次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の実施形態に従う、内燃機関(以下、エンジンと呼ぶ)およびその制御装置の全体的な構成図である。
電子制御ユニット(以下、「ECU」)という)1は、車両の各部から送られてくるデータを受け入れる入力インターフェース1a、車両の各部の制御を行うための演算を実行するCPU1b、読み取り専用メモリ(ROM)およびランダムアクセスメモリ(RAM)を有するメモリ1c、および車両の各部に制御信号を送る出力インターフェース1dを備えている。メモリ1cのROMには、車両の各部の制御を行うためのプログラムおよび各種のデータが格納されている。この発明に従う制御のためのプログラムは、該ROMに格納される。ROMは、EPROMのような書き換え可能なROMでもよい。RAMには、CPU1bによる演算のための作業領域が設けられる。車両の各部から送られてくるデータおよび車両の各部に送り出す制御信号は、RAMに一時的に記憶される。
エンジン2は、たとえば4サイクルDOHC型ガソリンエンジンである。エンジン2は、吸気カムシャフト5および排気カムシャフト6を備えている。吸気カムシャフト5は、吸気バルブ3を開閉駆動する吸気カム5aを有しており、排気カムシャフト6は、排気バルブ4を開閉駆動する排気カム6aを有している。これらの吸気および排気カムシャフト5および6は、図示しないタイミングベルトを介してクランクシャフト7に連結されており、クランクシャフト7が2回転するごとに1回転する。
連続可変位相装置(VTC)10は、ECU1から供給される指令値に従い、クランクシャフト7に対する吸気カム5aの実際の位相CAINを連続的に制御する。連続可変位相装置は、任意の適切な機構により実現されることができる。本明細書では、油圧を用いた実施例と、電磁ブレーキを用いた実施例とが、後述される。
吸気カムシャフト5の端部には、カム角センサ20が設けられている。カム角センサ20は、吸気カムシャフト5の回転に伴い、所定のカム角(たとえば、1度)ごとに、パルス信号であるCAM信号をECU1に出力する。
エンジン2の吸気管15には、スロットル弁16が設けられている。スロットル弁16の開度は、ECU1からの制御信号により制御される。スロットル弁16に連結されたスロットル弁開度センサ(θTH)17は、スロットル弁16の開度に応じた電気信号を、ECU1に供給する。
吸気管圧力(Pb)センサ18は、スロットル弁16の下流側に設けられている。Pbセンサ18によって検出された吸気管圧力PbはECU1に送られる。
さらに、吸気管15には、燃料噴射弁19が気筒毎に設けられている。燃料噴射弁19は、燃料タンク(図示せず)から燃料の供給を受け、ECU1からの制御信号に従って燃料を噴射する。
エンジン2には、クランク角センサ21が設けられている。クランク角センサ21は、クランクシャフト7の回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU1に出力する。
CRK信号は、所定のクランク角(たとえば、30度)で出力されるパルス信号である。ECU1は、該CRK信号に応じ、エンジン2の回転数NEを算出する。さらに、ECU1は、CRK信号とCAM信号に基づいて、位相CAINを算出する。また、TDC信号は、ピストン9のTDC位置に関連したクランク角度で出力されるパルス信号である。
エンジン2の下流側には排気管22が連結されている。エンジン2は、排気管22を介して排気する。排気管22の途中に設けられた触媒装置23は、排気管22を通る排気ガス中のHC、CO、NOxなどの不所望な成分を浄化する。
広域空燃比センサ(LAF)センサ24は、触媒装置23の上流に設けられている。LAFセンサ24は、リーンからリッチにわたる広範囲の空燃比を検出する。検出された空燃比は、ECU1に送られる。
O2(排ガス)センサ25は、上流触媒と下流触媒の間に設けられている。O2センサ25は2値型の排気ガス濃度センサである。O2センサは、空燃比が理論空燃比よりもリッチであるとき高レベルの信号を出力し、空燃比が理論空燃比よりもリーンであるとき低レベルの信号を出力する。出力された電気信号は、ECU1に送られる。
ECU1に向けて送られた信号は入力インターフェース1aに渡され、アナログ−デジタル変換される。CPU1bは、変換されたデジタル信号を、メモリ1cに格納されているプログラムに従って処理し、車両のアクチュエータに送るための制御信号を作り出す。出力インターフェース1dは、これらの制御信号を、連続可変位相装置10、スロットル弁16、燃料噴射弁19、およびその他の機械要素のアクチュエータに送る。
第1の実施例
本願発明の第1の実施例に従う制御手法を、連続可変位相装置を制御対象にとって説明する。図2は、図1に示される連続可変位相装置10の一例を示す。この実施例では、連続可変位相装置10は、油圧を用いて実現される。連続可変位相装置10は、連続可変位相機構11および油圧駆動部12を備える。
ECU1からの指令値Vcainはソレノイド31に供給される。ソレノイド31が指令値Vcainに従って通電され、該ソレノイド31により、油圧スプール弁32が駆動される。油圧スプール弁32は、タンク33内の作動油を、ポンプ34を介して吸い上げる。
油圧スプール弁32は、進角油路36aおよび遅角油路36bを介して、連続可変位相機構11に連結されている。進角油路36aに供給される作動油の油圧OP1および遅角油路36bに供給される作動油の油圧OP2は、油圧スプール弁32を介して指令値Vcainに従って制御される。
連続可変位相機構11は、ハウジング41およびベーン42を備える。ハウジング41は、図示しないスプロケットおよびタイミングベルトを介してクランクシャフト7に連結されている。ハウジング41は、クランクシャフト7の回転に伴い同じ方向に回転する。
ベーン42は、ハウジング41内に挿入された吸気カムシャフト5から放射状に延びている。ベーン42は、所定の範囲内で、ハウジング41に対して相対的に回転可能なように該ハウジング41に収容されている。ハウジング41内に形成される扇状の空間が、ベーン42によって、3つの進角室43a、43bおよび43cと、3つの遅角室44a、44bおよび44cに区画されている。3つの進角室43a〜43cには、進角経路36aが連結されている。油圧OP1の作動油は、進角経路36aを介して進角室43a〜43cに供給される。3つの遅角室44a〜44cには、遅角経路36bが連結されている。油圧OP2の作動油は、遅角経路36bを介して遅角室44a〜44cに供給される。
油圧OP1と油圧OP2との差がゼロであるときには、ベーン42がハウジング41に対して相対的に回転せず、それにより、位相CAINの値は維持される。ECU1からの指令値Vcainにより、油圧OP1が油圧OP2より大きくなったときには、それに応じて、ベーン42がハウジング41に対して相対的に進角側に回転し、位相CAINが進角される。ECU1からの指令値Vcainにより、油圧OP2が油圧OP1より大きくなったときには、それに応じて、ベーン42がハウジング41に対して相対的に遅角側に回転し、位相CAINが遅角される。
このような連続可変位相装置では、ポンプから吐出される油圧にバラツキが生じたり、作動油の粘性に変化が生じたりすることがある。また、ベーンとハウジングの隙間にバラツキや経年変化が生じることがある。このような状態が生じると、連続可変位相装置の動特性が変化する。連続可変位相装置の動特性の変化に対し、ロバストに位相CAINを目標値に制御するのが好ましい。
図3は、この発明の一実施形態に従う、連続可変位相装置10を制御する装置のブロック図である。コントローラ51および変調器52の機能は、典型的には、ECU1において実現される。一実施形態では、これらの機能は、ECU1のメモリ1cに記憶されたコンピュータプログラムにより実現される。代替的に、ソフトウェア、ハードウェアおよびファームウェアおよびこれらの任意の組み合わせにより実現してもよい。
