JP2006504971A - マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析によるタンパク質アイソフォームの定量的解析 - Google Patents
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Abstract
本発明は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)による、近縁なアイソフォームを含むタンパク質またはペプチドの定量法を提供する。タンパク質濃度のインビボにおける測定は極めて困難であり問題が多く、またタンパク質の濃度は、過去に使用されてきた標準であるmRNAのレベルとそれほど良好に相関しないことが知られている。本発明は、MALDI-TOF-MS法の利点を確保しながら、これをインビボにおけるタンパク質またはペプチドの濃度の正確な定量的測定を可能とする手段でタンパク質およびペプチドに応用することで従来の方法の短所を克服する。
Description
発明の背景
本発明は、参照により全内容が無条件で本明細書に組み入れられる、2002年11月1日に出願された米国特許仮出願第60/423,019号、および2002年11月2日に出願された第60/423,142号の優先権を主張する。
本発明は、参照により全内容が無条件で本明細書に組み入れられる、2002年11月1日に出願された米国特許仮出願第60/423,019号、および2002年11月2日に出願された第60/423,142号の優先権を主張する。
1.発明の分野
本発明は一般にプロテオミクスの分野に関する。より詳細には本発明は、合成試料中または生物学的試料中のタンパク質濃度の測定に関する。具体的には本発明は、合成試料中または生物学的試料中のタンパク質の濃度を定量的に測定するためのマトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)の使用に関する。より詳細には本発明は、合成試料または生物学的試料に由来する近縁なタンパク質アイソフォームまたはホスホアイソフォームの相対量および定量的な量を測定するためのMALDI-TOF-MSの使用に関する。
本発明は一般にプロテオミクスの分野に関する。より詳細には本発明は、合成試料中または生物学的試料中のタンパク質濃度の測定に関する。具体的には本発明は、合成試料中または生物学的試料中のタンパク質の濃度を定量的に測定するためのマトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)の使用に関する。より詳細には本発明は、合成試料または生物学的試料に由来する近縁なタンパク質アイソフォームまたはホスホアイソフォームの相対量および定量的な量を測定するためのMALDI-TOF-MSの使用に関する。
2.関連技術の記載
ヒトゲノムプロジェクトが完了し、力点はヒト生物のタンパク質相補物の調査へと移りつつある。これにより、細胞および生物体が作る全タンパク質の研究であるプロテオミクス科学が生まれ、同時に、多くの原核生物に加えて下等な真核生物のプロテオミクスに対する関心が再び高まりつつある。
ヒトゲノムプロジェクトが完了し、力点はヒト生物のタンパク質相補物の調査へと移りつつある。これにより、細胞および生物体が作る全タンパク質の研究であるプロテオミクス科学が生まれ、同時に、多くの原核生物に加えて下等な真核生物のプロテオミクスに対する関心が再び高まりつつある。
「プロテオーム」という用語は、ゲノムによって発現される全タンパク質を意味するので、プロテオミクスでは、体内におけるタンパク質の同定、ならびに生理的および病態生理学的な機能におけるそれらの役割の決定が行われる。ヒトゲノムプロジェクトで決定された〜30,000個の遺伝子は、選択的スプライシングおよび翻訳後修飾を考慮すると300,000〜100万個のタンパク質に翻訳される。ゲノムは多くの場合、変化しないままであるが、任意の特定の細胞中のタンパク質は、遺伝子が環境に応じて発現したり抑制したりすることで劇的に変化する。
プロテオームの動的な性質を反映して、特定の細胞で1つの時間枠で作られたすべてのタンパク質を表現するために、「機能プロテオーム」という用語の使用を好む研究者もいる。究極的には、プロテオミクスによって、疾患を予防する、診断する、および治療するための産物の設計に役立つ、新しい疾患マーカーおよび薬剤標的が同定可能であると考えられている。
プロテオミクスは、臨床的に関連のある分子過程の解析による新薬の発見において極めて有望である。生物工学および医学の将来はプロテオミクスの影響を大きく受けるであろうが、潜在的な利益を現実のものとするためには成すべきことが多くある。
数千個の遺伝子の発現を同時にモニタリングすることを可能とするDNAマイクロアレイ解析の利用と共に、プロテオームの重要性は、構造を提供し、エネルギーを産生し、ならびに情報伝達、運動、および生殖を可能とする細胞内のタンパク質であると言って言いすぎではない。基本的にはタンパク質は、細胞生命の構造および機能の枠組みを提供する。
しかしながら、タンパク質の研究には核酸研究にはない障害がいくつかある。タンパク質はDNAやRNAよりも扱いが困難である。タンパク質はDNAのように増幅することができないので、それほど多くない配列を検出することがより困難である。タンパク質は、その解析中に維持する必要のある場合が多い2次および3次構造をとる。タンパク質は、酵素の作用、熱、光によって、または卵白を泡立てるときのように激しい攪拌によって変性することがある。一部のタンパク質は溶解性が低いために解析が困難である。
核酸は扱いやすいが、DNA/RNA解析で得られる情報には限界もある。DNA配列の解析では、タンパク質が活性型か否かを推定できない。同様にRNAの定量が、対応するタンパク質のレベルを常に反映するとは限らない。翻訳後修飾およびmRNAのスプライシングを考慮すると、個々の遺伝子から複数のタンパク質が得られる場合がある。したがって、DNA/RNAの解析では、作られる遺伝子産物の量、遺伝子の翻訳の可否および時期、翻訳後修飾の種類および量、または加齢、ストレス応答、薬剤反応、および病理学的形質転換などの複数の遺伝子が関与する事象を推定することができない。ゲノミクスおよびプロテオミクスは明らかに補完的な分野であり、プロテオミクスは機能解析の幅を広げる。この事実からも、プロテオーム情報の重要性が改めて伺われる。
発明の概要
したがって本発明では、(a)対象となるタンパク質またはペプチドの試料を得る段階、(b)対象となるタンパク質またはペプチドに由来し、かつ対象となるタンパク質またはペプチドと比較するために既知もしくは測定可能な量の標準となるタンパク質またはペプチドを提供する段階、(c)標的となるタンパク質またはペプチドおよび標準をマトリックスと共結晶化させる段階、(d)結晶化したタンパク質またはペプチドと標準をMALDI-TOF-MSで解析する段階、ならびに(e)試料中に存在するタンパク質またはペプチドの量を(d)における解析を元に決定して標準と比較する段階を含む、選択された試料に含まれるタンパク質またはペプチドの定量法を提供する。
したがって本発明では、(a)対象となるタンパク質またはペプチドの試料を得る段階、(b)対象となるタンパク質またはペプチドに由来し、かつ対象となるタンパク質またはペプチドと比較するために既知もしくは測定可能な量の標準となるタンパク質またはペプチドを提供する段階、(c)標的となるタンパク質またはペプチドおよび標準をマトリックスと共結晶化させる段階、(d)結晶化したタンパク質またはペプチドと標準をMALDI-TOF-MSで解析する段階、ならびに(e)試料中に存在するタンパク質またはペプチドの量を(d)における解析を元に決定して標準と比較する段階を含む、選択された試料に含まれるタンパク質またはペプチドの定量法を提供する。
本発明の別の態様では、(a)標的となる複数の異なるタンパク質またはペプチドを含む1つもしくは複数の試料を得る段階、(b)個々の標的タンパク質に対応する、標準となるタンパク質またはペプチドを提供する段階(各標準は、既知の量もしくは測定可能な量の、対象となる個々の標的タンパク質またはペプチドの誘導体である)、(c)標的となるタンパク質またはペプチドおよび標準をマトリックスと共結晶化させる段階、(d)結晶化した、標的となるタンパク質またはペプチドと標準をMALDI-TOF-MSで解析する段階;ならびに(e)試料中に存在する、解析された個々の標的となるタンパク質またはペプチドの量を決定する段階を含む、試料中に含まれる複数の構造的に異なるタンパク質またはペプチドの量を比較的に解析して定量する方法を提供する。
本発明の1つの態様では、タンパク質は同じタンパク質のアイソフォームであり、また別の態様では、このようなアイソフォームは、同じタンパク質のホスホアイソフォームである。
本発明の特定の態様では、試料は、細胞、原核細胞、真核細胞、哺乳動物細胞、ヒト細胞、またはヒト心筋細胞に由来してもよい。試料はまた、臓器、ヒト臓器、またはヒト心臓に由来する場合もある。試料はさらに、血漿または血清に由来してもよい。
さらに別の特定の態様では、対象タンパク質は、αミオシン重鎖、βミオシン重鎖、骨格アクチン、または心筋アクチンの場合がある。
本発明の特定の態様では、ペプチドは、タンパク質分解による切断によって作製してもよい。またこれらは化学的切断または酵素による消化によって作られる場合もある。さらに別の態様では、このような酵素的切断は、エンドペプチダーゼ、プロテアーゼ、または任意のタンパク質分解性の消化酵素で実施することができる。
本発明の別の態様では、タンパク質濃度の定量に使用される標準を合成的に作ることができる。これらはさらに、1つのアミノ酸を修飾することで、標的となるタンパク質またはペプチドから得ることができる。
本発明の変形例では、このような方法は標準を使用せず、むしろ2つのタンパク質の相対量を、標準プロファイルへの比較のように、個々のMALDI-TOFプロファイルの固有の局面同士を比較することで決定する段階を含む場合がある。このようなタンパク質は相互にアイソフォームの場合がある。
説明目的の態様の詳細な説明
I.本発明について
質量分析(MS)は、その高い選択性および感度のために、薬物、代謝物、ペプチド、およびタンパク質を含む広範囲の生物学的被分析試料を定量するための強力なツールとなっている。質量および電荷の固有の特性を利用することで化合物を分離し、確実に同定することができる。しかし、化合物により生じたシグナルは、試料の導入法、イオン化過程、イオンの加速法、イオンの分離法、およびイオンの検出法の差のために試行間で変動する。したがって、任意の種類のMS定量も、被分析試料と同じ過程を経る内部標準に依存することになる。
I.本発明について
質量分析(MS)は、その高い選択性および感度のために、薬物、代謝物、ペプチド、およびタンパク質を含む広範囲の生物学的被分析試料を定量するための強力なツールとなっている。質量および電荷の固有の特性を利用することで化合物を分離し、確実に同定することができる。しかし、化合物により生じたシグナルは、試料の導入法、イオン化過程、イオンの加速法、イオンの分離法、およびイオンの検出法の差のために試行間で変動する。したがって、任意の種類のMS定量も、被分析試料と同じ過程を経る内部標準に依存することになる。
発明者らは、多種多様なタンパク質が同じ試料中に存在する状況を含む、試料中のタンパク質の量を正確に測定するためのMALDI-TOF MS法を開発した。一例として、α-MyHCタンパク質およびβ-MyHCタンパク質の量を互いに相対的に、かつこれらの関連分子種の絶対量を決定した。α-MyHCのmRNAの発現は心不全時に下方制御され、またβ-MyHCのmRNAの発現は上方制御される。こうした変化は、アドレナリン受容体遮断薬で良好に治療された患者では逆転する。この事実は、MyHCタンパク質の発現の変化が心機能に重要なこと、ならびに診断および予後の有用な指標となることを示唆する。アイソフォームは相同性が高く、また従来の手段では区別することが非常に困難であるが、本発明による評価に極めて適している。
本明細書で説明された研究から発明者らは、相同性の高いペプチドが、同じ試料中に存在する場合には、これらのペプチドの相対濃度に比例するMALDI-TOF MSシグナルを生じることから、定量用の高精度かつ高感度の内部標準として使用可能なことを示した。この関係は、MALDI-TOF MSのリニアモードとリフレクターモードの両方について、ならびにシグナルがピーク強度またはピーク面積によって測定される場合に成り立つ。MALDI-TOF MSは、近縁なタンパク質のアイソフォームの相対量の測定にも使用することができる。アイソフォームに由来する相同なペプチドは相互に内部標準となりうる。MALDI-TOF MSは、タンパク質の絶対濃度を測定するためにも使用することができる。タンパク質に由来する独特なペプチドに相同な合成ペプチドを内部標準として使用することができる。
本発明の詳細を以下に説明する。
II.タンパク質の組成と構造
A.タンパク質の組成
ある態様では本発明は、タンパク様の組成物およびその用途に関する。本明細書で用いられる、「タンパク様分子」、「タンパク様組成物」、「タンパク様化合物」、「タンパク様の鎖」、または「タンパク様材料」は一般に、(a)約100アミノ酸を上回るポリペプチドとして定義されるタンパク質、または(b)約3〜約100アミノ酸のペプチドを意味する。上述の「タンパク様の〜」という用語はいずれも、本明細書で互換的に使用することができる。
A.タンパク質の組成
ある態様では本発明は、タンパク様の組成物およびその用途に関する。本明細書で用いられる、「タンパク様分子」、「タンパク様組成物」、「タンパク様化合物」、「タンパク様の鎖」、または「タンパク様材料」は一般に、(a)約100アミノ酸を上回るポリペプチドとして定義されるタンパク質、または(b)約3〜約100アミノ酸のペプチドを意味する。上述の「タンパク様の〜」という用語はいずれも、本明細書で互換的に使用することができる。
ある態様では、ペプチドの大きさは約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99、および約100の残基を含む場合があるがこれらに限定されない。
タンパク質は、少なくとも約101の残基、約110、約120、約130、約140、約150、約160、約170、約180、約190、約200、約210、約220、約230、約240、約250、約275、約300、約325、約350、約375、約400、約425、約450、約475、約500、約525、約550、約575、約600、約625、約650、約675、約700、約725、約750、約775、約800、約825、約850、約875、約900、約925、約950、約975、約1000、約1100、約1200、約1300、約1400、約1500、約1750、約2000、約2250、約2500、またはこれ以上のアミノ分子の残基、ならびにこれらに由来する任意の範囲を含む。
本明細書で用いられる、「アミノ分子」とは、当業者には周知と思われる任意のアミノ酸、アミノ酸誘導体、またはアミノ酸模倣体を意味する。ある態様では、タンパク様分子の残基は、アミノ分子残基の配列を分断する任意の非アミノ分子を除いて連続している。他の態様では、配列は、1つもしくは複数の非アミノ分子部分を含む場合がある。特定の態様では、タンパク様分子の残基の配列は、1つもしくは複数の非アミノ分子部分で分断されている場合がある。したがって、「タンパク様組成物」という表現は、20種類の一般的なアミノ酸を含むアミノ酸配列を含み、また表1に記載されたアミノ酸を含むがこれらに限定されない1つもしくは複数の修飾型アミノ酸または一般的でないアミノ酸を含む場合がある。
このようなペプチドの化学合成法の例を以下に示す。Sheppard et al. (1981)の固相ペプチド合成法で、自動ペプチド合成装置(Pharmacia LKB Biotechnology Co., LKB Biotynk 4170)は、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドをアミン官能基が9-フルオレニルメトキシカルボニル基で保護されたアミノ酸に付加し、所望のアミノ酸の無水物(Fmocアミノ酸)を生成する)。所望のペプチドのC末端アミノ酸に対応するFmocアミノ酸が、ジメチルアミノピリジンを触媒として用いて、そのカルボキシル基を介してUltrosyn A樹脂(Pharmacia LKB Biotechnology Co.)に結合される。次に本樹脂はピペリジンを含むジメチルホルムアミドで洗浄されて、C末端アミノ酸の保護アミン基が除去される。次にペプチド配列中の次の残基に対応するFmocアミノ酸無水物が基質に追加されて、樹脂上に結合された保護されていないアミノ酸とのカップリングが可能となる。保護アミン基が次に第2のアミノ酸から除去され、上記プロセスが、配列が完成するまで、ペプチドに追加的な残基が同様の手順で添加されて繰返される。ペプチドの完成後に、アセトアミドメチル基以外の保護基が除去され、例えば94%(重量%)のトリフルオロ酢酸、5%フェノール、および1%エタノールを含む溶媒で、樹脂からペプチドが解放される。次に、合成されたペプチドを高速液体クロマトグラフィー、または後述する他のペプチド精製法で精製する。
タンパク様組成物は、遺伝的手法(すなわち、標準的な分子生物学的手法によるタンパク質の発現)によって、または天然供給源からのタンパク様化合物の単離(任意で分解処理を後に行う)によって作ることもできる。さまざまな遺伝子のヌクレオチド配列、ならびにタンパク質配列、ポリペプチド配列、およびペプチド配列が既に開示されており、また当業者に周知の電子化されたデータベースに登録されている場合がある。このような1つのデータベースが、米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)のGenbankおよびGenPeptデータベース(www.ncbi.nlm.nih.gov)である。このような既知の遺伝子のコード領域は、本明細書に開示された手法で、または当業者に周知であると思われる手法で増幅および/または発現させることができる。あるいはタンパク質、ポリペプチド、およびペプチドのさまざまな市販の調製物が当業者に周知である。
ある態様では、タンパク様化合物を精製してもよい。一般に「精製された」という用語は、脂質、核酸、またはタンパク質もしくはペプチドなどの他のさまざまな分子を除去するためのある程度の分画に供される、特定の、またはタンパク質、ポリペプチド、もしくはペプチドの組成物を意味する。精製は一般に、タンパク質の構造の保持を可能とする場合に最も成功したと言える(後述)。任意のさまざまなクロマトグラフィーによる手順を用いることができる。例えば、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、または超臨界フロークロマトグラフィーを用いて、さまざまな化学種と本発明のタンパク質またはペプチドとの分離を行ってもよい。
B.タンパク質の構造
ペプチドおよびタンパク質の1次構造は、ペプチド結合で互いに結合されたアミノ酸の直線的な配列である。タンパク質またはペプチドの重要な領域における1つのアミノ酸の変化は、鎌状細胞疾患や多くの遺伝性の代謝障害のような生物学的機能の変化につながる場合がある。ペプチド鎖のシステイン(硫黄を含むアミノ酸)残基間のジスルフィド結合はタンパク質の構造を安定化する。1次構造は、ペプチドまたはタンパク質の2次構造、3次構造、4次構造を特定する。
ペプチドおよびタンパク質の1次構造は、ペプチド結合で互いに結合されたアミノ酸の直線的な配列である。タンパク質またはペプチドの重要な領域における1つのアミノ酸の変化は、鎌状細胞疾患や多くの遺伝性の代謝障害のような生物学的機能の変化につながる場合がある。ペプチド鎖のシステイン(硫黄を含むアミノ酸)残基間のジスルフィド結合はタンパク質の構造を安定化する。1次構造は、ペプチドまたはタンパク質の2次構造、3次構造、4次構造を特定する。
ペプチドおよびタンパク質の2次構造は、反復する場合のあるアルファヘリックスまたはプリーツシートのような一般的な構造に組織される場合があるほか、鎖がランダムに自己組織化する場合がある。アミノ酸の官能基の個々の特性、およびジスルフィド結合の位置が2次構造を決定する。水素結合は2次構造を安定化する。
ゲノム情報から、大半のタンパク質が受ける翻訳後修飾を推定することはできない。リボソーム上における合成後に、タンパク質は切断されて、開始配列、転移配列、およびシグナル配列が除去され、また単純な化学基または複雑な分子が結合される。翻訳後修飾の種類は非常に多く(200種類以上が記録されている)、リン酸化、グリコシル化、および硫酸化を含む、静的および動的な修飾が記録されている。
タンパク質およびペプチドの3次構造は、完成したタンパク質の全体的な3-Dの構造である。3次構造は、1次構造では互いにかけ離れていることもあるアミノ酸残基の立体的な関係とみなされる。3-D構造は任意の環境で最も熱力学的に安定であり、また環境中で小さな変化を伴う変化に供されることがある。インビボにおける、大きなマルチドメインタンパク質の折り畳みは翻訳と同時期に起き、またタンパク質の成熟は秒単位または分単位で起きる。細胞内におけるタンパク質の折り畳みは、不適切な凝集を防き、膜を挟んだ移行を促すように細胞内因子の調節を受ける。タンパク質の3-D構造を決定する2つの方法が核磁気共鳴法とX線結晶法である。
機能性タンパク質が複数のサブユニットを含む場合、4次構造は、静電気的な結合および水素結合によって互いに結合された全サブユニットの構造からなる。複数のサブユニットからなるタンパク質はオリゴマーと呼ばれ、さまざまな構成成分が個々の単量体またはサブユニットである。
II.定量的質量分析
質量分析(MS)は、その極めて高い選択性および感度のために、薬物、代謝物、ペプチド、およびタンパク質を含む広範囲の生物学的被分析試料を定量するための強力なツールとなっている。質量および電荷の固有の特性を利用することで、化合物を分離し、確実に同定することができる。しかし、化合物により生じたシグナルは、試料の導入法、イオン化過程、イオンの加速法、イオンの分離法、およびイオンの検出法の差のために試行間で変動する。したがって、どのタイプのMS定量も、被分析試料と同じ過程を経る内部標準に依存することになる。従来の定量的MSでは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)と、これに続くタンデムMS(MS/MS)(Chen et al., 2001; Zhong et al., 2001; Wu et al., 2000)が使用されている。一方で、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)と、これに続く飛行時間型(TOF)MSを利用するより新しい定量法が開発されている(Bucknall et al., 2002; Mirgorodskaya et al., 2000; Gobom et al., 2000)。
質量分析(MS)は、その極めて高い選択性および感度のために、薬物、代謝物、ペプチド、およびタンパク質を含む広範囲の生物学的被分析試料を定量するための強力なツールとなっている。質量および電荷の固有の特性を利用することで、化合物を分離し、確実に同定することができる。しかし、化合物により生じたシグナルは、試料の導入法、イオン化過程、イオンの加速法、イオンの分離法、およびイオンの検出法の差のために試行間で変動する。したがって、どのタイプのMS定量も、被分析試料と同じ過程を経る内部標準に依存することになる。従来の定量的MSでは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)と、これに続くタンデムMS(MS/MS)(Chen et al., 2001; Zhong et al., 2001; Wu et al., 2000)が使用されている。一方で、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)と、これに続く飛行時間型(TOF)MSを利用するより新しい定量法が開発されている(Bucknall et al., 2002; Mirgorodskaya et al., 2000; Gobom et al., 2000)。
