JP2007073375A - 燃料電池用ケーシング部材、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用ケーシング部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 耐食性に優れかつ低コストの燃料電池ケーシング部材、燃料電池スタック及びこれを搭載した燃料電池車両を提供する。
【解決手段】 燃料電池用ケーシング部材は、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材Mの表面に、立方晶の結晶構造を有する窒化層Msを備える。
【選択図】図7
【解決手段】 燃料電池用ケーシング部材は、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材Mの表面に、立方晶の結晶構造を有する窒化層Msを備える。
【選択図】図7
Description
この発明は、燃料電池用ケーシング部材、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用ケーシング部材の製造方法に関し、特にステンレス鋼を用いて形成する燃料電池用ケーシング部材に関する。
地球環境保護の観点から、燃料電池を自動車の内燃機関に代えて作動するモーターの電源として利用し、このモーターにより自動車を駆動することが検討されている。この燃料電池は、資源の枯渇問題を有する化石燃料を使う必要がないため排気ガス等を発生することがない。また、燃料電池は騒音がほとんど発生せず、更にはエネルギーの回収効率も他のエネルギー機関と比べて高くすることが可能である等の優れた特徴を有している。
燃料電池は、使用される電解質の種類に応じて、固体高分子電解質型、リン酸型、溶融炭酸塩型及び固体酸化物型等がある。そのうちの一つである固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質として分子中にプロトン交換基を有する高分子電解質膜を使用して、高分子電解質膜を飽和に含水させるとプロトン伝導性電解質として機能することを利用した電池である。固体高分子電解質型燃料電池は比較的低温で作動し、かつ発電効率が高い。更には、固体高分子電解質型燃料電池は他の付帯設備と共に小型で軽量であるため、電気自動車搭載用を始めとする各種の用途が見込まれている。
上記固体高分子電解質型燃料電池は燃料電池スタックを有する。燃料電池スタックは、電気化学反応により発電を行う基本単位となるセルを複数個積層したセル積層体の両端部をエンドプレートで挟み、締結ボルトにより加圧保持して構成される。セルは、高分子電解質膜とその両側に接合されるアノード(水素極)とカソード(酸素極)により構成される。
図22は、燃料電池スタックを形成するセルの構成を示す断面図である。図22に示すように、セル200は、固体高分子電解質膜201の両側に酸素極202及び水素極203を接合して一体化した膜電極接合体を有する。酸素極202及び水素極203は、反応膜204及びガス拡散層205(GDL:gas diffusion layer)を備えた2層構造であり、反応膜204は固体高分子電解質膜201に接触している。酸素極202及び水素極203の両側には、積層のために酸素極側セパレータ206及び水素極側セパレータ207が各々設置されている。そして、酸素極側セパレータ206及び水素極側セパレータ207により、酸素ガス流路、水素ガス流路及び冷却水流路が形成されている。
上記構成のセル200は、固体高分子電解質膜201の両側に酸素極202、水素極203を配置して、通常、ホットプレス法により一体に接合して膜電極接合体を形成し、次に膜電極接合体の両側にセパレータ206、207を配置して製造する。上記セル200から構成される燃料電池では、水素極203側に、水素、二酸化炭素、窒素、水蒸気の混合ガスを供給し、酸素極202側に空気及び水蒸気を供給すると、主に、固体高分子電解質膜201と反応膜204との間の接触面において電気化学反応が起こる。以下、より具体的な反応について説明する。
上記構成のセル200において、酸素ガス流路及び水素ガス流路に加湿された酸素ガス及び水素ガスが各々供給されると、酸素ガス及び水素ガスが各ガス拡散層205を介して反応膜204側に供給され、各反応膜204において以下に示す反応が起こる。
水素極側:H2 →2H+ +2e- ・・・式(1)
酸素極側:(1/2)O2+2H+ + 2e-→H2O ・・・式(2)
水素極203側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+ とe-とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜201内を移動して酸素極202側に流れ、e- は負荷208を通って水素極203から酸素極202に流れる。酸素極202側では、H+とe-と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
酸素極側:(1/2)O2+2H+ + 2e-→H2O ・・・式(2)
水素極203側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+ とe-とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜201内を移動して酸素極202側に流れ、e- は負荷208を通って水素極203から酸素極202に流れる。酸素極202側では、H+とe-と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
以上のように、燃料電池セルに供給される酸素ガスおよび水素は加湿されておりまた発電時には燃料電池セルから水が生成されるため、周囲に水分が漏れると燃料電池スタックの周囲は多湿環境になるおそれがある。そのため、セル積層体をまとめてユニット化するためのエンドプレート、タイロッド、スタックケーシングなどの部材も多湿環境下にさらされるおそれがあるため、多湿環境下における耐食性を有することが求められる。また、発電時には燃料電池セルは強酸性を示すので、酸に対する耐食性を有することが好ましい。
そのため、従来のエンドプレートには、基材の表面に金メッキを施したものがある。
なお、燃料電池用セパレータは、加湿ガスおよび冷却水が流通する流路を備えるとともに強酸性を示す膜電極集合体(電解質膜、酸化極、燃料極)と直接接触するため、ステンレス鋼に直接金めっき層を形成したもの(特許文献1参照)や、ステンレス鋼の一部の不動態皮膜を除去してそこに貴金属又は貴金属合金を付着させたもの(特許文献2参照)などが提案されている。
特開平10−228914号公報(第2頁、第2図)
特開2001−6713号公報(第2頁)
しかしながら、貴金属を基材の表面にメッキ又はコーティングさせると製造時に手間がかかるだけではなく、素材コストもかかる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、第1の発明である燃料電池用ケーシング部材は、遷移金属元素を含む合金からなる基材の表面に、立方晶の結晶構造を有する窒化層が形成されたものであることを要旨とする。
また、第2の発明である燃料電池用ケーシング部材の製造方法は、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材に500[℃]以下の温度で窒化処理を施す窒化工程により、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成する工程を有することを要旨とする。
更に、第3の発明である燃料電池スタックは、上記第1の発明である燃料電池用ケーシング部材を用いたことを要旨とする。
また、第4の発明である燃料電池車輌は、上記第3の発明である燃料電池スタックを搭載し、これを動力源として用いたことを要旨とする。
第1の発明によれば、耐食性に優れかつ低コストの燃料電池用ケーシング部材が得られる。
第2の発明によれば、耐食性に優れかつ低コストの燃料電池用ケーシング部材の製造が容易になる。
第3の発明によれば、耐食性に優れかつ低コストの燃料電池用ケーシング部材を利用したことで、該ケーシング部材を薄肉軽量化でき、結果、燃料電池スタックを小型化及び低コスト化できる。
