JP2006214030A - インクジェット捺染用の定着促進組成物、インクジェット捺染セット、及びインクジェット捺染方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】定着促進組成物は、アルカリ剤と保湿剤と水とを含み、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出可能である。捺染セットは、前記定着促進組成物と、非アルカリ前処理液と、インクジェット捺染用インク組成物との組合せを含む。ンクジェット捺染方法は、布帛全体を非アルカリ前処理液で処理し、続いて、インクジェット記録用プリンタヘッドから、画像領域に、前記定着促進組成物及びインクジェット捺染用インク組成物を任意の順序で吐出させる。
【選択図】なし
Description
従って、例えば、図1に示すように、布帛10にE字の画像領域1と、それ以外の地部分である非画像領域2とを形成する場合に、捺染スクリーンを用いる従来型の捺染方法では、捺染スクリーンを介して捺染インクを布帛10に付与するので、画像領域1の部分に供給される捺染インクは、捺染スクリーンを通過して布帛10に到達するのに対し、非画像領域2の部分へ供給される捺染インクは、捺染スクリーンに遮断されて布帛10に到達しない。すなわち、非画像領域2の部分には捺染インクが全く付着せず、画像領域1の部分にのみ捺染インクが付着する。
従って、本発明の課題は、インクジェット捺染に固有の前記の黄変を解消することにある。
アルカリ剤と保湿剤と水とを含み、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出可能であることを特徴とする、インクジェット捺染用の定着促進組成物によって解決することができる。
本発明による前記定着促進組成物の好ましい態様においては、ヒドロトロピー剤を更に含む。
本発明による前記インクジェット捺染セットの好ましい態様においては、前記定着促進組成物又は前記非アルカリ前処理液の少なくとも一方がヒドロトロピー剤を含む。
本発明による前記インクジェット捺染セットの別の好ましい態様においては、前記インクジェット捺染用インク組成物が、アルカリ剤と共に蒸熱することで定着性が向上する反応染料を含む。
本発明による前記インクジェット捺染方法の好ましい態様においては、動物性繊維製の布帛に対して適用する。
本発明による定着促進組成物は、少なくともアルカリ剤と保湿剤と水とを含む。また、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出可能に調整されている。すなわち、本発明による定着促進組成物は、従来のインクジェット捺染において前処理剤に含まれている各種配合成分の内、アルカリ剤を必ず含み、高粘性配合成分(例えば、糊剤)を含まない。また、本発明による定着促進組成物は、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出可能に調整することができる限り、前記のアルカリ剤や保湿剤の他に、従来のインクジェット捺染において前処理剤に含まれている任意の配合成分を含むことができる。
アルカリ剤は、従来のインクジェット捺染において前処理剤に含まれており、インクジェット反応染料インクの定着反応速度を向上させる目的で使用されている。従って、本発明による定着促進組成物に含有させるアルカリ剤としても、定着時に反応染料の反応を促進する機能を有する任意のアルカリ剤を用いることができる。具体的には、従来のインクジェット捺染において前処理剤に含まれていたアルカリ剤と同じ化合物を用いることができ、例えば、ナトリウム灰、水酸化ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、又は酢酸ナトリウム等を挙げることができ、特に好適には重炭酸ナトリウムを挙げることができる。
アルカリ剤の含有量は、特に限定されるものではないが、定着促進組成物の全重量に対して、好ましくは1〜7重量%、より好ましくは2〜5重量%である。アルカリ剤の含有量が1重量%未満になると、定着反応促進効果が少なくなることがあり、7重量%を超えると、絹等の動物性繊維を傷めることがある。
前記定着促進組成物に対して、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出可能な物性を付与する目的で保湿剤を用いる。従って、通常のインクジェット記録用インク組成物において使用されている保湿剤を用いることができる。具体的には、常圧における沸点が150℃以上の多価アルコールを用いることが好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオオール、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、チオグリコールなどが挙げられる。
