JP2007073435A - 燃料電池のガス拡散層、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池のガス拡散層の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】セパレータとガス拡散層との間で発生する接触抵抗が低く、耐食性に優れた燃料電池のガス拡散層、燃料電池スタック及びこの燃料電池スタックを備える燃料電池車両を提供する。
【解決手段】ガス拡散領域12と、ガス拡散領域12を画成する基材11とを有する燃料電池のガス拡散層9、10であって、基材11は、Feを主成分とし、Crと、少なくともNi又はMoのいずれかの元素を含むステンレス鋼からなり、基材11の表面11aから深さ方向に窒化処理して形成された窒化層14を有し、窒化層14は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する。
【選択図】図3
【解決手段】ガス拡散領域12と、ガス拡散領域12を画成する基材11とを有する燃料電池のガス拡散層9、10であって、基材11は、Feを主成分とし、Crと、少なくともNi又はMoのいずれかの元素を含むステンレス鋼からなり、基材11の表面11aから深さ方向に窒化処理して形成された窒化層14を有し、窒化層14は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する。
【選択図】図3
Description
この発明は、燃料電池のガス拡散層、燃料電池スタック、燃料電池車両、及び燃料電池のガス拡散層の製造方法に関し、特にステンレス鋼を用いて形成する固体高分子電解質型の燃料電池のガス拡散層に関する。
地球環境保護の観点から、燃料電池を自動車の内燃機関に代えて作動するモーターの電源として利用し、このモーターにより自動車を駆動することが検討されている。この燃料電池は、資源の枯渇問題を有する化石燃料を使う必要がないため排気ガス等を発生することがない。また、燃料電池は騒音がほとんど発生せず、更にはエネルギーの回収効率も他のエネルギー機関と比べて高くすることが可能である等の優れた特徴を有している。
燃料電池は、使用される電解質の種類に応じて、固体高分子電解質型、リン酸型、溶融炭酸塩型及び固体酸化物型等がある。そのうちの一つである固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質として分子中にプロトン交換基を有する高分子電解質膜を使用して、高分子電解質膜を飽和に含水させるとプロトン伝導性電解質として機能することを利用した電池である。固体高分子電解質型燃料電池は比較的低温で作動し、かつ発電効率が高い。更には、固体高分子電解質型燃料電池は他の付帯設備と共に小型で軽量であるため、電気自動車搭載用を始めとする各種の用途が見込まれている。
上記固体高分子電解質型燃料電池は燃料電池スタックを有する。燃料電池スタックは、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セルを複数個積層して両端部をエンドフランジで挟み、締結ボルトにより加圧保持されて一体に構成される。単セルは、高分子電解質膜とその両側に接合されるアノード(燃料極)とカソード(酸化剤極)により構成される。
図10は、燃料電池スタックを形成する単セルの構成を示す断面図である。図10に示すように、単セル80は、固体高分子電解質膜81の両側に酸化剤極82及び燃料極83を接合して一体化した膜電極接合体を有する。酸化剤極82及び燃料極83は、反応膜84及びガス拡散層85(GDL:gas diffusion layer)を備えた2層構造であり、反応膜84は固体高分子電解質膜81に接触している。酸化剤極82及び燃料極83の両側には、積層のために酸化剤極側セパレータ86及び燃料極側セパレータ87が各々設置されている。そして、酸化剤極側セパレータ86及び燃料極側セパレータ87により、酸化剤ガス流路、燃料ガス流路及び冷却水流路が形成されている。
上記構成の単セル80は、固体高分子電解質膜81の両側に酸化剤極82、燃料極83を配置して、通常、ホットプレス法により一体に接合して膜電極接合体を形成し、次に膜電極接合体の両側にセパレータ86、87を配置して製造する。上記単セル80から構成される燃料電池では、燃料極83側に、水素、二酸化炭素、窒素、水蒸気の混合ガスを供給し、酸化剤極82側に空気及び水蒸気を供給すると、主に、固体高分子電解質膜81と反応膜84との間の接触面において電気化学反応が起こる。以下、より具体的な反応について説明する。
上記構成の単セル80において、酸化剤ガス流路及び燃料ガス流路に酸化剤ガス及び燃料ガスが各々供給されると、酸化剤ガス及び燃料ガスが各ガス拡散層85を介して反応膜84側に供給され、各反応膜84において以下に示す反応が起こる。
燃料極側:H2 →2H++2e− ・・・式(1)
酸化剤極側:(1/2)O2+2H++ 2e−→H2O ・・・式(2)
燃料極83側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+とe−とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜81内を移動して酸化剤極82側に流れ、e−は負荷88を通って燃料極83から酸化剤極82に流れる。酸化剤極82側では、H+とe−と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
