JP2007289008A - トマト発酵物の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 風味に優れたトマト発酵物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 トマト加工品を主成分として含有する培養基にγ−アミノ酪酸生産能(GABA)を有する乳酸菌を接種して、該トマト加工品を発酵させる。得られたトマト発酵物は、トマト加工品の未発酵品と比べて優れた風味を与える。前記トマト発酵物は、食品または食品素材として広く利用可能である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、トマト加工品を発酵原料として製造されるトマト発酵物の製造方法に関する。
γ−アミノ酪酸(GABA)が哺乳動物の抑制性神経伝達物質であり、血圧上昇抑制作用を有する化合物であることは周知の事実であり、食品製造分野では、前記GABAの精神安定作用や血圧降下作用を期待して、GABAを含有する食品素材、該素材を用いた食品を製造する方法が数多く報告されている。
前記GABAを含有する食品(食品素材も含む。以下、同じ。)の製造方法のうち、乳酸菌の有するグルタミン酸脱炭酸酵素活性に着目して、天然原料中に含まれるグルタミン酸に乳酸菌を作用させてGABAを含有する食品素材、および該食品素材を用いた食品の製造方法が開示されている(特許文献1、2参照)。
また、ある特定の食品原料に着目し、該原料にGABA生産能を有する乳酸菌を接種・培養することで、該原料に新たな機能を付与した食品を得る試みもなされている。かかる先行技術としては、例えば、ポリフェノール除去後の茶抽出液中でGABA生産能を有する乳酸菌を培養することで、甘い花香を有する茶飲料を製造する方法を挙げることができる(特許文献3参照)。
特開2000−210075号公報 特開2002−300862号公報 特開2003−333990号公報
ところで、食品(ないし食品素材)のうち、トマト汁は健康に良い飲料として知られているが、その特有な風味を苦手とする消費者が数多くいる。しかし、トマト汁特有の風味を改善できれば、上記消費者にも受け入れられると考えられる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、風味に優れたトマト発酵物を製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意努力した結果、GABA生産能を有する乳酸菌でトマト加工品を発酵させると、未発酵物に比べて風味に優れたトマト発酵物を製造できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 トマト加工品を主成分として含有する培養基にγ−アミノ酪酸生産能を有する乳酸菌を接種して、該トマト加工品を発酵させることを特徴とするトマト発酵物の製造方法、
〔2〕 乳酸菌が下記の菌学的性質を有することを特徴とする、前記〔1〕記載のトマト発酵物の製造方法、
(1)菌の形態 桿状
(2)グラム染色 陽性
(3)生育温度 中温性
(4)乳酸発酵 ヘテロ型
(5)糖資化性 フルクトース(+)、リボース(+)、マンノース(−)
(6)ペプチドグリカンタイプ L-Lys−D-Asp
〔3〕 乳酸菌がラクトバチルス・ブレビスである、前記〔2〕記載のトマト発酵物の製造方法、
〔4〕 乳酸菌がラクトバチルス・ブレビス TY−414(FERM P−16910)である、前記〔2〕記載のトマト発酵物の製造方法、
〔5〕 培養基の初発pHを高く調整するためのpH調整剤が添加されていない培養基を用いることを特徴とする、前記〔4〕記載のトマト発酵物の製造方法、
〔6〕 前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の方法で得られるトマト発酵物を含有する食品。