プラント(制御対象)である連続可変位相装置10への制御入力Vcainは、前述したように、ソレノイド31を駆動する指令値である。制御出力CAINは、吸気カム5aのクランクシャフト7に対する実際の位相である。
コントローラ51は、連続可変位相装置10の出力CAINを、目標値CAIN_cmd(より正確には、後述するように、修正された目標値CAIN_cmd_f)に収束させるように、操作量Rcainを算出する。目標値CAIN_cmdは、好ましくは、運転手から要求される駆動力(典型的には、アクセルペダルの開度に基づく)および/またはエンジンの運転状態に応じて設定される。
この実施例では、コントローラ51は、2自由度スライディングモード制御を実行して、操作量Rcainを算出する。代替的に、他の制御手法を用いて、操作量Rcainを算出してもよい。2自由度スライディングモード制御については、後述される。
ΔΣ変調器52は、操作量Rcainを、参照信号として受け取る。ΔΣ変調器52は、ΔΣ(デルタシグマ)変調アルゴリズムを実行して、参照信号Rcainを変調する。ΔΣ変調アルゴリズムにより、参照信号Rcainは、スイッチング特性を持つ変調信号Vcainに変調される。該変調信号Vcainは、連続可変位相装置10に印加される制御入力である。変調信号Vcainのスイッチング特性により、連続可変位相装置10は、良好な精度で、制御量CAINが目標値CAIN_cmdに収束するよう制御される。
2自由度スライディングモード制御について説明する。スライディングモード制御は、制御量の収束速度を指定することができる応答指定型制御である。2自由度スライディングモード制御は、スライディングモード制御を発展させた形態を持ち、制御量の目標値に対する追従速度と、外乱が印加された時の制御量の収束速度とを、個別に指定することができる。
2自由度スライディングモードコントローラ51は、式(1)に示されるように、目標値応答指定パラメータPOLE_fを用いて、目標値CAIN_cmdに一次遅れフィルタ(ローパスフィルタ)を適用する。目標値応答指定パラメータPOLE_fは、制御量の目標値に対する追従速度を規定しており、好ましくは、−1<POLE_f<0を満たすよう設定される。kは、制御時刻を示す。
式(1)に示されるように、目標値応答指定パラメータPOLE_fにより、目標値CAIN_cmd_fの軌道が決まる。どのような軌道を設定するかにより、制御量の目標値への追従速度を指定することが可能となる。コントローラ51は、こうして応答指定パラメータPOLE_fにより修正された目標値CAIN_cmd_fに制御量CAINが収束するように、操作量Rcainを算出する。
コントローラ51は、式(2)に示されるように、切り換え関数σsを定義する。Ecainは、実位相CAINと目標値CAIN_cmd_fの偏差である。切り換え関数σsは、該偏差Ecainの収束挙動を規定する。POLEは、外乱抑制のための応答指定パラメータであり、外乱が印加された時に生じるおそれのある偏差Ecainの収束速度を規定する。該応答指定パラメータPOLEは、好ましくは、−1<POLE<0を満たすよう設定される。
コントローラ51は、式(3)に示されるように、切り換え関数σsがゼロとなるように操作量Rcainを決定する。
式(3)は、入力の無い一次遅れ系を示す。スライディングモード制御は、偏差Ecainを、式(3)に示される一次遅れ系に拘束するよう制御する。
図4は、縦軸にEcain(k)および横軸にEcain(k-1)を有する位相平面を示す。位相平面には、式(3)によって表現される切り換え線61が示されている。点62を状態量(Ecain(k-1), Ecain(k))の初期値と仮定すると、コントローラ51は、該状態量を、切り換え線61上に載せて該切り換え線61上に拘束する。こうして、入力の無い一次遅れ系に状態量が拘束されるので、時間の経過とともに、状態量は、位相平面の原点(すなわち、Ecain(k), Ecain(k-1)=0)に自動的に収束する。状態量を切り換え線61上に拘束することにより、外乱の影響を受けることなく、状態量を原点に収束させることができる。
図5を参照すると、参照番号63、64および65は、外乱抑制のための応答指定パラメータPOLEが、それぞれ、−1、−0.8、−0.5の場合の偏差Ecainの収束速度を示す。応答指定パラメータPOLEの絶対値が小さくなるにつれ、偏差Ecainの収束速度は速くなる。
コントローラ51は、操作量Rcainを求めるため、簡易型制御入力Rff、到達則入力Rrch、適応則入力Radp、およびダンパー入力Rdumpを求める。
簡易型等価制御入力Rffは、等価制御入力から算出されることができる。等価制御入力の算出について、簡単に述べる。等価制御入力は、状態量を切換線上に拘束する入力なので、式(4)を満たす必要がある。プラントが式(5)のように表される場合には(ここで、a1、a2およびb1はモデルパラメータである)、式(4)に式(5)を代入することにより、式(6)を導くことができる。
式(6)により算出されるVcain’(k)が、等価制御入力である。等価制御入力は、(I)項および(II)項により表される、2つの働きを持つ。(I)項は、目標値が一定の場合に、状態(CAIN(k), CAIN(k-1))を目標値に整定させるための入力である。(II)項は、目標値が変化した場合に、該状態の目標値への追従性を向上させるためのフィードフォワード入力であり、簡易型等価制御入力と呼ばれる。この実施例のように、モデル式を得られない場合には、(II)項の簡易型等価制御入力のみを採用して、目標値への追従性を向上させることができる。式(7)に、簡易型制御入力Rffの算出式を示す。
コントローラ51は、さらに、式(8)に従って到達則入力Rrchを算出し、式(9)に従って適応則入力Radpを算出し、式(10)に従ってダンパー入力Rdumpを算出する。到達則入力Rrchは、状態量を切り換え線上に載せるための入力であり、切換関数σsの比例項として算出される。適応則入力Radpは、定常偏差を抑制しつつ、状態量を切換線に載せるための入力であり、切換関数σsの積分項として算出される。ダンパー入力Rdumpは、実位相CAINが過度に加速してしまった場合に、該実位相CAINを減速するための入力である。Krch、KadpおよびKdumpは、フィードバックゲインであり、それぞれ、シミュレーション等によって予め定められる。
コントローラ51は、式(11)に示されるように、簡易型等価制御入力Rff、到達則入力Rrch、適応則入力Radpおよびダンパー入力Rdumpを加算し、操作量Rcainを算出する。これが、参照信号としてΔΣ変調器52に入力される。
図6は、ΔΣ変調器52の詳細なブロック図である。コントローラ51から受け取った参照信号Rcainは、式(12)に示されるように、リミッタ71により制限処理される。関数Lim()により、参照信号Rcainは、下限値(たとえば、2V)と上限値(たとえば、+7V)の範囲内に制限される。
リミッタ71を設けないと、位相CAINが、コントローラの制御サイクルでは十分にその挙動を観測することができないほどの急激な変化を起こすおそれがある。このような制御不能な状態を防止するため、リミッタ71を設ける。
次に、式(13)に示されるように、リミッタ71の出力信号r1から、適応オフセット生成器80から受け取った適応オフセット値Vcain_oft_adpを減算する。こうして、参照信号Rcainから適応オフセット値Vcain_oft_adpを減算した信号が、ΔΣ変調されることとなる。
代替的に、リミッタ71を、加算器72と差分器73の間に設けてもよい。この場合には、参照信号Rcainから適応オフセット値Vcain_oft_adpを減算し、該減算により得られる値が、リミッタ71による制限処理を受ける。当然ながら、該制限処理の上限値および下限値は、適切な値(たとえば、±2.5V)に設定される。リミッタ71の出力が、差分器73に供される。
