本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、詳細には多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)及びその使用方法に関する。
質量分析計は、様々な化合物や混合物の同定と定量分析に使用される周知の分析化学ツールである。そのような分析の感度と分解能は、実際に使用するために重要な点である。TOF MSの分解能が飛行経路の長さに比例することはよく知られてきた。しかしながら、機器を妥当なサイズに維持しながら飛行経路を長くすることは難しいことが分かる。提案された解決策が、多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)である。MR−TOF MSは、飛行時間集束特性を有する静電イオンミラーの導入後に使用可能になった。米国特許第4,072,862号、ソビエト特許第SU198034号、及びSov.J.Tech.Phys.41(1971)1498は、飛行時間機器内のイオンエネルギーの集束を改善するイオンミラーを開示している。このイオンミラーを使用すると、イオン飛行経路が1回自動的に折り返される。
米国特許第4,072,862号公報
H.Wollnikは、多重反射MR−TOF MSを実現するためのイオンミラーの可能性を現実化した。英国特許第GB2080021号は、複数のグリッドレスミラー(gridless mirror)間のイオン経路を折り返すことによって機器の全長を短くする方法を提案している。そのような2列のミラーは、同一平面内に位置合わせされてもよく2つの向かい合った平行な円上に配置されてもよい(図1)。空間的イオン集束機能を有するグリッドレスイオンミラーの導入は、反射回数に関係なくイオン損失を減少させイオンビームを閉じ込めておくように意図されている(米国特許第5017780に詳述されている)。GB2080021に開示されたグリッドレスミラーは、イオン飛行時間をイオンエネルギーから切り離すためのものであった。2種類のMR−TOF MSが開示されている。それは、(a)N個の順次反射するTOF MSを組み合わせることに相当する「折り返し経路(folded path)」方式と、(b)パルス化したイオンの進入と放出を使用することによって軸方向に位置合わせされた2個のイオンミラー間の複数回のイオン反射を使用する「同軸反射(coaxial reflecting)」方式である。また、「同軸反射」方式は、H.WollnikらによってMass Spec.Rev.,1993,12,p.109に開示され、Int.J.Mass Spectrom.Ion Proc.227(2003)217で発表された研究で実施された。中型(30cm)のTOF MSで50回の折り返し後に50,000の分解能が達成された。実際には、グリッドレスイオンミラーと空間的集束イオンミラーは、対象とするイオンを保持したが(損失は2分の1未満であった)、許容質量範囲はサイクル数と比例して縮小する。
もう1つのタイプの周期的MR−TOF MSは、H.WollnikのNucl.Instr.Meth.,A258(1987)289とSakuraiらのNucl.Instr.Meth.,A427(1999)182による論文に記載された。イオンは、静電偏向器と磁気偏向器を使用して閉軌道内に維持される。この方式は、同軸反射方式と同じように、質量範囲を狭める複数の繰り返しサイクルを使用していた。
二次元グリッドレスミラーを使用する折り返し経路式MR−TOF MSが、ソビエト特許SU1725289号に開示された。バーからなる2つの同一ミラーで構成されたMR−TOF MSが、ミラー間の中間平面に対してまた折り返しイオン経路の平面に対して平行かつ対称的であった(図2)。ミラーの幾何学的配置と電位は、折り返しイオン経路の平面を横切るイオンビームを空間的に集束させ、イオンエネルギーに関する二次飛行時間集束を提供するように調整されている。イオンは、いわゆるシフト方向(ここではX軸)に検出器に向かってゆっくりとドリフトしながら平面ミラー間で多重反射される。繰り返し回数と分解能は、イオン注入角度を変化させることによって調整された。
空間的及び飛行時間集束収束特性を有する平面グリッドレスミラーを備えた「折り返し経路式」MR−TOF MSのNazarenkoの試作品は、シフト方向にイオン集束を行わず、従って反射サイクルが制限されていた。さらに、試作品に使用されているイオンミラーは、折り返しイオン経路の平面を横切る空間イオンの広がりに対して飛行時間集束を行わず、従って、実際には発散し即ち幅が広いビームの使用によって飛行時間分解能が低下し飛行経路の拡張が無意味になる。換言すると、この方式は、満足できる分析装置を提供することができず、従って現実のイオン源で動作する能力を提供できなかった。結局、Nazarenkoの試作品には、イオン源のタイプとMR−TOF MSと様々なイオン源を結合する効率的な方法とを考慮していない。
イオンビームのイオン源のタイプとその空間的及び時間的特性、並びに幾何学的制約は、MR−TOF MSの設計における重要な要素である。単反射TOF MSとの適合性は、イオン源がMR−TOF MSに適合することを必ずしも意味しない。例えば、二次イオンSIMSやマトリクス支援脱離/イオン化MALDI等のパルス化イオン源は、TOF MSと極めて適合性が高く、そのような機器の特徴は、高い分解能と空間的イオン発散によって生じる中程度のイオン損失である。MR−TOF MSへの切り換えは新しい問題を引き起こす。一方、そのようなイオン源のパルス化した性質は、パルスをイオン化する周波数が調整可能なのでMR−TOF MS内の飛行時間を拡張するのに適している。他方、飛行時間拡張の制限因子はMALDIイオンの不安定性である。
エレクトロスプレー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)、電子衝撃(EI)、化学物質のイオン化(CI)、光イオン化(CI)、又は誘導結合プラズマ(ICP)等の気体イオン源は、安定したイオンを生成することで知られているが、これらは、米国特許第6,331,702号と第6,504,150号に記載された最近紹介されたガス充填MALDIイオン源の場合のように、本質的に連続したイオンビーム又は準連続イオンビームを生成する。連続イオンビームをイオンのパルス化したパケットに効率的に変換する直交イオン加速方式(o−TOF MS)(US5070240号と第WO9103071号、及びソビエト特許SU1681340を参照)の紹介後に、TOF MSは、連続イオン源と首尾良く結合され、後に準連続イオン源と首尾良く結合された。衝突冷却イオンガイド(US4963736)と組み合わされた気体イオン源は、TOF MSの軸に沿った低速拡散を有する冷イオンビームを生成し、これは、10,000を超える高いTOF分解能を達成するのに役立つ。しかしながら、MR−TOF MSを使用すると、直交加速デューティサイクルが低下し、従って感度が低下する。
米国特許第6,107,625号は、o−TOF MSの分解能のさらなる向上が、いわゆる「ターンアラウンドタイム(turn-around time)」によって主に制限され、飛行経路の拡張によって分解能が改善されることを示唆している。この’625特許は、図3に示したような、イオンミラーと複数の偏向器を組み合わせた直交加速器によって、外部ESIイオン源を「同軸反射」MR−TOF MSに結合することを示唆している。連続イオンビームのサンプリングを改善するために、インタフェースは、まばらなイオンパルス間でイオンを蓄積する線形イオントラップを使用する。Melvin Parkらは、ASMS 2001,www.asms.org,MR−TOF MSでの原稿の「Analytical Figure of Merits of a Multi−Pass Time−of−Flight Mass Spectrometer」と題する論文の中で、長さ約1メートルの機器内で6回の反射サイクルを使用して60,000の分解能を照明した。しかしながら、グリッドを有するイオンミラーの使用によって大きなイオン散乱とイオン損失が生じた。同軸反射MR−TOF MSは、分解能を改善したが、それに比例して質量範囲を狭めた。
また、直交注入を備えたESIは、折り返しイオン経路によってMR−TOF MSに結合された(EP1237044 A2と、J.HoyesらによるASMS2000の原稿「A high resolution Orthogonal TOF with selectable drift length」www.asms.orgを参照)。この発明は、直交イオン源と検出器の間に更に別の短い反射板を導入することによって、既存の市販のo−TOFを二重反射機器に変換することができる。連続イオンビームのエネルギーは、イオン反射回数を制御する。「折り返し」MR−TOF MSは、十分な質量範囲を保ち、分解能をかなり改善するが、直交加速器内へのイオンサンプリングのデューティサイクルと幾何学的効率を低下させ、さらに両方のイオンミラーのメッシュを通過するたびにイオン損失と散乱を引き起こす。
上の2つの例から、従来の直交加速が、MR−TOF MSにおいて、特に拡張された飛行時間で非効率的であることが分かる。連続イオンビームからのパルス化したイオンサンプリングを改善する試みには、B.M.Chienらによる論文「The design and performance of an ion trap storage−reflectron time−of−flight mass spectrometer」International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes 131(1994)149−119の三次元イオントラップ(IT)、US5763878、US5847386(図29〜図31)、US6111250(図29〜図31)、US6545268、及びWO9930350の線形イオントラップ(LIT)、又はデュアルLIT(GB2378312)、及びA.Lucaらによる論文「On the combination of a linear field free trap with a time−of−flight mass spectrometer」Rev.Sci.Instrum.V.72,#7(2001),p2900−2908のリングイオントラップのような、主に高周波(RF)トラップ内のイオン蓄積を使用する多数の試みがある。これらの解決策は全て、放出されたイオンパケットの時間的かつ/又は空間的な広がりを損なうので、単反射TOF MSに好ましい方法は相変わらず直交注入である。US6020586の中間的方式では、イオントラップ段階と直交加速の両方を組み合わせた幾つかのトラップ機能が使用されている。低速のイオンパケットが、蓄積イオンガイドから同期直交加速器内に周期的に放出される。この方式は、従来のo−TOF MSよりも感度を高めるが分解能と質量範囲を多少犠牲にする。この機構は、M.Parkによる既述の参考文献では、同軸MR−TOF MSに結合されていた。しかしながら、そのような機器は十分な質量範囲を提供しない。更に、連続イオンビームのTOF MS及び特に多重反射TOF MSに十分に適したイオンパルスへの変換を改善することが望ましい。
多重反射TOFは、また、著者の一人の同時係属出願(WO2004008481)でタンデム型質量分析計に使用されている。遅いMR−TOF MSが、ミリ秒時間スケールで親イオンの低速分離に使用され、短い直交TOFが、マイクロ秒時間スケールでフラグメントの高速質量分析に使用される。MR−TOF MS内の飛行時間分離を損なうことなくイオンをフラグメント化するために中間に高速衝突セルが使用される。この方式は、新規な品質を提供し、並行又は「多次元」MS−MS分析を可能にし、複数の親イオンのフラグメントスペクトルが混合なしに同時に取得される。この方式は、親イオンがシフト方向に広がるという欠点を有し、この欠点により、分析計のアクセプタンスが厳しく制限され、イオン源から来るイオンビームの発散を小さくしなければならない。MR−TOF MSのアクセプタンスをさらに高めることが望ましい。
即ち、従来技術のMR−TOF MSは、実質的に拡張された飛行経路に沿ってイオンビームを一定に保持する空間的及び飛行時間集束機能を備えていない。ほとんどの参考文献は、イオン源との適合性及びタンデム型質量分析計における有用性を検討することなくMR−TOF分析装置について説明している。実際には、既知のMR−TOF分析装置の制限されたアクセプタンスは、そのような結合を厳しく制限し、実質的に延長された飛行経路においてイオン損失を引き起こすことが予想される。MR−TOF MSを連続イオン源に実際に結合するために幾つかの言及があり、分解能の大幅な改善が実証されている。しかしながら、分解能は、感度の低下を犠牲にして得られ、同軸反射の場合には、質量範囲の縮小を犠牲にして得られる。従って、本質的に連続又は準連続なイオン源で動作し、また1組の主な分析特性、即ち感度、質量範囲及び分解能がo−TOFよりも優れたTOF質量分析計が必要である。また、TOF MSをタンデム型質量分析計に結合する優れた機構が必要である。
発明者は、
(A)ドリフト空間内に、シフト方向の集束を提供する周期的な1組のレンズを使用し、
(B)エネルギーに関する既知の空間イオン集束と飛行時間集束だけでなく、空間的広がりに対する新規な飛行時間集束も可能にする、少なくとも4個の電極を備えた平面ミラーの幾何学的配置を使用することによって、二次元平面ミラーを備えたMR−TOF MSのアクセプタンスと分解能を 実質的に高めることができることが分かった。
発明者は、更に、本発明のMR−TOF MSの改善されたアクセプタンスによって、MR−TOF MSをイオン蓄積装置を介して連続イオン源に効率的に結合できることが分かった。 連続的に到達するイオンが、イオンガイド、IT、LIT、リングイオントラップ等の蓄積装置に蓄積されその蓄積装置からパルスで放出され、従って、o−TOF MSよりもまばらなMR−TOF MSの密度の低いパルス間のイオンの無駄がなくなる。
本発明のMR−TOF MSは、以下のような理由で、従来技術よりも優れたイオン光学的特徴の有利な組み合わせを提供する。
・「折り返し」機構の特性である全質量範囲を有する。
・ミラーがグリッドレスなのでメッシュ上のイオン損失がない。
・低い周波数のパルスイオン放出でイオントラップ内にイオンを蓄積することによって連続イオンビームを効率的に消費する。
・分析装置がシフト方向の周期的レンズによる空間的集束と折り返しイオン経路の平面を横切るミラーによる空間的集束とを有するので、そのようなトラップによって生成される幅広いイオンビームを受け入れる。
・エネルギーと新規のイオンパケットの空間的広がりに対する高次飛行時間集束を提供することによって分解能を改善する。
・適切に閉じ込められたイオンビームの多重反射における折り返し経路を使用することによって、飛行時間の拡張によるイオンパケットの長いターンアラウンドタイムを許容し、その結果、様々なイオントラップからのイオン蓄積とパルス化を有する方式を許容する。
・飛行時間が長くなると別の利点が生じ、即ち検出器とデータ収集システムがより低速で安価になり、この両方は現在、TOF質量分析計の極めてコストの高い部品である。
本発明は、MR−TOF MS機能に全くの新規性を導入し、即ち、好ましくは整数の折り返しごとにイオンシフトに対応する周期でドリフト空間内に最適に位置決めされた複数のレンズを導入する。この周期的なレンズは、ビームの集束を可能にし、従って拡張された折り返しイオン経路に沿ったイオンの安定閉じ込めを保証する。1組のレンズはMR−TOFに新規な品質をもたらし、極めて多数回の反射の後でもビームの空間的及び角度的な広がりが制限されたままである(実際には、シフト方向の反射を使用する場合にも達成される)。更に、イオン光学シミュレーションを使用して、発明者は、新規なMR−TOF内のイオンの動きが、幾何学的配置の誤差、ポンプとゲージの漂遊電界及び磁界、並びにイオンビーム自体の空間電荷のような様々な外部歪みに効率的に耐えることを発見した。MR−TOFは、ポテンシャル溝内のトラップと類似のそのような歪みにもかかわらず、イオンを主軌道の近くに戻す。周期的レンズの機能によって、イオンビームの確実な完全伝達と共に、拡張飛行経路を有するMR−TOF MSのコンパクトなパッケージングが可能になる。
レンズの同調によって、焦点距離Fが半反射又は全イオン折り返しの4分の1(P/4)の整数倍(F=N*P/4)と一致するときに達成されるシフト方向の周期的で繰り返し可能な集束が可能になる。最も密な集束はF=P/4のときに生じる。そのような密な集束は、折り返し1回当たりのシフトを最小にして機器をコンパクトにするのに有利である。そのような密な集束レンズの条件下でも、折り返し1回当たりのイオン経路が比較的長いので、レンズは弱いままであり、従って、折り返しイオン経路の平面における空間的広がりに矯正不可能な飛行時間収差はさずかしか導入されないことが重要である。実質的にイオン経路の平面を横切って延長された平面レンズは、異なる方向に集束するので、イオンミラーと周期的レンズによる空間的集束の同調が完全に独立であるという利点を有する。更にまた、そのようなレンズは、側方の極板の非対称電圧を使用することによって操縦を実現することができる。
本発明は、更に、シフト方向の反射を使用することによって飛行経路長を更に長くすることができる。そのような反射は、例えばミラー間のドリフト空間内でシフト経路の側に配置された偏向電極によって達成することができる。偏向電極は、イオンゲーティングを可能にするように常時に又はパルスモードで動作することができる。1回の反射は質量範囲に影響しないが、シフト方向の多重反射により飛行経路を更に延長するには質量範囲が犠牲になる。また、偏向電極を使用して分析装置をバイパスしてイオンをレシーバ内に向けることができる。
本発明のミラーの新規な集束特性は、ミラー間の固有距離の選択と電極電位の調整によって提供される。そのような調整の結果として、イオンエネルギーの三次飛行時間集束と、折り返しイオン経路の平面を横切る空間イオンの広がりに対する二次飛行時間集束と、前記平面を横切る空間的集束が得られる。発明者は、高次飛行時間収差の除去が、組立欠陥並びにドリフト長と電極電位のある程度のばらつきに対して安定していることが分かった。従って、1個の電極電位だけを調整し、実際には1つのパラメータ即ちイオンエネルギーに関するイオン飛行時間の線形従属性を変化させながら、新規のMR−TOF MSの同調によって高い解像力を得ることができる。
前述の集束特性は、例えば実質的にシフト方向に延長された厚い正方形フレームからなる平面4電極ミラーで実現される。また、スロット付きの薄い極板、バー、シリンダ又は湾曲電極を使用することによって、所望の電界構造を作成することができる。プリント回路基板を使用して二次元ミラーのエッジを効率的に終端して、MR−TOF MSの全物理長を短くすることができる。電極を更に多くすると、ミラーパラメータが更に改善される可能性が高いが、システムが複雑になる。
好ましいモードにおいて、イオン源とイオン検出器は、ミラー間のドリフト空間内に配置される。そのような構成では、折り返しイオン経路はミラーエッジから遠いままであり、ミラーを静止モードで操作してMR−TOF MSのより高い安定性と質量精度を達成することができる。しかしながら、本発明は、MR−TOF MSを外部イオン源又はイオンレシーバと結合しビームがミラーエッジのフリンジ電界内を通るのを防ぐために、外部ソースからのパルスイオン入射又はイオンミラー内のイオン放出と適合している。
本発明は、MALDIやSIMSのようなパルスイオン源、衝突冷却を備えたMALDIのような準連続イオン源、並びにESI、EI、CI、PI、ICP等の本質的に連続なイオン源、又はタンデム型質量分析計のフラグメント化セルを含む様々なイオン源に応用可能である。連続又は準連続イオン源は全て、イオンガイドで動作することが好ましい。
前述のように広いアクセプタンスを有するので、本発明のMR−TOF MSをイオン蓄積装置と共に使用し、密度の低い加速パルス間のイオン損失を防ぐことができる。そのようなイオン蓄積は、イオン源自体内又はMR−TOF MSの加速器内に組み込まれるイオンガイド、RFチャネル、リング電極トラップ、ワイヤガイド、IT又はLITを含む様々な種類のガス充填高周波(RF)蓄積装置内で行うことができる。本発明は、以下のいずれかを使用する。
・イオン蓄積装置からの軸方向又は直交方向の直接加速。
・二重加速機構。連続パルス加速によって蓄積装置から低速イオンパルスが軸方向又は直交方向に放出され、そのような加速器は、直流(DC)加速器として又はRF伝送モードとDCパルスモードを切り換えるRFイオンガイドとして作成することができる。
・二重蓄積機構。低速イオンパルスが、第1の蓄積トラップから放出され、通常はさらに低いガス圧で動作する第2のトラップに入れられる。また、第2の蓄積装置からのイオン放出は、軸方向と直交方向のどちらに行われてもよく、軸方向又は直交方向の追加の加速器を介して行われてもよい。
イオンパケットのパラメータの幾つかの妥協点は、新規のMR−TOF MSの飛行経路の実質的な拡張と広いアクセプタンスのために受け入れ可能である。
本発明の好ましい実施形態は、後者、即ち二重イオン蓄積装置のより複雑であるが有利な方式を使用する。イオンガイドは、両方の蓄積装置に好ましい選択である。追加の組のパルス電極を使用することが好ましく、その電界は、第2のイオンガイドのイオン蓄積領域内によく浸透し、短いターンアラウンドタイムで軸方向の高速イオン放出を可能にし、同時に全く均一な加速電界と適度のイオン発散を提供する。本発明は、直交加速方式と比べて、連続イオンビームをほとんど完全に利用することができる。ターンアラウンドタイムの多少の増大は、飛行経路の拡張によって補われる。
本発明は、イオンガイドと開放リング電極を備えた三次元イオントラップとからなる複合イオントラップ等の幾つかの新規のイオン蓄積装置を提案する。細分化された類似物のシミュレーションによって、MR−TOF分析用のイオンを作成するためのそのようなトラップの実現可能性が証明された。別の新規の装置は、補助電極を備えた線形イオントラップを含む。イオントラッピングと軸方向放出は両方とも、別の組の電極の電圧をパルス化しその電極のRF信号をなくすことによって達成することができる。
本発明は、より強力なイオンパルスを提供すると予想され、その結果、イオン検出器のダイナミックレンジと寿命が重要な問題になる。当技術分野において、イオン蓄積、質量分離、又は検出の段階でのイオン抑制を含む多数の解決策が知られている。既知の戦略には、望ましくないビーム成分のイオン強度又は質量フィルタリングの自動的調整がある。ダイナミックレンジは、データ収集のために二次電子増倍管(SEM)とアナログディジタル変換器(ADC)を使用することによって強化される。本発明の特質は、長いパルス持続時間にあり、帯域幅を低くでき、前述の問題の解決が多少容易になる。
この機構は、連続又は準連続イオンビームの完全利用、並びにR〜100,000の範囲の改善された分解能を提供する予想される。MR−TOF MSは、独立機器として、又はLC−MS又はMS−MSタンデムの一部分として使用され、まず親イオンの任意の既知の質量分離器と任意の既知の種類のフラグメンテーションセルと組み合わされた第2のフラグメントイオン分析装置として期待される。
また、本発明のMR−TOF MSは、タンデム型質量分析計の構成において第1の分離質量分析計として使用することができる。MR−TOFを使用する利点は、著者の1人による同時係属特許において明らかになる。同時係属発明は、フラグメント分析用の高速のTOF2と組み合わせたイオン分離用の低速のTOF1を使用することを提案する。この構成により、イオン源からの1つのパルスで複数の前駆体の並行分析が可能である。本発明は、特に、MR−TOF MS内の長い分離を可能にし、さらにイオンビームの低いエネルギーと中程度のエネルギーでの分離、ビームの密な集束、及びイオンビーム位置の正確な制御を可能にし、これらは、ビームをフラグメンテーションセル内に導くときに有効である。
また、質量分光分析の両方の段において、MR−TOFの強化された伝送と強化された分解能を使用することができる。この場合、第2のショルダーにおける延長された飛行時間は、時限イオンセレクタによる単一の前駆体の選択を必要とし、これにより並行MS−MS分析の可能性が失われるが、その代わりにMS−MS分析の高い特定性、分解能及び質量精度が提供される。多段MSn分析は、単一のMR−TOF分析装置を備えた機器で行うことができる。例えば、衝突セルがイオンの流れの方向を戻し、時限イオンセレクタがMR−TOFとフラグメンテーションセル間で使用される場合は、同じ分析装置を親イオン分離と娘イオン分離の両方と孫イオン分析に使用することができる。イオンは、MR TOF分析装置と衝突セルの間を往復される。
並行MS−MS分析と高分解能MS−MS分析の両方の形態は、好ましくは両方のMR−TOFの飛行経路と加速電圧を調整することによって単一の汎用機器で達成することができる。第1の分析装置内の電圧を下げ(イオンビームをパルス偏向し、より少ない数の反射を使用することによって)、第2の分析装置内の飛行経路を短くすることにより、そのような汎用性が提供される。
本発明のMR−TOF MSの利用は、極めて幅広い種々な装置及び方法にわたる。例として、MR−TOF MSは、様々なタイプのクロマトグラフィにおける任意の事前試料分離或いは任意のタイプの外部質量分析計又はイオン移動度分光計における質量分光分離と組み合わせることができる。同様に、様々な実施形態における様々なガス充填蓄積装置とガス充填フラグメンテーションセルを、ガスイオン反応器に変換することができる。そのような反応器は、例えばICP法でイオン−分子反応器を使用して同位体感度を高めるために有効であり、電荷削減又は選択的フラグメント化のために多価イオンと逆極性のイオンとの間のイオン−イオン反応器を使用することができ、従って、そのような反応器は、多価イオンの電子捕捉解離に使用することができる。
