JP2008021982A - 熱電材料及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】次の(1)式で表される組成を有するホイスラー化合物からなる熱電材料及びその製造方法。
(Fe1-zM1z)2-y(V1-uM2u)(Al1-xM3x) ・・・(1)
但し、M1は、3d、4d、5d遷移金属元素(Feを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。M2は、3d、4d、5d遷移金属元素(Vを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。M3は、IIIb族元素(Alを除く)及びIVb族元素からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。0≦x≦1.0、0<y≦0.8、0≦z≦0.5、0≦u≦0.5、0≦x+z+u。
【選択図】図5
Description
(1)エネルギー変換の際に余分な老廃物を排出しない、
(2)排熱の有効利用が可能である、
(3)材料が劣化するまで継続的に発電を行うことができる、
(4)モータやタービンのような可動装置が不要であり、メンテナンスの必要がない、
等の特徴を有していることから、エネルギーの高効率利用技術として注目されている。
(1)Bi−Te系、Pb−Te系、Si−Ge系等の化合物半導体、
(2)NaxCoO2(0.3≦x≦0.8)、(ZnO)mIn2O3(1≦m≦19)、Ca3Co4O9等のCo系酸化物セラミックス、
(3)Zn−Sb系、Co−Sb系、Fe−Sb系等のスクッテルダイト化合物、
(4)ZrNiSn等のハーフホイスラー化合物、
(5)Fe2VAl等のホイスラー化合物
などが知られている。
これに対し、ホイスラー化合物の一種であるFe2VAlは、環境負荷元素を含まず、しかも、Feサイト、Vサイト又はAlサイトのいずれかを他の元素で置換し、あるいは、化学量論組成からずらすことによって、室温においてBi−Te系熱電材料に匹敵する出力因子(=S2σ)を示す。そのため、Fe2VAl基ホイスラー化合物は、Bi−Te系、Pb−Te系熱電材料に代わる材料として期待されている。
例えば、非特許文献1には、(Fe2/3V1/3)100-yAly、Fe2V(Al1-xSix)、Fe2V(Al1-xGex)、Fe2(V1-xTix)Al、Fe2(V1-xZrx)Al、Fe2(V1-xMox)Al、Fe2(V1-xWx)Al、(Fe1-xCox)2VAl、及び、(Fe1-xPtx)2VAlが開示されている。
同文献には、
(1)合金中の価電子濃度を制御すると、ゼーベック係数Sは正にも負にもなる点、
(2)元素置換を行うことによって電気比抵抗ρを低く維持したままゼーベック係数Sを増加させることができる点、及び、
(3)Alサイトの一部をGeで置換すると、Siで置換する場合に比べて熱伝導度が低下する点、
が記載されている。
さらに、特許文献3には、急冷凝固法を用いた一般式A3-xBxC(AとBは、Fe、Co、Ni、Ti、V、Cr、Zr、Hf、Nb、Mo、Ta、Wなどの遷移金属のうち少なくとも1種、CはAl、Ga、In、Si、Ge、Snなど13族又は14族の元素の内の少なくとも1種)であるホイスラー合金の製造方法が開示されている。同文献には、このような方法によって微量元素を合金全体に均一に添加することができる点、及び、Fe2VAl1-ySiyにおいて、0<y≦0.3とするのが好ましい点が記載されている。
この問題を解決するために、各サイトのいずれかをより大きな原子量を有する元素で置換し、フォノン散乱を増大させることも考えられる。しかしながら、置換元素の種類及び量は、ゼーベック係数Sに影響を及ぼすので、不適切な元素置換は出力因子の低下をまねく。そのため、元素置換のみによる熱伝導度κの低減には限界がある。
(Fe1-zM1z)2-y(V1-uM2u)(Al1-xM3x) ・・・(1)
但し、
M1は、3d、4d、5d遷移金属元素(Feを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
