JP2007092158A - 溶銑の脱燐処理方法 - Google Patents

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【課題】 蛍石などのフッ素源を使用しなくてもCaO系媒溶剤を迅速に滓化させることができ、溶銑を効率的に且つ安価に脱燐することのできる脱燐処理方法を提供する。
【解決手段】 CaO、SiO2 及び酸化鉄を主成分とし、CaO、SiO2 及び酸化鉄中のT.Feの各含有量が下記の(1)式の関係を満足し、且つCaO含有量とSiO2含有量との比が1.5〜5.0の範囲である粉粒状の脱燐用媒溶剤34を、上吹きランス5の軸心部に配置した中心孔から酸素含有ガスとともに溶銑32に吹き付けると同時に、中心孔の周囲に配置した第1の周囲孔から炭化水素系のガス燃料または液体燃料を供給して火炎を形成し、この火炎によって脱燐用媒溶剤を加熱・溶融するとともに、第1の周囲孔の外側に配置した第2の周囲孔から酸素含有ガスを溶銑に吹き付けて脱燐する。
T.Fe≧4×CaO/SiO2+4 …(1)
【選択図】 図4

Description

本発明は、上吹きランスから酸素ガスと脱燐用媒溶剤とを溶銑に吹き付けて行う溶銑の脱燐処理方法に関するものである。
近年、溶銑段階で予め脱燐処理(「予備脱燐処理」ともいう)を実施し、溶銑中の燐を或る程度除去した後に、この溶銑を転炉に装入して転炉で脱炭精錬を実施して溶鋼を溶製する製鋼方法が発展してきた。この場合、溶銑の脱燐処理は、トーピードカー、溶銑鍋、転炉などの設備を用い、これらの設備に収容された溶銑に酸素ガス及び固体の酸化鉄などの酸素源と、脱燐用媒溶剤としてのCaO系媒溶剤とを添加し、溶銑中の燐を酸素源により酸化させ、生成した燐酸化物をCaO系媒溶剤によって形成されるスラグ中へ取り込むという方法で行われている。
この脱燐処理において、少ないCaO系媒溶剤の使用量で溶銑中の燐を溶銑からスラグへ効率的に移行させるためには、CaO系媒溶剤を迅速に溶融して滓化させることが極めて重要であるが、熱力学上、溶銑中の燐は温度が低いほど酸化除去されやすいことから、脱燐処理は1300〜1400℃の比較的低い温度域で行われるのが一般である。つまり、この温度条件は、CaO系媒溶剤の滓化には好適な条件とはいえず、従って、1300〜1400℃の比較的低温領域でCaO系媒溶剤を滓化するために、従来、CaOの融点降下剤である蛍石(CaF2 )を併用することが広く行われてきた。
しかし、近年、環境保護の観点から、スラグからのフッ素の溶出が問題になっており、このために、蛍石などのフッ素源を使用しないで効率的に脱燐することのできる脱燐技術の開発が望まれていた。そして、これに応えるべく、蛍石などのフッ素源を用いずにCaO系媒溶剤の滓化を促進させて脱燐処理する方法が幾つか提案されている。
例えば特許文献1には、上底吹き転炉に収容された溶銑に、CaO粉とこのCaO粉に対して質量%で20%を超え50%以下のAl23 粉とを含有する混合粉を、酸素ガスを搬送用ガスとして上吹きランスから吹き付けるとともに、炉底から攪拌用ガスを吹き込んで溶銑を攪拌しながら脱燐処理を行う方法が開示されている。しかし、特許文献1の方法では、添加するAl23 によりCaOの融点が降下し、CaOの滓化を促進させることができるものの、スラグ中のAl23濃度が高くなるために、炉体耐火物の損耗を招き、却ってコスト高になる懸念がある。また、スラグ中のAl23 濃度が高くなることから、脱燐速度が低下するという問題もある。
