JP3838504B2 - パネル成形用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

パネル成形用アルミニウム合金板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、パネル成形に好適なAl-Mg-Si系アルミニウム合金板(以下、アルミニウムをAlとも言う)およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、自動車、船舶あるいは車両などの輸送機、家電製品、建築、構造物のパネル構造体 (パネル材) として、パネル成形性に優れたAl-Mg 系のAA乃至JIS 規格でいう5000系や、成形性や焼付硬化性に優れたAl-Mg-Si系のAA乃至JIS 規格でいう 6000 系 (以下、単に5000系乃至6000系と言う) のAl合金板が使用されている。
【0003】
これらのAl合金の中でも過剰Si型6000系Al合金板は、前記パネル材として適している。即ち、パネルへのプレス成形や曲げ加工時には、低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できる時効硬化能がある。これら過剰Si型6000系Al合金板は基本的には、Si、Mgを必須として含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金である。
【0004】
また、これら過剰Si型6000系Al合金板は、合金元素量が多い他のAl合金に比して、合金元素量が比較的少ない。このため、これら6000系Al合金材のスクラップを、Al合金溶解材 (溶解原料) として再利用する際に、元の6000系Al合金鋳塊が得やすく、リサイクル性にも優れている。
【0005】
しかし、Al合金板のパネル用途の拡大に応じて、前記Al合金パネルの中には、パネル形状が複雑で、プレス成形などのパネル成形条件が厳しいものも出始めている。このように、パネル成形条件が厳しい場合に、過剰Si型6000系Al合金板をパネルに成形できたとしても、成形後のAl合金パネル表面に肌荒れが生じやすい。また、パネル成形を高温で行なう場合にも肌荒れが生じやすい。この肌荒れが生じたAl合金パネルは、特に、外観が問題となるアウタパネルのような用途では、平滑かつ美麗なAl合金光沢がパネル表面から失われるため、その商品価値が大きく損なわれる。
【0006】
従来から、3003などの3000系Al合金板など、Al合金板のパネル成形時の肌荒れを防止するために、平均結晶粒径を30μm 以下とし、組織中のMg2Si などの金属間化合物を面積率で1.0 〜5.0%析出させることは公知である (例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開2001-181766 号公報
【0008】
また、過剰Si型6000系などのAl合金板では、Mg2Si 金属間化合物などの析出物を微細に析出させて、プレス成形性や曲げ加工性などの基本特性を向上させることが常識であった。例えば、Al合金鋳塊を500 ℃以上の温度で均質化熱処理後に冷却して、350 〜450 ℃の比較的低温で熱延を開始することにより、熱間圧延中の組織の成長を抑制し、かつ粗大なMg2Si 金属間化合物の析出を抑制して、過剰Si型6000系Al合金板のパネルへのプレス成形時に生じる、リジングマークを防止することが公知である (例えば、特許文献2、3参照) 。
【0009】
【特許文献2】
特許第2823797 号公報
【特許文献3】
特開平8 ー232052号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1のように、平均結晶粒径を30μm 以下に微細化することや、組織中のMg2Si などの金属間化合物析出量を例えば面積率で1.0 〜5.0%析出させることは、3000系Al合金板だけではなく、6000系Al合金板などでも、パネル成形時の肌荒れを防止するために、確かに有効である。
【0011】
しかし、実際問題として、過剰Si型6000系Al合金板においては、平均結晶粒径を30μm 以下とすることは、非常に難しい。通常の過剰Si型6000系Al合金板の製造方法では、上記のように、組織中のMg2Si などの金属間化合物の析出量を制御しても、溶体化および焼き入れ処理後の平均結晶粒径を30μm 以下と微細化させることが困難である。
【0012】
本発明者らの知見によれば、前記特許文献1のような通常のAl合金板の製造方法や、前記特許文献2、3のような500 ℃以上の均質化熱処理後に冷却して350 〜450 ℃の比較的低温で熱延を開始する製造方法の場合、熱延板の状態では、粗大なMg2Si 金属間化合物の析出が抑制される。したがって、熱延板の状態では、組織中に析出したMg2Si 金属間化合物は、総じて平均粒径が1.0 μm 未満の細かいものとなる。そして、このような細かいMg2Si 金属間化合物が熱延板の状態で析出した場合、続く冷間圧延、溶体化および焼き入れ処理後のAl合金板の平均結晶粒径を30μm 以下、まして20μm 以下と微細化させることは困難である。