本発明をより完全に理解するために、次に添付図面を参照する。
本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、より詳細には多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を含む装置に関する。より具体的には、本発明は、ドリフト空間内の周期的な1組のレンズと組み合わせたミラー電極の新規な配列及び制御を使用することによって、平面のグリッドレスのMR−TOF MSの分解能と感度を改善する。本発明のMR−TOF MSは、空間的及び時間的集束が改善されるので、拡張された折り返しイオン経路に沿ったイオンビームのアクセプタンスが広くなり閉じ込めが確実になる。その結果、本発明のMR−TOF MSをイオン蓄積装置を介して連続イオン源に効率的に結合することができ、それにより、イオンサンプリングのデューティサイクルが節約される。本発明のMR−TOF MSは、タンデム型質量分析計において、二次元並行MS−MS分析と縦続の第1の低速セパレータとして、或いは両方の分析段でMR−TOF MSを使用するタンデムとして使用するように提案される。
図1は、WollnikらのGB特許第2080021号(このGB特許の図3と図4)による従来技術の多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を示す。飛行時間型質量分析計において、ソース12から様々な質量とエネルギーのイオンが放射される。コレクタ20までのイオンの飛行経路は、ミラーR1,R2,...Rnによってイオンを多重反射するように調整することによって折り返される。ミラーは、イオン飛行時間がイオンエネルギーに依存しないようなものである。この特許は、軸方向に対称的な複数のイオンミラーの2つの幾何学的配置を示す。両方の配置において、イオンミラーは、2つの平行な平面IとIIに配置され、イオン経路の表面に沿って位置合わせされている。1つの配置において、面は平面であり、もう1つの配置では円筒である。イオンがイオンミラーの光学軸に対して斜めに移動し、それにより追加の飛行時間収差が生じ、従って高分解能の達成がかなり複雑になることに注意されたい。
図2は、ロシア特許第SU1725289号に記載されているNazarenkoらによる試作品の「折り返し経路」MR−TOF MSを示す。この特許のMR−TOF MSは、2つのグリッドレス静電ミラーを有し、ミラーはそれぞれ、一方のミラーの3個の電極3、4及び5と、他方のミラーの6、7及び8からなる。各電極は、「中央」平面XZに対して対称的な1対の平行極板「a」と「b」からなる。ソース1とレシーバ2が、前記イオンミラーの間のドリフト空間内にある。ミラーは、複数回のイオン反射を提供する。反射回数は、イオン源を検出器に対してX軸方向に移動させることにより調整される。この特許は、Y方向の空間イオン集束とイオンエネルギーに対する二次飛行時間集束を達成する、イオン折り返しごとに達成されるタイプのイオン集束について説明する。
試作品がシフト方向にイオン集束を実現せず、従って反射サイクル数が実質的に制限されることに注意されたい。また、Y方向の空間イオンの広がりに対する飛行時間集束を提供しない。従って、試作品のMR−TOF MSは、分析装置の幅広いアクセプタンスと、従って実際のイオン源を処理する機能を提供できない。最終的に、この試作品は、イオン源のタイプとMR−TOF MSを様々なイオン源に結合する効率的な方法とを考慮していない。
図3は、M.ParkのUS6107625による従来技術の「同軸反射」MR−TOF MSを示す。この発明は、互いに軸方向に位置決めされた2つの静電反射板34と38を含み、その結果、イオン源32によって生成されたイオンを反射板の間で左右に反射させることができる。第1の反射装置34は、直交加速器の機能とイオンミラーの機能を兼ね備えている。複数回のイオン反射の後で、どちらかのミラーを素早くオフにして、イオンが反射板を通過してイオン検出器36に達することを可能にする。この特許は、連続イオン源をMR−TOF MSに結合する方法を教示している。記載された装置は、実際に、小さいサイズの機器において高い分解能を達成する。しかしながら、使用されている「同軸反射」方式によって、質量範囲が大幅に縮小し、連続イオンビームからのイオンサンプリングのデューティサイクルが低下する。メッシュは実質的なイオン損失を引き起こす。デューティサイクルは、イオン源への蓄積線形イオントラップ(LIT)の導入後に著者による後の研究で改善される。
図4は、本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の概略を新規な周期的レンズの詳細と共に示す。MR−TOF MS11は、内蔵加速器13を備えたパルスイオン源12と、イオンレシーバ16と、互いに平行でかつここではY軸で示した「シフト」方向に実質的に延長された2本1組のグリッドレスイオンミラー15と、前記ミラー間の無電界空間14と、前記ドリフト空間内に位置決めされた1組の複合レンズ17とを含む。
前述の要素は、イオン源12とイオンレシーバ16の間に折り返しイオン経路19を提供するように調整され、前記イオン経路は、イオンミラー15の間の多重反射とシフトY方向へのイオンドリフトとの組み合わせからなる。このシフトは、入ってくるイオンパケットのX軸に対する機械的又は電子的なわずかな傾きによって調整される。レンズ17は、整数回のイオン反射ごとのイオンシフトに対応する周期でY軸に沿って位置決めされる。好ましい実施形態は、シフトY方向にレンズ17によって新規のイオン光学特性即ち周期的集束を提供し、平面グリッドレスイオンミラーによって提供される直交Z方向の周期的空間的集束を補うことによって、MR−TOF MSのアクセプタンスを大幅に強化する。本発明の特別に設計されたイオンミラーによる改善されたそのようなイオン光学特性並びに飛行時間集束について以下で詳細に説明する。
周期的レンズの組み込みは、MR−TOF MSにおいて完全に新規な特徴であり、これにより、主ジグソー折り返しイオン経路に沿ったイオンの安定保持が提供される。レンズの同調により、焦点距離Fが完全イオン折り返しの半反射又は4分の1(P/4)の整数倍即ちF=N*P/4のときに達成されるシフト方向への周期的な繰り返し可能な集束が可能になる。最も密な集束は、F=P/4のときに起こる。そのような密な集束は、1折り返し当たりのシフトを最小にして機器を小型にするのに有利である。そのような密な集束の条件下でも1回の折り返し当たりのイオン経路長が比較的長いためレンズは弱いままであり、従ってレンズは、折り返しイオン経路の平面におけるイオンの空間的な広がりに対して矯正不可能な飛行時間収差を少ししか導入しないことが重要である。即ち、レンズは、実質的にイオン経路の平面を横切って延長され、折り返しイオン経路の平面を横切りかつその平面においてそれぞれイオンミラーとレンズによる完全に独立した空間的集束の同調の利点を提供するレンズであることが好ましい。また、そのようなレンズは、側方の極板に非対称的な電圧を使用することによって操縦を実現することができる。
1組の周期的レンズはMR TOFに新規の品質をもたらし、従ってイオンビームは、極めて多数の反射の後でも閉じ込められたままである(実際には、シフト方向の反射を使用する場合に達成される)。更に、イオン光学シミュレーションを使用することにより、発明者は、新規のMR−TOF内のイオンの動きが、幾何学的配置、表面の漂遊電界及び磁界、ポンプ及びゲージの不正確さ、並びにイオンビームの空間電荷のような外部歪みに効率的に耐えることを発見した。MR−TOFは、そのような歪みに関わらずイオンを主軌道の近くに戻す。この効果は、ポテンシャル井戸内のトラッピングと等価である。周期的レンズの機能により、イオンビームの確実な完全伝達と共に、拡張飛行経路を有するMR−TOF MSのコンパクトな実装が可能になる。
図4は、また、同じ好ましい実施形態の側面ビュー21と、好ましいMR−TOF MSの分析装置内の軸方向の電位分布22を示す。ミラー15は、XY平面に対して対称的であり、互いに同一であることが好ましいが必ずしもそうでなくてもよく、即ちYZ平面に対して対称的である。ミラー15は、1つのレンズ電極15L、2個の電極15E、及び1つのキャップ電極15Cを含む少なくとも4個の電極と、更にドリフト空間14の特別に形成された縁とで構成されることが好ましい。前述のように、ミラーは、実質的にシフト方向に延長され、折り返しイオン経路19の領域のまわりに二次元静電界を形成する。
本発明におけるミラーの新規の集束特性は、ミラー間の固有距離と電極電位の調整を選択することによって提供される。発明者は、これらのパラメータを、導関数の組み込み計算とまた組み込み自動最適化ブロックによるイオン光学シミュレーションによって求めた。そのような独自のプログラムを処理することによって、発明者は、最適化アルゴリズムの幾つかの一般的傾向とイオンミラーのイオン光学特性に対する幾つかの重要な要件を公式化した。例えば、2つの同一ミラーを備えた対称的MR−TOF MSの場合、各ミラーは、次のような5つのパラメータを独立に同調させるために少なくとも4個の電極を備えていなければならない。
a)3つのパラメータ(最適には、2つの電極電位とミラー間のドリフト長)は、エネルギーに関する周期的な(各反射後の)三次飛行時間集束を提供するように選択され、従って、同調により、イオンエネルギーに関するイオン飛行時間の1次導関数、二次導関数、及び三次導関数をなくすことができる。
b)1つのパラメータ(最適には、ドリフト空間に最も近い「組み込みレンズ」電極の電位)は、折り返しイオン経路の平面を横切るいわゆる「パラレルツーポイント(parallel-to-point)」の空間的集束を実現する。この用語は、ドリフト空間の中間で始まる平行なイオンパケットが、折り返しの半分後に点に集束され、完全に折り返した後で平行なイオンパケットに戻ることを意味する。この集束は、パケットのイオンも同調点の近くでイオン経路の平面と交差するように調整されると有利である。
c)残り1つのパラメータは、折り返しイオン経路の平面からずれた初期イオンに関する前述のイオンパケットの飛行時間の二次導関数をなくすように調整される。
両方の条件(b)と(c)が満たされた場合は、ミラー配置の対称性によって、それぞれの完全折り返しの後、即ち偶数回の反射の後で、初期座標上の二次までの全飛行時間収差と折り返しイオン経路の平面を横切る角度的広がり(angular spread)とが自動的に除去される。
発明者は、高次飛行時間収差の除去が、組み立て不良及びドリフト長と電極電位のある程度のばらつきに対して安定していることが分かった。従って、1つの電極電位だけを調整し、実際には1つのパラメータ、即ちイオンエネルギーに関するイオン飛行時間の一次従属性を変化させながら新規のMR−TOF MSを同調させることによって高い解像力を得ることができた。
図5は、前述の高次空間及び飛行時間集束を実現する本発明のMR−TOF分析装置の幾何学的配置と電圧の特定の例を示す。ビュー23は、寸法が長さLの典型的な電極に規格化された特定の4電極ミラーの寸法を示す。ミラーの電極は、レンズ電極が15L、2つの中間電極が15E、キャップ電極が15Cで示されている。同様に、ビュー24は、ドリフト空間とミラー全体の寸法を示し、ビュー25は、同じ特定のMR−TOF MSの電極の電位を示す。この電位は、イオンビームの公称エネルギーEに規格化される。分析装置は、図4のビュー22に示したものと類似の軸方向のポテンシャル分布を形成する。
イオンミラーの細長い二次元構造は、様々な形状の電極を使用して構成することができた。図5のビュー26は、長方形フレーム、細長いスロットを備えた薄板、角棒、並びに平行ロッドや湾曲電極、円錐、双曲線等によって形成された図示していないタイプを含むいくつかの可能なタイプの電極の幾何学的形状を示す。発明者は、また、二次元未満の形状の電極を使用して所望の電界構造を合成できると予想する。
二次元電界構造を保つには、境界問題の特別の処理が必要である。電界構造の歪みを回避するために、ミラーは、折り返しイオン経路の全シフトよりも長く作成されるか、若しくは例えばミラー電界の等電位曲線の形状を繰り返す電極形状を有する微細構造のプリント回路基板(PCB)30のような特殊な装置を使用する。本発明のイオン光学シミュレーションで、レンズのエッジの幅だけを調整することによって、フリンジ電界浸透を大幅に減少させることができることが分かった。例えばレンズ電極15Lのリブとして追加のエッジ電極を導入することによって同等の結果を得ることができる。
図6は、本発明の好ましい実施形態のMR−TOF分析装置内でのシフト方向へのイオン反射によるイオン経路拡張の図と原理を示す。以前の番号を使用して示した標準的な構成要素の他に、実施形態31は、操縦装置32及び33と、任意のインラインイオンレシーバ34を含む。入射イオンパケット35は、追加の検出器34上に偏向されてもよく、或いは折り返し経路36に沿ってMR−TOF MS内に向けられてもよい。シフト軸Yの他端において、第2の操縦装置33が、軌道38に沿ってイオンレシーバ16上にイオンを放出してもよく、或いはイオンパケットを折り返しイオン経路37に沿って再びMR−TOF MS内に向けてもよい。
動作において、特定の状況において、入口操縦装置32がオフにされ出口操縦装置33が常にオンにされているとき、MR−TOF MSは、非繰り返し折り返しイオン経路を維持し、従って質量分光分析の全質量範囲を維持し、飛行経路を2倍する。入口操縦装置を使用して分析装置を常にバイパスすることができる。これらの機能は、MR−TOF MSがタンデム型MSのイオンセパレータとして使用されバイパス機能がタンデム形態とMSだけの形態の間の切り替えを可能にする同時係属特許において有用であると思われる。
この操縦装置を使用して、繰り返し周期的折り返しイオン経路にイオンパケットを通すことができ、飛行経路の延長は、質量範囲の比例縮小と、特定の用途の要件に基づいて行われる妥協とを伴う。この場合、操縦装置32は、分析質量スペクトルの所望の部分を選択するイオンゲートとしても使用されることがある。
ドリフト方向の反射を使用している間に分析装置全体の幾何学的制約とミラーエッジのフリンジ電界が重要になることがある。この問題の回避方法は、イオンビームをイオンミラーに通し、より具体的にはイオンビームをミラーキャップ電極15Cのスリットに通すことである。次に、ミラー15は、点線で示したように例えば別の電極を追加することによって拡張することができ、またパルスモードで断続させなければならない。
また、図6に操縦装置の特定の例41を示す。操縦装置41は、1組の平行な極板42〜46を含み、極板42は接地されている。装置は、平面偏向板と平面レンズの特徴を兼ね備える。装置は、極板44と45の電圧を同調させることによって2つの機能を切り替えることもでき或いは2つの機能を同時に兼ね備えることもできる。装置は、周期的構造のレンズへの組み込みを可能にする。この場合、ドリフト方向へのイオンの集束及び/又は反射の両方のためにそれぞれ個別のセルを使用することができる。偏向板は、イオンのゲーティング、狭い質量範囲の選択、複数の前駆体又は複数の質量ウィンドウの同時分析を可能にするように、常時に又はパルスモードで動作することができる。また、偏向器が、変化を受けないミラー電界(図示せず)の境界内にウェルを留める閉ループイオン軌道を作成できるので、レンズと偏向器のフレキシブルな切り換えは有用であり、同時にフリンジ電界の問題を克服できる。
イオン偏向を導入すると飛行時間分解能が低下し、従って、これは、一般に、MR−TOF MSの分解能の改善ためではなくイオン操作と飛行時間の延長に使用される。
例えば、典型的なエネルギー広がりが5%でビームの位相空間がビーム経路と垂直な両方向に10πmmミリラドの場合、L=25mmの本発明のMR TOF MSのイオン光学シミュレーションにより、レンズの最大焦点距離が全ビーム折り返し(2回反射)の長さと等しいモードにおいて、偏向器を使用せずに100,000の質量解像力(FWHM)が達成可能であることが予測される。レンズと偏向器の追加使用により生じる最も密な集束の場合、この解像力は、30,000まで低下すると予測される。しかしながら、飛行時間が延長されているので、この値は、同じ解像力を有する従来のTOF MSよりも厳密でない値のイオンターンアラウンドタイムで達成できることに注意されたい。
これで、本発明のMR−TOF MSの説明を完了し、新規のMR−TOF分析装置が、イオンビームの空間的及び時間的な広がりに対するより高い許容範囲を有することに特に注意されたい。新規の分析装置は、幾何学的なイオン損失を生じることなく飛行時間の延長を可能にする安定したイオンビーム閉じ込めを実現する。飛行時間の拡張により、TOF分解能が向上し、パルスイオン源に現われるイオンターンアラウンドタイムの影響が減少する。また最終的に、本発明のMR−TOF MSは、初期イオンビームの空間的広がりに対して高次飛行時間集束を提供し、即ち飛行時間分解能を低下させることなくより幅の広いビームを受け入れることができる。一方、飛行時間の拡張により、連続イオンビームからのイオンサンプリングの効率が低下する。本発明は、二次イオン質量分析計イオン源(SIMS)又はマトリクス支援型レーザイオン化(MALDI)などのパルス化イオン源に使用することができるが、励起イオンの長期安定性が障害になることがある。そのようなイオンの安定性は、パルス化されたガス供給源からのガス制動によって改善することができる。そのようなイオンがパルス化され加速された場合でも、イオンパルスの持続時間は、イオン源をパルス化されるように考慮するために長くなる。この矛盾は、本発明の別の重要な特徴、即ちエレクトロスプレー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、電子衝撃(EI)、化学イオン化(CI)、光イオン化(PI)、誘導結合プラズマ(ICP)、ガス充填MALDIのような連続又は準連続イオン源、並びにタンデム型質量分析計のイオンガス反応セル又は衝突セルへのイオン蓄積及びパルス放出の組み込みによって解決される。
本発明は、MR−TOF MSの拡張飛行時間に対応する、連続イオンビームの蓄積と低い周波数におけるパルス化イオン放出のためのイオン蓄積段を追加することによって、MR−TOF MS内へのイオンサンプリングの効率を大幅に改善する。そのようなイオン蓄積は、イオン源自体又はMR−TOF MSの加速器に組み込まれたイオンガイド、RFチャネル、IT又はLIT、ワイヤ又はリング電極トラップを含む様々な種類のガス充填高周波(RF)蓄積装置において行われる。当該技術の蓄積装置は、イオン制動のためにガス分子との数百回のイオン衝突に十分なガス圧でガス充填される。そのような装置は、イオンの半径方向の閉じ込めのための高周波(RF)電界と、軸方向のイオンの動きを制御する軸方向の静止又は動的な波状電界を使用する。蓄積段は、任意のMR−TOF MSのまばらなパルス間のイオン損失を回避する。
図7Aを参照し、ブロック図レベルの詳細を使用すると、本発明51の好ましい実施形態のMR−TOF MS内のパルスイオン源は、連続的に相互接続された連続イオン源61、蓄積イオンガイド71、第2の蓄積装置81、加速器91を含む。パルスイオン源51は、MR−TOF31に接続される。ブロック図は最も一般的な事例を示し、要素71、81及び91は任意であり、即ち、幾つかの特定の実施形態の範囲内では省略されても組み合わされてもよい。
動作において、連続イオン源61、好ましくはガスイオン源は、イオンガイド71内を送られることが好ましい連続イオンビームを生成する。イオンガイド71は、連続イオンビームを蓄積し、MR−TOF分析装置31に対応する周期で周期的にイオンパケットを放出することが好ましい。そのような放出されたイオンパケットは、直接又は任意選択の第2の蓄積装置81を介して加速器91に渡される。加速器は、高速イオンパケットを連続又はパルスでMR−TOF分析装置に軸方向又は直交方向に注入する。イオンガイド71と第2の蓄積装置81は、三次元イオントラップ、四重極、多重極又はワイヤイオンガイド、RFチャネル、リング電極トラップ、イオンファンネル又は線形イオントラップによって示したような任意のRF閉じ込め及びガス充填装置でよい。
追加の蓄積装置81の主な機能は、第1の蓄積イオンガイド71に蓄積された残りのイオンと異なる条件でイオン雲を作成することである。そのような条件は、イオンビームのガス圧、空間電荷又は質量組成によって、或いは放出電極の構成によって異なることがある。以下の説明に示すように、二重蓄積方式は、よりフレキシブルであり、イオンビームの完全利用と多くの自動調整を可能にする。最も重要なことは、イオンビームをより小さい位相空間で生成し、分析装置によるビームアクセプタンスを改善することである。追加の蓄積装置を使用する利点は、二重蓄積方式を使用する本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の以下の詳細な説明で明らかになるであろう。
図7Bは、ガス連続イオン源の特定の例61B、即ちスプレープローブ62、サンプリングノズル63、サンプリングスキマー64、ポンプ65及び75から成るESIイオン源を示す。ESIイオン源の構成要素と動作原理は、当該技術分野で周知である。検体混合物の溶液をプローブ62から大気圧を有する領域にスプレーする。充満したエーロゾルが蒸発し、それにより検体のガスイオンが形成され、その検体のガスイオンが、サンプリングノズル63によってサンプリングされる。ポンプ65が、余分なガスを数mbarのガス圧まで排気する。更に、イオンがガス流と静電界に支援されたサンプリングスキマー64によってサンプリングされ、連続イオンビーム66が生成され、同時にガスがポンプ75によって排気される。
図7Cは、試料板67、レーザ68、冷却ガス供給源69、及びポンプ75から成るガス冷却機能を備えた準連続MALDIイオン源の特定の例61Cを示す。ガス冷却機能を備えたMALDIイオン源61Bは、パルスレーザ68によって試料板67上の試料を照明しながら検体のイオンを生成する。供給源69は、試料板のまわりに冷却ガスを、約0.01mbar(WO9938185)又は約1mbar(WO0178106)の中くらいのガス圧で提供する。試料板から放出されたイオンは、ガス衝突で冷却され安定化される。イオン安定性は、長い分析時間を使用するのでMR−TOF MS内での使用には特に重要である。イオン運動エネルギー特性と鋭いタイミング特性は、ガス衝突で抑制される。得られるイオンビーム66は、パルスイオンビームではなく準連続イオンビームと見なされる。
図7Dは、中間蓄積イオンガイド71の図を示す。イオンガイド71には、前述のイオン源61Bと61Cが両方とも接続されている。蓄積イオンガイドの特定の例71は、高周波(RF)電圧が供給される四重極ロッド72、1組の補助電極73、出射孔74、及びポンプ75から成る。同じポンプ75が、前に図7Bと図7Cに示されていることに注意されたい。動作において、連続又は準連続イオンビーム66が、イオンガイド71内に導かれる。イオンは、アパーチャ64を介してサンプリングされ、ポンプ75が、余分なガスを排出する。アパーチャ64とポンプ75は、アパーチャ64のガス圧がほぼ等しいので、両方にイオン源がある場合と類似している。イオンは、RFロッド72の間に蓄積され、同時にガス衝突で抑制され、アパーチャ64と74によって減速される。イオンは、RF四重極の軸の近くにDCポテンシャル井戸の底に閉じ込められる。周期的イオンパケット76は、蓄積イオンガイドから加速器91内に直接又は後述する任意選択の第2のイオン蓄積装置81を介してパルス式に排出される。
本発明は、通常と異なるイオン蓄積の機構を使用することができ、補助電極73が、イオンガイド71内の軸方向のDC分布を作り出す。電極73は、静電界がロッド間に効率的に浸透するようにRFロッド72を取り囲む。軸方向のDC分布は、空間的に分散されたイオン蓄積、制御されたイオンサンプリング、及びイオン放出プロセスの適度な持続時間を実現するように時間的に調整され変更される。補助電極73の電圧による操作にはRFロッド72のRF電位による操作が必要ないことに注意されたい。実際に、ロッド72に印加するRF電圧を定常状態に維持し、これによりパルス化したイオンパケットを集束させることが有利である。イオンが軸方向に放出されるので、RF電界が無視できる場合、RF電界は軸方向のイオン速度にほとんど影響を及ぼさない。様々な組の電極に別々のRF信号とパルス信号を印加することにより、電子回路電源の作成が便利りなり容易になることは明らかである。
蓄積イオンガイド71は、好ましくは直交に加速器91に直接結合されてもよい。イオンガイドは、ガスが充填されるので、電極73と74の電位のわずかな変調によってソフトなイオン放出を提供することが好ましい。そのような遅く(数電子ボルトから数十電子ボルト)かなり長い(数マイクロ秒)イオンパケットは、同期された直交加速と適合する。この方式は、従来技術(例えば、US6020586)において全く一般的なので示されていない。パケット76は、ガス充填イオンガイドを高真空で分析装置に適応させる追加の差動ポンピング段を通る。この追加の段は、ほぼ平行なイオンビームを形成するレンズから成る。イオンパケットは、イオンを分析装置に同期的に注入する直交加速器91に入る。低速イオンビームの方向に延長されたスリットを有する平らな電極からなるグリッドレス加速器を使用することが好ましい。MR−TOFのシフト方向に向けられたスリットの明らかに魅力的な方式は、実際には直交配列よりも劣り、イオン源とスリットは、折り返しイオン経路の平面に対して直角に向けられ延長されている。イオンミラーによるイオン集束は、イオンミラーを同調させることにより適切な補償で使用される場合に一次集束を有する周期的レンズよりも空間的広がりに対して高い次数(二次)の飛行時間集束を有することは明らかである。
