本件発明は、2層フレキシブルプリント配線板及びその2層フレキシブルプリント配線板の製造方法に関する。特に、当該2層フレキシブルプリント配線板の配線形成に用いる電解銅箔の析出面側が低プロファイルであることを特徴とする電解銅箔を用いたものであり、COF等を初めとする微細配線及び高屈曲性能が求められる2層フレキシブルプリント配線板に関する。
近年のプリント配線板が多用される電子及び電気機器には、小型化、軽量化等の所謂軽薄短小化が求められている。従って、この内部に搭載する部品に関しても、その搭載領域は限られたスペースであり、電子部品としてのプリント配線板にも、高密度配線を形成しダウンサイジングし、且つ、表面実装の容易な製品が望まれてきた。
そして、電子及び電気機器の小型化に伴い、プリント配線板を当該機器内の狭小領域に搭載するためプリント配線板に対し搭載時の曲げ変形の可能な性質、曲げ加工したままプリント配線板として使用する等の加工が求められてきた。従って、ガラスーエポキシ樹脂基材等に代表されるリジッド基板は可堯性がないために使用できず、ポリイミド樹脂フィルム、PET樹脂フィルム、アラミド樹脂フィルム等を基材(ベースフィルム)として用いたフレキシブルプリント配線板が多用されてきた。
このフレキシブルプリント配線板の最大の特徴は、上述のように、可堯性に富むため、折り曲げ変形した状態で電子及び電気機器の内部に挿入したり、曲げが繰り返される箇所で使用される。このフレキシブルプリント配線板は、ベースフィルムに銅箔を張り合わせた状態のフレキシブル銅張積層板をエッチング加工して得られるのが一般的である。そして、このときの銅箔には、電解銅箔と圧延銅箔とが併用されてきたが、それらの製造方法に由来する結晶組織の持つ性質から、繰り返し曲げ変形を起こさせたときの耐久性を考えるに、特許文献1に開示されているような圧延銅箔の使用が好ましいとされてきた。
一方、電解法を用いて銅層を形成をしたフレキシブル銅張積層板をエッチング加工して得られるフレキシブルプリント配線板であっても、従来の電解銅箔を用いたものよりも高い屈曲性能を発揮するものが開発されてきた。即ち、特許文献2に開示されているように、ポリイミド樹脂フィルム等のベースフィルムの表面に、スパッタリング蒸着等の手段で薄いシード層を形成し、当該シード層上に電解法で銅層等を所定厚さで形成するメタライジング法を採用して得られるものである。メタライジング法は、その製造方法故に、導電層の厚さを薄く均一に形成できるため、ファインピッチ配線の形成に好適なもので、屈曲性能も圧延銅箔を用いたフレキシブルプリント配線板の性能に近づくと言われる。
一方、ファインピッチ配線の形成の観点からは、配線ピッチ35μm以下の微細配線の形成は極めて困難と考えられており、電解銅箔の粗面の粗度を、より光沢面粗度に近づけることが試みられ、特許文献3及び特許文献4に開示されたような低プロファイル電解銅箔の提供が検討されてきた。これら特許文献に開示の電解銅箔は、確かに優れた低プロファイルの粗面(以下、「析出面」と称する場合もある。)が形成され、低プロファイル電解銅箔としては、極めて優れたエッチング性能を示し、フレキシブル銅張積層板の構成材料として用いることで、35μmピッチ以下の配線を含むファインピッチフレキシブルプリント配線板を高い歩留まりで生産し、提供できる可能性が高くなってきた。
特開2001−15876号公報
特開2003−334890号公報
特開2004−35918号公報
特開2004−107786号公報
しかしながら、フレキシブルプリント配線板の基礎材料として、圧延銅箔を使用することを考えると、圧延銅箔の価格は電解銅箔に比べて高く、製品価格を引き下げて広く需要者に利益をもたらすには限界が存在した。
また、フレキシブル銅張積層板の銅層を、上述のメタライジング法で行うと、ベースフィルム層と配線との界面が平滑で、フレキシブルプリント配線板としてファインピッチ配線の形成は容易であるが、ベースフィルムと配線との密着性が低く、使用可能な範囲が限られるという問題がある。
更に、ファインピッチ配線形成の可能な電解銅箔を使用する点に関しても、近年のフラットディスプレイパネル(LCDパネル、プラズマディスプレイパネル等)の大画面化は急激な速度で進行している。そして、大画面化と同時に地上波デジタル放送へのシフトに伴い、ハイビジョン化による映像の高精細化が行われる。その結果として、電子回路、プリント配線板に対しても小型化、高機能化が求められ配線の、より高いレベルでのファインピッチ化が要求されるのは当然である。このフラットディスプレイパネルのドライバには、前記テープ オートメーティド ボンディング基板(3層TABテープ)やチップ オン フィルム基板(COFテープ)を用いるのが一般的であり、モニタのハイビジョン化を図るためには、前記ドライバにもよりファインな配線の形成が求められている。
以上のことから分かるように、安価な材料として電解銅箔を用いたフレキシブル銅張積層板から得られるフレキシブルプリント配線板であって、特に屈曲特性に優れた製品が市場で要求されてきた。また、このフレキシブルプリント配線板には、従来市場に供給されてきた低プロファイル電解銅箔を用いて得られる配線以上のファインピッチ配線形成の可能な、低プロファイル且つ高強度の電解銅箔に対する要求が存在した。
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、電解銅箔を用いた2層フレキシブルプリント配線板であっても、以下に述べるような技術的思想を採用することにより、メタライジング法で形成した銅層を備える2層フレキシブル銅張積層板をエッチングして得られる2層フレキシブルプリント配線板と同等以上の高い屈曲特性を得ることが出来ることに想到したのである。以下、本件発明の内容を記載する。
本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板:樹脂フィルム層の表面に電解銅箔をエッチングすることにより形成した配線を備える2層フレキシブルプリント配線板において、当該配線は、電解銅箔製造時の初期析出結晶層を除去し、定常析出結晶層のみを含むことを特徴とした2層フレキシブルプリント配線板である。
そして、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板が、カバーレイフィルム層を備える2層フレキシブルプリント配線板である場合、当該2層フレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線と配線厚さの中心線とのズレが、2層フレキシブルプリント配線板のトータル厚さの5%以内とすることが好ましい。
また、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板が、ソルダーレジスト層を備える2層フレキシブルプリント配線板である場合、当該2層フレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線と配線厚さの中心線とのズレが、2層フレキシブルプリント配線板のトータル厚さの20%〜30%であることが好ましい。
更に、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板は、2層フレキシブルプリント配線板の中でも、形成した配線が35μmピッチ以下のファインピッチ配線を備えるフィルムキャリアテープ状の2層フレキシブルプリント配線板とすることが容易である。
本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造方法: 上述の2層フレキシブルプリント配線板を製造する方法として、樹脂フィルム層と電解銅箔とを積層して構成した2層フレキシブル銅張積層板をエッチング加工することにより2層フレキシブルプリント配線板を製造する方法であって、以下に示す工程A〜工程Cを含むことを特徴とする2層フレキシブルプリント配線板の製造方法を採用する。
工程A: 表裏に光沢面と析出面とを備える電解銅箔の析出面に樹脂フィルム層を設けフレキシブル銅張積層板とする積層体形成工程。
工程B: 前記フレキシブル銅張積層板の表面に位置する電解銅箔の光沢面をハーフエッチングすることにより、当該電解銅箔の初期析出結晶層を除去し、定常析出結晶層を露出させる初期析出結晶層除去工程。
工程C: 当該定常析出結晶層の上にエッチングレジスト層を形成し、エッチングレジストパターンを露光し、現像し、配線エッチングを行い、エッチングレジスト剥離を行い2層フレキシブルプリント配線板とする配線形成工程。
そして、前記工程Bにおけるハーフエッチングを、初期析出結晶層を除去すると共に、フレキシブルプリント配線板にしたときの断面厚さの中立線と電解銅箔層の断面厚さの中心線とのズレが所定の範囲内となるまで電解銅箔層の厚さ調整を行うものである事が好ましい。
また、樹脂フィルム層と電解銅箔とを積層して構成した2層フレキシブル銅張積層板をエッチング加工することにより2層フレキシブルプリント配線板を製造する方法であって、以下に示す工程a〜工程cを含むことを特徴とする2層フレキシブルプリント配線板の製造方法を採用することも好ましい。
工程a: 表裏に光沢面と析出面とを備える電解銅箔の光沢面側からハーフエッチングすることで初期析出結晶層を除去する初期析出結晶層除去工程。