【0013】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、溶体化および焼き入れ処理後の平均結晶粒径を更に20μm 以下と微細化させて、300 ℃以上の高温でのパネル成形時の肌荒れを防止した過剰Si型6000系Al合金板およびその製造方法を提供しようとするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明300 ℃以上の高温でのパネル成形用アルミニウム合金板の要旨は、Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上であり、残部が Al および不可避的不純物であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金板であって、熱延板の段階で組織中に平均粒径が1.0 μm 以上の粗大なMg2Si 金属間化合物が面積率で1mm2当たり0.6%以上析出しており、その後の溶体化焼き入れ処理後の平均結晶粒径が20μm 以下であることとする。
【0015】
また、この目的を達成するための、本発明300 ℃以上の高温でのパネル成形用アルミニウム合金板の製造方法の要旨は、Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上であり、残部が Al および不可避的不純物であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金鋳塊を、500 ℃以上の温度で均質化熱処理後に一旦室温まで冷却し、その後350 〜470 ℃の温度に再加熱して圧延を開始し、熱間圧延終了後のアルミニウム合金板組織中に平均粒径が1.0 μm 以上の粗大なMg2Si 金属間化合物を面積率で1mm2当たり0.6%以上析出させるとともに、溶体化および焼き入れ処理後のアルミニウム合金板の平均結晶粒径を20μm 以下としたことである。
【0016】
前記した通り、本発明者らの知見によれば、過剰Si型6000系Al合金において、従来のように、熱延板の状態で、粗大なMg2Si 金属間化合物の析出を抑制し、組織中に平均粒径が1.0 μm 未満の細かいMg2Si 金属間化合物を析出させると、続く冷間圧延、溶体化および焼き入れ処理後のAl合金板の平均結晶粒径を、30μm 以下にも、まして20μm 以下にも、微細化させることは非常に困難である。
【0017】
このため、本発明では、逆に、熱延板の状態 (段階) で、一定以上に粗大なMg2Si 金属間化合物を一定量積極的乃至意図的に析出させる。この粗大なMg2Si 金属間化合物は、前記特許文献2、3にも記載されている通り、過剰Si型6000系Al合金においては、溶体化処理で固溶しにくく、成形性低下の原因として、通常は排除されているものである。しかし、熱延板の状態で、言い換えると、溶体化処理前の板の状態で、この粗大なMg2Si 金属間化合物を一定量積極的に析出させた場合、溶体化および焼き入れ処理時の再結晶挙動が異なり、却って、再結晶集合組織がより微細化される。即ち、この粗大なMg2Si 金属間化合物は、再結晶の核となり、更に、結晶粒成長に対する言わばピン止め効果を発揮して、再結晶した結晶粒の粗大化を抑制し、結晶粒を微細化させる。この効果は、溶体化処理前の板の状態で、Mg2Si 金属間化合物が粗大であるほど大きく、逆に、微細であるほど、この効果は小さい。
【0018】
なお、本発明で言うAl合金板とは、熱延 (熱間圧延上がり) 板、冷延 (冷間圧延上がり) 板などの、溶体化および焼き入れ処理前の状態の板や、これらを溶体化および焼き入れ処理された板のことを言う。また、この溶体化および焼き入れ処理後任意の熱処理、例えば、後述する予備時効処理や、更に必要により施す時効処理などの種々の調質処理を施された板を含む。更に、この溶体化および焼き入れ処理は、パネル成形前に行うものであっても、パネル成形後に行うものであっても、高温成形のように、パネル成形と同時に行うものであっても良い。そして、本発明で言うAl合金板とは、板、コイル、切り板、などの適宜の形状状態を含む。
【0019】
また、本発明で言うパネル成形は300 ℃以上の高温での成形である
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明では、パネル成形用アルミニウム合金板を、熱延板の状態で、組織中に平均粒径が1.0 μm 以上の粗大なMg2Si 金属間化合物を面積率で1mm2当たり0.6%以上析出させる。熱延板の状態で析出させるMg2Si 金属間化合物の大きさと数とは、前記結晶粒微細化効果発揮のために重要な因子である。この点、Mg2Si 金属間化合物の大きさが、平均粒径で1.0 μm 未満では、前記従来の技術と同様となり、溶体化および焼き入れ処理後のAl合金板の平均結晶粒径を20μm 以下に微細化できない。また、粗大なMg2Si 金属間化合物であっても、その数が面積率で1mm2当たり0.6%未満では、同じく、溶体化および焼き入れ処理後のAl合金板の平均結晶粒径を20μm 以下に微細化できない。
