以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る制御装置について説明する。本実施形態の制御装置は、内燃機関の吸気カムの、クランクシャフトに対する実際の位相(以下「カム位相」という)Cainを制御するものであり、その制御対象は、後述する制御入力Vcainが入力されることで、カム位相Cain(制御対象の出力)を出力する系に相当する。図1に示すように、この制御装置1は、カム位相Cainを変更する電磁式カム位相可変機構30と、これを制御するためのECU2などを備えており、このECU2は、後述するように、カム位相制御処理を実行する。
内燃機関(以下「エンジン」という)3は、4サイクルDOHC型ガソリンエンジンであり、吸気カムシャフト4および排気カムシャフト7を備えている。吸気カムシャフト4は、吸気弁6を開閉駆動する吸気カム5を有し、排気カムシャフト7は、排気弁9を開閉駆動する排気カム8を有している。
この吸気カムシャフト4上には、スプロケット4aが同軸に配置され、回転自在に設けられている。このスプロケット4aは、図示しないタイミングベルトを介してクランクシャフト10に連結され、さらに、上記電磁式カム位相可変機構30の後述する遊星歯車装置31を介して、吸気カムシャフト4に連結されている。以上の構成により、吸気カムシャフト4は、クランクシャフト10が2回転するごとに1回転する。また、排気カムシャフト7も、これと一体のスプロケット(図示せず)を備えており、このスプロケットおよび図示しないタイミングベルトを介してクランクシャフト10に連結されており、それにより、クランクシャフト10が2回転するごとに1回転する。
電磁式カム位相可変機構30は、吸気カムシャフト4すなわち吸気カム5の、クランクシャフト10に対するカム位相Cainを、所定範囲(後述する最遅角値Cainrtと最進角値Cainadとの間の範囲)内で無段階に変更するものであり、図2〜図4に示すように、遊星歯車装置31および電磁ブレーキ32などを備えている。
この遊星歯車装置31は、吸気カムシャフト4およびスプロケット4aの間で回転を伝達するものであり、リングギヤ31a、3つのプラネタリピニオンギヤ31b、サンギヤ31cおよびプラネタリキャリア31dを備えている。このリングギヤ31aは、電磁ブレーキ32の後述するアウタケーシング33に連結されており、これと同軸かつ一体に回転する。また、サンギヤ31cは、吸気カムシャフト4の先端部に同軸かつ一体に回転するように取り付けられている。
一方、プラネタリキャリア31dは、ほぼ三角形に形成され、それらの3つの角部にシャフト31eがそれぞれ突設されている。プラネタリキャリア31dは、これらのシャフト31eを介してスプロケット4aに連結されており、それにより、スプロケット4aと同軸かつ一体に回転するように構成されている。
また、各プラネタリピニオンギヤ31bは、プラネタリキャリア31dの各シャフト31eに回転自在に支持され、サンギヤ31cとリングギヤ31aの間に配置され、これらと常に噛み合っている。
さらに、前述した電磁ブレーキ32は、アウタケーシング33、コア34、電磁石35およびリターンスプリング36を備えている。アウタケーシング33は、中空に形成され、その内部にコア34が相対的に回動自在に設けられている。コア34は、円形の基部34aと、これから放射状に延びる2つのアーム34b,34bを備えている。コア34は、その基部34aがプラネタリキャリア31dに取り付けられており、それにより、プラネタリキャリア31dと同軸かつ一体に回転する。
一方、アウタケーシング33の内周面には、最遅角位置および最進角位置の一対のストッパ33a,33bを1組として、計2組のストッパ33a,33bが互いに間隔を存して設けられている。コア34の各アーム34bは、一対のストッパ33a,33b間に配置されており、それにより、コア34は、アーム34bが最遅角位置ストッパ33aに当接し、係止される最遅角位置(図4に実線で示す位置)と、最進角位置ストッパ33bに当接し、係止される最進角位置(図4に2点鎖線で示す位置)との間で、アウタケーシング33に対して相対的に回動可能に構成されている。
また、リターンスプリング36は、圧縮された状態で、最進角位置ストッパ33bの一つと、これと対向するアーム34bとの間に掛け渡されており、このリターンスプリング36の付勢力により、アーム34bは最遅角位置ストッパ33a側に付勢されている。
一方、電磁石35は、リターンスプリング36と反対側の最進角位置ストッパ33bに取り付けられており、この最進角位置ストッパ33bの、アーム34bと対向する側の端部に面一の状態で設けられている。この電磁石35は、ECU2に電気的に接続されており、ECU2からの制御入力Vcain(電圧信号)により励磁されると、その電磁力Fsolにより、対向するアーム34bを、リターンスプリング36の付勢力に抗しながら吸引し、最進角位置ストッパ33b側に回動させる。
以上のように構成された電磁式カム位相可変機構30の動作について説明する。この電磁式カム位相可変機構30では、電磁ブレーキ32の電磁石35が励磁されていないときには、コア34は、リターンスプリング36の付勢力により、そのアーム34bが最遅角位置ストッパ33aに当接する最遅角位置に保持され、それにより、カム位相Cainは、最遅角値Cainrt(図5参照)に保持される。
その状態で、スプロケット4aが図4の矢印Y1方向に回転すると、プラネタリキャリア31dおよびリングギヤ31aが一体に回転することにより、プラネタリピニオンギヤ31bが回転せず、サンギヤ31cがプラネタリキャリア31dおよびリングギヤ31aと一体に回転する。すなわち、スプロケット4aと吸気カムシャフト4が一体に回転する。