また、特許文献2には、転炉型反応容器に収容された溶銑に対して、スラグの塩基度が1.1以下である場合には、少なくとも粒径が20mm以上である塊状生石灰を投入し、また、スラグの塩基度が1.1を超える場合には、上吹きランスから粒度が100メッシュ(149μm)以下、好ましくは200メッシュ(74μm)以下である酸化カルシウム粉(CaO粉)を酸素ガスとともに吹き付けて、溶銑を脱燐処理する方法が開示されている。ここで、スラグの塩基度とは、スラグ中のCaOとSiO2 との質量比(CaO/SiO2 )である。一般に脱燐反応は高塩基度のスラグを形成させて、鋼中の燐濃度を必要レベルまで低減しており、脱燐処理におけるスラグの塩基度は1.1を超える場合が一般的である。特許文献2の方法では、塩基度が1.1を超える場合には100メッシュ以下の生石灰粉を用いており、従って、脱燐処理で使用する生石灰の大部分を100メッシュ以下にする必要があり、生石灰をこのようなサイズに細粒化するには多大なコストを費やし、従って、工業的に実現性のある方法とはいえない。
特開2000−345226号公報 特開2000−73112号公報
このように、CaO系媒溶剤を主たる脱燐用媒溶剤として使用して溶銑を脱燐処理するに当たり、蛍石などのフッ素源を使用しないで効率的に脱燐することのできる脱燐処理技術の開発が切望されているにも拘わらず、従来の方法はコストの点で工業的には満足できる技術とはいい難く、製造コストの上昇を余儀なくされていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、蛍石などのフッ素源を使用しなくてもCaO系媒溶剤を迅速に滓化させることができ、溶銑を効率的に且つ安価に脱燐することのできる脱燐処理方法を提供することである。
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意検討・研究を行った。以下に、検討・研究結果を説明する。
CaO系媒溶剤を主たる脱燐用媒溶剤として用いた溶銑の脱燐反応は、CaO系媒溶剤により生成されるCaO系スラグが、溶銑中の燐と供給される酸素源との反応により生成される燐酸化物(P25 )を取り込むことによって進行することから、CaO系媒溶剤をいかに迅速に滓化させるかが重要なポイントとなる。滓化に必要な時間は、主に、溶銑温度、並びに、CaO系媒溶剤の低融点化を促進させるための酸化物の添加量に依存する。しかし、先にも述べたように、脱燐反応は熱力学的に低温の方が進行しやすいため、溶銑の温度を大幅に高めることは脱燐反応に対しては必ずしも有効ではない。そこで、本発明者等は、CaO系媒溶剤の低融点化を促進させる酸化物の配合量、即ち、添加する酸化物を含めた脱燐用媒溶剤全体の組成に着目して検討を進めた。
CaOの滓化を促進させるには酸化物の混合が有効であり、このための安価な酸化物としてはSiO2 やFeOが挙げられる。しかし、これら酸化物の配合割合を多くすると、脱燐用媒溶剤中のCaOの割合が低下して、脱燐反応に必要なCaO源を確保することができなくなる。しかし、一方でこれら酸化物の配合割合を脱燐反応に必要なCaO源が確保される程度に抑制すると、1300〜1400℃程度の溶銑に脱燐用媒溶剤を添加しても、滓化に必要な時間をさほど短縮させることはできず、課題の解決には至らなかった。
そこで、本発明者等は、脱燐用媒溶剤が溶銑と接触する以前に、脱燐用媒溶剤を予め加熱し更には溶融させることが効果的ではないかと考えて検討を進めた。この考えに基づき、脱燐用媒溶剤を予め加熱・溶融するための種々の方法について検討した。
その結果、上吹きランスでバーナーを形成し、脱燐用媒溶剤をこのバーナーによる燃焼火炎中を通過させて加熱・溶融し、この加熱・溶融した脱燐用媒溶剤を溶銑浴面へと供給することが、溶銑と脱燐用媒溶剤との混合・接触の促進、及び、脱燐用媒溶剤の迅速滓化に最適な条件であるとの知見が得られた。
