JP2007077472A - 成形性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 Si:0.1〜2.5%、Mg:0.1〜3.0%を含み、残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金板であって、このアルミニウム合金板の打ち抜き試験によって設けた円形穴壁面のせん断面率が50%以上であるとともに、1 μm 以上のMg-Si 系化合物の面積率が0.15%以下であり、更に、このアルミニウム合金板の耐力が135MPa以上であることとし、伸びフランジ性などの成形性に優れたものとする。
【選択図】 図1
Description
本発明で言うアルミニウム合金板とは、冷延板を溶体化処理した後のアルミニウム合金板を言う。また、以下、アルミニウムを単にAlとも言う。
上記打ち抜き試験は、厚さ1mm のアルミニウム合金板に対して、ポンチ:径10.0mmφ- 肩R8mm、ダイス:径10.2mmφ- 肩R8mmのプレスを用いて円形の穴をあける。
上記せん断面率は、上記円形穴壁面の内、圧延方向に対して45°方向部分の壁面を100 倍の光学顕微鏡により写真撮影し、この写真上の任意の5 点の板厚方向に平行なせん断面の長さl を各々測定して、せん断面率= (せん断面長さl/板厚t)×100(%) により算出する各せん断面率を平均化する。
上記打ち抜き試験は、厚さ1mm のアルミニウム合金板に対して、ポンチ:径10.0mmφ- 肩R8mm、ダイス:径10.2mmφ- 肩R8mmのプレスを用いて円形の穴をあける。
上記せん断面率は、上記円形穴壁面の内、圧延方向に対して45°方向部分の壁面を100 倍の光学顕微鏡により写真撮影し、この写真上の任意の5 点の板厚方向に平行なせん断面の長さl を各々測定して、せん断面率= (せん断面長さl/板厚t)×100(%) により算出する各せん断面率を平均化する。
先ず、本発明が対象とする6000系Al合金板の化学成分組成について説明する。本発明が対象とする6000系Al合金板は、前記した自動車材などとして、優れた成形性やBH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求される。このような要求を満足するために、Al合金板の基本組成は、質量% で、Si:0.1〜2.5%、Mg:0.1〜3.0%を含み、残部がAlおよび不純物からなるものとする。
Si:0.1〜2.5%。
SiはMgとともに、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記低温での人工時効処理時に、GPゾーンなどの化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車パネルとして必要な、例えば170MPa以上の必要強度を得るための必須の元素である。更に、本発明6000系Al合金板にあって、伸びフランジ性及び曲げ性などの諸特性を兼備させるための最重要元素である。
Mgは、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、SiとともにGPゾーンなどの化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとして、例えば170MPa以上の必要強度を得、更に、伸びフランジ性及び曲げ性を得るための必須の元素である。
これらの元素は、スクラップなど溶解原料などから混入しやすい元素であるが、結晶粒の微細化効果もあり、加工性の向上効果もある。但し、含有量が多すぎると、粗大な化合物を形成し、それが破壊の起点として作用するため、却って加工性が劣化する。したがって、各々、上記上限までの含有は許容する。
Cuもスクラップなど溶解原料などから混入しやすい元素であるが、人工時効処理の条件で、Al合金材組織の結晶粒内へのGPIIやβ" 相析出を促進させる効果もある。また、時効処理状態で固溶したCuは成形性を向上させる効果もある。一方、1.0%を越えると、粗大な化合物が増加して破壊の起点になり、伸びフランジ性及び曲げ性を低下させる。また、耐応力腐食割れ性や、塗装後の耐蝕性の内の耐糸さび性、また溶接性を著しく劣化させる。このため、1.0%以下の範囲での含有は許容する。
次ぎに、本発明6000系Al合金板の組織の要件について説明する。
本発明では、6000系Al合金板の組織における1 μm 以上のMg-Si 系化合物の面積率を0.15%以下とする。 1μm 以上の粗大なMg-Si 系化合物を、面積率で0.15%以下に抑制することによって、圧延方向に対して45°方向の均一伸びが向上する。これによって、後述するせん断面率の規定との相乗効果で、耐力が135MPa以上の高強度6000系アルミニウム合金板における伸びフランジ性を60%以上の十分高いレベルに向上させることができる。
本発明におけるMg-Si 系化合物の面積率の測定箇所は板厚方向の直角断面とし、アルミニウム合金板の表面から板厚方向1/4部の任意の点で測定する。即ち、最終焼鈍後の板厚断面の1/4部の任意の点を通り、板表面に平行な面について、500 倍のSEM(Scanning Electron Microscope)を用いて測定する。
本発明では、前記粗大なMg-Si 系化合物を抑制した上で、更に、穴拡げ試験時における打ち抜きによって設けた円形穴壁面のせん断面率を50%以上とすることによって、耐力が135MPa以上の高強度6000系アルミニウム合金板における伸びフランジ性を60%以上の十分高いレベルに向上させる。
