JP2008103136A - 燃料電池、燃料電池の製造方法及び燃料電池車両 - Google Patents

燃料電池、燃料電池の製造方法及び燃料電池車両 Download PDF

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Abstract

【課題】耐久性及び発電性能に優れ、かつコストの低い燃料電池を提供する。
【解決手段】水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9とを備える燃料電池であって、水素極セパレータ8は、MN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の層(水素極セパレータの第2の窒化層)16cと、MN型の結晶構造を含む水素極セパレータの第1の層(水素極セパレータの第1の窒化層)16bとを備え、酸素極セパレータ9は、MN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の層(酸素極セパレータの第2の窒化層)19cと、MN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含む酸素極セパレータの第1の層(酸素極セパレータの第1の窒化層)19bとを備える。
【選択図】図3

Description

この発明は、燃料電池、燃料電池の製造方法及び燃料電池車両に関する。
燃料電池は、反応ガスである水素含有ガス等の燃料ガスと、空気等の酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する装置である。化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換できるため、燃料電池の発電効率は火力発電などの他の発電システムに比べて高い。また、化石燃料を使用しないため資源の枯渇が問題とならず、発電に伴い排気ガスが生じない等の利点を有するため、燃料電池は地球環境保護の観点からも注目されている。
燃料電池は、使用される電解質の種類に応じて固体高分子電解質型、リン酸型、溶融炭酸塩型及び固体酸化物型等がある。そのうちの一つである固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質として分子中にプロトン交換基を有する固体高分子電解質膜を使用して、固体高分子電解質膜を飽和に含水させるとプロトン伝導性電解質として機能することを利用した電池である。固体高分子電解質型燃料電池は、比較的低温で作動し、発電効率も高いため、電気自動車搭載用を始めとする各種の用途が見込まれている。固体高分子電解質型燃料電池は、例えば、以下に示す電極反応を示す。
水素極側:H2 →2H+ +2e- ・・・式(1)
酸素極側:(1/2)O2+2H+ + 2e-→H2O ・・・式(2)
水素極には水素ガスが供給され、式(1)の反応が進行してプロトンが生成する。プロトンは水和状態で固体高分子電解質内を移動して酸素極に至り、酸素極ではこのプロトンと供給された酸化剤ガス中の酸素により式(2)の反応が進行する。式(1)及び式(2)の反応が各極で進行して、燃料電池は起電力を生じる。
このような固体高分子電解質型燃料電池の構成は、基本単位となる単セルを複数積層した燃料電池スタックを含むものである。各単セルは、ガス拡散層を有する水素極及び燃料極で固体高分子電解質膜を挟んだ膜電極接合体の両面に、それぞれ水素極側セパレータと燃料極側セパレータとを配置しており、各セパレータは単セル間の電流を接続すると共に、燃料と酸素とを隔離している。
燃料電池セパレータは各単セル間を電気的に接続する機能を有するため、電気伝導性が良く、かつガス拡散層等の構成材料との接触抵抗が低いことが要求される。また、固体高分子型電解質膜は、スルホン酸基を多数有する高分子から形成されており、湿潤状態においてスルホン酸基をプロトン交換として用いるため、プロトン伝導性を有する。固体高分子型電解質膜は強酸性であるため、燃料電池セパレータにはpH2〜3程度の硫酸酸性に対する耐食性が要求される。さらに、燃料電池に供給される各ガスの温度は80〜90[℃]と高温であり、また、水素極ではH+が生じるだけでなく、酸素や空気等が通過する酸素極は、標準水素極電位に対して0.6〜1[VvsSHE]程度の電位が負荷される酸化性環境下にある。このため、水素極及び燃料極と同様に、燃料電池セパレータには強酸性雰囲気下で耐え得る耐食性が要求される。なお、ここで要求される耐食性とは、燃料電池用セパレータが強酸性の酸化環境下においても電気伝導性能を維持できる耐久性を意味する。つまり、カチオンが加湿水又は式(2)の反応により生成した水に溶け出すことにより、カチオンが本来プロトンの通り道となるべきスルホン酸基と結合してスルホン酸基を占有し、電解質膜の発電特性を劣化させる環境で、耐食性を測定する必要がある。
そこで、燃料電池セパレータには、電気伝導性が良く耐食性に優れたステンレス鋼又は工業用純チタン等のチタン材を使用する試みがされている。ステンレス鋼は、その表面にクロムを主金属元素とした酸化物、水酸化物又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されているため耐食性に優れている。
しかし、上記した不動態皮膜は、通常ガス拡散層として用いられるカーボンペーパとの間で接触抵抗を生じる。燃料電池内の抵抗分極による過電圧は、定置型用途ではコージェネレーション等により排熱を回収できるため、トータルとしての熱効率が向上する。一方、自動車用用途では、接触抵抗に基づく発熱ロスは冷却水を通してラジエータから外部に捨てるしかないため、接触抵抗が大きくなると発電効率の低下に繋がる。また、発電効率低下は発熱が大きくなることと等価であり、より大きな冷却系を装備する必要性が生じるため、接触抵抗の増大は解決すべき重要な課題となっている。
燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm]で使用される。電流密度が1[A/cm]の場合には、セパレータとカーボンペーパ間の接触抵抗が40[mΩ・cm]以下であれば接触抵抗による効率低下がおさえられると考えられている。
そこで、ステンレス鋼をプレス成形した後、電極との接触面に直接金めっき層を形成した燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献1参照)。また、ステンレス鋼を成形して燃料電池セパレータの形状に加工した後、電極との接触により接触抵抗を生じる面の不動態皮膜を除去して、貴金属又は貴金属合金を付着させた燃料電池セパレータが提案されている(特許文献2参照)。
特開平10−228914号公報(第2頁、第2図) 特開2001−6713号公報(第2頁)
しかしながら、貴金属を燃料電池セパレータ表面にメッキ又はコーティングすると製造時に手間がかかるだけではなく、素材コストもかかる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る燃料電池は、水素極セパレータと酸素極セパレータとを有する燃料電池であって、水素極セパレータは、オーステナイト系ステンレス鋼からなる第1の基材によって形成された水素極セパレータの基層と、水素極セパレータの基層の上に形成され、MN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の層と、水素極セパレータの第2の層の上に形成され、MN型の結晶構造を含み、第1の基材の表面窒化処理部として第1の基材の表面から深さ方向に連続して形成された水素極セパレータの第1の層とを備え、酸素極セパレータは、オーステナイト系ステンレス鋼からなる第2の基材によって形成された酸素極セパレータの基層と、酸素極セパレータの基層の上に形成され、MN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の層と、酸素極セパレータの第2の層の上に形成され、MN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含み、第2の基材の表面窒化処理部として第2の基材の表面から深さ方向に連続して形成され酸素極セパレータの第1の層とを備えていることを特徴とする。
