以下、本発明を詳細に説明する。最初に、本発明に至った経緯について説明する。
本発明は、高炉で製造された溶銑に予備処理として脱燐処理を施し、脱燐処理された溶銑を転炉で脱炭精錬して溶鋼を製造する際に、CO2排出量を削減するために、鉄スクラップなどの冷鉄源の配合比率を高めることを目的としており、転炉はフリーボードが大きく、溶銑を強攪拌することで冷鉄源の溶解が促進されることから、予備処理として行う脱燐処理も、脱炭精錬と同様に転炉を用いて行うことを前提とした。
溶銑の脱燐処理において、バーナー機能を有する上吹きランスを用い、生石灰などの石灰系媒溶剤をバーナーの火炎で加熱し、溶銑の温度を高める技術は特許文献4などで行われている。本発明も、バーナー機能を有する上吹きランスを用いて、精錬剤として使用する粉体の加熱・溶融を行うこととした。そこで、バーナー機能を有する上吹きランスを用いて粉体を加熱し、加熱した粉体を介して火炎の熱を溶銑に着熱させるにあたり、バーナー火炎の熱を吹き込む粉体に効率的に着熱させるためにはどのような操業が最適であるか、5重管構造及び6重管構造の2種類の上吹きランスを使用して試験した。
使用した5重管構造の上吹きランスは、ラバールノズル型の中心孔と、この中心孔の周囲の円環状の円環状ノズルと、この円環状ノズルの外周の複数のラバールノズル型の周囲孔と、を有し、冷却水の給水及び排水の2つの流路を有する上吹きランスである。また、使用した6重管構造の上吹きランスは、ラバールノズル型の中心孔と、この中心孔の周囲の円環状の第1の円環状ノズルと、この第1の円環状ノズルの周囲の円環状の第2の円環状ノズルと、この第2の円環状ノズルの外周の複数のラバールノズル型の周囲孔と、を有し、冷却水の給水及び排水の2つの流路を有する上吹きランスである。
これらの上吹きランスを、内径1.0m、高さ3.0mの縦型管状炉の炉頂部に設置し、上吹きランスの先端下方に火炎を形成させた状態で、粉体として、粒径が100〜300μmの生石灰と酸化鉄との混合物(80質量%生石灰−20質量%酸化鉄)を上吹きランスから吹き込み、粉体吹き込み中の粉体の温度を放射温度計によって測定し、火炎による粉体の加熱状況を調査した。試験は、以下の4種類の試験条件で実施した。
試験条件1:5重管構造の上吹きランスを使用し、中心孔から燃料としてプロパンガスを吹き込み、円環状ノズルからプロパンガス燃焼用の酸素ガスを吹き込み、周囲孔から精錬用酸素ガスを搬送用ガスとして精錬用酸素ガスとともに上記粉体を吹き込んだ。
試験条件2:6重管構造の上吹きランスを使用し、中心孔から窒素ガスを搬送用ガスとして上記粉体を吹き込み、第1の円環状ノズルから燃料としてプロパンガスを吹き込み、第2の円環状ノズルからプロパンガス燃焼用の酸素ガスを吹き込み、周囲孔から精錬用酸素ガスを吹き込んだ。
試験条件3:6重管構造の上吹きランスを使用し、中心孔からArガスを搬送用ガスとして上記粉体を吹き込み、第1の円環状ノズルから燃料としてプロパンガスを吹き込み、第2の円環状ノズルからプロパンガス燃焼用の酸素ガスを吹き込み、周囲孔から精錬用酸素ガスを吹き込んだ。
試験条件4:5重管構造の上吹きランスを使用し、中心孔から酸素ガスを搬送用ガスとして上記粉体を吹き込み、円環状ノズルから燃料としてプロパンガスを吹き込み、周囲孔から精錬用酸素ガスを吹き込んだ。
試験条件1〜4において、酸素ガスの総供給量は同一に調整した。試験条件及び粉体温度の測定結果を表1に示す。
試験条件4では、中心孔から酸素ガスを搬送用ガスとして噴出される粉体と、この中心孔の周囲に形成される燃料の燃焼による火炎とが近接し、粉体に効率良くバーナーの燃焼熱が伝熱し、粉体を周囲孔から供給し、粉体の噴射部位とバーナー部位とが分離している試験条件1、並びに、中心孔から不活性ガスにより粉体搬送する試験条件2及び試験条件3に比較して、粉体の温度が高くなることがわかった。また、燃料燃焼用の酸素ガスを独立して吹き込まなくても、燃料は、燃料噴射孔の近傍から搬送用ガスとして供給する酸素ガスによって何ら問題なく燃焼することがわかった。また、中心孔からの粉体搬送用ガスが窒素ガスとArガスとでの差は小さかった。尚、試験条件2及び試験条件3において粉体温度が試験条件4に比較して低い理由は、搬送用不活性ガスも加熱されることにより、粉体へ供給される熱量が相対的に減少することや、搬送用不活性ガスが火炎の熱の粉体への伝達を妨げるなどによるものと考えられる。
