザとなる。それは、既に知られているように、回折格子が周期的な電流阻止層として機能するために、屈折率のみならず、活性層内の利得に周期的変化が生じるためである。また、本実施例では、回折格子がDFBレーザの全領域で均一に形成されたものを説明したが、必要に応じて、領域の一部に回折格子の位相をずらして構成した、いわゆる位相シフト構造を設けても良い。
一方、EA変調器部42では、n型InGaAsP層56、n型InGaAlAs光閉じ込め層57、アンドープ光吸収層58、アンドープInGaAlAs光閉じ込め層59を形成した。n型InGaAsP層56はバットジョイント成長時にInPのマストランスポート現象が起こることを防止するために挿入した層であり、その膜厚は10nmである。光吸収層58は、EA変調器として良好な特性を引き出すために、InGaAlAs系歪多重量子井戸構造とした。量子井戸の厚さは、8nm、バリア層の厚さは5nmとし、これらを10周期積層した。変調器部42のバリア層をレーザ部41と比較して薄くする理由は、吸収層内でのキャリアの移動を容易にして変調器特性を向上させるためである。
また、レーザ部41と変調器部42の接続部分には、当該箇所に発生する欠陥領域を除去するために、バットジョイント技術によりInGaAsPバルクの光導波路層60を形成している。
次に、本実施例の製造プロセスを、図6を用いて説明する。まず、レーザ部分の構造を形成するために、n型InP基板51上に、n型InGaAlAs光閉じ込め層52、InGaAlAs歪多重量子井戸層53、p型InGaAlAs光閉じ込め層54を積層する。更に、この上方にInGaAsP系材料からなる回折格子層55を含む多層構造を形成する(図6(a))。この多層構造を有するInPウェハ上に、二酸化珪素膜61を被覆し、レーザ部とする部分に保護マスクを形成する。この二酸化珪素マスク61を用いて、図6の(b)に示すように、回折格子層55と活性層領域とをエッチング除去する。エッチングはn型InGaAlAs光閉じ込め層52まで行い、n型InP基板51上で選択的に停止させる。エッチングには、例えば反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)等のドライエッチング、あるいは過酸化水素を酸化剤とし、燐酸や硫酸を含んだ水溶液を用いた選択性のあるウェットエッチング、さらには両者の併用、いずれの手法を用いても良い。
次に、本試料を結晶成長炉に搬入してMOVPE法を用いて600℃にてn型InGaAsP層56を形成した(図6(c))。その後、700℃まで昇温し、EA変調器の吸収層領域を形成した(図6(d))。EA変調器の吸収層領域は、n型InGaAlAs光閉じ込め層57、InGaAlAs系多重量子井戸光吸収層58、アンドープInGaAlAs光閉じ込め層59、p型InPクラッド層62からなる。700℃まで昇温する工程でInP基板表面がAsを含有する膜で覆われた構成としたことにより、昇温時にInPがマストランスポートを起こしてレーザとEA変調器の接合部に挟まる現象は発生せず、レーザ側のInGaAlAs系導波路とEA変調器側のInGaAlAs系導波路が直接接続する良好な導波路接続形状を得ることができた。
この第一のバットジョイント工程で、EA部の多重量子井戸層を形成する際、レーザ部分の保護マスク近傍において、選択成長効果により結晶性の悪い欠陥領域63が形成される。この領域では結晶性が悪く、また多重量子井戸の吸収端波長が長波長側にシフトしているため、素子内に残存させた場合には光の吸収損失の原因となる。本実施例ではこの欠陥領域を切除するため、図6(e)にあるように、欠陥領域とその近傍のみを開口させた窒化珪素マスク64を形成し、約50μmの長さにわたり欠陥領域を除去した。この工程でも、第一のバットジョイント工程と同様にn型InP51の表面でエッチングを選択的に停止させるのであるが、本発明の効果により、第一のバットジョイント工程において、その接続部にInPがマストランスポートして這い上がった形状が生じておらずInP基板表面は平坦なので、欠陥領域除去後には、図6(e)に示した如く、平坦なInP面を得ることができた。この後、アンドープInGaAsPからなるバルク光導波路層60、アンドープInP層65を形成した(図6(f))。この時、下地のInP51は本発明の効果により平坦な形状を保持しているので、その上部に形成したInGaAsPバルク光導波路層60にも形状の乱れは無く、レーザ側のInGaAlAs光導波路とEA変調器側のInGaAlAs光導波路と、その間を接続するInGaAsPバルク光導波路が直線的に接続された、光散乱や反射の少ない良好な導波路接続形状が得られた。
上記の手順で光導波路構造を形成した後、p型InPクラッド層66、p型InGaAsコンタクト層67を形成した。これらの結晶成長工程には、MOVPE法を用いた。なお、p型InGaAsコンタクト層67は、電極形成時に良好なオーミック接続を得るために形成した。