工程b: 初期析出結晶層を除去した光沢面に樹脂フィルム層を設け2層フレキシブル銅張積層板とする積層体形成工程。
工程c: 前記フレキシブル銅張積層板の表面に位置する電解銅箔の析出面の上にエッチングレジスト層を形成し、エッチングレジストパターンを露光し、現像し、配線エッチングを行い、エッチングレジスト剥離を行い2層フレキシブルプリント配線板とする配線形成工程。
また、前記工程aにおけるハーフエッチングは、初期析出結晶層を除去すると共に、フレキシブルプリント配線板にしたときの断面厚さの中立線と電解銅箔層の断面厚さの中心線とのズレが所定の範囲内となるまで電解銅箔層の厚さ調整を行うものである事が好ましい。
そして、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の配線形成に用いる前記電解銅箔は、表面粗さ(Rzjis)が1.5μm以下で、且つ、光沢度(Gs(60°))が400以上の低プロファイル光沢表面の析出面を備えるものであることが好ましい。
また、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の配線形成に用いる前記電解銅箔は、常態引張り強さが33kgf/mm2以上、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)引張り強さが30kgf/mm2以上であるものを用いることが好ましい。
更に、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の配線形成に用いる前記電解銅箔は、常態の伸び率が5%以上、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の伸び率が8%以上であるものを用いることが好ましい。
そして、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の配線形成に用いる前記電解銅箔は、硫酸系銅電解液中に4級アンモニウム塩ポリマーであるジアリルジメチルアンモニウムクロライドを含有させて電解することにより得られるものを用いることが好ましい。
本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の配線形成に用いる前記電解銅箔は、その析出面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか一種又は二種以上の表面処理を行ったものを用いることも好ましい。
そして、前記電解銅箔の表面処理を行った以降も、表面処理後の析出面の表面粗さ(Rzjis)が、5μm以下の低プロファイルものであることが好ましい。
本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板は、その配線表面から、電解銅箔製造時の初期析出結晶層を除去し、定常析出結晶層を露出させたものであることを特徴とする。この特徴があるが故に、当該2層フレキシブルプリント配線板は、通常のフレキシブルプリント配線板用電解銅箔を用いた場合以上の屈曲性能を発揮し、メタライズ法で形成した銅層をエッチング加工して配線形成を行った2層フレキシブルプリント配線板と同等以上の屈曲性能を示すようになる。また、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造に、上記低プロファイル電解銅箔を用いることで、屈曲性能の向上と共に35μmピッチ以下の配線を備える2層フレキシブルプリント配線板を容易に得ることが出来るようになる。従って、2層フレキシブルプリント配線板の中でも、テープ状の製品として知られ、微細なリードを備えるチップ オン フレキシブル基板(COF)等の用途に好適である。
以下、本件発明に係るフレキシブルプリント配線板の実施形態及びそのプリント配線板の製造形態に関して説明する。
本件発明に係るフレキシブルプリント配線板の形態: 本件発明に係るフレキシブルプリント配線板は、樹脂フィルム層の表面に電解銅箔をエッチングすることにより形成した配線を備える2層フレキシブルプリント配線板であり、その基本的層構成に関しては、従来のフレキシブルプリント配線板と相違ない。そして、技術的特徴を有するのは、当該配線は、電解銅箔製造時の初期析出結晶層を除去し、定常析出結晶層のみを含むものとした点である。ここで言う2層フレキシブルプリント配線板とは、配線と樹脂フィルム層との間に接着剤層を介在させないタイプのものである。本件明細書では、以下、単に「フレキシブルプリント配線板」と称する。即ち、ここで言うフレキシブルプリント配線板の配線は、電解銅箔を出発材料として製造されたものであり、その電解銅箔をエッチング加工して形成した配線に初期析出結晶層が無いという条件を満たせばよいことを意味している。即ち、初期析出結晶層の無い電解銅箔であれば、その表面のいずれの面に対して樹脂フィルム層が設けられても良い。
また、ここで言うフレキシブルプリント配線板とは、配線の表層にカバーレイフィルム層を設けたもの、カバーレイフィルムを設けることなく配線上のソルダーレジスト層を設けたもの、配線形成後に配線上にスズメッキ、半田メッキ、金メッキ等のメッキ層を形成したもの等、配線の形成前後にフレキシブルプリント配線板の用途に応じて施す公知の加工手法の全てを適用できるものとして記載している。
初期析出結晶層と定常析出結晶層とに関して説明する。この説明にあたり、電解銅箔の一般的製造方法に関して説明する。電解銅箔は、一般的に連続生産法が採用され、ドラム形状をした回転陰極と、その回転陰極の形状に沿って対向配置する不溶性陽極(DSA)との間に、硫酸銅系溶液を流し、電解反応を利用して銅を回転陰極のドラム表面に析出させ、この析出した銅が箔状態となり、回転陰極から連続して引き剥がして巻き取ることにより生産される。
この電解銅箔の回転陰極と接触した状態から引き剥がされた面は、鏡面仕上げされた回転陰極表面の形状が転写したものとなり、ある一定の凹凸は有るが、光沢を持ち滑らかな面であるため光沢面と称する。これに対し、析出サイドであった方の表面形状は、析出する銅の結晶成長速度が結晶面ごとに異なるため、山形の凹凸形状を示すものとなり、これを粗面又は析出面(本件明細書では以下「析出面」を用いる。)と称する。この析出面が銅張積層板を製造する際の絶縁層との張り合わせ面となる。そして、この析出面の粗さ(粗度)が小さいほど、優れた低プロファイルの電解銅箔と言う。但し、本件発明に係るフレキシブルプリント配線板の製造には、この析出面の粗度が一般的な電解ドラムを使用して製造された銅箔の光沢面より平滑となるため粗面という用語は使用せず、単に「析出面」と称する事とする。
そして、電解時の銅の析出の過程は、電解電流を通電すると、最初に回転陰極の表面に銅のエンブリオ(芽)が形成される。そして、このエンブリオが次第に成長し、優先析出結晶面が表層にある微細な初期析出結晶となり、一定の厚さ分の初期析出結晶層が形成される。その後、更に電解を継続すると銅の析出面がアノード表面と近づいてくる、又は、電解に伴う酸素の発生等による攪拌効果活発になる等の電解条件の僅かな変動を反映し、初期析出結晶よりも粒径の大きな定常析出結晶が全体を占めるようになる。この結果、電解銅箔の層構成を結晶構造として厳密に考えれば、初期析出結晶層と定常析出結晶層との2層からなると言える。そして、この初期析出結晶層の厚さは、電解銅箔を製造する際の電解液の種類、電流密度、電極材質、電極の表面状態等の種々の電解条件によって異なる。従って、初期析出結晶層の厚さは、市販されている電解銅箔の種類に応じて、判断すべきことを明記しておく。
ここで、図1に、二次イオン収束加工装置(FIB)を用いてスパッタリング加工した電解銅箔の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察像を示す。図1(1)が8000倍による観察像である。この図1(1)に於いて「A」と表示したのが電解銅箔の光沢面側であり、初期析出結晶層1が表層に現れている側である。なお、図1(1)では、この初期析出結晶層の上に黒い層として観察されているのは、所謂ソルダーレジスト層3であり、その外側は断面を観察するための埋め込み材である。これに対し、図1(1)に於いて「B」と表示したのが電解銅箔の析出面側であり、定常析出結晶層2が表層に現れている側である。なお、図1(1)で、この定常析出結晶層の下に黒い層として観察されているのは、ポリイミド樹脂フィルム層4である。
そして、図1(2)に初期析出結晶層の結晶を20000倍の倍率で拡大表示し、図1(3)に定常析出結晶層の結晶を20000倍の倍率で拡大表示した。この図1(2)と図1(3)とを対比することから明らかなように、定常析出結晶層の結晶には粗大化した結晶粒が観察されるが、初期析出結晶層の結晶組織の中には粗大化した結晶は確認されず、微細で、むしろ結晶粒径のバラツキの少ない状態のように見える。従って、金属学的見地より、結晶粒の微細化により高強度化が図られ結晶面のスベリ変形に対する抵抗力は、定常析出結晶層より微細且つ均一な結晶を持つ初期析出結晶層の方が優れているように思われる。
