JP2006164936A - 燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用セパレータの製造方法 - Google Patents

燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用セパレータの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】セパレータと電極間で発生する接触抵抗が低く、耐食性に優れており、かつ低コストの燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック及びこれを搭載した燃料電池車両を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼からなる基材から形成され、基材表面に燃料又は酸化剤の通路12が形成された基層13と、基層13の直接上に形成された立方晶の結晶構造20を有する窒化層14と、を備える。
【選択図】図3

Description

この発明は、燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用セパレータの製造方法に関し、特にステンレス鋼を用いて形成した固体高分子電解質型の燃料電池用セパレータに関する。
地球環境保護の観点から、燃料電池を自動車の内燃機関に代えて作動するモーターの電源として利用し、このモーターにより自動車を駆動することが検討されている。この燃料電池は、資源の枯渇問題を有する化石燃料を使う必要がないため排気ガス等を発生することがない。また、燃料電池は騒音がほとんど発生せず、更にはエネルギーの回収効率も他のエネルギー機関と比べて高くすることが可能である等の優れた特徴を有している。
燃料電池は、使用される電解質の種類に応じて、固体高分子電解質型、リン酸型、溶融炭酸塩型及び固体酸化物型等がある。そのうちの一つである固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質として分子中にプロトン交換基を有する高分子電解質膜を使用して、高分子電解質膜を飽和に含水させるとプロトン伝導性電解質として機能することを利用した電池である。固体高分子電解質型燃料電池は比較的低温で作動し、かつ発電効率が高い。更には、固体高分子電解質型燃料電池は他の付帯設備と共に小型で軽量であるため、電気自動車搭載用を始めとする各種の用途が見込まれている。
上記固体高分子電解質型燃料電池は燃料電池スタックを有する。燃料電池スタックは、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セルを複数個積層して両端部をエンドフランジで挟み、締結ボルトにより加圧保持されて一体に構成される。単セルは、高分子電解質膜とその両側に接合されるアノード(水素極)とカソード(酸素極)により構成される。
図12は、燃料電池スタックを形成する単セルの構成を示す断面図である。図12に示すように、単セル70は、固体高分子電解質膜71の両側に酸素極72及び水素極73を接合して一体化した膜電極接合体を有する。酸素極72及び水素極73は、反応膜74及びガス拡散層75(GDL:gas diffusion layer)を備えた2層構造であり、反応膜74は固体高分子電解質膜71に接触している。酸素極72及び水素極73の両側には、積層のために酸素極側セパレータ76及び水素極側セパレータ77が各々設置されている。そして、酸素極側セパレータ76及び水素極側セパレータ77により、酸素ガス流路、水素ガス流路及び冷却水流路が形成されている。
上記構成の単セル70は、固体高分子電解質膜71の両側に酸素極72、水素極73を配置して、通常、ホットプレス法により一体に接合して膜電極接合体を形成し、次に膜電極接合体の両側にセパレータ76、77を配置して製造する。上記単セル70から構成される燃料電池では、水素極73側に、水素、二酸化炭素、窒素、水蒸気の混合ガスを供給し、酸素極72側に空気及び水蒸気を供給すると、主に、固体高分子電解質膜71と反応膜74との間の接触面において電気化学反応が起こる。以下、より具体的な反応について説明する。
上記構成の単セル70において、酸素ガス流路及び水素ガス流路に酸素ガス及び水素ガスが各々供給されると、酸素ガス及び水素ガスが各ガス拡散層75を介して反応膜74側に供給され、各反応膜74において以下に示す反応が起こる。
水素極側:H2 →2H+ +2e- ・・・式(1)
酸素極側:(1/2)O2+2H+ + 2e-→H2O ・・・式(2)
水素極73側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+ とe-とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜71内を移動して酸素極72側に流れ、e- は負荷78を通って水素極73から酸素極72に流れる。酸素極72側では、H+とe-と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
上述したように、燃料電池用セパレータは各単セル間を電気的に接続する機能を有するため、電気伝導性が良く、かつガス拡散層等の構成材料との接触抵抗が低いことが要求される。また、固体高分子型電解質膜は、スルホン酸基を多数有する高分子から形成されており、湿潤状態においてスルホン酸基をプロトン交換として用いるため、プロトン伝導性を有する。固体高分子型電解質膜は強酸性であるため、燃料電池用セパレータにはpH2〜3程度の硫酸酸性に対する耐食性が要求される。さらに、燃料電池に供給される各ガスの温度は80〜90[℃]と高温であり、また、水素極ではH+が生じるだけでなく、酸素や空気等が通過する酸素極は、標準水素極電位に対して0.6〜1[VvsSHE]程度の電位が負荷される酸化性環境下にある。このため、酸素極及び水素極と同様に、燃料電池用セパレータには強酸性雰囲気下で耐え得る耐食性が要求される。なお、ここで要求される耐食性とは、燃料電池用セパレータが強酸性の酸化環境下においても電気伝導性能を維持できる耐久性を意味する。つまり、カチオンが加湿水又は式(2)の反応により生成した水に溶け出すことにより、カチオンが本来プロトンの通り道となるべきスルホン酸基と結合してスルホン酸基を占有し、電解質膜の発電特性を劣化させる環境で、耐食性を測定する必要がある。
