JP2009209423A - 遷移金属窒化物、燃料電池用セパレータ、遷移金属窒化物の製造方法、燃料電池用セパレータの製造方法、燃料電池スタック、及び燃料電池車両 - Google Patents

遷移金属窒化物、燃料電池用セパレータ、遷移金属窒化物の製造方法、燃料電池用セパレータの製造方法、燃料電池スタック、及び燃料電池車両 Download PDF

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Abstract

【課題】酸化性環境下におけるセパレータと電極との間の接触抵抗を低い値に維持し、耐食性に優れ、かつ低コスト化した燃料電池用セパレータを提供する。
【解決手段】二相ステンレス鋼よりなる基材の表面を窒化することにより基材の表面から深さ方向に形成された窒化層11と、基材の二相ステンレス鋼である基層12とを備えている。窒化層11は、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112中に、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物111が混在している。
【選択図】図4

Description

この発明は、遷移金属窒化物、燃料電池用セパレータ、遷移金属窒化物の製造方法、燃料電池用セパレータの製造方法、燃料電池スタック、及び燃料電池車両に関する。
地球環境保護の観点から、内燃機関に代えて、燃料電池を電源として利用したモーターにより自動車を駆動することが検討されている。この燃料電池は、化石燃料を使う必要がないため、排気ガス等を発生することがなく、また、化石燃料の資源枯渇のおそれを有しない。また、燃料電池は、騒音がほとんど発生せず、更にはエネルギーの回収効率も他のエネルギー機関と比べて高くすることが可能である等の優れた特徴を有している。
燃料電池は、その電池に使用される電解質の種類に応じて、固体高分子電解質型、リン酸型、溶融炭酸塩型及び固体酸化物型等の種類がある。そのうちの一つである固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質として、分子中にプロトン交換基を有する高分子電解質膜を使用した電池であり、この高分子電解質膜を飽和に含水させるとこの高分子電解質膜がプロトン伝導性電解質として機能することを利用している。この固体高分子電解質型燃料電池は、他の燃料電池と比べて、比較的低温で作動し、かつ発電効率が高い。更には、固体高分子電解質型燃料電池は他の付帯設備と共に小型で軽量であるため、電気自動車搭載用を始めとする各種の用途が見込まれている。
上記固体高分子電解質型燃料電池は、電気化学反応により発電を行う基本構造単位である単セルの複数個が積層されて構成された電池スタックを有する。この燃料電池スタックは、複数個積層された単セルの両端部をエンドフランジで挟み、締結ボルトにより加圧保持されて一体に構成されている。各単セルは、高分子電解質膜と、その高分子電解質膜の両側でそれぞれ接合される水素極(アノード)及び酸素極(カソード)と、これらの水素極及び酸素極の外側にそれぞれ設けられるセパレータとにより構成される。なお、高分子電解質膜と、水素極と酸素極とが接合されたものは、膜電極接合体と呼ばれる。
燃料電池用セパレータは、各単セル間を電気的に接続する機能を有するため、電気伝導性が良く、かつガス拡散層等の構成材料との接触抵抗が低いことが要求される。
また、スルホン酸基を多数有する高分子から形成され、湿潤状態においてスルホン酸基をプロトン交換として用いるためにプロトン伝導性を有する固体高分子型電解質膜は、強酸性である。このため、燃料電池用セパレータにはpH2〜4程度の硫酸酸性に対する耐食性が要求される。
さらに、燃料電池に供給される各ガスの温度は80〜90[℃]と高温であり、また、水素極ではH+が生じるだけでなく、酸素や空気等が通過する酸素極は、標準水素極電位に対して自然電位乃至は最大で1[VvsSHE]程度の電位が負荷される酸化性環境下にある。このため、酸素極及び水素極と同様に、燃料電池用セパレータには強酸性雰囲気下で耐え得る耐食性が要求される。
そこで、燃料電池用セパレータには、電気伝導性が良く耐食性に優れたステンレス鋼又は工業用純チタン等のチタン材を使用する試みがされている。ステンレス鋼は、通常の環境ではその表面にクロムを主金属元素とした酸化物、水酸化物又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されている。チタンも同様に、その表面に酸化チタン、水酸化チタン又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されている。このため、ステンレス鋼やチタンは耐食性が良好である。
しかし、上記した不動態皮膜は、通常ガス拡散層として用いられるカーボンペーパとの間で接触抵抗を生じる。燃料電池内の抵抗分極による過電圧は、定置型用途ではコージェネレーション等により排熱を回収できるため、トータルとしての熱効率が向上する。一方、自動車用用途では、接触抵抗に基づく発熱ロスは冷却水を通してラジエータから外部に捨てるしかないため、接触抵抗が大きくなると発電効率の低下に繋がる。また、発電効率低下は発熱が大きくなることと等価であり、より大きな冷却系を装備する必要性が生じるため、接触抵抗の増大は解決すべき重要な課題となっている。
燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極又は抵抗分極により、実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用用途より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm]で使用される。このように電流密度が1[A/cm]の時には、セパレータと電極間の接触抵抗が40[mΩ・cm]以下であれば、接触抵抗による効率低下が抑えられると考えられている。
そこで、ステンレス鋼をプレス成形した後、電極との接触面に直接金めっき層を形成した燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献1参照)。また、ステンレス鋼を成形して燃料電池用セパレータの形状に加工した後、電極との接触により接触抵抗を生じる面の不動態皮膜を除去して、貴金属又は貴金属合金を付着させた燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献2参照)。
特開平10−228914号公報(第2頁、第2図) 特開2001−6713号公報(第2頁)
しかしながら、ステンレス鋼を燃料電池用セパレータに用いる場合、良好な導電性と低い接触抵抗とは相反する特性であるため、両立するのが難しい。また、貴金属を燃料電池用セパレータ表面にメッキ又はコーティングした場合には、製造時に手間がかかるだけではなく、素材コストもかかる。
更に、燃料電池用セパレータは、電極に対する低い接触抵抗及び高い耐食性についての要求は止むところがなく、これらの特性の更なる改善が望まれる。なお、ここで要求される耐食性とは、燃料電池用セパレータが強酸性の酸化環境下においても電気伝導性能を維持できる耐久性を意味する。つまり、カチオンが加湿水又は化学反応により生成した水に溶け出すことにより、カチオンが本来プロトンの通り道となるべきスルホン酸基と結合してスルホン酸基を占有し、電解質膜の発電特性を劣化させる環境における耐食性を具備することが必要である。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の遷移金属窒化物は、二相ステンレス鋼の窒化物よりなり、当該二相ステンレス鋼の表面から深さ方向に形成される遷移金属窒化物であって、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織中に、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物が混在していることを要旨とする。