差分器73は、式(14)に示されるように、オフセット後の信号r2(k)と、遅延素子75により遅延された変調信号u”(k−1)との偏差δ(k)を算出する。積分器74は、式(15)に示されるように、該偏差信号δ(k)と、遅延素子76により遅延された該偏差δの積分値σ(k−1)とを加算し、偏差積分値σ(k)を算出する。
非線形関数部77は、式(16)に示されるように、該偏差積分値σ(k)を符号化し、変調信号u”(k)を出力する。該符号化は、式(17)に示されるように、非線形関数fnl()を偏差積分値σ(k)に適用することにより行われる。偏差積分値σ(k)がゼロ以上ならば、+Rの値を持つ信号を出力し、偏差積分値σ(k)がゼロより小さければ、―Rの値を持つ信号を出力する。ここで、Rは、信号r2のとりうる最大の絶対値よりも大きい値を持つよう設定される。代替的に、偏差積分値σがゼロの時、非線形関数部77は、ゼロの値を持つ信号を出力してもよい。
典型的なΔΣ変調器では、非線形関数fnl()に代えて、±1を出力する符号関数が使用される。|r2|≧1の場合、このような符号関数を用いると、最大値または最小値へのホールドが生じる変調信号u”が出力されるおそれがある。最大値または最小値にホールドされる頻度が高くなると、制御精度が低下する。このようなホールド現象は、信号r2が、差分器73にフィードバックされる変調信号u”の絶対値(すなわち、値1)を超えるために起こる。したがって、本実施形態では、変調信号u”の絶対値が、値1ではなく、信号r2がとりうる最大値よりも大きい値Rを持つように、非線形関数fnl()を導入する。これにより、信号r2の絶対値が1以上の場合にも、変調信号u”にホールド状態が生じることを回避することができる。
増幅器78は、式(18)に示すように、変調信号u”(k)を増幅し、増幅変調信号u(k)を出力する。Fは、変調信号Vcainの振幅を調整するゲインである(たとえば、3)。
次に、式(19)に示されるように、増幅変調信号u(k)に、適応オフセット生成器80から受け取った適応オフセット値Vcain_oft_adpを加算し、プラントへ印加される変調信号Vcainを算出する。
適応オフセット値Vcain_oft_adpの減算/加算処理(図6の参照番号72および79)を導入するのは、以下の理由による。すなわち、位相CAINの制御精度を高めるためには、制御入力(変調信号)Vcainについて、最大値として出力される頻度と、最小値として出力される頻度を、ほぼ同等(すなわち、50%ずつ)にするのがよい。しかしながら、実際には、制御入力Vcainは正の値を持ち、よってコントローラ51により算出される参照信号Rcainも正の値を持つ。その結果、図7(a)に示されるように、変調信号u”は、最大値として出力される頻度が高くなる。
そこで、本実施形態では、式(13)に示されるように、加算器72は、参照信号Rcain(正確には、制限処理された後の信号r1)から適応オフセット値Vcain_oft_adpを減算する。このオフセット操作により、図7の(b)に示されるように、変調信号u”について、最大値として出力される頻度と最小値として出力される頻度をほぼ同等にすることができる。式(19)に示されるように、該適応オフセット値Vcain_oft_adpは、加算器79により、プラントへの制御入力Vcainを算出する際に加算される。
従来、加算器72および79により使用されるオフセット値は、固定値であった。本願発明によれば、該オフセット値を、参照信号Rcainに適応させる。一実施例では、図6に示すように、適応オフセット生成器80を設け、参照信号Rcainに適応したオフセット値Vcain_oft_adpを算出する。
適応オフセット値Vcain_oft_adpは、参照信号Rcainに追従するよう算出される。加算器72において、該適応オフセット値Vcain_oft_adp(k)を参照信号Rcain(k)から減算することにより、変調信号u(k)は、最大値と最小値の頻度が同等になるようなスイッチング信号として生成される(図7を参照)。
加算器79において、変調信号u(k)に適応オフセット値Vcain_oft_adp(k)を加算することにより、変調信号u(k)の振幅の中心値は、Vcain_oft_adp(k)になる。変調信号Vcainは、該中心値Vcain_oft_adpに対し、プラス方向とマイナス方向にスイッチングする信号となる。変調信号Vcainの振幅は、非線形関数fnlにおけるRの値および増幅器78のゲインFにより決まる。
こうして、適応オフセット値Vcain_oft_adpが参照信号Rcainに追従するように生成されることにより、変調信号Vcainも、参照信号Rcainに追従するよう生成される。
図8を参照して、適応オフセット値を用いることの効果を説明する。時間t1において、参照信号Rcainがステップ状に変化する。適応オフセット値Vcain_oft_adpは、いくらかの応答遅れを伴いつつ、参照信号Rcainに追従するよう算出される。変調信号Vcainは、適応オフセット値Vcain_oft_adpを中心として−R×Fから+R×Fにわたる振幅Dを持つスイッチング信号である(前述したように、Rは非線形関数77のパラメータであり、Fは増幅器78のゲインである)。
変調信号Vcainの中心値すなわち適応オフセット値Vcain_oft_adpが参照信号Rcainに追従するよう算出されるので、参照信号Rcainが、変調信号Vcainの振幅Dから逸脱することがない。したがって、位相CAINを、目標値CAIN_cmdに良好に追従させることができる(図では、位相CAINおよび目標値CAIN_cmdが重なって、1本のラインとして表されている)。
また、参照信号Rcainの変動に応じて、適応オフセット値Vcain_oft_adpが自動的に調整される。したがって、連続可変位相装置10の発熱に起因するトルク特性の変化、バラツキおよび経年変化によるフリクション特性の変化等によって参照信号Rcainが変動しても、良好に、位相CAINを目標値CAIN_cmdに収束させることができる。
オフセット値Vcain_oft_adpが、参照信号Rcainに適応するよう算出されるので、参照信号Rcainの最大値および最小値を含むよう変調信号の振幅Dを大きくする必要がない。プラントへ印加される変調信号Vcainの振幅を大きくする必要がないので、プラントの制御出力、すなわち位相CAINが不安定になるのを回避することができる。
図9は、適応オフセット生成器80のブロック図である。リミッタ71(図6)の出力信号r1から、予め決められた基準オフセット値Vcain_oftを減算し、信号r3を出力する。非線形関数部82は、式(20)に示されるように、信号r3に、非線形関数Tnlを適用する。
関数Tnlは、信号r3が、(Vcain_oft_adp’(k-1)−Eps(k))から(Vcain_oft_adp’(k-1)+Eps(k))の範囲内にあるときは、信号r3を出力する。信号r3が、該範囲の上限値(Vcain_oft_adp’(k-1)+Eps(k))を超えたならば、該上限値を出力する。信号r3が、該範囲の下限値(Vcain_oft_adp’(k-1)−Eps(k))を下回ったならば、該下限値を出力する。こうして、信号r3が、前回の適応オフセット値Vcain_oft_adp(k-1)(正確には、前回の適応オフセット値Vcain_oft_adp(k-1)から基準オフセット値Vcain_oftを減算した値であるVcain_oft_adp’)を中心とした所定範囲内に収まるようにする。
信号r3に、該範囲を逸脱するようなインパルス的な挙動が生じると、適応オフセット値Vcain_oft_adpにもインパルス的挙動が生じるおそれがある。関数Tnlを適用することにより、このようなインパルス的挙動が適応オフセット値Vcain_oft_adpに生じることを回避することができる。
増幅器83、加算器84、遅延素子85および増幅器86により、非線形フィルタが構成される。非線形フィルタは、式(21)に示されるように、非線形関数部82からの出力信号r_tnlをフィルタリングし、オフセット修正量Vcain_oft_adp’’を算出する。Gはフィルタ係数であり、0<G≦1を満たすよう設定される。