本発明に係る燃料電池の製造方法は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる第1の基材の表面をプラズマ窒化して第1の基材の表面から深さ方向にMN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の層を形成する段階と、水素極セパレータの第2の層の上に、第1の基材の表面から深さ方向にMN型の結晶構造を含む連続した水素極セパレータの第1の層を形成する段階と、オーステナイト系ステンレス鋼からなる第2の基材の表面をプラズマ窒化して第2の基材の表面から深さ方向にMN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の層を形成する段階と、酸素極セパレータの第2の層の上に、第2の基材の表面から深さ方向にMN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含む連続した酸素極セパレータの第1の層を形成する段階とを含むことを特徴とする。
本発明に係る燃料電池車両は、本発明に係る燃料電池を動力源として備えることを特徴とする。
本発明によれば、耐久性及び発電性能に優れ、かつコストの低い燃料電池を提供することができる。
本発明によれば、高性能の燃料電池の製造が容易になり、製造コストを低く抑えることができる。
本発明によれば、耐久性に優れた燃料電池車両を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池、燃料電池の製造方法及び燃料電池車両について、固体高分子型燃料電池に適用した例を挙げて説明する。
(燃料電池)
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池を構成する燃料電池スタック1の外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。図3は、燃料電池スタック1を構成する単セル2の両側に水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9を配置した構成を示す要部をわかりやすく強調した断面図である。図4(a)は、水素極セパレータ8の要部の拡大図、図4(b)は、水素極セパレータ8のIVb-IVb線断面図、図4(c)は、水素極セパレータ8のIVc-IVc線断面図である。図5(a)は、酸素極セパレータ9の要部の拡大図、図5(b)は、酸素極セパレータ9のVb-Vb線断面図、図5(c)は、酸素極セパレータ9のVc-Vc線断面図、図5(d)は、酸素極セパレータ9の第1の窒化層19bの模式的断面図である。
燃料電池は、燃料電池スタック1と、ユーティリティ系と、外部端子を含む。図2に示すように、燃料電池スタック1は、電気化学反応により発電を行う基本単位となる後述する固体高分子型電解質膜3の両側に、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9とを張り合わせて一体化した一組の単セル2を複数個積層して構成される。図3に示すように、単セル2は、固体高分子型電解質膜3の一方の面に水素極4、他方の面に酸素極5が接合されている。水素極4及び酸素極5は、それぞれ白金触媒担持カーボンの触媒層6と、この触媒層6の外側に配置されたガス拡散層7とから構成される。水素極4の外側には水素極セパレータ8が配置され、酸素極5の外側には酸素極セパレータ9が配置されている。固体高分子型電解質膜3としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(ナフィオン1128(登録商標)、デュポン株式会社)等を使用することができる。単セル2とセパレータ10とを積層した後、両端部にエンドフランジ11を配置して、外周部を締結ボルト12により締結して燃料電池スタック1を構成する。また、燃料電池スタック1には、各単セル2に水素ガス等の水素を含有する燃料ガスを供給するための水素供給ラインと、酸化剤ガスとして空気を供給する空気供給ラインと、冷却水を供給する冷却水供給ラインが設けられている。
図3に示した水素極セパレータ8の模式図を図4に示す。図4(a)に示すように、水素極セパレータ8は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる基材15の表面15aを窒化することにより得られ、基材15の表面15aの深さ方向に連続して形成されている窒化層16と、窒化されていない未窒化層である基層17からなる。水素極セパレータ8には、プレス成形により断面矩形状の燃料の流路13が形成されている。流路13と流路13との間には、流路13と流路13で画成された平板部14を備え、通路13及び平板部14の外面に沿って窒化層16が延在する。平板部14は、水素極セパレータ8と単セル2とを交互に積層した際に隣接するガス拡散層7に接触し、ガス拡散層7との間に燃料ガスの流路13を画成する。窒化層16は、基材15をプラズマ窒化することにより得られ、基層17の上に形成され、後述するMN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の窒化層(水素極セパレータの第2の層)16cと、水素極セパレータの第2の窒化層16cの上に連続して形成され、MN型の結晶構造を含む水素極セパレータの第1の窒化層(水素極セパレータの第1の層)16bとを備える。窒化層16の表面部16aは、プラズマ窒化により基材15の表面15aに窒素が固溶したものである。
次に、図3に示した酸素極セパレータ9の模式図を図5に示す。図5(a)に示すように、酸素極セパレータ9は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる基材18の表面18aを窒化することにより得られ、基材18の表面18aの深さ方向に連続して形成されている窒化層19と、窒化されていない未窒化層である基層20からなる。酸素極セパレータ9には、プレス成形により断面矩形状の燃料の流路21が形成されている。流路21と流路21との間には、流路21と流路21で画成された平板部22を備え、流路21及び平板部22の外面に沿って窒化層19が延在する。平板部22は、酸素極セパレータ9と単セル2とを交互に積層した際に隣接するガス拡散層7に接触し、ガス拡散層7との間に燃料ガスの流路21を画成する。窒化層19は、基材18をプラズマ窒化することにより得られ、基層20の上に形成され、後述するMN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の窒化層(酸素極セパレータの第2の層)19cと、酸素極セパレータの第2の窒化層19cの上に連続して形成され、MN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含む酸素極セパレータの第1の窒化層(酸素極セパレータの第1の層)19bとを備える。窒化層19の表面部19aは、プラズマ窒化により基材18の表面18aに窒素が固溶したものである。
燃料電池用セパレータの基材として、オーステナイト系ステンレス鋼を用いることで、基材組織はオーステナイト単相になるために窒素固溶量を大きくすることができ、プラズマ窒化によって高濃度の窒素を含有したMN型結晶構造を有する遷移金属窒化物の窒化層16、19を形成し易くなる。図6(a)にMN型結晶構造23を示す。MN型結晶構造23は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置された構造である。このMN型結晶構造23において、Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子24を表し、Nは窒素原子25を表し、窒素原子25はMN型結晶構造23の単位胞中心の八面体空隙の1/4を占有する。すなわち、MN型結晶構造23は、遷移金属原子24の面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子25が侵入した侵入型固溶体であり、立方晶の空間格子で表すと、窒素原子25は各単位胞の格子座標(1/2,1/2,1/2)に位置する。
このMN型の結晶構造23では、Feに対するCr原子比が高い場合には、窒化層中に含まれる窒素が窒化層中のCrと結びついてCrNなどのCr系窒化物、すなわちNaCl型の窒化化合物が主成分となり、窒化層の耐食性は低下する。このため、遷移金属原子24はFeを主体とすることが好ましい。この結晶構造では、高密度の転位や双晶を伴い、硬さも1000[HV]以上と高く、窒素が過飽和に固溶したfccまたはfct構造の窒化物であると考えられている(安丸、蒲池;日本金属学会誌,50,pp362−368,1986)。そして、表面に近いほど窒素濃度が高いことや、CrNが主成分とならないため、耐食性に有効なCrが減少せずに窒化後も耐食性が保たれる。このように、窒化層16、19がMN型結晶構造23を有する場合には、燃料電池として通常使用されるpH2〜3の強酸性雰囲気においても水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9からの金属イオンの溶出が低く、化学的に安定であるため耐食性に優れ、かつガス拡散層7との間の接触抵抗を低く抑えることが可能となる。このため、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池が得られる。
