JP2006179430A - アルカリ電池用亜鉛合金粉体 - Google Patents

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Abstract

【課題】 水素ガス発生が抑制され、かつ放電の進行に伴う亜鉛粉体間の電子伝導性の低下が少なく、ハイレート放電性能を向上させることが可能なアルカリ電池用の亜鉛合金粉体を提供することを目的とする。
【解決手段】 アルミニウム、ビスマス、カルシウム、インジウムから選ばれる少なくとも1種を含む亜鉛合金粉体であって、標準電極電位が亜鉛より貴な金属または亜鉛より貴な金属を含む合金により表面が部分的に被覆されているアルカリ電池用亜鉛合金粉体。
【選択図】図1

Description

本発明は、水素ガス発生を抑制することができ、かつ、放電の進行に伴う亜鉛粉体間の電子伝導性の低下が少なく、したがってハイレート放電性能に優れた、アルカリ電池の負極活物質に最適な亜鉛合金粉体、およびこれを用いたアルカリ電池に関するものである。
アルカリ電池の負極活物質に用いられる亜鉛は、質量当たりの理論放電容量が820mAh/gと大きく、毒性がない、環境負荷が少ない、及び安価である、といった特徴がある。しかし、亜鉛はアルカリ電解液による腐食で水素ガスが発生し、電池内圧が上昇してしまい、最悪の場合、漏液が生じるという問題がある。また、放電に伴い、溶解した亜鉛イオンが亜鉛粉体表面に酸化亜鉛や水酸化亜鉛となって析出し、不働態被膜が形成される。これによって、亜鉛粉体間の電子伝導性が低下して、放電が進行しにくくなるという問題がある。この問題は放電電流密度が大きくなるほど著しい。
上記第一の問題点である水素ガス発生を抑制するために有効な従来の方法としては、主に二通りのものが挙げられる。一つは、亜鉛をアマルガム化した汞化亜鉛を用いる方法である。しかしながら、現在、電池材料に水銀を用いることは環境汚染の観点から好ましくない。二つ目は、亜鉛を合金化してアルカリ溶液中での耐食性を向上させるという方法であり、例えば、特許文献1に開示されている。
上記第二の問題点である亜鉛粒子間の電子伝導性の低下を抑制するために有効な方法としては、導電性粉末を負極に混合するものがあり、例えば、特許文献2に開示されている。
特開H05−86430号公報 特表2003−502808号公報
特許文献1のような亜鉛合金を用いた場合でも、粒子表面の結晶粒界が水素ガス発生の活性点となり得るため、水素ガス発生を完全に抑制することは困難である。また、放電の進行に伴って亜鉛粒子間の電子伝導性が低下する問題を解決することはできない。
特許文献2のように導電性粉末を負極に混合する方法では、亜鉛合金による水素ガス発生の抑制と、導電性粉末による亜鉛粒子間の電子伝導性の低下防止により、電池特性の改善が可能である。しかし、電池反応に全く関与しない導電性粉末を負極に添加することは、負極活物質の充填量の許容限界を低くしてしまい、電池のエネルギー密度を低下させてしまうという問題を有している。
このような課題を解決するために、本発明の亜鉛合金粉体は、アルミニウム、ビスマス、カルシウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む亜鉛合金からなり、標準電極電位が亜鉛より貴な金属または亜鉛より貴な金属を含む合金により表面が部分的に被覆されている。
本発明の構成によれば、亜鉛合金の表面に部分的に形成された金属または合金が、電解液と接触する亜鉛合金表面の結晶粒界を減らし、そのため水素ガス発生の活性点が減少し、水素ガス発生が抑制される。さらに、被覆している金属または合金部分同士の接触が粉体間の電子伝導パスとなるので、電子伝導性の低下を防止することができ、ハイレート放電性能を向上させることができる。さらに、亜鉛合金表面が部分的に金属または合金で被覆されていることは、導電性粉末を負極に混合する場合と比較して、電池反応に全く関与しない成分が電池内で占有する体積を極力減少させることができ、負極活物質の充填量の許容限界が低下されるのを少なくできる。