しかし、現実に屈曲性能を推し量るため、屈曲試験を行ってみると、屈曲試験の途中で配線にマイクロクラックが、発生するのは初期析出結晶層の側である可能性が高いと判断できた。これは、以下のような理由によると考える。電解銅箔が繰り返し曲げ変形を受けると、金属材であるが故に、当然に折り曲げ変形を受ける箇所で加工硬化が進行する。加工硬化現象が発生すると、その箇所は転位密度が上昇することで硬化して強度的には上昇するが、伸びが減少し、折り曲げ変形に追随できなくなってくる。即ち、初期析出結晶層を構成する結晶組織と、定常析出結晶層を構成する結晶組織とでは、初期析出結晶層を構成する結晶内部に内蔵する転位密度が、定常析出結晶層の転位密度より高いと考える事が出来る。従って、繰り返し曲げ変形を受けたとき、初期析出結晶層の加工硬化の進行が、定常析出結晶層の加工硬化の進行よりも速く、その結晶粒界からマイクロックラックが発生し、そのマイクロクラックが厚さ方向に伝播して電解銅箔層破断(配線破断)に到るものと推察できる。
なお、本件発明において実施した屈曲試験に関して説明しておく。ここでは、図2に示すMIT屈曲試験器(導通方式)を用いて、加重100gf、屈曲速度175回/分、屈曲半径0.5mm、0.8mm(2条件)、振り角度(左右)135°の条件を採用し、銅箔の破断現象が発生するまで試験を行った。そして、測定に用いた試料は、図3に示したようなポリイミド樹脂フィルム層4の上に配線(銅層)5を形成し、更にソルダーレジスト層3を設けた試料6を作成し、折り曲げ位置7(ソルダーレジスト層3の存在する位置)で所定回数の屈曲(繰り返し曲げ)を行い配線(銅層)5の破断状況を確認した。
以上のことから、本件発明に係るフレキシブルプリント配線板は、その配線の表面から初期析出結晶層を除去し、定常析出結晶層のみとすることで屈曲特性を顕著に向上させることが出来るのである。
更に、フレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線と配線厚さの中心線とのズレが、フレキシブルプリント配線板のトータル厚さに対し、一定の範囲にあると屈曲性能が安定して向上する。そして、このズレは、配線上にカバーレイフィルムを備える場合と、ソルダーレジスト層を備える場合(カバーレイフィルム無し)とで、適正な範囲が異なる。
即ち、前者のカバーレイフィルムを備える場合のフレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線と配線厚さの中心線とのズレが、フレキシブルプリント配線板のトータル厚さに対し5%以内、より好ましくは3%以内であることが好ましい。これに対し、ソルダーレジスト層を備える場合フレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線と配線厚さの中心線とのズレが、フレキシブルプリント配線板のトータル厚さに対し20%〜30%であることが好ましい。このようなフレキシブルプリント配線板設計を行うことで、より安定した屈曲性能をしめすのである。なお、ここで配線厚さとしたのは、銅層をエッチング加工し配線形成をし、その後スズメッキ、銅メッキ等を施した場合は、そのメッキ層厚さも含むことを明確にするためである。
ここで、図4を用いて、カーバーレイフィルムを備えるフレキシブルプリント配線板の断面の中立線と電解銅箔の厚さ中心線との関係を適切にするに関して説明する。フレキシブルプリント配線板10の断面を模式的に示すと、カバーレイフィルム11、カバーレイ接着剤層12、配線(銅層)5、ポリイミド樹脂フィルム4とが層状になっている。このとき破線で示したのが、フレキシブルプリント配線板10の断面厚さの中立線Cであり、一点破線で示したのが配線厚さの中心線Dである。
フレキシブルプリント配線板が屈曲させられたときの断面内での歪みの発生をモデル的に捉えると図5のようになる。そして、図5に記載した式により歪みレベルが決まるため、上記中立線Cから離れるほど、引張応力、圧縮応力共に大きくなる。従って、配線5とカバーレイ接着剤層12との間の界面剥離のみを防止することを考えれば、中立線を当該界面と一致させることが最も効果的と考えられる。しかしながら、そのような状態を形成するためには、カバーレイフィルム厚さが大きくなり現実的ではなく、ポリイミド樹脂フィルムと接着した銅箔表面に発生する歪みが極めて大きくなり、ポリイミド樹脂フィルムと接触した銅箔表面からのマイクロクラック発生の危険性が高くなる。そこで、フレキシブルプリント配線板のトータル的な性能を考慮すると、フレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線Cと電解銅箔厚さの中心線Dとを一致させることが理想状態となる。この論理に従い研究を行った結果、本件発明に係るフレキシブルプリント配線板では、フレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線と配線厚さの中心線とのズレが、上記範囲にあれば、極めて良好且つ安定した屈曲性能を発揮するのである。
また、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板が、カバーレイフイルムが無く、ソルダーレジスト層を備える2層フレキシブルプリント配線板である場合がある。この層構成を備える2層フレキシブルプリント配線板は、フィルムテープキャリアとして多用される。そして、このフィルムテープキャリアとして使用する際には、樹脂フィルム層の厚さが30μm〜45μmの範囲とすることが定常化している。従って、以下に述べる2層フレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線と配線厚さの中心線とのズレは、前記樹脂フィルム層の厚さを前提として考える必要がある。その結果、電解銅箔を用いて配線形成を行った当該2層フレキシブルプリント配線板のばあい、その断面厚さの中立線と配線厚さの中心線とのズレが、2層フレキシブルプリント配線板のトータル厚さの20%〜30%、より好ましくは22%〜27%で、極めて良好且つ安定した屈曲性能を発揮することが判明した。ここで、2層フレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線と配線厚さの中心線とのズレが20%未満の場合には、樹脂フィルム層に対して配線厚さが薄くなることを意味し、2層フレキシブルプリント配線板の層構成が多用されるCOF等のテープキャリアフィルム用途での部品実装が困難となる。一方、当該ズレが30%を超えると、配線表面が中立線の位置から離れすぎて、屈曲時の配線表面の変形量が大きくなり、マイクロクラックの発生が容易となる。このソルダーレジスト層3を備える断面模式図を図6に示す(但し、配線上にメッキ層がある場合も考え得るが、配線厚の一部として考えれば良く、図面中でのメッキ層の記載は省略している。)。この図6と図4とを対比すると分かるように、図6の層構成は図4の接着剤層を省略した状態と見て取れる。従って、カバーレイフィルムを設けた場合と同様の考え方を採用することができ、フレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線Cと電解銅箔厚さの中心線Dとを一致させることが理想状態であるが、樹脂フィルム層が上記範囲にあることが前提であり、ゾルダーレジスト層を備えるフレキシブルプリント配線板の断面厚さの中立線と配線厚さの中心線との完全一致を図ることは、基板設計上困難である。しかしながら、当該ズレが上記範囲にあれば、極めて良好且つ安定した屈曲性能を発揮するのである。
ここで言う電解銅箔の厚さに関して、特段の限定はない。形成する配線のファイン化レベルに応じて、適宜電解銅箔を選択的に使用すればよいのである。そして、本件発明で言う電解銅箔とは、その厚さ等に特に限定はなくIPC−MF−150Fに定めるクラス3以上の伸び特性を示す電解銅箔を選択的に使用することが好ましい。
本件発明に係るフレキシブルプリント配線板の製造形態: 上述のフレキシブルプリント配線板を製造する方法として、以下の2つの製造方法のいずれかを選択的に用いることが好ましい。
第1の製造方法は、電解銅箔の析出面を樹脂フィルム層との張り合わせ面として用いる場合の製造方法である。即ち、樹脂フィルム層と電解銅箔とを積層して構成したフレキシブル銅張積層板をエッチング加工することによりフレキシブルプリント配線板を製造する方法であって、以下に示す工程A〜工程Cを含むことを特徴とする製造方法を採用する。なお、ここで明記しておくが、この製造工程は、全ての工程が独立したバッチ形式でも、フィルムキャリアテープ製品の製造のように一連の工程を連続配置した連続製造ラインの中で行う物であっても構わない。
工程A: この積層体形成工程は、表裏に光沢面と析出面とを備える電解銅箔の析出面に樹脂フィルム層を設け2層フレキシブル銅張積層板とする工程である。電解銅箔は、先に説明したように、一般的に連続生産法が採用され、ドラム形状をした回転陰極と、その回転陰極の形状に沿って対向配置する陽極との間に、硫酸銅系溶液を流し、電解反応を利用して銅を回転陰極のドラム表面に析出させ、この析出した銅が箔状態となり、回転陰極から連続して引き剥がして巻き取ることにより生産される。この段階では、防錆処理等の表面処理は何ら行われていない状況であり、電析直後の銅は活性化した状態にあり空気中の酸素により、非常に酸化しやすい状態にある。
