JP2007073231A - 燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用セパレータの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】セパレータと電極間で発生する接触抵抗が低く、耐食性に優れており、かつ低コストの燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック及びこの燃料電池スタックを備えた燃料電池車両を提供する。
【解決手段】Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなる基材10の表面を窒化処理することにより得られる燃料電池用セパレータ3であって、基材10の表面10aから深さ方向に立方晶の結晶構造を有する窒化層11を備え、窒化層11は厚さが0.5〜5[μm]の範囲にあり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する。
【選択図】図3
【解決手段】Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなる基材10の表面を窒化処理することにより得られる燃料電池用セパレータ3であって、基材10の表面10aから深さ方向に立方晶の結晶構造を有する窒化層11を備え、窒化層11は厚さが0.5〜5[μm]の範囲にあり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する。
【選択図】図3
Description
この発明は、燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用セパレータの製造方法に関し、特にステンレス鋼を用いて形成する固体高分子電解質型の燃料電池用セパレータに関する。
地球環境保護の観点から、燃料電池を自動車の内燃機関に代えて作動するモーターの電源として利用し、このモーターにより自動車を駆動することが検討されている。この燃料電池は、資源の枯渇問題を有する化石燃料を使う必要がないため排気ガス等を発生することがない。また、燃料電池は騒音がほとんど発生せず、更にはエネルギーの回収効率も他のエネルギー機関と比べて高くすることが可能である等の優れた特徴を有している。
燃料電池は、使用される電解質の種類に応じて、固体高分子電解質型、リン酸型、溶融炭酸塩型及び固体酸化物型等がある。そのうちの一つである固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質として分子中にプロトン交換基を有する高分子電解質膜を使用して、高分子電解質膜を飽和に含水させるとプロトン伝導性電解質として機能することを利用した電池である。固体高分子電解質型燃料電池は比較的低温で作動し、かつ発電効率が高い。更には、固体高分子電解質型燃料電池は他の付帯設備と共に小型で軽量であるため、電気自動車搭載用を始めとする各種の用途が見込まれている。
上記固体高分子電解質型燃料電池は燃料電池スタックを有する。燃料電池スタックは、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セルを複数個積層して両端部をエンドフランジで挟み、締結ボルトにより加圧保持されて一体に構成される。単セルは、高分子電解質膜とその両側に接合されるアノード(水素極)とカソード(酸素極)により構成される。
図9は、燃料電池スタックを形成する単セルの構成を示す断面図である。図9に示すように、単セル70は、固体高分子電解質膜71の両側に酸素極72及び水素極73を接合して一体化した膜電極接合体を有する。酸素極72及び水素極73は、反応膜74及びガス拡散層75(GDL:gas diffusion layer)を備えた2層構造であり、反応膜74は固体高分子電解質膜71に接触している。酸素極72及び水素極73の両側には、積層のために酸素極側セパレータ76及び水素極側セパレータ77が各々設置されている。そして、酸素極側セパレータ76及び水素極側セパレータ77により、酸素ガス流路、水素ガス流路及び冷却水流路が形成されている。
上記構成の単セル70は、固体高分子電解質膜71の両側に酸素極72、水素極73を配置して、通常、ホットプレス法により一体に接合して膜電極接合体を形成し、次に膜電極接合体の両側にセパレータ76、77を配置して製造する。上記単セル70から構成される燃料電池では、水素極73側に、水素、二酸化炭素、窒素、水蒸気の混合ガスを供給し、酸素極72側に空気及び水蒸気を供給すると、主に、固体高分子電解質膜71と反応膜74との間の接触面において電気化学反応が起こる。以下、より具体的な反応について説明する。
上記構成の単セル70において、酸素ガス流路及び水素ガス流路に酸素ガス及び水素ガスが各々供給されると、酸素ガス及び水素ガスが各ガス拡散層75を介して反応膜74側に供給され、各反応膜74において以下に示す反応が起こる。
水素極側:H2 →2H++2e− ・・・式(1)
酸素極側:(1/2)O2+2H++ 2e−→H2O ・・・式(2)
水素極73側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+とe−とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜71内を移動して酸素極72側に流れ、e−は負荷78を通って水素極73から酸素極72に流れる。酸素極72側では、H+とe−と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
酸素極側:(1/2)O2+2H++ 2e−→H2O ・・・式(2)
水素極73側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+とe−とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜71内を移動して酸素極72側に流れ、e−は負荷78を通って水素極73から酸素極72に流れる。酸素極72側では、H+とe−と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