M2は、3d、4d、5d遷移金属元素(Vを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
M3は、IIIb族元素(Alを除く)及びIVb族元素からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
0≦x≦1.0、
0<y≦0.8、
0≦z≦0.5、
0≦u≦0.5、
0≦x+z+u。
本発明に係る熱電材料が得られるように配合された原料を溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程で得られた溶湯を凝固させる凝固工程と
を備えていることを要旨とする。
また、本発明に係る熱電材料の製造方法の2番目は、
本発明に係る熱電材料が得られるように配合された原料を成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を固相反応させながら焼結させる焼結工程と
を備えていることを要旨とする。
本発明に係る熱電材料は、次の(1)式で表される組成を有するホイスラー化合物からなる。
(Fe1-zM1z)2-y(V1-uM2u)(Al1-xM3x) ・・・(1)
但し、
M1は、3d、4d、5d遷移金属元素(Feを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
M2は、3d、4d、5d遷移金属元素(Vを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
M3は、IIIb族(Alを除く)及びIVb族元素からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
0≦x≦1.0、
0<y≦0.8、
0≦z≦0.5、
0≦u≦0.5、
0≦x+z+u。
一般に、Feサイトに導入される格子欠陥の量が多くなるほど、フォノン散乱が増大し、熱伝導度κが低下する。また、Feサイトに導入される欠陥の量が多くなるほど、価電子濃度が低下し、キャリアに占めるホールの割合が増加する。
一方、Feサイトに導入される格子欠陥の量が過剰になると、結晶構造が不安定になる。また、フェルミ面を擬ギャップ近傍に留めるのが困難になるので、ZTが低下する。従って、Feサイトへの格子欠陥の導入量yは、置換元素の種類に応じて、最適な量を選択するのが好ましい。
Feサイトへの格子欠陥の導入量yは、具体的には、0より大きいことが好ましく、さらに好ましくは、0.008以上である。また、Feサイトへの格子欠陥の導入量yは、0.8以下が好ましく、さらに好ましくは、0.50以下である。
これらの中でも、元素M1は、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Ir及びPtからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素が好ましい。これらは、いずれも、ゼーベック係数Sを増大させ、電気伝導度σを増大させ、あるいは、熱伝導度κを減少させる作用があることが知られている(特許文献1、2、非特許文献1〜3参照)ので、これらとFeサイトへの欠陥導入とを組み合わせると、さらに高い熱電特性が得られる。
これらの中でも、元素M2は、Ti、Zr、Mo、Ta及びWからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素が好ましい。これらは、いずれも、ゼーベック係数Sを増大させ、電気伝導度σを増大させ、あるいは、熱伝導度κを減少させる作用があることが知られている(特許文献1、2、非特許文献1〜3参照)ので、これらとFeサイトへの欠陥導入とを組み合わせると、さらに高い熱電特性が得られる。
これらの中でも、元素M3は、Si、Ga、Ge及びSnからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素が好ましい。これらは、いずれも、ゼーベック係数Sを増大させ、電気伝導度σを増大させ、あるいは、熱伝導度κを減少させる作用があることが知られている(特許文献1、2、非特許文献1〜3参照)ので、これらとFeサイトへの欠陥導入とを組み合わせると、さらに高い熱電特性が得られる。