これらの結果から、精錬剤として使用する粉体にバーナー火炎の燃焼熱を効率的に着熱させるためには、予備処理として行う脱燐処理であれ、また、脱炭精錬であれ、上吹きランスの中心孔から、精錬剤として使用する粉体を酸素ガスを搬送用ガスとして溶銑浴面に吹き付け、この中心孔の周囲から燃料を供給して火炎を形成することが効果的であることがわかった。この場合、脱燐処理及び脱炭精錬に使用する精錬用の酸素ガスは、火炎の外周側から別途供給する。この構成の上吹きランスとしては、5重管構造の上吹きランスが好適であるが、燃料を燃焼させるための酸素ガスを別途供給する燃焼用酸素ガス噴射孔を、更に燃料噴射孔に近接した外周側に有する6重管構造の上吹きランスも、本発明を実施する上で好適な上吹きランスである。
本発明は、上記試験結果に基づきなされたものであり、本発明に係る溶鋼の製造方法は、精錬剤として使用する粉体を搬送用ガスとともに転炉内の溶銑浴面に吹き付ける中心孔と、燃料を噴射する燃料噴射孔と、精錬用酸素ガスを転炉内の溶銑浴面に吹き付ける周囲孔と、を有する上吹きランスを用い、燃料噴射孔から燃料を噴射して上吹きランスの先端下方に火炎を形成させながら、中心孔から、酸化鉄、石灰系媒溶剤、炭素含有物質のうちの1種以上の粉体を酸素ガスを搬送用ガスとして溶銑浴面に向けて吹き付けるとともに、周囲孔から酸素ガスを溶銑浴面に向けて吹き付けて、転炉内の溶銑を脱燐処理し、次いで、得られた脱燐処理後の溶銑を前記転炉から溶銑保持容器に出湯し、この溶銑を別の転炉または前記転炉に装入し、前記上吹きランスと構成を同一とする上吹きランスを用い、燃料噴射孔から燃料を噴射して上吹きランスの先端下方に火炎を形成させながら、中心孔から、石灰系媒溶剤、マンガン鉱石、炭素含有物質のうちの1種以上の粉体を酸素ガスを搬送用ガスとして溶銑浴面に向けて吹き付けるとともに、周囲孔から酸素ガスを溶銑浴面に向けて吹き付けて、転炉内の溶銑を脱炭精錬し、かくして溶銑から溶鋼を製造する。
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。先ず、5重管構造の上吹きランスを使用した第1の形態例を説明する。
図1は、本発明の第1の形態例において溶銑の脱燐処理及び脱炭精錬を実施する際に用いる5重管構造の上吹きランスを備えた転炉設備の1例を示す概略断面図、図2は、図1に示す上吹きランスの概略拡大縦断面図である。尚、本発明においては、脱燐処理が施された溶銑の脱炭精錬も図1に示す構成の転炉設備を用いて実施する。
図1に示すように、本発明において溶銑の脱燐処理及び脱炭精錬に用いる転炉設備1は、その外殻を鉄皮4で構成され、鉄皮4の内側に耐火物5が施行された炉本体2と、この炉本体2の内部に挿入され、上下方向に移動可能な上吹きランス3とを備えている。炉本体2の上部には、脱燐処理終了後の溶銑14或いは脱炭精錬終了後の溶鋼(図示せず)を出湯するための出湯口6が設けられ、また、炉本体2の炉底部には、攪拌用ガス16を吹き込むための複数の底吹き羽口7が設けられている。この底吹き羽口7はガス導入管8と接続されている。
上吹きランス3には、精錬剤として使用する酸化鉄、石灰系媒溶剤、マンガン鉱石、炭素含有物質のうちの1種以上からなる粉体13を、酸素ガス(工業用純酸素ガス)を搬送用ガスとして酸素ガスとともに供給するための粉体供給管9と、プロパンガス、液化天然ガス、コークス炉ガス、石油、重油などの燃料を供給するための燃料供給管10と、精錬用の酸素ガス(工業用純酸素ガス)を供給するための精錬用酸素ガス供給管11と、上吹きランス3を冷却するための冷却水を供給・排出するための冷却水給水管及び排水管(図示せず)とが、接続されている。