直交加速器は、本発明のMR−TOF分析装置のドリフト空間内に配置されてもよく、本発明の平面MR−TOF分析装置のミラー(又は、1個のイオンミラーのパルス部分)の1つと組み合わされパルス式に操作されてもよい。従来技術と同様に、蓄積イオンガイドには、イオン質量範囲を犠牲にして直交加速のデューティサイクルを少なくするという長所がある。
図8は、第2の蓄積装置81のブロック図を示す。第2の蓄積装置81は、汎用イオントラップ82、軸方向出射孔88又は直交出射孔86、及びポンプ85とから成る。蓄積装置81は、イオンガイド71、好ましくは蓄積イオンガイドに接続されている。動作において、イオンが、イオンガイド71から汎用トラップ82内に連続又はパルスで放出される。汎用イオントラップは、三次元イオントラップ、四重極内に形成された線形イオントラップ、補助DC電極を備えることが好ましい多重極又はワイヤイオンガイド、RFチャネル、リング電極トラップ、イオンファンネル、或いはこれらの装置の組み合わせでよい。トラップは、ガスがポンプ85によって排出されている状態で約0.1mTorrの低いガス圧に維持されることが好ましい。RF電界及びDC電界とガス制動との複合作用により、イオンは、トラップの出口近くに閉じ込められる。イオンは、蓄積装置82からMR−TOF分析装置に、MR−TOF分析装置のポンプシステムのガス負荷を減少させる働きをする対応するアパーチャ86又は88を介して軸方向87又は直交方向89に周期的に直接排出される。
図9は、軸方向放出器と任意選択の加速器とを備えた二重イオン蓄積のブロック図を示す。任意選択の加速器91は、ポンプ95によって排出されるハウジング97内に配置された1組の電極92から成る。図9の特定の例において、加速器は、ポンプをMR−TOFとハウジングと共有するが、MR−TOF内の真空を高めるために差動式にポンピングされてもよい。パルスイオンビーム89は、第2の蓄積装置81から来て1組の電極92内で加速される。当技術分野において既知の多数のタイプの加速器がある。例として、そのような電極は、ワイヤから作成されてもよく、スリット又はメッシュを有するリング又はプレートから作成されてもよい。これらは、また、イオンビームを閉じ込めるためにRF信号によって供給される電極を含むことがある。イオンは、軸方向94又はイオン注入の方向に対して直交方向93に加速される。加速器は、連続又はイオン注入と同期したパルスモードで動作する。全ての場合において、加速器は、物体平面(object plane)と呼ばれる中間時間集束平面でイオンパッケージが局所的圧縮96を受けるように調整され制御されることがある。
図10は、パルス化された軸方向イオン放出を有する第2の蓄積装置81の特定の機構101を示す。特定の第2の蓄積装置81は、短いロッド拡張部103を備えた1組の多重極ロッド102と出射孔104とから成る。蓄積装置81は、更に、DC加速電極105とアパーチャ106とから成る軸方向DC加速器91と通信する。
動作において、イオンが、イオン源で形成され、中間イオンガイド71を介して連続イオン源又は低速イオンパケットとして来ることが好ましい。第2の蓄積装置81は、蓄積時間1ミリ秒の間にイオン衝突制動にも十分な比較的低いガス圧、例えば0.1〜1mTorrに保持される。ロッド拡張部103は、ロッド102と同じRF信号が供給されるが、少し低いDC(ロッド102よりも10〜50V低い)に保持される。イオンは、出射孔104上の電位を変化させることによって第2の蓄積装置81に周期的に蓄積されパルス放出される。イオン蓄積段で、アパーチャ104は、逆電位に維持され、それにより出射孔103の近くに局所的なDCウェルが形成され、同時にロッド拡張部のRF電界によって半径方向にイオンが閉じ込められる。DCウェルの鋭さは、イオン雲が約0.5〜1mmのサイズになるように調整される。イオン放出段で、アパーチャ104は、(正イオン用に)強い負の電位に引かれ、イオンが軸に沿って第2の蓄積装置81から取り出される。RF電界がオンのままであることに注意されたい。イオンが軸の近くに閉じ込められるので、そのイオンは、軸方向の放出中にRF電界の影響をほとんど受けない。DC加速電極105は、エネルギー収集装置と、イオンパケット107の同時空間的集束用のレンズとして働くことがある。出射孔106は、MR TOF MSポンピングシステムのガス負荷を減少させるために使用されることがある。我々の推定では、イオン雲が約0.5Vを超える空間電荷電位を生成している間は、イオンパケット107のパラメータは、MR−TOF MSにあまり適していない。エネルギーの広がりが0.2電子ボルト、イオン雲の直径が0.5mm、加速度電位が5kV、抽出電界が500V/mmのとき、イオンビームパラメータは、発散が1度未満、エネルギーの広がりが5%未満、1kDaイオンのターンアラウンドタイムが8ナノ秒未満である。
図11は、非蓄積イオンガイドから直交イオン加速を提供する機構111を示す。この機構は、イオントラップ108、非蓄積イオンガイド109、及びDC加速器91から成る。機構111は、様々なタイプのイオントラップとイオンガイドによって実現することができる。図11の特定のイオントラップ108は、DC電極113と出射孔114によって取り囲まれたRF多重極セット112で構成されている。特定の非蓄積イオンガイド109は、電極の1つにスリット117を備えるかRF多重極の電極間に開口部を備えた多重極セット115から成る。多重極115は、必要に応じて、補助DC電極116によって取り囲まれる。イオントラップとイオンガイドの両方の段は、ポンプ85と95によってポンピングされる。
動作において、イオンは、イオン源で形成され、中間イオンガイド71を介して連続又は低速イオンパケットとして来る。イオントラップ108は、蓄積時間1ミリ秒の間にイオン衝突制動にも十分な比較的低いガス圧、例えば0.1〜1mTorrに保持される。イオンは、DC電極113と出射孔114の電位を変調することによって周期的に蓄積され低速イオンパケット(1〜10マイクロ秒)としてイオントラップ108からパルス式に放出される。イオンガイド109の多重極115は、軸方向に広がるイオンパケットの半径方向のイオン閉じ込めを継続するためにRF信号が供給される。イオン注入パルスに対する所定の遅延で、第2の抽出パルスが多重極ロッド115に印加され、任意のパルスが補助電極116に印加されてもよい。多重極115の電位は、所定の位相のRF信号(例えば、ゼロボルトで)でゼロにされ、次に(短い10〜300ナノ秒の「スイッチ」遅延後に)所定のパルス電位に切り換えられて、多重極ロッド間又はロッドの1つのロッドのスロット117内のイオンバンチング(ion bunching)とイオン抽出が実現される。次に、イオンが、DC段91で加速され、MR−TOF MS31に入る。イオントラップ108からイオンを放出する第1のパルスとイオンガイド109の第2の抽出パルスとの間の遅延は、直交方向に取り出されるイオンの質量範囲を最大にするように調整される。
ガスがロッド112と115の長さ全体に広がった状態で蓄積部103と加速器104を1つのユニットに閉じ込めてもよいが、アパーチャ114と電極113を完全になくし、必要に応じて電極112と115を1組の電極に組み込でもよいことに注意されたい。
図12は、更に別の蓄積装置の特定の機構を示し、これは、「イオンガイドと三次元イオントラップとの複合物」と呼ぶことができる。図12を参照すると、特定の蓄積装置121は、2対の電極122と123で構成された四重極イオンガイドと、リング電極127とキャップ電極126と129とを有する3−D Paulトラップとから成る。リング電極127には、大きなサイズのアパーチャ125を有する開口部がある。キャップ電極129は、直交イオン放出のためのアパーチャ130を有する。
動作において、連続的な高周波(RF)電界が、イオンガイドと三次元トラップの全体に及ぶ。最も単純な形態において、1対の電極122が、RF電圧が供給されるリング電極127に接続されて1つの極を構成し、1対の電極123が、キャップ電極126と129に接続されて別の極を構成する。上の2つの極の間にRF電圧を対称的に供給すると同じRF電界を達成することができる。好ましい形態において、RF電界の類似の構造が維持される。しかしながら、異なる振幅のRF電圧と別に制御されたDC電位を有する間に対応する電極に同じ周波数と位相の信号を供給することができる。イオンは、対の電極122と123の間のイオンガイドを介して(連続的又はパルスで)供給され、開口部125を介して三次元トラップに入る。
RF電位とDC電位の分布は、線形四重極122〜123と四重極トラップ126〜129の間にイオン質量電荷比m/zに反比例する数ボルトの範囲の振幅を有する質量依存軸方向障壁を形成する。一般的なケースにおいて、この障壁は、ガイドと三次元トラップとの間でイオンを共有させる。電極122〜123のDCオフセットを上昇させ、ガス衝突の支援により、イオンの大部分を三次元トラップの中央に集中させることができる。好ましい形態において、前記DCオフセットは、m/z*以上のイオンで障壁が消えるように徐々に大きくされる。m/z*のイオンは、トラップ内で最小振幅の長期振動で障壁を通り過ぎる。DCをゆっくりと大きくすると、トラップ内に全てのイオンをゆっくりと移動させることができる。これと同時に、イオン源から来るイオンを中間蓄積イオンガイド71内に蓄積して、デューティサイクルを改善することができる。三次元トラップ内でイオンが制動された後(1〜5ミリ秒)、RF電界をオフにし、短く最適化された遅延(10〜300ナノ秒)の後で、キャップ電極129のアパーチャ130からイオンパケットを放出するように三次元トラップ電極126、127及び129の少なくともの幾つかに高電圧パルスを供給する。1つの好ましい形態において、RF電圧は固有位相の方形波信号と置き換えられ、イオン放出パルスは、イオン放出段階の間電位分布が一定になるように、固有位相の方形波信号と同期される。
図13は、前述の複合トラップ121の細分化した類似物131を示す。1対の四重極ロッド122は、チャネル135と共に極板132と置き換えられている。リング電極127は、円形の穴138を有する極板137と置き換えられている。1対の電極123は、極板132を対称的に取り囲む極板133及び134と置き換えられている。キャップ電極126は、キャップ極板136と置き換えられ、アパーチャ130を有するキャップ電極129は、アパーチャ140を有するキャップ板139と置き換えられている。キャップ極板136と139は、極板133と134に平行に配置されるか又はその拡張部として配置されている。極板は、図13の左側部分に示したサンドイッチ構造で配列されている。同じ電極を図13の右側部分に別々にして示す。
動作において、細分化したトラップ131は、軸の近くに同じ電界構造を提供する。これは、チャネル135の軸近くの四重電極二次元電界と、円形穴138の中心近くの三次元四重電極電界である。トラップ電界は、極板に印加されるRF電圧又は方形波信号によって形成される。RF電界は、細分化したイオンガイドと細分化した三次元イオントラップの間でイオン共有を実現する。RF信号が、周期的にRF信号(好ましくは0V)のある一定の位相でオフにされ、所定の遅延(10〜300ナノ秒)後に高電圧パルスが電極に印加されて、ほぼ均質な電界内でイオン放出が提供される。イオンパケットは、アパーチャ140から取り出され、MRTOFのポンピングシステムのガス負荷を減少させる働きをする。RF信号が中央極板135と137だけに印加され、DCランプが極板133と134(又は132を含む)に印加され、高電圧パルスが極板136と140に印加されることが好ましい。この構成により、RF信号、DC信号及び高電圧パルスの分離が可能になる。
イオン蓄積装置91の他の実施形態には、同軸アパーチャによって構成された線形イオントラップ(例えば、A.Luca,S.Schlemmer,I.Cermak,D.Gerlich,Rev.Sci.Instrum.,72(2001),2900−2908を参照)、直交放出部を備えた細分化トラップ(US6670606B1と類似)、細分化リングイオントラップ(Q.Ji,M.Davenport,C.Enke,J.Holland,J.American Soc.Mass Spectrom,7,1996,1009−1017)、ワイヤトラップ、RF信号を有する電極によって取り囲まれたメッシュによって形成されたトラップ、螺旋状ワイヤトラップ等がある。
図14は、本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の詳細図を示す。本発明の好ましい実施形態141は、多重反射分析装置31とパルスイオン源51とからなる。前述のように、パルスイオン源51は、実質的に接続された連続イオン源61、中間蓄積イオンガイド71、第2の蓄積イオンガイド81、及び加速器とから成る。それぞれの主構成要素は、前述の要素を含む。連続イオン源61の特定の示した例は、スプレープローブ62、サンプリングノズル63、サンプリングスキマー64、及びポンプ65から成るESIイオン源である。中間蓄積イオンガイド71は、補助電極パルス電極73、出射孔74、及びポンプ75によって取り囲まれた1組の四重極RFロッド72から成る。第2の蓄積イオンガイド81は、ガス閉じ込めキャップ82、1組84の補助パルス化電極によって取り囲まれた1組83の四重極RFロッド、出射孔88、 ポンプ85から成る。加速器91は、1組の電極92、MR−TOF MS分析装置と共用のハウジング97、及びポンプ95から成る。MR−TOF分析装置31は、無電界領域14、2個の平面グリッドレスイオンミラー15、インラインイオン検出器34、1組の周期的レンズ17、1組32の入口操縦板、及び1組33の出口操縦板とから成る。
動作において、ESIイオン源61は、連続イオンビーム66を生成し、この連続イオンビーム66は、蓄積イオンガイド71に中くらいのガス圧(0.01〜0.1mbar)で蓄積される。中間蓄積イオンガイド71は、低速イオンパケットを、さらに低いガス圧(好ましくは10-4〜10-3mbar)で動作する第2の蓄積イオンガイド81内に周期的に放出する。ガス閉じ込めキャップ82によって、第2のイオンガイド81の上流領域のガス圧を高くすることができ、それによりガイドの出口近くのより小さいガス圧でのイオン制動とイオントラップが改善される。これは、ポンプ95のガス負荷を減少させるのに役立ち、従ってMR−TOF分析装置31と加速器91のチャンバ97内のガス圧を低く維持するのに役立ち、MR−TOFは、通常、飛行回路が拡張されているので、従来のTOF MSよりも低いガス圧(10-7mbar未満)を必要とする。
低速イオンパケットは、第1のイオンガイド71に蓄積された全てのイオンの一定部分を含む。ガイドの例として、約1ミリ秒ごとに蓄積イオンの約10%がアパーチャ74を介してサンプリングされる。入るイオンと出るイオンのそのようなバランスによって、10ミリ秒ごとにイオン含有量の回復が可能になる。第1のイオンガイド71に蓄積されたイオンの量は、ビーム内のESIの強度に依存する。典型的なイオン流量3.108/毎秒において、第1のイオンガイド71は約3.106のイオンを含み、著しい空間電荷電界を生成することが分かっている。第2の蓄積装置内にイオンの10%だけがサンプリングされる場合、第2の蓄積装置内のイオンの量は約3.105である。1mm3に蓄積されているそのようなイオン雲は、約30meV電位の空間電荷を生成し、この空間電荷は、熱エネルギー(25meVのガス運動エネルギー)とイオン初期パラメータにある程度の影響を及ぼす。二重蓄積方式には幾つかの長所がある。第1に、第2の蓄積四重極内へのパルス注入によって、低いガス圧で完全なイオン制動が保証される。第2に、第1の四重極内のRF信号の振幅を調整して低質量フィルタとして動作させることができる。溶媒イオンと化学的バックグラウンドイオンのほとんどを除去することによって、空間電荷が更に減少する。第3に、長期イオン運動の選択的励起を使用することによって、空間電荷を作成し検出器を飽和させる最も強いイオン種の選択的除去を達成することができる。更に、イオン注入の持続時間を調整することによって、イオンビームの強度を制御することができる。これは、データ収集のダイナミックレンジの改善と検出器の飽和の回避に役立つ。
第1のイオンガイド71は、出射孔74上及び必要に応じて追加電極73上のパルス電位の支援によって生成される極めて緩やかなパルス化軸方向電界によって低速のイオンパケットを放出する。1組73の追加電極の使用によって、パケット内の放出イオンのエネルギーと量の正確な制御が可能になる。放出されるイオンパケットは、パルス化トラップ機構を使用して第2の蓄積イオンガイド81内にほぼ完全にトラップされる。より詳細において、出射孔88の電位によって反発DC障壁が形成され、電極83のRF電界によってイオンが半径方向に閉じ込められる。しかしながら、イオンパケットは、遠端部88から反射され、その時までにイオンが第2のガイド81の入口(74)に戻り、第1のイオンガイド71からのイオン放出の終了後に生じた電極74の反発電位を受ける。イオンガイド83の最初のガス圧が高いのでイオン運動制動が加速される。ガス圧の局所的増大は、ガス閉じ込めキャップ82とアパーチャ74から出るガスジェットによって形成される。
トラップされたイオンは、追加電極84の支援によって形成されたDCポテンシャル井戸内に閉じ込められる。そのような電極は、追加電極の電位の有効で対称的な浸透を行うように第2のイオンガイド81のRFロッド83を取り囲む。イオンガイド81の軸上の静電界を注目すると、1組の追加電極84は、半径方向に中くらいの八極子DC電界を生成しながらDC電界の軸方向分布を形成する。長期蓄積中のイオン不安定性を回避するためにそのような八極子DC電界を十分に小さく維持することが重要である。数値例として、1.5kVと周波数3MhzのRF電位が、中心の間の10mmに位置決めされた5mmの四重極ロッドに印加される。それぞれの追加電極は、ロッド用の5mmと7mmの中央孔を有する極板として形成される。そのような極板の電位の約20%は、四重極組立体の中心に浸透する。3つの極板は、互いに3mm離され、出射孔から5mm離されて配置される。中央極板に10V電圧降下を印加することによって、深さ約2VのDCウェルを形成する。100meVのエネルギーを有するイオンは、長さ約1mmで直径が数分の1mmの雲に閉じ込められる。この機構は、イオン安定性に対する影響がほとんどなく、少なくとも10の質量電荷比の範囲内でイオンを蓄積することを可能にする。
イオンガイド81内の衝突制動と閉じ込めの後、イオンパケットは、DC加速器92内と次にMR−TOF分析装置31内に軸方向(X方向)に放出される。第2の蓄積装置が空になった後、パルス電位は、次のイオン蓄積サイクルの準備をするためにトラップ状態に戻る。パルス化放出は、RF電位を変化させないまま、組84の追加電極と出射孔88に印加される高電圧電気パルスの支援によって行われる。第2の蓄積四重極81内の低いガス圧は、高電圧パルスを印加している間のガス放電を回避するのに役立つ。イオンが全て小さい体積内に蓄積されるので、そのようなパルスは他のイオンを漏らさず、パルス振幅は、イオンのターンアラウンドタイムを大幅に短縮するのに十分に、かなり高くてもよい。従って、実際に、二重蓄積機構のさらに他の2つの重要な理由は、イオンパケットを小さい雲に圧縮する能力と高電圧加速パルスを印加する能力である。そのようなイオンパケットパラメータは、第1のイオンガイド71から直接高速で放出する場合には達成できないことがある。
かなり大きい放出パルスを印加すると、イオンのターンアラウンドタイムが実質的に低下し、イオンガイドをMR−TOF MSのパルスイオン源として直接使用することができる。前述の幾何学例に行われたイオン光学シミュレーションにおいて、追加電極に高電圧パルスを印加することによって、ターンアラウンドタイムを数ナノ秒に短縮できることが分かった。例えば、(3つのうちの)中間の追加電極に5kVのパルスを印加し、出射孔に−1kVのパルスを印加することによって、軸方向の電界が約200V/mmになる。初期エネルギーの広がりが200meVで蓄積イオン雲のサイズが1mmであると仮定すると、1000amuイオンのターンアラウンドタイムはわずか10ナノ秒であり、放出されるイオンパケットのエネルギーの広がりは200eV未満である。DC加速器92内でDC約4kVの後段加速を適用することによって、イオンビームは、5%未満のエネルギーの広がりを有し、十分に集束され、10π*mm*ミリラド以下の空間電荷を有し、これは、本発明のMR−TOF分析装置の広いアクセプタンスと高次飛行時間集束と適合する。
本発明者によるイオン光学シミュレーションで、MR−TOF MSの分解能は、主にターンアラウンドタイムによって制限されると考えられる。数値例として、エネルギー4keVと速度3×104m/sに加速された1000amuのイオンは、10ナノ秒のターンアラウンドタイムを有し、同時に50回の反射(一方向にシフトしながら25回の反射と帰りに25回の反射)を有する幅0.25mの分析装置で1ミリ秒の飛行時間を有する。そのような分析装置は、30mの有効飛行経路を有する折り返し経路を提供する。実際に10ナノ秒のターンアラウンドタイムが唯一の制限因子の場合は、分解能はR=50,000に達する。飛行時間のさらなる拡張は、分解能を更に改善すると予想される。さらに長い蓄積は、ターンアラウンドタイムを多少劣化させる。しかしながら、空間電荷電界とターンアラウンドタイムの増大は、飛行時間の増大よりも遅いと予想される。
蓄積時間を長くすると、検出器のダイナミックレンジが圧迫される。MR−TOF内の飛行時間が長くなりイオン利用効率が高くなると、イオンは最大1ミリ秒蓄積されてから持続時間10〜20ナノ秒の短いパケットで検出器に到達する。検出器の飽和を防ぎ、従って分析パラメータ(質量精度、イオン分解能、ダイナミックレンジ等)の損失を防ぐために、時間−ディジタル変換器(TDC)と組み合わされたマイクロチャンネル極板検出器(MCP)ではなく、アナログ−ディジタル変換器(ADC)と組み合わされた二次電子増倍管(SEM)を使用することによって検出器のダイナミックレンジを広くすることができる。実施形態の1つとして、複合検出器を使用することができ、その場合、単一のマイクロチャンネル又はマイクロ球極板はシンチレータと光電子増倍管の後にある。また、以下の手段のいずれか又は任意の組み合わせを使用することを提案する。
a)様々な増幅段で電子をサンプリングする2つのコレクタを備えたSEMを使用する。
b)高速操縦装置と組み合わされた二重SEMを備えた機構を使用する。
c)1対の取得チャネルに接続された二重増幅器を使用する。
d)イオンパルスの強度がショット間で変化するように中間又は第2の蓄積トラップ内の2つの異なる蓄積時間を交替する。
MR−TOFは、従来のTOF(1〜3ナノ秒)よりも長いイオンパルス(10〜20ナノ秒)を有すると予想されることに注意されたい。帯域幅要件が低いため、前述の手段の実現が容易になる。
MR−TOF内のイオン利用効率が高くなるほど検出器の老朽化が早くなる。また、検出器の寿命を長くしそのダイナミックレンジを大きくするために、より短い蓄積時間で質量スペクトルのプレ走査を使用することを提案する。このプレ走査から、極めて強いピークのリストを推定して機器コントローラのメモリに記憶することができる。このリストを使用してパルスイオンセレクタを制御することができる。パルスイオンセレクタは、検出器に組み込まれてもよく、偏向器又はレンズ或いは前述の実施形態のいずれかのMR−TOFのドリフト空間内に組み込まれてもよい。このセレクタは、パケットがセレクタ内を飛行している間に強力なパケットの大部分を偏向させるか散乱させることによって強力なイオンピークに対応する質量電荷比を備えたイオンを抑制するために使用される。また、そのようなピークを実質的に低い利得を有するもう1つの検出器に方向転換することができる。セレクタの好ましい実施形態には、ブラッドベリー=ニールセンイオンゲート、平行極板偏向器、イオン検出器内の制御グリッド(例えば、二次電子の通過を止めるためにパルス化されたダイノード又はマイクロチャネル極板間のグリッド)がある。実際のイオン強度の計算においてイオン強度の抑制が考慮される場合がある。次に、1ショット当たりのイオン数は、任意のイオン蓄積段、MR−TOF又は検出器において抑制されることがある。
検出器に圧力をかけ老朽化する他に、1パルス当たりの過剰な量のイオン(2*105以上)は、蓄積装置内に空間電荷を作り出す役割をもつ。様々な戦略には、予備又は二次イオン蓄積装置の段におけるイオンビーム強度又は1パルス当たりのイオン数の制御された抑制がある。そのような制御された抑制には、例えばRFトラップ装置内で長期的運動を刺激し、それらのイオンの選択的損失を引き起こすことによる、対象となる質量範囲の選択、低質量イオンの除去、最も強力なイオン構成要素の質量選択的除去がある。
イオントラップ源と組み合わせたMR−TOF MSの前述の方式によって連続イオンビームをイオンパケットに100%変換することができる。更に、イオンパケットの達成可能なパラメータは、新規なMR−TOF MSのイオンの完全な透過を可能にし、ターンアラウンドタイムが主な制限因子である場合は、長さ1mの機器内で50,000の分解能を達成することができる。そのようなパラメータは、既存のo−TOF MSの分解能と感度を超え、また既存のMR−TOF MSのものよりも優れている。
多重反射分析装置内と1組の周期的レンズ内の安定したイオン閉じ込めによって、MR−TOFの感度と分解能が改善され、長いイオン分離が可能になる。新規の分析装置のそのような特性は、著者の1人の同時係属出願WO2004008481号に記載され、参照により本明細書に組み込まれた平行MS−MS分析装置を備えたタンデム型質量分析計で極めて有用である。そこで、1組の周期的レンズをTOF−TOFタンデムの第1の多重反射分析装置を導入し、それにより平行MS−MS分析の感度と分解能の両方を改善する。