酸化剤極側:(1/2)O2+2H++ 2e−→H2O ・・・式(2)
燃料極83側に水素ガスが供給されると、式(1)の反応が進行して、H+とe−とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜81内を移動して酸化剤極82側に流れ、e−は負荷88を通って燃料極83から酸化剤極82に流れる。酸化剤極82側では、H+とe−と供給された酸素ガスとにより、式(2)の反応が進行して、電力が生成する。
固体高分子型電解質膜は、スルホン酸基を多数有する高分子から形成されており、湿潤状態においてスルホン酸基をプロトン交換として用いるため、プロトン伝導性を有する。固体高分子型電解質膜は強酸性であるため、セパレータ及びガス拡散層は、pH2〜3程度の硫酸酸性に対する耐食性が要求される。さらに、燃料電池に供給される各ガスの温度は80〜90[℃]と高温であり、また、燃料極ではH+が生じるだけでなく、酸素や空気等が通過する酸化剤極は、標準水素極電位に対して0.6〜1[VvsSHE]程度の電位が負荷される酸化性環境下にある。このため、酸化剤極、燃料極及びセパレータと同様に、ガス拡散層には強酸性雰囲気下で耐え得る耐食性が要求される。なお、ここで要求される耐食性とは、ガス拡散層が強酸性の酸化性環境下においても電気伝導性能を維持できる耐久性を意味する。つまり、カチオンが加湿水又は式(2)の反応により生成した水に溶出することにより、カチオンが本来プロトンの通り道となるべきスルホン酸基と結合してスルホン酸基を占有し、電解質膜の発電特性を劣化させる環境で、耐食性を測定する必要がある。
そこで、燃料電池用ガス拡散層には、電気伝導性が良く、耐食性に優れ、かつ、ガスを透過できる多孔質体であるカーボンペーパやカーボンクロスなどが使われる。
特開2004−288489号公報
しかしながら、カーボンペーパーは、自由電子密度が小さく、体積抵抗率の大きなカーボン繊維を用いているため、カーボンペーパの体積抵抗のみならず、カーボンペーパとセパレータとの間の接触抵抗が大きいという問題点がある。
燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm2]で使用される。電流密度が1[A/cm2]の場合には、セパレータとガス拡散層間との接触抵抗が40[mΩ・cm2]以下であれば接触抵抗による効率低下がおさえられると考えられている。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、第1の発明である燃料電池のガス拡散層は、ガス拡散領域と、このガス拡散領域を画成する基材とを有する燃料電池のガス拡散層であって、基材は、Feを主成分とし、Crと、少なくともNi又はMoのいずれかの元素を含むステンレス鋼からなり、基材の表面から深さ方向に窒化処理して形成された窒化層を有し、窒化層は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有することを要旨とする。
第2の発明である燃料電池のガス拡散層の製造方法は、ガス拡散領域と、ガス拡散領域を画成する基材とを有する燃料電池のガス拡散層の製造方法であって、Feを主成分とし、Crと、少なくともNi又はMoのいずれかの元素を含むステンレス鋼からなる基材を用意する工程と、基材の表面をプラズマ窒化処理して窒化層を形成するプラズマ窒化工程とを有し、プラズマ窒化工程により、基材の表面から深さ方向にFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成することを要旨とする。
第3の発明である燃料電池スタックは、上記第1の発明に係る燃料電池のガス拡散層を有することを要旨とする。
第4の発明である燃料電池車輌は、上記第3の発明に係る燃料電池スタックを動力源として備えることを要旨とする。
第1の発明によれば、酸化性環境下におけるセパレータとの間の接触抵抗を低い値に維持し、耐食性に優れた燃料電池のガス拡散層を提供することができる。
第2の発明によれば、簡便な操作により、酸化性環境下での低抵触抵抗値を維持し、耐食性に優れた燃料電池のガス拡散層を得ることができる。
第3の発明によれば、発電性能に優れ、小型化した燃料電池スタックを提供することができる。
第4の発明によれば、小型化した燃料電池スタックを搭載することにより、走行距離の長距離化を実現できると共にスタイリングの自由度を確保することができる。
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池のガス拡散層、燃料電池スタック、燃料電池車両及び燃料電池のガス拡散層の製造方法について、固体高分子型燃料電池に適用した例をあげて説明する。
(燃料電池のガス拡散層及び燃料電池スタック)
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池のガス拡散層を用いて構成した燃料電池スタック1の外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池のガス拡散層を用いて構成した燃料電池スタック1の外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。