粉体供給管9の他端は、粉体13を収容したディスペンサー12に接続され、また、ディスペンサー12は粉体搬送用ガス供給管9Aに接続されており、粉体搬送用ガス供給管9Aを通ってディスペンサー12に供給された酸素ガスが、ディスペンサー12に収容された粉体13の搬送用ガスとして機能し、ディスペンサー12に収容された粉体13は粉体供給管9を通って上吹きランス3に供給され、上吹きランス3の先端から溶銑14に向けて吹き付けることができるようになっている。
上吹きランス3は、図2に示すように、円筒状のランス本体17と、このランス本体17の下端に溶接などにより接続された銅鋳物製のランスチップ18とで構成されており、ランス本体17は、最内管22、内管23、中管24、外管25、最外管26の同心円形状の5種の鋼管、即ち5重管で構成されている。粉体供給管9は最内管22に連通し、燃料供給管10は内管23に連通し、精錬用酸素ガス供給管11は中管24に連通し、冷却水給水管及び排水管はそれぞれ外管25または最外管26の何れか一方に連通している。つまり、粉体13が酸素ガス(=搬送用ガス)とともに最内管22の内部を通り、プロパンガスなどの燃料が最内管22と内管23との間隙を通り、精錬用酸化性ガスが内管23と中管24との間隙を通り、中管24と外管25との間隙及び外管25と最外管26との間隙は、冷却水の給水流路または排水流路となっている。中管24と外管25との間隙及び外管25と最外管26との間隙のうちの一方が給水流路で、他方が排水流路であり、どちらを給水流路としても構わない。冷却水は、ランスチップ18の位置で反転するように構成されている。
最内管22の内部は、ランスチップ18のほぼ軸心位置に配置された中心孔19と連通し、最内管22と内管23との間隙は、中心孔19の周囲に円環状のノズルまたは同心円上の複数個のノズル孔として開口する燃料噴射孔20と連通し、内管23と中管24との間隙は、燃料噴射孔20の外周に複数個設置された周囲孔21と連通している。中心孔19は、粉体13を酸素ガス(=搬送用ガス)とともに吹き付けるためのノズル、燃料噴射孔20は、燃料を噴射するためのノズル、周囲孔21は、精錬用酸素ガスを吹き付けるためのノズルである。
つまり、最内管22の内部が粉体供給流路となり、最内管22と内管23との間隙が燃料供給流路となり、内管23と中管24との間隙が精錬用酸素ガス供給流路となっている。尚、図2において、中心孔19及び周囲孔21は、その断面が縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体で構成されるラバールノズルの形状を採っているが、中心孔19は、ストレート形状のノズルであっても構わない。燃料噴射孔20は円環のスリット状に開口するストレート型のノズル、または断面が円形のストレート形状のノズルである。
この上吹きランス3においては、燃料噴射孔20から燃料を噴射させ、且つ、中心孔19から酸素ガスのみを噴射させることで、粉体13を吹き込まなくても上吹きランス3の先端下方に火炎を形成させることができる。
この構成の転炉設備1を用い、冷鉄源の配合比率を高めるべく、以下に示すようにして、溶銑14に対して先ず脱燐処理を施し、次いで、この脱燐処理された溶銑14に脱炭精錬を施し、溶銑14から溶鋼を製造する。以下、脱燐処理から順に説明する。
溶銑14に脱燐処理を施すにあたり、先ず、炉本体2の内部へ冷鉄源を装入する。使用する冷鉄源としては、製鉄所で発生する鋳片及び鋼板のクロップ屑や市中屑などの鉄スクラップ、磁力選別によってスラグから回収した地金、更には、冷銑、還元鉄などを使用することができる。冷鉄源の配合比率は、装入する全鉄源に対して5質量%以上とすることが好ましい(冷鉄源の配合比率(質量%)=冷鉄源配合量×100/(溶銑配合量+冷鉄源配合量))。冷鉄源の配合比率が5質量%未満では、生産性向上の効果が少ないのみならず、CO2発生量の削減効果が少ないからである。冷鉄源の配合比率の上限は特に決める必要はなく、脱燐処理後の溶銑温度が目標範囲を維持できる上限まで添加することができる。冷鉄源の装入完了に前後して、底吹き羽口7からの攪拌用ガス16の吹き込みを開始する。
