本発明は、情報を記憶したICモジュールが合成樹脂製の第1のシート材と第2のシート材とで挟み込まれてなり、これら第1,第2のシート材のうち少なくとも一方の表面に可逆性感熱記録層が設けられたICカードに関する。
近年、RFID(radio frequency identification)技術を利用した非接触ICカードや規格化されたカードサイズ以外のRFIDタグ、接触式のICカード等のICメディアが広く普及している。特に非接触ICカードやRFIDタグは、カードをカードリーダ上に置くか、かざすだけで、情報のやりとりを行える利便性から、鉄道の出改札等の交通系用途を中心に、入退出管理等のセキュリティシステム、工場における製品管理システムなど多様な分野で応用されている。
非接触ICカードは、アンテナ配線が形成された回路基板上にICチップを実装して構成されるICモジュールを、合成樹脂製の一対のカード構成シートで挟み込んで製造される。
従来より公知の非接触ICカードの製造方法として、第1に、ICモジュールを複数枚のカード構成シートで挟み込み、熱プレス装置等によって各シート間を融着させて一体化し、カードサイズに裁断する方法がある。また、第2の例として、カード表面を形成する一対の外装シート材をロール状から連続的に供給しながら、シート面に接着剤を塗布し、ICモジュールを貼り付けてから各シート材を貼り合わせ、接着剤を硬化させた後、シートを定寸に裁断してカードとする方法がある(下記特許文献1参照)。更に、第3の例としては、上記2つの方法を組み合わせて非接触ICカードを構成したものがある(下記特許文献2参照)。
ところで、ICカードに記録される情報は、デジタル信号またはアナログ信号としてカード内部のICチップに格納される。したがって、ICカードに記録された情報の内容を表示あるいは確認する場合においては、専用の読取装置で記録情報の読み込み処理を行う必要があり、一般のユーザが確認する手段はほとんどない。
そこで、こうした情報記録内容をカード表面に簡易的に表示することへの要求が高まりつつあり、近年、この要求を満足させるために、樹脂バインダー中に有機低分子を分散させ、白濁・透明のコントラストにより表示を行う高分子/低分子タイプの可逆表示技術が開発されている。高分子/低分子タイプの可逆表示媒体は、プラスチックシート/着色層/可逆性感熱記録(高分子/低分子)層/保護層から構成されている。また、これとは別に、可逆性感熱記録層として、ロイコ化合物と顕減色剤とを高分子樹脂中に分散させたものを用いる可逆表示媒体もある(例えば下記特許文献3参照)。これらの可逆表示媒体はサーマルヘッドによって印字し、その印字をサーマルヘッドによって消去することが可能な可逆性感熱記録層(リライト層)として機能する。
特開平9−109264号公報
特開2001−319210号公報
特開2004−192568号公報
しかしながら、従来のリライト機能付きICカードにおいては、カードの表面、特に、ICチップが埋め込まれている部分と埋め込まれていない部分との間に段差が発生し、印字の際に上記段差の部分でサーマルヘッドとカード表面との間にスペーシングが発生し、熱が正常に伝わらずに印字抜けや印字カスレ等の問題が発生していた。
このような印字不良は、上述した熱プレス方式で製造されるICカードに比べて、接着剤を塗布、硬化させて製造されるICカードに多く発生し、ICチップ部周辺で発生しやすい傾向にある。接着剤を塗布する際、ICチップ上部は周辺のアンテナモジュール部と比較して塗布される接着剤量が薄くなる。硬化時に発生する接着剤の収縮により、ICチップ上部は周辺のアンテナモジュール部と比較して収縮度合いが小さいために、ICチップ部が浮き出るような形状となり、サーマルヘッドとカードの表面にスペーシングが発生してしまう。
以下、ここで従来例について図28、図29、図30を参照して説明する。非接触ICカードを例に挙げて説明する。
図28は従来例による非接触ICカード(以下「ICカード」という)1の概略断面図である。ICカード1は、非接触通信用のICモジュール2を接着材料層3を介して一対の外装シート材4A,4Bで挟み込んだ構成となっている。
ICモジュール2は、絶縁基板5と、この絶縁基板5の上に形成されたアンテナコイル6とコンデンサー部7と、実装されたICチップ8からなる。図30で示すようにこのICチップ8の実装部を表裏から挟み込む一対の金属製(ステンレス等)の補強板9A,9Bとを備えている。補強板9A、9Bは封止剤10、10'により接着されている。