そして、この電解銅箔の回転陰極と接触した状態から引き剥がされた面は、鏡面仕上げされた回転陰極表面の形状が転写したものとなり、光沢を持ち滑らかな面であるため光沢面と称されてきた。これに対し、析出サイドであった方の表面形状は、析出する銅の結晶成長速度が結晶面ごとに異なるため、山形の凹凸形状を示すものとなり、これを粗面又は析出面(本件明細書では以下「析出面」を用いる。)と称する。そして、この析出面の粗さ(粗度)が小さいほど、優れた低プロファイルの電解銅箔と言う。本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造には、この電解銅箔の析出面の粗度が一般的な電解ドラムを使用して製造された銅箔の光沢面より平滑となるものを用いる場合もあるため、粗面という用語は使用せず、単に「析出面」と称している。
以上のように、電解して得られた直後の電解銅箔は、何ら表面処理を行っていない状態のものであり「未処理銅箔」、「析離箔」等と称して分別する場合もある。しかし、本件明細書では、市場に於いて使用される通念に基づいて、以下に述べる粗化処理、表面処理の有無に拘わらず、単に「電解銅箔」と称することとしている。
そして、上記電解銅箔(未処理銅箔)は、表面処理工程により、析出面(光沢面を含む場合もある)への粗化処理や防錆処理等が施される。析出面への粗化処理とは、硫酸銅溶液中で、析出面に微細銅粒を析出付着させ、必要に応じて平滑メッキ条件の電流範囲で被せメッキし微細銅粒の脱落を防止するものが一般的である。従って、微細銅粒を析出付着させた析出面のことを「粗化処理面」と称する。続いて、表面処理工程では、電解銅箔の表裏に、亜鉛、亜鉛合金、クロム系のメッキ、有機防錆処理等により防錆処理が行われ、乾燥して、巻き取ることで表面処理を施した電解銅箔が完成するのである。なお、ここで明確にしておくが、粗化処理を行うことなく、防錆処理のみを施すこともある。
そして、ここで用いる電解銅箔に低プロファイル電解銅箔を使用する場合に於いて、以下の緒特性を備える電解銅箔を用いることが好ましい。即ち、表面粗さ(Rzjis)が1.5μm以下、好ましくは1.2μm以下、より好ましくは1.0μm以下で、且つ、光沢度(Gs(60°))が400以上の低プロファイル析出面を備える電解銅箔を使用し、その析出面と樹脂フィルムとを張り合わせて用いるのである。このような低プロファイル銅箔を用いることで、2層フレキシブルプリント配線板としたときの屈曲性能の向上が図れるのである。即ち、当該析出面が通常の低プロファイル電解銅箔以上に滑らかな表面を備えることで、屈曲試験を行うときの引張応力、圧縮応力の集中箇所となる凹凸が少なくなり、マイクロクラックの発生が減少するためと考えられる。
ここで言う低プロファイル銅箔の特徴は、従来の、上記特許文献3、特許文献4に開示の製造方法をトレースして、粗化処理を行わない状態の電解銅箔を製造してみると、析出面側の粗度(Rzjis)の値が平均して1.5μmを超えるレベルである。これに対して、本件発明に係る電解銅箔は、実施例に示すとおり、条件最適化により析出面側の表面粗さ(Rzjis)が0.6μm以下の低プロファイルを得ることも可能となる。ここで特に下限値を限定していないが、粗度の下限は経験的に0.1μm程度である。
また、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造に用いる電解銅箔の析出面の滑らかさを示す指標として、光沢度を用いることにより、従来の低プロファイル電解銅箔との差異を明瞭に捉えることが出来る。本件発明で用いた光沢度の測定は、電解銅箔の流れ方向(MD方向)に沿って、当該銅箔の表面に入射角60°で測定光を照射し、反射角60°で跳ね返った光を強度を測定したものであり、日本電色工業株式会社製光沢計VG−2000型を用いて、光沢度の測定方法であるJIS Z 8741−1997に基づいて測定した。その結果、上記特許文献3、特許文献4に開示の製造方法をトレースして、12μm厚さの電解銅箔を製造し、その析出面の光沢度[Gs(60°)]を測定すると、250〜380程度の範囲に入る。これに対し、本件発明に係る電解銅箔は、光沢度[Gs(60°)]が400を超え、より滑らかな表面をもつことが分かる。なお、ここでも、光沢度の上限値を定めていないが、経験的に780程度が上限となるようである。
また、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造に用いる電解銅箔は、常態の引張り強さが33kgf/mm2以上、より好ましくは37kgf/mm2、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の引張り強さが30kgf/mm2以上、より好ましくは33kgf/mm2という高い機械的特性を備える。上記特許文献3、特許文献4に開示の製造方法をトレースして、12μm厚さの電解銅箔を製造し、その引張り強さを測定すると、殆どのものは常態の引張り強さが33kgf/mm2未満、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の引張り強さが30kgf/mm2未満という物性を示す。この引張り強さから、常態の引張り強さも大きな値ではなく、プリント配線板に加工する際の標準的加熱プロセス180℃×60分の加熱を受けただけで、引張り強さが20kgf/mm2台に軟化するものもあり、フライングリードの形成が必要となる三層TAB製品には不向きである。従って、一旦加熱を受け、その後引張り応力を受けると破断しやすくなると言える。これに対し、本件発明に係る電解銅箔は、常態の引張り強さが33kgf/mm2以上を備え、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の引張り強さが30kgf/mm2以上という高い機械的特性を備える。更に、実施例に示すとおり、条件の最適化により、常態の引張り強さが38kgf/mm2以上、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の引張り強さが35kgf/mm2以上という更に高い機械的特性を備え得る。従って、COFテープに限らず、デバイスホールを備える三層TABテープのICチップ実装部となるインナーリード(フライングリード)にも適用可能である。
更に、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造に用いる電解銅箔は、常態の伸び率が5%以上、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の伸び率が8%以上という良好な機械的特性を備える。上記特許文献3、特許文献4に開示の製造方法をトレースして、12μm厚さの電解銅箔を製造し、その引張り強さを測定すると、殆どのものは常態の伸び率が5%未満、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の伸び率が7%未満という物性を示す。確かに、この程度の伸び率であっても、リジッドプリント配線板に加工し、メカニカルドリルによるスルーホール形成を行う際のフォイルクラック防止の役割を果たすには十分である。しかしながら、ポリイミドフィルム、ポリイミドアミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルム等のフレキシブル基材に、電解銅箔を張り合わせて2層フレキシブルプリント配線板とし、折り曲げ使用するときの折り曲げ部に位置する配線のクラック発生の防止を考えると不十分である。本件発明に係る2層フレキシブル銅張積層板に用いる電解銅箔は、常態の伸び率が5%以上、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の伸び率が8%以上という良好な機械的特性を備えるため、2層フレキシブルプリント配線板の折り曲げにも十分に耐えうる伸び率を達成出来ている。
そして、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造に用いる電解銅箔は、硫酸系銅電解液中に4級アンモニウム塩ポリマーであるジアリルジメチルアンモニウムクロライドを含有させて電解することにより得られるものが最も適している。
ここで、この硫酸系銅電解液中に、環状構造を持つ4級アンモニウム塩ポリマーであるジアリルジメチルアンモニウムクロライドを含有させて電解する方法に関して述べておく。そして、より好ましくは、環状構造を持つ4級アンモニウム塩ポリマーであるジアリルジメチルアンモニウムクロライドと、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸と塩素とを添加して得られた硫酸系銅電解液を用いることが好ましい。この組成の硫酸系銅電解液を用いることで、安定して本件発明で用いる低プロファイルの電解銅箔の製造が可能となる。硫酸系銅電解液に、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、環状構造を持つ4級アンモニウム塩ポリマー、塩素の3成分が存在することが最も好ましく、いずれの成分が欠けても低プロファイル電解銅箔の製造歩留まりが不安定化する。