ESI/MS/MS法では、プリカーサーイオンをプロダクトイオンに断片化することが可能な三連四重極分析計を使用する。プリカーサーイオンとプロダクトイオンの両方を同時に解析することで、1つのプリカーサー-プロダクト反応を追跡し、このような選択反応モニタリング(selective reaction monitoring; SRM)は、所望のプリカーサーイオンが存在する場合にのみシグナルを生じる。内部標準が、安定同位体で標識された被分析試料である場合、これは安定同位体希釈法による定量として知られる。このような方法は、薬物(Zhang et al., 2001; Zweigenbaum et al., 2000; Zweigenbaum et al., 1999)、および生理活性ペプチド(Desiderio et al., 1996; Zhu et al., 1995; Lovelace et al., 1991)を正確に測定するために採用されている。さらに新しい方法は、広い質量範囲の分離が可能で、代謝物、ペプチド、およびタンパク質を定量するために使用されている、広範囲に利用可能なMALDI-TOF装置を用いて行われている。粗抽出物などの複雑な混合物を解析することができるが、場合によっては試料の浄化が必要となる(Nelson et al., 1994; Gobom et al., 2000)。安定同位体で標識されたペプチドが内部標準として使用されている(Gobom et al., 2000; Mirgorodskaya et al., 2000)。しかし、安定同位体で標識された標準が小分子に必要とされる一方で、ペプチドなどの大きな分子は、非標識相同ペプチド(これらの化学的性質が被分析試料ペプチドと類似している場合に限られる)を用いて定量可能なことが示されている(Duncan et al., 1993; Bucknall et al., 2002)。タンパク質の定量は、トリプシン処理ペプチドを定量することで達成されている(Mirgorodskaya et al., 2000)。
真核生物のmRNA濃度とタンパク質濃度の測定値の相関は弱く(Anderson et al., 1997; Gygi et al., 1999)、これは特に、ヒトの心臓組織中のミオシン重鎖(MyHC)およびアクチンなどのタンパク質について明瞭である(dos Remedios et al., 1996)。さらなる証拠は、アイソフォーム比の測定値について見出されている。ヒトの成人の心臓ではα-MyHCのmRNAは全心臓MyHCのmRNAの約30%を占める(Lowes et al., 1997)が、α-MyHCタンパク質は全心筋MyHCタンパク質の約3〜7%を占める(Miyata et al., 2000; Reiser et al., 2001)。SアクチンのmRNAは、全アクチンmRNAの約60%であるが(Boheler et al., 1991)、Sアクチンタンパク質は全アクチンタンパク質の約20%である(Vendekerckhove et al., 1986)。以上の結果は、タンパク質の濃度および比をmRNA濃度から推定できないことを強く示すものである。したがって、生命科学がmRNAの測定からタンパク質の測定へと移行しつつある現状では、このタイプのMS法は、タンパク質の高感度で高精度の定量のための強力なツールとなる可能性がある。
III.MALDI-TOF-MS
その誕生と、市販品を入手できることから、MALDI-TOF-MSの多能性は、定性解析における広範囲の使用によって納得のいくように実証されている。例えばMALDI-TOF-MSは、合成高分子の特性解析(Marie et al., 2000; Wu et al., 1998)、ペプチドおよびタンパク質の解析(Zuluzec et al., 1995; Roepstorff et al., 2000; Nguyen et al., 1995)、DNAおよびオリゴヌクレオチドの配列決定(Miketova et al., 1997; Faulstich et al., 1997; Bentzley et al., 1996)、ならびに組換えタンパク質の特性解析(Kanazawa et al., 1999; Villanueva et al., 1999)に使用されている。MALDI-TOF-MSの応用は最近、内因性のペプチドおよびタンパク質成分の特性解析を目的とした、生物組織や単細胞生物の直接解析を含むように拡張しつつある(Li et al., 2000; Lynn et al., 1999; Stoeckli et al., 2001; Caprioli et al., 1997; Chaurand et al., 1999; Jespersen et al., 1999)。
その誕生と、市販品を入手できることから、MALDI-TOF-MSの多能性は、定性解析における広範囲の使用によって納得のいくように実証されている。例えばMALDI-TOF-MSは、合成高分子の特性解析(Marie et al., 2000; Wu et al., 1998)、ペプチドおよびタンパク質の解析(Zuluzec et al., 1995; Roepstorff et al., 2000; Nguyen et al., 1995)、DNAおよびオリゴヌクレオチドの配列決定(Miketova et al., 1997; Faulstich et al., 1997; Bentzley et al., 1996)、ならびに組換えタンパク質の特性解析(Kanazawa et al., 1999; Villanueva et al., 1999)に使用されている。MALDI-TOF-MSの応用は最近、内因性のペプチドおよびタンパク質成分の特性解析を目的とした、生物組織や単細胞生物の直接解析を含むように拡張しつつある(Li et al., 2000; Lynn et al., 1999; Stoeckli et al., 2001; Caprioli et al., 1997; Chaurand et al., 1999; Jespersen et al., 1999)。
MALDI-TOF-MSを定番の定性ツールとしている特性(広い質量範囲の分子の解析能力、感度の高さ、最小限の試料調製、および迅速な解析時間)は、MALDI-TOF-MSを有用な定量ツールとする可能性もある。MALDI-TOF-MSでは、不揮発性で熱に不安定な分子の解析も比較的容易である。したがって、臨床現場における定量解析、毒物学的スクリーニング、ならびに環境解析のためのMALDI-TOF-MSの潜在能力を探る事が賢明である。またペプチドおよびタンパク質の定量へのMALDI-TOF-MSの応用は特に重要である。生物組織および体液中に含まれる完全な状態のタンパク質の定量能力は、プロテオミクスの領域を拡張する上で特に大きな問題であり、タンパク質の絶対量を正確に測定する方法が研究現場で切実に求められている。定量的MALDI-TOF-MSの応用の報告はあるが、広範囲の使用を制限するMALDIのイオン化過程に固有の問題が多くある(Kazmaier et al., 1998; Horak et al., 2001; Gobom et al., 2000; Wang et al., 2000; Desiderio et al., 2000)。このような制限は主に、被分析試料について観察されるシグナル強度の大きなばらつきに寄与すると考えられている試料/マトリックスの不均一性などの因子、検出器の飽和に起因する限界のあるダイナミックレンジ、およびMALDI-TOF-MSと液体クロマトグラフィーなどのオンライン分離法の連結に関する問題に基づく。総合すると、これらの因子は、定量的な決定が成功するための正確性、精度、および有用性を損なうと考えられる。
こうした問題のため、MALDI-TOF-MSの定量的応用の実現の例は少ない。今日までの研究の大半は、低質量の被分析試料、特に農産物や食品中のアルカロイドや活性成分の定量に焦点が当てられてきた(Wang et al., 1999; Jiang et al., 2000; Wang et al., 2000; Yang et al., 2000; Wittmann et al., 2001)。また他の研究では、生物組織または体液に含まれる神経ペプチド、タンパク質、抗生物質、またはさまざまな代謝物などの生物学的に関連のある被分析試料の定量におけるMALDI-TOF-MSの潜在能力を実証している(Muddiman et al., 1996; Nelson et al., 1994; Duncan et al., 1993; Gobom et al., 2000; Wu et al., 1997; Mirgorodskaya et al., 2000)。初期の研究では、適切な内部標準を使用すれば、直線的な検量線がMALDI-TOF-MSで得られることが明らかにされた(Duncan et al., 1993)。こうした標準は、各試料間(sample-to-sample)のばらつきおよび各ショット間(shot-to-shot)のばらつきの両方を「修正する」ことが可能である。安定同位体で標識した内部標準(アイソトポマー)は最も良い結果をもたらす。
主に、遅延引き出し(delayed extraction)(Bahr et al., 1997; Takach et al., 1997)のために、現在の市販の装置で得られる解像度に顕著な改善がもたらされており、定量実験を他の例にも(低質量の被分析試料だけでなく生体高分子にも)広げることが今日では可能となっている。生物学的試料に含まれる多成分の絶対定量の将来性は特に興味深い(例えばプロテオミクスへの応用)。
MALDI法で使用するマトリックス材料の特性は重要である。タンパク質およびポリペプチドの選択的脱離に有用な化合物は少ない。ペプチドおよびタンパク質に利用可能なあらゆるマトリックス材料に関する総説の1つでは、分析上有用であるために化合物が共通して有する必要のある特性の存在が示されている。その重要性にもかかわらず、何がマトリックス材料をMALDIに対して「有効」とさせているのかについてはほとんどわかっていない。良好に機能する数少ない材料が、あらゆるMALDI実施者によって頻繁に使用されており、また潜在的なマトリックス候補としての新しい分子の評価が絶え間なく続けられている。少数の例外はあるが、使用されている大半のマトリックス材料は固体の有機酸である。液体のマトリックスも検討されているが、常用されているわけではない。
A.試料の調製
一般に、試料中への過度の不純物混入を減らすために妥当なあらゆる手だてを講じるべきである。最高品質の溶媒、試薬、および試料を常に使用することが求められる。HPLCグレードの溶媒をMALDI実験における標準とすべきである。全試料はプラスチック製容器に収容しなければならない。ガラス製容器の使用は、容器壁への試料の吸着による不可逆的な試料の喪失と、被分析試料溶液中へのアルカリ金属の放出につながる場合がある。
一般に、試料中への過度の不純物混入を減らすために妥当なあらゆる手だてを講じるべきである。最高品質の溶媒、試薬、および試料を常に使用することが求められる。HPLCグレードの溶媒をMALDI実験における標準とすべきである。全試料はプラスチック製容器に収容しなければならない。ガラス製容器の使用は、容器壁への試料の吸着による不可逆的な試料の喪失と、被分析試料溶液中へのアルカリ金属の放出につながる場合がある。
生物学的調製物の適切な試料取り扱い条件では、不揮発性塩を通常使用する。過度のカチオン化の存在、低い解像度、またはシグナル抑制が見られる場合は脱塩処理が必要となることがある。被分析試料がドープされたマトリックス結晶の冷酸性水による洗浄は、マトリックスと結晶を形成済みの試料の極めて効率のよい脱塩法として示唆されている。しかし可能であれば常に、結晶が成長する前に、後述するいくつかの手法で塩を除去することが最良の措置である。MALDIでは塩が存在する場合にプロトン化とカチオン化が競合するので、この2つのプロセス間の選択は現在でも検討の対象となっている。
MALDIで複雑な生物学的材料を扱う際には、多くの場合界面活性剤の使用が必要である。さもないと特にミリモル未満の濃度のタンパク質が、接触可能な表面に速やかに吸着されてしまう恐れがある。界面活性剤を使用しないと、凝集および吸着が、スペクトル中のタンパク質のピークを事実上抑制してしまうことがある。界面活性剤がMALDIスペクトルに及ぼす作用は界面活性剤と試料の種類に依存する。
非イオン性界面活性剤(Triton X-100、Triton X-114、N-オクチルグルコシド、およびTween 80)は試料調製物に大きく干渉しない。実際に、Triton X-100が最大1%の濃度でMALDIに適合し、また場合によってはスペクトルの質を改善可能であるという報告さえある。N-オクチルグルコシドは、消化混合物中の、より大きなペプチドのMALDI-MS反応を促すことが示されている。非イオン性界面活性剤の添加は、多くの場合疎水性タンパク質の解析の必要条件となる。細胞や組織からのタンパク質抽出中に添加されるPEGやTritonなどの一般的な界面活性剤は、ペプチドおよびタンパク質よりも効率よく脱離し、またイオンシグナルを効果的に鎮めることがある。界面活性剤は、質量スペクトルの低質量範囲で、良好な内部較正用のピークをもたらすことがある。
イオン性界面活性剤、特にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、極めて低濃度であってもMALDIに大きく干渉する場合がある。0.1%を超える濃度のSDSは、マトリックスとの結晶化に先立ち、試料を精製することで減らさなければならない。この作用の重要性は、SDS-PAGEで分離されるタンパク質の解析に対するMALDIの広範囲の応用を考えれば無視することはできない。ポリアクリルアミドゲル電気泳動は、試料にナトリウム、カリウム、およびSDSの混入を持ち込み、また被分析試料の回収濃度も低下させる。タンパク質がSDSで被覆されると、過剰なSDSを溶液から単純に除去しても、MALDI用試料の調製は改善されない。つまりSDSのシェル(shell)も除去しなければならない。典型的な精製法には、逆相クロマトグラフィーまたは液-液抽出などの2相抽出を含む。MALDI質量分析に先立つ、タンパク質試料からのSDSの除去は重要な問題である。
タンパク質化学では、不揮発性溶媒が使用されることが少なくない。例として、グリセロール、ポリエチレングリコール、β-メルカプトエタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。これらの溶媒は、マトリックスの結晶化に干渉し、溶媒層の除去が困難な形状の任意の結晶を被覆してしまう。こうした溶媒を使用しなければならない場合や、液滴乾燥(dried-droplet)法で良好な結果が得られない場合は、結晶破砕(crushed-crystal)法などの他の結晶化法を試さなければならない。
タンパク質試料の調製時には、生物学的活性および完全性を維持するために緩衝液の使用が必要となることが多い。MALDIは緩衝液の存在に寛容であると一般に考えられている。緩衝液が干渉源となりうる場合は、マトリックス:被分析試料の比を高めることが有効な方法の1つである。6種類の一般的な緩衝液系について、DHBをマトリックスとして使用した場合の、ウシインスリン、シトクロムc、およびウシアルブミンのMALDIスペクトルに及ぼす作用が調べられている(Wilkins et al., 1998)。
塩、緩衝液、界面活性剤、および不揮発性化合物を含まない「クリーンな試料」を得るために、いくつかの実験的な方法が検討されており、さまざまな結果が得られている。タンパク質の生化学領域における一般的な精製ツールとして、「合成膜からのMALDI」を確立することを試みている研究者もいる。幅広い一連の実験で、被分析試料の液滴を高分子膜(多孔性ポリエチレン、ポリプロピレン、被分析試料、ナイロン、Nafionなど)上に沈着させ、特別な溶媒で洗浄し、マトリックスと混合して「クリーンな」結晶が得られている。この方法は、SDS-PAGEゲルから合成膜中に電気的にブロットされたタンパク質の直接解析に極めて有用である。さらに巧みな実験ではタンパク質試料が脱塩処理され、金でコーティングされたMALDIプローブ表面上にオクタデシルメルカプタン(C18)の自己集合性の単層を構築することで塩および界面活性剤が除去されている。このような表面は、ポリペプチドが疎水性相互作用によって可逆的に結合可能となるので、被分析試料の濃縮および脱塩を同時に実施することができる。
非分画の生物学的体液および抽出物からの、アフィニティ・キャプチャーされた特定の巨大分子の脱離を直接促すために、表面エンハンス型アフィニティ・キャプチャー(surface enhanced affinity capture; SEAC)が作製されており(Hutchens et al., 1993)、またこの手法は試料精製手段として使用することもできる。アフィニティ結合した被分析試料のMALDI TOFによる直接解析は現在日常的に実施されており、またカスタマイズされたアフィニティ・キャプチャー用の試料プローブを業者から入手することもできる。
アルコールまたはアセトンによる沈殿、HPLC、限外濾過、液-液抽出、透析、およびイオン交換などの従来の方法による被分析試料の精製が常に推奨される。しかし、試料調製時間の延長および試料回収率の影響を慎重に評価しなければならない。解析前に、小型の市販の(または、場合によっては自家製の)C18逆相マイクロカラム、または遠心限外濾過装置を用いて試料を精製することが可能である。しかし、このような装置には、大規模な分離法と同じ欠点がある場合がある。アセトンによる沈殿および透析では通常、MALDI試料調製用の界面活性剤が十分除去されないことに注意されたい。
過度の不純物混入に起因する、シグナル強度および解像度の低下は、マトリックス溶液中のタンパク質を大規模に希釈することで除去できる場合がある。試料の1:5の希釈段階を検討することが一般的である。タンパク質溶液の希釈はMALDIシグナルの改善につながることが多いが、これはおそらくマトリックスが被分析試料を濃縮する一方で混入物が希釈されるからである。この方法は、脂質の存在が疑われる疎水性タンパク質について有効である。
B.マトリックス
広く使用されているタンパク質溶媒混合物の溶解性は、「良好な」マトリックスが満たす必要のある条件の1つである。タンパク質またはペプチド(標的または標準)が、成長途上のマトリックス結晶中に取り込まれることは、タンパク質とマトリックスが溶液中に同時に存在しなければならないことを意味する。したがってマトリックスは、広く使用されるタンパク質-溶媒系に溶解してタンパク質をドープした結晶を成長させるようなものであるべきである。この条件は、対象となる被分析試料がマトリックスと同時に溶解するような任意の溶媒系に拡張されるべきである。実際問題として、この事実はマトリックスが、酸性化水、水-アセトニトリル混合物、水-アルコール混合物、70%ギ酸などからなる溶媒系中に十分に溶解して、1〜100 mM 溶液を作らなければならないことを意味する。
広く使用されているタンパク質溶媒混合物の溶解性は、「良好な」マトリックスが満たす必要のある条件の1つである。タンパク質またはペプチド(標的または標準)が、成長途上のマトリックス結晶中に取り込まれることは、タンパク質とマトリックスが溶液中に同時に存在しなければならないことを意味する。したがってマトリックスは、広く使用されるタンパク質-溶媒系に溶解してタンパク質をドープした結晶を成長させるようなものであるべきである。この条件は、対象となる被分析試料がマトリックスと同時に溶解するような任意の溶媒系に拡張されるべきである。実際問題として、この事実はマトリックスが、酸性化水、水-アセトニトリル混合物、水-アルコール混合物、70%ギ酸などからなる溶媒系中に十分に溶解して、1〜100 mM 溶液を作らなければならないことを意味する。
マトリックス結晶の光吸収スペクトルは、使用されるレーザーパルスの周波数と重複しなければならない。レーザーパルスのエネルギーは、マトリックス中に蓄積しなければならない。しかし残念ながら、固体系の吸収係数は容易に測定できず、また通常、溶液中における値に対して赤色シフト(ストークスシフト)を起こす。このシフトの規模は化合物の種類によって変動する。溶液の吸収係数は指標として用いられることが多く、また加えられる波長において広く使用されているマトリックス材料に典型的な範囲はe=3000〜16000 (1 mol-1 cm-1)である。337 nmで作動する、コンパクトで安価な窒素レーザーによるUV-MALDIが、ペプチドおよびタンパク質の常用解析用時の最も一般的な装置に関する選択肢である。ペプチドのIR-MALDIが実施されているが、解析への応用には使用されていない。UV-MALDIに関しては、一部のトランス-桂皮酸誘導体や2,5-ジヒドロキシ安息香酸などの化合物が最適な結果をもたらすことが証明されている。
マトリックス材料と被分析試料の固有の反応性も考慮しなければならない。タンパク質(または他の任意の被分析試料)を共有結合的に修飾するマトリックスは使用できない。ジスルフィド結合、ならびにシステイン基およびメチオニン基と反応可能な酸化剤は最初に除外される。アルデヒドは、アミノ基と反応することから使用できない。
マトリックス材料は、レーザーパルス照射の存在下で適度の光安定性を示さなければならない。一部のマトリックスはレーザー照射後に不安定化し、ペプチドと反応する。例えばニコチン酸は容易に失われる。つまり、-COOHが光化学的に励起され、極めて反応性の高いピリジル基が残され、これが複数のピリジル付加物のピークをスペクトルに生じることになる。これはニコチン酸の使用がSAやCHCAなどの、より安定なマトリックス置き換えられていることの理由の1つである。
マトリックス材料の揮発性についても熟慮しなければならない。装置側からみると、マトリックス結晶は真空下において、昇華することなく長時間維持されなければならない。桂皮酸誘導体は、ニコチン酸およびバニリン酸と比較時に、この点に関して優れている。
マトリックスは、乾燥過程中に被分析試料がマトリックス結晶中に組み込まれることを可能とするように、被分析試料に対して特別の親和性を有していなければならない。これは間違いなく、定量が極めて困難で予測が不可能な特性である。MALDI試料の調製に関する現在の見解では、固体供給源におけるイオンの生産は、被分析試料とマトリックスからなる適切な複合材料の作製に依存する。溶媒の蒸発時に、被分析試料分子は母液から実質的かつ選択的に抽出され、マトリックス分子と共結晶化する。不純物および他の必要な溶液添加剤は、この過程で自然に除外される。
マトリックス分子は、被分析試料分子がイオン化されうるような適切な化学特性を有していなければならない。レーザーに由来するエネルギーの大半はマトリックスに吸収され、結果として固相から気相への急速な膨張が起こる。被分析試料のイオン化は、照射表面のすぐ上部の高圧領域で生じると考えられており、またイオンと分子の反応、または励起状態の分子種と被分析試料分子との反応が関与する可能性がある。最も一般的に使用されているマトリックス材料は有機酸であり、またプロトン化(被分析試料分子へのプロトンの付加による(M+H)+イオンの発生)が、ペプチドおよびタンパク質のMALDIにおける最も一般的なイオン化機構である。励起状態のプロトンの輸送が、プルーム(plume)中で起こる電荷移動事象の妥当と思われる機構である。UV照射下でプロトン輸送を行う化合物は一般に、UV-MALDI-MS用のマトリックスとして使用することができる。記載されたプロトン輸送および結果として生じる準安定な励起状態がイオン化過程に関与するか否か、またはこれが、使用される波長領域で吸収バンドを生じるか否かは不明である。
任意の潜在的なマトリックス化合物に対する最終的かつ決定的な試験法は、材料をレーザー脱離質量分析計に導入してMALDI実験を行うことである。多くの化合物は、タンパク質イオンを生じるタンパク質がドープされた構造をとるが、これらは他の因子によって不適格となる。実際に効果のあるものから大部分のマトリックス候補を分離する質は今日でも極めて不確かであり、関与する作用の理解を深めるためには一層多くの研究が必要である。