図2に示すように、燃料電池スタック1は、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セル2と燃料電池用セパレータ3とを交互に複数個積層して構成される。図2に示した単セル2の両面にセパレータ3a、3bを配置した構成を図3に示す。図3(a)は、単セル2の両面にセパレータを配置した断面図であり、図3(b)は、図3(a)のIIIb-IIIb線断面図、図3(c)は、図3(b)のIIIc-IIIc線断面図である。図3(a)に示すように、各単セル2は、固体高分子型電解質膜6の一方の面に燃料極7、他方の面に酸化剤極8として白金触媒担持カーボンの触媒層がそれぞれ接合され、燃料極7の外側には燃料極側ガス拡散層9が配置され、酸化剤極8の外側には酸化剤極側ガス拡散層10が配置されている。燃料極側ガス拡散層9の外側には燃料極側セパレータ3aが配置され、酸化剤極側ガス拡散層10の外側には、酸化剤極側セパレータ3bが配置される。このように、ガス拡散層9、10の外側にセパレータ3a、3bを配置して、セパレータ3a、3bとガス拡散層9、10との間に酸化剤ガス流路と燃料ガス流路とを各々画成する。
ガス拡散層は、後述するように繊維状ステンレス鋼材によって網状に形成され、多数の空孔を有しており、それぞれ反応ガスの拡散を最適化し、反応ガスと燃料極7及び酸化剤極8との接触を容易にする。各セパレータ9、10は、プレート状に成形したカーボンや金属の表面にガス流路及び冷却水流路が形成されており、反応ガスの供給を行う。固体高分子型電解質膜としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(ナフィオン1128(登録商標)、デュポン株式会社)等を使用することができる。複数個の単セル2と燃料電池用セパレータ3とを交互に積層した後、両端部にエンドフランジ4を配置して、外周部を締結ボルト5により締結して燃料電池スタック1を構成する。また、燃料電池スタック1には、各単セル2に水素ガス等の水素を含有するスを供給するための水素供給ラインと、酸化剤ガスとして空気を供給する空気供給ラインと、冷却水を供給する冷却水供給ラインが設けられている。
図3(b)に示すように、酸化剤極側ガス拡散層10は複数の金属基材11と基材11の表面11aによって画成されたガス拡散領域12を有する網状の多孔質層である。基材11は、Fe(鉄)を主成分とし、Cr(クロム)と、少なくともNi(ニッケル)又はMo(モリブデン)のいずれかの元素を含む繊維状のステンレス鋼材の線材13により形成されている。このような元素を含有するステンレス鋼として、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系のステンレス鋼が挙げられる。基材11は、これらの中でも、特にオーステナイト系ステンレス鋼からなることが好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS310S、SUS316L、SUS317J1、SUS317J2、SUS321、SUS329J1、SUS836等が挙げられる。中でもCr含有量の多いSUS310S、SUS317J2を用いることがより好ましい。また、ステンレス鋼基材状に形成される窒化層中の遷移金属原子と窒素原子との共有結合性を強めること、また、各遷移金属元素の活量を低下させることにより、遷移金属原子の酸化に対する反応性を低下させて化学的安定性及び耐食性を向上させる観点から、次の式(3)〜式(5)を満たす基材を用いることが好ましい。
24[wt%]≦Cr≦26[wt%] ・・・(3)
14[wt%]≦Ni≦20[wt%] ・・・(4)
0[wt%]≦Mo≦1[wt%] ・・・(5)
図3(c)に示すように、各基材11は、基材11の表面11aを窒化処理することにより得られ、基材11の表面11aの深さ方向に形成されている窒化層14と、窒化されていない基材からなる基層15とからなる。窒化層14は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する。M4N型の結晶構造を図4(a)に示す。図4(a)に示すように、M4N型の結晶構造20は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属原子21によって形成された面心立方格子の八面体空隙位置に窒素原子22が配置された立方晶結晶構造である。このM4N型の結晶構造20において、Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子21を表し、Nは窒素原子22を表す。窒素原子22はM4N型の結晶構造20の八面体空隙に侵入し、立方晶の空間格子で表すと、窒素原子22は各単位胞の格子座標(0,0,1/2)、(0,1/2,0)、(1/2,0,0)、(1/2,1/2,1/2)に位置する。また、このM4N型の結晶構造20では、遷移金属原子21はFeを主体としているが、FeがCr、Ni、Moなどの他の遷移金属原子と一部置換した合金も含む。
14[wt%]≦Ni≦20[wt%] ・・・(4)
0[wt%]≦Mo≦1[wt%] ・・・(5)