バーナーを形成するランス構造については、ランス構造をできるだけ簡素化するために、ランスの中心孔から脱燐用媒溶剤を搬送用ガスとしての酸素含有ガスとともに供給し、この中心孔の周囲に燃料供給用のノズル孔を設けて燃料を供給し、中心孔から供給する酸素含有ガスによって供給した燃料を燃焼させて火炎を形成し、これにより脱燐用媒溶剤を加熱・溶融する方法を用いることとした。この場合、中心孔から供給される酸素含有ガス中の酸素ガスは燃料の燃焼に消費されるので、溶銑中の燐の酸化にはほとんど寄与しない。従って、燃料供給用のノズル孔の外周に溶銑中の燐を酸化させるための吹錬用酸素含有ガスを供給するノズル孔を設けることとした。尚、ランス先端に幾つかの孔を設け、これらの孔でそれぞれ火炎を形成し、この火炎中を通して脱燐用媒溶剤を供給するようにしても構わないが、その場合はランス構造が複雑化するので設備的に好ましくない。また、加熱・溶融化の他の手段として、脱燐用媒溶剤を予めスラグ溶解炉などで昇温・溶融してから溶銑に添加することも考えられるが、この場合は設備が大掛かりになることから工業的には好ましくない。
上記構成のバーナー方式の上吹きランスを備えた小型実験装置を用いて、種々の条件で試験を実施した。燃料としてはプロパンガスを使用した。実験では、CaO、SiO2 、酸化鉄を主成分として含有する脱燐用媒溶剤を用い、この脱燐用媒溶剤の組成、脱燐用媒溶剤のサイズ、及び、脱燐用媒溶剤の供給速度(kg/min)に対するプロパンガスの供給速度(Nm3/min)の比(Nm3 /kg)(この比を「燃料比」と称す)を変更し、バーナーにより形成される火炎を通過させて粉粒状の脱燐用媒溶剤を上吹きランスから吹き付け、この粉粒体を回収して溶融率を測定した。
図1は、脱燐用媒溶剤の平均粒径を3.0mm、燃料比を0.02Nm3 /kgの一定として、脱燐用媒溶剤の組成を変化させたときの溶融率の調査結果を示す図である。ここで、脱燐用媒溶剤のサイズの定義としては、透過型電子顕微鏡により粒子を撮影し、その平均粒子直径とした。図1では、横軸を脱燐用媒溶剤の塩基度(CaO含有量(質量%)/SiO2含有量(質量%))で表示し、溶融率を50%以上と50%未満の2つに区分して整理している。図1に示すように、脱燐用媒溶剤の塩基度が1.5〜5.0の範囲において、脱燐用媒溶剤の溶融率が50%以上となる範囲は、脱燐用媒溶剤の塩基度及び脱燐用媒溶剤のT.Feの含有量に相関があり、両者の相関関係を一次の関数で求めると、下記の(1)式を得ることができた。ここで、T.Feとは、脱燐用媒溶剤に配合した酸化鉄(Fe23 やFeOなど)の鉄分の合計値であり、(1)式において、T.Feは、脱燐用媒溶剤の酸化鉄中の鉄分の含有量(質量%)、CaOは、脱燐用媒溶剤中のCaOの含有量(質量%)、SiO2は、脱燐用媒溶剤中のSiO2 の含有量(質量%)である。
Figure 2007092158
即ち、脱燐用媒溶剤の塩基度が1.5〜5.0の範囲において、(1)式の関係を満足するように脱燐用媒溶剤の組成を決定すれば、脱燐用媒溶剤の溶融率は50%以上が確保されることが分かった。
また、図2は、塩基度が2.5で、T.Feの配合質量が15質量%の組成の脱燐用媒溶剤を用い、燃料比を0.02Nm3 /kgの一定として、脱燐用媒溶剤の平均粒径を0.2mmから3.0mmの範囲に種々変化させたときの溶融率の調査結果を示す図である。図2に示す横軸は、上記したようにして測定した脱燐用媒溶剤の平均粒径である。図2に示すように、脱燐用媒溶剤の粒径を細かくすることで脱燐用媒溶剤の溶融率を更に高めることが可能であり、平均粒径を2mm以下にすることで80質量%以上の溶融率を得られることが分かった。
更に、図3は、塩基度が2.5で、T.Feの配合質量が15質量%の組成の脱燐用媒溶剤を用い、脱燐用媒溶剤の平均粒径を3.0mm一定として、燃料比を0.02〜0.2Nm3 /kgの範囲に変化させたときの溶融率の調査結果を示す図である。図3に示すように、燃料比を大きくすることで脱燐用媒溶剤の溶融率を更に高めることが可能であり、燃料比を0.1Nm3/kg以上とすることで80質量%以上の溶融率を得られることが分かった。
