JP2006236616A - 燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用セパレータの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】セパレータと電極間で発生する接触抵抗が低く、耐食性に優れており、かつ低コストの燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック及びこれを搭載した燃料電池車両を提供する。
【解決手段】遷移金属又は遷移金属の合金を基材として用いている燃料電池用セパレータ3であって、プレス成形により燃料又は酸化剤の通路が形成された基層13と、基層13の直接上に形成され、開裂15を有する窒化層14と、を備える。
【選択図】図3
【解決手段】遷移金属又は遷移金属の合金を基材として用いている燃料電池用セパレータ3であって、プレス成形により燃料又は酸化剤の通路が形成された基層13と、基層13の直接上に形成され、開裂15を有する窒化層14と、を備える。
【選択図】図3
Description
この発明は、燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用セパレータの製造方法に関し、特にステンレス鋼を用いて形成した固体高分子電解質型の燃料電池用セパレータに関する。
地球環境保護の観点から、燃料電池を自動車の内燃機関に代えて作動するモーターの電源として利用し、このモーターにより自動車を駆動することが検討されている。この燃料電池は、資源の枯渇問題を有する化石燃料を使う必要がないため排気ガス等を発生することがない。また、燃料電池は騒音がほとんど発生せず、更にはエネルギーの回収効率も他のエネルギー機関と比べて高くすることが可能である等の優れた特徴を有している。
燃料電池は、使用される電解質の種類に応じて、固体高分子電解質型、リン酸型、溶融炭酸塩型及び固体酸化物型等がある。そのうちの一つである固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質として分子中にプロトン交換基を有する高分子電解質膜を使用して、高分子電解質膜を飽和に含水させるとプロトン伝導性電解質として機能することを利用した電池である。固体高分子電解質型燃料電池は比較的低温で作動し、かつ発電効率が高い。更には、固体高分子電解質型燃料電池は他の付帯設備と共に小型で軽量であるため、電気自動車搭載用を始めとする各種の用途が見込まれている。
上記固体高分子電解質型燃料電池は燃料電池スタックを有する。燃料電池スタックは、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セルを複数個積層して両端部をエンドフランジで挟み、締結ボルトにより加圧保持されて一体に構成される。単セルは、高分子電解質膜とその両側に接合されるアノード(水素極)とカソード(酸素極)により構成される。
図13は、燃料電池スタックを形成する単セルの構成を示す断面図である。図13に示すように、単セル90は、固体高分子電解質膜91の両側に酸素極92及び水素極93を接合して一体化した膜電極接合体を有する。酸素極92及び水素極93は、反応膜94及びガス拡散層95(GDL:gas diffusion layer)を備えた2層構造であり、反応膜94は固体高分子電解質膜91に接触している。酸素極92及び水素極93の両側には、積層のために酸素極側セパレータ96及び水素極側セパレータ97が各々設置されている。そして、酸素極側セパレータ96及び水素極側セパレータ97により、酸素ガス流路、水素ガス流路及び冷却水流路が形成されている。
上記構成の単セル90は、固体高分子電解質膜91の両側に酸素極92、水素極93を配置して、通常、ホットプレス法により一体に接合して膜電極接合体を形成し、次に膜電極接合体の両側にセパレータ96、97を配置して製造する。上記単セル90から構成される燃料電池では、水素極93側に、水素、二酸化炭素、窒素、水蒸気の混合ガスを供給し、酸素極92側に空気及び水蒸気を供給すると、主に、固体高分子電解質膜91と反応膜94との間の接触面において電気化学反応が起こる。以下、より具体的な反応について説明する。
上記構成の単セル90において、酸素ガス流路及び水素ガス流路に酸素ガス及び水素ガスが各々供給されると、酸素ガス及び水素ガスが各ガス拡散層95を介して反応膜94側に供給され、各反応膜94において以下に示す反応が起こる。
水素極側:H2 →2H+ +2e- ・・・式(1)
酸素極側:(1/2)O2+2H+ + 2e-→H2O ・・・式(2)
水素極93側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+ とe-とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜91内を移動して酸素極92側に流れ、e- は負荷98を通って水素極93から酸素極92に流れる。酸素極92側では、H+とe-と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
酸素極側:(1/2)O2+2H+ + 2e-→H2O ・・・式(2)
水素極93側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+ とe-とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜91内を移動して酸素極92側に流れ、e- は負荷98を通って水素極93から酸素極92に流れる。酸素極92側では、H+とe-と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
上述したように、燃料電池用セパレータは各単セル間を電気的に接続する機能を有するため、導電性が良く、かつガス拡散層等の構成材料との接触抵抗が低いことが要求される。また、固体高分子型電解質膜は、スルホン酸基を多数有する高分子から形成されており、湿潤状態においてスルホン酸基をプロトン交換として用いるため、プロトン伝導性を有する。固体高分子型電解質膜は強酸性であるため、燃料電池用セパレータにはpH2〜3程度の硫酸酸性に対する耐食性が要求される。さらに、燃料電池に供給される各ガスの温度は80〜90[℃]と高温であり、また、水素極ではH+が生じるだけでなく、酸素や空気等が通過する酸素極は、標準水素極電位に対して0.6〜1[VvsSHE]程度の電位が負荷される酸化性環境下にある。このため、酸素極及び水素極と同様に、燃料電池用セパレータには強酸性雰囲気下で化学的に安定な耐食性が要求される。
そこで、燃料電池用セパレータには、導電性が良く耐食性に優れたステンレス鋼あるいは工業用純チタン等のチタン材を使用する試みがされている。ステンレス鋼は、その表面にクロムを主金属元素とした酸化物、水酸化物又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されている。チタンも同様に、その表面に酸化チタン、水酸化チタン又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されている。このため、ステンレス鋼やチタンは耐食性が良好である。
しかし、上記した不動態皮膜は、通常ガス拡散層として用いられるカーボンペーパとの間で接触抵抗を生じる。燃料電池内の抵抗分極による過電圧は、定置型用途ではコージェネレーション等により排熱を回収できるため、トータルとしての熱効率が向上する。一方、自動車用用途では、接触抵抗に基づく発熱ロスは冷却水を通してラジエータから外部に捨てるしかないため、接触抵抗が大きくなると発電効率の低下に繋がる。また、発電効率低下は発熱が大きくなることと等価であり、より大きな冷却系を装備する必要性が生じるため、接触抵抗の増大は解決すべき重要な課題となっている。
燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm2]で使用される。電流密度が1[A/cm2]の時には、セパレータとカーボンペーパ間の接触抵抗が40[mΩ・cm2]以下であれば接触抵抗による発電効率の低下がおさえられると考えられている。