また、式(I)の化合物として市販品を利用することも可能であり、その例としてはLipo Chemicals Inc.(米国、ニュージャージー州)から入手可能なリポニックEG−1(EP1、EP2、及びEP3がいずれもエチレンオキシ基であり、l+m+nが26の式(I)の化合物)、EG−7(EP1、EP2、及びEP3がいずれもエチレンオキシ基であり、l+m+nが26の式(I)の化合物)が挙げられる。
本発明の前記定着促進組成物において、水は主溶媒である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、又は蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。また、紫外線照射、又は過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、前記定着促進組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
本発明の前記定着促進組成物は、必要により、増粘剤を含むことができる。増粘剤としては、水との親和性に優れた化合物が好ましく、前記定着促進組成物の吐出特性に悪影響を与えないことが必要である。増粘剤としては、例えば、ポリエチレングリコールを用いることができる。
本発明の前記定着促進組成物は、インクジェット記録用プリンタヘッドから、後述する非アルカリ前処理液によって前処理された布帛の画像領域に吐出させて使用するので、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出可能となる種々の物性を有することが必要である。こうした物性としては、例えば、粘度が20℃で、好ましくは8.0m・Pa・s以下、より好ましくは1.5〜6.0m・Pa・sである。8.0m・Pa・s以下であれば通常の環境温度で何ら支障なくインク吐出が可能である。20℃で8.0m・Pa・sを超えるインクは低温領域での吐出安定性が悪くなる。
本発明で用いる前記非アルカリ前処理液は、従来のインクジェット捺染で用いられている前処理剤において、糊剤などの高粘性物質を含めたままで、アルカリ剤を除去したものに相当し、従来のインクジェット捺染における前処理剤と同様の態様で使用することができる。従って、この非アルカリ前処理液は、少なくとも、糊剤及びヒドロトロピー剤を含むことが好ましい。また、還元防止剤を含有することもできる。更に、印捺濃度を向上させるために、シリカを含有していてもよい。
糊剤は、従来のインクジェット捺染において前処理剤に含まれており、インク定着、及び滲み防止に有効である。従って、本発明で用いる非アルカリ前処理液においても、従来のインクジェット捺染の前処理剤に通常含まれている任意の糊剤を用いることができ、例えば、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ナトリウム、ふのり等の海草類、ペクチン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、焙焼澱粉、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉等の加工澱粉、シラツガム系、ローストビーンガム系等の加工天然ガム、アルギン誘導体、あるいは、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊、エマルジョン等を用いることができる。特に使用する反応染料との染着性が乏しい糊剤が好適に用いられる。糊剤の含有量は、非アルカリ前処理液の全重量に対して、固形分換算で0.5〜20重量%が望ましい。糊剤の含有量が0.5重量%未満だと、インクが充分に定着せず、滲みが発生することがあり、20重量%を超えると、高粘度になるために非アルカリ前処理液が布帛全体に行き渡らず、印捺斑を生じることがある。
本発明で用いる非アルカリ前処理液においても、水は主溶媒である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、又は蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。また、紫外線照射、又は過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、前記定着促進組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