窒化層16、19におけるMN型結晶構造23を形成するFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子は、不規則に混合されていることが好ましい。各遷移金属原子が不規則に混合されることにより、各遷移金属成分の部分モル自由エネルギが低下するため、各遷移金属原子の活量を低く抑えることができる。これに伴い、窒化層16、19中の各遷移金属原子の、酸化に対する反応性を低くすることができる。そして、燃料電池内の強酸性環境下においても窒化層16、19は化学的安定性を有する。このため、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9と、電極との間の接触抵抗を低く維持でき、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9の耐久性を高めることができる。また、電極との接触面となる水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9上に、金めっき等により貴金属めっき層を形成することなく低接触抵抗を維持できるため、低コスト化を実現することができる。
また、面心立方格子を形成するFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子は、不規則に混合することにより、混合エントロピが増大して各遷移金属成分の部分モル自由エネルギが低下しているか、又は、各遷移金属原子の活量がラウールの法則により推定される値より低くなっていることが好ましい。これにより、更にまた、各金属元素の酸化に対する反応性を低下させることができ、化学的安定性が向上する。
また、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9では、MN型の結晶構造23の結晶構造を含む窒化層16、19を設けている構成としたため、窒化層16、19中の遷移金属原子が窒素原子との間で共有性に富んだ結合を形成していることに加え、金属原子間には金属結合が形成されているため、電気伝導性に優れたセパレータ8、9を得ることができる。
これに加え、水素極セパレータ8は、基層17に隣接してMN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の窒化層16c、水素極セパレータの第2の窒化層16cに隣接してMN型(Mは、Cr、Fe、Ni、Moの群から選択される遷移金属原子)の結晶構造を有する水素極セパレータの第1の窒化層16bとの二層の窒化層が、基層17と窒化層16の最表面である表面部16aとを隔てて形成し、水素極セパレータの第1の窒化層16bが連続的に設けられたものであるため、強酸性の酸化環境下においても金属イオンの溶出がさらに低く抑えられ、特に耐食性に優れたものになる。
また、酸素極セパレータ9は、基層20に隣接してMN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の窒化層19c、酸素極セパレータの第2の窒化層19cに隣接してMN型、M2〜3N型、MN型(Mは、Cr、Fe、Ni、Moの群から選択される遷移金属原子)から選択される結晶構造を有する酸素極セパレータの第1の窒化層19bが設けられたものであるため、空気を導入する酸素極5に接するような強酸性雰囲気下においても電気伝導性能を維持する耐久性に優れ、特に導電性に優れるようになる。
燃料電池において、水素極側では金属イオン溶出の増大が問題となり、酸素極側では接触抵抗の増大が問題となっている。本発明の実施形態に係る燃料電池では、水素極セパレータ8の窒化層16と酸素極セパレータ9の窒化層19を異なる組成とすることにより、水素極側では強酸性の酸化環境下においても金属イオンの溶出を低く抑えて耐食性に優れたものになり、酸素極側では強酸性雰囲気下においても電気伝導性能を維持する耐久性に優れ、特に導電性に優れるようになる。このため、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池が得られる。また、窒化層16、19は、プラズマ窒化という簡単な工程により得られるため、コストの低い燃料電池が得られる。
水素極セパレータ8、酸素極セパレータ9の基材として、オーステナイト系ステンレス鋼を用いる。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS310S、SUS316L、SUS317L等が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼を選択する理由としては、次の理由があげられる。オーステナイト系ステンレス鋼を基材として燃料電池用セパレータとして用いる場合には、基材に酸素ガス流路、水素ガス流路及び冷却水流路などの凹凸をプレス成形する必要がある。その際、プレス成形する基材組織がオーステナイト単相の場合、伸び、絞り性に優れ、プレス成形性に優れる。これに対し、フェライト系もしくはマルテンサイト系ステンレス鋼を基材として用いた場合には、伸び、絞り性が劣り、プレス成形性が劣るようになる。
水素極セパレータ8において、水素極セパレータの第1の窒化層16bに含まれるFeに対するCrの原子比が、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び基層17に含まれるFeに対するCrの原子比よりも大きく、かつ、水素極セパレータの第1の窒化層16bにおいて、Crが全体に分布することが好ましい。水素極セパレータの第1の窒化層16bに含まれるFeに対するCrの原子比が、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び基層17に含まれるFeに対するCrの原子比よりも大きい場合には、不動態皮膜中にCrの濃縮が生じ、それによって不動態皮膜が薄くなる。このため、不動態電位が貴側へシフトするようになり、耐食性が向上するという効果が得られる。また、水素極セパレータの第1の窒化層16bに含まれるFeに対するCrの原子比が、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び基層17に含まれるFeに対するCrの原子比よりも大きいため、水素極セパレータの第1の窒化層16bの最表面の全面を覆うように不動態皮膜が形成し易くなり、耐食性に優れた水素極セパレータ8が得られる。
水素極セパレータの第1の窒化層16bにおいて、Crが全体に分布し、Crの欠乏層がないことが好ましい。すなわち、水素極セパレータの第1の窒化層16bでは、CrNを有する窒化化合物の単相が形成されていることがより好ましい。CrN自体は、高い耐食性を示すことが知られているが、窒化処理などによりCrNを析出した場合、基層17のCr濃度が低下してCr欠乏層が生じるため、このCr欠乏層が耐食性を悪化させる。また、CrN層をコーティングなどにより基層17上に被覆しようとすると密着強度が十分とはならず、また、皮膜中に欠陥が生じやすく、その欠陥が耐食性を悪化させる。これに対し、窒化処理、特にプラズマ窒化により、窒化層16の最表面である表面部16aに1〜20[nm]の極薄いCrN層を形成することで、基層17のCr濃度が低下してCr欠乏層を形成することなく、水素極セパレータの第2の窒化層16cと水素極セパレータの第1の窒化層16b、及び水素極セパレータの第2の窒化層16cと基層17とは整合性が高くなる。このため、窒化層16との境界においてすべり線などの欠陥が無く、金属結合が切れることがなくなり、各層間における密着強度も確保されるという利点がある。
水素極セパレータの第1の窒化層16bは、厚さが20[nm]以下であることが好ましい。この場合には、酸化性環境下での耐食性に優れる。水素極セパレータの第1の窒化層16bが形成していない場合には、最表面が水素極セパレータの第2の窒化層16cとなるため、不動態皮膜中のFeの比率が高くなり、Crの濃縮が生じ難なるため、耐食性が悪化する。一方、水素極セパレータの第1の窒化層16bの厚さが20[nm]を超えると、水素極セパレータの第1の窒化層16bの厚さが増大して水素極セパレータの第2の窒化層16c、及び基層17のCr濃度が低下してCr欠乏層が生じるため、このCr欠乏層により耐食性が劣る。