本発明の燃料電池用セパレータは、二相ステンレス鋼の表面より深さ方向に上記遷移金属窒化物が形成されてなるものである。上記遷移金属窒化物は、二相ステンレス鋼に窒化処理を施すことにより製造することができ、燃料電池用セパレータの製造の際は、二相ステンレス鋼に溝状の流路部及びこの流路部に隣接する平板部を形成するプレス成形を行った後、上記窒化処理を行う。本発明の燃料電池用セパレータは、燃料電池スタックに用いることができ、この燃料電池スタックを動力源として備える燃料電池車両に適用して好適である。
本発明の遷移金属窒化物は、燃料電池環境下の硫酸酸性環境においてもセパレータと電極との接触抵抗の低減と耐食性の向上とを両立させることができる。本発明の遷移金属窒化物を具備する燃料電池用セパレータは、セパレータに求められる良好な導電性を有し、セパレータと電極との間で低い接触抵抗、優れた耐食性を具備することができる。また、本発明の製造方法によれば、上記遷移金属窒化物及び燃料電池用セパレータを生産性良く低コストに製造することができる。そして、上記燃料電池用セパレータを用いた燃料電池スタックによれば、高性能の燃料電池スタックが得られ、かつ小型化及び低コスト化が可能となる。更に、本発明の燃料電池スタックを搭載した燃料電池車両によれば、走行距離が長くなると共にスタイリングの自由度を確保することができる。
以下、本発明の実施の形態に係る遷移金属窒化物、燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池用セパレータの製造方法及び燃料電池車両について、固体高分子型燃料電池に適用した例及びその固体高分子型燃料電池を用いた例を挙げて説明する。
(遷移金属窒化物、燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタック)
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いて構成した燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。図1に示した燃料電池スタック1は、概略直方体形状の燃料電池スタック本体が、その側辺部を支持するケースに収容されてなるものである。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。
図2に示すように、燃料電池スタック1は、高分子電解質膜と水素極と酸素極とが接合されてなる膜電極接合体(MEA)2と燃料電池用セパレータ3とを交互に複数個積層したものを基本構成とする。一つの膜電極接合体2と、その膜電極接合体2の両側に設けられた燃料電池用セパレータ3により、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セル4が構成される。固体高分子型電解質膜としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(ナフィオン1128(登録商標)、デュポン株式会社)等を使用することができる。
燃料電池スタック1の複数個の膜電極接合体2と複数個の燃料電池用セパレータ3とが積層された積層体の両端部に、エンドフランジ5が配置される。これらのエンドフランジ5と、これらのエンドフランジ5間に掛け渡された締結ボルト6とを締結する。これにより、燃料電池スタック1が一体的に構成される。また、燃料電池スタック1には、膜電極接合体2と燃料電池用セパレータ3との積層体の積層方向の一方の端部から他方の端部に渡って、各膜電極接合体2に水素ガス等の水素を含有する燃料ガスを供給するための水素供給ラインHLと、酸化剤ガスとして空気を供給する空気供給ラインALと、冷却水を供給する冷却水供給ラインWLが設けられている。
図3は、燃料電池スタック1を形成する単セル4の構成の一例を示す模式的な断面図である。図3に示すように、単セル4は、固体高分子電解質膜201の両側に酸素極202及び水素極203を接合して一体化した膜電極接合体2を有する。酸素極202及び水素極203は、それぞれ反応膜204及びガス拡散層205(GDL:gas diffusion layer)を備えた2層構造であり、各反応膜204は固体高分子電解質膜201に接触している。酸素極202及び水素極203の両側には、積層のために酸素極側セパレータ301及び水素極側セパレータ302が各々設置されている。そして、酸素極側セパレータ301及び水素極側セパレータ302により、酸素ガス流路401、水素ガス流路402及び冷却水流路403が形成されている。
上記構成の単セル4は、固体高分子電解質膜201の両側に酸素極202、水素極203を配置して、通常、ホットプレス法により一体に接合して膜電極接合体2を形成し、次に膜電極接合体2の両側にセパレータ301、302を配置して製造する。
上記単セル4から構成される燃料電池では、水素極203側に、水素、二酸化炭素、窒素、水蒸気の混合ガスを供給し、酸素極202側に空気及び水蒸気を供給すると、主に、固体高分子電解質膜201と反応膜204との間の接触面において電気化学反応が起こる。以下、より具体的な反応について説明する。
上記構成の単セル4において、酸素ガス流路401及び水素ガス流路402に酸素ガス及び水素ガスが各々供給されると、酸素ガス及び水素ガスが各ガス拡散層205を介して反応膜204側に供給され、各反応膜204において以下に示す反応が起こる。
水素極側:H2 →2H+ +2e- ・・・式(1)
酸素極側:(1/2)O2+2H+ + 2e-→H2O ・・・式(2)
水素極203側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+ とe-とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜201内を移動して酸素極202側に流れ、e- は負荷Lを通って水素極203から酸素極202に流れる。酸素極202側では、H+とe-と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
図2に示した燃料電池用セパレータ3として用いて好適な、本発明の実施の形態に係る遷移金属窒化物及びこの遷移金属窒化物が形成された燃料電池用セパレータ10の詳細を以下に説明する。図4(a)は、燃料電池用セパレータ10の模式的斜視図、図4(b)は、燃料電池用セパレータ10の要部をわかりやすく強調したIVb-IVb線断面図、図4(c)は、燃料電池用セパレータ10の要部をわかりやすく強調したIVc-IVc線断面図である。
図4(a)に示すように、燃料電池用セパレータ10には、断面概略矩形状の溝状の流路部101が複数個で形成されている。この流路部101は、単セル4における酸素ガス流路401又は水素ガス流路402となる部分であり、例えばプレス成形により形成される。燃料電池用セパレータ10は、互いに隣り合う流路部101と流路部101との間には、これらの流路部101と流路部101とを接続する平板部102を備えている。平板部102は、燃料電池スタック1において燃料電池用セパレータ3と膜電極接合体2とを交互に積層した際に、膜電極接合体2のガス拡散層に接触する部分である。
図4(b)及び図4(c)に示すように、燃料電池用セパレータ10は、二相ステンレス鋼からなる基材の表面を窒化することにより得られ、基材の表面からその深さ方向に形成されている遷移金属窒化物よりなる窒化層11と、窒化されていない未窒化層、すなわち、二相ステンレス鋼である基層12からなる。図4に示した本実施形態の燃料電池用セパレータ10においては、窒化層11が流路部101及び平板部102の外面にわたって延在する。なお、図4(b)、(c)においては、本発明の理解を容易にするために窒化層11及び基層12の厚さを現実の燃料電池用セパレータからは異ならせている。したがって、本発明の燃料電池用セパレータ10は、図示した窒化層11及び基層12のサイズ及び両者の厚さの比率に限定されるものではない。