上述したように、燃料電池用セパレータは各単セル間を電気的に接続する機能を有するため、電気伝導性が良く、かつガス拡散層等の構成材料との接触抵抗が低いことが要求される。また、固体高分子型電解質膜は、スルホン酸基を多数有する高分子から形成されており、湿潤状態においてスルホン酸基をプロトン交換として用いるため、プロトン伝導性を有する。固体高分子型電解質膜は強酸性であるため、燃料電池用セパレータにはpH2〜3程度の硫酸酸性に対する耐食性が要求される。さらに、燃料電池に供給される各ガスの温度は80〜90[℃]と高温であり、また、水素極ではH+が生じるだけでなく、酸素や空気等が通過する酸素極は、標準水素極電位に対して0.6〜1[VvsSHE]程度の電位が負荷される酸化性環境下にある。このため、酸素極及び水素極と同様に、燃料電池用セパレータには強酸性雰囲気下で耐え得る耐食性が要求される。なお、ここで要求される耐食性とは、燃料電池用セパレータが強酸性の酸化性環境下においても電気伝導性能を維持できる耐久性を意味する。つまり、カチオンが加湿水又は式(2)の反応により生成した水に溶出することにより、カチオンが本来プロトンの通り道となるべきスルホン酸基と結合してスルホン酸基を占有し、電解質膜の発電特性を劣化させる環境で、耐食性を測定する必要がある。
そこで、燃料電池用セパレータには、電気伝導性が良く耐食性に優れたステンレス鋼又は工業用純チタン等のチタン材を使用する試みがされている。ステンレス鋼は、その表面にクロムを主金属元素とした酸化物、水酸化物又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されている。チタンも同様に、その表面に酸化チタン、水酸化チタン又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されている。このため、ステンレス鋼やチタンは耐食性が良好である。
しかし、上記した不動態皮膜は、通常ガス拡散層として用いられるカーボンペーパとの間で接触抵抗を生じる。燃料電池内の抵抗分極による過電圧は、定置型用途ではコージェネレーション等により排熱を回収できるため、トータルとしての熱効率が向上する。一方、自動車用用途では、接触抵抗に基づく発熱ロスは冷却水を通してラジエータから外部に捨てるしかないため、接触抵抗が大きくなると発電効率の低下に繋がる。また、発電効率の低下は発熱が大きくなることと等価であり、より大きな冷却系を装備する必要性が生じるため、接触抵抗の増大は解決すべき重要な課題となっている。
燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm2]で使用される。電流密度が1[A/cm2]の時には、セパレータとカーボンペーパ間の接触抵抗が40[mΩ・cm2]以下であれば接触抵抗による効率低下がおさえられると考えられている。
そこで、ステンレス鋼をプレス成形した後、電極との接触面に直接金めっき層を形成した燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献1参照)。また、ステンレス鋼を成形して燃料電池用セパレータの形状に加工した後、電極との接触により接触抵抗を生じる面の不動態皮膜を除去して、貴金属又は貴金属合金を付着させた燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献2参照)。
特開平10−228914号公報(第2頁、第2図)
特開2001−6713号公報(第2頁)
しかしながら、貴金属を燃料電池用セパレータ表面にメッキ又はコーティングさせると製造時に手間がかかるだけではなく、素材コストもかかる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、第1の発明である燃料電池用セパレータは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなる基材の表面を窒化処理することにより得られる燃料電池用セパレータであって、基材の表面から深さ方向に立方晶の結晶構造を有する窒化層を備え、窒化層は厚さが0.5〜5[μm]の範囲にあり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有することを要旨とする。
第2の発明である燃料電池用セパレータの製造方法は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する基材の表面を500[℃]以下の温度でプラズマ窒化処理するプラズマ窒化処理工程を含み、プラズマ窒化処理工程により、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択された遷移金属原子によって形成される面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成することを要旨とする。
第3の発明である燃料電池スタックは、上記第1の発明に係る燃料電池用セパレータを有することを要旨とする。
第4の発明である燃料電池車輌は、上記第3の発明に係る燃料電池スタックを動力源として備えることを要旨とする。
第1の発明によれば、セパレータと電極間で発生する接触抵抗が低く、耐食性に優れており、かつコストの低い燃料電池用セパレータが得られる。
第2の発明によれば、高性能の燃料電池用セパレータの製造が容易になる。
第3の発明によれば、高性能の燃料電池スタックが得られ、かつ小型化及び低コスト化が可能となる。
第4の発明によれば、小型化及び低コスト化した燃料電池スタックを搭載することにより、走行距離が長くなると共にスタイリングの自由度を確保することができる。
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両及び燃料電池用セパレータの製造方法について、固体高分子型燃料電池に適用した例を挙げて説明する
(燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタック)
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いて構成した燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。
(燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタック)