亜鉛合金表面を部分的に被覆する金属または合金は、スズ、金、銀、銅、クロム、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、真鍮、青銅、鉛、およびインジウムからなる群より選ばれる1種の金属または2種以上の金属からなる合金が好ましく、これらの金属または合金の固有電気抵抗が小さいために、粉体間の接触抵抗をより低くすることができる。
亜鉛合金表面を部分的に被覆する金属または合金の量は、当該金属または合金を含む粉体の総量の、0.01重量%以上、1重量%以下であることが好ましい。この範囲であると、亜鉛合金の表面が金属または合金で被覆されすぎずに、表面反応サイトを十分に残すことができるため、ハイレート放電性能を損なうことなく、被覆している金属または合金部分が粉体間の電子伝導パスとなる効果により、ハイレート放電性能を向上させることができる。
また、表面が部分的に金属または合金で被覆された亜鉛合金粉体が、相互に接合されて、集合体を構成していると、電子伝導性が高められるだけでなく、充填密度をより高められることとも相俟って、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
以上のような亜鉛合金粉体をアルカリ電池および空気亜鉛電池の負極活物質として用いることで、優れた電池特性を有し、かつエネルギー密度の高いアルカリ電池および空気亜鉛電池が得られる。
本発明によれば、水素ガス発生が抑制され、かつ亜鉛合金粉体間の電子伝導性の低下が防止されるために、良好な特性を与える亜鉛合金粉体を提供することができる。また、本発明によれば、負極活物質の充填量の許容限界が低下されるのを最小限にできるため、エネルギー密度を向上させ、アルカリ電池の負極活物質に最適な亜鉛合金粉体を得ることができる。
本発明の亜鉛合金粉体は、上記のように、アルミニウム、ビスマス、カルシウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む亜鉛合金粉体からなり、標準電極電位が亜鉛より貴な金属または亜鉛より貴な金属を含む合金、すなわち亜鉛合金とともに電池の放電に伴って溶解しない金属または合金により表面が部分的に被覆されている。これによって、電解液と接触する亜鉛合金表面の結晶粒界が減少し、そのため水素ガス発生の活性点が減少し、水素ガス発生が抑制される。さらに、被覆している金属または合金部分同士の接触が粉体間の電子伝導パスとなるので、電子伝導性の低下を防止することができ、ハイレート放電性能を向上させることができる。
さらに、亜鉛合金表面に部分的な金属または合金の被膜を形成させることは、導電性粉末を負極に混合する場合と比較して、電池反応に全く関与しない成分が電池内で占有する体積を極力減少させることができ、負極活物質の充填量の許容限界が低下されるのを少なくできる。
以上のように、本発明の亜鉛合金粉体をアルカリ電池の負極活物質に用いることで、電池特性とエネルギー密度の両方を向上させることができる。
亜鉛合金表面を部分的に被覆している金属または合金は、スズ、金、銀、銅、クロム、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、真鍮、青銅、鉛、およびインジウムからなる群から選択される金属または2種以上の金属の合金であり、これらは固有電気抵抗が小さいために、粉体間の接触抵抗をより低くすることができる。より好ましくは、水素過電圧が高い金属または合金であり、スズ、銀、銅、ニッケル、パラジウム、ロジウム、真鍮、青銅、鉛、およびインジウムからなる群より選択される1種の金属または2種以上の金属の合金である。また、材料コストの低さの点からは、スズ、銅、ニッケル、真鍮、青銅、および鉛からなる群より選択されるのがよい。
亜鉛合金表面を部分的に金属または合金で被覆させる方法には、電気化学的あるいは物理的な方法の2種類がある。電気化学的な方法として電解メッキがあり、より好ましくはバレル電解メッキを用いることである。電解メッキでは、金属塩濃度やpHなどのメッキ浴組成、あるいは電流密度や浴温度、攪拌などのメッキ条件を変化させることにより、金属または合金の析出状態を制御することができる。メッキの電流密度はできるだけ大きくし、粒状あるいはこぶ状のメッキ物が析出するような電流密度の範囲とするのがよい。また、メッキ浴のpHは特に限定されないが、亜鉛合金の表面に酸化被膜が形成されるのを回避するために、中性またはアルカリ性とするのが好ましい。