上記の結晶成長工程に引き続き、通例のドライエッチングを用いたメサストライプを形成する工程と、MOVPE法による埋め込み層を再成長させるプロセスにより、埋込みヘテロ構造を形成した。埋込みへテロ構造は、光導波路の光の進行方向の両側を光を閉じ込め得る材料で埋め込んだ構造である。閉じ込めに用いる材料は、通例高抵抗の材料とする。本例では、Feをドープした高抵抗のInP47を用いた。図7はEA変調器部の、光の進行方向と交差する面での断面図である。図7より埋込み構造が十分理解されるであろう。
これに引き続き、ウェハ表面を二酸化珪素71により絶縁化処理した後、p側電極72、およびn側電極73を形成した。又、素子の前端面および後端面には、それぞれ通例の半導体光素子で用いられる低反射膜74および高反射膜75を形成した。
本発明のEA変調器集積レーザ素子は、光導波路の接続形状不良に起因する光損失が少ない本発明の効果を反映して、室温、連続条件におけるスロープ効率の平均値が0.4W/Aであり、高効率な発振特性を示した。一方、本発明の効果を示すため比較用に作製した、InGaAlAs系EA変調器部の光導波路の下部にInPマストランスポート抑制用のInGaAsP層を形成しなかったレーザ素子では、スロープ効率の平均値は0.3W/Aであった。
この結果、本発明の効果により、素子のスロープ効率が約1.3倍に改善することが分かった。これは、本発明を適用した素子では、光導波路上に光散乱や反射の原因となる形状の乱れや結晶欠陥領域がないために、導波路内の損失が従来の導波路接続方法に比べて極めて小さくなったことによるものである。また、本発明のEA変調器集積レーザ素子に対し50℃、5mWでの一定光出力通電試験を行った結果、推定寿命として100万時間が得られ、本発明のレーザ素子が高い信頼性を有することが実証された。
本発明の第二の実施例を、図8〜11を用いて説明する。本実施例は電界吸収型(EA:Electro Absorption)変調器と分布帰還型(DFB:Distributed Feedback)半導体レーザを集積した波長1.55μm帯のEA変調器集積化半導体レーザである。第一の実施例と比較した場合の本実施例の特徴は次の三つである。第一に、本実施例では、InPマストランスポートを防ぐためのInGaAsP層を、第一の光導波路層の下部にあらかじめ形成しておくプロセスを採用していることである。第二に、横モード制御のためのストライプ構造が、第一の実施例では埋込みへテロ構造であるのに対し、本実施例ではリッジ導波路構造であることである。第三に、第一の実施例ではEA変調器部と半導体レーザ部の接合部に生じる欠陥領域を除去してバルク導波路を形成しているのに対し、本実施例ではバルク導波路は形成せず、EA変調器部と半導体レーザ部が直接接続しており、接続部に量子井戸の欠陥領域がそのまま素子内に残る構造としていることである。図8は本発明の第二の実施例の斜視である。図9は光導波路部分の光の進行方向に平行な面での断面図である。図10は製造工程を説明する断面図である。図11は光の進行方向に交差する面での断面図である。
図8に示すように、素子はレーザ部41と変調器部42から構成され、レーザ用電極43と変調器用電極44が独立に形成されている。レーザ部41と変調器部42の間は電気的に分離している。素子は良く知られたリッジ導波路(RWG:Ridge Waveguide)構造81を有する。この例では、リッジ導波路構造81におけるストライプ状のリッジ導波路部分の周囲は、酸化珪素膜82で半導体表面を保護した上でポリイミド83で埋め込まれている。
当該実施例における積層構造の断面図を図9に示す。素子特性を最適化するために、レーザ部41とEA変調器部42を独立に最適な構造としているため、それぞれ異なった積層構造を有している。ただし、基板はn型InP基板51で共通である。レーザ部は、バットジョイント工程においてInPマストランスポートを抑制する機能を果たす膜厚50nmのn型InGaAsP光閉じ込め層91、n型InGaAlAs光閉じ込め層52、InGaAlAs歪多重量子井戸層53、p型InGaAlAs光閉じ込め層54を有する。活性領域となる量子井戸層53では、厚さ5nmのウェル層と厚さ9nmのバリア層を4周期積層し、レーザとして十分な特性を実現できるように設計した。これらの層の上方には、InGaAsP系材料からなる回折格子層55を形成した。活性層領域および回折格子層の構造は、室温でのDFBレーザの発振波長が1550nmとなるように形成した。
EA変調器部では、本発明のInPマストランスポート抑制の機能を果たすn型InGaAsP光閉じ込め層91、n型InGaAlAs光閉じ込め層57、アンドープ光吸収層58、アンドープInGaAlAs光閉じ込め層59を形成した。光吸収層58は、EA変調器として良好な特性を引き出すために、InGaAlAs系材料の歪多重量子井戸構造とした。量子井戸の厚さは7nm、バリア層の厚さは6nmとし、これらを8周期積層した。