絶縁基板5には、高分子フィルムを使用することができる。具体的には、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等、従来より用いられている樹脂フィルムの中から適宜選択して利用することが可能であり、絶縁性であれば特に制限されることはない。
絶縁基板5の上に形成されるアンテナコイル6は、導電性ペーストを印刷したものや、上記高分子フィルムとアルミ箔や銅箔等の金属箔とのラミネート基材を回路状にエッチングして形成される。絶縁基板5上にパターニングされるアンテナコイル6の表面形状は、カード構成後の表面形状に反映されるため、平滑であるのが好ましい。
ICチップ8とアンテナコイル6との接続方法としては、ICチップ8の能動面に形成された突起電極(バンプ)とアンテナコイルとを異方性導電膜を介してフリップチップ実装する方式が採用されている。なお、これ以外の方法として、例えばはんだ付けによってICチップ8を実装することができる。リライト層Rが外装シート材料、4A、4Bの上に形成されているが、ICチップ部Qに対応して浮き上がっている。この浮き上がりはrとして示されている。この段差が印字抜けや印字カスレを生ずる。
従って、接着剤を介して一対の外装シート材を貼り合わせて製造されるICカードにリライト機能を付加する場合、接着剤の硬化収縮が原因で発生するICチップ部と周辺の段差を無くし、印字抜けや印字カスレといった印字不良を生じさせないようにする必要がある。
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、接着剤を介して一対の外装シート材を貼り合わせて製造され、表面に可逆性感熱記録層(リライト層)を有するICカードにおいて、印字抜けや印字カスレを抑制して、印字性を向上させることを課題とする。
以上の課題は、接着剤を硬化させてなる接着材料層を介して一対のシート材が互いに貼り合わされ、情報を記憶したICチップを実装したアンテナモジュールが内蔵され、前記一対のシート材のうち少なくとも一方の表面には可逆性感熱記録層が設けられているICカードにおいて、前記ICチップのチップ本体側を囲繞する抜け穴を設けた樹脂層を前記アンテナモジュール上に導入し、前記樹脂層の厚さDは、前記ICチップのチップ本体の厚さをA、前記チップ本体をモールドしている接着剤層で前記チップ本体の上に存在する該接着剤層の厚さをB、該接着剤層の上に貼着された補強板の厚さをCとした場合、
(A+B+C)≧D≧(A+B+C)×0.7
の条件を満たし、前記アンテナモジュールに関し、前記チップ本体側の前記シート材の上に前記可逆性感熱記録層が形成されていることを特徴とするICカード
、によって解決される。
請求項1の構成によれば、ICチップのチップ本体側のシート材上に可逆性感熱記録層(リライト層)が形成されている場合であるが、接着剤の硬化により収縮した際にも段差が発生せず、印字抜けや印字カスレといった印字不良を生じさせない。
また以上の課題は、接着剤を硬化させてなる接着材料層を介して一対のシート材が互いに貼り合わされ、情報を記憶したICチップを実装したアンテナモジュールが内蔵され、前記一対のシート材のうち少なくとも一方の表面には可逆性感熱記録層が設けられているICカードにおいて、前記ICチップの補強部側を囲繞する抜け穴を設けた樹脂層を前記アンテナモジュール上に導入し、前記樹脂層の厚さGは、前記アンテナモジュール上に存在する接着剤層の厚さをE、該接着剤層の上に貼着された補強板の厚さをFとした場合、
(E+F)≧G≧(E+F)×0.7
の条件を満たし、前記アンテナモジュールに関し、前記補強部側の前記シート材の上に前記可逆性感熱記録層が形成されていることを特徴とするICカード、によって解決される。
請求項2記載の構成によれば、リライトシートをチップ本体の非実装面側、すなわちICチップの補強部側に形成する場合である。チップ本体の非実装面側にはチップ本体が存在しないが、ICチップの強度を保つために封止剤もしくは接着剤と補強板を導入している。樹脂層の厚みGが(E+F)≧G≧(E+F)×0.7を満足することにより、硬化により収縮した際にも段差が発生せず、印字抜けや印字カスレといった印字不良を生じさせない。
請求項3の構成によれば、リライト層の平坦化が更に促進される。
請求項4、請求項5記載の条件は樹脂層に設けられたICチップ実装部の抜け穴の開口部の形状を規定したものである。請求項4はICチップを実装し、封止剤を用いて補強板を設けた後のICチップ実装部の露呈している補強板が円形であること、請求項5は露呈している補強板若しくはICチップが四角形である場合を示している。抜け穴の開口部の大きさを請求項4記載、請求項5記載の条件にすることにより、チップ部周辺に印字抜けや印字カスレといった印字不良を生じさせない。
