JP2006192356A - プライマー層および塗料組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】 フッ素樹脂の耐溶剤性、高温耐性、耐食性について低下を起こさず、なおかつ環境への負荷も少ない組成でありながら、金属などに接着性を有する新規なプライマー層およびそのための塗料組成物を提供する。
【解決手段】 フッ素樹脂および有機チタネートを含有する第1プライマー層と、フッ素樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂を含有する第2プライマー層とが順次積層された構造を備えるプライマー層、ならびに、フッ素樹脂および有機チタネートを含有する第1プライマー層を形成するための塗料組成物。
【選択図】 なし

Description

本発明は、金属などに直接密着させることができないフッ素樹脂などを主体成分とする基材にコーティングを行うために用いられるプライマー層、およびそのための塗料組成物に関する。
たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)などのフッ素樹脂は、撥水撥油性、耐磨耗性、防汚性、耐熱性、耐薬品性などの諸特性に優れるため種々の用途に用いられるが、一般に、機械的強度や寸法安定性が不充分であったり価格的に高価なため、フッ素樹脂の長所を生かしつつ短所を補うべく、フッ素樹脂成形物を、金属やガラスなどの他の部材と接着を図る試みが種々なされている。しかしフッ素樹脂は、他の樹脂類と比較して、表面自由エネルギーが小さいため表面が不活性であり、この小さな表面自由エネルギーに起因して上記の優れた諸特性が得られる反面、金属やガラスへの接着が困難である。
このため、従来、フッ素樹脂を金属やガラスへ接着させるために、プライマーを用いる方法が知られている。当該プライマーとしては、従来、フッ素樹脂にリン酸、クロム酸の混合物を添加したものや、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)などから選ばれる少なくともいずれかを主体とし、これにフッ素樹脂を添加したものが知られている(たとえば、特許文献1〜4を参照。)。
特開平11−29736号公報 特開2003−183565号公報 特許第2702041号公報 特開2003−53261号公報
しかしながら、プライマー中に接着性の有機樹脂を含む場合には、ガラスや金属などと接着した後の構造物におけるプライマー部分の耐溶剤性や高温耐性、さらには耐食性が劣ってしまうという問題があった。プライマー中にクロム酸、リン酸の混合物を用いる場合には、耐溶剤性や高温耐性、耐食性が劣ってしまう問題は生じないものの、6価のクロムを含むため、環境への影響が大きい。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、フッ素樹脂の耐溶剤性、高温耐性、耐食性について低下を起こさず、なおかつ環境への負荷も少ない組成でありながら、金属などに接着性を有する新規なプライマー層およびそのための塗料組成物を提供することである。
本発明のプライマー層は、フッ素樹脂および有機チタネートを含有する第1プライマー層と、フッ素樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂を含有する第2プライマー層とが順次積層された構造を備えることを特徴とする。
ここにおいて、有機チタネートはTi(IV)またはTi(III)とアルコール性水酸基、フェノール性水酸基もしくはカルボキシル基を有する化合物によって形成されるTi−O−C結合を含む構造を備えるアルコキシチタン、チタンアシレートまたはチタンキレートであるのが好ましく、チタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)であるのが特に好ましい。
本発明のプライマー層において、第1プライマー層および/または第2プライマー層に含有されるフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体およびテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から選ばれる少なくともいずれかであるのが、好ましい。
また本発明は、フッ素樹脂および有機チタネートを含有する、第1プライマー層を形成するための塗料組成物も提供する。
