JP4556450B2 - 捺染用インクジェットインク及びインクジェット捺染方法 - Google Patents

捺染用インクジェットインク及びインクジェット捺染方法 Download PDF

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Description

本発明は、捺染用インクジェットインク及びインクジェット捺染方法に関する。本発明
の捺染用インクジェットインクによれば、ノズルプレートの腐食が防止されると共に、充
分な印捺濃度を得ることができる。
インクジェット印刷は、インクの小滴を飛翔させ、紙やトランスペアレンシーフィル
ム等の記録媒体に付着させる方法である。この方法は、比較的安価な装置で、高解像度及
び高品位な画像を高速で印刷することができる。
このインクジェット印刷方法を捺染に適用したインクジェット捺染方法は、予め前処理
された各種の布帛にインクの小滴を吐出させ、インクを付着させるため、階調性及び多色
表現性等に優れた種々の画像を布帛上に容易に形成することができる。また、インクジェ
ット捺染では、従来の印捺工程で発生する余剰のインクが殆ど発生しないので、環境保全
にも有効である。
しかしながら、インクジェット捺染では、従来の捺染インクの構成成分をインクに含有
させる成分と前処理剤に含有させる成分とに分ける必要があり、しかもその捺染用インク
ジェットインクをインクジェットに適した低粘性に調整することが必要である。更に、捺
染用インクジェットインクは、調製されてから使用されるまでの期間が比較的長期間にな
るので、保存安定性が求められる。
こうした捺染用インクジェットインクに保存安定性を付与する技術は種々提案されてい
る。例えば、捺染用インクジェットインクにリン酸緩衝剤を含有させると保存安定が向上
すること(例えば、特許文献1)、あるいは、モノクロトリアジン系反応染料にトリス緩
衝剤を含有させると保存安定が向上すること(例えば、特許文献2)などが提案されてい
る。
一方、捺染用インクジェットインクに接触するノズルプレートでは、腐食が進行するこ
とも知られており、特に、反応染料を含有する捺染用インクジェットインクにおいてもノ
ズルプレートの腐食が問題となっている。
特開平6−264018号公報 特開2002−241639号公報
反応染料含有捺染用インクジェットインクにおけるノズルプレートの腐食は、pH低下
によって進行することが知られており、pH低下を防止する効果を尿素が有していること
も知られている。ところが、反応染料インクに尿素を添加して長期間保存すると、インク
の保存安定性が低下し、印捺濃度が低下するという欠点が現れる。
従来、反応染料と尿素とを含有する捺染用インクジェットインクにおいて、ノズルプレ
ートの腐食進行を防止すると共に、インクの保存安定性を維持して印捺濃度の低下を招か
ない技術は、提案されていない。
従って、本発明の課題は、反応染料インクによるノズルプレート腐食の進行を防止する
と共に、印捺濃度の低下を招かない捺染用インクジェットインクを提供することにある。
前記の課題は、本発明により、
反応染料及び尿素に加えて、更に有機系緩衝剤及び2−イミダゾリジノンを含むことを特
徴とする、捺染用インクジェットインクによって解決することができる。
本発明による捺染用インクジェットインクの好ましい態様においては、前記インクが更
に多価アルコールを含む。
本発明による捺染用インクジェットインクの更に好ましい態様においては、前記インク
が更にピロリドン系溶剤を含む。
本発明による捺染用インクジェットインクの別の好ましい態様においては、反応染料が
モノクロトリアジニル系染料であり、更に好ましくは、前記モノクロトリアジニル系染料
が、C.I.リアクティブレッド31、C.I.リアクティブブルー49、又はC.I.