請求項6記載の構成では、樹脂層の一辺はアンテナモジュールの短辺と長さが同じ、且つ平行に設置されることを定義している。また、少なくともICチップの周辺を樹脂層で覆うことが必須としている。これによりチップ部周辺に印字抜けや印字カスレといった印字不良を生じない。
接着剤を硬化させてなる接着材料層を介して一対のシート材が互いに貼り合わされ、情報を記憶したICチップを実装したアンテナモジュールが内蔵されたICメディアにおいて、前記一対のシート材のうち少なくとも一方の表面には、可逆性感熱記録層が設けられているICカードにおいて印字抜けや印字カスレが起こらない。
図1乃至図4は本発明の第1の実施の形態によるICカードを示すが、従来例の図27乃至図29に示したICカードに対応する要素については同一の符号を付すものとする。本発明によれば、ICチップを囲繞するように樹脂層11がアンテナモジュール2板上に導入される。樹脂層11は図1、図2に示すようにICチップQ部分に抜け穴12を持つ形状にする。12aは抜け穴12の開口部を表わす。
樹脂層11の厚みについては図5を参照して(A+B+C)≧D≧(A+B+C)×0.7であることを条件とした。リライト層RをIC実装面側13A(図5)に埋設する際の厚み条件である。ここで図5を参照してICチップの厚みをA、ICチップの上に存在する接着剤層の厚みをB、補強板の厚みをC、樹脂層の厚みをDとしている。Dが(A+B+C)よりも大きくなった場合、接着剤が硬化した後にチップ上部が凹んでしまう為、チップ上部の印字抜けや印字カスレといった印字不良が生じてしまう。また、Dを(A+B+C)×0.7よりも薄くした場合、接着剤の硬化収縮が原因で発生するICチップ部とその周辺に発生する段差が発生し、印字抜けや印字カスレといった印字不良が生じてしまう。
樹脂層11はアンテナモジュール2上に接着剤等を用いて接着することが望ましい。接着剤としては、公知の熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂等を用いることができる。本実施の形態では、熱硬化型樹脂が用いられ、具体的には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アクリル系反応樹脂、ポリエステル樹脂とポリイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの混合物、ウレタンとポリイソシアネートとの混合物などが挙げられる。
樹脂層11をアンテナモジュール(ICモジュール)2に接着する際の接着剤の厚みを考慮したため、D≧(A+B+C)×0.7とした。接着剤の厚みを考慮しても樹脂層の厚みDが上述の範囲であれば自由に設定することができる。第1の実施の形態では、ICチップ実装面側13Aにリライト層Rを埋設もしくは形成する場合の例を示したが、ICチップ非実装面側13Bにリライト層を埋設する場合には(後述する図12に示す第3の実施の形態の場合)、樹脂層の厚みGは図5を参照して
(E+F)≧G≧(E+F)×0.7
の条件を適用することになる。なお、本願明細書では図5において、実装面13Aより上方部分を「チップ本体側」、実装面13Bより下方部分を「補強部側」と命名する。
樹脂層11の抜け穴12の開口部はICチップ8上部にある補強板9A、9Bの大きさによりに合わせる必要がある。以下、例を挙げて説明する。仮に補強板9A、9Bは円形でそのサイズはφ7とした場合、抜け穴12の開口部直径は補強板の9A、9Bの直径と比較して、同じか、1mm以下でより大きい、すなわちφ7〜φ8とすることが望ましい。補強板9A、9Bの横には封止剤が出ているため、横から出ている封止剤の分まで考えると抜け穴は大きめに作ることが望ましいからである。
上記は補強板9A、9Bがφ7の場合の例であったが、補強板の大きさが変わる場合には上記と同じように抜け穴12の開口部サイズを変更することにより容易に対応できる。
樹脂層11の形状については、例えば図2の11に示すようにアンテナモジュール2上に導入する。ここで樹脂層11の一辺の長さがアンテナモジュール2の短辺と同じ長さで、且つ平行に設置する。樹脂層11の一辺の長さがアンテナモジュール2の短辺よりも短い場合、図20のように段差14が生じる。リライト印字をする際にカードを導入する方向は矢印Aのようになっており、段差14の部分で印字抜けや印字カスレが起こってしまう。