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いて構成した燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。
図2に示すように、燃料電池スタック1は、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セル2と燃料電池用セパレータ3とを交互に複数個積層して構成される。各単セル2は、固体高分子型電解質膜の両面に各々酸化剤極を有するガス拡散層と燃料極を有するガス拡散層とを形成した膜電極接合体からなり、膜電極接合体の両側に燃料電池用セパレータ3を配置して、燃料電池用セパレータ3内部に酸化剤ガス流路と燃料ガス流路とを各々形成する。固体高分子型電解質膜としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(ナフィオン1128(登録商標)、デュポン株式会社)等を使用することができる。単セル2と燃料電池用セパレータ3とを積層した後、両端部にエンドフランジ4を配置して、外周部を締結ボルト5により締結して燃料電池スタック1を構成する。また、燃料電池スタック1には、各単セル2に水素ガス等の水素を含有する燃料ガスを供給するための水素供給ラインと、酸化剤ガスとして空気を供給する空気供給ラインと、冷却水を供給する冷却水供給ラインが設けられている。
図2に示した燃料電池用セパレータ3の模式図を図3に示す。図3(a)は、燃料電池用セパレータ3の模式的斜視図、図3(b)は、燃料電池用セパレータ3のIIIb-IIIb線断面図、図3(c)は、燃料電池用セパレータ3のIIIc-IIIc線断面図である。図3(a)に示すように、燃料電池用セパレータ3は、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)及びMo(モリブデン)の中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなる基材10からなり、基材10の表面を窒化処理することにより得られ、基材10の表面10aの深さ方向に形成されている立方晶の窒化層11と、窒化されていない未窒化層である基層12からなる。燃料電池用セパレータ3には、プレス成形により断面矩形状の燃料又は酸化剤の溝状の通路13が形成されている。通路13と通路13との間には、通路13と通路13で画成された平板部14を備え、通路13及び平板部14の外面に沿って立方晶の結晶構造を有する窒化層11が延在している。平板部14は、燃料電池用セパレータ3と単セル2とを交互に積層した際に隣接する固体高分子膜上のガス拡散層に接触する。図3では説明の便宜上基材10の表面10a、つまり窒化層11の表面及び基層12と窒化層11との界面10bを直線で記載しているが、窒化層11の表面及び基層12と窒化層11との界面10bには外面に応じ非直線的となっている。窒化層11は厚さが0.5〜5[μm]の範囲にあり、窒化層11は、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する。
本実施の形態に係る燃料電池用セパレータでは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金を基材として用いており、基材の表面から深さ方向に立方晶の結晶構造を有する窒化層を備えるため、窒化層中の遷移金属原子が窒素原子との間で共有性に富んだ結合を形成していることに加え、金属原子間には金属結合が形成されているため、電気伝導性に優れた燃料電池用セパレータを得ることができる。また、立方晶の結晶構造を有する窒化層は燃料電池として通常使用されるpH2〜3の強酸性雰囲気においても化学的に安定であるため耐食性に優れる。このため、燃料電池用セパレータとカーボンペーパとの間の接触抵抗を低くおさえ、強酸性雰囲気においても継続的に良好な電気伝導性を示す燃料電池用セパレータが得られる。また、従来のように、電極と接触する面に直接金メッキ層を施さなくても接触抵抗を抑えることができるため、低コスト化を実現することが可能となる。
窒化層は、基材表面に厚さ0.5〜5[μm]の範囲で形成されていることが好ましい。この場合には、強酸性雰囲気における耐食性に優れ、かつカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑えることが可能となる。なお、窒化層の厚さが0.5[μm]を下回る場合には、窒化層と基層との間に亀裂が発生したり、窒化層と基層との密着強度が不足することにより長時間使用すると窒化層が基層との界面から剥がれ易くなるため長時間の使用では充分な耐食性が得られにくくなる。また、窒化層の厚さが5[μm]を上回る場合には、窒化層の厚さの増大とともに窒化層内の応力が過大になって窒化層に亀裂が発生し、燃料電池用セパレータに孔食が発生し易くなり、耐食性の向上に寄与しにくくなる。
窒化層はRaが0.3[μm]以上の表面粗さを有することが好ましい。窒化層の表面粗さを大きくすることにより、GDL(ガス拡散層)との接触面積が大きくなるため、接触抵抗の低下が期待できる。また、立方晶の結晶構造を有する窒化層は燃料電池として通常使用されるpH2〜3の強酸性雰囲気においても化学的に安定であるため耐食性に優れるが、セパレータ表面粗さをRa0.3以上と大きくすることにより、耐食性を高めることができる。これは、基材をプラズマ窒化する際に、プラズマ体積に占める陰極つまり基材の表面積の割合が増加して、電子密度が高くなるため、プラズマ励起状態がより高まり、その結果窒化層の窒素濃度が増加して耐食性が向上するためである。
このように、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなる基材の表面を窒化処理することにより得られる燃料電池用セパレータであって、基材の表面から深さ方向に立方晶の結晶構造を有する窒化層を備え、窒化層は厚さが0.5〜5[μm]の範囲にあり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する構成とすることにより、燃料電池用セパレータとカーボンペーパとの間の接触抵抗を低くおさえ、強酸性雰囲気においても継続的に良好な電気伝導性を示す燃料電池用セパレータが得られる。また、従来のように、電極と接触する面に直接金メッキ層を施さなくても接触抵抗を抑えることができるため、低コスト化を実現することが可能となる。