そこで、燃料電池用セパレータには、電気伝導性が良く耐食性に優れたステンレス鋼又は工業用純チタン等のチタン材を使用する試みがされている。ステンレス鋼は、その表面にクロムを主金属元素とした酸化物、水酸化物又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されている。チタンも同様に、その表面に酸化チタン、水酸化チタン又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されている。このため、ステンレス鋼やチタンは耐食性が良好である。
しかし、上記した不動態皮膜は、通常ガス拡散層として用いられるカーボンペーパとの間で接触抵抗を生じる。燃料電池内の抵抗分極による過電圧は、定置型用途ではコージェネレーション等により排熱を回収できるため、トータルとしての熱効率が向上する。一方、自動車用用途では、接触抵抗に基づく発熱ロスは冷却水を通してラジエータから外部に捨てるしかないため、接触抵抗が大きくなると発電効率の低下に繋がる。また、発電効率低下は発熱が大きくなることと等価であり、より大きな冷却系を装備する必要性が生じるため、接触抵抗の増大は解決すべき重要な課題となっている。
燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm]で使用される。電流密度が1[A/cm]の時には、セパレータとカーボンペーパ間の接触抵抗が40[mΩ・cm]以下であれば接触抵抗による効率低下がおさえられると考えられている。
そこで、ステンレス鋼をプレス成形した後、電極との接触面に直接金めっき層を形成した燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献1参照)。また、ステンレス鋼を成形して燃料電池用セパレータの形状に加工した後、電極との接触により接触抵抗を生じる面の不動態皮膜を除去して、貴金属又は貴金属合金を付着させた燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献2参照)。
特開平10−228914号公報(第2頁、第2図) 特開2001−6713号公報(第2頁)
しかしながら、貴金属を燃料電池用セパレータ表面にコーティングさせると素材コストが高くつく上、製造工程が酸洗、メッキ、洗浄など複数に渡るためコストの増加につながる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、第1の発明である燃料電池用セパレータは、ステンレス鋼からなる基材から形成され、基材表面に燃料又は酸化剤の通路が形成された基層と、基層の直接上に形成された立方晶の結晶構造を有する窒化層と、を備えることを要旨とする。
また、第2の発明である燃料電池用セパレータの製造方法は、燃料又は酸化剤の通路が形成されたステンレス鋼からなる基材に500[℃]以下の温度で窒化処理を施す窒化工程により、基材表面に格子定数a[nm]が0.360<a<0.418の範囲内にある立方晶の結晶構造を有する窒化層を形成する工程を有することを要旨とする。
更に、第3の発明である燃料電池スタックは、上記第1の発明である燃料電池用セパレータを用いたことを要旨とする。
また、第4の発明である燃料電池車輌は、上記第3の発明である燃料電池スタックを搭載し、これを動力源として用いたことを要旨とする。
第1の発明によれば、セパレータと電極間で発生する接触抵抗が低く、耐食性に優れており、かつ低コストの燃料電池用セパレータを提供することができる。
第2の発明によれば、高品質、高性能の燃料電池用セパレータを低コストで製造することが可能となる。
第3の発明によれば、高性能で、かつ小型化及び低コスト化した燃料電池スタックを提供することができる。
第4の発明によれば、小型化及び低コスト化した燃料電池スタックを搭載することにより、走行距離の長距離化を実現できると共にスタイリングの自由度を確保することができる。
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両及び燃料電池用セパレータの製造方法について、固体高分子型燃料電池に適用した例を挙げて説明する
(燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタック)
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いて構成した燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。
図2に示すように、燃料電池スタック1は、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セル2と燃料電池用セパレータ3とを交互に複数個積層して構成される。各単セル2は、固体高分子型電解質膜の両面に各々酸化剤極を有するガス拡散層と燃料極を有するガス拡散層とを形成して膜電極接合体とし、膜電極接合体の両側に燃料電池用セパレータ3を配置して、燃料電池用セパレータ3内部に酸化剤ガス流路と燃料ガス流路とを各々形成している。固体高分子型電解質膜としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(Nafion1128(登録商標)、デュポン株式会社)等を使用することができる。単セル2と燃料電池用セパレータ3とを積層した後、両端部にエンドフランジ4を配置して、外周部を締結ボルト5により締結して燃料電池スタック1を構成する。また、燃料電池スタック1には、各単セル2に水素ガス等の水素を含有する燃料ガスを供給するための水素供給ラインと、酸化剤ガスとして空気を供給する空気供給ラインと、冷却水を供給する冷却水供給ラインが設けられている。