樹脂層11のもう一辺の長さはhであるが、ICチップの周辺を完全に覆うように設置する長さとする。よって図3に示すようにhが図2の場合により大であってもよい。図4のように長さhがアンテナモジュール2の長辺の長さと同じであっても問題ない。必要に応じて適宜選択すればよい。
接着材料層3は、接着剤を硬化させてなるもので、ICモジュール2を封止すると同時に、表裏の外装シート材4A,4B間を接着している。本実施の形態では、接着材料層3として、引張りせん断接着強さが7N/mm2 以下、硬化収縮率が3%以下のものが用いられている。
接着剤としては、公知の熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂等を用いることができる。本実施の形態では、熱硬化型樹脂が用いられ、具体的には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アクリル系反応樹脂、ポリエステル樹脂とポリイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの混合物、ウレタンとポリイソシアネートとの混合物などが挙げられる。
接着材料層3は、本実施の形態では2液性のエポキシ系接着剤を硬化させて形成される。2液性のエポキシ系接着剤は、一般的に、エポキシ基を含有する化合物(主剤)と、アミン類や酸無水物を含有する硬化剤を混ぜ合わせ、硬化反応によって接着する接着剤をいう。
エポキシ基を含有する化合物には、ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ノボラック型、ビスフェノールF型、ブロム化エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン系樹脂、グリシジルエステル系樹脂などがある。
一方、アミン類や酸無水物を含有する硬化剤には、脂肪族第1・第2アミン(トリエチレンテトラミン、ジプロピルトリアミン等)、脂肪族第3アミン(トリエタノールアミン、脂肪族第1・第2アミンとエポキシの反応生成物等)、脂肪族ポリアミン(ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン等)、脂肪族アミン(メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等)、アミンアダクド(ポリアミンとエポキシ基との反応生成物等)、芳香族酸無水物(無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等)、ジシアンジアミド及びその誘導体、イミダゾール類等、チオール類が挙げられる。
一方、外装シート材4A,4Bは、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、プロピレン等のポリオレフィン類、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート等のセルロース類、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸メチル、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸エチル、ポリエチルメタクリレート、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のビニル系樹脂、ポリカーボネート類等の単体、または混合物などを用いることができる。
外装シート材4A,4Bは、文字や絵柄等が印刷された印刷シートとして用いることができる。外装シート材4A,4Bに対する文字や絵柄等の印刷は、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等の公知の印刷法が適用可能である。
外装シート材4A,4Bは、その外側表面にリライト層(可逆性感熱記録層)(図1)が設けられたリライトシートRで構成することができる。本実施の形態では、外装シート材4A側を上記リライトシートRで構成している。このリライトシートは、例えば、ポリエチレンテレフタラートフィルムと、着色層と、可逆性感熱記録層と、透明保護層とから構成されている。
この感熱記録層は、樹脂母材(マトリクス)に分散された有機低分子物質の結晶状態の変化によって白濁・透明が可逆的に変化する高分子/低分子タイプと、樹脂母材に分散された電子供与呈色性化合物と電子受容性化合物との間の可逆的な発色反応を利用した熱発色性組成物であるロイコ化合物タイプの何れかを選択し使用することができる。感熱記録層は印刷、コーティング等により膜厚4μm〜20μm程度に設けることができる。