第4の発明によれば、小型化及び低コスト化した燃料電池スタックを搭載することにより、走行距が延長すると共にスタイリングの自由度を確保することができる。
以下、本発明の実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材、燃料電池スタック、燃料電池車両及び燃料電池用ケーシング部材の製造方法について、固体高分子型燃料電池に適用した例を挙げて説明する
第1実施形態
(燃料電池)
まず、本発明の第1実施形態にかかる燃料電池スタックを有する発電装置としての燃料電池について説明する。図1は燃料電池の分解斜視図である。
第1実施形態
(燃料電池)
まず、本発明の第1実施形態にかかる燃料電池スタックを有する発電装置としての燃料電池について説明する。図1は燃料電池の分解斜視図である。
図1に示すように、発電装置としての燃料電池1は、ケーシング2と、ケーシング2内に収容される1以上(この例では3つ)の燃料電池スタック10と、を備えて構成されている。ケーシング2は、容器状のケーシング本体部2aと、このケーシング本体部2aの上部開口部を覆う蓋体2bと、を備える。
(燃料電池スタック)
次に、燃料電池スタック10の概略構造を主に図2〜4を参照しつつ説明する。図2は図1の燃料電池に用いる燃料電池スタック10を模式的に示す斜視図である。図3は図2の燃料電池スタックの側面図である。図4は図3に示す燃料電池スタック10の構成を模式的に示す分解斜視図である。
次に、燃料電池スタック10の概略構造を主に図2〜4を参照しつつ説明する。図2は図1の燃料電池に用いる燃料電池スタック10を模式的に示す斜視図である。図3は図2の燃料電池スタックの側面図である。図4は図3に示す燃料電池スタック10の構成を模式的に示す分解斜視図である。
燃料電池スタック10は、図2、3に示すように、燃料電池セル20を複数積層したセル積層体(燃料電池スタックのコア部)10aと、このセル積層体10aの積層方向両側に配置された集電板12と、この集電板12のさらに積層方向外側に配置された絶縁板13と、この絶縁板13のさらに積層方向外側に配置されたエンドプレート14と、を備えている。積層方向最外側の一対のエンドプレート14は、締結手段としてのタイロッド16によって所定の圧力で締め付けられることで、積層方向中央側のセル積層体10aを挟み込んで拘束している。
なお、締結方法としては、図2、3に示すようにセル積層体10aを貫通するタイロッド16で締め付けてもよいし、図4に示すようにセル積層体10aを貫通させることなくエンドプレート14同士をタイロッド16で締め付ける構造としてもよい。また、タイロッド16に限られず、両エンドプレート14に跨って固定されるテンションプレート(後述する第3、第4、第5実施形態参照)や、燃料電池スタック10全体を周回するように巻き付けられたバンド(後述する第6実施形態参照)などにより締め付ける構造としてもよい。
複数多段に積層された燃料電池セル20は、それぞれ電気化学反応により発電を行う基本単位であり、積層されることで電気的に直列接続されている。そのため、燃料電池セル20を複数多段に積層したセル積層体10aは、それ自体が1つの電池として見なすことができ、このセル積層体10aの積層方向両側に直接接触する集電板12がセル積層体10aのプラス極とマイナス極とを構成することとなる。この集電板12からは端子部15が突設され、この端子部15を通じて燃料電池スタック10のセル積層体10aに、他の回路を電気的に接続することができるようになっている。なお、この実施形態では、図1に示すように、各燃料電池スタック10が強電用電線としてブスバー6によって互いに電気的に接続(この例では直列に接続)されるとともに、ブスバー8(図1中概略的に示す)を介して外部端子7に接続されることで、燃料電池スタック10で発電された電力をケーシング2外に取り出せるようになっている。
また、燃料電池スタック1は、図2に示すように、各セル20に対して水素を含有する燃料ガス(例えば水素ガスH2)を供給するための燃料ガス供給ラインHと、各セル20に対して酸素を含有する酸化ガス(例えば空気AIR)を供給する酸化ガス供給ラインAと、各セル20に対して冷却液(例えば冷却水LLC)を供給する冷却水供給ラインLと、を内部に備えている。そして、燃料電池スタック1の積層方向端部には、図2に示すように燃料ガス供給ラインの入口H14および出口H′14、酸化ガス供給ラインの入口A14および出口A′14、冷却水供給ラインの入口L14および出口L′14が開口し、これらの開口が、ケーシング2に取り付けられた配管部材3に接続されている(図1参照)。これにより、ケーシング2外からケーシング2内の燃料電池スタック10に燃料ガス、酸化ガスおよび冷却水を供給して利用したのち、再びケーシング2外に排出できるようになっている(図1参照)。なお、配管部材3は、図1に示すようにケーシング2外に位置し且つ図示せぬ外部配管を接続する複数の筒状のコネクタ部5と、ケーシング2内に位置する分配部4と、を備える。分配部4は、各コネクタ部5を、燃料電池スタック10の所望の開口(H14、H′14、A14、A′14、L14、L′14)に連通接続するために、内部に図示せぬ複数の通路を備える。
(燃料電池セル)
次に、燃料電池セル20を図5および図6を参照しつつ説明する。図5は図3中のV−V線に沿う燃料電池スタック10の積層方向端部付近の断面図である。図6は燃料電池セル20の断面図である。
次に、燃料電池セル20を図5および図6を参照しつつ説明する。図5は図3中のV−V線に沿う燃料電池スタック10の積層方向端部付近の断面図である。図6は燃料電池セル20の断面図である。
この実施形態の燃料電池セル20は、固体高分子電解質型の燃料電池セルである。この燃料電池セル20は、電気化学反応により発電を行う基本単位となるものであって、図5および図6に示すように、膜電極集合体21(UEA)と、この膜電極集合体21の両側に配置されたセパレータ25、26と、を備えて構成される。
膜電極集合体21は、イオン交換膜によって形成される電解質膜22と、この電解質膜22の一方の面に配置されたアノード電極(燃料極)23と、電解質膜22の他方の面に配置されたカソード電極(空気極)24と、を備えて構成される。アノード電極23およびカソード電極24は、いわゆるガス拡散電極であり、触媒層23a、24aとガス拡散層23b、24bとから構成されている。
図5、6に示すように、アノード電極23側のセパレータ25には、アノード電極23に接合される側の面に燃料ガス流路27が凹設され、カソード電極側のセパレータ26には、カソード電極24に接合される面に酸化ガス流路28が凹設されている。また、発電時に生じる熱を冷却するために、隣接するセル20同士の接合面には(つまりアノード電極側のセパレータ25とカソード電極側のセパレータ26との接合面には)、冷却水流路29が形成されている。
酸化ガス流路28には、図5に示すようにスタック10の積層方向に向けて貫通形成された酸化ガス供給用貫通孔A14、A13、A12、A22、A25、A26および酸化ガス排出用貫通孔A′14、A′13、A′12、A′22、A′25、A′26が、連通接続され、これにより上述した酸化ガス供給ラインAが形成される。
また同様にして、燃料ガス流路27には、スタック10の積層方向に向けて貫通形成された燃料ガス供給用貫通孔(図示せず)および燃料ガス排出用貫通孔(図示せず)が連通接続され、これにより、上述した燃料ガス供給ラインHが形成される。
また同様にして、冷却水流路29には、スタック10の積層方向に向けて貫通形成された冷却液供給用貫通孔(図示せず)および冷却液排出用貫通孔(図示せず)が連通接続され、これにより、上述した冷却水供給ラインLが形成される。
(燃料電池セルの材質)
ここで、燃料電池セル20の材質を補足すると、電解質膜22は、固体高分子材料によって構成されており、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。例えば、この固体高分子型電解質膜22としては、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂膜等を使用することができる。
ここで、燃料電池セル20の材質を補足すると、電解質膜22は、固体高分子材料によって構成されており、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。例えば、この固体高分子型電解質膜22としては、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂膜等を使用することができる。