そこで、ステンレス鋼をプレス成形して形成した燃料電池用セパレータのうち、電極と接触する面に直接金メッキ層を形成させた燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献1参照)。また、ステンレス鋼を燃料電池用セパレータに加工した後、他の部材と接触して接触抵抗を生ずる面の不動態皮膜を除去して貴金属又は貴金属合金を付着させた燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献2参照)。
特開平10−228914号公報(第2頁、第2図)
特開2001−6713号公報(第2頁)
しかしながら、貴金属を燃料電池用セパレータ表面にコーティングさせると素材コストがかかるためコストの増加につながる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、第1の発明である燃料電池用セパレータは、遷移金属又は遷移金属の合金を基材として用いている燃料電池用セパレータであって、この燃料電池用セパレータは、プレス成形により燃料又は酸化剤の通路が形成された基層と、この基層の直接上に形成され、開裂を有する窒化層と、を備えることを要旨とする。
また、第2の発明である燃料電池用セパレータの製造方法は、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材に焼鈍処理を行う焼鈍工程と、焼鈍工程の後に連続して窒化処理を施して基材表面に窒化層を形成する窒化工程と、窒化工程後の基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路と、窒化層に開裂を形成するプレス成形工程と、を含むことを要旨とする。
更に、第3の発明である燃料電池スタックは、上記第1の発明である燃料電池用セパレータを用いたことを要旨とする。
また、第4の発明である燃料電池車輌は、上記第3の発明である燃料電池スタックを搭載し、これを動力源として用いたことを要旨とする。
第1の発明によれば、セパレータと電極との間で発生する接触抵抗を低く抑えて導電性に優れ、その上、強酸性雰囲気においても化学的に安定で耐食性にも優れる燃料電池用セパレータを提供することができる。
第2の発明によれば、焼鈍及び窒化処理をインラインで連続して行えることで生産性に優れる上、製造コストを低減することが可能となる。また、焼鈍処理後連続して窒化処理を施すことにより、結晶欠陥が軽減し、欠陥の少ない窒化層が得られるようになるため、導電性に優れた燃料電池用セパレータを製造することが可能となる。
第3の発明によれば、高性能で、かつ小型化及び低コスト化した燃料電池スタックを提供することができる。
第4の発明によれば、小型化及び低コスト化した燃料電池スタックを搭載することにより、走行距離の長距離化を実現できると共にスタイリングの自由度を確保することができる。
以下、本発明の燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用セパレータの製造方法の詳細を実施の形態に基づいて説明する。
(燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタック)
本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタックの実施の形態について説明する。本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータは、遷移金属又は遷移金属の合金を基材として用いている燃料電池用セパレータであって、燃料電池用セパレータは、プレス成形により燃料又は酸化剤の通路が形成された基層と、基層の直接上に形成され、開裂を有する窒化層と、を備えることを特徴とする。また、本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックは、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いたことを特徴としており、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セルと燃料電池用セパレータとを交互に複数個積層することにより燃料電池スタックを構成する。
本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタックの実施の形態について説明する。本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータは、遷移金属又は遷移金属の合金を基材として用いている燃料電池用セパレータであって、燃料電池用セパレータは、プレス成形により燃料又は酸化剤の通路が形成された基層と、基層の直接上に形成され、開裂を有する窒化層と、を備えることを特徴とする。また、本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックは、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いたことを特徴としており、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セルと燃料電池用セパレータとを交互に複数個積層することにより燃料電池スタックを構成する。
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いて構成した燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。
図2に示すように、燃料電池スタック1は、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セル2と燃料電池用セパレータ3とを交互に複数個積層して構成される。各単セル2は、固体高分子型電解質膜の両面に各々酸化剤極を有するガス拡散層と燃料極を有するガス拡散層とを形成して膜電極接合体とし、膜電極接合体の両側に燃料電池用セパレータ3を配置して、燃料電池用セパレータ3内部に酸化剤ガス流路と燃料ガス流路とを各々形成している。固体高分子型電解質膜としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(Nafion1128(登録商標)、デュポン株式会社)等を使用することができる。単セル2と燃料電池用セパレータ3とを積層した後、両端部にエンドフランジ4を配置して、外周部を締結ボルト5により締結して燃料電池スタック1を構成する。また、燃料電池スタック1には、各単セル2に水素ガス等の水素を含有する燃料ガスを供給するための水素供給ラインと、酸化剤ガスとして空気を供給する空気供給ラインと、冷却水を供給する冷却水供給ラインが設けられている。
図2に示した燃料電池用セパレータ3の模式図を図3に示す。図3(a)は、燃料電池用セパレータ3の模式的斜視図、図3(b)は、燃料電池用セパレータ3のIIIb-IIIb線断面図、図3(c)は、燃料電池用セパレータ3のIIIc-IIIc線断面図である。図3(a)に示すように、燃料電池用セパレータ3の上面11には、プレス成形により例えば断面矩形状の燃料又は酸化剤の通路12が形成されている。燃料電池用セパレータ3は、ステンレス鋼からなる基層13と上記通路12の外面に沿って延在し、基層の直接上に連続して形成された窒化層14とを有する。図3(c)に示すように、窒化層14は複数の開裂15を有する。基層13は、遷移金属又は遷移金属の合金から形成されている。