本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造に用いる電解銅箔製造に用いる硫酸系銅電解液中の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度は、3ppm〜50ppmである事が好ましく、より好ましくは4ppm〜30ppm、更に好ましくは4ppm〜25ppmである。この3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度が3ppm未満の場合には、電解銅箔の析出面が粗くなり、低プロファイル電解銅箔を得ることが困難となる。一方、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度が50ppmを越えても、得られる電解銅箔の析出面が平滑化する効果は向上せず、むしろ電析状態が不安定化するのである。なお、本件発明で言う3−メルカプトー1−プロパンスルホン酸とは、3−メルカプトー1−プロパンスルホン酸塩をも含む意味で使用しており、濃度の記載値は、ナトリウム塩としての3−メルカプトー1−プロパンスルホン酸ナトリウム換算の値である。なお、3−メルカプトー1−プロパンスルホン酸の濃度とは、3−メルカプトー1−プロパンスルホン酸の他、3−メルカプトー1−プロパンスルホン酸のニ量体等の電解液中での変性物も含む濃度である。
そして、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造に用いる電解銅箔の製造に用いる硫酸系銅電解液中の4級アンモニウム塩ポリマーは、当該濃度が1ppm〜50ppmである事が好ましく、より好ましくは2ppm〜30ppm、更に好ましくは3ppm〜25ppmである。ここで、4級アンモニウム塩ポリマーとして、種々のものを用いることが可能であるが、低プロファイルの析出面を形成する効果を考えると、4級アンモニウムの窒素原子が5員環構造の一部に含まれる化合物、特にジアリルジメチルアンモニウムクロライドを用いることが最も好ましい。
そして、このジアリルジメチルアンモニウムクロライドの硫酸系銅電解液中の濃度は、上述の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度との関係を考慮して、1ppm〜50ppmである事が好ましく、より好ましくは2ppm〜30ppm、更に好ましくは3ppm〜25ppmである。ここで、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの硫酸系銅電解液中の濃度が1ppm未満の場合には、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度を如何に高めても電解銅箔の析出面が粗くなり、低プロファイル電解銅箔を得ることが困難となる。ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの硫酸系銅電解液中の濃度が50ppmを超えても、銅の析出状態が不安定になり、低プロファイル電解銅箔を得ることが困難となる。
更に、前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度は、5ppm〜60ppmである事が好ましく、更に好ましくは10ppm〜20ppmである。この塩素濃度が5ppm未満の場合には、電解銅箔の析出面が粗くなり低プロファイルを維持出きなくなる。一方、塩素濃度が60ppmを超えると、電解銅箔の粗面が粗くなり、電析状態が安定せず、低プロファイルの析出面を形成出来なくなる。
以上のように、前記硫酸系銅電解液中の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸とジアリルジメチルアンモニウムクロライドと塩素との成分バランスが最も重要であり、これらの量的バランスが上記範囲を逸脱すると、結果として電解銅箔の析出面が粗くなり低プロファイルを維持出きなくなる。
なお、本件発明に言う硫酸系銅電解液の銅濃度は50g/l〜120g/l、フリー硫酸濃度が60g/l〜250g/l程度の溶液を想定している。
そして、上記硫酸系銅電解液を用いて電解銅箔を製造する場合には、液温20℃〜60℃とし、電流密度30A/dm2〜90A/dm2で電解することが好ましい。液温が20℃〜60℃、より好ましくは40℃〜55℃である。液温が20℃未満の場合には析出速度が低下し伸び及び引張り強さ等の機械的物性のバラツキが大きくなる。一方、液温が60℃を超えると蒸発水分量が増加し液濃度の変動が速く、得られる電解銅箔の析出面が良好な平滑性を維持出来ない。また、電流密度は30A/dm2〜90A/dm2で、より好ましくは40A/dm2〜70A/dm2である。電流密度が30A/dm2未満の場合には銅の析出速度が小さく工業的生産性が劣る。一方、電流密度が90A/dm2を超える場合には、得られる電解銅箔の析出面の粗さが大きくなり、従来の低プロファイル銅箔を超えるものとは出来ない。
そして、本件発明に係る2層フレキシブルプリント配線板の製造に用いる電解銅箔は、その粗面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか一種又は二種以上を行い表面処理を施した電解銅箔として用いることも可能である。
ここで、粗化処理とは、電解銅箔の表面に微細金属粒を付着形成させるか、エッチング法で粗化表面を形成するか、いずれかの方法が採用される。ここで、前者の微細金属粒を付着形成する方法として、銅微細粒を粗面に付着形成する方法に関して例示しておく。この粗化処理工程は、電解銅箔の粗面上に微細銅粒を析出付着させる工程と、必要に応じて、この微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキ工程とで構成される。
電解銅箔の粗面上に微細銅粒を析出付着させる工程では、電解条件としてヤケメッキの条件が採用される。従って、一般的に微細銅粒を析出付着させる工程で用いる溶液濃度は、ヤケメッキ条件を作り出しやすいよう、低い濃度となっている。しかしながら、本件発明に於いて用いる電解銅箔は、その析出面が従来の低プロファイル銅箔以上に平坦且つ低プロファイルであるため、このヤケメッキを施しても、物理的な突起等の電流集中箇所が少ないため、極めて微細且つ均一な状態で微細銅粒の付着形成が行える。このヤケメッキ条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。
そして、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキ工程では、析出付着させた微細銅粒の脱落を防止するために、平滑メッキ条件で微細銅粒を被覆するように銅を均一析出させるための工程である。従って、ここでは前述のバルク銅の形成槽で用いたと同様の溶液を銅イオンの供給源として用いることができる。この平滑メッキ条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。
次に、防錆処理層を形成する方法に関して説明する。この防錆処理層は、フレキシブル銅張積層板及びフレキシブルプリント配線板の製造過程で支障をきたすことの無いよう、電解銅箔層の表面が酸化腐食することを防止するためのものである。防錆処理に用いられる方法は、ベンゾトリアゾール、イミダゾール等を用いる有機防錆、若しくは亜鉛、クロメート、亜鉛合金等を用いる無機防錆のいずれを採用しても問題はない。電解銅箔の使用目的に合わせた防錆を選択すればよい。
また、防錆処理層にクロメート層を含ませて構成することも好ましい。クロメート層が存在することで、耐食性が向上すると同時に、樹脂層との密着性も同時の向上する傾向にあるのである。このときのクロメート層の形成には、定法に従い置換法、電解法のいずれの方法を採用しても良いのである。
そして、シランカップリング剤処理とは、粗化処理、防錆処理等が終了した後に、絶縁層構成材との密着性を化学的に向上させるための処理である。ここで言う、シランカップリング剤処理に用いるシランカップリング剤として、特に限定を要するものではなく、使用する絶縁層構成材、フレキシブルプリント配線板製造工程で使用するメッキ液等の性状を考慮して、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤等から任意に選択使用することが可能となる。
より具体的には、プリント配線板用のプリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心にビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン等を用いることが可能である。
そして、その析出面に上記所望の表面処理(粗化処理と防錆処理との任意の組み合わせ)を施した表面処理銅箔は、その樹脂フィルム基材との張り合わせ面が、表面粗さ(Rzjis)=5μm以下の低プロファイルを備えるものとする事も出来る。特に、上記被せメッキ処理が不要な極微細銅粒を付着形成させた場合には、表面粗さ(Rzjis)=2μm以下の低プロファイルを備えるものとなる。このような低プロファイルの粗化処理面であっても、樹脂フィルム層に張り合わせたとき良好な密着性を確保し屈曲時の樹脂フィルム基材との剥離を防止して屈曲性能を飛躍的に向上させることが可能となる。また、同時に良好なエッチング性能を確保し、2層フレキシブルプリント配線板として実用上支障のない耐熱特性、耐薬品性、引き剥がし強さを得ることが可能である。