一般に、各サイトを占める元素を、その元素より周期表の左側にある元素で置換すると、価電子濃度が低下し、キャリアに占めるホールの割合が増加する。一方、各サイトを占める元素を、その元素より周期表の右側にある元素で置換すると、価電子濃度が増加し、キャリアに占める電子の割合が増加する。さらに、各サイトに導入された置換元素を、原子量のより大きな同族元素に置き換えると、価電子濃度を変化させることなく、フォノン散乱を増大させることができる。
一方、置換元素の量が過剰になると、結晶構造が不安定になる。また、フェルミ面を擬ギャップ近傍に留めるのが困難になるので、ZTが低下する。従って、置換元素の量z、u、xは、それぞれ、置換元素の種類及びFeサイトへの欠陥導入量に応じて、最適な量を選択するのが好ましい。
Vサイトのを置換する場合において、高い特性を得るためには、置換量uは、0より大きいことが好ましく、さらに好ましくは、0.005以上である。また、置換量uは、0.5以下が好ましく、さらに好ましくは、0.3以下である。
Alサイトを置換する場合において、高い特性を得るためには、置換量xは、0より大きいことが好ましく、さらに好ましくは、0.005以上である。また、置換量xは、1.0以下が好ましく、さらに好ましくは、0.5以下、さらに好ましくは、0.3以下である。
(Fe1-zM1z)2-y(V1-uM2u)(Al1-xSix) ・・・(2)
但し、
M1は、3d、4d、5d遷移金属元素(Feを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
M2は、3d、4d、5d遷移金属元素(Vを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
0≦x≦1.0、
0<y≦0.8、
0≦z≦0.5、
0≦u≦0.5、
0≦x+z+u。
なお、(2)式中、元素M1、M2、及び、添字x、y、z、uに関する詳細については、(1)式と同様であるので、説明を省略する。
Fe2-yV(Al1-xSix) ・・・(3)
但し、
0<x≦1.0、
0<y≦0.8。
y=(0.5±0.3)x ・・・(4)
(4)式は、Feサイトへの格子欠陥の導入量yとSiによるAlサイトの置換量xの比が1:2である時にフェルミ面が擬ギャップ近傍に来ること、すなわち、理想的には最大の熱電特性が得られることを意味する。
y:xの比は、必ずしも1:2である必要はなく、y:xの比を変化させることによって、熱電特性を制御することができる。但し、y:x=1:2からのずれが大きくなりすぎると、フェルミ面が擬ギャップから大きく離れ、熱電特性が低下する。従って、yは、(0.5±0.3)xの範囲内にあるのが好ましい。yは、さらに好ましくは、(0.5±0.2)x、さらに好ましくは、(0.5±0.1)xである。
また、本発明に係る熱電材料は、上述したFe2VAl基ホイスラー化合物と、他の材料(例えば、樹脂、ゴム等)との複合体であっても良い。
一般の熱電材料は、キャリア濃度の制御によってゼーベック係数Sを大きくすると、必然的に電気伝導度σが小さくなる。これは、ゼーベック係数Sはキャリア濃度と負の相関があるのに対し、電気伝導度σはキャリア濃度と正の相関があるためである。そのため、従来の熱電材料において、キャリア濃度を制御する手法では、到達可能なZTには限界があった。
これに対し、Fe2VAl基ホイスラー化合物は、置換元素を最適化することによって、ゼーベック係数Sを大きくすると同時に、金属並みの電気伝導度σを実現することができる。これは、以下の理由による。
ここで、ゼーベック係数Sは、フェルミ準位(EF)における状態密度N(EF)の絶対値に反比例し、かつ、フェルミ準位(EF)におけるエネルギー勾配(∂N(E)/∂E|E=EF)に比例する。また、電気伝導度σは、フェルミ準位(EF)における状態密度N(EF)に反比例する。
そのため、Fe2VAlのいずれかのサイトを適切な元素で置換すると、フェルミ準位(EF)が擬ギャップの中心からシフトする。その結果、状態密度N(EF)及びエネルギー勾配が増大し、ゼーベック係数Sが増大すると共に電気伝導度σも増大する。また、これによって、出力因子は、Bi−Te系熱電材料に匹敵する値となる。
