JP2007313973A - 車両用パネル - Google Patents
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Abstract
【課題】簡単な構成でありながら、衝突時などにおける車両用パネルの破壊形態を的確に予測し、安全構造の設計を容易にする。
【解決手段】繊維とバインダー樹脂とを混合してなり、車両の外装部材や内装部材として使用される車両用のパネルであって、パネル10は、高密度に形成された剛性部20と、面方向において剛性部20間に形成されて該剛性部20よりも低密度に形成された脆弱部30とを有し、当該パネル10に衝撃荷重がかかった際に、脆弱部30が剛性部20よりも先に破壊される。
【選択図】図2
【解決手段】繊維とバインダー樹脂とを混合してなり、車両の外装部材や内装部材として使用される車両用のパネルであって、パネル10は、高密度に形成された剛性部20と、面方向において剛性部20間に形成されて該剛性部20よりも低密度に形成された脆弱部30とを有し、当該パネル10に衝撃荷重がかかった際に、脆弱部30が剛性部20よりも先に破壊される。
【選択図】図2
Description
本発明は、各種車両の外装部材や内装部材として使用されるパネルであって、部分的に破壊強度を異ならせてある車両用パネルに関する。
近年、自動車の分野においては、車体の軽量化などのために、従来からのスチールやアルミ合金などの金属製のものに替えて、合成樹脂にこれの強度を増すための補強繊維を混合した繊維強化プラスチック(FRP)を使用したり、天然繊維にこれを結着するためのバインダー樹脂を混合した繊維ボードが提案されている。繊維ボードを使用したものとしては、例えば特許文献1がある。特許文献1の繊維ボードは、層間剥離の発生を解消するために、繊維ボードを単層構造にして、厚み方向の一側面から他側面又は厚み方向の中央から両側面に向かって漸次硬さを異にしている。
特許文献1の繊維ボードは車両の内外装用のパネル部材としても使用できるが、層間剥離の発生を解消するために層構造や厚み方向での硬さ(密度)を異ならせているだけなので、車両衝突時などにおいて面方向に衝撃荷重が作用した場合の破壊形態には対処できていない。つまり、特許文献1の繊維ボードは、面方向における硬さは全体的に等しくなっている。したがって、この繊維ボードを車両の内外装用のパネル部材として使用した場合に、車両衝突時などによる面方向の衝撃荷重によってパネル部材がどの部分から破断するのか、また、どのような破断線となるのかなどの予測が困難である。また、特許文献1に記載の発明のように非金属製の素材をパネル部材として使用した場合、衝突事故などによる衝撃が加わると、金属のように屈曲するだけでなく破断して飛散する危険性がある。このことからも、非金属製の素材をパネル部材として使用する場合は、衝突安全構造の設計は重要な事項である。
パネル部材の破壊強度を高めることで、衝突時の衝撃にも耐え得るようにするには限界があり、また生産性やコストの面からも効率的ではない。そこで、本発明者らが鋭意検討の結果、破壊強度を限界まで高めるのではなく、逆に敢えて破壊強度の弱い脆弱部を設けて当該部分を優先的に破断させれば、衝突時の破壊形態の予測を的確に行うことができるのではないかと考え、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち本発明が解決しようとする課題は、簡単な構成でありながら、衝突時などにおける車両用パネルの破壊形態を的確に予測でき、安全構造の設計を容易にすることにある。
上記課題を解決するための手段として、請求項1に係る本発明は、繊維とバインダー樹脂とを混合してなり、車両の外装部材や内装部材として使用される車両用のパネルであって、前記パネルは、高密度に形成された剛性部と、面方向において前記剛性部間に形成されて該剛性部よりも低密度に形成された脆弱部とを有し、当該パネルに衝撃荷重がかかった際に、前記脆弱部が前記剛性部よりも先に破壊されることを特徴とする。ここで、剛性部が高密度とは、脆弱部の密度との比較において高密度であることを意味し、必ずしも車両の内外装部材として使用されている一般的な繊維ボードなどの密度に比べて高密度に形成することを要しない。脆弱部も同様に、これが低密度であるとは、剛性部の密度との比較において低密度であることを意味し、必ずしも車両の内外装部材として使用されている一般的な繊維ボードなどの密度に比べて低密度に形成することを要しない。
