以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る制御装置について説明する。本実施形態の制御装置1は、図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3を制御対象とするものであり、図2に示すように、ECU2を備えている。このECU2は、後述するように、エンジン3の運転状態に応じて、図示平均有効圧Pmi(すなわち発生トルク)の制御処理などの各種の制御処理を実行する。
図1に示すように、エンジン3は、4組の気筒3aおよびピストン3b(1組のみ図示)を有する直列4気筒ガソリンエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。このエンジン3は、HCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)運転すなわち予混合圧縮着火燃焼(以下「圧縮着火燃焼」という)運転が可能なものであり、所定の圧縮着火運転域では、圧縮着火燃焼で運転されるとともに、それ以外の火花点火運転域では、火花点火燃焼で運転される。
エンジン3には、気筒3a毎に、吸気可変動弁機構4、排気可変動弁機構5、燃料噴射弁6および点火プラグ7(図2に1つのみ図示)が設けられている。この吸気可変動弁機構4は、吸気弁4aを電磁力で開閉駆動する電磁式のものであり、吸気弁4aを閉弁方向に付勢するコイルばねと、ECU2に電気的に接続された吸気ソレノイド4b(図2に1つのみ図示)などを備えている。
この吸気可変動弁機構4では、吸気弁4aは、吸気ソレノイド4bが非励磁状態のときには、コイルばねの付勢力によって閉弁位置に保持される。また、吸気弁4aは、吸気ソレノイド4bがECU2によって励磁されると、その電磁力により、コイルばねの付勢力に抗しながら開弁方向に駆動され、開弁状態に保持されるとともに、吸気ソレノイド4bが非励磁状態に戻されると、コイルばねの付勢力によって閉弁状態に戻る。
以上の構成により、図3に示すように、吸気弁4aは、その開弁タイミングと閉弁タイミングが吸気可変動弁機構4を介して自在に変更されるとともに、そのバルブリフト曲線がほぼ台形状になるように構成されている。本実施形態では、ECU2により、吸気弁4aは、その開弁タイミングは一定に保持されるとともに、その閉弁タイミングが図3に実線で示す遅閉じタイミングと、同図に2点鎖線で示す早閉じタイミングとの間で制御される。なお、以下の説明では、吸気弁4aの開弁中、これが最大リフトに保持されるクランク角の期間を「吸気開角θlin」という(図3参照)。
この吸気開角θlinは、上記吸気可変動弁機構4により、値0から任意のクランク角まで自在に変更可能であるが、本実施形態では、エンジン3における良好な燃焼状態および排ガス特性などを確保する観点から、上記早閉じタイミングのときの最小値θlin_minと、上記遅閉じタイミングのときの最大値θlin_maxとの間の範囲内で自在に変更される。
一方、排気可変動弁機構5は、吸気可変動弁機構4と同様に、排気弁5aを電磁力で開閉駆動する電磁式のものであり、排気弁5aを閉弁方向に付勢するコイルばねと、ECU2に電気的に接続された排気ソレノイド5b(図2に1つのみ図示)などを備えている。
この排気可変動弁機構5では、排気弁5aは、排気ソレノイド5bが非励磁状態のときには、コイルばねの付勢力によって閉弁位置に保持される。また、排気弁5aは、排気ソレノイド5bがECU2によって励磁されると、その電磁力により、コイルばねの付勢力に抗しながら開弁方向に駆動され、開弁状態に保持されるとともに、排気ソレノイド5bが非励磁状態に戻されると、コイルばねの付勢力によって閉弁状態に戻る。
以上の構成により、図4に示すように、排気弁5aは、その開弁タイミングと閉弁タイミングが排気可変動弁機構5を介して自在に変更されるとともに、そのバルブリフト曲線がほぼ台形状になるように構成されている。本実施形態では、同図に示すように、ECU2により、排気弁5aは、1燃焼サイクル中、通常の排気行程で開弁するように制御されるとともに、特に吸気行程にも再開弁するように制御される。
この場合、排気弁5aは、排気行程でのバルブタイミングは一定に保持される。一方、吸気行程での再開弁動作では、排気弁5aは、その開弁タイミングが一定に保持されるとともに、閉弁タイミングが図4に実線で示す遅閉じタイミングと、同図に2点鎖線で示す早閉じタイミングとの間で制御される。この排気弁5aの再開弁動作は、当該気筒3aに隣接する気筒3aから排出される排ガスを当該気筒3a内に吸入することによって、燃焼室内の混合気の温度を圧縮着火燃焼可能な温度まで上昇させるために実行される。なお、以下の説明では、排気弁5aの再開弁動作中、これが最大リフトに保持されるクランク角の期間を「排気再開角θrbl」という(図4参照)。この排気再開角θrblは、排気可変動弁機構5により、上記のように、早閉じタイミングのときの最小値と、遅閉じタイミングのときの最大値との間の範囲内で自在に変更される。
一方、燃料噴射弁6は、燃料を燃焼室内に直接噴射するようにシリンダヘッド3cに取り付けられている。すなわち、エンジン3は直噴エンジンとして構成されている。また、燃料噴射弁6は、ECU2に電気的に接続されており、ECU2により、開弁時間および開弁タイミングが制御される。すなわち、燃料噴射制御が実行される。
また、点火プラグ7も、ECU2に電気的に接続されており、ECU2により、エンジン3が前述した火花点火運転域にあるときには、点火時期に応じたタイミングで燃焼室内の混合気を燃焼させるように、放電状態が制御される。すなわち、点火時期制御が実行される。
さらに、エンジン3には、可変圧縮比機構8、クランク角センサ20および水温センサ21が設けられている。この可変圧縮比機構8は、本出願人が特開2005−273634号公報で提案済みのものと同様に構成されているので、ここではその具体的な説明は省略するが、ピストン3bの上死点位置すなわちピストン3bのストロークを変更することにより、圧縮比Crを所定範囲内で無段階に変更するものである。この可変圧縮比機構8は、ECU2に電気的に接続された圧縮比アクチュエータ8aを備えており(図2参照)、ECU2は、この圧縮比アクチュエータ8aを介して可変圧縮比機構8を駆動することにより、圧縮比Crを、目標圧縮比Cr_cmdになるように制御する。
また、クランク角センサ20は、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、クランクシャフト3dの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
このCRK信号は、クランク角1゜毎に1パルスが出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、各気筒3aのピストン3bが吸気行程のTDC位置よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、本実施形態の4気筒のエンジン3では、クランク角180゜毎に1パルスが出力される。
また、水温センサ21は、エンジン3のシリンダブロック内を循環する冷却水の温度であるエンジン水温TWを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。
一方、エンジン3の吸気通路9には、上流側から順に、エアフローセンサ22、吸気ヒータ10およびターボチャージャ11が設けられている。このエアフローセンサ22は、熱線式エアフローメータで構成されており、吸気通路9を流れる空気の流量を検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、エアフローセンサ22の検出信号に基づき、気筒3aに吸入される空気量を算出する。
また、吸気ヒータ10は、ECU2に電気的に接続されており、ECU2によってONされたときに、吸気通路9内を流れる空気を加温し、その温度を上昇させる。
さらに、ターボチャージャ11は、吸気通路9のエアフローセンサ22よりも下流側に設けられたコンプレッサブレード11aと、排気通路12の途中に設けられ、コンプレッサブレード11aと一体に回転するタービンブレード11bと、複数の可変ベーン11c(2つのみ図示)と、可変ベーン11cを駆動するベーンアクチュエータ11dなどを備えている。
このターボチャージャ11では、排気通路12内の排ガスによってタービンブレード11bが回転駆動されると、これと一体のコンプレッサブレード11aも同時に回転することにより、吸気通路9内の空気が加圧される。すなわち、過給動作が実行される。
また、可変ベーン11cは、ターボチャージャ11が発生する過給圧を変化させるためのものであり、ハウジングのタービンブレード11bを収容する部分の壁に回動自在に取り付けられている。ECU2は、ベーンアクチュエータ11dを介して可変ベーン11cの開度を変化させ、タービンブレード11bに吹き付けられる排ガス量を変化させることによって、タービンブレード11bの回転速度すなわちコンプレッサブレード11aの回転速度を変化させる。それにより、過給圧Pcを目標過給圧Pc_cmdになるように制御する。
一方、エンジン3の排気通路12のタービンブレード11bよりも下流側には、LAFセンサ23がそれぞれ設けられている。LAFセンサ23は、ジルコニアおよび白金電極などで構成され、理論空燃比よりもリッチなリッチ領域から極リーン領域までの広範囲な空燃比の領域において、排気通路12内を流れる排ガス中の酸素濃度をリニアに検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、このLAFセンサ23の検出信号の値に基づき、排ガス中の空燃比を表す検出空燃比AFを算出するとともに、この検出空燃比AFを、目標空燃比AF_cmdになるように制御する。
さらに、図2に示すように、ECU2には、筒内圧センサ24、アクセル開度センサ25およびイグニッション・スイッチ(以下「IG・SW」という)26が接続されている。この筒内圧センサ24は、点火プラグ7と一体型の圧電素子タイプのものであり、気筒3a毎に設けられている(1つのみ図示)。筒内圧センサ24は、各気筒3a内の圧力すなわち筒内圧Pcylの変化に伴ってたわむことにより、筒内圧Pcylを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この筒内圧センサ24の検出信号に基づき、図示平均有効圧Pmi(すなわち発生トルク)を算出する。
また、アクセル開度センサ25は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号をECU2に出力する。また、IG・SW26は、イグニッションキー(図示せず)操作によりON/OFFされるとともに、そのON/OFF状態を表す信号をECU2に出力する。
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ20〜25の検出信号およびIG・SW26のON/OFF信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、各種の制御を実行する。具体的には、ECU2は、後述するように、運転状態に応じて、図示平均有効圧Pmiなどを制御する。
なお、本実施形態では、ECU2が、相関性パラメータ算出手段、目標値設定手段、制御入力算出手段およびモデル修正手段に相当する。また、以下の説明において算出される各データは、ECU2のRAM内に記憶されるものとする。
次に、本実施形態の制御装置1について説明する。この制御装置1は、以下に述べる理由により、エンジン3を、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblを制御入力とし、図示平均有効圧Pmiを制御量とする制御対象と見なして、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblにより図示平均有効圧Pmiを制御するものである。
まず、本実施形態のエンジン3を制御対象として検討すると、図5に示すように、エンジン3は、5つパラメータθlin,θrbl,Cr_cmd,Pc_cmd,AF_cmdが変化すると、2つのパラメータPmi,NEがそれぞれ変化するものであり、5つの制御入力により2つの制御量を制御する、いわゆる多入力多出力系と見なすことができる。なお、本実施形態のエンジン3の場合、吸気ヒータ10は、過渡時の応答性が低いため、一定発熱量となるように制御されるので、図5の制御系では、吸気ヒータ10の動作状態を考慮しないものとする。
ここで、制御量としての図示平均有効圧Pmiに着目すると、本実施形態のような圧縮着火燃焼で運転されるエンジン3では、圧縮着火燃焼の際、燃焼室内の混合気の温度制御が最も重要な要素となるので、制御入力としては、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblが最も重要で影響の大きいものとなる。以上の理由により、この制御装置1では、エンジン回転数NE、過給圧Pcおよび検出空燃比AFが一定であると仮定し、エンジン3を、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblを制御入力とし、図示平均有効圧Pmiを制御量とする制御対象と見なし、図6に示す応答曲面モデルとしてモデリングするとともに、これを制御対象モデルとして用いる。
同図において、θrbl1〜3は、排気再開角θrblの所定値であり、θrbl1<θrbl2<θrb3の関係が成立するように設定される。この応答曲面モデルでは、図示平均有効圧Pmiは、吸気開角θlinが大きいほど、より大きい値を示すように設定されている。これは、吸気開角θlinが大きいほど、吸入空気量が増大することによる。また、図示平均有効圧Pmiは、吸気開角θlinが中程度の値以上の領域では、排気再開角θrblの増大方向または減少方向に対して、極大値を示すように設定されている。これは、吸気開角θlinが中程度の値以上の領域では、吸気開角θlinによる温度上昇度合が大きいので、排気再開角θrblを増大または減少させても、その温度上昇に寄与する度合が小さくなることで、図示平均有効圧Pmiが増大しなくなることに加えて、排気再開角θrblをある程度以上増大させると、着火時期(自着火時期)が早すぎる状態(上死点前)になることにより、圧縮行程中の最高筒内圧を抑制してしまうことによる。
なお、本実施形態では、前述したように、吸気開角θlinは、最小値θlin_minと最大値θlin_maxの間で制御されるとともに、この最小値θlin_minは、図6の吸気開角θlinの領域における中程度の値に設定されている。したがって、本実施形態では、図示平均有効圧Pmiは、排気再開角θrblの変化に対して極大値を示すことになる。
