JP5555582B2 - タンデム型飛行時間型質量分析法および装置 - Google Patents
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Description
TOFMSは、一定量のエネルギーを与えてイオンを加速・飛行させ、検出器に到達するまでに要する時間からイオンの質量電荷比を求める質量分析装置である。TOFMSでは、イオンを一定のパルス電圧Vaで加速する。このとき、イオンの速度vは、エネルギー保存則から、
mv2/2 = qeVa ………(1)
v = √(2qeV/m) ………(2)
と表わされる(ただしm:イオンの質量、q:イオンの電荷、e:素電荷)。
式(3)により、飛行時間Tがイオンの質量mによって異なることを利用して、質量を分離する装置がTOFMSである。図1に直線型TOFMSの一例を示す。また、イオン源と検出器の間に反射場を置くことにより、エネルギー収束性の向上と飛行距離の延長を可能にする反射型TOFMSも広く利用されている。図2に反射型TOFMSの一例を示す。
TOFMSの質量分解能は、総飛行時間をT、ピーク幅をΔTとすると、
質量分解能 = T/2ΔT ………(4)
で定義される。すなわち、ピーク幅ΔTを一定にして、総飛行時間Tを延ばすことができれば、質量分解能を向上させられる。しかし、従来の直線型、反射型のTOFMSでは、総飛行時間Tを延ばすこと、すなわち総飛行距離を延ばすことは装置の大型化に直結する。装置の大型化を避け、かつ高質量分解能を実現するために開発された装置が、多重周回型TOFMS(非特許文献1)である。この装置は、円筒電場にマツダプレートを組み合わせたトロイダル電場を4個用い、8の字型の周回軌道を多重周回させることにより、総飛行時間Tを延ばすことができる。この装置では、初期位置、初期角度、初期運動エネルギーによる検出面での空間的な広がりと時間的な広がりを1次の項まで収束させることに成功している。
TOFMSのイオン源の1つにマトリックス支援レーザー脱離/イオン化法(MALDI法)がある。以下、MALDI法とTOFMSを組み合わせた装置をMALDI-TOFMSと呼ぶ。MALDI法は、使用するレーザー光波長に吸収帯をもつマトリックス(液体や結晶性化合物、金属粉など)に試料を混合溶解させて固化し、これにレーザー照射して試料を気化あるいはイオン化させる方法である。MALDI法に代表されるレーザーによるイオン化では、イオン生成時の初期エネルギー分布が大きくこれを時間収束させるため、遅延引き出し法がほとんどの場合で用いられる。これは、レーザー照射より数百nsec遅れてパルサー電圧を印加する方法である。遅延引き出し法の採用により、MALI-TOFMSの性能は大幅に向上した。
一般的な質量分析では、イオン源で生成したイオン群を質量分析部にてm/z値ごとに分離し検出する。結果は各イオンのm/z値および相対強度をグラフ化したマススペクトルという形で表わされ、このとき得られる情報は質量のみである。以下、この測定を後述のMS/MS測定に対し、MS測定と呼ぶ。これに対し、イオン源で生成した特定のイオンを初段のMS装置で選択し(選択されたイオンはプリカーサイオンと呼ばれる)、そのイオンを自発的または強制的に開裂させ、生成したイオン群(開裂生成したイオンはプロダクトイオンと呼ばれる)を後段のMS装置(以下、MS2)で質量分析するMS/MS測定があり、それが可能な装置をMS/MS装置と呼ぶ(図4)。
試料をレーザー光のパルス照射によってイオン化するイオン源と、
生成したイオンを所定の遅延引き出し条件下において、パルス状の加速電圧によりパルス的に引き出して加速する加速手段と、
加速されたイオンを飛行させる第1の飛行時間型イオン光学系と、
第1の飛行時間型イオン光学系で質量分離されたイオンの中から所望の質量電荷比を持つイオンのみをプリカーサイオンとして選択するイオンゲートと、
選択されたプリカーサイオンを開裂させる開裂手段と、
該開裂手段の後段に配置され、開裂生成したプロダクトイオンを飛行させる第2の飛行時間型イオン光学系と、
該第2の飛行時間型イオン光学系を通過したイオンを検出する検出器と、
を備えたタンデム型飛行時間型質量分析装置を用いた質量分析法において、
所望のプリカーサイオンを前記イオンゲートで選択し、開裂させてプロダクトイオンを生成させて測定する際に、
予め質量電荷比の異なる複数の基準物質を用いて、該基準物質の質量電荷比に対する遅延引き出し条件、およびイオンゲートのオープン時間の最適値を測定して記憶させたテーブルを用意しておき、
前記所望のプリカーサイオンの質量電荷比について質量分解能が最適となるような遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間を前記テーブルの記憶値に基づいて求め、