図2に示した燃料電池用セパレータ3の模式図を図3に示す。図3(a)は、燃料電池用セパレータ3の模式的斜視図、図3(b)は、燃料電池用セパレータ3のIIIb-IIIb線断面図、図3(c)は、燃料電池用セパレータ3のIIIc-IIIc線断面図である。図3(a)に示すように、燃料電池用セパレータ3の上面11には、ステンレス鋼からなる基材をプレス成形することにより、断面矩形状の燃料又は酸化剤の通路12が形成されている。そして、基層13と通路12の外面に沿って立方晶の窒化層14が延在している。
本実施の形態に係る燃料電池用セパレータ1では、ステンレス鋼を基材として用いており、基材表面に立方晶の結晶構造を有する窒化層を設けている構成としたため、窒化層中の遷移金属原子が窒素原子との間で共有性に富んだ結合を形成していることに加え、金属原子間には金属結合が形成されているため、電気伝導性に優れた燃料電池用セパレータを得ることができる。また、立方晶の結晶構造を有する窒化層は燃料電池として通常使用されるpH2〜3の強酸性雰囲気においても化学的に安定であるため耐食性に優れる。このため、燃料電池用セパレータとカーボンペーパとの間の接触抵抗を低くおさえ、強酸性雰囲気においても継続的に良好な電気伝導性を示す燃料電池用セパレータが得られる。また、従来のように、電極と接触する面に直接金メッキ層を施さなくても接触抵抗を抑えることができるため、低コスト化を実現することが可能となる。
基材は、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)及びMo(モリブデン)の群から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含むステンレス鋼であることが好ましい。このような元素を含有するステンレス鋼として、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系のステンレス鋼が挙げられる。これらの中でも、基材は、特にオーステナイト系ステンレス鋼から形成することが好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS310S、SUS316L、SUS317J1、SUS317J2、SUS321、SUS329J1、SUS836等が挙げられる。
立方晶の結晶構造は、より具体的には、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選ばれる少なくとも一種以上の金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたMN型の結晶構造であることが好ましい。MN型の結晶構造を図4に示す。図4に示すように、MN型の結晶構造20は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される金属原子21によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子22が配置された構造である。このMN型の結晶構造20において、Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される金属原子21を表し、Nは窒素原子22を表す。窒素原子22はMN型の結晶構造20の単位胞中心の八面体空隙の1/4を占有する。すなわち、MN型の結晶構造20は、金属原子21の面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子22が侵入した侵入型固溶体であり、立方晶の空間格子で表すと、窒素原子22は各単位胞の格子座標(1/2,1/2,1/2)に位置する。MN型の結晶構造とすることにより、金属原子21間の金属結合を維持したまま、金属原子21と窒素原子22との間で強い共有結合性を示す。
また、この結晶構造20では、金属原子21はFeを主体としているが、FeがCr、Ni、Moなどの他の金属原子と一部置換した合金も含む。なお、窒化層中に含まれるFeに対するCr原子比が高い場合には、窒化層中に含まれる窒素が窒化層中のCrと結びついてCrNなどのCr系窒化物、すなわちNaCl型の窒化化合物が主成分となるため窒化層中にCrの欠乏組織ができ、この窒化層内のCrの欠乏組織の耐食性は低下する。このため、金属原子21はFeを主体とすることが好ましい。この結晶構造では、高密度の転位や双晶を伴い、硬さも1000[HV]以上と高く、窒素が過飽和に固溶したfccまたはfct構造の窒化物であると考えられている(安丸、蒲池;日本金属学会誌,50,pp362−368,1986)。そして、この結晶構造では、表面に近いほど窒素濃度が高いことや、CrNが主成分とならないため、耐食性に有効なCrが減少せずに窒化後も耐食性が保たれる。このように、窒化層が少なくともFe、Cr、Ni及びMoの群から選ばれる少なくとも一種以上の金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置された結晶構造を有する場合には、pH2〜3の強酸性雰囲気における耐食性を一段と優れたものとし、かつカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く押さえることが可能となる。
また、上記立方晶の結晶構造の格子定数a[nm]は、0.360<a<0.418の範囲内であることが好ましい。窒化層について、X線回折による入射X線及び反射X線が格子面となす角度をθ、格子面間隔の距離をd、X線の波長をλとした場合にX線の回折線が生じる条件は、下式(1)に示すブラッグの条件式で与えられる。
2dsinθ=nλ (n:整数) ・・・式(1)
式(1)に、X線回折により得られた回折線の回折角θ、n、λを代入すると、格子面間隔dが求められる。ここで、結晶が立方晶ならば、
2dsinθ=λ ・・・式(2)
1/d2=(h2+k2+l2)/a2 ・・・式(3)