図5に、本発明の燃料電池用セパレータ10の結晶組織の模式的な断面図を示す。基層12は、二相ステンレス鋼のα相121とγ相122との2相組織を呈し、α相121がγ相122のマトリクス中に偏在している組織となっている。
また、二相ステンレス鋼の基層12上に形成される遷移金属窒化物よりなる窒化層11は、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物111が、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112中に混在している構成を有している。図示した例では、Cr窒化物111は、結晶組織112中に塊状に混在していて、また、このCr窒化物111の一部は、遷移金属窒化物よりなる窒化層11の表面に突出して露出している。更に、窒化層11の表面のうち、Cr窒化物111が露出している部分以外の部分には、不動態皮膜である酸化皮膜13が形成されている。
図5に示した窒化層11は、基材である二相ステンレス鋼の表面を窒化することにより形成される。以下、窒化層11の形成プロセスに従って説明する。
二相ステンレス鋼は、標準的な固溶化熱処理温度1000〜1100℃でオーステナイト相(γ相)とフェライト相(α層)が平衡状態になり、オーステナイト相、フェライト相が微細に混合している組織になっている。このα相121は、成分的には、Crが濃化した組成となっていて、一方、γ相122は、α相121とは反対に、Crが少なく、Niが多く含まれる組成となっている。燃料電池用セパレータ10は、一般に厚さが0.1mm程度である。そのため、燃料電池用セパレータを製造するに当たっては、基材である二相ステンレス鋼板を圧延加工して板厚0.1mm程度の薄板にする必要がある。固溶化熱処理した二相組織を有する二相ステンレス鋼板を板厚0.1mm程度の薄板に圧延すると、二相ステンレス鋼板の結晶組織は、圧延方向に展延された組織となっている。その結果、薄板では、Crの濃化したα相121が、圧延方向に延伸している組織が得られる。図6に、薄板に圧延後の二相ステンレス鋼に窒化処理を施した場合の表面近傍の金属組織写真を、SEM像(同図(a))及びSEMによる元素マッピング図(同図(b))で示す。同図(a)から、α相121が圧延方向に延伸していることが観察され、また、同図(b)のCr像より、圧延方向に延伸しているα相121は、Crが濃化しているものであることが分かる。
燃料電池用セパレータ10は、図4に示したようにプレス加工により溝状の流路部101が形成されているものである。そこで、Crの濃化したα相121が、圧延方向に延伸している組織となっている薄板に、流路部101を形成するためプレス成形を施すと、流路部101の底面及び平板部102を含むいずれの箇所であっても、圧延方向に延びたCrの濃化したα組織が分断され、Crの濃化したフェライト相121が、オーステナイト相122をマトリクスとして塊状に混在するようになる。
このような、γ相122をマトリクスとしてCrの濃化した塊状のα相121の組織が混在する組織になる二相ステンレス鋼を燃料電池用セパレータ10の基材とし、この表面を窒化処理すると、二相ステンレス鋼の表層において、元々オーステナイト相122の組織であったものがMN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112になり、また、元々α相121の組織であったものが、Cr窒化物111となる。その結果、基材の表面全体かつ表面の深さ方向に連続して形成されている窒化層11と、窒化されていない未窒化層である基層12からなる、本実施形態の燃料電池用セパレータ10が得られる。
この窒化層11における結晶組織112は、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有している。MN型結晶構造は、面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置された窒化物である。このMN型結晶構造の窒化物の固溶窒素が過飽和状態になると、MN型よりもより高窒素な、M2−3N型の結晶構造を有する窒化物が、MN型結晶構造の窒化物の積層欠陥上に析出するようになる。これにより、結晶組織112は、MN型の結晶構造をマトリクスとし、同じ結晶面内で数nm程度の間隔で生じた積層欠陥上に層間距離数nm程度のM2−3N型窒化物が層状に析出している、ナノレベルの積層組織構造を有する。
この結晶組織112中におけるMN型結晶構造は、基層12である二相ステンレス鋼のγ相122と同じく面心立方格子の結晶構造をとり、よって基層12との整合性が良く、基層12とMN型窒化物との間で電子のやり取りし易くなり、導電性に優れている。また、このM2−3N型の窒化物の結晶構造は、最密六方格子(hcp)であり、MN型の面心立方格子(fcc)と整合性が良く、電子のやり取りは容易で導電性に優れる。したがって、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造の結晶組織112を有する窒化層11は、導電性に優れている。
また、窒化層11において、MN型の結晶構造をマトリクスとし、積層欠陥上に層間距離数nm程度のM2−3N窒化物が層状に析出した結晶組織112は、窒化物の窒素量(表面から100nm深さ位置での窒素量で定量できる)が多くなればなるほど、化学的に安定し、反応性が低下する結果、硫酸環境下でも接触抵抗値を低く抑え、導電性維持性が高くなる。したがって、このような結晶組織112を有する窒化層11は、硫酸環境下での接触抵抗値が低く、優れた導電性維持性を有している。
一方、窒化層11中に塊状に混在しているCrNの結晶構造を有するCr窒化物111は、窒化前のCrの濃化したフェライト相が塊状であったのに対して、窒化過程でCrがオーステナイト中に拡散しながら窒素を取り込むため、塊状から球状に近い形態になるようになる。
このような、球状に近い形態を含めて本発明で塊状というCr窒化物111は、化学的に安定し反応性が低下している。その結果、硫酸環境下でも接触抵抗値を低く抑え、導電性維持性が高くなることを発明者らは発見した。
すなわち、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112中に、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物111が混在している本実施形態に係る遷移金属窒化物が二相ステンレス鋼の表面より深さ方向に形成されている燃料電池用セパレータ10は、セパレータとして流路部101を具備する形状へプレス成形する際、加工性を悪化させることなく、要望の形状が得られ、その上、窒化層11中のCr窒化物111が一部表面に露出するようになり、露出したCr窒化物が、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112と比較しても特に化学的に安定で酸化し難いことから、強酸環境下でも酸化を防ぎ、導電性を維持する効果がある。
Cr窒化物111は、窒化層11中に埋没していてもよいが、Cr窒化物111の一部が、窒化層11表面に突出して露出していることが特に好ましい。Cr窒化物111の一部が、遷移金属窒化物よりなる窒化層11の表面に突出して露出していることにより、化学的に安定で酸化し難いCr窒化物が強酸環境下でも酸化を防ぎ、突出して露出している部分で酸化皮膜が形成されにくい状態でガス拡散層と確実に接触するため、導電性を維持する効果があるからである。
遷移金属窒化物よりなる窒化層11中のCr窒化物111の面積率は、1〜30%であることが好ましい。窒化処理後における、窒化層11中を占めるCr窒化物111の面積率は、元々基層12のフェライト相121であったものであり、基層12のオーステナイト相122に対するフェライト相121の面積率である1〜30%が好ましい。この場合、2相ステンレス鋼の表面にMN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112中にCr窒化物111が分散した窒化層を形成することができる。得られた窒化層11は、導電性の高いCr窒化物111が分散し、Cr窒化物111の一部が、窒化層11の表面に突出して露出していることにより、ガス拡散層205との接触面積が増えるために、MN単相に比較して導電性に優れる。また、Cr欠乏層を生成することなく、相対的にCr含有量の多い窒化層を形成することができるので、耐食性にも優れる。さらに、基地をγ単相にする必要がない(すなわちNi等のγ相安定化元素を多量に加える必要がない)ので、コストの上昇を抑えることができる。