次に、本実施形態の制御装置1の具体的な構成について説明する。図7に示すように、制御装置1は、目標値算出部29、協調コントローラ30、オンボードモデル解析器40およびモデル修正器60を備えており、これらはいずれもECU2によって構成されている。
まず、目標値算出部29では、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、後述する図26のマップを検索することにより、図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdが算出される。なお、本実施形態では、目標値算出部29が目標値算出手段に相当する。
また、協調コントローラ30では、後述するように、オンボードモデル解析器40によって算出された2つの応答指標RI1,RI2を用い、図示平均有効圧Pmiをその目標値Pmi_cmdに収束させるように、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblが算出される。なお、本実施形態では、協調コントローラ30が制御入力算出手段に相当する。
さらに、オンボードモデル解析器40では、後述するように、協調コントローラ30で算出された吸気開角θlinおよび排気再開角θrblと、モデル修正器60で算出されたモデル修正パラメータ行列θと、前述した制御対象モデルとを用い、第1および第2応答指標RI1,RI2が算出される。なお、本実施形態では、オンボードモデル解析器40が、相関性パラメータ算出手段およびモデル修正手段に相当し、第1および第2応答指標RI1,RI2が複数の相関性パラメータに相当する。
一方、モデル修正器60では、以下に述べるように、モデル修正パラメータ行列θが算出される。なお、以下に述べる数式(1)〜(11)において、記号(k)付きの各離散データは、所定の制御周期ΔTk(TDC信号の発生に同期する周期、すなわちクランク角180゜毎の周期)で、サンプリングまたは算出された離散データであることを示しており、記号kは各離散データのサンプリングまたは算出サイクルの順番を表している。例えば、記号kは今回の制御タイミングでサンプリングまたは算出された値であることを、記号k−1は前回の制御タイミングでサンプリングまたは算出された値であることをそれぞれ示している。また、以下の説明では、各離散データにおける記号(k)などを適宜、省略する。
このモデル修正パラメータ行列θは、制御対象モデルを修正するためのものであり、下式(1)に示すように、モデル修正パラメータθij(i=0〜I、j=0〜J)を要素とする(I+1)行(J+1)列の行列として定義される。ここで、I,Jは正の整数であり、f,gは0<f<Iおよび0<g<Jがそれぞれ成立する正の整数である。
なお、本実施形態では、モデル修正器60がモデル修正手段に相当し、モデル修正パラメータθijが複数の修正パラメータに相当する。
このモデル修正器60は、図8に示すように、基本推定制御量算出部61、非線形重み関数行列算出部62、モデル修正係数算出部63、2つの乗算器64,66、減算器65およびモデル修正パラメータ行列算出部67を備えている。
まず、基本推定制御量算出部61では、協調コントローラ30で算出された吸気開角の前回値θlin(k−1)および排気再開角の前回値θrbl(k−1)を、図9に示す制御対象モデルに入力することにより、基本推定制御量Yid_nm(k)が算出される。より具体的には、通常のマップ検索手法と同様に、θlin(k−1)およびθrbl(k−1)に応じて、複数の値を検索し、これらの検索値の補間演算により、基本推定制御量Yid_nm(k)が算出される。この図9の制御対象モデルは、前述した図6の制御対象モデルにおいて、縦軸の「Pmi」を「Yid_nm」に置き換えたもの、すなわち図6の制御対象モデルと実質的に同じものである。なお、本実施形態では、基本推定制御量Yid_nmが制御対象モデルの制御量に相当する。
なお、この基本推定制御量算出部61において、吸気開角の前回値θlin(k−1)および排気再開角の前回値θrbl(k−1)を用いるのは、後述する修正誤差Eidの算出で用いる図示平均有効圧の今回値Pmi(k)が、吸気開角の前回値θlin(k−1)および排気再開角の前回値θrbl(k−1)をエンジン3に入力した結果として得られるからである。
また、非線形重み関数行列算出部62では、以下に述べるように、非線形重み関数行列W_mod(θlin(k−1),θrbl(k−1))が算出される。この非線形重み関数行列W_mod(θlin(k−1),θrbl(k−1))は、下式(2)に示すように定義される。
上式(2)に示すように、非線形重み関数行列W_modは、非線形重み関数Wij(θlin(k−1),θrbl(k−1))の値を要素とする(I+1)行(J+1)列の行列であり、この非線形重み関数Wijは、図10に示すように、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの値に応じて、その値が決定される関数である。この図10のマップでは、吸気可変動弁機構4によって変更可能な吸気開角θlinの範囲が、I+1個の値θlin_i(i=0〜I)によって均等に区分されているとともに、排気可変動弁機構5による排気再開角θrblの変更範囲が、J+1個の値θrbl_j(j=0〜J)によって均等に区分されており、非線形重み関数Wijは、連続する3つの吸気開角θlin_iの値と、連続する3つの排気再開角θrbl_jの値との組み合わせで規定される複数の領域に対応してそれぞれ設定されている。なお、本実施形態では、非線形重み関数Wijが複数の関数に相当する。
また、この非線形重み関数Wijの各々は、対応する領域内における吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの値に対して、その領域の中心で最大値1を示し、中心以外では四角錐の斜面状に変化する値を示すとともに、その領域以外では値0を示す特性を有している。これに加えて、非線形重み関数Wijがそれぞれ対応する複数の領域では、隣り合う各2つの領域が互いにオーバーラップしており、それにより、隣り合う各2つの非線形重み関数Wijは、四角錐の斜面状に変化する部分で互いに交差している。
例えば、図11に示すように、θlin_f-1≦θlin≦θlin_f+1かつθrbl_g-1≦θrbl≦θrbl_g+1の領域に対応する非線形重み関数Wfgは、θlin,θrblがその領域の中心の値のとき、すなわちθlin=θlin_fかつθrbl=θrbl_gのときに最大値1を示し、中心以外のθlin、θrblの値に対しては、非線形重み関数Wfgの値が四角錐の斜面状に変化するように設定されている。さらに、非線形重み関数Wfgは、2つの値θlin,θrblが上記領域以外の値のとき、すなわちθlin<θlin_f-1、θlin_f+1<θlin、θrbl<θrbl_g-1またはθrbl_g+1<θrblのときには、値0を示すように設定されている。
また、非線形重み関数Wfgは、これと隣り合う2つの領域にそれぞれ対応する非線形重み関数Wf-1g,Wf+1gに対して、互いの領域がオーバーラップする部分すなわち斜面状に変化する部分でその斜面同士が交差している。したがって、図11に示すように、θlin_xをθlin_fとθlin_f+1の間の中央の値とすると、例えば、θlin=θlin_xおよびθrbl=θrbl_gのときには、2つの非線形重み関数Wfg,Wf+1gの値は、Wfg=Wf+1g=0.5となるとともに、それら以外の非線形重み関数Wijの値はいずれも値0となる。これに加えて、θlin_x<θlin<θlin_f+1およびθrbl=θrbl_gのときには、非線形重み関数Wfgの値は、0<Wfg<0.5となり、非線形重み関数Wf+1gの値は、1−Wfgとなるとともに、それら以外の非線形重み関数Wijの値はいずれも値0となる。
さらに、図12に示すように、非線形重み関数Wfgは、これと隣り合う2つの領域にそれぞれ対応する非線形重み関数Wfg-1,Wfg+1に対しても、互いの領域がオーバーラップする部分すなわち斜面状に変化する部分でその斜面同士が交差している。したがって、同図に示すように、θrbl_yをθrbl_g-1とθrbl_gの間の中央の値とすると、例えば、θlin=θlin_fおよびθrbl=θrbl_yのときには、2つの非線形重み関数Wfg-1,Wfgの値は、Wfg-1=Wfg=0.5となるとともに、それら以外の非線形重み関数Wijの値はいずれも値0となる。これに加えて、θlin=θlin_fおよびθrbl_y<θrbl<θrbl_gのときには、非線形重み関数Wfg-1の値は、0<Wfg-1<0.5となり、非線形重み関数Wfgの値は、1−Wfg-1となるとともに、それら以外の非線形重み関数Wijの値はいずれも値0となる。
なお、図示しないが、非線形重み関数Wfgは、これと隣り合う2つの領域にそれぞれ対応する非線形重み関数Wf+1g-1,Wf-1g+1に対しても、互いの領域がオーバーラップする2つの斜面状に変化する部分で2つの斜面同士が交差している。
以上のように、この非線形重み関数行列算出部62では、吸気開角の前回値θlin(k−1)および排気再開角の前回値θrbl(k−1)の値に応じて、図10のマップを検索することにより、非線形重み関数行列W_modの要素である非線形重み関数Wijの値がそれぞれ算出される。その場合、2つの値θlin(k−1),θrbl(k−1)が存在する領域に対応する要素Wijは、値1以下の正値として算出されるものの、その領域以外の領域に対応する要素Wijはすべて値0として算出されるので、非線形重み関数行列W_modは、2つの値θlin(k−1),θrbl(k−1)の組み合わせが存在する領域に対応する要素Wijのみが、値1以下の正値(すなわち重み)を有する行列として算出される。
また、モデル修正係数算出部63では、非線形重み関数行列算出部62で以上のように算出された非線形重み関数行列W_mod(θlin(k−1),θrbl(k−1))と、後述するモデル修正パラメータ行列算出部67で算出されたモデル修正パラメータ行列の前回値θ(k−1)を用い、下式(3)により、モデル修正係数Yid_mod(k)が算出される。
上式(3)において、Yid_baseは所定の基本値で、本実施形態では値1に設定されており、その理由については後述する。式(3)に示すように、モデル修正係数Yid_mod(k)は、非線形重み関数行列W_mod(θlin(k−1),θrbl(k−1))とモデル修正パラメータ行列の前回値θ(k−1)を、対応する要素毎に乗算するとともに、それらの乗算値の和を基本値Yid_baseに加算することにより、算出される。
次いで、乗算器64で、下式(4)により修正推定制御量Yidが算出される。
上式(4)に示すように、修正推定制御量Yidは、基本推定制御量Yid_nmにモデル修正係数Yid_modを乗算することにより算出される。すなわち、モデル修正係数Yid_modによって基本推定制御量Yid_nmを修正することになり、これは結果的に図9の制御対象モデルを修正することになる。この場合、修正された制御対象モデルは、2つの値θlin,θrblを制御入力とし、修正推定制御量Yidを制御量とするものに相当する。以上のように、モデル修正係数Yid_modは、図9の制御対象モデルを修正するための値として算出される。
さらに、減算器65で、下式(5)により推定誤差Eidが算出される。すなわち、推定誤差Eidは、修正された制御対象モデルの制御量である修正モデル制御量Yidと、実際の制御量Yである図示平均有効圧Pmiとの偏差として算出される。
一方、乗算器66で、下式(6)により修正推定誤差行列Emdが算出される。
上式(6)に示すように、修正推定誤差行列Emdは、非線形重み関数行列W_modを推定誤差Eidに乗算することによって算出されるので、2つの値θlin(k−1),θrbl(k−1)の組み合わせが存在する領域に対応する要素のみが、推定誤差Eidを非線形重み関数行列W_modの要素Wijで重み付けした値を有し、それ以外の要素はすべて値0となる行列として算出される。
さらに、モデル修正パラメータ行列算出部67で、下式(7)〜(11)に示すスライディングモード制御アルゴリズムより、モデル修正パラメータ行列θが算出される。
上式(7)に示すように、モデル修正パラメータ行列θは、到達則入力行列θrch、非線形入力行列θnlおよび適応則入力行列θadpの和として算出され、この到達則入力行列θrchは、式(8)により算出される。この式(8)のQrchは、所定の到達則ゲインであり、δは式(11)のように定義される切換関数である。同式(11)のRは、−1<R<0が成立するように設定される切換関数設定パラメータである。なお、本実施形態では、適応則入力行列θadpが積分値に相当し、切換関数δが偏差に基づく値に相当する。
また、非線形入力行列θnlは、式(9)により算出され、同式(9)のQnlは、所定の非線形ゲインである。また、式(9)のsgn(δ(k))は、符号関数であり、その値は、δ(k)≧0のときにはsgn(δ(k))=1となり、δ(k)<0のときにはsgn(δ(k))=−1となるように設定される。なお、この符号関数sgn(δ(k))の値を、δ(k)=0のときにsgn(δ(k))=0と設定してもよい。
さらに、適応則入力行列θadpは、式(10)により算出される。同式(10)のQadpは、所定の適応則ゲインであり、λは、0<λ<1が成立するように設定される忘却係数である。この忘却係数λを用いる理由は以下による。
すなわち、演算処理の進行に伴い、Yid≒Pmiとなったとしても、修正推定誤差行列Emdの各要素は厳密に値0に収束することがなく、また、修正推定誤差行列Emdの各要素の平均値も値0にならない。その場合、式(10)に示すように、適応則入力行列θadpは、切換関数δと適応則ゲインQadpの積の負値を積算した積分値として算出されるので、忘却係数λを用いないと(すなわちλ=1とすると)、適応則入力行列θadpの各要素の絶対値が積分効果により増大し続け、その結果、モデル修正パラメータ行列θが不適切な値に算出されてしまう。すなわち、モデル修正パラメータ行列θにおいて推定誤差が残留することになり、それ以降の演算でも推定誤差が累積されることで、モデル修正パラメータ行列θの算出精度が低下する可能性がある。