となり、この式(2)及び式(3)を組み合わせると、下記式(4)となる。
sin2θ=(h2+k2+l2)×λ2/4a2 ・・・式(4)
式(4)に回折角θ、格子面間隔d、面(hkl)を代入すると、格子定数aが求まる。なお、計算に用いた面(hkl)は、回折強度の高いγ(111)、CrN(200)、CrN(111)及びCrN(200)及びその回折角θを用いた。
上記式(4)に当てはめると、(111)面の回折角2θが42[°]より小さい場合には、窒化層のX線結晶解析により得られる立方晶の結晶構造の(111)面の格子面間隔dが0.21[nm]より大きくなり、格子定数aは0.36[nm]より大きくなる。このように、(111)面の回折角2θが42[°]より小さい場合場合には、図3に示す結晶構造20において、矢印dで示す格子面間隔dが0.21[nm]以上にひろがり、符号aで示す結晶構造20の単位胞の各稜の長さを示す格子定数aは増大する。
一般的に窒素量と格子定数の関係において、窒素量が多いほど格子定数は増大する。これは、図3に示すように窒素原子22は、結晶構造20の単位胞中心の八面体空隙位置に侵入し1/4の体積を占有する。このことから、窒素量が多くなる程、八面体空隙位置に窒素原子が侵入する結晶構造20を示す単位胞数が増加するためである。本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータでは、窒化層のX線結晶解析により得られる(111)面の回折角2θが42[°]より小さい場合には格子面間隔dが0.21[nm]より大きくなり、そこから求められる格子定数aは0.36[nm]より大きくなり、窒化層中に含まれる窒素量が多くなる。このように、窒化層を高濃度窒化化合物とすることで、Fe、Cr、Ni、Moの群から選ばれる少なくとも一種以上の金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置された結晶構造を有し、窒化層中の窒素原子のケミカルポテンシャルを高めて、金属原子の活量をより一層小さく抑えた状態で金属原子が窒素と化合物を形成することが可能となる。この場合、金属原子の自由エネルギーが下がり、金属原子の酸化に対する反応性を低くすることができ、金属原子が化学的に安定する。このため、酸素原子は受け取る自由電子がなくなり、金属原子を酸化しなくなるため酸化膜の成長を抑えることができ、強酸性雰囲気においても化学的に安定な窒化層を得ることができる。このように、この窒化層は化学的に安定であるため耐酸化性を示し、不動態を示す酸化膜が形成し難くなり、接触抵抗を低く抑えることができる。このように、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータでは、燃料電池用セパレータの耐食性が保たれ、強酸性雰囲気における耐食性が一段と優れ、かつ接触抵抗を低く抑えることができる。
これに対し、X線結晶解析により得られる(111)面の回折角2θが42[°]以上の場合には、窒化層中の窒素量が低く、窒化層は基材のオーステナイト(γ)に近い状態であることから、強酸性雰囲気における化学的安定性に欠ける。このため、セパレータ表面に吸着した酸素分子の被覆率が高くなり、金属原子へ吸着した酸素がセパレータ内の自由電子をトンネル効果によって受け取る。このため、基材表面に酸化膜が生成しやすくなる。このように不動態を示す酸化膜が形成されやすくなるため、セパレータの接触抵抗値が増大し、発電効率の悪化につながる。
また、X線結晶解析により得られる(111)面の回折角2θが42[°]以上となる例として、立方晶の結晶構造を有する窒化層にCrNが析出するようになる場合がある。CrNを析出するようになると、CrNの周りにCr欠乏組織ができるようになる。このCr欠乏組織はFe主体であり、このFe主体の組織は容易に溶け出すため、基材の耐食性が劣るようになる。さらに、Fe主体の組織は、強酸性雰囲気における化学的安定性に欠ける。このため、セパレータ表面に吸着した酸素分子の被覆率が高くなり、金属原子へ吸着した酸素がセパレータ内の自由電子をトンネル効果によって受け取る。このため、基材表面に酸化膜が生成しやすくなる。このように不動態を示す酸化膜が形成されやすくなるため、セパレータの接触抵抗値が増大し、発電効率の悪化につながる。
なお、窒化層の最表面から200[nm]深さにおいて、窒素量が15[at%]以上であることが好ましい。ここで、最表面とは、窒化層の最外部の原子一層をさす。窒化層の最表面から200[nm]深さにおいて、窒素量が15[at%]以上である場合には、強酸性雰囲気においても化学的に安定化であり、耐酸化性を有する。このため、セパレータ表面に不動態を示す酸化膜を形成しにくくなるために、接触抵抗を低く抑えることが可能である。
これに対し、窒化層の最表面から200[nm]深さにおいて、窒素量が15[at%]より小さい場合には、窒化層中の窒素量が低く、強酸性雰囲気における化学的安定性に欠けるために、セパレータ表面に吸着した酸素分子の被覆率が高くなり、セパレータ中の金属原子へ吸着した酸素が金属内の自由電子をトンネル効果によって受け取り、セパレータ表面に酸化膜が生成しやすくなる。このように、基材表面の酸化膜により、接触抵抗値が増大し、発電効率の悪化につながる。
このように、上記した構成を採用したことにより、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータは、耐食性に優れており、更に低コストで生産性が良好であると共に、隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触電気抵抗が低く、燃料電池の発電性能の良い燃料電池用セパレータを得ることが可能となる。また、本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックは、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いたことにより、発電性能を損なうことなく高い発電効率を維持できると共に、小型化及び低コスト化を実現することが可能となる。