本発明のプライマー層によれば、フッ素樹脂を含有するにもかかわらず金属やガラスなどへの良好な接着性を示す。本発明における第1プライマー層は、金属などの基材との接着に寄与する成分が基本的に無機的性格の強い有機チタネートを含むため、耐溶剤性や高温耐性が劣ってしまう問題も生じない。また、第2プライマー層が、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含有することによって、プライマー層全体の耐性が格段に高められる。これにより、本発明のプライマー層は、フッ素樹脂に金属やガラスなどに接着性を有する有機樹脂を添加する従来の方法と比較して、耐溶剤性や高温耐性に劣ってしまうという問題も生じない。また、フッ素樹脂にクロム酸およびリン酸の混合物を含有する従来のプライマーと比較して、環境への負荷を軽減できるという利点もある。
本発明のプライマー層は、有機チタネートおよびフッ素樹脂を含有する第1プライマー層と、フッ素樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂を含有する第2プライマー層とが順次積層された構造を備えることを特徴とする。
<第1プライマー層>
第1プライマー層に含有されるフッ素樹脂は、フッ素を含有するモノマーを重合または他の適当なモノマーと共重合させたものであれば特に制限はない。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、ポリビニリデンフルオライド共重合体(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)などから選ばれる少なくともいずれかを用いることができる。なお、本発明においては、たとえばMFA(ソルベイソレクシス社製)などのPFA類似品もフッ素樹脂として用いることができる。中でも、焼付け処理に対する耐熱性や、その樹脂自体の接着性の乏しさを補完し得る観点から、PTFE、PFAおよびFEPから選ばれる少なくともいずれかを用いるのが好ましい。
第1プライマー層において、フッ素樹脂としてたとえばPFAまたはFEPを用いる場合、MFR(メルトフローレート)が、0.1〜50g/10分であるのが好ましく、0.5〜30g/10分であるのがより好ましい。フッ素樹脂のMFRが0.1g/10分未満であると、平滑な成膜を形成することが困難な傾向にあるためであり、またフッ素樹脂のMFRが50g/10分を超えると、樹脂がたれやすく、皮膜の形成が困難で、しかも耐薬品性に劣るという傾向にあるためである。なお、第1プライマー層中のフッ素樹脂のMFRは、たとえばASTM D1238の規定に準拠して推定することができる。
また、フッ素樹脂としてPTFEを用いる場合、数的平均分子量(Mn)は1万〜5000万であるのが好ましく、10万〜500万であるのがより好ましい。数的平均分子量が1万未満であると、PTFEの耐薬品性や機械的な物性が十分でない傾向にあるためであり、また数的平均分子量が5000万を超えると、皮膜形成には適さない傾向にあるためである。PTFEの数的平均分子量(Mn)は、一般的に、標準比重SSGとの以下の関係式から求めることができる。
SSG=−0.0579log[Mn+2.6113]
また第1プライマー層に用いるフッ素樹脂の平均粒径は、0.05〜300μmであるのが好ましく、0.1〜30μmであるのがより好ましい。フッ素樹脂の平均粒径が0.05μm未満であると、成膜時に発泡が起こり易く膜厚も厚くできない傾向にあるためであり、また、フッ素樹脂の平均粒径が300μmを越えると、フッ素樹脂と有機チタネートが偏在するため十分な接着性が発揮されない傾向にあるためである。なお、第1プライマー層中のフッ素樹脂の平均粒径は、たとえば走査電子顕微鏡(SEM)とエネルギ分散分光装置(EDS)による元素マッピングとによってチタン原子の希薄な部分の大きさを計測することで、形成された第1プライマー層から測定することができる。
第1プライマー層中におけるフッ素樹脂の含有率は特に制限されるものではないが、60〜96重量%であるのが好ましく、77〜91重量%であるのがより好ましい。第1プライマー層中におけるフッ素樹脂の含有率が60重量%未満または96重量%を超えると、基材との十分な接着性が得られない傾向にあるためである。
本発明における第1プライマー層は、接着性を付与する成分として有機チタネートを含有する。ここで、本発明における有機チタネートは、水性塗料を用いて第1プライマー層を形成する場合には、水に可溶で、塗装までのプライマーの安定性を確保するためある程度水中で安定なもの(具体的にはチタンラクレートやチタントリエタノールアミネート)であれば特に制限されるものではないが、Ti(IV)またはTi(III)とアルコール性水酸基、フェノール性水酸基もしくはカルボキシル基を有する化合物によって形成されるTi−O−C結合を含む構造を備えるアルコキシチタン、チタンアシレートまたはチタンキレートであるのが好ましい。中でも、水への溶解性や水中での安定性の観点から、チタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)またはその類似化合物が好ましく、高温(300〜400℃程度)においても分解せず、部分的に有機残基がプライマー焼付け後に残るものが配位しているチタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)が特に好ましい。