制御出力CAINの目標値が一定となったとき、該制御出力に“ふらつき”が生じることがある。この“ふらつき”は、ノイズやインパルス的な外乱に起因して参照信号Rcainに瞬時的な変化が生じた時に、変調信号の中心値が大きく変動することによって生じる。式(21)に示されるようなフィルタリングにより、このような事象によって制御出力に現れる“ふらつき”を抑制することができる。
リミッタ87は、式(22)に従って、オフセット修正量Vcain_oft_adp’’を制限処理する。関数Lim’()により、オフセット修正量Vcain_oft_adp’’は、下限値(たとえば、−0.5V)から上限値(たとえば、+3V)の範囲内に制限される。リミッタ87を設ける理由は、前述した、リミッタ71を設ける理由と同様である。
加算器88は、式(23)に示されるように、制限処理されたオフセット修正量Vcain_oft_adp’に、基準オフセット値Vcain_oftを加算し、適応オフセット値Vcain_oft_adpを算出する。
こうして、参照信号Rcainとオフセット基準値Vcain_oftとの差に応じた適応オフセット値Vcain_oft_adpが算出される。このような算出により、適応オフセット値Vcain_oft_adpは、参照信号Rcainの変化に追従する。
図10を参照して、適応オフセット生成器に関する各種パラメータの推移と、非線形関数Tnlを導入することによる効果を説明する。
図10の(a)には、リミッタ71により制限処理された後の信号r1が示されている。信号r1には、符号91および92に示されるような急激な変動が現れている。これは、参照信号Rcainに、このような急激な変動が含まれていることを示す。
適応オフセット値Vcain_oft_adpは、信号r1に追従するよう算出されるので、非線形関数Tnlを導入しないと、信号r1のこのような急激な変動が、適応オフセット値に反映されるおそれがある。適応オフセット値の急激な変動は、変調信号Vcainに急激な変動を生じさせ、よって制御出力CAINを不安定にするおそれがある。非線形関数Tnlの導入により、適応オフセット値Vcain_oft_adpは、符号91および符号92に示されるような信号r1の急激な変動には追従しないよう算出されることができる。
図10の(b)には、信号r1から基準オフセット値Vcain_oftを減算することにより得られる信号r3が示されている。信号r3は、r_tnlのラインで示されるように、非線形関数Tnlによって、Vcain_oft_adp’(k-1)を中心とした所定範囲(Vcain_oft_adp’(k-1)−Eps〜Vcain_oft_adp’(k-1)+Eps)内に制限される。時間t1に示されるように、信号r3のインパルス的な挙動により該所定範囲内を超えると、信号r3は、該所定範囲内の上限値(Vcain_oft_adp’(k-1)+Eps)に制限される。時間t2に示されるように、信号r3の急激な変化により該所定範囲を超えると、信号r3は、該所定範囲内の上限値(Vcain_oft_adp’(k-1)+Eps)に制限される。
非線形関数部82の出力信号r_tnlが、所定範囲内に制限されるよう算出されるので、該出力信号r_tnlに基づいて算出される値Vcain_oft_adp’が、図に示されるように滑らかに推移する。Vcain_oft_adp’に基準オフセット値Vcain_oftを加算すると、図10の(a)に示される、適応オフセット値Vcain_oft_adpが得られる。適応オフセット値Vcain_oft_adpが、符号91および92に示されるような信号r1の急激な変動には追従しないよう算出されていることがわかる。
図11は、本発明の一実施形態に従う制御フローである。この制御フローは、所定の時間間隔で実施される。
ステップS1において、連続可変位相装置10が正常かどうか判断される。連続可変位相装置の異常(故障等)は、任意の適切な手法を用いて検出することができる。連続可変位相装置10に何らかの異常が検出されたならば、ステップS2において制御入力Vcainにゼロを設定する。この実施例では、連続可変位相装置10は、制御入力Vcainをゼロにすると、吸気カムの実位相CAINが最遅角になるように構成されている。
ステップS1において、連続可変位相装置10が正常ならば、エンジンが始動中かどうかを判断する(S3)。エンジンが始動中ならば、ステップS4において、目標値CAIN_cmdに、所定値CAIN_cmd_stを設定する。所定値CAIN_cmd_stは、筒内流動を向上させるため、少しだけ進角側に設定された値(たとえば、最遅角がゼロ度とすると、10度ぐらい)である。
エンジンが始動中でなければ、ステップS5において、エンジン回転数NEに基づいてマップを参照し、目標値CAIN_cmdを算出する。該マップの一例を、図12に示す。目標値CAIN_cmdは、エンジン回転数NEが高くなるほど、遅角側に設定される。また、目標値CAIN_cmdは、要求駆動力(典型的には、アクセルペダル開度により表される)が大きくなるほど、遅角側に設定される。この実施例では、エンジンの負荷が低い場合には、シリンダ内に残留しているガスを用いて燃焼を起こすことにより、エンジンの駆動力を下げる。したがって、エンジンの負荷が低い場合には、位相CAINを進角側に設定する。位相CAINを進角側に設定するほど、排気バルブが開いている期間と吸気バルブが開いている期間とがオーバーラップする時間が長くなり、燃焼に用いる残留ガスが多くなる。
ステップS6において、前述したΔΣ変調アルゴリズムを用いて、制御入力Vcainを算出する。
代替の実施形態では、ΔΣ変調アルゴリズムに代えて、ΣΔ(シグマデルタ)変調アルゴリズムまたはΔ(デルタ)変調アルゴリズムを用いてもよい。ΣΔ変調アルゴリズムを用いた変調器のブロック図を図13に示し、ΣΔアルゴリズムにより実施される演算を、式(24)〜(31)に示す。適応オフセット値Vcain_oft_adpは、図9を参照して説明した手法に従って、算出される。
また、Δ変調アルゴリズムを用いた変調器を図14に示す、Δ変調アルゴリズムにより実施される演算を、式(32)〜(38)に示す。適応オフセット値Vcain_oft_adpは、図9を参照して説明した手法に従って、算出される。
第2の実施例
図10を参照して説明したように、非線形関数Tnlの導入により、信号r1の急激な変動(これは、参照信号(操作量)Rcainの急激な変動に基づく)が、適応オフセット値に反映されることが回避され、よって、変調信号(制御入力)Vcainに反映されることが回避される。適応オフセット値の参照信号への追従性がこのように抑制されるのは、式(20)に示されるように、信号r3(信号r1から、基準オフセット値Vcain_oftを減算することにより得られる信号)を、Vcain_oft_adp’を中心とした±Epsの範囲に制限することに起因する。
図15を参照すると、図10の(b)の時間t1周辺の部分が、拡大されて示されている。信号r1が急激に変動したので、該信号r1から基準オフセットVcain_oftを減算することにより得られる信号r3も、急激に変動している。このような急激な変動が変調信号Vcainに反映されることを回避するため、式(20)に示されるように、非線形関数Tnlにより、信号r3は、Vcain_oft_adp’の前回値を中心とした±Epsの範囲に制限される。非線形関数Tnlにより生成されるのが、信号r_tnlである。時間Δtが経過する間に、信号r_tnlは、d1だけ信号r3に追従する。
仮に、Epsの幅を、Eps’で示される幅に広げたと仮定する。この場合に、式(20)により、結果として生成される信号r_tnlが、ライン111により表されている。ライン111によると、信号r_tnlは、時間Δtが経過する間に、d2(>d1)だけ信号r3に追従している。このように、Epsの値は、信号r_tnlの信号r3への追従速度を表している。Epsの値を大きくするほど、信号r_tnlの信号r3への追従速度が大きくなる。言い換えれば、Epsの値は、適応オフセット値Vcain_oft_adpの参照信号Rcainへの追従速度を表す。Epsの値を大きくするほど、該適応オフセット値の追従速度は速くなる。