そのうえで、本発明に係る車両用パネルは、自動車、電車、列車、貨物車など各種の車両に適用できる。自動車に使用する場合は、ドアパネル、フェンダー、バンパー、フロントパネル、リアパネルなどの外装部材として、またはドアトリム、インナーパネル、ピラーガーニッシュ、リヤパッケージ、天井基材、衝撃吸収材などの内装部材として用いることができる。
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の車両用パネルにおいて、前記脆弱部が前記パネルにおける一の側端から他の側端にわたって連続的に形成されていることを特徴とする。すなわち、脆弱部の始端と終端とが、それぞれ車両用パネルの異なる側端にまで延びている。この一の側端と他の側端とは、車両用パネルにおいて対向状に位置している場合や、隣接する場合がある。このような構成となっている限りにおいては、脆弱部の形状は特に限定されることはなく、直線状、曲線状または折曲状などとすることができ、もちろん、パネルが複雑な形状であれば、それに伴って脆弱部の形状も複雑になるであろう。また、始端から終端にわたって同一幅寸法でなくともよい。
請求項3に係る本発明は、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の車両用パネルにおいて、前記脆弱部は単層構造に、前記剛性部は複数積層構造にそれぞれ形成されていることを特徴とする。
請求項4に係る本発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用パネルにおいて、前記脆弱部は、前記剛性部より繊維密度を低くしていることを特徴とする。
請求項5に係る本発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用パネルにおいて、前記脆弱部は繊維を一定方向に配向していることを特徴とする。
請求項6に係る本発明は、請求項5記載の車両用パネルにおいて、前記脆弱部は、前記パネルにおいて相対向する一方の側端から他方の側端にわたって連続的に形成されるものであって、この一方の側端から他方の側端へ向けて繊維を配向していることを特徴とする。つまり、脆弱部の繊維を、脆弱部の始端から終端にわたる長手方向と平行に配向している。また、車両用パネルの一方の側端と他方の側端とが相対向する場合としては、上下に相対向する場合と、左右に対向する場合とがある。
請求項7に係る本発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の車両用パネルにおいて、前記脆弱部の平均繊維径は、前記剛性部の平均繊維径に比して大きいことを特徴とする。
請求項8に係る本発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の車両用パネルにおいて、前記パネルは車両の前後方向に延びる部位に用いられ、且つ前記脆弱部が車両の上下方向に向くように配置されることを特徴とする。脆弱部が車両の上下方向を向いているとは、脆弱部の始端がある車両用パネルの前記一の側端と脆弱部の終端がある車両用パネルの前記他の側端とが上下に相対向していることを意味し、この限りにおいては、脆弱部が垂直であることはもちろん、傾斜していても構わない。
請求項9に係る本発明は、繊維とバインダー樹脂とを混合し、密度を部分的に異ならせた繊維マットを加熱プレスして所定形状に成形することによって、面方向において他の部分に比して破壊強度の弱い脆弱部を有する車両用パネルを製造している。繊維マットの密度を異ならせる手段としては、繊維マットに配合する繊維量又はバインダー樹脂量、若しくは繊維とバインダー樹脂双方の量を部分的に異ならせることで可能である。
請求項1に係る本発明によれば、繊維と樹脂とを配合させることにより樹脂単体でパネルを成形するよりも高い強度を確保できる。ここでの繊維には、木質繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維などを使用することができるが、特にパネルの主たる組成材料として木質繊維を使用すると、強度を確保しながら車両の軽量化も図ることができる。また、主たる組成材料として木質繊維を使用すれば、パネルを焼却廃棄する際に化石資源を使用した場合のように地球温暖化に及ぼす影響は少なく、有限資源でもないので地球環境にも優しい。
