ところで、近年の磁気ディスクにおいては、前述したように、磁気ディスクと磁気ヘッドとの間のスペーシングロスを改善し、記録信号のS/N比を向上させた結果、情報記録密度が1平方インチ当り40ギガビットを超えるまでに到っており、さらに、1平方インチ当り100ギガビットを超えるような超高記録密度をも実現されようとしている。
このように高い情報記録密度が実現できるようになった近年の磁気ディスクにおいては、従来の磁気ディスクに比較してずっと小さなディスク面積であっても、実用上十分な情報量を収納できるという特徴を有している。また、磁気ディスクは、他の情報記録媒体に比較して、情報の記録速度や再生速度(応答速度)が極めて敏速であり、情報の随時書き込み及び読み出しが可能であるという特徴も有している。
磁気ディスクにおける超高記録密度化が可能になった背景の一つに、磁気ディスク用ガラス基板の平滑化が実現されていることが挙げられる、磁気ディスク用ガラス基板の表面は、原子間力顕微鏡で測定したときに、Ra(算術平均粗さ)で0.5nm以下、あるいは、Rmax(最大高さ)で5nm以下の平滑鏡面となされているので、磁気ヘッドのフライングハイトを10nm以下としても、問題なく記録再生できるのである。すなわち、磁気ディスク用ガラス基板は、表面を極めて平滑面に仕上げることができるので、磁気ヘッドの浮上量を狭隘化することができるのである。
また、磁気ディスク用ガラス基板の表面に、磁性層に磁気異方性を付与するテクスチャが形成されるようになってきたことも、高記録密度化が実現された一つの理由である。このようなテクスチャが表面に形成された磁気ディスク用ガラス基板は、磁性層に優れた磁気異方性を付与できるので、高記録密度化が実現できるのである。
このような磁気ディスクの種々の特徴が注目された結果、近年においては、携帯用のいわゆるMP3プレーヤ、携帯電話装置、デジタルカメラ、携帯情報機器(例えば、PDA(personal digital assistant):パーソナルデジタルアシスタント)、あるいは、「カーナビゲーションシステム」などのように、パーソナルコンピュータ装置よりも筐体がずっと小さく、かつ、高い応答速度が求められる機器に搭載できる小型のハードディスクドライブが求められるようになってきている。
しかしながら、前述のように磁気ヘッド浮上量を狭隘化して超高記録密度化を図った場合には、フライスティクション障害が頻発する虞れがある。フライスティクション障害とは、磁気ディスク上を浮上飛行している磁気ヘッドが、浮上姿勢や浮上量に変調をきたす障害であり、不規則な再生出力変動の発生を伴うことが多い。さらに、磁気ヘッドの浮上量が10nm以下になると、浮上飛行中の磁気ヘッドが磁気ディスクに接触してしまういわゆるヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害を生じてしまうことがある。
また、このような磁気ディスク用ガラス基板において、以下の問題が生じた。すなわち、磁気ディスク用ガラス基板を製造し、磁気ディスクを製造した場合に、必ずしも、所期の性能が得られない場合があった。すなわち、磁気ヘッドのグライドハイトを十分に狭隘化することができなかったり、磁性層における磁気異方性にばらつきを生じることがあった。
このような現象の原因の一つとしては、磁気ディスク用ガラス基板の製造中に異物が付着し、この付着物によって磁気ディスク用ガラス基板の特性に劣化が生じていることが考えられる。このような問題に対しては、技術文献2に記載されているように、研磨工程以降をクリーンルーム中で行うこととしてもよいが、設備投資に膨大な費用がかかるので、磁気ディスク用ガラス基板の低価格化の阻害要因になるとともに、各工程がクリーンルーム内に隔離して配置されるので、ガラス基板及ぴ作業人員の搬送、移動ルート(作業動線)が複雑なものとなり、大量生産が阻害されるという問題が生ずる。
また、最近では、磁気ディスクの市場が大きく拡大している。例えぱ、いわゆるノート型のパーソナルコンピュータ装置用のみならず、前記したとおり、種々の携帯用機器にまで用途が拡大している。このような事情の下、磁気ディスク用ガラス基板の生産量は大きな拡大を続けており、従来に比べても、なお一層の大量生産が求められている。また、需要を喚起し市場を拡大するため、低価格化も求められている。このため、より一層の低価格な磁気ディスク用ガラス基板が求められている。
そこで、本発明は、前述のような実情に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、磁気ディスク用ガラス基板を製造し、磁気ディスクを製造するときに、所期の性能が得られ、磁気ヘッドのグライドハイトを十分に狭隘化することができ、また、磁性層に良好な磁気異方性が付与された磁気ディスクの製造を可能とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、例えば、浮上量が10nm、あるいは、それ以下の浮上量の磁気ヘッドを用いて記録再生を行っても、サーマルアスペリティの生じない、磁気抵抗効果型磁気ヘッドに好適な磁気ディスク用ガラス基板を提供することにある。
また、本発明の第3の目的は、大きな設備投資を要することなく、簡便な方法で確実に品質の優れた磁気ディスク用ガラス基板が得られる、安価な磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、あるいは、製造設備を提供することにある。
さらに、本発明の第4の目的は、高い品質の磁気ディスク用ガラス基板を生産する場合であっても、複雑な作業動線を経由することなく、簡素な作業動線で高品質な磁気ディスク用ガラス基板を製造することのできる、大量生産に好適な磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、あるいは、製造設備を提供することにある。
また、本発明の第5の目的は、このような磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いることにより良好な特性を有する磁気ディスクを製造することができる磁気ディスクの製造方法を提供することにある。
本発明者は、前記課題を解決すべく研究を進めた結果、磁気ディスク用ガラス基板の製造工程においては、前工程において発生した塵挨等が後工程を実施する区域に流入することが、磁気ディスク用ガラス基板の製造中に異物が付着する原因となっているとの知見を得た。
そこで、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、以下の構成の少なくとも一を有するものである。
〔構成1〕
複数の工程を経由して製造される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、複数の工程を互いに区画された複数の区域内において実施し、複数の区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域において実施される工程の前の工程が実施される区域へ向けた気流が生じていることを特徴とするものである。
〔構成2〕
複数の工程を経由して製造される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、複数の工程を互いに区画された複数の区域内において実施し、複数の区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域において実施される工程の後の工程が実施される区域からの気流が流入していることを特徴とするものである。