本実施の形態に係る燃料電池用セパレータでは、遷移金属又は遷移金属の合金を基材として用いており、プレス成形により燃料又は酸化剤の通路が形成された基層の直接上に開裂を有する窒化層が形成されている構成としたため、窒化層中の遷移金属原子が窒素原子との間で共有性に富んだ結合を形成していることに加え、遷移金属原子間には金属結合が形成されているため、導電性に優れた燃料電池用セパレータを得ることができる。また、この窒化層は燃料電池として通常使用されるpH2〜3の強酸性雰囲気においても化学的に安定であるため耐食性に優れる。このため、燃料電池用セパレータとカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑え、強酸性雰囲気においても継続的に良好な導電性を示す燃料電池用セパレータが得られる。また、従来のように、電極と接触する面に直接金メッキ層を施さなくても接触抵抗を抑えることができるため、低コスト化を実現することが可能となる。なお、一般的にカーボンペーパや電解質膜は、セパレータと接触する際に変形しやすいために、セパレータとの接触面積が増加し、導電性を高めるという効果があると言われている。従って、セパレータの表層である窒化層が複数の開裂を有する場合には、カーボンペーパと接触する面も変形しやすくなるため、従来に比較してさらに接触面積が増え、導電性が高まる。
なお、開裂は基層に及ぶことが好ましい。この場合には、カーボンペーパと接触するセパレータ表面の窒化層がさらに変形しやすくなる。また、基層は、開裂に臨む基層の表面に形成された酸化膜を有することが好ましい。大気中では、図3(c)に示すように、窒化層14に形成された開裂15が基層13に及び、開裂15の底部16が基層13に及ぶと、基層13の露出した部分に酸化膜(不図示)が形成される。この酸化膜は強酸性雰囲気において耐食性に優れたものであるため、さらに導電性と耐食性に優れたセパレータが得られる。また、この酸化膜が、不動態化処理により形成された酸化膜である場合には、基材表面に大気中で自然に形成される不動態皮膜よりもさらに強酸性雰囲気において安定であるため、さらに耐食性が向上する。
基材としては、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選ばれる少なくとも一種以上の遷移金属元素を含むステンレス鋼を用いることが好ましい。このような元素を含有するステンレス鋼として、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系のステンレス鋼が挙げられる。これらの中でも、基層13は、特にオーステナイト系ステンレス鋼から形成されることが好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS310S、SUS316L、SUS317J1、SUS317J2、SUS321、SUS329J1、SUS836等が挙げられる。ステンレス鋼は、構成元素が遷移金属元素から成るために導電性が良好である。また、ステンレス鋼表面には、緻密な不動態皮膜、すなわち、CrO・OH・nH2O、Cr2O3・xH2O等のCr酸化物が形成されているため優れた耐食性を有する。この不動態皮膜は、上述したように、ガス拡散層として用いられるカーボンペーパとの間に接触抵抗を生ずる。しかし、本実施の形態に係る燃料電池用セパレータでは、導電性に優れる遷移金属から成るステンレス鋼の表面に窒化層を設けている構成としたため、カーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑えることが可能となる。また、この窒化層は化学的に安定であるため耐食性にも優れる。このため、燃料電池用セパレータとカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑え、強酸性雰囲気においても継続的に良好な導電性を示す燃料電池用セパレータが得られる。
また、基材としてNi基合金を用いても良い。Ni基合金としては、例えば、インコネル(登録商標)、インコロイ(登録商標)及びハステロイ(登録商標)などを使用することができる。これらのNi基合金は、遷移金属であるNiが導電性に優れる上、耐食性に優れた工業材料であり、表面に窒化処理を施すことにより、容易にNi基合金に化学的に安定な窒化層を形成することができる。そして、この窒化層は、導電性に優れており、化学的に安定であるため耐食性にも優れる燃料電池用セパレータが得られる。このため、燃料電池用セパレータとカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑え、強酸性雰囲気においても継続的に良好な導電性を示す燃料電池用セパレータが得られる。
上記ステンレス鋼又はNi基合金基材に窒化処理を施して得られる窒化層の結晶構造は、より具体的には、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型結晶構造であると考えられる。M4N型結晶構造を図4に示す。図4に示すように、M4N型結晶構造20は、Feを主成分として、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子21によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子22が配置された構造である。このM4N型結晶構造20において、Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子21を表し、Nは窒素原子22を表す。窒素原子22はM4N型結晶構造20の単位胞中心の八面体空隙の1/4を占有する。すなわち、M4N型結晶構造20は、遷移金属原子21の面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子22が侵入した侵入型固溶体であり、立方晶の空間格子で表すと、窒素原子22は各単位胞の格子座標(1/2,1/2,1/2)に位置する。また、このM4N型結晶構造20では、遷移金属原子M21はFeを主体としているが、FeがCr、Ni、Moなどの他の遷移金属原子と一部置換した合金も含む。
このM4N型結晶構造は、遷移金属原子間の金属結合を保ったまま遷移金属原子と窒素原子の間で強い共有結合性を示すことにより、窒化物中の各金属原子の酸化に対する反応性が低下する。このため、遷移金属窒化物は、上述したような燃料電池内の酸化性環境下においても化学的安定であり、燃料電池用セパレータとして必要な導電性、セパレータ使用環境下における導電性の機能を維持する化学的安定性及び耐食性を兼ね備えた遷移金属窒化物を提供することができる。また、このような化粧構造を有する窒化層が基層の直接上に形成された燃料電池用セパレータでは、燃料電池スタック内のような酸化性環境下に置かれても、燃料電池として通常使用されるカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く維持できる。また、従来のように、電極と接触する面に直接金メッキ層を施さなくても接触抵抗を抑えることができるため、低コスト化を実現することが可能となる。さらに、M4N型結晶構造を有する窒化層が化学的安定性を有するため、酸化性環境下におけるセパレータと電極との間の接触抵抗を低い値に維持し、耐食性に優れ、かつ低コスト化を実現した燃料電池用セパレータを提供することができる。
また、上記窒化層は、窒化層中に含まれるFe(鉄)に対するCr(クロム)の原子比が、基材中に含まれるFeに対するCrの原子比よりも小さいものであることが好ましい。窒化層中のFeに対するCr原子比が基材のFeに対するCr原子比よりも高い場合には、窒素が基材のCrと結びついて主としてNaCl型の結晶構造を有するCrNなどのCr系窒化物が析出するため基材にCrの欠乏層ができ、耐食性は低下する。これに対し、窒化層中に含まれるFe対するCrの原子比が基材のFeに対するCrの原子比よりも低い場合には、Cr系窒化物が析出することがないため、基材に含まれる耐食性に有効なCrが減少せずに窒化後も燃料電池用セパレータの耐食性が保たれ、強酸性雰囲気における耐食性が一段と優れたものになる。