図16を参照すると、参照信号Rcainが急激に変動する要因の一例が示されている。第1の例は、時間t1に示されるように、位相の目標値CAIN_cmdが急激に変動した場合である。コントローラ51(図3)は、該変動した目標値に位相CAINを追従させようとして、操作量(参照信号)Rcainを急激に変化させる。しかしながら、追従速度Epsが一定値に制限されているので、適応オフセット値Vcain_oft_adpの参照信号Rcainへの追従に制限がかけられる。制御入力(変調信号)Vcainの参照信号Rcainへの追従が遅くなり、結果として、位相Cainが、図に示されるようにオーバーシュートする。
第2の例は、時間t2およびt3に示されるように、外乱がプラントに印加された場合である。外乱の一例として、エンジン回転数NEがある。シフトチェンジ、急加速およびブレーキングにより、エンジン回転数NEが急激に変動することがある。エンジン回転数NEの急激な変動により、位相Cainは、目標値CAIN_cmdから偏差する。コントローラ51は、該偏差を収束させようとして、操作量Rcainを急激に変化させる。しかしながら、追従速度Epsが一定値に制限されているので、適応オフセット値Vcain_oft_adpの参照信号Rcainへの追従に制限がかけられる。制御入力Vcainの参照信号Rcainへの追従が遅くなり、結果として、図に示されるように、外乱の収束が遅くなる。エンジン回転数の急激な変動が外乱として位相に現れることは、特に、連続可変位相装置10(図3)が、電磁ブレーキを用いて実現される場合に起こりやすい。
追従速度Epsを常に速めることにより、このようなオーバーシュートや外乱による偏差を抑制することが考えられる。しかしながら、追従速度Epsを常に速めると、制御対象の出力CAINが振動的になることがあり、好ましくない。
図10の符号91に示されるように、信号r3のインパルス的な変動では、信号r3が即座に元の値に戻る。このようなインパルス的な変動に適応オフセット値を追従させると、前述したように、制御対象の出力を不安定にするおそれがある。しかしながら、目標値の変動および外乱印加により参照信号が急激に変動する場合には、オーバーシュートの回避および外乱の速やかな収束のために、適応オフセット値を参照信号に速やかに追従させるのが好ましい。
以下の第2の実施例を参照して、追従速度を、目標値および外乱の変化に応じて変更する手法を説明する。
図17は、本願発明の第2の実施例に従う、図1に示される連続可変位相装置10の他の例を示す。この実施例では、連続可変位相装置10は、電磁ブレーキを用いて、ECU1からの指令値Vcainに従い、吸気カム5aの位相を制御する。前述したように、エンジン回転数が外乱として位相CAINに現れるのは、このような連続可変位相装置において起こりやすい。したがって、第2の実施例では、電磁ブレーキを用いた連続可変位相装置を制御対象とする。
図17の(a)は連続可変位相装置10の側面図を示す。連続可変位相装置10は、遊星歯車機構131および電磁ブレーキ機構132を備える。図2の(b)は、遊星歯車機構131の正面図を示し、図2の(c)は、電磁ブレーキ機構132の正面図を示す。
遊星歯車機構131は、カムシャフト5に連結されるリングギヤ141、スプロケット133(これは、クランクシャフト7にチェーン等を介して連結され、クランクシャフト7からの回転力が伝達される)に連結されるキャリア142、および電磁ブレーキ機構132に連結されるサンギヤ143を備える。複数のプラネタリギヤ144が、キャリア142に回転可能なように支持されており、リングギヤ41およびサンギヤ143と噛合されている。
電磁ブレーキ機構132は、永久磁石151、電磁石152、およびリターンスプリング134を備える。永久磁石151は、図では点の網掛け領域に示されており、S極とN極が交互に並ぶよう配置されている。永久磁石151は、接続部材を介してサンギヤ143に連結されている。永久磁石151の外側に、電磁石152が、図では縦線の網掛け領域に示されるように配置されている。電磁石152には、ECU1からの指令値Vcainを受け取って電磁石への通電を制御するアクチュエータ(図示せず)が連結されている。該電磁石152への通電を制御することにより、電磁石152の磁性をNとSの間で切り換えることができる。リターンスプリング134は、サンギヤ143への接続部材とキャリア142への接続部材との間に連結されている。
アクチュエータにより電磁石152への通電がオフされているとき、スプロケット133の回転に従って矢印161の方向にキャリア142が回転すると、リングギヤ141、キャリア142およびサンギヤ143が一体となって回転している。この状態では、カムの位相は、スプロケットに対して最遅角になっている。
電磁石の152aおよび152bの部分がN極になり、152cおよび152d部分がS極になるように、アクチュエータによって電磁石152を通電すると、永久磁石151のNおよびS極部分が、電磁石のSおよびN極部分にそれぞれ吸引される。その結果、サンギヤ143の接続部材に、リターンスプリング134の付勢力に抗するように、ブレーキ(制動)力165がかかる。
キャリア142の回転速度は、スプロケット133の回転速度により拘束されている。ブレーキ力165により、サンギヤ143の、キャリア142に対する相対回転速度が大きくなる。プラネタリギヤの作動原理により、キャリア142に対するサンギヤ43の相対回転速度が増すと、キャリア142に対するリングギヤ141の相対回転速度が増す。すなわち、カムシャフト5の、スプロケット133に対する相対回転速度が大きくなる。その結果、カムシャフト5の回転は、スプロケット133に対して進角方向(矢印162の方向)に変位する。
こうして、電磁石152への通電量でサンギヤ143へのブレーキ力165を制御することにより、カムの位相を所望の値に制御することができる。
エンジン回転数の急激な変動が、カムの位相に外乱として現れることについては、図16を参照して上に述べた。この事象を、図17に示される電磁ブレーキを用いた連続可変位相装置を例にとって説明する。エンジン回転数NEが急激に高くなると、キャリア142の回転速度が増す。サンギヤ143は、慣性により、キャリアの回転に対して相対的に遅れる。結果として、プラネタリギヤの作動原理により、リングギヤ141が矢印162の方向、すなわち進角方向に回り、カムの位相は進む。エンジン回転数NEが急激に低くなると、キャリア142の回転速度が減る。サンギヤ143は、慣性により、キャリア142の回転に対して相対的に進む。リングギヤ141が、矢印162とは反対の方向、すなわち遅角方向に回り、カムの位相が遅れる。このように、エンジン回転数NEの急な増減は、外乱として、カムの位相を進ませたり、遅らせたりする。
第2の実施例は、第1の実施例と、制御対象である連続可変位相装置の実現形態が異なるが、図3のブロック図は、第2の実施例にも同様に適用される。すなわち、コントローラ51は、カムの実位相CAINが、目標値に収束するための操作量Rcainを算出する。操作量Rcainは、参照信号として変調器52に入力される。変調器52は、ΔΣ変調アルゴリズムを用いて、参照信号Rcainを変調し、変調信号Vcainを生成する。変調信号Vcainが、指令値として、連続可変位相装置10に入力される。
コントローラ51の動作およびΔΣ変調器52の動作は、第1の実施例と同じであるので、説明を省略する。また、図11の制御フローも、第2の実施例に同様に適用可能であるので、説明を省略する。また、ΔΣ変調器に代えて、図13および図14に示されるような、ΣΔ変調器およびΔ変調器を用いてもよい。
第1の実施例と異なる点は、適応オフセット生成器80によって実施される、適応オフセット値を生成する手法であるので、これについて説明する。