〔構成3〕
複数の工程を経由して製造される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、複数の工程は、それぞれ複数のサブ工程からなり、複数のサブ工程が実施される各区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域において実施されるサブ工程の前のサブ工程が実施される区域へ向けた気流が生じていることを特徴とするものである。
〔構成4〕
構成1乃至構成3のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、各区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域内の雰囲気の他の区域内の雰囲気に対する遮断及び開放が自在となされ、隣接する区域内の雰囲気との遮断が解かれたときに、気流が生ずることを特徴とするものである。
〔構成5〕
構成1乃至構成4のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、各区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域内の雰囲気の他の区域内の雰囲気に対する遮断及び開放が自在となされ、隣接する区域内の雰囲気との遮断がなされたときには、この区域からの気流が向かう区域内の雰囲気よりも高い気圧に維持されていることを特徴とするものである。
〔構成6〕
構成4、または、構成5のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、区域内の雰囲気の他の区域内の雰囲気に対する遮断は、エアカーテンを用いて行うことを特徴とするものである。
〔構成7〕
複数の工程を経由して製造される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、複数の工程を、それぞれ所定の場所において実施し、少なくとも一の工程が実施される場所から該一の工程よりも前の工程が行われる場所へ向かって気流を発生させることを特徴とするものである。
〔構成8〕
構成7を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、一の工程よりも前の工程は、研磨砥粒を含む研磨液をガラス基板に供給し、当該ガラス基板を研磨する研磨工程であることを特徴とするものである。なお、この研磨工程は、主表面研磨工程と、端面研磨工程とを含む。
〔構成9〕
構成1乃至構成8のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、気流は、ファンを用いて発生させることを特徴とするものである。
〔構成10〕
研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と、この粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する精研磨工程とを含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、粗研磨工程を実施する場所と、精研磨工程を実施する場所とを遮断することよって、粗研磨工程における発塵が、精研磨工程を実施する場所に流入することを阻止することを特徴とするものである。
〔構成11〕
構成10を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、粗研磨工程を実施する場所と、精研磨工程を実施する場所との遮断は、エアカーテンを用いて行うことを特徴とするものである。
そして、本発明に係る磁気ディスクの製造方法は、以下の構成を有するものである。
〔構成12〕
構成1乃至構成11のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造した磁気ディスク用ガラス基板の主面部上に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とするものである。
構成1を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、各工程が実施される複数の区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域において実施される工程の前の工程が実施される区域へ向けた気流が生じているので、前の工程において発生した塵挨等が後の工程を実施する区域に流入することがなく、これら塵挨が製造中の磁気ディスク用ガラス基板に付着することがない。
また、構成2を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、各工程が実施される複数の区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域において実施される工程の後の工程が実施される区域からの気流が流入しているので、当該工程において発生した塵挨等を後の工程を実施する区域に流入させることがなく、これら塵挨が製造中の磁気ディスク用ガラス基板に付着することがない。
さらに、構成3を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、各サブ工程が実施される各区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域において実施されるサブ工程の前のサブ工程が実施される区域へ向けた気流が生じているので、前のサブ工程において発生した塵挨等が後のサブ工程を実施する区域に移動することがなく、これら塵挨が製造中の磁気ディスク用ガラス基板に付着することがない。
そして、構成4を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、各区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域内の雰囲気の他の区域内の雰囲気に対する遮断及び開放が自在となされ、隣接する区域内の雰囲気との遮断が解かれたときに気流が生ずるので、隣接する区域内の雰囲気との遮断を解いても、前の工程において発生した塵挨等が後の工程を実施する区域に流入することが防止される。
構成5を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、各区域の少なくとも一の区域においては、該一の区域内の雰囲気の他の区域内の雰囲気に対する遮断及び開放が自在となされ、隣接する区域内の雰囲気との遮断がなされたときには、この区域からの気流が向かう区域内の雰囲気よりも高い気圧に維持されているので、隣接する区域内の雰囲気との遮断を解いたときに、前の工程が実施される区域へ向けた気流が生じ、前の工程において発生した塵挨等が後の工程を実施する区域に流入することが防止される。
また、構成6を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、区域内の雰囲気の他の区域内の雰囲気に対する遮断をエアカーテンを用いて行うので、前の工程が実施される区域との遮断を効果的に行い、前の工程において発生した塵挨等が後の工程を実施する区域に流入することを防止できる。
構成7を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、少なくとも一の工程が実施される場所から該一の工程よりも前の工程が行われる場所へ向かって気流を発生させるので、前の工程において発生した塵挨等が後の工程を実施する場所に流入することがなく、これら塵挨が製造中の磁気ディスク用ガラス基板に付着することがない。