水素極セパレータの第1の窒化層16bは、MN型の結晶構造を有する窒化化合物の単層が形成されていることが好ましい。ここで、Mは、Cr、Fe、Ni及びMoの群から選択される遷移金属元素である。水素極セパレータの第1の窒化層16bがMN型の結晶構造を有する窒化化合物の単相が形成されている場合には、不動態皮膜中にCrの濃縮が生じる。このため、不動態電位が貴側へシフトするようになり、pH2〜3の強酸性雰囲気における耐食性が向上するという効果が得られる。
図5(d)に示すように、酸素極セパレータ9において、酸素極セパレータの第1の窒化層19bの表面部19aには、表面部19aから突出した析出物19a、19a、19aが不規則に突出している。析出物19aは、表面部19aから最大で高さh1だけ突出している。析出物19aは、表面部19aから最大で高さh2だけ突出している。析出物19aは、窒化層19の表面部19aから最大で高さh3だけ突出している。酸素極セパレータの第1の窒化層19bの表面部19aに対する析出物19a、19a、19aの最大の高さh1、h2、h3は、10〜400[nm]の範囲にある。析出物19a、19a、19aは、後述するように、MN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含む。Mは、Cr、Fe、Ni及びMoの群から選択される遷移金属元素を示す。
MN型、M2〜3N型、MN型の窒化化合物は、fccもしくはfcp結晶構造に窒素が侵入した窒化化合物であり、金属結合と共有結合からなるため導電性に優れるものである。一方、ガス拡散層7と接触する酸素極セパレータ9の表面部19aを最大高低差(Dmax)、つまり、酸素極セパレータの第1の窒化層19bの表面部19aに対する析出物19a、19a、19aの高さが400[nm]以下の突起状を有する構造とすることで、酸化性環境下でのガス拡散層7との間の接触面が微小な点接触になるため、接触面に酸化膜が形成されにくく、電子の受け渡しが容易になる。このため、導電性に優れ、かつ接触抵抗値を低く維持することができる。また、ガス拡散層7を含む酸素極5との接触面となる酸素極セパレータ9上に、金めっき等により貴金属めっき層を形成することなく低接触抵抗を維持できるため、低コスト化を実現することができる。最大高低差が10[nm]を下回るようになる場合には、ガス拡散層7との間の接触面が微小な点ではなく面で接触するようになり、接触面積が増えるため、ガス拡散層7との間の接触面で酸化膜が形成され易くなる。酸化膜が形成されると、電子の受け渡しが継続が難しくなる。析出物19a、19a、19aの最大高低差が400[nm]を超えるようになる場合には、MN型の結晶構造を呈するCrNなどのCr系窒化物になる、すなわち表面部19aの突起状の析出物19a、19a、19a中にCrが濃縮されて酸素極セパレータの第1の窒化層19bはNaCl型の窒化物が主成分となる。この結果、表面部19aの突起状の析出物19a、19a、19aの表面は、pH2〜3の強酸性雰囲気においてCr系の酸化膜が安定して形成され易くなるために、電子の受け渡しの継続が難しく、接触抵抗値が増大するようになる。
水素極セパレータの第2の窒化層16c及び酸素極セパレータの第2の窒化層19cは、M2〜3N型の結晶構造とMN型の結晶構造とが積層された複合組織を有することを好ましい。M2〜3N型の結晶構造(ε相)の複合組織を有する場合には、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び酸素極セパレータの第2の窒化層19c中に含まれる遷移金属原子は、遷移金属原子間の金属結合を維持したまま、遷移金属原子と窒素原子との間で強い共有結合性を示すこととなる。このため、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び酸素極セパレータの第2の窒化層19cと、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び酸素極セパレータの第2の窒化層19cの上に形成された水素極セパレータの第1の窒化層16b及び酸素極セパレータの第1の窒化層19bとの接合性を有し、水素極セパレータの第1の窒化層16b及び酸素極セパレータの第1の窒化層19bが剥がれ難くなる。
図6(b)に、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び酸素極セパレータの第2の窒化層19cに含まれるM2〜3N型の六方晶結晶構造26を示す。図6(b)に示すように、M2〜3N型の六方晶の結晶構造26は、遷移金属原子27と窒素原子28とからなり、MN型の結晶構造23よりも窒素濃度が高い。このため、M2〜3N型の六方晶結晶構造26を有する窒化層は、MN型の結晶構造23のみを有する単相の窒化層と比べて更に多くの窒素を含み、窒化層中の窒素原子の濃度が高くなる。そして、各遷移金属原子の活量はさらに低下するため、窒化層中の各遷移金属原子の酸化に対する反応性が低下する。このため、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び酸素極セパレータの第2の窒化層19cは燃料電池の酸化性環境下においても化学的に安定であり、燃料電池に用いるセパレータとして必要な導電性と、燃料電池の使用環境下における導電性の機能を維持する化学的安定性及び耐食性を兼ね備えた窒化層が得られる。また、窒化層中の遷移金属原子と窒素原子との共有結合性を強めて遷移金属原子の酸化に対する反応性を低下させて化学的に安定化させることで、導電性の機能の維持及び耐食性をより向上させることが可能となる。
水素極セパレータの第2の窒化層16c及び酸素極セパレータの第2の窒化層19cは、MN型の結晶構造23のマトリクスと、マトリクス中に形成されたM2〜3N型の結晶構造26とを含む複合組織であり、M2〜3N型の結晶構造26を層間距離が数10〜数100[nm]の範囲で有することが好ましい。MN型の結晶構造23のマトリクスにM2〜3N型の結晶構造26を含む複合組織とすることで、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び酸素極セパレータの第2の窒化層19cの化学的安定性が確保される。また、水素極セパレータの第2の窒化層16c及び酸素極セパレータの第2の窒化層19cが、数10〜数100[nm]の範囲で層間距離を有する場合には、ナノレベルの微細な層状組織が2相平衡することにより自由エネルギーが低下して活量を低く抑え、酸化に対する反応性が低くなり、化学的安定性を有するようになる。このため、特に強酸性雰囲気において酸化を抑制するようになる。
このように、上記した構成を採用したことにより、本発明の実施の形態に係る燃料電池によれば、耐久性及び発電性能に優れ、かつコストの低い燃料電池を実現することが可能となる。
(燃料電池の製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法について説明する。本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる基材(第1の基材)の表面をプラズマ窒化して基材の表面から深さ方向にMN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の窒化層(水素極セパレータの第2の層)を形成する段階と、水素極セパレータの第2の窒化層の上に、基材の表面から深さ方向にMN型の結晶構造を含む連続した水素極セパレータの第1の窒化層(水素極セパレータの第1の層)を形成する段階と、オーステナイト系ステンレス鋼からなる基材(第2の基材)の表面をプラズマ窒化して基材の表面から深さ方向にMN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の窒化層(酸素極セパレータの第2の層)を形成する段階と、酸素極セパレータの第2の窒化層の上に、基材の表面から深さ方向にMN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含む連続した酸素極セパレータの第1の窒化層(酸素極セパレータの第1の層)を形成する段階とを含むことを特徴とする。この方法により、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9とを備える燃料電池であって、水素極セパレータ8は、MN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の窒化層16cと、MN型の結晶構造を含む水素極セパレータの第1の窒化層16bとを備え、酸素極セパレータ9は、MN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の窒化層16cと、MN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含む酸素極セパレータの第1の窒化層19bとを備える燃料電池が容易に得られる。