また、コア34が最遅角位置に保持されている状態で、電磁石35がECU2からの制御入力Vcainにより励磁されると、電磁石35の電磁力Fsolにより、コア34のアーム34bが、リターンスプリング36の付勢力に抗しながら、最進角位置ストッパ33b側すなわち最進角位置側に吸引され、電磁力Fsolとリターンスプリング36の付勢力とが釣り合う位置まで回動する。言い換えれば、アウタケーシング33が、コア34に対して相対的に矢印Y1と逆方向に回動する。
これにより、リングギヤ31aがプラネタリキャリア31dに対して相対的に図3の矢印Y2方向に回動し、それに伴い、プラネタリピニオンギヤ31bが図3の矢印Y3方向に回動することで、サンギヤ31cが図3の矢印Y4方向に回動する。その結果、吸気カムシャフト4が、スプロケット4aに対して相対的にスプロケットの回転方向(すなわち図3の矢印Y2と逆方向)に回動することになり、カム位相Cainが進角される。
この場合、アウタケーシング33の回動がリングギヤ31a、プラネタリピニオンギヤ31bおよびサンギヤ31cを介して、吸気カムシャフト4に伝達されるので、遊星歯車装置30の増速作用により、吸気カムシャフト4は、スプロケット4aに対してアウタケーシング33の回動角度が増幅された角度分、回動することになる。すなわち、吸気カム5のカム位相Cainの進角量は、アウタケーシング33の回動角度を増幅した値になるように設定されている。これは、電磁石35の電磁力Fsolが作用可能な距離には限界があるので、それを補償し、カム位相Cainをより広範囲で変化させるためである。
次に、以上のように構成された電磁式カム位相可変機構30の動作特性を説明する。図5に示すように、電磁式カム位相可変機構30では、カム位相Cainは、電磁石35への制御入力Vcainにより、最遅角値Cainrt(0゜)と最進角値Cainad(例えば55゜)の間で連続的に変化するとともに、制御入力Vcainが増大する方向のときのカム位相Cainの値を示す実線の曲線と、制御入力Vcainが減少する方向のときのカム位相Cainの値を示す破線の曲線とが互いに異なる、いわゆるヒシテリシス特性を有している。
これは、図6に示すように、電磁石35が、制御入力Vcainにより励磁され、電磁力Fsolを発生する際、起動時の電磁力Fsolの立ち上がりが遅いという特性を備えていることに起因する。また、同図に示すように、電磁石35の電磁力Fsolは、制御入力Vcainが値0から正側に増大する場合と、値0から負側に減少する場合とで同じ傾向を示す特性、すなわち、制御入力Vcainの値0を中心として、線対称な傾向を示す特性を備えている。
本実施形態において、以上のような電磁式カム位相可変機構30を、従来の油圧駆動式のカム位相可変機構に代えて用いた理由は、以下による。すなわち、従来の油圧駆動式のカム位相可変機構は、油圧ポンプなどの起動により油圧が立ち上がり、カム位相Cainを制御可能になるまでに時間を要するとともに、油温が極低温のときには、応答性が悪化してしまう特性を有し、むだ時間が大きく、応答性が低いという欠点を備えている。これに対して、本実施形態の電磁式カム位相可変機構30は、油圧の立ち上がりを待つ必要がなく、油温の影響を受けることがなく、起動時からカム位相Cainを適切に制御できるとともに、むだ時間がより小さく、より高い応答性を確保できるという利点を備えていることによる。
一方、吸気カムシャフト4の電磁式カム位相可変機構30と反対側の端部には、カム角センサ20が設けられている。このカム角センサ20は、例えばマグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、吸気カムシャフト4の回転に伴い、パルス信号であるCAM信号を所定のカム角(例えば1゜)ごとにECU2に出力する。
また、エンジン3の吸気管12のスロットル弁13よりも下流側には、吸気管内絶対圧センサ21およびインジェクタ14が設けられている。この吸気管内絶対圧センサ21は、例えば半導体圧力センサなどで構成され、吸気管12内の吸気管内絶対圧PBAを検出して、その検出信号をECU2に出力する。
さらに、インジェクタ14は、ECU2からの制御信号によって制御され、具体的には、制御信号の燃料噴射量Toutおよび噴射タイミングに応じて開弁することにより、燃料を吸気管12内に噴射する。
また、エンジン3には、クランク角センサ22が設けられている。クランク角センサ22は、クランクシャフト10の回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
CRK信号は、所定のクランク角(例えば30゜)ごとに1パルスが出力される。ECU2は、このCRK信号に応じ、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出するとともに、CRK信号と前述したカム角センサ20によるCAM信号に基づき、カム位相Cainを算出する。また、TDC信号は、各気筒のピストン11が吸入行程開始時のTDC位置よりも若干、手前の所定クランク角度位置にあることを表す信号であり、所定クランク角ごとに1パルスが出力される。
一方、排気管15の触媒装置16よりも上流側には、LAFセンサ23が設けられている。このLAFセンサ23は、ジルコニアおよび白金電極などで構成された酸素濃度センサとリニアライザなどの検出回路とを組み合わせたものであり、リッチ領域からリーン領域までの広範囲な空燃比の領域において排気ガス中の空燃比をリニアに検出し、その検出空燃比Kactを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、このLAFセンサ23からの検出空燃比Kactに基づき、空燃比制御を実行する。