【0021】
熱延板の状態で、このような本発明Mg2Si 金属間化合物の析出状態とするためには、過剰Si型6000系Al合金鋳塊を、500 ℃以上の温度で均質化熱処理後に、一旦室温まで冷却し、その後350 〜470 ℃、好ましくは350 〜450 ℃の温度に再加熱して、この比較的低い温度範囲で熱間圧延を開始する必要がある。言い換えると、実際の板の量産的な製造方法では、このような製造方法と条件を採用して、積極的乃至意図的に析出させない限り、上記一定以上に粗大なMg2Si 金属間化合物を一定量、言い換えると、結晶粒の微細化に効果のあるMg2Si 金属間化合物を、熱延板組織中に析出できない。
【0022】
均質化熱処理温度が500 ℃未満では、過剰Si型6000系アルミニウム合金鋳塊の偏析を除去して合金組織を均質化する効果や、Mg2Si 成分の固溶などが十分でなくなる。なお、均質化熱処理温度を、Al合金が溶損するような溶融点以上の高温にする必要は無い。また、均質化熱処理時間は、鋳塊の厚みや均熱炉の熱容量にもよるが、均質化熱処理温度で3 時間以上行うことが好ましい。なお、均質化熱処理温度はバーニング等が生じるような温度に高める必要は無い。
【0023】
この均質化熱処理後に一旦室温まで冷却せずに、350 〜470 ℃の温度に冷却して、この比較的低温の温度で熱延を開始しても、前記特許文献2、3の熱延方法と同じとなり、本発明Mg2Si 金属間化合物の析出状態が得られない。また、熱間圧延開始温度が470 ℃、より厳密には450 ℃を超える比較的高い温度となっても、通常の熱延方法と同じとなり、本発明Mg2Si 金属間化合物の析出状態が得られない。本発明Mg2Si 金属間化合物の析出状態とするためには、均質化熱処理後に一旦室温まで冷却し、その後再加熱して、前記比較的低い温度で熱間圧延を開始する必要がある。一方、熱間圧延の開始温度が350 ℃未満では、熱間圧延自体が困難となる。
【0024】
本発明では、過剰Si型6000系Al合金板を量産的な熱延ラインで圧延することを主として意図する。実験室的な規模で、目的とするAl合金板が得られても、実際の量産的な圧延などの板製造ラインにおいて、目的とするAl合金板が得られる保証が無いからである。この点、実際の熱延ラインは、多くは、リバース式の粗圧延機と、複数の圧延機が直列に配列されるタンデム式の仕上げ圧延機とから構成されて、各々複数のパスからなる圧延が施される。このため、本発明で言う前記熱延開始温度は、前記粗圧延機における熱延開始温度である。
【0025】
この熱間粗圧延に続く熱間仕上げ圧延では、タンデム式の仕上げ圧延機などによって、アルミニウム合金板は、直列に配列される複数の圧延機を通過する間に、複数回のパス (圧延) によって仕上げ圧延される。この熱間仕上げ圧延においては、圧延の終了温度を200 〜300 ℃とすることが好ましい。仕上げ圧延の終了温度が300 ℃を越えた場合、熱間圧延終了時に再結晶が完了乃至進んだ組織となり、熱間圧延板を実質的に加工組織とすることができず、パネル成形時の肌荒れを抑制できない可能性が生じる。一方、仕上げ圧延の終了温度が200 ℃未満では、熱間圧延自体が困難となる。
【0026】
なお、通常の過剰Si型6000系などのAl合金板では、熱延板での粗大なMg2Si 金属間化合物などの析出物を抑制し、溶体化処理後のプレス成形性や曲げ加工性などの基本特性を向上させることが常識である。このため、通常の熱間圧延では、前記した通り、500 ℃以上の均質化熱処理後に速やかに熱間圧延開始して、本発明とは相違して、熱間圧延の開始温度を500 ℃以上の比較的高い温度とする。
【0027】
また、前記特許文献2、3では、本発明のような粗大なMg2Si 金属間化合物の析出を抑制して、過剰Si型6000系Al合金板のパネルへのプレス成形時に生じる、リジングマークを防止する。このため、前記した通り、Al合金鋳塊を500 ℃以上の温度で均質化熱処理後に、本発明とは相違して、350 〜450 ℃の温度まで冷却して、この比較的低温の温度で熱延を開始し、本発明のような粗大なMg2Si 金属間化合物の析出を積極的に抑制する。
【0028】
本発明のように、パネル成形用アルミニウム合金板を、熱延板の状態で、組織中に平均粒径が1.0 μm 以上の粗大なMg2Si 金属間化合物を面積率で1mm2当たり0.6%以上析出させた場合、その後の冷間圧延、溶体化処理後に、前記結晶粒微細化効果により、パネル成形性、特に、自動車のアウタパネルに要求される張出や、自動車のインナパネルに要求される絞りなどのプレス成形性や、曲げ加工性、特に自動車のアウタパネルに要求されるフラットヘムなどのヘミング加工性を高めることができる。
【0029】