冷鉄源の炉本体2への装入後、溶銑14を炉本体2へ装入する。用いる溶銑14としてはどのような組成であっても処理することができ、脱燐処理の前に脱硫処理や脱珪処理が施されていてもよい。因みに、脱燐処理前の溶銑14の主な化学成分は、炭素:3.8〜5.0質量%、珪素:0.3質量%以下、燐:0.08〜0.2質量%、硫黄:0.05質量%以下程度である。但し、脱燐処理時に炉本体内で生成されるスラグ15の量が多くなると脱燐効率が低下するので、前述したように、炉本体内でのスラグ発生量を少なくして脱燐効率を高めるために、脱珪処理により、溶銑中の珪素濃度を0.20質量%以下、望ましくは0.10質量%以下まで予め低減しておくことが好ましい。また、溶銑温度は1200〜1450℃の範囲であれば問題なく脱燐処理することができる。
次いで、ディスペンサー12に酸素ガスを供給し、酸化鉄、石灰系媒溶剤、炭素含有物質のうちの1種以上からなる粉体13を、上吹きランス3の中心孔19から酸素ガスとともに溶銑14の浴面に向けて吹き付ける。この粉体13の吹き付けに前後して、上吹きランス3の燃料噴射孔20から燃料を噴射させる。燃料噴射孔20から供給される燃料と、中心孔19から噴射される、粉体13の搬送用の酸素ガスとは、上吹きランス半径方向の全方位で近接しているので、各々干渉し合い、雰囲気温度が高いこともあって、点火装置がなくても燃焼限界範囲内に燃料の濃度が達した時点で燃焼し、上吹きランス3の下方に火炎が形成される。粉体13は、形成される火炎の熱を受けて加熱または加熱・溶融し、加熱または溶融した状態で溶銑14の浴面に吹き付けられる。これにより、溶銑14に粉体13の熱が着熱し、溶銑14の温度が上昇して、添加した冷鉄源の溶解が促進される。
また、その際に、上吹きランス3の周囲孔21から、精錬用の酸素ガスを溶銑14の浴面に向けて吹き付ける。
溶銑14の脱燐反応は、溶銑中の燐が酸素ガスまたは酸化鉄と反応して燐酸化物(P2O5)を形成し、この燐酸化物が石灰系媒溶剤の滓化によって形成されるスラグ15に吸収されることで進行する。しかも、石灰系媒溶剤の滓化が促進されるほど脱燐速度が速くなる。従って、粉体13としては、生石灰(CaO)、石灰石(CaCO3)、消石灰(Ca(OH)2)、ドロマイト(CaO−MgO)などの石灰系媒溶剤を使用することが好ましい。生石灰に蛍石(CaF2)またはアルミナ(Al2O3)を滓化促進剤として混合したものを石灰系媒溶剤として使用することもできる。また、溶銑14の脱炭精錬工程で生成する転炉スラグ(CaO−SiO2系スラグ)を石灰系媒溶剤の全部または一部として使用することもできる。
粉体13として石灰系媒溶剤を使用した場合には、火炎の熱を溶銑14に着熱させるだけでなく、溶銑浴面に吹き付けられた石灰系媒溶剤は直ちに滓化してスラグ15を形成し、また、供給された精錬用酸素ガスと溶銑中の燐とが反応して燐酸化物が形成される。攪拌用ガス16によって溶銑14とスラグ15とが強攪拌されることも相まって、形成した燐酸化物が滓化したスラグ15に迅速に吸収されて、溶銑14の脱燐反応が速やかに進行する。石灰系媒溶剤を粉体13として使用しない場合には、石灰系媒溶剤を炉上ホッパーから別途上置き投入する。
粉体13として鉄鉱石、鉄鉱石の焼結鉱粉、ミルスケールなどの酸化鉄を使用した場合には、火炎の熱を溶銑14に着熱させるだけでなく、酸化鉄は酸素源として機能し、溶銑中の燐と反応して脱燐反応が進行する。また、酸化鉄が石灰系媒溶剤と反応して石灰系媒溶剤の表面にFeO−CaOの化合物が形成され、石灰系媒溶剤の滓化が促進され、脱燐反応が促進される。酸化鉄として高炉ダストや転炉ダストなどの可燃性物質を含有するものを使用した場合には、可燃性物質が火炎により燃焼し、上記に加えて可燃性物質の燃焼熱が溶銑14の加熱に寄与する。
また、粉体13として廃プラスチックやコークス、黒鉛などの炭素含有物質を使用した場合には、炭素含有物質が火炎により燃焼し、燃料の燃焼熱に加えて炭素含有物質の燃焼熱が溶銑14の加熱に寄与する。粉体13として、酸化鉄、石灰系媒溶剤及び炭素含有物質を混合したものを使用する場合には、それぞれの効果を並行して得ることができる。