さらに、ECU2には、アクセル開度センサ24およびイグニッション・スイッチ(以下「IG・SW」という)25が接続されている。このアクセル開度センサ24は、図示しないアクセルペダルの開度(以下「アクセル開度」という)APを検出して、その検出信号をECU2に出力する。また、IG・SW25は、イグニッションキー(図示せず)操作によりON/OFFされるとともに、そのON/OFF状態を表す信号をECU2に出力する。
ECU2(制御値算出手段、制御入力算出手段)は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ20〜24の検出信号およびIG・SW25のON/OFF信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、以下に述べるように、カム位相制御処理を実行する。
図7に示すように、制御装置1は、2自由度スライディングモードコントローラ(以下「TDFSLDコントローラ」という)40およびDSMコントローラ50を備えており、両コントローラ40,50は、具体的には、ECU2により構成されている。
このTDFSLDコントローラ40(制御値算出手段)は、カム位相Cainを目標カム位相Cain_cmdに収束させるためのものであり、具体的には、図8に示す式(1)〜(8)の2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、カム位相Cain(k)および目標カム位相Cain_cmd(k)に応じて、参照入力r(k)を算出する。なお、この参照入力r(k)は、後述する理由により正値として算出される。
同図の各式において、記号(k)付きの各離散データは、所定周期でサンプリングされたデータであることを示しており、記号kは各離散データのサンプリングサイクルの順番を表している。例えば、記号kは今回のサンプリングタイミングでサンプリングされた値であることを、記号k−1は前回のサンプリングタイミングでサンプリングされた値であることをそれぞれ示している。この点は、以下の離散データ(時系列データ)においても同様である。なお、以下の説明では、各離散データにおける記号(k)を適宜省略する。
同図の式(1)に示すように、この制御アルゴリズムでは、参照入力r(k)は、フィードフォワード入力rff(k)、到達則入力rrch(k)、適応則入力radp(k)およびダンピング入力rdamp(k)の総和として算出される。
このフィードフォワード入力rff(k)は、切換関数設定パラメータPOLEと、目標カム位相のフィルタ値の時系列データCain_cmd_f(k),Cain_cmd_f(k−1),Cain_cmd_f(k−2)とを用い、式(2)により算出される。この切換関数設定パラメータPOLEは、−1<POLE<0の関係が成立する値に設定される。
この目標カム位相のフィルタ値の今回値Cain_cmd_f(k)は、その前回値Cain_cmd_f(k−1)、目標カム位相Cain_cmd(k)および目標値フィルタ設定パラメータPOLE_fを用い、式(8)により算出される。この目標値フィルタ設定パラメータPOLE_fは、−1<POLE_f<POLE<0の関係が成立する値に設定される。
また、到達則入力rrch(k)は、式(3)に示すように、値−1、到達則フィードバックゲインKrchおよび切換関数σs(k)の積として算出され、この切換関数σs(k)は、式(7)により算出された追従誤差e(k)と、前述した切換関数設定パラメータPOLEとを用い、式(6)により算出される。
さらに、適応則入力radp(k)は、式(4)に示すように、値−1、適応則フィードバックゲインKadpおよび切換関数の積分値Σσsの積として算出される。また、ダンピング入力rdamp(k)は、式(5)に示すように、値−1と、ダンピングフィードバックゲインKdampと、カム位相の今回値と前回値との偏差[Cain(k)−Cain(k−1)]との積として算出される。
以上のTDFSLDコントローラ40の制御アルゴリズムによれば、フィードフォワード入力rff(k)により、制御の速応性を高め、カム位相Cainの目標カム位相Cain_cmdへの収束速度を高めることができる。また、到達則入力rrch(k)および適応則入力radp(k)により、カム位相Cainの目標カム位相Cain_cmdへの収束速度および収束挙動を指定することができる。さらに、ダンピング入力rdamp(k)により、外乱によるオーバーシュートなどの振動的な挙動を回避することができる。
しかし、2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより算出された参照入力r(k)をそのまま、電磁式カム位相可変機構30に入力してこれを制御すると以下の問題が生じる。すなわち、目標カム位相Cain_cmdは、その変化速度が比較的速いものとして算出されるので、カム位相Cainの目標カム位相Cain_cmdへの追従制御を実行する場合、高い追従性(追従精度)が要求される。これに対して、前述したように、電磁式カム位相可変機構30は、その動作特性においてヒステリシス特性を有しているため、カム位相Cainをその最遅角値Cainrtよりも若干、進角側の範囲で制御しようとすると、最遅角値Cainrtまで一気に変化してしまい、適切に制御することができない。すなわち、最遅角値Cainrt付近で、カム位相Cainを微少な変化量で制御するのが困難である。これと同様に、カム位相Cainをその最進角値Cainadよりも若干、遅角側の範囲で制御しようとすると、最進角値Cainadまで一気に変化してしまい、適切に制御することができない。すなわち、最進角値Cainad付近でも、カム位相Cainを微少な変化量で制御するのが困難である。
以上の理由により、スライディングモード制御アルゴリズムを含むロバスト制御アルゴリズム、またはPID制御アルゴリズムなどを適用した線形コントローラでは、カム位相Cainを、変化速度の速い目標カム位相Cain_cmdに追従させる追従制御を、精度よく実行することが困難である。