構成8を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、一の工程よりも前の工程とは、研磨砥粒を含む研磨液をガラス基板に供給し当該ガラス基板を研磨する研磨工程であり、塵挨等の発生が予想されるため、この塵挨を後の工程を実施する場所に流入させないことにより、製造中の磁気ディスク用ガラス基板への塵挨の付着を防止することができる。
構成9を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、ファンを用いて気流を発生させるので、前の工程が実施される区域、または、場所へ向けた気流を効果的に生じさせ、前の工程において発生した塵挨等が後の工程を実施する区域、または、場所に流入することを防止できる。
構成10を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、粗研磨工程を実施する場所と、精研磨工程を実施する場所とを遮断していることよって、粗研磨工程で発生が予想される粒径の大きな塵挨が、精研磨工程を実施する場所に流入することを阻止しているので、精研磨工程上の磁気ディスク用ガラス基板への粒径の大きな塵挨の付着を防止することができる。
なお、精研磨工程で発生が予想される塵挨は、粒径が小さいため、この塵挨が粗研磨工程を実施する場所に流入しても、粗研磨工程上の磁気ディスク用ガラス基板の品質が損なわれることはない。
構成11を有する本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、粗研磨工程を実施する場所と、精研磨工程を実施する場所との遮断は、エアカーテンを用いて行うので、前の工程が実施される場所との遮断を効果的に行い、前の工程において発生した塵挨等が後の工程を実施する場所に流入することを防止できる。
そして、構成12を有する本発明に係る磁気ディスクの製造方法においては、構成1乃至構成11のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造した磁気ディスク用ガラス基板の主面部上に少なくとも磁性層を形成するので、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害の発生が抑止された磁気ディスクを製造することができる。
すなわち、本発明は、磁気ディスク用ガラス基板を製造し、磁気ディスクを製造するときに、所期の性能が得られ、磁気ヘッドのグライドハイトを十分に狭隘化することができ、また、磁性層に良好な磁気異方性が付与された磁気ディスクの製造を可能とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することができるものである。
また、本発明は、例えば、浮上量が10nm、あるいは、それ以下の浮上量の磁気ヘッドを用いて記録再生を行っても、サーマルアスペリティの生じない、磁気抵抗効果型磁気ヘッドに好適な磁気ディスク用ガラス基板を提供することができるものである。
また、本発明は、大きな設備投資を要することなく、簡便な方法で確実に品質の優れた磁気ディスク用ガラス基板が得られる、安価な磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、あるいは、製造設備を提供することことができるものである。
さらに、本発明は、高い品質の磁気ディスク用ガラス基板を生産する場合であっても、複雑な作業動線を経由することなく、簡素な作業動線で高品質な磁気ディスク用ガラス基板を製造することのできる、大量生産に好適な磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、あるいは、製造設備を提供することができるものである。
また、本発明は、このような磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いることにより良好な特性を有する磁気ディスクを製造することができる磁気ディスクの製造方法を提供することができるものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
〔第1の実施の形態〕
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、後述するように、複数の工程を経由して製造される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。すなわち、この磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造される磁気ディスク用ガラス基板は、板状ガラスの主表面を研削(ラッピング)処理してガラス母材とし、このガラス母材を切断してガラスディスクを切り出し、このガラスディスクの主表面に対して研磨(ポリッシング)処理を行い、さらに、化学強化処理及びテクスチャ加工を経て製造される。また、これら複数の工程は、それぞれがさらに複数のサブ工程からなるものである。
図1は、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の各工程が実施される各区域を示す側面図である。
そして、本発明においては、図1に示すように、複数の工程は、互いに区画された複数の区域1,2,3,・・・n内において実施する。これら複数の区域の少なくとも一の区域においては、図1中矢印Aで示すように、該一の区域において実施される工程の前の工程が実施される区域へ向けた気流が生じるようになされている。また、これら複数の区域の少なくとも一の区域においては、図1中矢印Aで示すように、該一の区域において実施される工程の後の工程が実施される区域からの気流が流入するようになされている。なお、これら複数の区域の全てにおいて、各区域において実施される工程の前の工程が実施される区域へ向けた気流が生じるようにしてもよい。また、これら複数の区域の全てにおいて、各区域において実施される工程の後の工程が実施される区域からの気流が流入するようにしてもよい。
また、複数のサブ工程が実施される各区域の少なくとも一の区域においても、当該区域において実施されるサブ工程の前のサブ工程が実施される区域へ向けた気流が生じるようになされている。
本発明においては、このような気流により、前の工程において発生した塵挨等が当該工程を実施する区域に流入することがないようにし、また、当該工程において発生した塵挨等を後の工程を実施する区域に流入させることがないようにしている。
また、各区域の少なくとも一の区域内の雰囲気は、他の区域内の雰囲気に対する遮断及び開放を自在としてもよい。各区域の雰囲気を一定の状態に維持するには、他の区域内の雰囲気に対して遮断したほうが好都合である。しかし、製造中の磁気ディスク用ガラス基板の材料を前工程が実施される区域から次工程が実施される区域に移送するときには、他の区域との境界が開放されていたほうが好都合である。したがって、各区域内の雰囲気は、他の区域内の雰囲気に対する遮断及び開放を自在とすることが好ましい。
そして、いずれかの区域内の雰囲気を他の区域内の雰囲気に対する遮断及び開放を自在とした場合には、隣接する区域内の雰囲気との遮断が解かれたときに、前述したような気流が生ずるようにする。この気流は、ファンを用いて発生させることが好ましい。なお、本発明の実施において気流を発生させる手段は、ファンに限らず、種々の気流発生手段を用いることができる。