求めた前記遅延引き出し条件と前記イオンゲートのオープン時間の最適値を前記タンデム型飛行時間型質量分析装置に設定して測定を行うと共に、前記遅延引き出し条件の設定によりずれてしまった前記プリカーサイオンの質量位置を、測定終了後、プロダクトイオンスペクトル中に観測されたプリカーサイオンのm/z値に基づいて、本来の値に合わせるように補正することを特徴としている。
試料をレーザー光のパルス照射によってイオン化するイオン源と、
生成したイオンを所定の遅延引き出し条件下において、パルス状の加速電圧によりパルス的に引き出して加速する加速手段と、
加速されたイオンを飛行させる第1の飛行時間型イオン光学系と、
第1の飛行時間型イオン光学系で質量分離されたイオンの中から所望の質量電荷比を持つイオンのみをプリカーサイオンとして選択するイオンゲートと、
選択されたプリカーサイオンを開裂させる開裂手段と、
該開裂手段の後段に配置され、開裂生成したプロダクトイオンを飛行させる第2の飛行時間型イオン光学系と、
該第2の飛行時間型イオン光学系を通過したイオンを検出する検出器と、
を備えたタンデム型飛行時間型質量分析装置において、
予め質量電荷比の異なる複数の基準物質を用いて、該基準物質の質量電荷比に対する遅延引き出し条件、およびイオンゲートのオープン時間の最適値を測定して記憶させたテーブルと、
プリカーサイオンの質量電荷比ごとに質量分解能が最適となるような遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間を前記テーブルの記憶値に基づいて求める手段と、
選択されたプリカーサイオンの質量電荷比の値に応じて、前記遅延引き出し条件と前記イオンゲートのオープン時間の最適値を前記タンデム型飛行時間型質量分析装置に設定する手段と、
前記遅延引き出し条件の設定によりずれてしまった前記プリカーサイオンの質量位置を、測定終了後、プロダクトイオンスペクトル中に観測されたプリカーサイオンのm/z値に基づいて、本来の値に合わせるように補正する補正手段と、
を備えたことを特徴としている。
試料をレーザー光のパルス照射によってイオン化するイオン源と、
生成したイオンを所定の遅延引き出し条件下において、パルス状の加速電圧によりパルス的に引き出して加速する加速手段と、
加速されたイオンを飛行させる第1の飛行時間型イオン光学系と、
第1の飛行時間型イオン光学系で質量分離されたイオンの中から所望の質量電荷比を持つイオンのみをプリカーサイオンとして選択するイオンゲートと、
選択されたプリカーサイオンを開裂させる開裂手段と、
該開裂手段の後段に配置され、開裂生成したプロダクトイオンを飛行させる第2の飛行時間型イオン光学系と、
該第2の飛行時間型イオン光学系を通過したイオンを検出する検出器と、
を備えたタンデム型飛行時間型質量分析装置を用いた質量分析法において、
所望のプリカーサイオンを前記イオンゲートで選択し、開裂させてプロダクトイオンを生成させて測定する際に、
予め質量電荷比の異なる複数の基準物質を用いて、該基準物質の質量電荷比に対する遅延引き出し条件、およびイオンゲートのオープン時間の最適値を測定して記憶させたテーブルを用意しておき、
前記所望のプリカーサイオンの質量電荷比について質量分解能が最適となるような遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間を前記テーブルの記憶値に基づいて求め、
求めた前記遅延引き出し条件と前記イオンゲートのオープン時間の最適値を前記タンデム型飛行時間型質量分析装置に設定して測定を行うと共に、前記遅延引き出し条件の設定によりずれてしまった前記プリカーサイオンの質量位置を、測定終了後、プロダクトイオンスペクトル中に観測されたプリカーサイオンのm/z値に基づいて、本来の値に合わせるように補正するので、遅延引き出し法を利用するMALDI-TOFMS装置において、装置条件を変更した場合でも、常に最適なイオンゲートの時間設定が可能となると共に、前記遅延引き出し条件の設定によりずれてしまった前記プリカーサイオンの質量位置を補正することが可能なタンデム型飛行時間型質量分析法を提供することが可能になった。
試料をレーザー光のパルス照射によってイオン化するイオン源と、
生成したイオンを所定の遅延引き出し条件下において、パルス状の加速電圧によりパルス的に引き出して加速する加速手段と、
加速されたイオンを飛行させる第1の飛行時間型イオン光学系と、
第1の飛行時間型イオン光学系で質量分離されたイオンの中から所望の質量電荷比を持つイオンのみをプリカーサイオンとして選択するイオンゲートと、
選択されたプリカーサイオンを開裂させる開裂手段と、
該開裂手段の後段に配置され、開裂生成したプロダクトイオンを飛行させる第2の飛行時間型イオン光学系と、