そのうえで、車両用パネルに厚み方向に直行する面方向において剛性部とこれよりも低密度の脆弱部とを混成することで、面方向において破壊強度の強い部分と弱い部分とを形成し、パネルに衝突時などの衝撃荷重がかかった際に、脆弱部が剛性部よりも優先して破壊される構成としている。このような構成とすることで、パネルの破断箇所や破断線を一定化することができ、以って車両の設計時に衝突時などにおけるパネルの破壊形態を的確に予測し、安全構造の設計を容易にすることができる。また、パネルに衝撃荷重が作用すると、脆弱部は剛性部に優先して圧縮されるので、当該脆弱部は衝撃エネルギー吸収部としても機能し得ることから、車両の安全性をより高めることができる。また、車両用パネルは脆弱部に沿って破断されることになるので、破断後のパネルの形状も任意に設定できるようになる。
請求項2に係る本発明によれば、脆弱部が車両用パネルにおける一の側端にある始端から他の側端にある終端にわたって連続的に形成されているので、車両衝突時などの衝撃荷重が作用した際に、車両用パネルを脆弱部を介して確実に分断することができる。
請求項3に係る本発明によれば、脆弱部を単層構造に、剛性部を複数積層構造にそれぞれ形成して車両用パネルの層構造を部分的に異ならせることによって脆弱部を形成しているので、容易に製造することができる。例えば、後述する脆弱部用のマットに、これと同一密度の後述する剛性部用のマットを所定位置に重ねてプレスするだけで、それぞれのマットの密度を調整する必要なく簡単に車両用パネルを製造できる。
請求項4に係る本発明によれば、脆弱部の繊維密度を剛性部よりも低くしていることで、バインダー樹脂の密度のみを変化させる場合に比して製造が簡易となる。なお、バインダー樹脂溶液中へ繊維マットを含浸処理する場合などにおいて、繊維の密度に応じて各繊維の表面に付着するバインダー樹脂量を増やすことによってバインダー樹脂の密度を高めておくと、繊維相互間の接着性のばらつきを抑制でき望ましい。また、後述する脆弱部用のマットに後述する剛性部用のマットを重ねて製造する場合には、脆弱部用マットの方が剛性部用マットに比して圧縮率が高く脆弱部用マット層が薄くなるので、剛性部の機能(強度)を十分に発揮させることができる。
請求項5に係る本発明によれば、脆弱部の繊維を一定方向に配向しているので、当該脆弱部に作用する衝撃荷重を全体にわたって均等にでき、これにより車両用パネルを脆弱部に沿って確実かつ綺麗に破断させることができる。すなわち、繊維の配向方向を揃えることにより繊維相互の絡みつきがなくなり、剛性部に比して破断しやすくなっている。これにより、脆弱部での破断をより確実にすることができる。
通常、車両衝突時には、外装パネルには面方向において前後又は左右から衝撃荷重が作用する。請求項6に係る本発明によれば、脆弱部が車両用パネルにおいて相対向する一方の側端から他方の側端にわたって連続的に形成されているので、車両用パネルに作用する面方向の衝撃荷重を脆弱部の全体で効率よく受け止めることができ、これに伴って車両用パネルを確実に脆弱部に沿って破断させることができる。また、脆弱部の繊維を前記パネルの一方の側端から他方の側端へ向けて脆弱部の長手方向と平行に配向していることで、車両用パネルは脆弱部の長手方向に比して幅方向への破断は弱い。以って、車両用パネルを確実に脆弱部の幅方向に破断させることができる。
請求項7に係る本発明によれば、脆弱部の平均繊維径を剛性部の平均繊維径に比して大きく設定している。これにより、仮に剛性部と脆弱部との密度が同等であっても、剛性部の方が脆弱部よりも繊維本数が多く存在し、これに伴い繊維同士が複雑に絡み合った状態となる。したがって、脆弱部と剛性部との破壊強度をより明確にできる。このように、平均繊維径を異ならせることによって破壊強度の強弱をつければ、手間のかかる工程を経ることなく容易に車両用パネルを製造することができる。
請求項8に係る本発明によれば、車両用パネルを車両の前後方向に延びる部位に用い、且つ脆弱部が車両の上下方向に向くように配置しているので、車両衝突事故のうち最も頻度の高い車両正面方向からの衝突に対しての安全性を高めることができ、車両用パネルの機能を最大限発揮させることができる。車両が正面方向から建築物などに衝突した場合、車両の各部材にはこれの前後方向に衝撃荷重が作用することになる。このとき、車両用パネルを車両の前後方向に延びる部位に用いていれば、この衝撃荷重をまともに受けることになる。そして、その際に脆弱部を車両の上下方向、すなわち衝撃荷重の作用方向に対して直角になるように配置していることで、脆弱部は幅方向で全体的に衝撃荷重を受けることとなり、以って車両用パネルを脆弱部に沿って破断させることができる。
請求項9に係る本発明によれば、予め面方向で繊維量若しくはバインダー樹脂量が部分的に異なる繊維マットをプレス成形することで車両用パネルを得ているので、密度が異なる部位間での表面平滑性が損なわれることなく、意匠性の優れたものとできる。
(実施例1)