以上に述べてきた電解銅箔と樹脂フィルムとの張り合わせ2層フレキシブル銅張積層板を製造する方法として、特段の限定はない。公知の方法のいずれかを採用すればよい。即ち、キャスティング法を用いる場合には、上記電解銅箔の析出面にポリイミド系ワニスを、ダイコーター、ロールコーター、ロータリーコーター、ナイフコーター、ドクターブレード等の公知の塗布手段で直接塗布した後、当該ワニスを加熱乾燥させることで得られる。ここで用いる、ポリイミド系ワニスは、特段の限定は要さない。一般的に、ジアミン系薬剤と酸無水物とを反応させて得られるポリアミック酸ワニス、ポリアミック酸を溶液の状態で化学反応若しくは加熱することでイミド化したポリイミド樹脂ワニス等を広く使用することが出来ことができる。即ち、酸無水物は、加熱乾燥により所望の組成のポリイミド系樹脂が得られる限り、適宜成分選択を行えばよいのであり、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等を使用するが、特段の限定は要さないと考える。そして、ジアミン系薬剤としては、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエ−テル等の1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、これらのワニスには、フレキシブルプリント配線板としたときの要求品質を満たす限りポリアミドイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等を添加したポリイミド系複合ワニスをも含むものであることを明確にしておく。
工程B: この前記初期析出結晶層除去工程では、2層フレキシブル銅張積層板の表面に位置する電解銅箔の光沢面をハーフエッチングすることにより、当該電解銅箔の初期析出結晶層を除去し、定常析出結晶層を露出させる。このようなハーフエッチングを行うことで、屈曲を行っている際のマイクロクラックの発生基点と成りやすい初期析出結晶を除去するのである。また、同時に、ハーフエッチングにより回転陰極の表面形状の転写した凹凸を消去し、表面粗さを低くして、光沢度を上昇させる。このようにして、屈曲試験を行うときの引張応力、圧縮応力の集中箇所となる凹凸を少なくすることでも、マイクロクラックの発生が減少すると考えられる。更に、この定常析出結晶層を露出させた表面は、通常の電解銅箔の光沢面以上に滑らかな表面であり、凹凸が無いため、エッチングレジスト層を形成し、エッチングレジストパターンを露光する際のUV光の乱反射を軽減し露光ボケを解消するため、ファインピッチ配線を形成するための解像度に優れたレジストパターン形成を可能とするのである。
なお、ここで言うハーフエッチングは、公知のエッチング法のいずれを用いても良く、特段の限定はない。例えば、塩化第二鉄系エッチング液、塩化銅系エッチング液、硫酸−過酸化水素水系エッチング液等を用い、この中にフレキシブル銅張積層板の状態で浸漬するか、銅層の表面に前記エッチング溶液をスプレー又はシャワーリングするなどして、電解銅箔層を所望の厚さまで均一に溶解させ、その後、水洗及び乾燥処理を行う。
そして、この工程Bにおけるハーフエッチングを行うにあたり、初期析出結晶層を除去すると共に、フレキシブルプリント配線板にしたときの断面厚さの中立線と電解銅箔層の断面厚さの中心線とのズレが所定の範囲内となるように電解銅箔層の厚さ調整を行うものである。
工程C: この配線形成工程では、当該定常析出結晶層の上にエッチングレジスト層を形成し、エッチングレジストパターンを露光し、現像し、配線エッチングを行い、エッチングレジスト剥離を行いフレキシブルプリント配線板とする。
フレキシブル銅張積層板からフレキシブルプリント配線板への加工方法には、特段の限定はない。公知のエッチング加工プロセスを用いれば足りるのである。従って、ここでの詳細な説明は省略する。このようにして得られたフレキシブルプリント配線板は、屈曲性能に優れ、微細配線の形成が可能なものである。従って、フレキシブルプリント配線板の中でも、配線ピッチが35μm以下のファインピッチ配線を備えるフィルムキャリアテープ状の高屈曲性フレキシブルプリント配線板の製造に好適である。
第2の製造方法は、電解銅箔の光沢面を樹脂フィルム層との張り合わせ面として用いる場合の製造方法である。即ち、樹脂フィルム層と電解銅箔とを積層して構成したフレキシブル銅張積層板をエッチング加工することによりフレキシブルプリント配線板を製造する方法であって、以下に示す工程a〜工程cを含むことを特徴とする製造方法を採用する。なお、ここで明記しておくが、この製造工程も、全ての工程が独立したバッチ形式でも、一連の工程を連続配置した連続製造ラインの中で行うものであっても構わない。以下、工程毎に説明する。
工程a: この初期析出結晶層除去工程では、表裏に光沢面と析出面とを備える電解銅箔の光沢面側からハーフエッチングすることで初期析出結晶層を除去する工程である。このときの初期析出結晶層の除去は、電解銅箔の状態で行うのであり、電解銅箔を上述したハーフエッチングに用いる溶液と同様のエッチング液中に浸漬するか、当該エッチング液を光沢面の表面にシャワーリング、スプレーする等の手法の採用が可能である。但し、このとき析出面側からのエッチングを望まない場合には、予め析出側にエッチングレジスト層を設ける等の浸食防止処理を施すことが好ましい。
そして、この工程aにおけるハーフエッチングを行うにあたり、初期析出結晶層を除去すると共に、フレキシブルプリント配線板にしたときの断面厚さの中立線と電解銅箔層の断面厚さの中心線とのズレが所定の範囲内となるように電解銅箔層の厚さ調整を行うものである。
工程b: この積層体形成工程では、初期析出結晶層を除去した光沢面に樹脂フィルム層を設け2層フレキシブル銅張積層板とする。即ち、第1の製造方法と比べると、電解銅箔の逆の面に樹脂フィルム層を形成するのである。このときの樹脂フィルム層の形成方法に関しては、第1の製造方法と同様であるため、重複した記載を避けるために省略する。
工程c: この配線形成工程では、前記フレキシブル銅張積層板の表面に位置する電解銅箔の析出面の上にエッチングレジスト層を形成し、エッチングレジストパターンを露光し、現像し、配線エッチングを行い、エッチングレジスト剥離を行い2層フレキシブルプリント配線板とする。この工程は、第1の製造方法の工程Cと同様であるため、重複した記載を避けるために省略する。
また、前記工程aにおけるハーフエッチングは、初期析出結晶層を除去すると共に、フレキシブルプリント配線板にしたときの断面厚さの中立線と電解銅箔層の断面厚さの中心線とのズレが所定の範囲内となるまで電解銅箔層の厚さ調整を行うものである事が好ましい。
以下、本件発明に係るフレキシブルプリント配線板(屈曲性試験用試料)を製造し、屈曲性試験を行った結果を実施例として示す。
電解銅箔の製造: この実施例では、硫酸系銅電解液として、硫酸銅溶液であって、銅濃度80g/l、フリー硫酸140g/l、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度4ppm、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド濃度(センカ(株)製ユニセンスFPA100Lを使用)3ppm、塩素濃度10ppm、液温50℃の溶液を用いて、電流密度60A/dm2で電解し、18μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の片面は、チタン製電極の表面形状の転写した光沢面(Rzjis=1.02μm)であり、他面側の析出面の粗度はRzjis=0.53μm,Ra=0.09μm、光沢度[Gs(60°)]669、常態引張り強さ39.9kgf/mm2、加熱後引張り強さ35.2kgf/mm2、常態伸び率7.6%、加熱後伸び率14.3%であった。
そして、上述の電解銅箔の表面処理として、当該析出面を含む両面に、亜鉛防錆処理を施し、前記亜鉛防錆層の上に、電解でクロメート層を形成した。
以上のように防錆処理が完了すると水洗後、直ちにシランカップリング剤処理槽で、防錆処理した面の防錆処理層の上にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの吸着を行った。
シランカップリング剤処理が終了すると、最終的に、電熱器により箔温度が140℃となるよう、雰囲気温度を調整加熱した炉内を4秒かけて通過し、水分をとばし、シランカップリング剤の縮合反応を促進し、完成した電解銅箔とした。そして、この電解銅箔層の初期析出結晶層の厚さが平均3.7μmであった。
電解銅箔の初期析出結晶層の除去: 前記電解銅箔の析出面にエッチングレジスト層を設け、塩化銅系エッチング液を、前記電解銅箔の光沢面にスプレーして、約3.7μm厚さの初期析出結晶層の除去を行い、更にエッチングを継続し、電解銅箔を9.8μm厚さとした。そして、析出面に設けたエッチングレジスト層は、アルカリ溶液にて膨潤除去し、十分な洗浄を行った。
フレキシブル銅張積層板の製造: 前記電解銅箔の初期析出結晶層を除去した光沢面に、市販のポリアミック酸溶液を含むポリイミド前駆体ワニスを塗布し、加熱することでイミド化させ、39.5μm厚のキャスティング法によるポリイミド樹脂フィルム層を形成した。その結果、約9.8μm厚の電解銅箔層と39.6μm厚さのポリイミド樹脂フィルム層(ベースフィルム層)とからなる、フィルム幅35mmの2層フレキシブル銅張積層板(トータル厚さは49.4μm)を製造した。