プラズマ窒化は、被処理物(ここではステンレス鋼箔)を陰極とし、直流電圧を印加してグロー放電、即ち、低温非平衡プラズマを発生させて、ガス成分の一部をイオン化し、非平衡プラズマ中のイオン化したガス成分を被処理物の表面に高速衝突させて窒化する方法である。図7は、本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法に用いる窒化装置30の模式的側面図である。
窒化装置30は、バッチ式の窒化炉31と、窒化炉31に設置された真空式窒化処理容器31aを排気して真空圧にする真空ポンプ34と、真空式窒化処理容器31aに雰囲気ガスを供給するガス供給装置32と、真空式窒化処理容器31a内でプラズマを発生させるため高電圧にチャージされるプラズマ電極33a、33b及びこれらの電極33a、33bに周波数45[KHz]の高周波にパルス化された直流電圧を供給するパルスプラズマ電源33と、真空式窒化処理容器31a内の温度を検知する温度検出計37とを備える。窒化炉31は、上記真空式窒化処理容器31aを収容する断熱性の絶縁材からなる外側容器31bを備え、プラズマ観察窓31gを備える。真空式窒化処理容器31aは、その底部31cに、プラズマ電極33a、33bを高電位に保持するための絶縁体35を備える。プラズマ電極33a、33bは、その上にステンレス製の支架36が設けられている。この支架36は、プレス成形により燃料又は酸化剤の流路が形成され、セパレータの形状に加工したステンレス鋼箔44(以下、しばしば基材とも呼ぶ。)を支持する。ガス供給装置32は、ガス室38とガス供給管路39とを備え、ガス室38は所定数のガス導入用の開口(不図示)を有し、この開口は、それぞれガス供給弁(不図示)を備える水素ガス供給ライン(不図示)、窒素ガス供給ライン(不図示)、アルゴンガス供給ライン(不図示)に連通する。ガス供給装置32は、更に、ガス供給管路39の一端39aと連通するガス供給用の開口32aを有し、この開口32aにはガス供給弁(不図示)が設けられている。ガス供給管路39は、窒化炉31の外側容器31bの底部31dと真空式窒化処理容器31aの底部31cとを気密に貫通して真空式窒化処理容器31a内に延入し、垂直に立ち上がる立ち上がり部39bに至る。この立ち上がり部39bは、真空式窒化処理容器31a内にガスを噴出するための複数の開口39cが設けられている。真空式窒化処理容器31a内のガス圧は、真空式窒化処理容器31aの底部31cに設けられたガス圧センサ(不図示)により検知される。真空式窒化処理容器31aは、その外周に抵抗加熱式若しくは誘導加熱式のヒータ39の導電線39aが巻回され、これにより加熱される。真空式窒化処理容器31aと外側容器31bとの間には空気流路40が画成される。外側容器31bの側壁31eには、外側容器31bの側壁31eに設けられた開口31fから空気流路40に流入した空気を送る送風機41が設けられている。空気流路40は空気が流出する開口40aを備える。真空ポンプ34は、真空式窒化処理容器31aの底部31cに設けられた開口31hと連通する排気管路45を介して排気を行う。温度検出計37は、真空式窒化処理容器31aと外側容器31bの底部31c、31d及びプラズマ電極33a、33bを貫通して信号線路37aを介して温度センサ37b(例えば熱伝対)に接続される。
パルスプラズマ電源33はプロセス制御装置42から制御信号を受け、オン、オフされる。各ステンレス鋼箔44は、アース側(例えば、真空式窒化処理容器31aの内壁31i。)に対し、パルスプラズマ電源33から供給される電圧分の電位差を有する。ガス供給装置32、真空ポンプ34、温度検出計37及びガス圧センサもプロセス制御装置42によって制御され、このプロセス制御装置42は、パーソナルコンピュータ43により操作される。
本発明の実施の形態で用いたプラズマ窒化法についてより詳細に説明する。まず、窒化炉31内に被処理物であるステンレス鋼箔44を配置し、1[Torr](=133[Pa])以下の真空に炉内を排気する。次に、窒化炉31内に水素ガスとアルゴンガスの混合ガスを導入した後、数[Torr]〜十数[Torr](665[Pa]〜2128[Pa])の真空度で、ステンレス鋼箔44を陰極、真空式窒化処理容器31aの内壁31iを陽極として、電圧を印加する。この場合、陰極であるステンレス鋼箔44上にグロー放電が発生し、このグロー放電によりステンレス鋼箔44を加熱及び窒化する。
本発明の実施の形態に係る燃料電池に用いるセパレータの製造方法として、第一の工程として、ステンレス鋼箔からなる基材44表面の不導態皮膜を除去するスパッタークリーニングを実施する。このスパッタークリーニングの際、導入ガスがイオン化した水素イオン、アルゴンイオンなどが試料表面に衝突することで、ステンレス鋼箔44表面のCrを主体とした酸化皮膜を除去することができる。
第2の工程として、スパッタークリーニングの後、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを真空式窒化処理容器31a内に導入し、電圧を印加して陰極である基材44上にグロー放電を発生させる。この際、イオン化した窒素が基材44表面に衝突、侵入及び拡散することにより、基材44表面にMN型結晶構造を有する連続した窒化層が形成される。窒化層の形成と同時に、イオン化した水素と基材表面の酸素が反応する還元反応により、基材表面に形成された酸化膜が除去される。
なお、このプラズマ窒化法では、基材44表面での反応は平衡反応ではなく非平衡反応であり、その上、320[℃]以上450[℃]以下の温度で処理した場合に、基材44表面から深さ方向に高窒素濃度のMN型結晶構造を含む遷移金属窒化物が迅速に得られ、この窒化物は導電性と耐食性に富む。
これに対し、大気圧でかつ平衡反応により窒化が進行する窒化法、例えば、ガス窒化法などを用いた場合、基材表面の不導態皮膜を除去するのが難しく、かつ平衡反応のため、基材表面に、MN型結晶構造を得るようにするには長時間を要し、かつ、所望の窒素濃度が得られ難くなる。このため、基材表面に酸化皮膜が存在するため導電性が悪化し、化学的安定性に欠けるため、この窒化法により得られた窒化物及び窒化層では強酸性雰囲気での導電性維持が困難となる。
本発明の実施の形態では、電源としてパルスプラズマ電源を用いることが好ましい。プラズマ窒化法に用いる電源としては、直流電圧を印加し、この放電電流を電流検出器により検出し、所定の電流となるようサイリスタにより制御する直流波形を有する直流電源を用いるのが一般的である。この場合、グロー放電は連続的に継続され、基材温度を放射温度計により測定すると、基材温度は±30[℃]程度の範囲で変化する。これに対し、パルスプラズマ電源は、直流電圧とサイリスタによる高周波遮断回路から構成されており、この回路により直流電源波形は、グロー放電がオンとオフを繰り返すパルス波形となる。この場合、プラズマを放電させる時間とプラズマを遮断する時間を1〜1000[μsec]として放電、遮断を繰り返すパルスプラズマ電源を用いたプラズマ窒化を行うことで、基材温度を放射温度計により測定すると、基材温度の変化は±5[℃]程度の範囲になる。高窒素濃度を有する遷移金属窒化物を得るためには、基材温度の精密温度制御が要求されることから、基材温度の変化の小さいパルスプラズマ電源を用い、この電源は、1〜1000[μsec]の周期でプラズマの放電及び遮断を繰り返すことが可能であることが好ましい。