(燃料電池用セパレータの製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法の実施の形態について説明する。この燃料電池用セパレータの製造方法は、燃料又は酸化剤の通路が形成されたステンレス鋼からなる基材に500[℃]以下の温度で窒化処理を施す窒化工程により、基材表面に格子定数a[nm]が0.360<a<0.418の範囲内にある立方晶の結晶構造を有する窒化層を形成する工程を有することを特徴とする。
本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法では、ステンレス鋼の表面に真空中で窒化することにより、酸素分圧の低い雰囲気中で窒化処理できるために、不動態を示す酸化膜を形成されにくく、かつ窒化層中の窒素濃度を高めることが可能になる。このため、低酸素濃度かつ高窒素濃度の窒化層を形成することが可能となる。そして、この窒化層は、強酸性雰囲気において化学的に安定化であり、耐酸化性を有することから、不動態を示す酸化膜が形成しにくくなるため、セパレータと隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触抵抗を低く抑えることが可能となり、燃料電池の発電効率を維持できる。さらに、基材に窒化処理を施すだけで窒化層が形成されるため、優れた耐久信頼性を有する燃料電池用セパレータを低コストにより得ることができる。
なお、窒化処理は、プラズマ窒化法又はプラズマCVD法であることが好ましい。窒化処理にはガス窒化法、ガス軟窒化法、塩浴法、プラズマ窒化法、プラズマCVD法などを利用することが可能である。ガス軟窒化法は窒化処理中の酸素分圧が高いため窒化化合物層中の酸素量が高くなる。これに対し、窒化処理のうち、プラズマ窒化法は、被処理物を陰極とし、直流電圧を印加して発生するグロー放電によって窒素ガスをイオン化し、減圧下で処理イオン化した窒素が被処理物の表面へ高速加速衝突することで窒化する方法である。このため、プラズマ窒化法では、イオン衝撃によるスパッタリング作用により被処理物であるステンレス鋼表面の不動態皮膜を容易に除去しつつ窒化するためステンレス鋼に適した窒化方法であり、かつ非平衡反応によって基材中に窒素イオンを浸透させるために、上記結晶構造を短時間で容易に得ることができ、耐食性が向上する。また、プラズマCVD法では、原料となる元素を含んだ化合物をプラズマで分解して化学反応を起こし、加熱された基材表面に上記結晶構造を形成する。プラズマCVD法で処理した場合には、プラズマ窒化法と同様に減圧下で処理することにより、低酸素分圧雰囲気でガス状元素をプラズマで分解・イオン化して窒化化合物層を形成することができるため、基材表面を酸素含有量が少なく、かつ窒素量の多い窒化層とすることができる。このため基材表面の接触抵抗を低くおさえることができるという利点が得られる。
図5に、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法に用いる窒化装置30の側面模式図、図6に、窒化装置30のシステム図を示し、具体的に燃料電池用セパレータの製造方法を説明する。
窒化装置30は、バッチ式の窒化炉31と、この窒化炉31に雰囲気ガスを供給するガス供給装置32と、窒化炉31内でプラズマを発生させるプラズマ電極33a、33b及びこれらの電極33a、33bに直流電圧を供給する直流電源33と、窒化炉31内のガスを排出するポンプ34と、窒化炉31内の温度を検知する温度センサ37とを含んでいる。窒化炉31は内壁31a及び外壁31bを有し、内壁31aの天井部31cには燃料電池用セパレータの形状に加工したステンレス鋼箔44を吊下するステンレス製のハンガ36が設けられる。ガス供給装置32は、ガス室38とガス供給管路39とを有し、ガス室38には開口32a、32b、32c及び32dが設けられている。開口32a、32b及び32cは、それぞれガス供給弁V1、ガス供給弁V2及びガス供給弁V3を備えるHガス供給ライン32e、Nガス供給ライン32f、Arガス供給ライン32gと連通する。ガス供給装置32は、ガス供給管路39の一端と連通する開口32dを有する。窒化炉31の天井部31cには、ガス供給管路39の他端と連通する開口31dを有する。ガス供給管路39にはガス供給弁V4が設けられる。窒化炉31内のガス圧は、窒化炉31の底部31eに設けられたガス圧センサ40によって検知される。窒化炉31には冷却水流路(不図示)が設けられ、冷却水は窒化炉31の外壁31bに設けられた開口31fから冷却水流路に流入し、開口31gから流出する。開口31fには冷却水供給弁V5が設けられ、冷却水の流量を調節する。ポンプ34は、上記底部31eに設けられた開口31hと連通する排出管路41と接続される。温度センサ37は、窒化炉31の外壁31bに設けられた設置口31iに設置される。
窒化装置30には、グロー放電のために操作盤43から制御される直流電源33の他に、バイアス用のポテンショメータ35が設けられている。直流電源33は陽(+)極33aが窒化炉31の内壁31aに接続され、陰(−)極33bが接地されている。ポテンショメータ35は、バイアス用直流電源端子35cと接地回路35dとの間の電位差を、可動接触子35eにより0[V]からバイアス電圧の範囲で分圧し、それにより得た電圧をバイアス回路35aを介して各ステンレス鋼箔44に供給する。直流電源33は制御盤43からの制御信号によりオン、オフされる。ポテンショメータ45は、制御盤33からバイアス制御回路35bを介してバイアス制御信号が供給され、この制御信号に応じて可動接触子35eが摺動する。従って、各ステンレス鋼箔44は、内壁31aに対し、直流電源33の端子間電圧と、可動接触子35eを介して供給されるバイアス電圧とを加えた電圧差を有する。なお、ガス供給装置32及びガス圧センサ40も、操作盤43によって制御すされる。