次に、本実施例の製造プロセスを図10を用いて説明する。まず、レーザ部分を形成するために、n型InP基板51上に、本発明の特徴であるInPマストランスポートを抑制する機能を果たすn型InGaAsP光閉じ込め層91を形成し、続いてn型InGaAlAs光閉じ込め層52、歪多重量子井戸層53、p型InGaAlAs光閉じ込め層54を積層する。更に、この上方にInGaAsP系材料からなる回折格子層55を含む多層構造を形成する(図10(a))。この多層構造を有するInPウェハ上に、二酸化珪素膜を被覆し、レーザ部とする部分に保護マスク61を形成する。この二酸化珪素マスク61を用いて、図10の(b)に示すように、回折格子層55と活性領域とをエッチング除去する。エッチング工程ではn型InGaAlAs層52までを完全に除去し、n型InGaAsP層91の一部または全てを残して停止させる。エッチングには、例えば平行平板型電極の容量結合型プラズマによるRIE等のドライエッチング、あるいは過酸化水素を酸化剤とし、燐酸や硫酸を含んだ水溶液を用いた選択性のあるウェットエッチング、さらには両者の併用、いずれの手法を用いても良い。
次に、本試料を結晶成長炉に搬入して680℃まで昇温し、MOVPE法を用いてEA変調器の吸収層領域を形成した(図10(c))。EA変調器の吸収層領域は、n型InGaAlAs光閉じ込め層57、InGaAlAs系多重量子井戸光吸収層58、p型InGaAlAs光閉じ込め層59、p型InPクラッド層62からなる。680℃まで昇温する工程においてInP基板表面がAsを含有するInGaAsP層で覆われている状態としたことにより、昇温中にInPがマストランスポートを起こしてレーザ領域の端とEA吸収層領域の接合部に挟まるという現象は発生せず、レーザ側のInGaAlAs系導波路とEA変調器側のInGaAlAs系導波路が直接接続する良好な導波路接続形状を得ることができた。
上記の手順で光導波路構造を形成した後、p型InPクラッド層66、p型InGaAsコンタクト層67を形成した(図10(d))。これらの結晶成長工程には、MOVPE法を用いた。なお、p型InGaAsコンタクト層67は、電極形成時に良好なオーミック接続を得るために形成した。
上記の結晶成長工程に引き続き、通例のドライエッチングおよびウェットエッチングを用いたメサストライプを形成する工程と、EA変調器部42とレーザ部41の間のp型InGaAsコンタクト層67を除去して電気的に分離するアイソレーション工程、半導体表面を二酸化珪素膜82で保護するパッシベーション工程、およびポリイミド83を用いた埋込み平坦化工程によりリッジ導波路構造を形成した。図11は、EA変調器部の、光の進行方向と交差する面での断面図である。図11よりリッジ導波路構造が十分理解されるであろう。
これに引き続き、p側電極71、およびn側電極73を形成した。又、素子の前端面および後端面には、それぞれ通例の半導体光素子で用いられる低反射膜74および高反射膜75を形成した。
本発明のEA変調器集積レーザ素子は、光導波路の接続部における光の散乱損失が少ない本発明の効果を反映して、室温、連続条件におけるスロープ効率の平均値が0.35W/Aの高効率な発振特性を示した。また、本発明のEA変調器集積レーザ素子に対し80℃、10mWでの一定光出力通電試験を行った結果、推定寿命として150万時間が得られ、本発明のレーザ素子が高い信頼性を有することが実証された。
なお、本実施例では発振波長1.55μm帯のEA変調器集積レーザ素子について記載したが、本発明は発振波長が1.3μm帯の素子にも同様に適用可能である。また、本実施例では本発明のEA変調器集積レーザ素子への適用例について述べたが、本発明はビーム拡大器集積レーザ素子等のその他の集積光デバイスにも同様に適用可能である。
本発明が解決しようとする課題を説明する図である。
本発明の作用を説明する図である。
本発明の作用を説明する図である。
本発明の第一の実施例を説明する図である。
本発明の第一の実施例を説明する図である。
本発明の第一の実施例を説明する図である。
本発明の第一の実施例を説明する図である。
本発明の第二の実施例を説明する図である。
本発明の第二の実施例を説明する図である。
本発明の第二の実施例を説明する図である。
本発明の第二の実施例を説明する図である。
符号の説明
11…InP基板、12…InGaAlAs導波路層、13…InPクラッド層、14…絶縁膜マスク、15…InP、16…InGaAlAs導波路層、17…InPクラッド層、21…InGaAsP層、41…半導体レーザ部、42…変調器部、43…レーザ用電極、44…変調器用電極、45…分離溝、46…埋込みへテロ構造、47…高抵抗InP、51…n型InP基板、52…n型InGaAlAs光閉じ込め層、53…InGaAlAs歪多重量子井戸層、54…p型InGaAlAs光閉じ込め層、55…回折格子層、56…n型InGaAsP層、57…n型InGaAlAs光閉じ込め層、58…アンドープ光吸収層、59…アンドープInGaAlAs光閉じ込め層、60…バルク光導波路層、61…二酸化珪素膜、62…p型InPクラッド層、63…欠陥領域、64…窒化珪素マスク、65…アンドープInP層、66…p型InPクラッド層、67…p型InGaAsコンタクト層、71…二酸化珪素膜、72…p側電極、73…n側電極、74…低反射膜、75…高反射膜、81…リッジ導波路構造、91…n型InGaAsP光閉じ込め層。