電極23、24のガス拡散層23b、24bは、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスやカーボンペーパ、あるいはカーボンフェルトなど充分なガス拡散性及び導電性を有する部材によって構成されている。また、電極23、24の触媒層23a、24aは白金が担持されたカーボンブラックから構成されている。なお、触媒層23a、24aはガス拡散層に担持され電極を形成するとは限らず、電解質膜22の表面に触媒としての白金または白金と他の金属から形成される合金が担持されている場合がある。この場合、アノード電極23及びカソード電極24は、ガス拡散層23b、24bの表面に撥水層が積層されたガス拡散層接合体として形成される。
また、セパレータ25、26は、各セル20間を電気的に接続する機能を有するため、電気伝導性が良いとともに接触抵抗が低い材料であり、且つ、発電時に強酸性を示す膜電極集合体21と直接接触するため、耐食性を有する材料によって形成されている。
(燃料電池用ケーシング部材)
次に、セル積層体10aをまとめてユニット化するための燃料電池用ケーシング部材の構造を図7に基づいて説明する。
次に、セル積層体10aをまとめてユニット化するための燃料電池用ケーシング部材の構造を図7に基づいて説明する。
図7(a)は、燃料電池用ケーシング部材の模式的斜視図、図7(b)は、燃料電池用ケーシング部材のIIIb−IIIb線断面図、図7(c)は、燃料電池用ケーシング部材のIIIc−IIIc線断面図である。
燃料電池用ケーシング部材(この例ではケーシング2およびエンドプレート4およびタイロッド16)は、セル積層体10aから漏れでる可能性のある水分に対する耐食性が高い材料で形成されている。
具体的には本実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材は、図7(a)に示すように、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材Mを、必要に応じてプレス成形することにより所定の形状にし、そして、その表面に、図7(b)(c)に示すように立方晶の窒化層Msを形成したものである。なお、図7中の燃料電池ケーシング部材には、一つの面のみにしか窒化層Msが形成されていないが、本実施形態の燃料電池ケーシング部材は、表面の全てに(全ての面に)窒化層Msが形成されたものである。
このように本実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材は、遷移金属又は遷移金属の合金を基材とし、基材表面から深さ方向に立方晶の結晶構造を有する窒化層を設けた構成であるため、窒化層中の遷移金属原子が窒素原子との間で共有性に富んだ結合を形成していることに加え、金属原子間には金属結合が形成されている。立方晶の結晶構造を有する窒化層は、水分に対して安定であるし又、燃料電池として通常使用されるpH2〜3の強酸性雰囲気においても化学的に安定であるため、耐食性に優れる。また、従来のように、金メッキ層を施さなくてもよいため、低コスト化が実現可能となる。
基材は、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含むステンレス鋼であることが好ましい。このような元素を含有するステンレス鋼として、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系のステンレス鋼が挙げられる。これらの中でも、基材は、特にオーステナイト系ステンレス鋼から形成することが好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS310S、SUS316L、SUS317J1、SUS317J2、SUS321、SUS329J1、SUS836等が挙げられる。
立方晶の結晶構造は、より具体的には、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)の群から選ばれる少なくとも一種以上の金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造であることが好ましい。M4N型の結晶構造を図8に示す。図8に示すように、M4N型の結晶構造45は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子46によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子47が配置された構造である。このM4N型の結晶構造45において、Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子46を表し、Nは窒素原子47を表す。窒素原子47はM4N型の結晶構造45の単位胞中心の八面体空隙の1/4を占有する。すなわち、M4N型の結晶構造45は、遷移金属原子46の面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子47が侵入した侵入型固溶体であり、立方晶の空間格子で表すと、窒素原子47は各単位胞の格子座標(1/2,1/2,1/2)に位置する。M4N型の結晶構造とすることにより、遷移金属原子46間の金属結合を維持したまま、遷移金属原子46と窒素原子47との間で強い共有結合性を示す。
また、このM4N型の結晶構造45では、遷移金属原子46はFeを主体としていることが好ましいが、FeがCr、Ni、Moなどの他の遷移金属原子と一部置換した合金であっても良い。
そして、このM4N型の結晶構造では、高密度の転位や双晶を伴い、硬さも1000[HV]以上と高く、窒素が過飽和に固溶したfccまたはfct構造の窒化物であると考えられている(安丸、蒲池;日本金属学会誌,50,pp362−368,1986)。そして、表面に近いほど窒素濃度が高いことや、CrNが主成分とならないため、耐食性に有効なCrが減少せずに窒化後も耐食性が保たれる。このように、窒化層が少なくともFe、Cr、Ni、Moの群から選ばれる少なくとも一種以上の遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する場合には、pH2〜3の強酸性雰囲気における耐食性を一段と優れたものとなる。
なお、窒化層の厚さは基材表面に厚さ0.5〜5[μm]の範囲で形成されていることが好ましい。この場合には、強酸性雰囲気における耐食性に優れる。なお、窒化層の厚さが0.5[μm]を下回る場合には、窒化層と基材との間に亀裂が発生したり、窒化層と基材との密着強度が不足することにより長時間使用すると窒化層が基材との界面から剥がれ易くなるため長時間の使用では充分な耐食性が得られにくくなる。また、窒化層の厚さが5[μm]を上回る場合には、窒化層の厚さの増大とともに窒化層内の応力が過大になって窒化層に亀裂が発生し、燃料電池用ケーシング部材に孔食が発生し易くなり、耐食性の向上に寄与しにくくなる。
このように、上記した構成を採用したことにより、耐食性に優れた燃料電池用ケーシング部材を低コストで生産できる。また、このような本発明の実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材を用いた燃料電池スタックは、耐食性に優れたケーシング部材を薄肉軽量化することで、小型化及び低コスト化を実現できる。
なお、ケーシング部材の接触抵抗を低くしたい場合には、以下のような構成にすると好ましい。