マトリックス化合物がイオンをMALDI供給源中に輸送することが証明されていることから、被分析試料イオンへのマトリックスの添加の規模の範囲における、材料の性能に注目することも重要である。マトリックス付加体イオン(M+マトリックス+H)+は通常、MALDIスペクトル中に観察される。しかし、広範囲に及ぶ付加体形成は、付加が親ピークと良好に分離されない場合に正確な分子量の決定能力に影響する。最高のマトリックスは、強度の低い光化学的付加物のピークを有する。
MALDIは、極めて大きな生体高分子のイオン化を可能としながら、断片化をほとんど生じないか、または全く生じないソフトイオン化法の1つである。脱離/イオン化における断片化の規模は、マトリックスを選択する際に厳密に考慮しなければならない。過度の断片化は解像度の低下を引き起こすことがある。タンパク質の断片化の規模が、使用されるマトリックス化合物と強く関連することはよく知られている。一部のマトリックスは、他のマトリックスより「ホット」であり、インソース(すなわち迅速な)分解およびポストソース分解につながる。「ホットな」マトリックス材料の好例がCHCAである。CHCAは、タンパク質の陽イオンスペクトル中に強力な多価イオンを生じ、質量分析計内における著しい断片化に寄与する。
あるマトリックスが、特定のペプチドまたはタンパク質に有用なことが証明された後でも、試行錯誤以外に、他の試料分子へのその応用性を推定するためのアルゴリズムは存在しない。ある複合混合物の完全な姿を得るためには、複数のマトリックス材料が必要とされることが多い。
少数の例外はあるものの、新しいマトリックスの開発は、市販の化合物に完全に依存している。この状況は、マトリックスの構造をMALDIの機能に効果的に相関させる能力を制限していると論じられている。最近の取り組み(Brown et al., 1997)は、さまざまな機能性をもたらす化合物の巧みな合成によって、こうした限界を克服することを目指している。大半のファインケミカル領域の業者は、自社の化合物の一部がMALDI用マトリックスとして有用であることを承知しており、MALDIへの応用のために、特別に精製した化学製品にカタログ番号を割り当てている。マトリックス化合物は典型的には、使用前における何らかの精製を必要とせずに製造業者から受け取った状態で使用され、また暗所で保存することが常に推奨されている。
MALDIの実施者の大半は純粋に分析目的でMALDIを使用しており、新たなMALDI材料の発見には関心を寄せていない。MALDIの実施者にとって幸運なことに、一貫して良好な結果をもたらす少数の化合物が存在し、ペプチドおよびタンパク質の日常的解析は、これに拠っていると言える。広く使用されているマトリックスのSは、a-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)、ゲンチジン酸、または2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、トランス-3-インドールアクリル酸(IAA)、3-ヒドロキシピコリン酸(HPA)、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)、ジトラノール(DIT)である。マトリックス材料の決定的選択は、被分析試料の種類、その分子量、および試料の性質(純粋な化合物か、混合物か、または生物学的な粗抽出物か)に依存する。いずれの場合も、マトリックス材料の性能は溶媒の選択の影響を受ける。実験(すなわち、経験に基づく少数の推量を伴う試行錯誤の方法)が一般に、最高の試料調製条件を見つけるための唯一の方法である。ペプチドおよびタンパク質のMALDIにも使用されている化合物の例には、ヒドロキシ-ベンゾフェノン、メルカプトベンゾチアゾール、b-カルボリン、およびさらに爆発性の高い物質などがある。
今日までに報告されているマトリックスの大半は酸性であるが、2-アミノ-4-メチル-5-ニトロピリジンなどの塩基性のマトリックス、および6-アザ-2-チオチミン(ATT)などの中性のマトリックスも使用されており、MALDIの有用性が酸に感受性の高い化合物へと拡張されている。
マトリックスのピークは、質量軸較正法(mass axis calibration)における低質量の較正に使用されることがある。試料が念入りに脱塩されていない場合には、[M+Na]+および[M+K]+ピークも観察される。
1.マトリックスの抑制
小さなサイズ〜中程度のサイズの被分析試料イオン(1000〜20000 Da)は、被分析試料に対するマトリックスの適切な混合比で、MALDI質量スペクトル上で、正に帯電したマトリックスイオンを完全に抑制してしまう場合がある。これは、すべてのマトリックス種について同様であり、好ましい被分析試料イオンの形成(プロトン化またはカチオン化)にもかかわらず認められている。このような作用は、CHCAおよびDHBを含む多くのマトリックスについて認められていることから、MALDIにおける一般的な現象と言えるようである。MALDIでは断片化が弱いという事実に加えて、この現象は、被分析試料イオンの強いピークを伴い、他のシグナルが存在しない、ほぼ理想的な質量スペクトルに至る。
小さなサイズ〜中程度のサイズの被分析試料イオン(1000〜20000 Da)は、被分析試料に対するマトリックスの適切な混合比で、MALDI質量スペクトル上で、正に帯電したマトリックスイオンを完全に抑制してしまう場合がある。これは、すべてのマトリックス種について同様であり、好ましい被分析試料イオンの形成(プロトン化またはカチオン化)にもかかわらず認められている。このような作用は、CHCAおよびDHBを含む多くのマトリックスについて認められていることから、MALDIにおける一般的な現象と言えるようである。MALDIでは断片化が弱いという事実に加えて、この現象は、被分析試料イオンの強いピークを伴い、他のシグナルが存在しない、ほぼ理想的な質量スペクトルに至る。
2.コマトリックス(co-matrix)(マトリックス添加剤)
質量スペクトルの質を高めるために、数種類の添加剤がMALDI試料に添加されている。コマトリックスとしても知られる添加物には、(1)マトリックス/被分析試料の沈着物の均一性を高める、(2)断片化の量を増加/減少させる、(3)カチオン化のレベルを下げる、(4)イオン収量を増やす、(5)定量精度を高める、(6)各試料間の再現性を高める、および(7)解像度を高める、といった多種多様な目的に貢献する。
質量スペクトルの質を高めるために、数種類の添加剤がMALDI試料に添加されている。コマトリックスとしても知られる添加物には、(1)マトリックス/被分析試料の沈着物の均一性を高める、(2)断片化の量を増加/減少させる、(3)カチオン化のレベルを下げる、(4)イオン収量を増やす、(5)定量精度を高める、(6)各試料間の再現性を高める、および(7)解像度を高める、といった多種多様な目的に貢献する。
コマトリックスの使用は、オリゴヌクレオチドの解析においてかなり広く行われており、アンモニウム塩および有機塩基が極めて一般的な添加剤となっている。添加剤の使用が、現行のマトリックス系を改善するための最も一般的かつ単純な手段を提供しうると考えるMALDI研究者もいる。MALDIプロセスに対するコマトリックスの作用を評価するためには、またこうした目的における添加剤の特性をさらに特徴づけるためには継続的な取り組みが必要である。ペプチドおよびタンパク質の測定に使用される添加剤の例には、一般的なマトリックス、ブメタニド、グルタチオン、4-ニトロアニリン、バニリン、ニトロセルロース、およびL(-)フコースなどがある。
マトリックス/被分析試料溶液へのアンモニウム塩の添加は、リンペプチドのシグナルを実質的に高める。これは、未分画のタンパク質分解消化物からリンペプチドを同定することを可能とするために使用されている。この方法はCHCAおよびDHB、ならびにクエン酸二アンモニウムや酢酸アンモニウムなどのアンモニウム塩の使用で良好に機能する。
C.溶媒の選択
溶媒の選択は今日においても、被分析試料の溶解性を維持し、また被分析試料/マトリックス溶液の乾燥中に被分析試料のマトリックス結晶中への分配を促すことの必要性に左右される試行錯誤の工程に留まっている。原則として、試料に適した溶媒を最初に見つけることが最もよい。
溶媒の選択は今日においても、被分析試料の溶解性を維持し、また被分析試料/マトリックス溶液の乾燥中に被分析試料のマトリックス結晶中への分配を促すことの必要性に左右される試行錯誤の工程に留まっている。原則として、試料に適した溶媒を最初に見つけることが最もよい。
被分析試料が完全に溶解した後に、被分析試料用溶媒と混和するマトリックス用溶媒を選択すべきである。場合によっては、ペプチドおよびタンパク質、またはオリゴヌクレオチドの解析では適切な溶媒がよく知られている。ペプチド/タンパク質の解析では、0.1% TFAが選択される溶媒であり、またオリゴヌクレオチドに関しては純粋な18オームの水が選択される。これらの被分析試料用のマトリックスはそれぞれ、ACN/0.1% TFAとACN/H2Oに溶解させる。続いて、MALDIにおける被分析試料用およびマトリックス用の溶媒の選択を支配する規則が詳細に検討される。
溶媒系における被分析試料の溶解性は、溶媒選択時に考慮すべき最も重要なパラメータの1つである。被分析試料は、常に溶媒に完全に溶解しなければならない。被分析試料粉末と溶媒のスラリーが生じると良好な結果は得られない。
2つの溶媒系が、MALDI試料の調製手順に通常使用されている。被分析試料用の溶媒系と、これと異なるマトリックス用の溶媒が存在する。試料の調製法(液滴乾燥法)の多くでは、マトリックス溶液のアリコートをタンパク質溶液のアリコートと混合して結晶形成用の母液を得る。マトリックス用溶媒も被分析試料用溶媒も慎重に選択しなければならない。2つの溶液を混合した時に、マトリックスも被分析試料も沈殿を生じないことが重要である。被分析試料用溶媒が、任意の有機溶媒も含まないように特に注意する必要がある(有機溶媒の混入は、混合中にマトリックスの沈殿生成につながることがある)。水溶液からの有機溶媒の選択的な蒸発に起因する不注意による溶媒組成の変化にも注意する必要がある。被分析試料およびマトリックス溶液を収容したチューブは、非使用時には蒸発を避けるために密閉保存すべきである。
被分析試料の可溶化が、疎水性のタンパク質およびペプチドの解析を成功に導く鍵となる。水性溶媒における溶解性が限られているために、マトリックス用と被分析試料用の両者の別の溶媒が慎重に検討されている。強有機酸(すなわちギ酸)、界面活性剤溶液、および非極性有機溶媒を含む、いくつかの可溶化法が良好に応用されている。ペプチドおよびタンパク質の溶解性を高める非イオン性界面活性剤が、多くの場合、スペクトルの質を高めるために試料溶液に添加される。この効果は、極めて希薄な溶液中における高分子量タンパク質の特性解析に関して文献で報告されている。細胞のプロファイリングにおける界面活性剤の使用は、検出可能な質量範囲を約75 kDaに拡大している。
溶媒系の表面張力も選択過程時に考慮しなければならない。低い表面張力では、マトリックス-被分析試料液滴は大きな表面積へと広がり、希釈効果およびイオン収量の減少につながる。一般に、水を多く含む溶媒は適度の表面張力を示し、結晶密度の高い、再現性の高い球形の沈着物の形成が可能となる。アルコールやアセトンなどの表面張力が低い溶媒は、広い拡大と不定形の結晶層(crystal bed)をもたらす。試料ウェルの間隙がほとんどないMALDI標的には、またロボットによる試料ローディングに依存する試料の調製手順には、溶媒の表面張力の慎重な調整が必要である。
溶媒の揮発性も考慮しなければならない。迅速な溶媒の蒸発は、より均一な被分析試料の分布と共に、より小さな結晶を生じる。しかし、迅速な結晶化はカチオン化の上昇も示し、これは、混合物中の低分子量成分に適しており、また1つのスポットあたり少数のレーザーショットを扱うことのみが可能な非常に薄い結晶層をもたらす。揮発性溶媒は使用者の熟練を必要とする。というのは、過剰な溶媒蒸発に起因する、ピペットチップ内における時期尚早のマトリックスの沈殿を避けるために迅速に扱わなければならないからである。アセトンやメタノールなどの蒸発が速い溶媒は表面張力を低下させ、幅が極めて広くて不定形のMALDI用沈着物を形成する。微結晶を得るための、試料調製時における揮発性溶媒の使用は、「アセトン再析(acetone redeposition)」法で代えられることが多い。この手法では、乾燥後のMALDI試料(不揮発性溶媒で調製されたもの)は1滴のアセトンに溶解され、アセトンの蒸発に伴って試料が結晶化してより均一な被膜が形成される。
タンパク質化学の領域で広く使用されている不揮発性溶媒は避けなければならない。この例には、グリセロール、ポリエチレングリコール、β-メルカプトエタノール、ジメチルスルホキシド、およびジメチルホルムアミドなどがある。これらの溶媒はマトリックスの結晶化に干渉し、溶媒層の除去が困難な形状のいかなる結晶をも被覆する。結晶破砕法は特に、このような存在に対処するために開発された。
蒸発する溶媒系のpHは4未満としなければならない。ペプチドおよびタンパク質用のMALDI用マトリックス材料の大半は、4未満のpHでイオン化する有機酸であり、結晶化の特性を完全に変える。溶媒の酸性度は、タンパク質とマトリックス結晶との結合に影響し、タンパク質の構造を修飾可能でさえある。被分析試料の構造はMALDIのイオン収量に影響することが示されている。マトリックス溶液へのトリフルオロ酢酸(TFA)およびギ酸(FA)の添加は、被分析試料-マトリックス液滴の蒸発中に正確な酸性度を確保するために一般的に実施されている。別の一般的な方法は、タンパク質試料溶媒として純水ではなく0.1%および1%のTFAを使用することである。溶液の酸性度は、混合物のMALDIの場合、成分が結晶から除去されないようにするために慎重に最適化しなければならない。
溶媒系と被分析試料の反応性は熟慮を要する。強酸性溶媒を使用する上での共通の問題は、アスパラギン酸のプロリン結合などの、酸に不安定なペプチド結合の切断である。小さなタンパク質または大きなタンパク質における、こうした結合の切断は試料調製後に認められており、切断産物の強度は時間の経過と共に大きくなる。
溶媒または溶媒成分としてギ酸を使用する際の潜在的な問題は、タンパク質中のセリン残基およびスレオニン残基との反応性である。このようなアミノ酸のホルミルエステル化は、より高分子量の28 Daの間隔でサテライトピークの発生につながる。結果としてギ酸への曝露は、正確な質量測定を行うどのような実験でも避けるべきである。仮に、このような手順でギ酸を使用しなければならない場合は、曝露は可能な限り短時間とすべきである。70%のギ酸が、CNBrによるペプチド切断に対する最良の溶媒である。希塩酸(0.1 N)を使用することもできる。ただし、溶媒を蒸発させて乾燥する前に溶液のpHを中和することを注意しなければならない。エタノールアミン処理によるCNBrによる切断中に生じたホルミル化されたペプチドの脱ホルミル化には1つのプロトコルが報告されている(Tan et al., 1983)。高濃度のTFAも遊離のアミノ酸と反応することが知られている。
溶媒の組成は、MALDI実験の結果に影響を及ぼすことがある重要なパラメータの1つである。溶媒成分の選択は、被分析試料の種類およびその分子量、ならびに使用されるマトリックス材料の影響を受ける。溶媒系はマトリックスと被分析試料を同時に溶解可能でなければならない。乾燥過程においては、被分析試料のマトリックス結晶への選択的な取り込みも可能としなければならない。
親水性のペプチドおよびタンパク質の試料は通常0.1%のTFAに溶解させる。マトリックスはときに、最大3つの成分からなる溶媒系に、より高濃度で溶解させる。一般的なマトリックス溶媒成分は、アセトニトリル(CH3CN)、低分子量アルコール(メタノール、エタノール2-プロパノール)、ギ酸、希TFA(0.1〜1% v/v)、および純水である。TFAは、ギ酸よりも高い質量解像度のスペクトルを生じるようである。しかし、特に混合物の場合は、さまざまな溶媒を検討してみることが常に勧められる。
オリゴヌクレオチドは純水に極めてよく溶解する。あらゆる状況においてHPLCグレードの溶媒の使用が推奨されるが、オリゴヌクレオチドの場合は、脱イオン化されたH2Oが推奨される。これは、HPLCグレードの水が酸性であり、さまざまな濃度の塩を含む場合があるという事実のためである。HPAおよびTHAP(オリゴヌクレオチドマトリックス)に最も広く使用される溶媒は1:1(v/v)のACN/H2Oである。このようなマトリックス溶液に使用される添加物であるクエン酸二アンモニウムはH2Oに溶解させるか、もしくは後にマトリックス溶液と混合させるか、またはマトリックスをACN/H2Oを溶媒とするクエン酸二アンモニウム溶液に溶解させる。
有機性の分子または高分子の解析では、最初に試料に最適な溶媒を見出し、次に何が対象化合物に適切なマトリックスかによって、マトリックスを試料と同じ溶媒に、または被分析試料溶液と混和する溶媒に溶解可能であることが重要である。
疎水性ペプチド(水に溶解しないペプチド)は、クロロホルム/アルコールやギ酸/アルコール混合物などの水を含まない系に溶解し、またマトリックスは通常、同じかまたは極めて類似の溶媒に溶解する。溶解性およびイオン収量を高めるために、非イオン性界面活性剤が添加されることが少なくない。
溶媒混合物中に溶媒の占める割合が、MALDI実験におけるイオン収量に影響する場合がある。完全な試料調製プロトコルには、混合物中の溶媒の相対濃度の最適化を含むべきである。例えば、アルコール-水混合物の水分量のわずかな差が、イオン収量に有意に影響する場合があることが報告されている。濃度の選択が、成分の選択と同様に重大な意味を持ちうることは極めて多い。
MALDIユーザーが溶媒の最適化時に考慮しなければならない選択および作用の幅をMALDI法の欠点とみなしてはならない。実際には、さまざまな溶媒を用い、不純物の存在下で扱うことができる能力は、あらゆる種類の生体高分子および合成高分子の質量分析による特性解析にMALDIが使用できることにつながる。
D.基板の選択
解析目的の有効なMALDI試料調製法を設計する際には、被分析試料と基板の相互作用に注意しなければならない。
解析目的の有効なMALDI試料調製法を設計する際には、被分析試料と基板の相互作用に注意しなければならない。
MALDI試料のほとんどは、真空適合型のステンレス鋼またはアルミニウム製のマルチウェルの金属製試料プレート上で調製され、また同プレートから脱離/イオン化される。金属基板が脱離/イオン化過程に果たす役割は十分解明されていないが、金属の表面伝導率は、イオン放出中に試料の周囲の静電場の完全性を保つために極めて重要であるとみなされることがある。超硬合金は機械加工して、高精度に形成することができるほか、清浄化および研磨も容易であり、高解像度および高質量精度に求められる滑らかな表面が得られる。被分析試料/マトリックス結晶は金属表面と強く結合し、長期間保存可能で、また精製目的で洗浄可能な、凹凸の非常に多い試料を提供する。
ステンレス鋼もアルミニウムも、使用されるマトリックス系に対して化学的に不活性であり、イオン形成中に、金属イオンによる被分析試料のカチオン化に寄与しない。一方で、基板としての銅は、脱離中にマトリックスと被分析試料の両方との間で付加物を形成することが報告されている(Russell et al., 1999)。このような作用は、マトリックスCHCAの場合に特に顕著であり、またプロトン化したイオンを上回る分子量における複数のピークの出現につながる。余分なピークは一般に、特にプロトン化したイオンによるシグナルと明瞭に分離されない場合に、タンパク質の解析上の問題となるとみなされる。しかし、銅付加物の形成(adduction)はMALDIのポストソース分解の調査に利用することができる。というのは、プロトン化されたイオンとは異なる方法で[M+Cu]+イオン断片は、配列決定に関する有用な追加情報を提供するからである。
大半のMALDI供給源は固体試料プレートを使用し、前面から照射が行われる(反射配置(reflection geometry))。しかし、被分析試料/マトリックス試料を脱離するために透過型配置(transmission geometry)の使用が可能である。透過型配置では、レーザー照射および質量分析計の分析装置は、薄い試料の反対側に位置する。2つの事例研究で使用された基板は石英と、プラスチックでコーティングされたグリッドであった(亜鉛または銅の表面のホルムバル(Formvar))。
MALDI供給源に基板として次に多く使用されている材料はプラスチックである。ペプチドおよびタンパク質と高分子表面との相互作用には大きな注意を払わなければならない(Kinsel et al., 1999)。高分子表面とタンパク質の結合親和性がタンパク質のイオンシグナルに及ぼす影響が調べられており、表面-タンパク質の結合親和性が大きくなるほどタンパク質を対象としたMALDIの効率が低下することがわかっている。
ポリエチレン膜上に直接沈着された高質量タンパク質(>100 kDa)の脱離が報告されており(Blackledge et al., 1995)、得られたスペクトルは、標準金属基板で得られたスペクトルと比較して同一か、または優れていた。類似の改善がGuo(1999)によって認められており、DNAおよびタンパク質が、TeflonでコーティングされたMALDIプローブから直接脱離された。特定のマトリックスとのNafion基板の使用は、得られるシグナルを、ステンレス鋼製のプローブで認められるシグナル以上に有意に促進することができる。この使用は、実際の生物学的混合物の解析に、事前の精製を行うことなく特に有効なことが報告されており、ポリプロピレン、ポリスチレン、テフロン、ナイロン、ガラス、およびセラミックスをマトリックス結晶支持体として、全金属製の場合と比較して性能の著しい低下を伴わずに使用されている(Hutchens et al., 1993)。
試料支持体としてのプラスチック製膜の使用が最近、試料の精製と試料の質量分析計への輸送の両方の手段として採用されている。仮に被分析試料が選択的に膜に吸着可能であれば(疎水性相互作用)、被分析試料を保持しながら干渉性の物質を洗浄して除去することができる。オンプローブ洗浄による精製では、従来の方法による事前精製と比較して試料の喪失が少なくなる。ポリエチレンおよびポリプロピレンの表面が、オンプローブにおける試料の精製を実施するために使用されている(Woods et al., 1998)。同様に、ポリ(フッ化ビニリデン)をベースとする膜が、バルクの細胞抽出物からのタンパク質の抽出および精製に、また界面活性剤の除去に使用されており、MALDIのプローブ上にC18の単層を構築するためにプローブ表面を誘導体化する方法が開発されている(Orlando et al., 1997)。非多孔性ポリウレタン膜は、血液試料解析用の収集装置および輸送溶媒と、これに続く、MALDI-TOF分析計における同じ膜基板からの直接脱離に使用されている(Perreault et al., 1998)。試料の喪失を最小限に抑えながらの、プローブチップのすぐ上における試料の精製およびタンパク質分解による切断も同基板で可能である。試料添加物として、または事前に沈着された基板として使用されるニトロセルロースは複数の研究者によってMALDIスペクトルの質を改善するために、マトリックスシグナルの抑制を誘導するために、ならびに大きなタンパク質を大腸菌の全細胞溶解物から25〜500 kDaの質量範囲で迅速に検出および同定するために使用されている。