図15を参照すると、タンデム型質量分析計151の好ましい実施形態は、パルスイオン源51、多重反射質量分析計31、フラグメンテーションセル152、及び直交飛行時間型質量分析計161から成る。前述のパルス化イオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器から成る。第2の蓄積イオンガイドは、この図では、軸方向のイオン放出のためにセットアップされた補助DC電極84を備えたRF線形イオントラップ83として示されている。前述のMR−TOF MS31は、無電界領域14、オフライン検出器34、好ましくは4つ以上の電極を含みかつ高次時間飛行及び空間的集束を提供するように構成され制御された2つの平面グリッドレスミラー15、折り返しイオン経路に沿った安定したイオン閉じ込めのための1組の周期的レンズ17、好ましくは周期的レンズ17に組み込まれエッジイオン反射によって飛行経路の拡張を実現する1対のエッジ偏向器32及び33から成る。
フラグメンテーションセル152は、同時係属特許出願に詳細に示されている高速フラグメンテーションセルである。フラグメンテーションセルは、半径方向のイオン閉じ込めのための短い(5〜30mm)RF四重極158、並びに時間依存軸方向電界を形成する補助DC電極159と出射孔160を含むことが好ましい。四重極は、ポート157を介して比較的高いガス圧(0.1〜1Torr)でガスが充填された内側セル156によって取り囲まれている。MR−TOFのガス負荷を小さくするために、セル156のまわりの空間は、ターボポンプ155によってポンピングされる。イオン伝送を強化するために、内側セルの両端に集束レンズ154が設けられている。
直交TOF161は、当技術分野で周知の従来装置である。これは、パルス化電極162とインライン検出器164を備えた直交加速段163、ポンプ165、電気的に浮かされた無電解領域166、イオンミラー167、及びTOFイオン検出器168から成る。直交加速は、入るイオンビームに沿って向けられたスリットを有する平らな電極で行われることが好ましい。直交TOFは、約10マイクロ秒時間の高速フラグメント分析を実現するために、イオン経路が短く(0.3〜0.5m)加速電圧が高い(5kV超)点がほとんどの従来の機器と異なる。動作において、パルスイオン源51は、親イオンのバーストを周期的(例えば、10ミリ秒に1回)に生成し、イオンを蓄積し第2の蓄積装置82からイオンを放出することによってイオン源61からの連続イオンフラックスをイオンパルスに変換する。様々なm/z比率を有する親イオンの混合物は、様々な分析種の混合物を表す。イオンは、30mを超える複数の拡張折り返しイオン経路を有する第1の分析装置31内で時間的に分離される。分析装置は、約50〜100eVの少ないイオンエネルギーで動作して分離時間を約10ミリ秒に延長する。本発明のMR−TOFは、低いエネルギーと延長された飛行時間においてイオン分離に極めて適している。分析装置は、イオンエネルギーに対する高次飛行時間集束を提供することによって高い相対的エネルギー広がり(20%以内)を許容する。また、これにより、低いイオンエネルギーでの例外的伝達が可能になる。イオンは、イオンミラーによってX方向に跳ね返されて、Z方向に周期的に集束される。これと同時に、イオンは、1組の周期的レンズ17内で周期的に集束するのでジグソー折り返し軌道に沿って維持され、X方向に周期的に集束される。イオン飛行経路は、エッジ偏向器33内の反射によって拡張される。最初に注入されたイオンは経路35をたどる。エッジ偏向器32内で操縦された後、イオンは軌道36をたどり、ミラー間で複数の跳ね返りを受ける。軌道36は、右から第2のエッジ偏向器33に近づく。エッジ偏向器33は、イオンを操縦して軌道37をたどるようにする。そのような操縦は、Y軸に沿ったイオンドリフトの方向を戻す。軌道37は、再び複数のレンズを通り、左からエッジ偏向器32に近づく。静止エッジ偏向器32は、ビームをフラグメンテーションセル152内に向ける。イオンエッジ反射が一定電圧を使用して行われることに注意されたい。飛行経路は、分析装置の全質量範囲を保ちながら2倍になる。
偏向器は、以下の幾つかの目的のためにパルスモードで使用されることがある。
1.質量範囲を犠牲にして飛行経路を更に拡張する。偏向器32を2倍の偏向電圧にパルス調整することによって、軌道が取り囲まれる。軌道37に沿って入ってきたイオンは、軌道36内に戻され、偏向器32が小さい偏向に戻され、偏向器32がオフにされている場合にイオンが軌道39又は軌道38に沿って解放されるまで複数のエッジ偏向を受ける。
2.単一エッジ偏向後にイオンをオフライン検出器34に戻す。偏向器32は、軌道35の最も重いイオンが偏向器を通ってMR−TOFに入った後でかつ軌道37の最も軽いイオンが偏向器32に近づく前にオフにされる。
3.ビームをオフライン検出器34内に向けることによって分析装置をバイパスする。
4.低質量イオンや極めて強力なイオンなどの望ましくない種の粗い質量分離又は抑制を行う。
親イオンは、イオン分解のために十分に高い運動エネルギー(約50〜100eV)でフラグメンテーションセル152に導入される。同時係属発明に記載されているように、フラグメンテーションセルは、好ましくは0.1Torrを超える高いガス圧でガスが充填され、セルは短く維持される(約1cm)。セル内のガス圧が高くなると(通常より0.005〜0.01Torr高く)、静電レンズ又はRF集束装置のイオン集束の追加手段による差動ポンピングの追加のエンベロープが必要になる。セル内のイオンの移動は、軸方向のDC電界又は移動波状軸方向電界によって加速される。その結果、イオンは、10マイクロ秒未満だけイオンパケットを広げながら約20マイクロ秒でセルを通過する。同じ電界は、イオンの周期的蓄積とパルス放出を可能にするか、少なくともイオン速度の実質的な同期変調を可能にする。
次に、フラグメントイオンは、質量分析のために、セルから第2のTOF分析装置161内に放出される。第2の分析装置の効率を高めるために、イオンは、フラグメンテーションセル152の出口で約10マイクロ秒ごとに周期的に集束され、それらのパルスは、o−TOF161内の直交加速163のパルスと同期される。第2の分析装置161は、短い飛行時間(10〜30マイクロ秒)を有するように調整され、この短い飛行経路は、中くらいの飛行経路(1m未満)と高いイオンエネルギー(5kV以上)で達成されると予想される。2つの分析装置の全く異なる時間スケール(少なくとも2桁)によって全ての親イオンの並行MS−MS分析が可能である。様々な親イオン種のフラグメントが様々な時間に形成され、それらを混ぜることなく個別のフラグメント質量スペクトルを記録するために、いわゆる時間入れ子式データ収集システムが使用される。
全般に、フラグメンテーションセルが、当該技術又は本発明に示されている任意のRF蓄積装置を含むことができることに注意されたい。セルの蓄積及び周期的パルス放出を使用することによって、約10マイクロ秒の短い分離時間を有する限り、任意の他のタイプのTOF MSも同じように利用することができる。例えば、特に加速電圧を高め(例えば5kV)、シフトイオン反射を使用して飛行経路を短く調整する場合は、第2のTOF分析装置として別のMR−TOF MSを使用するこができる。
示したMS−MS機器は、特にオンライン分離技術との組み合わせで有用なMS−MS分析(最大で数百MS−MSスペクトル/毎秒)の極めて高いスループットを有することが予想される。そのようなタンデム型機器は、薬学研究における組み合わせライブラリやプロテオーム研究におけるペプチド混合物等の極めて複雑な混合物の分析に利用されると予想される。この機器は、両方の質量分析段の限定された質量解像力(分解能)を有する。TOF2データシステムと時間分解能が1ナノ秒でTOF1の分離時間が10ミリ秒であると仮定すると、2つの質量解像力の積R1*R2は2.5*106未満であり、例えば、さらに、並行MS−MS分析の能力を考慮するR1=300〜500とR2=3000〜5000の強力な分析的組み合わせを行う。親イオンの同位体のグループを分離するにはR1>300で十分であり、適度な質量イオンの電荷状態を決定するにはR2>3000で十分である(m/z<2000a.m.u(原子質量単位))。
両方の段の分解能は、TOF1により大きい分離時間を使用することによって改善することができる。TOF1にイオンビームを安定的に維持すると、TOF1の損失なしにより長い分離が可能になる。FTMS内で10〜11Torr以上の真空が達成されており、飛行時間を数分に拡張することができる。しかしながら、10ミリ秒を大きく下回るTOF1分離時間のさらなる拡張の可能性は、パルスイオントラップ内の空間電荷効果によってある程度制限される。空間電荷制限と有限の蓄積時間によって、両方の段で分解能を高めることはできない。例えば、R1=100,000、R2=100,000及び積R1*R2=1010の組み合わせは40秒の蓄積時間を必要とし、これは、そのような期間にESIイオン源によって生成される約1010のイオンを蓄積するために必要である。直径1mmのイオン雲は、トラップできない約10kVの空間電荷電位を有することになる。パルス化トラップ内へのイオン注入時間を制限し制御するか、前の質量分離を使用するか、或いは多数のイオン種から選択的にろ過することにより、トラップ内のイオン数を106未満に制限することによって折り合いをつける多数の方法がある。そのようなイオン作成段は、中間イオンガイド71内又は第2の蓄積装置81内で行うことができる。
より高い分解能の両方のMS段は、ビーム全体の減衰(注入時間の制限による)、所望の種の分離、又はたくさんの種のろ過によるイオン損失を避けられないので、並行分析には適合しないと思われる。しかしながら、両方の段における極めて高い分解能を使用して低分解能の迅速なスクリーニングを後のデータマイニングと組み合わせることはより有望と思われる。第1のステップで、対象とする親イオンの質量を決定することができ、第2の分析ステップは、それらのイオン種の高精度で確実な分析に使用される。
図16は、高分解能タンデム型飛行時間質量分析計171の好ましい実施形態を示す。タンデム171は、第1のMR−TOFにおいて時限イオン選択を使用しまたフラグメント分析のために第2の多重反射分析装置31Bを使用すること以外、前述のタンデムTOF−TOF151と類似している。第2のMR−TOF分析装置31Bは、第1のMR−TOFとある程度類似している。これは、無電界領域14B、2つの平面グリッドレスミラー15B、1組の周期的レンズ17B、検出器34B、及び1対のエッジ偏向器32Bと33Bから成る。また、第2の分析装置31Bは、飛行経路調整用に、第2の周期的レンズセット17Bに組み込まれた追加のレンズ偏向器173を含む。
タンデムMS171の他の要素は、前述の要素と類似している。パルスイオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器から成る。前述の第1のMR−TOF MS31Aは、無電界領域14A、2つの平面グリッドレスミラー15A、1組の周期的レンズ17A、1対のエッジ偏向器32Aと33A、オフライン検出器34A、及び時限イオンセレクタ172(第2のMR−TOF 31Bには使用されていない)から成る。前述の高速フラグメンテーションセル152は、ポート157を介してガスが比較的高いガス圧(0.1〜1Torr)で充填された短い(5〜30mm)RF四重極158を含む。この四重極は、両端に集束レンズ154を有する状態で内側セル156によって取り囲まれている。セルは、例えば、軸方向DC電界を変調することによってセル内を通過するイオンを減速し加速する手段159と160を有することが好ましい。
動作において、イオンは、パルスイオン源51に蓄積され、飛行時間分離のために第1のMR−TOF分析装置31A内に放出される。分離されたイオン又はそのようなイオンの一部は、時限イオンゲート172によってフラグメンテーションセル152に入れられ、そこでイオンはフラグメント化される。フラグメントイオンは、周期的に、質量分析のためにセル152から第2のMR−TOF分析装置31Bにパルス式に送られる。以下では、2つのタンデム動作モード、即ち並行MS−MS分析の高スループットモードと、順次MS−MS分析の高分解能モードについて説明する。
最初の高スループットモードにおいて、第1の分析装置は、約−50Vに調整された浮遊可能な無電解領域14Aの電位によって制御された低いイオンエネルギーで動作する。分離には約10ミリ秒時間かかり、全ての親イオンがフラグメンテーションセル152に入る。時限イオンゲート172は、親イオンを入れている間オフのままであるが、溶媒イオンと化学バックグラウンドイオンの大部分を含む低質量範囲の抑制に使用されることがある。第2の分析装置は、約−5kVに保持される無電解領域14Bの電位によって制御される高イオンエネルギーに調整され、即ちイオン速度は、第1の分析装置よりも1桁大きい。第2の分析装置内の飛行経路は、イオンドリフト方向を戻す追加の偏向器173を使用することによって実質的に短縮される。イオンは、イオンミラー15Bで2回だけ反射され、検出器34Bに導かれる。フラグメントイオンの代表的な飛行経路は、約0.5mになり、即ち、第1のMR−TOF31Aよりもほぼ2桁短くなる。時間スケールは、およそ3桁異なり、これにより、時間入れ子データ収集による複数の親イオンの前述の並行MS−MS分析が可能になる。この分析によって、一連の所望のフラグメントを有する親イオンの迅速な割り当てが可能になる(例えば、いわゆるイミニウムイオン(immonium ion)の存在によって、アミノ酸で構成されたペプチドが決定される)。親イオン質量に関する情報は、より高い分解能とより高い特定性を有する第2の分析モードにおける詳細なMS−MS分析の促進に使用することができる。
第2の高分解能測定モードにおいて、両方のMR−TOF分析装置は、高いエネルギーと分解能で動作する。エネルギーは、無電解領域14Aと14Bの両方に負の高電位(例えば、−5kV)を印加することによって調整される。代表的な30mの飛行経路において、飛行時間は約1ミリ秒であると思われる。その結果、パルスイオン源の周波数を1kHzに調整する必要がある。第2の蓄積装置の抽出パルスは、高分解能MR−TOF MS内で使用されているものと類似のより強い電界を提供するように調整される。より高い電圧(例えば−5kV)パルスが射出孔92に印加され、対応する正の高電圧パルス(+5kV)が補助電極84に印加される。より強い電界に比例して、サイズ0.5mmのイオン雲の場合、ターンアラウンドタイム(5〜10ナノ秒)が減少し、イオンエネルギーの広がり(100〜200eV)が拡大すると推定される。第1のMR−TOF分析装置の予想分解能は、約50,000〜100,000であると予想される。
そのような分解能で単一のイオン種を選択するためには、ブラッドベリー=ニールセンゲート、即ち、1つの平面内に配置された交互の2列のワイヤで構成された装置で達成可能な0.3mmの空間分解能の時限イオンセレクタを必要とする。2つの列の間に短い10〜30ナノ秒のパルスを印加することによって、短いパルスのイオンがゲート内に入り、同時に、他のイオン種は操縦され、次に止まったときに失われる。例として、第1のレンズの近くの中間飛行時間集束平面内に時限イオンゲートが配置される。ワイヤに印加される1000Vのパルスによって、10kVイオンが3度(1/20)ずれ、これは、CIDセルの1mmの入口アパーチャ153を外すのに十分である。親イオン選択の分解能は、更に、第1のMR−TOF内の飛行経路と飛行時間の同時拡張により複数のエッジ反射を使用することによって改善することができる。いずれにしてもゲートが1m/zの親イオンを入れるので、関連した質量範囲の縮小は重要ではなくなる。また、この場合、ターンアラウンドタイムが長くなることを犠牲にして親イオンのエネルギーの広がりを50eV以下に小さくすることが望ましく、この長いターンアラウンドタイムは、第1の分析装置内で飛行経路を長くし、加速エネルギーを低くし、飛行時間を長くすることによって補うことができる。
質量選択された親イオンは、約50〜100eVまで減速され、フラグメンテーションセル152の入口アパーチャに集中する。そのようなエネルギーの注入によって、選択された親イオンのフラグメント化が起こる。フラグメントは、RFトラップ157内のRF閉じ込めと、補助電極と出射孔のDC電位によって形成される軸方向DCウェルを配列することによってフラグメンテーションセル152内に蓄積される。これらの電極に電気パルスを印加することによって、フラグメントイオンは、質量分析のために第2のMR−TOF内にパルス式に放出される。イオンパルスと第2の分析装置のパラメータは、第1のMR−TOFのものと類似している。CIDセルは、前述のパルスイオン源の様々な要素と機構を含むことができる。従って、フラグメントの質量分析は、50,000〜100,000の高い解像力(分解能)が期待される。説明したタンデムは、分析時間の完全な使用を可能にする。第2のMR−TOF31Bにおいてフラグメントセル152が空になりフラグメントイオンが質量分離されている間、第1の分析装置31Aは、親イオンの選択とフラグメンテーションセル内への注入を同時に行うために使用されてもよい。
図17は、パルスイオン源51、単一のMR−TOF分析装置31、及び任意選択のフラグメンテーションセル182から成る効率的なタンデム型機器181を示す。パルスイオン源51の蓄積装置73又は83を含むタンデム181のガス充填蓄積装置或いは任意選択のフラグメンテーションセル182を使用して、イオンをフラグメント化し、それを後の質量分析又は分離のために同じMR−TOFに逆注入することができる。その結果、機器は、単にイオン選択、フラグメント化及び逆注入のステップを繰り返すだけで高分解能の逐次MS−MS分析又は複数段MSn逐次分析が可能になる。
また、MR−TOFを複数回使用するには、MR−TOF内の偏向形態をわずかに調整しなければならない。セル182をイオンフラグメント化のために使用するタンデム181の例を検討する。親イオン分離段では、偏向器32と33は両方とも一定の操縦電位のままである。イオンは、一連の軌道35、36、37及び39をたどる。時限イオンゲート172は、対象イオンを軌道39に沿ってセルに入れる。イオンは、約50〜100eVまで減速され、フラグメント化を受ける。フラグメントは、電極187上のRF電界と、入口アパーチャ184、補助電極188及び後側電極189によって構成されたDCトラップ電位によって蓄積される。十分な所定の遅延後に、イオンは衝突制動され、セルからMR−TOFの方にパルス式に放出される。これらのイオンは、戻り軌道39と次に軌道37をたどる。しかしながら、セルからイオン放出する頃に、偏向器33は、異なる偏向モードに切り替えられる。イオンは、半分の角度で操縦され、ミラーから軌道190に沿って跳ね返り、その動きを軌道37と次に軌道39に戻す。次に、偏向器32がオフにされて全てのイオンがオフライン検出器34に送られるか、時限イオンセレクタ172が、対象となる娘イオンを選択しそれをMSn分析のさらに他の段階のためにフラグメンテーションセル内に送るために使用される。同様に、蓄積イオンガイド73又は83がイオンフラグメント化に使用される場合、蓄積装置内へのイオンの戻りは、イオンを半分の角度で偏向する偏向器33によって調整されることがある。ミラーで垂直に反射された後、イオンは、同じ軌道36に戻る。これにより、所望のサイクル数の間、イオンがフラグメンテーションセルとMR−TOF分析装置の間を通ることができる。この場合も、複数エッジ偏向を使用して単一試料の選択を強化することができる。また、二重蓄積機構は、事前に蓄積したイオンのパルス放出と複数段MS−MS分析のイオンフラグメント化に第2の区分室を使用しながら、入ってくるイオンを第1の区分室に連続的に蓄積することによってイオンデューティサイクルの節約を可能にすることができる。
示した好ましい実施形態は、説明の例であり、限定されることを意図していない。更に、本発明の趣旨と原理の範囲内にある多数の変更を行うことができることが当業者には明らかである。
WollnikらによるGB特許第2080021号(英国特許の図3と図4)の従来技術の多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を示す図である。
NazarenkoらによるSU1725289の試作品の「折り返し経路」MR−TOF MSを示す図である。
M.ParkによるUS6107625の従来技術の「同軸反射」MR−TOF MSを示す図である。
本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態を新規の周期的レンズの詳細を示す図である。
本発明の好ましい実施形態のイオンミラーのMR TOF分析装置の幾何学的配置及び電位を示す図である。
シフト方向のエッジイオン反射によるイオン経路拡張の概略と原理を示す図である。
中間イオン蓄積装置を使用して連続イオン源から本発明のMR−TOF MS内にイオンをサンプリングする概略を示す図である。
MR−TOF MS内のパルスイオン源のブロック図である。
連続イオン源の例としてエレクトロスプレーイオン源の詳細を示す図である。
準連続イオン源の例として衝突制動を有するMALDIイオン源の詳細を示す図である。
中間蓄積イオンガイドの詳細を示す図である。
第2のイオン蓄積装置とイオン加速器の概略を示す図である。
軸方向放出と任意の加速器を有する二重イオン蓄積のブロック図である。
パルス軸方向イオン放出を実現する第2の蓄積装置の特定の機構を示す図である。
非蓄積イオンガイドからの直交加速を有する機構を示す図である。
四重極イオンガイドと三次元四重極イオントラップの複合体を構成する第2の蓄積装置の特定の機構を示す図である。
複合トラップの細分化した類似物の図である。
本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の詳細を示す図である。
並行MS−MS分析を備え親イオンの低速分離の第1のMS段としてMR−TOF MSを含むタンデム型質量分析計の好ましい実施形態の図である。
MS−MS分析の高スループットモードと高分解能測定モードの汎用切り換えを提供する両方のMS段にMR−TOF MSを備えたタンデム型質量分析計の好ましい実施形態の図である。
単一MR−TOF MS分析装置とイオンの流れを戻すフラグメンテーションセルを使用する多段MSn分析用の質量分析計の好ましい実施形態を示す図である。
符号の説明
11 MR−TOF MS
12 パルスイオン源
13 内蔵加速器
14 無電界空間
15 グリッドレスイオンミラー
16 イオンレシーバ
17 複合レンズ
19 折り返しイオン経路
本発明は、一般に質量分析の分野に関し、詳細には多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を用いた分析の分野及び該分析計の使用方法に関する。
質量分析は分析化学ツールとしてよく知られている。質量分析は、様々な化合物や混合物の同定や定量分析に使用される。質量分析計の感度と分解能は、実際の使用における重要な点である。従来知られていることであるが、飛行時間質量分析計(TOF MS)の分解能は飛行経路長に比例する。しかしながら、分析計の大きさを妥当なサイズに維持しながら飛行経路を長くすることは難しかった。飛行経路を長くするために提案された解決策の一つが、イオンビームを跳ね返らせて飛行時間型質量分析計(MR−TOF−MS)内において反射を形成することである。実際のMR−TOF MSは、飛行時間集束特性を有する静電イオンミラーの導入後に使用可能になった。米国特許第4,072,862号は、ソビエト特許SU198034及びSov.J.Tech.Phys.41(1971)1498の中の論文を援用しているが、この米国特許では、飛行時間分析計内のイオンエネルギーに関して飛行時間集束を改善するイオンミラーが開示されている。このようなイオンミラーの使用により、イオン飛行経路が1回折り返され飛行経路長が3倍になった。
米国特許第4,072,862号公報
H.Wollnikは、MR−TOF MSにおけるイオンミラーの可能性を現実化した。英国特許GB2080021は、複数のミラー間においてイオン経路を折り返すことによって機器の全長を短くする方法を提案している。このような2列のミラーは、同一平面内に位置合わせされているか或いは対向する平行な2個の円に配置されている(図1)。空間的イオン集束性を有するイオンミラーの導入は、反射回数に関係なくイオン損失を減少させイオンビームを閉じ込めたまま保持する。更なる詳細は米国特許第5017780に記載されている。上述のU.K.’021特許に開示されたイオンミラーも、イオンエネルギーとは独立したイオン飛行時間を提供するものである。
本願には、2種類のMR−TOF MSが開示されている。即ち、(a)N個の順次反射するTOF MSの組み合わせに相当し飛行経路を鋸歯状の軌道に沿って折り返す「折り返し経路(folded path)」構成と、(b)パルス状イオンの進入及び放出を使用して、軸方向に位置合わせされた2個のイオンミラー間のイオン反射を複数回行う「同軸反射(coaxial reflecting)」構成である。「同軸反射」方式は、H.Wollnikら、Mass Spec.Rev.,1993,12,p.109にも記載されており、Int.J.Mass Spect.Ion Proc.227(2003)217で公表された製作品でも用いられている。中型(30cm)のTOF MSで50回の折り返し(ターン)後に分解能50,000が達成された。実際には、グリッドレスイオンミラー及び空間集束イオンミラーは対象のイオンを保存する(損失は2分の1未満)が、許容質量範囲はサイクル数と比例して縮小している。