本発明における、Mg2Si 金属間化合物の面積率の測定、算出方法を、以下に説明する。先ず、熱延板から採取した試験片表面 (熱延板表面) を、1000倍の倍率で走査型電子顕微鏡(SEM) にて撮影する。そして、この撮影した画面 (観察画面) の面積に対するMg2Si 金属間化合物(Al-Fe-Mn 系など他の金属間化合物を除く) の面積の割合について、観察画面を画像解析することにより、Mg2Si 金属間化合物の面積率を算出する。そして、この観察画面を1 視野として( 観察画面乃至1 視野当たり0.0108mm2 ) 、試験片表面を合計20視野測定し、1mm2当たりのMg2Si 金属間化合物の面積率に換算する。
【0030】
また、本発明における、平均結晶粒径とは、Al合金板の圧延方向(L方向) の結晶粒の平均粒径である。測定方法は、Al合金板の圧延方向(L方向) と板厚方向 (ST方向) とを含む面を機械研磨した後に電解エッチングした面を、光学顕微鏡を用いて観察し、表面、板厚の1/8 の部分、板厚の2/8 の部分、板厚の3/8 の部分、板厚の4/8 の部分の各部で、前記L 方向に、ラインインターセプト法で測定する。1 測定ライン長さは0.85mmとし、1 視野当たり各5 本で合計5 視野を観察して、結晶粒径を測定して平均化し、平均結晶粒径とする。
【0031】
以下に、前記均質化熱処理や熱間圧延工程以外の本発明における板の製造方法 (工程) につき説明する。先ず、溶解、鋳造工程は、本発明成分規格範囲内に溶解調整されたAl合金溶湯を、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。次いで、このAl合金鋳塊に均質化熱処理を施す。
【0032】
均質化熱処理後の前記した熱間圧延を経て、Al合金板は冷間圧延され、所望の板厚とされる。パネルによって、3.0mm 以上の厚板が必要な場合には、冷間圧延を省略して、Al合金板を熱間圧延上がりとしても良い。
【0033】
過剰Si型6000系などのAl合金板は、この冷延板乃至熱延板を、調質処理として、必須に溶体化および焼入れ処理されて前記した諸特性が発揮される。即ち、溶体化および焼入れ処理は、後の塗装焼き付け硬化処理などの人工時効硬化処理によりGPゾーンなどの化合物相を十分粒内に析出させるために重要な工程である。
【0034】
そして何より、溶体化および焼入れ処理は、本発明では、熱延板など溶体化処理前の板の状態で析出させた、粗大なMg2Si 金属間化合物を再結晶核として再結晶が進行し、かつ再結晶する際の結晶粒成長に対する言わばピン止め効果を発揮して、再結晶した結晶粒の粗大化を抑制させ、溶体化処理後には粗大なMg2Si 金属間化合物を十分固溶させるために重要な工程である。溶体化処理後に粗大なMg2Si 金属間化合物が固溶していない場合、強度や成形性低下の原因ともなる。
【0035】
これらの効果を出すための溶体化処理条件は、500 〜560 ℃の温度範囲で行うのが好ましい。これによって、溶体化処理後のAl合金板の結晶粒を20μm 以下に微細化できる。また、0.2%耐力を140MPaを越える高強度にして、例えば、プレス成形やヘムなどの曲げ加工後の塗装工程などにおける低温短時間の人工時効硬化処理でも0.2%耐力が170MPaを越えるような高強度のパネルとする。溶体化処理温度が500 ℃未満では、上記粗大なMg2Si 金属間化合物の再結晶核やピン止めなどの効果、Mg2Si 金属間化合物の十分な固溶、あるいは、上記結晶粒微細化や高強度化などの効果が発揮されない可能性がある。また、溶体化処理温度は560 ℃を超えた、局部溶融が生じるような高温に高める必要は無い。
【0036】
溶体化処理の昇温 (加熱) 速度は、200 ℃/ 分以上など、できるだけ早い方が結晶粒の微細化のために好ましい。この昇温速度が遅いと結晶粒が粗大に成長して、溶体化処理後のAl合金板の結晶粒を20μm 以下に微細化できなくなる可能性がある。
【0037】
但し、この溶体化および焼き入れ処理は、パネル成形前の冷延板乃至熱延板に行うものであっても、パネル成形後のパネルに行うものであっても、また、高温成形のように、高温でのパネル成形と同時乃至連続的に、この高温を利用して溶体化を行うものであっても良い。
【0038】
溶体化処理後の焼入れ処理の際には、冷却速度は50℃/ 分以上の急冷とすることが好ましい。冷却速度が50℃/ 分未満の遅い場合には、焼入れ後の強度が低くなり、時効硬化能が不足し、前記低温短時間の低温での人工時効処理により170MPa以上の高耐力を確保できない。
【0039】
また、粒界上にSi、MgSiなどが析出しやすくなり、プレス成形やフラットヘム加工時の割れの起点となり易く、これら成形性が低下する。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷でもよいが冷却速度が遅くなる可能性が大きく、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段から選択して行うことが好ましい。
【0040】
本発明では、成形パネルの塗装焼き付け工程などの人工時効硬化処理での時効硬化性を高めるため、溶体化焼入れ処理後のクラスターの生成を抑制し、GPゾーンの析出を促進するために、予備時効処理をしても良い。この予備時効処理は、50〜100 ℃、好ましくは60〜90℃の温度範囲に、1 〜24時間の必要時間保持することが好ましい。また、予備時効処理後の冷却速度は、1 ℃/hr 以下であることが好ましい。