このように、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法によれば、ステンレス鋼からなる基材に窒化処理を施すことにより、基材表面に立方晶の結晶構造を有する窒化層が形成されるため、セパレータと構成材料との間で発生する接触抵抗が低く、耐食性に優れており、かつ低コストの燃料電池用セパレータ製造することが可能となる。
(燃料電池車両)
本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを動力源とした燃料電池電気自動車を挙げて説明する。
図7は、燃料電池スタック1を搭載した燃料電池電気自動車の外観を示す図である。図7(a)は燃料電池電気自動車50の側面図、図7(b)は燃料電池電気自動車50の上面図である。図7(b)に示すように、車体51前方には、左右のフロントサイドメンバとフードリッジのほか、フロントサイドメンバを含む左右のフードリッジ同士を互いに連結するダッシュロア部材をそれぞれ組み合わせて溶接接合したエンジンコンパートメント部52を形成している。図7(a)及び(b)に示す燃料電池電気自動車70では、エンジンコンパートメント部52内に燃料電池スタック1を搭載している。
本発明の実施の形態に係る燃料電池セパレータを適用した発電効率の高い燃料電池スタック1を自動車等の移動体車両に搭載することにより、燃料電池電気自動車の燃費向上を図ることができる。また、小型化した軽量の燃料電池スタック1を車両に搭載することにより、車両重量を低減して省燃費化を図ることができ、走行距離の長距離化を図ることができる。さらに、小型化した燃料電池を移動体車両等に搭載することにより、車室内空間をより広く活用することができ、スタイリングの自由度を高めることができる。
なお、燃料電池車両の一例として電気自動車を挙げたが、本発明は電気自動車等の車両に限定されるものではなく、電気エネルギが要求される航空機その他の機関にも適用することが可能である。
以下、本発明の実施の形態に係るる燃料電池用セパレータの実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例6について説明する。これらの実施例は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの有効性を調べたもので、異なる条件下で処理を施すことによって生成した燃料電池用セパレータの例を示したものである。
<試料の調製>
各実施例では、板厚0.1[mm]のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)の光輝焼鈍(BA))材を脱脂洗浄後、両面に窒化処理を施した。実施例1〜実施例6及び比較例2〜比較例4はプラズマ窒化処理、実施例7〜実施例9及び比較例5,6はプラズマCVD処理を施した。プラズマ窒化条件は、処理温度400〜600[℃]、処理時間5[分]又は60[分]、ガス混合比N:H=30:70〜70:30、処理圧力7[Torr](=931[Pa])とした。プラズマCVD処理条件は、処理温度380〜540[℃]、処理時間10[分]又は60[分]、ガス混合比NH:H=30:70、処理圧力0.15[Torr](=20[Pa])の条件で行った。なお、比較例1では、プラズマ窒化処理又はプラズマCVD処理のいずれの処理も行わなかった。下表1に、用いた基材及び窒化条件を示す。
Figure 2006164936
ここで、各試料は、以下の方法によって評価された。
<窒化層の回折角2θの測定、格子面間隔d及び格子定数aの算出>
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、窒化処理を施した表面をX線回折測定を行うことにより同定した。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行い、(111)面の回折角2θを測定し、上記式(1)に示すブラッグの条件式から格子面間隔dを算出した。また、式(4)に回折角θ、格子面間隔d、γ(111)またはCrN(200)面の値を代入して格子定数aを算出した。
<窒化層の最表面から200[nm]深さにおける窒素量の測定>
窒化層の最表面から200[nm]深さにおける窒素量の測定は、走査型オージェ電子分光分析装置によって行った。装置は、PHI社製 MODEL4300を用いた。測定は、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧5[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO換算値)の条件で行った。
<接触抵抗値の測定>
上記実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例6から得られた試料の定電位電解試験を行い、試験前と試験後の接触抵抗値を測定した。定電位電解試験は、得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出し、pH2の硫酸水溶液中で、温度80[℃]、電位1[VvsSHE]の電位をかけた状態で100[時間]保持した。
接触抵抗の測定には、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図8(a)に示すように、電極61とサンプル62との間にカーボンペーパ63を介在させて、図8(b)に示すように、電極61a/カーボンペーパ63a/サンプル62/カーボンペーパ63b/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。
上記実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例6で得られた試料の窒化層の(111)面の回折角2θ、(111)面の格子面間隔d、窒化層の最表面から200[nm]深さにおける窒素量、及び定電位電解試験前後の接触抵抗値を下表2に示す。
Figure 2006164936