高分子/低分子タイプの感熱性記録層中に分散される有機低分子物質としては、脂肪酸、脂肪酸誘導体または脂環式有機酸が挙げられる。更に詳しくは、飽和または不飽和のもの、あるいはジカルボン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチル酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ナノデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられ、また、不飽和脂肪酸の具体例としては、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、ソルビン酸、ステアロール酸等が挙げられる。なお、脂肪酸、脂肪酸誘導体または脂環式有機酸はこれらのものに限定されるものではなく、かつ、これらの内の一種類または二種類以上を混合させて適用することも可能である。
また、用いられる樹脂母材としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロースアセテート系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂の単独、混合あるいは共重合物が用いられる。一方、可逆性感熱記録層の透明化温度範囲を制御するため、樹脂の可逆剤、高沸点溶剤等を添加することができる。更に、可逆性感熱記録層の繰り返し印字消去耐性を向上させるため、樹脂母材に対応した三次元架橋する硬化剤、架橋剤等を添加することができる。
一方、ロイコ化合物タイプは、樹脂母材中に分散されたロイコ化合物と顕減色剤の可逆的な発色反応を利用した熱発色性組成物で、印刷法、コーティング法などにより膜厚4μm〜20μm程度に設けることができる。感熱記録層中に用いられる通常無色ないし淡色のロイコ化合物としては一般的に感圧記録紙、感熱記録紙、感光記録紙、通電感熱記録紙、感熱転写紙等に用いられるものに代表され、ラクトン、サルトン、スピロピラン等の部分骨格を有するキサンテン、スピロピラン、ラクトン、フルオラン、サルトン系等が用いられるが、特に制限されるものではない。
ロイコ化合物の具体例としては、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−ジメチルアミノ−6−クロロ−7−メチルフルオラン、3,3−ビス(9−エチルカルバゾール−3−イル−5)−ジメチルアミノフタリド、3−ジメチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(n−エチル−n−ニトリル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(n−エチル−n−テトラヒドロフリル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン等が挙げられ、単独または混合して用いられる。
また、顕減色剤は、熱エネルギの作用によりプロトンを可逆的に放出してロイコ化合物に対し発色作用と消色作用を併せ持つ化合物である。すなわち、フェノール性水酸基またはカルボキシル基からなる酸性基とアミノ基からなる塩基性基の双方を有し、熱エネルギの違いにより酸性または塩基性となって上記ロイコ化合物を発色、消色させるものである。塩基性基は官能基として存在していてもよいし、化合物の一部として存在していてもよい。
また、顕減色剤は酸性基、あるいは塩基性基の何れか一方の官能基を有する顕減色剤は、例えば、アミノ安息香酸、o−アミノ安息香酸、4−アミノ−3−メチル安息香酸、3−アミノ−4−メチル安息香酸、2−アミノ−5−エチル安息香酸、3−アミノ−4−ブチル安息香酸、4−アミノ−3−メトキシ安息香酸、3−アミノ−4−エトキシ安息香酸、2−アミノ−5−クロロ安息香酸、4−アミノ−3−ブロモ安息香酸、2−アミノ−2−ニトロ安息香酸、4−アミノ−3−ニトロ安息香酸、3−アミノ−4−ニトリル安息香酸、アミノサリチル酸、ジアミノ安息香酸、2−メチル−5−アミノナフトエ酸、3−エチル−4−アミノナフトエ酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、2−メチルニコチン酸、6−クロロニコチン酸等がある。また、塩基性基を塩化合物の一部として有するものには、フェノール性水酸基またはカルボキシル基を有する化合物とアミノ基を有する化合物の塩または錯塩であり、例えば、ヒドロキシ安息香酸類、ヒドロキシサリチル酸類、没食子酸類、ビスフェノール酢酸等の酸と、脂肪族アミン類、フェニルアルキルアミン類、トリアリルアルキルアミン類等の塩基との塩または錯塩が挙げられる。
