JP2006078192A - 生体高分子の質量分析法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 メンブレン上に固相化されたタンパク質及び核酸等の生体高分子を、メンブレン上で断片化し、その断片に由来する分子イオンを親イオンとして、MS2解析を含むMSn解析による検出をメンブレン上で直接行い、生体高分子の正確な質量分析を行うことで、目的とする生体高分子に関する詳細な情報を得ることができる方法を提供する。
【解決手段】 メンブレン上に固相化された生体高分子をメンブレン上で断片化し、メンブレン上に断片を存在させ、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法を用いて、前記断片に由来する分子イオンを親イオンとして、メンブレン上でMS2解析(MS/MS解析)を含むMSn解析(MSのn乗解析)による検出を行う、生体高分子の質量分析法。
【選択図】図1
【解決手段】 メンブレン上に固相化された生体高分子をメンブレン上で断片化し、メンブレン上に断片を存在させ、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法を用いて、前記断片に由来する分子イオンを親イオンとして、メンブレン上でMS2解析(MS/MS解析)を含むMSn解析(MSのn乗解析)による検出を行う、生体高分子の質量分析法。
【選択図】図1
Description
本発明は、生体高分子の質量分析法に関する。特に、メンブレン上に固相化されたタンパク質及び核酸等の生体高分子を試料として用い、その生体高分子の断片に由来する分子イオンを親イオンとして、メンブレン上で、MS2解析(MS/MS解析)を含むMSn解析(MSのn乗解析)による検出を行い、生体高分子を高い精度で質量分析する方法に関する。
生体高分子であるタンパク質や核酸等を、電気泳動等によって分離した後、ゲルからメンブレンへ転写させて固相化させる方法は、生化学の分野においては広く用いられている方法である。このようにメンブレン上に固相化された生体高分子を試料として用いて、質量分析法によって生体高分子を検出する方法が、例えば、Analytical Chemistry, 67(5), 843-848 (1995)、Electrophoresis, 17(5), 954-961 (1996)等に記載されている。
また、その際に、生体高分子であるタンパク質や核酸等を、メンブレン上で各種酵素により断片化させ、前記断片に由来する分子イオンを質量分析法によって検出する方法も、例えば、Molecular & Cellular PROTEOMICS, 1(7), 490-499 (2002)に記載されている。
現在、メンブレン上に固相化された生体高分子に由来する分子イオンを、メンブレン上で直接検出するために用いられている質量分析法は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization))質量分析法によるMS(mass spectrometry)解析である。
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法とは、MALDIによってイオン化された生体高分子由来の分子イオンを、質量数/電荷数(m/z)に従って分離し、各イオンの相対強度を測定する方法をいう。MALDIとは、レーザーを照射源として、マトリックスと呼ばれる分子(一般的には有機化合物)と混合した生体高分子由来の試料にレーザー光を照射して、分子イオンを生成させる方法である。
しかし、メンブレン上を完全な平面として構築することは困難であり、前記メンブレン上に固相化された生体高分子由来の分子イオンを検出する場合、対象となる分子イオンの質量数の精度がメンブレンの凹凸の影響によってずれる現象が生じる。
また、生体高分子を電気的に転写するメンブレンとして広く用いられているのは、非導電性メンブレンであるが、非導電性メンブレンに生体高分子を固相化した場合、メンブレンに電荷が蓄積することにより正常なプレート電圧を導入することができずに、対象となる分子イオンの正確な質量数を測定できないことがある。
従って、メンブレン上に固相化された生体高分子を試料として用い、メンブレン上で生じる生体高分子由来の分子イオンを親イオンとして、MS2解析を含むMSn解析による質量分析を試みた場合、親イオンの質量数の精度にずれがあるため、正確なMSn解析による質量分析を行うことが困難である。
「アナリティカル・ケミストリー (Analytical Chemistry)」、(米国)、1995年、第67巻、p.843−848
「エレクトロフォアシス (Electrophoresis)」、(ドイツ)、1996年、第17巻、p.954−961
「モレキュラー・アンド・セルラー・プロテオミクス (Molecular & Cellular PROTEOMICS)」、(米国)、2002年、第1巻、p.490−499