また、有機チタネートは、チタンラクテート、アンモニウムチタンラクテート、チタンアセチルアセトネートアンモニウムラクテートや、その他ジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトネートの縮合物であってもよい。なお、第1プライマー層に有機チタネートが含有されているか否かは、たとえばチタン原子のX線光電子分光分析装置(XPS)による検出と、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)によるTi−O−C結合由来の吸収の確認とにより推定することができる。
第1プライマー層中における有機チタネートは、良好な耐スチーム性を有するとともに、環境への負荷も軽減された塗膜を実現することができる観点から、フッ素樹脂に対する有機チタネート中のTi成分の比が好ましくは4〜40重量%、より好ましくは9〜23重量%となるように含有されるのが、好ましい。なお、この第1プライマー層におけるフッ素樹脂に対する有機チタネート中のTi成分の比は、たとえば、プライマー層を形成する皮膜をフッ素樹脂が分解しガス化する温度以上で灰化させ残分の重量を測定することで、形成された第1プライマー層から推定することができる。
本発明における第1プライマー層を形成するための塗料組成物(第1プライマー組成物)は、上述したフッ素樹脂および有機チタネートに加えて、必要に応じ界面活性剤を含有しているのが好ましい。界面活性剤としては、特に制限されるものではないが、第1プライマー層を形成するための組成物が均一に混合して第1プライマー層が乾燥するまで分層を起こさず、焼付け後に多くの残留物が残らないものが好ましい。このような界面活性剤として、たとえば、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(具体的には、トライトンX−100(東邦薬品化学工業社製)など)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルなどが挙げられる。
界面活性剤の含有率は特に制限されるものではないが、0.01〜10重量%であるのが好ましく、0.5〜5重量%であるのがより好ましい。界面活性剤の含有率が0.01重量%未満であると、均一な混合状態が保てない傾向にあるためであり、また、10重量%を超えると、焼付け時に炭化分が多く残留して成膜に悪影響を与える傾向にあるためである。
また第1プライマー組成物は、必要に応じ、本発明の効果を阻害しない範囲で、顔料、pH調整剤、導電材などをさらに含有していてもよい。第1プライマー層に含有されていてもよい顔料、pH調整剤、導電材は、当分野において従来より用いられている適宜のものを用いることができ、特に制限されるものではない。
第1プライマー層は、その平均厚みが1〜300μmに形成されることが好ましく、5〜50μmに形成されることがより好ましい。第1プライマー層の平均厚みが1μm未満であると、均一な接着性を得にくい傾向にあるためであり、また300μmを超えると、発泡などの問題やプライマー層自体の収縮応力が大きくなる傾向にあるためである。なお、第1プライマー層の平均厚みは、たとえば顕微鏡を用いて測定することができる。
本発明における第1プライマー層は、金属やガラスなどへの良好な接着性を示す。また本発明における第1プライマー層において接着性に寄与する成分である有機チタネートは、当該第1プライマー層中において部分的に酸化チタンを形成するが、この酸化チタンは、たとえばポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)など、従来フッ素樹脂に接着性を付与するために用いられてきた有機樹脂と比較して耐熱性が高いため、当該第1プライマー層は上記有機樹脂を含有するフッ素樹脂を用いて形成した塗膜と比較して良好な高温耐性を発揮する。また酸化チタンは、無機物で溶剤による膨潤を起こす要因がなく、長期的にみても上述した従来接着性の付与のために用いられてきた有機樹脂と比較して良好な耐溶剤性も発揮する。また第1プライマー層は、フッ素樹脂にクロム酸およびリン酸の混合物を含有する従来のプライマーと比較して、環境への負荷を軽減できるという利点もある。
<第2プライマー層>
第2プライマー層に含有されるフッ素樹脂としては、第1プライマー層に含有されるフッ素樹脂として上述したのと同様のものを挙げることができる。中でも、PTFE、PFAまたはFEPが好ましい。第2プライマー層に含有されるフッ素樹脂の好適なMFR、数的平均分子量、平均粒径についても上述と同様である。なお、本発明において、第1プライマー層に含有されるフッ素樹脂と第2プライマー層に含有されるフッ素樹脂とは、同じものであってもよく、また互いに異なるものであってもよい。