以下に、本発明に係る車両用パネルの実施の形態を適宜図面を用いて説明する。図1ないし図4は、本発明の実施例1を示しており、図1は、本発明に係る車両用パネルの断面図を示している。図2は、本発明に係る車両用パネルの破壊形態を示す説明図である。図3は、実施例1の車両用パネルの製造工程を示す説明図である。図4は、実施例1の車両用パネルの概観図である。
以下に、本発明に係る車両用パネルの実施の形態を適宜図面を用いて説明する。図1ないし図4は、本発明の実施例1を示しており、図1は、本発明に係る車両用パネルの断面図を示している。図2は、本発明に係る車両用パネルの破壊形態を示す説明図である。図3は、実施例1の車両用パネルの製造工程を示す説明図である。図4は、実施例1の車両用パネルの概観図である。
図1において本実施形態の車両用パネルは、木質繊維とバインダー樹脂とを混合してなる。そして、そのパネル本体10には、これの厚み方向に直行する面方向において、高密度に形成された剛性部20と、該剛性部20間に形成されてこれよりも低密度に形成された脆弱部30とを有している。剛性部20は、車両用パネルにおける面積の大半を占めており、これが車両用パネルとしての本来的な機能を果たす部分となっている。これに対して脆弱部30は、車両用パネルに衝突などによる衝撃が作用した場合に剛性部20に優先して破壊されるべき、いわゆる破壊代として機能する部分であり、衝撃エネルギー吸収部としても機能する。
すなわち、本発明における最も大きな特徴として、図2に示す車両用パネルの破壊機構からもよくわかるように、本実施形態の車両用パネルに車両衝突などによって面方向の衝撃エネルギーEが作用した場合、先ず破壊強度の弱い脆弱部30が剛性部20に優先して圧縮される。次いで、この状態からさらに衝撃エネルギーEによって面方向へ圧縮力が加わると、車両用パネルはその形状を保てなくなって脆弱部30部分が座屈(バックリング)し、車両用パネルが脆弱部30に沿って破断されることになる。このように、車両用パネルに他の部分(剛性部20)よりも破壊強度の弱い脆弱部30を設けることによって、衝突時などにおける車両用パネルの破断箇所や破断線、更には破断後の車両用パネルを任意に設計することができ、破壊形態を的確に予測して安全構造の設計を容易にすることができる。また、脆弱部30は座屈に先立って圧縮されるので、脆弱部30が衝撃エネルギー吸収部としても機能する。
この車両用パネルに使用される主素材としての繊維材料は、木質繊維であれば特に限定されることはなく、例えば木本類や草本類から採取できる繊維がある。具体的には、木本類としては、スギやヒノキなどの針葉樹、シイ、柿、サクラなどの広葉樹、又は熱帯樹を使用することができ、草本類としては、良質の繊維が得られやすい靭皮植物が好ましく、例えばケナフ、ラミー(苧麻)、リネン(亜麻)、アバカ(マニラ麻)、ヘネケン(サイザル麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)、ヤシ、パーム、コウゾ、ワラ、バガスなどがある。また、機械パルプ、化学パルプ、セミケミカルパルプ、これらのパルプを原料として合成される人工の各種セルロース系繊維を使用してもよい。このように、本実施形態の車両用パネルは、木質繊維を使用することで、石油資源や鉱物資源を使用する場合に比べて地球環境に優しくなっており、車両の軽量化にも有利である。
また、車両用パネルには、上記木質繊維を結着するためのバインダー樹脂を混合している。このバインダー樹脂としては、木質繊維の接着剤として機能するものであれば特に限定されることはなく、各種の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、代表的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、塩化ビニルなど周知の合成樹脂をあげることができる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを挙げることができ、さらに高等植物から得られるリグニンを使用することもできる。これらバインダー樹脂は、粉末状、繊維状、溶媒溶液の状態など各種の形態で使用することができる。
木質繊維の混合割合は、車両用パネルの全重量に対して50〜90重量%とすることが好ましい。より好ましくは、得ようとする車両用パネルの全重量に対して、混合されている繊維材料などが60〜80重量%である。すなわち、車両用パネルにおいて木質繊維とバインダー樹脂との混合割合は、重量比で50:50〜90:10、好ましくは60:40〜80:20である。