したがって、本実施形態では、カム位相Cainを目標カム位相Cain_cmdに追従させる追従制御を精度よく実行するために、上記2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより算出された参照入力r(k)を、DSMコントローラ50において、ΔΣ変調アルゴリズムに基づく制御アルゴリズムで変調することにより、電磁式カム位相可変機構30への制御入力Vcain(k)を算出する。
以下、DSMコントローラ50(制御値算出手段、制御入力算出手段)について説明する。このDSMコントローラ50では、図9に示すように、TDFSLDコントローラ40からの参照入力r(k)がリミッタ50aに入力されると、このリミッタ50aにより参照入力r(k)をリミット処理した制限値r1(k)が生成され、差分器50bにより、制御値としての制限値偏差r2(k)が、制限値r1(k)と、オフセット値発生部50cからの所定のオフセット値Vcain_oftとの偏差として生成される。さらに、差分器50dにより、この制限値偏差r2(k)と遅延素子50eで遅延された変調出力u''(k−1)との偏差として偏差信号値δ(k)が生成される。
次いで、積分器50fにより、偏差積分値σ(k)が、偏差信号値δ(k)と、偏差積分値の遅延値σ(k−1)との和の信号として生成され、次に、リレー要素50gにより、変調値としての変調出力u''(k)が、偏差積分値σ(k)に基づいて所定値+R/−Rとして生成される。そして、増幅器50hにより、ゲイン調整値u(k)が、変調出力u''(k)を所定の振幅調整ゲインF(=KDSM)でゲイン調整した値として生成され、次に、加算器50iにより、制御入力Vcain(k)が、ゲイン調整値u(k)と、前述した信号発生器50cからの所定のオフセット値Vcain_oftとの和として生成される。
このDSMコントローラ50の制御アルゴリズムは、図10の式(9)〜(15)で表される。この式(9)において、Lim(r(k))は、参照入力r(k)を上記リミッタ50aでリミット処理した制限値を表しており、具体的には、参照入力r(k)を、所定の下限値rminと所定の上限値rmaxで規定される範囲内に制限した値として算出される。すなわち、r(k)<rminのときにはLim(r(k))=rminとなり、rmin≦r(k)≦rmaxのときにはLim(r(k))=r(k)となり、r(k)>rmaxのときにはLim(r(k))=rmaxとなる。これらの下限値rminおよび上限値rmaxは、後述する理由により、いずれも正の所定値に設定されている。
また、式(13)において、fnl(σ(k))は、上記リレー要素50gに相当する非線形関数であり、その値は、σ(k)≧0のときにはfnl(σ(k))=Rとなり、σ(k)<0のときにはfnl(σ(k))=−Rとなる(なお、σ(k)=0のときには、fnl(σ(k))=0と設定してもよい)。また、この値Rは、後述する理由により、R>|r2(k)|の関係が常に成立するような、値1より大きい値に設定されている。また、式(14)のKDSMは、上記振幅調整ゲインFに相当する振幅調整ゲインであり、値1以下でかつ後述するような値に設定されている。
本実施形態のDSMコントローラ50の制御アルゴリズムは、以上のように構成されており、以下、その理由を、図11に示す比較例のコントローラ60を参照しながら説明する。このコントローラ60は、特願2002−231614号において本出願人が提案済みの制御アルゴリズムを適用したものである。このコントローラ60と本実施形態のDSMコントローラ50とを比較すると、このコントローラ60では、差分器60bにより、リミッタ60aで生成された参照入力r(k)の制限値rl'(k)と、変調出力の遅延値u''(k−1)との偏差信号値δ(k)が生成される点と、リレー要素50gに代えて量子化器60eを用いている点のみが、DSMコントローラ50に対して異なっており、その他の点は同様に構成されているので、その説明は省略する。
このコントローラ60の制御アルゴリズムは、図12の式(16)〜(21)で表される。この式(16)において、sat(r(k))は飽和関数であり、その値は、r(k)<−1のときにはsat(r(k))=−1となり、−1≦r(k)≦1のときにはsat(r(k))=r(k)となり、r(k)>1のときにはsat(r(k))=1となる。
さらに、式(19)において、sgn(σ(k))は上記量子化器60eに相当する符号関数であり、その値は、σ(k)≧0のときにはsgn(σ(k))=1となり、σ(k)<0のときにはsgn(σ(k))=−1となる(なお、σ(k)=0のときに、sgn(σ(k))=0と設定してもよい)。
このコントローラ60を用いた場合、図13に示すように、参照入力rの絶対値が値1より小さいときには、変調出力u''は、値1と値−1との間で頻繁に反転する。しかし、図14に示すように、参照入力rの絶対値が値1以上のときには、制限値rl'が値1または値−1に保持されることで、変調出力u''は、値1または値−1に保持される時間が長くなり、ΔΣ変調アルゴリズムの特徴である変調出力u''のスイッチング挙動が失われてしまう。この問題は、差分器60bに帰還してくる変調出力u''の絶対値が値1であるのに対して、参照入力rの絶対値が値1以上の状態が継続するときに発生する。
図15に示すように、本実施形態のTDFSLDコントローラ40により算出される、カム位相Cainを目標カム位相Cain_cmdに追従させるための参照入力rでは、電磁式カム位相可変機構30の前述した図5の動作特性(特にゲイン特性)に起因して、その絶対値が値1を大きく超えた状態が継続するときがある。そのため、この比較例のコントローラ60では、制限値r1'が、値1または値−1に長く保持される状態が発生することで、制御入力Vcainが、所定の最大値Vcainmax1または所定の最小値Vcainmin1に長く保持される状態が発生する(t1〜t2,t3〜t4など)。その結果、カム位相Cainが最進角値Cainadまたは最遅角値Cainrtに対してオーバーシュートを生じてしまうことで、コア34のアーム34bが、最遅角位置ストッパ33aまたは最進角位置ストッパ33bに衝突し、衝撃音などが発生してしまう。