本発明で用いる非アルカリ前処理液はアルカリ剤を含まず、pHは、好ましくは9以下、より好ましくは8以下である。pHが10を超えると非画像領域に黄変が発生することがある。
本発明で用いる非アルカリ前処理液は、従来のインクジェット捺染における前処理剤と同様の態様で使用し、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出させる必要がないので、粘度などは限定されない。
本発明による定着促進組成物及び非アルカリ前処理液は、従来のインクジェット捺染における前処理剤を2分割したものである。従って、前記定着促進組成物が
(1)アルカリ剤と保湿剤と水とを含むこと、及び
(2)インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出可能であること
を満足し、しかも前記非アルカリ前処理が
(1)糊剤を含むこと、及び
(2)アルカリ剤を含まないこと
を満足する限り、前記定着促進組成物及び前記非アルカリ前処理液は、従来のインクジェット捺染における前処理剤が通常含有している配合成分を、いずれか一方にあるいは両方に、含んでいることができる。それらの配合成分の代表例を念のため、以下に説明する。
ヒドロトロピー剤は、従来のインクジェット捺染において前処理剤に含まれており、蒸熱効率の向上、印捺濃度の向上、布帛のパディング処理後の安定性の向上、又はパディング布表面状態の安定化に効果がある。従って、本発明による前記定着促進組成物又は前記非アルカリ前処理液のいずれか一方、又はそれらの両方に、ヒドロトロピー剤を含有させることができる。ヒドロトロピー剤としては、従来のインクジェット捺染の前処理剤に通常含まれている任意のヒドロトロピー剤を含有することができ、具体的には、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、又はジメチルチオ尿素等のアルキル尿素を使用することができる。
ヒドロトロピー剤の含有量は特に限定されるものではないが、前記定着促進組成物又は前記非アルカリ前処理液の全重量に対して、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%である。ヒドロトロピー剤の含有量が5重量%未満だと、前記の効果を充分に得ることが困難になり、20重量%を超えると、滲み原因となることがある。
本発明で用いる前記定着促進組成物及び前記非アルカリ前処理液の両方、又はいずれか一方は、還元防止剤を含有することもでき、印捺斑防止、印捺濃度・色相の再現性向上に有効である。前記定着促進組成物及び/又は前記非アルカリ前処理液が還元防止剤を含有すると、保存性向上に有効である。予め前記定着促進組成物及び/又は前記非アルカリ前処理液中に還元防止剤を入れることで、インクジェット捺染インクが布帛上で蒸熱されて、染まる際に起こる斑を防止することができる。特に、捺染インクが複数染料で構成されている場合には、低濃度領域で色相が変化してしまうことがあるが、還元防止剤によりこのような不具合も防止することができる。
還元防止剤を含有する非アルカリ前処理液で処理した布帛に対して、還元防止剤を含有する定着促進組成物及び還元防止剤を含有するインクジェット捺染インクで捺染すると、双方の還元防止効果が作用して、色再現性の極めて優れた捺染物を得ることができる。
本発明で用いる前記非アルカリ前処理液は、シリカを含有することができ、そのシリカは発色性向上に有効である。シリカとしては、好適には表面が水酸基で覆われているものがよい。水酸基は水に対して強い親和力をもつので、反応染料の定着効率を向上させることができる。また、シリカと尿素とを組み合わせることで、相乗効果が働き、この発色性が著しく向上する。シリカの含有量は、定着促進組成物又は前記非アルカリ前処理液に対して、好ましくは0.5〜8重量%である。0.5重量%未満では発色効果が少なくなる。この効果は特にマゼンタで顕著である。また8重量%を超えるとマゼンタ印捺部分で色むらが発生しやすくなる。更に、シアン、ブルーでは発色濃度低下が起こる。更にまた、シリカが布帛から離れやすくなり、インクジェット吐出不良が起こりやすくなる。
(4)その他の添加物