つまり、ケーシング部材の接触抵抗を低くしたい場合には、窒化層の極表面の窒素量が10[at%]以上かつ酸素量が35[at%]以下であることが好ましい。ここで、窒化層の極表面とは、窒化層の最表面から3〜4[nm]の深さ、つまり原子数十層程度の深さの原子層をさす。また、最表面とは、窒化層の最外部の原子一層をさす。遷移金属の表面に吸着した酸素分子の被覆率が高くなると、遷移金属原子と酸素原子との間に明瞭な結合が形成する。これが遷移金属原子の酸化である。このような遷移金属表面の酸化は、まず最外部の第一原子層が酸化されることによって起こる。第一原子層の酸化が終わると、次に、第一原子層へ吸着した酸素が遷移金属内の自由電子をトンネル効果によって受け取り、酸素が負イオンになる。そして、この負イオンによる強い局部電場のために、遷移金属イオンが遷移金属内部から表面上に引っ張り出され、引っ張り出された遷移金属イオンが酸素原子と結合する。すなわち二層目の酸化膜が生成する。このような反応が次から次へと起こって酸化膜が厚くなっていく。このように、窒化層中の酸素量が35[at%]より多い場合には、絶縁性の酸化膜が形成されやすくなる。これに対し、このように、窒化層の極表面の窒素量が10[at%]以上かつ酸素量が35[at%]以下である場合には、酸化膜の成長を抑制できて他の部材との接触抵抗を低く抑えることが可能となり、かつ、多湿雰囲気および強酸性雰囲気における耐食性に優れた燃料電池用ケーシング部材を得ることができる。
つまり、ケーシング部材の接触抵抗を低くしたい場合には、窒化層の極表面の窒素量が10[at%]以上かつ酸素量が35[at%]以下であることが好ましい。ここで、窒化層の極表面とは、窒化層の最表面から3〜4[nm]の深さ、つまり原子数十層程度の深さの原子層をさす。また、最表面とは、窒化層の最外部の原子一層をさす。遷移金属の表面に吸着した酸素分子の被覆率が高くなると、遷移金属原子と酸素原子との間に明瞭な結合が形成する。これが遷移金属原子の酸化である。このような遷移金属表面の酸化は、まず最外部の第一原子層が酸化されることによって起こる。第一原子層の酸化が終わると、次に、第一原子層へ吸着した酸素が遷移金属内の自由電子をトンネル効果によって受け取り、酸素が負イオンになる。そして、この負イオンによる強い局部電場のために、遷移金属イオンが遷移金属内部から表面上に引っ張り出され、引っ張り出された遷移金属イオンが酸素原子と結合する。すなわち二層目の酸化膜が生成する。このような反応が次から次へと起こって酸化膜が厚くなっていく。このように、窒化層中の酸素量が35[at%]より多い場合には、絶縁性の酸化膜が形成されやすくなる。これに対し、このように、窒化層の極表面の窒素量が10[at%]以上かつ酸素量が35[at%]以下である場合には、酸化膜の成長を抑制できて他の部材との接触抵抗を低く抑えることが可能となり、かつ、多湿雰囲気および強酸性雰囲気における耐食性に優れた燃料電池用ケーシング部材を得ることができる。
また、窒化層の最表面から10[nm]深さにおいて、窒素量が15[at%]以上かつ酸素量が26[at%]以下であることが好ましく、更には窒素量が18[at%]以上かつ酸素量が22[at%]以下であることがより好ましい。この場合には、強酸性雰囲気における耐食性に優れ、かつ他の部材との接触抵抗を低くおさえることが可能となる。なお、この範囲からはずれる場合には、接触抵抗が高くなる。
さらに、ケーシング部材の接触抵抗を低くしたい場合には、窒化層の最表面から100[nm]〜200[nm]深さにおいて、窒素量が16[at%]以上かつ酸素量が21[at%]以下であることが好ましい。この場合には、窒化層中の窒素原子のケミカルポテンシャルを高めて、遷移金属原子の活量をより一層小さく抑えた状態で遷移金属原子が窒素原子と化合物を形成すると、遷移金属原子の自由エネルギーが下がり、遷移金属原子の酸化に対する反応性を低くすることができ、遷移金属原子が化学的に安定する。このため、酸素原子は受け取る自由電子がなくなり、遷移金属原子を酸化しなくなるため酸化膜の成長を抑えることができ、耐食試験後の接触抵抗を低く抑えることが可能となる。
(燃料電池用ケーシング部材の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材の製造方法の実施形態について説明する。この燃料電池用ケーシング部材の製造方法は、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材に500[℃]以下の温度で窒化処理を施す窒化工程により、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成する工程を有することを特徴とする。
次に、本発明の実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材の製造方法の実施形態について説明する。この燃料電池用ケーシング部材の製造方法は、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材に500[℃]以下の温度で窒化処理を施す窒化工程により、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成する工程を有することを特徴とする。
ステンレス鋼の表面に高温で窒化処理を施すと、窒素が基材中のCrと結びつき、主としてNaCl型の結晶構造を有するCrN等の窒化物を析出するために燃料電池用ケーシング部材の耐食性が低下する。これに対し、500[℃]以下の温度で窒化処理を施すと基材表面には、主としてNaCl型の結晶構造を有するCrN等の窒化化合物ではなく、Fe、Cr、Ni、Moの群から選ばれる少なくとも一種以上の金属原子によって形成された面心立方格子または面心正方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置された結晶構造が形成される。この結晶構造は、窒化層の中でも特に耐食性に富むため、500[℃] 以下の低温で窒化処理を施すことにより燃料電池用ケーシング部材の耐食性が向上する。そのため、優れた耐久信頼性を有する燃料電池用ケーシング部材を低コストにより得ることができる。なお、他の部材との接触抵抗を低く抑えることができる効果もある。
なお、窒化温度が350[℃]を下回る場合には、この結晶構造を有する窒化層を得るためには長時間の処理を必要とするために生産性が悪化する。このため、窒化処理は350〜500[℃]の範囲で、より好ましくは350〜500[℃]で行うのが好ましい。
また、窒化処理は、プラズマ窒化法であることが好ましい。窒化処理にはガス窒化法、ガス軟窒化法、塩浴法、プラズマ窒化法などを利用することが可能である。ガス軟窒化法は窒化処理中の酸素分圧が高いため窒化層中の酸素量が高くなる。これに対し、窒化処理のうち、プラズマ窒化法は、被処理物を陰極とし、直流電圧を印加して発生するグロー放電によって窒素ガスをイオン化し、イオン化した窒素が被処理物の表面へ高速加速衝突することで窒化する方法である。このため、プラズマ窒化法では、イオン衝撃によるスパッタリング作用により被処理物であるステンレス鋼表面の不動態皮膜を容易に除去しつつ窒化するためステンレス鋼に適した窒化方法であり、かつ非平衡反応によって基材中に窒素イオンを浸透させるために、上記結晶構造を短時間で容易に得ることができ、耐食性が向上する。
次に、本発明の実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材の製造方法に用いる窒化装置の構成を図9に基づいて説明する。図9は、本実施形態の燃料電池用ケーシング部材の製造方法に使用される窒化装置の構成を示す側面模式図である。図9に示すように、窒化装置30は、バッチ式の窒化炉31と、この窒化炉31に雰囲気ガスを供給するガス供給装置32と、窒化炉31内でプラズマを発生させるプラズマ電極33a、33b及びこれらの電極33a、33bに直流電圧を供給する直流電源33と、窒化炉31内のガスを排出するポンプ34と、窒化炉31内の温度を検知する温度センサ37とを含んでいる。窒化炉31は内壁31a及び外壁31bを有し、内壁31aの天井部31cには燃料電池用ケーシング部材の形状に加工したステンレス鋼箔44を吊下するステンレス製のハンガ36が設けられる。ガス供給装置32は、ガス室38とガス供給管路39とを有し、ガス室38には開口部が設けられ、この開口部にはそれぞれガス供給弁が設置され、H2ガス、N2ガス、Arガスが供給されている。窒化炉31の天井部31cには、ガス供給管路39の他端と連通する開口31dを有する。ガス供給管路39にはガス供給弁が設けられている。窒化炉31内のガス圧は、窒化炉31の底部31eに設けられたガス圧センサ40によって検知される。窒化炉31には冷却水流路(不図示)が設けられ、冷却水は窒化炉31の外壁31bに設けられた開口31fから冷却水流路に流入し、開口31gから流出する。開口31fには冷却水供給弁が設けられ、冷却水の流量を調節する。ポンプ34は、上記底部31eに設けられた開口31hと連通する排出管路41と接続される。温度センサ37は、窒化炉31の外壁31bに設けられた設置口31iに設置される。