H.WollnikのNucl.Instr.Meth.,A258(1987)289及びSakuraiらのNucl.Instr.Meth.,A427(1999)182に周期的MR−TOF MSが記載されている。イオンは、静電偏向器及び磁気偏向器を使用して閉軌道内に保持される。通常、この方式は複数の繰り返しサイクルを使用するが、これは同軸反射方式と同じように質量範囲を狭めるであろう。
Nazarenkoらのソビエト連邦公報SU1725289(1989)には、より高度な折り返し経路式MR−TOF MSが開示されている。このシステムは二次元グリッドレスミラーを使用している。NazarenkoのMR−TOF MSは、バーで組み立てられた2個の同一のミラーを備え、これらミラーはミラー間の中間平面に対して且つ折り返しイオン経路の平面に対して平行且つ対称である(図2)。ミラーの幾何学的配置及び電位は、折り返しイオン経路面を横切るイオンビームを空間的に集束させると共にイオンエネルギーに関して二次の飛行時間集束を提供するように配置されている。イオンは、検出器に向かって(「シフト方向」、ここではX軸に沿って)ゆっくりとドリフトしながら平面ミラー間で多重反射する。繰り返し回数と分解能は、イオン注入角度を変化させることによって調節できる。
Nazarenkoらの製作品は本発明の一様相を共有している。即ち、空間的及び飛行時間集束特性を有する平面イオンミラーを備えた「折り返し経路式」MR−TOF MSを提供する。しかしながら、Nazarenkoらの装置はシフト方向のイオン集束を行わず、基本的に反射サイクルが制限されている。更に、先行技術であるNazarenkoのイオンミラーは、折り返しイオン経路の平面を横切るイオンの空間的広がりに対して飛行時間集束を行わないため、発散する幅広ビームの使用によって飛行時間分解能が低下し飛行経路の拡張が無意味になる。換言すると、この方式は、満足できる分析計を提供することができず、従って現実のイオン源を用いても動作能力を提供できなかった。結局、Nazarenkoの装置は、異なる種類のイオン源を受け入れることも、MR−TOF MSと種々のイオン源を結合する効率的な方法を受け入れることもできない。
MR−TOF MSの設計においては、イオン源の種類、イオンビームの空間的及び時間的特性、及び分析器の幾何学的制約は重要な要素である。単反射TOF MSに対して適合性を有していても、イオン源がMR−TOF MSに適合することは必ずしも意味しない。例えば、SIMSやマトリクス支援脱離/イオン化MALDI等のパルスイオン源は、TOF MSとの適合性は高く、その特徴は、空間的イオン発散によって生じる高い分解能と中程度のイオン損失である。しかしながら、MR−TOF MSへ切り換えると新たな問題が生じる。一方では、このようなイオン源によってパルス化できるという性質は、パルスイオン化周波数が調整可能であるためMR−TOF MS内の飛行時間を拡張するのに適している。他方、MALDIイオンの不安定性は飛行時間拡張の制限要因である。MR−TOF MSの使用は、イオン飛行経路全長の二乗に比例して検出器の立体角を減少させるため、感度が低下する。
エレクトロスプレーイオナイザー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)、電子衝撃(EI)、化学イオン化(CI)、光イオン化(CI)、誘導結合プラズマ(ICP)等の気体イオンは安定イオンを生成することが知られているが、これらは最近導入された米国特許第6,331,702号及び第6,504,150号に記載のガス充填MALDIイオン源と同様、本質的に連続したイオンビーム又は準連続イオンビームを生成する。直交イオン加速構成(O−TOF MS)(WO9103071及びソビエト特許SU1681340参照)を導入し、連続イオンビームをイオンパルス化パケットに効率的に変換すると、TOF MSを連続イオン源と結合できた(後に準連続イオン源も結合できた)。気体イオン源を衝突冷却イオンガイド(US4963736)と組み合わせると、TOF MSの軸に沿った低速拡散を伴う冷イオンビームが生成され、10,000を超える高いTOF分解能を達成するのに役立った。しかしながら、MR−TOF MSを使用すると、直交加速デューティサイクルが低下するため感度が低下する。
米国特許第6,107,625号は、O−TOF MSの分解能の更なる向上は所謂「ターンアラウンドタイム(turn-around time)」によって制限されるため、飛行経路の拡張によって分解能を改善することを示唆している。この’625特許は、図3に示すような、イオンミラーと複数の偏向器を組み合わせた直交加速器によって、外部のエレクトロスプレーイオン化(ESI)源を「同軸反射」MR−TOF MSに結合することを示唆している。連続イオンビームのサンプリングを改善するために、インターフェースは、まばらなイオンパルス間でイオンを蓄積する線形イオントラップを使用している。Melvin Parkらの論文「Analytical Figure of Merits of a Multi−Pass Time−of−Flight Mass Spectrometer」(増補版抄録ASMS2001,www.asms.org)では、MR−TOF MSの分解能は、長さ約1mの分析計において6回の反射サイクルを使用した場合に60,000であることが示されている。しかしながら、グリッドを有するイオンミラーの使用によって大きなイオン散乱とイオン損失が生じた。同軸反射MR−TOF MSは、分解能は改善されたがそれに比例して質量範囲は低減した。
直交注入を備えたエレクトロスプレーイオン化装置を、折り返しイオン経路を有するMR−TOF MSに結合した(ヨーロッパ特許1237044A2と、J.Hoyesらの論文「A High Resolution Orthogonal TOF with Selectable Drift Length」(増補版抄録ASMS2000、www.asms.org)。この装置では、直交イオン源と検出器の間に更に別の短い反射器を導入することによって、既存の市販のO−TOF MSを二重反射分析計に変換することができる。イオン反射回数は連続イオンビームのエネルギーを調節することにより制御する。「折り返し経路」式MR−TOF MSによって、十分な質量範囲がいじされたまま分解能をかなり改善できるが、直交加速器内へのイオンサンプリングのデューティサイクルと幾何学的効率は低減する。
これら2個の例から、従来の直交加速はMR−TOF MS、特に拡張された飛行時間においては非効率的であることが分かる。
これまで、連続イオンビームからのパルス化イオンサンプリングを改善する多くの試みが行われてきた。これらの殆どは、U.S.特許第5,763,878及び第6,545,268及びPCT公報WO9930350に記載の三次元イオントラップ(IT)或いは線形イオントラップ(LIT)やGB2378312に記載のデュアルLITと同様、高周波(RF)トラップ内へのイオン蓄積を利用している。これらの解決策は全て、放出されたイオンパケットの時間的及び/又は空間的な伝播を損なうので、直交注入は相変わらず単反射TOF MSのためにのみ選択される方法である。US特許第6020586号に記載の中間的方式では、イオントラップと直交加速の両方を組み合わせた幾つかのトラップ機能が使用されている。低速のイオンパケットが、蓄積イオンガイドから同期直交加速器内に周期的に放出される。従来のO−TOF MSに比べこの方式の感度は高いが、分解能と質量範囲を多少犠牲にしている
要約すると、従来のMR−TOF MSは、実質的に拡張された飛行経路に沿ってイオンビームを保持するための空間的及び飛行時間集束を利用したものではない。殆どの参考文献に記載されているMR−TOF分析器は、イオン源との適合性は考慮されていない。実際、従来のMR−TOF分析計のアクセプタンスが制限されている(limited acceptance)ためこのような結合は厳しく制限され、実質的に延長された飛行経路においてイオン損失を引き起こすことが予想される。MR−TOF MSを連続イオン源に実際に結合することを言及したものがあり、分解能の大幅な改善が実証されている。しかしながら、分解能は感度の低下を犠牲にして得られ、同軸反射の場合には、質量範囲の大幅な縮小を犠牲にして得られる。従って、本質的に連続又は準連続なイオン源と共に動作しO−TOF MSよりも分析特性、即ち感度、質量範囲及び分解能が優れた飛行時間質量分析計が未だに必要とされている。
発明者らは、ドリフト空間内に周期的レンズ組立体を配置すると共に所定の配置で平面ミラーを配置しドリフト方向における集束とイオンの空間的広がりに対する飛行時間集束とを提供することにより、二次元平面ミラーを備えたMR−TOF MSのアクセプタンスと分解能とを実質的に高めることができることを見出した。
発明者は、更に、本発明のMR−TOF MSのアクセプタンスは改善されているため、イオン蓄積装置を介してMR−TOF MSを連続イオン源に効率的に接続できることを見出した。連続的に到達するイオンは、蓄積装置(イオンガイド、IT、LIT等)に蓄積された後に蓄積装置からパルス放出されるため、O−TOF MSよりも低頻度のMR−TOF MSの密度の低いパルス間のイオンを蓄えることができる。
本発明のMR−TOF MSは、従来技術の装置に比べて有利なイオン光学特性の組み合わせを提供する。即ち、本発明は、全質量範囲と「折り返し経路」構成を提供する、イオンミラーにグリッドを使用しないためメッシュに起因するイオン損失をなくす、イオンをイオントラップに蓄積し低頻度でパルスイオン排出を行うことにより連続イオンビームを効率的に使用する、分析計は周期的レンズによるシフト方向の空間的集束性を有するためイオントラップからの幅広のイオンビームを許容する。空間的集束は、折り返しイオン経路の面を横切って配置されたミラーによっても提供される。本発明は、イオンエネルギー及び空間的広がりを有するイオンパケットに関する高次飛行時間集束を提供することにより分解能を改善する。本発明は、良好に閉じ込められたイオンビームの多重反射によって形成された折り返しイオン経路を用いて飛行時間を拡張することにより、より大きなイオンパケットターンアラウンドタイムを許容する。最後に、本発明のより長時間の飛行時間の副産物としての利点が得られる。即ち、従来はコストを要した検出器とデータ収集システムをより低速に且つ低廉にすることができる。
本発明は、MR−TOF MSに全く新規な特徴及び機能、即ち、整数回のターンあたりのイオンシフトに相当する周期で飛行チューブドリフト空間の中央に最適に位置決めされた複数のレンズを導入する。この周期的レンズ組立体は、ビームの集束を可能にし、従って拡張された折り返しイオン飛行経路に沿ったイオンの安定閉じ込めを保証する。レンズ組立体はMR−TOFに新規な品質をもたらす、即ち、極めて多数の反射の後でもビームの空間的及び角度的な広がりが制限されたままである(実際には、シフト方向に使用する場合に達成される)。更に、イオン光学シミュレーションを使用して、発明者らは、新規なMR−TOF内のイオンの動きが、幾何学的配置の不正確さ、ポンプやゲージの漂遊電界及び磁界、イオンビーム自体の空間電荷等の様々な外部歪みに効率的に耐えることを見出した。MR−TOFは、ポテンシャル溝内のトラップと同様、このような歪みがあるにもかかわらずイオンを主軌道の近傍に戻す。周期的レンズ組立体の使用によって、イオンビームを確実に完全伝達させることができると共に、飛行経路が拡張されたMR−TOF MSをコンパクトにパッケージングできる。
レンズ組立体のチューニングによって、シフト方向の周期的で繰り返し可能な集束が可能になる。これは、焦点距離(F)が半反射即ち全イオン折り返しの4分の1(P/4)の整数倍(F=N*P/4)と一致するときに達成される。最も密な集束はF=P/4のときに起こる。このような密な集束は、ターン当たりのシフトを最小にして機器をよりコンパクトにするのに有利である。密な集束の条件下でも、ターン当たりのイオン経路が比較的長いのでレンズは弱いままであり、従って、レンズによって導入される矯正不可能な飛行時間収差は、折り返しイオン経路の面におけるイオンの空間的な広がりに対してほんの僅かである。実質的にイオン経路の面を横切って延びた平面レンズは、イオンミラーと周期的レンズとによる空間的集束は異なる方向に行われるため、イオンミラーと周期的レンズのチューニングが完全に独立であるという利点を有する。これに加え、このようなレンズ組立体には、側方の極板に非対称の電圧を印加することによって変更機能を組み込むことができる。
本発明は更に、シフト方向の反射を使用することによる飛行経路長の延長を許容する。このような反射は、例えば(非対称的に操作される)ミラーを操縦することにより達成できる。偏向板は、イオンゲーティングを可能にするために連続的に或いはパルスモードで動作させることができる。1回の反射は質量範囲に影響しないが、追加の反射による飛行経路長の延長は質量範囲に影響を及ぼすであろう。偏向板は、分析計をバイパスしてイオンをレシーバに向けるために使用することもできる。
本発明に使用するミラーの新規な集束特性は、適切なミラー間距離の選択と電極電位の調整によって提供される。そのような調整の結果として、イオンエネルギーの三次飛行時間集束と、折り返しイオン経路の面を横切るイオンの空間的広がりに対する二次飛行時間集束と、その面を横切る空間的集束とが得られる。本発明者らは、高次飛行時間収差の除去が、組立欠陥とドリフト長及び電極電位の或る程度のばらつきとに対して安定していることを見出した。従って、少なくとも1個の電極電位を調整しながら、実際には一パラメータ(イオンエネルギーに関するイオン飛行時間の線形従属性)を変化させながら、新規なMR−TOF MSをチューニングすることによって高い解像力を得ることができる。
前述の集束特性は、例えば実質的にシフト方向に延長された正方形フレームからなる4電極ミラーの平面構成において実現される。所望の電界構造は、スロット付き極板、バー、シリンダ、又は湾曲電極を使用することにより作成できる。二次元ミラーのエッジはプリント回路基板を使用して終端することが効率的であり、これによりMR−TOF MSの物理的な全長を短くすることができる。電極の数を多くすると、ミラーパラメータが更に改善される可能性が高い。
好ましい動作態様おいては、イオン源とイオン検出器とはミラー間の飛行チューブドリフト空間内に配置される。そのような構成においては、折り返しイオン経路はミラーエッジから遠く保持されており、ミラーを静止モードで操作してMR−TOF MSのより高い安定性と質量精度とを達成することができる。本発明は、MR−TOF MSを外部イオン源又はイオンレシーバと結合させビームがミラーエッジのフリンジフィールド内を通るのを防ぐために、外部ソースからのパルスイオン入射又はイオンミラーを介したイオン放出を行うのに適合している。
本発明は、様々なイオン源、例えばパルスイオン源(MALDIやSIMS等)、準連続イオン源(衝突冷却を備えたMALDI等)、本質的には連続なイオン源(ESI、EI、CI、PI、ICP等)、タンデム型質量分析計のフラグメント化セル等に適用可能である。連続或いは準連続イオン源は全て、イオンガイドと共に動作させることが好ましい。
上で簡単に触れたように、本発明はイオン蓄積装置と組み合わせて使用することができ、これにより密度の低い加速パルス間のイオン損失を防ぐ、或いは低減させることができる。そのようなイオン蓄積は様々な種類のガス充填高周波(RF)蓄積装置内で行うことができる。例としては、イオンガイド、RFチャネル、IT、LITが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらはイオン源自体に或いはMR−TOF MSの加速器に組み込まれる。本発明においては、イオン蓄積装置からの直接加速(軸方向或いは直交方向)、二重加速方式(連続パルス加速により低速イオンパルスを蓄積装置から排出する(軸方向或いは直交方向))、或いは二重蓄積方式(より低いガス圧で動作する第2のイオントラップに低速イオンパルスを入射する(軸方向或いは直交方向))を用いることができる。第2の蓄積装置からのイオン排出は、軸方向に或いは直交方向に行うこともできるし、別の加速器により軸方向に或いは直交方向に行うこともできる。新規なMR−TOF MSの飛行経路が実質的に拡張されアクセプタンスが広くなっているため、イオンパケットのパラメータの幾つかの妥協は許容できる。
本発明の一実施形態は、後者の、より複雑であるが有利な方式である二重イオン蓄積装置を使用する。両方の蓄積装置にイオンガイドを設けるのが好ましい選択である。パルス電極の組を追加して使用することが好ましく、その電界は、第2のイオンガイドのイオン蓄積領域内によく通過し、短いターンアラウンドタイムで軸方向の高速イオン放出を可能にすると共に、極めて均一な加速電界と適度のイオン発散を提供する。直交加速方式と比べると、本発明では連続イオンビームを殆ど完全に利用することができる。ターンアラウンドタイムの多少の増大は飛行経路の拡張で補償される。
本発明は更に、一以上のイオンガイドを備えたハイブリッドイオントラップや開放リング電極を備えた3Dイオントラップ等の幾つかの新規なイオン蓄積装置に注目している。これらをセグメント化したもののシミュレーションによって、MR−TOF分析においてイオンを作成するためのそのようなトラップの実用可能性が示された。別の新規の装置は、補助電極を備えた線形イオントラップを含む。イオントラッピングと軸方向放出の両方の達成は、RF信号に影響を及ぼさずに別々の組の電極にかける電圧をパルス化することにより行う。
本発明は、より強力なイオンパルスを提供すると予想され、その結果、イオン検出器のダイナミックレンジと寿命が重要な問題になる。当技術分野において多くの解決策が知られており、例えばイオン蓄積、質量分離、或いは検出ステージでのイオン抑制が挙げられる。公知の対策としては、イオン強度の自動調整や不要なビーム成分の質量フィルタリングが挙げられる。ダイナミックレンジは、データ収集において二次電子増倍管(SEM)とアナログディジタル変換器(ADC)とを使用することによって向上する。本発明の具体的且つ重要な特徴は長いパルス持続時間にあり、これにより帯域幅を低くでき前述の問題の解決が多少容易になる。
また、本発明のMR−TOF MSは、タンデム型質量分析計の構成において第1の分離質量分析計として使用することができる。MR−TOFを使用する利点は、本発明者らの内の1人による同時係属特許出願においてより詳細に述べられている。この同時係属出願発明には、イオン分離用の低速のTOF1をフラグメント分析用の高速のTOF2と組み合わせて使用することが記載されている。この構成では、イオン源からの単一のパルスあたり複数の前駆体を並行分析できる。本発明は、MR−TOF MSにおける特に長時間の分離を提供すると共に、低いイオンビームエネルギーや中程度イオンビームエネルギーでの分離、イオンビームの密な集束、及びイオンビーム位置の正確な制御を提供するため、ビームをフラグメンテーションセル内に導く場合に有用である。
本発明のこれらの及び他の利点は、添付図面を参照して以下の本発明の詳細な説明を読めば、当業者には明らかとなるであろう。
本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、より詳細には多重反射飛行時間型質量分析(MR TOF MS)に関する。より具体的には、本発明は、平面グリッドレスMR−TOF MSにおいてイオンドリフト空間内に周期的に配置したレンズの組と組み合わせてミラー電極の新規な配列及び制御を使用することによって得られる分解能と感度の改善に関する。空間的及び時間的集束の改善により、本発明では、拡張された折り返しイオン経路に沿ったイオンビームの広いアクセプタンスと確実な閉じ込めが得られる。その結果、本発明のMR−TOF MSをイオン蓄積装置を介して連続イオン源に効率的に結合することができるため、イオンサンプリングのデューティサイクルが改善される。本発明は、タンデム型質量分析計において、タンデム二次元並行MS−MS分析における第1の低速セパレータとして、或いは任意の従来の種類のセパレータと組み合わせて第2の高分解能質量分析器として、或いは両方の分析段階でMR−TOF MSをタンデムで用いて使用することもできる。
図1は、WollnikらがGB特許第2080021号(このGB特許の図3と図4)に記載した多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を示す。このような飛行時間型質量分析計においては、様々な質量とエネルギーのイオンがソース12から放射される。コレクタ20までのイオンの飛行経路は、ミラーR1,R2,...Rnがイオンを多重反射するように配置することによって折り返される。ミラーは、イオン飛行時間がイオンエネルギーに依存しないようなものである。Wollnikらは、複数の軸対称イオンミラーの2種類の幾何学的配置を示している。両方の配置においては、イオンミラーは、2つの平行面I及びIIに配置され、イオン経路に当たる表面に沿って位置合わせされている。一方の配置においてはこの面は平面であり、他方の配置ではこの表面は円筒形状である。尚、イオンはイオンミラーの光学軸に対して或る角度で移動しているため、追加の飛行時間収差が生じ、高分解能の達成をかなり難しくしている。
図2は、ロシア特許SU1725289に記載されているNazarenkoらによる試作品の「折り返し経路」MR−TOF MSを示す。このNazarenkoのMR−TOF MSは2個のグリッドレス静電ミラーを有し、一方のミラーは3個の電極3、4及び5からなり、他方のミラーは電極6、7及び8からなる。各電極は平行な1対の極板(「a」及び「b」)からなり、これら極板は「中央」平面XZに対して対称に配置されている。ソース1とレシーバ2は前記イオンミラーの間のフライトチューブドリフト空間内にある。ミラーは複数回のイオン反射を提供するが、その反射回数はイオン源を検出器に対してX軸方向に移動させることにより調整される。Nazarenkoは、Y方向の空間イオン集束とイオンエネルギーに関する二次の飛行時間集束とを達成するための、イオンターン毎に達成されるイオン集束について記載している。
Nazarenkoはシフト方向のイオン集束を提供せず、従って反射サイクル数が実質的に制限されることに注意されたい。また、NazarenkoはY方向の空間的なイオンの広がりに対する飛行時間集束を提供していないことにも注目すべきである。従って、Nazarenkoでは、分析計の幅広いアクセプタンスも提供していないし、ひいては実際のイオン源と共に動作する能力も提供していない。最終的に、Nazarenkoの装置は、イオン源の種類を示唆するものではないし、MR−TOF MSを様々なイオン源に結合する効率的な方法も示唆するものではない。
図3は、米国特許第6,107,625号に記載の「同軸反射」MR−TOF MSを示す。’625のシステムは、互いに同軸に位置決めされた2個の静電反射板34と38とを含み、このためイオン源32によって生成されたイオンはこれら反射板で反射してその間を往復できる。第1の反射装置34は、直交加速器の機能とイオンミラーの機能を兼ね備えている。複数回のイオン反射の後、各ミラーを素早くオフに切り替えると、イオンは反射板を通過しイオン検出器36に到達することが可能になる。’625特許は、連続イオン源をMR−TOF MSに結合する方法を教示している。記載の装置は実際に、小型の分析器で高い分解能を達成している。しかしながら、使用されている「同軸反射」方式は、質量範囲が大幅に縮小すると共に、連続イオンビームからのイオンサンプリングのデューティサイクルを低減させる。メッシュは実質的なイオン損失を引き起こす。デューティサイクルは、この著者による後の製作品においてインターフェースに一般的なイオン蓄積装置を導入することにより改善されている。
図4は本発明の一実施形態の概略図であり、MR−TOF MSは新規な周期的レンズを有する。MR−TOF MS11は、内蔵加速器13を備えたパルスイオン源12と、イオンレシーバ16と、2個のグリッドレスイオンミラー15からなる組を少なくとも1組とを含み、これらイオンミラーは、互いに平行に方向付けられていると共にY軸で示す「シフト」方向に実質的に延びている。これらミラー15の間には無電界空間14が画定されており、無電界空間14は、前記ドリフト空間内に位置決めされた少なくとも1組のレンズ17を含む。これら要素は、イオン源12とイオンレシーバ16の間に折り返しイオン経路19を提供するように配置されている。このイオン経路19は、イオンミラー15の間の多重反射経路とシフトY方向へのイオンドリフトとによって画定される。このシフトは、入ってくるイオンパケットのX軸に対する機械的又は電子的な僅かな傾きによって決まる。レンズ17は、整数回のイオン反射毎のイオンシフトに対応する周期でY軸に沿って位置決めすることができる。好ましい実施形態では、新規のイオン光学特性を提供することによって、即ちシフトY方向におけるレンズ17による周期的集束を提供すると共に平面グリッドレスイオンミラーが提供する直交Z方向の周期的空間的集束を補うことによって、MR−TOF MSのアクセプタンスを大幅に強化する。このような空間的設計のイオンミラーによる飛行時間集束の改善とイオン光学特性とについて以下詳細に説明する。
周期的レンズ17の組み込みは、本発明のMR−TOF MSにおける全く新規な特徴であり、このインターレース(interlaced)イオン経路に沿ってイオンの安定保持を提供する。レンズのチューニングを行えば周期的且つ繰り返し可能な集束が可能になるが、これは、焦点距離Fが半反射即ち完全イオンターンの4分の1(P/4)の整数倍、即ちF=N*P/4のときに達成される。F=P/4のとき、最も良好な集束が起こると考えられる。このような密な集束を行えば、ターン当たりのシフトが最小になり機器をより小型化できるため有利である。密な集束であっても、ターン当たりのイオン経路長が比較的長いためレンズ17は弱いままであり、レンズによって導入される矯正不可能な飛行時間収差は、折り返しイオン経路の平面におけるイオンの空間的な広がりに対してほんの僅かである。実質的にイオン経路の面を横切る方向に延びたレンズは、折り返しイオン経路の面を横切るイオンミラーとその面内に配置されたレンズによる空間的集束のチューニングを完全に独立した状態で行えるという利点を提供する。これに加え、このようなレンズには、側方の極板に非対称的な電圧を印加することによって変更機能を組み込むことができる。