本発明のトマト発酵物の製造方法によれば、トマト加工品にGABA生産能を有する乳酸菌を接種して、該トマト加工品を発酵させるので、未発酵品に比べて風味に優れたトマト発酵物を製造することができる。
本発明に係るトマト発酵物の製造方法は、トマト加工品にGABA生産能を有する乳酸菌を接種して、該トマト加工品を発酵させる点に特徴を有する。
本発明に用いるトマト加工品とは、トマトを主原料とした食品ないし食品原料をいい、例えば、固形トマト、濃縮トマト、トマトジュース、トマトミックスジュース、トマトケチャップ、トマトソース、チリソース、トマト果汁飲料、トマトピューレ−、トマトペースト等が挙げられる。
本発明において発酵原料となるグルタミン酸はトマト加工品中に含まれるものであって、トマト加工品中に存在する遊離グルタミン酸をいい、トマト加工品中に存在するタンパク質やペプチドの構成アミノ酸を構成するグルタミン酸は除かれる。また、トマト加工品中の遊離グルタミン酸としては、遊離グルタミン酸の他、遊離グルタミン酸の塩も含まれる。
トマト加工品中に含まれるグルタミン酸濃度が高いほど、得られるトマト発酵物中のGABA濃度が高くなる。トマト加工品中のグルタミン酸濃度は、得られるトマト発酵物の用途に応じて適宜設定可能であり、原料のままでは設定濃度を満たさない場合は、原料を設定濃度まで濃縮すればよい。一方、原料のままでは設定濃度を超える場合は、希釈して用いればよい。上記に例示したトマト加工品のうち、濃縮トマトとトマトピューレーは原料のままでもグルタミン酸濃度が高く、広い濃度範囲に適用しやすい点で、本発明において特に好ましく用いられる。具体例を挙げれば、トマト汁として飲料用に供する場合、糖度10°(糖用屈折計で測定)にてトマト加工品100gあたり5mg以上のグルタミン酸を含むトマト加工品が通常使用される。
本発明に用いる乳酸菌は、GABA生産能に優れる点で、以下の菌学的性質を有することが好ましい。すなわち、
(1)菌の形態 桿状
(2)グラム染色 陽性
(3)生育温度 中温性
(4)乳酸発酵 ヘテロ型
(5)糖資化性 フルクトース(+)、リボース(+)、マンノース(−)
(6)ペプチドグリカンタイプ L-Lys−D-Asp
本発明において上記した乳酸菌の菌学的性質のうち、中温性とは、15℃にて生育可能で、かつ25℃以上で至適生育温度を有するものをいう。また、ペプチドグリカンタイプとしてL-Lys−D-Aspとは、ジアミノ酸部分(D.A)がL-Lysであって、かつインターペプチドがD-Aspであることを示す。
上記した菌学的性質を有する乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・ヒルガルティ、ラクトバチルス・ブレビスなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で使用することができ、または2種以上を併用することもできる。なお、後述する実施例では、乳酸菌として
ラクトバチルス・ブレビス TY−414(FERM P−16910)を用いている。以下の説明では前記乳酸菌を略して「TY−414」という場合がある。
トマト加工品に乳酸菌を接種して発酵させるにあたり、培養基としては、トマト加工品を主成分として含有する培養基、またはトマト加工品と糖類を主成分として含有する培養基を使用することが好ましい。培養基を作製するには、トマト加工品、またはトマト加工品と糖類を水に溶解して、トマト加工品または糖類の濃度を適宜調整する。前記培養基中、トマト加工品または糖類の濃度は任意であるが、糖類については、0.1〜20重量%の範囲で通常用いられる。本発明では、トマト加工品を発酵させる際に上記成分を配合した簡易な構成からなる培養基を使用すればよいので、培養基を安価かつ簡便に調製することができるなどの利点を有する。また、上記の培養基に代えて、乳酸菌発酵させるときに通常用いられる公知の液体培地も当然に使用することができる。
培養基に配合される糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、ラクトースなどが挙げられ、これらを含有する果汁類、野菜類、蜂蜜なども含む。これらは単独でまたは2種以上使用することができる。