物理的な方法としては、2種類の粉体の混合物に加圧力とせん断力を加えて複合化処理する方法が挙げられ、回転数や処理時間などの運転条件を変化させることで、被膜の析出状態を制御することができる。また、被覆する金属または合金の粒子径は亜鉛合金粉体よりも小さいものを用いることで、部分的に被覆を形成することができる。また、被覆する金属または合金の硬さの値が亜鉛合金のそれよりも大きい場合は、加圧・せん断力により亜鉛合金が変形することがあるため、より好ましくは亜鉛合金と同等以下の硬さを有する、スズ、金、銀、鉛、またはインジウムを用いるのがよい。
亜鉛合金表面を部分的に被覆している金属または合金の量が、当該被覆金属または合金を含む粉体の総量の、0.01重量%以上、1重量%以下であることにより、亜鉛合金表面が金属または合金で過剰に覆われることがなくなり、表面反応サイトを十分に残すことができるため、ハイレート放電性能を損なうことなく、被覆金属または合金部分同士の接触が粉体間の電子伝導パスとなる効果により、ハイレート放電性能を向上させることができる点で有効である。被覆金属または合金の量は、より好ましくは、表面反応サイトをより多く残すために、被覆金属または合金を含む粉体の総量の0.01重量%以上、0.5重量%以下とするのがよい。表面が部分的に金属または合金で被覆された亜鉛合金粉体は、被覆処理されていない亜鉛合金粉体と混合して用いてもよい。被覆金属または合金同士の接触が粉体間の電子伝導パスとなる効果により、ハイレート放電性能を向上させることができる。
表面が部分的に金属または合金で被覆された亜鉛合金粉体が、相互に接合されて集合体を構成していると、より電子伝導性の高い粉体集合体を得ることができる点で有利である。そのような粉体集合体は、例えば、電池の負極ケースに合わせた大きさにするなど1個の粉体集合体で電池の負極を構成できるようにするのがよい。粉体同士を接合させる方法は、特に限定されないが、操作の容易さの点から熱処理が有効である。加熱処理は、真空中あるいは還元雰囲気中で行われる。加熱処理は、粉体を型に入れた状態で行ってもよく、あるいは粉体にゲル化剤を混合してゲル状とし、これを型に充填した状態で行ってもよい。あるいは粉体とバインダーを混合したものをプレス成型により電池形状に合わせた任意の形状に成型した状態で行ってもよい。ここに用いる亜鉛合金粉体は、あらかじめ篩い分けにより粒径をそろえておくのがよい。これにより、粉体集合体に空孔を残すことができ、アルカリ電解液の含浸性をよくすることができる。
加熱処理は、亜鉛の融点420℃よりも高い温度で行われてよく、この場合、粉体集合体は亜鉛部分の接合により形成される。より好ましい加熱処理温度は、亜鉛の融点420℃よりも低い温度であり、この場合、被覆金属または合金の融点は亜鉛の融点よりも低い必要がある。従って、被覆金属または合金を融点232℃のスズとすることにより、スズ部分で接合された、粉体集合体を形成することができる。粉体集合体とすることでは、粉体の状態と比較して充填密度を高めることができ、電池のエネルギー密度を向上できる点で有利である。
以上に本発明の実施の形態を説明したが、固有電気抵抗の低さ、水素過電圧の高さ、コスト、融点などの点を総合的に判断すると、亜鉛合金表面を部分的に被覆するための金属としてはスズが最適である。
表面が部分的に金属または合金で被覆された亜鉛合金粉体は、従来の亜鉛合金を負極活物質に用いた場合に比較して、電池特性、エネルギー密度ともに向上させることが可能であり、アルカリマンガン電池、ニッケルマンガン電池、水銀電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池、ニッケル亜鉛電池などのアルカリ系電池の負極活物質として最適である。
〔亜鉛合金の作製法〕
亜鉛合金の粉体はアトマイズ法で得た。亜鉛合金には、少なくとも、アルミニウム、ビスマス、カルシウム、およびインジウムからなる群より選ばれる1種を添加した。亜鉛合金中の亜鉛以外の元素含有量は、20〜5000ppmの範囲が適当である。アトマイズして得られた粉体は、分級によって粒度を調整した。
以下の実施例では、添加成分として、Alを30ppm、Biを150ppm、Inを500ppmとし、それ以外に不可避不純物が含まれている。亜鉛合金の粉体は、篩い分けにより粒径が500μm以下とされたものを用いた。