第2プライマー層中におけるフッ素樹脂の含有率は特に制限されるものではないが、20〜98重量%であるのが好ましく、30〜95重量%であるのがより好ましい。第2プライマー層中におけるフッ素樹脂の含有率が20重量%未満または98重量%を超えると、第1プライマー層との層間で十分な接着性が得られにくい傾向にあるためである。
第2プライマー層に含有されるポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)は、その含有率について特に制限されるものではないが、1〜50重量%であるのが好ましく、5〜10重量%であるのがより好ましい。第2プライマー層中におけるフッ素樹脂の含有率が1重量%未満であると、第1プライマー層との接着性が十分得られない傾向にあるためであり、また、50重量%を超えると、フッ素樹脂の耐溶剤性や耐薬品性が低下する傾向にあるためである。
なお、第2プライマー層は、浸透を抑える効果をさらに付与し得る観点から、ガラスフレークを含んでなるのが好ましい。ガラスフレークの含有率は特に制限されるものではないが、1〜30重量%であるのが好ましく、5〜15重量%であるのがより好ましい。
また第2プライマー層は、必要に応じ、本発明の効果を阻害しない範囲で、顔料、pH調整剤、導電材などをさらに含有していてもよい。第2プライマー層に含有されていてもよい顔料、pH調整剤、導電材は、当分野において従来より用いられている適宜のものを用いることができ、特に制限されるものではない。
第2プライマー層は、その厚みが10〜5000μmに形成されることが好ましく、30〜1000μmに形成されることがより好ましい。第2プライマー層の厚みが10μm未満であると、均一な皮膜を形成し難く、第1プライマー層との十分な接着性が得られない傾向にあるためであり、また5000μmを超えると、第2プライマー層自体の収縮応力により第1プライマー層との接着性が低下する傾向にあるためである。なお、第2プライマー層の平均厚みは、第1プライマー層と同様にして測定することができる。
本発明における第2プライマー層は、フッ素樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂を含有することで、高い耐久性が得られ、基材への接着性およびその上にコーティングされるフッ素樹脂の接着性も十分確保される。
本発明のプライマー層は、上述した第1プライマー層および第2プライマー層が順次積層された構造を備えるため、フッ素樹脂に金属やガラスなどに接着性を有する有機樹脂を添加する従来の方法とは異なり耐溶剤性や高温耐性に劣ってしまうという問題も生じない。また、フッ素樹脂にクロム酸およびリン酸の混合物を含有する従来のプライマーと比較して、環境への負荷を軽減できるという利点もある。
<プライマー層の形成方法>
本発明のプライマー層の形成方法について、以下に説明する。
まず、第1プライマー層を形成するための組成物を調整し、これを基材に塗布して焼き付けて、第1プライマー層を形成する。第1プライマー層を形成するための塗料組成物としては、フッ素樹脂および有機チタネート、必要に応じ界面活性剤、その他の成分を水に分散させ、これを基材に塗布する。塗布方法については特に制限されるものではなく、従来公知の適宜の方法、たとえばスプレー塗布、ディッピング、流延などの方法で塗布することができる。中でも、塗料の取り扱いの観点から、スプレー塗布によって塗料を塗布するのが好ましい。第1プライマー層の形成における焼き付け(焼成)の条件についても特に制限されるものではない。たとえば、300〜450℃の温度で5〜180分間焼成する条件が例示される。このような焼成は、たとえば電気炉を用いて行うことができる。なお、第1プライマー層を形成する組成物を塗布後、焼き付ける前に、当該組成物を乾燥させるようにしてもよい。乾燥は適宜の条件で行うことができる。これらの塗布(、乾燥)、焼付けの工程を複数回行い、焼き付けてもよい。
次に、第2プライマー層を形成するための組成物を調整し、これを基材に塗布して焼き付けて、第2プライマー層を形成する。第2プライマー層を形成するための組成物としては、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂およびその他必要に応じその他の成分を含む分散液を調整する。当該組成物には、市販のもの(たとえば、MP−501(三井デュポンフルオロケミカル社製)、MP−502(三井デュポンフルオロケミカル社製)など)も好適に用いることができる。塗布方法については特に制限されるものではなく、従来公知の適宜の方法、たとえば静電粉体塗装法、流動浸漬などの方法で塗布することができる。中でも、作業性の観点から、静電粉体塗装法によって塗料を塗布するのが好ましい。第1プライマー層の形成における焼き付け(焼成)の条件についても特に制限されるものではない。たとえば、300〜450℃の温度で5〜180分間焼成する条件が例示される。このような焼成は、たとえば電気炉を用いて行うことができる。なお、第2プライマー層を形成する組成物を塗布後、焼き付ける前に、当該組成物を乾燥させるようにしてもよい。乾燥は適宜の条件で行うことができる。これらの塗布(、乾燥)、焼付けの工程を複数回行い、複数層の第2プライマー層を形成するようにしてもよい。