これに対して、本実施形態のDSMコントローラ50では、量子化器60eすなわち符号関数sgn(σ(k))に代えて、前述したリレー要素50gすなわち非線形関数fnl(σ(k))を用いるとともに、前述した所定値Rが、R>|r2|の関係が常に成立するような値に設定されるので、差分器50dに帰還される変調出力u''の絶対値が、制限値偏差r2の絶対値よりも常に大きくなり、それにより、変調出力u''のスイッチング挙動が適切に確保される。
また、DSMコントローラ50において、制限値r1と所定のオフセット値Vcain_oftとの偏差である制限値偏差r2が、差分器50dに入力されるとともに、制御入力Vcainがオフセット値Vcain_oftとゲイン調整値uとの和として算出される理由は、以下による。
すなわち、前述したように、電磁式カム位相可変機構30の電磁石35は、その電磁力Fsolが制御入力Vcainが値0から正側に増大する場合と、値0から負側に減少する場合とで同じ傾向を示す特性を備えている。そのため、制御入力Vcainが正値または負値のときでも、それらの絶対値が同じであれば、同じ電磁力Fsolを発生する。しかし、制御入力Vcainの符号が反転すると、方向の異なる磁束同士が互いに干渉し合うことで、電磁力Fsolが打ち消される状態が発生し、電力効率および制御性の低下を招いてしまう。それを回避するためには、制御入力Vcainを正値側または負値側の一方の値として算出する必要があるので、本実施形態のTDFSLDコントローラ40では、参照入力rが常に正値になるように算出され、それに伴い、リミッタ50aの制限範囲も、正値側の所定範囲(rmin〜rmax)に設定されている。
しかし、このように制限値r1が常に正値として算出される場合において、これをそのまま差分器50dに入力すると、図16に示すように、変調出力u''は、その最大値Rと最小値−Rとの間での反転頻度が低下するとともに、最大値Rに保持される時間が長くなってしまい、その分、制御精度の低下を招く。これを回避するために、本実施形態のDSMコントローラ50では、差分器50dに入力される制限値偏差r2が、制限値r1とオフセット値Vcain_oftとの偏差として算出されるとともに、この制限値偏差r2が正値と負値の両方を示すように、リミッタ50aの上下限値rmin,rmaxおよびオフセット値Vcain_oftが、適切な値に設定されている。これにより、図17に示すように、変調出力u''は、最大値Rと最小値−Rとの間で頻繁に反転するとともに、最大値R側への反転頻度と最小値−Rへの反転頻度とが半々の割合に近づくような値として算出される。その結果、制御精度を向上させることができる。
これに加えて、前述したような制御入力Vcainの符号の反転を回避するため、オフセット値Vcain_oftおよび振幅調整ゲインKDSMは、制御入力Vcainが、いずれも正値の、所定の最大値Vcainmax(図6参照)と所定の最小値Vcainmin(図6参照)との間で反転を繰り返すような適切な値(KDSM≦1)に設定されている。なお、図6に示すように、この最小値Vcainminは、起動時の電磁力Fsolの立ち上がりが遅い領域を外れるような値に設定されている。
以上のような制御アルゴリズムにより、DSMコントローラ50では、TDFSLDコントローラ40からの参照入力rに基づき、制御入力Vcainが算出されるとともに、それが電磁式カム位相可変機構30に入力されることで、カム位相Cainが制御される。その結果、図18に示すように、参照入力rが急激に増減したときでも、その制限値r1がrmin≦r1≦rmaxに設定されることで、制御入力Vcainは、最大値Vcainmaxと最小値Vcainminとの間で頻繁に反転するとともに、その反転頻度が半々の割合に近づくように設定される。それにより、カム位相Cainは、比較例のコントローラ60の場合よりも精度よく制御されることで、同図に示すように、最進角値Cainadまたは最遅角値Cainrtに対してオーバーシュートを生じることがなくなる。その結果、コア34のアーム34bの、最遅角位置ストッパ33aまたは最進角位置ストッパ33bへの衝突を回避でき、衝撃音の発生を回避できる。
以下、ECU2により実行されるカム位相Cainの制御処理について、図19を参照しながら説明する。同図に示すように、この処理では、まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)で、電磁式カム位相可変機構30が正常であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、電磁式カム位相可変機構30が正常であるときには、ステップ2に進み、エンジン始動中であるか否かを判別する。この判別は、IG・SW25のON/OFF信号およびエンジン回転数NEに基づいて行われる。
このステップ2の判別結果がNOで、エンジン3が始動済みであるときには、ステップ3に進み、目標カム位相のマップ値Cain_cmd_mapを、エンジン回転数NEおよび要求トルクTRQに応じて、図20に示すマップを検索することにより、算出する。なお、この要求トルクTRQは、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに基づいて算出される。