本発明で使用する脱燐用媒溶剤は、上記のようにCaO、SiO2 、酸化鉄を主体とし、塩基度が1.5〜5.0の範囲で、且つ(1)式の関係を満たしている限り、どのような原料を用いて脱燐用媒溶剤を調製しても構わないが、コストの低廉化を図るためには、溶銑の脱炭吹錬工程で生成する転炉スラグやOGダスト、及び、鉄鉱石の焼結工程で生成する焼結ダストなどを再利用することが好ましい。その際、不可避的に混入するAl23 やMnOなどは、本発明の効果を発揮するに当たって何ら問題とはならない。
本発明は、上記検討結果に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、CaO、SiO2 及び酸化鉄を主成分として含有し、これらCaO、SiO2及び酸化鉄中のT.Feの各含有量が上記の(1)式の関係を満足し、且つCaO含有量とSiO2 含有量との比(CaO/SiO2)が1.5〜5.0の範囲である粉粒状の脱燐用媒溶剤を、上吹きランスの軸心部に配置した中心孔から酸素含有ガスを搬送用ガスとして溶銑に吹き付けると同時に、前記中心孔の周囲に配置した第1の周囲孔から炭化水素系のガス燃料または液体燃料の何れか1種類以上を供給して火炎を形成し、該火炎によって前記脱燐用媒溶剤を加熱・溶融するとともに、前記第1の周囲孔の外側に配置した第2の周囲孔から酸素含有ガスを溶銑に吹き付けることを特徴とするものである。
第2の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1の発明において、前記脱燐用媒溶剤の平均粒径が2.0mm以下であることを特徴とするものである。
第3の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1または第2の発明において、前記脱燐用媒溶剤の供給速度(kg/min)に対する前記炭化水素系のガス燃料及び液体燃料の供給速度(Nm3 /min)の比が0.1Nm3 /kg以上であることを特徴とするものである。
第4の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記脱燐用媒溶剤は、溶銑の脱炭吹錬工程で生成する転炉スラグ、OGダスト、及び、鉄鉱石の焼結工程で生成する焼結ダストの何れか1種以上を原料として調製されることを特徴とするものである。
本発明によれば、所定の組成に調製した粉粒状の脱燐用媒溶剤を、上吹きランスの先端部に形成されるバーナー火炎によって加熱・溶融させながら溶銑に吹き付けて脱燐処理を行うので、蛍石などのフッ素源を使用しなくても従来と比較して迅速に脱燐用媒溶剤を滓化させ脱燐反応を促進させることができ、燐濃度の低い溶銑を製造することが可能となる。その結果、脱燐処理工程における脱燐用媒溶剤コストの削減が可能になるのみならず、次工程の転炉脱炭精錬において、脱燐に必要な脱燐用媒溶剤が不要になるなど、省資源、省エネルギーが達成されるとともに転炉脱炭操業の安定化が達成され、工業上有益な効果がもたらされる。
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明に係る脱燐処理で用いる溶銑は、高炉などの溶銑製造設備で製造された溶銑であり、溶銑製造設備で製造された溶銑を、溶銑鍋、トーピードカーなどの溶銑搬送容器で受銑し、この溶銑を予備脱燐処理設備に搬送する。少ない脱燐用媒溶剤の使用量で効率的に脱燐処理するために、脱燐処理の前に溶銑中の珪素を予め除去(「溶銑の予備脱珪処理」ともいう)してもよい。予備脱珪処理を行う場合には、溶銑の珪素含有量を0.1質量%以下まで低減させることが好ましい。溶銑の珪素含有量をこの範囲まで下げる手段としては、製造された溶銑に酸素ガスまたは酸化鉄などの酸素源を供給し、これらの酸素源によって溶銑中の珪素を酸化させ、珪素を酸化物として強制的に除去する方法を用いることができる。予備脱珪処理を実施した場合には、生成したスラグを脱燐処理の前までに排滓しておく。