また、培養基には、本発明の目的を損なわない範囲で上記したトマト加工品、糖類以外の成分も配合することができ、例えば、マグネシウム,ナトリウム,鉄などを有する塩類、クエン酸,乳酸,リン酸,酢酸,塩酸などの酸、乳製品、大豆製品などのタンパク質源から適宜選択して配合することができる。
乳酸菌としてTY−414を用いる場合、培養基には、培養基の初発pHを高く調整するためのpH調整剤を添加しない方が好ましい。すなわち、トマト加工品(またはトマト加工品および糖類)を含有する培養基のpHは通常3.0〜5.0の酸性条件にあり、乳酸菌の発酵には通常中性付近が好ましいことからすると、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ塩を添加して培養基の初発pHを中性付近に近づけることが好ましいと考えられる。しかしながら、パネル全員(この中には、野菜ジュースが好きなパネルと野菜ジュースが嫌いなパネルとが混在する)が行った官能評価によると、培養基にpH調整剤を添加せずに発酵させると、pH調整剤を添加して発酵させた場合に比べて、得られるトマト発酵物の風味のうち、飲みやすさ、青臭さ・苦味改善、すっきり感・後切れの3項目で評価が高くなる。また、野菜ジュースが嫌いなパネルが行った官能評価によると、培養基にpH調整剤を添加せずに発酵させると、pH調整剤を添加して発酵させた場合に比べて、得られるトマト発酵物の風味のうち、すっきり感・後切れ、青臭さ・苦味改善の2項目で評価が高くなる。
トマト発酵物の製造にあたっては、まず前記培養基の各成分を均一に溶解した後、該培養基を加熱殺菌し、次いで冷却した後、乳酸菌を接種する。加熱殺菌は通常85〜140℃で行われ、冷却は通常25〜45℃になるまで行われる。
乳酸菌を接種した後は、培養基を25〜45℃で通常10〜80時間、好ましくは20〜60時間、さらに好ましくは40〜55時間発酵させる。本発明によれば、発酵を開始して約12時間経過すると、その後グルタミン酸からGABAへの変換が急速に進み、最終的には30〜100%GABAに変換される。発酵物中のGABA濃度は、乳酸菌を接種する前の培養基中のグルタミン酸濃度、発酵時間などにより増減し得るが、通常発酵物100gあたり50〜500mgの範囲で適宜設定可能である。
得られたトマト発酵物はGABAを高濃度に含む液状品であり、食品や食品素材として広く利用可能である。また、トマト発酵物は、かかる発酵物そのもの(以下、「液状品」という場合がある)の他、例えば、該液状品を濃縮したトマト発酵物(濃縮品)や該液状品を粉体化したトマト発酵物(粉末品)としても利用することができる。濃縮品としては、例えば、液状品を5〜6倍濃縮したものを例示することができる。また、粉末品としては、液状品にデキストリンや乳糖などの賦型剤を添加し、水分が10%未満になるまで粉体化したものを例示することができる。このように、トマト発酵物を濃縮または粉末化すると、トマト発酵物のGABA濃度はさらに増加する。本発明では、粉末化したトマト発酵物中のGABA濃度を2〜5重量%程度にすることが可能である。なお、トマト発酵物は、発酵終了後に、公知の方法でろ過、殺菌することもできる。
上記のような工程を経て製造されたトマト発酵物は、培養基に上述したGABA生産能を有する乳酸菌を接種せずに、該培養基を加熱殺菌および室温まで冷却した「未発酵品」と比べて、優れた風味を与える。具体的には、美味しさ(バランス)、香り(バランス)、すっきり感・後切れ、土臭さ・芋臭の4項目で優れた官能評価を示す。
また、培養基に前記pH調整剤を添加せず、乳酸菌としてTY−414を接種して該培養基を発酵させた場合、得られるトマト発酵物(以下、「pH無調整品」という)は、前記未発酵品と比べて、美味しさ(バランス)、飲みやすさ、香り(バランス)、すっきり感・後切れ、土臭さ・芋臭改善の5項目で優れた官能評価を示す。さらに、野菜ジュースの嫌いなパネルによる官能評価においても、美味しさ(バランス)、飲みやすさ、野菜のうまみ・コク味、香り(バランス)、すっきり感・後切れ、土臭さ・芋臭改善の6項目で少し良い評価を示す。したがって、野菜ジュースの嫌いな消費者にとっても、前記トマト発酵物は未発酵品と比べて受け入れやすいと考えることができる。