また、粉体13は加熱または加熱・溶融しており、その熱が溶銑14に伝達し、更には、溶銑14の上方に存在する、上吹きランス先端の火炎の燃焼熱が溶銑14に伝達することから、溶銑14が激しく攪拌されることも相まって、溶銑中の冷鉄源の溶解が促進される。即ち、装入した冷鉄源の溶解が脱燐処理の期間中に終了する。
その後、溶銑14の燐濃度が目的とする値かそれ以下になったなら、上吹きランス3から溶銑14への全ての供給を停止して脱燐処理を終了する。脱燐処理後、炉本体2を傾動させて、脱燐処理の施された溶銑14を、出湯口6を介して、取鍋、転炉装入鍋などの溶銑保持容器に出湯する。溶銑14の出湯後、炉本体2を傾動させて、炉本体内のスラグ15もスラグ収容容器に排出する。
その後、溶銑保持容器に出湯された溶銑14を、図2に示す5重管構造の上吹きランス3を備えた、別の転炉設備(図示せず)或いは上記の脱燐処理で使用した転炉設備1の炉本体2に装入し、溶銑14に対して脱炭精錬を実施する。脱炭精錬の場合も、上吹きランス3の先端に火炎を形成させ、この火炎で精錬剤として使用する粉体13を加熱・溶融し、火炎の熱を粉体13を介して炉本体内の溶銑14に着熱させる。但し、脱炭精錬の場合には、粉体13としては、石灰系媒溶剤、マンガン鉱石、炭素含有物質のうちの1種または2種以上を使用する。
脱炭精錬の場合も、炉本体2には、上記の脱燐処理で使用した冷鉄源と同類の冷鉄源を、溶銑14の装入の前に予め装入する。この脱炭精錬工程における冷鉄源の溶解用熱源は、溶銑14の顕熱、溶銑中の炭素濃度及び火炎からの着熱量に依存しており、従って、前工程の脱燐処理工程における冷鉄源の配合比率を高く設定すると、この溶銑14を使用した脱炭精錬工程では冷鉄源の配合比率を低く設定せざるを得ない。従って、脱炭精錬工程における冷鉄源の配合比率は、脱燐処理工程での配合比率と脱炭精錬工程での配合比率との合計値が8質量%以上となるように、脱燐処理工程での配合比率に応じて設定することが好ましい。冷鉄源の全体の配合比率が8質量%未満では、生産性向上の効果が少ないのみならず、CO2発生量の削減効果が少ないからである。
炉本体2に溶銑14を装入したなら、上吹きランス3を炉本体2に挿入し、底吹き羽口7からArガスなどを攪拌用ガス16として溶銑14に吹き込みながら、上吹きランス3の中心孔19から、酸素ガスを搬送用ガスとして粉体13を噴射するとともに、燃料噴射孔20から、プロパンガス、天然ガス、コークス炉ガスなどのガス燃料、或いは、重油、灯油などの炭化水素系の液体燃料を供給し、且つ、上吹きランス3の周囲孔21から脱炭精錬用の酸素ガスを溶銑浴面に吹き付ける。
上吹きランス3の先端部には火炎が形成され、粉体13は、形成される火炎の熱を受けて加熱または加熱・溶融し、加熱または溶融した状態で溶銑14の浴面に吹き付けられる。これにより、溶銑14に粉体13の熱が着熱し、溶銑14の温度が上昇して、添加した冷鉄源の溶解が促進される。また、周囲孔21から供給される酸素ガスによって脱炭反応(2C+O2→2CO)が進行する。
上吹きランス3の中心孔19から供給する粉体13としては、前述した生石灰などの石灰系媒溶剤(生石灰やドロマイトなど)やマンガン鉱石、或いは、コークスや黒鉛、廃プラスチックなどの炭素含有物質を使用する。また、これらの副原料の全てを上吹きランス3から供給することは必要ではなく、これらのうちの一部は、炉上ホッパーから上置き添加しても構わない。また更に、上吹きランス3からの供給と上置き添加とを併用しても構わない。
粉体13として石灰系媒溶剤を使用した場合には、火炎の熱を溶銑14に着熱させるだけでなく、溶銑浴面に吹き付けられた石灰系媒溶剤は直ちに滓化して浴面を覆うスラグ15を形成し、スピッティング(地金の飛散)を防止したり、脱燐反応を促進させたりする。粉体13としてマンガン鉱石を使用した場合には、火炎の熱を溶銑14に着熱させるだけでなく、マンガン鉱石が溶銑中の炭素によって還元され、溶鋼成分調整用のマンガン源として機能する。また、粉体13として廃プラスチックやコークス、黒鉛などの炭素含有物質を使用した場合には、炭素含有物質が火炎により燃焼し、燃料の燃焼熱に加えて炭素含有物質の燃焼熱が溶銑14の加熱に寄与する。