これに対して、本実施形態では、式(10)に示すように、忘却係数λが適応則入力行列の前回値θadp(k−1)に乗算されるので、同式(10)を漸化式により展開すると、m回前の値θadp(k−m)に対しては、λm(≒0)が乗算されることになる。それにより、演算処理の進行に伴い、Yid≒Pmiとなり、修正推定誤差行列Emdの各要素がほぼ値0に収束した時点では、適応則入力行列θadpの各要素がほぼ値0に収束する。その結果、モデル修正パラメータ行列θにおける推定誤差の残留を回避できることで、モデル修正パラメータ行列θを適切な値に算出でき、その算出精度を向上させることができるとともに、制御系の安定性を向上させることができる。したがって、以上のような忘却効果を得るために、本実施形態では、忘却係数λが用いられる。すなわち、モデル修正パラメータ行列θは、積分値としての適応則入力行列の前回値θadp(k−1)に忘却係数λによる忘却処理を施しながら算出される。
また、例えば、修正推定誤差行列Emdの各要素が値0に収束した場合、適応則入力行列θadpの各要素が忘却係数λの忘却効果によって値0に収束するとともに、到達則入力行列θrchおよび非線形入力行列θnlの各要素も値0に収束することで、モデル修正パラメータ行列θの要素がすべて値0になり、その場合には、前述した式(3)において、基本値Yid_base以外の項がすべて値0になってしまう。したがって、本実施形態では、修正推定誤差行列Emdの各要素が値0に収束し、制御対象モデルを修正する必要がなくなった時点で、Yid_nm=YidすなわちYid_mod=1となるように、基本値Yid_baseが値1に設定されている。
なお、以上のような忘却係数λによる忘却効果が不要な場合には、式(10)においてλ=1に設定するとともに、前述した式(3)の基本値Yid_baseを値0に設定すればよい。
本実施形態のモデル修正器60では、以上のように、モデル修正パラメータ行列θがスライディングモード制御アルゴリズムにより算出されるので、Eid≠0すなわちYid−Pmi≠0のときには、モデル修正パラメータ行列θにおいて、2つの値θlin(k−1),θrbl(k−1)の組み合わせが存在する領域に対応する要素θijのみが、Eidを値0に迅速に収束させるような値として算出され、それ以外の要素θijは値0として算出される。さらに、前述したように、モデル修正係数Yid_modは、そのように算出されたモデル修正パラメータ行列の前回値θ(k−1)と、非線形重み関数行列W_modとにおける対応する要素毎の積の和に、基本値Yid_baseを加算することにより算出されるので、モデル修正係数Yid_modによって、図9の制御対象モデルを、2つの値θlin(k−1),θrbl(k−1)の組み合わせが存在する領域に関して、Yid=Pmiとなるように修正することになる。したがって、モデル修正器60では、図9の制御対象モデルを、モデル修正係数Ym_modによって実際の制御対象の特性に合致するようにオンボードで修正しながら、モデル修正パラメータ行列θが算出される。
次に、前述したオンボードモデル解析器40について説明する。図13に示すように、オンボードモデル解析器40は、第1周期信号値算出部41、第2周期信号値算出部42、3つのオーバーサンプラ43〜45、2つの加算器46,47、仮想制御量算出部48、3つのハイパスフィルタ49〜51、2つの乗算器52,53、第1応答指標算出部54および第2応答指標算出部55を備えている。
なお、以下に述べる数式(12)〜(24)において、記号(n)付きの各離散データは、所定の制御周期ΔTn(CRK信号が連続して5回発生する毎の周期、すなわちクランク角5゜毎の周期)で、サンプリングまたは算出されたデータであることを示しており、記号nは各離散データのサンプリングまたは算出サイクルの順番を表している。また、以下の説明では、各離散データにおける記号(n)などを適宜、省略する。
このオンボードモデル解析器40では、まず、第1および第2周期信号値算出部41,42で、第1および第2周期信号値S1,S2をそれぞれ、下式(12),(13)により算出する。
上式(12)のA1は、所定の第1振幅ゲインを表している。また、上式(12)のS1’は、第1周期信号値の基本値であり、カウンタ値Crsに応じて、図14に示すマップを検索することにより算出される。このカウンタ値Crsは、後述するように、値0から最大値Crs_maxまで、上記制御周期ΔTn毎に値1ずつカウントアップされるものであり、最大値Crs_maxに達すると、値0にリセットされる。なお、第1周期信号値の基本値S1’の周期、すなわち第1周期信号値S1の周期ΔT1は、Crs_maxを値8以上の4の倍数、N1を値4以上の4の倍数として、ΔT1=ΔTn・(Crs_max/N1)が成立するように設定され、本実施形態の場合、Crs_max=36、N1=4として、周期ΔT1は、クランク角45゜に設定されている。
また、上式(13)のA2は、所定の第2振幅ゲインを表している。また、上式(13)のS2’は、第2周期信号値の基本値であり、カウンタ値Crsに応じて、図14に示すマップを検索することにより算出される。なお、第2周期信号値の基本値S2’の周期、すなわち第2周期信号値S2の周期ΔT2は、Crs_maxを値8以上の4の倍数、N2をN2<N1が成立する2の倍数として、ΔT2=ΔTn・(Crs_max/N2)が成立するように設定され、本実施形態の場合、Crs_max=36、N2=2として、周期ΔT2は、クランク角90゜に設定されている。
一方、オーバーサンプラ43,44では、吸気開角θlin(k)および排気再開角θrbl(k)を、前述した制御周期ΔTnでオーバーサンプリングすることにより、吸気開角および排気再開角のオーバーサンプリング値θlin(n),θrbl(n)がそれぞれ算出される。なお、これらの吸気開角θlin(k)および排気再開角θrbl(k)は、協調コントローラ30において、前述した制御周期ΔTkで算出される。
次に、加算器46,47で、下式(14),(15)により、第1および第2仮想制御入力V1,V2をそれぞれ算出する。
また、オーバーサンプラ45で、モデル修正器60で算出されたモデル修正パラメータ行列θを制御周期ΔTnでオーバーサンプリングすることにより、モデル修正パラメータ行列のオーバーサンプリング値θ(n)が算出される。このオーバーサンプリング値θ(n)は、下式(16)に示すように定義される。
次に、仮想制御量算出部48について説明する。この仮想制御量算出部48は、第1および第2仮想制御入力V1,V2と、上記オーバーサンプリング値θ(n)とに応じて、仮想制御量Ymを算出するものであり、図15に示すように、基本仮想制御量算出部48a、非線形重み関数行列算出部48b、モデル修正係数算出部48cおよび乗算器48dを備えている。
まず、基本仮想制御量算出部48aでは、第1および第2仮想制御入力V1,V2を、図16に示す制御対象モデルに入力することにより、基本仮想制御量Ym_nm(n)が算出される。この図16の制御対象モデルは、前述した図6の制御対象モデルにおいて、図示平均有効圧Pmiを基本仮想制御量Ym_nmに置き換え、吸気開角θlinを第1仮想制御入力V1に置き換え、排気再開角θrblの3つの所定値θrbl1〜3を、第2仮想制御入力V2の3つの所定値V2_1〜V2_3にそれぞれ置き換えたものであり、図6の制御対象モデルと実質的に同じものである。なお、本実施形態では、基本仮想制御量Ym_nmが制御対象モデルの制御量に相当する。
また、非線形重み関数行列算出部48bでは、前述した非線形重み関数行列算出部62と同様の手法により、非線形重み関数行列W_mod(V1(n),V2(n))が算出される。この非線形重み関数行列W_mod(V1(n),V2(n))は、下式(17)に示すように定義される。
上式(17)に示すように、この非線形重み関数行列W_mod(V1(n),V2(n))は、非線形重み関数Wij(V1(n),V2(n))の値を要素とする(I+1)行(J+1)列の行列であり、この非線形重み関数Wij(V1,V2)は、図17に示すように、第1および第2仮想制御入力V1,V2の値に応じて、その値が決定される関数である。
この図17のマップは、前述した図10のマップにおいて、非線形重み関数Wij(θlin,θrbl)を非線形重み関数Wij(V1,V2)に置き換えるとともに、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblを第1および第2仮想制御入力V1,V2にそれぞれ置き換えたものであり、図10のマップと実質的に同じものである。したがって、非線形重み関数Wij(V1,V2)の値は、前述したように、第1および第2仮想制御入力V1,V2の値に応じて、図17のマップを検索することにより算出される。
次に、モデル修正係数算出部48cでは、下式(18)により、モデル修正係数Ym_mod(n)が算出される。
上式(18)において、Ym_baseは所定の基本値であり、前述した基本値Yid_baseと同じ理由により、値1に設定されている。上式(18)に示すように、モデル修正係数Ym_mod(n)は、非線形重み関数行列W_mod(V1(n),V2(n))とモデル修正パラメータ行列のオーバーサンプリング値θ(n)を、対応する要素毎に乗算するとともに、それらの乗算値の和を基本値Ym_baseに加算することにより、算出される。
そして、乗算器48dでは、下式(19)により、仮想制御量Ymが算出される。
上式(19)に示すように、仮想制御量Ymは、基本仮想制御量Ym_nmにモデル修正係数Ym_modを乗算することにより算出される。すなわち、モデル修正係数Ym_modによって基本仮想制御量Ym_nmを修正することになり、これは結果的に図16の制御対象モデルを修正することになる。この場合、修正された制御対象モデルは、第1および第2仮想制御入力V1,V2を制御入力とし、仮想制御量Ymを制御量とするものに相当する。このように、モデル修正係数Ym_modは、図16の制御対象モデルを修正するための値として算出される。
以上のように、仮想制御量算出部48では、モデル修正係数Ym_mod(n)が、モデル修正パラメータ行列のオーバーサンプリング値θ(n)と、非線形重み関数行列W_mod(V1,V2)との対応する要素毎の積の和を、基本値Ym_baseに加算することにより算出されるとともに、このモデル修正係数Ym_mod(n)によって、図16の制御対象モデルが修正される。このモデル修正係数Ym_mod(n)は、その算出周期以外は、前述したモデル修正係数Yid_mod(k)と同じ手法により算出され、その意味も同じものである。これに加えて、図16の制御対象モデルは、図6の制御対象モデルすなわち図9の制御対象モデルと実質的に同じものである。
したがって、仮想制御量算出部48では、上記のように算出されたモデル修正係数Ym_modによって、図16の制御対象モデルを、2つの値V1(n),V2(n)の組み合わせが存在する領域に関して、Ym=Pmiとなるように修正することになり、その結果、モデル修正係数Ym_modによって、図16の制御対象モデルが、実際の制御対象の特性に合致するようにオンボードで修正されることになる。
図13に戻り、同図のハイパスフィルタ49では、下式(20)に示すハイパスフィルタリング処理により、仮想制御量のフィルタリング値Ymfを算出する。
上式(20)において、b0〜bm*およびa0〜ak*は、所定のフィルタ係数であり、m*,k*は、所定の整数である。
一方、ハイパスフィルタ50,51で、下式(21),(22)に示すハイパスフィルタリング処理により、第1および第2周期信号値のフィルタリング値Sf1,Sf2をそれぞれ算出する。
次に、乗算器52,53で、仮想制御量のフィルタリング値Ymfと第1および第2周期信号値のフィルタリング値Sf1,Sf2を乗算することにより、乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2をそれぞれ算出する。そして、第1および第2応答指標算出部54,55で、上記乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2のh+1(h=Crs_max)個の時系列データに基づき、下式(23),(24)により、第1および第2応答指標RI1,RI2をそれぞれ算出する。
ここで、上式(23),(24)のKr1,Kr2はいずれも、応答ゲイン修正係数であり、ハイパスフィルタ50,51によるゲインの減衰特性の影響を修正し、2つの乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2の間のゲインを合わせるためのものである。
以上のように、このオンボードモデル解析器40では、第1および第2周期信号値のフィルタリング値と仮想制御量のフィルタリング値の乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2の時系列データの和に、応答ゲイン修正係数Kr1,Kr2をそれぞれ乗算することにより、第1および第2応答指標RI1,RI2が算出されるので、これらの値RI1,RI2はそれぞれ、第1周期信号値S1と仮想制御量Ymの相互相関関数、および第2周期信号値S2と仮想制御量Ymの相互相関関数に近い値として算出される。すなわち、第1応答指標RI1は、第1周期信号値S1と仮想制御量Ymの間の相関性を表すものとして算出され、第2応答指標RI2は、第2周期信号値S2と仮想制御量Ymの間の相関性を表すものとして算出される。
ここで、第1仮想制御入力V1に含まれる吸気開角θlinは、後述するように、その算出周期ΔTkが第1応答指標RI1の算出周期ΔTnよりもかなり長いものであるため、第1応答指標RI1の方が、仮想制御量Ymに反映される度合が極めて大きく、吸気開角θlinの方は定常成分となり、ほとんど仮想制御量Ymに反映されないことになる。したがって、第1応答指標RI1は、吸気開角θlinと図示平均有効圧Pmiの間の相関性を表すものとして算出される。より具体的には、第1応答指標RI1は、その絶対値が、両者の間の相関性が高いほど、より大きい値となり、相関性が低いほど、値0により近い値となるとともに、両者の間の相関関係が、正相関および逆相関の一方から他方に変化したときには、符号が反転するものとなる。
また、仮想制御入力V2に含まれる排気再開角θrblも、後述するように、その算出周期ΔTkが第1応答指標RI1の算出周期ΔTnよりもかなり長いものであるので、上記と同じ理由により、第2応答指標RI2は、排気再開角θrblと図示平均有効圧Pmiの間の相関性を表すものとして算出される。より具体的には、第2応答指標RI2は、
その絶対値が、両者の間の相関性が高いほど、より大きい値となり、相関性が低いほど、値0により近い値となるとともに、両者の間の相関関係が、正相関および逆相関の一方から他方に変化したときには、符号が反転するものとなる。