さらに、窒化処理を基材表面の温度を320[℃]以上450[℃]以下の温度に保持して行うことが好ましい。320[℃]以上410[℃]未満の温度でプラズマ窒化すると、図4に示すように、基材15の表面15aにMN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の窒化層16cと、水素極セパレータの第2の窒化層16cの上に連続して形成され、厚さ20[nm]以下のナノレベルの層状のMN型の結晶構造を含む水素極セパレータの第1の窒化層16bが形成されるようになるため、特に金属イオン溶出性に優れた窒化層16を有する水素極セパレータ8が得られる。また、410[℃]以上450[℃]以下の温度でプラズマ窒化すると、図5に示すように、基材18の表面18aにMN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の窒化層19c、酸素極セパレータの第2の窒化層19cに隣接して形成され、表面部19aに対する高さが10〜400[nm]の範囲にある表面部19aから突出したMN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含む析出物19a、19a、19aを有する酸素極セパレータの第1の窒化層19bが形成されるようになるため、特に、導電性に優れた窒化層19を有する酸素極セパレータ9が得られる。
なお、窒化温度が320[℃]を下回る場合には、上記結晶構造を有する窒化層を得るためには長時間の処理を必要とするために生産性が悪化する。また、窒化温度が450[℃]を上回る場合には、上記した析出物中にCrが濃縮されてNaCl型の窒化物が主成分となる。この結果、析出物の表面にpH2〜3の強酸性雰囲気においてCr系の酸化膜が安定して形成し易くなるために、電子の受け渡しが継続が難しく接触抵抗値が増大するようになる。
このように、本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法によれば、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池のセパレータをプラズマ窒化により容易に得られるため、高性能の燃料電池の製造が容易になり、製造コストを低く抑えることができる。なお、基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路を形成した後に窒化した場合には、窒化層にクラックなどの欠陥が生じない。
(燃料電池車両)
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施の形態に係る燃料電池を動力源とした燃料電池電気自動車を挙げて説明する。図8は、燃料電池スタック1を搭載した燃料電池電気自動車の外観を示す図である。図8(a)は燃料電池電気自動車50の側面図、図8(b)は燃料電池電気自動車50の上面図である。図8(b)に示すように、車体51前方には、左右のフロントサイドメンバとフードリッジのほか、フロントサイドメンバを含む左右のフードリッジ同士を互いに連結するダッシュロア部材をそれぞれ組み合わせて溶接接合したエンジンコンパートメント部52を形成している。図8(a)及び(b)に示す燃料電池電気自動車50では、エンジンコンパートメント部52内に燃料電池スタック1を搭載している。
本発明の実施の形態に係る、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池を自動車等の移動体車両に搭載することにより、耐久性に優れた燃料電池車両を提供することができる。
なお、燃料電池車両の一例として電気自動車を挙げたが、本発明は電気自動車等の車両に限定されるものではなく、電気エネルギが要求される航空機その他の機関にも適用することが可能である。
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4について説明する。これらの実施例は、本発明の有効性を調べたもので、異なる原料に対して異なる条件下で処理して各試料を調製したものであり、例示した実施例に限定されるものではない。
<試料の調製>
各実施例及び比較例では、基材として、□100×100[mm]板、JIS規格のSUS304L、SUS316L、SUS317L,SUS317J1,SUS317J2、SUS310Sを原材料とした厚さ0.1[mm]の真空焼鈍材を用いた。この基材をプレス成形して燃料又は酸化剤の通路を形成しセパレータとした。プレス成形により得られたセパレータを酸洗した後、両面にパルスプラズマ電源を用いて直流電流グロー放電によるプラズマ窒化を施した。プラズマ窒化の条件は、窒化温度は300〜470[℃]、窒化時間60[分]、窒化時のガス混合比N:H=7:3、処理圧力3[Torr](=399[Pa])とした。なお、比較例1の試料はプラズマ窒化を行わなかった。表1に、基材の鋼種、基材の化学組成及び窒化温度を示す。
得られた各試料を以下の方法を用いて評価した。
<窒化層の観察>
透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の試料とするために、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例3で得られた窒化層の表面付近の薄膜試料を作製した。作製には装置として収束イオンビーム装置(FIB)日立製作所製FB2000Aを用い、FIB−μサンプリング法を用いて試料を作製した。この試料を、電界放射型透過電子顕微鏡(日立製作所製HF−2000)を用いて200[kV]にて観察した。
<窒化層厚さおよび最大高さの測定、窒化層の結晶構造の同定、Feに対するCr比の測定>
試料表層を収束イオンビーム装置(FIB)を用いて薄膜試料を作製した後、電界放射型透過型電子顕微鏡を用い、倍率20万倍にて観察を行った。また、窒化層の結晶構造の同定は、加速電圧200[kV]によるEDS分析装置、μ―ディフラクション電子線回折により解析を行った。また、Feに対するCr比の測定は、加速電圧200[kV]によるEDS分析装置、μ―ディフラクション電子線回折のピーク強度比から求めた。
<発電試験>
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4で得られたセパレータを用いて、電極構造体(MEA)の両側にセパレータを配置した1つの燃料電池ユニット(単セル)を組み立てた。このユニットに燃料ガスとして水素、酸化剤ガスとして空気を使用し、燃料電池を電流密度0.5[A/cm]で100時間連続運転した。
<接触抵抗値の測定>
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4で得られたセパレータの接触抵抗を発電試験前と発電試験後に測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図9(a)に示すように、電極61とサンプル62との間にカーボンペーパ63を介在させて、図9(b)に示すように、電極61a/カーボンペーパ63a/サンプル62/カーボンペーパ63b/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。発電試験後の接触抵抗値は、燃料電池内で燃料電池用セパレータが曝される環境を模擬して、酸化環境下での耐食性を評価したものである。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。
<金属イオン溶出性評価>
発電試験中に生成した生成水中に含まれる金属イオン濃度をプラズマ発光−質量分析装置(ICP−MS)により測定し、金属イオン溶出量の値から耐食性の低下の度合いを評価した。
<窒化層の元素の同定>
オージェ電子分光分析のデプスプロファイル計測により、窒化層の表面から深さ5[nm]までの範囲において、窒化層の元素の同定及び定量を行った。測定には、走査型オージェ電子分光分析装置(PHI社製 MODEL4300)を用い、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO換算値)の条件で行った。
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4における窒化層の形態、第1窒化層厚さ又は析出物の最大高低差、窒化物の結晶構造及びFeに対するCr比を表2に、発電試験前後の接触抵抗値、生成水中の金属イオン溶出量を表3に各々示す。