また、本発明で用いる前記定着促進組成物及び前記非アルカリ前処理液の両方、又はいずれか一方は、上記成分に加えて、諸性能を改善するために添加剤を含有することができる。そのような添加剤の例としては、防腐剤、又はキレート剤(金属封鎖剤)を挙げることができる。防腐剤の好ましい例としては、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL,プロキセルXL−2、プロキセルIB、又はプロキセルTNなどを挙げることができる。防腐剤は、前記定着促進組成物及び前記非アルカリ前処理液そのものを安定化させるばかりではなく、パディング乾燥後の非アルカリ前処理液の安定性にも有効である。
また、キレート剤(金属封鎖剤)は、布帛上の重金属をトラップし、染め斑防止に有効である。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、又はメタリン酸塩等が好適である。また、BASF社から市販されているTRILON TA、DEKOL SN、Benkiesed社から市販されているCalgon Tは生分解性に優れており環境面で好適である。
本発明において用いるインクジェット捺染用インク組成物は、従来のインクジェット捺染において使用されているインク組成物と本質的に異なるものではない。本発明において用いるインクジェット捺染用インク組成物の配合成分の代表例を以下に説明する。
本発明の定着促進組成物及び非アルカリ前処理液は、反応染料を含有する捺染用インクジェットインクと組み合わせて用いることが好ましい。本発明で用いるインクジェット捺染用インク組成物に含まれる反応染料は、加熱蒸着により布帛と化学接合して定着する性質を有する限り、特に制限されないが、例えば、モノクロロトリアジニル系、ジクロロトリアジニル系、クロルピリミジル系、又はビニルスルホン系の反応基を有する染料が好ましい。これらの染料は、個々の目的により選択される。例えば、高濃度の黒色を特に所望する際はビニルスルホン系反応染料が好適である。また、インクジェット捺染用インク組成物を長時間保存することが必要な際は、モノクロロトリアジニル骨格、すなわちモノクロロ置換1,3,5−トリアジン2−イル骨格を有する染料が好ましい。モノクロロトリアジニル骨格を有する反応染料は比較的熱安定が優れているため、長時間保存安定性が要求されるインクジェットインク用染料として特に好適である。インクジェット捺染用インク組成物に含まれる反応染料の具体例を以下に列挙する。
C.I.リアクティブイエロー3、6、12、18、86
C.I.リアクティブオレンジ2、5、12、13、20、
C.I.リアクティブレッド3、4、7、12、13、15、16、24、29、31、32、33、43、45、46、58、59、
C.I.リアクティブバイオレット1、2、
C.I.リアクティブブルー2、3、5、7、13、14、15、25、26、39、40、41、46、49、176
C.I.リアクティブグリーン5、8、
C.I.リアクティブブラウン1、2、7、8、9、11、14、及び
C.I.リアクティブブラック1、2、3、8、10、12、13
なお、本明細書において反応染料とは、カラーインデックス中で反応染料に分類されている化合物をいう。
本発明で用いるインクジェット捺染用インク組成物は、緩衝剤を加えてpHを安定させることが望ましい。またpHを9以下に調整することによりインク組成物中の反応染料の加水分解を遅延させることができる。加水分解の進行は布帛の定着濃度を低下させるのみならず、インクを強い酸性領域に進めるため印捺機を腐食しやすくなる。特に、プリントヘッド部分の腐食はインクジェットシステムに大きなダメージを与える。本発明で用いるインクジェット捺染用インク組成物の好適なpHは6〜9、更に好適には7〜8.5である。pHがあまり高くなると反応染料の加水分解が進行しやすくなる。例えば30℃で1年以上放置することを要する場合は、pH9以下が好ましい。但し、短期間でインクを使い切る場合は、インクのpHが10を超えても差し支えない。
本発明で用いるインクジェット捺染用インク組成物においては、水としては任意の水を用いることができるが、純水を用いるのが好ましい。純水は、イオン交換、又は蒸留等で容易に製造することができる。また、純水を更に紫外線等で滅菌処理するのが更に好ましい。
本発明で用いるインクジェット捺染用インク組成物は、還元防止剤を含むことができる。還元防止剤としては、ニトロベンゼンスルホン酸塩を用いるのが好ましく、メタニトロベンゼンスルホン酸塩を用いるのがより好ましい。塩は、例えば、アルカリ金属塩であり、好ましくはナトリウム塩である。また、この効果はインク中の染料にC.I.リアクティブブルー176が含まれる場合、特に効果が大きい。