図3(c)に示すように、各基材11は、基材11の表面11aを窒化処理することにより得られ、基材11の表面11aの深さ方向に形成されている窒化層14と、窒化されていない基材からなる基層15とからなる。窒化層14は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する。M4N型の結晶構造を図4(a)に示す。図4(a)に示すように、M4N型の結晶構造20は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選ばれた遷移金属原子21によって形成された面心立方格子の八面体空隙位置に窒素原子22が配置された立方晶結晶構造である。このM4N型の結晶構造20において、Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子21を表し、Nは窒素原子22を表す。窒素原子22はM4N型の結晶構造20の八面体空隙に侵入し、立方晶の空間格子で表すと、窒素原子22は各単位胞の格子座標(0,0,1/2)、(0,1/2,0)、(1/2,0,0)、(1/2,1/2,1/2)に位置する。また、このM4N型の結晶構造20では、遷移金属原子21はFeを主体としているが、FeがCr、Ni、Moなどの他の遷移金属原子と一部置換した合金も含む。
M4N型の結晶構造20を含む遷移金属窒化物は、遷移金属原子間の金属結合を保ったまま遷移金属原子と窒素原子の間で強い共有結合性を示し、遷移金属原子で構成される面心立方格子の八面体空隙位置に過飽和に窒素原子が侵入して遷移金属原子と結合するため、遷移金属窒化物中の各金属原子の酸化に対する反応性が低下する。このため、M4N型の結晶構造20を有する窒化層14を有するガス拡散層9、10は、酸化性環境下におけるガス拡散層9、10のセパレータ3a、3bとの間の接触抵抗を低い値に維持するため、耐食性に優れたガス拡散層を得ることが可能となる。また、M4N型の結晶構造20では図4に示す結晶格子を保ちつつ格子間に窒素原子が侵入しているため、セパレータ3a、3b及び電極7、8との導電性を確保できる。さらに、ガス拡散層9、10は繊維状ステンレス鋼材によって形成されているため、カーボンペーパーよりも剛性を高めることができる。このため、セパレータ3a、3b及び電極7、8との導通確保のために面圧をかけてもガス拡散層9、10は潰れにくくなり、セパレータ3a、3bとガス拡散層9、10との間に画成された酸化剤ガス流路と燃料ガス流路を縮小可能となり、燃料電池スタック1を小型化することが可能となる。
窒化層14は、M4N型の結晶構造のマトリクスと、マトリクス中に微細に分散し、マトリクスと複合化したε−M2〜3N型の六方晶結晶構造の結晶層とを含む複合化窒化層からなることが好ましい。図4(b)に窒化層に含まれるε−M2〜3N型の六方晶結晶構造を示す。図4(b)に示すように、ε−M2〜3N型の六方晶結晶構造23は、Fe原子24とN原子25からなり、M4N型の結晶構造20よりも窒素濃度が高い。このため、ε−M2〜3N型の六方晶結晶構造23の結晶層を有する窒化層は、M4N型の結晶構造20のみを有する単相の窒化層と比べて更に多くの窒素を含み、窒化層中の窒素原子の活量が高くなる。そして、各遷移金属原子の活量はさらに低下するため、窒化層中の各遷移金属原子の酸化に対する反応性が低下する。このため、窒化層は燃料電池の酸化性環境下においても化学的に安定であり、燃料電池に用いるガス拡散層として必要な導電性と、ガス拡散層使用環境下における導電性の機能を維持する化学的安定性及び耐食性を兼ね備えた窒化層が得られる。また、窒化層中の遷移金属原子と窒素原子との共有結合性を強めることにより遷移金属原子の酸化に対する反応性を低下させて化学的に安定化させることで、導電性の機能の維持及び耐食性をより向上させることが可能となる。この観点から、窒化層は、次の式(6)〜(9)を満たすことが好ましい。
(Fe1-x-y-zCrxNiyMoz)4N0.8〜1.7 ・・・(6)
0.25≦x≦0.27 ・・・(7)
0.13≦y≦0.19 ・・・(8)
0≦z≦0.01 ・・・(9)
また、ε−M2〜3N型の六方晶の結晶構造の結晶層は5〜30[nm]の厚さを有し、数10〜100[nm]の層間距離を有することが好ましい。M4N型の結晶構造を有するマトリクス中に層状にε−M2〜3N型の六方晶の結晶構造が分散することで、M4N型の結晶構造とε−M2〜3N型の六方晶の結晶構造の複合化窒化層に含まれる窒素原子の含有量が増大する。これにより、各遷移金属原子の酸化に対する反応性はさらに低下した状態となる。
0.25≦x≦0.27 ・・・(7)
0.13≦y≦0.19 ・・・(8)
0≦z≦0.01 ・・・(9)
また、ε−M2〜3N型の六方晶の結晶構造の結晶層は5〜30[nm]の厚さを有し、数10〜100[nm]の層間距離を有することが好ましい。M4N型の結晶構造を有するマトリクス中に層状にε−M2〜3N型の六方晶の結晶構造が分散することで、M4N型の結晶構造とε−M2〜3N型の六方晶の結晶構造の複合化窒化層に含まれる窒素原子の含有量が増大する。これにより、各遷移金属原子の酸化に対する反応性はさらに低下した状態となる。
なお、ガス拡散層9、10において、窒化層14中に含まれるFeに対するCr原子比が高い場合には、窒化層14中に含まれる窒素が窒化層14中のCrと結びついてCrNなどのCr系窒化物、すなわちNaCl型の窒素化合物が主成分となる。このため、窒化層14中にCrの欠乏組織ができ、この欠乏組織により窒化層14の耐食性が低下するため、遷移金属原子21はFeを主体とすることが好ましい。