【0041】
この予備時効処理として、溶体化処理後の焼入れ終了温度を50〜100 ℃と高くした後に、直ちに再加熱乃至そのまま保持して行う。あるいは、溶体化処理後常温までの焼入れ処理の後に、直ちに50〜100 ℃に再加熱して行う。
【0042】
また、連続溶体化焼入れ処理の場合には、前記予備時効の温度範囲で焼入れ処理を終了し、そのままの高温でコイルに巻き取るなどして行う。なお、コイルに巻き取る前に再加熱しても、巻き取り後に保温しても良い。また、常温までの焼入れ処理の後に、前記温度範囲に再加熱して高温で巻き取るなどしてもよい。
【0043】
更に、室温時効抑制のために、前記予備時効処理後に、時間的な遅滞無く、比較的低温での熱処理 (人工時効処理) を行い、GPゾーンを更に生成させても良い。前記時間的な遅滞があった場合、予備時効処理後でも、時間の経過とともに室温時効 (自然時効) が生じ、この室温時効が生じた後では、前記比較的低温での熱処理による効果が発揮しにくくなる。なお、用途や必要特性に応じて、更に高温での人工時効処理や安定化処理を行い、より高強度化などを図ることなども勿論可能である。
【0044】
次に、本発明Al合金板の化学成分組成の実施形態につき、以下に説明する。
本発明Al合金板の基本組成は、上記伸びや組織などの規定、また諸特性を確保するために、過剰Si型のAl-Mg-Si系(6000 系)Al 合金とする。
【0045】
パネル成形用としての、成形、パネルに必要な諸特性を確保するために、Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上とした過剰Si型のAl-Mg-Si系Al合金とする。そして、上記組織の規定や諸特性を確保するために、より厳密には、前記規定各成分以外の残部を、Alおよび不可避的不純物とする。なお、本発明での化学成分組成の% 表示は、前記請求項の% 表示も含めて、全て質量% の意味である。
【0046】
上記合金元素以外の、Cr、Zr、Ti、B 、Fe、Zn、Ni、V など、その他の合金元素は、基本的には不純物元素である。しかし、リサイクルの観点から、溶解材として、高純度Al地金だけではなく、6000系合金やその他のAl合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用して、本発明Al合金組成を溶製する場合には、これら他の合金元素は必然的に含まれることとなる。したがって、本発明では、目的とする本発明効果を阻害しない範囲で、これら他の合金元素が含有されることを許容する。
【0047】
各元素の好ましい含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。
Si:0.4〜1.3%。
Siは、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの、前記低温短時間での人工時効処理時に、MgとともにGPゾーンなどの化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとして170MPa以上の必要強度を得るための必須の元素である。したがって、本発明過剰Si型6000系Al合金板にあって、プレス成形性やヘム加工性などのパネル成形性や、パネルとして必要な強度、剛性などの諸特性を兼備させるための最重要元素である。
【0048】
また、低温短時間での人工時効処理時 (パネルへの成形後の塗装焼き付け処理、例えば 170℃×20分の低温時効処理) 時の耐力を170MPa以上という、優れた低温時効硬化能を発揮させるためにも、Si/Mg を質量比で1.0 以上とし、SiをMgに対し過剰に含有させた過剰Si型6000系Al合金組成とすることが好ましい。
【0049】
Si量が0.4%未満では、前記時効硬化能、更には、各用途に要求される、パネル成形性やパネルとしての諸特性を兼備することができない。一方、Siが1.3%を越えて含有されると、特にヘム加工性や曲げ加工性が著しく阻害される。更に、溶接性を著しく阻害する。したがって、Siは0.4 〜1.3%の範囲とする。
【0050】
Mg:0.2〜1.2%。
Mgは、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、SiとともにGPゾーンなどの化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとしての170MPa以上の必要強度を得るための必須の元素である。
【0051】
Mgの0.2%未満 (質量% 、以下同じ) の含有では、絶対量が不足するため、人工時効処理時に前記化合物相を形成できず、時効硬化能を発揮できない。このためパネルとして必要な前記必要強度が得られない。
【0052】
一方、Mgが1.2%を越えて含有されると、プレス成形性や曲げ加工性 (ヘム加工性) 等の成形性が著しく阻害される。したがって、Mgの含有量は、0.2 〜1.2%の範囲で、かつSi/Mg が1.0 以上となるような量とする。