窒化装置30には、グロー放電のために操作盤43から制御される直流電源33の他に、バイアス用のポテンショメータ35が設けられている。直流電源33は陽(+)極33aが窒化炉31の内壁31aに接続され、陰(−)極33bが接地されている。ポテンショメータ35は、バイアス用直流電源端子35cと接地回路35dとの間の電位差を、可動接触子により0[V]からバイアス電圧の範囲で分圧し、それにより得た電圧をバイアス回路35aを介して各ステンレス鋼箔44に供給する。直流電源33は操作盤43からの制御信号によりオン、オフされる。ポテンショメータ35は、操作盤43からバイアス制御回路35bを介してバイアス制御信号が供給され、この制御信号に応じて可動接触子が摺動する。従って、各ステンレス鋼箔44は、内壁31aに対し、直流電源33の端子間電圧と、可動接触子を介して供給されるバイアス電圧とを加えた電圧差を有する。なお、ガス供給装置32及びガス圧センサ40も、操作盤43によって制御される。
プラズマ窒化には窒素ガス及び水素ガスを使用し、窒素ガス及び水素ガスを放電させた低温非平衡プラズマ中においてステンレス鋼材にマイナスのバイアス電圧をかけることにより、ステンレス鋼材を400〜500[℃]の温度で窒化を行うことが好ましい。プラズマ窒化処理では、イオン衝撃によるスパッタリング作用により金属材料表面の不動態皮膜を容易に除去できる。
また、通常使用されるガス窒化や塩浴窒化を用いて窒化処理を行った場合には、窒化層の数〜数十[nm]オーダの最表層では酸化が起きて絶縁性酸化物が形成されるため、他の部材との接触抵抗が増大する。これに対し、本発明のようにプラズマ窒化の手法を用いた窒化処理では、金属材料表面の酸素を除去しながら窒化反応を進めることができるため、窒化後の金属材料の最表層の酸素レベルを十分に低く抑えることが可能となる。さらに、他の部材との接触抵抗を低い値に維持できる効果もある。
また、プラズマ窒化処理をする際の処理条件は、温度400〜500[℃]、処理時間10〜60[分]、ガス混合比N2:H2=3:7〜7:3、処理圧力3〜7[Torr](=399〜931[Pa])とすることが好ましい。窒化処理条件を本範囲に規定したのは、処理時間が10[分]未満になると窒化層が形成されないからであり、逆に、処理時間が60[分]を超えると製造コストが高騰するからである。さらに、ガス混合比を本範囲に規定したのは、ガス中の窒素の割合が減少すると窒化層を形成することができないからであり、逆に、窒素の割合が増大すると還元剤として作用する水素量が減少して、基材表面が酸化されてしまうからである。このような処理条件下でプラズマ窒化処理をすることにより、M4N型の結晶構造を有する窒化層を基材表面に形成することができる。
このように、本発明の実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材の製造方法によれば、簡便な操作により、耐食性に優れ、かつ低コスト化を実現した燃料電池用ケーシング部材を製造することが可能となる。
(燃料電池車両)
本発明の実施形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施形態に係る燃料電池スタックを動力源とした燃料電池電気自動車を挙げて説明する。
本発明の実施形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施形態に係る燃料電池スタックを動力源とした燃料電池電気自動車を挙げて説明する。
図10は、燃料電池スタック10を搭載した燃料電池電気自動車の外観を示す図である。図10(a)は燃料電池電気自動車50の側面図、図10(b)は燃料電池電気自動車50の上面図である。図10(b)に示すように、車体51前方には、左右のフロントサイドメンバとフードリッジのほか、フロントサイドメンバを含む左右のフードリッジ同士を互いに連結するダッシュロア部材をそれぞれ組み合わせて溶接接合したエンジンコンパートメント部52を形成している。図10(a)及び(b)に示す燃料電池電気自動車50では、エンジンコンパートメント部52内に燃料電池スタック10を搭載している。
本発明の実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材を適用した燃料電池スタック10を自動車等の移動体車両に搭載することにより、燃料電池電気自動車の燃費向上を図ることができる。つまり耐食性に優れたケーシング部材を用いることによりケーシング部材を従来よりも薄肉軽量化して燃料電池スタック10の小型化を図り、このような小型化した軽量の燃料電池スタック10を車両に搭載することにより、車両重量を低減して省燃費化を図ることができ、走行距離の長距離化を図ることができる。さらに、小型化した燃料電池を移動体車両等に搭載することにより、車室内空間をより広く活用することができ、スタイリングの自由度を高めることができる。
なお、燃料電池車両の一例として電気自動車を挙げたが、本発明は電気自動車等の車両に限定されるものではなく、電気エネルギーが要求される航空機その他の機関にも適用することが可能である。
以下、本発明の実施形態に係る燃料電池用ケーシング部材の実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例5について説明する。これらの実施例は、本発明に係る燃料電池用ケーシング部材の有効性を調べたもので、異なる原料に対して異なる条件下で処理して各試料を調製したものであり、例示した実施例に限定されるものではない
<試料の調製>
各実施例及び比較例では、表1に示すように、基材として、板厚0.1[mm]の、JIS規格のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS316、SUS316L、SUS310)、のそれぞれの光輝焼鈍(BA)材を用いた。これらの基材を脱脂洗浄後、両面にプラズマ窒化処理(直流電流グロー放電によるプラズマ窒化処理)を施した。この表1に示すように、プラズマ窒化条件は、処理温度350〜550[℃]、処理時間10〜60[分]、ガス混合比を実施例1〜6ではN2:H2=3:7〜7:3とし、処理圧力3〜7[Torr](=399〜931[Pa])とした。
<試料の調製>
各実施例及び比較例では、表1に示すように、基材として、板厚0.1[mm]の、JIS規格のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS316、SUS316L、SUS310)、のそれぞれの光輝焼鈍(BA)材を用いた。これらの基材を脱脂洗浄後、両面にプラズマ窒化処理(直流電流グロー放電によるプラズマ窒化処理)を施した。この表1に示すように、プラズマ窒化条件は、処理温度350〜550[℃]、処理時間10〜60[分]、ガス混合比を実施例1〜6ではN2:H2=3:7〜7:3とし、処理圧力3〜7[Torr](=399〜931[Pa])とした。
ここで、各試料は、以下の方法によって評価した。
<窒化層の結晶構造の同定>
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、窒化処理を施すことによって改質した基材表面をX線回折測定を行うことにより同定した。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、窒化処理を施すことによって改質した基材表面をX線回折測定を行うことにより同定した。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
<窒化層の厚さの測定>
窒化層の厚さは、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて断面観察することにより測定した。
窒化層の厚さは、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて断面観察することにより測定した。
<Feに対するCr原子比の測定及び極表面の窒素量及び酸素量の測定>