本実施形態のパネル本体10は、図3に良く示されるように、脆弱部30は単層構造に、剛性部20は三層構造にそれぞれ形成されている。これは、剛性部用の繊維マット20aと脆弱部用の繊維マット30aとを用意し、脆弱部用マット20aの所定位置において剛性部用マット30aを上下から挟み込み、これをプレスすることで一枚のパネルが構成されている。以下に、本実施形態の車両用パネルの製造方法を説明する。
先ず、木本類や草本類の木質材料からその繊維を採取する。その採取方法としては、草本類に由来する繊維であれば木質材料を水中に放置して水中の微生物によって接着成分であるヘミセルロースなどを分解する生分解(レッティング)、高温の水蒸気に曝露して接着成分を分解する蒸煮、高気圧条件で蒸煮し、一気に大気圧まで気圧開放することで原料に浸透した水分を一気に膨張させて原料を細分化する爆砕法などを使用でき、木本類に由来する繊維であれば、例えばディスクリファイナなどを用いる乾式開繊も好適である。そして、得られた木質繊維をカード機やエアレイ機などで解繊してウェブを形成し、これにバインダー樹脂を混合する。解繊によって得られる木質繊維は、その径が16〜22μmであると成形性が良い。
繊維状のバインダー樹脂を混合する場合は、遠心法やメルトブロー法などの周知の方法で紡糸したバインダー樹脂を、混綿機などで木質繊維と混綿すればよい。粒状のバインダー樹脂を使用する場合は、木質繊維ウェブに散布若しくはエアー吹付けしたり、ローラーに付着させたバインダー樹脂粉体を電気印加によって木質繊維ウェブに塗布する方法などがある。バインダー樹脂を溶媒溶液として混合する場合は、木質繊維ウェブに溶媒溶液を噴霧したり、繊維マット形成してからこれを溶媒溶液に浸漬したりしてもよい。そして、これをフリースやニードルパンチなどによってマット状に形成する。このようにして、剛性部用マット20aと脆弱部用マット30aとの、2種類のマットを作製しておく。
次に、このようにして得られた2種類のマット20a・30aを所定形状に裁断したうえで、図3に示すごとく脆弱部用マット20aの所定位置、詳しくは脆弱部30を形成すべき形状間隔を空けた状態で、脆弱部用マット20aの面方向両端において剛性部用マット30aで上下から挟み込み、これを1次プレスして混合マットを得る。このとき、脆弱部用マット30aの繊維密度(目付け)は、剛性部用マット20aの繊維密度(目付け)よりも低くしておくことが好ましい。これにより、脆弱部用マット30aの方が剛性部用マット20aよりも圧縮率が高くなるので、混合マットを得るために1次プレスする際に、剛性部20部分において脆弱部用マット30aの方が剛性部用マット20aよりも薄くできるからである。また、脆弱部用マット20aと剛性部用マット30aとの接合界面には、両マット20a・30aの繊維が互いに絡み合った混合層が形成されている。
このように、脆弱部30の形状寸法は、剛性部用マット20aの形状、配置位置及びその隣接間隔を設定することによって定められる。このとき、脆弱部30はいわゆる破壊代として機能する部分であるので、その幅寸法は5〜30mmに設定することが好ましい。なお、図面では脆弱部30を強調して描いており、図面中におけるパネル本体10の長さ寸法または幅寸法に対する脆弱部30の幅寸法の比によって、脆弱部30の幅寸法が限定されることはない。
次いで、このように設定された混合マットを、求められる最終的な製品の形状に加熱2次プレスすることで木質繊維を完全に結着させて、車両用パネルを製造できる。これにより、必然的に積層構造の剛性部20の密度は、単層構造の脆弱部30の密度よりも高くなっている。このように、本実施形態の車両用パネルは、面方向において単層構造部分と積層構造部分とを混成させるだけで部分的に破壊強度を異ならせることができ、生産が容易である。
剛性部30は車両用パネルの面積の大半を占める車両用パネルとしての本来的な機能を果たす部分であるので、少なくとも従来から自動車分野に使用されていた繊維ボードと同等の密度があればよく、例えば0.5〜1.5g/cm3 、好ましくは0.7〜1.0g/cm3の範囲で適宜設定すればよい。
また、本実施形態においては、脆弱部用マット30aの平均繊維径を剛性部用マット20aの平均繊維径よりも大きくしている(図3参照)。例えば、脆弱部用マット30aをケナフ繊維で形成し、剛性部用マット20aをケナフ繊維よりも繊維径が小さく強靭な性質を有するラミー繊維で形成する。これにより、剛性部用マット20aの方が脆弱部用マット30aよりも繊維本数が多く存在して繊維同士が複雑に絡み合った状態となっている。これに伴い、車両用パネルにおける脆弱部30の平均繊維径の方が剛性部20の平均繊維径よりも大きくなり、両者20・30の破壊強度の相違がより明確にされている。両マット20a・30aの繊維径は、原料繊維の解繊度合いを変更することで調整できる。具体的には、脆弱部用マット20aにあっては、平均繊維径10〜20μmが好ましく、より好ましくは13〜18μmである。剛性部用マット30aにあっては、平均繊維径15〜25μmが好ましく、より好ましくは18〜22μmである。