基材は、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選ばれる遷移金属元素を含むステンレス鋼であることが好ましい。このような元素を含有するステンレス鋼として、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系のステンレス鋼が挙げられる。これらの中でも、基材は、特にオーステナイト系ステンレス鋼からなることが好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS310S、SUS316L、SUS317J1、SUS317J2、SUS321、SUS329J1、SUS836等が挙げられる。
立方晶の結晶構造は、より具体的には、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれる遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造であることが好ましい。M4N型の結晶構造を図4に示す。図4に示すように、M4N型の結晶構造20は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子21によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子22が配置された構造である。このM4N型の結晶構造20において、Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子21を表し、Nは窒素原子22を表す。窒素原子22はM4N型の結晶構造20の単位胞中心の八面体空隙の1/4を占有する。すなわち、M4N型の結晶構造20は、遷移金属原子21の面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子22が侵入した侵入型固溶体であり、立方晶の空間格子で表すと、窒素原子22は各単位胞の格子座標(1/2,1/2,1/2)に位置する。M4N型の結晶構造とすることにより、遷移金属原子21間の金属結合を維持したまま、遷移金属原子21と窒素原子22との間で強い共有結合性を示す。また、このM4N型の結晶構造20では、遷移金属原子21はFeを主体としていることが好ましいが、FeがCr、Ni、Moなどの他の遷移金属原子と一部置換した合金であっても良い。
そして、このM4N型の結晶構造では、高密度の転位や双晶を伴い、硬さも1000[HV]以上と高く、窒素が過飽和に固溶したfccまたはfct構造の窒化物であると考えられている(安丸、蒲池;日本金属学会誌,50,pp362−368,1986)。そして、表面に近いほど窒素濃度が高いことや、CrNが主成分とならないため、耐食性に有効なCrが減少せずに窒化後も耐食性が保たれる。このように、窒化層がFe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する場合には、pH2〜3の強酸性雰囲気における耐食性を一段と優れたものとし、かつカーボンペーパとの間の接触抵抗を低くおさえることが可能となる。
窒化層の極表面の窒素量が20[at%]以上かつ酸素量が25[at%]以下であることが好ましい。ここで、窒化層の極表面とは、窒化層の最表面から3〜4[nm]の深さ、つまり原子数十層程度の深さの原子層をさす。また、最表面とは、窒化層の最外部の原子一層をさす。遷移金属の表面に吸着した酸素分子の被覆率が高くなると、遷移金属原子と酸素原子との間に明瞭な結合が形成する。これが遷移金属原子の酸化である。このような遷移金属表面の酸化は、まず最外部の第一原子層が酸化されることによって起こる。第一原子層の酸化が終わると、次に、第一原子層へ吸着した酸素が遷移金属内の自由電子をトンネル効果によって受け取り、酸素が負イオンになる。そして、この負イオンによる強い局部電場のために、遷移金属イオンが遷移金属内部から表面上に引っ張り出され、引っ張り出された遷移金属イオンが酸素原子と結合する。すなわち二層目の酸化膜が生成する。このような反応が次から次へと起こって酸化膜が厚くなっていく。このように、窒化層中の酸素量が25[at%]より多い場合には、絶縁性の酸化膜が形成されやすくなる。これに対し、窒化層中の窒素原子のケミカルポテンシャルを高めて、金属原子の活量をよりいっそう小さく抑えた状態で金属原子が窒素と化合物を形成すると、金属原子の自由エネルギーが下がり、金属原子の酸化に対する反応性を低くすることができ、金属原子が化学的に安定する。そして、酸素原子は受け取る自由電子がなくなり金属原子を酸化しなくなるため、酸化膜の成長を抑えることができる。このように、窒化層の極表面の窒素量が20[at%]以上かつ酸素量が25[at%]である場合には、酸化膜の成長を抑制できてカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑えることが可能となり、かつ、強酸性雰囲気における耐食性に優れた燃料電池用セパレータを得ることができる。
また、窒化層の最表面から10[nm]深さにおいて、窒素量が20[at%]以上かつ酸素量が25[at%]以下であることが好ましい。この場合には、強酸性雰囲気における耐食性に優れ、かつカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑えることが可能となる。なお、この範囲からはずれる場合には、セパレータと電極間で発生する接触抵抗が高くなり、燃料電池スタックを構成する単セル1枚あたりの接触抵抗値が40[mΩ・cm2]を超え、発電性能が悪化するという不具合がある。
さらに、窒化層の最表面から100[nm]深さにおいて、窒素量が25[at%]以上かつ酸素量が20[at%]以下であることが好ましい。この場合には、さらに接触抵抗を低く抑えることが可能となる。この範囲からはずれる場合には、基材表面が酸化物を主体とする絶縁性被膜で覆われるようになるため、燃料電池として通常使用される強酸性雰囲気でカーボンペーパとの間の接触抵抗が高く、導電性を有さなくなる。