図18は、本願発明の第2の実施例に従う適応オフセット生成器80のブロック図を示す。Eps決定部201は、式(39)に従って、目標値変化パラメータQ_rを算出する。また、Eps決定部201は、式(40)に従って、外乱変化パラメータQ_dを算出する。目標値変化パラメータQ_rは、目標値の変化の程度を示し、外乱変化パラメータは、外乱としてのエンジン回転数NEの変化の程度を示す。GrおよびGdは、それぞれ、目標値変化判定係数および外乱変化判定係数を示し、たとえば、0より大きく、1以下の値に設定される。kは、制御時刻を示す。
式(39)は、目標値CAIN_cmdの変化に一次遅れフィルタを適用する式である。図16の時間t1において示されるように、目標値の変化は、一瞬の間に完了する。このような一瞬の変化に基づいてEpsを算出すると、算出されたEpsも瞬間的に変化するにすぎない。Epsの瞬間的な変化では、適応オフセット値が参照信号に良好に追従することができないおそれがある。したがって、Epsを変更する条件を継続させるため、一次遅れフィルタを用いて、目標値の瞬間的な変化を、継続的な変化に変換する。外乱についての式(40)についても、同様に、一次遅れフィルタが外乱の変化に適用される。
Eps決定部201は、目標値変化パラメータQ_rに基づいて、図19の(a)に示されるようなマップを参照し、目標値追従速度Eps_rを求める。さらに、Eps決定部201は、外乱変化パラメータQ_dに基づいて、図19の(b)に示されるようなマップを参照し、外乱追従速度Eps_dを求める。これらのマップは、たとえばメモリ1cに予め記憶されることができる。
これらのマップから明らかなように、目標値変化パラメータQ_rの絶対値が大きいほど、すなわち、目標値の変化の程度が大きいほど、目標値追従速度Eps_rは大きい値に設定される。同様に、外乱変化パラメータQ_dの絶対値が大きいほど、外乱追従速度Eps_dは大きい値に設定される。通常、外乱の急激な変化は、目標値の急激な変化より大きいので、(a)および(b)のマップは、外乱追従速度の方が目標値追従速度よりも、広い範囲にわたって変化することができるように作成される。
Eps決定部201は、式(41)に従い、目標値追従速度Eps_rと外乱追従速度Eps_dのうちの大きい方を選択し、これを、追従速度Epsとして用いる。こうして、追従速度Epsは、目標値または外乱の変化が大きいほど、大きい値に設定される。図15を参照して説明したように、追従速度Epsが大きくなるほど、適応オフセット値Vcain_oft_adpの参照信号Rcainへの追従速度を速めることができる。
図18に戻り、リミッタ71(図6)の出力信号r1から、予め決められた基準オフセット値Vcain_oftを減算し、信号r3を出力する。非線形関数部182は、Eps決定部201により決定された追従速度Epsを用いて、式(42)に従い、信号r3に、非線形関数Tnlを適用する。式(42)は、第1の実施例における式(20)と実質的に同じである。
すなわち、関数Tnlは、信号r3が、(Vcain_oft_adp’(k-1)−Eps(k))から(Vcain_oft_adp’(k-1)+Eps(k))の範囲内にあるときは、信号r3を出力する。信号r3が、該範囲の上限値(Vcain_oft_adp’(k-1)+Eps(k))を超えたならば、該上限値を出力する。信号r3が、該範囲の下限値(Vcain_oft_adp’(k-1)−Eps(k))を下回ったならば、該下限値を出力する。Epsの値が、目標値変化および外乱変化に応じて変更される点に注意されたい。このようなEpsにより、目標値変化および外乱変化が生じた時には、より速く参照信号に追従するよう適応オフセット値Vcain_oft_adpが生成される。
急な加減速を繰り返すような運転状態では、連続可変位相装置10および吸気バルブ3のリフトを駆動する装置の応答遅れにより、吸気バルブ3のリフト量が大きく、かつカムの位相の進角の量が大きい、という運転状態が起こりうる。このような状態においては、吸気バルブと排気バルブのオーバーラップが大きくなり、よって、内部EGRが大きくなる。これは、燃焼状態を悪化させ、ドライバビリティを低下させるおそれがある。
このような運転状態が生じたときは、このような運転状態を解消するよう、カムの位相を所定値まで遅角するのが好ましい。また、このような運転状態が生じる可能性が高い場合にも、このような運転状態の発生を回避するよう、カムの位相を所定値まで遅角するのが好ましい。追従速度Epsにより、適応オフセット値が取りうる値が制限されていると、カムの位相を速やかに所定値まで遅角することができないおそれがある。
この第2の実施例では、修正判断部202を設ける。修正判断部202は、プラントからの出力である位相CAINと、該位相に関連するパラメータである、実際のリフト量Liftに基づき、上記のような運転状態かどうかを判断する。実際のリフト量Liftは、吸気バルブ3のリフトの量を示し、所定のセンサにより検出されることができる。具体的には、式(43)に示されるように、位相CAINが所定値CAIN_OMより大きく、かつリフト量Liftが所定値Lift_OMより大きければ、位相の進角の量が大きく、リフト量が大きい状態であるので、修正フラグF_OFTMODを値1に設定する。また、式(44)に示されるように、位相CAINが所定値CAIN_OMより大きく、かつリフト量Liftの変化が所定値DLift_OMより大きければ、位相の進角の量が大きく、かつリフト量が大きい状態が到来する可能性が高いことを示し、よって、修正フラグF_OFTMODを値1に設定する。式(43)および(44)に示される条件が成立しなければ、修正フラグF_OFTMODをゼロに設定する。
代替的に、位相CAINおよびリフト量Liftのいずれか一方に基づいて、修正フラグを設定してもよい。たとえば、位相CAINが、所定値CAIN_OMより大きければ、修正フラグを1に設定することができる。
修正/非線形フィルタ部184は、第1の実施例に従う、増幅器83、加算器84、遅延素子85および増幅器86から構成される非線形フィルタ(図9)に加え、修正部を備える。
修正/非線形フィルタ部184は、修正判断部202から、修正フラグF_OFTMODを受け取る。修正/非線形フィルタ部184は、式(45)に示されるように、修正フラグF_OFTMODの値がゼロならば、非線形関数部182からの出力信号r_tnlをフィルタリングし、オフセット修正量Vcain_oft_adp’’を算出する。該算出は、第1の実施例における式(21)と同様に行われる。修正フラグF_OFTMODの値が1ならば、式(46)に示されるように、所定値Vcain_oft_modを、オフセット修正量Vcain_oft_adp’’に設定する。
所定値Vcain_oft_modの値は、たとえばゼロである。この場合、位相CAINの進角量が大きく、かつリフト量Liftが大きい時、および、位相CAINの進角量が大きく、かつリフト量Liftの変化が大きい時は、オフセット修正量Vcain_oft_adp”がゼロに設定され、これにより、適応オフセット値Vcain_oft_adpが、基準値Vcain_oftに戻される。
リミッタ187および加算器188は、第1の実施例のリミッタ87と加算器88と同様に動作する(式(22)および(23)を参照)。こうして、目標値変化および外乱変化に応じて追従速度Epsが速められた適応オフセット値Vcain_oft_adpが算出される。
図20を参照して、第2の実施例に従う制御の結果を説明する。時間t1において、位相の目標値CAIN_cmdが急激に変動する。コントローラ51(図3)は、該変動した目標値に実位相Cainを追従させようとして、操作量(参照信号)Rcainを急激に変化させる。目標値が急激に変動したことに応答して、目標値変化パラメータQ_rが算出される。図19の(a)に示されるようなマップを参照して、目標値追従速度Eps_rが求められる。目標値変化パラメータQ_rの値が大きくなったので、目標値追従速度Eps_rが大きくなる。外乱追従速度Eps_dは、低いままである。式(41)に示されるように、Eps_rとEps_dの大きい方が追従速度Epsに設定されるので、時間t1では、Eps_rが追従速度Epsに設定される。