また、本実施形態のパネルの厚み寸法も、少なくとも従来から自動車分野に使用されていた繊維ボードと同等であればよく、2〜20mm、好ましくは5〜15mmの範囲である。
そして、このような車両用パネルを、図4に示すごとく本実施形態では自動車の前後方向に延びる部位であるドアパネルとして用いて、脆弱部30が自動車の上下方向に向くように配置した。この時の脆弱部30は、ドアパネル10における左右中心位置において相対向する上端(一方の側端)から下端(他方の側端)にわたって連続する直線形に形成されている。なお、脆弱部30の形成場所は、必ずしもドアパネル10の左右中心位置である必要はない。
そのうえで、自動車が衝突事故のうち最も頻度の高い正面方向から衝突すると、ドアパネル10にはこれの前後方向に衝撃荷重が作用することになる。このとき、脆弱部30を自動車の上下方向、すなわち衝撃荷重の作用方向に対して直角になるように配置していることで、脆弱部30はこれの幅方向で全体的に衝撃荷重を受けることとなる。以ってドアパネル10は、図2に示すごとく脆弱部30に沿って二つに分断させることとなる。つまり、車両衝突事故のうち最も頻度の高い車両正面方向からの衝突に対しての安全性を高めることができ、車両用パネルの機能を最大限発揮させることができている。
(実施例2)
次に、本発明の実施例2を説明する。図5は、実施例2の車両用パネルの概観図及び要部拡大図である。実施例2における車両用パネルも、基本的には先の実施例1の車両用パネルと同様の構成であるので、その相違点を中心に説明する。
次に、本発明の実施例2を説明する。図5は、実施例2の車両用パネルの概観図及び要部拡大図である。実施例2における車両用パネルも、基本的には先の実施例1の車両用パネルと同様の構成であるので、その相違点を中心に説明する。
実施例2の車両用パネルも自動車のドアパネルとして用いているが、先の実施例1との大きな相違点は、繊維配向を所定方向に揃えていることにある。すなわち、図5の要部拡大図に良く示されるように、脆弱部30の繊維を始端から終端に向けて長手方向と平行に
配向されている。これに対し剛性部20の繊維は、脆弱部30の繊維配向方向と直角方向、すなわち脆弱部30の幅方向に配向されている。これによれば、ドアパネル10に自動車の前後方向の衝撃荷重が作用した場合、脆弱部30は、これの繊維配向が衝撃荷重の作用方向と直角になっているので衝撃荷重に対する破壊強度が弱く、剛性部20は、これの繊維配向が衝撃荷重の作用方向と平行になっているので衝撃荷重に対する破壊強度が強くなっている。以って、脆弱部30を剛性部20に優先して破壊される、いわゆる破壊代として機能させることができる。
配向されている。これに対し剛性部20の繊維は、脆弱部30の繊維配向方向と直角方向、すなわち脆弱部30の幅方向に配向されている。これによれば、ドアパネル10に自動車の前後方向の衝撃荷重が作用した場合、脆弱部30は、これの繊維配向が衝撃荷重の作用方向と直角になっているので衝撃荷重に対する破壊強度が弱く、剛性部20は、これの繊維配向が衝撃荷重の作用方向と平行になっているので衝撃荷重に対する破壊強度が強くなっている。以って、脆弱部30を剛性部20に優先して破壊される、いわゆる破壊代として機能させることができる。
この繊維配向が揃えられた車両用パネルは、剛性部用マット20aや脆弱部用マット30aを作製する前に、それぞれの繊維をコーミングによって一定方向へ配向しておき、剛性部用マット20aで脆弱部用マット30aを挟み込む際に、両者20a・30aの配向方向を直行するように積層することで、簡単に製造することができる。また、実施例2では脆弱部30の中途部に幅太部を形成している。これによれば、破壊起点を予め決定しておくことができる。
(その他の実施例)
以上、本発明の車両用パネルの実施例を説明したが、これに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲でさらに種々の変更も可能である。具体的には、脆弱部30は車両用パネル中に複数本形成されていてもよい。これによれば、車体寸法が極めて大きい場合などに、破断後の車両用パネルを複数に分割できる点で有利である。その際、複数本の脆弱部が互いに交わるように形成してもよい。