〔電気化学的に金属または合金を被覆させた亜鉛合金粉体の作製法〕
電解メッキにより、亜鉛合金表面を部分的に金属または合金で被覆させる方法を示す。電解メッキの前処理として水洗、および脱脂を行った。水洗は、亜鉛合金を純水中に浸漬し、超音波を約5分間かけて行った。脱脂はエマルジョン洗浄で行った。電解メッキの前処理として酸活性化処理を行う場合もあるが、亜鉛合金は表面に酸化被膜が形成される可能性があるために行わなかった。その後、電解メッキ前に亜鉛合金をもう一度水洗し、メッキ液を入れたバレル電解槽に投入した。
バレル電解槽は、高速で回転することが可能な回転槽と、回転槽内の外周部にリング状に設置された陰極、および回転槽の中央に位置するように吊り下げられた陽極から構成される。回転槽の回転数は、メッキする金属種に関係なく350rpmで一定とし、電流密度やメッキ時間、浴温度を変化させてメッキの析出量や厚みを制御した。
亜鉛合金粉体がメッキされる仕組みは次の通りである。
メッキ液を入れた回転槽の陽極とリング状陰極に電圧を印加し、運転により回転槽が自転すると、亜鉛合金粉体は遠心力により外周部のリング状陰極に接触される。このとき、亜鉛合金は通電され、表面にメッキ膜が析出する。図1は、電解メッキにより作製された、表面が部分的に金属で被覆された亜鉛合金粉体の一例を示すSEM写真であり、粉体表面が金属で完全に被覆されないようにメッキ条件を制御したものである。
〔物理的な金属被膜の作製法〕
メカノフュージョンと呼ばれる、粉体混合物に加圧力とせん断力を加えて複合化処理する方法で、亜鉛合金表面を部分的に金属または合金で被覆させる方法を示す。装置はホソカワミクロン株式会社製AMS−labを用いた。亜鉛合金粉体の表面に金属または合金が被覆される仕組みは次の通りである。
装置内部は主に有底筒状回転槽と加圧体とからなり、加圧体は筒状回転槽の壁面との間にわずかな隙間を保ちながら、壁面に沿って回転する。筒状回転槽は加圧体とは反対方向に回転する。筒状回転槽に投入された亜鉛合金粉体と被覆する金属または合金の元となる粉体は、筒状回転槽が回転することで、加圧体と筒状回転槽の壁面部との間の隙間に挟まれ、このとき押圧力およびせん断圧力を受ける。2種類の粉体は、このような押圧力とせん断圧力により、一方の粉体表面に他方の粉体成分が被覆されて複合化される。メカノフュージョンのような方法を用いて亜鉛合金表面を金属または合金で被覆させるには、被覆する金属または合金には、亜鉛合金と同等またはそれ以下の硬度のものを用いる。
〔粉体集合体の作製法〕
前記の電気化学的または物理的な方法により作製された、表面が部分的に金属または合金で被覆された亜鉛合金粉体を用いて、熱処理により粉体集合体を得る方法を示す。装置は一般的な真空炉を用いた。加熱処理は、亜鉛合金粉体を電池形状に合わせた型へ充填した状態で行った。すなわち、アルカリ電池に用いる場合は、図2に示すようなセパレータ内部に収容できる円筒形状とし、集電子を挿入できる凹部を設けた。空気電池に用いる場合は、図3に示すような負極ケース内部に収容できるペレット状とし、そのペレットの直径は絶縁ガスケットの内径よりも小さくした。これらに用いた亜鉛合金粉体は、あらかじめ篩い分けにより粒径を200〜500μmとした。雰囲気は真空、または還元雰囲気とした。
〔アルカリ電池の作製法〕
図2は本実施例の亜鉛合金粉体を用いたアルカリ電池の一部を断面にした正面図である。この電池は、以下のようにして製造される。
正極ケース1は、ニッケルメッキされた鋼からなる。この正極ケース1の内面には、黒鉛塗装膜(図示しない)が形成されている。この正極ケース1の内部に、二酸化マンガン、または二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルの混合物を主成分として含む短筒状の正極合剤ペレット2を複数個挿入し、ケース内において再加圧することによりケース1の内面に密着させる。そして、この正極合剤ペレット2の内側にセパレータ3と絶縁キャップ9を挿入した後、セパレータ3と正極合剤ペレット2を湿潤させる目的で電解液を注液する。電解液には、例えば40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いる。