窒化層のFeに対するCr原子比の測定は、X線電子分光分析(XPS)により窒化層のFe濃度及びCr濃度を測定して求めた。また、窒化層極表面の窒素量及び酸素量をXPSを用いて測定し、測定結果より酸素量に対する窒素量の比O/Nを求めた。装置は、PHI社製 光電子分光分析装置Quantum-2000を用いた。測定は、線源としてMonochromated-Al-kα線(電圧1486.6[eV]、20.0[W])、光電子取り出し角度45[゜]、測定深さ約4[nm]、測定エリアφ200[μm]にてX線を試料に照射することにより行った。
窒化層のFeに対するCr原子比の測定は、X線電子分光分析(XPS)により窒化層のFe濃度及びCr濃度を測定して求めた。また、窒化層極表面の窒素量及び酸素量をXPSを用いて測定し、測定結果より酸素量に対する窒素量の比O/Nを求めた。装置は、PHI社製 光電子分光分析装置Quantum-2000を用いた。測定は、線源としてMonochromated-Al-kα線(電圧1486.6[eV]、20.0[W])、光電子取り出し角度45[゜]、測定深さ約4[nm]、測定エリアφ200[μm]にてX線を試料に照射することにより行った。
<窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量の測定>
窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量の測定は、走査型オージェ電子分光分析装置によって行った。装置は、PHI社製 MODEL4300を用いた。測定は、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量の測定は、走査型オージェ電子分光分析装置によって行った。装置は、PHI社製 MODEL4300を用いた。測定は、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
<耐食性の評価>
耐食性の評価は、電気化学的な手法である定電位電解試験を用いて、所定の定電位をかけた状態で一定時間保持後に溶液中に溶け出す金属イオン量を蛍光X線分析により測定し、イオン溶出量の値から耐食性の低下の度合いを評価した。
耐食性の評価は、電気化学的な手法である定電位電解試験を用いて、所定の定電位をかけた状態で一定時間保持後に溶液中に溶け出す金属イオン量を蛍光X線分析により測定し、イオン溶出量の値から耐食性の低下の度合いを評価した。
具体的には、各試料の中央部を大きさ30[mm]×30[mm]に切り出したサンプルをpH2の硫酸水溶液中で、温度80[℃]、電位1[VvsSHE]として100[時間]保持した。その後、硫酸水溶液中に溶け出したFe、Cr、Niのイオン溶出量を蛍光X線分析により測定した。
<接触抵抗値の測定>
なお、接触抵抗値の測定も行った。接触抵抗の測定は、得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して接触抵抗を測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図11(a)に示すように、電極61とサンプル62との間にカーボンペーパ63を介在させて、図11(b)に示すように、電極61a/カーボンペーパ63a/サンプル62/カーボンペーパ63b/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。この接触抵抗測定は、後述する電解試験の前後で2回測定を行った。
なお、接触抵抗値の測定も行った。接触抵抗の測定は、得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して接触抵抗を測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図11(a)に示すように、電極61とサンプル62との間にカーボンペーパ63を介在させて、図11(b)に示すように、電極61a/カーボンペーパ63a/サンプル62/カーボンペーパ63b/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。この接触抵抗測定は、後述する電解試験の前後で2回測定を行った。
以上の評価方法により評価した窒化層の結晶構造、窒化層の厚さ、窒化層の極表面の窒素量及び酸素量、酸素量に対する窒素量の比O/N、窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量、接触抵抗値及びイオン溶出量を表2に示す。
さらに、図12に、上記実施例1及び比較例1により得られた試料のX線解析パターンを示す。
比較例1では、基材であるオーステナイト由来のピークのみが明確に観測されたのに対し、実施例1では、図中γで示す基材であるオーステナイト由来のピークの他には、上記M4N型の結晶構造を示すS1〜S5のピークが観測された。ここで、Mは、Feを主体としており、Feの他にはCr、Ni、Moの合金を含む。なお、図13(a)に示す断面組織より窒化層の厚さを観測すると、実施例1においては表面に5[μm]程度の窒化層が形成されていた。このように、表面はM4N型の結晶構造をもつ窒化層に覆われているにもかかわらず、X線回折ピークは基材であるオーステナイト由来のピークも観測されている。これは、本測定条件によるX線の基材への入射深さが10[μm]程度であることから、基材を検出していると判断した。なお、実施例2〜実施例6では、実施例1と同様に基材であるオーステナイト由来のピークの他に上記M4N型の結晶構造のピークが観測された。
また、比較例2及び比較例3では、比較例1と同様に窒化層が形成されていないため、基材であるオーステナイト由来のピークのみが観測された。また、比較例4では、CrNとγ’相を示すピークが観測された。なお、γ’相は、CrがNと結合してCrNなどのCr系窒化化合物を形成するために、基材のCr濃度が低下することによってFe原子が面心立方格子を作る。そして、γ’相はこの格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が侵入した結晶構造、すなわち八面体空隙の1/4に窒素原子が配置されたFe4N型の結晶構造であり、Feの他にCrやNiの合金を含まない。このように、処理温度が500[℃]を越えた場合には、NaCl型の結晶構造を有するCrNなどのCr系窒化化合物が形成することがわかった。
次に、実施例1で得られた試料の倍率400倍による断面組織写真を図13(a)に、比較例1で得られた試料の断面組織写真を図13(b)に示す。図13(a)では、基材71の両表面に窒化層72が形成されているが、図13(b)では、基材73の表面には窒化層などの改質層が形成されていないことがわかる。
また、なお、表2に示すように、M4N型の結晶構造をもつ窒化層が形成された実施例1〜実施例6では、いずれも接触抵抗値が10.5[mΩ・cm2]以下であった。これに対し、窒化層が形成されていない比較例1〜比較例3、比較例5では著しく接触抵抗値は高かった。
また、表2に示すように、イオン溶出量を測定した結果、窒化層の厚さが0.5〜5[μm]である実施例1〜実施例6ではいずれもイオン溶出量が低く、耐食性に優れていることがわかった。
実施例と比較して、比較例1〜比較例3のようにオーステナイト系ステンレス鋼の表面を窒化処理しない場合には、基材表面に不動態膜が形成しているため接触抵抗が高い。また、不動態膜があるため、一般的にオーステナイト系ステンレス鋼は耐食性に優れているが、実施例1〜実施例6と比較すると劣ることがわかった。
更に、比較例4〜比較例5のように窒化処理を施しても、窒化層が主としてNaCl型の結晶構造を有するCrNを含む場合には、窒化処理を施していない比較例1〜比較例3と比較すると接触抵抗は低くなるが、耐食性が劣る。
また、表2よりXPSにより測定した窒化層極表面の窒素量、酸素量を及び酸素量に対する窒素量の比O/Nをみてみると、窒化層の極表面の窒素量が10[at%]以上かつ酸素量が35[at%]以下であり、O/Nが3.5以下である実施例1〜6では、いずれも接触抵抗値が40[mΩ・cm2] 以下であった。これに対し、比較例1〜比較例3のようにオーステナイト系ステンレス鋼の表面を窒化処理しない場合には、基材表面に不動態膜が存在するため極表面の酸素量が多く、O/Nも非常に高い値であった。また、比較例4では主としてCrN等のCr系窒化物が析出するようになるために、接触抵抗も低く、O/Nも低い値であったが、イオン溶出量が多く耐食性が悪化する。