更に、本発明で用いるインクジェット捺染用インク組成物は、金属イオン封鎖剤を含有することができる。金属封鎖剤としてはエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、EDTA塩(例えば、ナトリウム塩)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(EDTA−OH)等が好適である。
本発明で用いるインクジェット捺染用インク組成物には、インクの吐出安定性(特には、ピエゾヘッドでの吐出安定性)を向上させる目的で、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル)を添加することができる。
また、本発明で用いるインクジェット捺染用インク組成物は、上記成分に加えて、防腐剤を含有することが好ましい。好ましい防腐剤としては、例えば、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルIB、又はプロキセルTNなどを挙げることができる。
更に、前記インクジェット捺染用インク組成物は、ピロリドン系溶媒(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン)又はチオグリコールを含有することによって染料の溶解度を高くし、高濃度染料インクにも優れた吐出安定性を付与することができる。
本発明によるインクジェット捺染セットは、
(1)前記定着促進組成物、
(2)前記非アルカリ前処理液、及び
(3)前記インクジェット捺染用インク組成物
の組合せからなる。
前記インクジェット捺染セットにおいて、前記定着促進組成物(1)と前記非アルカリ前処理液(2)との両方に含まれている全配合成分を併せると、従来のインクジェット捺染における前処理剤の配合成分と同様の組成になることが好ましい。もっとも、前記の通り、前記定着促進組成物(1)は、少なくともアルカリ剤と保湿剤と水とを含むが、糊剤を含まず、前記非アルカリ前処理液(2)は、少なくとも糊剤と水とを含むが、アルカリ剤を含まない。
前記非アルカリ前処理液(2)は、従来のインクジェット捺染における前処理剤と同様に、布帛の前処理に使用して布帛全体(画像領域及び非画像領域)に付与され、前記定着促進組成物(1)及び前記インクジェット捺染用インク組成物(3)は、それぞれ、インクジェット記録用プリンタヘッドから画像領域のみに吐出させて付与される。
本発明によるインクジェット捺染方法は、前記非アルカリ前処理液によって予め前処理を施した布帛に、定着促進組成物及びインクジェット捺染用インク組成物を任意の順序でインクジェット方式によって吐出させて付着させる工程、定着する工程、及び洗浄する工程により主に構成される。それぞれの工程には、公知の方法及び操作を使用することができる。以下、各工程の具体的な態様を例示する。
前記非アルカリ前処理液を布帛全体(すなわち、画像領域及び非画像領域)に付着させる方法としては、常法通り、コーティング又はパディング法が望ましい。例えば、パディング時のピックアップ率は、布帛の厚さ、繊維の太さ等で適宜決めることができ、50%以上が望ましく、更に好適には65%以上である。
本発明方法によって捺染することにできる布帛は、植物性繊維、動物性繊維、アミド系繊維からなる布帛又は少なくともこれらの繊維の一つを含む混紡からなる布帛である。好ましくは、動物性繊維(例えば、絹又は羊毛)からなる布帛である。
前記非アルカリ前処理液で処理された布帛は、インクジェット方法によって、前記定着促進組成物及び前記インクジェット捺染用インク組成物によって印捺される。印捺順序は限定されず、前記定着促進組成物を最初に印捺し、続いて前記インクジェット捺染用インク組成物を印捺しても、前記インクジェット捺染用インク組成物を最初に印捺し、続いて前記定着促進組成物を印捺してもよい。なお、前記定着促進組成物及び前記インクジェット捺染用インク組成物は、画像領域のみに印捺され、非画像領域には印捺されない。
印捺後に、高熱又は高熱の蒸気により定着される。定着条件は、例えば、セルロース系布帛では、95〜105℃にて飽和蒸気近辺で、4〜12分間処理するのが好ましい。また、絹や羊毛等のアミド系繊維では、95〜105℃にて、飽和蒸気近辺で、20〜40分間処理するのが好ましい。
(1)定着促進組成物の調製
以下の表1に示す配合からなる4種の定着促進組成物を調製した。具体的には、炭酸水素ナトリウム(アルカリ剤)を含有する3種の定着促進組成物(実施例1〜3)及び炭酸水素ナトリウムを含有しない1種の定着促進組成物(比較例1)を調製した。