このように、上記した構成を採用したことにより、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータは耐食性に優れる。そして、低コストで生産性が良好であると共に、隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触抵抗が低く、燃料電池の発電性能の良い燃料電池用セパレータを得ることが可能となる。また、本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックは、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを有することにより、発電性能を損なうことなく高い発電効率を維持できると共に、小型化及び低コスト化を実現することが可能となる。
(燃料電池用セパレータの製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法の実施の形態について説明する。この燃料電池用セパレータの製造方法は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する基材の表面を500[℃]以下の温度でプラズマ窒化処理するプラズマ窒化処理工程を含み、プラズマ窒化処理工程により、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択された遷移金属原子によって形成される面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成することを特徴とする。この方法により、基材の表面から深さ方向に立方晶の結晶構造を有する窒化層を備え、窒化層は厚さが0.5〜5[μm]の範囲にあり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する燃料電池用セパレータが容易に得られる。
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法の実施の形態について説明する。この燃料電池用セパレータの製造方法は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する基材の表面を500[℃]以下の温度でプラズマ窒化処理するプラズマ窒化処理工程を含み、プラズマ窒化処理工程により、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択された遷移金属原子によって形成される面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成することを特徴とする。この方法により、基材の表面から深さ方向に立方晶の結晶構造を有する窒化層を備え、窒化層は厚さが0.5〜5[μm]の範囲にあり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する燃料電池用セパレータが容易に得られる。
プラズマ窒化法は、被処理物を陰極とし、直流電圧を印加して発生するグロー放電によって窒素ガスをイオン化し、イオン化した窒素が被処理物の表面へ高速加速衝突することで窒化する方法である。ステンレス鋼の表面に500[℃] 以下の低温でプラズマ窒化処理を施すと、基材表面にはFe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれ遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造が形成される。このM4N型の結晶構造は、窒化層の中でも特に耐食性に富むため、500[℃] 以下の低温で窒化処理を施すことにより燃料電池用セパレータの耐食性が向上する。
更に、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する基材の表面を500[℃]以下の温度でプラズマ窒化処理することにより、窒化層の窒素濃度を上げることができる。これは、プラズマ体積に占める陰極つまり、基材の表面積の割合が増加して電子密度が高くなるため、プラズマ励起状態がより高まるためであり、その結果窒化物の窒素濃度が増加すると共に酸素濃度が低下する。これにより、窒化層が緻密かつ均一に形成されやすくなり、耐食性が向上する。また、セパレータと隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触抵抗を低く抑えることができるため燃料電池の発電効率を維持することが可能となり、優れた耐久信頼性を有する燃料電池用セパレータを低コストにより得ることができる。なお、窒化温度が350[℃]を下回る場合には、この結晶構造を有する窒化層を得るためには長時間の処理を必要とするために生産性が悪化する。このため、窒化処理は350〜500[℃]の範囲で行うのが好ましい。
プラズマ窒化法の詳細を説明する。図5は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法に用いる窒化装置30の側面模式図である。
窒化装置30は、バッチ式の窒化炉31と、この窒化炉31に雰囲気ガスを供給するガス供給装置32と、窒化炉31内でプラズマを発生させるプラズマ電極33a、33b及びこれらの電極33a、33bに直流電圧を供給する直流電源33と、窒化炉31内のガスを排出するポンプ34と、窒化炉31内の温度を検知する温度センサ37とを含んでいる。窒化炉31は内壁31a及び外壁31bを有し、内壁31aの天井部31cには燃料電池用セパレータの形状に加工したステンレス鋼箔44を吊下するステンレス製のハンガ36が設けられる。ガス供給装置32は、ガス室38とガス供給管路39とを有し、ガス室38には開口32a、32b、32c及び32dが設けられている。開口32a、32b及び32cは、それぞれガス供給弁V1、ガス供給弁V2及びガス供給弁V3を備えるH2ガス供給ライン32e、N2ガス供給ライン32f、Arガス供給ライン32gと連通する。ガス供給装置32は、ガス供給管路39の一端と連通する開口32dを有する。窒化炉31の天井部31cには、ガス供給管路39の他端と連通する開口31dを有する。ガス供給管路39にはガス供給弁V4が設けられる。窒化炉31内のガス圧は、窒化炉31の底部31eに設けられたガス圧センサ40によって検知される。窒化炉31には冷却水流路(不図示)が設けられ、冷却水は窒化炉31の外壁31bに設けられた開口31fから冷却水流路に流入し、開口31gから流出する。開口31fには冷却水供給弁V5が設けられ、冷却水の流量を調節する。ポンプ34は、上記底部31eに設けられた開口31hと連通する排出管路41と接続される。温度センサ37は、窒化炉31の外壁31bに設けられた設置口31iに設置される。