【0053】
Cu:0.001〜1.0%
Cuは、本発明の比較的低温短時間の人工時効処理の条件で、Al合金材組織の結晶粒内へのGPゾーンなどの化合物相の析出を促進させる効果がある。また、時効処理状態で固溶したCuは成形性を向上させる効果もある。Cu含有量が0.001%未満ではこの効果がない。一方、1.0%を越えると、耐応力腐食割れ性や、塗装後の耐蝕性の内の耐糸さび性、また溶接性を著しく劣化させる。このため、耐食性が重視される構造材用途などの場合には0.8%以下、自動車外板用などのパネル用途などの場合には、耐糸さび性の発現が顕著となる0.1%以下の量とすることが好ましい。
【0054】
Mn:0.01 〜0.65%
Mnには、均質化熱処理時に分散粒子 (分散相) を生成し、これらの分散粒子には再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒を得ることができる効果がある。前記した通り、本発明Al合金板のプレス成形性やヘムなどの曲げ加工性は、Al合金組織の結晶粒が微細なほど向上する。この点、Mn含有量が0.01% 未満ではこれらの効果が無い。
【0055】
一方、Mn含有量が多くなった場合、溶解、鋳造時に粗大なAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系の金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり易いため、Al合金板の機械的性質を低下させる原因となる。また、特に、加工条件が厳しくなったフラットヘムなどの曲げ加工では、Mn含有量が0.65% を越えた場合、曲げ加工性が低下する。このため、Mnは0.01〜0.65% の範囲とする。
【0056】
Cr 、Zr。
これらCr、Zrの遷移元素には、Mnと同様、均質化熱処理時に分散粒子 (分散相) を生成し、微細な結晶粒を得ることができる効果がある。しかし、Cr、Zrも、0.15% を越える含有では、前記加工条件が厳しくなったフラットヘム加工ではヘム加工性が低下する。したがって、Cr、Zrの含有量も、0.20% 以下に規制することが好ましい。
【0057】
Ti 、B 。
Ti、B は、Ti:0.1% 、B:300ppmを各々越えて含有すると、粗大な晶出物を形成し、成形性を低下させる。但し、Ti、B には微量の含有で、鋳塊の結晶粒を微細化し、プレス成形性を向上させる効果もある。したがって、Ti:0.1% 以下、B:300ppm以下までの含有は許容する。
【0058】
Fe。
溶解原料から混入して、不純物として含まれるFeは、Al7Cu2Fe、Al12(Fe,Mn)3Cu2 、(Fe,Mn)Al6などの晶出物を生成する。これらの晶出物は再結晶粒の核となり、Feが0.08% 以上含まれた場合に、結晶粒の粗大化を阻止して、結晶粒を50μm 以下の微細粒とする役割を果たす。しかし、一方で、これらの晶出物は、破壊靱性および疲労特性、更には、前記加工条件が厳しくなった曲げ加工性およびプレス成形性を著しく劣化させる。これらの劣化特性は、Feの含有量が0.50% を越えると顕著になる。このため、含有させる場合のFeの含有量は0.50% 以下のできるだけ少量とすることが好ましい。
【0059】
Zn。
Znは0.5%を越えて含有されると、耐蝕性が顕著に低下する。したがって、Znの含有量は0.5%以下のできるだけ少量とすることが好ましい。
【0060】
【実施例】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、以下に実施例は実機の板製造ラインを用いて行なった。表1 に示すA 、B 、2 種類の本発明範囲内の過剰Si型の6000系のAl合金鋳塊をDC鋳造法にて溶製し、面削後に470mmtの厚みとして、昇温速度40°/hr にて加熱して540 ℃×4 時間の均質化熱処理後、表2 に示す各熱間圧延条件で、特に、均質化熱処理後の特定温度までの冷却と、再加熱、そして熱間粗圧延における開始温度を種々変えて熱間圧延した。
【0061】
なお、表2 において本発明例1 〜5 は全て均質化熱処理後に室温(25 ℃〜35℃) まで冷却して、その後、表2 に記載した温度( ℃) に、記載した時間(hr)、再加熱し、その温度で、熱間粗圧延を開始した。これに対し、比較例6 、7 は本発明例と同じく、均質化熱処理後に室温(25 ℃〜35℃) まで冷却して、その後、表2 に記載した比較的高い温度( ℃) に、記載した時間(hr)、再加熱し、その温度で、熱間粗圧延を開始した。比較例8 、9 は、本発明例と違い、均質化熱処理後に比較的高い温度に冷却して、再加熱なしに、その温度で熱間粗圧延を開始した。比較例10は、常法であり、均質化熱処理後の冷却や再加熱なしに、均質化熱処理後に、その温度で熱間粗圧延を開始した。なお、均質化熱処理後の冷却あるいは再加熱の際の、冷却速度あるいは昇温速度は、いずれも40°/hr とした。
【0062】