注液後、セパレータ3の内側に、本実施例で説明した亜鉛合金粉体をゲル状にした負極4を充填する。ただし、加熱処理で形成させた粉体集合体を負極に用いる場合は、ゲル化する必要はない。次に、樹脂製封口板5、負極端子を兼ねる底板7、および絶縁ワッシャー8と一体化された負極集電体6を、ゲル状負極4に差し込む。そして正極ケース1の開口端部を樹脂封口体5の端部を介して底板7の周縁部にかしめつけて、正極ケース1の開口部を密着する。次いで、正極ケース1の外表面に外装ラベル10を被覆する。このようにしてアルカリ電池が完成する。
〔空気亜鉛電池の作製法〕
図3は、本実施例の亜鉛合金粉体を用いたボタン形空気亜鉛電池の縦断面図である。この電池は、以下のようにして製造される。
正極ケース11は底部中央の凹部に空気孔12を有し、上部が開口している。この正極ケース11の凹部内面に、空気拡散紙13、撥水膜14、空気極15、およびセパレータ16をこの順に積層する。正極ケース11の側壁部には、電解液の漏出を防止する目的でピッチを塗布する。一方、正極ケース11の中央の外面には、電池が未使用の状態では空気孔12を塞ぐようにシールテープ(図示しない)が貼付されており、このシールテープを正極ケース11から取り外すことで、電池内部に酸素が進入し、起電反応が開始される。この正極ケース11は、ニッケルメッキした鉄が用いられる。
空気拡散紙13は、空気孔12から取り入れた空気を均一に拡散させるもので、ビニロン不織布から構成される。撥水膜14は、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)からなり、空気極15への酸素供給と電解液の電池外部への漏出を防止する。負極ケース17には、負極18を電解液とともに充填する。負極ケース17は、正極ケース11と組み合わせて電池容器を形成するものであり、その内壁面が亜鉛合金粉体からなる負極18に電気的に接する一方、正極ケース11の開口部を封止している。負極18はゲル状であり、例えば34重量%の水酸化カリウム水溶液からなる電解液に、カルボキシセルロース(ゲル化剤)、および亜鉛合金粉体を配合して調製される。ただし、加熱処理で形成させた粉体集合体を負極に用いる場合は、ゲル化する必要はない。次いで、負極ケース17と正極ケース11との間に、ナイロンからなる絶縁ガスケット19を介挿し、正極ケース11の開口部をガスケットの端部にかしめて、密閉空気亜鉛電池が完成する。
《実施例1》
電解メッキ法により、表面がスズで被覆された亜鉛合金粉体Aを作製した。
まず、メッキされる亜鉛合金粉体を純水中に浸漬させ、超音波を約5分間かけて水洗した。次に、高沸点炭化水素の1種であるケロシンと純水と界面活性剤とを重量比100:1:2の割合で混合して乳化状態とし、60℃まで加温した中に、亜鉛合金粉体を10分間浸漬して脱脂した。亜鉛合金はもう一度水洗したのち、スズ酸カリウム・三水和物(K2SnO3・3H2O)を150g/dm3、水酸化カリウム(KOH)を25g/dm3、過酸化水素(H22)を少量含むメッキ浴が入れられたバレル電解槽に投入した。バレル電解槽は350rpmで回転させ、陽極にスズ電極を用い、浴温度80℃、陰極電流密度20A/dm2の条件で3分間運転を行った。最後に、メッキされた亜鉛合金粉体を純水中に浸漬させ、超音波を約5分間かけて水洗する作業を2回繰り返し、室温で真空乾燥した。
このように作製した亜鉛合金粉体Aの表面に被覆されているスズ量は、ICP分析で定量した。その他の金属または合金で被覆された亜鉛合金粉体B〜Kは、表1のような条件で作製した。
表1中のメッキ浴の組成は、以下に示す。
メッキ浴a;
2SnO3・3H2O 150g/dm3
KOH 25g/dm3
22 少量
メッキ浴b;
KAu(CN) 4g/dm3
NaPO 15g/dm3
NaHPO 20g/dm3
pH 6.5〜7.5
メッキ浴c;
AgCN 30g/dm3
KCN 60g/dm3
KCO 15g/dm3
メッキ浴d;
CuPO・3HO 90g/dm3
KPO 350g/dm3
NH(28%) 5mL/dm3
pH 8〜9
メッキ浴e;
CrO 250g/dm3
HSO 2.5g/dm3
メッキ浴f;
NiSO・6HO 250g/dm3