本発明のプライマー層を形成する基材としては、焼付け時の熱に耐え得るものであれば特に制限されるものではないが、金属、ガラス、セラミックスなど、フッ素樹脂との接着が困難なものにも使用できる。中でも、金属が特に好適である。基材は、第1プライマー層との接着力を高めるために適宜の表面処理(たとえば、ブラスト処理、メッキ、シランカップリングなど)が予め施されたものであってもよい。
以下、実施例および実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実験例1>
第1プライマー層形成用の組成物を表1のように調整した。有機チタネートとしてオルガチックスTC−400(松本製薬工業株式会社製、チタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)含有率:80重量%、イソプロピルアルコール分散)、界面活性剤としてトライトンX−100(東洋化学株式会社製)、フッ素樹脂としてテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を含むEN−510CL(三井デュポンフロロケミカル株式会社製、PFA40重量%含有水分散系塗料)を用いた。また配合は有機チタネートを混合した後、界面活性剤、フッ素樹脂塗料、水の順序にて添加した。また表1に示すように、フッ素樹脂を配合しなかった場合、有機チタネートを配合しなかった場合を、それぞれ比較配合例1、2とした。
比較配合例3として、クロム酸、リン酸の混合物を用いるプライマー850−7799(Dupont社製)を、850−314(Dupont社製)と1:3の割合で混合したものを、第1プライマー層用の組成物として用いた。
比較配合例4として、ポリエーテルサルホン酸(PES)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を用いる420−703(Dupont社製)を、第1プライマー層用の組成物として用いた。
Figure 2006192356
(なお、表1中、各成分の配合量の単位は重量部である。)
表1のプライマー組成物および比較配合例3,4のプライマーを用いて表2に示すように、評価用のコーティングパネルを作成した。
Figure 2006192356
なお、第2プライマー層の形成にはMP−501(三井デュポンフルオロケミカル株式会社製、PFA粉体塗料、5重量%ポリフェニレンサルファイド(PPS)含有、10重量%ガラスフレーク含有)を用いた。なお、基材にはSUS304を用いて#220番アルミナによるショットブラストを施した。第1プライマー層は、スプレー塗装した後、比較例4以外は400℃で、比較配合例4は150℃で、30分間焼付て形成した。第2プライマー層は、前記MP−501を静電粉体塗装法によって塗装し、400℃で30分間焼付けた後、その上にMP−501をさらに塗装して360℃、30分間焼付けて形成した。なお表2において、膜厚は焼付け後の測定結果の平均膜厚を示している。
表2で形成した実施例1〜6、比較例1〜4について、以下の(1)〜(4)の評価試験を行った。
(1)密着性
JIS K 5400に規定される描画試験を行い、評点が3以下であったものを×、4であったものを○、5であったものを◎と評価した。
(2)耐スチーム性1
オートクレーブにて145℃、60分間のスチーム条件下にさらした後、排気して80℃まで冷却し、JIS K 5400に規定される描画試験を行った。スチームによって密着性が低下しているか確認し、評点が3以下であったものを×、4であったものを○、5であったものを◎と評価した。
(3)ピール密着力試験
表2に示すように作成した実施例1〜6、比較例1〜4それぞれについて、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体(FEP)粉体塗料を塗布し、360℃、30分間焼付ける工程を5回繰り返して約250μmの厚みとした後、5mm幅にてJIS K 5400に規定されるピール強度試験を行った。測定値が2.0kgf/5mm以下であったものを×、2.0kgf/5mmを越えて2.5kgf/5mm未満であったものを△、2.5kgf/5mm以上であったものを○と評価した。
(4)耐スチーム性2