膜上に電気的にブロットされた、SDS-PAGEで分離されたタンパク質のMALDI-MSによる直接解析は、多数のMALDIユーザーによって実施されている。いずれの場合も、タンパク質のスポットがブロットされた膜を、直接MALDI解析用のプローブチップに結合させる。膜をマトリックス溶液に浸すことで、マトリックスをタンパク質スポットに添加する。マトリックス結晶へのタンパク質およびペプチドの取り込みは、マトリックス溶液が、膜に吸収されるタンパク質を溶媒和する能力に依存する。UVならびにIRの照射が被分析試料分子の脱離/イオン化に用いられており、IRに関しては、膜への透過深度がより大きいという利点がある。膜上にブロットされたタンパク質の酵素的または化学的な切断後に生じたペプチドについてもMALDIで解析されており、2-Dゲルによる分離後のタンパク質の極めて迅速な同定経路の1つが示されている。ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)をベースとする膜は最も広く評価されており、このような目的に使用されている。ナイロン、Zitex、およびポリエチレンなどの他の膜も、ドットブロットされたタンパク質のMALDI MSによる検出に有用なことがわかっている。ある研究では、IR-MALDIが、電気的にブロットされたタンパク質をPVDF膜から直接解析し、異なる膜材料と比較し、膜上における消化およびペプチドマッピングを調べることが可能なことが報告されている(Schleuder et al., 1999)。ゲル電気泳動とMALDI MSとの連結は、完全な、またゲル内で消化されたタンパク質を対象としたMALDIによる直接解析を目的として、マトリックスに浸漬したゲルを乾燥後に質量分析計に導入することで一歩先を行っている(Philip et al., 1997)。この方法では、電気的溶出または電気的ブロッティングに伴う時間および試料のロスを生じることなく、完全産物と切断産物の両方の質量が得られる。この成功の鍵は、厚さが10 mm以下となるまで乾燥され、また調製および電気泳動の泳動時間が短いという追加的な利点を有する超薄のポリアクリルアミドゲルの使用にある。この方法は、等電点電気泳動(IEF)、一般的なゲルおよびSDS-PAGEゲルに応用されている。IEFゲルと組み合わせて使用する場合は、この選択は、タンパク質が第1の次元ではその電荷に基づいて分離され、第2の次元が、SDS-PAGEに代えてMALDI-MSで測定された分子量である「バーチャルな2-Dゲル」を行うことを可能とする。基板がMALDIシグナルに及ぼす作用は慎重に検討され、こうした実験で説明されなければならない。ゲルからの脱離時の質量精度は重要な問題である。複数の作用が高質量の正確な決定の障害となっており、(a)均一でないゲルの厚さ、(b)ゲルを平面にマウントすることの難しさ、ならびに(c)誘電性材料の表面電荷の3つが最も重大な問題である。遅延引き出しは質量精度のいくつかの限界を克服し、0.1%を上回る精度が容易に得られている。
MALDI領域における最近の別の開発は、質量分析の前に特定の被分析試料を溶液から選択的に捕捉するように化学的に修飾された、分子レベルで調整されたMALDI-プローブ-基板の使用である(Hutchens et al., 1993)。アフィニティ・キャプチャー法の有効性は証明されている(この方法は当初、「表面エンハンス型アフィニティ・キャプチャー(SEAC)質量分析」と呼ばれた)。SEACについて公にされている例では、1本鎖DNAが結合されたアガロースビーズを使用して、早産児の尿からラクトフェリンが捕捉された。尿試料中でこれらのビーズをインキュベートした後に、ビーズを除去し、洗浄し、MALDIプローブチップ上に直接配置し、従来のMALDIで解析した。基板として使用された捕捉剤は、MALDI-MSの性能を損なわないようであった。この原著論文の公表後、オンプローブによるイムノアフィニティ抽出は、多くの研究室における一般的な手法となりつつあり、特定の解析要件に合わせたアフィニティ・キャプチャー用プローブを提供可能な業者も現れている。
迅速なペプチドマッピングは、酵素的分解が活発に進む(すなわちプローブ基板が酵素試薬を有する)、質量分析用のプローブチップに被分析試料を直接アプライする方法で達成されている。被分析試料をプローブチップに直接アプライすることは、ペプチドマッピング解析の全体的な感度を高める。高いオンプローブ酵素濃度は、数分単位の消化時間をもたらし、自己分解ピークに対する有害な作用はない。生物反応性のプローブチップは、タンパク質分解によるマッピング、およびピコモル量のペプチドの部分配列決定に常用されている。
E.結晶化法
わずかな変更を施すことで、HillenkampおよびKaras(1988)によって導入された当初の、そして簡便な試料調製法は10年以上にわたって完全な状態で保たれており、マトリックス化合物を含む水溶液を被分析試料溶液と混合する「液滴乾燥法(dried-droplet method)」と一般に呼ばれている。次に、この溶液の1 mLの液滴を乾燥させて、解析目的で質量分析計内に導入される、被分析試料がドープされたマトリックス結晶の固体沈着物を得る。
わずかな変更を施すことで、HillenkampおよびKaras(1988)によって導入された当初の、そして簡便な試料調製法は10年以上にわたって完全な状態で保たれており、マトリックス化合物を含む水溶液を被分析試料溶液と混合する「液滴乾燥法(dried-droplet method)」と一般に呼ばれている。次に、この溶液の1 mLの液滴を乾燥させて、解析目的で質量分析計内に導入される、被分析試料がドープされたマトリックス結晶の固体沈着物を得る。
この方法のポイントは、結果として生じるマトリックス結晶中の被分析試料分子とともに溶液からマトリックス分子を乾燥させること、そしてMALDIプロセスを可能とするマトリックス分子を見つけることである。試料の調製が十分でないと、解像度、再現性、感度が低下する。MALDIの最適化は、試行錯誤がかなりの部分を占める主に経験的な過程である。試料調製時におけるどの選択も、MALDIによる測定の結果に潜在的に影響する場合がある。試料を調製する最適なプロトコルを選択する前に、少数のさまざまな方法を検討することは特異なやり方ではない。結晶化に用いられるさまざまな方法を以下に記載する。
1.液滴乾燥(dried droplet)
液滴乾燥法は、MALDIコミュニティにおける最も古く、また現在でも好ましい試料調製法である。
液滴乾燥法は、MALDIコミュニティにおける最も古く、また現在でも好ましい試料調製法である。
段階的手順:
1.選択された溶媒系中にマトリックス材料の新鮮な飽和溶液を調製する。少量(10〜20 mg)のマトリックス粉末を、1.5 mL容のエッペンドルフチューブ内で1 mLの溶媒と十分に混合し、遠心分離を行って非溶解性のマトリックスのペレットを得る。
2.5〜10 mLの上清マトリックス溶液を小さなエッペンドルフチューブへ移す(注:飽和状態のマトリックスのみを含む溶液の典型的な濃度は1〜100 mMである)。
3.少量(1〜2 mL)のタンパク質溶液(1〜100 mM)をマトリックスに添加する。
4.ボルテックスミキサーで数秒間攪拌して溶液を十分に混合する。
5.結果として得られた混合物の0.5〜2 mLの液滴を質量分析計内の試料プレート上に配置する。
6.液滴を室温で乾燥させる。(注:室温の空気を液滴に吹き付けて乾燥を速める)。
7.液体が完全に蒸発したら、試料を質量分析計内に導入する。MALDI結晶沈着物の典型的な被分析試料の量は0.1〜100ピコモルである。
1.選択された溶媒系中にマトリックス材料の新鮮な飽和溶液を調製する。少量(10〜20 mg)のマトリックス粉末を、1.5 mL容のエッペンドルフチューブ内で1 mLの溶媒と十分に混合し、遠心分離を行って非溶解性のマトリックスのペレットを得る。
2.5〜10 mLの上清マトリックス溶液を小さなエッペンドルフチューブへ移す(注:飽和状態のマトリックスのみを含む溶液の典型的な濃度は1〜100 mMである)。
3.少量(1〜2 mL)のタンパク質溶液(1〜100 mM)をマトリックスに添加する。
4.ボルテックスミキサーで数秒間攪拌して溶液を十分に混合する。
5.結果として得られた混合物の0.5〜2 mLの液滴を質量分析計内の試料プレート上に配置する。
6.液滴を室温で乾燥させる。(注:室温の空気を液滴に吹き付けて乾燥を速める)。
7.液体が完全に蒸発したら、試料を質量分析計内に導入する。MALDI結晶沈着物の典型的な被分析試料の量は0.1〜100ピコモルである。
被分析試料/マトリックス結晶を洗浄して、結晶の表面層上に蓄積する傾向のある当初の溶液の不揮発性成分を除去する(分離)。最も多く推奨される手順は、試料を十部に乾燥(デシケーターによる乾燥または真空乾燥)の後に冷水に短時間浸すことである(4℃の水の場合10〜30秒)。この後に直ちに、試料ステージをはじくことで、またはピペットチップで吸い込むことで過剰な水分を除去する。
この方法は驚くほど単純であり、また多種多様な試料に関して良好な結果をもたらしている。乾燥後の液滴は極めて安定であり、また真空下で、または冷蔵庫内で数日間保存した後にMALDI実験を行うことができる。
液滴乾燥法は、塩および緩衝液の存在を非常によく寛容するが、この寛容には限界がある。試料を上述の手順で洗浄することが有用な場合があるが、仮にシグナルの抑制が疑われる場合は、異なる方法を試してみるべきである(「結晶破砕」を参照)。
液滴乾燥法は通常、複数のタンパク質またはペプチド成分を含む試料について適切な選択である。結晶化に先立つマトリックスと被分析試料の十分な混合は通常、混合物に関して得られる結果の最高の再現性を保証する。
液滴乾燥法で遭遇することの多い問題は、液滴の縁の周囲のリングにおける大量の被分析試料/マトリックス結晶の凝集である。通常、このような結晶は不均一かつ不規則に分布しており、このためMALDIユーザーは試料表面上の「スイート・スポット」を探すことになる。一例として、ペプチドおよびタンパク質が、水性溶媒を含む空気乾燥後の液滴の周囲で形成する2,5-ジヒドロキシ安息香酸の大きな結晶と結合する傾向があることが観察されている(塩は主に、結晶化の終了後に試料スポットの中央に形成されるより小さな結晶中に見出される)。Li et al. (1996)は巧妙な一連の実験で、共焦点蛍光を用いて、液滴乾燥法では、マトリックス結晶間または結晶内部に被分析試料が均一に分布しないことを示した。実際に一部の結晶は被分析試料を全く示さない。
詳しく書かれたMALDIソフトウェアパッケージの多くでは、強いシグナルを発する部分が見つかるまで試料表面をレーザービームでスキャンする手順である、スイート・スポットの自動探索がデータ収集中に可能である。
結晶化中に遭遇することの多いもう1つの問題は、「セグリゲーション(segregation)」として知られる問題である。この現象では、溶媒が蒸発してマトリックスの結晶化が進むに伴い、塩および被分析試料の一部がマトリックス結晶から除かれる。これは特に、カチオン化が、合成高分子および糖質の場合などにおけるイオン化機構である場合に重要である。成分のセグリゲーションは、試料全体に被分析試料の不均一な混合物を生じ、試料表面上におけるレーザーの移動に伴って高度に変わりやすい被分析試料イオンの生成につながる。
2.真空乾燥
真空乾燥による結晶化法は、試料ステージにアプライされた最終被分析試料/マトリックス液滴を真空チャンバー内で迅速に乾燥させる液滴乾燥法の変形である。真空乾燥は、セグリゲーションの作用を小さくすることで被分析試料/マトリックス結晶のサイズを小さくし、また結晶の均一性を高めるのに利用可能な、極めて単純な選択肢の1つである。この方法は、その入り交じった結果と、追加的なハードウエアが必要なために試料調製法として広く採用されるには至っていない。
真空乾燥による結晶化法は、試料ステージにアプライされた最終被分析試料/マトリックス液滴を真空チャンバー内で迅速に乾燥させる液滴乾燥法の変形である。真空乾燥は、セグリゲーションの作用を小さくすることで被分析試料/マトリックス結晶のサイズを小さくし、また結晶の均一性を高めるのに利用可能な、極めて単純な選択肢の1つである。この方法は、その入り交じった結果と、追加的なハードウエアが必要なために試料調製法として広く採用されるには至っていない。
段階的手順:
1.被分析試料/マトリックス試料溶液を、液滴乾燥法の段階1〜4にしたがって調製する。
2.溶液の0.5〜2 mLの液滴を試料ステージにアプライする。
3.試料ステージを真空密閉容器内に直ちに導入し、試料に加わる圧力を真空ポンプを用いて10-2 Torr未満に下げる。溶媒が完全に蒸発するまで待つ。
4.試料を質量分析計内に導入する。
1.被分析試料/マトリックス試料溶液を、液滴乾燥法の段階1〜4にしたがって調製する。
2.溶液の0.5〜2 mLの液滴を試料ステージにアプライする。
3.試料ステージを真空密閉容器内に直ちに導入し、試料に加わる圧力を真空ポンプを用いて10-2 Torr未満に下げる。溶媒が完全に蒸発するまで待つ。
4.試料を質量分析計内に導入する。
真空乾燥法は、MALDI試料を極めて速く乾燥させる方法である。真空乾燥は風乾または加熱乾燥と比べて20〜30倍速い。これは、大量の試料を処理するユーザー、高試料処理能を必要とするユーザー、または低揮発性溶媒を扱うユーザーにとって極めて魅力的な特性である。
この方法がうまくゆけば、真空乾燥によって、小さな結晶を含む、均一な結晶沈着物が得られる。この方法は、各スポット間の再現性を大きく改善し、「スイート・スポット」探索の必要性を抑える。極めて小さな結晶の形成は、より薄い試料の獲得、優れた質量精度、および解像度という追加的な利点をもたらす。イオン形成に必要なレーザー出力量の低下が、同様に調製された風乾または熱乾燥による試料と比較して、真空乾燥された試料で報告されている。
真空乾燥の主な短所は、あらゆる点で液滴乾燥と比較して良好に作動することが保証されず、多くの分析研究室では利用できない可能性のある補助的な真空関連ハードウエアが必要なことである。真空乾燥法で解析されたペプチドおよびタンパク質は、広範囲に及ぶアルカリ陽イオンの付加を示す傾向がある。これは、プローブ上の結晶を冷水で直に洗浄することで実質的に減じることができる。真空系における20秒以上の蒸発時間では、真空乾燥の作用はそれほど顕著ではない。
3.結晶の破壊(crushed crystal)
結晶破砕法は特に、高濃度の不揮発性溶媒(すなわちグリセロール、6M尿素、DMSOなど)の存在下で、何ら精製を行うことなく、被分析試料がドープされたマトリックスの結晶の成長を可能とするために開発された。
結晶破砕法は特に、高濃度の不揮発性溶媒(すなわちグリセロール、6M尿素、DMSOなど)の存在下で、何ら精製を行うことなく、被分析試料がドープされたマトリックスの結晶の成長を可能とするために開発された。
段階的手順:
1.選択した溶媒系中にマトリックス材料の新鮮な飽和溶液を、液滴乾燥法の段階1と同じ手順で調製する。上清の液体を別の容器に移してから、溶解しなかったマトリックス結晶の潜在的な存在を除去するために使用する。
2.飽和マトリックス溶液のアリコート(5〜10 mL)を、タンパク質を含む溶液(1〜2 mL)と混合して、0.1〜10 mMの最終タンパク質濃度を得る。この被分析試料/マトリックス溶液は、より単純な液滴乾燥実験で調製されるものと等価である。同溶液中に存在する不溶性微粒子の除去には特に注意しなければならない。必要であれば遠心分離を行い、その上清を使用する。
3.マトリックスのみを含む溶液の1 mLの液滴を試料ステージ上に配置して風乾する。形成した沈着物は、液滴乾燥沈着物から典型的に得られるものと同一のように見える。
4.清浄なガラススライド(またはガラス棒の平面状の末端)を沈着物上に配し、消しゴムなどのゴム製の棒で表面に押しつける。ガラス表面を横方向に数回回転し、沈着物を表面に塗りつける。
5.破壊されたマトリックスを次にティッシュペーパーでこすって、過剰な粒子を除去する(特に穏やかに行う必要はない)。
6.被分析試料/マトリックス溶液の1 mLの液滴を、塗沫状のマトリックス材料を含むスポットにアプライする。
7.数秒以内に、金属上を覆う基板表面上に不透明な被膜が生成する。
8.約1分後に、試料を室温の水に浸し、不揮発性溶媒および他の混入物を除去する。液滴を洗浄前に乾燥させる必要がないことに注意されたい(被膜が容易に洗い流されることはない)。
9.被膜をティッシュペーパーでぬぐって過剰な水分を除去し、乾燥させてから質量分析計に導入する。
1.選択した溶媒系中にマトリックス材料の新鮮な飽和溶液を、液滴乾燥法の段階1と同じ手順で調製する。上清の液体を別の容器に移してから、溶解しなかったマトリックス結晶の潜在的な存在を除去するために使用する。
2.飽和マトリックス溶液のアリコート(5〜10 mL)を、タンパク質を含む溶液(1〜2 mL)と混合して、0.1〜10 mMの最終タンパク質濃度を得る。この被分析試料/マトリックス溶液は、より単純な液滴乾燥実験で調製されるものと等価である。同溶液中に存在する不溶性微粒子の除去には特に注意しなければならない。必要であれば遠心分離を行い、その上清を使用する。
3.マトリックスのみを含む溶液の1 mLの液滴を試料ステージ上に配置して風乾する。形成した沈着物は、液滴乾燥沈着物から典型的に得られるものと同一のように見える。
4.清浄なガラススライド(またはガラス棒の平面状の末端)を沈着物上に配し、消しゴムなどのゴム製の棒で表面に押しつける。ガラス表面を横方向に数回回転し、沈着物を表面に塗りつける。
5.破壊されたマトリックスを次にティッシュペーパーでこすって、過剰な粒子を除去する(特に穏やかに行う必要はない)。
6.被分析試料/マトリックス溶液の1 mLの液滴を、塗沫状のマトリックス材料を含むスポットにアプライする。
7.数秒以内に、金属上を覆う基板表面上に不透明な被膜が生成する。
8.約1分後に、試料を室温の水に浸し、不揮発性溶媒および他の混入物を除去する。液滴を洗浄前に乾燥させる必要がないことに注意されたい(被膜が容易に洗い流されることはない)。
9.被膜をティッシュペーパーでぬぐって過剰な水分を除去し、乾燥させてから質量分析計に導入する。
液滴乾燥法は、単純で効率がよいことから広く採用されている。良好なシグナルが、比較的高濃度の混入物(塩および緩衝液)を含む当初の溶液から得られている。多くの実際の分析対象試料は、このような物質を含むので、このような不純物を寛容する能力は実用上の重要性が大きい。しかし、液滴乾燥法における不純物混入の寛容には限界がある。特に、かなりの濃度の不揮発性溶媒の存在は、イオンシグナルを減じるか、または完全に除いてしまう。極めて広く用いられている不揮発性溶媒の例には、ジメチルスルホキシド、グリセロール、および尿素などがある。不揮発性溶媒の除去は、被分析試料を溶解する必要か、または安定化する必要がある場合には可能でない場合がある。
液滴乾燥法では、溶媒の蒸発に伴い、液滴全体にわたってランダムに結晶が形成される。液滴の表面は、初期の結晶形成に好ましい部位となる。結晶は液/気界面で形成され、次に対流によって溶液の大部分に運ばれる。最終的な試料沈着物は、このような結晶が散乱しており、仮に不揮発性溶媒が存在しないならば基板に吸着する。不揮発性溶媒が存在する場合は、結晶は形成しないか、または溶媒で被覆された状態で留まり、基板への結合が妨げられる。たとえ結晶が形成されて、沈着物が質量分析計内に導入されても、不揮発性溶媒のコーティングは通常、イオンシグナルの生成を抑制する。結晶を洗浄する試みはたいていの場合、結晶の喪失につながる。なぜなら結晶は、基板と強固に結合されていないからである。
結晶破砕法は、操作的には液滴乾燥法と似ているが、得られる結果は、特に不揮発性溶媒の存在下では大きく異なる。この方法では、金属表面上における迅速な結晶化は、試料のアプライに先立って金属プレート上で破壊された染み状のマトリックス層によって提供される核生成部位によって種が作られる。結晶の核生成は、気/液界面から基板の表面へ移行し、(濃度が緩やかに変化する)溶液中で微結晶が形成される。多結晶被膜は表面に吸着するので、結晶化は、液滴が洗浄されて失われて、その容量が有意に減少する前の任意の時点で停止する場合がある。
このように生じた被膜も、イオン生産および各スポット間の再現性に関して、液滴乾燥沈着物より均一である。
結晶破砕法の短所は、処理工程の追加による試料調製時間の延長である。このため高処理能用途の自動化には適さない。結晶破砕法は、核生成が金属表面から液滴全体へ移動する可能性がある非溶解性のマトリックス結晶を除去するために、溶液調製中に厳格な粒子のコントロールが必要である。
4.迅速蒸発
迅速蒸発法は、MALDIによる測定の解像度および質量精度の改善を主な目的として、Vorm et al. (1994)によって導入された。この方法は、マトリックスおよび試料の扱いが完全に分離された単純な試料調製法である。
迅速蒸発法は、MALDIによる測定の解像度および質量精度の改善を主な目的として、Vorm et al. (1994)によって導入された。この方法は、マトリックスおよび試料の扱いが完全に分離された単純な試料調製法である。
段階的手順:
1.選択されたマトリックス材料を、1〜2%の純水または0.1%の水性TFAを含むアセトンに溶解して、マトリックスのみを含む溶液を調製する。マトリックスの濃度は、飽和点と濃度の3分の1の範囲とすることができる。
2.マトリックスのみを含む溶液の液滴(0.5 mL)を試料ステージにアプライする。液体は速やかに拡がり、溶媒は、ほぼ瞬時に蒸発する。
3.結果として得られたマトリックス表面が均一か否かをチェックする。端が若干厚くなることは別として、不均一性が光学顕微鏡(>10倍)で観察されないようにすべきである。
4.試料溶液(0.1〜10 mM)の液滴(1 mL)をマトリックス層の上面にアプライし、自然乾燥させるか、または窒素ガスで乾燥させる。
5.液滴が乾燥したら、質量分析計に導入して解析を行う。
1.選択されたマトリックス材料を、1〜2%の純水または0.1%の水性TFAを含むアセトンに溶解して、マトリックスのみを含む溶液を調製する。マトリックスの濃度は、飽和点と濃度の3分の1の範囲とすることができる。
2.マトリックスのみを含む溶液の液滴(0.5 mL)を試料ステージにアプライする。液体は速やかに拡がり、溶媒は、ほぼ瞬時に蒸発する。
3.結果として得られたマトリックス表面が均一か否かをチェックする。端が若干厚くなることは別として、不均一性が光学顕微鏡(>10倍)で観察されないようにすべきである。
4.試料溶液(0.1〜10 mM)の液滴(1 mL)をマトリックス層の上面にアプライし、自然乾燥させるか、または窒素ガスで乾燥させる。
5.液滴が乾燥したら、質量分析計に導入して解析を行う。
結晶の洗浄に関しては、TOF分析計への導入に先立って結晶を洗浄することが推奨される。5〜10 mLの水の液滴、または希水性有機酸(すなわち0.1% TFA)の大きな液滴を試料スポットの上面にアプライする。この液体を、試料上に2〜10秒間維持した後に振り落とすか、または加圧空気で吹き飛ばす。この手順は1回または2回繰返すことができる。洗浄液はアルカリ金属を含まないものでなければならず、中性または酸性のものとすべきである(すなわち0.1% TFA)。
圧縮空気スプレー(pneumatic spraying):マトリックスのみの層の圧縮空気スプレー法は、迅速蒸発法に代わる方法として示唆されている。このプロセスは、MALDI標的を事前にコーティングするように使用可能な安定かつ長寿命のマトリックス被膜を提供する。
迅速蒸発法は、液滴乾燥法で得られる同等の沈着物と比べて粗さが10〜100倍小さな多結晶表面をもたらす。共焦点蛍光実験で、試料沈着領域の全体にわたって、被分析試料が液滴乾燥法と比べて均一に分布することが証明されている。
試料表面の均一性を改善することには、以下に挙げるいくつかの利点がある。(1)データ収集がより迅速である。表面上の全スポットは、同じレーザー照射量では類似のスペクトルを生じる。スイート・スポットの探索は必要なく、平均化する必要は少ない。通常、最初の数回のレーザーショットの結果で実験の結果が十分に決定される。(2)シグナルと被分析試料濃度間の良好な相関が見られる(定量法とはなっていない)。(3)各試料間の結果の再現性が大きい。(4)感度が改善される。ペプチドはアトモルレベルで検出されている。より高いイオンシグナルは、MALDIシグナルが発せられると考えられている結晶の外層における被分析試料分子の選択的な局在と組み合わされた、より小さな結晶の表面積の増大の結果であると説明されている。(5)洗浄性の改善。塩および不純物を、試料沈着物から、より容易に洗い流すことができる(結晶が金属表面に、また相互に強固に結合しているため)。(6)解像度および質量測定の精度の改善。液滴乾燥法による結果と比較して少なくとも2倍の解像度の改善の報告がある。質量精度の改善により、内部標準が必要なくなる可能性がある。(7)マトリックス表面が事前に調製可能。試料スポット上におけるマトリックス溶液の迅速蒸発で調製された、事前にコーティングされた試料プレートを少数の業者から入手することができる。