表2に示すように、比較例1では窒化層が形成されていない。このため、水素極及び酸素極両極で発電試験前後の接触抵抗値は高い値を示した。比較例2では、水素極セパレータ及び酸素極セパレータを300[℃]の低温で窒化したため、窒化層は形成されているが、厚さが2〜3[nm]と極薄く、窒化層の結晶構造はMN型の単層だった。このため、水素極セパレータでは発電試験後の接触抵抗値が38[mΩ・cm]に増加して導電性が悪化し、さらに、金属イオン溶出量が増大して耐食性も悪化した。一方、酸素極セパレータでは発電試験後の接触抵抗値が125[mΩ・cm]に増加して導電性が悪化し、さらに、金属イオン溶出量が増大して耐食性も悪化した。比較例3では、水素極セパレータ及び酸素極セパレータを470[℃]の高温で窒化したため、窒化層として第1窒化層と第2窒化層が形成されたが、第1窒化層には、最大高さが400[nm]を越える突起状の析出物が形成され、それによって第1窒化層にCr欠乏層が生じていた。このため、水素極セパレータでは、発電試験後の金属イオン溶出量が増大し耐食性が悪化した。酸素極セパレータにおいても、金属イオン溶出量が増大し、耐食性が悪化した。接触抵抗値は発電試験後に高くなり、導電性が悪化した。比較例4では、水素極セパレータを410[℃]の低温で窒化したため、第1窒化層には、層状ではなく、最大高さが25[nm]の突起状の析出物が形成されていた。この場合には、第1の層に含まれるFeに対するCrの原子比が、水素極セパレータの第2の層及び基層に含まれるFeに対するCrの原子比よりも小さくなった。このため、水素極セパレータでは発電試験後の接触抵抗値が39[mΩ・cm]に増加して導電性が悪化し、さらに、金属イオン溶出量が増大して耐食性も悪化した。一方、酸素極セパレータでは、酸素極セパレータを400[℃]の低温で窒化したため、第1窒化層は、厚さ78[nm]の層状の窒化物となり、発電試験前の接触抵抗値が32[mΩ・cm]、及び発電試験後の接触抵抗値が49[mΩ・cm]に増加して導電性が悪化した。
これに対して、実施例1〜実施例4の各試料では、発電試験後に若干高くなるものの、水素極、酸素極共に接触抵抗値は低く、イオン溶出量は少なかった。これは、水素極セパレータは、基層に隣接してMN型の結晶構造を有する第2窒化層、第2窒化層に隣接してMN型の結晶構造を有する第1窒化層の二層の窒化層が基層と最表面とを隔てて形成し、第1窒化層が基材の最表面に連続的に設けられたものであり、第1窒化層に含まれるFeに対するCrの原子比が、第2窒化層及び基層中に含まれるFeに対するCrの原子比よりも大きく、第1窒化層の厚さが20[nm]以下の層状となっており、第1窒化層の表面形態が凹凸の少ないものであるため、第1窒化層の最表面にCr系の酸化膜が形成し易くなり、標準電極電位が貴側へシフトする。このため、イオン溶出量が少なかったものと考えられる。一方、酸素極セパレータでは、基層に隣接してMN型の結晶構造を有する第2窒化層、第2窒化層に隣接して基材表面には、最大高低差が10〜400[nm]以下の突起状のMN型、M2〜3N型、MN型から選択される結晶構造を有する第1窒化層が形成された。このため、ガス拡散層との間の接触面が微小な点接触になるため、接触抵抗値が低かったと考えられる。
実施例1〜実施例4の水素極セパレータ及び酸素極セパレータでは、基層に隣接した第2窒化層の結晶構造は、MN型及び又はMN析出物が数10〜100[nm]の間隔でMNマトリクスに積層した複合組織だった。図10に、実施例1により得られた水素極セパレータのTEM写真を示す。図10(a)は実施例1により得られた水素極セパレータの倍率30000倍のTEM写真であり、図10(b)は図10(a)に示す71c部の拡大写真(倍率100000倍)である。図10(a)に示すように、基材として使用したステンレス鋼70の表面70aを窒化することにより、基材70の表面70aの深さ方向に窒化層71が形成され、窒化層71の直下は窒化されていない未窒化層である基層となっている。窒化層71は、第1窒化層71aと第2窒化層71bとからなり、第2窒化層71bには層状の組織が繰り返された2相複合組織が観測された。図10(b)に示すように、2相複合組織は図中白く見えるMN型の結晶構造のマトリクス72と、図中黒く見えるマトリクス72中に形成された層状のM2〜3N型の結晶構造73であることが判明した。M2〜3N型の結晶構造73の層間距離は、数10〜数100[nm]の範囲だった。
次に、図11に、実施例1より得られた酸素極セパレータのTEM写真を示す。図11(a)は実施例1により得られた酸素極セパレータの倍率30000倍のTEM写真であり、図11(b)は図11(a)の81d部の拡大写真(倍率100000倍)である。図11(a)に示すように、基材として使用したステンレス鋼80の表面80aを窒化することにより、基材80の表面80aの深さ方向に窒化層81が形成され、窒化層81の直下は窒化されていない未窒化層である基層となっている。窒化層81の表面部81aはMN型、M2−3N型又はMN型の結晶構造を含む析出物82a、82b、82cを有していた。析出物82aは、窒化層81の表面部81aの一部である底面83aから最大で高さhaだけ突出していた。析出物82bは、窒化層81の表面部81aの一部である底面83bから最大で高さhbだけ突出していた。析出物82cは、窒化層81の表面部81aの一部である底面83cから最大で高さhcだけ突出していた。析出物の突出部の高さで、最大のものは158[nm]であった。窒化層81は、さらに第1窒化層81bと第2窒化層81cを有し、第2窒化層81cには層状の組織が繰り返された2相複合組織が観測された。図11(b)に示すように、2相複合組織は図中白く見えるMN型の結晶構造のマトリクス84と、図中黒く見えるマトリクス84中に形成された層状のM2〜3N型の結晶構造85であることが判明した。M2〜3N型の結晶構造85の層間距離は、数10〜数100[nm]の範囲だった。
次に、実施例4より得られた水素極及び酸素極セパレータのオージェ分析の結果を図12に示す。オージェ分析の結果より、水素極及び酸素極共に、表面から10[nm]付近の深さ位置でNとCrの両濃度が高くなるピークを示している。このことから、水素極に代表されるように表面から10[nm]程度の極薄い層状のCrNが存在し、表面から10[nm]以上200[nm]深さ位置までCr及びNの濃度は一定値を示す。このように、第1及び第2窒化層中ではCr欠乏層は存在しない。また、酸素極に代表されるように、表面に第1の粒状の窒化物と第2の窒化物層の表面から10[nm]程度の極薄い層状のCrNが存在し、表面から10[nm]以上200[nm]深さ位置までCr及びNの濃度は一定値を示すことから、第1及び第2窒化層中ではCr欠乏層は存在しないことがわかった。
このように、実施例1〜実施例4ではMN型の結晶構造及びM2−3N型の結晶構造を有する第2窒化層が形成されている。第2窒化層は、基層及び第1窒化層との整合性が良好であるため、酸化性環境下における電気化学的安定性に優れ、耐食性が良好である。また、窒化層がMN型結晶構造を有することにより遷移金属原子間の金属結合を保ち、遷移金属原子と窒素原子との間で強い共有結合性を示し、酸化性環境下における電気化学的安定性に優れ、耐食性が良好となる。加えて、面心立方格子を構成する遷移金属原子が不規則に混合することにより、各遷移金属成分の部分モル自由エネルギが低下して活量を低く抑えることができ、より安定化すると考えられる。また、層状のM2−3N型型の結晶構造を有することにより、ナノレベルの微細な層状組織が2相平衡し、自由エネルギーが低下する。このため、活量を低く抑えることができて酸化に対する反応性が低くなり、化学的安定性を有するようになる。このため、特に強酸性雰囲気において酸化を抑制し、耐食性に優れるようになる。また、最表層に数十ナノレベルの薄い酸化膜が形成されているため、導電性を悪化させることなく耐食性が向上する。
なお、燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm]で使用される。このため、電流密度が1[A/cm]の時には、セパレータとガス拡散層と間の接触抵抗が20[mΩ・cm] 、つまり、図9(b)に示す装置での測定値が40[mΩ・cm] 以下であれば接触抵抗による発電効率の低下が抑えられると考えられる。本実施例1〜実施例4では、耐食試験前後における接触抵抗値が40[mΩ・cm] 以下であるため、これらの試料を用いた場合には、単位セル当りの起電力が高く、発電性能に優れた燃料電池を形成することが可能となる。