こうして変更された追従速度Epsに基づいて適応オフセット値Vcain_oft_adpが算出されるので、図16と比較して明らかなように、適応オフセット値の参照信号Rcainへの追従が速い(図では、適応オフセット値が参照信号に追いついた後は、両者が同じ挙動を示し、よって1本のラインとして示されている)。結果として、変調信号Vcainの参照信号Rcainへの追従が速くなる。位相CAINは、オーバーシュートすることなく、目標値CAIN_cmdに収束することができる。
時間t2およびt3において、エンジン回転数NEが急激に変動している。エンジン回転数NEの急激な変動により、位相CAINは、目標値CAIN_cmd(時間t1以降は、一定である)から偏差する。コントローラ51は、該偏差を収束させようとして、操作量Rcainを急激に変化させる。外乱が急激に変動したことに応答して、外乱変化パラメータQ_dが算出される。図19の(b)に示されるようなマップを参照して、外乱追従速度Eps_dが求められる。外乱値変化パラメータQ_dの値が大きくなったので、外乱追従速度Eps_dが大きくなる。目標値追従速度Eps_rは、低いままである。式(41)に示されるように、Eps_rとEps_dの大きい方が、追従速度Epsに設定されるので、時間t2およびt3では、Eps_dが追従速度Epsに設定される。
こうして変更された追従速度Epsに基づいて適応オフセット値Vcain_oft_adpが算出されるので、図16と比較して明らかなように、適応オフセット値の参照信号Rcainへの追従が速い。結果として、変調信号Vcainの参照信号Rcainへの追従が速くなり、よって、外乱の収束が速くなる。
この実施例では、外乱としてエンジン回転数を示したが、他の外乱に対し、上記のような追従速度を変更する手法を適用してもよい。
第3の実施例
図21は、位相の目標値CAIN_cmdを一定値に保持した場合に、変調信号Vcainの振幅を変化させた場合の位相CAINの挙動を示す。時間t1〜t2においては、変調信号の振幅が、適切な値に設定されている。位相CAINは、目標値CAIN_cmdに良好に追従している。位相の制御分解能は高く、振動的な挙動を示すことはない。
時間t0〜t1においては、変調信号の振幅を、適切な値より小さくした場合を示す。位相CAINの制御分解能が低下していることがわかる。時間t2〜t3においては、変調信号の振幅が、適切な値より大きくした場合を示す。位相CAINが、ハンチング状態を呈しているのがわかる。このようなハンチング状態は、前述したように、エンジン回転数の変動が大きくなって、該エンジン回転数と共振的な現象を起こすことに起因する。
このように、変調信号Vcainの振幅が大きくなりすぎると、制御対象の出力がハンチング状態となるおそれがある。変調信号の振幅が小さすぎると、十分な制御分解能の向上を得ることができないおそれがある。制御分解能が低いと、連続可変位相装置の持つ非線形特性が補償されないおそれがある。特に、油圧を用いた連続可変位相装置(図2)は、フリクションが大きく、ヒステリシスおよび不感帯などの非線形特性が強い。したがって、制御分解能を高く維持するのが好ましい。また、このような非線形特性は、内燃機関の運転状態に従って変化する。たとえば、カムの反力およびスプロケットの変動により、制御入力Vcainに対する位相の感度が変化し、これにより、非線形特性が変化する。
したがって、制御対象に印加される変調信号Vcainの振幅を、制御分解能を高く維持しつつ、ハンチングを防止することのできる値に設定するのが好ましい。以下の第3の実施例を参照して、変調信号の振幅を、内燃機関の運転状態に応じて変更する手法を説明する。
第3の実施例では、連続可変位相装置10は、図2に示されるような油圧を用いたものでも、図17に示されるような電磁ブレーキを用いたものでも、どちらでもよい。図3のブロック図は、第3の実施例にも同様に適用される。すなわち、コントローラ51は、カムの実位相CAINが、目標値に収束するための操作量Rcainを算出する。操作量Rcainは、参照信号として変調器52に入力される。変調器52は、ΔΣ変調アルゴリズムを用いて、参照信号Rcainを変調し、変調信号Vcainを生成する。変調信号Vcainが、指令値として、連続可変位相装置10に入力される。
コントローラ51の動作は、第1の実施例と同じであるので、説明を省略する。第1の実施例と異なる点は、ΔΣ変調器52によって実施される、変調信号を生成する手法であるので、該手法を、説明する。
図22は、ΔΣ変調器52の他の例を示す。適応オフセット生成器80は、第1の実施例に従う適応オフセット生成器(図9)でもよいし、第2の実施例に従う適応オフセット生成器(図18)でもよい。
振幅設定部203は、検出されたエンジン回転数NE、吸気バルブ3のリフト量Lift、および実位相CAINを受け取る。前述したように、リフト量Liftは、所定のセンサにより検出されることができる。振幅設定部203は、エンジン回転数NEおよびリフト量Liftに基づいて、図23の(a)に示されるようなマップを参照し、リミッタ基準値S_baseを求める。また、振幅設定部203は、エンジン回転数NEおよびリフト量Liftに基づいて、図23の(b)に示されるようなマップを参照し、振幅基準値R_baseを求める。
(a)と(b)を比較して明らかなように、振幅基準値R_baseは、リミッタ基準値S_baseよりも大きい値に設定される。これは、後述するリミッタ172により、リミッタ基準値S_baseに基づいて、変調信号の振幅が制限された後に、後述する非線形関数部177により、振幅基準値R_baseに基づいて、振幅が決められるからである。こうして、内燃機関の運転状態に応じて設定された振幅値が、変調信号すなわち制御入力Vcainに反映される。代替的に、振幅基準値R_baseは、リミッタ基準値S_base以上の値であればよく、等しくてもよい。
エンジン回転数NEが低くなるほど、位相CAINを検出する間隔が広くなる。検出間隔が広くなるにつれ、制御分解能が低下し、位相の揺らぎ(低周波振動)が起こりやすい(図21の時間t0〜t1を参照)。したがって、これらのマップに示されるように、エンジン回転数が低くなるにつれ、変調信号の振幅が大きくなるよう、リミッタ基準値S_baseおよび振幅基準値R_baseの値を大きくする。
一方、リフト量が大きいことは、エンジンの負荷が高いことを示す。エンジンの負荷が高くなるにつれ、燃焼サイクルに同期したエンジン回転数の変動が大きくなる。このような変動は、位相に高周波変動を生じさせるおそれがある。このような状態で変調信号の振幅を大きくしすぎると、位相に共振的な現象が起こり、制御性を低下させるおそれがある。したがって、これらのマップに示されるように、リフト量が大きくなるにつれ、変調信号の振幅が小さくなるように、リミッタ基準値S_baseおよび振幅基準値R_baseの値を小さくする。
また、振幅設定部203は、位相CAINに基づいて、図23の(c)に示されるようなマップを参照し、位相係数KCAINを求める。
位相が進角になるにつれ、内部EGRが多くなり、燃焼変動によるエンジン回転数の変動が大きくなる。このような変動は、位相に高周波変動が生じさせるおそれがある。このような状態で変調信号の振幅を大きくしすぎると、位相に共振的な現象が起こり、制御性を低下させるおそれがある。したがって、図に示されるように、位相が進角になるにつれ、変調信号の振幅を小さくするよう、位相係数KCAINの値を小さくする。
振幅設定部203は、式(47)に示されるように、リミッタ基準値S_baseに位相係数KCAINを乗算して、リミット幅Sを算出する。また、式(48)に示されるように、振幅基準値R_baseに位相係数KCAINを乗算して、振幅値Rを算出する。