この方法に関連づけられている短所をいくつか挙げる。(1)ペプチドとタンパク質の混合物に関して再現性の良好な各試料間データが得られない。タンパク質またはペプチドの試料が複数の成分を含む場合は、液滴乾燥法またはオーバーレイヤー(overlayer)法を最初に試みることが最も適している。沈着物形成に先立つ被分析試料とマトリックス溶液の十分な混合は、得られるスペクトルの再現性を高める。(2)個々の結晶上におけるタンパク質をドープしたマトリックスの層は通常、非常に薄いので、レーザースポット上の少数のスポットに対応するイオンのみ生じる。レーザースポットは、シグナルのレベルを保つために、新しい位置へ絶えず動かなければならない。この結果、データ収集ループの動作周期が減ることになり、処理能が低下する。(3)アセトンなどの高揮発性溶媒を使用すると、再現性のある試料スポットの作製は困難になる。このような溶媒は表面張力が低く、金属表面上に制御不能に拡散する。マトリックスのみの液滴が輸送される前に、ある程度のさまざまな量の溶媒が常に失われて蒸発する。(4)この方法は、ペプチドの解析に非常に有効であるが、タンパク質についてはそれほど有効ではない。タンパク質の場合は2層法を最初に検討するとよい。
5.オーバーレイヤー(2層、シードレイヤー)
オーバーレイヤー法は、結晶破砕法および迅速蒸発法を元に開発された。この方法では、迅速に溶媒を蒸発させて小さな結晶の第1層を形成させ、これに続いて、結晶層の上面にマトリックスと被分析試料溶液の混合物の沈着物を形成させる(結晶破砕法における試料マトリックスの沈着物形成段階と同様)。この方法の開発経過、および複数の名称は、複数の研究グループによる取り組みに結びつけることができる(Li et al., 1999)。
オーバーレイヤー法は、結晶破砕法および迅速蒸発法を元に開発された。この方法では、迅速に溶媒を蒸発させて小さな結晶の第1層を形成させ、これに続いて、結晶層の上面にマトリックスと被分析試料溶液の混合物の沈着物を形成させる(結晶破砕法における試料マトリックスの沈着物形成段階と同様)。この方法の開発経過、および複数の名称は、複数の研究グループによる取り組みに結びつけることができる(Li et al., 1999)。
段階的手順:
1.第1層溶液(マトリックスのみ):アセトン、メタノール、またはこれらの組み合わせなどの速やかに蒸発する溶媒中に高濃度の(5〜50 mg/mL)マトリックスのみを含む溶液を調製する。
2.第2層溶液(被分析試料/マトリックス):第2層溶液を以下の3段階で調製する。選択された溶媒系中に、マトリックス材料の新鮮な飽和溶液を調製する。少量(10〜20 mg)のマトリックス粉末を、1.5 ml容のエッペンドルフチューブ中で1 mlの溶媒と十分に混合した後に遠心分離を行い、溶解しなかったマトリックスのペレットを得る。5〜10 mLの上清マトリックス溶液を小さなエッペンドルフチューブに移す。少量(1〜2 mL)のタンパク質溶液(1〜100 mM)をマトリックスに添加する。溶液をボルテックスミキサーで数秒間、十分混合する。これが第2層溶液となる。
3.第1層溶液の液滴(0.5 mL)を試料プレートにアプライし、乾燥させて微結晶層を形成させる。
4.第2層溶液の液滴(0.5〜1 mL)を、結晶層の上面にアプライして風乾する。第1の結晶層が完全に溶解している場合は、作業を中止し、少量の第2層溶液、またはさまざまな溶媒系を用いて再び試みる。
1.第1層溶液(マトリックスのみ):アセトン、メタノール、またはこれらの組み合わせなどの速やかに蒸発する溶媒中に高濃度の(5〜50 mg/mL)マトリックスのみを含む溶液を調製する。
2.第2層溶液(被分析試料/マトリックス):第2層溶液を以下の3段階で調製する。選択された溶媒系中に、マトリックス材料の新鮮な飽和溶液を調製する。少量(10〜20 mg)のマトリックス粉末を、1.5 ml容のエッペンドルフチューブ中で1 mlの溶媒と十分に混合した後に遠心分離を行い、溶解しなかったマトリックスのペレットを得る。5〜10 mLの上清マトリックス溶液を小さなエッペンドルフチューブに移す。少量(1〜2 mL)のタンパク質溶液(1〜100 mM)をマトリックスに添加する。溶液をボルテックスミキサーで数秒間、十分混合する。これが第2層溶液となる。
3.第1層溶液の液滴(0.5 mL)を試料プレートにアプライし、乾燥させて微結晶層を形成させる。
4.第2層溶液の液滴(0.5〜1 mL)を、結晶層の上面にアプライして風乾する。第1の結晶層が完全に溶解している場合は、作業を中止し、少量の第2層溶液、またはさまざまな溶媒系を用いて再び試みる。
TOF分析計への導入前に結晶を洗浄することが推奨されることが多い。水または希水性有機酸(0.1% TFA)の大きな液滴(5〜10 mL)を試料スポットの上面にアプライする。この液体を、試料上に2〜10秒間維持した後に振り落とすか、または加圧空気で吹き飛ばす。この手順は1回または2回繰返すことができる。洗浄液はアルカリ金属を含まないものでなければならず、中性または酸性のものとすべきである(すなわち0.1% TFA)。
迅速蒸発法とオーバーレイヤー法の差は第2層溶液にある。第2段階へのマトリックスの添加は、特にタンパク質、またペプチドとタンパク質の混合物に関して結果の改善をもたらすと考えられている。
オーバーレイヤー法には、以下のような複数の好都合の特徴があるために、非常に広く使用されている。(1)迅速蒸発法に関して詳述した、すべての利点をそのまま受け継いでおり、その限界のいくつかを回避していること。(2)タンパク質に関して迅速蒸発法で可能な場合をしのぐ、感度の増強と各スポット間の優れた再現性をもたらすこと。このような増強は、過剰なマトリックス分子の存在下で、結晶表面におけるマトリックスによる被分析試料分子の分離の改善に起因する可能性が高い。(3)第2層被分析試料/マトリックス溶液を慎重に最適化することにより、オーバーレイヤー法は、ペプチドとタンパク質の両方を含む複合混合物の解析に極めて有効なことがわかっている。第2層の条件を操作可能なことで、試料調製に柔軟性が生じる。
6.サンドイッチ
サンドイッチ法は迅速蒸発法およびオーバーレイヤー法に由来する。この方法はLi (1996)によって最初に報告され、質量分析による1種類の哺乳動物細胞溶解液の解析に使用されている。同報告では、試料提示表面を最小とするための、Microspot MALDI試料の調製に関する記述も含まれている。
サンドイッチ法は迅速蒸発法およびオーバーレイヤー法に由来する。この方法はLi (1996)によって最初に報告され、質量分析による1種類の哺乳動物細胞溶解液の解析に使用されている。同報告では、試料提示表面を最小とするための、Microspot MALDI試料の調製に関する記述も含まれている。
サンドイッチ法では、被分析試料をマトリックスと事前に混合しない。試料液滴を、迅速蒸発法で調製されたマトリックスのみを含む層の上面に、迅速蒸発法の場合と同様にアプライした後に、典型的な(不揮発性)溶媒中のマトリックスの第2層の沈着物を形成させる。試料は基本的に2つのマトリックス層に挟まれる。
7.スピンコーティング(Spin Coating)
試料基板をスピンコーティングする方法に基づく、大きな生体分子のほぼ均一な試料の調製はPerera (1995)によって最初に報告された。原著論文では、直径1インチのステンレス鋼および石英製のプレート上に試料が沈着され、多量(3〜10 mL)の事前に混合された試料溶液が使用された。使用されたスピンコーター(spin coater)は自家製であり、約300 rpmで使用され、空気中に均一に拡散する結晶沈着物が得られた。試料は極めて均一であり、再現性は高く、また試料標的の全領域からの分子-イオン収量はかなり高かった。
試料基板をスピンコーティングする方法に基づく、大きな生体分子のほぼ均一な試料の調製はPerera (1995)によって最初に報告された。原著論文では、直径1インチのステンレス鋼および石英製のプレート上に試料が沈着され、多量(3〜10 mL)の事前に混合された試料溶液が使用された。使用されたスピンコーター(spin coater)は自家製であり、約300 rpmで使用され、空気中に均一に拡散する結晶沈着物が得られた。試料は極めて均一であり、再現性は高く、また試料標的の全領域からの分子-イオン収量はかなり高かった。
被分析試料/マトリックス試料のスピンコーティングは良好で、これは通常、より均一な沈着物が1つのスポットの試料ステージ上に得られる。しかし、現在市販されている多くの装置のような複数の試料ウェルを有するMALDIプレート用に実行可能な選択肢ではない。
8.緩やかなコーティング(slow coating)
タンパク質がドープされた大きなマトリックス結晶を、迅速に乾燥する液滴中ではなく、ほぼ平衡な条件で成長させることが可能である(Beavis and Xiang, 1993)。タンパク質を含む過飽和マトリックス溶液は、イオン源内に直接使用可能な結晶を形成する。過飽和は、加熱、冷却、または緩やかな蒸発によって達成することができる。タンパク質がドープされた結晶を切断して、適切に決められた表面にレーザービームを当てることができる。
タンパク質がドープされた大きなマトリックス結晶を、迅速に乾燥する液滴中ではなく、ほぼ平衡な条件で成長させることが可能である(Beavis and Xiang, 1993)。タンパク質を含む過飽和マトリックス溶液は、イオン源内に直接使用可能な結晶を形成する。過飽和は、加熱、冷却、または緩やかな蒸発によって達成することができる。タンパク質がドープされた結晶を切断して、適切に決められた表面にレーザービームを当てることができる。
緩やかな結晶化法は一般に、pHおよび溶液と無関係に、低質量ペプチドより高質量成分の検出に適している。
タンパク質がドープされた大きな結晶を作る段階には、上述の迅速に乾燥させる(非平衡な)結晶化法と比較して、以下のようないくつかの短所がある。(1)長い時間がかかること。結晶が成長するまで長時間を要し、大規模な高処理能用途に現実的であるとは全く言えない。(2)ピーク幅の増大が多く見られる。(3)試料層の不規則な配置のために高い質量精度が全く期待できない。(4)結晶の成長に、従来の方法より多くの被分析試料(10〜100倍)が必要である。
しかしながら、このような問題を抱えつつも、以下に挙げるいくつかの利点もある。(1)液滴乾燥実験で生じるイオンシグナルを抑制する濃度における不揮発性溶媒を含む溶液からの結晶の成長が可能である。(2)高濃度の非タンパク様溶質が結晶のドーピングに影響しない(界面活性剤は例外)。(3)ポリペプチドの混合物を結晶に取り込ませて解析することができる。(4)結晶の操作が容易である。一般的な操作は、洗浄、切断、エッチング、およびマウント化である。(5)結晶表面の凹凸が顕著である。(6)結晶が、基本的なMALDIイオン化機構の実験に対して、より定まった開始条件をもたらす。
9.エレクトロスプレー
MALDI-MS用の試料の沈着物形成としてのエレクトロスプレーはOwens and Axelsson (1997; 1999)によって示唆された。この手法では、少量のマトリックス-被分析試料混合物を、HV-biasedの(3〜5 KV)のステンレス鋼またはガラス製のキャピラリから、キャピラリの先端から0.5〜3 cm離してマウントした研磨済みの金属製試料プレート上にエレクトロスプレー処理する。
MALDI-MS用の試料の沈着物形成としてのエレクトロスプレーはOwens and Axelsson (1997; 1999)によって示唆された。この手法では、少量のマトリックス-被分析試料混合物を、HV-biasedの(3〜5 KV)のステンレス鋼またはガラス製のキャピラリから、キャピラリの先端から0.5〜3 cm離してマウントした研磨済みの金属製試料プレート上にエレクトロスプレー処理する。
エレクトロスプレーによる試料の沈着物形成では、均等な大きさの微結晶の均一な層が作られ、またゲスト分子は試料中に均一に分布する。この方法は、迅速な蒸発を達成するために、また試料のセグリゲーション効果を可能な限り有効に小さくするために提案された。電気的に沈着された試料に由来するMALDIスペクトル中における陽イオン付加物の存在は、溶液成分が、液滴乾燥された同等の沈着物ほどゆらいでいないことを意味する。
エレクトロスプレーによるマトリックスの沈着は、生物学的試料中のペプチドおよびタンパク質を対象としたMALDIベースの分子イメージング中に組織試料をコーティングするために使用された(Caprioli et al., 1997)。マトリックスのみを含む溶液が、テトラサイクリン試料の不純物スポットの直接MALDI解析を行うためにTLCプレート上にエレクトロスプレー処理された(Clench et al., 1999)。
エレクトロスプレーで沈着された試料には、従来の液滴法をしのぐ、以下のような複数の利点があることがわかっている。(1)1つの試料沈着物内における各スポット間、および複数の沈着物形成時の各試料間のMALDIの結果の再現性が大きく改善されている。典型的な各試料間の差は10〜20%である。(2)被分析試料濃度とマトリックスシグナル間の相関も改善されている。内部標準を使用した定量はOwensによって報告されている。(3)試料の沈着物は、レーザー照射に対する耐性がかなり大きい。より多くのショットを、任意の1つのレーザースポット位置から回収することができる。(4)この方法は、MALDI試料の調製を、キャピラリ電気泳動および液体クロマトグラフィーにつなげることを可能とする経路を提供する。
短所には以下のようなものがある。(1)長時間を要すること。有用な沈着物の作製に1〜5分間を要する。新しい被分析試料に切り替えるための時間もかかる。というのは前回の測定後にキャピラリから残存試料を十分に除去してからスプレー処理を開始しなければならないからである。(2)塩の付加物が問題となり、またマトリックスおよび試料の脱塩処理が、カチオン化シグナルを除くために通常必要とされる。(3)追加装置と、使用のための訓練が必要である。(4)危険性のある高電圧の使用が含まれる。
エアロスプレー(圧縮空気によるスプレー処理)は、代替的な試料スプレー処理法であるとされている。最近の結果では、この試料調製法の再現性が高いことが報告されている(Wilkins et al., 1998)。均一で薄い被膜を容易に作製可能であり、各スポット間の再現性と各試料間の再現性が良好である。
両手法を、噴霧用にエアロスプレーを用いて、また溶媒の蒸発と液滴の大きさを制御するために電場を用いることで連結できる可能性がある。
10.マトリックスで事前にコーティングされた標的
ペプチドおよびタンパク質を対象としたMALDIによる解析用に、マトリックスで事前にコーティングされた標的の使用の検討が複数の研究グループによって行われている。試料調製法の利点を、事前にコーティングされた標的スポットへの、非希釈試料の1滴の単なる添加へと縮小して現実化することは容易である。このような方法は、前述の方法より迅速で高感度なだけでなく、MALDI試料の調製をLCカラムおよびCEカラムの出力に直接連結させる機会を提供する可能性もある。
ペプチドおよびタンパク質を対象としたMALDIによる解析用に、マトリックスで事前にコーティングされた標的の使用の検討が複数の研究グループによって行われている。試料調製法の利点を、事前にコーティングされた標的スポットへの、非希釈試料の1滴の単なる添加へと縮小して現実化することは容易である。このような方法は、前述の方法より迅速で高感度なだけでなく、MALDI試料の調製をLCカラムおよびCEカラムの出力に直接連結させる機会を提供する可能性もある。
初期の取り組みでは、MALDI標的上の薄いマトリックスのみの層を迅速に蒸発させるための圧縮空気スプレー装置の使用が報告されている(Kochling and Biemann, 1995)。微結晶性の被膜は極めて安定で寿命が長く、またペプチドおよび小型タンパク質に対する適切なMALDIスペクトルが得られた。
他の大半の取り組みでは、薄層マトリックスで事前にコーティングされた膜の開発に焦点が当てられている。膜材料の選択には特に注意が払われている。検討されたいくつかの選択肢(得られた結果は多様)には、ナイロン、PVDF、ニトロセルロース、陰イオンおよび陽イオン修飾セルロース、ならびに再生セルロースなどがある。スペクトルの感度と質に関して特に有望な結果がZhang and Caprioli (1996)により、再生セルロース透析膜に関して得られている。同文献に紹介された膜の事前コーティング手順では、ペプチドおよび小型タンパク質(25 KDa未満)を対象とした液滴乾燥法に匹敵する結果が得られた。より大きなタンパク質(>25 KDa)では良好な結果は得られなかった。これはおそらく、事前にコーティングされた膜中で利用可能なマトリックスの量が少ないこと、および/またはタンパク質がドープされた微結晶が形成されなかったことに起因すると考えられる。
ペプチドを対象としたMALDI-TOF MS用の試料の調製にニトロセルロースを用いることでイオン収量を高めることが可能なことが報告されている(Preston et al., 1993)。質量分析およびオプションとしての顕微鏡による観察の結果、ニトロセルロースの追加がマトリックス-被分析試料溶液の結晶化を修飾して、試料表面をより均一に覆うことを可能とすることが示唆されている。
Hutchens(1993)は、表面エンハンス型ニート脱離(Surface-Enhanced Neat Desorption; SEND)と自ら命名した試料調製法を開発した。この方法では、エネルギー吸収性分子を基板に結合させて、「ニート」な被分析試料イオンの脱離を可能とする化学的に修飾された表面を提供する。得られた結果は非常に有望であったが、この手法は、一般的なMALDI領域における主要な方法とはならなかった。
IV.タンパク質の処理
タンパク質の消化法には酵素的方法と化学的方法の2つの基本的な方法がある。酵素による消化の方が一般的である。理想的な消化では、特定のアミノ酸でのみ、しかし対象アミノ酸のすべてにおいて切断される。消化部位の数は、多すぎるペプチドを生じないようにすべきである(ペプチドの分離は非常に困難なため)。一方、消化が非常に少ないと、ある種の解析には長すぎるペプチドが生じる。
タンパク質の消化法には酵素的方法と化学的方法の2つの基本的な方法がある。酵素による消化の方が一般的である。理想的な消化では、特定のアミノ酸でのみ、しかし対象アミノ酸のすべてにおいて切断される。消化部位の数は、多すぎるペプチドを生じないようにすべきである(ペプチドの分離は非常に困難なため)。一方、消化が非常に少ないと、ある種の解析には長すぎるペプチドが生じる。
最も一般的な消化はトリプシン、およびリシンに特異的なプロテイナーゼによる。というのはこれらの酵素は信頼性が高く、特異的であり、また適切な数のペプチドを生じるからである。これらに続く極めて一般的な消化は、エンドプロテイナーゼGlu-C、またはエンドプロテイナーゼAsp-Nによるアスパラギン酸またはグルタミン酸における消化である。キモトリプシンが使用されることがあるが、良好な特異性は得られていない。特異度の大きいプロテイナーゼは多くのペプチドを生じる可能性があり、またこのようなペプチドは非常に短くなる場合がある。化学的切断では、臭化シアンが最も一般的である。どの化学的消化も、良好な酵素的消化より効率が悪い。しかし化学的消化は、精製上の任意の問題を小さくする可能性がある少数のペプチドのみを生じる。
V.標準ペプチドの設計
標準ペプチドの選択および標準ペプチドの設計は、正確な定量MALDI-TOF MSのための重要な側面である。任意のタンパク質に関して、測定対象となる存在環境で、対象タンパク質に特異的であり、かつ独特な指標となるペプチドまたはペプチド群を選択しなければならない。ヒト心筋のαミオシン重鎖などの高度に保存されたタンパク質は、他の種と共通する診断用ペプチドを有するが、ヒト試料のみが解析される場合は、診断用ペプチドは、ヒト心筋のαミオシン重鎖は、他のヒト心筋ミオシンのアイソフォームと区別されるだけでよいと言える。したがって診断用ペプチドの選択は、標準ペプチドの設計上のパラメータを設定する。
標準ペプチドの選択および標準ペプチドの設計は、正確な定量MALDI-TOF MSのための重要な側面である。任意のタンパク質に関して、測定対象となる存在環境で、対象タンパク質に特異的であり、かつ独特な指標となるペプチドまたはペプチド群を選択しなければならない。ヒト心筋のαミオシン重鎖などの高度に保存されたタンパク質は、他の種と共通する診断用ペプチドを有するが、ヒト試料のみが解析される場合は、診断用ペプチドは、ヒト心筋のαミオシン重鎖は、他のヒト心筋ミオシンのアイソフォームと区別されるだけでよいと言える。したがって診断用ペプチドの選択は、標準ペプチドの設計上のパラメータを設定する。
標準ペプチドは診断用ペプチドと相同性が極めて高いので、診断用ペプチドの配列は、標準ペプチドの設計の出発点となる。この場合、対象配列は、標準となるペプチドの質量を変化させるに違いないので、当初の標準ペプチドの化学的性質を保ちながら標準ペプチドとMALDI-TOF MSの区別が可能となる。これは、標準固相ペプチド合成装置による標準ペプチドの容易な調製を可能とする、1つの保存的アミノ酸置換(この場合はVとIの置換、図2)によって極めて容易に達成される。一般的ではないアミノ酸または安定同位体アミノ酸を使用することもできる。置換はペプチドの電荷または疎水性の変化を生じるべきではない。というのはこれらの変化は、ペプチドの回収率、またはペプチドのマトリックスとの共結晶能力、またはイオン化能力を変えてしまうことで、MALDI-TOFシグナルの生成を変化させる恐れがあるからである。標準ペプチドは、試料中に存在する他の任意のペプチドと重複しないMALDI-TOF MS質量シグナルを有するものでもなければならない。これは、試料の複雑度が増すとともに困難になってゆくことは言うまでもない。
本明細書に記載された例では、1次元ゲル電気泳動で、標準ペプチドシグナルが他のペプチドに干渉することなく現れる可能性のあるオープン領域を有するMALDI-TOFスペクトルを示す心筋ミオシン重鎖試料が十分生じる。他のタンパク質に関しては、標準ペプチドシグナルが他のペプチドに干渉することなく出現可能なオープン領域を有するMALDI-TOFスペクトルを示す試料を得るために2次元電気泳動または免疫沈降を実施する必要がある場合がある。このようなオープン領域は標準ペプチドの近傍に位置しなければならない。というのは標準ペプチドは、標準ペプチドの質量に近い質量を有するからである。これは、標準ペプチドの選択に影響を及ぼす場合がある。仮に、複数の潜在的な標準ペプチドが存在する場合は、試料スペクトルを、最高のシグナルを有し、また標準ペプチドシグナルの近傍にオープン領域を有する標準ペプチドを見つけるように調べることができる。この場合、選択された心筋ミオシン重鎖の標準ペプチドは、スペクトル(図1)中に最高のシグナルを生じ、またこれらの間の領域は、標準ペプチド(図7)に関してオープンであった(図4)。任意のタンパク質および試料に関して、最適な標準ペプチドを選択するためにMALDI-TOFスペクトルの解析が必要となる。これは、上述の手順による最適な標準ペプチドの設計を可能とする、
VI.ミオシン重鎖(MyHC)のアイソフォーム