窒化装置30には、グロー放電のために操作盤43から制御される直流電源33の他に、バイアス用のポテンショメータ35が設けられている。直流電源33は陽(+)極33aが窒化炉31の内壁31aに接続され、陰(−)極33bが接地されている。ポテンショメータ35は、バイアス用直流電源端子35cと接地回路35dとの間の電位差を、可動接触子35eにより0[V]からバイアス電圧の範囲で分圧し、それにより得た電圧をバイアス回路35aを介して各ステンレス鋼箔44に供給する。直流電源33は制御盤43からの制御信号によりオン、オフされる。ポテンショメータ45は、制御盤33からバイアス制御回路35bを介してバイアス制御信号が供給され、この制御信号に応じて可動接触子35eが摺動する。従って、各ステンレス鋼箔44は、内壁31aに対し、直流電源33の端子間電圧と、可動接触子35eを介して供給されるバイアス電圧との間の電圧差を有する。なお、ガス供給装置32及びガス圧センサ40も、操作盤43によって制御される。
プラズマ窒化には窒素ガス及び水素ガスを使用し、窒素ガス及び水素ガスを放電させた低温非平衡プラズマ中においてステンレス鋼材にマイナスのバイアス電圧をかけることにより、ステンレス鋼材を400〜500[℃]の温度で窒化を行うことが好ましい。プラズマ窒化処理では、イオン衝撃によるスパッタリング作用により金属材料表面の不動態皮膜を容易に除去できる。一方、通常使用されるガス窒化や塩浴窒化を用いて窒化処理を行った場合には、窒化層の数〜数十[nm]オーダの最表層では酸化が起きて絶縁性酸化物が形成されるため、燃料電池のガス拡散層として通常使用されるカーボンペーパとの間の接触抵抗が増大する。これに対し、本発明のようにプラズマ窒化の手法を用いた窒化処理では、金属材料表面の酸素を除去しながら窒化反応を進めることができるため、窒化後の金属材料の最表層の酸素レベルを十分に低く抑えることが可能となる。さらに、カーボンペーパとの間の接触抵抗を、燃料電池として好適となるように低い値に維持することが可能となる。
また、プラズマ窒化処理をする際の処理条件は、温度400〜500[℃]、処理時間1〜60[分]、ガス混合比N2:H2=3:7〜7:3、処理圧力3〜7[Torr](=399〜931[Pa])とすることが好ましい。窒化処理条件を本範囲に規定したのは、処理時間が1[分]未満になると窒化層が形成されないからであり、逆に、処理時間が60[分]を超えると製造コストが高騰するからである。さらに、ガス混合比を本範囲に規定したのは、ガス中の窒素の割合が減少すると窒化層を形成することができないからであり、逆に、窒素の割合が増大すると還元剤として作用する水素量が減少して、基材表面が酸化されてしまうからである。このような処理条件下でプラズマ窒化処理をすることにより、M4N型の結晶構造を有する窒化層を基材表面に形成することができる。
このように、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法によれば、簡便な操作により、酸化性環境下での低抵触抵抗値を維持し、耐食性に優れ、かつ低コスト化を実現した燃料電池用セパレータ製造することが可能となる。
(燃料電池車両)
本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを動力源として備えた燃料電池電気自動車を挙げて説明する。
本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを動力源として備えた燃料電池電気自動車を挙げて説明する。
図7は、燃料電池スタック1を搭載した燃料電池電気自動車の外観を示す図である。図7(a)は燃料電池電気自動車50の側面図、図7(b)は燃料電池電気自動車50の上面図である。図7(b)に示すように、車体51前方には、左右のフロントサイドメンバとフードリッジのほか、フロントサイドメンバを含む左右のフードリッジ同士を互いに連結するダッシュロア部材をそれぞれ組み合わせて溶接接合したエンジンコンパートメント部52を形成している。図7(a)及び(b)に示す燃料電池電気自動車50では、エンジンコンパートメント部52内に燃料電池スタック1を搭載している。
本発明の実施の形態に係る燃料電池セパレータを適用した発電効率の高い燃料電池スタック1を自動車等の移動体車両に搭載することにより、燃料電池電気自動車の燃費向上を図ることができる。また、小型化した軽量の燃料電池スタック1を車両に搭載することにより、車両重量を低減して省燃費化を図ることができ、走行距離の長距離化を図ることができる。さらに、小型化した燃料電池を移動体車両等に搭載することにより、車室内空間をより広く活用することができ、スタイリングの自由度を高めることができる。
なお、燃料電池車両の一例として電気自動車を挙げたが、本発明は電気自動車等の車両に限定されるものではなく、電気エネルギが要求される航空機その他の機関にも適用することが可能である。
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例7について説明する。これらの実施例は、本発明に係る燃料電池用セパレータの有効性を調べたもので、異なる原料に対して異なる条件下で処理して各試料を調製したものであり、例示した実施例に限定されるものではない。
<試料の調製>
各実施例及び比較例では、基材として、板厚0.1[mm]のJIS規格のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS316L、SUS310)の光輝焼鈍(BA)材を用いた。表1に用いた基材及び基材の組成を示す。基材は研磨仕上等により表面粗さがRa0.1〜0.7になるよう調整した。これらの基材を脱脂洗浄後、両面に直流電流グロー放電によるプラズマ窒化処理を施した。表2に窒化方法及び窒化条件を示す。表2に示すように、プラズマ窒化条件は、処理温度350〜550[℃]、処理時間1〜60[分]、ガス混合比を実施例1〜10ではN2:H2=3:7〜7:3とし、処理圧力3〜7[Torr](=399〜931[Pa])とした。