このように、本発明の実施の形態に係る燃料電池のガス拡散層は、ガス拡散領域と、ガス拡散領域を画成する基材とを有する燃料電池のガス拡散層であって、基材は、Feを主成分とし、Crと、少なくともNi又はMoのいずれかの元素を含むステンレス鋼からなり、基材の表面から深さ方向に窒化処理して形成された窒化層を有し、窒化層は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有するため、遷移金属原子間の金属結合を保ったまま遷移金属原子と窒素原子との間で強い共有結合性を示すことに加え、燃料電池のガス拡散層として必要な導電性やガス拡散層使用環境下における導電性の機能を維持する化学的安定性及び耐食性を兼ね備えた遷移金属窒化物を提供することができる。また、本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックは、本発明の実施の形態に係る燃料電池のガス拡散層を有することにより、発電性能を損なうことなく高い発電効率を維持できると共に、小型化を実現することが可能となる。
(燃料電池のガス拡散層の製造方法)
次に、本発明に係る燃料電池のガス拡散層の製造方法の実施の形態について説明する。この燃料電池のガス拡散層は、ガス拡散領域と、ガス拡散領域を画成する基材とを有する燃料電池のガス拡散層の製造方法であって、Feを主成分とし、Crと、少なくともNi又はMoのいずれかの元素を含むステンレス鋼からなる基材を用意する工程と、基材の表面をプラズマ窒化処理して窒化層を形成するプラズマ窒化工程とを有し、窒化工程により、基材の表面から深さ方向にFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成することを特徴とする。
次に、本発明に係る燃料電池のガス拡散層の製造方法の実施の形態について説明する。この燃料電池のガス拡散層は、ガス拡散領域と、ガス拡散領域を画成する基材とを有する燃料電池のガス拡散層の製造方法であって、Feを主成分とし、Crと、少なくともNi又はMoのいずれかの元素を含むステンレス鋼からなる基材を用意する工程と、基材の表面をプラズマ窒化処理して窒化層を形成するプラズマ窒化工程とを有し、窒化工程により、基材の表面から深さ方向にFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成することを特徴とする。
プラズマ窒化法は、被処理物を陰極とし、直流電圧を印加してグロー放電、すなわち、低温非平衡プラズマを発生させてガス成分の一部をイオン化し、この非平衡プラズマ中のイオン化したガス成分が被処理物表面へ高速加速衝突することで被処理物表面を窒化する方法である。このため、プラズマ窒化法では、イオン衝撃によるスパッタリング作用により被処理物であるステンレス鋼表面の不動態皮膜を容易に除去しつつ窒化するためステンレス鋼に適した窒化方法であり、かつ非平衡反応によって基材中に窒素イオンを浸透させるために、基材表面に上記した結晶構造を短時間で容易に得ることができ、耐食性が向上する。ここで、非平衡プラズマとは、プラズマの中でも電子の平均エネルギーがイオンや中性種の平均エネルギーより大きな状態にあるプラズマをさす。
また、基材は繊維状ステンレス鋼材からなり、プラズマ窒化工程は、窒素ガス及び水素ガスを放電させた低温非平衡プラズマ中で、繊維状ステンレス鋼材にマイナスのバイアス電圧をかけることにより繊維状ステンレス鋼材を400〜450[℃]の温度で窒化することが好ましい。プラズマ窒化処理では、イオン衝撃によるスパッタリング作用により金属材料表面の酸素を除去しながら窒化反応を進めることができるため、窒化後の金属材料の最表層の酸素レベルを十分に低く抑えることが可能となる。さらに、セパレータとの間の接触抵抗を、燃料電池として好適となるように低い値に維持することが可能となる
次にプラズマ窒化の詳細を説明する。図5は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法に用いる窒化装置30の側面模式図、図6は、窒化装置30のシステム図である。
次にプラズマ窒化の詳細を説明する。図5は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法に用いる窒化装置30の側面模式図、図6は、窒化装置30のシステム図である。
窒化装置30は、バッチ式の窒化炉31と、この窒化炉31に雰囲気ガスを供給するガス供給装置32と、窒化炉31内でプラズマを発生させるプラズマ電極33a、33b及びこれらの電極33a、33bに直流電圧を供給する直流電源33と、窒化炉31内のガスを排出するポンプ34と、窒化炉31内の温度を検知する温度センサ37とを含んでいる。窒化炉31は内壁31a及び外壁31bを有し、内壁31aの天井部31cには燃料電池用セパレータの形状に加工したステンレス鋼箔44を吊下するステンレス製のハンガ36が設けられる。ガス供給装置32は、ガス室38とガス供給管路39とを有し、ガス室38には開口32a、32b、32c及び32dが設けられている。開口32a、32b及び32cは、それぞれガス供給弁V1、ガス供給弁V2及びガス供給弁V3を備えるH2ガス供給ライン32e、N2ガス供給ライン32f、Arガス供給ライン32gと連通する。ガス供給装置32は、ガス供給管路39の一端と連通する開口32dを有する。窒化炉31の天井部31cには、ガス供給管路39の他端と連通する開口31dを有する。ガス供給管路39にはガス供給弁V4が設けられる。窒化炉31内のガス圧は、窒化炉31の底部31eに設けられたガス圧センサ40によって検知される。窒化炉31には冷却水流路(不図示)が設けられ、冷却水は窒化炉31の外壁31bに設けられた開口31fから冷却水流路に流入し、開口31gから流出する。開口31fには冷却水供給弁V5が設けられ、冷却水の流量を調節する。ポンプ34は、上記底部31eに設けられた開口31hと連通する排出管路41と接続される。温度センサ37は、窒化炉31の外壁31bに設けられた設置口31iに設置される。