同図において、要求トルクTRQの所定値TRQ1〜3は、TRQ1>TRQ2>TRQ3の関係が成立するような値に設定されている。このマップでは、目標カム位相のマップ値Cain_cmd_mapは、エンジン回転数NEが低いほど、または要求トルクTRQが小さいほど、より進角側の値に設定されている。これは、エンジン回転数NEが低い場合、またはエンジン負荷が小さい場合、吸気弁6と排気弁9のバルブオーバーラップを大きく設定し、内部EGR量を増大させることで、ポンピングロスの低下を図るためである。
次に、ステップ4に進み、ステップ3で算出したマップ値Cain_cmd_mapを、目標カム位相Cain_cmdとして設定し、その後、ステップ5に進み、前述した式(1)〜(8)の制御アルゴリズムにより、参照入力rを算出する。
次いで、ステップ6に進み、前述した式(9)〜(15)の制御アルゴリズムにより、制御入力Vcainを算出した後、本プログラムを終了する。
一方、ステップ2の判別結果がNOで、エンジン始動中であるときには、ステップ7に進み、目標カム位相Cain_cmdを、所定の始動時用値Cain_cmd_stに設定する。次いで、上記ステップ5,6を実行した後、本プログラムを終了する。
一方、ステップ1の判別結果がNOで、電磁式カム位相可変機構30が故障しているときには、ステップ8に進み、制御入力Vcainを値0に設定した後、本プログラムを終了する。これにより、カム位相Cainは最遅角値Cainrtに制御される。
以上のように、本実施形態の制御装置1によれば、TDFSLDコントローラ40により、参照入力rが、電磁式カム位相可変機構30の電磁石30における磁束の方向反転を回避するために、正値として算出される。そして、DSMコントローラ50により、参照入力rの制限値r1が正値として算出され、これとオフセット値Vcain_oftとの偏差である制限値偏差r2が、ΔΣ変調アルゴリズムに基づくアルゴリズム[式(11)〜(13)]で変調されることで、変調出力u''が所定値+R/−Rとして算出されるとともに、この変調出力u''をゲイン調整したゲイン調整値uに、オフセット値Vcain_oftを加算することにより、電磁式カム位相可変機構30への制御入力Vcainが算出される。
このように、制限値r1が正値として算出されるものの、それとオフセット値Vcain_oftとの偏差である制限値偏差r2が、ΔΣ変調アルゴリズムに基づくアルゴリズム[式(11)〜(13)]で変調されることで、変調出力u''が算出されるとともに、変調出力u''の絶対値すなわち所定値Rが、値1より大きい、R>|r2|となるような値に設定されるので、所定値R、リミット処理の上下限値rmin,rmaxおよびオフセット値Vcain_oftを適切に設定することにより、参照入力rが値1よりもかなり大きい値に長い時間保持される場合でも、制限値偏差r2をその符号反転が頻繁に生じる値として算出でき、偏差信号値δが同じ値に長時間、保持されるのを回避できる。その結果、変調出力u''を、その最大値Rと最小値−Rとの間での反転が頻繁に発生するとともに、最大値R側への反転頻度と最小値−R側への反転頻度とが半々の割合に近づくような値として算出することができ、制御精度を向上させることができる。
また、制御入力Vcainが、変調出力u''をゲイン調整したゲイン調整値uに、オフセット値Vcain_oftを加算することにより算出されるので、このオフセット値Vcain_oftの加算により、制御入力Vcainを、所定の正の最小値Vcainminと最大値Vcainmaxとの範囲内のみで変化する値として算出でき、それにより、上記のような磁束方向の反転を回避できる。これに加えて、この最小値Vcainminが、起動時の電磁力Fsolの立ち上がりが遅い領域を外れるような値に設定されている。以上により、電力効率および制御性をいずれも向上させることができる。
さらに、カム位相Cainを変更する機構として、電磁式カム位相可変機構30を用いているので、油圧駆動式のカム位相可変機構を用いた場合と異なり、油圧の立ち上がりを待つことなく、起動時からカム位相Cainを適切に制御できるとともに、油温の影響を受けることもない。すなわち、油圧駆動式のものと比べて、むだ時間をより小さくできるとともに、より高い応答性を確保できる。その結果、制御精度をさらに向上させることができる。
なお、第1実施形態は、差分器50dに帰還される変調出力の遅延値u''(k−1)すなわち変調出力u''を、その絶対値が制限値偏差r2よりも大きくなるように(すなわち|u''|=R>|r2|が成立するように)算出するために、非線形関数fnlすなわちリレー要素50gを用いた例であるが、変調出力u''を算出するための構成はこれに限らず、変調出力u''を上記のような値として算出できるものであればよい。例えば、非線形関数fnlすなわちリレー要素50gに代えて、符号関数sgnおよび乗算ゲイン、すなわち量子化器および増幅器を組み合わせて用いることにより、変調出力u''を上記のような値として算出してもよい。
また、TDFSLDコントローラ40により算出される参照入力rの絶対値が値1を超えない場合には、DSMコントローラ50のリレー要素50g(すなわち非線形関数fnl)に代えて、量子化器(すなわち符号関数sgn)を用いてもよい。さらに、目標カム位相Cain_cmdおよび参照入力rがいずれも負値として算出される場合、オフセット値Vcain_oftを負値として設定し、制御入力Vcainを、負値側の所定範囲内のみで変化するように設定してもよい。
さらに、第1実施形態は、電磁式カム位相可変機構30を、吸気カム5のカム位相Cainを変更するのに用いた例であるが、これを、排気カム8のクランクシャフト10に対するカム位相を変更するのに用いてもよい。また、カム位相Cainを目標カム位相Cain_cmdになるように制御するための制御アルゴリズムは、第1実施形態の2自由度スライディングモード制御アルゴリズムに限らず、カム位相Cainを目標カム位相Cain_cmdになるように制御可能なものであればよい。例えば、PID制御アルゴリズム、またはバックステッピング制御アルゴリズムなどの応答指定型制御アルゴリズムを用いてもよい。