本発明の実施の形態に係る燃料電池を構成する燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。 燃料電池スタックの展開図である。 燃料電池スタックを構成する単セルの両側に水素極セパレータ及び酸素極セパレータを配置した構成を示す断面図である。 (a)水素極セパレータの要部の拡大図である。(b)水素極セパレータのIVb-IVb線断面図である。(c)水素極セパレータのIVc-IVc線断面図である。 (a)酸素極セパレータの要部の拡大図である。(b)酸素極セパレータのVb-Vb線断面図である。(c)酸素極セパレータのVc-Vc線断面図である。(d)酸素極セパレータの第1の窒化層の模式的断面図である。 (a)MN型結晶構造を示す模式図である。(b)M2〜3N型の結晶構造を示す模式図である。 本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法に用いる窒化装置の模式的側面図である。 本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを搭載した電気自動車の外観を示す図であり、(a)は電気自動車の側面図、(b)は電気自動車の上面図である。 (a)各実施例で得られた試料の接触抵抗の測定方法を説明する模式図である。(b)接触抵抗の測定に使用する装置を説明する模式図である。 (a)実施例1により得られた水素極セパレータのTEM写真である。(b)は71c部の拡大写真である。 (a)は実施例1により得られた酸素極セパレータのTEM写真である。(b)81d部の拡大写真である。 (a)実施例1により得られた水素極セパレータの走査型オージェ電子分光分析による深さ方向の元素プロファイルを示す図である。(b)実施例1により得られた酸素極セパレータの走査型オージェ電子分光分析による深さ方向の元素プロファイルを示す図である。
符号の説明
1 燃料電池スタック
2 単セル
3 固体高分子型電解質膜
4 水素極
5 酸素極
6 触媒層
7 ガス拡散層
8 水素極セパレータ
9 酸素極セパレータ
10 セパレータ
11 エンドフランジ
12 締結ボルト
13 流路
14 平板部
15 基材
15a 表面
16 窒化層
16a 表面部
16b 水素極セパレータの第1の窒化層(水素極セパレータの第1の層)
16c 水素極セパレータの第2の窒化層(水素極セパレータの第2の層)
17 基層
18 基材
18a 表面
19 窒化層
19a 表面部
19a1、19a2、19a3 析出物
19b 酸素極セパレータの第1の窒化層(酸素極セパレータの第1の層)
19c 酸素極セパレータの第2の窒化層(酸素極セパレータの第2の層)
21 流路
22 平板部
23 MN型の結晶構造
24 遷移金属原子
25 窒素原子
26 M2〜3N型の結晶構造
27 遷移金属原子
28 窒素原子

Claims (14)

  1. 水素極セパレータ及び酸素極セパレータとを備える燃料電池であって、
    前記水素極セパレータは、オーステナイト系ステンレス鋼からなる第1の基材によって形成された水素極セパレータの基層と、前記水素極セパレータの基層の上に形成され、MN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の層と、前記水素極セパレータの第2の層の上に形成され、MN型の結晶構造を含み、前記第1の基材の表面窒化処理部として前記第1の基材の表面から深さ方向に連続して形成された水素極セパレータの第1の層とを備え、
    前記酸素極セパレータは、オーステナイト系ステンレス鋼からなる第2の基材によって形成された酸素極セパレータの基層と、前記酸素極セパレータの基層の上に形成され、MN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の層と、前記酸素極セパレータの第2の層の上に形成され、MN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含み、前記第2の基材の表面窒化処理部として前記第2の基材の表面から深さ方向に連続して形成され酸素極セパレータの第1の層とを備えていることを特徴とする燃料電池。
  2. 前記Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選択される遷移金属原子であり、前記Nは窒素原子であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
  3. 前記MN型の結晶構造は、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
  4. 前記水素極セパレータの第1の層に含まれるFeに対するCrの原子比が、前記水素極セパレータの第2の層及び前記基層に含まれるFeに対するCrの原子比よりも大きく、かつ、前記水素極セパレータの第1の層において、Crが全体に分布することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池。
  5. 前記水素極セパレータの第1の層は、厚さが20[nm]以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池。
  6. 前記酸素極セパレータの第1の層は、前記酸素極セパレータの第1の層の表面部から突出した析出物を有し、前記酸素極セパレータの第1の層の表面部に対する前記析出物の高さが10〜400[nm]の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の燃料電池。
  7. 前記水素極セパレータの第2の層及び前記酸素極セパレータの第2の層は、M2〜3N型の結晶構造とMN型の結晶構造とが積層された複合組織を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池。
  8. 前記水素極セパレータの第2の層及び前記酸素極セパレータの第2の層は、MN型の結晶構造のマトリクスと、前記マトリクス中に形成されたM2〜3N型の結晶構造とを含む複合組織であり、前記M2〜3N型の結晶構造を層間距離が数10〜数100[nm]の範囲で有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の燃料電池。
  9. オーステナイト系ステンレス鋼からなる第1の基材の表面をプラズマ窒化して前記第1の基材の表面から深さ方向にMN型の結晶構造を有する水素極セパレータの第2の層を形成する段階と、
    前記水素極セパレータの第2の層の上に、前記第1の基材の表面から深さ方向にMN型の結晶構造を含む連続した水素極セパレータの第1の層を形成する段階と、
    オーステナイト系ステンレス鋼からなる第2の基材の表面をプラズマ窒化して前記第2の基材の表面から深さ方向にMN型の結晶構造を有する酸素極セパレータの第2の層を形成する段階と、
    前記酸素極セパレータの第2の層の上に、前記第2の基材の表面から深さ方向にMN型、M2〜3N型、MN型の中から選択される結晶構造を含む連続した酸素極セパレータの第1の層を形成する段階とを含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。
  10. さらに、前記第1及び第2の基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路を形成する段階を含むことを特徴とする請求項9に記載の燃料電池の製造方法。
  11. 前記水素極セパレータの第1の層を形成する段階、前記水素極セパレータの第2の層を形成する段階、前記酸素極セパレータの第2の層を形成する段階及び前記酸素極セパレータの第1の層を形成する段階は、1〜1000[μsec]の周期でプラズマの放電及び遮断を繰り返すことが可能なパルスプラズマ電源を用いて前記プラズマ窒化を行うことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の燃料電池の製造方法。
  12. 前記水素極セパレータの第2の層を形成する段階、前記水素極セパレータの第1の層を形成する段階、前記酸素極セパレータの第2の層を形成する段階及び前記酸素極セパレータの第1の層を形成する段階は、前記第1及び第2の基材表面の温度を320 [℃]以上450[℃]以下の範囲に保持して前記プラズマ窒化を行うことを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれか一項に記載の燃料電池の製造方法。
  13. 前記水素極セパレータの第2の層を形成する段階、前記水素極セパレータの第1の層を形成する段階は、前記第1の基材表面の温度を320 [℃]以上410[℃]未満の範囲に保持して前記プラズマ窒化を行い、前記酸素極セパレータの第2の層を形成する段階、前記酸素極セパレータの第1の層を形成する段階は、前記第2の基材表面の温度を410 [℃]以上450[℃]以下の範囲に保持して前記プラズマ窒化を行うことを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれか一項に記載の燃料電池の製造方法。
  14. 請求項1乃至請求項8のいずれかに係る燃料電池を動力源として備えることを特徴とする燃料電池車両。
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