哺乳動物の心臓ではα-MyHCとβ-MyHCの心筋MyHCの2つのアイソフォームが発現される。α-MyHCは、ATP加水分解速度が速い、速いMyHCであり、β-MyHCは遅いMyHCである。ATPase活性の速度は心筋収縮速度(Schwartz et al., 1981; Swynghedauw et al., 1986; Nadal-Ginard et al., 1989)と、またアクチンフィラメントの滑り速度(Harris et al., 1994; Van Buren et al., 1995)と直接相関する。齧歯類などの小型哺乳動物の成体はα-MyHCを主に発現し、ヒトなどの大型哺乳動物の成体はβ-MyHCを主に発現する(Rouslin et al., 1996; Clark et al., 1982; Gorza et al., 1984)。齧歯類におけるアイソフォームの比は、加齢(Dechesne et al., 1985; Fitzsimons et al., 1999)、運動(Pagani et al., 1983)、または甲状腺ホルモンの変化(Dechesne et al., 1985; Hoh et al., 1978; Martin et al., 1982)に伴って変化する場合がある。圧負荷、体液量過剰、または心筋梗塞は、齧歯類の心臓の肥大を誘導し、これにはα-MyHC遺伝子の下方制御とβ-MyHC遺伝子の上方制御が伴う(Nadal-Ginard et al., 1989; Lompre et al., 1979; Schwartz et al, 1992; Schwartz et al. 1993; Parker et al., 1998)。齧歯類の心筋におけるアイソフォームは、タンパク質レベルにおけるこれらの変化の追跡を可能とする電気泳動で容易に分離することができる。対照的にヒトのアイソフォームは、後述するように分離が極めて困難である。特に注目される最近の研究では、12%のα-MyHCを発現するラット筋細胞が、α-MyHCを0%発現する細胞と比較して52%以上の出力を生じたことが報告された(Herron et al., 2002)。理論モデルからも、少量のα-MyHCが、力の発生を有意に加速する可能性があることが推定されている(Razumova et al., 2001)。これらの研究は、少量のα-MyHCを発現するヒト心臓に極めて重要であり、また少量のα-MyHCが正常ヒト心臓の機能に重要な役割を果たす可能性があることを示唆している。
哺乳動物の心臓ではα-MyHCとβ-MyHCの心筋MyHCの2つのアイソフォームが発現される。α-MyHCは、ATP加水分解速度が速い、速いMyHCであり、β-MyHCは遅いMyHCである。ATPase活性の速度は心筋収縮速度(Schwartz et al., 1981; Swynghedauw et al., 1986; Nadal-Ginard et al., 1989)と、またアクチンフィラメントの滑り速度(Harris et al., 1994; Van Buren et al., 1995)と直接相関する。齧歯類などの小型哺乳動物の成体はα-MyHCを主に発現し、ヒトなどの大型哺乳動物の成体はβ-MyHCを主に発現する(Rouslin et al., 1996; Clark et al., 1982; Gorza et al., 1984)。齧歯類におけるアイソフォームの比は、加齢(Dechesne et al., 1985; Fitzsimons et al., 1999)、運動(Pagani et al., 1983)、または甲状腺ホルモンの変化(Dechesne et al., 1985; Hoh et al., 1978; Martin et al., 1982)に伴って変化する場合がある。圧負荷、体液量過剰、または心筋梗塞は、齧歯類の心臓の肥大を誘導し、これにはα-MyHC遺伝子の下方制御とβ-MyHC遺伝子の上方制御が伴う(Nadal-Ginard et al., 1989; Lompre et al., 1979; Schwartz et al, 1992; Schwartz et al. 1993; Parker et al., 1998)。齧歯類の心筋におけるアイソフォームは、タンパク質レベルにおけるこれらの変化の追跡を可能とする電気泳動で容易に分離することができる。対照的にヒトのアイソフォームは、後述するように分離が極めて困難である。特に注目される最近の研究では、12%のα-MyHCを発現するラット筋細胞が、α-MyHCを0%発現する細胞と比較して52%以上の出力を生じたことが報告された(Herron et al., 2002)。理論モデルからも、少量のα-MyHCが、力の発生を有意に加速する可能性があることが推定されている(Razumova et al., 2001)。これらの研究は、少量のα-MyHCを発現するヒト心臓に極めて重要であり、また少量のα-MyHCが正常ヒト心臓の機能に重要な役割を果たす可能性があることを示唆している。
ヒトでは、IDCまたはCADに起因する心不全でα-MyHCのmRNAの下方制御もみられる(Lowes et al., 1997; Nakao et al., 1997)。α-MyHCのmRNAの割合は正常心臓では〜30%であり、不全心では〜15%である。β-アドレナリン受容体遮断薬で心不全治療が実施された患者に関して最近発表された研究は特に重要である。駆出率の上昇の測定により、治療に好ましく反応した患者では、α-MyHCのmRNAの増加とβ-MyHCのmRNAの減少が判明し(Lowes et al., 2002)、この結果はα-MyHCがヒト心機能に極めて重要な役割を果たすことを示唆している。mRNAとタンパク質濃度間の相関は低いので、α-MyHCタンパク質を測定することは重要になる。
α-MyHCに対する免疫蛍光染色の減少は、肥大性の(Gorza et al., 1984)IDC、およびCAD(Bouvagnet et al., 1989)のヒト心臓で認められているが、この方法は定量が困難である。ヒト心筋MyHCのアイソフォームは極めて類似しており、齧歯類のアイソフォームの分離に使用されている通常の電気泳動法では分離できない。少量のヒトMyHCは特殊な電気泳動法で分離することができる(Reiser et al., 1998)。ある研究グループがこの手法で、正常ヒト左心室が7.2%のα-MyHCタンパク質を含むこと、またIDCおよびCADの左心室には検出可能なα-MyHCが含まれないことを見出した(Miyata et al., 2000)。別のグループは、α-MyHC量が正常ヒト左心室では2.5%であり、IDCの左心室では0.3%であり、またCADの左心室では1.3%であることを見出した(Reiser et al., 2001)。このような不一致は、この方法では良好な分離が困難であり、少量の試料が銀染色に必要なために生じた可能性がある。銀染色はダイナミックレンジが極めて狭いので、染色強度はタンパク質濃度と直線的とはならない。これは、診断および治療のモニタリングに使用可能な、正確な心筋MyHCタンパク質アイソフォームのアッセイ法の必要性を意味する。
VII.アクチンのアイソフォーム
心筋のα-アクチン(Cアクチン)、および骨格のα-アクチン(Sアクチン)は極めて相同なタンパク質である。わずか4アミノ酸だけが異なるが、この差は、鳥類からヒトに至るまで完全に保存されており、またアイソフォームは、厳密に調節された発生および組織に特異的なパターンで発現される(Kumar et al., 1997; Rubenstein et al., 1990)。この事実は、アイソフォーム間のわずかな差が生理学的に重要であること、また形状が交換できないことを示唆している。
心筋のα-アクチン(Cアクチン)、および骨格のα-アクチン(Sアクチン)は極めて相同なタンパク質である。わずか4アミノ酸だけが異なるが、この差は、鳥類からヒトに至るまで完全に保存されており、またアイソフォームは、厳密に調節された発生および組織に特異的なパターンで発現される(Kumar et al., 1997; Rubenstein et al., 1990)。この事実は、アイソフォーム間のわずかな差が生理学的に重要であること、また形状が交換できないことを示唆している。
齧歯類の心臓の初期発生では、CアクチンとSアクチンは同時に発現されるが、成体の正常心臓ではSアクチンは下方制御され、Cアクチンがほぼ独占的に発現される(Schwartz et al., 1992)。Cアクチンの遺伝子を破壊すると、大半のマウスは誕生まで生き延びられず、また残りの個体はたとえアクチンのある程度の上方制御があっても2週間以内に死ぬ(Kumar et al., 1997; Jones et al., 1996)。腸平滑筋g-アクチン(Eアクチン)の異所性発現は、マウスの生存を可能とする場合があるが、その心臓は低拍出性であり、また肥大することから、Cアクチンのみが正常心臓発生を支持可能なことが示唆される。ニワトリ胚の発生では、Cアクチンの発現は、成熟型の均一な薄いフィラメント長の獲得と一致する。したがってCアクチンは、正しい心筋サルコメアの集合に必要な場合がある(Gregorio and Antin, 2000; Littlefield and Fowler, 1998)。齧歯類の成体の心臓では、Sアクチンの上方制御は、圧負荷によって(Nadal-Ginard et al., 1989; Schwartz et al., 1992; Schwartz et al., 1993; Mercadier et al., 1993)(および、他の多くの場合)、または心筋梗塞(Parker et al., 1998; Orenstein et al., 1995; Tsoporis et al., 1997)のいずれかによって誘導される肥大の典型的な特徴である。これは、胎仔の遺伝子プログラムの再活性化によると解釈されている。興味深いことに、BALB/cマウスは大量のSアクチンを心臓に自然に発現し(Alonso et al., 1990)、またこの発現は、収縮力の上昇と相関している(Hewett et al., 1994)。したがって、肥大時におけるSアクチン発現の上昇は補償的な機構である可能性がある。
ヒトでは、このような状況は不明である。初期発生ではSアクチンは検出可能でない(Boheler et al., 1995)ことから、Cアクチンが心筋発生に十分なことが示唆されている。SアクチンのmRNAは妊娠13週に発現を開始し、誕生時には全アクチンのmRNA約20%であったものが成体では約60%へと増加する(Boheler et al., 1991)。ある研究グループはRNAドットブロット法で、正常心臓と比較して、拡張型心筋症または冠動脈疾患の患者のSアクチンのmRNA量に差を見出せなかった。ノーザンブロットを用いた別のグループは、肥大型心筋症の患者ではSアクチンのmRNAの発現が正常心臓と比較して4倍高かったことを見出した(Lim et al., 2001)。いずれの研究においても指摘されている1つの大きな問題は、測定がタンパク質ではなくmRNAを対象にしてのみ成されたということであった。この理由は、mRNAの非翻訳領域が、アイソフォームのmRNAを容易に区別するには十分多様な一方で、タンパク質は均一であり、ほぼ識別できないことにある。しかしながら、拡張型心筋症の患者を対象とした研究で、CアクチンとSアクチンのmRNA濃度の幅が大きく、またタンパク質濃度と相関しないことが報告されている(dos Remedios et al., 1996)。真核生物でmRNAとタンパク質間の相関が非常に低い場合が多い事実はよく知られている(Anderson et al., 1997; Gygi et al., 1999)。
アクチンタンパク質を区別する唯一報告されている方法は極めて厄介であり、作業量が多く、また大量の材料を必要とする(Vandekerckhove et al., 1986)。この手順では、成人ヒト心臓は約20%のSアクチンを含むが、1例の正常心臓および1例の肥大心が調べられたに過ぎない。1つの大きな問題は、標準として使用されるアクチンの純粋なアイソフォームが存在しないことである。この方法は実施が困難なので、その後はほとんど行われていない。CアクチンおよびSアクチンタンパク質を測定するための良好なアッセイ法が、ヒトの心疾患における両アクチンの役割を説明するために求められている。
MyHCとアクチンのアイソフォームの両方を調べることが重要な理由は、両者が直接相互作用して、サルコメアのコアを形成し、力を発生することにある。MyHCはアクチンの重合を触媒可能であり(Rayment et al., 1993)、またサルコメアのアクチンフィラメントの長さはMyHCとの相互作用の調節を受ける(Littlefield and Fowler, 1998)。ある種のアクチンのアイソフォームは、特定のMyHCアイソフォームを選択的に活性化する(Hewett et al., 1994)。CアクチンとSアクチンは、アミノ末端側の酸性残基の配置が異なり、またMyHCと結合することがわかっている同領域(Rayment et al., 1993)は運動に必要である(Sutoh et al., 1991)。300位の残基にも差が認められ、CアクチンではLeuであり、SアクチンではMetである。これは、別のMyHC結合部位の一部であり、また近傍の天然のCアクチン上のヒト変異A295Sは、力の発生が損なわれた結果と考えられている家族性肥大型心筋症の原因となる(Mogensen et al., 1999)。アクチンのアミノ末端と結合するMyHC上の部位(Rayment et al., 1993)は、20アミノ酸中12アミノ酸がα-MyHCとβ-MyHCとの間で異なる。またα-MyHCとβ-MyHCは異型二量体を形成可能であり、またフィラメント滑りアッセイ法で動的かつ相互に相互作用可能である(Harris et al., 1994; Sata et al., 1993)。
VIII.実施例
以下の実施例は、本発明のさまざまな局面をさらに説明するために含まれる。実施例に開示された手法が、発明者らによって見出された、本発明の実施に際して良好に機能し、したがって実施のための好ましい様式を構成するとみなすことができる代表的な手法および/または組成に従うことを当業者であれば理解するであろう。しかしながら当業者であれば、本開示に鑑みて、開示された特定の態様に多くの変更が成されうること、また本発明の趣旨および範囲から解離することなく同様または類似の結果が得られることを理解するであろう。
以下の実施例は、本発明のさまざまな局面をさらに説明するために含まれる。実施例に開示された手法が、発明者らによって見出された、本発明の実施に際して良好に機能し、したがって実施のための好ましい様式を構成するとみなすことができる代表的な手法および/または組成に従うことを当業者であれば理解するであろう。しかしながら当業者であれば、本開示に鑑みて、開示された特定の態様に多くの変更が成されうること、また本発明の趣旨および範囲から解離することなく同様または類似の結果が得られることを理解するであろう。
実施例1:材料および方法
組織からのMyHCの調製
臓器提供者候補の正常ヒト右心房の7例の登録患者試料のパネルはDonor Alliance Organ Recovery Systemから提供された。全ミオシンは、Caforio et al. (1992)の方法(Miyata et al. (2000)により一部修飾)で組織から部分的に精製された。組織(50〜100 mg)を液体窒素を用いて摩砕し、低塩濃度緩衝液(1 ml、20 mM KCl、2 mM KH2PO4、1 mM EGTA、1 mM フッ化4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニル塩酸塩(AEBSF)、pH 6.8)中にホモジナイズした。ホモジネートを遠心分離(2700×g、10分、4℃)して上清を捨てた。ペレットを1 mlの低塩濃度緩衝液中に再びホモジナイズし、上述の条件で遠心分離を行った。ペレットを高塩濃度緩衝液(0.25〜0.50 ml、40 mM Na4P2O7、1 mM MgCl2、1 mM EGTA、pH 9.5)に懸濁し、氷上で30分間インキュベートし、遠心分離を行った(20,000×g、20分、4℃)。部分精製されたミオシンを含む上清を回収し、タンパク質濃度をBradford法(Bio-Rad Protein Assay, Bio-Rad, CA)で調べた。0.15 mgの全タンパク質を含む3つのアリコートを、文献(Reiser et al., 1998; 2001)に記載された方法で大きなフォーマットのゲルで電気泳動し、銀染色を行った。この方法で、極めて少量のヒトα-MyHCおよびβ-MyHCを分離することができる。
組織からのMyHCの調製
臓器提供者候補の正常ヒト右心房の7例の登録患者試料のパネルはDonor Alliance Organ Recovery Systemから提供された。全ミオシンは、Caforio et al. (1992)の方法(Miyata et al. (2000)により一部修飾)で組織から部分的に精製された。組織(50〜100 mg)を液体窒素を用いて摩砕し、低塩濃度緩衝液(1 ml、20 mM KCl、2 mM KH2PO4、1 mM EGTA、1 mM フッ化4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニル塩酸塩(AEBSF)、pH 6.8)中にホモジナイズした。ホモジネートを遠心分離(2700×g、10分、4℃)して上清を捨てた。ペレットを1 mlの低塩濃度緩衝液中に再びホモジナイズし、上述の条件で遠心分離を行った。ペレットを高塩濃度緩衝液(0.25〜0.50 ml、40 mM Na4P2O7、1 mM MgCl2、1 mM EGTA、pH 9.5)に懸濁し、氷上で30分間インキュベートし、遠心分離を行った(20,000×g、20分、4℃)。部分精製されたミオシンを含む上清を回収し、タンパク質濃度をBradford法(Bio-Rad Protein Assay, Bio-Rad, CA)で調べた。0.15 mgの全タンパク質を含む3つのアリコートを、文献(Reiser et al., 1998; 2001)に記載された方法で大きなフォーマットのゲルで電気泳動し、銀染色を行った。この方法で、極めて少量のヒトα-MyHCおよびβ-MyHCを分離することができる。
同じ調製物をMS解析に使用した。3 mgの全タンパク質の2つのアリコートをNuPageシステム(Invitrogen)を用いて4〜12% Bis-TrisミニゲルでMOPSランニング緩衝液を使用して電気泳動を行った。アッセイ法の直線性を決定するために、0 mg、1 mg、2 mg、3 mg、および4 mgのタンパク質の2つのアリコートの電気泳動を行った。ゲルをコロイド状クーマシー試薬(Invitrogen)で染色し、水で脱染した。この方法では、MyHCは他のタンパク質から分離されるが、アイソフォームは分離されない。α-MyHCもβ-MyHCもMyHCのバンド中に存在する。銀染色およびコロイド状クーマシー染色で得られたゲルの写真をPowerLook IIスキャナー(UMAX)で取り込み、濃度測定法で解析した。
MALDI-TOF MS用のMyHCペプチドの調製
クーマシー染色したゲルからMyHCを含むバンドを切り出し、Teflonキャップ付きの0.3 ml容量のガラス製バイアル(Alltech)に移した。以降のすべての処理は同バイアル内で行った。このガラス製バイアルは、事前に石鹸で洗浄し、水ですすぎ、10% TFAに浸し、18MW水で十分すすぎ、乾燥させてから使用した。ゲル片を50%アセトニトリル(CH3CN)/25 mM重炭酸アンモニウムで2回洗浄し、100% CH3CNで1回洗浄し、真空遠心分離を行って乾燥させた(Centrivap Concentrator、 Labconco)。乾燥済みのゲル片を、400 ngの配列決定グレードのトリプシン(Promega)を含む20 mlの50 mM重炭酸アンモニウム、pH 8.0で20分かけて氷上で再水和した。水分を含むゲル片を37℃で一晩インキュベートした後に氷上に移した。20 mlの50 mM重炭酸アンモニウム、pH 8.0中の400 ngの配列決定グレードのトリプシンを含む第2のアリコートを添加し、氷上で20分間インキュベートした。このゲル片を再びインキュベートした(37℃で一晩)。200 mlの50% CH3CN/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を添加し、4時間振盪することで、トリプシン処理したペプチドを抽出した。絶対定量実験では、2 pmolの内部標準ペプチドを含む慎重に測定したアリコートをこの段階で添加した。ゲル片をガラス製バイアルからシリンジニードルを用いて、抽出物を除去しないように注意しながら除去した。この抽出物を真空遠心分離を行って乾燥させ、20 mlの0.1% TFAを添加し、一晩インキュベートして再溶解した。0.6 mlベッド容量のC18(Millipore)を使用したZipTipを、20 mlの50% CH3CN/0.1% TFAで2回湿らせ、20 mlの0.1% TFAで2回平衡化した。再溶解後のペプチド抽出物を、10回のピペッティングによりベッドを介してZipTipに結合させた。0.1% TFA の3つの20 mlのアリコートを、ベッドを通してピペッティングして混入物を溶出した。最後の洗浄液はZipTipから完全に除いた。第2の0.3 mlのガラス製バイアルを、文献に記載された手順で清浄化し、2 mlの80% CH3CN/0.1% TFAを添加した。この溶液を、ベッド5回通すピペッティングによって同バイアル内にペプチドを溶出した。全体の2 mlをスチール製のMALDI-TOF MSプレートに、1 mlのマトリックス溶液とともにスポットした。再結晶化したα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)を含むマトリックス溶液を、80% CH3CN/0.1% TFAに10 mg/mlの濃度となるように溶解した。ペプチドとマトリックスの混合物を風乾し、MALDI-TOF MSを実施した。
クーマシー染色したゲルからMyHCを含むバンドを切り出し、Teflonキャップ付きの0.3 ml容量のガラス製バイアル(Alltech)に移した。以降のすべての処理は同バイアル内で行った。このガラス製バイアルは、事前に石鹸で洗浄し、水ですすぎ、10% TFAに浸し、18MW水で十分すすぎ、乾燥させてから使用した。ゲル片を50%アセトニトリル(CH3CN)/25 mM重炭酸アンモニウムで2回洗浄し、100% CH3CNで1回洗浄し、真空遠心分離を行って乾燥させた(Centrivap Concentrator、 Labconco)。乾燥済みのゲル片を、400 ngの配列決定グレードのトリプシン(Promega)を含む20 mlの50 mM重炭酸アンモニウム、pH 8.0で20分かけて氷上で再水和した。水分を含むゲル片を37℃で一晩インキュベートした後に氷上に移した。20 mlの50 mM重炭酸アンモニウム、pH 8.0中の400 ngの配列決定グレードのトリプシンを含む第2のアリコートを添加し、氷上で20分間インキュベートした。このゲル片を再びインキュベートした(37℃で一晩)。200 mlの50% CH3CN/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を添加し、4時間振盪することで、トリプシン処理したペプチドを抽出した。絶対定量実験では、2 pmolの内部標準ペプチドを含む慎重に測定したアリコートをこの段階で添加した。ゲル片をガラス製バイアルからシリンジニードルを用いて、抽出物を除去しないように注意しながら除去した。この抽出物を真空遠心分離を行って乾燥させ、20 mlの0.1% TFAを添加し、一晩インキュベートして再溶解した。0.6 mlベッド容量のC18(Millipore)を使用したZipTipを、20 mlの50% CH3CN/0.1% TFAで2回湿らせ、20 mlの0.1% TFAで2回平衡化した。再溶解後のペプチド抽出物を、10回のピペッティングによりベッドを介してZipTipに結合させた。0.1% TFA の3つの20 mlのアリコートを、ベッドを通してピペッティングして混入物を溶出した。最後の洗浄液はZipTipから完全に除いた。第2の0.3 mlのガラス製バイアルを、文献に記載された手順で清浄化し、2 mlの80% CH3CN/0.1% TFAを添加した。この溶液を、ベッド5回通すピペッティングによって同バイアル内にペプチドを溶出した。全体の2 mlをスチール製のMALDI-TOF MSプレートに、1 mlのマトリックス溶液とともにスポットした。再結晶化したα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)を含むマトリックス溶液を、80% CH3CN/0.1% TFAに10 mg/mlの濃度となるように溶解した。ペプチドとマトリックスの混合物を風乾し、MALDI-TOF MSを実施した。