さらに、第1および第2周期信号値のフィルタリング値Sf1,Sf2と仮想制御量のフィルタリング値Ymfを用いる理由は、以下による。すなわち、上述したように、第1仮想制御入力V1に含まれる吸気開角θlinは、その算出周期ΔTkが仮想制御入力V1の算出周期ΔTnよりもかなり長く、定常成分となることで、第1応答指標RI1の算出誤差となる可能性がある。したがって、定常成分としての吸気開角θlinを仮想制御量Ymから除去するために、仮想制御量Ymにハイパスフィルタリング処理を施した値Ymfを用いるとともに、これとの位相を合わせるために、第1周期信号値S1に同じハイパスフィルタリング処理を施した値Sf1を用いる。これと同様に、定常成分としての排気再開角θrblを仮想制御量Ymから除去するために、仮想制御量Ymにハイパスフィルタリング処理を施した値Ymfを用いるとともに、これとの位相を合わせるために、第2周期信号値S2に同じハイパスフィルタリング処理を施した値Sf2を用いる。さらに、第1応答指標RI1と第2応答指標RI2の間でゲインを合わせるために、応答ゲイン修正係数Kr1,Kr2を用いる。
次に、前述した協調コントローラ30について説明する。この協調コントローラ30は、前述したモデル修正器60と同じ制御周期ΔTkで、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblを算出するものであり、図18に示すように、減算器31、誤差分配器32、2つのダウンサンプラ33,34および2つの応答指定型コントローラ35,36を備えている。
この協調コントローラ30では、減算器31で、追従誤差Eを下式(25)により算出する。
一方、ダウンサンプラ33,34で、オンボードモデル解析器40により前述した制御周期ΔTnで算出された第1および第2応答指標RI1(n),RI2(n)を、制御周期ΔTkでダウンサンプリングすることにより、第1および第2応答指標のダウンサンプリング値RI1(k),RI2(k)をそれぞれ算出する。
次いで、誤差分配器32で、下式(26),(27)により、第1および第2分配誤差Ed1,Ed2をそれぞれ算出する。
上式(26),(27)に示すように、第1および第2分配誤差Ed1,Ed2は、追従誤差Eを、第1応答指標の絶対値|RI1|と第2応答指標の絶対値|RI2|の比に応じてそれぞれ分配した値として算出される。なお、後述する制御処理では、|RI1|の値は、RI1=0のときにEd1=0となるのを回避するために、値0に近い所定値(例えば0.01)に下限リミット処理される。これと同様に、|RI2|の値も、RI2=0ときにEd2=0となるのを回避するために、値0に近い所定値(例えば0.01)に下限リミット処理される。
さらに、応答指定型コントローラ35では、第1分配誤差Ed1および第1応答指標RI1に基づき、下式(28)〜(32)に示す応答指定型制御アルゴリズムにより、吸気開角θlinが算出される。すなわち、吸気開角θlinは、第1分配誤差Ed1を値0に収束させるような値として算出される。
上式(28)のUrch1は、到達則入力であり、式(29)により算出される。同式(29)のKrch1は、所定の到達則ゲインであり、σ1は、式(31)により算出される切換関数である。同式(31)のSは、−1<S<0が成立するように設定される切換関数設定パラメータであり、Em1は、式(32)により算出される第1追従誤差である。同式(32)のRI1_maxは、第1応答指標の絶対値|RI1|が制御中に取りうる最大値を表しており、オフラインで予め設定された値を用いる。さらに、上式(28)のUadp1は、適応則入力であり、式(30)により算出される。同式(30)のKadp1は、所定の適応則ゲインである。なお、これらのゲインKrch1,Kadp1は、第1応答指標の絶対値|RI1|が最大値RI1_maxとなった際に、制御系が安定するような値に設定されている。
一方、応答指定型コントローラ36では、第2分配誤差Ed2および第2応答指標RI2に基づき、下式(33)〜(37)に示す応答指定型制御アルゴリズムにより、排気再開角θrblが算出される。すなわち、排気再開角θrblは、第2分配誤差Ed2を値0に収束させるような値として算出される。
上式(33)のUrch2は、到達則入力であり、式(34)により算出される。同式(34)のKrch2は、所定の到達則ゲインであり、σ2は、式(36)により算出される切換関数である。同式(36)のEm2は、式(37)により算出される第2追従誤差である。同式(37)のRI2_maxは、第2応答指標の絶対値|RI2|が制御中に取りうる最大値を表しており、オフラインで予め設定された値を用いる。さらに、上式(33)のUadp2は、適応則入力であり、式(35)により算出される。同式(35)のKadp2は、所定の適応則ゲインである。なお、これらのゲインKrch2,Kadp2は、第2応答指標の絶対値|RI2|が最大値RI2_maxとなった際に、制御系が安定するような値に設定されている。
以上のように、この協調コントローラ30では、応答指定型制御アルゴリズムにより、吸気開角θlinが第1分配誤差Ed1を値0に収束させるように算出されるとともに、排気再開角θrblが第2分配誤差Ed2を値0に収束させるように算出される。その結果、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblは、追従誤差Eを値0に収束させるように算出され、言い換えれば、図示平均有効圧Pmiをその目標値Pmi_cmdに収束させるように算出される。
その際、応答指定型制御アルゴリズムで用いられる第1および第2追従誤差Em1,Em2はそれぞれ、式(32),(37)に示すように、第1および第2分配誤差Ed1,Ed2に、値RI1/RI1_max,RI2/RI2_maxを乗算することにより算出されるので、第1応答指標RI1がその最大値RI1_maxに近づくほど、すなわち吸気開角θlinと図示平均有効圧Pmiの間の相関性が高くなるほど、制御入力としての吸気開角θlinの増減度合がより大きくなる。これと同様に、第2応答指標RI2がその最大値RI2_maxに近づくほど、すなわち排気再開角θrblと図示平均有効圧Pmiの間の相関性が高くなるほど、制御入力としての排気再開角θrblの増減度合がより大きくなる。以上のように、制御入力としての吸気開角θlinおよび排気再開角θrblに対する制御量としての図示平均有効圧Pmiの感度すなわち相関性が、制御入力θlin,θrblの値に応じて変化する場合でも、その相関性の変化に応じて制御入力θlin,θrblの増減度合を決定することができ、それにより、制御量Pmiを、振動的挙動や不安定挙動を生じることなく、目標値Pmi_cmdに収束するように制御することができる。すなわち、高レベルの制御の安定性を確保することができる。
また、第1および第2追従誤差Em1,Em2がそれぞれ、上述した式(32),(37)により算出されるので、第1および第2応答指標RI1,RI2の符号が反転すると、追従誤差Em1,Em2の符号も反転することで、制御入力としての吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの増減方向が反転することになる。すなわち、増大方向から減少方向に反転するか、または減少方向から増大方向に反転することになる。
この場合、前述したように、第1応答指標RI1は、吸気開角θlinと図示平均有効圧Pmiの間の相関性を表すとともに、両者の間の相関関係が、正相関および逆相関の一方から他方に変化したときには、符号が反転するものであるので、そのような相関関係の変化に応じて、吸気開角θlinの増減方向を反転させることにより、例えば、吸気開角θlinの変化に対して、図示平均有効圧Pmiが極大値を示すことがあり、かつ図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdがその極大値よりも大きい値に設定されたときでも、図示平均有効圧Pmiをその極大値付近に保持することができる。
これと同様に、第2応答指標RI2は、排気再開角θrblと図示平均有効圧Pmiの間の相関性を表すとともに、両者の間の相関関係が、正相関および逆相関の一方から他方に変化したときには、符号が反転するものであるので、そのような相関関係の変化に応じて、排気再開角θrblの増減方向を反転させることにより、前述したように、排気再開角θrblの変化に対して、図示平均有効圧Pmiが極大値を示す本実施形態の場合、図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdがその極大値よりも大きい値に設定されたときでも、図示平均有効圧Pmiをその極大値付近に保持することができる。
さらに、第1および第2分配誤差Ed1,Ed2が、追従誤差Eを、第1応答指標の絶対値|RI1|と第2応答指標の絶対値|RI2|の比に応じてそれぞれ分配した値として算出されるとともに、これらの第1および第2分配誤差Ed1,Ed2を値0にそれぞれ収束させるように、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblが算出されるので、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの増減度合は、上記絶対値の比が大きい方すなわち図示平均有効圧Pmiとの相関性のより高い方が、より大きい度合に設定されることになる。このように、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblのうちの、図示平均有効圧Pmiとの相関性の高い方がより大きい増減度合に設定されるとともに、図示平均有効圧Pmiとの相関性の低い方がより小さい増減度合に設定されることになるので、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの間の相互干渉を回避しながら、図示平均有効圧Pmiをその目標値Pmi_cmdに精度よく収束させることができる。
次に、図19を参照しながら、ECU2により実行される第1および第2応答指標RI1,RI2の算出処理について説明する。この処理は、前述したオンボードモデル解析器40での算出処理に相当するものであり、前述した制御周期ΔTnで実行される。
この処理では、まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)で、カウンタ値Crsを、その前回値Crszに値1を加算した値(Crsz+1)に設定する。すなわち、カウンタ値Crsを値1インクリメントする。
次いで、ステップ2に進み、ステップ1で算出したカウンタ値Crsが最大値Crs_max以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、そのままステップ4に進む。一方、この判別結果がYESのときには、ステップ3で、カウンタ値Crsを値0にリセットした後、ステップ4に進む。
ステップ2または3に続くステップ4では、RAM内に記憶されている吸気開角θlin、排気再開角θrblおよびモデル修正パラメータ行列θの値を読み込む。この場合、これらの値θlin,θrbl,θは、前述した制御周期ΔTkで算出されるのに対して、このステップ4は、制御周期ΔTkよりも短い制御周期ΔTnで実行される。そのため、ステップ4の処理は、吸気開角θlin、排気再開角θrblおよびモデル修正パラメータ行列θのオーバーサンプリング値θlin(n),θrbl(n),θ(n)をそれぞれ算出することに相当する。
次いで、ステップ5に進み、カウンタ値Crsに応じて、前述した図14のマップを検索することにより、第1および第2周期信号値の基本値S1’,S2’をそれぞれ算出する。
その後、ステップ6で、前述した式(12),(13)により、第1および第2周期信号値S1,S2をそれぞれ算出し、次いで、ステップ7で、前述した式(14),(15)により、第1および第2仮想制御入力V1,V2をそれぞれ算出する。
ステップ7に続くステップ8では、ステップ7で算出した第1および第2仮想制御入力V1,V2を、前述した図16の制御対象モデルに入力することにより、基本仮想制御量Ym_nmを算出する。その後、ステップ9に進み、第1および第2仮想制御入力V1,V2に応じて、前述した図17のマップを検索することにより、非線形重み関数行列W_modを算出する。
次いで、ステップ10で、上記非線形重み関数行列W_modおよびステップ4で読み込んだモデル修正パラメータ行列θを用い、前述した式(18)により、モデル修正係数Ym_modを算出する。次に、ステップ11に進み、前述した式(19)により、仮想制御量Ymを算出する。
ステップ11に続くステップ12では、前述した式(20)により、仮想制御量のフィルタリング値Ymfを算出する。その後、ステップ13で、前述した式(21),(22)により、第1および第2周期信号値のフィルタリング値Sf1,Sf2をそれぞれ算出する。
次に、ステップ14に進み、上記ステップ12で算出した仮想制御量のフィルタリング値Ymfに、上記ステップ13で算出した第1および第2周期信号値のフィルタリング値Sf1,Sf2をそれぞれ乗算することにより、2つの乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2を算出する。
その後、ステップ15で、上記ステップ14で算出した乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2と、前回以前のループで算出されかつRAM内に記憶されているh個の乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2の時系列データとを用い、前述した式(23),(24)により、第1および第2応答指標RI1,RI2をそれぞれ算出する。
次いで、ステップ16に進み、RAM内に記憶されているh個の乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2の時系列データを更新する。具体的には、RAM内の乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2の各々の値を1制御サイクル分、前の値としてセットする(例えば、今回値Ymf(n)・Sf1(n)を前回値Ymf(n−1)・Sf1(n−1)として、前回値Ymf(n−1)・Sf1(n−1)を前々回値Ymf(n−2)・Sf1(n−2)としてそれぞれセットする)。その後、本処理を終了する。
次に、図20を参照しながら、ECU2により前述した制御周期ΔTkで実行されるモデル修正パラメータ行列θの算出処理について説明する。この処理は、前述したモデル修正器60での算出処理に相当するものである。