また、通常、格子欠陥を大量に導入すると結晶が不安定になる傾向にあるが、Feサイトに格子欠陥を導入すると同時にいずれか1以上のサイトにおいて元素置換を行うと、格子欠陥が安定化する傾向にある。特に、SiによるAlサイトの置換は、Feサイトに導入された格子欠陥を安定化させる効果が大きい。また、Feサイトへの欠陥導入量y:SiによるAlサイトの置換量xの比が1:2の時に、理想的には系が最も安定化する(第1原理計算結果より確認)。
さらに、Feサイトに格子欠陥を導入することに加えて、置換元素の種類及び量を最適化すると、フェルミ面を擬ギャップ近傍の位置に留めることができる。置換元素の原子量を最適化することによって、出力因子を高く維持したまま、熱伝導度κを低下させることができる。
これに対し、後述するように溶湯を凝固する際に急冷凝固すると、相分離が抑制され、原料が均一に混合された粒子を作製することができる。そのため、電気伝導度が増大し、熱電特性の向上に寄与する。さらに、得られた粉末を適切な温度で焼結させると、相分離が少ない(不純物相が少ない)焼結体が得られる。
本発明の第1の実施の形態に係る熱電材料の製造方法は、溶融工程と、凝固工程とを備えている。
溶解工程は、上述したFe2VAl基ホイスラー化合物が得られるように配合された原料を溶解する工程である。
原料は、単一の元素のみを含むものであっても良く、あるいは、2種以上の元素を含む合金、化合物等であっても良い。また、各原料は、目的とする組成が得られるように、配合する。原料の溶解方法は、特に限定されるものではなく、アーク溶解や高周波溶解等、種々の方法を用いることができる。また、原料の溶解は、酸化を防ぐために、不活性雰囲気下で行うのが好ましい。
溶湯は、凝固する際に徐冷しても良く、あるいは急冷しても良い。特に、溶湯を急冷凝固させると、偏析の少ない均一な固溶体が得られる。ここで、「急冷凝固」とは、炉冷以上の冷却速度で冷却する凝固方法をいう。
溶湯の急冷方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。例えば、ルツボ内で原料を溶解させ、これをルツボごと、冷媒(例えば、水)中に投下しても良い(ルツボ法)。あるいは、単ロール法、双ロール法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法等を用いて、溶湯を急冷凝固させても良い。
急冷時の冷却速度は、速いほどよい。一般に、冷却速度が速くなるほど、成分元素の偏析が抑えられ、均一な固溶体が得られる。特に、x≧0.5である熱電材料は、不純物相が生成しやすいが、これに対して急冷凝固を適用すると、不純物相の少ない熱電材料が得られる。冷却速度は、具体的には、1×103〜1×106℃/secが好ましい。
また、単ロール法、アトマイズ法等を用いて溶湯を急冷凝固させると、リボン又は粉末が得られる。これらのリボン又は粉末をそのまま、あるいは、必要に応じて粉砕(粉砕工程)した後、他の材料と複合化させても良い。あるいは、リボン又は粉末を、必要に応じて粉砕(粉砕工程)した後、焼結(焼結工程)させても良い。
焼結条件(例えば、焼結温度、焼結時間、焼結時の加圧力、焼結時の雰囲気等)は、Fe2VAl基ホイスラー化合物の組成、使用する焼結方法等に応じて、最適なものを選択する。
例えば、放電プラズマ焼結法を用いる場合、焼結温度は、ホイスラー化合物の融点以下が好ましく、加圧力は、20MPa以上が好ましい。焼結時にホイスラー化合物を溶融させると、冷却時に成分元素が偏析するおそれがある。また、加圧力を20MPa以上とすると、緻密な焼結体を得ることができる。焼結時間は、緻密な焼結体が得られるように、焼結温度に応じて最適な時間を選択する。
成形工程は、上述したFe2VAl基ホイスラー化合物が得られるように配合された原料を成形する工程である。
原料は、単一の元素のみを含むものであっても良く、あるいは、2種以上の元素を含む合金、化合物等であっても良い。また、各原料は、目的とする組成が得られるように、配合する。さらに、原料の粒度は、焼結方法に応じて、最適な粒度を選択する。一般に、原料の粒度が小さくなるほど、焼結が容易化する。