この面積率が1%を下回る場合、基層12におけるCr窒化物111の量が少なく、接触抵抗値が高くなってしまう。一方、この面積率が30%を超える場合、基層12の加工性が劣り、燃料電池用セパレータとしての所定形状へプレス成形する際、割れが生じたり、要望の形状に加工できなくなるおそれがあり、また、耐食性も劣る。基層12のオーステナイト相122とフェライト相121との面積率は、成分組成を調整することにより、1〜30%の範囲とすることができる。
塊状のCr窒化物111のアスペクト比(横/縦)は、1.0〜5.0であることが好ましい。このアスペクト比は、Cr窒化物111がどの程度に球状になっているかの指標であり、窒化層11の組織観察時におけるCr窒化物111の断面において、長径と短径との比の平均値である。アスペクト比が1.0である場合は、Cr窒化物111は球形である。アスペクト比が5.0を超えると、ガス拡散層との接触が十分ではなく、好ましい導電性を得ることが難しくなる。このアスペクト比は、基材である二相ステンレス鋼板の圧延加工の度合い(圧延加工率)及び基材のプレス加工により流路部を形成する際の加工の度合い(プレス加工率)によって適切な範囲とすることができる。例えば、圧延加工率が高くかつプレス加工率が高い場合、又は、圧延加工率が低くプレス加工率も低い場合、又は、圧延加工率が低くプレス加工率が高い場合には、アスペクト比は、1.0〜5.0の範囲となるが、圧延加工率が高くかつプレス加工率が低い、もしくは圧延加工率のみでプレス加工を実施しない場合には、アスペクト比は、5.0を超えるようになり、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112及び又はCr窒化物111は、層状に近くなる。
遷移金属窒化物よりなる窒化層11の表面は、上述したCr窒化物111が露出している部分を除いて、不動態皮膜である酸化皮膜13が形成されていることが好ましい。この不働態皮膜は、硫酸環境下での耐食性を向上させる効果がある。この酸化皮膜13は、燃料電池用セパレータの製造過程において、薄板をプレス成形してセパレータの所定形状を得て、次いで窒化処理して、基層12上に遷移金属窒化物からなる窒化層を得た後、酸洗処理することにより、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112及び/又はCr窒化物111表面に、数十nm厚さ以下の導電性を有する不働態膜が形成される。したがって、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112及び/又はCr窒化物111表面に、薄くて安定な不働態皮膜が形成すれば、接触抵抗値を低く抑え、かつイオン溶出性に優れるため、導電性と接触抵抗値という相反する機能を両立し、性能を優れたものとすることができる。
燃料電池用セパレータ10の平板部102と流路部101の底面について、深さ方向にオージェ分光分析による元素分布測定を実施した結果、Fe、Cr,よりもOの高い領域が表面から数十nm以下の厚さで確認された。
以上説明してきたように、本実施形態の遷移金属窒化物及びこの遷移金属窒化物が二相ステンレス鋼の表面より深さ方向に形成された燃料電池用セパレータは、基材としてα+γ二相ステンレス鋼を用い、この基材の窒化処理によって、基材の表面から内部に向けて深さ方向に窒素が侵入拡散し、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112中に、CrN型の結晶構造を有する塊状のCr窒化物111が混在する遷移金属窒化物を、窒化層11として具備し、この遷移金属窒化物が、γ相122マトリクスにCrの濃化したα相121が塊状に偏在する基層12上に形成された構造物となっている。このことにより、整合性の良好な基層12、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織112及びCr窒化物111の構成となっているため、導電性に優れるという特徴を持つとともに、最表面に突出したCr窒化物111が良好な導電性を維持し、その上、燃料電池として通常使用されるpH2〜4の強酸性雰囲気においても化学的に安定であるため、耐食性にも優れるという、更なる燃料電池用セパレータ10、燃料電池スタック1の小型化を可能とする。そして、従来のように、電極と接触する面に直接金メッキ層を施さなくても接触抵抗を抑えることができるため、低コスト化を実現することが可能となる。
(遷移金属窒化物及び燃料電池用セパレータの製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る遷移金属窒化物の製造方法及び燃料電池用セパレータの製造方法について説明する。本発明の実施の形態に係る遷移金属窒化物の製造方法及び燃料電池用セパレータの製造方法は、二相ステンレス鋼よりなる基材に窒化処理を施すことにより、この二相ステンレス鋼におけるγ相及びCrが濃化したα相のそれぞれの窒化物を形成する。二相ステンレス鋼におけるγ相が窒化されてMN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織となり、Crが濃化したα相が窒化されてCrN型の結晶構造を有するCr窒化物となり、このCr窒化物が、上記ナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織中に混在している遷移金属窒化物を形成する。
このように、本発明の実施の形態に係る遷移金属窒化物の製造方法によれば、耐食性及び接触抵抗の低い遷移金属窒化物を容易に得ることができる。また、本発明の実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法によれば、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池のセパレータをプラズマ窒化により容易に得られるため、高性能の燃料電池用セパレータの製造が容易になり、製造コストを低く抑えることができる。
二相ステンレス鋼よりなる基材に窒化処理をする前に、基材に溝状の流路部及びこの流路部に隣接する平板部を形成するプレス成形を行うことが好ましい。プレス成形を行うことにより、基材の二相ステンレス鋼中で圧延方向に延伸しているα相を分断することができ、これにより、遷移金属窒化物中のCr窒化物を塊状にすることが容易になる。また、窒化処理の前にプレス成形を行うことにより、窒化処理後は、成形加工が不要になり、よって成形加工によって窒化層にクラックが生じることが回避できる。このため、低コストで生産性が良好であると共に、隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触抵抗値が低く、燃料電池の発電性能の良い燃料電池用セパレータを提供することができる。
窒化処理の後は、酸洗処理を施すことが好ましい。酸洗処理を施すことにより、窒化層の表面に、Cr窒化物の一部が露出するようになり、また、Cr窒化物が露出している部分以外の表面に酸化皮膜が形成される。