さらに、基材として工業用純チタン(JIS1種)を用いても良い。一般的なチタンの特徴として、加工性が良い、酸化性雰囲気での腐食に対して酸化表面に酸化膜が存在するためステンレス鋼を凌ぐ耐食性を有するなどがあげられる。このように、チタンはpH2〜3の強酸性雰囲気における耐食性にも優れるものである。中でも、工業用純チタン(JIS1種)は、純度が高く、加工性、耐食性の面で優れている。しかし、チタンは表面に酸化膜が存在するために、表面改質を施さずにそのまま用いた場合には、カーボンペーパとの接触面の接触抵抗値が大きくなり、そのままではセパレータとして使用することは難しい。これに対し、遷移金属元素であるチタン表面に窒化層を形成した場合には、窒化層が酸性雰囲気での耐食性に寄与して高い耐食性を示す。また、窒化層により、ガス拡散層として通常使用されるカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑えることが可能となる。このため、ガス拡散層であるカーボンペーパとの接触抵抗値は低く、高い導電性を保つセパレータを得ることが可能となる。さらに、この窒化層は、窒化層を形成した後にセパレータ形状にプレス成形を施すことにより窒化層に開裂が形成され、基層が露出した場合には、基材のチタンはpH2〜3の強酸性雰囲気における耐食性は優れたものであるため、優れた耐食性と導電性を維持する。このように、基材に工業用純チタン(JIS1種)を用いることにより、セパレータ成形時の適用条件範囲が緩和されるという効果もある。なお、工業用純チタン(JIS1種)の密度はステンレス鋼の約60[%]であるため、板厚を薄くすることが可能となる。このため、工業用純チタン(JIS1種)の単価はステンレス鋼の1.3倍と割高ではあるが、板厚を薄くすることにより、ステンレス鋼を用いる場合よりもコストを低く抑えることが可能となる。そして、軽量な燃料電池用セパレータ、さらには、軽量な燃料電池スタックを提供することが可能となる。
なお、工業用純チタン(JIS1種)材に窒化処理を施して得られる窒化層は立方晶の結晶構造であることが好ましい。立方晶の結晶構造として、TiN、又はTi2Nがあげられ、この結晶構造では、pH2〜3の強酸性雰囲気における耐食性を一段と優れたものとし、かつカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑えることが可能となる。
なお、窒化層の極表面の窒素量が5[at%]以上かつ酸素量が50[at%]以下であることが好ましい。ここで、窒化層の極表面とは、窒化層の最表面から3〜4[nm]の深さ、つまり原子数十層程度の深さの原子層をさす。また、最表面とは、窒化層の最外部の原子一層をさす。金属の表面に吸着した酸素分子の被覆率が高くなると、金属原子と酸素原子との間に明瞭な結合が形成される。これが金属原子の酸化である。このような金属表面の酸化は、まず最外部の第一原子層が酸化されることによって起こる。第一原子層の酸化が終わると、次に、第一原子層へ吸着した酸素が金属内の自由電子をトンネル効果によって受け取り、酸素が負イオンになる。そして、この負イオンによる強い局部電場のために、金属イオンが金属内部から表面上に引っ張り出され、引っ張り出された金属イオンが酸素原子と結合する。すなわち二層目の酸化膜が生成する。このような反応が次から次へと起こって酸化膜が厚くなっていく。このように、窒化層中の酸素量が50[at%]より多い場合には、絶縁性の酸化膜が形成されやすくなる。これに対し、窒化層中の窒素原子のケミカルポテンシャルを高めて、金属原子の活量をよりいっそう小さく抑えた状態で金属原子が窒素と化合物を形成すると、金属原子の自由エネルギーが下がり、金属原子の酸化に対する反応性を低くすることができ、金属原子が化学的に安定する。そして、酸素原子は受け取る自由電子がなくなり金属原子を酸化しなくなるため、酸化膜の成長を抑えることができる。このように、窒化層の極表面の窒素量が5[at%]以上かつ酸素量が50[at%]以下である場合には、酸化膜の成長を抑制できてカーボンペーパとの間の接触抵抗を低く抑えることが可能となり、かつ、強酸性雰囲気における耐食性に優れた燃料電池用セパレータを得ることができる。より好ましくは、窒素量が7.5[at%]以上かつ酸素量が30[at%]以下である。
また、窒化層の極表面の酸素量に対する窒素量の比O/Nが10以下であることがより好ましい。この場合には、窒素量が5[at%]以上であり、かつ酸素量が50[at%]以下である条件を満たし、強酸性雰囲気における耐食性に優れ、かつカーボンペーパとの間の接触抵抗を連続して低く押さえることが可能となる。O/Nが10より越える場合には、表面が酸化物を主体とする絶縁性被膜で覆われるようになるため、燃料電池として通常使用される強酸性雰囲気でカーボンペーパとの間の接触抵抗が高く、電気導電性が劣るようになる。なお、より好ましくは、窒化層の極表面の酸素量に対する窒素量の比O/Nが5以下である。
また、窒化層の最表面から10[nm]深さにおいて、窒素量が10[at%]以上かつ酸素量が30[at%]以下であることが好ましい。この場合には、強酸性雰囲気における耐食性に優れ、かつカーボンペーパとの間の接触抵抗を連続して低く抑えることが可能となる。なお、この範囲からはずれる場合には、セパレータと電極間で発生する接触抵抗が高くなり、燃料電池スタックを構成する単セル1枚あたりの接触抵抗値が40[mΩ・cm2]を超え、発電性能が悪化するという不具合がある。なお、より好ましくは、窒素量が17[at%]以上かつ酸素量が18[at%]以下である。
さらに、窒化層の最表面から100[nm]深さにおいて、窒素量が15[at%]以上かつ酸素量が20[at%]以下であることが好ましい。この場合には、さらに接触抵抗を低く抑えることが可能となる。この範囲からはずれる場合には、基材表面が酸化物を主体とする絶縁性被膜で覆われるようになるため、燃料電池として通常使用される強酸性雰囲気でカーボンペーパとの間の接触抵抗が高く、気導電性を有さなくなる。なお、より好ましくは、窒素量が23[at%]以上かつ酸素量が10[at%]以下である。
このように、上記した構成を採用したことにより、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータは燃料電池用セパレータとして必要な導電性、セパレータ使用環境下における導電性の機能を維持する化学的安定性及び耐食性を兼ね備える。そして、低コストで生産性が良好であると共に、隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触抵抗が低く、燃料電池の発電性能の良い燃料電池用セパレータを得ることが可能となる。また、本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックは、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータを用いたことにより、発電性能を損なうことなく高い発電効率を維持できると共に、小型化及び低コスト化を実現することが可能となる。
(燃料電池用セパレータの製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法の実施の形態について説明する。この燃料電池用セパレータの製造方法は、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材に焼鈍処理を行う焼鈍工程と、焼鈍工程の後に連続して窒化処理を施して、基材表面に窒化層を形成する窒化工程と、窒化工程後の基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路と、窒化層に開裂を形成するプレス成形工程と、を含むことを特徴とする。
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法の実施の形態について説明する。この燃料電池用セパレータの製造方法は、遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材に焼鈍処理を行う焼鈍工程と、焼鈍工程の後に連続して窒化処理を施して、基材表面に窒化層を形成する窒化工程と、窒化工程後の基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路と、窒化層に開裂を形成するプレス成形工程と、を含むことを特徴とする。