本発明では、6000系Al合金板の組織における 1μm 以上の粗大なMg-Si 系化合物を面積率で0.15%以下に抑制することによって、圧延方向に対して45°方向の均一伸びを向上させる。
本発明では 6000 系アルミニウム合金板において、伸びフランジ性を向上させるために、更に、板の r値 (ランクフォード値) の異方性を抑制することが好ましい。但し、板のr 値の異方性 (ランクフォード値の異方性) が小さくなり過ぎると、却って曲げ性が低下するので、r0とr90 に対するr45 の異方性を示す指標であるΔrを0.2 〜0.6 の範囲とすることが好ましい。
なお、曲げ加工性を保証するためには、前記各r値に対し、(r0 +2×r45+r90)/4で表されるr値の平均値が0.5 以上とすることが好ましい。 r値の平均値が0.50より小さいと、r 値が小さくなり過ぎ、曲げ加工性を保証できない可能性がある。言い換えると、伸びフランジ性と曲げ加工性とを兼備できない可能性がある。したがって、好ましくは、r 値の平均値は0.50以上とする。
r=ln(W0/W)/ln(t0/t)。ここで、W0、t0:引張試験前の幅及び厚さ、W 、t :15% 引張後の幅及び厚さ。
Al合金板の平均結晶粒径は50μm 以下の微細化させることが好ましい。結晶粒径をこの範囲に細かく乃至小さくすることによって、伸びフランジ性及び曲げ性、あるいはプレス成形性が確保乃至向上される。結晶粒径が50μm を越えて粗大化した場合、伸びフランジ性及び曲げ性、あるいはプレス成形性が著しく低下する可能性が高い。
次ぎに、本発明Al合金板の製造条件について以下に説明する。通常のAl合金板は鋳造→均質化熱処理→熱間圧延→中間焼鈍→冷間圧延→最終焼鈍の各工程を経て製造される。しかし、Al合金板の化学組成や各工程の設定条件によって得られる板の、粗大な再結晶粒や粒界における析出相の形成状況や、板の異方性の状態は変わるので、一連の製造工程として総合的に条件を選択して決定すべきである。以下に、本発明で意図する、優れた伸びフランジ性及び曲げ性を有するAl合金を確実に得るための好ましい条件について説明する。
このAl合金鋳塊に500 ℃以上融点未満の温度で均質化熱処理を施す。この均質化熱処理は組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。熱処理温度が500℃より低いと鋳塊の粒内偏析を十分になくすことができず、これが破壊の起点として作用するため、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する。また、熱処理時間は、鋳塊の厚みにもよるが、2hr 以上とすることが好ましい。2hr より低いと鋳塊の粒内偏析を十分になくすことができず、これが破壊の起点として作用するため、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する可能性がある。
これらの均質化熱処理後に、390 〜480 ℃の温度で熱間圧延を開始する。熱間圧延開始温度が480 ℃を超えた場合、再結晶が生じて熱間圧延時に粗大な再結晶粒が生成し、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する。また、熱間圧延開始温度が390 ℃未満の場合、熱間圧延自体が困難となる。
この熱延板を、冷間圧延前に、470 ℃以上の温度で焼鈍 (荒鈍) を施した後に、100 ℃/s以上の速度で冷却する処理を行なう。荒鈍温度が470 ℃より低いと、粒界における析出相の形成が促進され、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する。また、上記冷却速度が100 ℃/sより小さいと、冷却過程で粒界における析出相の形成が促進され、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する。
この荒鈍後に、引き続き冷間圧延を行なって、所望の板厚の冷延板 (コイルも含む) を製作する。
冷延後の板は、調質処理として、必須に溶体化および焼入れ処理されてAl合金板とされる。この溶体化および焼入れ処理は、6000系Al合金板の組織における1 μm 以上のMg-Si 系化合物の面積率を0.15%以下とし、更に、穴拡げ試験時のせん断面率を50%以上とするために重要な工程である。また、塗装焼き付け硬化処理などの人工時効硬化処理によりGPゾーンなどの化合物相を十分粒内に析出させるためにも重要な工程である。
これら調質処理後の各最終製品板から供試板 (ブランク) を切り出し、前記調質処理後 3カ月間 (90日間) の室温時効後の各供試板の特性要件として、1 μm 以上のMg-Si 系化合物の面積率(%) 、打ち抜き試験における円形穴壁面のせん断面率(%) を、前記した測定方法により各々測定した。
供試板の成形性として、伸びフランジ性評価のための穴拡げ性(λ)、張出し成形性評価のための割れ限界高さ(LDH0)および限界絞り比(LDR )、曲げ性を各々試験した。これらの結果を表3 に示す。
λ=(d s -d0)/d0 ×100(%)
破断後の穴内径については、圧延方向と、圧延方向に垂直な方向でそれぞれ測定し、穴拡げ率を各々求めた後に平均を取って、各サンプルの穴拡げ率とした。さらに、各サンプルについて3回の穴拡げ試験を行い、その平均値を最終的に穴拡げ率(λ:%)とした。