上吹きランス3の周囲孔21から供給される酸素ガスと溶銑中の炭素とが反応して、脱炭反応が進行し、炭素濃度が目的とする値まで低下したなら、上吹きランス3からの鉄浴への全ての供給を停止して脱炭精錬を終了する。かくして、高炉から出銑された溶銑は脱炭精錬されて溶鋼が製造される。添加した冷鉄源は脱炭精錬の期間中に溶解する。製造した溶鋼は、取鍋に出湯し、必要に応じてRH真空脱ガス装置などで二次精錬を施した後、連続鋳造機で鋳片に鋳造する。
本発明で使用する上吹きランス3は、粉体13の添加量、添加タイミングを任意に調整できるように構成されている。即ち、バーナー燃焼熱の伝熱媒体として石灰系媒溶剤などの粉体13を中心孔19から供給しているが、燃焼熱の伝熱を優先して石灰系媒溶剤の添加量を増加すると石灰系媒溶剤が過剰となり、炉本体内でのスラグ発生量の大幅増加に繋がる。また、脱炭精錬中の脱炭酸素効率は、精錬初期から上昇して精錬中期で100%となり、精錬末期の溶鉄中の炭素濃度の低下に伴って再び低下する。即ち、脱炭精錬初期には添加する酸素ガスによってFeOが生成するため、その時期に石灰系媒溶剤を添加することで、CaO−FetO融体が形成され、石灰系媒溶剤の滓化・溶融を促進することが可能となる(ここで、FetOとは、FeOやFe2O3などの鉄酸化物の総称である)。その場合、脱炭酸素効率が100%となる脱炭精錬中期以降では石灰系媒溶剤の供給は必要でなく、却って石灰系媒溶剤の供給を停止したほうが、脱炭精錬が安定するからである。
次いで、6重管構造の上吹きランスを使用した第2の形態例を説明する。第1の形態例と第2の形態例とで異なる点は、使用する上吹きランスが5重管構造と6重管構造との違いだけであり、上記の第1の形態例の説明と重複することがあるが、第2の形態例で使用する転炉設備について詳細に説明する。
図3は、本発明の第2の形態例において溶銑の脱燐処理及び脱炭精錬を実施する際に用いる6重管構造の上吹きランスを備えた転炉設備の1例を示す概略断面図、図4は、図3に示す上吹きランスの概略拡大縦断面図である。尚、本発明においては、第1の形態例と同様に、脱燐処理が施された溶銑の脱炭精錬も図3に示す構成の転炉設備を用いて実施する。図3において、符号46はスラグである。
図3に示すように、本発明において溶銑の脱燐処理及び脱炭精錬に用いる転炉設備31は、その外殻を鉄皮34で構成され、鉄皮34の内側に耐火物35が施行された炉本体32と、この炉本体32の内部に挿入され、上下方向に移動可能な上吹きランス33とを備えている。炉本体32の上部には、脱燐処理終了後の溶銑45或いは脱炭精錬終了後の溶鋼(図示せず)を出湯するための出湯口36が設けられ、また、炉本体32の炉底部には、攪拌用ガス47を吹き込むための複数の底吹き羽口37が設けられている。この底吹き羽口37はガス導入管38と接続されている。
上吹きランス33には、精錬剤として使用する酸化鉄、石灰系媒溶剤、マンガン鉱石、炭素含有物質のうちの1種以上からなる粉体44を、酸素ガス(工業用純酸素ガス)を搬送用ガスとして酸素ガスとともに供給するための粉体供給管39と、プロパンガス、液化天然ガス、コークス炉ガス、石油、重油などの燃料を供給するための燃料供給管40と、供給した燃料を燃焼するための酸素ガス、空気などの酸化性ガスを供給するための燃焼用酸化性ガス供給管41と、精錬用の酸素ガス(工業用純酸素ガス)を供給するための精錬用酸素ガス供給管42と、上吹きランス33を冷却するための冷却水を供給・排出するための冷却水給水管及び排水管(図示せず)とが、接続されている。
粉体供給管39の他端は、粉体44を収容したディスペンサー43に接続され、また、ディスペンサー43は粉体搬送用ガス供給管39Aに接続されており、粉体搬送用ガス供給管39Aを通ってディスペンサー43に供給された酸素ガスが、ディスペンサー43に収容された粉体44の搬送用ガスとして機能し、ディスペンサー43に収容された粉体44は粉体供給管39を通って上吹きランス33に供給され、上吹きランス33の先端から溶銑45に向けて吹き付けることができるようになっている。