遷移金属又は遷移金属の合金からなる基材に焼鈍処理の後に窒化処理を施すことにより、らせん転移、刃状転移、空孔等の結晶欠陥が軽減し、結晶欠陥の少ない窒化層が得られる。このため、導電性に優れるセパレータが得られる。また、焼鈍処理後の冷却過程で連続して窒化処理を施すことができるため、インラインでセパレータを製造できる。このため、生産性に優れる上、製造コストを低減できる。さらに、その後プレス成形により燃料又は酸化剤の通路を形成できると同時に、基材表面の窒化層に開裂を形成することができる。
なお、プレス成形工程の後に、不動態化処理を行うことが好ましい。不動態化処理としては、例えば酸洗があげられる。酸洗により、窒化層表面又は窒化層の開裂により露出している基材表面に導電性を有する10[nm]以下の厚さの酸化膜が形成される。強酸性溶液がセパレータ表面に付着した場合、この酸化膜の存在により、セパレータ表面に局部電池が形成されてセパレータに腐食が生じることを抑制する。このため、耐食性に優れたセパレータが得られる。
窒化処理の際に、基材に引っ張りテンションをかけることが好ましい。この場合には、基材が熱変形するようになっても平面度を保つことができ、その後のブランキング、プレスなどにより所定の形状を得ることができる。なお、引っ張りテンションをかけずに窒化又は焼鈍処理を行うと、基材が熱変形するようになり、平面度を保つことが難しくなる。
なお、窒化処理は、プラズマ窒化法又はプラズマCVD法であることが好ましい。窒化処理にはガス窒化法、ガス軟窒化法、塩浴法、プラズマ窒化法及びプラズマCVD法などがある。しかし、ガス軟窒化法は窒化処理中の酸素分圧が高いため窒化層中の酸素量が高くなる。これに対し、窒化処理のうち、プラズマ窒化法は、被処理物を陰極とし、直流電圧を印加して発生するグロー放電によって窒素ガスをプラズマ化し、プラズマ化した窒素が被処理物の表面へ高速加速衝突することで窒化する方法である。プラズマ窒化法では、プラズマ衝撃によるスパッタリング作用により被処理物である基材表面の不動態皮膜を容易に除去しつつ窒化するため表面に不動態皮膜を有する基材に適した窒化方法であり、かつ非平衡反応によって基材中に窒素イオンを浸透させるために、上記結晶構造を短時間で容易に得ることができる。プラズマCVD法では、ガスを励起して発生した窒素プラズマを基板上に吸着することによって窒化化合物層を形成するようにしたもので、結晶性が向上した窒化層が得られる。そして、プラズマ窒化法又はプラズマCVD法を用いることにより、窒化層の酸素含有量が低く導電性に優れ、強酸性雰囲気における耐酸化性に優れ、燃料電池において通常使用される強酸性雰囲気でカーボンペーパとの間の接触抵抗を連続して低く押さえることを可能とした燃料電池用セパレータが得られる。
さらに、ステンレス鋼を基材とした場合の焼鈍処理は、1100[℃]以上1200[℃]以下の温度で行うことが好ましく、窒化処理を300[℃]以上500[℃]以下の温度で行うことが好ましい。ステンレス鋼の表面に高温で窒化処理を施すと、窒素が基材中のCrと結びつき、主としてNaCl型の結晶構造を有するCrN等の窒化物を析出するために燃料電池用セパレータの耐食性が低下する。これに対し、300[℃]以上500[℃]以下の温度で窒化処理を施すと基材表面には、NaCl型の結晶構造を有するCrN等の窒化化合物ではなく、主として基材表面にFe、Cr、Ni及びMoの群から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型結晶構造を有する窒化層が形成されるため、耐食性が向上した燃料電池用セパレータが得られる。また、セパレータと隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触抵抗を低く抑えることができ、燃料電池の発電効率を維持でき、優れた耐久信頼性を有する燃料電池用セパレータを低コストにより得ることができる。なお、窒化温度が300[℃]を下回る場合には、この結晶構造を有する窒化層を得るためには長時間の処理を必要とするために生産性が悪化する。このため、窒化処理は300[℃]以上500[℃]以下の範囲で行うことが好ましい。
次に、図5及び図6を参照して燃料電池用セパレータの製造方法について説明する。図5(a)は本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法を示す説明図であり、図5(b)は、そのタイムチャートである。
図5(a)に示すように、燃料電池用セパレータの製造を行うために、例えば、ステンレス鋼の薄板帯鋼30、焼鈍処理及び窒化処理を行う真空炉31、焼鈍処理及び窒化処理が施された薄板を巻き取る巻き取りリール32、薄板にブランキング及びプレス成形を行う金型33a、33b、プレス成形後の薄板を切断する切断歯34a、34b及び、切断後の薄板を酸洗するための酸洗装置35を用いる。そして、薄板帯鋼30と巻き取りリール32により、焼鈍処理及び窒化処理を施す際に薄板に引っ張り側のテンションをかけて焼鈍処理及び酸洗処理を一定の速度で連続して行うことを可能とし、さらに、焼鈍処理及び酸洗処理した薄板帯鋼を一定の速度で連続巻き取りが可能となっている。
燃料電池用セパレータの製造するためには、まず時間t0からt1において、薄板帯鋼30から引き出された薄板30aを真空炉31に導入する。時間t1からt2の間に真空炉31内の温度を焼鈍加熱温度T1まで上げる。そして、時間t2からt3の間に真空炉31の温度をT1に保持して真空炉31を通過する薄板30bを温度T1で焼鈍処理を行う。次に、時間t3からt4において真空炉31内の温度をT2まで冷却する。そして、温度がT2まで下がった時間t4から焼鈍後の薄板に温度T2で窒化処理を施す。そして、時間t5からt6の間で真空炉31内の温度を室温まで下げて、薄板を巻き取りリール32によって巻き取る。その後、巻き取りリール32から引き出された薄板30cを金型33a、33bの間に誘導する。そして薄板30dを金型33a、33bの間に配置し、薄板30dにブランキング及びプレス成形を行う。次に、プレス成形後の薄板30eを切断歯34aと34bとの間に配置し、薄板30eを切断歯34a、34bによって切断する。そして、酸洗装置35内にブランキング及びプレス成形後の薄板30fを固定し、酸洗を行う。
次に、燃料電池用セパレータの製造方法の参考例を示す。図6(a)は参考例の燃料電池用セパレータの製造方法を示す説明図であり、図6(b)は、そのタイムチャートである。図6(a)に示すように、燃料電池用セパレータの製造を行うために、例えば、ステンレス鋼の薄板帯鋼40、焼鈍処理を行う真空炉41、焼鈍処理された薄板を巻き取る巻き取りリール42、薄板を切断する切断歯43a、43b、切断後の薄板にブランキング及びプレス成形を行う金型44a、44b及び、成形後の薄板を窒化するための窒化炉45を用いる。そして、薄板帯鋼40と巻き取りリール42により、焼鈍処理を施す際に薄板に引っ張り側のテンションをかけて焼鈍処理を一定の速度で連続して行うことを可能とし、さらに、焼鈍処理した薄板帯鋼を一定の速度で連続巻き取りが可能となっている。
燃料電池用セパレータの製造するためには、まず時間t0からt1において、薄板帯鋼40から引き出された薄板40aを真空炉41に導入する。時間t1からt2の間に真空炉41内を温度T1まで上げる。そして、時間t2からt3の間に真空炉41の温度をT1に保持して、真空炉41を通過する薄板40bを温度T1で焼鈍処理を行う。時間t3からt4において真空炉41内の温度を室温まで冷却する。その後、ステンレス鋼を巻き取りリール42によって巻き取り、巻き取りリール42から引き出された薄板40cを切断歯43aと43bとの間に誘導する。次に、薄板40dを切断歯43a、43bによって切断する。その後、金型44a、44bの間に切断された薄板40eを配置し、薄板40eにブランキング及びプレス成形を行う。次に、窒化炉45内にブランキング及びプレス成形後の薄板40fを固定し、時間t5からt6の間で窒化炉45内の温度を温度T2まで上げる。窒化炉45内が温度T2まで上がったら、時間t6からt7の間温度をT2に保持して薄板40fの窒化処理を行う。そして、時間t7からt8の間で窒化炉45内の温度を室温まで下げる。そして、酸洗装置45内に窒化後の薄板40fを固定し、酸洗を行う。