図20に示すように、この処理では、まず、ステップ20で、RAM内に記憶されている吸気開角の前回値θlin(k−1)および排気再開角の前回値θrbl(k−1)を、前述した図9の制御対象モデルに入力することにより、基本推定制御量Yid_nmを算出する。
次いで、ステップ21に進み、吸気開角の前回値θlin(k−1)および排気再開角の前回値θrbl(k−1)に応じて、前述した図10のマップを検索することにより、非線形重み関数行列W_modを算出する。次に、ステップ22で、非線形重み関数行列W_modおよびRAMに記憶されているモデル修正パラメータ行列の前回値θ(k−1)を用い、前述した式(3)により、モデル修正係数Yid_modを算出する。
ステップ22に続くステップ23では、ステップ20で算出された基本推定制御量Yid_nmと、ステップ22で算出されたモデル修正係数Yid_modを用い、前述した式(4)により、修正修正制御量Yidを算出する。その後、ステップ24で、図示平均有効圧Pmiを筒内圧センサ24の検出信号に基づき算出する。
次いで、ステップ25に進み、ステップ23,24で算出された修正修正制御量Yidおよび図示平均有効圧Pmiを用い、前述した式(5)により、推定誤差Eidを算出する。その後、ステップ26で、ステップ21で算出された非線形重み関数行列W_modおよびステップ25で算出された推定誤差Eidを用い、前述した式(6)により、修正同定誤差行列Emdを算出する。
次に、ステップ26に進み、前述した式(7)〜(11)により、モデル修正パラメータ行列θを算出した後、本処理を終了する。
以下、図21を参照しながら、ECU2により前述した制御周期ΔTkで実行される可変動弁機構の制御処理について説明する。この処理は、吸気可変動弁機構4および排気可変動弁機構5をそれぞれ制御することで、図示平均有効圧Pmiを制御するものであり、前述した協調コントローラ30での算出処理に相当する内容を含むとともに、前述した図20のモデル修正パラメータ行列θの算出処理に続けて実行される。
この処理では、まず、ステップ30で、可変機構故障フラグF_VDNGが「1」であるか否かを判別する。この可変機構故障フラグF_VDNGは、図示しない判定処理において、2つの可変動弁機構4,5の少なくとも一方が故障していると判定されたときには「1」に、いずれも正常であると判定されたときには「0」にそれぞれ設定される。この判別結果がNOで、2つの可変機構がいずれも正常であるときには、ステップ31に進み、エンジン始動フラグF_ENGSTARTが「1」であるか否かを判別する。
このエンジン始動フラグF_ENGSTARTは、図示しない判定処理において、エンジン回転数NEおよびIG・SW26のON/OFF信号に応じて、エンジン始動制御中すなわちクランキング中であるか否かを判定することにより設定されるものであり、具体的には、エンジン始動制御中であるときには「1」に、それ以外のときには「0」にそれぞれ設定される。
ステップ31の判別結果がYESで、エンジン始動制御中であるときには、ステップ32に進み、エンジン水温TWに応じて、図22に示すマップを検索することにより、吸気開角θlinを算出する。
このマップでは、吸気開角θlinは、エンジン水温TWが所定値TW1より高い範囲では、エンジン水温TWが低いほど、より大きな値に設定されているとともに、TW≦TW1の範囲では、所定値θlin_stに設定されている。これは、エンジン水温TWが低い場合、エンジン3のフリクションが増大するので、それを補償するためである。
次いで、ステップ33に進み、エンジン水温TWに応じて、図23に示すマップを検索することにより、排気再開角θrblを算出する。同図において、TW2,TW3は、TW2<TW3の関係が成立するエンジン水温TWの所定値を示している。
このマップでは、排気再開角θrblは、TW<TW2の範囲では、値0に設定され、TW2≦TW≦TW3の範囲では、エンジン水温TWが低いほど、より大きな値に設定されているとともに、TW3<TWの範囲では、所定値θrbl_stに設定されている。これは、エンジン水温TWが高い状態での再始動時には、排ガス特性の向上を目的として、エンジン3を圧縮着火燃焼で始動すべく、排気弁5aを吸気行程で再開弁させるためである。
次に、ステップ34に進み、ステップ32で算出した吸気開角θlinに基づき、吸気ソレノイド4bへの制御入力U_linを算出するとともに、ステップ33で算出した排気再開角θrblに基づき、排気ソレノイド5bへの制御入力U_rblを算出する。これにより、吸気弁4aが吸気開角θlinで開弁するように制御されるとともに、排気弁5aが吸気行程中にも排気再開角θrblで再開弁するように制御される。その後、本処理を終了する。
一方、ステップ31の判別結果がNOで、エンジン始動制御中でないときには、ステップ35に進み、アクセル開度APが所定値APREFより小さいか否かを判別する。この所定値APREFは、アクセルペダルが踏まれていないことを判別するためのものであり、アクセルペダルが踏まれていないことを判別可能な値(例えば1゜)に設定されている。
この判別結果がYESで、アクセルペダルが踏まれていないときには、ステップ36に進み、始動後タイマの計時値Tastが所定値Tastlmtより小さいか否かを判別する。この始動後タイマは、エンジン始動制御終了後の経過時間を計時するものであり、アップカウント式のタイマで構成されている。
この判別結果がYESで、Tast<Tastlmtのときには、触媒暖機制御を実行すべきであるとして、ステップ37に進み、吸気開角θlinを、始動後タイマの計時値Tastおよびエンジン水温TWに応じて、図24に示すマップを検索することにより算出する。同図において、TW4〜TW6は、TW4<TW5<TW6の関係が成立するエンジン水温TWの所定値を示している。
このマップでは、吸気開角θlinは、エンジン水温TWが低いほど、より大きな値に設定されている。これは、エンジン水温TWが低いほど、触媒の活性化に要する時間が長くなるので、排ガスボリュームを大きくすることで、触媒の活性化に要する時間を短縮するためである。
次に、ステップ38で、排気再開角θrblを、始動後タイマの計時値Tastおよびエンジン水温TWに応じて、図25に示すマップを検索することにより算出する。同図において、TW7〜TW9は、TW7<TW8<TW9の関係が成立するエンジン水温TWの所定値を示しており、Tast1〜Tast4は、Tast1<Tast2<Tast3<Tast4の関係が成立する計時値Tastの所定値を示している。
このマップでは、排気再開角θrblは、始動後タイマの計時値Tastが所定の範囲(Tast1〜Tast2、Tast1〜Tast3またはTast1〜Tast4)内にあるときには、値0に設定され、計時値Tastがその範囲を超えた値であるときには、計時値Tastが大きいほど、より大きい値に設定されている。これは、以下の理由による。すなわち、圧縮着火燃焼運転中は、火花点火燃焼運転中と比べて、効率が高くなり、排ガスの熱エネルギが低くなってしまう。そのため、触媒暖機制御の開始時は、エンジン3が火花点火燃焼運転されるので、吸気行程中での排気弁5aの再開弁動作を中止するとともに、触媒暖機制御が進行するのに伴って、エンジン3を火花点火燃焼運転から圧縮着火燃焼運転に復帰させるべく、吸気行程中での排気弁5aの再開弁動作を再開するためである。また、排気再開角θrblが値0に設定される範囲は、エンジン水温TWが低いほど、より大きな範囲に設定されている。これは、エンジン水温TWが低いほど、排ガス温度が低くなることで、触媒を暖機するのに要する時間が長くなることによる。
次いで、前述したようにステップ34を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ35または36の判別結果がNOのとき、すなわちアクセルペダルが踏まれているとき、またはTast≧Tastlmtであるときには、ステップ39に進み、図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdを、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、図26に示すマップを検索することにより算出する。同図において、AP1〜AP3は、AP1<AP2<AP3の関係が成立するアクセル開度APの所定値を示している。
このマップでは、図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdは、エンジン回転数NEが高いほど、またはアクセル開度APが大きいほど、より大きい値に設定されている。これは、エンジン回転数NEが高いほど、またはアクセル開度APが大きいほど、エンジン3に要求される発生トルクがより大きくなることによる。
次いで、ステップ40に進み、RAM内に記憶されている第1および第2応答指標RI1,RI2の値を読み込む。この場合、前述したように、第1および第2応答指標RI1,RI2は、本処理の制御周期ΔTkよりも短い制御周期ΔTnで算出されるので、このステップ40の処理は、第1および第2応答指標RI1,RI2のダウンサンプリング値RI1(k),RI2(k)を算出することに相当する。
ステップ40に続くステップ41では、前述した式(25),(26),(28)〜(32)により、吸気開角θlinを算出するとともに、前述した式(25),(27),(33)〜(37)により、排気再開角θrblを算出する。その際、式(26)の|RI1|の値は、RI1=0のときにEd1=0となるのを回避するために、値0に近い所定値(例えば0.01)に下限リミット処理される。これと同様に、式(27)の|RI2|の値も、RI2=0ときにEd2=0となるのを回避するために、値0に近い所定値(例えば0.01)に下限リミット処理される。次いで、前述したようにステップ34を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ30の判別結果がYESで、2つの可変動弁機構4,5の少なくとも1つが故障しているときには、ステップ42に進み、吸気ソレノイド4bおよび排気ソレノイド5bへの制御入力U_lin,U_rblをそれぞれ、所定の故障時用値U_lin_fs,U_rbl_fsに設定した後、本処理を終了する。これにより、停車中はアイドル運転やエンジン始動が適切に実行されると同時に、走行中は低速走行状態が維持される。
以上のように、第1実施形態の制御装置1によれば、オンボードモデル解析器40により、第1応答指標RI1は、吸気開角θlinと図示平均有効圧Pmiの間の相関性を表すものとして算出され、より具体的には、両者の間の相関性が高いほど、第1応答指標RI1の絶対値がより大きい値を示すとともに、両者の間の相関関係が、正相関および逆相関の一方から他方に変化したときには、符号が反転するものとなる。これと同様に、第2応答指標RI2は、排気再開角θrblと図示平均有効圧Pmiの間の相関性を表すものとして算出され、より具体的には、両者の間の相関性が高いほど、第2応答指標RI2の絶対値がより大きい値を示すとともに、両者の間の相関関係が、正相関および逆相関の一方から他方に変化したときには、符号が反転するものとなる。
一方、協調コントローラ30では、応答指定型制御アルゴリズムにより、図示平均有効圧Pmiをその目標値Pmi_cmdに収束させるように、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblがそれぞれ算出される。その際、応答指定型制御アルゴリズムで用いられる第1および第2追従誤差Em1,Em2はそれぞれ、第1および第2分配誤差Ed1,Ed2に、値RI1/RI1_max,RI2/RI2_maxを乗算することにより算出されるので、第1応答指標RI1がその最大値RI1_maxに近づくほど、すなわち吸気開角θlinと図示平均有効圧Pmiの間の相関性が高くなるほど、制御入力としての吸気開角θlinの増減度合がより大きくなる。これと同様に、第2応答指標RI2がその最大値RI2_maxに近づくほど、すなわち排気再開角θrblと図示平均有効圧Pmiの間の相関性が高くなるほど、制御入力としての排気再開角θrblの増減度合がより大きくなる。以上のように、制御入力としての吸気開角θlinおよび排気再開角θrblに対する制御量としての図示平均有効圧Pmiの感度すなわち相関性が、制御入力θlin,θrblの値に応じて変化する場合でも、その相関性の変化に応じて制御入力θlin,θrblの増減度合を決定することができ、それにより、制御量Pmiを、振動的挙動や不安定挙動を生じることなく、目標値Pmi_cmdに収束するように制御することができる。すなわち、高レベルの制御の安定性を確保することができる。
また、第1および第2追従誤差Em1,Em2が前述した式(32),(37)により算出されるので、第1および第2応答指標RI1,RI2の符号が反転すると、追従誤差Em1,Em2の符号も反転することで、制御入力としての吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの増減方向が反転することになる。すなわち、増大方向から減少方向に反転するか、または減少方向から増大方向に反転することになる。
したがって、本実施形態のように、排気再開角θrblの変化に対して、図示平均有効圧Pmiが極大値を示す場合、図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdがその極大値よりも大きい値に設定されたときでも、図示平均有効圧Pmiをその極大値付近に保持することができる。すなわち、極値特性を有する制御対象を制御する場合でも、高レベルの制御の安定性および制御精度をいずれも確保することができる。
さらに、第1および第2分配誤差Ed1,Ed2が、追従誤差Eを、第1応答指標の絶対値|RI1|と第2応答指標の絶対値|RI2|の比に応じてそれぞれ分配した値として算出されるとともに、これらの第1および第2分配誤差Ed1,Ed2を値0にそれぞれ収束させるように、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblが算出されるので、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの増減度合は、上記絶対値の比が大きい方、すなわち図示平均有効圧Pmiとの相関性のより高い方が、より大きい度合に設定されることになる。このように、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblのうちの、図示平均有効圧Pmiとの相関性の高い方がより大きい増減度合に設定されるとともに、図示平均有効圧Pmiとの相関性の低い方がより小さい増減度合に設定されることになるので、制御入力としての吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの間の相互干渉を回避し、これらの2つの制御入力を互いに協調させながら、図示平均有効圧Pmiをその目標値Pmi_cmdに精度よく収束させることができる。すなわち、多入力多出力系の制御対象を制御する場合でも、高レベルの制御の安定性および制御精度をいずれも確保することができる。