[1. 試料の作製]
所定量のFe、V、Al、SiをFe2-x/2VAl1-xSix組成となるように秤量し、乾式で混合した。表1に、原料の仕込み組成を示す。得られた混合粉末をφ15mmのペレットに圧縮成形し、これをBNルツボ内に設置した。さらに、減圧下のAr雰囲気中において、高周波誘導炉で原料を溶解させ、徐冷した。図1に、合成手順を示す。
ルツボ内で凝固させた溶製材の密度をアルキメデス法により測定した。また、溶製材を粉砕して粉末とし、X線回折を行った。さらに、溶製材から棒状試料を切り出し、3〜390K、真空中において、熱電特性を評価した。真空中の測定については、ppms(physical property measuremt system:日本カンタムデザイン社製)を用いた。
表2に、各試料の密度を示す。表2より、いずれの試料とも同程度の密度が得られていることがわかる。
図2に、各試料の粉末X線回折パターンを示す。実施例1(x=0.04)及び実施例2(x=0.16)は、Fe2VAl相の単相であった。一方、実施例3(x=0.5)は、微量の不純物を含むFe2VAl相であった。また、図示はしないが、x≦0.375の範囲でFe2VAl単相が得られることがわかった。さらに、いずれの試料においても、合成の前後で全重量変化がなく、仕込み組成どおりの試料が合成されたと考えられる。
図3に、xと格子定数との関係を示す。図3より、xの値が増加するほど、格子定数が減少していることがわかる。これは、ホイスラー構造(Fe2VAl相)を維持したまま、Feサイトに格子欠陥が導入されたことを示唆するものと考えられる。
図4に、各試料の格子熱伝導度κphを示す。ここで、κphは、熱伝導度及び電気伝導度の測定値を用いて、ヴィーデマン−フランツ則により熱伝導度への電子の寄与分を見積り、熱伝導度へのフォノンの寄与分(格子熱伝導度)を算出したものである。図4より、いずれの温度においても、xの値が増大するほど、格子熱伝導度κphが減少していることがわかる。各試料の密度がほぼ一定であることから、実施例1〜3においては、Feサイトに導入された欠陥がフォノンを散乱し、κphを低減させたと考えられる。
さらに、一般に、温度が高くなるほどフォノンの数が増加するため、熱伝導度は増大する。一方、温度の増大に伴い、フォノン−フォノン散乱が無視できない大きさになる。そのため、格子熱伝導度κphは、比較例1のように、一般的にはある温度(比較例1では、〜100K)で極大を示す。実施例1〜3において、κphの極大値が消滅していることは、フォノンの平均自由行程が短くなること、すなわち、Feサイトの欠陥によるフォノン散乱を示唆する。
なお、実施例3については、不純物量が微少であることから、κphの低減における不純物散乱の寄与は微少であり、Feサイトの欠陥によるフォノン散乱が主因と考えられる。
また、実施例3のκphは6.1W/mK(300K)であるのに対し、実施例3とAl/Si比が等しく、Feサイトに欠陥のない組成(Fe2VAl0.5Si0.5)のκphは9W/mK(300K)である(C.S.Lue, et al., Physical Review B, vol.75, 064204(2007)参照。以下、「非特許文献4」という。)ことからも、実施例3では、Feサイト欠陥によるフォノン散乱でκphが低減したものと考えられる。
また、実施例3のZTは0.040(300K)であるのに対し、実施例3とAl/Si比が等しく、Feサイトに欠陥のない組成(Fe2VAl0.5Si0.5)のZTは0.0283(300K)である(非特許文献4参照)ことからも、Feサイト欠陥導入による熱電特性の改善が明らかである。
[1. 試料の作製]
[1.1. 徐冷試料(実施例4)の作製]
x=0.75(実施例4)とした以外は、実施例1〜3と同様の手順(図1参照)に従い、Fe2-x/2VAl1-xSix組成を有する溶製材を作製した。表3に、原料の仕込み組成を示す。なお、表3には、実施例3(x=0.5、徐冷)の仕込み組成も併せて示した。
[1.2. 急冷試料(実施例5、6)の作製]