次に、図21を参照しながら、第2実施形態の制御装置について説明する。同図に示すように、この第2実施形態の制御装置1Aは、第1実施形態の制御装置1と比べると、DSMコントローラ50に代えて、SDMコントローラ70を用た点のみが異なっており、その他の点は第1実施形態の制御装置1と同様に構成されているので、説明を省略する。このSDMコントローラ70(制御値算出手段、制御入力算出手段)は、ΣΔ変調アルゴリズムを適用した制御アルゴリズムにより、TDFSLDコントローラ40からの参照入力r(k)に基づいて制御入力Vcain(k)を算出するものである。
すなわち、このSDMコントローラ70では、TDFSLDコントローラ40からの参照入力r(k)がリミッタ70aに入力されると、このリミッタ70aにより制限値r1(k)が生成され、次に、差分器70bにより、制限値偏差r2(k)が、制限値r1(k)と、オフセット値発生部70cからの所定のオフセット値Vcain_oftとの偏差として生成される。次いで、積分器70dにより、制御値の積分値としての偏差積分値σr(k)が、制限値偏差r2(k)と偏差積分値の遅延値σr(k−1)との和として生成される。一方、積分器70eより、変調値の積分値としての変調出力積分値σu''(k)が、遅延素子70fで遅延された変調出力u''(k−1)と、変調出力積分値の遅延値σu''(k−1)との和として生成される。そして、差分器70gにより、偏差信号値δ(k)が、偏差積分値σr(k)と変調出力積分値σu''(k)との偏差として生成される。
次いで、リレー要素70hにより、変調出力u''(k)が、偏差信号値δ(k)に基づいて所定値+R/−Rとして生成される。そして、増幅器70iにより、ゲイン調整値u(k)が、変調出力u''(k)を所定の振幅調整ゲインF(=KDSM)でゲイン調整した値として生成され、次に、加算器70jにより、制御入力Vcain(k)が、ゲイン調整値u(k)と上記オフセット値Vcain_oftとの和として、生成される。
以上のSDMコントローラ70の制御アルゴリズムは、図22に示す式(22)〜(29)で表される。この式(22)の制限値Lim(r(k))の制限幅は、前述した式(9)のものと同じ値に設定されている。さらに、式(27)の非線形関数fnl(δ(k))は、δ(k)≧0のときにはfnl(δ(k))=Rとなり、δ(k)<0のときにはfnl(δ(k))=−Rとなるように設定されている(なお、δ(k)=0のときには、fnl(δ(k))=0と設定してもよい)。
さらに、前述した理由により、所定値Rは、R>|r2(k)|の関係が常に成立するような、値1より大きい値に設定されている。さらに、式(23)のオフセット値Vcain_oftおよび式(28)の振幅調整ゲインKDSMもそれぞれ、前述したように、制御入力Vcainの符号の反転を回避可能な適切な値(KDSM≦1)に設定されている。
以上のSDMコントローラ70によれば、前述したDSMコントローラ50と同様に、制御入力Vcain(k)を、所定の正の最大値Vcainmaxと最小値Vcainminとの間で頻繁に反転するとともに、最大値Vcainmax側への反転頻度と最小値Vcainmin側への反転頻度とが半々の割合に近づくような値として算出することができる。その結果、本実施形態の制御装置1Aでも、前述した第1実施形態の制御装置1と同様の作用効果を得ることができる。
次に、図23を参照しながら、第3実施形態の制御装置1Bについて説明する。この第3実施形態の制御装置1Bは、第1実施形態の制御装置1と比べると、DSMコントローラ50に代えて、DMコントローラ80を用いた点のみが異なっており、その他の点は第1実施形態の制御装置1と同様に構成されているので、説明を省略する。このDMコントローラ80(制御値算出手段、制御入力算出手段)は、Δ変調アルゴリズムを適用した制御アルゴリズムにより、TDFSLDコントローラ40からの参照入力r(k)に基づいて制御入力Vcain(k)を算出するものである。
すなわち、同図に示すように、このDMコントローラ80では、TDFSLDコントローラ40からの参照入力r(k)がリミッタ80aに入力されると、このリミッタ80aにより制限値r1(k)が生成され、次に、差分器80bにより、制限値偏差r2(k)が、制限値r1(k)と、オフセット値発生部80cからの所定のオフセット値Vcain_oftとの偏差として生成される。一方、積分器80dより、変調出力積分値σu''(k)が、遅延素子80eで遅延された変調出力u''(k−1)と、変調出力積分値の遅延値σu''(k−1)との和として生成される。そして、差分器80fにより、偏差信号値δ(k)が、制限値偏差r2(k)と変調出力積分値σu''(k)との偏差として生成される。
次いで、リレー要素80gにより、変調出力u''(k)が、偏差信号値δ(k)に基づいて所定値+R/−Rとして生成される。そして、増幅器80hにより、ゲイン調整値u(k)が、変調出力u''(k)を所定の振幅調整ゲインF(=KDSM)でゲイン調整した値として生成され、次に、加算器80iにより、制御入力Vcain(k)が、ゲイン調整値u(k)と上記オフセット値Vcain_oftとの和として、生成される。
以上のDMコントローラ80の制御アルゴリズムは、図24の式(30)〜(36)で表される。この式(30)の制限値Lim(r(k))は、前述した式(22)のものと同じ制限幅に設定されている。さらに、式(34)の非線形関数fnl(δ(k))も、前述した式(34)のものと同じ値に設定されている。すなわち、δ(k)≧0のときにはfnl(δ(k))=Rとなり、δ(k)<0のときにはfnl(δ(k))=−Rとなるように設定されている(なお、δ(k)=0のときには、fnl(δ(k))=0と設定してもよい)。