屈曲試験用試料の製造: 前記フレキシブル銅張積層板に、フォトリソグラフ法を用いて配線パターンを形成し、置換スズメッキして、23mm幅×10mm長さの寸法内に30μmピッチ配線(スズメッキ後の配線厚さ9.8μm)の屈曲性試験配線を形成した。このとき当該試料の配線形成方向は、電解銅箔の製造時の幅方向(TD方向)に対応するようにした。その後、図3に示したように、ポリイミド樹脂フィルム層4の上の配線5の領域の半分に8.7μm厚さのソルダーレジスト層3を設け、試料6を作成した。このときフレキシブルプリント配線板としてのトータル厚さは58.1μmであり、その中立線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から29.05μmの位置にある。そして、配線の中心線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から44.5μmの位置にある。従って、当該中立線と当該中心線とのズレは、15.45μmである。従って、そのズレのトータル厚さに対する割合は、15.45(μm)/58.1(μm)×100=26.59%である。
屈曲性試験の結果: 図3に示した、折り曲げ位置7(ソルダーレジスト層3の存在する位置)で所定回数の屈曲(繰り返し曲げ)を行い配線5の破断状況を確認した。その結果、R(0.5mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数43.4回、R(0.8mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数110.7回であった。評価結果の詳細は、表1に掲載する。
電解銅箔の製造: この実施例では、実施例1で用いたと同じ電解銅箔を用いた。
フレキシブル銅張積層板の製造:前記電解銅箔の析出面に、市販のポリアミック酸溶液を含むポリイミド前駆体ワニスを塗布し、加熱することでイミド化させ、39.5μm厚のキャスティング法によるポリイミド樹脂フィルム層を形成した。その結果、約18μm厚の電解銅箔層と39.5μm厚さのポリイミド樹脂フィルム層(ベースフィルム層)とからなる2層フレキシブル銅張積層板(トータル厚さは57.5μm)を製造した。
屈曲試験用試料の製造: 前記フレキシブル銅張積層板を、塩化銅系エッチング液に浸漬し、前記電解銅箔層の約3.7μm厚さの初期析出結晶層の除去を行い、更にエッチングを継続し、電解銅箔層を9.2μm厚さとした。
そして、実施例1と同様に30μmピッチ配線(置換スズメッキ後の配線厚さ9.2μm)の屈曲性試験配線を形成し、図3に示したように、ポリイミド樹脂フィルム層4の上の配線5の領域の半分に8.6μm厚さのソルダーレジスト層3を設け、試料6を作成した。このときフレキシブルプリント配線板としてのトータル厚さは57.3μmであり、その中立線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から28.65μmの位置にある。そして、配線5の中心線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から44.1μmの位置にある。従って、当該中立線と当該中心線とのズレは、15.45μmである。従って、そのズレのトータル厚さに対する割合は、15.45(μm)/57.3(μm)×100=26.96%である。
屈曲性試験の結果: 図3に示した、折り曲げ位置7(ソルダーレジスト層3の存在する位置)で所定回数の屈曲(繰り返し曲げ)を行い配線5の破断状況を確認した。その結果、R(0.5mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数45.7回、R(0.8mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数130.1回であった。評価結果の詳細は、表1に掲載する。
この実施例では、従来の市販の低プロファイル電解銅箔である三井金属鉱業株式会社製の約18μm厚さのロープロファイル銅箔を用いた。この電解銅箔の片面は、チタン製電極の表面形状の転写した光沢面(Rzjis=1.05μm)であり、他面側の析出面の粗度はRzjis=0.85μm、Ra=0.12μm、光沢度[Gs(60°)]60、常態引張り強さ51.4kgf/mm2、加熱後引張り強さ48.7kgf/mm2、常態伸び率5.6%、加熱後伸び率6.7%であった。なお、この電解銅箔の初期析出結晶層は、平均8.5μm厚さであった。
電解銅箔の初期析出結晶層の除去: 前記電解銅箔の析出面にエッチングレジスト層を設け、塩化銅系エッチング液を、前記電解銅箔の光沢面にスプレーして、約8.5μm厚さの初期析出結晶層の除去を行い、更にエッチングを継続し、電解銅箔を8.1μm厚さとした。そして、析出面に設けたエッチングレジスト層は、アルカリ溶液にて膨潤除去し、十分な洗浄を行った。
フレキシブル銅張積層板の製造:前記電解銅箔の初期析出結晶層を除去した光沢面に、市販のポリアミック酸溶液を含むポリイミド前駆体ワニスを塗布し、加熱することでイミド化させ、38.9μm厚のキャスティング法によるポリイミド樹脂フィルム層を形成した。その結果、8.1μm厚の電解銅箔層と38.9μm厚さのポリイミド樹脂フィルム層(ベースフィルム層)とからなる2層フレキシブル銅張積層板(トータル厚さは47.0μm)を製造した。
屈曲試験用試料の製造: そして、このフレキシブル銅張積層板を用いて、実施例1と同様に、30μmピッチ配線(置換スズメッキ後の配線厚さ8.1μm)の屈曲性試験配線を形成し、更に8.1μm厚さのソルダーレジスト層を備える屈曲性測定用試料を作成した。このときフレキシブルプリント配線板としてのトータル厚さは55.1μmであり、その中立線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から27.55μmの位置にある。そして、配線5の中心線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から42.95μmの位置にある。従って、当該中立線と当該中心線とのズレは、15.4μmである。従って、そのズレのトータル厚さに対する割合は、15.4(μm)/55.1(μm)×100=27.95%である。
屈曲性試験の結果: 図3に示した、折り曲げ位置7(ソルダーレジスト層3の存在する位置)で所定回数の屈曲(繰り返し曲げ)を行い配線5の破断状況を確認した。その結果、R(0.5mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数23.8回、R(0.8mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数57.3回であった。評価結果の詳細は、表1に掲載する。
比較例
[比較例1]
この比較例では、ポリイミド樹脂フィルムの表面に、メタライズ法で銅層を形成した2層フレキシブル銅張積層板を用いた。この2層フレキシブル銅張積層板は、ポリイミド樹脂フィルム厚さ37.8μm、銅層厚さ(シード層含む)7.8μmの製品である。これを用いて、実施例1と同様にして、図3に示したように、置換スズメッキ後の配線厚さ7.8μmの上に、9.7μm厚さのソルダーレジスト層を設けた屈曲性測定用試料を製造し、屈曲性試験を行った。
このときフレキシブルプリント配線板としてのトータル厚さは55.3μmであり、その中立線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から27.65μmの位置にある。そして、配線の中心線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から41.7μmの位置にある。従って、当該中立線と当該中心線とのズレは、14.05μmである。従って、そのズレのトータル厚さに対する割合は、14.05(μm)/55.3(μm)×100=25.4%である。
屈曲性試験の結果: 図3に示した、折り曲げ位置7(ソルダーレジスト層3の存在する位置)で所定回数の屈曲(繰り返し曲げ)を行い配線5の破断状況を確認した。その結果、R(0.5mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数33.4回、R(0.8mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数104.5回であった。評価結果の詳細は、表1に掲載する。
[比較例2]
電解銅箔の製造: この比較例では、実施例1と同様にして製造した低プロファイル電解銅箔であって、約12μm厚さのものを使用した。この電解銅箔の片面は、チタン製電極の表面形状の転写した光沢面(Rzjis=1.02μm)であり、他面側の析出面の粗度はRzjis=0.51μm,Ra=0.08μm、光沢度[Gs(60°)]670、常態引張り強さ38.7kgf/mm2、加熱後引張り強さ35.5kgf/mm2、常態伸び率7.3%、加熱後伸び率12.5%であった。その後の表面処理である防錆処理等は実施例1と同様である。なお、光沢面側にある初期析出結晶層の厚さは、約4.0μmであった。