以下の物性評価において、前項(1)の各定着促進組成物と組み合わせて用いる4種の非アルカリ前処理液を調製した。具体的には、以下の表2に示すように、糊剤(アルギン酸ナトリウム又はカルボキシメチルセルロース)を含み、炭酸水素ナトリウム(アルカリ剤)を含有しない3種の非アルカリ前処理液(A1〜A3)、及び糊剤(アルギン酸ナトリウム)を含み、炭酸水素ナトリウムを含有しない1種の前処理液(C1)である。
以下の物性評価において、前項(1)の定着促進組成物及び前項(2)の非アルカリ前処理液と組み合わせて用いるインクジェット捺染用インク組成物(以下、インク組成物B1)を、以下の表3に示す組成で調製した。
(A)黄変実験
前項(2)で調製した非アルカリ前処理液A1(アルカリ剤非含有)及び前処理液C1(アルカリ剤含有)を用い、常法により羽二重(絹)をパディング処理した。
続いて、パディング処理布帛を40℃/60%RHの環境下で1ヶ月放置した。この条件は、パディング処理布帛が、通常の市場で2年間放置された場合を想定した実験である。1ヶ月後に目視で評価したところ、非アルカリ前処理液A1(アルカリ剤非含有)で処理した布帛には黄変は認められないのに対し、前処理液C1(アルカリ剤含有)で処理した布帛には、明確な黄変が認められた。
更に、パディング処理後の布帛を、そのパディング処理の直後に、102℃及び飽和湿度付近にて30分間蒸熱した。この条件は、印捺後に羽二重(絹)を常法で定着する場合を想定した実験である。目視で評価したところ、非アルカリ前処理液A1(アルカリ剤非含有)で処理した布帛には黄変は認められないのに対し、前処理液C1(アルカリ剤含有)で処理した布帛には、明確な黄変が認められた。
以上のように、前処理液にアルカリ剤が含まれていると、長期保存又は定着処理によって、布帛に黄変が発生することが分かる。
本発明によるインクジェット捺染セットによって、良好なインクジェット捺染を得ることができることを以下の試験によって確認した。
インクジェット捺染セットとして、前項(1)で調製した定着促進組成物と、前項(2)で調製した前処理液とを種々に組合せ、更に前項(3)で調製したインク組成物B1を用いて6種の捺染セットを用意した。その内訳は、本発明によるインクジェット捺染セット4種(P1〜P4)、及び比較用のインクジェット捺染セット2種(R1及びR2)であった。
捺染の手順は以下の通りである。
最初に、前項(2)で調製した前処理液によって精華パレス(絹)を常法によってパディングした。続いて、パディング処理した布帛に、前項(3)で調製したインク組成物B1をインクジェット記録方法によって印捺し、次に、前項(1)で調製した定着促進組成物をインクジェット記録方法によって印捺した。更に、印捺した布帛を、102℃及び飽和蒸気圧付近にて30分間蒸熱定着し、常法によって洗浄し、乾燥した。こうして得られた印捺物に関して、OD値(グレタグ社測色計)を測定し、非画像領域の黄変を目視で評価した。結果を表4に示す。
これに対し、捺染セットP1〜P4の結果から明らかなように、本発明による捺染セットによれば、いずれも良好な印捺濃度が得られ、しかも黄変も発生しない。また、特に、捺染セットP1〜P3の結果から明らかなように、本発明による捺染セットにおいて、定着促進組成物及び前処理液の両方あるいはいずれか一方に、ヒドロトロピー剤を含有させると、更に良好な印捺濃度を得ることができる。
Claims (7)
- アルカリ剤と保湿剤と水とを含み、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出可能であることを特徴とする、インクジェット捺染用の定着促進組成物。
- ヒドロトロピー剤を更に含む請求項1に記載の定着促進組成物。
- 請求項1又は2に記載の定着促進組成物と、非アルカリ前処理液と、インクジェット捺染用インク組成物との組合せを含むことを特徴とする、インクジェット捺染セット。
- 前記定着促進組成物又は前記非アルカリ前処理液の少なくとも一方がヒドロトロピー剤を含む、請求項3に記載のインクジェット捺染セット。
- 前記インクジェット捺染用インク組成物が、アルカリ剤と共に蒸熱することで定着性が向上する反応染料を含む、請求項3又は4に記載のインクジェット捺染セット。
- 布帛全体を非アルカリ前処理液で処理し、続いて、インクジェット記録用プリンタヘッドから、画像領域に、請求項1又は2に記載の定着促進組成物及びインクジェット捺染用インク組成物を任意の順序で吐出させることを特徴とする、インクジェット捺染方法。
- 動物性繊維製の布帛に対して適用する、請求項6に記載のインクジェット捺染方法。
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