本発明に係るトマト発酵物についての上述した風味は、グルタミン酸の減少、GABAの増加、および香気成分の増加とある程度関係があるものと推測される。香気成分については、ガスクロマトグラム質量分析装置により前記pH無調整品を分析すると、リナロール、シトロネロール、ネロール、ダマセノン、ゲラニオール、β−フェニルエチルアルコールといったバラ様、フローラル様の成分が生成若しくは増量する。さらに、δ−ドデカラクトン(甘いピーチ様)も検出される。
以上説明したトマト発酵物は、そのままで食品として、あるいは食品素材として、例えば、飲料、調味料、惣菜類、菓子、サプリメント、冷菓、介護食などに適用することができる。また、本発明に係るトマト発酵物を含んだ食品を摂取することにより、GABAの公知の効果である精神安定作用や血圧降下作用も期待することができる。
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
1.使用した乳酸菌の菌学的性質
使用した乳酸菌は、ラクトバチルス・ブレビス TY−414(FERM P−16910)であり、公知の方法に基づいて菌学的性質を調べた。結果を以下に記す。
(1)菌の形態 桿状
(2)グラム染色 陽性
(3)生育温度 中温性
(4)乳酸発酵 ヘテロ型
(5)糖資化性 フルクトース(+)、リボース(+)、マンノース(−)
(6)ペプチドグリカンタイプ L-Lys−D-Asp
なお、TY−414の至適生育温度は30℃であり、15℃で生育可能であることが確認された。
2.トマト発酵物の製造例
2−1.乳酸菌スターターの調製例
表1に示す培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間滅菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にTY−414を0.02g接種し、30℃で24時間発酵させた発酵物をTY−414スターターとした。
Figure 2007289008
2−2.トマト発酵物の製造例1
濃縮トマト(商品名:トマトパルプレスBx60GY,濃度:1800%,糖度:60°,長野サンヨーフーズ)と水を表2に示す配合割合で混合したものを培養基とし(pH4.2)、該培養基を90℃で加熱殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基に上記「2−1.乳酸菌スターターの調製例」で調製したTY−414スターターを20g接種し、30℃で48時間発酵させた。以下、上記のようにpH調整を行わない培養基を用いて得られた発酵物を「pH無調整品」という。発酵開始から0、12、24、48および60時間経過時の培養物を採取し、採取した各試料100g中のGABAおよびL−グルタミン酸の濃度を測定した。結果を図1に示す。
Figure 2007289008
図1より、発酵を開始してから12時間〜24時間の間にL−グルタミン酸からGABAへの変換が急速に進むことが分かった。
2−3.トマト発酵物の製造例2
濃縮トマト(商品名:トマトパルプレスBx60GY,濃度:1800%,糖度:60°,長野サンヨーフーズ)と水を表2に示す配合割合で混合し、次いでNaOHを添加してpHを5.5に調整した培養基を用いた以外は、前記「2−2.トマト発酵物の製造例1」と同様にしてトマト発酵物を得た。以下、このようにpHを調整した培養基を用いて得られた発酵物を「pH調整品」という。
3.トマト発酵物の官能評価