このようにして得た溶銑に対して本発明による脱燐処理を施す。本発明による脱燐処理は、溶銑鍋またはトーピードカーなどの溶銑搬送容器内で行うこともできるが、これらの溶銑搬送容器に比べてフリーボードが大きく、溶銑を強攪拌することが可能であり、少ない脱燐用媒溶剤の使用量で迅速に脱燐処理を行うことができることから、転炉型の精錬設備で行うことが好ましい。従って、ここでは、転炉型の精錬設備を用いて脱燐処理する例で説明する。図4は、本発明に最適な転炉型精錬設備の1例を示す概略図、図5は、図4に示す上吹きランスの概略拡大断面図である。
図4に示すように、本発明に係る溶銑の脱燐処理方法で用いる転炉型精錬設備1は、その外殻を鉄皮3で構成され、鉄皮3の内側に耐火物4が施行された炉本体2と、この炉本体2の内部に挿入され、上下方向に移動可能な上吹きランス5とを備えている。炉本体2の上部には、脱燐処理終了後に収容した溶銑32を出湯するための出湯口6が設けられ、また、炉本体2の炉底部には、撹拌用ガスを吹き込むための底吹き羽口7が設けられている。この底吹き羽口7はガス導入管(図示せず)と接続されている。また、炉本体2の上方には、炉本体2から発生する排ガスを集めるためのフード8が設けられ、また、各種精錬剤を炉本体2の内部に投入するための原料添加装置9が設置されている。この原料添加装置9としては、例えば、ホッパー10、切出装置11、シュート12などからなる慣用の原料供給装置を使用することができる。
上吹きランス5には、脱燐用媒溶剤34を酸素含有ガスとともに供給するための脱燐用媒溶剤供給管13と、プロパンガス、天然ガスなどの炭化水素系のガス燃料、或いは、重油、灯油などの炭化水素系の液体燃料を供給するための燃料供給管14と、脱燐吹錬用の酸素含有ガスを供給するための吹錬用気体酸素源供給管15と、上吹きランス5を冷却するための冷却水を供給・排出するための冷却水給排水管(図示せず)とが接続されている。燃料供給管14には流量調節弁17が設置され、吹錬用気体酸素源供給管15には流量調節弁18が設置されており、各々の流量調節弁によって炭化水素系燃料の供給量及び吹錬用酸素含有ガスの供給量を任意の流量で調整できるようになっている。ここで、酸素含有ガスとは、酸素ガス(純酸素)、空気、酸素富化空気、酸素ガスとArガスとの混合ガスなどを指す。
脱燐用媒溶剤供給管13は、脱燐用媒溶剤34を収容したディスペンサー21に接続されており、ディスペンサー21を経由した後に上吹きランス5に接後されている。即ち、脱燐用媒溶剤供給管13を通ってディスペンサー21に供給された酸素含有ガスは、ディスペンサー21に収容された脱燐用媒溶剤34の搬送用ガスとして機能し、脱燐用媒溶剤34は酸素含有ガスを搬送用ガスとして上吹きランス5に供給され、上吹きランス5の先端から溶銑32に向けて吹き付けることができるようになっている。また、脱燐用媒溶剤供給管13には流量調節弁16が設置されており、任意の流量で搬送用ガスである酸素含有ガスを供給できるようになっている。
脱燐用媒溶剤供給管13は、ディスペンサー21に接続する直前に2つの径路に分岐し、分岐した脱燐用媒溶剤供給管13Aは、ディスペンサー21を経由しないで再度脱燐用媒溶剤供給管13に合流して上吹きランス5に接続されている。脱燐用媒溶剤供給管13には遮断弁19が設置され、脱燐用媒溶剤供給管13Aには遮断弁20が設置されており、遮断弁19及び遮断弁20の開閉によって酸素含有ガスの径路が設定されるようになっている。尚、脱燐用媒溶剤供給管13Aは、炉本体2への脱燐用媒溶剤34の供給が不要な場合に脱燐用媒溶剤供給管13Aを経由して酸素含有ガスを流し、スプラッシュなどによる上吹きランス5の先端の閉塞を防止するためのものである。