NiCl・6HO 45g/dm3
HBO 30g/dm3
pH 4.5〜5.5
メッキ浴g;
PdCl・2HO 4g/dm3
NaHPO・12HO 20g/dm3
(NH)HPO 100g/dm3
NHOH pH調整
pH 8.5〜9.5
メッキ浴h;
HPTCl・HO 4g/dm3
(NH)HPO 20g/dm3
NaHPO 100g/dm3
メッキ浴i;
RhCl 5g/dm3
HSO 50mL/dm3
メッキ浴j;
CuCN 30g/dm3
Zn(CN) 10g/dm3 NaCN 60g/dm3
pH 10〜11
メッキ浴k;
CuCN 35g/dm3 NaSnO・3HO 60g/dm3
NaCN 25g/dm3
pH 12〜13
上記のようにして作製した亜鉛合金粉体を、単三型のアルカリ電池、およびR44型の空気亜鉛電池の負極活物質として用い、それらの電池特性を評価した。
単三サイズのアルカリ電池は、次のようにして作製した。
正極活物質として、東ソー(株)製アルカリ電池用電解二酸化マンガンHH−PFを用い、この二酸化マンガン100重量部に対して電解液1重量部を混合し、ミキサーで攪拌・混合して一定粒度に整粒した。得られた粒状物を中空円筒形に加圧成型して正極合剤ペレット2を作製した。
電解液には、40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いた。得られた正極合剤ペレットは、正極ケース1内で再加圧し、その内面に密着させた。この正極合剤ペレットの内側にセパレータ3と絶縁キャップ9を挿入した後、セパレータと正極合剤ペレットを湿潤させる目的で電解液を注液した。電解液には、40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いた。注液後、セパレータの内側に、本実施例で説明した亜鉛合金粉体をゲル状にした負極4を充填した。負極は、ゲル化剤のポリアクリル酸ソーダ、アルカリ電解液、および亜鉛合金粉体からなる。
このようにして正極と負極を構成し、ケース開口部を封口することで、図2に示す単三型のアルカリ電池を構成した。電池特性の評価は、組立て後の電池を20℃の環境中、100mA、および1Aの定電流で連続放電させ、電圧が終止電圧0.9Vに至るまでの放電容量を測定した。結果を表2に示す。
また、R44サイズ、すなわち直径11.6mm、高さ5.4mmの形状を有する空気亜鉛電池(JIS規格)は次のように作製した。
正極ケース11は、空気孔12として直径0.5mmの孔を4個有している。空気拡散紙13として、厚さ0.13mmのビニロン製不織布、撥水膜14として、厚さ0.1mm、空孔率20%のPTFE微多孔膜を用いた。
空気極は、以下の手順でシート構造に作製したものを用いた。
マンガン酸化物、活性炭、ケッチェンブラック、およびPTFE粉末を重量比40:30:20:10の割合で十分に混合し、ニッケルメッキを施したネット状30メッシュのステンレス鋼製集電体に圧着充填し、PTFE微多孔膜を撥水膜14と対峙する面に圧着した。その後、所定寸法に打抜き切断し、空気極15とした。セパレータ16として、親水処理を施したポリプロピレン微多孔膜を用いた。
電池は次のようにして組み立てた。
まず、正極ケース11の底部中央の凹部に水を塗布し、そこに空気拡散紙13を配置して固定し、その上に撥水膜14、空気極15、およびセパレータ16をその順に挿入・積層した。絶縁ガスケット19は、負極ケース17との接触面に封止剤であるピッチをあらかじめ塗布して、負極ケース17と組み合わせた。負極ケース17内に、本実施例で説明した亜鉛合金粉体を、ゲル化剤のポリアクリル酸ソーダ、およびアルカリ電解液ともに充填した。このようにして組み立てた部品を封口し、図3に示すボタン形空気亜鉛電池とした。電池特性の評価は、組み立て後の電池を、通常の補聴器の消費電流2mAと高出力タイプの補聴器に必要な消費電流15mAで連続放電させ、電圧が終止電圧0.9Vに至るまでの放電容量を測定した。結果を表2に示す。
《比較例》
添加成分として、Alを30ppm、Biを150ppm、Inを500ppm、それ以外に不可避不純物が含まれ、篩い分けにより粒径が500μm以下とされた亜鉛合金粉体を用いて、上記と同様にして単三型のアルカリ電池、およびR44型の空気亜鉛電池を作製し、電池特性を評価した。結果を表2に示す。