該第2の飛行時間型イオン光学系を通過したイオンを検出する検出器と、
を備えたタンデム型飛行時間型質量分析装置において、
予め質量電荷比の異なる複数の基準物質を用いて、該基準物質の質量電荷比に対する遅延引き出し条件、およびイオンゲートのオープン時間の最適値を測定して記憶させたテーブルと、
プリカーサイオンの質量電荷比ごとに質量分解能が最適となるような遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間を前記テーブルの記憶値に基づいて求める手段と、
選択されたプリカーサイオンの質量電荷比の値に応じて、前記遅延引き出し条件と前記イオンゲートのオープン時間の最適値を前記タンデム型飛行時間型質量分析装置に設定する手段と、
前記遅延引き出し条件の設定によりずれてしまった前記プリカーサイオンの質量位置を、測定終了後、プロダクトイオンスペクトル中に観測されたプリカーサイオンのm/z値に基づいて、本来の値に合わせるように補正する補正手段と、
を備えたので、
遅延引き出し法を利用するMALDI-TOFMS装置において、装置条件を変更した場合でも、常に最適なイオンゲートの時間設定が可能となると共に、前記遅延引き出し条件の設定によりずれてしまった前記プリカーサイオンの質量位置を補正することが可能なタンデム型飛行時間型質量分析装置を提供することが可能となった。
装置の構成としては、いかなるTOF/TOFに対しても適用可能であるが、第1TOFMSの飛行距離を反射場や扇形電場等で延長し、より高いプリカーサイオン選択能を実現した装置の方が、本発明によるメリットは大きい。変更する装置パラメータは、遅延引き出し法に関連のある、サンプルプレート電圧とパルス電圧の比、あるいは遅延時間そのものが考えられる。
この変換式C(x)は、通常多項式であることが多い。m/z値がMのあるイオンを選択するためのイオンゲートのオープン時間Tg_Mは、そのm/z値をキャリブレーション式を用いて飛行時間に変換し、(イオン源からイオンゲートまでの距離)/(イオン源から検出器までの距離)の比の値kを用いて、以下の式で表わすことができる。
まず、基準となるプリカーサイオンA(m/z値がMaのイオン)で、そのプリカーサイオンのモノアイソトピックイオンが選択されるように係数kを調整する。例えば、次のような手順が考えられる。
6.調整後、イオンゲート調整値を0とする。
このようにして、装置条件を調整した調整パラメータとイオンゲート調整値を記録し、1つの調整テーブルとする。
一般に、プリカーサイオンの分子量が増えるほど、イオン化効率が低下したり、開裂経路が増えたりするなどの理由により、1開裂経路あたりのイオン数が減少する傾向にある。そのため、イオン化効率に関連する装置パラメータである、検出器電圧やレーザー強度を調整パラメータの中に追加し、より均一な質のスペクトルを測定することも可能である。
マススペクトルを測定後、プリカーサイオンを選択する際に、プリカーサイオンの相対強度情報を前もって得ることができる。そこで、それを利用し、プリカーサイオン量が少ないイオンに対しては、装置パラメータである検出器電圧やレーザー強度を調整パラメータに追加し、より均一な質のスペクトルを測定することも可能である。
プリカーサイオンの質量位置は、装置条件の変更によりずれてしまうので、測定が終了した後、プロダクトイオンスペクトル中に観測されたプリカーサイオンのm/z値を設定値に合わせるように補正することも可能である。
Claims (10)
- 試料をレーザー光のパルス照射によってイオン化するイオン源と、
生成したイオンを所定の遅延引き出し条件下において、パルス状の加速電圧によりパルス的に引き出して加速する加速手段と、
加速されたイオンを飛行させる第1の飛行時間型イオン光学系と、
第1の飛行時間型イオン光学系で質量分離されたイオンの中から所望の質量電荷比を持つイオンのみをプリカーサイオンとして選択するイオンゲートと、
選択されたプリカーサイオンを開裂させる開裂手段と、
該開裂手段の後段に配置され、開裂生成したプロダクトイオンを飛行させる第2の飛行時間型イオン光学系と、
該第2の飛行時間型イオン光学系を通過したイオンを検出する検出器と、
を備えたタンデム型飛行時間型質量分析装置を用いた質量分析法において、
所望のプリカーサイオンを前記イオンゲートで選択し、開裂させてプロダクトイオンを生成させて測定する際に、
予め質量電荷比の異なる複数の基準物質を用いて、該基準物質の質量電荷比に対する遅延引き出し条件、およびイオンゲートのオープン時間の最適値を測定して記憶させたテーブルを用意しておき、
前記所望のプリカーサイオンの質量電荷比について質量分解能が最適となるような遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間を前記テーブルの記憶値に基づいて求め、