上吹きランス33は、図4に示すように、円筒状のランス本体48と、このランス本体48の下端に溶接などにより接続された銅鋳物製のランスチップ49とで構成されており、ランス本体48は、最内管54、仕切り管55、内管56、中管57、外管58、最外管59の同心円形状の6種の鋼管、即ち6重管で構成されている。粉体供給管39は最内管54に連通し、燃料供給管40は仕切り管55に連通し、燃焼用酸化性ガス供給管41は内管56に連通し、精錬用酸素ガス供給管42は中管57に連通し、冷却水給水管及び排水管はそれぞれ外管58または最外管59の何れか一方に連通している。つまり、粉体44が酸素ガス(=搬送用ガス)とともに最内管54の内部を通り、プロパンガスなどの燃料が最内管54と仕切り管55との間を通り、燃焼用酸化性ガスが仕切り管55と内管56との間隙を通り、精錬用酸化性ガスが内管56と中管57との間隙を通り、中管57と外管58との間隙及び外管58と最外管59との間隙は、冷却水の給水流路または排水流路となっている。中管57と外管58との間隙及び外管58と最外管59との間隙のうちの一方が給水流路で、他方が排水流路であり、どちらを給水流路としても構わない。冷却水は、ランスチップ49の位置で反転するように構成されている。
最内管54の内部は、ランスチップ49のほぼ軸心位置に配置された中心孔50と連通し、最内管54と仕切り管55との間隙は、中心孔50の周囲に円環状のノズルまたは同心円上の複数個のノズル孔として開口する燃料噴射孔51と連通し、仕切り管55と内管56との間隙は、燃料噴射孔51の周囲に円環状のノズルまたは同心円上の複数個のノズル孔として開口する燃焼用酸化性ガス噴射孔52と連通し、内管56と中管57との間隙は、燃焼用酸化性ガス噴射孔52の外周に複数個設置された周囲孔53と連通している。中心孔50は、粉体44を酸素ガス(=搬送用ガス)とともに吹き付けるためのノズル、燃料噴射孔51は、燃料を噴射するためのノズル、燃焼用酸化性ガス噴射孔52は、燃料を燃焼する酸化性ガスを噴射するためのノズル、周囲孔53は、精錬用酸素ガスを吹き付けるためのノズルである。
つまり、最内管54の内部が粉体供給流路となり、最内管54と仕切り管55との間隙が燃料供給流路となり、仕切り管55と内管56との間隙が燃焼用酸素ガス供給流路となり、内管56と中管57との間隙が精錬用酸素ガス供給流路となっている。尚、図4において、中心孔50及び周囲孔53は、その断面が縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体で構成されるラバールノズルの形状を採っているが、中心孔50は、ストレート形状のノズルであっても構わない。燃料噴射孔51及び燃焼用酸化性ガス噴射孔52は、円環のスリット状に開口するストレート型のノズル、または断面が円形のストレート形状のノズルである。
この上吹きランス33においては、燃料噴射孔51から燃料を噴射させ、且つ、同時に燃焼用酸化性ガス噴射孔52から酸化性ガスを噴射させることで、中心孔50からの酸素ガスの供給の有無に拘わらず、上吹きランス33の先端下方に火炎を形成されることができる。つまり、上吹きランス33において、その先端下方に火炎を形成させる場合には、燃料噴射孔51から燃料を噴射させ、同時に、燃焼用酸化性ガス噴射孔52から酸化性ガスを噴射させることを必須とする。当然ではあるが、中心孔50から噴射される酸素ガスも、燃料噴射孔51から噴射される燃料の燃焼用ガスとして機能する。
このように構成される転炉設備31を用い、溶銑45に対して先ず脱燐処理を施し、次いで、脱炭精錬を施し、高炉から出銑された溶銑から溶鋼を製造する。この脱燐処理及び脱炭精錬は、上記の第1の形態例と同様に行うものであり、その説明は省略する。
以上説明したように、本発明によれば、溶銑に予備処理として行う転炉での脱燐処理、及び、この脱燐処理の施された溶銑の転炉での脱炭精錬において、精錬剤として使用する粉体を上吹きランスの先端下方に形成される火炎によって加熱し、火炎の熱を粉体を介して溶銑に着熱させるので、溶銑の温度が上昇し、溶銑の脱燐処理及び脱炭精錬における鉄スクラップなどの冷鉄源の配合比率を高めることが可能となり、それにより、CO2の排出量を従来に比較して大幅に低減することが実現される。