各実施例及び比較例では、基材として、板厚0.1[mm]のJIS規格のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS316L、SUS310)の光輝焼鈍(BA)材を用いた。表1に用いた基材及び基材の組成を示す。基材は研磨仕上等により表面粗さがRa0.1〜0.7になるよう調整した。これらの基材を脱脂洗浄後、両面に直流電流グロー放電によるプラズマ窒化処理を施した。表2に窒化方法及び窒化条件を示す。表2に示すように、プラズマ窒化条件は、処理温度350〜550[℃]、処理時間1〜60[分]、ガス混合比を実施例1〜10ではN2:H2=3:7〜7:3とし、処理圧力3〜7[Torr](=399〜931[Pa])とした。
ここで、各試料は、以下の方法によって評価された。
<窒化層の結晶構造の同定>
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、窒化処理を施すことによって改質した基材表面をX線回折測定を行うことにより同定した。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、窒化処理を施すことによって改質した基材表面をX線回折測定を行うことにより同定した。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
<窒化層の厚さの測定>
窒化層の厚さは、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて断面観察することにより測定した。
窒化層の厚さは、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて断面観察することにより測定した。
<極表面の窒素量及び酸素量の測定>
また、窒化層極表面の窒素量及び酸素量をX線電子分光分析(XPS)を用いて測定し、測定結果より酸素量に対する窒素量の比O/Nを求めた。装置は、PHI社製 光電子分光分析装置Quantum-2000を用いた。測定は、線源としてMonochromated-Al-kα線(電圧1486.6[eV]、20.0[W])、光電子取り出し角度45[゜]、測定深さ約4[nm]、測定エリアφ200[μm]にてX線を試料に照射することにより行った。
また、窒化層極表面の窒素量及び酸素量をX線電子分光分析(XPS)を用いて測定し、測定結果より酸素量に対する窒素量の比O/Nを求めた。装置は、PHI社製 光電子分光分析装置Quantum-2000を用いた。測定は、線源としてMonochromated-Al-kα線(電圧1486.6[eV]、20.0[W])、光電子取り出し角度45[゜]、測定深さ約4[nm]、測定エリアφ200[μm]にてX線を試料に照射することにより行った。
<窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量の測定>
窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量の測定は、走査型オージェ電子分光分析装置によって行った。装置は、PHI社製 MODEL4300を用いた。測定は、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量の測定は、走査型オージェ電子分光分析装置によって行った。装置は、PHI社製 MODEL4300を用いた。測定は、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
<接触抵抗の測定>
得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して接触抵抗を測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図8(a)に示すように、電極61とサンプル62との間にカーボンペーパ63を介在させて、図8(b)に示すように、電極61a/カーボンペーパ63a/サンプル62/カーボンペーパ63b/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。この接触抵抗測定は、後述する電解試験の前後で2回測定を行った。
得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して接触抵抗を測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図8(a)に示すように、電極61とサンプル62との間にカーボンペーパ63を介在させて、図8(b)に示すように、電極61a/カーボンペーパ63a/サンプル62/カーボンペーパ63b/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。この接触抵抗測定は、後述する電解試験の前後で2回測定を行った。
<耐食性の評価>
燃料電池では、水素極側に比較して酸素極側に最大で1[VvsSHE]程度の電位がかかる。また、固体高分子電解質膜は、分子中にスルホン酸基等のプロトン交換基を有する高分子電解質膜を飽和に含水させてプロトン伝導性を利用するものであり、強酸性を示す。このため、耐食性の評価は、電気化学的な手法である定電位電解試験を用いて、所定の定電位をかけた状態で一定時間保持後に溶液中に溶け出す金属イオン量を蛍光X線分析により測定し、イオン溶出量の値から耐食性の低下の度合いを評価した。
燃料電池では、水素極側に比較して酸素極側に最大で1[VvsSHE]程度の電位がかかる。また、固体高分子電解質膜は、分子中にスルホン酸基等のプロトン交換基を有する高分子電解質膜を飽和に含水させてプロトン伝導性を利用するものであり、強酸性を示す。このため、耐食性の評価は、電気化学的な手法である定電位電解試験を用いて、所定の定電位をかけた状態で一定時間保持後に溶液中に溶け出す金属イオン量を蛍光X線分析により測定し、イオン溶出量の値から耐食性の低下の度合いを評価した。
具体的には、各試料の中央部を大きさ30[mm]×30[mm]に切り出したサンプルをpH2の硫酸水溶液中で、温度80[℃]、電位1[VvsSHE]として100[時間]保持した。その後、硫酸水溶液中に溶け出したFe、Cr、Niのイオン溶出量を蛍光X線分析により測定した。