MR TOF内に周期的レンズの組を用いることは、極めて多数の反射の後でもビームパラメータを制限することを意図している(実際には、シフト方向の反射を使用する場合に達成される)。イオン光学シミュレーションにより、発明者らは、本発明におけるイオンの動きが外部歪み(幾何学的配置の不正確さ、表面の漂遊電界や磁界の不正確さ、ポンプやゲージの不正確さ、イオンビームの空間電荷等)に効率的に耐えることを発見した。このMR−TOFは、そのような歪みがあってもポテンシャル溝内へのトラッピングと同様にイオンを主要な軌道付近に戻す。周期的レンズ17により、イオンビームの確実な完全伝達と共に、拡張飛行経路を有するMR−TOF MSのコンパクトな実装が可能になる。
図4は更に、同じ実施形態の側面図21と、本発明の分析器内における軸方向の電位分布22とを示す。ミラー15は、XY平面に対して対称的に図示されており、好ましくは互いに同一である即ちYZ平面に対して対称であるが、必ずしもそうでなくてもよい。ミラー15は、1以上(例えば4個)の電極から構成することができ、特別に形成されたドリフト空間縁部14Dに加えレンズ電極15L、2個の電極15E、キャップ電極15Cを画定する。前述のように、ミラーは好ましくは、シフト方向に延びて、折り返しイオン経路19の領域のまわりに二次元静電界を形成する。
ミラーの新規な集束特性は、ミラー間の好ましい距離の選択と電極電位の調整により得られる。本発明者らは導関数(derivatives)の組み込み計算と組み込み自動最適化ブロックとを用いたイオン光学シミュレーションによってこれらのパラメータを見出した。コンピュータプログラムで処理することによって、本発明者らは最適化アルゴリズムの幾つかの一般的傾向とイオンミラーのイオン光学特性に対する幾つかの重要な要件とを公式化した。例えば、同一の2個のミラーを備えた対称的MR−TOF MSの場合、各ミラーは、次の5種類のパラメータを独立にチューニングさせるために複数(例えば少なくとも4個)の電極を備えていなければならない。即ち、3種類のパラメータ(2個の電極電位とミラー間のドリフト長が最適)は、エネルギーに関する周期的な(各反射後の)三次飛行時間集束を提供するように選択する。即ち、チューニングにより、イオンエネルギーに関するイオン飛行時間の1次導関数、二次導関数、及び三次導関数をなくすことができる。また、1種類のパラメータ(最適には、ドリフト空間に最も近い「組み込みレンズ」電極の電位)は、折り返しイオン経路の平面を横切る所謂「パラレル・ツー・ポイント(parallel-to-point)」の空間的集束を提供する。この「パラレル・ツー・ポイント」とは、ドリフト空間の中間で始まる平行なイオンパケットが、半ターン後に点に集束され、完全な1ターン後には平行なイオンパケットに戻ることを意味する。この集束は、パケットのイオンもターニングポイントの近傍においてイオン経路の面と交差するように調整されることが有利である。残り1種類のパラメータは、折り返しイオン経路の平面からずれた初期イオンに関する前述のイオンパケットの飛行時間の二次導関数をなくすように調整される。両方の条件が満たされた場合は、ミラー配置の対称性によって、各完全ターンの後、即ち偶数回の反射の後で、初期座標上の二次までの全飛行時間収差と折り返しイオン経路の平面を横切る角度的広がり(angular spread)とが自動的に除去される。本発明者らは、高次飛行時間収差の除去は、組み立て不良とドリフト長及び電極電位の或る程度のばらつきとに対し安定性を有することが分かった。従って、1種類の電極電位だけを調整しながら、実際には1種類のパラメータ即ちイオンエネルギーに関するイオン飛行時間の線形従属性を変化させながら、新規のMR−TOF MSをチューニングさせることによって高い解像力(resolving power)を得ることができた。
図5は、前述の高次の空間的飛行時間集束を実現する本発明を構成するMR−TOF分析器の幾何学的配置と電圧の例を示す。ビュー23は、上で簡単に述べた例示的4電極ミラーの寸法を示し、サイズは1個の電極の長さLを基準として示す。上と同様、ミラーの電極は、レンズ電極を15L、2個の中間電極を15E、キャップ電極を15Cで示す。同様に、ビュー24は、ドリフト空間とミラー全体の寸法を示す。ビュー25は、同一の特定のMR−TOF MSの電極の電位を示す。この電位は、イオンビームの公称エネルギーEを基準として示す。この分析計は、図4のビュー22に示したものと類似の軸方向のポテンシャル分布を形成する。
イオンミラーの細長い二次元構造は、様々な形状の電極を使用して構成することができた。図5は、考えられる幾つかの電極の幾何学的形状を示す。例えば、長方形フレーム、細長いスロットを備えた複数の薄板、角棒等である。図示していないタイプとしては、平行ロッドや、円錐や双曲線等の湾曲電極がある。本発明者らは更に、より少ない数の二次元形状の電極を使用して所望の電界構造を合成できると考えている。二次元電界構造を保つには、境界問題の特別の処理が必要である。電界構造の歪みを回避するためには、ミラーは、折り返しイオン経路の全シフトよりも長く作成するか、或いは特殊な装置を使用する。例えば、ミラー電界の等電位線の形状を繰り返す電極形状を有する微細構造のプリント回路基板(PCB)30が挙げられる。本発明のイオン光学シミュレーションにおいては、レンズのエッジの幅だけを調整することによって、フリンジフィールド内の通過を大幅に減少できることが分かった。追加のエッジ電極を導入することによって同等の結果を得ることができる。例えば、レンズ電極15Lのリブとすることができる。
図6は、本発明を構成する一実施形態のMR−TOF分析器内でのシフト方向へのイオン反射によるイオン経路拡張の原理を概略的に示す。(同様の符号を用いて示す)標準的な構成要素に加え、実施形態31は、複数の操縦装置32及び33と、任意のインラインイオンレシーバ34とを含む。入射イオンパケット33は、追加の検出器34上に偏向させることもできるし、折り返し経路36に沿ってMR−TOF MS内に向けることもできる。シフト軸Yの他端においては、第2の操縦装置35は、イオンレシーバ16上にイオンを放出することもできるし、イオンパケットを折り返しイオン経路37に沿って再びMR−TOF MS内に向けることもできる。
動作においては、特定の状況において、入口操縦装置32がオフにされ出口操縦装置33が常にオンである場合、MR−TOF MSは非繰り返し折り返しイオン経路を維持するため質量分光分析の全質量範囲を維持しつつ、飛行経路は2倍となる。入口操縦装置は。分析計をバイパスするのに使用できる。この特徴は、同時係属特許出願においてより詳細に記載されている。該出願においては、MR−TOF MSがタンデム型MSにおいてイオンセパレータとして使用され、バイパス機能によってタンデム形態とMSだけの形態の間の切り替えが可能になっている。この操縦装置は、繰り返し周期的折り返しイオン経路にイオンパケットを通過させるのに使用できる。この場合、飛行経路の延長は質量範囲の比例的な減少を伴うと考えられる。即ち、特定の用途における要件に対し何らかの妥協をしなければならない。ドリフト方向の反射を使用する場合、分析器全体の配置上の制約とミラーエッジのフリンジフィールドとが重要であろう。この問題の回避方法は、イオンミラーにイオンビームを通過させることである。より具体的には、ミラーキャップ電極15Cに形成されたスリットにイオンビームを通過させることである。ミラー15は、点線で示したように拡張することができ、そのONとOFFはパルスモードで切り替える。
図6に操縦装置の一例41を示す。操縦装置41は、少なくとも1枚の極板、好ましくは平行な極板42〜46の組を含み、極板42は接地されている。操縦装置41は、平面偏向板の特徴と平面レンズの特徴とを兼ね備えている。操縦装置41は、極板44と45の電圧をチューニングさせることによって、2つの機能を切り替えることもできるし、2つの機能を同時に提供するように組み合わせることもできる。装置41は、周期的構造へのレンズの組み込みを可能にする。この場合、ドリフト方向へのイオンの集束及び/又は反射の両方のために各個別のセルを使用することができる。偏向板は、イオンのゲーティング、狭い質量範囲の選択、複数の前駆体又は複数の質量ウィンドウの同時分析を可能にするように、常時的に或いはパルスモードで動作できる。偏向器は、影響を受けないミラー電界(図示せず)の境界内に収まる閉ループ井戸を創出できるので、レンズと偏向器の間の柔軟な切り換えはフリンジフィールドの問題の克服において有用であろう。
イオン偏向を導入すると飛行時間分解能が低下するため、一般に、MR−TOF MSの分解能の改善ためではなくイオン操作及び飛行時間延長のために使用される。例えば、典型的なエネルギー広がりが5%であり且つビーム位相空間がビーム経路と垂直な両方向に約10πmm mradである場合、L=25mmとして本発明のMR TOF MSのイオン光学シミュレーションを行うと、レンズの最大焦点距離が完全ビームターン(2回反射)の長さと等しいモードにおいて、偏向器を使用せずに100,000の質量解像力(resolving power)(FWHM)が達成可能であることが予測される。レンズと追加使用の偏向器とにより生じる最も密な集束の場合、解像力は約30,000まで低下する。しかしながら、飛行時間が延長されているので、解像力が同じ従来のTOF MSよりも非常に大きなイオンターンアラウンドタイムであっても、この値を達成できる。
これでMR−TOF MSの種々の実施形態の説明を完了するが、新規なMR−TOF分析器はイオンビームの空間的及び時間的な広がりに対するより高いトレランスを有することに特に注意されたい。新規な分析器は、それ程多くの幾何学的なイオン損失を生じさせることなく飛行時間の延長を可能にする安定したイオンビーム閉じ込めを提供する。飛行時間の拡張は更に、TOF分解能を向上させると共に、パルスイオン源に見られるイオンターンアラウンドタイムの影響を低減する。最後に、本発明のMR−TOF MSは、初期イオンビームの空間的広がりに対して高次飛行時間集束を提供する。即ち、飛行時間分解能を低下させることなく、より幅の広いビームを許容できる。一方、飛行時間の拡張により、連続イオンビームからのイオンサンプリングの効率が低下する。この矛盾は、本発明の別の特徴によって、即ち連続或いは準連続イオン源へのイオン蓄積及びパルス放出の組み込みによって解決される。
本発明は、MR−TOF MSの拡張飛行時間に対応する、連続イオンビームの蓄積と低い周波数におけるパルス化イオン放出のためのイオン蓄積段階を追加することによって、MR−TOF MS内へのイオンサンプリングの効率を大幅に改善する。イオン蓄積は、イオン源自体又はMR−TOF MSの加速器に組み込まれた様々な種類のガス充填高周波(RF)蓄積装置、例えばイオンガイド、RFチャネル、IT或いはLIT等において行う。蓄積段階は、いずれのMR−TOF MSにおいてもまばらなパルス間のイオン損失を回避する。この組合せについて記載したものは従来技術にはない。
図7は、中間のイオン蓄積装置によって本発明のMR−TOF MSに連続イオン源からのイオンサンプリングを組み込んだ一般概念図である。図7AはMR−TOF MS全体のブロック図であり、図7Bはイオンガイド及びイオン源の詳細を示し、図7Cは第2の蓄積装置及びイオン加速器の詳細を示す。図7Aを参照しブロック図レベルの詳細を使用すると、本発明の好ましい実施形態のMR−TOF MS51は、連続イオン源61、蓄積イオンガイド71、第2の蓄積装置81、加速器91及びMR−TOF分析器31を含み、これらは順次的に相互接続されている。ブロック図は最も一般的な事例を示す。構成要素71、81、91の内の一以上は任意で使用しなくてもよい。即ち、異なる実施形態においては、構成要素71、81、91の内の一以上は、他の部品或いは組立体に一体化することができるし、或いは一部を装置から省略することができる。
追加の蓄積装置81の主な機能は、第1の蓄積イオンガイド71に蓄積された残りのイオンと異なる条件でイオン雲を作成することである。そのような条件は、イオンビームのガス圧、空間電荷又は質量組成によって、或いは放出電極の構成によって異なる。以下の説明に示すように、二重蓄積方式は柔軟性が高く、イオンビームの完全利用と複数の自動調整を可能にする。更に重要なことであるが、二重蓄積方式は位相空間の小さなイオンビームを生成し、分析器によるビームアクセプタンスを改善する。追加の蓄積装置を使用する利点は、二重蓄積方式を使用する本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の以下の詳細な説明で明らかになるであろう。
図7Bは、上で簡単に参照したが、ガス連続ESIイオン源の一例61Bを示す。このイオン源は、スプレープローブ62、サンプリングノズル63、サンプリングスキマー64、一以上のポンプ(65や75等)を有する。ESIイオン源の構成要素と動作原理は、当該技術分野でよく知られている。分析対象化合物の溶液をプローブ62から大気圧領域にスプレーする。非常に電荷を帯びたエアロゾルが蒸発し、分析対象物のガスイオンを形成し、サンプリングノズル63からサンプリングされる。ポンプ65は、余分なガスを数mbarのガス圧まで排気する。イオンは更に、ガス流と静電界に支援されたサンプリングスキマー64からサンプリングされ、連続イオンビーム66を生成し、同時にガスはイオンガイド71の一部を形成するポンプによって排気される。
図7Cは準連続ガス冷却MALDIイオン源の一例61Cを示す。このイオン源は、試料板67、レーザ68、冷却ガス供給源69、及びポンプ75を備える。ガス冷却機能を備えたMALDIイオン源61Bは、パルスレーザ68を試料板67上の試料に照射しながら分析対象物のイオンを生成する。供給源69は、試料板のまわりに冷却ガスを、約0.01mbar(WO9938185)或いは約1mbar(WO0178106)の中程度のガス圧で提供する。試料板から放出されたイオンは、ガス衝突で冷却され安定化される。MR−TOF MSでの分析時間は長いため、イオン安定性はMR−TOF MS内での使用の際に望まれる特徴の一つである。イオン運動エネルギー特性と鋭いタイミング特性はガス衝突によって弱められる。得られるイオンビーム66は、パルスイオンビームではなく準連続イオンビームであると考えられる。
図7Dは中間蓄積イオンガイド71の一例を概略的に示す。前述のイオン源61Bと61Cのいずれもこのイオンガイド71に接続される。この蓄積イオンガイドの具体例71は、高周波(RF)電圧が供給される四重極ロッド72、補助電極の組73、出射孔74、及びポンプ75を有する。尚、このイオンガイドはイオン源の記述において言及したのと同じポンプ75を用いている。
両イオン源の構成要素と動作原理について述べた。ESIイオン源を有する具体例(61Aとして図示)においては、連続イオンビーム66はスキマー64からサンプリングされる。ガス冷却機能を備えたMALDIイオン源61Bに関しては、準連続イオンビームがスキマー64からサンプリングされる。いずれの場合においても、ガス圧が数mTorrの領域にサンプリングされる。
本発明においては、連続又は準連続イオンビーム66はイオンガイド71内に向けられている。イオンはアパチャ64からサンプリングされ、ポンプ75は余分なガスを排出する。どちらのイオン源を用いた場合であっても、アパチャ64前のガス圧が略等しいので類似のアパチャ64及びポンプ75を使用できる。サンプリングされたイオンは、ガス衝突によって弱められながらRFロッド72の間に蓄積され、アパチャ64及び74により減速される。このイオンは好ましくは、RF四重極の軸の近傍に且つDCポテンシャル範囲の下端或いはその近傍に閉じ込められる。イオンパケット76は、周期的に、蓄積イオンガイドから加速器91内に、直接的に或いは任意の第2のイオン蓄積装置81を介してパルス式に排出される。
本発明はイオン蓄積を使用することができ、補助電極(73等)によってイオンガイド71内の軸方向のDC分布が構成される。電極73は好ましくは、静電界がロッド間を効率的に通過するようにRFロッド72を取り囲む。軸方向のDC分布は調整或いは時間変化させることができ、これにより空間的に分散されたイオン蓄積、イオンサンプリング率の制御、及びイオン放出プロセスの適度な持続時間を提供する。尚、補助電極73への印加電圧の操作にはRFロッド72のRF電位の操作は必要ない。実際に、ロッド72に印加するRF電圧を定常状態に維持することにより、より良く集束されたパルス化イオンパケットを提供することが有利であると考えられる。イオンが軸方向に放出されるので、RF電界が無視できる場合、RF電界は軸方向のイオン速度に殆ど影響を及ぼさない。
蓄積イオンガイド71は加速器91に直接結合することができ、好ましくは直交させて結合する。イオンガイドにはガスが充填されているので、電極73と74に印加する電位を小さく変調させることによりソフトなイオン放出を使用することが好ましい。そのような遅く(1〜数十電子ボルト)かなり長時間(数マイクロ秒)のイオンパケットは、同期された直交加速と適合可能である。この方式は極めて一般的なプラクティス(例えば、US6,020,586参照)であるため説明しない。イオンパケット76は、ガス充填されたイオンガイド内の追加の差動ポンピングステージから高真空で分析計に送られる。この追加のステージは、略平行なイオンビームを形成するレンズを含むことができる。イオンパケットは直交加速器91に入り、イオンを分析計に同期的に注入する。直交加速器は、本発明のMR−TOF分析器のドリフト空間内に位置決めし、本発明の平面MR−TOF分析器のミラー(又は、1個のイオンミラーのパルス部分)の内の1個と組み合わせ、パルス式に操作するか、或いは本発明のミラーの内の1個のDC電界のパルス化された延長部として操作することができる。蓄積イオンガイドには、イオン質量範囲を犠牲にするが直交加速のデューティサイクルを改善するという利点がある。
図7Cは第2の蓄積装置81の一例を示す。第2の蓄積装置81は、汎用イオントラップ82、軸方向出射孔88或いは直交出射孔86、及びポンプ85とから構成することができる。蓄積装置81は、イオンガイド71に接続され、好ましくは蓄積イオンガイドに接続されている。イオンは、イオンガイド71から汎用トラップ82内に連続的に或いはパルスで放出される。汎用イオントラップ82は、3Dイオントラップ、四重極内に形成された線形イオントラップ、多重極又はワイヤイオンガイド(補助DC電極を備えることが好ましい)、RFチャネル、リング電極トラップ、イオンファンネル、或いはこれらの装置の組み合わせとすることができる。トラップは、ガスをポンプ85によって排出し約0.1mTorrの低いガス圧に維持されることが好ましい。RF電界及びDC電界とガス制動との複合作用により、イオンはトラップの出口近くに閉じ込められる。イオンは周期的に、蓄積装置82から86、88等のアパチャを介して軸方向87又は直交方向89にMR−TOF分析器に直接的に排出され、MR−TOF分析器のポンプシステムへのガス負荷を低減する働きをする。図7Cには2種類の方式を示す。図の左の方式は、蓄積装置82からMR−TOF分析器内へ軸方向87に或いは直交方向89に直接イオンを排出する方式に対応している。このページの右側の方式は、任意の加速器91を用いて軸方向94に或いは直交方向93にイオンを排出する方式に対応している。追加の蓄積装置81の重要な機能は、第1の蓄積イオンガイド71に蓄積されたイオンの残りとは異なる条件でイオン雲を生成させることである。この条件は、イオンビームのガス圧や空間電荷、排出電極の構成によって異なる。後の説明において示すが、2重蓄積方式はより柔軟性が高く、イオンビームの完全利用と複数の自動化調整を行うことができる。更に、2重蓄積方式は、より小さな位相空間のイオンビームを生成し分析器のビームアクセプタンスを改善する。追加の蓄積装置を使用する利点は、次に述べる2重蓄積方式を用いたMR−TOF MSの好ましい実施形態の説明において明らかになるであろう。
図9は、軸方向放出を用い任意選択の加速器を備えた二重イオン蓄積装置のブロック図を示す。任意選択の加速器91は、ポンプ95により排気されたハウジング97内に配置された電極92の組を備える。図9の例においては、加速器はMR−TOFとポンプ及びハウジングを共有するが、MR−TOF内の真空を高めるために差動式にポンピングすることができる。第2の蓄積装置81からのパルスイオンビーム89は電極組92内で加速される。当技術分野においては種々のタイプの加速器が知られている。例えば、ワイヤで作成された電極や、スリット或いはメッシュを備えたリングやプレートから作成された電極である。また、イオンビームを閉じ込めるためにRF信号が供給される電極とすることもできる。イオンは、イオン注入の方向に対して軸方向94或いは直交方向93に加速される。加速器は、連続的に動作するか或いはイオン注入と同期したパルスモードで動作する。いずれの場合においても、加速器は、イオンパッケージが物体平面(object plane)と呼ばれる中間時間集束面で局所的圧縮96を受けるように配置し制御することができる。
図10は、パルス化された軸方向イオン放出を用いる第2の蓄積装置81の一例101を示す。第2の蓄積装置81は、短いロッド拡張部103を備えた多重極ロッドの組102と出射孔104とから構成できる。蓄積装置81は更に軸方向DC加速器91と連通している。該加速器は、DC加速電極105とアパチャ106とから構成される。
動作においては、イオンはイオン源で形成され、好ましくは連続イオン源或いは低速イオンパケットとして中間イオンガイド71を通過する。第2の蓄積装置81は好ましくは、比較的低いガス圧(例えば0.1mTorr〜1mTorr)であって且つ蓄積時間1ミリ秒の間のイオン衝突制動に十分な圧力に保持される。ロッド拡張部103にはロッド102と同じRF信号が供給されるが、若干低いDC(ロッド102よりも10〜50V低い)に保持される。出射孔104に印加される電位を変化させることによって第2の蓄積装置81へのイオンの蓄積と該装置からのイオンのパルス放出とが周期的に行われる。イオン蓄積ステージでは、アパチャ104が逆電位に維持されることにより出射孔103の近くに局所的なDC井戸が形成されると同時に、ロッド拡張部のRF電界の半径方向にイオンが閉じ込められる。DC井戸の鋭さは、イオン雲の大きさが約0.5〜1mmになるように調整できる。イオン放出ステージでは、アパチャ104は、(正イオンの場合)強い負の電位に引かれ、イオンを軸に沿って第2の蓄積装置81から取り出す。尚、RF電界はオンのままである。イオンは好ましくは軸近傍に閉じ込められるので、軸方向放出の間RF電界の影響を殆ど受けない。DC加速電極105は、エネルギー修正器として且つイオンパケット107の同時空間的集束用のレンズとして作用させることができる。出射孔106は、MR TOF MSポンピングシステムにかかるガス負荷を低減するために使用できる。推定ではあるが、イオン雲が約0.5Vを超える空間電荷電位を生成しない限り、イオンパケット107のパラメータはMR−TOF MSに十分適している。エネルギーの広がりが0.2eV、イオン雲直径が0.5mm、加速度電位が5kV、抽出電界が500V/mmのとき、イオンビームパラメータは、発散1度未満、エネルギーの広がり5%未満、1kDaイオンのターンアラウンドタイム8ns未満である。
図11は、非蓄積イオンガイドからの直交イオン加速の一例111を示す。この機構は、イオントラップ108、非蓄積イオンガイド109、及びDC加速器91を有する。機構111は、様々なタイプのイオントラップとイオンガイドとを用いて使用できる。図11のイオントラップ108は、DC電極113と出射孔114によって取り囲まれたRF多重極セット112で構成することができる。非蓄積イオンガイド109は多重極セット115から構成され、多重極セットは一以上の電極にスリット117を備えるか或いはRF多重極の電極間に開口部を備える。多重極115は、必要に応じて補助DC電極116で取り囲むことができる。イオントラップとイオンガイドの両ステージは好ましくはポンプ85と95によって形成した真空下で行う。
動作においては、イオンはイオン源で形成され、好ましくは中間イオンガイド71から連続的に或いは低速イオンパケットとして入る。イオントラップ108は、比較的低いガス圧(約0.1〜1.0mTorr)であって且つ1msの蓄積時間のイオン衝突制動に十分なガス圧に保持される。DC電極113及び出射孔114の電位を変調することによって、イオンの蓄積と、イオントラップ108から低速イオンパケット(1〜10us)としてのパルス放出とが周期的に行われる。イオンガイド109の多重極115は、軸方向に広がるイオンパケットの放射方向のイオン閉じ込めを継続するためにRF信号が供給される。イオン注入パルスに対して所定の遅延時間後に、第2の抽出パルスが多重極ロッド115に印加される。補助電極116に任意のパルスを印加することができる。多重極電極115にかかる電位は、RF信号の所定の位相において(例えば、ゼロボルトで)ゼロにされた後、(約10〜300ナノ秒の短時間の遅延後に)所定のパルス電位に切り換えられ、多重極ロッド間の又は一ロッドのスロット117を通るイオンバンチング(ion bunching)とイオン抽出とが提供される。次にイオンはDCステージ91で加速され、MR−TOF MS31に入る。イオントラップ108からイオンを放出する第1のパルスとイオンガイド109の第2の抽出パルスとの間の遅延は、直交方向に抽出されるイオンの質量範囲を最大にするように調整できる。