表2に示すように作成した実施例1〜6、比較例1〜4それぞれについて、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体(FEP)粉体塗料を塗布し、360℃、30分間焼付ける工程を5回繰り返して約250μmの厚みとした後、オートクレーブにて145℃、60分間のスチーム条件に曝した後、排気後80℃まで冷却し、5mm幅にてJIS K 5400に規定されるピール強度試験を行った。測定値が2.0kgf/5mm以下であったものを×、2.0kgf/5mmを越えて2.5kgf/5mm未満であったものを△、2.5kgf/5mm以上であったものを○と評価した。
結果を表3に示す。
Figure 2006192356
以上のように、本発明のプライマー層の中でも、フッ素樹脂とTi含有分に対するTi分の割合が9〜23重量%の範囲内にあるもの(実施例1、3、4)については特に、従来から使用されているクロム酸、リン酸の混合物を用いたプライマー(比較例3)と同程度の性能を発揮している。
<実験例2>
第1プライマー層用の組成物として上述した配合例1、比較配合例3、4を用い、スプレー塗装により塗装した後、比較配合例4以外は400℃で、比較配合例4は150℃で30分間焼付けることによって、第1プライマー層を形成した。なお、基材には、SUS304を用い、#220番アルミナによるショットブラストを施した。この第1プライマー層上に、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含有しないPFA粉体塗料ACX−30(ダイキン工業株式会社製)を静電粉体塗装放によって塗装し、400℃、30分間焼き付けた。その後、ACX−30(ダイキン工業株式会社製)を静電粉体塗装法によって塗装し、360℃、30分間焼付けた。
これらの各パネルについて、上述と同様にして密着性試験および耐スチーム性試験1
を行った。各パネルの構成とともに性能試験の結果を表4に示す。なお表4において、膜厚は焼付け後の測定結果の平均膜厚を示している。
Figure 2006192356
以上のように本発明における第1プライマー層を用いた場合(比較例5)でも、第2プライマー層としてポリフェニレンサルファイド樹脂を含まないフッ素樹脂塗料ACX−30(PFA粉末塗料)を使用すると、従来から使用されているクロム酸、リン酸の混合物を用いた場合(比較例6)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を用いた場合(比較例7)のような密着性が発揮されない。
ただし従来から使用されているプライマーも、その上塗り層としてポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を含まないフッ素樹脂塗料ACX−30にて層を形成すると、耐スチーム性試験1後の密着性が低く、耐久性が悪い。
<実験例3>
上述した配合例1を第1プライマー層用の組成物として用い、スプレー塗装により塗装した後、400℃で30分間焼付けることによって第1プライマー層を作成した。第2プライマー層用の組成物として、前記ACX−30(ダイキン工業株式会社製)に、表5に示すような配合割合でポリフェニレンサルファイド樹脂であるライトンV−1(シェプロンフィリップス株式会社製)を配合した。前記第1プライマー層上に、各組成物を静電粉体塗装法によって塗装し、400℃で30分間焼付けた後、その上に同じ組成物をさらに塗装して360℃、30分間焼付け、第2プライマー層を形成した(実施例7〜10)。
これらの各パネルについて、上述と同様にして密着性試験および耐スチーム性試験1
を行った。各パネルの構成とともに性能試験の結果を表5に示す。なお表5において、膜厚は焼付け後の測定結果の平均膜厚を示している。
Figure 2006192356
(なお、表5中、第2プライマー層用組成物の成分の配合量の単位は重量部である。)
以上のように、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を5重量%以上含むフッ素樹脂塗料を第2プライマー層形成用に用いた場合、初期の密着性が、従来から使用されているクロム酸、リン酸の混合物を用いた場合である比較例3、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を用いた場合である比較例4と同様の密着性が発揮される。また、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を10重量%含むフッ素樹脂塗料を第2プライマー層形成用に用いた場合(実施例10)、耐スチームテスト後の密着性についても、同様の密着性能が発揮される。
ただし、実施例1〜6にて第2プライマー層形成用に用いたMP−501は、一般に浸透を抑える効果が高いとされるガラスフレークを含んでおり、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を含有する観点以外にも得られた第2プライマー層の耐久性を高める工夫がなされている。よって、フッ素樹脂塗料MP−501のようにポリフェニレンサルファイド樹脂以外にガラスフレークを含むものを用いる場合には、ポリフェニレンサルファイド樹脂の含有量は5重量%でも十分であるといえる。