以上述べた工程を、図7に示した工程図で説明すると、まず図7(a)に示すように、二相ステンレス鋼よりなる基材100を用意する。この基材100は、燃料電池用セパレータの厚みにまで圧延された薄板である。次に、図7(b)に示すように、この基材100に、プレス成形を施して、燃料電池用セパレータの流路部及び平板部を成形する。次に、図7(c)に示すように、プレス成形後の基材100に窒化処理を施して、窒化層11と基層12とが形成された燃料電池用セパレータ10を得る。次に、図7(d)に示すように、窒化処理後の燃料電池用セパレータ10を酸洗浴中に浸漬して、酸洗する。これらの工程により、γ相122マトリクスにCrの濃化したα相121が塊状に偏在する基層12と、MN型とM2−3N型から成るナノレベルの積層結晶構造を有する結晶組織112中に塊状のCrNの結晶構造を有するCr窒化物111を備える窒化層11とが得られ、その上、上記結晶組織112及び/又はCr窒化物111の表面に酸化皮膜を形成することで、表面に露出したCr窒化物111が、強酸性の酸化環境下において電気伝導性能を維持する耐久性に優れ、また、酸化剤ガス又は燃料ガスの流路部では、この不働態皮膜が金属イオンの溶出を低く抑え、耐食性に優れたものであるため、耐食性と導電性を両立し、かつ製造コストを低く抑えることが可能になる。
以上のように燃料電池用セパレータとして必要な導電性、セパレータ使用環境下における導電性の機能を維持する化学的安定性及び耐食性を兼ね備え、低コストで生産性が良好であると共に、隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触抵抗値が低く、燃料電池の発電性能の良い燃料電池用セパレータを提供することができる。
上述した窒化処理は、400〜450℃で行うプラズマ窒化法であることが好ましい。
プラズマ窒化は、数Torr〜十数Torrの真空に炉内を排気してからHとArの混合ガスを導入した後、被処理物である基材を陰極とし、炉壁を陽極として、直流電圧を印加することにより、陰極上にグロー放電、即ち、低温非平衡プラズマを発生させて、ガス成分の一部をイオン化し、非平衡プラズマ中のイオン化したガス成分を被処理物の表面に高速衝突させて窒化する方法である。図8は、本発明の実施の形態に係る遷移金属窒化物の製造方法及び燃料電池用セパレータの製造方法に用いる窒化装置の一例の模式的な断面図である。
図8に示した窒化装置30は、バッチ式の窒化炉31と、この窒化炉31に設置された真空式窒化処理容器31aを排気して真空圧にする真空ポンプ34と、真空式窒化処理容器31aに雰囲気ガスを供給するガス供給装置32と、真空式窒化処理容器31a内でプラズマを発生させるため高電圧にチャージされるプラズマ電極33a、33b及びこれらの電極33a、33bに周波数45[KHz]の高周波にパルス化された直流電圧を供給するパルスプラズマ電源33と、真空式窒化処理容器31a内の温度を検知する温度検出計37とを備える。
窒化炉31は、上記真空式窒化処理容器31aを収容する断熱性の絶縁材からなる外側容器31bを備え、バルブ弁付送気口31gを備える。
真空式窒化処理容器31aは、その底部31cに、プラズマ電極33a、33bを高電位に保持するための絶縁体35を備える。プラズマ電極33a、33bは、その上にステンレス製の支架36が設けられている。この支架36は、ステンレス鋼箔からなる基材100を支持する。この基材100は、プレス成形により燃料又は酸化剤の流路となる溝状の流路部及び平板部が形成され、セパレータの形状に加工されたものである。
ガス供給装置32は、ガス室38とガス供給管路39とを備え、ガス室38は所定数のガス導入用の開口(不図示)を有し、この開口は、それぞれガス供給弁(不図示)を備える水素ガス供給ライン(不図示)、窒素ガス供給ライン(不図示)、アルゴンガス供給ライン(不図示)に連通する。ガス供給装置32は、更に、ガス供給管路39の一端39aと連通するガス供給用の開口32aを有し、この開口32aにはガス供給弁(不図示)が設けられている。ガス供給管路39は、窒化炉31の外側容器31bの底部31dと真空式窒化処理容器31aの底部31cとを気密に貫通して真空式窒化処理容器31a内に延入し、垂直に立ち上がる立ち上がり部39bに至る。この立ち上がり部39bは、真空式窒化処理容器31a内にガスを噴出するための複数の開口39cが設けられている。
真空式窒化処理容器31a内のガス圧は、真空式窒化処理容器31aの底部31cに設けられたガス圧センサ(不図示)により検知される。真空式窒化処理容器31aは、その外周に抵抗加熱式若しくは誘導加熱式のヒータ44の導電線44aが巻回され、これにより加熱される。真空式窒化処理容器31aと外側容器31bとの間には空気流路40が画成される。外側容器31bの側壁31eには、外側容器31bの側壁31eに設けられた開口31fから空気流路40に流入した空気を送る送風機41が設けられている。空気流路40は空気が流出する開口40aを備える。
真空ポンプ34は、真空式窒化処理容器31aの底部31cに設けられた開口31hと連通する排気管路45を介して排気を行う。
温度検出計37は、真空式窒化処理容器31aと外側容器31bの底部31c、31d及びプラズマ電極33a、33bを貫通して信号線路37aを介して温度センサ37b(例えば熱伝対)に接続される。
パルスプラズマ電源33はプロセス制御装置42から制御信号を受け、オン、オフされる。各基材100は、アース側(例えば、真空式窒化処理容器31aの内壁31i。)に対し、パルスプラズマ電源33から供給される電圧分の電位差を有する。
ガス供給装置32、真空ポンプ34、温度検出計37及びガス圧センサもプロセス制御装置42によって制御され、このプロセス制御装置42は、パーソナルコンピュータ43により操作される。
本発明の実施の形態で用いたプラズマ窒化法についてより詳細に説明する。まず、真空式窒化処理容器31a内に被処理物である基材100を配置し、1[Torr](=133[Pa])以下の真空に炉内を排気する。次に、真空式窒化処理容器31a内に水素ガスとアルゴンガスの混合ガスを導入した後、数[Torr]〜十数[Torr](665[Pa]〜2128[Pa])の真空度で、基材100を陰極、真空式窒化処理容器31aの内壁31iを陽極として、電圧を印加する。この場合、陰極である基材100上にグロー放電が発生し、このグロー放電により基材100を加熱及び窒化する。
本発明の実施の形態に係る燃料電池に用いるセパレータ又は遷移金属窒化物の製造方法として、第一の工程として、ステンレス鋼箔からなる基材100表面の不導態皮膜を除去するスパッタークリーニングを実施する。このスパッタークリーニングの際に、導入ガスがイオン化した水素イオン、アルゴンイオン等が基材100表面に衝突することで、基材100表面のCrを主体とした酸化皮膜を除去する。
第2の工程として、スパッタークリーニングの後、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを窒化炉31内に導入し、電圧を印加して陰極である基材100上にグロー放電を発生させる。この際、イオン化した窒素が基材100表面に衝突、侵入及び拡散することにより、基材100の表面からMN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織中に、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物が混在している、連続した窒化層が形成される。窒化層の形成と同時に、イオン化した水素と基材100表面の酸素が反応する還元反応により、基材100表面に形成された酸化膜が除去される。
なお、このプラズマ窒化法では、基材100表面での反応は平衡反応ではなく非平衡反応であるため、基材100表面から深さ方向に高窒素濃度で、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織中に、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物が混在している本発明の実施形態の遷移金属窒化物が迅速に得られ、この窒化物は導電性と耐食性に富む。