上に述べた蓄積装置と加速器とは1個のユニットに組み合わせることができることに注意されたい。加えて、ロッド112と115の全長に亘ってガスを提供できる。更に、アパチャ114と電極113とは完全に省略でき、電極112と115は必要に応じて1組の電極に組み込むことができる。
図12は、蓄積装置の更に別の実施形態121を示し、本明細書においてはこれを「3Dイオントラップ付きハイブリッドイオンガイド」と呼ぶ。図12を参照すると、蓄積装置121は、2対の電極122及び123で構成された四重極イオンガイドと3−D Paulトラップとを有し、該トラップはリング電極127とキャップ電極126及び129とを有する。リング電極127は好ましくは、大きなサイズのアパチャ125において開口している。キャップ電極129は好ましくは、直交イオン放出のためのアパチャ130を有する。
動作においては、イオンガイド122、123と3Dトラップ126、127、128との全体に亘って連続的な高周波(RF)電界が形成される。最も単純な態様においては、1対の電極122がリング電極127に接続されてRF電圧が供給される1つの極を構成し、1対の電極123がキャップ電極126と129に接続されて反対の極を構成する。この2極の間にRF電圧を対称的に供給すれば同一のRF電界を達成できる。好ましい態様においては、RF電界の類似の構造が維持される。しかしながら、対応する各電極のRF電圧振幅を異なるものとしDC電位を別々に制御しながら、各電極に対し同一周波数で同一位相の信号を供給することができる。イオンは、電極の対122と123の間のイオンガイドから開口部125を介して3Dトラップに(連続的に或いはパルス状で)供給される。
RF電位とDC電位の分布は、線形四重極122〜123と四重極トラップ126〜129の間に質量依存性軸方向障壁を形成し、その振幅は数ボルトの範囲であってイオン質量電荷比m/zに反比例する。一般にこの障壁により、ガイドと3Dトラップとの間でイオンシェアリングが生じる。電極122〜123のDCオフセットを上昇させると共にガス衝突の支援を受けると、大半のイオンを3Dトラップの中央に集中させることができる。好ましい形態においては、前記DCオフセットは、数m/z*を超えるイオンには障壁が消えるように徐々に増加させる。m/z*のイオンは、トラップ内で最小振幅の永続的振動(secular oscillations)をしつつ障壁を通過する。DCを緩やかに増大させると、トラップ内に全てのイオンをゆっくりと移動させることができる。これと同時に、イオン源からのイオンを中間蓄積イオンガイド71内に蓄積することができ、これによりデューティサイクルを改善する。3Dトラップ内でイオンが制動された後(1〜5ms)、RF電界をオフにし、短く最適化された遅延時間(約10〜300ns)後、3Dトラップ電極126、127及び129の内の少なくともの幾つかに高電圧パルスを供給でき、これによりキャップ電極129のアパチャ130からイオンパケットを放出する。別の態様においては、RF電圧は方形波信号と置き換えられ、イオン放出パルスは、イオン放出フェーズにおいて電位分布が一定になるように方形波信号の固有位相と同期される。
図13は複合トラップ121をセグメント化した類似物131を示す。対を構成する四重極ロッド122は、チャネル135を有する極板132に置き換えられている。リング電極127は、円形の穴138を有する極板137に置き換えられている。対を構成する電極123は、極板132を対称的に取り囲む極板133及び134に置き換えられている。キャップ電極126はキャップ極板136と置き換えられ、アパチャ130を有するキャップ電極129はアパチャ140を有するキャップ極板139と置き換えられている。キャップ極板136と139は極板133と134に平行に配置されるか或いはその拡張部として配置される。これら極板は、図13の左側部分に示したサンドイッチ構造で配列される。同じ電極を図13の右側部分には別々に示す。
動作においては、セグメント化されたトラップ131は、軸近傍に同じ電界構造を提供する。チャネル135の軸近傍には四重電極2D電界が、円形孔138の中心近傍には3D四重電極電界が形成される。極板に印加されるRF電圧又は方形波信号によってトラップ電界が形成される。RF電界は、セグメント化イオンガイドとセグメント化3Dイオントラップの間にイオンシェアリングを提供する。RF信号は、RF信号の特定の固定位相(好ましくは0V)で周期的にオフにされ、所定の遅延時間(約10〜300ns)後に高電圧パルスが電極に印加され、略均一な電界内でイオン放出が提供される。イオンパケットは、アパチャ140から取り出され、MRTOFのポンピングシステムにかかるガス負荷を低減させる。好ましくは、RF信号は中央極板135と137とだけに印加され、DCランプは極板133と134と(或いは132を含む)に印加され、高電圧パルスは極板136と140とに印加される。この構成により、RF信号、DC信号、高電圧パルスの分離が可能になる。
符号91等に示すイオン蓄積装置の他の実施形態或いは方法としては、同軸アパチャによって構成された線形イオントラップ(例えば、A.Luca,S.Schlemmer,I.Cermak,D.Gerlich,Rev.Sci.Instrum.,72(2001),2900−2908参照)、直交放出機能を備えたセグメント化トラップ(US6670606B1と類似)、セグメント化リングイオントラップ(Q.Ji,M.Davenport,C.Enke,J.Holland,J.American Soc.Mass Spectrom,7,1996,1009−1017)、ワイヤトラップ、RF信号を有する電極によって取り囲まれたメッシュによって形成されたトラップ、螺旋状ワイヤトラップ等が挙げられる。
図14は、本発明のMR−TOF MS141の好ましい実施形態を概略的に示す。本発明の装置141は、多重反射分析計31とパルスイオン源51とを有する。前述のように、パルスイオン源51は、順次的に接続された連続イオン源61と中間蓄積イオンガイド71と第2の蓄積イオンガイド81と加速器とを有する。主構成要素の各々は、前述の要素の内の一以上によって形成できる。図示の特定の実施形態は、連続イオン源61或いはESIイオン源の一例であり、スプレープローブ62、サンプリングノズル63、サンプリングスキマー64、及びポンプ65を有する。中間蓄積イオンガイド71は、補助電極パルス電極73に囲まれた四重極RFロッドの組72と、出射孔74、及びポンプ75を有する。第2の蓄積イオンガイド81は、ガス閉じ込めキャップ82、組を構成する補助パルス化電極84によって取り囲まれた四重極RFロッドの組83、出射孔88、ポンプ85を有する。加速器91は、電極の組92、MR−TOF MS分析計と共用のハウジング97、及びポンプ95を有する。MR−TOF分析計31は、無電界領域14、2個の平面グリッドレスイオンミラー15、インラインイオン検出器34、周期的レンズの組17、入口操縦板の組32、及び出口操縦板の組33を有する。
動作においては、ESIイオン源61は連続イオンビーム66を生成し、該ビームは、蓄積イオンガイド71に中程度のガス圧(約0.01〜0.1mbar)で蓄積される。中間蓄積イオンガイド71は、低速イオンパケットを、更に低いガス圧(約10−4〜10−3mbar)で動作する第2の蓄積イオンガイド81内に周期的に放出する。ガス閉じ込めキャップ82は、第2のイオンガイド81の上流領域のより高いガス圧を考慮したものであり、それによりガイドの出口近傍のより低いガス圧でのイオン制動とイオントラップが改善される。これは、ポンプ95にかかるガス負荷を低減するのに役立つ。更に、従来のTOF MSよりも飛行経路が延長されているため、加速器91及びMR−TOF分析計31のチャンバ97内のガス圧をより低く(10-7mbar未満)維持しなければならないが、これにも役立つ。
低速イオンパケットは、第1のイオンガイド71に蓄積された全てのイオンの一定部分を含む。例えば、約1ミリ秒ごとに蓄積イオンの約10%がアパチャ74からサンプリングされる。入るイオンと出るイオンのそのようなバランスによって、10ミリ秒毎のイオン含有量の回復が可能になる。第1のイオンガイド71に蓄積されたイオンの量はビーム内のESIの強度に依存する。典型的なイオン流量3×108個/毎秒においては、第1のイオンガイド71は約3×106個のイオンを含むが、この個数は著しい空間電荷電界を生成することが分かっている。このイオンの10%だけが第2の蓄積装置内にサンプリングされる場合、第2の蓄積装置内のイオンの量は約3.105個である。1mm3に蓄積されるこのようなイオン雲は約30meV電位の空間電荷電界を生成す。この空間電荷電界は、熱エネルギー(25meVのガス運動エネルギー)に近く、イオン初期パラメータに或る程度の影響を及ぼす。
二重蓄積方式には幾つかの利点がある。第1に、第2の蓄積四重極内へのパルス注入によって、低いガス圧で完全なイオン制動が保証される。第2に、第1の四重極セクション内のRF信号の振幅を調整することができ、これにより低質量フィルタとして動作させることができる。溶媒イオン及び化学的バックグラウンドイオンの殆どを除去することによって、空間電荷が更に低減する。第3に、永続的イオン運動の選択的励起を使用することによって、空間電荷を作成し検出器を飽和させる最も強いイオン種の選択的除去を達成することができる。更に、イオン注入の持続時間を調整することによって、イオンビームの強度を制御することができる。これは、データ収集のダイナミックレンジの改善と検出器の飽和の回避に役立つ。
第1のイオンガイド71は、パルス電位の支援によって出射孔74上に(及び必要に応じて追加電極73上に)生成される極めて緩やかなパルス化軸方向電界によって低速のイオンパケットを放出する。追加電極の組73の使用によって、パケット内の放出イオンのエネルギーと量の正確な制御が可能になる。放出されるイオンパケットは、パルス化トラップ方式を用いると第2の蓄積イオンガイド81内に略完全にトラップされる。より詳細には、出口アパチャ88の電位によって反発DC障壁が形成され、電極83のRF電界によってイオンが半径方向に閉じ込められる。イオンパケットは遠端部88で反射される。しかしながら、イオンは第2のガイド81の入口(74)に戻るまでに、第1のイオンガイド71からのイオン放出の終了後に生じた電極74の反発電位を受ける。イオンガイド83の最初のガス圧が高いのでイオン運動制動が加速される。ガス圧の局所的増大は、ガス閉じ込めキャップ82とアパチャ74から出るガスジェットによって形成される。
トラップされたイオンは、追加の電極84により形成されたDCポテンシャル井戸内に閉じ込められる。これら電極は、第2のイオンガイド81のRFロッド83を取り囲み、追加電極の電位を有効且つ対称的に通過させる。イオンガイド81の軸上の静電界について言及すると、追加電極の組84は、半径方向に中程度の八極子DC電界を生成しつつDC電界の軸方向分布を形成する。長期に亘る蓄積中のイオン不安定性を回避するためにそのような八極子DC電界を十分に小さく維持することが重要である。数値については例えば、中心間が15mmとなるように位置決めし内接円直径を5mmとした5mmの四重極ロッド間にRF電位1.5kV、周波数3MHzを印加する。各追加電極は、ロッド用の5mmと7mmの中央孔を有する極板として形成される。各極板に印加される電位の約20%は、四重極組立体の中心を通過する。3枚の極板は、互いに3mm離間させ且つ出射孔から5mm離間させて配置する。中央極板に印加する電圧を10V降下させることによって、深さ約2VのDC井戸を形成する。100meVのエネルギーを有するイオンが、長さ約1mm且つ直径が数mm(a fraction of mm)の雲に閉じ込められる。この配置では、イオン安定性に対し殆ど影響を及ぼすことなく、質量電荷(m/z)比が少なくとも10の範囲内でのイオンの蓄積が可能となる。
イオンガイド81内の衝突制動と閉じ込めの後、イオンパケットは軸方向(X方向)に放出されDC加速器92内に入った後、MR−TOF分析計31内に入る。第2の蓄積装置を空にした後、パルス電位をトラップ状態に戻し、次のイオン蓄積サイクルの準備をする。パルス化放出は、RF電位を変化させずに維持したまま、追加電極の組84と出射孔88とに印加される高電圧電気パルスの支援によって行われる。第2の蓄積四重極81内の低いガス圧は、高電圧パルスを印加している間のガス放電を回避するのに役立つ。全てのイオンが小さい容積内に蓄積されるので、パルスによって他の全てのイオンを損じることなく、イオンのターンアラウンドタイムを大幅に短縮するのに十分な程、パルス振幅をかなり高くすることができる。従って、イオンパケットを小さい雲に圧縮する能力と高電圧加速パルスを印加する能力とが、実際には二重蓄積配置の2つの重要な理由である。第1のイオンガイド71から直ぐに直接放出する場合には、このようなイオンパケットパラメータは達成できないであろう。
非常に大きい放出パルスを印加すると、イオンのターンアラウンドタイムがかなり低下するので、イオンガイドをMR−TOF MSに直接使用することができる。前述の幾何学配置の例に対して行ったイオン光学シミュレーションの結果、追加電極に高電圧パルスを印加することによって、ターンアラウンドタイムを数ナノ秒に短縮できることが分かった。例えば、(3個の内の)中間の追加電極に5kVのパルスを印加し出射孔に−1kVのパルスを印加することによって、軸方向の電界が約200V/mmになる。初期エネルギーの広がりが200meVで蓄積イオン雲のサイズが1mmであると仮定すると、1000amuイオンのターンアラウンドタイムは僅か10nsであり、放出されるイオンパケットのエネルギーの広がりは200eV未満である。DC加速器92内でDC約4kVの後段加速を適用することによって、イオンビームのエネルギーの広がりは5%未満となって十分に集束され、位相空間は10π*mm*mrad未満となる。これは、本発明のMR−TOF分析計の広いアクセプタンスと高次飛行時間集束と適合する。
本発明者らによるイオン光学シミュレーションの結果、MR−TOF MSの分解能は、主にターンアラウンドタイムによって制限されると考えられる。具体的に数値を示すと、エネルギー4keV、速度3×104m/sに加速された1000amuのイオンのターンアラウンドタイムは10nsであり、幅0.25mの分析計で50回の反射(一方向にシフトしながら25回の反射、復路で25回の反射)を行った場合の飛行時間は1msである。このような分析計は有効飛行経路が30mの折り返し経路を提供する。実際に10nsのターンアラウンドタイムが唯一の制限因子である場合は、分解能はおよそR=50000に達する。飛行時間を更に拡張することによって、分解能は更に改善されると予想される。より長時間の蓄積はターンアラウンドタイムを多少悪化させる。しかしながら、空間電荷電界とターンアラウンドタイムの増大は、飛行時間の増大よりも緩やかであると予想される。
長時間の蓄積時間は検出器のダイナミックレンジに負荷をかける。MR−TOF内の飛行時間が長くなりイオン利用効率が高くなると、イオンは最大1ミリ秒蓄積されてから持続時間10〜20nsの短いパケットで検出器に到達する。検出器の飽和を防ぐため、ひいては分析パラメータ(質量精度、質量分解能、ダイナミックレンジ等)の損失を防ぐために、時間−ディジタル変換器(TDC)と組み合わせたマイクロチャンネル極板検出器(MCP)ではなく、アナログ−ディジタル変換器(ADC)と組み合わせた二次電子増倍管(SEM)を使用することによって検出器のダイナミックレンジを広くすることができる。一実施形態としてハイブリッド検出器を使用することができる。その場合、単一のマイクロチャンネル又はマイクロ球極板はシンチレータと光電子増倍管の後に配置する。また、次の各対策a)〜d)を任意に組み合わせて、即ちa)様々な増幅ステージで電子をサンプリングする2個のコレクタを備えたSEMを使用する、又はb)高速操縦装置と組み合わせた二重SEMを備えた配置を使用する、及び/又はc)対を構成する取得チャネルに接続された二重増幅器を使用する、及び/又はd)イオンパルスの強度がショット間で変化するように中間又は第2の蓄積トラップ内において2つの異なる蓄積時間を交互に用いる、を任意に組み合わせて使用することも提案する。MR−TOFのイオンパルスは、従来のTOF(1〜3ns)よりも長い(10〜20ns)と予想されることに注意されたい。帯域幅要件が低いため、前述の手段の実現は容易である。
MR−TOF内のイオン利用効率が高くなるほど検出器の老朽化が早くなる。検出器の寿命を長くしそのダイナミックレンジを大きくするために、より短い蓄積時間で質量スペクトルのプレ走査を使用することも提案する。このプレ走査から、極めて強いピークのリストを推定して機器コントローラのメモリに記憶させることができる。このリストを使用してパルスイオンセレクタを制御することができる。パルスイオンセレクタは、前述の実施形態のいずれにおいても、検出器に、偏向器やレンズのいずれかに、或いはMR−TOFのドリフト空間内に組み込むことができる。このセレクタは、強力なイオンピークに対応する質量電荷比を備えたイオンを抑制するために使用される。この抑制は、パケットがセレクタ内を飛行している間に強力なパケットの大部分を偏向させるか散乱させることによって行う。また、このようなピークを、ゲインがかなり低い別の検出器に方向転換させることもできる。セレクタの好ましい実施形態としては、ブラッドベリー=ニールセンイオンゲート、平行極板偏向器、イオン検出器内の制御グリッド(例えば、二次電子の通過を止めるためにパルス化されたダイノード又はマイクロチャネル極板間のグリッド)が挙げられる。実際のイオン強度の計算において、イオン強度の抑制を考慮する場合がある。ショット当たりのイオン数は、任意のイオン蓄積ステージ、MR−TOF或いは検出器において抑制できる。
検出器に負荷をかけ老朽化させるのに加え、パルス当たりのイオンの量が過剰になると(2*105超)、蓄積装置内に空間電荷が形成される。様々な対策があるが、その一例としては、予備イオン蓄積ステージ或いは二次イオン蓄積ステージにおけるイオンビーム強度やパルス当たりのイオン数の抑制制御が挙げられる。このような抑制制御には、対象となる質量範囲の選択、低質量イオンの除去、或いは最も強力なイオン成分の質量選択的除去が含まれるが、これらは例えばRFトラップ装置内で永続的運動を励起し、これらイオンの選択的損失を生じさせることにより行う。
イオントラップ源と組み合わせたMR−TOF MSの前述の方式によって、連続イオンビームをイオンパケットに100%変換することができる。更に、イオンパケットの達成可能なパラメータにより、イオンは新規なMR−TOF MS内を完全に通過でき、ターンアラウンドタイムが主な制限因子である場合は、長さ1mの機器内で50000の分解能を達成することができる。そのようなパラメータは、既存のo−TOF MSの分解能及び感度よりも高く、既存のMR−TOF MSのものよりもかなり優れている。
多重反射分析計内及び周期的レンズの組内の安定したイオン閉じ込めによって、MR−TOFの感度と分解能が改善され、拡張されたイオン分離が可能になる。新規の分析計のそのような特性は、並行してMS−MS分析を行うタンデム型質量分析計において極めて有用である。該分析計については、同時係属出願の公開公報WO2004008481に記載されており、この内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。ここで、タンデムTOFの第1の多重反射分析計に周期的レンズの組を導入し、それにより並行MS−MS分析の感度と分解能の両方を改善する。
図15を参照すると、タンデム型質量分析計151の好ましい実施形態は、パルスイオン源51、多重反射質量分析計31、フラグメンテーションセル152、及び直交飛行時間型質量分析計161を有する。パルスイオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器を有する。第2の蓄積イオンガイドは、この図では、軸方向のイオン放出のためにセットアップされた補助DC電極84を備えたRF線形イオントラップ83として示す。前述のMR−TOF MS31は、無電界領域14、オフライン検出器34、高次時間飛行及び空間的集束を提供するように構成された2個の平面グリッドレスミラー15(好ましくは4個超の電極を含む)、折り返しイオン経路に沿った安定したイオン閉じ込めのための周期的レンズの組17、対を構成するエッジ偏向器32及び33(好ましくは周期的レンズ17のエッジ要素に組み込まれエッジイオン反射によって飛行経路の拡張を提供する)を有する。
フラグメンテーションセル152は高速フラグメンテーションセルであり、援用した同時係属特許出願に詳細に記載されている。好ましくは、フラグメンテーションセルは、半径方向のイオン閉じ込めのための短い(5〜30mm)RF四重極158、並びに時間依存軸方向電界を形成するための補助DC電極159及び出口アパチャ160を含む。四重極は内側セル156によって取り囲まれ、セルは、ポート157から比較的高いガス圧(0.1〜1Torr)でガスが充填されている。MR−TOFのガス負荷を低減するため、セル156の周りの空間はターボポンプ155で排気する。イオン伝送を強化するために、内側セルの両端に集束レンズ154が設けられている。
直交TOF161は従来装置であり、当技術分野でよく知られている。この装置は、パルス化電極162とインライン検出器164とを備えた直交加速ステージ163、ポンプ165、電気的浮遊状態(electrically floated)の無電解領域166、イオンミラー167、及びTOFイオン検出器168から成る。直交加速は好ましくは、入射イオンビームに沿って方向付けられたスリットを有する平坦な電極で行われる。直交TOFが殆どの従来の機器と異なる点は、約10us時間の高速フラグメント分析を提供するために、イオン経路が短く(約0.3〜0.5m)加速電圧が高い(5kV超)ことである。
動作においては、パルスイオン源51は、親イオンのバーストを周期的(例えば、10msに1回)に生成し、イオンを蓄積し第2の蓄積装置82からイオンを放出することによってイオン源61からの連続イオンの流れをイオンパルスに変換する。様々な質量電荷(m/z)比を有する親イオンの混合物は、様々な分析種の混合物として表れる。イオンは、30mを超える複数の多重折り返しイオン経路を有する第1の分析計31内で時間的に分離される。この分析計は、約50〜100eVの少ないイオンエネルギーで動作して分離時間を約10msに延長する。本発明のMR−TOFは、低いエネルギーと延長された飛行時間におけるイオン分離に極めて適している。この分析計は、イオンエネルギーに対する高次飛行時間集束を提供することによって比較的高いエネルギー広がり(20%まで)を許容する。この分析計は更に、低いイオンエネルギーでの例外的伝達(exceptional transmission)を提供する。イオンは、イオンミラーによってX方向に跳ね返されて、Z方向に周期的に集束される。これと同時に、イオンは、周期的レンズの組17内で周期的に集束するため鋸歯状の折り返し軌道に沿って維持され、Y方向における周期的な集束を提供する。イオン飛行経路は、エッジ偏向器33内の反射によって拡張される。最初、注入されたイオンは経路35に沿って進む。エッジ偏向器32内で操縦された後、イオンは軌道36をたどり、ミラー間で複数の跳ね返りを受ける。軌道36は、右から第2のエッジ偏向器33に近づく。エッジ偏向器33は、イオンを操縦して軌道37をたどるようにする。このような操縦によって、イオンドリフトの方向はY軸に沿って逆転する。軌道37は、再び複数のレンズを通過し、左からエッジ偏向器32に近づく。静止エッジ偏向器32は、ビームをフラグメンテーションセル152内に向ける。イオンエッジ反射が一定電圧を使用して行われることに注意されたい。飛行経路は、分析計の全質量範囲を保ちながら2倍になる。
偏向器は、幾つかの目的のためにパルスモードで使用されることがある。質量範囲を犠牲にして飛行経路を更に拡張できる。偏向器32を2倍の偏向電圧にパルス調整することによって、軌道は閉じる。軌道37に沿って入ってきたイオンは、軌道36内に戻されて複数のエッジ偏向を受け、最終的には、偏向器32がより小さな偏向を行うように切り替えられイオンを軌道39に沿って放出するか、或いは偏向器32がオフにされている場合にはイオンを軌道38に沿ってオフライン検出器34に向けさせる。検出器34への進路変更は、一回エッジ偏向を行った後、親イオンの質量スペクトルを得るために使用することができる。偏向器32のOFFへの切り替えは、軌道35の最も重いイオンがこの偏向器を通過してMR−TOFに入った後、且つ軌道37の最も軽いイオンが偏向器32に近づく前に行う。軌道35からオフライン検出器34に入るようにビームを操縦することによって分析器をバイパスすると、低質量イオンや非常に強度の強いイオン等の好ましくない種が大まかに質量分離或いは抑制される。
親イオンは、イオン分解のために十分に高い運動エネルギー(約50〜100eV)でフラグメンテーションセル152に導入される。前述の公開された同時係属出願に記載されているように、フラグメンテーションセルにはガスが充填され、そのガス圧は好ましくは0.1Torrを超える高いガス圧であり、セルは短く維持されている(約1cm)。セル内のガス圧が高く(0.005〜0.01Torr超)するには、追加のイオン集束手段(静電レンズ又はRF集束装置)と共に差動ポンピングの追加のエンベロープが必要になる。セル内のイオンの移動は、軸方向のDC電界又は移動波状軸方向電界によって加速される。その結果イオンは、10us未満の時間だけイオンパケットを広げながら約20usでセルを通過する。同一の電界を用いて、周期的なイオンの蓄積及びパルス放出を行うことと、少なくともイオン速度の実質的な正弦変調を行うこととが可能になる。