上記で得られたpH無調整品とpH調整品の風味について官能試験を行った。評価項目は、飲みやすさ、野菜のうまみ・コク味、青臭さ・苦味、土臭さ・芋臭、すっきり感・後切れ、香り(バランス)、美味しさ(バランス)の7項目とした。そして、上記の評価項目について、未発酵品の評価を基準(0点)とした5段階評価を行った(2点:かなり優れている、1点:優れている、0点:同じ、−1点:劣っている、−2点:かなり劣っている)。図2と図3に、16名(このうち、野菜ジュースが好き:13名、野菜ジュースが嫌い:3名)のパネルによる各評価項目の平均値を示す。なお、「未発酵品」とは、表2に示す培養基を調製し(pH4.2)、TY−414スターターを添加せずに該培養基を90℃で加熱殺菌し、その後30℃まで冷却したものをいう。
図2のレーダーチャートのうち、全体評価(16名のパネルの平均評価をいい、図2中、実線で示した)について見ると、pH無調整品(本発明品)は、美味しさ(バランス)、飲みやすさ、香り(バランス)、すっきり感・後切れ、土臭さ・芋臭改善の5項目で1点前後の評価を示し、さらに、野菜のうまみ・コク味、青臭さ・苦味改善の2項目についても0.5点程度の評価を示した。これらの結果から、pH無調整品は、上記の7項目について全体的に優れており、特に美味しさ(バランス)、飲みやすさ、香り(バランス)、すっきり感・後切れ、土臭さ・芋臭改善の5項目で優れていることが分かった。
次に、野菜ジュースが嫌いなパネルによる評価(図2中、短破線で示した)について見ると、pH無調整品は未発酵品と比べて、青臭さ・苦味改善では同程度の評価しか示さなかったものの、それ以外の6項目では概ね0.5前後の評価を示した。したがって、この官能評価を総合的に判断すると、野菜ジュースが嫌いな消費者にとって、pH無調整品は、未発酵品よりも摂取しやすい食品といえる。
図3のレーダーチャートのうち、全体評価(図3中、実線で示した)について見ると、pH調整品(本発明品)は、美味しさ(バランス)、香り(バランス)、すっきり感・後切れ、土臭さ・芋臭改善の4項目について1点前後の評価を示し、さらに、飲みやすさ、野菜のうまみ・コク味の2項目についても0.5点程度の評価を示した。これらの結果から、pH調整品は未発酵品と比べて、青臭さ・苦味改善では劣っているといえるが、それ以外の6項目(すなわち、美味しさ(バランス)、飲みやすさ、野菜のうまみ・コク味、香り(バランス)、すっきり感・後切れ、土臭さ・芋臭改善)では未発酵品より優れた風味を示すといえる。
次に、野菜ジュースが嫌いなパネルによる評価(図3中、短破線で示した)について見ると、pH調整品は、野菜のうまみ・コク味については約0.7点の評価を示したが、美味しさ(バランス)、飲みやすさ、香り(バランス)、すっきり感・後切れ、土臭さ・芋臭改善の5項目では、未発酵品と比べてやや良い若しくは同程度の評価を示し、特に青臭さ・苦味改善では悪い評価を示した。したがって、この官能評価を総合的に判断すると、野菜ジュースが嫌いな消費者にとって、pH調整品は、青臭さ・苦味改善の点を除いて未発酵品よりもやや摂取しやすい食品といえる。
次に、図2と図3を比較する。まず、全体評価について見ると、pH無調整品はpH調整品に比べて、得られるトマト発酵物の風味のうち、飲みやすさ、青臭さ・苦味改善、すっきり感・後切れの3項目で評価が高くなった。また、野菜ジュースが嫌いなパネルによる評価について見ると、pH無調整品はpH調整品に比べて、得られるトマト発酵物の風味のうち、すっきり感・後切れ、青臭さ・苦味改善の2項目で評価が高くなった。これらの結果から、pH無調整品の方が風味に優れていることが分かった。
4.香気成分の分析
pH無調整品と未発酵品について、ガスクロマトグラム質量分析装置により香気成分を分析した。上記各試料の前処理には、固相マイクロ抽出法(SPME)を採用した。具体的には、2mL容バイアル瓶に試料1.0gを入れ、40〜45℃に保温した状態で、Car/PDMSファイバー(Supelco社製)を該試料中に15分間浸漬させ、抽出を行った。次に、上記ファイバーを蒸留水で10秒間洗浄し、GCの注入口に挿入して脱離を行い、GC/MS分析に供した。
試料の分析条件を以下に示す。
GC :Agilent6890N