また、モデル修正器60では、図9の制御対象モデルが実際の制御対象の特性に合致するように、モデル修正パラメータ行列θがオンボードで算出され、さらに、オンボードモデル解析器40の仮想制御量算出部48では、そのように算出されたモデル修正パラメータ行列θを用い、図9の制御対象モデルと実質的に同じものである図16の制御対象モデルが、実際の制御対象の特性に合致するようにオンボードで修正されるので、エンジン3の個体間のばらつきや経年変化などに起因して、モデル化誤差が発生した場合でも、そのモデル化誤差を迅速に補償することができ、第1および第2応答指標RI1,RI2の算出精度を向上させることができる。
さらに、モデル修正パラメータ行列θの要素θijは、連続する3つの吸気開角θlin_iの値と、連続する3つの排気再開角θrbl_jの値との組み合わせで規定される複数の領域に対応してそれぞれ設定されているとともに、前述したように、式(7)〜(11)に示すスライディングモード制御アルゴリズムより、2つの値θlin(k−1),θrbl(k−1)の組み合わせが存在する領域に対応する要素θijのみが、推定誤差Eidが値0に収束するように算出され(すなわち修正推定制御量Yidが図示平均有効圧Pmiに収束するように算出され)、それ以外の要素θijは値0として算出される。したがって、モデル化誤差が複数の領域間で異なる場合でも、モデル修正パラメータ行列θを用いて、制御対象モデルを領域毎に修正することができる。その結果、エンジン3のように、制御対象モデルを漸化式で表すことができない制御対象の場合でも、制御対象の個体間のばらつきや経年変化などに起因して、モデル化誤差が発生したときに、そのモデル化誤差を補償することができ、モデル化誤差に対するロバスト性を向上させることができる。
これに加えて、モデル修正パラメータ行列θがスライディングモード制御アルゴリズムより算出されるので、エンジン3のように、制御対象モデルを漸化式で表すことができない制御対象の場合でも、モデル修正パラメータ行列θを、振動的な挙動またはオーバーシュートなどの不安定な挙動が生じることのない値として算出できるとともに、そのように算出されたモデル修正パラメータ行列θを用いて、制御対象モデルをオンボードで修正しながら、エンジン3を制御することができる。その結果、制御系の過渡応答が振動的または不安定な状態になるのを回避でき、過渡時の制御精度を向上させることができる。
また、制御対象モデルがモデル修正係数Ym_modにより修正されるとともに、このモデル修正係数Ym_modは、モデル修正パラメータ行列θと、非線形重み関数行列W_modとにおける対応する要素毎の積の和に、基本値Ym_baseを加算することにより算出される。この非線形重み関数行列W_modの要素である非線形重み関数Wijは、複数の領域における第1および第2仮想制御入力V1,V2に対して、複数の領域の各々の中心付近において最大値1を示しかつ平面状に変化すると同時に領域以外では値0を示す特性をそれぞれ有しているとともに、互いにオーバーラップする各2つの領域に対応する各2つの非線形重み関数Wijは、平面状に変化する部分で交差するように設定されている。したがって、モデル修正係数Ym_modで制御対象モデルを修正する際、第1および第2仮想制御入力V1,V2における複数の領域に対して連続的に修正できることで、修正された制御対象モデルが不連続点を有することがなくなる。それにより、制御系の過渡応答が、制御対象モデルの不連続点に起因して一時的に不適切な状態になるのを回避でき、過渡時の制御精度をさらに向上させることができる。
さらに、モデル修正パラメータ行列θの算出に用いるスライディングモード制御アルゴリズムでは、適応則入力行列θadpの算出式(10)において、忘却係数λが適応則入力行列の前回値θadp(k−1)に乗算されているので、修正推定誤差行列Emdの各要素がほぼ値0に収束した時点では、適応則入力行列θadpの各要素がほぼ値0に収束することになる。その結果、モデル修正パラメータ行列θにおける推定誤差の残留を回避できることで、モデル修正パラメータ行列θを適切な値に算出でき、その算出精度を向上させることができるとともに、制御系の安定性を向上させることができる。
また、前述したように、制御入力としての吸気開角θlinおよび排気再開角θrbl間の相互干渉を抑制し、これらの制御入力を互いに協調させながら、図示平均有効圧Pmiを目標値Pmi_cmdに精度よく収束させることができるので、複数の制御入力間の相互干渉を回避するための、多くの条件設定を用いた制御プログラムの作成やデータ設定を行う必要がなくなることで、エンジン3の開発に要する時間を短縮できる。これに加えて、同じ理由により、制御プログラムおよびデータ設定の増大に伴うバグおよび設定ミスを回避できることで、制御プログラムの作成精度を向上させることができるとともに、作成時間を短縮することができる。
なお、第1実施形態は、所定の第1制御アルゴリズムとして、式(28)〜(37)の応答指定型制御アルゴリズムを用いた例であるが、本願発明の所定の第1制御アルゴリズムはこれに限らず、制御対象の制御量をその目標値に収束させることができるとともに、制御入力の増減度合および/または増減方向を相関性パラメータに応じて決定するものであればよい。例えば、所定の第1制御アルゴリズムとして、PID制御アルゴリズムなどの一般的なフィードバック制御アルゴリズムを用いてもよい。
また、第1実施形態は、所定の第2制御アルゴリズムとして、式(7)〜(11)のスライディングモード制御アルゴリズムを用いた例であるが、本願発明の所定の第2制御アルゴリズムはこれに限らず、制御対象モデルの制御量が制御対象の制御量に一致するように、修正パラメータを算出できるものであればよい。例えば、所定の第2制御アルゴリズムとして、PID制御アルゴリズムなどの一般的なフィードバック制御アルゴリズムや、バックステッピング制御アルゴリズムなどの、スライディングモード制御アルゴリズム以外の応答指定型制御アルゴリズムを用いてもよい。
さらに、第1実施形態は、本願発明の複数の修正パラメータに乗算される複数の関数として、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの組み合わせで区分された複数の領域に対して、四角錐の斜面状に変化する非線形重み関数Wijを用いた例であるが、本願発明の複数の関数はこれに限らず、複数の複数の領域の各々の中心付近において最大値を示しかつ平面状または曲面状に変化する特性をそれぞれ有するとともに、互いにオーバーラップする2つの領域に対応する関数が、平面状または曲面状に変化する部分で交差するものであればよい。より好ましくは、互いにオーバーラップしている部分の2つの関数値の和が最大値と同じ値を示すものや、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblのどのような組み合わせの値に対して、それに対応する2つの関数値の和が最大値と同じ値を示すものであればよい。
例えば、2つの値θlin,θrblに対して、四角錐の4つの斜面に連続して四角柱の4つの側面状に変化するように設定された関数や、2つの値θlin,θrblに対して、四角錐の4つの斜面に連続して末広がりの六面体の4つの斜面状に変化するように設定された関数などを用いてもよい。また、2つの値θlin,θrblに対して、曲面状に変化するように設定されたものを用いてもよい。
さらに、第1実施形態は、複数の関数として、その最大値が値1に設定されたものを用いた例であるが、本願発明の複数の関数はこれに限らず、その最大値が値1より大きく設定されたものや値1より小さく設定されたものを用いてもよい。
また、第1実施形態は、非線形重み関数Wijの算出用のマップとして、図10に示すような、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの変更範囲を均等に区分することで、複数の領域が規定されているものを用いた例であるが、非線形重み関数Wijの算出用のマップとして、複数の領域を規定する際、吸気開角θlinおよび排気再開角θrblの変更範囲を不均等に区分したものを用いてもよい。その場合には、複数の領域の各々の面積が互いに同じで、隣り合う2つの非線形重み関数Wijにおけるオーバーラップ部分の2つの関数の値が合わせて値1になるように設定されているものを用いればよい。
一方、第1実施形態は、相関性パラメータとして第1および第2応答指標RI1,RI2を用いた例であるが、相関性パラメータはこれに限らず、制御対象モデルにおける制御入力と制御量の間の相関性を表すものであればよい。例えば、2つの周期信号値のフィルタリング値Sf1,Sf2を仮想制御量のフィルタリング値Ymfに乗算することにより、h+1個の乗算値Ymf・Sf1,Ymf・Sf2の時系列データを算出し、これらの時系列データの移動平均値に応答ゲイン修正係数Kr1,Kr2をそれぞれ乗算することにより、相関性パラメータとしての応答指標RI1,RI2を算出してもよい。
また、第1実施形態は、本願発明の制御装置1を制御対象としての内燃機関3に適用した例であるが、本願発明の制御装置はこれに限らず、様々な産業機器に適用可能であり、特に、極値特性を有するものや、制御対象モデルを漸化式すなわち離散時間系モデルで表現できないものにも適用可能である。
さらに、第1実施形態は、制御対象モデルとして図6,9,16に示す制御対象モデルを用いた例であるが、本願発明の制御装置はこれに限らず、制御対象モデルとして、漸化式で表現できない様々な制御対象モデルを用いることが可能である。
次に、図27〜図36を参照しながら、本願発明の第2実施形態に係る制御装置1Aについて説明する。この制御装置1Aは、第1実施形態の制御装置1と比べて、図示平均有効圧Pmiの制御手法に関する構成のみが異なっているので、以下、その異なる点についてのみ説明する。
この制御装置1Aは、エンジン3が定常運転状態にあるときなどの、吸気開角θlinが一定に保持されている状態において、排気再開角θrblのみにより図示平均有効圧Pmiを制御するものであり、そのため、この制御装置1Aでは、第1実施形態の図6の制御対象モデルに代えて、図27に示す制御対象モデルが用いられる。同図に示すように、この制御対象モデルでは、図示平均有効圧Pmiは、排気再開角θrblの増減に対して極大値を示すように設定されている。このように図示平均有効圧Pmiが設定されている理由は、図6の説明で述べた理由と同じである。
この制御装置1Aは、図28に示すように、目標値算出部129、コントローラ130、オンボードモデル解析器140およびモデル修正器160を備えており、これらはいずれもECU2によって構成されている。
この目標値算出部129では、前述した目標値算出部29と同様に、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、前述した図26のマップを検索することにより、図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdが算出される。なお、本実施形態では、目標値算出部129が目標値算出手段に相当する。
また、コントローラ130では、後述するように、オンボードモデル解析器140によって算出された応答指標RIを用い、図示平均有効圧Pmiをその目標値Pmi_cmdに収束させるように、排気再開角θrblが算出される。なお、本実施形態では、コントローラ130が制御入力算出手段に相当する。
さらに、オンボードモデル解析器140では、後述するように、コントローラ130で算出された排気再開角θrblと、モデル修正器160で算出されたモデル修正パラメータベクトルθ’と、前述した制御対象モデルとを用い、応答指標RIが算出される。なお、本実施形態では、オンボードモデル解析器140が、相関性パラメータ算出手段およびモデル修正手段に相当し、応答指標RIが相関性パラメータに相当する。
一方、モデル修正器160では、以下に述べるように、モデル修正パラメータベクトルθ’が算出される。このモデル修正パラメータベクトルθ’は、下式(38)に示すように、J+1個のモデル修正パラメータθj(j=0〜J)を要素とする行ベクトルとして定義される。
なお、本実施形態では、モデル修正器160がモデル修正手段に相当し、モデル修正パラメータθjが複数の修正パラメータに相当する。
このモデル修正器160は、図29に示すように、基本推定制御量算出部161、非線形重み関数ベクトル算出部162、モデル修正係数算出部163、2つの乗算器164,166、減算器165およびモデル修正パラメータベクトル算出部167を備えている。
まず、基本推定制御量算出部161では、コントローラ130で算出された排気再開角の前回値θrbl(k−1)を、図30に示す制御対象モデルに入力することにより、基本推定制御量Yid_nm’(k)が算出される。この図30の制御対象モデルは、前述した図27の制御対象モデルにおいて、縦軸の「Pmi」を「Yid_nm’」に置き換えたもの、すなわち図27の制御対象モデルと実質的に同じものである。この基本推定制御量算出部161において、排気再開角の前回値θrbl(k−1)を用いるのは、前述した基本推定制御量算出部61の説明で述べた理由による。なお、本実施形態では、基本推定制御量Yid_nm’が制御対象モデルの制御量に相当する。
また、非線形重み関数ベクトル算出部162では、以下に述べるように、非線形重み関数ベクトルW_mod’(θrbl(k−1))が算出される。この非線形重み関数ベクトルW_mod’(θrbl(k−1))は、下式(39)に示すように、J+1個の非線形重み関数Wj(θrbl(k−1))の値を要素とする列ベクトルとして定義される。
この非線形重み関数Wjは、図31に示すように、排気再開角θrblの値に応じて、その値が決定される関数である。この図31のマップでは、非線形重み関数Wjは、排気可変動弁機構5による排気再開角θrblの変更範囲が、J+1個の値θrbl_j(j=0〜J)によって均等に区分されており、連続する3つの排気再開角θrbl_jの値で規定される複数の領域に対応してそれぞれ設定されている。なお、本実施形態では、非線形重み関数Wjが複数の関数に相当する。