XRDの結果より、実施例1〜実施例4ではM4N型の結晶構造を示すピークが観測されたのに対し、窒化処理を行っていない比較例1〜比較例3では、基材であるオーステナイト由来のピークのみが明確に観測された。比較例4では、M4N及びCrNのピークが観測された。比較例4では窒化温度が550[℃]と高温であったため、NaCl型の結晶構造を有するCrNが主体となったことが考えられる。比較例5では、基材であるオーステナイト由来のピークのみが観測された。比較例5では窒化温度が350度と低かったため、窒化層がほとんど形成されなかったと考えられる。比較例5及び比較例6では、M4N型の結晶構造を示すピークが観測された。
また、表3に示すように、M4N型の結晶構造をもつ窒化層が形成された実施例1〜実施例4、比較例6及び比較例7では、図8に示した接触抵抗の測定法では、いずれも接触抵抗値が40[mΩ・cm2]以下であった。これに対し、窒化層が形成されていない比較例1〜比較例3及び比較例5では、電解試験前後ともに接触抵抗が高かった。これは、基材表面に不動態皮膜が形成され、不動態膜が絶縁性を示すためと考えられる。比較例4では、窒化層が形成されていることにより、窒化層が形成されていない比較例1〜比較例3と比べて接触抵抗は低くなる。しかし、その窒化層は主としてNaCl型の結晶構造を有するCrNを含むため、結晶構造がM4N型単独のものと比べて耐食性が劣った。このように、実施例1〜実施例4、比較例5及び比較例6では、不動態皮膜ではなくM4N型の結晶構造をもつ窒化層が形成されているため低い接触抵抗が得られた。中でも実施例1〜実施例4は比較例5及び比較例6と比較して更に低い接触抵抗を示した。またイオンの溶出量も低かった。表3に示すように、実施例1〜実施例4では表面粗さRaが0.3[μm]以上であるためプラズマ窒化の際に、プラズマ体積に占める陰極つまり基材の表面積の割合が増加して電子密度が高くなるため、プラズマ励起状態が高まり、その結果M4N型の結晶構造をもつ窒化層中の窒素濃度が増加したと考えられる。この窒素濃度の増加と共に窒化層中の酸素濃度が低下し、良好な接触抵抗及び耐食性を示すことが明らかとなった。窒化層中の窒素量の増加と酸素量の低下は表4から明かである。また、実施例1〜実施例4では表面粗さRaが0.3[μm]以上であるため、GDLとの接触面積が増加し、比較例に対して低い接触抵抗を示した。
以上の測定結果より、実施例1〜実施例4は比較例1〜比較例7のいずれに対しても電解試験後であっても接触抵抗値が40[mΩ・cm2]以下と低接触抵抗を示し、低接触抵抗と耐食性の両方を同時に兼ね備えることが示された。
1 燃料電池スタック
2 単セル
3 燃料電池用セパレータ
4 エンドフランジ
5 締結ボルト
10 基材
10a 表面
10b 界面
11 窒化層
12 基層
13 通路
14 平板部
20 M4N型結晶構造
21 遷移金属原子
22 窒素原子
2 単セル
3 燃料電池用セパレータ
4 エンドフランジ
5 締結ボルト
10 基材
10a 表面
10b 界面
11 窒化層
12 基層
13 通路
14 平板部
20 M4N型結晶構造
21 遷移金属原子
22 窒素原子
Claims (9)
- Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなる基材の表面を窒化処理することにより得られる燃料電池用セパレータであって、
前記基材の表面から深さ方向に立方晶の結晶構造を有する窒化層を備え、前記窒化層は厚さが0.5〜5[μm]の範囲にあり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。 - 前記表面粗さがRaが0.5[μm]以上であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記立方晶の結晶構造は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記窒化層の最表面から10[nm]深さで、窒素量が20[at%]以上かつ酸素量が25[at%]以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記窒化層の最表面から100[nm]深さで、窒素量が20[at%]以上かつ酸素量が20[at%]以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
- Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属元素を含む合金からなり、Raが0.3[μm]以上の表面粗さを有する基材の表面を500[℃]以下の温度でプラズマ窒化処理するプラズマ窒化処理工程を含み、前記プラズマ窒化処理工程により、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択された遷移金属原子によって形成される面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
- 前記プラズマ窒化処理工程は、窒素ガス及び水素ガスを放電させた低温非平衡プラズマ中で、前記基材にマイナスのバイアス電圧をかけることにより行うことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
- 請求項1乃至請求項5のいずれか一項に係る燃料電池用セパレータを有することを特徴とする燃料電池スタック。
- 請求項8に係る燃料電池スタックを動力源として備えることを特徴とする燃料電池車両。
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CN111971833A (zh) * | 2018-01-17 | 2020-11-20 | 努威拉燃料电池有限责任公司 | 燃料电池板和流动结构设计 |
-
2005
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JP2021511630A (ja) * | 2018-01-17 | 2021-05-06 | ヌヴェラ・フュエル・セルズ,エルエルシー | 燃料セルプレートおよび流れ構造設計 |
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