これに対し、大気圧でかつ平衡反応により窒化が進行する窒化法、例えば、ガス窒化法などを用いた場合、基材表面の不導態皮膜を除去するのが難しく、かつ平衡反応のため、基材表面に、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織中に、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物が混在している結晶構造を得るようにするには長時間を要し、かつ、所望の窒素濃度が得られ難くなる。このため、基材表面に酸化皮膜が存在するため導電性が悪化し、化学的安定性に欠けるため、この窒化法により得られた窒化物及び窒化層では強酸性雰囲気での導電性維持が困難となる。
本発明の実施の形態では、電源としてパルスプラズマ電源を用いている。一般的なプラズマ窒化法に用いる電源としては、パルスプラズマ電源ではなく、直流電圧を印加し、この放電電流を電流検出器により検出し、所定の電流となるようサイリスタにより制御する直流波形を有する直流電源を用いている。この一般的な電源の場合、グロー放電は連続的に継続され、基材温度を放射温度計により測定すると、基材温度は±30[℃]程度の範囲で変化する。これに対し、パルスプラズマ電源は、直流電圧とサイリスタによる高周波遮断回路から構成されており、この回路により直流電源波形は、グロー放電がオンとオフを繰り返すパルス波形となる。この場合、プラズマを放電させる時間とプラズマを遮断する時間を1〜1000[μsec]として放電、遮断を繰り返すパルスプラズマ電源を用いたプラズマ窒化を行うことで、基材温度を放射温度計により測定すると、基材温度の変化は±5[℃]程度の範囲になる。高窒素濃度を有する遷移金属窒化物を得るためには、基材温度の精密温度制御が要求されることから、基材温度の変化の小さいパルスプラズマ電源を用い、この電源は、1〜1000[μsec]の周期でプラズマの放電及び遮断を繰り返すことが可能であることが好ましい。
窒化処理は、400[℃]以上450[℃]以下の温度で行うことが好ましい。このステンレス鋼の表面に高温で窒化処理を施すと、窒素が基材中のCrと結びつき、主としてCr窒化物が数nmレベルを超えるサブμm厚さの層または塊として析出するために、一部にCr欠乏層が生じる。このことで燃料電池用セパレータの耐食性が低下する。これに対し、400[℃]以上450[℃]以下の温度で窒化処理を施すと、最表面には、耐食性と導電性共に優れる六方晶のCrN、M2−3N及び/又は立方晶のMN型の結晶構造を有する窒化物であって数nm厚さの層状及び/又は直径が数nmサイズの粒子状のものが混在する、本発明の遷移金属窒化物が容易に得られる。なお、窒化温度が400[℃]を下回る場合には、六方晶のCrN、M2−3N及び/又は立方晶のMN型の結晶構造を有する窒化物を得るためには長時間の処理を必要とするために生産性が悪化する。このため、窒化処理は400[℃]以上450[℃]以下の範囲で行うことが好ましい。
上述した400[℃]以上450[℃]以下の範囲にするには、精密温度制御が要求されるために、窒化処理は、既に述べたように、この基材温度を放射温度計による測定で±5℃程度の範囲とすることができるパルスプラズマ電源を用い、プラズマを放電させる時間とプラズマを遮断する時間をそれぞれ1〜1000μsec範囲として放電、遮断を繰り返すことが望ましい。
(燃料電池車両)
本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施の形態に係る燃料電池スタック1を動力源とした燃料電池電気自動車50を挙げて説明する。
図9は、燃料電池スタック1を搭載した燃料電池電気自動車50の外観を示す図である。図9(a)は燃料電池電気自動車50の側面図、図9(b)は燃料電池電気自動車50の上面図である。図9(b)に示すように、車体51前方には、左右のフロントサイドメンバとフードリッジのほか、フロントサイドメンバを含む左右のフードリッジ同士を互いに連結するダッシュロア部材をそれぞれ組み合わせて溶接接合したエンジンコンパートメント部52を形成している。図9(a)及び(b)に示す燃料電池電気自動車50では、エンジンコンパートメント部52内に燃料電池スタック1を搭載している。
本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを適用した発電効率の高い燃料電池スタック1を自動車等の移動体車両に搭載することにより、燃料電池電気自動車50の燃費向上を図ることができる。また、小型化した軽量の燃料電池スタック1を車両に搭載することにより、車両重量を低減して省燃費化を図ることができ、走行距離の長距離化を図ることができる。さらに、小型化した燃料電池を動力源として移動体車両等に搭載することにより、車室内空間をより広く活用することができ、スタイリングの自由度を高めることができる。
なお、燃料電池車両の一例として電気自動車を挙げたが、本発明は電気自動車等の車両に限定されるものではなく、電気エネルギーが要求される航空機その他の機関にも適用することが可能である。
以下、本発明の実施の形態に係る遷移金属窒化物及び燃料電池用セパレータの実施例1〜実施例11及び比較例1〜比較例4について説明する。各実施例は、本発明に係る遷移金属窒化物及び燃料電池用セパレータの有効性を調べたもので、原材料に対して異なる条件下で処理して各試料を調製したものであり、例示した実施例に限定されるものではない。
<試料の調製>
各実施例及び比較例では、基材として、0.1mm厚さに冷間圧延後、1100℃にて光輝(真空)処理した、ステンレス鋼を用い、プレス成形を施して燃料又は酸化剤の流路部を形成し所定のセパレータ形状を得た。
このプレス成形により得られたセパレータを酸洗した後、真空焼鈍材の両面にパルス直流電流グロー放電によるプラズマ窒化処理を施した。プラズマ窒化処理の条件は、窒化温度は350〜500[℃]、窒化時間60[分]、窒化時のガス混合比N:H=7:3、処理圧力3[Torr](=399[Pa])とした。なお、比較例1の試料はプラズマ窒化処理を行わなかった。比較例2は、プラズマ窒化処理の代わりにガス窒化処理を行った。比較例3は、パルス直流プラズマ窒化処理の代わりに、μsecの単位でプラズマ状態をON、OFFするパルス電源を用いない直流プラズマ窒化を行った。
表1に、用いたステンレス鋼基層のCr,Ni,Mo量、プラズマ窒化有り無し、使用したプラズマ電源、窒化時の制御温度を示す。
得られた各試料を以下の方法を用いて評価した。
<基層のα組織、および窒化層中のCr窒化物の面積率の測定>
窒化層断面を走査型電子顕微鏡1000倍にて5視野観察し、画像処理装置を用いて、基層ではα組織の面積率を、窒化層中のCr窒化物の面積率を測定し、平均値を求めた。
<窒化層の観察・窒化層の結晶構造の同定>
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、試料を収束イオンビーム装置(FIB)日立製作所製FB2000Aを用い、FIB―μサンプリング法を用いてTEM観察用表面付近の薄膜試料を作製して、電界放射型透過電子顕微鏡(日立製作所製HF−2000)を用いて200KVによる電子線回折により同定した。
<接触抵抗値の測定>
上記実施例1〜実施例11及び比較例1〜比較例4で得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して接触抵抗を測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図10(a)に示すように、電極61とサンプル62との間にカーボンペーパ63を介在させて、図10(b)に示すように、電極61a/カーボンペーパ63a/サンプル62/カーボンペーパ63b/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。なお、接触抵抗値は、後述する耐食試験の前後で2回測定を行い、耐食試験後の接触抵抗値は、燃料電池スタック内で燃料電池用セパレータが曝される環境を模擬して、酸化環境下での耐食性を評価したものである。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。
<耐食性の評価>