参考例と比較し、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法により製造した場合には、焼鈍及び窒化処理をインラインで連続して行えることで生産性に優れ、製造コストを低減することが可能となる。また、焼鈍処理後連続して窒化処理を施すことにより、焼鈍温度から冷間を経ないで窒化処理を行えるため結晶欠陥が軽減し、欠陥の少ない窒化層が得られるようになるため、導電性に優れた燃料電池用セパレータを製造することが可能となる。また、プレス成形により燃料又は酸化剤の通路を形成できると同時に、基材表面の窒化層に開裂を形成することができるため、製造工程を減らすことができ、導電性に優れた燃料電池用セパレータが得られる。そして、プレス成形工程の後に基材を酸洗することにより、窒化層表面又は窒化層の開裂により露出している基材表面に導電性を有する15[nm]以下の厚さの酸化膜が形成されるため、より耐食性に優れたセパレータが得られる。さらに、窒化処理の際に、薄板を、薄板帯鋼30及び巻き取りリール32によって引っ張りテンションをかけるため、基材が熱変形するようになっても平面度を保つことができ、その後のブランキング、プレスなどにより所定の形状を得ることができる。
このように、本発明の実施の形態における燃料電池用セパレータの製造方法によれば、遷移金属又は遷移金属の合金を基材として用いている燃料電池用セパレータであって、燃料電池用セパレータは、プレス成形により燃料又は酸化剤の通路が形成された基層と、基層の直接上に形成され、開裂を有する窒化層と、を備える燃料電池用セパレータが得られる。また、焼鈍及び窒化処理をインラインで連続して行えることで生産性に優れる上、製造コストを低減することが可能となる。さらに、焼鈍処理後連続して窒化処理を施すことにより、結晶欠陥が軽減し、欠陥の少ない窒化層が得られるようになるため、導電性に優れた燃料電池用セパレータを製造することが可能となる。
(燃料電池車両)
本実施形態では、燃料電池車両の一例として、上記方法により作製した燃料電池スタックを含む燃料電池を動力源として用いた燃料電池電気自動車を挙げて説明する。
本実施形態では、燃料電池車両の一例として、上記方法により作製した燃料電池スタックを含む燃料電池を動力源として用いた燃料電池電気自動車を挙げて説明する。
図7は、燃料電池スタックを搭載した電気自動車の外観を示す図である。図7(a)は電気自動車50の側面図、図7(b)は電気自動車50の上面図である。図7(b)に示すように、車体51前方に、左右のフロントサイドメンバとフードリッジのほか、フロントサイドメンバを含む左右のフードリッジ同士を互いに連結するダッシュロア部材をそれぞれ組み合わせて溶接接合したエンジンコンパートメント部52を形成している。本発明の実施の形態に係る電気自動車では、エンジンコンパートメント部52内に燃料電池スタック1を搭載している。
本発明の実施の形態に係る燃料電池セパレータを適用した発電性能の良い燃料電池スタックを自動車等の車両に搭載することにより、燃料電池電気自動車の燃費向上を図ることができる。また、本実施形態によれば、小型化した軽量の燃料電池スタックを車両に搭載することにより、車両重量を低減して省燃費化を図ることができ、走行距離の長距離化を図ることができる。さらに、本実施形態によれば、小型の燃料電池を移動体車両等に搭載することにより、車室内空間をより広く活用することができ、スタイリングの自由度を確保することができる。
なお、燃料電池車両の一例として電気自動車を挙げたが、本発明は電気自動車等の車両に限定されるものではなく、電気エネルギーが要求される航空機その他の機関にも適用することが可能である。
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例6について説明する。これらの実施例は、本発明に係る燃料電池用セパレータの有効性を調べたもので、異なる原料に対して、異なる条件下で処理を施すことによって生成した燃料電池用セパレータの例を示したものである。
<試料の調製>
各実施例では、基材として板厚0.1[mm]のオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304、SUS316、SUS310、Ni基合金のインコネル600(INCONEL600(登録商標))、工業用純チタン(JIS1種)の、冷間圧延のままで光輝焼鈍を行っていない薄板帯鋼を用いた。これらの薄板帯鋼を図5又は図6に示すように焼鈍処理及び窒化処理を行った。実施例1〜3、6及び7、比較例4〜比較例6ではプラズマ窒化により窒化を行った。プラズマ窒化は、処理温度320〜700[℃]、処理時間30〜60[分]、ガス混合比N2:H2=1:1の条件で行った。実施例4及び5では、プラズマCVDにより窒化を行った。処理温度は400〜500[℃]、処理時間30[分]、NH3:H2:N2=1:1:1とした。処理圧力は、実施例1〜8、比較例4では1[Torr](=133[Pa])とした。なお、比較例1〜比較例3では、窒化処理を施してはいない。また、実施例2、3、5〜7及び比較例5、6では酸洗を行った。下表1に、用いた基材、及び工法を示し、表2に、焼鈍加熱温度、窒化方法及び窒化条件を示す。
各実施例では、基材として板厚0.1[mm]のオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304、SUS316、SUS310、Ni基合金のインコネル600(INCONEL600(登録商標))、工業用純チタン(JIS1種)の、冷間圧延のままで光輝焼鈍を行っていない薄板帯鋼を用いた。これらの薄板帯鋼を図5又は図6に示すように焼鈍処理及び窒化処理を行った。実施例1〜3、6及び7、比較例4〜比較例6ではプラズマ窒化により窒化を行った。プラズマ窒化は、処理温度320〜700[℃]、処理時間30〜60[分]、ガス混合比N2:H2=1:1の条件で行った。実施例4及び5では、プラズマCVDにより窒化を行った。処理温度は400〜500[℃]、処理時間30[分]、NH3:H2:N2=1:1:1とした。処理圧力は、実施例1〜8、比較例4では1[Torr](=133[Pa])とした。なお、比較例1〜比較例3では、窒化処理を施してはいない。また、実施例2、3、5〜7及び比較例5、6では酸洗を行った。下表1に、用いた基材、及び工法を示し、表2に、焼鈍加熱温度、窒化方法及び窒化条件を示す。
ここで、各試料は、以下の方法によって評価された。
<窒化層の有無>
窒化層の有無は、窒化処理した基材の断面を研磨後王水にて腐食し、光学顕微鏡を用いて400倍で断面観察、または走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−4000)を用いて1000〜10000倍で断面観察した。
窒化層の有無は、窒化処理した基材の断面を研磨後王水にて腐食し、光学顕微鏡を用いて400倍で断面観察、または走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−4000)を用いて1000〜10000倍で断面観察した。
<窒化層の結晶構造の同定>
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、窒化処理を施すことによって改質した基材表面をX線回折測定を行うことにより同定した。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、窒化処理を施すことによって改質した基材表面をX線回折測定を行うことにより同定した。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
<極表面の窒素量及び酸素量の測定>
極表面の窒素量及び酸素量の測定は、X線電子分光分析(XPS)を用いて測定し、測定結果より酸素量に対する窒素量の比O/Nを求めた。装置は、PHI社製 光電子分光分析装置Quantum-2000を用いた。測定は、線源としてMonochromated-Al-kα線(電圧1486.6[eV]、20.0[W])、光電子取り出し角度45[゜]、測定深さ約4[nm]、測定エリアφ200[μm]にてX線を試料に照射することにより行った。