<実験例4>
上述した実施例1、比較例3、4について、それぞれ耐溶剤性試験を行った。
耐溶剤性試験は、以下の手順で行った。酢酸エチル還流条件下に8時間さらし室温まで放冷するサイクルを3サイクル行った後、溶剤から引き上げ溶剤をふき取った後に速やかにJIS K 5400に規定される描画試験およびピール密着力試験を行った。描画試験では、溶剤の影響によって密着性が低下しているか否かを確認し、評点が3以下であったものを×、4であったものを○、5であったものを◎と評価した。ピール密着力試験では、比較例3と同じ値であれば○、越える場合には◎、下回る場合には△、密着力がない場合には×と評価した。
結果を表6に示す。
Figure 2006192356
表6に示すように、比較例4については耐久性の低下が認められたが、その他に変化はなく、本発明のプライマー層は、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含むフッ素樹脂塗料MP−501を第2プライマー層の形成に用いることで、耐溶剤性についても、従来から使用されているクロム酸、リン酸の混合物を用いる比較例3と比較しても遜色がない。ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を含む塗料にて第1プライマー層を形成した比較例4では、性能低下が実施例1や比較例3よりも若干多く、耐溶剤性の低下が認められた。
<実験例5>
まず、配合例1および比較配合例3,4の組成物を基材に塗装後、400℃で60分間焼付けることによって第1プライマー層を形成した。なお、基材には、SS400(200mm×200mm×6mm)を用い、#60番アルミナによるブラスト処理(5kgf/cm3)を施した。この第1プライマー層上に、MP−501またはMP−502(三井デュポン社フロロケミカル株式会社製、PFA粉体塗料、5重量%ポリフェニレンサルファイド、1重量%グラファイト含有)を静電粉体塗装法によって塗装し、400℃で60分間焼付けた後、その上に同じ組成物をさらに塗装して360℃、60分間焼付けて、第2プライマー層を形成した。さらに、第2プライマー層上に、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体(FEP)粉体塗料(NC−1539、ダイキン工業株式会社製)を塗布し、320〜360℃で60〜180分間焼付ける工程を10回繰り返して層を形成し、総計600μm以上の膜厚を確保した。このようにして実施例11、12および比較例8、9のプライマー層を有するパネルを作成した。各パネルの構成を表7に示す。
Figure 2006192356
上記で得られた実施例11、12および比較例8、9について、耐食性試験を行った。耐食性試験は、100℃の温度条件下で、薬液として5%塩酸を用い、(1)初期密着性(JIS K 5400に規定するピール強度試験)、(2)ブリスタ(膨れ)発生までの時間、(3)375時間経過後の密着力(JIS K 5400に規定するピール強度試験)の3項目について行った。試験の結果、全て比較例8と同じ値であれば○、比較例8を越える場合には◎、比較例8を下回る場合には△、値が比較例8の半分以下である場合には×と評価した。
結果を表8に示す。
Figure 2006192356
以上のように、耐食性についても、配合例1、配合例4の組成物にて第1プライマー層を形成し、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含有するフッ素樹脂塗料MP−501にて第2プライマー層を形成した場合(実施例11、14)については、従来から使用されているクロム酸、リン酸の混合物を用いて第1プライマー層を形成した場合(比較例8)に同等または劣りはするものの、配合例3の組成物を使用した実施例13は優れる。また、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を含む塗料にて第1プライマー層を形成した場合(比較例9)と比較すると十分強い耐性を示す。また、第2プライマー層の形成にフッ素樹脂塗料MP−502を用いた場合には、クロム酸、リン酸の混合物を用いて第1プライマー層を形成しても、ブリスタの発生時間が100時間程度になることが分かっており(データ示さず)、このMP−502を用いて第2プライマー層を形成した実施例12についても問題はないと考えられる。さらに、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を含む塗料にて第1プライマー層を形成し、かつ、フッ素樹脂塗料MP−501にて第2プライマー層を形成した場合(比較例9)でも、初期密着力が実施例11、13、14や比較例8よりも弱く耐食性も低いことが認められた。