MALDI-TOF MS用のペプチド標準の調製
ペプチド標準はα-MyHCペプチド、β-MyHCペプチド、および内部標準ペプチドからなる(図2)。これらのペプチドはMolecular Resources Center of the National Jewish Hospital of Denverで合成された。このペプチドを、純度を最大とするために極めて浅いCH3CN勾配を用いて2回の逆相HPLCで精製した。純度はMALDI-TOF MSおよびESI-TOF MSで検証した。ガラス製バイアルおよびプラスチック製ピペットチップへの吸着を妨ぐために、約0.4 mMにおける各ペプチドのストック溶液を5% CH3CN中に調製した。ストック溶液および希釈物は常に、上述の方法で清浄化処理済みのガラス製バイアル内で5% CH3CN中に調製した。ストック溶液の正確な濃度をAsx、Glx、Pro、Gly、Ala、Val、Ile、Leu、およびPheを対象に、Beckman 6300 高性能アミノ酸アナライザー(High Performance Amino Acid Analyzer)を使用して3回のアミノ酸解析で決定した。
ペプチド標準はα-MyHCペプチド、β-MyHCペプチド、および内部標準ペプチドからなる(図2)。これらのペプチドはMolecular Resources Center of the National Jewish Hospital of Denverで合成された。このペプチドを、純度を最大とするために極めて浅いCH3CN勾配を用いて2回の逆相HPLCで精製した。純度はMALDI-TOF MSおよびESI-TOF MSで検証した。ガラス製バイアルおよびプラスチック製ピペットチップへの吸着を妨ぐために、約0.4 mMにおける各ペプチドのストック溶液を5% CH3CN中に調製した。ストック溶液および希釈物は常に、上述の方法で清浄化処理済みのガラス製バイアル内で5% CH3CN中に調製した。ストック溶液の正確な濃度をAsx、Glx、Pro、Gly、Ala、Val、Ile、Leu、およびPheを対象に、Beckman 6300 高性能アミノ酸アナライザー(High Performance Amino Acid Analyzer)を使用して3回のアミノ酸解析で決定した。
相対アイソフォーム定量用の標準曲線を作製するために、α-MyHCペプチドとβ-MyHCペプチドの混合物を調製した。ペプチドを最初に5% CH3CNで0.4 mM〜15 mMに希釈した。これらの中間希釈物をさまざまな割合で混合して0〜100%のα-MyHCペプチドを得た。混合物にCH3CNを最終濃度が80%となるように、またTFAを最終濃度が0.1%となるように添加した後に、2 mlをMALDIプレートにスポットした。0%のα-MyHCペプチドに対応するスポットは、0 pmolのα-MyHCペプチドと4 pmolのβ-MyHCペプチドを含んでいた。同様に25%のα-MyHCペプチド(1 pmolのα-MyHCペプチドと3 pmolのβ-MyHCペプチド)、50%のα-MyHCペプチド(2 pmolのα-MyHCペプチドと2 pmolのβ-MyHCペプチド)、75%のα-MyHCペプチド(3 pmolのα-MyHCペプチドと1 pmolのβ-MyHC)、および100%のα-MyHCペプチド(4 pmolのα-MyHCペプチドと0 pmolのβ-MyHCペプチド)に対応するスポットを調製した。1 mlのマトリックス溶液を標的上で各試料に添加して風乾した。
α-MyHCの絶対定量用の標準曲線を作成するために、α-MyHCペプチドと内部標準ペプチドの混合物を作製した。上述の手順で中間希釈物を調製し、混合し、CH3CNを添加し、スポットした。このスポットは2 pmolの内部標準と0〜6 pmolのα-MyHCペプチドを含んでいた。同様にβ-MyHCペプチドと内部標準ペプチドの混合物を作製して、β-MyHCの絶対定量用の標準曲線を作成した。このスポットは2 pmolの内部標準と0〜4 pmolのβ-MyHCペプチドを含んでいた。1 mlのマトリックス溶液を各スポットに添加して風乾した。
MALDI-TOF MS スペクトルの獲得およびデータ解析
すべてのスペクトルはVoyager-DE PRO質量分析計(Applied Biosystems)で得た(リフレクターモード)。この結果、極めて高い質量解像度が得られ、対象ペプチドに由来するシグナルには、複雑なタンパク質切断物の他の成分に由来するシグナルは混入していなかった。マトリックス中のアンジオテンシンI、glu1-フィブリノ-ペプチドB、およびACTH(18〜39)の混合物を全試料に隣接してスポットし、外部質量較正として使用した。m/zが1000〜2,500の限られた質量ウィンドウに対するデータを蓄積した。標準混合物を含む全試料を2回調製し、スポットし、スペクトルを各スポットの5つの異なる領域から得た(各試料につき10スペクトルが得られたことになる)。各スペクトルは、平均すると100回の別個のレーザーショットの結果であった。レーザー出力を、良好なシグナル/ノイズ比を十分高くする一方で、検出器の飽和を50%未満に十分低く維持するために慎重にモニタリングした。過度のレーザー出力は、高濃度のペプチドに対して非線形の反応をもたらした。ペプチド標準およびタンパク質切断物に由来する全スペクトルを同じ手順で処理した。マクロはDataExplorer(Applied Biosystems)によって作成され、スペクトルはm/zの範囲が1735〜1780となるように除去され、相関係数が0.7のノイズフィルターが使用され、ベースラインでスペクトルが修正された。次に、質量ピークリストのデータファイルをエクスポートし、Javaコンピュータ言語で書かれたアルゴリズムで処理した。
すべてのスペクトルはVoyager-DE PRO質量分析計(Applied Biosystems)で得た(リフレクターモード)。この結果、極めて高い質量解像度が得られ、対象ペプチドに由来するシグナルには、複雑なタンパク質切断物の他の成分に由来するシグナルは混入していなかった。マトリックス中のアンジオテンシンI、glu1-フィブリノ-ペプチドB、およびACTH(18〜39)の混合物を全試料に隣接してスポットし、外部質量較正として使用した。m/zが1000〜2,500の限られた質量ウィンドウに対するデータを蓄積した。標準混合物を含む全試料を2回調製し、スポットし、スペクトルを各スポットの5つの異なる領域から得た(各試料につき10スペクトルが得られたことになる)。各スペクトルは、平均すると100回の別個のレーザーショットの結果であった。レーザー出力を、良好なシグナル/ノイズ比を十分高くする一方で、検出器の飽和を50%未満に十分低く維持するために慎重にモニタリングした。過度のレーザー出力は、高濃度のペプチドに対して非線形の反応をもたらした。ペプチド標準およびタンパク質切断物に由来する全スペクトルを同じ手順で処理した。マクロはDataExplorer(Applied Biosystems)によって作成され、スペクトルはm/zの範囲が1735〜1780となるように除去され、相関係数が0.7のノイズフィルターが使用され、ベースラインでスペクトルが修正された。次に、質量ピークリストのデータファイルをエクスポートし、Javaコンピュータ言語で書かれたアルゴリズムで処理した。
このアルゴリズムで、各ペプチドのモノアイソトピックピーク(M)と第1の同位体ピーク(M+1)が同定された。これは、これらのピークの計算質量に最も近い値の質量中心のリストを探索することで実施された。0.5ダルトンの誤差限界(error limit)を許容した。なぜならスペクトルが外部較正されたからである。ピークが正しく同定されたことはスペクトルの調査によって検証した。このアルゴリズムにより、各ペプチドに関してモノアイソトピックピーク(M)、および第1の同位体ピーク(M+1)のピーク高強度のデータを抽出した。これらを合計して、対象ペプチドのイオン電流を得た。ピーク高強度は、過去に報告されているように、ピーク面積より再現性が高いことがわかった(Nelson et al., 1994)。ピーク面積の測定は、MALDIプロセスに特徴的な不安定なベースラインによって損なわれた。これらのペプチドの質量範囲の全体にわたってMとM+1は類似の強度であるので(図3)、両者をイオン電流の決定に使用した。M+2、M+3などの同位体系列の他の要素は、相対量がかなり低かったので計算に組み入れなかった。同アルゴリズムでα-MyHCペプチド、β-MyHCペプチド、およびISペプチドに関して、このような手順でイオン電流を決定した。
相対的なアイソフォームの測定用に、α-MyHCペプチドとβ-MyHCペプチドの混合物を用いて上述の手順で標準曲線を作成した。この混合物は4 pmolの全ペプチドを含んでおり、0〜100%のα-MyHCペプチドを含んでいた。標準曲線上の各点について10のスペクトルが得られた。各スペクトルに関して、α-MyHCペプチドのイオン電流をα-MyHCペプチドとβ-MyHCペプチドのイオン電流の合計で割り、これを割合(αイオン電流(%))に変換した。これら10個の値を平均化し、標準偏差を算出した。このアルゴリズムを、標準曲線用の直線を引き出すために、各点における全10個の値の直線回帰分析に用いた。高次解析は、曲線適合を有意に改善しなかった。
標準の場合と同様の手順で、個々の心房パネル試料について10セットのスペクトルを得た。この場合も、α-MyHCペプチドとβ-MyHCペプチドと関連するイオン電流を処理してαイオン電流(%)を得た。アルゴリズムは標準曲線でαイオン電流(%)をα-MyHCペプチド(%)に変換した。α-MyHCペプチド(%)に関する10の値を平均化し、標準偏差を算出した。
絶対量を測定するために、ISペプチドとα-MyHCペプチドまたはβ-MyHCペプチドのいずれかとの混合物を用いて標準曲線を作製した。α-MyHCペプチドの標準曲線に関しては、0〜6 pmolのα-MyHCペプチドと2 pmolのISペプチドが存在した。標準曲線上の各点には10のスペクトルが存在した。α-MyHCペプチドに由来するイオン電流をISペプチドのイオン電流で割ることで、各スペクトルのイオン電流比(α/IS)を得た。10個の値を平均化し、標準偏差を算出した。このアルゴリズムでは、各点において全10個の値に対する直線回帰分析を使用して、イオン電流比(α/IS)をpmol量のα-MyHCペプチドに関連づける標準曲線の直線を得た。
既知量(2 pmol)の内部標準ペプチドを各心房パネル試料に添加し、10のスペクトルを蓄積した。各スペクトルに関して、α-MyHCペプチドのイオン電流をISペプチドのイオン電流で割り、イオン電流比(α/IS)を得た。アルゴリズムでは標準曲線を用いて、イオン電流比(α/IS)をpmol量のα-MyHCペプチドに変換した。10の別個の値を平均化し、標準偏差を算出した。
β-MyHCペプチドの標準曲線を、0〜4 pmolのβ-MyHCペプチドと2 pmolのISペプチドを用いて作成した。スペクトルを蓄積し、α-MyHCペプチドの標準曲線の場合と同じ方法で処理した(イオン電流比(β/IS)を用いた点を除く)。2 pmolのISペプチドを含む、各心房パネル試料に由来する10のスペクトルも解析し、β/ISイオン電流比を得た。この比を、標準曲線を参照してpmol量のβ-MyHCペプチドに変換した。これら10の値を平均化し、標準偏差を算出した。pmol量のα-MyHCペプチドとpmol量のβ-MyHCペプチドの両方を、心房パネル試料中について独立に決定した。
実施例2:結果
A.MALDI-TOF MSによるタンパク質アイソフォーム比の測定
アイソフォーム特異的な定量対象ペプチドの選択
クーマシー染色したNuPageゲルに由来するMyHCゲルバンド中における2つのアイソフォームの存在をペプチドマスフィンガープリンティングで確認した。約3/4のペプチドがαミオシン重鎖およびβミオシン重鎖の両方とマッチしたが、残りのペプチドはいずれか一方のアイソフォームに特異的であった。この結果から、バンドが両アイソフォームの混合物を含むことが確認された。α-MyHCおよびβ-MyHCの配列を調べたところ、トリプシン処理ペプチドの対(それぞれ各アイソフォームに由来するもの)が、MALDI-TOF MSによる定量に適していると考えられるものであることがわかった。適切なペプチドは理論上、配列が類似しており、質量によって区別可能であるはずであり、また強いMALDI-TOFのイオン電流を生じるはずである。理想的には、このようなペプチドは、両者がトリプシン消化によって区別されずに生じるように同一のトリプシン部位を有するはずである。さらに、両者の化学的性質が極めて類似しているはずであり、このためにその回収率、マトリックスによる結晶化、およびMALDIによるイオン化が同等となることも重要である。これらの必要条件は、1か所の保存的アミノ酸置換(例えば、ロイシンとイソロイシンは質量が同一なので除外される)によって容易に達成できると思われる。配列探索の結果、約10対のトリプシン消化ペプチドが以上の基準に適合することが判明した。スペクトルの検討から、これらの対の1つが非常に強力なイオン電流を示すことがわかった(図1)。上のパネルは、α-MyHCが多く含まれる試料のスペクトルを示す。また下の試料はβ-MyHCを多く含む。α-MyHCペプチド(モノアイソトピック質量=1768.96)、およびβ-MyHCペプチド(モノアイソトピック質量=1740.93)が、これらのスペクトルで最強のシグナルを有しており、これらの配列および隣接するトリプシン切断部位を図2に示す。
A.MALDI-TOF MSによるタンパク質アイソフォーム比の測定
アイソフォーム特異的な定量対象ペプチドの選択
クーマシー染色したNuPageゲルに由来するMyHCゲルバンド中における2つのアイソフォームの存在をペプチドマスフィンガープリンティングで確認した。約3/4のペプチドがαミオシン重鎖およびβミオシン重鎖の両方とマッチしたが、残りのペプチドはいずれか一方のアイソフォームに特異的であった。この結果から、バンドが両アイソフォームの混合物を含むことが確認された。α-MyHCおよびβ-MyHCの配列を調べたところ、トリプシン処理ペプチドの対(それぞれ各アイソフォームに由来するもの)が、MALDI-TOF MSによる定量に適していると考えられるものであることがわかった。適切なペプチドは理論上、配列が類似しており、質量によって区別可能であるはずであり、また強いMALDI-TOFのイオン電流を生じるはずである。理想的には、このようなペプチドは、両者がトリプシン消化によって区別されずに生じるように同一のトリプシン部位を有するはずである。さらに、両者の化学的性質が極めて類似しているはずであり、このためにその回収率、マトリックスによる結晶化、およびMALDIによるイオン化が同等となることも重要である。これらの必要条件は、1か所の保存的アミノ酸置換(例えば、ロイシンとイソロイシンは質量が同一なので除外される)によって容易に達成できると思われる。配列探索の結果、約10対のトリプシン消化ペプチドが以上の基準に適合することが判明した。スペクトルの検討から、これらの対の1つが非常に強力なイオン電流を示すことがわかった(図1)。上のパネルは、α-MyHCが多く含まれる試料のスペクトルを示す。また下の試料はβ-MyHCを多く含む。α-MyHCペプチド(モノアイソトピック質量=1768.96)、およびβ-MyHCペプチド(モノアイソトピック質量=1740.93)が、これらのスペクトルで最強のシグナルを有しており、これらの配列および隣接するトリプシン切断部位を図2に示す。
MALDI-TOF MS用のMyHCペプチドの調製
定量目的のためには、すべてのミオシンをペプチドに完全に消化すること、またすべてのペプチドを抽出することが重要であった。というのは、この方法は、当初の試料中に数モルのミオシンのアイソフォームが含まれるのと同様に、抽出される同じモル数のペプチドの存在に拠っているからである。トリプシンによる2回の消化を1回の場合と比較したところ、ペプチドの追加的な生成は認められなかった(データは示していない)。しかし、2回の消化は、所望のトリプシン消化ペプチドの完全な生成を保証すると考えられた。この事実と、基質に対するトリプシンの比が比較的大きいことは、完全なペプチドの生産を保証することの一助となった。ガラス製バイアルの使用により、トリプシン消化ペプチドの、より再現性の大きな調製が実現されることがわかった。50% CH3CN/0.1% TFAペプチド抽出液は、マトリックスの結晶化に干渉する成分を一部のプラスチック製バイアルから除去した。ペプチドの抽出に0.1%のTFAを用いても、プラスチック成分は抽出されず、ペプチドの一部のみが抽出された。大容量の50% CH3CN/0.1% TFAをガラス製バイアル内におけるゲル片の抽出に使用したところ、ペプチドが完全に抽出された。50% CH3CN/0.1% TFAの第2のアリコートでゲル片を再抽出しても何ら検出可能なペプチドは得られず、最初の抽出が完全であったことがわかった(データは示していない)。C18で調製したマイクロカラム(ZipTip, Millipore)上における浄化は、マトリックスの結晶化に干渉する混入物をゲル片から除去する際に重要であった。正常ヒト心房に由来するMyHCの試料を調製し、α-MyHCおよびβ-MyHCの定量対象ペプチドを含む狭いMSウィンドウを図3Aに示す。認められたイオン電流比は、銀染色したReiserのゲルによって決定されたα-MyHCとβ-MyHCの割合と一致していた。
定量目的のためには、すべてのミオシンをペプチドに完全に消化すること、またすべてのペプチドを抽出することが重要であった。というのは、この方法は、当初の試料中に数モルのミオシンのアイソフォームが含まれるのと同様に、抽出される同じモル数のペプチドの存在に拠っているからである。トリプシンによる2回の消化を1回の場合と比較したところ、ペプチドの追加的な生成は認められなかった(データは示していない)。しかし、2回の消化は、所望のトリプシン消化ペプチドの完全な生成を保証すると考えられた。この事実と、基質に対するトリプシンの比が比較的大きいことは、完全なペプチドの生産を保証することの一助となった。ガラス製バイアルの使用により、トリプシン消化ペプチドの、より再現性の大きな調製が実現されることがわかった。50% CH3CN/0.1% TFAペプチド抽出液は、マトリックスの結晶化に干渉する成分を一部のプラスチック製バイアルから除去した。ペプチドの抽出に0.1%のTFAを用いても、プラスチック成分は抽出されず、ペプチドの一部のみが抽出された。大容量の50% CH3CN/0.1% TFAをガラス製バイアル内におけるゲル片の抽出に使用したところ、ペプチドが完全に抽出された。50% CH3CN/0.1% TFAの第2のアリコートでゲル片を再抽出しても何ら検出可能なペプチドは得られず、最初の抽出が完全であったことがわかった(データは示していない)。C18で調製したマイクロカラム(ZipTip, Millipore)上における浄化は、マトリックスの結晶化に干渉する混入物をゲル片から除去する際に重要であった。正常ヒト心房に由来するMyHCの試料を調製し、α-MyHCおよびβ-MyHCの定量対象ペプチドを含む狭いMSウィンドウを図3Aに示す。認められたイオン電流比は、銀染色したReiserのゲルによって決定されたα-MyHCとβ-MyHCの割合と一致していた。
ペプチド標準の調製と標準曲線の作成
α-MyHCおよびβ-MyHCの定量対象ペプチドを高純度で合成的に調製してMS標準として使用した。標準ペプチド溶液の希釈物を、ガラス製バイアル内で5% CH3CN中に調製した。ガラス製バイアルを使用した理由は、ペプチド(特に高希釈率のもの)がプラスチック製バイアルに結合して溶液中のペプチド濃度を下げてしまうためである。ペプチド標準をさまざまな比で混合した。明確にするために、αペプチド(%)(αペプチド(%)=100×[αペプチド]/[αペプチド+βペプチド])で表す。これらの混合物を対象にMALDI-TOF MSを実施し、実験セクションに記載された手順でデータを解析した。αイオン電流(%)は、100×(αイオン電流)/(αイオン電流+βイオン電流)と定義した。αイオン電流(%)を、αペプチド量(%)に対してグラフ化して標準曲線を得た(図4)。各点は10回の測定の平均であり、標準偏差を示す(SDは約1%なので、図のプロットに表すことは困難である)。このプロットは、イオン電流比がペプチド比に正比例すること、またMALDI-TOF MSをペプチド比の定量を行うためにこのような手法で使用することができることを意味する。
α-MyHCおよびβ-MyHCの定量対象ペプチドを高純度で合成的に調製してMS標準として使用した。標準ペプチド溶液の希釈物を、ガラス製バイアル内で5% CH3CN中に調製した。ガラス製バイアルを使用した理由は、ペプチド(特に高希釈率のもの)がプラスチック製バイアルに結合して溶液中のペプチド濃度を下げてしまうためである。ペプチド標準をさまざまな比で混合した。明確にするために、αペプチド(%)(αペプチド(%)=100×[αペプチド]/[αペプチド+βペプチド])で表す。これらの混合物を対象にMALDI-TOF MSを実施し、実験セクションに記載された手順でデータを解析した。αイオン電流(%)は、100×(αイオン電流)/(αイオン電流+βイオン電流)と定義した。αイオン電流(%)を、αペプチド量(%)に対してグラフ化して標準曲線を得た(図4)。各点は10回の測定の平均であり、標準偏差を示す(SDは約1%なので、図のプロットに表すことは困難である)。このプロットは、イオン電流比がペプチド比に正比例すること、またMALDI-TOF MSをペプチド比の定量を行うためにこのような手法で使用することができることを意味する。
MALDI-TOF MSによる定量と銀染色Reiserのゲルによる定量の比の比較
全ミオシンを正常ヒト右心房のパネルからCaforio et al. (1992)の方法で部分精製した。3つのアリコートを、微量のα-MyHCとβ-MyHCを相互に分離可能なReiser et al. (1998; 2001)のゲルシステムを用いて、および銀染色で解析した。α-MyHCおよびβ-MyHCのバンドの濃度測定を実施し、α-MyHCとβ-MyHCのアイソフォームの割合を決定した(Miyata et al., 2000; Reiser et al., 2001)。次に同じ試料をNuPageゲルで分離し、実験セクションに記載された手順でMyHCを含むバンドを処理した。代表的なスペクトルの狭いウィンドウを図3Aに示す。パネルを対象にMALDI-TOF MSで決定されたα-MyHC(%)を、銀染色ゲルで決定されたα-MyHC(%)に対してグラフ化した(図5)。2つの方法では、r2(0.979)と傾き(1.01)で表される比の範囲に関して同等の値が得られた。Reiserの銀染色ゲル法は現在、ヒトα-MyHCとβ-MyHCのアイソフォーム比の測定に最も広く採用されている方法である。MALDI-TOF MSの結果と銀染色ゲル法の結果が相関することは、タンパク質のアイソフォーム比が、トリプシン消化ペプチド比の測定によって測定可能なことを意味する。
全ミオシンを正常ヒト右心房のパネルからCaforio et al. (1992)の方法で部分精製した。3つのアリコートを、微量のα-MyHCとβ-MyHCを相互に分離可能なReiser et al. (1998; 2001)のゲルシステムを用いて、および銀染色で解析した。α-MyHCおよびβ-MyHCのバンドの濃度測定を実施し、α-MyHCとβ-MyHCのアイソフォームの割合を決定した(Miyata et al., 2000; Reiser et al., 2001)。次に同じ試料をNuPageゲルで分離し、実験セクションに記載された手順でMyHCを含むバンドを処理した。代表的なスペクトルの狭いウィンドウを図3Aに示す。パネルを対象にMALDI-TOF MSで決定されたα-MyHC(%)を、銀染色ゲルで決定されたα-MyHC(%)に対してグラフ化した(図5)。2つの方法では、r2(0.979)と傾き(1.01)で表される比の範囲に関して同等の値が得られた。Reiserの銀染色ゲル法は現在、ヒトα-MyHCとβ-MyHCのアイソフォーム比の測定に最も広く採用されている方法である。MALDI-TOF MSの結果と銀染色ゲル法の結果が相関することは、タンパク質のアイソフォーム比が、トリプシン消化ペプチド比の測定によって測定可能なことを意味する。