上吹きランス5は、図5に示すように、円筒状のランス本体22と、このランス本体22の下端に溶接などにより接続された銅製のランスノズル23とで構成されており、ランス本体22は、最内管27、内管28、中管29、外管30、最外管31の同心円状の5種の鋼管、即ち五重管で構成されている。脱燐用媒溶剤供給管13は最内管27に連通し、燃料供給管14は内管28に連通し、吹錬用気体酸素源供給管15は中管29に連通し、冷却水給排水管は外管30及び最外管31に連通しており、従って、脱燐用媒溶剤34が搬送用ガスとともに最内管27の内部を通り、プロパンガスなどの炭化水素系燃料が最内管27と内管28との間隙を通り、吹錬用酸素含有ガスが内管28と中管29との間隙を通り、中管29と外管30との間隙及び外管30と最外管31との間隙は、冷却水の給排水流路となっている。
最内管27はランスノズル23のほぼ軸心位置に配置された中心孔24と連通し、内管28は、中心孔24の周囲に複数個設置された第1の周囲孔25に連通し、中管29は、第1の周囲孔25の周辺に複数個設置された第2の周囲孔26に連通している。中心孔24は脱燐用媒溶剤34を吹き付けるためのノズル、第1の周囲孔25は炭化水素系の燃料を吹き付けるためのノズル、第2の周囲孔26は吹錬用酸素含有ガスを吹き付けるためのノズルである。尚、図5において、中心孔24及び第1の周囲孔25はストレート形状を採っているが、その断面が縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体で構成されるラバールノズルの形状としてもよい。その逆に、第2の周囲孔26はラバールノズルの形状を採っているが、ストレート形状であってもよい。
このような構成の転炉型精錬設備1を用い、溶銑32に対して以下に示すようにして本発明に係る脱燐処理を実施する。
先ず、CaO、SiO2 及び酸化鉄を主成分とし、これらCaO、SiO2 及び酸化鉄中のT.Feの各含有量が上記の(1)式の関係を満足し、且つCaO含有量とSiO2含有量との比(CaO/SiO2 )が1.5〜5.0の範囲である、平均粒径が3.0mm以下の脱燐用媒溶剤34の粉粒体を予め準備し、この脱燐用媒溶剤34をディスペンサー21に装入しておく。
この状態で、炉本体2の内部へ溶銑32を装入する。鉄源として鉄スクラップを配合する場合には、溶銑32を装入する前に、炉本体2へ鉄スクラップを装入する。用いる溶銑32としてはどのような組成であっても処理することができ、脱燐処理の前に予備脱硫処理や予備脱珪処理が施されていてもよい。因みに、脱燐処理前の溶銑32の主な化学成分は、炭素:3.8〜5.0質量%、珪素:0.2質量%以下、硫黄:0.05質量%以下、燐:0.08〜0.2質量%程度である。但し、脱燐処理時に炉本体2で生成されるスラグ33の量が多くなると脱燐効率が低下するので、前述したように、炉内のスラグ量を少なくして脱燐効率を高めるために、予備脱珪処理により、溶銑中の珪素濃度を0.1質量%以下まで予め低減しておくことが好ましい。また、溶銑温度は1200〜1350℃の範囲であれば問題なく脱燐処理することができる。
次いで、ディスペンサー21に酸素含有ガスを供給し、脱燐用媒溶剤34を上吹きランス5の中心孔24から酸素含有ガスを搬送用ガスとして溶銑32の浴面に向けて吹き付ける。脱燐用媒溶剤34の吹き付けと同時に、上吹きランス5の第1の周囲孔25から炭化水素系の燃料を供給し、この燃料を中心孔24から供給する酸素含有ガスによって燃焼させて上吹きランス5の先端部に火炎を形成する。脱燐用媒溶剤34は、形成される火炎の熱を受けて加熱・溶融し、溶融した状態で溶銑32の浴面に吹き付けられる。その際に、上吹きランス5の第2の周囲孔26からは脱燐吹錬用の酸素含有ガスを溶銑32の浴面に向けて吹き付けるとともに、底吹き羽口7から窒素ガスなどの非酸化性ガスまたはArガスなどの希ガスを撹拌用ガスとして溶銑32に吹き込み、溶銑32を攪拌させる。