熱間粗圧延は、リバース式粗圧延機を用いて、5 回のリバース式パスによって粗圧延した。また、続く熱間仕上げ圧延では、量産に用いる4 段4 タンデム式の仕上げ圧延機列を用いて(4回のパスによって) 仕上げ圧延して、5mm 板厚の熱延板としてコイル化した。
【0063】
これら熱間仕上げ圧延上がりの状態で、各々複数の試験片を採取し、ST方向断面のミクロ組織を1000倍のSEM にて観察した。そして、加工組織 (未再結晶組織) 主体の組織か、再結晶粒組織主体の組織かを判別した。表2 には、均一な加工組織も、再結晶粒組織が混在するが加工組織主体の組織も加工組織として記載する。同様に、均一な再結晶粒組織も、加工組織が混在するが再結晶粒組織主体の組織も再結晶粒組織として記載する。
【0064】
更に、この熱延板の状態での、熱延板表面組織中に析出したMg2Si 金属間化合物の、平均粒径 (μm)と、面積率(%) を前記した測定方法で算出した。これらの結果を表3 に示す。
【0065】
その後、各熱間圧延板 (コイル) を冷間圧延し、共通して厚さ1.0mm のAl合金冷延板 (コイル) を作成した。
【0066】
更に、上記各冷延板 (冷延コイルから採取) を以下の同じ条件で調質処理した。先ず、上記冷延板を570 ℃に保持した空気炉に投入し、各試験片が550 ℃の溶体化処理温度に到達した時点で10秒保持し、80℃の温水に焼き入れする処理を行った。前記焼入れ処理の際の冷却速度は200 ℃/ 秒とし、焼入れ終了温度 (焼入れ温度) は共通して80℃とし、焼入れ後にこの温度で2 時間保持する予備時効処理 (保持後は冷却速度0.6 ℃/hr で徐冷) を行った。
【0067】
これら調質処理後の各Al合金板から試験用の幅500mm ×長さ500mm の供試板 (ブランク) を複数枚切り出し、調質処理後に十分室温時効したAl合金板がプレス成形されることを想定して、前記調質処理後 4カ月間 (120 日間) の室温時効後の、各供試板の平均結晶粒径、圧延方向に対し0 °、45°、90°の各方向の平均のAS耐力 (σ0.2 、MPa)および伸び (δ、%)を測定した。これらの結果を表3 に示す。供試板の平均結晶粒径は前記した測定方法による。
【0068】
なお、耐力、伸び測定のための引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行った。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
【0069】
また、前記室温時効した供試板を、自動車パネルとしてプレス成形されることを模擬して、室温と300 ℃の高温での張出成形試験を各々行い、張出成形性と成形後の肌荒れ性を各々評価した。これらの結果を表3 に示す。
【0070】
室温での張出成形試験の条件は、前記供試板 (ブランク) を、中央部に一辺が300mm で高さが30mmと高い角筒状の張出部と、この張出部の四周囲に平坦なフランジ部 (幅30mm) を有するハット型のパネルに、メカプレスにより、ビード付き金型を用いて張出成形した。しわ押さえ力は49kN、潤滑油は一般防錆油、成形速度は20mm/ 分の同じ条件で3 回行い、3 回とも成形ハット型パネルの張出部角部などに割れがなく正常に成形できた例を〇、少なくとも1 回は割れが生じて成形できなかったものを×として評価した。
【0071】
300 ℃での張出成形試験は、前記供試板 (Φ300mm の円形ブランク) を300 ℃に加熱した後、Φ200mm 球頭ポンチにより、成形速度1mm/sec 、無潤滑および材料流入が無いしわ押さえ、などの条件で張出成形を行い、成形品の肌荒れ性の評価を行なった。
【0072】
成形品の肌荒れ性の評価は、上記室温および300 ℃での張出成形試験の、各々の成形品表面の外観を目視観察し、前記3 回(3個) の成形品表面に、3 個とも全て肌荒れが生じていないものを〇、1 個でも著しい肌荒れが生じているものを×と評価した。なお、著しい肌荒れではないが、軽い研削等の手入れで除去可能な軽度の肌荒れが1 個以上生じているものは△と評価した。
【0073】
更に、人工時効処理能を調査するため、前記プレス成形された成形品から供試板を採取して、170 ℃×20分の低温短時間の人工時効硬化処理し、処理後の各供試板の前記平均の耐力 (ABσ0.2 、MPa)を測定した。これらの結果も表3 に示す。
【0074】
表2 、3 から明らかな通り、本発明組成範囲内である過剰Si型6000系Al合金鋳塊を、500 ℃以上の温度で均質化熱処理後に一旦室温まで冷却し、その後350 〜470 ℃の温度に再加熱して、この比較的低い温度で熱間圧延を開始した発明例1 〜5 は、熱間圧延終了後のAl合金熱延板組織中に、平均粒径が1.0 μm 以上の粗大なMg2Si 金属間化合物が面積率で1mm2当たり0.6%以上析出している。この結果、続く冷間圧延および溶体化焼き入れ処理後の平均結晶粒径を20μm 以下の微細な結晶粒とすることができている。
【0075】