B.MALDI-TOF MSによるタンパク質量の測定
内部標準ペプチドの設計
α-MyHCとβ-MyHCのアイソフォームの相対量を、α-MyHCとβ-MyHCのアイソフォームに特異的なペプチドの相対量から決定することができるが、α-MyHCとβ-MyHCのペプチドの絶対量を定量するためには内部標準を組み入れる必要がある。既知量の内部標準ペプチドをトリプシン消化ペプチドに添加し、処理段階を通じて保持させることができる。適切な標準曲線を用いて、内部標準ペプチドに対するアイソフォーム特異的なペプチドの比を決定することができる。この比と、添加した内部標準の量から、アイソフォーム特異的なペプチドの量を決定することができる。内部標準ペプチドの設計時には、アイソフォーム特異的なペプチドの選択に関して前述したような同じ問題を考慮すべきである。内部標準ペプチドは、アイソフォーム特異的なペプチドに極めて類似しているが質量によって区別されるべきであり、また強力なMALDI-TOFイオン電流を生じるべきである。化学的性質が極めて類似していれば、回収率、マトリックスによる結晶化、およびMALDIによるイオン化はアイソフォーム特異的なペプチドと同等になると考えられる。これは、保存的アミノ酸置換によって極めて容易に達成される。α-MyHCおよびβ-MyHCのアイソフォーム特異的なペプチドが異なる領域を調べて、変異させる適切な残基を見出した。この原理は、α-MyHCおよびβ-MyHCのアイソフォーム特異的なペプチドが同じである領域を維持することで、内部標準ペプチドを両アイソフォームペプチドに使用できるであろうということである。内部標準ペプチドは、シグナルが内因性ペプチドの混入を受けないようにするために、試料中には見出されない質量を有するべきである。アイソフォームペプチド間の質量範囲はペプチドシグナルを含まなかったので、同領域に現れるように内部標準を設計した。α-MyHCのアイソフォームペプチドを出発点として選択した。イソロイシン-7からバリンへの疎水性アミノ酸の保存的置換(図2参照)を選択した。なぜなら、この置換では化学的な特性がほとんど変化せず、またアイソフォームペプチド間の質量中間体を有するペプチド産物を生じるからである。
内部標準ペプチドの設計
α-MyHCとβ-MyHCのアイソフォームの相対量を、α-MyHCとβ-MyHCのアイソフォームに特異的なペプチドの相対量から決定することができるが、α-MyHCとβ-MyHCのペプチドの絶対量を定量するためには内部標準を組み入れる必要がある。既知量の内部標準ペプチドをトリプシン消化ペプチドに添加し、処理段階を通じて保持させることができる。適切な標準曲線を用いて、内部標準ペプチドに対するアイソフォーム特異的なペプチドの比を決定することができる。この比と、添加した内部標準の量から、アイソフォーム特異的なペプチドの量を決定することができる。内部標準ペプチドの設計時には、アイソフォーム特異的なペプチドの選択に関して前述したような同じ問題を考慮すべきである。内部標準ペプチドは、アイソフォーム特異的なペプチドに極めて類似しているが質量によって区別されるべきであり、また強力なMALDI-TOFイオン電流を生じるべきである。化学的性質が極めて類似していれば、回収率、マトリックスによる結晶化、およびMALDIによるイオン化はアイソフォーム特異的なペプチドと同等になると考えられる。これは、保存的アミノ酸置換によって極めて容易に達成される。α-MyHCおよびβ-MyHCのアイソフォーム特異的なペプチドが異なる領域を調べて、変異させる適切な残基を見出した。この原理は、α-MyHCおよびβ-MyHCのアイソフォーム特異的なペプチドが同じである領域を維持することで、内部標準ペプチドを両アイソフォームペプチドに使用できるであろうということである。内部標準ペプチドは、シグナルが内因性ペプチドの混入を受けないようにするために、試料中には見出されない質量を有するべきである。アイソフォームペプチド間の質量範囲はペプチドシグナルを含まなかったので、同領域に現れるように内部標準を設計した。α-MyHCのアイソフォームペプチドを出発点として選択した。イソロイシン-7からバリンへの疎水性アミノ酸の保存的置換(図2参照)を選択した。なぜなら、この置換では化学的な特性がほとんど変化せず、またアイソフォームペプチド間の質量中間体を有するペプチド産物を生じるからである。
ペプチド標準混合物の調製と標準曲線の作成
内部標準(IS)ペプチドを、合成したα-MyHCペプチドおよびβ-MyHCペプチドと混合して標準曲線を作成した。各スポットは、2 pmolのISと0〜6 pmolの合成α-MyHCペプチドか0〜4 pmolの合成β-MyHCペプチドのいずれかを含む。α-MyHCペプチド/ISペプチドのイオン電流比を、pmol量のα-MyHCペプチドに対してグラフ化した(図6A)。この関係は線型であった(r2=0.994)。同様に、β-MyHCペプチド/ISペプチドのイオン電流比をpmol量のβ-MyHCペプチドに対してグラフ化した(図6B)。この関係も線型であった(r2=0.998)。高次解析は、いずれの標準曲線に関しても曲線適合を有意に改善しなかった。
内部標準(IS)ペプチドを、合成したα-MyHCペプチドおよびβ-MyHCペプチドと混合して標準曲線を作成した。各スポットは、2 pmolのISと0〜6 pmolの合成α-MyHCペプチドか0〜4 pmolの合成β-MyHCペプチドのいずれかを含む。α-MyHCペプチド/ISペプチドのイオン電流比を、pmol量のα-MyHCペプチドに対してグラフ化した(図6A)。この関係は線型であった(r2=0.994)。同様に、β-MyHCペプチド/ISペプチドのイオン電流比をpmol量のβ-MyHCペプチドに対してグラフ化した(図6B)。この関係も線型であった(r2=0.998)。高次解析は、いずれの標準曲線に関しても曲線適合を有意に改善しなかった。
アッセイ法とタンパク質量の直線性
部分精製されたミオシンを含むタンパク質試料を、0 μg、1 μg、2 μg、3 μg、または4 μgの全タンパク質をロードした2枚のゲルで電気泳動した。MyHCを切り出し、実験手順に記載された手順で処理した。トリプシン消化物に2 pmolのISペプチドを添加し、MALDI-TOF MSを実施した。α-MyHCペプチド/ISペプチドと、β-MyHCペプチド/ISペプチドのイオン電流比を測定後に、標準曲線を用いてpmol量の各ペプチドに変換した。pmol量のα-MyHCおよびβ-MyHCを、μg量の全タンパク質に対してグラフ化した(図7)。α-MyHCの量は全タンパク質量に対して線型を示し(r2=0.999)、またβ-MyHCの量も全タンパク質量に対して線型を示した(r2=0.998)。
部分精製されたミオシンを含むタンパク質試料を、0 μg、1 μg、2 μg、3 μg、または4 μgの全タンパク質をロードした2枚のゲルで電気泳動した。MyHCを切り出し、実験手順に記載された手順で処理した。トリプシン消化物に2 pmolのISペプチドを添加し、MALDI-TOF MSを実施した。α-MyHCペプチド/ISペプチドと、β-MyHCペプチド/ISペプチドのイオン電流比を測定後に、標準曲線を用いてpmol量の各ペプチドに変換した。pmol量のα-MyHCおよびβ-MyHCを、μg量の全タンパク質に対してグラフ化した(図7)。α-MyHCの量は全タンパク質量に対して線型を示し(r2=0.999)、またβ-MyHCの量も全タンパク質量に対して線型を示した(r2=0.998)。
心房試料パネルにおけるα-MyHCとβ-MyHCの定量
部分精製されたミオシンの試料パネルを、3μgの全タンパク質をロードした2枚のゲルで電気泳動した。MyHCを含むバンドを切り出し、実験セクションに記載された手順で処理した。トリプシン消化物に2 pmolのISペプチドを添加し、MALDI-TOF MSを実施した。代表的なスペクトルを図3Bに示す。α-MyHCペプチド/ISペプチドと、β-MyHCペプチド/ISペプチドのイオン電流比を測定した。各ペプチドのpmol量、したがって各アイソフォームのpmol量を標準曲線から決定し、表1にまとめた。これらの量から、α-MyHC(pmol)/全タンパク質(μg)、およびβ-MyHC(pmol)/全タンパク質(μg)を算出した(表1)。このアッセイ法によって決定されたアイソフォームの絶対量も用いて、α-MyHCの割合を計算した。これらの値は、上述のアイソフォーム比の決定法で決定された相対量と一致する。各試料のα-MyHCとβ-MyHCの合計(1.15〜1.86 pmol/μg)は、部分精製された調製物中の全タンパク質の26%〜41%がMyHCであると換算される。これは、ゲルのクーマシー染色による調製物中にみられるMyHCの相対量に対応する。
部分精製されたミオシンの試料パネルを、3μgの全タンパク質をロードした2枚のゲルで電気泳動した。MyHCを含むバンドを切り出し、実験セクションに記載された手順で処理した。トリプシン消化物に2 pmolのISペプチドを添加し、MALDI-TOF MSを実施した。代表的なスペクトルを図3Bに示す。α-MyHCペプチド/ISペプチドと、β-MyHCペプチド/ISペプチドのイオン電流比を測定した。各ペプチドのpmol量、したがって各アイソフォームのpmol量を標準曲線から決定し、表1にまとめた。これらの量から、α-MyHC(pmol)/全タンパク質(μg)、およびβ-MyHC(pmol)/全タンパク質(μg)を算出した(表1)。このアッセイ法によって決定されたアイソフォームの絶対量も用いて、α-MyHCの割合を計算した。これらの値は、上述のアイソフォーム比の決定法で決定された相対量と一致する。各試料のα-MyHCとβ-MyHCの合計(1.15〜1.86 pmol/μg)は、部分精製された調製物中の全タンパク質の26%〜41%がMyHCであると換算される。これは、ゲルのクーマシー染色による調製物中にみられるMyHCの相対量に対応する。
(表1)患者試料のパネルにおけるα-MyHCアイソフォームおよびβ-MyHCアイソフォームの量
部分精製されたミオシン試料のパネルに由来する3 mgの全タンパク質を含むアリコートをSDSゲル上で電気泳動した。MyHCを含むバンドを切り出し、α-MyHCアイソフォームおよびβ-MyHCアイソフォームの量を解析した。この量をpmol、およびpmol/mgタンパク質で表す。この値を用いて%pmol α-MyHCを計算した(100×pmol α-MyHC/(pmol α-MyHC+pmol β-MyHC))。すべての値は10回の測定の平均±標準偏差である。絶対量の測定に由来するα-MyHC値(%pmol)は、アイソフォーム比決定法で決定されたα-MyHC(%)に一致する。
部分精製されたミオシン試料のパネルに由来する3 mgの全タンパク質を含むアリコートをSDSゲル上で電気泳動した。MyHCを含むバンドを切り出し、α-MyHCアイソフォームおよびβ-MyHCアイソフォームの量を解析した。この量をpmol、およびpmol/mgタンパク質で表す。この値を用いて%pmol α-MyHCを計算した(100×pmol α-MyHC/(pmol α-MyHC+pmol β-MyHC))。すべての値は10回の測定の平均±標準偏差である。絶対量の測定に由来するα-MyHC値(%pmol)は、アイソフォーム比決定法で決定されたα-MyHC(%)に一致する。
本明細書で開示および請求されたすべての組成および方法は、本開示に鑑みて、過度の実験を行うことなく作製および実施することができる。本発明の組成および方法を、好ましい態様に関して説明したが、本明細書に記載された方法の段階において、または一連の段階において本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなく、変形形態が組成物および方法に適用されうることは当業者に明らかである。具体的には、化学的および生理学的のいずれにおいても関連する特定の薬剤を本明細書に記載された薬剤と置き換えても、同じか、または類似の結果が得られることは明らかである。当業者に明らかな、このような類似の置換および修飾はすべて、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の趣旨、範囲、および概念に含まれるとみなされる。
以下の図面は本明細書の一部を構成し、また本発明の特定の局面をさらに説明するために含まれる。本発明は1つもしくは複数の図面を、本明細書に記載された特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することで深く理解できると思われる。
心房組織に由来するミオシン重鎖のペプチドを示す。全タンパク質をヒト心房試料から抽出し、SDSゲル電気泳動で分離した。MyHCタンパク質を含むバンドを切り出し、配列決定グレードのトリプシンでゲル内で消化した。トリプシンペプチドを抽出し、マトリックスと混合し、MALDI-TOF MSに供した。ペプチドの質量を用いて、MSFitプログラムでSwissProtデータベースの探索を行った。上のパネルはα-MyHCに対応し、下のパネルはβ-MyHCに対応する。スペクトルを詳細に解析して、α-MyHCとβ-MyHC間で異なるペプチドを見出した(α-MyHCとβ-MyHCは、トリプシン切断部位が同じであり、1つの保存的アミノ酸置換が異なる)。この基準に適合し、また最も強いイオン電流を有していたペプチドは、m/zがそれぞれ1768.96と1740.93であり、これらを定量対象のペプチドとして選択した。
ミオシン重鎖の定量対象ペプチドを示す。定量対象ペプチドと、そのトリプシン切断部位の周囲の配列を上に示す。第3のペプチドを、これらと相同性が高くなるように、ただし、いずれのMyHCのスペクトルにも見出されない固有の質量を有するように設計した。このペプチドを内部標準として使用し、この配列も上に示す。定量対象ペプチドと内部標準ペプチド間で異なるアミノ酸残基に下線を付した。
図3Aおよび3Bは、定量対象ペプチドのMALDI-TOF質量スペクトルを示す。図3Aは、定量対象ペプチドを、心房MyHCの試料(患者1)のMALDI-TOF質量スペクトルの狭いウィンドウに示す。α-MyHCペプチドとβ-MyHCペプチドのイオン電流の比を図4の標準曲線によってペプチド比に変換したところ、銀染色したゲルによって決定したα-MyHC/β-MyHCのタンパク質比と一致した。以上の結果は、MALDI-TOF-MSによるアイソフォームの比の測定の実現性を示していた。図3Bは、ISペプチドの2 pmolのアリコートを心房MyHCのレプリカ試料に添加した。MALDI-TOF質量スペクトルの同じ狭いウィンドウを示す。図6の標準曲線を用いて同スペクトルから決定されたα-MyHCペプチドとβ-MyHCペプチドのpmol値を示す。
α-MyHCペプチド/β-MyHCペプチド比の標準曲線を示す。図2に示したMyHC定量対象ペプチドを合成し、HPLCで精製して標準として使用した。このようなペプチドを、α-MyHCペプチド(%)によって表されるさまざまな割合で混合した。これらのペプチド混合物をマトリックスと混合し、MALDI-TOF MSに供した。α-MyHCペプチドおよびβ-MyHCペプチドのイオン電流を測定し、αイオン電流(%)で表した。各点は10回の測定の平均であり、エラーバーは標準偏差を示す(1.2%未満)。回帰分析から、イオン電流比とペプチド比の間に直線関係が認められた(傾き=0.99、r2=0.998)。
銀染色ゲル法とMALDI-TOF MS法の比較を示す。銀染色ゲルと、新しいMALDI-TOF MS法で決定されたα-MyHC値(%)の比較を対象に回帰分析を行った。一定の比の範囲に関して、これらの方法間に良好な一致が認められることは、傾き=1.01(r2=0.979)の直線関係が見られることからわかる。
図6Aは、α-MyHCペプチドの標準曲線を示す。図2に示した内部標準ペプチドは、合成的に調製してHPLCで精製した。内部標準ペプチドをα-MyHCペプチドと混合し、MALDI-TOF MSに供した。MALDIプレート上にスポットした試料は、2 pmolの内部標準ペプチドと0〜6 pmolのα-MyHCペプチドを含んでいた。イオン電流比(α/IS)を測定し、α-MyHCペプチドの量に対してプロットした。各点は10回の測定の平均であり、エラーバーは標準偏差を示す。回帰分析から、イオン電流比(α/IS)とα-MyHCペプチド量との間に直線関係が認められた(傾き=0.42、r2=0.994)。図6Bは、β-MyHCペプチドの標準曲線を示す。内部標準ペプチドをβ-MyHCペプチドと混合し、MALDI-TOF MSに供した。MALDIプレート上にスポットした試料は、2 pmolの内部標準ペプチドと0〜4 pmolのβ-MyHCペプチドを含んでいた。イオン電流比(β/IS)を測定し、β-MyHCペプチドの量に対してプロットした。各点は10回の測定の平均であり、エラーバーは標準偏差を示す。回帰分析から、イオン電流比(β/IS)とβ-MyHCペプチドの量との間に直線関係が認められた(傾き=0.49、r2=0.998)。
アッセイ法とタンパク質量との間の直線性を示す。部分的に精製された心房ミオシン(患者1)のアリコートを全タンパク質の0 μg、1 μg、2 μg、3 μg、および4 μgをロードしてSDSゲルで電気泳動した。MyHCを含むバンドを切り出し、α-MyHCとβ-MyHCのアイソフォームの両方の量をMALDI-TOF MSで、図6に示した標準曲線を用いて解析した。α-MyHCとβ-MyHCの量を全タンパク質のロード量に対してグラフ化した。このアッセイ法は、回帰分析から示されるように直線関係を示した(α-MyHCについてr2=0.998、およびβ-MyHCについてr2=0.999)。
Claims (52)
- 以下の段階を含む、試料中のタンパク質またはペプチドの定量法:
(a)タンパク質またはペプチドを含む試料を得る段階;
(b)標準となるタンパク質またはペプチドを提供する段階(標準は、既知もしくは測定可能な量の、対象となるタンパク質またはペプチドの誘導体である);
(c)タンパク質またはペプチドおよび標準をマトリックスと共結晶化させる段階;
(d)結晶化した標的となるタンパク質またはペプチドと標準を、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析で解析する段階;ならびに
(e)(d)における解析に基づいて試料中に存在するタンパク質またはペプチドの量を決定する段階。 - 試料が細胞に由来する、請求項1記載の方法。
- 細胞が原核細胞である、請求項2記載の方法。
- 細胞が真核細胞である、請求項2記載の方法。
- 細胞が哺乳動物細胞である、請求項2記載の方法。
- 細胞がヒト細胞である、請求項2記載の方法。
- ヒト細胞が心筋細胞である、請求項6記載の方法。
- 試料が臓器に由来する、請求項1記載の方法。
- 臓器が心臓である、請求項8記載の方法。
- 試料となる臓器がヒト心臓である、請求項8記載の方法。
- 試料が血漿から得られる、請求項1記載の方法。
- 試料が血清から得られる、請求項1記載の方法。
- 供給源が、タンパク質またはペプチドの発現または構造を変化させる薬剤に曝露される、請求項1記載の方法。
- タンパク質がアルファミオシン重鎖である、請求項1記載の方法。
- タンパク質がベータミオシン重鎖である、請求項1記載の方法。
- タンパク質が心筋アクチンである、請求項1記載の方法。
- タンパク質が骨格アクチンである、請求項1記載の方法。
- ペプチドがタンパク質分解による切断によって生じる、請求項1記載の方法。
- ペプチドが化学的切断によって生じる、請求項1記載の方法。
- ペプチドが酵素による消化によって生じる、請求項1記載の方法。
- 酵素による消化がエンドペプチダーゼによって実施される、請求項20記載の方法。
- 酵素による消化がプロテアーゼによって実施される、請求項20記載の方法。
- タンパク質、ペプチド、および/または標準が合成的に作られる、請求項1記載の方法。
- 標準が、標的となるタンパク質またはペプチドに由来する1つのアミノ酸を修飾することで設計される、請求項1記載の方法。
- 以下の段階を含む、試料中の構造的に異なる複数のタンパク質またはペプチドの量を定量的に比較する方法:
(a)標的となる複数の異なるタンパク質またはペプチドを含む1つもしくは複数の試料を得る段階;
(b)各標的タンパク質に対する標準となるタンパク質またはペプチドを提供する段階(標準は、既知もしくは測定可能な量において対象となる、標的となるタンパク質またはペプチドの誘導体である;
(c)標的となるタンパク質またはペプチドおよび標準をマトリックスと共結晶化させる段階;
(d)結晶化した標的となるタンパク質またはペプチドと標準を、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析で解析する段階;ならびに
(e)試料中に存在する、解析された標的となる個々のタンパク質またはペプチドの相対量または絶対量を決定する段階。 - タンパク質が相互にアイソフォームである、請求項25記載の方法。
- アイソマーがホスホアイソマーである、請求項26記載の方法。
- 試料が細胞に由来する、請求項25記載の方法。
- 細胞が原核細胞である、請求項28記載の方法。
- 細胞が真核細胞である、請求項28記載の方法。
- 細胞が哺乳動物細胞である、請求項28記載の方法。
- 細胞がヒト細胞である、請求項28記載の方法。
- ヒト細胞が心筋細胞である、請求項32記載の方法。
- 試料が臓器に由来する、請求項25記載の方法。
- 試料臓器が心臓である、請求項34記載の方法。
- 臓器がヒトの心臓である、請求項34記載の方法。
- 試料が血漿から得られる、請求項25記載の方法。
- 試料が血清から得られる、請求項25記載の方法。
- 供給源がタンパク質またはペプチドの発現または構造を変化させる薬剤に曝露される、請求項25記載の方法。
- タンパク質の1つがαミオシン重鎖である、請求項25記載の方法。
- タンパク質の1つがβミオシン重鎖である、請求項25記載の方法。
- タンパク質の1つが心筋アクチンである、請求項25記載の方法。
- タンパク質の1つが骨格アクチンである、請求項25記載の方法。
- ペプチドが、タンパク質分解による切断によって生じる、請求項25記載の方法。
- ペプチドが化学的切断によって生じる、請求項25記載の方法。
- ペプチドが、酵素による消化によって生じる、請求項25記載の方法。
- 酵素による消化がエンドペプチダーゼによって実施される、請求項46記載の方法。
- 酵素による消化がプロテアーゼによって実施される、請求項46記載の方法。
- タンパク質、ペプチド、および/または標準が合成的に作られる、請求項25記載の方法。
- 標準が、対象タンパク質に由来するか、または対象タンパク質から直接合成されるタンパク質またはペプチドである、請求項25記載の方法。
- 標準が、標的となるタンパク質またはペプチドに由来する1個のアミノ酸を修飾することによって設計される、請求項25記載の方法。
- 以下の段階を含む、試料中の少なくとも2つの異なるタンパク質またはペプチドの相対量を決定する方法:
(a)標的となる、複数の異なるタンパク質またはペプチドを含む試料を得る段階;
(b)標的となるタンパク質またはペプチドおよび標準をマトリックスと共結晶化させる段階;
(c)結晶化した標的となるタンパク質またはペプチドをマトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析で解析する段階;ならびに
(d)試料中に存在する、解析された標的となる個々のタンパク質またはペプチドの相対量を決定する段階。
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