窒化装置30には、グロー放電のために操作盤43から制御される直流電源33の他に、バイアス用のポテンショメータ35が設けられている。直流電源33は陽(+)極33aが窒化炉31の内壁31aに接続され、陰(−)極33bが接地されている。ポテンショメータ35は、バイアス用直流電源端子35cと接地回路35dとの間の電位差を、可動接触子35eにより0[V]からバイアス電圧の範囲で分圧し、それにより得た電圧をバイアス回路35aを介して各ステンレス鋼箔44に供給する。直流電源33は制御盤43からの制御信号によりオン、オフされる。ポテンショメータ45は、操作盤43からバイアス制御回路35bを介してバイアス制御信号が供給され、この制御信号に応じて可動接触子35eが摺動する。従って、各ステンレス鋼箔44は、内壁31aに対し、直流電源33の端子間電圧と、可動接触子35eを介して供給されるバイアス電圧との間の電圧差を有する。なお、ガス供給装置32及びガス圧センサ40も、操作盤43によって制御される。
ここで、ステンレス鋼基材状に形成される遷移金属窒化物中の、遷移金属原子と窒素原子との共有結合性を強めること、また、各遷移金属元素の活量を低下させることにより遷移金属原子の酸化に対する反応性を低下させて化学的に安定化し、導電性の機能を維持する観点から、次の式(10)〜(12)を満たすFeを主成分とするステンレス鋼からなる基材を用いることが好ましい。
24[wt%]≦Cr≦26[wt%] ・・・式(10)
14[wt%]≦Ni≦20[wt%] ・・・式(11)
0[wt%]≦Mo≦1[wt%] ・・・式(12)
このように、本発明の実施の形態に係る燃料電池のガス拡散層の製造方法によれば、プラズマ窒化という簡便な操作により、酸化性環境下での低抵触抵抗値を維持し、耐食性に優れた燃料電池のガス拡散層を製造することが可能となる。
14[wt%]≦Ni≦20[wt%] ・・・式(11)
0[wt%]≦Mo≦1[wt%] ・・・式(12)
このように、本発明の実施の形態に係る燃料電池のガス拡散層の製造方法によれば、プラズマ窒化という簡便な操作により、酸化性環境下での低抵触抵抗値を維持し、耐食性に優れた燃料電池のガス拡散層を製造することが可能となる。
(燃料電池車両)
本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを動力源として備えた燃料電池電気自動車を挙げて説明する。
本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを動力源として備えた燃料電池電気自動車を挙げて説明する。
図7は、燃料電池スタック1を搭載した燃料電池電気自動車の外観を示す図である。図7(a)は燃料電池電気自動車50の側面図、図7(b)は燃料電池電気自動車50の上面図である。図7(b)に示すように、車体51前方には、左右のフロントサイドメンバとフードリッジのほか、フロントサイドメンバを含む左右のフードリッジ同士を互いに連結するダッシュロア部材をそれぞれ組み合わせて溶接接合したエンジンコンパートメント部52を形成している。図7(a)及び(b)に示す燃料電池電気自動車50では、エンジンコンパートメント部52内に燃料電池スタック1を搭載している。
本発明の実施の形態に係る燃料電池のガス拡散層を適用した発電効率の高い燃料電池スタック1を自動車等の移動体車両に搭載することにより、燃料電池電気自動車の燃費向上を図ることができる。また、小型化した軽量の燃料電池スタック1を車両に搭載することにより、車両重量を低減して省燃費化を図ることができ、走行距離の長距離化を図ることができる。さらに、小型化した燃料電池を移動体車両等に搭載することにより、車室内空間をより広く活用することができ、スタイリングの自由度を高めることができる。
なお、燃料電池車両の一例として電気自動車を挙げたが、本発明は電気自動車等の車両に限定されるものではなく、電気エネルギが要求される航空機その他の機関にも適用することが可能である。
以下、本発明に係る燃料電池用セパレータの実施例1〜実施例6及び比較例1について説明する。これらの実施例は、本発明に係る燃料電池用セパレータの有効性を調べたもので、異なる原料に対して、異なる条件下で処理を施すことによって生成した燃料電池のガス拡散層の例を示したものである。
<試料の調製>
各実施例では、JISにて規定されるSUS310S、SUS317J2の線径0.02〜0.1[mm]の線材を脱脂洗浄後、プラズマ窒化処理を施した。表1に用いた鋼種とそこに含まれる元素の含有率(wt%)及び原子百分率(at%)を示す。実施例1〜実施例6では処理温度400〜450[℃]、処理時間60[分]、ガス混合比N2:H2=1:1、処理圧力3〜7[Torr](=399〜665[Pa])の範囲内で各々制御し、表2に示す窒化物を表面から深さ方向に形成したステンレス鋼線を得た。このステンレス鋼線をメリヤス状に編んだワイヤーメッシュを積層することにより、厚さ0.3[mm]、空隙率95[%]のガス拡散性を備えた多孔質な板状に成形した。比較例1として、東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。