表2より、本発明の実施例1に示した亜鉛合金粉体を用いた単三型のアルカリ電池は、比較例よりも放電容量が増加している。被覆している金属がスズの場合、比較例と比べて100mA連続放電では6%、1A連続放電では12%、それぞれ放電容量が増加した。被覆している金属がスズ以外の場合も、同様に放電容量が増加した。放電容量の増加の度合いは、ローレート放電よりもハイレート放電の方が大きく、亜鉛合金の表面を部分的に金属または合金で被覆させたことで放電特性が向上したことが確認された。R44型の空気亜鉛電池の場合も同様に放電特性の向上がみられた。以上の結果から、電気化学的な方法で形成された、表面が部分的に金属または合金で被覆された亜鉛合金粉体が、アルカリ電池の特性向上に多大な効果を有することが確認された。
《実施例2》
実施例1と同様に電解メッキ法を用いて、表面が部分的にスズで被覆され、被覆される金属量が異なる亜鉛合金粉体L〜Rを表3のような条件で作製した。表面に被覆されているスズ量はICP分析で定量した。
このように作製した亜鉛合金粉体L〜Rを用いて、実施例1と同様に、単三型のアルカリ電池、およびR44型の空気亜鉛電池を作製し、電池特性を評価した。結果を表4に示す。
表4より、本発明の実施例2に示した亜鉛合金粉体を用いた単三型のアルカリ電池、およびR44型の空気亜鉛電池はともに、亜鉛合金の表面を部分的に金属で被覆させることで放電特性が向上している。単三型のアルカリ電池の例でみると、特に、記号M〜Qに示した、被覆金属量が0.01〜1.0重量%の亜鉛合金粉体を用いた場合、放電容量の増加度合いが、100mA連続放電で3%以上、1A連続放電で4%以上となり、効果が大きくなっている。さらに、N〜Pに示した、被覆金属量が0.05〜0.80重量%の亜鉛合金粉体を用いた場合、放電容量の増加度合いが、100mA連続放電で4%以上、1A連続放電で9%以上となり、効果が著しく大きくなっている。従って、被覆される金属量は、被覆された金属を含む粉体の総量に対して、0.01〜1.0重量%の範囲とするのが良好であり、さらに0.05〜0.80重量%の範囲とすることで、アルカリ電池の特性を大きく向上させることができる。
《実施例3》
メカノフュージョンの方法を用いて、表面が部分的にスズで被覆された亜鉛合金粉体Sを作製した。亜鉛のモース硬度は2.5、スズのそれは1.8であり、亜鉛合金の表面にスズの被膜を形成させることが可能である。亜鉛合金粉体とスズ粉末(高純度化学研究所(株)製99.99%、粒径38μm以下)とを重量比100:0.11の割合でよく混合したのちに槽に投入し、回転数3000rpmで60分間処理して、スズで亜鉛合金表面を部分的に被覆させた。このようにして作製した亜鉛合金粉体Sの表面に被覆されているスズ量は、ICP分析で定量した。同様にしてメカノフュージョンの方法により、モース硬度が2.5の金、2.7の銀、1.5の鉛、1.2のインジウムを用いて、亜鉛合金粉体T〜Wを表5のような条件で作製した。
このように作製した亜鉛合金粉体S〜Wを用いて、実施例1と同様に、単三型のアルカリ電池、およびR44型の空気亜鉛電池を作製し、電池特性を評価した。結果を表6に示す。
表6より、本発明の実施例3に示した亜鉛合金粉体を用いた単三型のアルカリ電池は、比較例よりも放電容量が増加している。被覆している金属がスズの場合、比較例と比べて100mA連続放電では4.8%、1A連続放電では11%、それぞれ放電容量が増加した。被覆している金属がスズ以外の場合も、同様に放電容量が増加した。放電容量の増加の度合いは、ローレート放電よりもハイレート放電の方が大きく、亜鉛合金の表面を部分的に金属で被覆させたことで放電特性が向上したことが確認された。R44型の空気亜鉛電池の場合も同様に放電特性の向上がみられた。以上の結果から、物理的な方法で形成された、表面が部分的に金属で被覆された亜鉛合金粉体が、アルカリ電池の特性向上に多大な効果を有することが確認された。
《実施例4》