本発明の目的は、メンブレン上に固相化されたタンパク質及び核酸等の生体高分子を、メンブレン上で断片化し、その断片に由来する分子イオンを親イオンとして、MS2解析を含むMSn解析による検出をメンブレン上で直接行い、生体高分子の正確な質量分析を行うことで、目的とする生体高分子に関する詳細な情報を得ることができる方法を提供することにある。
本発明者等は、上記の問題を解決するために鋭意検討した結果、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法を用いて、メンブレン上に固相化された生体高分子に由来する分子イオンを親イオンとして、MS2解析を含むMSn解析による検出を行うことにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
本発明は、メンブレン上に固相化された生体高分子をメンブレン上で断片化し、メンブレン上に断片を存在させ、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法を用いて、前記断片に由来する分子イオンを親イオンとして、メンブレン上でMSn解析(MSのn乗解析)による検出を行う、生体高分子の質量分析法である。
本明細書において、「メンブレン上でMSn解析による検出を行う」とは、「メンブレン上に固相化された生体高分子を断片化することにより、メンブレンに存在する断片を、直接MSn解析による質量分析の試料として用いてMSn解析による検出を行う」という意味である。
本明細書において、質量分析計によって行われる解析において、試料の1回目の解析をMS解析とし、MS解析において得られたスペクトルのイオンピークから特定のイオンピークを選択し、選択された特定のイオンをプリカーサイオンとして2回目の解析を行うことをMS2解析(MS/MS解析)と表記する。同様に、MSn−1解析において得られたスペクトルのイオンピークから特定のイオンピークを選択し、選択された特定のイオンをプリカーサイオンとしてn回目の解析を行うことをMSn解析と表記し、MSのn乗解析と呼称する。
本発明は、前記メンブレン上に固相化された生体高分子が、エレクトロブロッティングにより、メンブレンに電気的に転写された生体高分子である、前記の生体高分子の質量分析法である。
本発明は、前記断片化が、生体高分子を酵素処理することによって行われる、前記の生体高分子の質量分析法である。
本発明は、前記断片化が、微量分注装置を用いて、試薬をメンブレン上に滴下することによって行われる、前記の生体高分子の質量分析法である。
本発明によれば、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法を用いることによって、メンブレン上に固相化された生体高分子を、メンブレン上で断片化し、その断片に由来する分子イオンを親イオンとして、メンブレン上でMSn解析による検出を行い、生体高分子の正確な質量分析を行うことができる。
本発明では、メンブレン上に固相化された生体高分子を、質量分析の試料として用いる。
生体高分子とは、生体を構成する高分子の総称であり、タンパク質や、DNA、RNA等の核酸等を指す。
生体高分子は、メンブレン上に固相化される前に、電気泳動によって分離することが好ましい。本発明において、生体高分子の分離に使用できる電気泳動法は、特に制限されないが、例えば、アガロースゲル電気泳動法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、SDS(Sodium dodecyl sulfate)ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE法)等を挙げることができる。当業者であれば、分離の対象となる物質によって、各種電気泳動法から適宜選択することができる。
本発明においては、タンパク質を分離する場合は、SDS-PAGE法を用いるのが好ましい。SDS-PAGE法は、操作が簡便で再現性が高く、タンパク質を分離する代表的な方法である。目的タンパク質の高次構造を、強力なタンパク変性作用を有するSDSを用いて変性し、タンパク質の分子量の違いにより分離する手法である。また、DNA、RNA等の核酸を分離する場合は、ポリアクリルアミドゲルを用いることも可能であるが、さらに網目の大きいアガロースゲルを用いることが好ましい。さらに巨大なDNAの分離には、電場の方向を変動させて、有効な分離を達成させるパルスフィールド電気泳動法がある。これらの電気泳動法は、当技術分野における当業者が通常使用する方法で実施することができる。
上記の方法で分離された生体高分子は、ゲルからメンブレンへ転写(ブロッティング)されることにより、メンブレン上に固相化される。転写方法は、特に制限されず、当技術分野で通常用いられる方法を使用することができる。例えば、電気的手法を用いるエレクトロブロッティング、毛細管現象を利用したキャピラリー式ブロッティングが挙げられる。