このような発明例1 〜5 は、前記 4カ月間 (120 日間) の室温時効後でも、張出成形性に優れ(300℃での張出成形性も含め) 、上記室温および300 ℃の高温での張出成形試験の成形品に、肌荒れが生じておらず、室温および高温での成形品の表面性状は著しく優れている。また、人工時効硬化処理後のAB耐力も190MPa以上と高く、時効硬化性などの特性にも優れている。
【0076】
発明例1 〜5 の前記張出成形の試験条件と評価は、自動車アウタパネルなどの大型パネルなど、実際のより厳しい加工条件での張出成形性の評価につながるものである。したがって、発明例1 〜5 は、実際の張出成形や絞り成形などのプレス成形で、張出高さや張出面積などが大型化しても、張出成形性が優れ、十分加工できることを示している。また、特に、300 ℃以上などの高温での成形では室温成形よりも、成形品に著しく肌荒れ性が生じやすい。このため、平均結晶粒径を20μm 以下に微細化させた発明例1 〜5 が、高温成形における成形品の肌荒れを抑制したことの意義は大きい。
【0077】
なお、仕上げ圧延の終了温度が290 ℃の発明例3 の場合、熱間圧延終了時に再結晶化が進んだ組織となり、実質的に加工組織とすることができず、プレス成形時の肌荒れが若干生じており、他の実質的に加工組織となっている発明例に比して、若干肌荒れ性が劣っている。
【0078】
これに対し、比較例6 、7 は本発明例と同じく、均質化熱処理後に室温(25 ℃〜35℃) まで冷却しているものの、その後の再加熱温度と、熱間粗圧延開始温度が高過ぎ、熱間圧延終了後のAl合金熱延板組織中のMg2Si 金属間化合物が (平均粒径が)1.0μm 未満と小さく、その面積率も0.6%未満と小さい。この結果、続く冷間圧延および溶体化焼き入れ処理後の平均結晶粒径が20μm を超えて、比較的大きくなっている。このレベルでも一応微細な結晶粒であるので、張出成形は可能であり、人工時効硬化処理後のAB耐力も190MPa以上と高いものの、上記室温および300 ℃の高温での張出成形試験での成形品に肌荒れが生じており、成形品の表面性状は発明例に比して劣っている。
【0079】
この点は、均質化熱処理後に比較的高い温度に冷却して、再加熱なしに、その温度で熱間粗圧延を開始した比較例8 、9 や、常法であり、均質化熱処理後の冷却や再加熱なしに、均質化熱処理後に、その温度で熱間粗圧延を開始した比較例10も同様である。これら比較例6 、7 、8 、9 の平均結晶粒径は、通常は微細結晶粒とされる22〜26μm 程度である。にもかかわらず、発明例1 〜5 の20μm 以下の微細結晶粒に比して、大型パネル成形時における上記室温および300 ℃の高温での肌荒れ性が劣っており、大型パネル成形時や高温成形時などにおける、平均結晶粒径が20μm 以下であることの臨界的な意義が分かる。
【0080】
【表1】
Figure 0003838504
【0081】
【表2】
Figure 0003838504
【0082】
【表3】
Figure 0003838504
【0083】
【発明の効果】
本発明によれば、溶体化および焼き入れ処理後の平均結晶粒径を更に20μm 以下と微細化させて、常温乃至高温パネル成形時の肌荒れを防止した過剰Si型6000系Al合金板およびその製造方法を提供することができる。しかも、このAl合金板を従来の板製造工程を大きく変更せずに製造することができる。したがって、6000系Al合金板のパネル成形用途への拡大を図ることができる点で、多大な工業的な価値を有するものである。

Claims (2)

  1. Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上であり、残部が Al および不可避的不純物であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金板であって、熱延板の段階で組織中に平均粒径が1.0 μm 以上の粗大なMg2Si 金属間化合物が面積率で1mm2当たり0.6%以上析出しており、その後の溶体化焼き入れ処理後の平均結晶粒径が20μm 以下であることを特徴とする300 ℃以上の高温でのパネル成形用アルミニウム合金板。
  2. Si:0.4〜1.3%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.01 〜0.65% 、Cu:0.001〜1.0%を含み、かつSi/Mg が質量比で1 以上であり、残部が Al および不可避的不純物であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金鋳塊を、500 ℃以上の温度で均質化熱処理後に一旦室温まで冷却し、その後350 〜470 ℃の温度に再加熱して熱間圧延を開始し、熱間圧延終了後のアルミニウム合金板組織中に平均粒径が1.0 μm 以上の粗大なMg2Si 金属間化合物を面積率で1mm2当たり0.6%以上析出させるとともに、溶体化および焼き入れ処理後のアルミニウム合金板の平均結晶粒径を20μm 以下としたことを特徴とする300 ℃以上の高温でのパネル成形用アルミニウム合金板の製造方法。
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