以上のことから、本発明のプライマー層を用いることで、基材への接着性およびその上にコーティングされるフッ素樹脂の接着性も十分に確保される。またその耐久性は従来から使用されているクロム酸、リン酸の混合物を用いてプライマー層を形成する場合に近いかもしくは優れる性能を有し、また、ポリエーテルサルホン酸(PES)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を用いた従来のプライマーと比較すると優れる。
<実験例6>
第1プライマー層形成用の塗料組成物を表9に従って調製した。表1に示した配合例1および配合例3のフッ素樹脂としてEN−510CLに換えてテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)塗料である856−200(デュポン株式会社製)(45重量%FEP含有水分散塗料)を使用し配合例7、配合例8、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)塗料として850−314(デュポン株式会社製)(約50重量%FEP含有水分散塗料)を使用して配合例9、配合例10とした。なおそれぞれ有機チタネートとしてオルガチックスTC−400を含まないものを比較配合例5,6とした。
Figure 2006192356
(なお、表9中、各成分の配合量の単位は重量部である。)
表9に示した配合例7〜10および比較配合例5,6のプライマーを用いて表10に示すように、評価用のコーティングパネルを作成した。
Figure 2006192356
なお、基材にはSUS304を用いて#220番アルミナによるショットブラストを施した。第1プライマー層は、スプレー塗装した後、400℃にて30分間焼付て形成した。第2プライマー層は、前記MP−501を静電粉体塗装法によって塗装し、400℃で30分間焼付けた後、その上にMP−501をさらに塗装して360℃、30分間焼付けて形成した。なお表10において、膜厚は焼付け後の測定結果の平均膜厚を示している。
上記で得られた実施例15〜18、比較例10,11について、上述と同様にして、密着性試験、耐スチーム性試験1、ピール密着力試験および耐スチーム性試験2を行った。結果を表11に示す。
Figure 2006192356
以上のようにテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とともに有機チタネートの添加で接着性の耐久性が向上することが確認できる。特にテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体(FEP)の場合、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)と同様の結果が得られる。
本発明における第1プライマー層における有機チタネートは、水性塗料として使用する場合は、水中である程度安定であることが必要であり、配合例1のプライマーにおいては混合後数時間の使用が可能である。さらに水中で安定な有機チタネートを使用した場合、この点の改善が見込まれ、完全な1液化も可能であると考えられる。
今回開示された実施例、比較例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (5)

  1. フッ素樹脂および有機チタネートを含有する第1プライマー層と、フッ素樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂を含有する第2プライマー層とが順次積層された構造を備えるプライマー層。
  2. 有機チタネートが、Ti(IV)またはTi(III)とアルコール性水酸基、フェノール性水酸基もしくはカルボキシル基を有する化合物によって形成されるTi−O−C結合を含む構造を備えるアルコキシチタン、チタンアシレートまたはチタンキレートである、請求項1に記載のプライマー層。
  3. 有機チタネートがチタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)である、請求項2に記載のプライマー層。
  4. 第1プライマー層および/または第2プライマー層に含有されるフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体およびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体から選ばれる少なくともいずれかである、請求項1〜3のいずれかに記載のプライマー層。
  5. フッ素樹脂および有機チタネートを含有する、第1プライマー層を形成するための塗料組成物。
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