本発明においては、エレクトロブロッティングにより電気的に転写することが好ましい。エレクトロブロッティングとは、タンパク質や、DNA、RNA等の核酸等の巨大分子を、電気泳動によって分離した後、ゲルからメンブレンへ電気泳動によって移動(トランスファー)させる方法である。
本発明において用いるメンブレンとしては、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるメンブレンを使用することができる。例えば、ポリビニリデンジフロリド(PVDF)やニトロセルロース等の、通常のエレクトロブロッティングで使用されるメンブレンを用いることが好ましい。これらのメンブレンは、通常、タンパク質や核酸等を疎水結合等で固定し得るメンブレンである。
また、本発明では、メンブレン上に固相化された生体高分子を、メンブレン上で断片化する。メンブレン上で生体高分子を断片化する方法としては、特に制限されず、当技術分野で通常用いられる方法を使用することができる。
本発明においては、生体高分子を酵素処理することによって断片化することが、簡便であり、好ましい。当業者であれば、断片化の対象となる物質によって、各種酵素から適宜選択することができ、また、各酵素処理に適した反応時間、温度条件等を選択できる。例えば、タンパク質を断片化するための酵素として、トリプシン、キモトリプシン、V8エンドプロテアーゼ等が挙げられ、巨大DNAを断片化するための酵素として、EcoRI、BamHI、HindIII等の各種制限酵素等が挙げられる。
本発明において、前記断片化は、微量分注装置を用いて、各種酵素等の必要な試薬をメンブレン上に滴下することによって行われることが好ましい。本発明において用いる微量分注装置は、メンブレン上の微小な領域に微量の試薬を分注することができるため、微小領域でのメンブレン上酵素消化を行うことができる。具体的な製品名としては、CHIP−1000(島津製作所製)がある。
さらに、本発明では、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法を用いて、前記断片に由来する分子イオンを親イオンとしてMS2解析を含むMSn解析による検出を行う。本発明において、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法とは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)によってイオン化された生体高分子由来の分子イオンを、イオントラップに一時的に閉じ込めた後、検出器に飛び出させて、質量分析を行う方法をいう。
MALDI法のイオン化機構については完全に解明されているとはいえないが、本明細書の記載は、現在最も多く受け入れられている解釈に基づく。多量のマトリックスと呼ばれる分子(一般的には有機化合物)と生体高分子由来の断片を均一に混合し、レーザー光を照射する。レーザー光を吸収したマトリックスは、レーザー光を熱エネルギーに変換し、マトリックスの一部が急速に加熱される。その結果、マトリックスは生体高分子由来の断片もろとも気化され、イオン化が起こる。生体高分子由来の分子が中性のままで脱離されても、同時に気化されたプロトン、陽イオン、マトリックスイオンが付加されてイオンとなる。
本発明において用いるマトリックスとしては、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるマトリックスから、生体高分子の化学的、物理的性質等の違いによって、適宜選択して用いることができる。本発明においては、イオントラップの過程で、イオン化された分子が、その内部エネルギーに起因する分子イオンの自己崩壊を起こすのを防ぐため、イオン化の際に分子に与えるエネルギーが比較的小さいとされている2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)をマトリックスとして用いることが好ましい。
マトリックスは、前述の微量分注装置を用いて添加することもできる。このような微量分注装置を用いると、前述のように酵素処理した断片部分に正確にマトリックスを分注することができる。
MALDIによってイオン化された生体高分子由来の分子イオンは、イオントラップされた後、質量分析計に放出される。外側を円筒状にそぎ落としたドーナツ型のリング電極の穴の上下に、半球状のエンドキャップ電極を押し込めた真空空間内に分子イオンを閉じ込めて(トラップして)、高周波電圧を走査してイオンを順次追い出して検出する。