所定量のFe、V、Al、SiをFe2-x/2VAl1-xSix組成(x=0.5(実施例5)、x=0.75(実施例6))となるように秤量し、アーク溶解した。鋳塊を約10mm角に砕き、ガラス管ノズル(先端口φ1mm)内で高周波溶解させた。ノズル内雰囲気は、減圧下のAr雰囲気とした。融液を回転ドラム(1000rpm、室温)に吹き付け、急速冷却した粉末を得た。噴霧時の雰囲気は、減圧下のAr雰囲気とした。急冷凝固した粉末を53μm以下に粉砕し、これをφ15mmのカーボンダイスに充填し、SPS焼結(放電プラズマ焼結、spark plasma sintering)した。SPS焼結は、焼結温度:1100℃(実施例5)又は950℃(実施例6)、圧力:50MPa、焼結時間:15分、焼結雰囲気:真空中の条件下で行った。図6に、合成手順を示す。また、表3に、原料の仕込み組成及び焼結条件を示す。
[2.1. 密度及び気孔率]
溶製材及び焼結体の密度及び気孔率をアルキメデス法により算出した。
[2.1 XRD測定]
溶製材又は焼結体を粉砕した粉末を用いてXRD測定を行った。
[2.2. 熱電特性評価]
溶製材又は焼結体から切り出した棒状試料を用いて、3〜390K、真空中において、熱電特性を評価した。真空中の測定については、ppms(physical property measuremt system:日本カンタムデザイン社製)を用いた。
図7に、実施例3及び実施例5(x=0.5)の粉末XRDパターンを示す。また、図8に、実施例4及び実施例6(x=0.75)の粉末XRDパターンを示す。さらに、表4に、密度、気孔率、及び不純物量(不純物相のピーク強度比)を示す。
図7、図8、及び表4より、以下のことがわかる。
(1) 急冷凝固の有無にかかわらず、ほぼ同等の密度が得られる。
(2) xが大きくなるほど不純物相のピーク強度比が大きくなる。
(3) x≧0.5であっても、急冷凝固によって不純物量の少ないFe2VAl相材料が得られる。
図9、10、11、及び12に、それぞれ、実施例4及び実施例6(x=0.75)で得られた試料の格子熱伝導度κph、電気伝導度σ、ゼーベック係数S、及び無次元性能指数ZTの温度依存性を示す。
図9〜12より、以下のことがわかる。
(1) 実施例4と実施例6では、同等の格子熱伝導度が得られた(図9)。また、いずれもFe2VAlの約40%の格子熱伝導度を示した。これは、Feサイト欠陥によるフォノン散乱が原因と考えられる。
(2) 実施例4に比べ、実施例6の方が電気伝導度が特に低温で増大した(図10)。これは、実施例6のほうが不純物量が少なく(表4、図7、8参照)、キャリアの散乱が低減したためと考えられる。
(3) 実施例4に比べ、実施例6の方がゼーベック係数の絶対値が増大した(図11)。これは、実施例6の方が不純物量が少なく(表4、図7、8参照)、組成ずれが少ないため、Fe2VAlに由来する大きなゼーベック係数がより強く発現したためと考えられる。
(4) 実施例4に比べ、実施例6の方が無次元性能指数が大きい(図12)。これは、急冷によって電気伝導度及びゼーベック係数の絶対値が増大したためである。
[1. 試料の作製]
所定量のFe、V、SiをFe1.5VSi組成(x=1.0)となるように秤量し、アーク溶解した。鋳塊を約10mm角に砕き、ガラス管ノズル(先端口φ1mm)内で高周波溶解させた。ノズル内雰囲気は、減圧下のAr雰囲気とした。融液を回転ドラム(1000rpm、室温)に吹き付け、急速冷却した粉末を得た。噴霧時の雰囲気は、減圧下のAr雰囲気とした。急冷凝固した粉末を53μm以下に粉砕し、これをφ15mmのカーボンダイスに充填し、SPS焼結した。SPS焼結は、焼結温度:900℃(実施例7)、1000℃(実施例8)、又は1100℃(実施例9)、圧力:50MPa、焼結時間:15分、焼結雰囲気:真空中の条件下で行った。表5に、原料の仕込み組成及び焼結条件を示す。
得られた焼結体を粉砕し、XRD測定を行った。
[3. 結果]
図13に、実施例7〜9で得られた試料の粉末XRDパターンを示す。実施例7、8では、不純物量(不純物相のピーク強度比)が5%以下のFe2VAl相(ホイスラー相)試料が得られたが、実施例9では、不純物量が58%となった。図13より、所望の組成に対して単相を与える温度範囲が存在し、適切な温度において焼結処理することが重要であることがわかる。