溶銑浴面に吹き付けられた脱燐用媒溶剤34は直ちに滓化してスラグ33を形成し、また、供給された脱燐吹錬用の酸素含有ガスと溶銑中の燐とが反応してP25 が形成される。攪拌用ガスによって溶銑32とスラグ33とが強攪拌されることも相まって、形成したP25 がスラグ33に迅速に吸収されて、溶銑32の脱燐反応が速やかに進行する。この場合に、脱燐用媒溶剤34の滓化を促進させて脱燐処理をより一層迅速に行うために、脱燐用媒溶剤34の平均粒径を2.0mm以下とすること、及び、燃料比を0.1Nm3/kg以上とすることが好ましい。
また、脱燐用媒溶剤34の調製コストを抑える観点から、溶銑の脱炭吹錬工程で生成する転炉スラグ(CaO−SiO2 系スラグ)、OGダスト(酸化鉄)、及び、鉄鉱石の焼結工程で生成する焼結ダスト(CaOと酸化鉄との混合物)を使用し、これらに生石灰や鉄鉱石などを添加して(1)式を満足する組成に調整することが好ましい。脱燐用媒溶剤34にAl23 源を意図的に混合しても構わないが、本発明においてはバーナーによる加熱・溶融により滓化性を十分確保できるため、特にAl23 源を混合する必要はない。同様に、CaOの融点降下剤である蛍石などのフッ素含有物質も必要としない。特に、スラグ33からのフッ素の溶出量を抑えて環境を保護する観点から、蛍石などのフッ素含有物質は脱燐用媒溶剤34として使用しないことが好ましい。但し、フッ素が不純物成分として不可避的に混入した物質については使用しても構わない。
脱燐処理時の酸素源が気体の酸素含有ガスのみでは溶銑温度が上昇し過ぎて脱燐反応が阻害される場合もあるので、必要に応じてミルスケールや鉄鉱石などの固体酸素源35、或いは鉄スクラップを添加してもよい。これらの添加量は、溶銑中の珪素濃度、燐濃度、炭素濃度などに応じて適宜変更することができる。また、脱燐用媒溶剤34の投入量は、溶銑中の珪素濃度及び燐濃度に応じて変更することとするが、最大でも溶銑トン当たり40kg程度であれば十分である。
以上説明したように、本発明に係る溶銑の脱燐処理方法では、所定の組成の脱燐用媒溶剤34を上吹きランス5の中心孔24から搬送用ガスの酸素含有ガスとともに供給し、中心孔24の周囲に配置した第1の周囲孔25から炭化水素系燃料を供給して火炎を形成し、この火炎によって脱燐用媒溶剤34を加熱・溶融させて溶銑32に吹き付けるので、脱燐用媒溶剤34を迅速に滓化させることができ、従来に比較して迅速に脱燐反応を推進させることができ、燐濃度の低い溶銑を製造することが可能となる。
高炉で製造された溶銑に対して予備脱珪処理を施し、この予備脱珪処理後のスラグを排滓した後、図4に示す転炉型精錬設備と同一構成の5トンの小型転炉型精錬試験設備に溶銑を装入し、条件を変更して合計24回の脱燐処理試験を実施した。
脱燐処理は、炉底部の底吹き羽口から窒素ガスを0.05〜0.15Nm3 /min・tの供給量で吹き込んで溶銑を攪拌しながら、上吹きランスの第2の周囲孔から吹錬用酸素含有ガスとして酸素ガスを吹き付けるとともに、上吹きランスの中心孔から酸素ガスを搬送用ガスとして脱燐用媒溶剤を吹き付けながら、第1の周囲孔からプロパンガスを供給して行った。使用した上吹きランスは、1つの中心孔の周囲に4つの第1の周囲孔を備え、第1の周囲孔の外側に更に4つの第2の周囲孔を備えたものである。
脱燐用媒溶剤の組成は、本発明の範囲外の組成(比較例1〜8)を含め、それぞれの試験毎に予め調製した。脱燐用媒溶剤の平均粒度は2.2mmを基準とし、2.0mm、1.5mm、1.0mm、0.5mmとする試験も実施した。脱燐用媒溶剤の吹き付け速度は5kg/minの一定とし、吹錬用酸素ガスの流量は420Nm3 /hrの一定とした。プロパンガスの流量は20Nm3/hrを基準とし、30〜60Nm3 /hrに変更する試験も実施した。また、ランス先端でバーナーを形成させない試験(比較例1)も実施した。搬送用ガスとしての酸素ガスの流量は、100Nm3/hrを基準とし、150〜300Nm3 /hrに変更する試験も実施した。溶銑温度は処理前が1200〜1300℃の範囲であり、処理後温度は1340〜1360℃になるように調整した。表1に、各試験の脱燐処理における処理条件及び試験結果を示す。