次に、図14に実施例1により得られた試料の走査型オージェ電子分光分析による深さ方向の元素プロファイルを示す。図14に示すように、窒化層の最表面では窒化処理中に若干の酸素分圧が存在するために酸化膜が存在し、その酸化膜の厚さを電子が自由に行き来できるため酸素量が一番高い。しかし、電子が自由に行き来できる範囲は最表面から3〜4[nm]の深さであるため、徐々に酸素量は低くなり窒素量が増えた。また、窒化層の最表面から10[nm]深さにおいて、窒素量が18[at%]であり酸素量が22[at%]であった。そして、窒化層の最表面から100[nm]深さにおいて、窒素量が17[at%]であり酸素量が17[at%]であった。なお、スパッター深さ50[nm]あたりから、基材の成分であるFeの割合が高くなった。このときの接触抵抗値は3[mΩ・cm2]であり、イオン溶出量も低かった。このように、M4N型の結晶構造をもつ窒化層が形成された実施例1では、耐食性を満足できた。なお、接触抵抗も低く維持された。
同様に、接触抵抗値が40[mΩ・cm2]以下である実施例1〜6のいずれにおいても、窒化層の最表面から10[nm]深さにおいて、窒素量が18[at%]以上かつ酸素量が25[at%]以下であり、さらに、窒化層の最表面から100[nm]深さにおいて、窒素量が17[at%]以上かつ酸素量が18[at%]以下であった。これに対し、接触抵抗値が245以上である比較例1〜比較例3では、窒化層の最表面から10[nm]深さにおける窒素量及び酸素量が上記値からはずれており、さらには、窒化層の最表面から100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量も上記値からはずれていた。なお、不動態膜が形成されていない比較例4〜比較例5では、上記値を満足していた。
以上の測定結果より、実施例1〜実施例6は、比較例1〜比較例5に対しいずれの実施例においても立方晶の結晶構造である、Fe、Cr、Ni、Moの群から選ばれる少なくとも一種以上の遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層とすることで、イオン溶出量が少なく耐食性に優れるケーシング部材が得られることが判明した。
なお、本実施例においては、基材としてオーステナイト系ステンレス鋼を用いたが、これに限定されるものではなく、フェライト系もしくはマルテンサイト系ステンレス鋼を用いても、また、窒化処理としてプラズマ窒化処理を実施しているが、ガス窒化処理によっても同様の効果が得られる。
ここで、窒素量及び酸素量と接触抵抗値との関係について図15(a)、(b)を参照しつつ補足説明する。図15(a)、(b)に、窒素量及び酸素量と接触抵抗値との関係を示す。図15(a)は、極表面の窒素量及び酸素量と接触抵抗値との関係を示している。図15(b)は、極表面の酸素量に対する窒素量の比O/Nと接触抵抗値との関係を示している。図15(a)に示すように、極表面において窒素量が多い(窒素濃度が高い)ほど接触抵抗値が低く、酸素量が低い(酸素濃度が低い)ほど接触抵抗値が低いことが明らかとなった。これは、上記したように、窒化層中の酸素量が多い場合には基材表面に絶縁性の酸化膜が形成されるため接触抵抗値が高く、基材表面に窒化層が形成されている場合には酸化膜の成長が抑制されるため接触抵抗値が低くなるためと考えられる。同様に、図15(b)に示すように、極表面の酸素量に対する窒素量の比O/N低いほど接触抵抗値が低いことが明らかとなった。
以上の測定結果より、実施例1〜実施例6は比較例1〜比較例5に対しいずれの実施例においても、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材の表面に、立方晶の結晶構造を有する窒化層を備えることで、耐食性に優れた燃料電池用ケーシング部材が得られることが判明した。なお、電解試験前の接触抵抗値が10[mΩ・cm2]以下の低接触抵抗を示し、電解試験後の接触抵抗値も低く抑えることができることも判明した。
なお、本発明は、上述の第1実施形態に限られるものではなく、以下のような他の実施形態にも適用できる。以下、他の実施形態において第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して構成およびその作用効果の説明は省略する。
第2実施形態
図16に示す第2実施形態は、ケーシング2内に1つの燃料電池スタック10を配置した構造である点で、上述の第1実施形態の構造(すなわちケーシング2内に複数の燃料電池スタック10を収容した構造)とは異なっている。このような構造でも、第1実施形態と同様の材料からなる燃料電池用ケーシング部材(ケーシング2、エンドプレート14、タイロッド16)を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
図16に示す第2実施形態は、ケーシング2内に1つの燃料電池スタック10を配置した構造である点で、上述の第1実施形態の構造(すなわちケーシング2内に複数の燃料電池スタック10を収容した構造)とは異なっている。このような構造でも、第1実施形態と同様の材料からなる燃料電池用ケーシング部材(ケーシング2、エンドプレート14、タイロッド16)を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
第3実施形態
図17、18に示す第3実施形態は、拘束手段としてテンションプレート101を用いる点で、拘束手段としてタイロッド16を用いた第1実施形態と異なっている。第3実施形態のテンションプレート101は、板状に形成され、積層体10aを狭持する一対のエンドプレート14、14に架け渡されている。これにより、一対のエンドプレート14、14に挟み込まれたセル積層体10aが加圧された状態で拘束されている。なお、エンドプレート14とテンションプレート101との固定手段は、図17、18に示すようにボルトやリベットなどの締結手段102であってもよいし、フックなどの係止手段であってもよし、また、溶接であってもよい。
図17、18に示す第3実施形態は、拘束手段としてテンションプレート101を用いる点で、拘束手段としてタイロッド16を用いた第1実施形態と異なっている。第3実施形態のテンションプレート101は、板状に形成され、積層体10aを狭持する一対のエンドプレート14、14に架け渡されている。これにより、一対のエンドプレート14、14に挟み込まれたセル積層体10aが加圧された状態で拘束されている。なお、エンドプレート14とテンションプレート101との固定手段は、図17、18に示すようにボルトやリベットなどの締結手段102であってもよいし、フックなどの係止手段であってもよし、また、溶接であってもよい。
このような構造においても、第1実施形態と同様の材料からなる燃料電池用ケーシング部材(エンドプレート14、テンションプレート101)を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
第4実施形態
また、テンションプレートとしては、図19に示す第4実施形態の如く燃料電池スタック10のエッジ部に沿って配置される断面L字状のテンションプレート103であってもよい。このような構造においても、第1実施形態と同様の材料からなる燃料電池用ケーシング部材(エンドプレート14、テンションプレート103)を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
また、テンションプレートとしては、図19に示す第4実施形態の如く燃料電池スタック10のエッジ部に沿って配置される断面L字状のテンションプレート103であってもよい。このような構造においても、第1実施形態と同様の材料からなる燃料電池用ケーシング部材(エンドプレート14、テンションプレート103)を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
第5実施形態
また、第3実施形態のテンションプレート101は燃料電池スタック10の一面(この例では上面および下面)の全面を覆う幅で形成されているが、図20に示す第5実施形態のように、幅狭の帯状のテンションプレート105を用いてもよい。このような構造においても、第1実施形態と同様の材料からなる燃料電池用ケーシング部材(エンドプレート14、テンションプレート105)を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