リアクティブオレンジ13である。
本発明による捺染用インクジェットインクの別の好ましい態様においては、有機系緩衝
剤が、トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタンである。
本発明による捺染用インクジェットインクの別の好ましい態様においては、前記インク
が更に金属封鎖剤を含む。
本発明による捺染用インクジェットインクの別の好ましい態様においては、前記インク
が更にベンゾトリアゾールを含む。
また、本発明は、水系前処理剤によって予め処理した布帛に、前記の捺染用インクジェ
ットインクを吐出させる工程を含むことを特徴とする、インクジェット捺染方法にも関す
る。
本発明によるインクジェット捺染方法の好ましい態様においては、前記捺染用インクジ
ェットインクを、ピエゾ振動子を用いたインクジェットプリンタヘッドに充填してインク
ジェット捺染を行う。
本発明によるインクジェット捺染方法の別の好ましい態様においては、前記インクジェ
ットプリンタヘッドのノズル面が撥インク性皮膜層を有する。
更に、本発明は、前記のインクジェット捺染方法によって捺染された布帛にも関する。
本発明の捺染用インクジェットインクは、反応染料及び尿素を含んでいるものの、更に
有機系緩衝剤及び2−イミダゾリジノンを含むことにより、ノズルプレートの腐食進行な
いし腐食が防止されると共に、インクの保存安定性が向上し、充分な印捺濃度を得ること
ができる。
前記の効果の効果は、本発明の捺染用インクジェットインクが、モノクロトリアジニル
系染料である場合に顕著に現れ、特に、マゼンタ染料の場合に顕著である。また、本発明
の捺染用インクジェットインクが、特に、C.I.リアクティブレッド31、C.I.リ
アクティブブルー49、又はC.I.リアクティブオレンジ13、中でも、C.I.リア
クティブレッド31を含むインクである場合に、前記の効果が顕著に現れる。
本発明の捺染用インクジェットインクが、更に、金属封鎖剤とベンゾトリアゾールとを
含む場合には、良好な保存安定性を維持しながら、ノズルプレートの腐食進行防止に関し
て特に優れた効果を示す。
[捺染用インクジェットインク]
(染料)
本発明の捺染用インクジェットインクに含まれる反応染料は、加熱蒸着により布帛と化
学接合して定着する性質を有する限り、特に制限されないが、例えば、モノクロロトリア
ジニル基、ジクロロトリアジニル基、クロルピリミジル基、ビニルスルホン基、又はアル
キル硫酸基等を反応基として有する染料が好ましい。これらの染料は、個々の目的により
選択される。例えば、高濃度の黒色を特に所望する際はビニルスルホン系反応染料が好適
である。また、捺染用インクジェットインクを長時間保存することが必要な際は、モノク
ロロトリアジニル骨格、即ちモノクロロ置換1,3,5−トリアジン2−イル骨格を有す
る染料が好ましい。モノクロロトリアジニル骨格を有する反応染料は比較的熱安定が優れ
ているため、長時間保存安定性が要求されるインクジェットインク用染料として特に好適
である。本発明の捺染用インクジェットインクに含まれる反応染料の具体例を以下に列挙
する。
C.I.リアクティブイエロー3、6、12、18、86
C.I.リアクティブオレンジ2、5、12、13、20、
C.I.リアクティブレッド3、4、7、12、13、15、16、24、29、31、
32、33、43、45、46、58、59、
C.I.リアクティブバイオレット1、2、
C.I.リアクティブブルー2、3、5、7、13、14、15、25、26、39、4
0、41、46、49、176
C.I.リアクティブグリーン5、8、
C.I.リアクティブブラウン1、2、7、8、9、11、14、及び
C.I.リアクティブブラック1、2、3、8、10、12、13
なお、本明細書において反応染料とは、カラーインデックス中で反応染料に分類されて
いる化合物をいう。
本発明においては、反応染料がモノクロトリアジニル系染料であることが好ましく、C
.I.リアクティブレッド31、C.I.リアクティブブルー49、又はC.I.リアク
ティブオレンジ13であることがより好ましく、C.I.リアクティブレッド31である
ことが特に好ましい。
本発明の捺染用インクジェットインクにおいて、反応染料の含有量は特に限定されず適
宜決定することができるが、インクの全重量に対して2〜20重量%程度が好ましく、よ
り好ましくは3〜15重量%程度である。反応染料の含有量が2重量%未満になると、充
分な印捺濃度を得ることができず、20重量%を超えると、インクジェット用インクに求
められる吐出安定性が悪化し、特に高温下では吐出不良となることがある。
(尿素)
本発明の捺染用インクジェットインクは、尿素を含有する。尿素は反応染料の溶解度を
向上させる作用を有すると共に、本発明においては、ノズルヘッドの腐食防止作用を有す
る。尿素の含有量は、反応染料の含有量に依存して適宜決定され、特に限定されるもので