各実施例では、JISにて規定されるSUS310S、SUS317J2の線径0.02〜0.1[mm]の線材を脱脂洗浄後、プラズマ窒化処理を施した。表1に用いた鋼種とそこに含まれる元素の含有率(wt%)及び原子百分率(at%)を示す。実施例1〜実施例6では処理温度400〜450[℃]、処理時間60[分]、ガス混合比N2:H2=1:1、処理圧力3〜7[Torr](=399〜665[Pa])の範囲内で各々制御し、表2に示す窒化物を表面から深さ方向に形成したステンレス鋼線を得た。このステンレス鋼線をメリヤス状に編んだワイヤーメッシュを積層することにより、厚さ0.3[mm]、空隙率95[%]のガス拡散性を備えた多孔質な板状に成形した。比較例1として、東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。
ここで、各試料は、以下の方法によって評価された。
<窒化層の同定>
上記方法によって得られた試料の窒化層の同定は、窒化処理を施した表面のX線回折測定を行うことにより同定した。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
上記方法によって得られた試料の窒化層の同定は、窒化処理を施した表面のX線回折測定を行うことにより同定した。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
<窒化層の厚さの測定>
窒化層の厚さは、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて断面観察することにより測定した。
窒化層の厚さは、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて断面観察することにより測定した。
<窒素量の定量>
窒化層の窒素量、すなわち、窒化層の化学式をM4NXで表現した場合のXの値は、オージェ電子分光分析の深さ方向プロファイルにより、深さ100〜200[nm]間の測定値を平均した。装置は、PHI社製 MODEL4300を用いた。測定は、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
窒化層の窒素量、すなわち、窒化層の化学式をM4NXで表現した場合のXの値は、オージェ電子分光分析の深さ方向プロファイルにより、深さ100〜200[nm]間の測定値を平均した。装置は、PHI社製 MODEL4300を用いた。測定は、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
<接触抵抗の測定>
上記実施例1〜実施例6及び比較例1で得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して接触抵抗を測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。図8にこの装置の模式図を示す。図8に示すように、電極61a/サンプル62/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。なお、接触抵抗は、後述する耐食試験の前後で2回測定を行った。耐食試験後の接触抵抗値は、燃料電池スタック内で燃料電池のガス拡散層が曝される環境を模擬して、酸化性環境下での耐食性を評価したものである。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。
上記実施例1〜実施例6及び比較例1で得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して接触抵抗を測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。図8にこの装置の模式図を示す。図8に示すように、電極61a/サンプル62/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。なお、接触抵抗は、後述する耐食試験の前後で2回測定を行った。耐食試験後の接触抵抗値は、燃料電池スタック内で燃料電池のガス拡散層が曝される環境を模擬して、酸化性環境下での耐食性を評価したものである。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。
<耐食性の評価 定電位電解試験>
上記実施例1〜実施例6及び比較例1で得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して、電気化学的な手法である定電位電解試験を行った後、腐食電流密度を測定し、耐食性の低下の度合いを評価した。燃料電池では、燃料極側と比較して酸化剤極側に最大で1[V]vsSHE程度の電位がかかる。また、固体高分子電解質膜は、分子中にスルホン酸基などのプロトン交換基を有する高分子電解質膜を飽和に含水させてプロトン伝導性を利用するものであり、強酸性を示す。このため、電位をかけた状態で一定時間保持した後の腐食電流密度測定して耐食性を評価した。なお、定電位電解試験の条件は、pH2の硫酸水溶液で、温度80[℃]、電位1[V]vsSHE電位を印加し、保持する一定時間を100[時間]とした。