5重管構造の上吹きランス3を備えた、図1に示す炉容量が250トン規模の転炉設備1を用い、高炉から出銑された溶銑(「高炉溶銑」ともいう)に対して、本発明を適用して脱燐処理、及び、脱炭精錬を実施し、溶銑から溶鋼を製造する試験操業を50ヒート行った。上吹きランス3から吹き込む粉体としては、脱燐処理及び脱炭精錬ともに、粒径が100〜300μmの生石灰と酸化鉄との混合物(80質量%生石灰−20質量%酸化鉄)を使用し、燃料としてはプロパンガスを使用し、底吹きの攪拌用ガスとしてはArガスを使用した。また、比較のために、以下の3つの比較例を行った。
比較例1:図2に示す5重管構造の上吹きランス3を使用し、中心孔19から燃料としてプロパンガスを吹き込み、その周囲の燃料噴射孔20からプロパンガス燃焼用の酸素ガスを吹き込み、周囲孔21から精錬用酸素ガスを搬送用ガスとして精錬用酸素ガスとともに粉体(80質量%生石灰−20質量%酸化鉄)を吹き込んで脱燐処理及び脱炭精錬を行った。
比較例2:図4に示す6重管構造の上吹きランス33を使用し、中心孔50から窒素ガスを搬送用ガスとして粉体(80質量%生石灰−20質量%酸化鉄)を吹き込み、燃料噴射孔51から燃料としてプロパンガスを吹き込み、燃焼用酸化性ガス噴射孔52からプロパンガス燃焼用の酸素ガスを吹き込み、周囲孔53から精錬用酸素ガスを吹き込んで脱燐処理及び脱炭精錬を行った。
比較例3:図4に示す6重管構造の上吹きランス33を使用し、中心孔50からArガスを搬送用ガスとして粉体(80質量%生石灰−20質量%酸化鉄)を吹き込み、燃料噴射孔51から燃料としてプロパンガスを吹き込み、燃焼用酸化性ガス噴射孔52からプロパンガス燃焼用の酸素ガスを吹き込み、周囲孔53から精錬用酸素ガスを吹き込んで脱燐処理及び脱炭精錬を行った。
比較例1〜3も、それぞれ50ヒートずつ行った。表2に、本発明例及び比較例1〜3における脱燐処理及び脱炭精錬における処理前の溶銑温度及び溶銑成分を示す。
また、表3に、本発明例及び比較例1〜3における脱燐処理及び脱炭精錬における精錬条件を示す。
表4に、燃料の燃焼熱による脱燐処理及び脱炭精錬における熱量付与分を熱量銑配換算で示す。熱量銑配換算が高いほど火炎の熱の溶銑への着熱量が高いことを示している。具体的には、熱量銑配換算が1.0%上昇することで、冷鉄源の配合比率を、粉体を加熱しない場合に比較して、1.0%上昇させることができることを示している。比較例1に比べて、比較例2、3及び本発明例では大幅に着熱量が増加していることがわかった。また、比較例2、3に比べて本発明例では更に着熱量が高い結果となっていた。これは表1に示す試験結果と同様に、粉体温度の差によるものである。尚、燃料の供給量を増加すれば、熱量銑配換算が増加することを確認している。
また、表4に、脱燐処理及び脱炭精錬における処理後の溶銑中及び溶鋼中の燐濃度を示す。本発明例では、溶銑の脱燐処理においては中心孔からの粉体搬送用ガスとして酸素ガスを使用することにより、脱燐処理後の溶銑中燐濃度が低位安定していた。また、脱炭精錬においても、処理後の溶鋼中燐濃度に及ぼす搬送用ガスによる影響が確認された。不活性ガスを粉体搬送用ガスとして使用することは、コストアップとなる。特に、Arガスはコストアップが顕著である。それに対して、搬送用ガスとして酸素ガスを使用する本発明例では、酸素ガスは燃料燃焼用酸素ガスと精錬用酸素ガスとを兼ねるので、コストアップが生じない。表4では、溶銑及び溶鋼をまとめて「溶鉄」と表示している。
本発明によれば、精錬用の粉体を中心孔から供給し、その周囲にバーナー孔(燃料、燃焼用酸素)を配置することにより、バーナーによって形成される火炎によって効率良く粉体を加熱させながら、溶銑に供給が可能である。また、中心孔からの粉体搬送用ガスを酸素ガスとするので、溶銑の脱燐処理においては脱燐反応の促進、脱炭精錬においては精錬コスト低減が可能となった。その結果、脱燐処理及び脱炭精錬での製造コストの削減が可能になり、省資源、省エネルギーが達成されるとともに、転炉操業の安定化が図れ、工業上有益な効果がもたらされる。