この具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸−アルキルアミン塩、p−ヒドロキシ安息香酸−フェニルアルキルアミン塩、m−ヒドロキシ安息香酸−アルキルアミン塩、p−ヒドロキシ安息香酸メチル−アルキルアミン塩、p−ヒドロキシ安息香酸ステアリル−アルキルアミン塩、ビスフェノール酢酸−アルキルアミン、ビスフェノール酢酸オクチル−アルキルアミン塩等が挙げられ、単独または混合して用いられる。なお、ロイコ化合物及び顕減色剤はこれらのものに限定されるものではなく、これらの内の一種類又は二種類以上を混合させて適用することも可能である。
そして、用いられる樹脂母材としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリウレア、メラミン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール等の樹脂の単独、混合または共重合体が用いられる。更に、可逆性感熱記録層の繰り返し印字消去耐性を向上するため、樹脂母材に対応した三次元架橋する硬化剤、架橋剤などを添加することができる。更に、耐性を向上させるためにロイコ化合物と比較的相溶性の高い紫外線吸収剤を添加することができる。
図6は本発明の第1の実施の形態によるICカードにおける樹脂層11に形成した抜け穴12の開口部12aとICチップQの上方の補強板9Aとの関係を示すものである。
図7は本発明の第2の実施の形態によるICカードにおける樹脂層11に形成した抜け穴12'の開口部12'aに露出しているICチップQの上方の補強板9A'との関係を示すものである。
図8は本発明の第2の実施の形態におけるICカードの断面図であるが、上述したようにICチップQを囲繞するように樹脂層11に形成した抜け穴12'の開口部12'aが正方形である場合である。
図9は図2と同様にICチップの樹脂層11の上面に沿った横断面図であるが、第1の実施の形態の図2に対応するもので抜け穴12'の開口部12'aは正方形である。その他は、第1の実施の形態と同様である。
図10、図11は第1変形例及び第2変形例を示し、アンテナモジュール2の長辺に沿った長さを変えた例を示すものである。
図12は本発明の第3の実施の形態によるICカードの縦断面図であり、この場合にはアンテナモジュール2の下面側、すなわちICチップQのチップ本体8の非実装側、すなわち補強部側に樹脂層11'を導入し、かつ、リライト層Rを下面に形成した場合を示す。
図13では抜け穴12の円形の開口部12aが明示されている。その他は上記実施の形態と同様である。
図14、図15は、樹脂層11'のアンテナモジュール2の長辺に沿う長さを変えた例(第1、第2変形例)を示している。
図16は、本願の第4の実施形態によるICカードの縦断面図である。抜け穴の開口部12aを正方形とした場合である。その他は全く上記実施の形態と同様である。
図18、図19は第1、第2変形例を示し、アンテナモジュールの長辺に沿う樹脂層11'の長さを変えた場合を示している。
以下、本発明の実施例について説明する。ここでは円形の補強板9A、9Bを用いた。
厚み50μmのPEN基材に両面にALを用いて厚み30μmのアンテナコイルとコンデンサー部を導入したアンテナモジュール2に、厚み175μm、4mm角のICチップ8をフリップチップボンディングにより接続した。その後封止剤、補強板9A、9Bを用いてICチップ8の封止を行った。ICチップ本体非実装面13Bについても封止剤、補強板を用いて封止を行った。図5におけるA〜C、E,Fの厚みはそれぞれA=175μm、B=50μm、C=50μm、E=50μm、F=50μmとなった。
カード化する際の接着剤は引張りせん断接着強さ4.5N/mm2 のエポキシを用いて行った。樹脂層11、11'の材質は延伸ポリエチレンテレフタラートを用いた。アンテナモジュールへの樹脂層11、11'の接着は前記エポキシ樹脂を用いてカード化前に接着を行った。樹脂層11、11'の厚み、樹脂層11、11'の抜け穴開口部12a、12'aの形状、樹脂層の設置面(ICチップ実装面側かICチップ非実装面側)条件を各々振ってカード化を行った。リライト性評価は、リライト層の印字のカスレの有無を主要観点として○、×の2段階評価とした。すなわち、カスレの無いものを○、カスレのあるものを×とした。