Figure 2007092158
表1に示すように、脱燐用媒溶剤の組成が(1)式を満足する本発明例1〜8では、(1)式を満足していない比較例1〜8に比べて、脱燐用媒溶剤の原単位及び吹錬用酸素ガスの原単位はほぼ同等でありながら、低い燐濃度レベルまで溶銑を脱燐処理することができた。また、本発明例9〜16においては、脱燐用媒溶剤の平均粒径が2mm以下か、或いは燃料比が0.1Nm3 /kg以上の条件を満たしており、更に低い燐濃度まで脱燐処理することができた。
このように、蛍石などのフッ素源を使用しなくても本発明によって燐濃度の低い溶銑を安価に且つ安定して製造できることが確認された。
脱燐用媒溶剤の組成を変化させたときの溶融率の調査結果を示す図である。 脱燐用媒溶剤のサイズを変化させたときの溶融率の調査結果を示す図である。 燃料比を変化させたときの溶融率の調査結果を示す図である。 本発明に最適な転炉型精錬設備の1例を示す概略図である。 図4に示す上吹きランスの概略拡大断面図である。
符号の説明
1 転炉型精錬設備
2 炉本体
3 鉄皮
4 耐火物
5 上吹きランス
6 出湯口
7 底吹き羽口
8 フード
9 原料添加装置
10 ホッパー
11 切出装置
12 シュート
13 脱燐用媒溶剤供給管
14 燃料供給管
15 吹錬用気体酸素源供給管
16 流量調節弁
17 流量調節弁
18 流量調節弁
19 遮断弁
20 遮断弁
21 ディスペンサー
22 ランス本体
23 ランスノズル
24 中心孔
25 第1の周囲孔
26 第2の周囲孔
27 最内管
28 内管
29 中管
30 外管
31 最外管
32 溶銑
33 スラグ
34 脱燐用媒溶剤
35 固体酸素源

Claims (4)

  1. CaO、SiO2 及び酸化鉄を主成分として含有し、これらCaO、SiO2 及び酸化鉄中のT.Feの各含有量が下記の(1)式の関係を満足し、且つCaO含有量とSiO2含有量との比(CaO/SiO2 )が1.5〜5.0の範囲である粉粒状の脱燐用媒溶剤を、上吹きランスの軸心部に配置した中心孔から酸素含有ガスを搬送用ガスとして溶銑に吹き付けると同時に、前記中心孔の周囲に配置した第1の周囲孔から炭化水素系のガス燃料または液体燃料の何れか1種類以上を供給して火炎を形成し、該火炎によって前記脱燐用媒溶剤を加熱・溶融するとともに、前記第1の周囲孔の外側に配置した第2の周囲孔から酸素含有ガスを溶銑に吹き付けることを特徴とする、溶銑の脱燐処理方法。
    T.Fe≧4×CaO/SiO2+4 …(1)
    但し、(1)式において、T.Feは、脱燐用媒溶剤の酸化鉄中の鉄分の含有量(質量%)、CaOは、脱燐用媒溶剤中のCaOの含有量(質量%)、SiO2 は、脱燐用媒溶剤中のSiO2 の含有量(質量%)である。
  2. 前記脱燐用媒溶剤の平均粒径が2.0mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の溶銑の脱燐処理方法。
  3. 前記脱燐用媒溶剤の供給速度(kg/min)に対する前記炭化水素系のガス燃料及び液体燃料の供給速度(Nm3 /min)の比が0.1Nm3 /kg以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶銑の脱燐処理方法。
  4. 前記脱燐用媒溶剤は、溶銑の脱炭吹錬工程で生成する転炉スラグ、OGダスト、及び、鉄鉱石の焼結工程で生成する焼結ダストの何れか1種以上を原料として調製されることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の溶銑の脱燐処理方法。
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