はないが、尿素の含有量は、捺染用インクジェットインクの全重量に対して、好ましくは
0.5〜10重量%、更に好ましくは1〜7重量%である。尿素の含有量が0.5重量%
未満になると、ノズルヘッドの腐食防止効果が得られなくなり、10重量%を超えると、
保存安定性が悪くなることがある。
(2−イミダゾリジノン)
本発明の捺染用インクジェットインクは、尿素に加えて、2−イミダゾリジノンを含有
する。2−イミダゾリジノンは、反応染料の溶解度を向上させる作用を有すると共に、本
発明においては、インクの保存安定性を向上させる作用を有する。2−イミダゾリジノン
の含有量は、染料の含有量に依存して適宜決定され、特に限定されるものではないが、2
−イミダゾリジノンの含有量は、捺染用インクジェットインクの全重量に対して、好まし
くは0.5〜10重量%、更に好ましくは1〜7重量%である。本発明の捺染用インクジ
ェットインクが尿素を含有している場合であっても、2−イミダゾリジノンの含有量が0
.5重量%未満になると、尿素との相乗効果が低下し、その結果、充分な印捺濃度を得る
ことができない。2−イミダゾリジノンの含有量が10重量%を超えると、低温で析出す
ることがある。
(有機系緩衝剤)
本発明の捺染用インクジェットインクは、尿素及び2−イミダゾリジノンに加えて、有
機系緩衝剤を含有する。本発明の捺染用インクジェットインクにおいては、有機系緩衝剤
を加えてpHを安定させることが望ましい。特に、pHを9以下に調整することによりイ
ンク液中の反応染料の加水分解を遅延させることができる。加水分解の進行は布帛の定着
濃度を低下させるのみならず、インクを強い酸性領域に進めるため印捺機を腐食しやすく
なる。特に、プリンタヘッド部分の腐食はインクジェットシステムに大きなダメージを与
える。本発明の捺染用インクジェットインクの好適なpHは6〜9、更に好適には7〜8
.5である。pHがあまり高くなると反応染料の加水分解が進行しやすくなる。例えば3
0℃で1年以上放置することを要する場合は、pH9以下が好ましい。但し、短期間でイ
ンクを使い切る場合は、インクのpHが10を超えても差し支えない。
有機系緩衝剤としては、例えば、トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン、又はト
リエタノールアミンを挙げることができ、トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタンが
好ましい。有機系緩衝剤の含有量は、染料の含有量に依存して適宜決定され、特に限定さ
れるものではないが、有機系緩衝剤の含有量は、捺染用インクジェットインクの全重量に
対して、好ましくは0.05〜2重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%である。本発
明の捺染用インクジェットインクが尿素及び2−イミダゾリジノンを含有している場合で
あっても、有機系緩衝剤の含有量が0.05重量%未満になると、インクの保存安定性が
低下し、その結果、充分な印捺濃度を得ることができない。有機系緩衝剤の含有量が2重
量%を超えると、高温下で放置したインクの印捺濃度が低下することがある。
(界面活性剤)
本発明の捺染用インクジェットインクは、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性
剤を有するインクは前処理した布帛上でも均一に濡れ、印捺斑を少なくすることができ、
また短時間の内に布帛中へ浸透するので有利である。また、ピエソ振動型プリンタでは吐
出不良の原因となるプリンタヘッド内の気泡排出性を向上させ、安定した吐出を保持する
効果がある。
好ましい界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、又はノニオン系界面活性剤である。特
にノニオン系界面活性剤であるアセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。アセチレ
ングリコール系界面活性剤は、ピエゾ振動子型のインクジェットヘッドとのマッチングに
優れ、安定的な吐出を維持する。この種の界面活性剤は、例えばオルフィンシリーズ(製
造:日進化学工業株式会社)、サーフィノールシリーズ(製造:Air Product
s and Chemicals.Inc.)として入手可能である。
界面活性剤の含有量は適宜決定されてよいが、インク組成物に対して0.05〜5重量
%が好ましく、より好ましくは0.1〜3重量%である。界面活性剤の含有量が0.05
重量%未満になるかあるいは5重量%を超えるとインクジェット吐出が不安定となること
がある。
(多価アルコール)
本発明の捺染用インクジェットインクは、有機溶媒として多価アルコールを含むのが好
ましい。多価アルコールは、インクジェット捺染機を長期間使用しない場合、ノズルの目
詰まりを防ぐ効果がある。好ましい例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコ
ール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリ
プロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、1,4−ブタン
ジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオ
ール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサント
リオール、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、グリセリン、メソエ
リスリトール、ペンタエリスリトール、チオグリコールなどである。
多価アルコールの含有量は適宜決定することができるが、インクの全重量に対して40
重量%以下が好ましく、より好ましくは10〜30重量%である。多価アルコールの含有
量が40重量%を超えると、適正なインク粘度を確保することが困難になることがある。
多価アルコールは、プリンタヘッドの吐出特性とインクの保存安定性とを考慮して、単独
あるいは混合して用いることができる。
また前記の多価アルコールの中で、プロピレングリコール、及び1,2−ヘキサンジオ
ールは、2−イミダゾリジノンとの併用で吐出安定性が特に向上し、好適である。更に、
ピエゾヘッドにおいては、1,2−ヘキサンジオールの含有量を変えることによって、イ
ンク吐出量をコントロールすることができる。含有量が多ければ吐出量は減る傾向にあり
、個々のヘッドの最適吐出量をコントロールすることに有効である。
(ピロリドン系溶剤)
本発明の捺染用インクジェットインクは、更にピロリドン系溶剤を含有することが望ま
しい。本発明の捺染用インクジェットインクでは、モノクロトリアジニル反応染料の溶解
性とインク吐出安定性との間に密接な関係がある。溶解性の高い溶媒を用いることで吐出
安定性をより向上させることができる。染料濃度が比較的高い場合は、ピロリドン系溶媒
を添加することで吐出安定性を向上させることができる。ピロリドン系溶媒としては、例
えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、又は1,3−ジメチルイミダゾリ
ジノン等があるが、好ましくは2−ピロリドンである。2−ピロリドンは吐出安定性に加
えて乾燥目詰まり防止効果も有する。ピロリドン系溶剤を使用する場合の含有量は、前記
の目的が得られる範囲で適宜決定されるが、一般的には、捺染用インクジェットインクの
全重量に対して、1〜15重量%である。
(金属封鎖剤)
更に、本発明の捺染用インクジェットインクは、金属イオン封鎖剤を含有することが望
ましい。金属イオン封鎖剤は、通常の捺染用インクジェットインクの場合と同様にインク
を長期間安定的に吐出させる効果を有すると共に、本発明においては、ベンゾトリアゾー
ルとの併用によって、ノズルプレートの腐食防止作用を著しく向上させる作用を有する。
金属封鎖剤としてはエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、EDTA塩(例えば、ナ
トリウム塩)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(EDTA−OH)等が好適
である。
また、BASF社から市販されているTRILON TA、DEKOL SN、Ben
kiesed社から市販されているCalgon Tは生分解性に優れており、環境面で
好適である。好ましい含有量は、インクの全重量に対して、0.005〜1重量%であり
、更に好適には0.01〜0.5重量%である。
(ベンゾトリアゾール)
更に、本発明の捺染用インクジェットインクは、ベンゾトリアゾールを含有することが
望ましい。ベンゾトリアゾールは、通常の捺染用インクジェットインクの場合と同様にノ
ズルプレート腐食防止効果を有し、本発明においては、金属イオン封鎖剤との併用によっ
て、ノズルプレートの腐食防止作用を著しく向上させる作用を有する。ベンゾトリアゾー
ルの好ましい含有量は、インクの全重量に対して、0.001〜0.5重量%であり、更
に好適には0.005〜0.2重量%である。
(水)
本発明の捺染用インクジェットインクにおいて、水は主溶媒である。水は、イオン交換
水、限外濾過水、逆浸透水、又は蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。ま
た、紫外線照射、又は過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、インク
を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
(その他の添加物)
本発明の捺染用インクジェットインクは、インクの吐出安定性(特には、ピエゾヘッド