カラム :DB−WAX(60m×0.25mm×0.25μm)
キャリアーガス:He 1.0mL/min(constant flow mode)
オーブン温度 :60℃(3min)
→60−230℃(3℃/min)
→230℃(30min)
インジェクター:Split less,250℃
MS検出器 :MSD(5973N),250℃ transfer line
pH無調整品および未発酵品について得られたクロマトグラムをそれぞれ図4〜図6と図5〜図9に示す。また、該クロマトグラム中、ピークとして検出された香気成分を表3と表4に示す。
Figure 2007289008
Figure 2007289008
まず、未発酵品については、表4に示すようにジメチルスルフィド(ピーク番号1,海苔様、加工野菜汁の生臭さに寄与)、フルフラール(ピーク番号5,ナッツ臭)、メチオナール(ピーク番号4,ボイルしたポテト様、ミート様)などの嗜好的に不適な成分が検出された。
これに対し、pH無調整品からは、未発酵品同様にジメチルスルフィド(ピーク番号1,海苔様、加工野菜汁の生臭さに寄与)やフルフラール(ピーク番号5,ナッツ臭)が検出されたが、その量はかなり減少していた。また、pH無調整品からは、リナロール(ピーク番号11,スズラン、フローラル)、シトロネロール(ピーク番号12,新鮮なバラ香気)、ネロール(ピーク番号13,バラ、フローラル、果実様)、ダマセノン(ピーク番号14,ローズ様、フローラル香)、ゲラニオール(ピーク番号15,バラ様)、β−フェニルエチルアルコール(ピーク番号17,バラ様、ハニー調)、といったバラ様、フローラル様の成分が生成若しくは増量した。さらに、δ−ドデカラクトン(ピーク番号22,甘いピーチ様)も検出された。このようなpH無調整品の特徴的な香気成分は、上述したpH無調整品の官能評価結果と関連していると推測される。
本発明のトマト発酵物の製造方法によれば、従来より風味に優れたトマト発酵物が得られる。かかるトマト発酵物は、そのままで食品として、あるいは食品素材として、例えば、飲料、調味料、惣菜類、菓子、サプリメント、冷菓、介護食などに適用することができる。
発酵物中におけるGABA濃度およびL−グルタミン酸濃度の経時変化を示した図である。 pH無調整品の官能試験結果を示す図である。 pH調整品の官能試験結果を示す図である。 pH無調整品のクロマトグラムである。 図4のうち、18〜29minの部分拡大図である。 図4のうち、35〜44minの部分拡大図である。 未発酵品のクロマトグラムである。 図7のうち、19〜29minの部分拡大図である。 図7のうち、35〜44minの部分拡大図である。

Claims (6)

  1. トマト加工品を主成分として含有する培養基にγ−アミノ酪酸生産能を有する乳酸菌を接種して、該トマト加工品を発酵させることを特徴とするトマト発酵物の製造方法。
  2. 乳酸菌が下記の菌学的性質を有することを特徴とする、請求項1記載のトマト発酵物の製造方法。
    (1)菌の形態 桿状
    (2)グラム染色 陽性
    (3)生育温度 中温性
    (4)乳酸発酵 ヘテロ型
    (5)糖資化性 フルクトース(+)、リボース(+)、マンノース(−)
    (6)ペプチドグリカンタイプ L-Lys−D-Asp
  3. 乳酸菌がラクトバチルス・ブレビスである、請求項2記載のトマト発酵物の製造方法。
  4. 乳酸菌がラクトバチルス・ブレビス TY−414(FERM P−16910)である、請求項2記載のトマト発酵物の製造方法。
  5. 培養基の初発pHを高く調整するためのpH調整剤が添加されていない培養基を用いることを特徴とする、請求項4記載のトマト発酵物の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか記載の方法で得られるトマト発酵物を含有する食品。
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