また、いずれかの区域内の雰囲気の他の区域内の雰囲気に対する遮断は、エアカーテンを用いて行うことが好ましい。エアカーテンを用いて区域間の雰囲気の遮断を行った場合には、区域間の雰囲気の遮断の開放を最小限とした状態で、磁気ディスク用ガラス基板の材料を隣接する区域へ移送することができる。
さらに、いずれかの区域内の雰囲気を他の区域内の雰囲気に対する遮断及び開放を自在とした場合には、隣接する区域内の雰囲気との遮断がなされたときには、当該区域の雰囲気は、この雰囲気からの気流が向かう他の区域内の雰囲気よりも高い気圧に維持することが好ましい。このような気圧差を維持しておくことにより、隣接する区域内の雰囲気との遮断が解かれたときには、当該区域から、当該区域において実施される工程の前の工程が実施される区域へ向けた気流が生じる。
〔第2の実施の形態〕
本発明においては、前述の第1の実施の形態のように、複数の工程が互いに区画された複数の区域1,2,3,・・・n内において実施される場合に限定されることなく、複数の工程が、互いに区画されない複数の場所において実施される場合にも適用することができる。
すなわち、この第2の実施の形態においては、複数の場所の少なくとも一の場所において、該一の場所において実施される工程の前の工程が実施される場所へ向けた気流を生じさせている。また、これら複数の場所の少なくとも一の場所においては、該一の場所において実施される工程の後の工程が実施される場所からの気流を流入させている。なお、これら複数の場所の全てにおいて、各場所において実施される工程の前の工程が実施される場所へ向けた気流を生じさせてもよい。また、これら複数の場所の全てにおいて、各場所において実施される工程の後の工程が実施される場所からの気流を流入させてもよい。
本発明においては、このような気流により、前の工程において発生した塵挨等が当該工程を実施する場所に流入することがないようにし、また、当該工程において発生した塵挨等を後の工程を実施する場所に流入させることがないようにしている。このような気流は、ファンを用いて発生させることが好ましい。なお、本発明の実施において気流を発生させる手段は、ファンに限らず、種々の気流発生手段を用いることができる。
特に、研磨砥粒を含む研磨液をガラス基板に供給し、当該ガラス基板を研磨する研磨工程を実施する場所には、後の工程が実施される場所からの気流が流入するようにすることが好ましい。この研磨工程においては、塵挨等の発生が予想されるため、この塵挨を後の工程を実施する場所に流入させないことにより、製造中の磁気ディスク用ガラス基板への塵挨の付着を防止することができるからである。なお、この研磨工程は、主表面研磨工程と、端面研磨工程とを含むものである。
少なくとも一の工程が実施される場所から、該一の工程よりも前の工程が行われる場所へ向かって気流を発生させるとは、例えば、上記「少なくとも一の工程」を後工程、「該一の工程よりも前の工程」を前工程としたとき、後工程を行う場所で前工程を行う場所に向かって気流を発生させてもよく、また、この後工程よりもさらに後の工程である後後工程を行う場所から、後工程を行う場所を通って、前工程を行う場所に向けて気流を発生させてもよい。つまり、複数の工程のうち、例えば、最後に行われる工程から、それ以前の工程へ向けて気流を発生させてもよく、複数の工程のうち、途中の工程からそれより以前の工程へ向けて気流を発生させてもよい。
また、複数のサブ工程が実施される各場所の少なくとも一の場所においても、当該場所において実施されるサブ工程の前のサブ工程が実施される場所へ向けた気流を生じさせている。
例えば、研磨工程には、研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と、この粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する精研磨工程とが含まれている。本発明においては、前のサブ工程である粗研磨工程において発生が予想される粒径の大きな塵挨を、後のサブ工程である精研磨工程を実施する場所に流入させないことにより、精研磨工程上の磁気ディスク用ガラス基板の品質を保持することができる。
なお、後のサブ工程である精研磨工程で発生が予想される塵挨は、粒径が小さいため、この塵挨が前のサブ工程である粗研磨工程を実施する場所に流入しても、粗研磨工程上の磁気ディスク用ガラス基板の品質が損なわれることはない。
さらに、本発明においては、いずれかの工程が実施される場所と、他の工程が実施される場所とを、遮断するようにしてもよい。この場合には、必ずしも、後の工程が実施される場所から前の工程が実施される場所へ流入する気流を発生させなくともよい。
このような遮断は、エアカーテンを用いて行うことが好ましい。エアカーテンを用いて場所間の雰囲気の遮断を行った場合には、場所間の雰囲気の遮断の開放を最小限とした状態で、磁気ディスク用ガラス基板の材料を隣接する場所へ移送することができる。
そして、前述した研磨工程においては、粗研磨工程を実施する場所と、精研磨工程を実施する場所とを遮断することよって、粗研磨工程における発塵が、精研磨工程を実施する場所に流入することを阻止する。すなわち、前のサブ工程である粗研磨工程において発生が予想される粒径の大きな塵挨を、後のサブ工程である精研磨工程を実施する場所に流入させないことにより、精研磨工程上の磁気ディスク用ガラス基板の品質を保持することができる。
また、本実施の形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と、粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する精密研磨工程とを含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、上記粗研磨工程を行う際に発生した発塵が、精密研磨工程を行う場所に流入することを防止した構成としてもよい。
上記粗研磨工程を行う際に発生した発塵は、精密研磨工程で使用する研磨砥粒よりも粒子径が大きい場合があり、このような発塵が精密研磨工程を行う場所に流入した場合には、精密研磨を行う際に上記発塵が入り込み、その結果、所望の表面形状を得ることができない場合がある。
上記の構成とすることにより、粗研磨工程から精密研磨へ上記発塵が流入することを防止できるので、所望の表面形状を得ることができる。
なお、発塵の流入を防止する方法としては、例えば、精密研磨工程を行う場所と、粗研磨工程を行う場所とを物理的に遮断してもよく、また、例えば、エアカーテンや、ミストカーテン等を用いて遮断してもよい。また、それ以外にも、例えば、粗研磨工程で発生した発塵を捕捉するフィルターを粗研磨工程を行う場所の周囲に設けても良い。
また、本実施の形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、複数の工程を経由して製造される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、複数の工程のそれぞれを、互いに区画された複数の区域内のそれぞれにおいて実施し、前記複数の区域の、少なくとも一の区域においては、該一の区域において実施される工程よりも前の工程が実施される区域へ向かって気流を発生させる構成であってもよい。
〔第3の実施の形態〕
図2は、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の各工程が実施される各区域の配列の他の例を示す側面図である。