以上、本発明の車両用パネルの実施例を説明したが、これに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲でさらに種々の変更も可能である。具体的には、脆弱部30は車両用パネル中に複数本形成されていてもよい。これによれば、車体寸法が極めて大きい場合などに、破断後の車両用パネルを複数に分割できる点で有利である。その際、複数本の脆弱部が互いに交わるように形成してもよい。
また、剛性部20の積層構造は、三層より多くすることもできる。例えば実施例2において、剛性部用マット20aを二枚づつ重ねて、このうち一方を無配向、他方を配向したものとすることもできる。これにより、剛性部20の密度は更に高くなり、且つ無配向層があることによりあらゆる方向からの衝撃荷重に対しても充分な強度を保つことができる。もちろん、実施例2の剛性部用マット20aを無配向とするだけでも構わない。
また、上記実施例1及び2では剛性部20を多層構造としているが、必ずしも多層構造とする必要はなく、部分的に密度を異ならせた一枚の繊維マットを形成してこれを加熱プレスすることによっても得られる。例えば、剛性部に相当する部位に予め多くの繊維を供給した上でこれをプレスすることによって、部分的に密度を異ならせた一枚の繊維マットを作製する。次いで、得られた繊維マットをバインダー樹脂溶液中に含浸処理させた後に、これを加熱プレスすることによって本発明における車両用パネルを得てもよい。
上記実施例1及び実施例2では、脆弱部用マット30aの端部と剛性部用マット20aの端部とを揃えて配置してあるので、面方向において剛性部用マット20aのみの層が存在しない構造となっているが、剛性部用マット20aの端部を脆弱部用マット30aの端部からはみ出した状態に配置することによって、脆弱部用マット30aの周囲を剛性部用マット20aのみの層が囲んでいるように形成することもできる。
また、実施例1及び2ではドアパネルに使用した形態を示したが、フェンダーやボンネットなどに使用することもできる。本発明の車両用パネルをボンネットに使用する場合は、脆弱部30を車両左右方向に向けることが望ましい。
また、上記実施例では、平面状の車両用パネルを形成しているが、凹凸平面のプレス型を用いることにより、凹凸形状を持たせることもできる。
10 パネル本体
20 剛性部
30 脆弱部
20 剛性部
30 脆弱部
Claims (9)
- 繊維とバインダー樹脂とを混合してなり、車両の外装部材や内装部材として使用される車両用のパネルであって、
前記パネルは、高密度に形成された剛性部と、面方向において前記剛性部間に形成されて該剛性部よりも低密度に形成された脆弱部とを有し、
当該パネルに衝撃荷重がかかった際に、前記脆弱部が前記剛性部よりも先に破壊されることを特徴とする車両用パネル。 - 前記脆弱部は、前記パネルにおける一の側端から他の側端にわたって連続的に形成されていることを特徴とする請求項2記載の車両用パネル。
- 前記脆弱部は単層構造に、前記剛性部は複数積層構造にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の車両用パネル。
- 前記脆弱部は、繊維密度を前記剛性部より低くしていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用パネル。
- 前記脆弱部は、繊維を一定方向に配向していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用パネル。
- 前記脆弱部は、前記パネルにおいて相対向する一方の側端から他方の側端にわたって連続的に形成されるものであって、この一方の側端から他方の側端へ向けて繊維を配向していることを特徴とする請求項5記載の車両用パネル。
- 前記脆弱部の平均繊維径は、前記剛性部の繊平均維径に比して大きいことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の車両用パネル。
- 前記パネルは、車両の前後方向に延びる部位に用いられ、且つ前記脆弱部が車両の上下方向に向くように配置されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の車両用パネル。
- 繊維とバインダー樹脂とを混合し、密度を部分的に異ならせた繊維マットを、加熱プレスして所定形状に成形することによって得られる、面方向において他の部分に比して破壊強度の弱い脆弱部を有する車両用パネルの製造方法。
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