また、図9に上記実施例1及び比較例1により得られた試料のX線解析パターンを示す。窒化処理を施していない比較例1では、図中γで示す基材であるオーステナイト由来のピークのみが明確に観測されたのに対し、実施例1では、基材であるオーステナイト由来のピークの他には、図中S1〜S4で示す上記Fe、Cr、Ni、Moの群から選ばれる少なくとも一種以上の金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたMN型で表される結晶構造由来のピーク及びCrNのピークが観測された。実施例2〜9では、実施例1と同様に基材であるオーステナイト由来のピークの他に、Fe、Cr、Ni、Moの群から選ばれる少なくとも一種以上の金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置された結晶構造由来のS1〜S4のピークが観測された。比較例2では基材であるオーステナイト由来のピークのみが、また、比較例3では、CrNのピークが観測された。また、比較例4〜比較例6では、CrNとγ’相を示すピークが観測された。なお、γ’相は、CrがNと結合してCrNなどのCr系窒化化合物を形成するために基材のCr濃度が低下することによって、Fe原子が面心立方格子を作り、単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が侵入した結晶構造、すなわち八面体空隙の1/4に窒素原子が侵入したFeN型の結晶構造となる。また、実施例1〜実施例9で得られた結晶構造では、Feの他にCr、Ni、Mo等を含む合金を有するが、γ’相はそれらの合金を含まない点において異なっている。
X線回折測定の結果より、処理温度500[℃]以下の場合には窒化化合物としてFe、Cr、Ni、Moの群から選ばれる少なくとも一種以上の金属原子によって形成された面心立方格子または面心正方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたMN型で表される結晶構造のみが形成されるが、処理温度が500[℃]を越えるとFe、Cr、Ni、Moなどの金属原子が面心立方格子もしくは面心正方格子を形成し、単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が侵入した結晶構造を有する窒化化合物とならず、NaCl型の結晶構造を有するCrNなどのCr系窒化化合物が形成することがわかった。
次に、図10に実施例5により得られた試料の走査型オージェ電子分光分析による深さ方向の元素プロファイルを示す。図10に示すように、窒化層の最表面では窒化処理中に若干の酸素分圧が存在するために酸化膜が存在し、その酸化膜の厚さを電子が自由に行き来できるため酸素量が一番高い。しかし、電子が自由に行き来できる範囲は最表面から3〜4[nm]の深さであるため、徐々に酸素量は低くなり窒素量が増えた。窒化層の最表面から10[nm]深さを越えたあたりから窒素量が徐々に減少し、窒化層の最表面から100[nm]深さあたりからほぼ一定となった。そして、窒化層の最表面から200[nm]深さでは、窒素量が18[at%]であり酸素量が0[at%]に近い値であった。なお、スパッター深さ50[nm]あたりから、基材の成分であるFeの割合が最も高くなった。実施例5の定電位電解試験前の接触抵抗値は13[mΩ・cm]であり、定電位電解試験後の接触抵抗値は15[mΩ・cm]と低かった。このように、実施例5で得られた試料は電解試験前後のどちらの場合であっても接触抵抗値が低いため、耐食性に優れ、接触抵抗も満足することがわかった。同様に、実施例1〜4及び実施例6〜9においても、電解試験前後のいずれの場合であっても接触抵抗値が低く、優れた耐食性を有するとされるステンレス鋼をそのまま使用した比較例1よりも耐食性にも優れていることがわかった。なお、実施例1〜9で得られたいずれの試料においても、X線結晶解析により得られる(111)面の回折角2θは42[°]より小さく、格子面間隔dは0.21[nmより大きくなり、格子定数aは0.36[nm]より大きくなった。
これに対し、比較例1〜6では、いずれもX線結晶解析により得られる(111)面の回折角2θは42[°]以上であった。比較例1では、基材表面に窒化層が形成されていないため格子定数aは0.36[nm]以下であり、比較例2〜比較例5では、窒化温度が500[℃]を超える温度である場合には、窒素が窒化層中のCrと結びついてNaCl型CrNなどのCr系窒化物となるため、格子定数aは0.418[nm]以上となった。比較例6では、窒化温度が380[℃]と低温で、かつ処理時間が10[分]と短時間である場合には、表面から200[nm]位置の窒素濃度が5.6[%]と窒素量が低くMN型で表される立方晶の結晶構造を有する窒化層を形成しないため、格子定数aは0.364[nm]となった。そして、窒化層の最表面から200[nm]深さにおける窒素量が15[at%]以上を満足しない比較例2及び6では、電解試験前の接触抵抗値は低いものの、電解試験後の接触抵抗値は高く、耐食性が劣ることがわかった。比較例2及び6では窒化層が形成されていないため耐食性が劣ることが考えられる。また、窒化層の最表面から200[nm]深さにおける窒素量が25[at%]前後である比較例3〜6においても、電解試験前の接触抵抗値は低いものの、電解試験後の接触抵抗値は高く、耐食性が劣ることがわかった。この理由として、比較例3〜6ではFeに対するCr原子比が高く、窒素が窒化層中のCrと結びついてNaCl型CrNなどのCr系窒化物となり、母材のCr濃度が低下することで母材の耐食性は劣るようになることが考えらる。そして、Cr濃度が低下した部位ではFeが酸化皮膜を形成して基材表面を覆うようになるために、電解試験後の接触抵抗値は高くなるとが考えられる。なお、表面に窒化層が形成されていない比較例1では、表面に緻密な不動態皮膜が存在するため、電解試験前後のいずれの場合においても接触抵抗値が高かった。
燃料電池では、図8(b)に示した装置での測定値が40[mΩ・cm] 以下であれば接触抵抗による効率低下がおさえられると考えられている。本実施例1〜実施例9では、電解試験前後のいずれの場合においても接触抵抗値が40[mΩ・cm] 以下であるため、耐食性に優れ、なおかつ単位セル当りの起電力が高く、起電力の高い燃料電池スタックを形成することが可能となる。