なお、各工程が実施されるこれら各区域は、図1に示すように水平に配列されて配置されることに限定されず、図2に示すように、垂直に配列して配置してもよい。この場合において、後工程が実施される区域を前工程が実施される区域よりも上部に位置することとすれば、各区域において実施される工程の前の工程が実施される区域へ向けた気流とともに、重力の効果により、前の工程において発生した塵挨等が後の工程を実施する区域に流入することがない。
〔各工程の説明〕
(1)板状ガラスの製造
まず、磁気ディスク用ガラス基板の材料となる板状ガラスを用意する。本発明において、磁気ディスク用ガラス基板の材料となる板状ガラスとしては、様々な形状の板状ガラスを用いることができる。この板状ガラスの形状は、矩形状であっても、ディスク状(円盤状)であってもよい。ディスク状の板状ガラスは、従来の磁気ディスク用ガラス基板の製造において用いられている研削装置を用いて研削処理を行うことができ、信頼性の高い加工を安価にて行うことができる。
この板状ガラスのサイズは、製造しようとする磁気ディスク用ガラス基板より大きいサイズである必要がある。例えば、「1インチ型ハードディスクドライブ」、あるいは、それ以下のサイズの小型ハードディスクドライブに搭載する磁気ディスクに用いる磁気ディスク用ガラス基板を製造する場合にあっては、この磁気ディスク用ガラス基板の直径は略々20mm乃至30mm程度であるので、ディスク状の板状ガラスの直径としては、30mm以上、好ましくは、48mm以上であることが好ましい。特に、直径が65mm以上のディスク状の板状ガラスを用いれば、1枚の板状ガラスから、複数の「1インチ型ハードディスクドライブ」に搭載する磁気ディスクに用いる磁気ディスク用ガラス基板を採取することができ、大量製造に好適である。板状ガラスのサイズの上限については、特に限定する必要はないが、ディスク状の板状ガラスの場合には、直径が100mm以下のものを用いることが好ましい。
この板状ガラスは、例えば、溶融ガラスを材料として、プレス法やフロート法、または、フュージョン法など、公知の製造方法を用いて製造することができる。これらのうち、プレス法を用いれば、板状ガラスを廉価に製造することができる。
また、本発明において用いる板状ガラスの材料としては、ガラスであれば、特に制限は設けないが、アルミノシリケートガラスを好ましく挙げることができる。特に、リチウムを含有するアルミノシリケートガラスが好ましい。このようなアルミノシリケートガラスは、イオン交換型化学強化処理、特に、低温イオン交換型化学強化処理により、好ましい圧縮応力を有する圧縮応力層及び引張応力を有する引張応力層を精密に得ることができるので、磁気ディスク用の化学強化ガラス基板の材料として特に好ましい。
このようなアルミノシリケートガラスの組成比としては、SiO2を、58乃至75重量%、Al2O3を、5乃至23重量%、Li2Oを、3乃至10重量%、Na2Oを、4乃至13重量%、主成分として含有することが好ましい。
さらに、アルミノシリケートガラスの組成比としては、SiO2を、62乃至7.5重量%、Al2O3を、5乃至15重量%、Li2Oを、4乃至10重量%、Na2Oを、4乃至12重量%、ZrO2を、5.5乃至15重量%、主成分として含有するとともに、Na2OとZrO2との重量比(Na2O/ZrO2)が0.5乃至2.0、Al2O3とZrO2との重量比(Al2O3/ZrO2)が0.4乃至2.5であることが好ましい。
また、ZrO2の未溶解物が原因で生じる板状ガラスの表面の突起を無くすためには、モル%表示で、SiO2を、57乃至74%、ZrO2を、0乃至2.8%、Al2O3を、3乃至15%、LiO2を、7乃至16%、Na2Oを、4乃至14%含有する化学強化用ガラスを使用することが好ましい。
このようなアルミノシリケートガラスは、化学強化処理を施すことによって、抗折強度が増加し、ヌープ硬度にも優れたものとなる。
(2)研削処理
研削処理は、板状ガラスの主表面の形状精度(例えば、平坦度)や寸法精度(例えば、板厚の精度)を向上させることを目的とする加工である。この研削処理は、板状ガラスの主表面に、砥石、あるいは、定盤を押圧させ、これら板状ガラス及び砥石または定盤を相対的に移動させることにより、板状ガラスの主表面を研削することにより行われる。このような研削処理は、遊星歯車機構を利用した両面研削装置を用いて行うことができる。
また、この研削処理においては、板状ガラスの主表面に研削液を供給することにより、スラッジ(研削屑)を研削面から洗い流し、また、研削面を冷却するとよい。さらに、この研削液に遊離砥粒を含有させたスラリーをワークの主表面に供給して研削してもよい。研削処理において用いる砥石としては、ダイヤモンド砥石を用いることができる。また、遊離砥粒としては、アルミナ砥粒やジルコニア砥粒、または、炭化珪素砥粒などの硬質砥粒を用いるとよい。この研削処理により、板状ガラスの形状精度が向上し、主表面の形状が平坦化されるとともに板厚が所定の値となるまで削減されたガラス母材が形成される。
そして、ガラス母材の切断してガラスディスクを切り出す。ガラス母材の切断は、ダイヤモンドカッタやダイヤモンドドリルなど、ガラスよりも硬質な物質を含む切刃や砥石を用いて行うことができる。また、ガラス母材の切断は、レーザカッタを用いて行ってもよい。
次に、円筒状の砥石を用いて、ガラスディスクの中央部分に所定の直径の円孔を形成するとともに、外周端面の研削をして所定の直径とした後、外周端面及び内周端面において、主表面の周縁に沿った面取り面を形成する面取り加工を施す。
(3)研磨処理
そして、本発明においては、ガラス母材から切り出されたガラスディスクに対して、少なくとも研磨処理を施し、ガラスディスクの主表面を鏡面化する。
この研磨処理を施すことにより、ガラスディスクの主表面のクラックが除去され、主表面の表面粗さは、例えば、Rmaxで5nm以下、Raで0.4nm以下となされる。ガラスディスクの主表面がこのような鏡面となっていれば、このガラスディスクを用いて製造される磁気ディスクにおいて、磁気ヘッドの浮上量が、例えば、10nmである場合であっても、いわゆるクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害の発生を防止することができる。また、ガラスディスクの主表面がこのような鏡面となっていれば、後述する化学強化処理において、ガラスディスクの微細領域において均一に化学強化処理を施すことができ、また、微小クラックによる遅れ破壊を防ぐことができる。
この研磨処理は、例えば、ガラスディスクの主表面に、研磨パッド(研磨布)が貼り付けられた定盤を押圧させ、ガラスディスクの主表面に研磨液を供給しながら、これらガラスディスク及び定盤を相対的に移動させ、ガラスディスクの主表面を研磨することにより行われる。このとき、研磨液には、研磨砥粒を含有させておくとよい。研磨砥粒としては、コロイダルシリカ研磨砥粒、または、酸化セリウム砥粒を用いることができる。
なお、本発明においては、ガラスディスクを研磨する前に、研削処理をしておくことが好ましい。このときの研削処理は、前述した板状ガラスに対する研削処理と同様の手段により行うことができる。ガラスディスクを研削処理してから研磨処理を行うことにより、より短時間で、鏡面化された主表面を得ることができる。
また、本発明においては、ガラスディスクの端面において、主表面の周縁に沿った略々45°の面取り面を形成し、かつ、この端面を鏡面研磨しておくことが好ましい。ガラスディスクの端面は、面取り面が形成された部分の間の部分が切断形状となっているので、この端面を鏡面に研磨しておくことにより、パーティクルの発生を抑制することができ、この磁気ディスク用ガラス基板を用いて製造された磁気ディスクにおいて、いわゆるサーマルアスペリティ障害を良好に防止することができるからである。