表1〜表3は樹脂層をICチップ実装面側に設置した場合の実施例、比較例である。
表1は樹脂層の厚みを変更した場合である。実施例1では、A+B+Cの厚みは275μmである。請求項1記載の(A+B+C)≧D≧(A+B+C)×0.7を満たす厚みは、275μm≧D≧192.5μmである。従って、実施例2、3でもこの条件内である。比較例1のように樹脂層が薄すぎる場合、チップ部周辺に印字カスレが発生してしまう。比較例2のように厚すぎた場合はチップ部上部が逆にへこむことになり、チップ上部が印字抜けすることになる。
表2は樹脂層の形状を比較したものである。比較例4のように樹脂層をICチップ部周辺だけに設置した場合は、図20の樹脂層11とアンテナモジュール2の境界14の部分で印字抜けが発生する。比較例5記載のようにICチップ部全体を覆わない場合にはICチップ部周辺で印字抜けが発生する。
表3は抜け穴の開口部径を比較した場合である。比較例6のように抜け穴開口部12aの径がφ6と小さすぎた場合にはICチップ部周辺が盛り上がるために印字抜けが発生する。逆に比較例7のように抜け穴開口部が大きすぎるとICチップ部の周りに凹みが発生し印字抜けが発生することになる。
表4〜表6は樹脂層をICチップ本体非実装面側に設置した場合の実施例、比較例である。
表4は樹脂層の厚みを変更した場合である。E+Fの厚みは100μmである。請求項2記載の(E+F)≧D≧(E+F)×0.7を満たす厚みは、100μm≧D≧70μmである。比較例11のように樹脂層が薄すぎる場合、チップ部周辺に印字カスレが発生してしまう。比較例12のように厚すぎた場合はチップ部上部が逆にへこむことになり、チップ上部が印字抜けすることになる。
表5は樹脂層の形状を比較したものである。比較例13のように樹脂層をICチップ部周辺だけに設置した場合は、図22の樹脂層11'とアンテナモジュール2の境界14の部分で印字抜けが発生する。比較例14記載のようにICチップ部全体を覆わない場合にはICチップ部周辺で印字抜けが発生する。
表6は抜け穴の開口部径を比較した場合である。比較例15のように抜け穴の開口部径がφ6と小さすぎた場合にはICチップ部周辺が盛り上がるために印字抜けが発生する。逆に比較例16のように抜け穴が大きすぎるとICチップ部の周りに凹みが発生し印字抜けが発生することになる。
次に補強板として正方形の形状をした補強板9A'、9B'を用いた場合の実施例を示す。
厚み50μmのPEN基材に両面にALを用いて厚み30μmのアンテナコイルとコンデンサー部を導入したアンテナモジュールに、厚み175μm、4mm角のICチップ8をフリップチップボンディングにより接続した。その後、封止剤、補強板を用いてICチップの封止を行った。ICチップ非実装面についても封止剤、補強板を用いて封止を行った。図5におけるA〜C、E,Fの厚みはそれぞれA=175μm、B=50μm、C=50μm、E=50μm、F=50μmとなった。図9にアンテナモジュールの外観を示す。図9は補強板の形状以外は図2と同じである。
この実施例は、補強板以外は全て同じ構造でアンテナモジュール及びカードを試作する。
カード化する際の接着剤は引張りせん断接着強さ4.5N/mm2 のエポキシを用いて行った。樹脂層の材質は延伸ポリエチレンテレフタラートを用いた。アンテナモジュールへの樹脂層の接着は前記エポキシ樹脂を用いてカード化前に接着を行った。樹脂層の厚み、樹脂層の抜け穴の開口部形状、樹脂層の設置面(ICチップ実装面側かICチップ非実装面側)条件を各々振ってカード化を行った。リライト性評価は、リライト層Rの印字のカスレの有無を主要観点として○、×の2段階評価とした。すなわち、カスレの無いものを○、カスレのあるものを×とした。
表7〜表9は樹脂層をICチップ実装面側に設置した場合の実施例、比較例である。
表7は樹脂層の厚みを変更した場合である。A+B+Cの厚みは275μmである。請求項1記載の(A+B+C)≧D≧(A+B+C)×0.7を満たす厚みは、275μm≧D≧192.5μmである。比較例21のように樹脂層が薄すぎる場合、チップ部周辺に印字カスレが発生してしまう。比較例22のように厚すぎた場合はチップ部上部が逆にへこむことになり、チップ上部が印字抜けすることになる。
表8は樹脂層の形状を比較したものである。比較例24のように樹脂層をICチップ部周辺だけに設置した場合は、図23の樹脂層とアンテナモジュールの境界14の部分で印字抜けが発生する。比較例25記載のようにICチップ部全体を覆わない場合にはICチップ部周辺で印字抜けが発生する。