燃料電池では、水素極側に比較して酸素極側に自然電位乃至は最大で1[VvsSHE]程度の電位がかかる。また、固体高分子電解質膜は、分子中にスルホン酸基等のプロトン交換基を有する高分子電解質膜を飽和に含水させてプロトン伝導性を利用するものであり、強酸性を示す。このため、耐食性の評価は、電気化学的な手法である自然電位環境での浸漬試験を用いて、一定時間保持後に溶液中に溶け出す金属イオン量を蛍光X線分析により測定し、金属イオン溶出量の値から耐食性の低下の度合いを評価した。
具体的には、まず、各試料の中央部を大きさ30[mm]×30[mm]に切り出したサンプルを準備し、準備したサンプルをpH4の硫酸水溶液中で、温度80[℃]、100[時間]浸漬した。その際の雰囲気を、アノード極環境を模擬してNガス脱気を、カソード極環境を模擬して大気開放状態とした。その後、硫酸水溶液中に溶け出したFe、Cr、Niのイオン溶出量を蛍光X線分析により測定した。
実施例1〜実施例11及び比較例1〜比較例4における窒化化合物層の結晶構造、浸漬試験前後の接触抵抗値、試験溶液中のFe、Ni、Crイオン溶出量の測定結果を表2、表3に各々示す。
表2〜表3に示すように、比較例1の試料には基層上に窒化層が形成されていない上、表面に厚い不動態皮膜が形成している。このため、アノード条件、カソード条件の浸漬試験において、試験前及び試験後の接触抵抗値は、高い値を示したままであった。イオン溶出については、表面に厚い不動態皮膜が形成しているためにアノード条件、カソード条件の浸漬試験において、Fe、Ni,Crイオンはほとんど溶出しない。
また、比較例2の試料では、ガス窒化処理を施したものであるため、大気圧での処理のため、窒化層表面に厚い酸化膜が形成し、酸素濃度が高く、窒素濃度の低い窒化物が形成するために、アノード条件、カソード条件の浸漬試験において、試験前及び試験後の接触抵抗値は、 高い値を示したままであった。イオン溶出については、表面に厚い不動態皮膜が形成しているためにアノード条件、カソード条件の浸漬試験において、Fe、Ni,Crイオンはほとんど溶出しない。
また、比較例3の試料では、γ相とα相から成る二相組織でない基材を用いてプラズマ窒化した場合、表面に露出した窒化物は、Feを主体とするMN型窒化物となるために、アノード条件の浸漬試験中にイオン溶出量が多量になり耐食性がやや悪化し、また、浸漬試験中に生成した酸化膜によって、試験後の接触抵抗値が比較的高い値を示すようになる。一方、カソード条件では、アノード条件に比較して溶液中の酸素分圧が高い状態であるため、Feを主体とするMN型窒化物表面に厚い酸化膜が形成して、アノード条件に比較してイオン溶出はし難いものの、接触抵抗値が増大する。
また、比較例4の試料では、パルスプラズマ窒化法でも350℃の低温としたために、60分処理では、表面の極薄い部分にFe主体のMN窒化物しか形成せず、その上、Cr窒化物の面積率が0.1%と低いために、試験前の接触抵抗値が比較的高い上、アノード条件の浸漬試験中にイオン溶出量がやや多く耐食性がやや悪化し、また、浸漬試験中に生成した酸化膜によって、試験後の接触抵抗値が比較的高い値を示すようになる。一方、カソード条件では、試験前の接触抵抗値が比較的高い上、アノード条件に比較して溶液中の酸素分圧が高い状態であるため、Fe主体のM4N窒化物の表面に厚い酸化膜が形成して、アノード条件に比較してイオン溶出はし難いものの、接触抵抗値がやや増大する。
これに対して、実施例1〜実施例11の各試料では、アノード条件、カソード条件浸漬試験後の接触抵抗値は低く、導電性に優れ、その上Fe,Ni、Crイオン溶出量は少ない。これは、基層としてα+γ二相ステンレス鋼を用い、窒化処理によって、γ相マトリクスにCrの濃化したα相が塊状に偏在する基層上に、窒化層が形成された構造物とし、この窒化層がMN型とM2−3N型から成るナノレベルの積層結晶構造を有する組織中に塊状のCrNの結晶構造を有するCr窒化物が混在している遷移金属窒化物からなる遷移金属窒化物とすることにより、整合性の良好な基層、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織及びCr窒化物の構成となっているため、導電性に優れるという特徴をもつ一方、最表面に突出したCr窒化物が良好な導電性を維持し、その上、燃料電池として通常使用されるpH2〜4の強酸性雰囲気においても化学的に安定であるため、耐食性にも優れていたものと考えられる。これにより、更なる燃料電池セパレータの小型化、ひいては燃料電池スタックの小型化が可能となり、また、従来のように、電極と接触する面に直接金メッキ層を施さなくても接触抵抗を抑えることができるため、低コスト化を実現することが可能となる。
また、実施例1〜実施例8は、プラズマ窒化中の基材温度が比較的低温の400〜450℃である。元々Crの濃化したフェライト相が窒化過程で窒化物を作る際は、オーステナイト組織へCrが拡散しながら窒素を取り込むが、プラズマ窒化中の基材温度を400〜450℃とした場合には、Crのオーステナイト組織への拡散が抑制されるため、よりCr濃度の高い窒化物が得られるようになる。
更に、実施例1〜実施例11は、酸洗処理を実施することにより、ガス流路部では、厚くて安定な不動態皮膜が形成されることで、酸素量も比較的多いために、燃料電池セパレータ環境のように、80〜90℃の高温かつ強酸性環境下においても、電子の移動が妨げられず、導電性が維持され、その上イオン溶出性に優れるようになる。
また、実施例9の試料では、プラズマ窒化法でもパルスプラズマ電源を用いずに直流電源を用いたために、一部にCr欠乏層が生じるようになり、実施例1〜8と比べるとアノード条件の浸漬試験中にイオン溶出量がやや多量になり耐食性がやや悪化し、また、浸漬試験中に生成した酸化膜によって、試験後の接触抵抗値が比較的高い値を示すようになる。一方、カソード条件では、アノード条件に比較して溶液中の酸素分圧が高い状態であるため、特にCr欠乏層付近の表面に厚い酸化膜が形成して、実施例1〜8と比べるとアノード条件に比較してイオン溶出はし難いものの、接触抵抗値がやや増大する。
また、実施例10の試料では、パルスプラズマ窒化法でも500℃の高温としたために、一部にCr欠乏層が生じるようになり、実施例1〜8と比べるとアノード条件の浸漬試験中にイオン溶出量がやや多量になり耐食性がやや悪化し、また、浸漬試験中に生成した酸化膜によって、試験後の接触抵抗値が比較的高い値を示すようになる。一方、カソード条件では、アノード条件に比較して溶液中の酸素分圧が高い状態であるため、特にCr欠乏層付近の表面に厚い酸化膜が形成して、実施例1〜8と比べるとアノード条件に比較してイオン溶出はし難いものの、接触抵抗値がやや増大する。
また、実施例11の試料では、α相が50%を越える基材を用いてプラズマ窒化した場合、成形性が悪化し、セパレータ部品にプレス成形する際にα相/γ相界面でクラックが発生し易くなり、実施例1〜8と比べるとアノード条件、の浸漬試験中にα相/γ相界面からのイオン溶出量が多量になり耐食性が悪化し、また、浸漬試験中に生成した酸化膜によって、試験後の接触抵抗値が高い値を示すようになる。一方、カソード条件では、アノード条件に比較して溶液中の酸素分圧が高い状態であるため、CrN窒化物表面に厚い酸化膜が形成して、実施例1〜8と比べるとアノード条件に比較してイオン溶出はし難いものの、接触抵抗値が増大する。
実施例2及び比較例3の接触抵抗値を対比して図11に示し、実施例2及び比較例3のFeイオン溶出量を対比して図12に示す。図11及び図12から、(α+γ)二相ステンレス鋼を基層とする実施例2は、γ単相ステンレス鋼を基層とする比較例3と対比すると、Feイオン溶出量が同等程度に抑制されていて、かつ、接触抵抗値が効果的に低減していることが明らかである。
実施例2により得られた燃料電池用セパレータの走査型オージェ電子分光分析結果を図13に、燃料電池用セパレータの平面部(同図(a))及び流路部(同図(b))のそれぞれについて示す。また、図14に、実施例2により得られたセパレータの断面写真(同図(a))及びその粒界のスケッチ図(同図(b))を示し、図15に、図14に示された実施例2の断面における元素マッピング図を示す。