極表面の窒素量及び酸素量の測定は、X線電子分光分析(XPS)を用いて測定し、測定結果より酸素量に対する窒素量の比O/Nを求めた。装置は、PHI社製 光電子分光分析装置Quantum-2000を用いた。測定は、線源としてMonochromated-Al-kα線(電圧1486.6[eV]、20.0[W])、光電子取り出し角度45[゜]、測定深さ約4[nm]、測定エリアφ200[μm]にてX線を試料に照射することにより行った。
<窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量の測定>
窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量の測定は、走査型オージェ電子分光分析装置によって行った。装置は、PHI社製 MODEL4300を用いた。測定は、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量の測定は、走査型オージェ電子分光分析装置によって行った。装置は、PHI社製 MODEL4300を用いた。測定は、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
<接触抵抗値の測定>
上記実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例6で得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して接触抵抗を測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図12(a)に示すように、電極81とサンプル82との間にカーボンペーパ83を介在させて、図12(b)に示すように、電極81a/カーボンペーパ83a/サンプル82/カーボンペーパ83b/電極81bの構成とした。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の貫通抵抗を測定した。接触抵抗値は、定電位電解試験の前後で2回測定を行いその平均値で示した。定電位電解試験後の接触抵抗値は、燃料電池スタック内で燃料電池用セパレータが曝される環境を模擬して、酸化性環境下での耐食性を評価したものである。定電位電解試験の条件は、温度80[℃]、pH2の硫酸水溶液で、水素ガス脱気しながら電位1[VvsSHE]、100[時間]の自然電位測定とした。
上記実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例6で得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して接触抵抗を測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図12(a)に示すように、電極81とサンプル82との間にカーボンペーパ83を介在させて、図12(b)に示すように、電極81a/カーボンペーパ83a/サンプル82/カーボンペーパ83b/電極81bの構成とした。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の貫通抵抗を測定した。接触抵抗値は、定電位電解試験の前後で2回測定を行いその平均値で示した。定電位電解試験後の接触抵抗値は、燃料電池スタック内で燃料電池用セパレータが曝される環境を模擬して、酸化性環境下での耐食性を評価したものである。定電位電解試験の条件は、温度80[℃]、pH2の硫酸水溶液で、水素ガス脱気しながら電位1[VvsSHE]、100[時間]の自然電位測定とした。
<平面度の測定>
窒化処理後の基材を、触針式粗さ測定計を用い、縦横方向に10[mm]間隔で凹凸差(平面度)を測定し、反りが最大となる値を求めた。
窒化処理後の基材を、触針式粗さ測定計を用い、縦横方向に10[mm]間隔で凹凸差(平面度)を測定し、反りが最大となる値を求めた。
上記実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例6の窒化層の結晶構造、電解試験前後での接触抵抗値、耐食試験でのイオン溶出量の測定結果及び最大反り値を下表3に示す。
また、実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例6の窒化層の極表面の窒素量及び酸素量、酸素量に対する窒素量の比O/N、窒化層の最表面から10[nm]及び100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量を下表4に示す。
さらに、図8(a)に実施例3により得られた試料の倍率400倍による断面組織写真を、図8(b)に比較例5により得られた試料の倍率400倍による断面組織写真を、図9(a)実施例3により得られた試料の表面SEM写真を、図9(b)実施例3により得られた試料の断面SEM写真を、図10に実施例3及び比較例1により得られた試料のX線回折パターンを、図11に実施例3により得られた試料の走査型オージェ電子分光分析による深さ方向の元素プロファイルを示す。
図8(a)、及び図9より、実施例3で得られた試料では基層61の両表面に窒化層62が形成されていることがわかる。窒化層62には複数の開裂63が形成されており、この開裂63の底部64は基層61に及んでいる。図8(a)、及び図9には図示されていないが、開裂63の底部64が基層12に及ぶと、基層62の露出した部分に酸化膜が形成される。この酸化膜の存在は、図11に示した走査型オージェ電子分光分析の結果より明かである。この酸化膜は、強酸性雰囲気において耐食性に優れたものであるため酸化膜が形成されたセパレータは、さらに導電性と耐食性に優れたものとなる。また、この酸化膜が、酸洗等の不動態化処理により形成された酸化膜である場合には、基材表面に大気中で自然に形成される不動態皮膜よりもさらに強酸性雰囲気において安定であるため、さらに耐食性が向上する。これに対し、図8(b)では、基層71の両面には、開裂のない連続した窒化層72が形成されている。
また、図10より、比較例1では、基材であるオーステナイト由来のピークのみが明確に観測されたのに対し、実施例3では、図中γで示す基材であるオーステナイト由来のピークの他には、図中M4Nで示すM4N型の結晶構造を示すピーク及び図中CrNで示すCrNのピークが観測された。XRDでは、表層がM4N型の結晶構造をもつ窒化層であるにもかかわらず、基材であるオーステナイト由来のピークも観測されている。これは、本測定条件によるX線の基材への入射深さが10[μm]程度であることから、窒化層が形成されていない基層の部分も検出していると判断した。実施例5及び比較例4では、実施例3と同様に基材であるオーステナイト由来のピークの他に上記M4N型の結晶構造のピーク及びCrNのピークが観測された。実施例1、2、4、6及び比較例4では、基材であるオーステナイト由来のピークの他に上記M4N型の結晶構造のピークが観測された。また、比較例1〜比較例3では、基材であるオーステナイト由来のピークのみが観測された。比較例5では、CrNを示すピークが観測された。比較例6では、窒化温度が570[℃]と高温であったため、NaCl型の結晶構造を有するCrNが主体となったことが考えられる。
また、表3に示すように、M4N型又はTiNの結晶構造をもつ窒化層が形成された実施例1〜実施例7では、図12に示した接触抵抗値の測定法では、いずれも接触抵抗値が40[mΩ・cm2]以下であった。これに対し、窒化層が形成されていない比較例1〜3では、基材表面に不動態皮膜が形成され、不動態膜が絶縁性を示すために、電解試験前後ともに接触抵抗が高かった。比較例4〜比較例6のように焼鈍後プレス成形を行い、その後に窒化処理を行ったものは、電解試験前は、表面に窒化層が形成されているために良好な導電性を示すことから電解試験前の接触抵抗は低くなるものの、電解試験後の接触抵抗値は窒化層表面に不動態皮膜が形成し皮膜が成長するため、接触抵抗値が増大した。このように、実施例1〜実施例7では、不動態皮膜ではなく窒化層が形成されており、この窒化層が開裂を有するため低い接触抵抗値が得られた。