での吐出安定性)を向上させる目的で、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(例
えば、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル)を含有することができる。
また、本発明の捺染用インクジェットインクは、上記成分に加えて、防腐剤を含有する
ことが好ましい。好ましい防腐剤としては、例えば、プロキセルCRL、プロキセルBD
N、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルIB、又はプロキセルTNなど
を挙げることができる。更に、本発明の捺染用インクジェットインクは、チオグリコール
を含有することによって染料の溶解度を高くし、高濃度染料インクにも優れた吐出安定性
を付与することができる。
更に、本発明の捺染用インクジェットインクは、上記構成成分を適宜選択して含有する
が、粘度が20℃で8.0m・Pa・s以下、好ましくは1.5〜6.0m・Pa・sと
することが好ましい。8.0m・Pa・s以下であれば通常の環境温度で何ら支障なくイ
ンク吐出が可能である。20℃で8.0m・Pa・sを超えるインクは低温領域での吐出
安定性が悪くなる。
[インクジェット捺染方法]
本発明によるインクジェット捺染方法は、本発明の前記捺染用インクジェットインクを
用いて、予め前処理を施した布帛に、吐出させたインクを付着させる工程、定着する工程
、及び洗浄する工程により主に構成される。それぞれの工程には、公知の方法及び操作を
使用することができる。以下、各工程の具体的な態様を例示する。
(布帛の前処理)
本発明のインクジェット捺染方法は、予め前処理を施した布帛、例えば、植物性繊維、
動物性繊維、又はアミド系繊維のいずれか一つから構成される布帛、あるいはそれらの2
種以上の繊維の混紡からなる布帛に、インクジェット捺染を行なうことが好ましい。
布帛の前処理には、公知の前処理剤を用いることができ、前処理剤は、一般に、糊剤、
アルカリ剤、及びヒドロトロピー剤を含み、更に場合によりシリカを含むことができる。
糊剤としては、例えば、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン
酸ソーダ、ふのり等の海草類、ペクチン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、
ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、焙焼澱粉
、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉
等の加工澱粉、シラツガム系、ローストビーンガム系等の加工天然ガム、アルギン誘導体
、あるいは、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊、エマルジョ
ン等が用いられる。
また、アルカリ剤としては、好適には、ナトリウム灰、水酸化ナトリウム、第三リン酸
ナトリウム、又は酢酸ナトリウム等を挙げることができ、特に好適には重炭酸ナトリウム
を挙げることができる。
更に、ヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿
素、又はジメチルチオ尿素等のアルキル尿素を挙げることができる。
(シリカ)
前記の前処理剤は、シリカを含有することができ、そのシリカは発色性向上に有効であ
る。シリカとしては、好適には表面が水酸基で覆われているものがよい。水酸基は水に対
して強い親和力をもつので、反応インクの定着効率を向上させることができる。また、シ
リカと尿素とを組み合わせることで、相乗効果が働き、この発色性が著しく向上する。シ
リカの含有量は、前処理剤液に対して、好ましくは0.5〜8重量%である。0.5重量
%未満ではマゼンタ色での発色効果が少なくなり、また8重量%を超えるとマゼンタ印捺
部分で色むらが発生しやすくなる。更に、シアン、ブルーでは発色濃度低下が起こる。更
にまた、シリカが布帛から離れやすくなり、インクジェット吐出不良が起こりやすくなる
特に、シリカ含有前処理剤で処理した布帛に対して、本発明方法によって、シアンイン
ク又はブルーインクの少なくとも一つ及びマゼンタインクを用いて印捺する際は、カラー
バランスの点からもシリカの含有量が0.5〜8%であることが望ましい。
シリカの平均粒径は、好ましくは10μm以下である。粒径が大きければ添加量に対す
る表面積が小さくなり、発色効果が薄れてくる。
本発明のインクジェット捺染方法においては、例えば、ノニオン系合成高分子、重炭酸
ナトリウム、尿素、シリカ、及び水からなる前処理剤を用いて布帛の前処理を実施するこ
とができる。また、前処理剤のパディングは、例えば、公知のパディング機(マチス社製
;HVF350)を用いて行なうことができる。具体的には、予め210mm×315m