さらに、前述した理由により、所定値Rは、R>|r2(k)|の関係が常に成立するような、値1より大きい値に設定されている。さらに、式(31)のオフセット値Vcain_oftおよび式(35)の振幅調整ゲインKDSMもそれぞれ、前述したように、制御入力Vcainの符号の反転を回避可能な適切な値(KDSM≦1)に設定されている。
以上のDMコントローラ80によれば、前述したDSMコントローラ50と同様に、制御入力Vcain(k)を、所定の正の最大値Vcainmaxと最小値Vcainminとの間で頻繁に反転するとともに、最大値Vcainmax側への反転頻度と最小値Vcainmin側への反転頻度とが半々の割合に近づくような値として算出することができる。その結果、本実施形態の制御装置1Bでも、前述した第1実施形態の制御装置1と同様の作用効果を得ることができる。
次に、図25を参照しながら、第4実施形態の制御装置について説明する。同図に示すように、この第4実施形態の制御装置1Cは、エンジン3の空燃比を制御するためのものであり、その制御対象は、後述する燃料補正値KAF(制御入力)が入力されることで、検出空燃比Kact(制御対象の出力)を出力する系に相当する。制御装置1Cは、2自由度スライディングモードコントローラ90、DSMコントローラ91、基本燃料量算出部92、乗算器93および目標空燃比算出部94を備えている。
この目標空燃比算出部94では、例えば、エンジン回転数NEおよび吸気管内絶対圧PBAに応じたマップ検索などにより、目標空燃比Kcmd(当量比換算値)が算出される。
また、2自由度スライディングモードコントローラ90(制御値算出手段)では、目標空燃比算出部94で算出された目標空燃比Kcmdと、LAFセンサ23からの検出空燃比Kact(当量比換算値)とに基づき、2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、参照入力r(k)が算出される。この2自由度スライディングモードコントローラ90の制御アルゴリズムは、具体的には、前述したTDFSLDコントローラ40のものと同様に構成されている。
さらに、DSMコントローラ91(制御値算出手段、制御入力算出手段)では、2自由度スライディングモードコントローラ90からの参照入力r(k)に基づき、ΔΣ変調アルゴリズムに基づく制御アルゴリズムにより、燃料補正値KAF(k)が算出される。この燃料補正値KAF(k)は、当量比換算値として算出される。
このDSMコントローラ91の制御アルゴリズムは、具体的には、前述したDSMコントローラ50のものと同様に構成されている。すなわち、図25に示すように、DSMコントローラ91では、2自由度スライディングモードコントローラ90からの参照入力r(k)がリミッタ91aに入力されると、このリミッタ91aにより参照入力r(k)をリミット処理した制限値r1(k)が生成され、差分器91bにより、制限値偏差r2(k)が、制限値r1(k)と、オフセット値発生部91cからの所定のオフセット値Kcmd_oftとの偏差として生成される。さらに、差分器91dにより、この制限値偏差r2(k)と遅延素子91eで遅延された変調出力u''(k−1)との偏差として偏差信号値δ(k)が生成される。
次いで、積分器91fにより、偏差積分値σ(k)が、偏差信号値δ(k)と、偏差積分値の遅延値σ(k−1)との和の信号として生成され、次に、リレー要素91gにより、変調出力u''(k)が、偏差積分値σ(k)に基づいて所定値+R1/−R1として生成される。この所定値R1は、前述した理由により、R1>|r2|が常に成立するような、値1より大きい値に設定されている。そして、増幅器91hにより、ゲイン調整値u(k)が、変調出力u''(k)を所定の振幅調整ゲインFでゲイン調整した値として生成され、次に、加算器91iにより、燃料補正値KAF(k)が、ゲイン調整値u(k)と、前述した信号発生器91cからの所定のオフセット値Kcmd_oftとの和として生成される。
以上の制御アルゴリズムにおいて、オフセット値Kcmd_oftおよび振幅調整ゲインFはそれぞれ、前述した理由により、制御入力KAFの符号の反転を回避可能な適切な値に設定されている。
一方、基本燃料量算出部92では、エンジン回転数NEおよび吸気管内絶対圧PBAに応じて、図示しないマップを検索することにより、基本燃料量Tibaseが算出される。そして、乗算器93により、燃料噴射量Toutが基本燃料量Tibaseに燃料補正値KAF(k)を乗算した値として算出される。そして、この燃料噴射量Toutを表す制御信号がインジェクタ14に供給されることにより、インジェクタ14の開弁時間が制御され、空燃比が制御される。
以上の第4実施形態の制御装置1Cによれば、目標空燃比Kcmdがリーン領域からリッチ領域にわたる広範囲の値(例えば当量比0.7〜1.2)に設定されることで、検出空燃比Kactがリーン領域の値とリッチ領域の値との間で変化する場合でも、所定のオフセット値Kcmd_oft、振幅調整ゲインFおよび所定値R1を適切に設定することにより、燃料補正値KAF(k)を、そのような目標空燃比Kcmdの変動に対応しながら所定範囲で変動するとともに、検出空燃比Kactを目標空燃比Kcmdに精度よく収束させることができる値として、算出することができる。すなわち、エンジン3がリーンバーン運転される場合でも、空燃比制御を精度よく行うことができる。
なお、以上の各実施形態は、本発明の制御装置を、カム位相Cainを制御するもの、または内燃機関3の空燃比を制御するものに適用した例であるが、本発明の制御装置はこれに限らず、他の任意の制御対象を制御する制御装置に広く適用可能であることは言うまでもない。また、各種のコントローラ40,50,70,80,90,91を、実施形態のプログラムに代えて、電気回路により構成してもよい。