求めた前記遅延引き出し条件と前記イオンゲートのオープン時間の最適値を前記タンデム型飛行時間型質量分析装置に設定して測定を行うと共に、前記遅延引き出し条件の設定によりずれてしまった前記プリカーサイオンの質量位置を、測定終了後、プロダクトイオンスペクトル中に観測されたプリカーサイオンのm/z値に基づいて、本来の値に合わせるように補正するようにしたことを特徴とするタンデム型飛行時間型質量分析法。 - 前記遅延引き出し条件は、イオンの加速電圧、あるいはレーザーが照射されてからイオンが加速されるまでの遅延時間を含むことを特徴とする請求項1記載のタンデム型飛行時間型質量分析法。
- 前記遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間は、前記テーブルに記憶された点と点の間を折れ線で結んで、その間を補間することにより、所望のイオンに適した遅延条件およびイオンゲートのオープン時間を算出することを特徴とする請求項1または2記載のタンデム型飛行時間型質量分析法。
- 前記遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間は、前記テーブルに記憶された点と点の間を多項式で近似して、その間を補間することにより、所望のイオンに適した遅延条件およびイオンゲートのオープン時間を算出することを特徴とする請求項1または2記載のタンデム型飛行時間型質量分析法。
- 前記遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間は、前記テーブルに記憶された点と点の間を所定の範囲で区分けして、区分けされた範囲内では、その範囲に含まれるテーブルに記憶された点のデータを採用することにより、所望のイオンに適した遅延条件およびイオンゲートのオープン時間を算出することを特徴とする請求項1または2記載のタンデム型飛行時間型質量分析法。
- 前記遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間に加えて、設定する条件として、レーザー強度、または質量分析装置の検出器電圧を含むことを特徴とする請求項3、4、または5記載のタンデム型飛行時間型質量分析法。
- 前記レーザー強度、または質量分析装置の検出器電圧は、プリカーサイオンの強度に連動させて設定することを特徴とする請求項6記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記イオン源はMALDIイオン源であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のタンデム型飛行時間型質量分析法。
- 前記第1の飛行時間型イオン光学系は、反射場や扇形電場を利用してプリカーサイオンの選択能を高めている飛行時間型イオン光学系であることを特徴とする請求項項1ないし8のいずれか1項に記載のタンデム型飛行時間型質量分析法。
- 試料をレーザー光のパルス照射によってイオン化するイオン源と、
生成したイオンを所定の遅延引き出し条件下において、パルス状の加速電圧によりパルス的に引き出して加速する加速手段と、
加速されたイオンを飛行させる第1の飛行時間型イオン光学系と、
第1の飛行時間型イオン光学系で質量分離されたイオンの中から所望の質量電荷比を持つイオンのみをプリカーサイオンとして選択するイオンゲートと、
選択されたプリカーサイオンを開裂させる開裂手段と、
該開裂手段の後段に配置され、開裂生成したプロダクトイオンを飛行させる第2の飛行時間型イオン光学系と、
該第2の飛行時間型イオン光学系を通過したイオンを検出する検出器と、
を備えたタンデム型飛行時間型質量分析装置において、
予め質量電荷比の異なる複数の基準物質を用いて、該基準物質の質量電荷比に対する遅延引き出し条件、およびイオンゲートのオープン時間の最適値を測定して記憶させたテーブルと、
プリカーサイオンの質量電荷比ごとに質量分解能が最適となるような遅延引き出し条件およびイオンゲートのオープン時間を前記テーブルの記憶値に基づいて求める手段と、
選択されたプリカーサイオンの質量電荷比の値に応じて、前記遅延引き出し条件と前記イオンゲートのオープン時間の最適値を前記タンデム型飛行時間型質量分析装置に設定する手段と、
前記遅延引き出し条件の設定によりずれてしまった前記プリカーサイオンの質量位置を、測定終了後、プロダクトイオンスペクトル中に観測されたプリカーサイオンのm/z値に基づいて、本来の値に合わせるように補正する補正手段と、
を備えたことを特徴とするタンデム型飛行時間型質量分析装置。
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