図13(a)、(b)から、燃料電池用セパレータの平面部(同図(a))では、表面から5nm深さで、Fe、O濃度が高く、不動態皮膜が形成しており、また、流路部の底面(同図(b))では、10nm深さで、Fe、O濃度が高く、不動態皮膜が形成していることが分かる。
また、図14(a)、(b)及び図15から、実施例2の燃料電池用セパレータは、表面に窒化層11が形成されていること、この窒化層11中に、塊状のCr窒化物が混在していること、基層12はα+γの二相組織であり、α相はCrが濃化して圧延方向に延伸し、かつ分断された形状を有していることが分かる。
このように、実施例1〜実施例11で強酸性環境下における電気化学的安定性に優れ、導電性維持に優れる理由は、ガス拡散層(GDL)と接触する部位では、窒素拡散層中に塊状およびまたは球状のCrNの結晶構造を有するCr窒化物が偏在し、表面に突出しているため、導電性に優れる上、ガス流路部では、厚い安定な不動態皮膜が形成することで、燃料電池セパレータ環境のように、80〜90℃の高温かつ強酸性環境下においても、電子の移動が妨げられず、イオン溶出性に優れるようになる。
基材にMoが添加される場合、Moが窒化層表面に不動態皮膜を全面に薄く形成する効果があるために、金属イオンの溶出を抑え、かつ、導電性に優れたものになる。
なお、燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm2]で使用される。このため、電流密度が1[A/cm]の時には、セパレータとカーボンペーパと間の接触抵抗が20[mΩ・cm] 、つまり、図10(b)に示す装置での測定値が40[mΩ・cm] 以下であれば接触抵抗による効率低下が抑えられると考えられる。本実施例1〜実施例4では、いずれも接触抵抗値が30[mΩ・cm] 以下であるため、単位セル当りの起電力が高く、発電性能に優れ、小型化かつ低コスト化した燃料電池スタックを形成することが可能となる。
本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いて構成する燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。 本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いて構成する燃料電池スタックの展開図である。 燃料電池スタックを形成する単セルの構成を示す模式的な断面図である。 本発明の燃料電池セパレータの説明図である。 本発明の燃料電池用セパレータの結晶組織の模式的な断面図である。 燃料電池用セパレータへのプレス成形前の薄板圧延材に窒化処理を施した場合の金属組織写真である。 本発明の燃料電池用セパレータの製造工程図である。 本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法に用いる窒化装置の模式的断面図である。 本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを搭載した電気自動車の外観を示す図である。 接触抵抗の測定方法の説明図である。 アノード条件で浸漬試験した際の実施例と比較例の接触抵抗値を示すグラフである。 アノード条件で浸漬試験した際の実施例と比較例のFeイオン溶出量を示すグラフである。 燃料電池用セパレータの走査型オージェ電子分光分析による深さ方向の元素プロファイルを示すグラフである。 実施例の燃料電池用セパレータの金属組織写真である。 実施例の燃料電池用セパレータの金属組織写真である。
符号の説明
1 燃料電池スタック
2 膜電極接合体
3 燃料電池用セパレータ
4 単セル
5 エンドフランジ
6 締結ボルト
10 燃料電池用セパレータ
10a 表面
11 窒化層
12 基層
101 流路部
102 平板部
111 Cr窒化物
112 積層組織構造を有する結晶組織
121 α相
122 γ相

Claims (16)

  1. 二相ステンレス鋼の窒化物よりなり、当該二相ステンレス鋼の表面より深さ方向に形成される遷移金属窒化物であって、
    N型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織中に、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物が混在していることを特徴とする遷移金属窒化物。
  2. 前記Cr窒化物は、前記結晶組織中に塊状に混在していることを特徴とする請求項1に記載の遷移金属窒化物。
  3. 前記Cr窒化物の一部が、前記遷移金属窒化物の表面に突出して露出していることを特徴とする請求項2に記載の遷移金属窒化物。
  4. 遷移金属窒化物における前記Cr窒化物の面積率が、1〜30%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の遷移金属窒化物。
  5. 前記遷移金属窒化物の表面に、酸化皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の遷移金属窒化物。
  6. 請求項1〜5のいずれ1項に記載の遷移金属窒化物が、二相ステンレス鋼の表面より深さ方向に形成されてなることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
  7. 前記二相ステンレス鋼は、α相とγ相とからなり、このα相の面積率が1〜30%であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータ。
  8. 二相ステンレス鋼よりなる基材に窒化処理を施すことにより、二相ステンレス鋼の表面より深さ方向に、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織中に、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物が混在している遷移金属窒化物を形成することを特徴とする遷移金属窒化物の製造方法。
  9. 前記窒化処理が、400〜450℃で行うプラズマ窒化法であることを特徴とする請求項8に記載の遷移金属窒化物の製造方法。
  10. 前記プラズマ窒化法が、1〜1000[μsec]の周期でプラズマの放電及び遮断を繰り返すことが可能なパルスプラズマ電源を用いて行うことを特徴とする請求項9に記載の遷移金属窒化物の製造方法。
  11. 二相ステンレス鋼よりなる基材に溝状の流路部及びこの流路部に隣接する平板部を形成するプレス成形を行った後、窒化処理を施すことにより、二相ステンレス鋼の表面より深さ方向に、MN型とM2−3N型とのナノレベルの積層組織構造を有する結晶組織中に、CrN型の結晶構造を有するCr窒化物が混在している遷移金属窒化物を形成することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
  12. 前記窒化処理が、400〜450℃で行うプラズマ窒化法であることを特徴とする請求項11に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  13. 前記プラズマ窒化法が、1〜1000[μsec]の周期でプラズマの放電及び遮断を繰り返すことが可能なパルスプラズマ電源を用いて行うことを特徴とする請求項12に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  14. 窒化処理の後、酸洗処理を施すことを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  15. 請求項6又は7に記載の燃料電池用セパレータを用いたことを特徴とする燃料電池スタック。
  16. 請求項15に記載の燃料電池スタックを動力源として備えることを特徴とする燃料電池車両。
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