また、第3実施形態のテンションプレート101は燃料電池スタック10の一面(この例では上面および下面)の全面を覆う幅で形成されているが、図20に示す第5実施形態のように、幅狭の帯状のテンションプレート105を用いてもよい。このような構造においても、第1実施形態と同様の材料からなる燃料電池用ケーシング部材(エンドプレート14、テンションプレート105)を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
第6実施形態
図21に示す第6実施形態は、燃料電池スタック10全体に巻き付けられたバンド106により締め付けた構造である。なお、拘束手段としてのバンド106は、帯状の板金の端部106a、106b同士が溶接などにより互いに固定されることで構成されている。また、この第6実施形態では、一方のエンドプレート14が二枚に分割され、この二枚の間にその間隔の変動を吸収する変動吸収部材91(例えば皿ばねや板ばねなど)が介在して、各セル20に加わる積層方向の加圧力を一定に保つように構成されている。このような構造でも、第1実施形態と同様の材料からなる燃料電池用ケーシング部材(ケーシング2、エンドプレート14、バンド106)を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
図21に示す第6実施形態は、燃料電池スタック10全体に巻き付けられたバンド106により締め付けた構造である。なお、拘束手段としてのバンド106は、帯状の板金の端部106a、106b同士が溶接などにより互いに固定されることで構成されている。また、この第6実施形態では、一方のエンドプレート14が二枚に分割され、この二枚の間にその間隔の変動を吸収する変動吸収部材91(例えば皿ばねや板ばねなど)が介在して、各セル20に加わる積層方向の加圧力を一定に保つように構成されている。このような構造でも、第1実施形態と同様の材料からなる燃料電池用ケーシング部材(ケーシング2、エンドプレート14、バンド106)を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
なお、本発明にかかる燃料電池ケーシング部材には必要に応じて表面にさらに絶縁皮膜処理を施してもよい。また、本発明の技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。
1 燃料電池
2 ケーシング(燃料電池ケーシング部材)
10 燃料電池スタック
10a セル積層体
14 エンドプレート(燃料電池ケーシング部材)
16 タイロッド(燃料電池ケーシング部材)
20 燃料電池セル
45 M4N型結晶構造
46 遷移金属原子
47 窒素原子
101 テンションプレート(燃料電池ケーシング部材)
103 テンションプレート(燃料電池ケーシング部材)
105 テンションプレート(燃料電池ケーシング部材)
106 バンド(燃料電池ケーシング部材)
M 基材
Ms 窒化層
2 ケーシング(燃料電池ケーシング部材)
10 燃料電池スタック
10a セル積層体
14 エンドプレート(燃料電池ケーシング部材)
16 タイロッド(燃料電池ケーシング部材)
20 燃料電池セル
45 M4N型結晶構造
46 遷移金属原子
47 窒素原子
101 テンションプレート(燃料電池ケーシング部材)
103 テンションプレート(燃料電池ケーシング部材)
105 テンションプレート(燃料電池ケーシング部材)
106 バンド(燃料電池ケーシング部材)
M 基材
Ms 窒化層
Claims (12)
- 燃料電池用ケーシング部材であって、
Fe、Cr、Ni及びMoの群から選ばれる少なくとも一種以上の遷移金属元素を含む合金からなる基材の表面に、立方晶の結晶構造を有する窒化層が形成されたものであることを特徴とする燃料電池用ケーシング部材。 - 前記燃料電池用ケーシング部材は、燃料電池セルを複数積層したセル積層体を一以上収容するケーシングであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ケーシング部材。
- 前記燃料電池用ケーシング部材は、燃料電池セルを複数積層したセル積層体の積層方向両側に配置され且つ前記セル積層体を積層方向両側から挟み込むエンドプレートであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ケーシング部材。
- 前記燃料電池用ケーシング部材は、燃料電池セルを複数積層したセル積層体を狭持する一対のエンドプレートを貫通して且つ前記セル積層体を加圧した状態に拘束するタイロッドであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ケーシング部材。
- 前記燃料電池用ケーシング部材は、燃料電池セルを複数積層したセル積層体を狭持する一対のエンドプレートに架け渡されて且つ前記セル積層体を加圧した状態に拘束するテンションプレートであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ケーシング部材。
- 前記燃料電池用ケーシング部材は、燃料電池セルを複数積層したセル積層体に巻き回されて且つ前記セル積層体を加圧した状態に拘束するバンドであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ケーシング部材。
- 前記立方晶の結晶構造は、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選ばれる少なくとも一種以上の遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池用ケーシング部材。
- 前記窒化層の厚さは、0.5〜5[μm]であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の燃料電池用ケーシング部材。
- 燃料電池用ケーシング部材の製造方法であって、
遷移金属又は前記遷移金属の合金からなる基材に500[℃]以下の温度でプラズマ窒化処理を施す窒化工程により、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成することを特徴とする燃料電池用ケーシング部材の製造方法。 - 前記プラズマ窒化処理は、窒素ガス及び水素ガスを放電させた低温非平衡プラズマ中で、前記基材にマイナスのバイアス電圧をかけることにより行うことを特徴とする請求項9に記載の燃料電池用ケーシング部材の製造方法。
- 請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載された燃料電池用ケーシング部材を用いたことを特徴とする燃料電池スタック。
- 請求項11記載の燃料電池スタックを搭載し、これを動力源として用いたことを特徴とする燃料電池車両。
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Cited By (4)
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---|---|---|---|---|
WO2008114830A1 (ja) | 2007-03-20 | 2008-09-25 | Sumitomo Electric Industries, Ltd. | 光コネクタ付光ファイバケーブル及び該光ファイバケーブルの通線方法、該通線方法に用いる牽引部品及び光コネクタ |
JP2008290470A (ja) * | 2007-05-22 | 2008-12-04 | Toyota Motor Corp | 移動体 |
JP2011508383A (ja) * | 2007-12-20 | 2011-03-10 | ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト | 燃料電池スタック用の圧縮装置 |
JP2020047468A (ja) * | 2018-09-19 | 2020-03-26 | 本田技研工業株式会社 | 燃料電池モジュール及びその搭載方法 |
-
2005
- 2005-09-07 JP JP2005259909A patent/JP2007073375A/ja active Pending
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