次に、フラグメントイオンは、質量分析のために、セルから第2のTOF分析計161内に放出される。第2の分析計の効率を高めるために、イオンは周期的に約10us毎にフラグメンテーションセル152の出口に集められ、それらパルスはO−TOF161内の直交加速163のパルスと同期される。第2の分析計16の飛行時間は短く(10〜30us)なるように調整されるが、この短い飛行経路は中程度の飛行経路(1m未満)と高いイオンエネルギー(5kV超)で達成されると予想される。これら2種の分析計の時間スケールが全く異なる(少なくとも2桁)ため、全ての親イオンの並行MS−MS分析が可能である。様々な親イオン種のフラグメントが様々な時間に形成され、個別のフラグメント質量スペクトルを混同させることなく記録するために、所謂時間ネスト化データ収集システムが使用される。
一般に、フラグメンテーションセルが、当該技術或いは本発明に示されている任意のRF蓄積装置を含むことができることに注意されたい。セルの蓄積及び周期的パルス放出を使用することによって、分離時間が約10us程度の短い時間である限り、任意の他のタイプのTOF MSも同じように利用することができる。例えば、第2のTOF分析計として別のMR−TOF MSを使用することができるが、これは特に、加速電圧を高め(例えば5kV)、シフトイオン反射を使用して飛行経路を短く調整する場合に行うことができる。
上に述べたMS−MS機器は、MS−MS分析においてスループットが極めて高い(最大で数百MS−MSスペクトル/毎秒)ことが予想され、このように高いスループットは特に、オンライン分離技法との組み合わせると有用である。そのようなタンデム型MSは、医薬研究における組み合わせライブラリやプロテオーム研究におけるペプチド混合物等の極めて複雑な混合物の分析に利用されることが期待される。この機器の質量解像力(分解能)は、両方の質量分析のステージにおいて限定されている。TOF2データシステムの時間分解能が1nsでTOF1の分離時間が10msであると仮定すると、2つの質量解像力の積R1*R2は2.5*106未満である。これは例えば、並行MS−MS分析の能力を考慮し、R1が約300〜500でありR2が約3000〜5000である強力な分析的組み合わせを行った場合である。尚、R1>300は、親イオンの同位体のグループ同士を分離するのに十分であり、R2>3000は、適度な質量イオン(m/z<2000a.m.u)の電荷状態を決定するには十分である。
両方のステージの分解能は、TOF1においてより大きい分離時間を使用することによって改善することができる。TOF1におけるイオンビームの安定保持により、TOF1において損失することなく、より長時間の分離が可能になる。FTMS内で10−11Torr以上の真空が達成されていれば、飛行時間を数分に拡張することができる。しかしながら、10msを大きく超えるTOF1分離時間の更なる拡張の可能性は、パルスイオントラップ内の空間電荷効果によってある程度制限される。空間電荷制限と限定された蓄積時間とにより、両方のステージにおいてより高い分解能を達成できないであろう。例えば、R1=100,000とR2=100,000(積はR1*R2=1010)の組み合わせは、少なくとも40秒の蓄積時間を必要とし、その期間にESIイオン源が生成する約1010個のイオンを蓄積する必要がある。直径約1mmのイオン雲の空間電荷電位は約10kVであり、本明細書の記載の時点では実際上トラップできない。これを解決する方法は多数あり、トラップ内のイオン数を106未満に制限しパルス化トラップ内へのイオン注入時間を制限し制御するか、事前の質量分離を使用するか、或いは多数のイオン種から選択的にフィルタリングすることにより解決する。そのようなイオン作成ステップは、中間イオンガイド71内か或いは第2の蓄積装置81内で行うことができる。
両方のMSステージにおける分解能の向上は、ビーム全体の減衰(注入時間の制限による)、所望の種の分離、或いは豊富な種のフィルタリングによるイオン損失を要するため、並行分析とは相反するように見える。しかしながら、両方のステージにおいて極めて高い分解能を使用して低分解能の迅速なスクリーニングとその後のデータマイニングを組み合わせることはより有望であると思われる。第1のステップで、対象とする親イオンの質量を決定することができ、第2の分析ステップはそれらイオン種の高精度で確実な分析に使用される。
図16は、高分解能タンデム型飛行時間質量分析計171の好ましい実施形態を示す。タンデム171は、第1のMR−TOFにおいて時限イオン選択を使用しフラグメント分析のために第2の多重反射分析計31Bを使用する以外は、前述のタンデムTOF−TOF151と同様である。第2のMR−TOF分析計31Bは第1のMR−TOFと或る程度類似している。第2のMR−TOF分析計31Bは、無電界領域14B、2対の平面グリッドレスミラー15B、周期的レンズの組17B、検出器34B、及びエッジ偏向器の対32Bと33Bから成る。第2の分析計31Bは更に、周期的レンズセット17Bの内の第2のレンズに組み込まれた飛行経路調整用の追加のレンズ偏向器173を含む。
タンデムMS171の他の各要素は前述の各要素と同様である。パルスイオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器を含むことができる。第1のMR−TOF MS31Aは、無電界領域14A、2対の平面グリッドレスミラー15A、周期的レンズの組17A、対を構成するエッジ偏向器32Aと33A、オフライン検出器34A、及び時限イオンセレクタ172(第2のMR−TOF 31Bには使用されていない)を含むことができる。高速フラグメンテーションセル152は、ポート157からガスが比較的高いガス圧(0.1〜1Torr)で充填された短い(5〜30mm)RF四重極158を含むことができる。この四重極は、両端には集束レンズ154が備えた内側セル156に取り囲まれている。内側セル156は好ましくは、セル内を通過するイオンを減速し加速する装置159と160を有する。装置159、160の一例は、軸方向DC電界を変調するためのシステムである。
動作においては、イオンは、パルスイオン源51に蓄積され、飛行時間分離のために第1のMR−TOF分析計31A内に放出される。分離されたイオン又はそれらイオンの一部は、時限イオンゲート172によってフラグメンテーションセル152に入り、そこでイオンはフラグメント化される。フラグメントイオンは、周期的に、質量分析のためにフラグメンテーションセル152から第2のMR−TOF分析計31Bにパルス式に送られる。
以下、タンデムMR−TOFの2種の動作モード、即ち並行MS−MS分析の高スループットモードと順次的MS−MS分析の高分解能モードとについて説明する。
タンデムMR−TOFの高スループットモードにおいては、第1の分析計は、約−50Vに調整された浮遊可能な無電解領域14Aの電位によって制御された低いイオンエネルギーにおいて動作する。分離には約10msかかり、全ての親イオンがフラグメンテーションセル152に入る。時限イオンゲート172は、親イオンをフラグメンテーションセル152に導入している間はオフのままであるが、溶媒イオンと化学バックグラウンドイオンの大部分を含む低質量範囲の抑制に使用することができる。第2の分析計は高イオンエネルギーに調整することができ、イオンエネルギーは、約−5kVに保持された無電解領域14Bの電位によって制御される。即ち、イオン速度は、第1の分析計よりも1桁大きい。第2の分析計内の飛行経路は、追加の偏向器173を使用しイオンドリフト方向を逆向きにすることによってかなり短縮される。イオンは、イオンミラー15Bによる反射を2回だけ受け、検出器34Bに向けられる。フラグメントイオンの代表的な飛行経路は約0.5mになる。即ち、第1のMR−TOF31Aに比べ2桁程短くなる。時間スケールは、およそ3桁異なり、これにより、時間ネスト化データ収集による複数の親イオンの前述の並行MS−MS分析が可能になる。この分析によって、一連の所望のフラグメントを有する親イオンの迅速な割り当てが可能になる(例えば、アミノ酸で構成されるペプチドの場合、所謂イミニウムイオン(immonium ion)の存在によって決定される)。親イオン質量に関する情報は、より高い分解能とより高い特定性を有する第2の分析モードにおける詳細なMS−MS分析の促進に使用することができる。
タンデムMR−TOFの高分解能測定モードにおいては、両方の分析計は共に高エネルギー且つ高分解能で動作させる。エネルギーは、無電解領域14Aと14Bの両方に負の高電位(例えば、−5kV)を印加することによって調整される。代表的な約30mの飛行経路においては、飛行時間は約1msであると思われる。その結果、パルスイオン源の周波数を1kHzに調整する必要がある。第2の蓄積装置の抽出パルスは、高分解能MR−TOF MS内で使用されているのと同様、より強い電界を提供するように調整される。より高い電圧(例えば−5kV)が出口アパチャ92に印加され、対応する正の高電圧パルス(+5kV)が補助電極84に印加される。より強い電界に比例して、ターンアラウンドタイムが(約5〜10nsに)減少し、イオンエネルギーの広がり(100〜200eV)が拡大する。これらは、サイズ0.5mmのイオン雲の場合で推定した。第1のMR−TOF分析計の予想分解能は、約50,000〜100,000のオーダーであろう。
そのような分解能で単一のイオン種を選択するためには、時限イオンセレクタの空間分解能は0.3mmである必要がする。これはブラッドベリー=ニールセンゲート、即ち、一平面内に配置された交互の2列のワイヤで構成された装置で達成可能である。2列の間に短いパルス(約10〜30ns)を印加することによって、イオンの短いパルスはゲートから入るが、他のイオン種は操縦されて取り除かれ次に止まると消失する。例として、第1のレンズの近傍且つ中間飛行時間集束の面内に時限イオンゲートを配置する。1000Vのパルスが操縦ワイヤに印加されると、イオンは3度(1/20mm)向きを変えられるが、この角度であればCIDセルの1mmの入口アパチャ153を十分外すことができる。親イオン選択の分解能は、第1のMR−TOF内の飛行経路と飛行時間を同時に拡張すると共に複数のエッジ反射を使用することによって更に改善することができる。これに関連して質量範囲が縮小するが、1m/zの親イオンがゲートから入れるので、質量範囲の縮小はもはや重要ではない。この状況においては、ターンアラウンドタイムを犠牲にして長くしても、親イオンのエネルギーの広がりを50eVより小さくすることが望ましい。長いターンアラウンドタイムは、第1の分析計内で飛行経路を延長し、加速エネルギーを減少させ、飛行時間を長くすることによって補償できる。
質量選択された親イオンは、約50〜100eVまで減速され、フラグメンテーションセル152の入口アパチャで集束する。このようなエネルギーで注入すると、選択された親イオンのフラグメント化が生じる。フラグメントは、RFトラップ157内のRF閉じ込めと、補助電極と出口アパチャのDC電位によって形成される軸方向DC井戸を配置することによってフラグメンテーションセル152内に蓄積される。これら電極に電気パルスを印加することによって、フラグメント化されたイオンは第2のMR−TOF内にパルス放出され質量分析される。イオンパルスと第2の分析計のパラメータは第1のMR−TOFと同様である。CIDセルは、前述のパルスイオン源の各種要素及び方式を含むことができる。従って、フラグメントイオンの質量分析は、50,000〜100,000の高い解像力(分解能)が期待される。説明したタンデムMR−TOFは、分析時間の完全な使用を可能にする。フラグメントセル152が空になりフラグメントイオンが第2のMR−TOF31Bにおいて質量分離されている間、第1の分析計31Aは、親イオンの選択と選択された親イオンのフラグメンテーションセル内への注入を同時に行うために使用することができる。
図17は効率的なタンデム型機器181を示し、この機器は、パルスイオン源51、単一のMR−TOF分析計31、及び該装置の後に配置されたフラグメンテーションセル182から成る。フラグメンテーションセル182は、次の質量分析又は分離のためにイオンをトラップしてMR−TOFに戻す。この機器は、単にイオン選択、フラグメント化及び逆注入のステップを繰り返すだけで、高分解能の順次的MS−MS分析或いは複数ステップMSn順次的分析が可能になる。
このMR−TOFを複数回使用するには、MR−TOF内の偏向形態の微妙な調整も必要である。親イオン分離ステージでは、偏向器32と33は両方とも一定の操縦電位のまま保持する。イオンは、一連の軌道35、36、37及び39に沿って進む。時限イオンゲート172は、対象イオンを軌道39に沿ってセルに入れる。イオンは、約50〜100eVまで減速され、フラグメント化を受ける。イオンフラグメントは、電極187上のRF電界と、入口アパチャ184、補助電極188及び後側電極189に形成されたDCトラップ電位とによって蓄積される。十分な所定の遅延時間の後に、イオンは衝突制動され、セルからMR−TOFに向けてパルス放出される。放出されたイオンは、軌道39を逆向きに進んだ後、軌道37に沿って進む。しかしながら、セル182からイオンが放出される時、偏向器33は異なる偏向モードに切り替えられる。イオンは、半分の角度で向きを変えられ、軌道190に沿って右のミラーから跳ね返り、イオンの動きは逆転して軌道37、その後軌道39に沿って進む。次に、偏向器32をオフに切り替え全てのイオンをオフライン検出器34に送るか、或いは時限イオンセレクタ172を使用して、対象となる娘イオンを選択しそれをフラグメンテーションセル内に送ってMSn分析の更なるステップを行う。
上に述べた各種実施形態は、本発明の種々の例を示すために説明したものである。特段の記載のない限り、範囲やパラメータは単に例示を目的としたものであり、これらによって本発明の如何なる様相をも限定するものではない。更に、本発明の趣旨と原理から逸脱することなく種々の変更を行うことができることは当業者には明らかであろう。
GB特許第2080021号に記載の多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を示す。
「折り返し経路」MR−TOF MSの試作品の設計を概略的に示す。
「同軸反射」MR−TOF MSのための一設計を示す図である。
周期的レンズを用いた本発明のMR−TOF MSの一実施形態を概略的に示す。
本発明の新規で自明でない空間的飛行時間集束を提供するイオンミラーの幾何学的配置及び電位を示す。
本発明の一実施形態において使用したシフト方向へのイオン反射によるイオン経路拡張の原理を概略的に示す。
中間イオン蓄積装置を使用して行う連続イオン源からのイオンサンプリングの一般概略図である。
本発明におけるパルスイオン源のブロック図である。
連続イオンの例としてのエレクトロスプレーイオン源の使用を示す。
準連続イオン源の例としての衝突制動を伴うMALDIイオン源を示す。
中間蓄積イオンガイドの詳細を示す。
第2のイオン蓄積装置及びイオン加速器の概略を示す。
軸方向放出を行い任意で加速器を備えた二重イオン蓄積装置のブロック図である。
パルス軸方向イオン放出を提供する第2の蓄積装置の一配置を示す。
非蓄積イオンガイドからの直交加速の構成を示す。
四重極イオンガイドと三次元四重極イオントラップのハイブリッドを形成する第2の蓄積装置の一構成を示す。
ハイブリッドトラップをセグメント化したものを示す。
本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の概略を示す。
並行MS−MS分析を行い親イオンの低速分離の第1のMSステージとしてのMR−TOF MSを備えたタンデム型質量分析計の好ましい実施形態を概略的に示す。
MS−MS分析の高スループットモードと高分解能測定モードの間の目的に応じた切り換えを提供する2種のMSステージを備えたタンデム型質量分析計の好ましい実施形態を概略的に示す。
少なくとも1個のMR−TOF MS分析計とイオンの流れを戻すフラグメンテーションセルとを使用した多段MSn分析用の質量分析計の実施形態を示す。
符号の説明
11 MR−TOF MS
12 パルスイオン源
13 内蔵加速器
14 無電界空間
15 グリッドレスイオンミラー
16 イオンレシーバ
17 複合レンズ
19 折り返しイオン経路
エレクトロスプレーイオナイザー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)、電子衝撃(EI)、化学イオン化(CI)、光イオン化(PI)、誘導結合プラズマ(ICP)等の気体イオンは安定イオンを生成することが知られているが、これらは最近導入された米国特許第6,331,702号及び第6,504,150号に記載のガス充填MALDIイオン源と同様、本質的に連続したイオンビーム又は準連続イオンビームを生成する。直交イオン加速構成(O−TOF MS)(WO9103071及びソビエト特許SU1681340参照)を導入し、連続イオンビームをイオンパルス化パケットに効率的に変換すると、TOF MSを連続イオン源と結合できた(後に準連続イオン源も結合できた)。気体イオン源を衝突冷却イオンガイド(US4963736)と組み合わせると、TOF MSの軸に沿った低速拡散を伴う冷イオンビームが生成され、10,000を超える高いTOF分解能を達成するのに役立った。しかしながら、MR−TOF MSを使用すると、直交加速デューティサイクルが低下するため感度が低下する。
図6は、本発明を構成する一実施形態のMR−TOF分析器内でのシフト方向へのイオン反射によるイオン経路拡張の原理を概略的に示す。(同様の符号を用いて示す)標準的な構成要素に加え、実施形態31は、複数の操縦装置32及び33と、任意のインラインイオンレシーバ34とを含む。入射イオンパケット35は、追加の検出器34上に偏向させることもできるし、折り返し経路36に沿ってMR−TOF MS内に向けることもできる。シフト軸Yの他端においては、第2の操縦装置33は、イオンレシーバ16上にイオンを放出することもできるし、イオンパケットを折り返しイオン経路37に沿って再びMR−TOF MS内に向けることもできる。
図8は第2の蓄積装置81の一例を示す。第2の蓄積装置81は、汎用イオントラップ82、軸方向出射孔88或いは直交出射孔86、及びポンプ85とから構成することができる。蓄積装置81は、イオンガイド71に接続され、好ましくは蓄積イオンガイドに接続されている。イオンは、イオンガイド71から汎用トラップ82内に連続的に或いはパルスで放出される。汎用イオントラップ82は、3Dイオントラップ、四重極内に形成された線形イオントラップ、多重極又はワイヤイオンガイド(補助DC電極を備えることが好ましい)、RFチャネル、リング電極トラップ、イオンファンネル、或いはこれらの装置の組み合わせとすることができる。トラップは、ガスをポンプ85によって排出し約0.1mTorrの低いガス圧に維持されることが好ましい。RF電界及びDC電界とガス制動との複合作用により、イオンはトラップの出口近くに閉じ込められる。イオンは周期的に、蓄積装置82から86、88等のアパチャを介して軸方向87又は直交方向89にMR−TOF分析器に直接的に排出され、MR−TOF分析器のポンプシステムへのガス負荷を低減する働きをする。図8には2種類の方式を示す。図の左の方式は、蓄積装置82からMR−TOF分析器内へ軸方向87に或いは直交方向89に直接イオンを排出する方式に対応している。このページの右側の方式は、任意の加速器91を用いて軸方向94に或いは直交方向93にイオンを排出する方式に対応している。追加の蓄積装置81の重要な機能は、第1の蓄積イオンガイド71に蓄積されたイオンの残りとは異なる条件でイオン雲を生成させることである。この条件は、イオンビームのガス圧や空間電荷、排出電極の構成によって異なる。後の説明において示すが、2重蓄積方式はより柔軟性が高く、イオンビームの完全利用と複数の自動化調整を行うことができる。更に、2重蓄積方式は、より小さな位相空間のイオンビームを生成し分析器のビームアクセプタンスを改善する。追加の蓄積装置を使用する利点は、次に述べる2重蓄積方式を用いたMR−TOF MSの好ましい実施形態の説明において明らかになるであろう。
図13は複合トラップ121をセグメント化した類似物131を示す。対を構成する四重極ロッド122は、チャネル135を有する極板133に置き換えられている。リング電極127は、円形の穴138を有する極板137に置き換えられている。対を構成する電極123は、極板132を対称的に取り囲む極板132及び134に置き換えられている。キャップ電極126はキャップ極板136と置き換えられ、アパチャ130を有するキャップ電極129はアパチャ140を有するキャップ極板139と置き換えられている。キャップ極板136と139は極板132と134に平行に配置されるか或いはその拡張部として配置される。これら極板は、図13の左側部分に示したサンドイッチ構造で配列される。同じ電極を図13の右側部分には別々に示す。
動作においては、セグメント化されたトラップ131は、軸近傍に同じ電界構造を提供する。チャネル135の軸近傍には四重電極2D電界が、円形孔138の中心近傍には3D四重電極電界が形成される。極板に印加されるRF電圧又は方形波信号によってトラップ電界が形成される。RF電界は、セグメント化イオンガイドとセグメント化3Dイオントラップの間にイオンシェアリングを提供する。RF信号は、RF信号の特定の固定位相(好ましくは0V)で周期的にオフにされ、所定の遅延時間(約10〜300ns)後に高電圧パルスが電極に印加され、略均一な電界内でイオン放出が提供される。イオンパケットは、アパチャ140から取り出され、MRTOFのポンピングシステムにかかるガス負荷を低減させる。好ましくは、RF信号は中央極板135と137とだけに印加され、DCランプは極板133と134と(或いは132を含む)に印加され、高電圧パルスは極板136と139とに印加される。この構成により、RF信号、DC信号、高電圧パルスの分離が可能になる。
低速イオンパケットは、第1のイオンガイド71に蓄積された全てのイオンの一定部分を含む。例えば、約1ミリ秒ごとに蓄積イオンの約10%がアパチャ74からサンプリングされる。入るイオンと出るイオンのそのようなバランスによって、10ミリ秒毎のイオン含有量の回復が可能になる。第1のイオンガイド71に蓄積されたイオンの量はビーム内のESIの強度に依存する。典型的なイオン流量3×108個/毎秒においては、第1のイオンガイド71は約3×106個のイオンを含むが、この個数は著しい空間電荷電界を生成することが分かっている。このイオンの10%だけが第2の蓄積装置内にサンプリングされる場合、第2の蓄積装置内のイオンの量は約3×10 5 個である。1mm3に蓄積されるこのようなイオン雲は約30meV電位の空間電荷電界を生成す。この空間電荷電界は、熱エネルギー(25meVのガス運動エネルギー)に近く、イオン初期パラメータに或る程度の影響を及ぼす。
トラップされたイオンは、追加の電極84により形成されたDCポテンシャル井戸内に閉じ込められる。これら電極は、第2のイオンガイド81のRFロッド83を取り囲み、追加電極の電位を有効且つ対称的に通過させる。イオンガイド81の軸上の静電界について言及すると、追加電極の組84は、半径方向に中程度の八極子DC電界を生成しつつDC電界の軸方向分布を形成する。長期に亘る蓄積中のイオン不安定性を回避するためにそのような八極子DC電界を十分に小さく維持することが重要である。数値については例えば、中心間が15mmとなるように位置決めし内接円直径を10mmとした5mmの四重極ロッド間にRF電位1.5kV、周波数3MHzを印加する。各追加電極は、ロッド用の5mmと7mmの中央孔を有する極板として形成される。各極板に印加される電位の約20%は、四重極組立体の中心を通過する。3枚の極板は、互いに3mm離間させ且つ出射孔から5mm離間させて配置する。中央極板に印加する電圧を10V降下させることによって、深さ約2VのDC井戸を形成する。100meVのエネルギーを有するイオンが、長さ約1mm且つ直径が数mm(a fraction of mm)の雲に閉じ込められる。この配置では、イオン安定性に対し殆ど影響を及ぼすことなく、質量電荷(m/z)比が少なくとも10の範囲内でのイオンの蓄積が可能となる。
図16は、高分解能タンデム型飛行時間質量分析計171の好ましい実施形態を示す。タンデム171は、第1のMR−TOFにおいて時限イオン選択を使用しフラグメント分析のために第2の多重反射分析計31Bを使用する以外は、前述のタンデムTOF−TOF151と同様である。第2のMR−TOF分析計31Bは第1のMR−TOFと或る程度類似している。第2のMR−TOF分析計31Bは、無電界領域14B、2つの平面グリッドレスミラー15B、周期的レンズの組17B、検出器34B、及びエッジ偏向器の対32Bと33Bから成る。第2の分析計31Bは更に、周期的レンズセット17Bの内の第2のレンズに組み込まれた飛行経路調整用の追加のレンズ偏向器173を含む。
タンデムMS171の他の各要素は前述の各要素と同様である。パルスイオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器を含むことができる。第1のMR−TOF MS31Aは、無電界領域14A、2つの平面グリッドレスミラー15A、周期的レンズの組17A、対を構成するエッジ偏向器32Aと33A、オフライン検出器34A、及び時限イオンセレクタ172(第2のMR−TOF 31Bには使用されていない)を含むことができる。高速フラグメンテーションセル152は、ポート157からガスが比較的高いガス圧(0.1〜1Torr)で充填された短い(5〜30mm)RF四重極158を含むことができる。この四重極は、両端には集束レンズ154が備えた内側セル156に取り囲まれている。内側セル156は好ましくは、セル内を通過するイオンを減速し加速する装置159と160を有する。装置159、160の一例は、軸方向DC電界を変調するためのシステムである。