そして、深絞り成形できない成形限界ブランク径を決定し、次の式により限界絞り比を算出した。限界絞り比=成形限界ブランク径/ ポンチ径。限界絞り比が大きいほど、深絞り成形性に優れている事を意味し、例えば自動車用成形パネルに要求される深絞り成形性を満足するためには、1.8 以上であればよい。
0:肌荒れ、及び微小な割れが無い。
1:肌荒れが僅かに発生している。
2:肌荒れが発生しているものの微小なものを含めた割れは無い。
3:微小な割れが発生。
4:大きな割れが発生。
5:大きな割れが複数あるいは多数発生。
上記のランクの内、0〜2段階が合格で、3〜5段階は不合格である。
比較例10は1 回目の均熱処理の温度が低過ぎる。
比較例11は1 回目の均熱処理の時間が短過ぎる。
比較例12は1 回のみの均熱処理であり、かつ、熱延開始温度が高過ぎる。
比較例13は2 回目の均熱処理の温度が低過ぎることに加えて、熱延開始温度が低過ぎる。
比較例14は2 回目の均熱処理の温度が高過ぎる。
比較例15は2 回目の均熱処理の時間が短過ぎる。
比較例16は2 回目の均熱処理の時間が長過ぎる。
比較例18は荒焼後の冷却速度が低過ぎる。
比較例19は溶体化処理温度が低過ぎる。
比較例20は溶体化処理後の冷却速度が小さ過ぎる。
比較例21はMg量が上限を超えて多過ぎる。
比較例22はSi量が上限を超えて多過ぎる。
比較例23はFe量が多過ぎる。
比較例24はCr量が多過ぎる。
比較例25はCu量が多過ぎる。
比較例26、27は、更に1 回のみの均熱処理であり、熱延開始温度および熱延終了温度が高過ぎる。
比較例28、29は荒焼工程自体が無い。
Claims (4)
- 質量% で、Si:0.1〜2.5%、Mg:0.1〜3.0%を含み、残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金板であって、このアルミニウム合金板の下記打ち抜き試験によって設けた円形穴壁面の下記せん断面率が50%以上であるとともに、 1μm 以上のMg-Si 系化合物の面積率が0.15%以下であり、更に、このアルミニウム合金板の耐力が135MPa以上であることを特徴とする、成形性に優れたアルミニウム合金板。
上記打ち抜き試験は、厚さ1mm のアルミニウム合金板に対して、ポンチ:径10.0mmφ- 肩R8mm、ダイス:径10.2mmφ- 肩R8mmのプレスを用いて円形の穴をあける。
上記せん断面率は、上記円形穴壁面の内、圧延方向に対して45°方向部分の壁面を100 倍の光学顕微鏡により写真撮影し、この写真上の任意の5 点の板厚方向に平行なせん断面の長さl を各々測定して、せん断面率= (せん断面長さl/板厚t)×100(%) により算出する各せん断面率を平均化する。 - 前記アルミニウム合金板が、更に、Fe:1.5% 以下、Mn:1.0% 以下、 Cr:0.5%以下、Zr:0.5% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.2% 以下、Zn=1.5% 以下、Cu:1.0% 以下、の群から選択される1 種または2 種以上を含む請求項1に記載の成形性に優れたアルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板がフランジ部を有する成形パネル用である請求項1または2に記載の成形性に優れたアルミニウム合金板。
- 請求項1乃至3のいずれかのアルミニウム合金板を得る方法であって、質量% で、Si:0.1〜2.5%、Mg:0.1〜3.0%を含み、残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金鋳塊を、500 ℃以上、融点未満の温度で均質化熱処理後に、一旦200 ℃以下の温度まで冷却して390 〜480 ℃の温度まで再加熱するか、または390 〜480 ℃の温度まで冷却し、いずれもこの温度範囲で保持後に熱間圧延を開始するとともに、熱間圧延の終了温度を170 〜300 ℃として熱延板を製作し、更に、この熱延板を470℃以上の温度で焼鈍を施した後に、100℃/s以上の速度で冷却する処理を行なった後に、冷間圧延を行なって冷延板を製作し、この冷延板を560℃以上の温度で溶体化処理および焼入れ処理し、この処理後のアルミニウム合金板の下記打ち抜き試験によって設けた円形穴壁面の下記せん断面率を50%以上とするとともに、 1μm 以上のMg-Si 系化合物の面積率を0.15%以下とし、更に、このアルミニウム合金板の耐力を135MPa以上とすることを特徴とする、成形性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
上記打ち抜き試験は、厚さ1mm のアルミニウム合金板に対して、ポンチ:径10.0mmφ- 肩R8mm、ダイス:径10.2mmφ- 肩R8mmのプレスを用いて円形の穴をあける。
上記せん断面率は、上記円形穴壁面の内、圧延方向に対して45°方向部分の壁面を100 倍の光学顕微鏡により写真撮影し、この写真上の任意の5 点の板厚方向に平行なせん断面の長さl を各々測定して、せん断面率= (せん断面長さl/板厚t)×100(%) により算出する各せん断面率を平均化する。
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