代替的に、振幅設定部203は、プラントの出力である位相CAIN、および、該位相に関連するパラメータであるリフト量Liftおよびエンジン回転数NEのうちの1つまたは複数に基づいて、リミット幅Sおよび振幅Rを設定するようにしてもよい。さらに、他のパラメータ(たとえば、連続可変位相装置が油圧に基づくものならば、油の温度)を付加的に考慮して、リミット幅Sおよび振幅Rを設定してもよい。
図22に戻り、式(49)に示されるように、加算器171により、コントローラ51から受け取った参照信号Rcainから、適応オフセット生成器80により生成された適応オフセット値Vcain_oft_adpが減算される。
リミッタ172は、式(50)に示されるように、振幅設定部203から受け取ったリミット幅Sを用いて、信号r1に制限処理を適用する。具体的には、信号r1が、リミット幅±S内に収まっているならば、信号r1を、信号r2として出力する。信号r1が、リミット幅の上限値+Sより大きければ、該Sの値を信号r2に設定する。信号r1が、リミット幅の下限値―Sより小さければ、該―Sの値を信号r2に設定する。
図6のリミッタ71を参照して説明したように、リミッタは、位相CAINが急激な変化を起こすことによって制御不能な状態を発生させることを防止するために設けられる。しかしながら、リミッタによって、変調すべき部分が取り除かれるのは好ましくない。この実施例では、リミット幅Sが、エンジンの運転状態に応じて適切な値に設定されるので、変調すべき部分を維持しつつ、制御不能な状態を発生させるおそれのある部分を取り除くことができる。
差分器73および積分器74の動作は、第1の実施例の図6に示すものと同じであるので、説明を省略する。
非線形関数部177は、偏差積分値σ(k)を符号化し、変調信号u”(k)を出力する。具体的には、非線形関数部177は、振幅設定部203から振幅Rを受け取り、該振幅Rを用いて、式(51)に示されるように、非線形関数fnl()を偏差積分値σ(k)に適用する。すなわち、式(52)に示されるように、偏差積分値σ(k)がゼロ以上ならば、+Rの値を持つ信号を出力し、偏差積分値σ(k)がゼロより小さければ、―Rの値を持つ信号を出力する。
増幅器78および加算器78の動作は、第1の実施例の図6に示されるものと同じであるので、説明を省略する。
こうして、エンジン回転数NE、リフト量Liftおよび位相CAINに基づいて設定された振幅Rを持つ変調信号が生成される。このような振幅を持つ変調信号をプラントに印加することにより、制御分解能を向上させつつ、位相に共振的な現象が生じることを回避することができる。
図11の制御フローは、第3の実施例にも同様に適用される。しかしながら、ステップS6におけるΔΣ変調アルゴリズムが、振幅設定部203により算出されるリミット幅Sおよび振幅Rに基づいて実施される点に注意されたい。
図24を参照して、第3の実施例に従う制御の結果を説明する。図には、リフト量Lfitおよびエンジン回転数NEが所定の値に保持されている時に、位相の目標値CAIN_cmdを、Cain1、Cain2およびCain3の間で変化させた時の、位相CAINおよび変調信号Vcainの挙動を示す。
時間t0からt1の間、および時間t4〜t5の間、位相CAINは、Cain1に収束するよう制御される。時間t2〜t3の間、位相CAINは、Cain1よりも進んだ位相を持つCain2に収束するよう制御される。時間t6〜t7の間、位相CAINは、Cain2よりも進んだ位相を持つCain3に収束するよう制御される。
図から明らかなように、位相CAINがCain2またはCain3に制御されているときには、位相CAINがCain1に制御されているときと比べて、変調信号Vcainの振幅が、より小さい値に設定されている。これは、前述したように、カムの位相が進むにつれて、内部EGRが増大し、燃焼変動によるエンジン回転数の変動が大きくなることによって共振的な現象が位相に現れることを回避するためである。
こうして、変調信号の振幅を適切な値に変更することにより、図に示されるように、位相CAINの制御分解能は高く維持されると共に、位相CAINがハンチング状態を呈することを回避することができる。
第3の実施例において説明した変調信号の振幅の変更は、第1および第2の実施例において説明した、適応オフセット値の参照信号への追従とは無関係に実施することができる。しかしながら、適応オフセット値の参照信号への追従により、変調信号の振幅の中心値が、参照信号の変化に追従するよう変更される。振幅の中心値がこのように変更されないと、たとえ変調信号の振幅が適切な値に設定されていても、図26を参照して説明したような、変調信号の振幅を超える部分についての操作量が変調信号に反映されない、という事態が起こりうる。両者を組み合わせることにより、このような事態を、より確実に回避することができる。
第3の実施例においても、ΔΣ変調アルゴリズムに代えて、図13を参照して説明したΣΔ(シグマデルタ)変調アルゴリズム、または図14を参照して説明したΔ(デルタ)変調アルゴリズムを用いてもよい。この場合、振幅設定203が、図22に示されるのと同様の手法で設けられる点に注意されたい。
以上、本発明について、好ましい実施形態について説明した。当然ながら、排気カムの位相についても、上記の吸気カムの位相と同様に、制御することができる。
また、2自由度スライディングモード制御とは別の応答指定型制御(たとえば、バックステッピング制御)を用いてもよい。また、H∞制御および最適制御のような他の制御手法を用いて、操作量Rcainを算出してもよい。
また、ΔΣ変調アルゴリズム、ΣΔ変調アルゴリズムおよびΔ変調アルゴリズムに代えて、スイッチング特性を持つ信号に変調する他の変調方式(たとえば、PWM)を用いることができる。この場合、操作量Rcainから、適応オフセット値Vcain_oft_adpを減算した値に対し、該他の変調を適用することができる。該変調の結果として生成された信号に対し、適応オフセット値Vcain_oft_adpを加算することにより、変調信号Vcainが生成される。この時、第3の実施例に示したように、該他の変調においても、振幅値を変更することができる。
しかしながら、ΔΣ変調アルゴリズム、ΣΔ変調アルゴリズムおよびΔ変調アルゴリズムは、位相CAINが目標値に近づくことによって操作量Rcainの変動が小さくなるほど、制御入力Vcainが±Rの間で反転する周波数がより高くなるという特性を持つので、反転周波数が一定の変調方式(PWMおよびディザ等)により変調された信号に比べて、位相CAINの目標値への収束性を高めることができる。このような特性は、油圧および電磁ブレーキへの印加電圧に従って位相が非線形に変化する連続可変位相装置のような、非線形特性を有するプラントに対し有効である。
第1の実施例では、連続可変位相装置として、油圧を用いたものを説明し、第2の実施例では、連続可変位相装置として、電磁ブレーキを用いたものを説明した。しかしながら、油圧を用いた連続可変位相装置に対して第2の実施例を適用することも可能であり、電磁ブレーキを用いた連続可変位相装置に対して第1の実施例を適用することも可能である。
本発明に従う制御手法は、他の様々な制御対象についても適用可能である。車両の内燃機関に限定されるものではない点に注意されたい。
一実施形態では、エンジンの空燃比を制御する機構から、該エンジンの排気管に設けられた排ガスセンサ(たとえば、図1のO2センサ)までの系を制御対象とする。コントローラは、排ガスセンサの出力が目標値に収束するように、該エンジンの空燃比を制御するための操作量を算出する。該操作量は、たとえば、該エンジンに供給される燃料の量である。制御機構は、該燃料の量がエンジンに供給されるよう、燃料噴射弁19(図1)を駆動する。こうして、内燃機関の空燃比が適切に制御される。
他の実施形態では、吸気および(または)排気バルブのリフト量を可変に駆動するアクチュエータが制御対象である。コントローラは、バルブのリフト量を目標値に収束するように、操作量を算出する。該アクチュエータは、該操作量に従って、バルブのリフト量を変更する。こうして、エンジンに吸入される空気量が適切に制御される。
本発明は、汎用の(例えば、船外機等の)内燃機関に適用可能である。