(4)化学強化処理
そして、本発明においては、ガラスディスクの研磨工程の後に、化学強化処理を施す。化学強化処理を行うことにより、磁気ディスク用ガラス基板の表面に高い圧縮応力を生じさせることができ、耐衝撃性を向上させることができる。特に、ガラスディスクの材料としてアルミノシリケートガラスを用いている場合には、好適に化学強化処理を行うことができる。
本発明における化学強化処理としては、公知の化学強化処理方法を用いたものであれば、特に制限されない。ガラスディスクの化学強化処理は、例えば、加熱した化学強化塩に、ガラスディスクを接触させ、ガラスディスクの表層のイオンが化学強化塩のイオンでイオン交換されることによって行われる。
ここで、イオン交換法としては、低温型イオン交換法、高温型イオン交換法、表面結晶化法、ガラス表面の脱アルカリ法などが知られているが、本発明においては、ガラスの徐冷点を超えない温度領城でイオン交換を行う低温型イオン交換法を用いることが好ましい。
なお、ここでいう低温型イオン交換法は、ガラスの徐冷点以下の温度領域において、ガラス中のアルカリイオンをこのアルカリイオンよりもイオン半径の大きいアルカリイオンと置換し、イオン交換部の容積増加によってガラス表層に圧縮応力を発生させ、ガラス表層を強化する方法のことをさす。
なお、化学強化処理を行なうときの溶融塩の加熱温度は、イオン交換が良好に行われるという観点等から、280°C乃至660°C、特に、300°C乃至400°Cであることが好ましい。ガラスディスクを溶融塩に接触させる時間は、数時間乃至数十時間とすることが好ましい。
なお、ガラスディスクを溶融塩に接触させる前に、予備加熱として、ガラスディスクを100°C乃至300°Cに加熱しておくことが好ましい。また、化学強化処理後のガラスディスクは、冷却、洗浄工程等を経て、製品(磁気ディスク用ガラス基板)となされる。
また、本発明において、化学強化処理を行うための処理漕の材料としては、耐食性に優れるとともに、低発塵性の材料であれば、特に限定されない。化学強化塩や化学強化溶融塩は酸化性があり、かつ、処理温度が高温なので、耐食性に優れた材料を選定することにより、損傷や発塵を抑制し、もって、サーマルアスペリティ障害や、ヘッドクラッシュを抑制する必要がある。この観点からは、処理漕の材料としては、石英材が特に好ましいが、ステンレス材や、特に耐食性に優れるマルテンサイト系、または、オーステナイト系ステンレス材も用いることができる。なお、石英材は、耐食性に優れるが、高価なので、採算性を考慮して、適宜選択することができる。
本発明における化学強化塩の材料としては、硝酸ナトリウム、及び/又は、硝酸カリウムを含有する化学強化塩材料であることが好ましい。このような化学強化塩は、ガラス、特に、アルミノシリケートガラスを化学強化処理したときに、磁気ディスク用ガラス基板としての所定の剛性及び耐衝撃性を実現することができるからである。
(5)テクスチャ加工
次に、本発明においては、ガラスディスクの主表面及び端面に対して、テクスチャ加工を施す。このテクスチャは、この磁気ディスク用ガラス基板上に少なくとも磁性層を形成したときに、磁性層に磁気異方性を付与するテクスチャである。
このテクスチャ加工においては、まず、ガラスディスクを、中央部分の円孔においてテクスチャ加工装置のチャッキング軸の先端側に装着する。このチャッキング軸は、先端側をガラスディスクの円孔に挿入して拡径させることにより、ガラスディスクを保持する。このチャッキング軸は、所定の回転速度によって軸回りに回転操作されるとともに、軸に直交する方向に所定の周囲及び振幅にて往復移動されるようになっている。
そして、このテクスチャ加工装置においては、一対の研磨テープが所定の速度で送り操作されるようになっている。これら研磨テープは、互いに重ね合わされた状態で、等しい速度で送り操作される。チャッキング軸に保持されたガラスディスクは、主表面となる部分を、送り操作される一対の研磨テープの間に挿入される。そして、これら研磨テープは、加圧ローラにより、ガラスディスクの両面側の主表面に対してそれぞれ所定の圧力にて押接される。すなわち、ガラスディスクは、両主表面を、一対の研磨テープによって挟持されることとなる。
この状態において、チャッキング軸をガラスディスクとともに軸回りに回転させるとともに、このチャッキング軸を軸に直交する方向に所定の周囲及び振幅にて往復移動させる。このとき、チャッキング軸の往復移動の方向は、一対の研磨テープの送り操作方向に直交する方向となっている。また、このとき、ガラスディスクと各研磨テープとの間には、液体状の研磨剤を供給する。このとき、液体状の研磨剤には、研磨砥粒を含有させておくとよい。研磨砥粒としては、ダイヤモンド砥粒を用いることができる。このとき、ガラスディスクと各研磨テープとは、相対的に摺接移動される。
(6)磁気ディスクの製造
そして、本発明に係る磁気ディスクの製造方法においては、前述のような磁気ディスク用ガラス基板上に少なくとも磁性層を形成する。
磁気ディスク用ガラス基板上に形成される磁性層としては、例えば、コバルト(Co)系強磁性材料からなるものを用いることができる。特に、高い保磁力が得られるコバルト−プラチナ(Co−Pt)系強磁性材料や、コバルト−クロム(Co−Cr)系強磁性材料からなる磁性層として形成することが好ましい。なお、磁性層の形成方法としては、バイアススパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法や、バイアスCVD法を用いることができる。
ガラス基板と磁性層との間には、適宜、下地層等を介挿させることが好ましい。これら下地層の材料としてはAl−Ru系合金や、Cr系合金などを用いることができる。
また、磁性層上には、磁気ヘッドの衝撃から磁気ディスクを防護するための保護層を設けることができる。この保護層としては、硬質な水素化炭素保護層を好ましく用いることができる。この保護層の形成には、プラズマCVD法を用いることができる。
さらに、この保護層上に、PFPE(パーフルオロポリエーテル)化合物からなる潤滑層を形成することにより、磁気ヘッドと磁気ディスクとの干渉を緩和することができる。この潤滑層は、例えば、ディップ法により、塗布成膜することにより形成することができる。
以下、実施例及び比較例を挙げることにより、具体的に説明する。なお、本発明は、これら実施例の構成に限定されるものではない。
〔実施例〕
以下に述べる本実施例における磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクは、以下の(1)乃至(10)の工程により作成される。
(1)ガラス母材を得る工程
(2)粗研削工程
(3)形状加工研削工程
(4)精研削工程
(5)端面研磨加工工程
(6)第1研磨工程
(7)第2研磨工程
(8)化学強化工程
(9)テクスチャ加工
(10)磁気ディスクの製造工程(成膜工程)
この実施例においては、これら(1)乃至(10)の各工程をそれぞれに対応させた第1乃至第10の区域内で実施することとし、エアカーテン、または、隔壁を用いて、各区間の雰囲気を遮断した。また、各区間の雰囲気の遮断が材料の移送などのために開放されるときには、ファンを用いて、各区域において実施される工程の前の工程が実施される区域へ向けた気流を生じさせた。さらに、各区域の雰囲気は、この雰囲気からの気流が向かう他の区域内の雰囲気よりも高い気圧に維持した。