mに切った綿ブロードを、圧力2bar、スピード3m/分、絞り率80%の条件下でパ
ディングし、115℃で90秒間乾燥することができる。
(後処理)
後処理は、例えば、公知のスチーマー(マチス社製;スチーマーDHe型)を用いて定
着操作を行なうことができる。具体的には、例えば、温度102℃、湿度98%以上の環
境下で8分間スチーミング処理を行なう。
その後、洗浄操作を行なう。具体的には、布帛を水道水で揉み洗いし、徐々に温水を追
加する。更に、アニオン系界面活性剤を入れた沸騰洗浄水中に、時々撹拌しながら15分
間程度浸ける。浴比(印捺布重量/浴重量)は1/50であることが好ましい。更に洗浄
液中に水道水を入れながら手揉み洗いをする。十分に水洗した後に布を乾燥させ、アイロ
ンを掛けして印捺布を得ることができる。
(プリンタヘッド)
インクジェット捺染方法は、サーマル方式、コンテティニュアス方式、又はピエゾ方式
などの任意のインクジェット方式に適用することができるが、好適にはピエゾ振動子方式
である。
捺染用インクジェットインクをピエゾ振動子型インクジェットプリントヘッドに充填し
て吐出する際には、このプリントヘッドのノズルプレート表層部分に撥インク処理を施し
てあることが望ましい。撥インク処理を施すことにより、インクの飛行曲がりが発生しに
くくなり、布帛上に再現性の優れた所望の画像を印捺することができる。この飛行曲がり
防止効果は、前記の捺染インクに1,2−ヘキサンジオールを添加することで著しく向上
させることができる。
また、撥インク処理は、ノズル孔内面にも施すことが好ましい。内面に施すことにより
、インクメニスカス位置が安定し、更に吐出安定性が向上する。また、ノズルプレート表
面にインクが出にくくなり、ノズル表面の撥インク性を、より長時間維持することができ
る。
ノズルプレートには、所望の口径を有する孔を設けることができる。ノズルプレートの
構成材料としては、金属、セラミックス、シリコン、硝子、又はプラスチック等を挙げる
ことができ、好ましくはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、錫、又は
金等の単一材、若しくはニッケル−リン合金、錫−銅−リン合金、銅−亜鉛合金、又はス
テンレス鋼等の合金や、ポリカーボネート、ポリサルフォン、アクリルニトリル−ブタジ
エン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、又は各種の感
光性樹脂で形成されていることが望ましい。
これらの材料表面を撥インク処理する方法は、特に限定されないが、例えば、ニッケル
イオンと撥水性高分子樹脂粒子を電荷により分散させた電解液中に浸漬し、電解液を攪拌
しながら浸漬されているノズルプレート表面に共析メッキする方法が好ましい。この共析
メッキに使用する撥水性高分子樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパ
ーフルオロアルコキシブタジエン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、又は
ポリジパーフルオロアルキルフマレート等の樹脂を単独に又は混合して用いることが好適
である。また、金属材料としては、ニッケルに限定する必要はなく、例えば銅、銀、錫、
又は亜鉛等を適宜選択することができる。好ましくは、ニッケル、ニッケル−コバルト合
金、又はニッケル−ホウ素合金等のように、表面硬度が大きく、対摩耗性に優れる材料が
適している。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定する
ものではない。
<実施例1〜6及び比較例1〜5:インクの調製>
表1に示す組成を有する実施例1〜6及び比較例1〜5のインクを調製した。表1にお
いて、数値の単位は重量%であり、RR31はC.I.リアクティブレッド31であり、
RB49はC.I.リアクティブブルー49であり、トリスはトリス(ヒドロキシルメチ
ル)アミノメタンであり、リン酸系緩衝剤はトリポリリン酸ナトリウムであり、サーフィ
ノールE1010はアセチレングリコール系界面活性剤である。
Figure 0004556450
<物性評価>
(1)ノズルプレート浸漬試験
実施例1〜6及び比較例1〜5のインク(約10mL)を30mLのサンプルビン中に
入れた後、そのインク中にノズルプレート〔ノズル面に、ニッケルとポリフッ化エチレン
系樹脂(テフロン(R))との撥インク性皮膜層を有するノズルプレート;約1cm×3cm〕
を浸漬し、キャップによって密封した後、60°の恒温層に入れた。ノズルプレート表面
における腐食発生の有無を20日間亘って毎日観察した。腐食が最初に観察されるまでの
日数を「腐食発生日数」として表2に示す。なお、捺染用インクジェットインクは通常は
室温にて保存されるが、腐食発生を促進する目的で60℃に過熱して試験を実施した。
(2)pH変化
実施例1〜6及び比較例1〜5のインクの調製直後のpH値(初期pH値)を測定した