平面度の測定結果より、実施例1〜実施例7では窒化の後にプレス成形を行ったため、反りが最大となる値、つまり最大反り値は、最大0.2[mm]の凹凸に対して0.7[mm]以下であった。比較例1〜比較例3では窒化処理を行っていないため平面度が保たれていたが、比較例4〜比較例6では、プレス成形の後に窒化処理を行ったため、窒化処理によって基材がめくれるように熱変形した。
また、表4よりXPSにより測定した窒化層極表面の窒素量、酸素量を及び酸素量に対する窒素量の比O/Nをみてみると、窒化層の極表面の窒素量が5[at%]以上かつ酸素量が50[at%]以下であり、O/Nが10以下である実施例1〜7では、いずれも接触抵抗値が50[mΩ・cm2] 以下であった。これに対し、窒化層が形成されていない比較例1〜比較例3では、基材表面に不動態膜が存在するため極表面の酸素量が多く、O/Nも高い値であった。
次に、図11に示す元素プロファイルより、窒化層の最表面では窒化処理中に若干の酸素分圧が存在するために酸化膜が存在し、その酸化膜の厚さを電子が自由に行き来できるため酸素量が一番高い。しかし、電子が自由に行き来できる範囲は最表面から3〜4[nm]の深さであるため、徐々に酸素量は低くなり窒素量が増え、窒化層の最表面から10[nm]深さにおいて、窒素量が10[at%]であり酸素量が30[at%]以下であった。そして、窒化層の最表面から100[nm]深さにおいて、窒素量が15[at%]であり酸素量が20[at%]であった。このように、M4N型の結晶構造をもつ窒化層が形成された実施例5では、接触抵抗も耐食性も満足できた。
同様に、接触抵抗値が50[mΩ・cm2]以下である実施例1〜7のいずれにおいても、窒化層の最表面から10[nm]深さにおいて、窒素量が10[at%]以上かつ酸素量が30[at%]以下であり、さらに、窒化層の最表面から100[nm]深さにおいて、窒素量が15[at%]以上かつ酸素量が20[at%]以下であった。これに対し、接触抵抗値が40より大きい比較例1〜比較例3では、窒化層の最表面から10[nm]深さにおける窒素量及び酸素量が上記値からはずれており、さらには、窒化層の最表面から100[nm]深さにおける窒素量及び酸素量も上記値からはずれていた。
以上の測定結果より、実施例1〜実施例7は、比較例1〜比較例6のいずれに対しても電解試験後であっても接触抵抗値が50[mΩ・cm2]以下と低接触抵抗を示し、低接触抵抗と耐食性の両方を同時に兼ね備えることが示された。
1 燃料電池スタック
2 単セル
3 燃料電池用セパレータ
4 エンドフランジ
5 締結ボルト
13 基層
14 窒化層
15 開裂
20 M4N型結晶構造
21 遷移金属原子
22 窒素原子
2 単セル
3 燃料電池用セパレータ
4 エンドフランジ
5 締結ボルト
13 基層
14 窒化層
15 開裂
20 M4N型結晶構造
21 遷移金属原子
22 窒素原子
Claims (17)
- 遷移金属又は前記遷移金属の合金を基材として用いている燃料電池用セパレータであって、
前記燃料電池用セパレータは、プレス成形により燃料又は酸化剤の通路が形成された基層と、
前記基層の直接上に形成され、開裂を有する窒化層と、を備えることを特徴とする燃料電池用セパレータ。 - 前記開裂は基層に及ぶことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記基層は、前記開裂に臨む基層の表面に形成された酸化膜を有することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記基材としてFe、Cr、Ni及びMoの群から選ばれる少なくとも一種以上の遷移金属元素を含むステンレス鋼を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記基材としてNi基合金を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記窒化層は、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型結晶構造を有することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記基材として工業用純チタン(JIS1種)を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記窒化層の極表面の窒素量が5[at%]以上かつ酸素量が50[at%]以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記窒化層の極表面の酸素量に対する窒素量の比O/Nが10以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記窒化層の最表面から10[nm]深さにおいて、窒素量が10[at%]以上かつ酸素量が30[at%]以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
- 前記窒化層の最表面から100[nm]深さにおいて、窒素量が15[at%]以上かつ酸素量が20[at%]以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータ。
- 遷移金属又は前記遷移金属の合金からなる基材に焼鈍処理を行う焼鈍工程と、
前記焼鈍工程の後に連続して窒化処理を施して、前記基材表面に窒化層を形成する窒化工程と、
前記窒化工程後の基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路と、前記窒化層に開裂を形成するプレス成形工程と、を含むことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。 - 前記プレス成形工程の後に、不動態化処理を行うことを特徴とする請求項12に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
- 前記窒化処理の際に、基材に引っ張りテンションをかけることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
- 前記窒化処理は、プラズマ窒化法又はプラズマCVD法であることを特徴とする請求項12乃至請求項14のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
- 請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載された燃料電池用セパレータを用いたことを特徴とする燃料電池スタック。
- 請求項16に記載の燃料電池スタックを搭載し、これを動力源として用いたことを特徴とする燃料電池車両。
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JP2005045707A JP2006236616A (ja) | 2005-02-22 | 2005-02-22 | 燃料電池用セパレータ、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池用セパレータの製造方法 |
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Cited By (2)
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JP2012160382A (ja) * | 2011-02-01 | 2012-08-23 | Univ Of Fukui | 燃料電池用セパレータ及びその製造方法 |
JP2019519670A (ja) * | 2016-04-12 | 2019-07-11 | ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフトThyssenKrupp Steel Europe AG | 腐食保護された鋼製品を製造するための装置および方法 |
-
2005
- 2005-02-22 JP JP2005045707A patent/JP2006236616A/ja not_active Withdrawn
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