[1. 試料の作製]
所定量の粒状の原料をFe1.75VAl0.45Si0.45Ge0.1組成となるように秤量し、アーク溶解した。粉砕して得た粉末(53μm)をφ15mmのカーボンダイスに充填し、SPS焼結した。SPS焼結は、焼結温度:1000℃、圧力:50MPa、焼結時間:15分、焼結雰囲気:真空中とした。図14に、合成手順を示す。また、表6に、原料の仕込み組成及び焼結条件を示す。なお、表6には、比較例1及び実施例3の仕込み組成も併せて示した。
焼結体から切り出した棒状試料を用いて、3〜390K、真空中において、熱電特性を測定し、格子熱伝導度κphを算出した。真空中の測定については、ppms(physical property measuremt system:日本カンタムデザイン社製)を用いた。
図15に、比較例1、実施例3及び実施例10で得られた試料の格子熱伝導度κphを示す。また、図16に、比較例1、実施例3及び実施例10で得られた試料の無次元性能指数ZTを示す。実施例3においては、欠陥導入により比較例1よりも格子熱伝導度κphが低減した。
実施例10では、実施例3に比べ、さらに格子熱伝導度κphが低減した。これは、Geのような重元素で結晶構造の一部を置換することにより、フォノン散乱が増大したためと推察される。その結果、ZTが比較例1及び実施例3に比べて増大した。
[1. 試料の作製]
所定量の粒状の原料を(Fe1-zM1z)2-yV(Al1-xM3x)組成となるように秤量し、アーク溶解した。粉砕して得た粉末(53μm)をφ15mmのカーボンダイスに充填し、SPS焼結した。SPS焼結は、焼結温度:950℃又は1000℃、圧力:50MPa、焼結時間:15分、焼結雰囲気:真空中とした。表7に、原料の仕込み組成及び焼結条件を示す。なお、表7には、比較例1及び実施例3の仕込み組成も併せて示した。
焼結体から切り出した棒状試料を用いて、315K及び360K、He中において、ゼーベック係数S及び電気伝導度σを評価した。He中での測定については、熱電特性測定装置(Model RZ2001I:オザワ科学製)を用いた。ここで、He中での測定は、真空中での測定値と同等の値が得られる。さらに、本材料系は酸化に影響されにくいため、大気中での測定・使用においても、安定した値が得られる。
表8及び表9に、それぞれ、315K及び360Kにおける各試料の電気伝導度σ、ゼーベック係数S、及びパワーファクターPFを示す。なお、パワーファクターPFは、取り出しうる最大電力を表す指標であり、ZTと並んで熱電材料の特性を評価する使用として用いられている。
比較例1に比べて、実施例3及び実施例11〜17は、いずれの温度においてもパワーファクターPFが増大した。これは、比較例1に比べ、主に電気伝導度が増大したためである。このようにFeサイトに欠陥を導入した組成でさらに元素置換を行っても、比較例1に比べて特性を向上させることができる。
なお、元素置換量は、いずれも5%程度以下であるので、実施例11〜17の格子熱伝導度(熱伝導度へのフォノンの寄与分)は、実施例3と同程度か、あるいは、格子の周期性の乱れにより実施例3よりも減少するものと考えられる。さらに、実施例11〜17の電気伝導度が実施例3と同程度かそれ以下であることから、実施例11〜17の熱伝導度への電子の寄与分は、実施例3と同程度かそれ以下となると考えられる。つまり、実施例11〜17の熱伝導度(フォノンの寄与分+電子の寄与分)は、実施例3と同等かそれ以下となると考えられる。従って、実施例11〜17のZTは、実施例3と同程度かそれ以上であると推測される。
さらに、Feサイトの一部をPt(実施例16)又はIr(実施例17)で置換した場合には、置換しない場合(実施例3)に比べて、電気伝導度σが増大した。これは、キャリア濃度の増大による、電気伝導度σの増大の効果と考えられる。このように、置換するサイトによらず、キャリア濃度を調整する元素置換により、電気伝導度及び/又はゼーベック係数の絶対値を増大させることができるものと考えられる。
Claims (13)
- 次の(1)式で表される組成を有するホイスラー化合物からなる熱電材料。