また、この非線形重み関数Wjの各々は、対応する領域内における排気再開角θrblの値に対して、その領域の中心で最大値1を示し、中心以外では2等辺三角形の斜辺状に変化する値を示すとともに、領域外では値0を示す特性を有している。これに加えて、非線形重み関数Wjが対応する複数の領域では、隣り合う各2つの領域が互いにオーバーラップしており、それにより、隣り合う各2つの非線形重み関数Wjは、2等辺三角形の斜辺状に変化する部分で互いに交差している。
例えば、図31に示すように、θrbl_g-1≦θrbl≦θrbl_g+1の領域に対応する非線形重み関数Wgは、θrblがその領域の中心の値のとき(すなわちθrbl=θrbl_gのとき)に、最大値1を示し、中心以外のθrblの値に対しては、2等辺三角形の斜辺状に変化する値を示すように設定されている。さらに、非線形重み関数Wgは、θrblが領域外の値のとき、すなわちθrbl<θrbl_g-1またはθrbl_g+1<θrblのときには、値0を示すように設定されている。さらに、非線形重み関数Wgは、これと隣り合う2つの領域にそれぞれ対応する非線形重み関数Wg-1,Wg+1に対して、互いの領域がオーバーラップする部分すなわち斜辺状に変化する部分で、その斜辺同士が交差している。
したがって、図32に示すように、θrbl_yをθrbl_g-1とθrbl_gの間の中央の値とすると、θrbl=θrbl_yのときには、2つの非線形重み関数Wg-1,Wgの値は、Wg-1=Wg=0.5となるとともに、それら以外の非線形重み関数Wjの値はいずれも値0となる。これに加えて、θrbl_y<θrbl<θrbl_gのときには、非線形重み関数Wgの値は、0.5<Wg<1.0となり、非線形重み関数Wg-1の値は、1−Wgとなるとともに、それら以外の非線形重み関数Wjの値はいずれも値0となる。
以上のように、この非線形重み関数ベクトル算出部162では、排気再開角の前回値θrbl(k−1)の値に応じて、図31のマップを検索することにより、非線形重み関数ベクトルW_mod’(θrbl(k−1))の要素である非線形重み関数Wj(θrbl(k−1))の値がそれぞれ決定され、それにより、非線形重み関数ベクトルW_mod’(θrbl(k−1))が算出される。
また、モデル修正係数算出部163では、非線形重み関数ベクトル算出部162で以上のように算出された非線形重み関数ベクトルW_mod’(θrbl(k−1))と、後述するモデル修正パラメータベクトル算出部167で算出されたモデル修正パラメータベクトルの前回値θ’(k−1)を用い、下式(40)により、モデル修正係数Yid_mod’(k)が算出される。
上式(40)において、Yid_base’は所定の基本値で、本実施形態では値1に設定されており、その理由については後述する。式(40)に示すように、モデル修正係数Yid_mod’(k)は、非線形重み関数ベクトルW_mod’(θrbl(k−1))とモデル修正パラメータベクトルの前回値θ’(k−1)の内積を、基本値Yid_base’に加算することにより、算出される。
次いで、乗算器164で、下式(41)により修正推定制御量Yid’が算出される。このように、修正推定制御量Yid’は、基本推定制御量Yid_nm’にモデル修正係数Yid_mod’を乗算することにより算出されるので、モデル修正係数Yid_mod’で、図30の制御対象モデルを修正したことに相当する。
さらに、減算器165で、下式(42)により推定誤差Eid’が算出される。すなわち、推定誤差Eid’は、修正された制御対象モデルの制御量である修正モデル制御量Yid’と、実際の制御量である図示平均有効圧Pmiとの偏差として算出される。
一方、乗算器166で、下式(43)により修正推定誤差ベクトルEmd’が算出される。すなわち、修正推定誤差ベクトルEmd’は、推定誤差Eid’を非線形重み関数ベクトルW_mod’で修正することにより算出される。
さらに、モデル修正パラメータベクトル算出部167で、下式(44)〜(48)に示すスライディングモード制御アルゴリズムより、モデル修正パラメータベクトルθ’が算出される。
上式(44)に示すように、モデル修正パラメータベクトルθ’は、到達則入力ベクトルθrch’、非線形入力ベクトルθnl’および適応則入力ベクトルθadp’の和として算出され、この到達則入力ベクトルθrch’は、式(45)により算出される。この式(45)のQrch’は、所定の到達則ゲインであり、δ’は式(48)のように定義される切換関数である。同式(48)のR’は、−1<R’<0が成立するように設定される切換関数設定パラメータである。なお、本実施形態では、適応則入力ベクトルθadp’が積分値に相当し、切換関数δ’が偏差に基づく値に相当する。
また、非線形入力ベクトルθnl’は、式(46)により算出され、同式(46)のQnl’は、所定の非線形ゲインである。また、式(46)のsgn(δ’(k))は、符号関数であり、その値は、δ’(k)≧0のときにはsgn(δ’(k))=1となり、δ’(k)<0のときにはsgn(δ’(k))=−1となるように設定される。なお、この符号関数sgn(δ’(k))の値は、δ’(k)=0のときに、sgn(δ’(k))=0と設定してもよい。
さらに、適応則入力ベクトルθadp’は、式(47)により算出される。同式(47)のQadp’は、所定の適応則ゲインであり、λ’は、0<λ’<1が成立するように設定される忘却係数である。この忘却係数λ’を用いる理由は、第1実施形態の忘却係数λの説明で述べた理由と同じである。
すなわち、忘却係数λ’を適応則入力ベクトルの前回値θadp’(k−1)に乗算することにより、演算処理の進行に伴い、Yid’≒Pmiとなり、修正推定誤差ベクトルEmd’の各要素がほぼ値0に収束した時点で、適応則入力ベクトルθadp’の各要素をほぼ値0に収束させ、それにより、モデル修正パラメータベクトルθ’における推定誤差の残留を回避できることで、モデル修正パラメータベクトルθ’を適切な値として算出し、その算出精度を向上させるためである。以上のように、モデル修正パラメータベクトルθ’は、積分値としての適応則入力ベクトルの前回値θadp’(k−1)に忘却係数λ’による忘却処理を施しながら算出される。
また、例えば、修正推定誤差ベクトルEmd’の各要素が値0に収束した場合、モデル修正パラメータベクトルθ’の要素がすべて値0になると、前述した式(40)において、基本値Yid_base’以外の項がすべて値0になってしまう。したがって、修正推定誤差ベクトルEmd’の各要素が値0に収束し、制御対象モデルを修正する必要がなくなった時点で、Yid_nm’=Yid’すなわちYid_mod’=1となるように、基本値Yid_base’が値1に設定されている。なお、忘却係数λ’による忘却効果が不要な場合には、式(47)においてλ’=1に設定するとともに、前述した式(40)の基本値Yid_base’を値0に設定すればよい。
本実施形態のモデル修正器160では、以上のように、モデル修正パラメータベクトルθがスライディングモード制御アルゴリズムにより算出されるので、Eid’≠0すなわちYid’−Pmi≠0のときには、モデル修正パラメータベクトルθ’において、値θrbl(k−1)が存在する領域に対応する要素θjのみが、Eid’を値0に迅速に収束させるような値として算出され、それ以外の要素θjは値0として算出される。さらに、前述したように、モデル修正係数Yid_mod’は、そのように算出されたモデル修正パラメータベクトルの前回値θ’(k−1)と、非線形重み関数ベクトルW_mod’の内積に、基本値Yid_base’を加算することにより算出されるので、モデル修正係数Yid_mod’によって、図30の制御対象モデルを、値θrbl(k−1)が存在する領域に関して、Yid’=Pmiとなるように修正することになる。したがって、モデル修正器160では、図30の制御対象モデルを、モデル修正係数Ym_mod’によって実際の制御対象の特性に合致するようにオンボードで修正しながら、モデル修正パラメータベクトルθ’が算出される。
次に、前述したオンボードモデル解析器140について説明する。図33に示すように、オンボードモデル解析器140は、第2周期信号値算出部142、2つのオーバーサンプラ141,143、加算器144、仮想制御量算出部145、2つのハイパスフィルタ146,147、乗算器148、応答指標算出部149を備えている。
この第2周期信号値算出部142では、第1実施形態の第2周期信号値算出部42と同じ手法により、第2周期信号値S2(n)が算出される。
また、オーバーサンプラ141では、排気再開角θrbl(k)を、前述した制御周期ΔTnでオーバーサンプリングすることにより、排気再開角のオーバーサンプリング値θrbl(n)が算出される。
さらに、加算器144で、第2周期信号値S2(n)と排気再開角のオーバーサンプリング値θrbl(n)を加算することにより、第2仮想制御入力V2(n)が算出される。
一方、オーバーサンプラ143で、モデル修正器160で算出されたモデル修正パラメータベクトルθ’を制御周期ΔTnでオーバーサンプリングすることにより、モデル修正パラメータベクトルのオーバーサンプリング値θ’(n)が算出される。このオーバーサンプリング値θ’(n)は、下式(49)に示すように定義される。
次に、仮想制御量算出部145について説明する。この仮想制御量算出部145は、上記オーバーサンプリング値θ’(n)および第2仮想制御入力V2に応じて、仮想制御量Ym’を算出するものであり、図34に示すように、基本仮想制御量算出部145a、非線形重み関数ベクトル算出部145b、モデル修正係数算出部145cおよび乗算器145dを備えている。
まず、基本仮想制御量算出部145aでは、第2仮想制御入力V2を、図35に示す制御対象モデルに入力することにより、基本仮想制御量Ym_nm’(n)が算出される。この図35の制御対象モデルは、前述した図27の制御対象モデルにおいて、縦軸の「Pmi」を「Ym_nm’」に、横軸の「θrbl」を「V2」にそれぞれ置き換えたものであり、図27の制御対象モデルと実質的に同じものである。なお、本実施形態では、基本仮想制御量Ym_nm’が制御対象モデルの制御量に相当する。
また、非線形重み関数ベクトル算出部145bでは、前述した非線形重み関数ベクトル算出部162と同じ手法により、非線形重み関数ベクトルW_mod’(V2(n))が算出される。すなわち、第2仮想制御入力V2に応じて、前述した図31の横軸の「θrbl」を「V2」に置き換えたマップ(図示せず)を検索することにより、非線形重み関数ベクトルW_mod’(V2(n))が算出される。この非線形重み関数ベクトルW_mod’(V2(n))は、下式(50)に示すように定義される。
次に、モデル修正係数算出部145cでは、下式(51)により、モデル修正係数Ym_mod’(n)が算出される。下式(51)において、Ym_base’は所定の基本値であり、前述した基本値Yid_base’と同じ理由により、値1に設定されている。
そして、乗算器145dでは、下式(52)により、仮想制御量Ym’が算出される。このように、仮想制御量Ym’は、基本仮想制御量Ym_nm’にモデル修正係数Ym_mod’を乗算することにより算出されるので、モデル修正係数Ym_mod’によって、図35の制御対象モデルを修正したことに相当する。
以上のように、仮想制御量算出部145では、モデル修正係数Ym_mod’(n)が、モデル修正パラメータベクトルのオーバーサンプリング値θ’(n)と、非線形重み関数ベクトルW_mod’(V2(n))との内積を、基本値Ym_baseに加算することにより算出されるとともに、このモデル修正係数Ym_mod’(n)によって、図35の制御対象モデルが修正される。このモデル修正係数Ym_mod’(n)は、その算出周期以外は、前述したモデル修正係数Yid_mod’(k)と同じ手法により算出され、その意味も同じものである。これに加えて、図35の制御対象モデルは、図27の制御対象モデルすなわち図30の制御対象モデルと実質的に同じものである。
したがって、仮想制御量算出部145では、上記のように算出されたモデル修正係数Ym_mod’によって、図35の制御対象モデルを、第2仮想制御入力V2(n)が存在する領域に関して、Ym’=Pmiとなるように修正することになり、その結果、モデル修正係数Ym_mod’によって、図35の制御対象モデルが、実際の制御対象の特性に合致するようにオンボードで修正されることになる。
図33に戻り、次に、ハイパスフィルタ146で、下式(53)に示すハイパスフィルタリング処理により、仮想制御量のフィルタリング値Ymf’を算出する。
一方、また、ハイパスフィルタ147で、下式(54)に示すハイパスフィルタリング処理により、第2周期信号値のフィルタリング値Sf2を算出する。
次に、乗算器148で、仮想制御量のフィルタリング値Ymf’と第2周期信号値のフィルタリング値Sf2を乗算することにより、乗算値Ymf’・Sf2を算出する。そして、応答指標算出部149で、上記乗算値Ymf’・Sf2のh+1(h=Crs_max)個の時系列データに基づき、下式(55)により、応答指標RIを算出する。なお、下式(55)におけるKrは、応答ゲイン修正係数である。
本実施形態のオンボードモデル解析器140では、以上の手法によって、応答指標RIが算出される。
次に、前述したコントローラ130について説明する。このコントローラ130は、前述した制御周期ΔTkで排気再開角θrblを算出するものであり、図36に示すように、減算器131、ダウンサンプラ132および応答指定型コントローラ133を備えている。
このコントローラ130では、減算器131で、追従誤差Eを下式(56)により算出する。
一方、ダウンサンプラ132で、オンボードモデル解析器140によって前述した制御周期ΔTnで算出された応答指標RI(n)を、制御周期ΔTkでダウンサンプリングすることにより、応答指標のダウンサンプリング値RI(k)を算出する。
さらに、応答指定型コントローラ133では、応答指標のダウンサンプリング値RI(k)および追従誤差Eに基づき、下式(57)〜(61)に示す応答指定型制御アルゴリズムにより、排気再開角θrblが算出される。
上式(57)のUrchは、到達則入力であり、式(58)により算出される。同式(58)のKrchは、所定の到達則ゲインであり、σは、式(60)により算出される切換関数である。同式(60)のS’は、−1<S’<0が成立するように設定される切換関数設定パラメータであり、Emは、式(61)により算出される修正追従誤差である。同式(61)のRI_maxは、応答指標の絶対値|RI|が制御中に取りうる最大値を表しており、オフラインで予め設定された値を用いる。さらに、上式(57)のUadpは、適応則入力であり、式(59)により算出される。同式(59)のKadpは、所定の適応則ゲインである。なお、これらのゲインKrch,Kadpは、応答指標の絶対値|RI|が最大値RI_maxとなった際に、制御系が安定するような値に設定されている。