表9は抜け穴の開口部径を比較した場合である。比較例26のように抜け穴の開口部径が6mm角と小さすぎた場合にはICチップ部周辺が盛り上がるために印字抜けが発生する。逆に比較例27のように抜け穴が10mm角と大きすぎるとICチップ部の周りに凹みが発生し印字抜けが発生することになる。
表10〜表12は樹脂層をICチップ非実装面側に設置した場合の実施例、比較例である。
表10は樹脂層の厚みを変更した場合である。E+Fの厚みは100μmである。請求項2記載の(E+F)≧D≧(E+F)×0.7を満たす厚みは、100μm≧D≧70μmである。比較例31のように樹脂層が薄すぎる場合、チップ部周辺に印字カスレが発生してしまう。比較例32のように厚すぎた場合はチップ部上部が逆にへこむことになり、チップ上部が印字抜けすることになる。
表11は樹脂層の形状を比較したものである。比較例33のように樹脂層をICチップ部周辺だけに設置した場合は、図26の樹脂層とアンテナモジュールの境界14の部分で印字抜けが発生する。比較例34記載のようにICチップ部全体を覆わない場合にはICチップ部周辺で印字抜けが発生する。
表12は抜け穴の開口部径を比較した場合である。比較例35のように抜け穴の開口部径が6mm角と小さすぎた場合にはICチップ部周辺が盛り上がるために印字抜けが発生する。逆に比較例36のように抜け穴径が10mm角と大きすぎるとICチップ部の周りに凹みが発生し印字抜けが発生することになる。
以上、本発明の実施の形態及び実施例について説明したが、勿論、本発明はこれらに限定されることなく本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
例えば、以上の本発明の実施の形態ではアンテナモジュール2の一方側にICチップを囲繞する樹脂層を設けたが、他方側にも樹脂層を設けてもよい。この場合、印刷されるリライト層を両側に形成してもよく、印刷される側は任意に選択するようにしてもよい。
また、以上の発明の実施の形態ではアンテナモジュール2の長辺方向には、図2、図3及び図4で示すように3通りの長さを示したが、勿論これに限ることなく、ICチップQを包含するだけの長さであればよい。
また、以上の実施の形態で説明した接着材料層の材料や樹脂層の材料については上述したものに限ることなく、他の材質も適用可能である。
また、樹脂層11をアンテナモジュール2に接着するのに別途、接着剤を用いたが樹脂層の材質によっては、その接着剤を省略することができる。
更に、以上の実施の形態ではICチップQのチップ本体を含むチップ本体側及びアンテナモジュールの下方に存在する補強部側のうち少なくともリライト層側には樹脂層を設けて上述のようなA、B、C、D、E、F間に請求項に記載した条件を満足するように樹脂層厚みD、Eを設定したが、場合によっては補強部側のEすなわち、封止剤としての接着剤の層はほとんど0(零)であってもよい。すなわち、アンテナモジュールの下面に接着剤を薄く塗布し、これに補強板9Bを固定させるような構造にも本発明は適用可能である。この場合にはEがほぼ0(零)となるが、本発明の適用範囲である。
本発明の第1の実施の形態によるICカードの断面図。
図1における2−2線方向の横断面図。
第1変形例を示す横断面図。
第2変形例を示す横断面図。
ICチップの約半部の断面図。
ICチップの補強板が円形である場合の抜け穴開口部との関係を示す平面図。
補強板が正方形である場合の抜け穴開口部との関係を示す平面図。
本発明の第2の実施形態によるICカードの断面図。
図8における横断面図。
第1変形例を示す横断面図。
第2変形例を示す横断面図。
本発明の第3の実施形態によるICカードの断面図。
図12における横断面図。
第1変形例を示す横断面図。
第2変形例を示す横断面図。
本発明の第4の実施形態によるICカードの断面図。
図16における横断面図。
第1変形例を示す横断面図。
第2変形例を示す横断面図。
第4比較例を示す横断面図。
第5比較例を示す横断面図。
第13比較例を示す横断面図。
第14比較例を示す横断面図。
第24比較例を示す横断面図。
第25比較例を示す横断面図。
第33比較例を示す横断面図。
第34比較例を示す横断面図。
従来例のICカードの断面図。
アンテナモジュールの平面図
ICチップの断面図である。
符号の説明
2・・・アンテナモジュール、4A、4B・・・外装シート材、8・・・ICチップ、9A、9B、9A'、9B'・・・補強板、10、10'・・・封止剤、11、11'・・・樹脂層、12、12'・・・抜け穴、12a、12a'・・・開口部、R・・・リライト層(可逆性感熱記録層)。