次に、図11(a)〜(c)に、X線結晶解析により得られる(111)面の回折角2θ、格子面間隔d、原子濃度[at%]と接触抵抗値との関係を示す。図11(a)は、X線結晶解析により得られる(111)面の回折角2θと接触抵抗値との関係を示している。図7(b)は、格子面間隔dと接触抵抗値との関係を示している。図11(c)は、窒化層の最表面から200[nm]深さにおける原子濃度[at%]と接触抵抗値との関係を示している。図11(a)に示すように、X線結晶解析により得られる(111)面の回折角2θと接触抵抗値とは相関関係を示し、電解試験前後において回折角2θが大きいほど接触抵抗値が高いことが明らかとなった。これは電解試験後において顕著であった。同様に、図11(b)に示すように、格子面間隔dが狭いほど接触抵抗値が高くなった。
また、図11(c)に示すように、電解試験前における窒化層の最表面から200[nm]深さにおける窒素量と接触抵抗値との間にも良好な相関関係が示され、電解試験前では窒素量が多い(窒素濃度が高い)ほど接触抵抗値が低いことが明らかとなった。なお、電解試験後では、窒素量が10[at%]を下回るような低い場合、及び窒素濃度が25[at%]を上回る高窒素濃度では接触抵抗値は高くなる傾向にあった。これは、窒素量が10[at%]を下回るような低い場合には、基材表面に窒化層が形成されず基材のγ組織が不導態皮膜を形成するため、また、窒素濃度が25[at%]を上回る高窒素濃度では、表面の窒化化合物がNaCl型のCrNであるために母材のCr濃度が低下した部位でFeが酸化皮膜を形成するために接触抵抗値が高くなることが考えられる。
以上の測定結果より、実施例1〜実施例9は、比較例1〜比較例6に対しいずれの実施例においても接触抵抗値が40[mΩ・cm]以下と低接触抵抗を示し、その上、電解試験後でも接触抵抗値が低く耐食性に優れることから、低接触抵抗と耐食性の両方を同時に兼ね備えることがわかった。
なお、本実施例においては、基材としてオーステナイト系ステンレス鋼を用いたが、これに限定されるものではなく、フェライト系もしくはマルテンサイト系ステンレス鋼を用いても良く、また、窒化処理としてプラズマ窒化法又はプラズマCVD法を実施しているが、ガス窒化処理によっても同様の効果が得られる。
本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いて構成する燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。 本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いて構成する燃料電池スタックの展開図である。 (a)燃料電池用セパレータの模式的な斜視図である。(b)燃料電池用セパレータのIIIb-IIIb線断面図である。(c)燃料電池用セパレータのIIIc-IIIc線断面図である。 窒化層に含まれる型結晶構造を示す模式図である。 本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法に用いる窒化装置の側面模式図である。 窒化装置のシステム図である。 本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを搭載した電気自動車の外観を示す図であり、(a)は電気自動車の側面図、(b)は電気自動車の上面図である。 (a)各実施例で得られた試料の接触抵抗の測定方法を説明する模式図である。(b)接触抵抗の測定に使用する装置を説明する模式図である。 実施例1及び比較例1により得られた試料のX線回折パターンを示す図である。 実施例5により得られた試料の走査型オージェ電子分光分析による深さ方向の元素プロファイルを示す図である。 (a)X線結晶解析により得られる(111)面の回折角2θと接触抵抗値との関係を示す図である。(b)格子面間隔dと接触抵抗値との関係を示す図である。(c)窒化層の最表面から200[nm]深さにおける原子濃度[at%]と接触抵抗値との関係を示す図である。 燃料電池スタックを形成する単セルの構成を示す断面図である。
符号の説明
1 燃料電池スタック
2 単セル
3 燃料電池用セパレータ
4 エンドフランジ
5 締結ボルト
12 通路
13 基層
14 窒化層
20 結晶構造
21 金属原子
22 窒素原子
a 格子定数
d 格子面間隔

Claims (6)

  1. ステンレス鋼からなる基材から形成され、前記基材表面に燃料又は酸化剤の通路が形成された基層と、
    前記基層の直接上に形成された立方晶の結晶構造を有する窒化層と、を備えることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
  2. 前記立方晶の結晶構造の格子定数a[nm]は、0.360<a<0.418の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
  3. 燃料又は酸化剤の通路が形成されたステンレス鋼からなる基材に500[℃]以下の温度で窒化処理を施す窒化工程により、前記基材表面に格子定数a[nm]が0.360<a<0.418の範囲内にある立方晶の結晶構造を有する窒化層を形成する工程を有することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
  4. 前記窒化処理は、プラズマ窒化法又はプラズマCVD法であることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  5. 請求項1又は請求項2に記載された燃料電池用セパレータを用いたことを特徴とする燃料電池スタック。
  6. 請求項5記載の燃料電池スタックを搭載し、これを動力源として用いたことを特徴とする燃料電池車両。
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