(Fe1-zM1z)2-y(V1-uM2u)(Al1-xM3x) ・・・(1)
但し、
M1は、3d、4d、5d遷移金属元素(Feを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
M2は、3d、4d、5d遷移金属元素(Vを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
M3は、IIIb族元素(Alを除く)及びIVb族元素からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
0≦x≦1.0、
0<y≦0.8、
0≦z≦0.5、
0≦u≦0.5、
0≦x+z+u。 - 前記M1は、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Ir及びPtからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素であり、
前記M2は、Ti、Zr、Mo、Ta及びWからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素であり、
前記M3は、Si、Ga、Ge及びSnからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素である
請求項1に記載の熱電材料。 - 次の(2)式で表される組成を有するホイスラー化合物からなる熱電材料。
(Fe1-zM1z)2-y(V1-uM2u)(Al1-xSix) ・・・(2)
但し、
M1は、3d、4d、5d遷移金属元素(Feを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
M2は、3d、4d、5d遷移金属元素(Vを除く)からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素。
0≦x≦1.0、
0<y≦0.8、
0≦z≦0.5、
0≦u≦0.5、
0≦x+z+u。 - 前記M1は、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Ir及びPtからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素であり、
前記M2は、Ti、Zr、Mo、Ta及びWからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素である
請求項3に記載の熱電材料。 - 次の(3)式で表される組成を有するホイスラー化合物からなる熱電材料。
Fe2-yV(Al1-xSix) ・・・(3)
但し、
0<x≦1.0、
0<y≦0.8。 - y=(0.5±0.3)xである請求項5に記載の熱電材料。
- 前記ホイスラー化合物のX線回折における最強線ピーク強度に対する前記ホイスラー化合物以外の物質の最強線ピーク強度の比が28%以下である請求項1から6までのいずれかに記載の熱電材料。
- 請求項1から7までのいずれかに記載の熱電材料が得られるように配合された原料を溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程で得られた溶湯を凝固させる凝固工程と
を備えた熱電材料の製造方法。 - 前記凝固工程で得られた凝固物の粉末を成形し、焼結する焼結工程をさらに備えた請求項8に記載の熱電材料の製造方法。
- 前記凝固工程は、前記溶湯を急冷凝固させるものである請求項8に記載の熱電材料の製造方法。
- 前記熱電材料は、0.5≦x≦1.0である請求項10に記載の熱電材料の製造方法。
- 前記凝固工程で得られた凝固物の粉末を成形し、焼結する焼結工程をさらに備えた請求項10に記載の熱電材料の製造方法。
- 請求項1から7までのいずれかに記載の熱電材料が得られるように配合された原料を成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を固相反応させながら焼結させる焼結工程と
を備えた熱電材料の製造方法。
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