この実施例では、研削工程は、粗研削工程、形状加工研削工程、精研削上程の3つの研削工程が順次実施されるように構成されている。粗研削工程では、粒度#400番の砥粒を利用している。形状加工研削工程では、粒度#600番の砥粒を利用している。精研削工粗では、粒度#1000番の砥粒を利用している。
すなわち、研削工程においては、利用する低粒の粒径が前工程から後工程に向かって段階的に小さくされている。
また、この実施例では、研磨工程は、端面研磨工程、第1研磨工程、第2研磨工程の3つの研磨工程が順次実施されるよう構成されている。端面研磨工程では、平均粒径1.5μmの研磨砥粒が利用されている。第1研磨工程では、平均粒径が1.3μmの研磨砥粒が利用されている。第2研磨工程では平均粒径が0.5μmの研磨砥粒が利用されている。
すなわち、研磨工程においては、利用する砥粒の粒径が前工程から後工程に向かって段段的に小さくされている。
本実施例では、後工程から前工程に向かって気流が流れるべく構成されているので、前工程の雰囲気に飛散している相対的に大きな粒子の砥粒が、相対的に小さな粒子の砥粒を利用している後工程の雰囲気に混入することを防止するぺく構成されている。したがって、少なくとも研削工程及び/又は研磨工程において、粗大粒子の混入によりガラス基板表面に傷を与えることが防止される。
(1)ガラス母材を得る工程
まず、第1の区域内において、アモルファスのアルミノシリケートガラスからなるディスク状のガラス母材を用意した。このアルミノシリケートガラスは、リチウムを含有している。このアルミノシリケートガラスの組成は、SiO2を、63.6重量%、Al2O3を、14.2重量%、Na2Oを、10.4重量%、Li2Oを、5.4重量%、ZrO2を、6.0重量%、Sb2O3を、0.4重量%含むものである。
(2)粗研削工程
第2の区域内において、溶融させたアルミノシリケートガラスから形成したシートガラスをガラス母材として用いて、このシートガラスから、研削砥石により、ガラスディスクを得た。
シートガラスを形成する方法としては、一般に、ダウンドロー法やフロート法が用いられるが、これ以外に、ダイレクトプレスによって、円盤状のガラス母材を得てもよい。このシートガラスの材料であるアルミノシリケートガラスとしては、SiO2を、58乃至75重量%、Al2O3を、5乃至23重量%、Na2Oを、4乃至13重量%、Li2Oを、3乃至10重量%、含有するものであればよい。
次に、ガラスディスクに対し、寸法精度及び形状精度の向上のために、粗研削工程を施した。この粗研削工程は、両面研削装置を用いて、粒度#400の砥粒を用いて行なった。
具体的には、始めに粒度#400のアルミナ砥粒を用い、荷量を100kg程度に設定して、サンギアとインターナルギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラスディスクの両面を、面精度0乃至1μm、表面粗さ(Rmax)6μm程度に研削した。
(3)形状加工研削工程
次に、第3の区域内において、円筒状の砥石を用いて、ガラスディスクの中央部分に円孔を形成するとともに、外周端面及び内周端面において主表面の周縁に沿って略々45°の面取り加工を施した。この形状加工研削工程では、粒度#600のダイヤモンド砥石を用いた。このときのガラスディスクの端面の表面粗さは、Rmaxで4μm程度であった。
(4)精研削工程
次に、第4の区域内において、砥粒の粒度を#1000に替え、ガラスディスクの主表面を研削することにより、主表面の表面粗さを、Rmaxで2μm程度、Raで0.2μm程度とした。
この精研削工程を行うことにより、前工程である粗研削工程や形状加工工程において主表面に形成された微細な凹凸形状を除去することができる。
このような精研削工程を終えたガラスディスクを、超音波を印加した中性洗剤及び水の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄を行なった。
(5)端面研磨加工工程
次いで、第5の区域内において、従来より用いられているブラシ研磨により、ガラスディスクを回転させながらガラスディスクの端面の研磨を行い、このガラスディスクの端面(内周端面及び外周端面)の表面の粗さを、Rmaxで1μm、Raで0.3μm程度に研磨した。
この端面研磨加工工程により、ガラスディスクの端面は、パーティクル等の発塵を防止できる鏡面状態に加工された。端面研磨加工工程後にガラスディスクの直径を測定したところ、27.4mmであった。端面研磨加工では、平均粒径1.5μmの酸化セリウム砥粒を用いた。
(6)第1研磨工程
次に、第6の区域内において、前述した精研削工程において残留した傷や歪みを除去するため、両面研磨装置を用いて、第1研磨工程を行なった。
両面研磨装置においては、研磨パッドが貼り付けられた上下定盤の間に、キャリアにより保持させたガラスディスクを密着させ、このキャリアを、サンギア及びインターナルギアに噛合させるとともに、ガラスディスクを上下定盤によって挟圧する。その後、研磨パッドとガラスディスクの研磨面(主表面)との間に研磨液を供給しながら、サンギアを回転させることによって、ガラスディスクは、定盤上で自転しながらインターナルギアの回りを公転して、両主表面を同時に研磨加工される。
以下の研磨工程で使用する両面研磨装置としては、同一の装置を用いている。具体的には、ポリッシャとして硬質ポリシヤ(硬質発泡ウレタン)を用いて、第1研磨工程を実施した。研磨条件は、酸化セリウム(平均粒径1.3μm)及びRO水からなる研磨液を用い、荷重を100g/cm2、研磨時間を15分とした。
(7)第2研磨工程
次に、第7の区域内において、第1研磨工程で使用した両面研磨装置と同様の両面研磨装置を用いて、ポリッシャを軟質ポリッシャ(スウェードパット)に替えて、主表面の鏡面研磨工程として、第2研磨工程を実施した。
この第2研磨工程は、前述した第1研磨工程により得られた平坦な主表面を維持しつつ、この主表面の表面粗さRaを、例えば、0.5乃至0.3nm程度以下まで低減させることを目的とするものである。
研磨条件は、酸化セリウム(平均粒径0.5μm)及びRO水からなる研磨液を用い、荷重を100g/cm2、研磨時間を5分とした。
そして、この第2研磨工程を終えたガラスディスクを、中性洗剤、純水(1)、純水(2)、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬させて、超音波洗浄し、乾燥させた。
(8)化学強化工程
次に、第8の区域内において、洗浄を終えたガラスディスクに対し、化学強化処理を施した。化学強化処理は、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとを混合させた化学強化液を用いて行い、強化処理されたガラスディスクから溶出されるリチウム含有量をICP発光分析装置を用いて測定した。この第8の区域内の雰囲気は、「クラス1,000」のクリーン環境とした。
この化学強化溶液を、340°C乃至380°Cに加熱し、洗浄及び乾燥を終えたガラスディスクを、約2時間乃至4時間浸漬して、化学強化処理を行なった。この浸漬の際には、ガラスディスクの表面全体が化学強化されるようにするため、複数のガラスディスクが外周端面で保持されるように、ホルダーに収納した状態で行った。
化学強化処理を終えたガラスディスクを、20°Cの水槽に浸漬して急冷し、約10分間維持した。