このように、生体高分子由来の分子イオンをイオントラップに一時的に閉じ込めた後、同一のタイミングで分子イオンを検出器に飛び出させることが可能であるため、メンブレン上に固相化された生体高分子由来の分子イオンを検出する際の、質量数の精度に関するずれの問題点を回避することができる。その結果、メンブレン上に固相化された生体高分子に由来する分子イオンを親イオンとして、MS2解析を含むMSn解析による生体高分子の質量分析をメンブレン上で行うことが可能となり、生体高分子のより詳細な情報を得ることができる。
本発明において、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法を用いる質量分析計として、MSの2乗以上の解析が可能な質量分析計を用いる。具体的には、MALDI-IT型質量分析装置、AXIMA−QIT装置(島津製作所製)等が挙げられる。
以下に生体高分子として、タンパク質(ウシ血清アルブミン:bovine serum albumin)を用いたMS2解析による質量分析の例を示すが、本発明はこれにより限定されるものではない。
20,10,5,2,1,0.5pmolの各ウシ血清アルブミンを、それぞれ一次元電気泳動(SDS-PAGE)によってゲル上に分離した。分離されたウシ血清アルブミンを、ゲルからPVDFメンブレン上に電気的に転写して、PVDFメンブレン上に固相化されたウシ血清アルブミンを得た。
ピエゾ素子を用いた微量分注装置として、CHIP−1000(島津製作所製)を用いて、PVDFメンブレン上に固相化された各ウシ血清アルブミンに対して、0.25(w/v)%ポリビニルピロリドン(60(v/v)%メタノール)を7nlずつ分注し、次に、同じ位置に100μg/mlトリプシン(25mMNH4HCO3、10(v/v)%2−プロパノール)を50nlずつ微量分注した。トリプシンの分注後、30℃、o/nの条件で、メンブレン上酵素消化反応を行うことにより、ウシ血清アルブミンのペプチド断片を得た。
引き続き、上記微量分注装置を用いて、各反応後消化ポジションに対して、マトリックスとして10mg/mlの2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)(25(v/v)%アセトニトリル、0.1(v/v)%トリフルオロ酢酸(TFA))を100nlずつ微量分注した。
上記微量分注装置を用いて、トリプシン、マトリックス等を微量分注した様子を図1に示した。図1中の拡大写真は、20pmol分画にトリプシン、マトリックス等を微量分注した様子を示している。
PVDFメンブレン上に固相化されたウシ血清アルブミン由来の上記ペプチド断片を、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置であるAXIMA−QIT装置(島津製作所製)を用いて検出した。その結果得られた前記各濃度についてのスペクトルを図2に示した。図2中、横軸は質量/電荷(Mass/Charge)、縦軸はイオンの相対強度を表す。
また、そのときに検出した1639.19Daの分子イオン(図2中矢印で示す)を親イオンとして、MS2解析を行った。その結果得られた前記各濃度についてのスペクトルを図3に示した。図3中、横軸は質量/電荷(Mass/Charge)、縦軸はイオンの相対強度を表す。
MS2解析の結果得られたスペクトルデータをもとに、MASCOT Server Cluster(マトリックスサイエンス社製)を用いてデータベース検索を実施したところ、全てのスペクトルデータにおいて、ウシ血清アルブミンが有意なスコアでヒットした。
このように、メンブレン上でMS2解析による検出を行い、生体高分子を高い精度で質量分析することが可能となった。さらに、MS2解析において得られたスペクトルのイオンピークから特定のイオンピークを選択し、選択された特定のイオンをプリカーサイオンとしてMS3解析による検出を行うことにより、より高い精度で質量分析を行うことができる。MS4以上の解析に関しても同様に行うことが可能である。
Claims (4)
- メンブレン上に固相化された生体高分子をメンブレン上で断片化し、メンブレン上に断片を存在させ、イオントラップ型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法を用いて、前記断片に由来する分子イオンを親イオンとして、メンブレン上でMSn解析(MSのn乗解析)による検出を行う、生体高分子の質量分析法。
- 前記メンブレン上に固相化された生体高分子が、エレクトロブロッティングにより、メンブレンに電気的に転写された生体高分子である、請求項1に記載の生体高分子の質量分析法。
- 前記断片化が、生体高分子を酵素処理することによって行われる、請求項1又は2に記載の生体高分子の質量分析法。
- 前記断片化が、微量分注装置を用いて、試薬をメンブレン上に滴下することによって行われる、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の生体高分子の質量分析法。
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