フレキシブル銅張積層板の製造: 実施例2と同様にして、電解銅箔の析出面にキャスティング法によってポリイミド樹脂フィルム層を形成した。その結果、約12μm厚の電解銅箔層と39.6μm厚さのポリイミド樹脂フィルム層(ベースフィルム層)とからなる2層フレキシブル銅張積層板を製造した。
屈曲試験用試料の製造: 前記フレキシブル銅張積層板の前記電解銅箔層を、実施例1と同様のエッチング液を用いて、単に表面の清浄化を目的として、酸洗処理するレベルのエッチングを行い約2.0μm厚さの初期析出結晶を除去した。従って、約2.0μm厚さの初期析出結晶層が残留した約10μm厚さの電解銅箔層とした。以下、実施例2と同様にして、置換スズメッキ後の10μm厚さの配線の上に、8.7μm厚さのソルダーレジスト層を設け屈曲性試験用試料を製造した。このときフレキシブルプリント配線板としてのトータル厚さは58.3μmであり、その中立線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から29.15μmの位置にある。そして、配線の中心線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から44.6μmの位置にある。従って、当該中立線と当該中心線とのズレは、15.45μmである。従って、そのズレのトータル厚さに対する割合は、15.45(μm)/58.3(μm)×100=26.50%である。即ち、中立線と中心線とのズレを、敢えて適正な範囲とした。
屈曲性試験の結果: 図3に示した、折り曲げ位置7(ソルダーレジスト層3の存在する位置)で所定回数の屈曲(繰り返し曲げ)を行い配線5の破断状況を確認した。その結果、R(0.5mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数23.7回、R(0.8mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数54.8回であった。評価結果の詳細は、表1に掲載する。
[比較例3]
この比較例は、キャスティング法により製造した従来のファインピッチ用2層フレキシブル銅張積層板を使用した例である。即ち、この比較例では、実施例3とほぼ同様のプロセスを採用したので、重複する箇所の説明は省略し、異なる部分のみを述べることとする。根本的に異なるのは、電解銅箔の初期析出結晶層を除去することなく用いた点にある。即ち、実施例3で用いた市販の低プロファイル銅箔の初期析出結晶層を除去することなく、以下の工程を行った。
フレキシブル銅張積層板の製造:前記電解銅箔の光沢面に、市販のポリアミック酸溶液を含むポリイミド前駆体ワニスを塗布し、加熱することでイミド化させ、39.7μm厚のキャスティング法によるポリイミド樹脂フィルム層を形成した。その結果、約18μm厚の電解銅箔層と39.7μm厚さのポリイミド樹脂フィルム層(ベースフィルム層)とからなる2層フレキシブル銅張積層板(トータル厚さは56.9μm)を製造した。
屈曲試験用試料の製造: 前記フレキシブル銅張積層板を、塩化銅系エッチング液に浸漬し、前記電解銅箔層の厚さを約8.4μmに調整した。この電解銅箔の初期析出結晶層の厚さは8.5μmであったから、電解銅箔層の殆ど全てが初期析出結晶層で構成されていることになる。
そして、このフレキシブル銅張積層板を用いて、実施例1と同様に、置換スズメッキを行った30μmピッチ配線(置換スズメッキ後の配線厚さ8.4μm)を形成し、更に9.7μm厚さのソルダーレジスト層を備える屈曲性測定用試料を作成した。このときフレキシブルプリント配線板としてのトータル厚さは57.8μmであり、その中立線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から28.9μmの位置にある。そして、配線5の中心線はポリイミド樹脂フィルム層の底面から43.9μmの位置にある。従って、当該中立線と当該中心線とのズレは、15.0μmである。従って、そのズレのトータル厚さに対する割合は、15.0(μm)/57.8(μm)×100=25.95%である。
屈曲性試験の結果: 図3に示した、折り曲げ位置7(ソルダーレジスト層3の存在する位置)で所定回数の屈曲(繰り返し曲げ)を行い配線5の破断状況を確認した。その結果、R(0.5mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数17.3回、R(0.8mm)の場合の破断するまでの平均屈曲回数26.7回であった。評価結果の詳細は、表1に掲載する。
<実施例と比較例との対比>
表1を参照しつつ、各実施例と比較例とを対比した結果を以下に示す。
実施例1と比較例との対比: 実施例1の屈曲試験性能を各比較例と対比する。最初に、配線を構成する配線内に初期析出結晶の残留した比較例2及び比較例3と比べると、実施例1の方が遙かに高い屈曲試験結果が得られている。
また、市販されているメタライズ法で銅層を形成したもの(比較例1)と比べても、同等の屈曲性能が得られていることが分かり、圧延銅箔を用いた場合の特性に近づいたことが分かる。
実施例2と比較例との対比: この実施例2と比較例との対比を行う前に、実施例1と実施例2との対比を行う。実施例1は、電解銅箔の初期析出結晶層を除去した光沢面をポリイミド樹脂層との接着面として用いている。これに対して、実施例2では、電解銅箔の析出面をポリイミド樹脂層として用い、その反対の光沢面にある初期析出結晶層を除去している。これらの屈曲試験結果を見るに、実施例2の屈曲試験結果の方が優れた結果となっている。即ち、電解銅箔の析出面をポリイミド樹脂層との張り合わせ面として用いることが好ましいと判断できる。
そして、この実施例2と比較例1の屈曲試験結果を対比しても、比較例1を超えるレベルでの良好な屈曲性能を示すことが分かる。
更に、実施例2と比較例2とを対比することで、配線を構成する銅層の一部に初期析出結晶を残留させるだけで、屈曲性能が著しく劣化することが明瞭に理解できる。
実施例3と比較例との対比: この実施例3は、主に比較例3と対比すべきものであるが、最初に他の実施例と対比する。実施例3と実施例1及び実施例2との屈曲性能を対比すると、明らかに実施例1及び実施例2の屈曲性能の方が優れている。このことは、形成した配線の中に初期析出結晶が存在しないとしても、電解銅箔が本来持つ結晶の特性によって屈曲性能が大きく左右されることを明らかにしている。
しかしながら、実施例3と比較例3との対比により、双方共に使用した電解銅箔の種類は同じであっても、形成した配線内での初期析出結晶の有無によって、屈曲性能に明瞭な差異が生じることが分かる。
以上の実施例と比較例との対比から、同種の電解銅箔であれば、その初期析出結晶層を除去して配線形成を行えば、屈曲性能の向上が図れると言える。また、フレキシブルプリント配線板製品として要求される屈曲性能に応じて、電解銅箔を適宜選択して、所望の方法で初期析出結晶層を除去した電解銅箔と樹脂フィルム基材とを積層したフレキシブル銅張積層板を製造し、フレキシブルプリント配線板を得ることで、圧延銅箔を用いた場合と変わらない信頼性の高い屈曲性能が得られることが理解できる。
本件発明に係るフレキシブルプリント配線板は、電解銅箔をエッチング加工することにより形成する銅配線内に、電解銅箔の製造時に形成される初期析出結晶層を含まない点に特徴を有する。この特徴があるが故に、本件発明に係るフレキシブルプリント配線板の屈曲性能が良好なものとなり、製品コストを上昇させることなく、圧延銅箔を使用した場合の屈曲性能に近づく。従って、従来、電解銅箔の使用は出来ず、圧延銅箔又はメイタライズ法で製造したフレキシブル銅張積層板が使用されてきた分野での使用が拡大する。また、本件発明に係るフレキシブルプリント配線板を製造するにあたり、従来の低プロファイル電解銅箔に比べ、更に低プロファイルで、且つ、高強度の機械的物性を備え電解銅箔を適用することを想定しており、35μm以下の配線ピッチを備える三層のテープ オートメーティド ボンディング基板(TAB)やチップ オン フレキシブル基板(COF)のファインピッチ配線の形成に好適である。
二次イオン収束加工装置(FIB)を用いてスパッタリング加工した電解銅箔の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察像である。
MIT屈曲試験器の概略模式図である。
屈曲試験測定用試料の概略模式図である。
カーバーレイフィルムを備えるフレキシブルプリント配線板の断面の中立線と電解銅箔の厚さ中心線との関係を示す模式図である。
カバーレイフィルムを備えるフレキシブルプリント配線板が屈曲させられたときの断面内での歪みの発生をモデル的に捉えた模式図である。
ソルダーレジスト層を備えるフレキシブルプリント配線板の断面の中立線と電解銅箔の厚さ中心線との関係を示す模式図である。
符号の説明
1 初期析出結晶層
2 定常析出結晶層
3 ソルダーレジスト層
4 ポリイミド樹脂フィルム層(樹脂フィルム)
5 配線(銅層)
6 屈曲性能測定用試料(フレキシブルプリント配線板)
7 折り曲げ位置
8 導通端子部
10 フレキシブルプリント配線板
11 カバーレイフィルム
12 カバーレイ接着剤層
A 光沢面
B 析出面
C 中立線
D 中心線