実施例1で示した、表面が部分的に金属で被覆された亜鉛合金粉体AおよびBを用いて、熱処理により粉体集合体を形成させた。装置は環状炉を用いた。加熱処理は、亜鉛合金粉体を単三型アルカリ電池、およびR44型空気亜鉛電池それぞれの負極収容スペースに合わせて作製したカーボン製の型へ充填した状態で行った。加熱処理により粉体集合体とすることでは、粉体の状態よりも嵩密度が減少するため、実施例1〜3に示した亜鉛合金粉体をゲル化して負極に用いる場合と比較して、負極収容スペースに対する活物質充填量を増加させることができ、体積エネルギー密度を向上させることができる。そのため型への充填量は、嵩密度の減少分を考慮して幾分多くした。加熱中の雰囲気は還元雰囲気とするため、水素・窒素混合ガス(体積比1対99)を炉内に満たした状態で行った。温度および処理時間は表7に示す。
このようにして亜鉛合金粉体XおよびYを作製し、実施例1と同様にして、単三型のアルカリ電池、およびR44型の空気亜鉛電池を作製し、電池特性を評価した。結果を表7に示す。
表7より、本発明の実施例4に示した亜鉛合金粉体の集合体を用いた単三型のアルカリ電池、およびR44型のボタン形空気亜鉛電池は、比較例よりも放電容量が増加している。被覆している金属がスズで、単三型のアルカリ電池の場合、100mA連続放電では8%、1A連続放電では16%、それぞれ比較例よりも放電容量が増加している。さらに、これを実施例1、および3と比較した場合でも、100mA連続放電で3%以上、1A連続放電で4%以上それぞれ放電容量が増加している。以上の結果から、表面が部分的に金属で被覆された亜鉛合金粉体を集合体とすることは、これをアルカリ電池の負極活物質に用いる場合、粉体のみで用いる場合よりも放電特性を大きく向上させることが可能であることが確認された。
本発明にかかる亜鉛合金粉体は、水素ガス発生を抑制することができ、かつ放電の進行に伴う亜鉛粉体間の電子伝導性の低下が少ないことから、ハイレート放電性能を向上させることができる。また、負極活物質の充填量の許容限界が低下されるのを最小限にすることでエネルギー密度を向上させることができる。したがって、アルカリマンガン電池、ニッケルマンガン電池、水銀電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池、ニッケル亜鉛電池などのアルカリ系電池の負極活物質として有用である。
表面に部分的に金属被膜が形成された亜鉛合金粉体の一例を示すSEM写真である。 本発明の実施例に用いたアルカリ電池の一部を断面にした正面図である。 本発明の実施例に用いたボタン形空気亜鉛電池の縦断面図である。

Claims (6)

  1. アルミニウム、ビスマス、カルシウム、インジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む亜鉛合金粉体であって、標準電極電位が亜鉛より貴な金属または亜鉛より貴な金属を含む合金により表面が部分的に被覆されていることを特徴とするアルカリ電池用亜鉛合金粉体。
  2. 前記粉体の表面を被覆する金属または合金が、スズ、金、銀、銅、クロム、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、真鍮、青銅、鉛、およびインジウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の合金である請求項1記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉体。
  3. 前記粉体の表面を被覆する金属または合金の量が、当該金属または合金を含む粉体の総量の0.01〜1重量%である請求項1または2記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉体。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の亜鉛合金粉体の集合体からなり、前記粉体同士が接合されているアルカリ電池用亜鉛合金粉体。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉体を負極活物質として備えるアルカリ電池。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉体を負極活物質として備える空気亜鉛電池。
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