後、60℃に過熱して10日間放置してから、再度pH値(放置後pH値)を測定した。
それらの結果を表2に示す。
(3)捺染試験
実施例1〜6及び比較例1〜5のインクに関し、それらの調製直後の印捺L
値(A)と、60℃で10日間放置した後の各インクの印捺L値(B)とから
、印捺色差(ΔE):
ΔE={(L−L+(a−a+(b−b1/2
を算出した。結果(ΔE)を表2に示す。
布帛は、前処理剤で処理した綿織布を用い、定着は102℃にて8分間、飽和蒸気付近
で実施した。なお、前処理剤としては、アルギン酸ナトリウム、尿素、及び重炭酸ナトリ
ウムからなる水溶液を用いた。
Figure 0004556450
表2の「放置後pH値」欄及び「腐食発生日数」欄について、比較例1、比較例2、及
び比較例5と、それ以外の実施例及び比較例とを比較すると明らかな通り、尿素を含有し
ないインクでは、pH値が低下し、その結果、早期に腐食が進行する。
また、表2の「ΔE」欄について、比較例3と、それ以外の実施例及び比較例(比較例
4を除く)とを比較すると明らかな通り、尿素を含有していても2−イミダゾリジノンを
含有しないと、ΔEが大きくなる。これは染料の保存安定性が悪くなったことに起因する

更に、表2の「ΔE」欄について、比較例4と、それ以外の実施例及び比較例(比較例
3を除く)とを比較すると明らかな通り、尿素及び2−イミダゾリジノンを含有していて
も、緩衝剤としてリン酸系緩衝剤を使用し、トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン
を含有しないと、ΔEが大きくなり、染料の安定性が低下している。
これに対して、実施例1〜6の結果から明らかな通り、尿素、2−イミダゾリジノン、
及びトリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタンを含有するインクでは、早期の腐食が発
生せず、ΔEが小さく、染料が高温放置後も安定していることが分かる。
次に、「腐食発生日数」欄について、実施例1と、それ以外の実施例2〜6とを比較す
ると明らかな通り、金属封鎖剤とベンゾトリアゾールとの両方を含有するインクの耐腐食
作用は著しく向上する。なお、比較例3及び比較例4のインクも、金属封鎖剤とベンゾト
リアゾールとの両方を含有しているので、同様の効果が観察される。
<参考例:ヒドロトロピー剤の作用>
尿素5重量%を含む水溶液及び2−イミダゾリジノン5重量%を含む水溶液を調製し、
これらの水溶液調製直後のpH値(初期pH値)を測定した後、60℃に過熱して放置し
、1週間後、2週間後、3週間後、及び6週間後のpH値を調べた。それらの結果を表3
に示す。
Figure 0004556450
表3から明らかな通り、尿素水溶液の初期pHは、2−イミダゾリジノン水溶液の初期
pHよりも低いが、60℃にて放置した後では、尿素水溶液のpH値が徐々に上昇してい
くのに対して、2−イミダゾリジノン水溶液のpH値はほとんど変化がない。このことか
ら、反応染料がインク中で加水分解し、塩素イオンを放出してインクのpHが低下する現
象に対して、尿素にはその低下を防止する効果があるのに対し、2−イミダゾリジノンに
はその効果がないことが分かる。
本発明のインクは、捺染用インクジェットインクとして利用することができる。

Claims (8)

  1. 反応染料、尿素、有機系緩衝剤としてトリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン、及び2−イミダゾリジノンを含むことを特徴とする、捺染用インクジェットインク。
  2. 更に多価アルコールを含む、請求項1に記載の捺染用インクジェットインク。
  3. 更にピロリドン系溶剤を含む、請求項1又は2に記載の捺染用インクジェットインク。
  4. 反応染料がモノクロトリアジニル系染料である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の捺染用インクジェットインク。
  5. モノクロトリアジニル系染料が、C.I.リアクティブレッド31、C.I.リアクティブブルー49、又はC.I.リアクティブオレンジ13である、請求項4に記載の捺染用インクジェットインク。
  6. 更に金属封鎖剤を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の捺染用インクジェットインク。
  7. 更にベンゾトリアゾールを含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の捺染用インクジェットインク。
  8. 水系前処理剤によって予め処理した布帛に、請求項1〜のいずれか一項に記載の捺染用インクジェットインクを吐出させる工程を含むことを特徴とする、インクジェット捺染方法。
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