そして、急冷を終えたガラスディスクを、約40°Cに加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行った。さらに、硫酸洗浄を終えた磁気ディスク用ガラス基板を、純水(1)、純水(2)、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬させて、超音波洗浄し、乾燥させた。
次に、洗浄を終えたガラスディスクの主表面及び端面について、目視検査を行い、さらに、光の反射、散乱及び透過を利用した精密検査を実施した。その結果、ガラスディスクの主表面及び端面には、付着物による突起や、傷等の欠陥は発見されなかった。
また、前述のような工程を経たガラスディスクの主表面の表面粗さは、原子間カ顕微鏡(AFM)によって測定したところ、Rmaxで2.5nm、Raで0.30nmと、超平滑な表面となっていることが確認された。なお、表面粗さの数値は、AFM(原子間力顕微鏡)によって測定した表面形状について、日本工業規格(JIS)B0601にしたがって算出したものである。
また、前述のような工程を経たガラスディスクは、内径が7mm、外径が27.4mm、板厚は0.381mmであり、「1.0インチ型」磁気ディスクに用いる磁気ディスク用ガラス基板の所定寸法であることを確認した。
さらに、このガラスディスクの円孔の内周端面の表面粗さは、面取り面においてRmaxで0.4μm、Raで0.04μm、面取り面以外の部分においてRmaxで0.4μm、Raで0.05μmであった。外周端面における表面粗さRaは、面取り面において0.04μm、面取り面以外の部分において0.07μmであった。このように、内周端面は、外周端面と同様に、鏡面状に仕上がっていることを確認した。
また、このガラスディスクの表面に異物やサーマルアスペリティの原因となるパーティクルは認められず、円孔の内周端面にも異物やクラックは認められなかった。
(9)テクスチャ加工
次に、第9の区域内において、化学強化処理を終えたガラスディスクに対し、テクスチャ加工を行った。この第9の区域内の雰囲気は、「クラス500」のクリーン環境とした。このテクスチャ加工は、テクスチャ加工装置を用いて、ガラスディスクとこのガラスディスクの両主表面を挟持する研磨テープとを所定の状態で相対的に摺接移動させる「メカニカルテクスチャ加工」によって、主表面及び端面に対して行った。これらガラスディスクと各研磨テープとの相対的摺動は、ガラスディスクの周方向(接線方向)の移動を基本としつつ、この周方向に対して、サインカーブを描いて揺動する移動として行った。また、このとき、ガラスディスクと各研磨テープとの間に、研磨砥粒としてダイヤモンド砥粒をを含有する液体状の研磨剤を供給した。
このテクスチャ加工が終了した後、ガラスディスクをスクラブ洗浄し、磁気ディスク用ガラス基板を得た。
(10)磁気ディスクの製造工程(成膜工程)
次に、第10の区域内において、以下の工程を経て、本発明に係る磁気ディスクを製造した。この第10の区域内の雰囲気は、「クラス100」のクリーン環境とした。
前述の工程により得た磁気ディスク用ガラス基板の両主表面に、静止対向型のDCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、Al−Ru合金のシード層、Cr−W合金の下地層、Co−Cr−Pt−Ta合金の磁性層、水素化炭素保護層を順次成膜した。シード層は、磁性層の磁性グレインを微細化させる作用を奏し、下触層は、磁性層の磁化容易軸を面内方向に配向きせる作用を奏する。
この磁気ディスクは、非磁性基板である磁気ディスク用ガラス基板と、この磁気ディスク用ガラス基板上に形成された磁性層と、この磁性層上に形成された保護層と、この保護層上に形成された潤滑層とを少なくとも備えて構成される。
そして、磁気ディスク用ガラス基板と磁性層との間には、シード層及び下地層からなる非磁性金属層(非磁性下地層)が形成されている。この磁気ディスクにおいて、磁性層以外は、全て非磁性体からなる層である。この実施例においては、磁性層及び保護層、保護層及び潤滑層は、それぞれ接した状態で形成した。
すなわち、まず、スパッタリングターゲットとして、Al−Ru(アルミニウム−ルテニウム)合金(Al:50at%、Ru:50at%)を用いて、磁気ディスク用ガラス基板上に、膜厚30nmのAl−Ru合金からなるシード層をスパッタリングにより成膜した。次に、スパッタリングターゲットとして、Cr−W(クロム−タングステン)合金(Cr:80at%、W:20at%)を用いて、シード層5上に、膜厚20nmのCr−W合金からなる下地層をスパッタリングにより成膜した。次いで、スパッタリングターゲットとして、Co−Cr−Pt−Ta(コバルト−クロム−プラチナ−タンタル)合金(Cr:20at%、Pt:12at%、Ta:5at%、残部Co)からなるスパッタリングターゲットを用いて、下地層上に、膜厚15nmのCo−Cr−Pt−Ta合金からなる磁性層をバイアススパッタリングにより形成した。
次に、磁性層上に水素化炭素からなる保護層をバイアスCVD法により形成し、さらに、PFPE(パーフロロポリエーテル)からなる潤滑層をディップ法で成膜した。保護層は、磁気ヘッドの衝撃から磁性層を保護する作用を奏する。このようにして、磁気ディスクを得た。
〔比較例〕
この比較例においては、各工程をそれぞれに対応させた第1乃至第10の区域内で実施し、各区間の雰囲気を遮断したが、各区域において実施される工程の前の工程が実施される区域へ向けた気流を生じさせずに実施した。また、各区域の雰囲気は、互いに等しい気圧に維持された状態とした。他は、前述の実施例と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを作製した。
〔実施例及び比較例の対比〕
前述の実施例及び比較例の磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製した磁気ディスクについて、浮上量が6nmのグライドヘッドによりグライド検査を行った。このグライド検査は、磁気ヘッドに衝突する異物等の検出により、磁気ヘッドが安定した浮上状態を維持しているかを判別するものである。
実施例磁気ディスクについては、グライド検査において、95%以上の良好な合格率となった。これに対し、比較例における磁気ディスクについては、グライド検査において、70%という低い合格率となった。
また、実施例において得られた磁気ディスクのについてのロードアンロード耐久試験を行った。すなわち、得られた磁気ディスクをハードディスクドライブに搭載して連続してロードアンロード動作を繰り返し行った。その結果、ロードアンロード耐久性として、60万回以上のロードアンロード動作に耐久することができ、充分な耐久性となっていることが確認された。これに対し、比較例における磁気ディスクについては、十分なロードアンロード耐久性が得られない磁気ディスクが存在することが確認された。
さらに、実施例においては、磁気抵抗効果型磁気ヘッドを用いて再生試験を行ったが、サーマルアスペリティを観察することは無かった。
比較例で得られた磁気ディスク用ガラス基板の表面には、研削、または、研磨工程で形成されたと考えられる傷が確認された。この傷は、研削工程、または、研磨工程で、砥粒に混入した粗大粒子により形成されたものと考えられるが、実施例の磁気ディスク用ガラス基板では、障害の原因になるような傷は確認されなかった。
本実施例では、気流の制御に基づく簡易な構成とされているので、設備投資金額も少なく、製造コストに対する圧迫要因とはならなかった。
また、本実施例では、各工程間でガラス基板の搬送や作業者の交通が妨げられることがないように、簡素な動線を構築しているので、磁気ディスク用ガラス基板の大量生産を容易に実施できるようになった。