以上のように、このコントローラ130では、排気再開角θrblが追従誤差Eを値0に収束させるように算出される。言い換えれば、図示平均有効圧Pmiをその目標値Pmi_cmdに収束させるように算出される。
次に、図37〜40を参照しながら、第2実施形態の制御装置1Aによる図示平均有効圧制御のシミュレーション結果(以下「制御結果」という)について説明する。図37および図38は、モデル修正器160におけるモデル修正パラメータベクトルθ’を3個の要素θ1〜θ3からなるように構成した場合の制御結果例であり、図37は、図27,30,35の制御対象モデルを、実際の制御対象の特性に対してモデル化誤差がないように設定した場合の制御結果例を示している。また、図38は、制御対象モデルをモデル化誤差があるように設定した場合の制御結果例を示している。なお、両図のPmi_maxは、エンジン3が発生可能な図示平均有効圧Pmiの最大値を表している。
また、図39および図40は、モデル修正器160を省略し(すなわちモデル修正パラメータベクトルθ’を用いることなく)、仮想制御量算出部145において、第2仮想制御入力V2を、図35の制御対象モデルに入力することにより、仮想制御量Ym’を算出した場合の比較例の制御結果であり、図39は制御対象モデルをモデル化誤差がないように設定した例を、図40は制御対象モデルをモデル化誤差があるように設定した例をそれぞれ示している。
まず、図37および図39の制御結果を比較すると、両者とも、図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdが増大側または減少側に変化したとき(時刻t11,t13,t31,t33)には、それ以降、図示平均有効圧Pmiがその目標値Pmi_cmdに収束するように制御されている。また、目標値Pmi_cmdが最大値Pmi_maxよりも大きな値に設定されたとき(時刻t11,t32)には、それ以降、図示平均有効圧Pmiが最大値Pmi_maxに保持されるように制御されている。すなわち、モデル化誤差がない場合には、モデル修正器160の有無にかかわらず、良好な制御精度を確保できることが判る。
一方、モデル化誤差がある場合、まず図40の比較例では、時刻t41で、目標値Pmi_cmdが増大側に変化した以降、図示平均有効圧Pmiと仮想制御量Ym’との間に偏差が生じている。また、時刻t42で、目標値Pmi_cmdが最大値Pmi_maxよりも大きな値に設定された場合、それ以降、定常偏差の発生に起因して、図示平均有効圧Pmiが最大値Pmi_maxから乖離するように制御されている。これに加えて、時刻t43で、目標値Pmi_cmdが最大値Pmi_maxよりもかなり小さい値に設定された場合、図示平均有効圧Pmiが目標値Pmi_cmdに収束するのに時間を要することが判る。すなわち、モデル修正器160を用いない場合、モデル化誤差があると、制御精度が低下してしまうことが判る。
これに対して、モデル修正器160を備えた図38の制御結果例では、時刻t21またはt23で、図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdが増大側または減少側に変化した場合、それ以降、モデル修正パラメータθ1〜3が、推定誤差Eid’と非線形重み関数ベクトルW_modの積である修正推定誤差ベクトルEmd’に応じて算出されるとともに、これらのモデル修正パラメータθ1〜3に基づいて算出されたモデル修正係数Yid_mod’によって、仮想制御量Ym’が修正されることで、仮想制御量Ym’が図示平均有効圧Pmiに一致していることが判る。すなわち、モデル化誤差がなくなるように、制御対象モデルが修正され、その結果、図示平均有効圧Pmiがその目標値Pmi_cmdに収束するように制御されている。また、時刻t22で、目標値Pmi_cmdが最大値Pmi_maxよりも大きな値に設定されたときには、図示平均有効圧Pmiが最大値Pmi_maxに適切に保持されている。すなわち、モデル修正器160を用いた場合、モデル化誤差があるときでも、良好な制御精度を確保できることが判る。
以上のように、第2実施形態の制御装置1Aによれば、第1実施形態の制御装置1と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、オンボードモデル解析器140により、応答指標RIは、排気再開角θrblと図示平均有効圧Pmiの間の相関性を表すものとして算出され、コントローラ130では、応答指定型制御アルゴリズムにより、図示平均有効圧Pmiをその目標値Pmi_cmdに収束させるように、排気再開角θrblが算出される。その際、応答指定型制御アルゴリズムで用いられる修正追従誤差Emは、追従誤差Eに、値RI/RI_maxを乗算することにより算出されるので、応答指標RIがその最大値RI_maxに近づくほど、すなわち排気再開角θrblと図示平均有効圧Pmiの間の相関性が高くなるほど、制御入力としての排気再開角θrblの増減度合がより大きくなる。以上のように、制御入力としての排気再開角θrblに対する制御量としての図示平均有効圧Pmiの感度すなわち相関性が、制御入力θrblの値に応じて変化する場合でも、その相関性の変化に応じて制御入力θrblの増減度合を決定することができ、それにより、制御量Pmiを、振動的挙動や不安定挙動を生じることなく、目標値Pmi_cmdに収束するように制御することができる。すなわち、高レベルの制御の安定性を確保することができる。
また、第2追従誤差Emが前述した式(61)により算出されるので、応答指標RIの符号が反転すると、修正追従誤差Emの符号も反転することで、制御入力としての排気再開角θrblの増減方向が反転することになる。すなわち、増大方向から減少方向に反転するか、または減少方向から増大方向に反転することになる。したがって、本実施形態のように、排気再開角θrblの変化に対して、図示平均有効圧Pmiが極大値を示す場合において、図示平均有効圧の目標値Pmi_cmdがその極大値よりも大きい値に設定されたときでも、図示平均有効圧Pmiをその極大値付近に保持することができる。
また、モデル修正器160では、図30の制御対象モデルが実際の制御対象の特性に合致するように、モデル修正パラメータベクトルθ’がオンボードで算出され、さらに、オンボードモデル解析器140の仮想制御量算出部148では、そのように算出されたモデル修正パラメータベクトルθ’を用い、図30の制御対象モデルと実質的に同じものである図35の制御対象モデルが、実際の制御対象の特性に合致するようにオンボードで修正される。したがって、エンジン3の個体間のばらつきや経年変化などに起因して、モデル化誤差が発生した場合でも、そのモデル化誤差を迅速に補償することができ、応答指標RIの算出精度を向上させることができる。
さらに、モデル修正パラメータベクトルθ’の要素θjは、連続する3つの排気再開角θrbl_jの値で規定される複数の領域に対応してそれぞれ設定されているとともに、前述したように、式(44)〜(48)に示すスライディングモード制御アルゴリズムより、θrbl(k−1)が存在する領域に対応する要素θjのみが、推定誤差Eid’が値0に収束するように(すなわち修正推定制御量Yid’が図示平均有効圧Pmiに収束するように)算出され、それ以外の要素θjは値0として算出される。したがって、モデル化誤差が複数の領域間で異なる場合でも、モデル修正パラメータベクトルθ’を用いて、制御対象モデルを領域毎に修正することができる。その結果、エンジン3のように、制御対象モデルを漸化式で表すことができない制御対象の場合でも、制御対象の個体間のばらつきや経年変化などに起因して、モデル化誤差が発生したときに、そのモデル化誤差を補償することができ、モデル化誤差に対するロバスト性を向上させることができる。
これに加えて、モデル修正パラメータベクトルθ’がスライディングモード制御アルゴリズムより算出されるので、エンジン3のように、制御対象モデルを漸化式で表すことができない制御対象の場合でも、モデル修正パラメータベクトルθ’を、振動的な挙動またはオーバーシュートなどの不安定な挙動が生じることのない値として算出できるとともに、そのように算出されたモデル修正パラメータベクトルθ’を用いて、制御対象モデルを修正しながら、エンジン3を制御することができる。その結果、制御系の過渡応答が振動的または不安定な状態になるのを回避でき、過渡時の制御精度を向上させることができる。
また、制御対象モデルがモデル修正係数Ym_mod’により修正されるとともに、このモデル修正係数Ym_mod’は、モデル修正パラメータベクトルθ’と、非線形重み関数ベクトルW_mod’とにおける対応する要素毎の積の和に、基本値Ym_base’を加算することにより算出される。この非線形重み関数ベクトルW_mod’の要素である非線形重み関数Wjは、複数の領域における第2仮想制御入力V2に対して、複数の領域の各々の中心付近において最大値1を示しかつ2等辺三角形の斜辺状に変化すると同時に領域以外では値0を示す特性をそれぞれ有しており、さらに、互いにオーバーラップする各2つの領域に対応する各2つの非線形重み関数Wjは、2等辺三角形の斜辺状に変化する部分で交差するように設定されている。したがって、モデル修正係数Ym_mod’で制御対象モデルを修正する際、第2仮想制御入力V2における複数の領域に対して連続的に修正できることで、修正された制御対象モデルが不連続点を有することがなくなる。それにより、制御系の過渡応答が、制御対象モデルの不連続点に起因して一時的に不適切な状態になるのを回避でき、過渡時の制御精度をさらに向上させることができる。
さらに、モデル修正パラメータベクトルθ’の算出に用いるスライディングモード制御アルゴリズムでは、適応則入力ベクトルθadp’の算出式(47)において、忘却係数λ’が適応則入力ベクトルの前回値θadp’(k−1)に乗算されているので、修正推定誤差ベクトルEmd’の各要素が値0に収束した時点では、適応則入力ベクトルθ’adpの各要素が値0に収束することになる。その結果、モデル修正パラメータベクトルθ’における推定誤差の残留を回避できることで、モデル修正パラメータベクトルθ’の算出精度を向上させることができる。
なお、第2実施形態は、本願発明の複数の修正パラメータに乗算される複数の関数として、排気再開角θrblで区分された複数の領域に対して、2等辺三角形の斜辺状に変化する非線形重み関数Wjを用いた例であるが、本願発明の複数の関数はこれに限らず、複数の領域の各々の中心付近において最大値を示しかつ直線状または曲線状に変化する特性をそれぞれ有し、互いにオーバーラップする各2つの領域に対応する各2つの関数が、直線状または曲線状に変化する部分で交差するように設定されているものであればよい。より好ましくは、オーバーラップする部分の2つの関数値の和が最大値と同じ値を示すものや、排気再開角θrblのどのような値に対しても、それに対応する2つの関数値の和が最大値と同じ値を示すものであればよい。
例えば、複数の関数として、第2実施形態の非線形重み関数Wjに代えて、台形や五角形などの底面を除いた多角形状に変化する特性を有するとともに、隣り合う2つの要素において、互いの直線状に変化する部分同士が交差するものを用いてもよい。さらに、第2実施形態の非線形重み関数Wjに代えて、図41に示す非線形重み関数Wjを用いてもよい。同図に示すように、この非線形重み関数Wjは、シグモイド関数を用いた曲線状のものであり、隣り合う各2つの関数が互いに交差しているとともに、その交差している部分において、排気再開角θrblに対する2つの関数値の和が値1になるように設定されている。このような非線形重み関数Wjを用いた場合にも、第2実施形態の非線形重み関数Wjと同じ効果を得ることができる。
また、第2実施形態は、非線形重み関数Wjの算出用のマップとして、図31に示すような、排気再開角θrblの変更範囲を均等に区分することで、複数の領域が規定されているものを用いた例であるが、非線形重み関数Wjの算出用のマップとして、複数の領域を規定する際、排気再開角θrblの変更範囲を不均等に区分したものを用いてもよい。その場合には、複数の領域の各々の面積が互いに同じで、隣り合う2つの非線形重み関数Wjにおける交差する部分の2つの値が合わせて値1になるように設定されているものを用いればよい。
また、第2実施形態は、吸気開角θlinが一定に保持されている状態において、排気再開角θrblのみにより図示平均有効圧Pmiを制御した例であるが、第2実施形態の制御装置1Aの制御手法を適用する条件は、これに限らないことは言うまでもない。例えば、吸気開角θlinを、エンジン3の運転状態に応じてマップ検索により算出するとともに、排気再開角θrblを第2実施形態と同じ制御手法で制御することにより、図示平均有効圧Pmiをその目標値Pmi_cmdに収束させるように制御してもよい。
さらに、図示平均有効圧Pmiの制御手法として、エンジン3が定常運転状態で、吸気開角θlinが一定に保持されているときには、第2実施形態の制御手法を用いるとともに、エンジン3が定常運転状態からそれ以外の運転状態に変化したときには、図示平均有効圧Pmiの制御手法を、第2実施形態の制御手法から第1実施形態の制御手法に切り換えるように構成してもよい。
一方、第1実施形態は、2つの制御入力θlin,θrblによって1つの制御量Pmiを制御した例であり、第2実施形態は、1つの制御入力θrblによって1つの制御量Pmiを制御した例であるが、本願発明の制御装置はこれに限らず、多入力多出力系における3つ以上の制御入力により1つの制御量を制御する場合にも適用可能である。例えば、z(zは3以上の整数)個の制御入力Uzにより制御量Pmiを制御する場合には、そのようなz個の制御入力Uzと制御量Pmiの関係を定義した制御対象モデル(図示せず)と、以下の制御アルゴリズムを用いればよい。
まず、モデル修正器で、z個の制御入力Uzを、制御対象モデルに入力することにより、基本推定制御量Yid_nm(k)を算出するとともに、下式(62)〜(70)により、モデル修正パラメータ行列θ(k)を算出する。
次に、オンボードモデル解析器において、z個の制御入力Uzを、制御対象モデルに入力検索することにより、基本仮想制御量Ym_nm(n)を算出するとともに、下式(71)〜(77)により、z個の応答指標RIz(n)を算出する。
そして、協調コントローラにおいて、下式(78)〜(84)により、z個の制御入力Uz(k)を算出すればよい。