上記実施例1〜実施例6及び比較例1で得られた試料を30[mm]×30[mm]の大きさに切り出して、電気化学的な手法である定電位電解試験を行った後、腐食電流密度を測定し、耐食性の低下の度合いを評価した。燃料電池では、燃料極側と比較して酸化剤極側に最大で1[V]vsSHE程度の電位がかかる。また、固体高分子電解質膜は、分子中にスルホン酸基などのプロトン交換基を有する高分子電解質膜を飽和に含水させてプロトン伝導性を利用するものであり、強酸性を示す。このため、電位をかけた状態で一定時間保持した後の腐食電流密度測定して耐食性を評価した。なお、定電位電解試験の条件は、pH2の硫酸水溶液で、温度80[℃]、電位1[V]vsSHE電位を印加し、保持する一定時間を100[時間]とした。
実施例1〜実施例6では、M4N型の結晶構造及びε−M2〜3N型の結晶構造を含む窒化層が形成されていた。ε−M2〜3N型の結晶構造は、M4N型の結晶構造を有するマトリクス中に層状に形成されていた。図9(a)に窒化層の模式図、(b)に71b部の拡大図を示す。図9に示すように、基材として使用したステンレス鋼の表面を窒化処理することにより、基材の表面の深さ方向に窒化層71が形成されている。窒化層71の直下は窒化されていない基材である基層(不図示)となっている。図9に示すように、窒化層71には層状の組織が繰り返された2相複合組織が観測され、M4N型の結晶構造のマトリクス73と、マトリクス73中に形成された層状のε−M2〜3N型の結晶構造の結晶層74であることが判明した。
表3に示すように、実施例1〜実施例6で得られた試料は、電解試験後であっても低い接触抵抗を示した。この理由は、基材表面から深さ方向に形成されている窒化層が化学的に安定であることに加え、基材及び窒化層中の自由電子密度が高く、金属的なバンド伝導性を示すためと考えられる。比較例1であるカーボンペーパは、カーボン繊維内の自由電子密度が低いため、実施例と比べると、高い接触抵抗値を示す。また、実施例1〜実施例6のうち、窒化層中に含まれる窒化物をM4NXと表したときのXが最も高い値であった実施例4の接触抵抗は、電解試験前後において最も低かった。これは、窒化層中に含まれる窒素濃度が高いほど耐食性を有し、電解試験後であっても低い接触抵抗を維持すると考えられる。このように、実施例1〜実施例6で得られた試料はカーボンペーパよりも導電性が良く、さらに窒化層中に含まれる窒素濃度が高いほど電解試験後であっても低い接触抵抗を維持することがわかった。
このように、実施例1〜実施例6では、M4N型の結晶構造及びε−M2〜3N型の結晶構造が形成されているため、各試料の電解試験前後における接触抵抗が低く、耐食性が良好であった。この理由は、窒化層がM4N型結晶構造を有し、遷移金属原子間の金属結合を保ったまま遷移金属原子と窒素原子の間で強い共有結合性を示すことにより窒化層中の各金属原子が化学的に安定していることに加え、ε−M2〜3N型の結晶構造を有することにより、窒化層全体の窒素含有量が増大し、窒化層中の各遷移金属原子の酸化に対する反応性がさらに低下したためと考えられる。このように、窒化物の酸化に対する化学的安定性が高いため、電解試験後に窒化物最表面が酸化されなかったと考えられる。
以上示したように、実施例1〜実施例6で得られた試料は酸化性環境下におけるセパレータとの間の接触抵抗を低い値に維持し、かつ耐食性に優れていることが分かった。また、プラズマ窒化という簡便な操作により窒化処理ができることから、酸化性環境下での低い抵触抵抗を維持し、耐食性に優れた燃料電池のガス拡散層が得るられることがわかった。さらに、実施例1〜実施例6で得られた試料を用いることにより、単位セル当りの起電力が高く、起電力の高い燃料電池スタックを形成することが可能となることがわかった。
1 燃料電池スタック
2 単セル
3 燃料電池用セパレータ
4 エンドフランジ
5 締結ボルト
9、10ガス拡散層
11 基材
11a 表面
12 ガス拡散領域
14 窒化層
2 単セル
3 燃料電池用セパレータ
4 エンドフランジ
5 締結ボルト
9、10ガス拡散層
11 基材
11a 表面
12 ガス拡散領域
14 窒化層
Claims (9)
- ガス拡散領域と、前記ガス拡散領域を画成する基材とを有する燃料電池のガス拡散層であって、
前記基材は、Feを主成分とし、Crと、少なくともNi又はMoのいずれかの元素を含むステンレス鋼からなり、前記基材の表面から深さ方向に窒化処理して形成された窒化層を有し、前記窒化層は、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有することを特徴とする燃料電池のガス拡散層。 - 前記窒化層は、前記M4N型の結晶構造のマトリクスと、前記マトリクス中に微細に分散し、前記マトリクスと複合化したε−M2〜3N型の六方晶結晶構造の結晶層とを含む複合化窒化層からなることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池のガス拡散層。
- 前記基材は、表面から深さ方向に窒化層が形成された繊維状ステンレス鋼材からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池のガス拡散層。
- 前記基材は、次の式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池のガス拡散層。
24[wt%]≦Cr≦26[wt%] ・・・(1)
14[wt%]≦Ni≦20[wt%] ・・・(2)
0[wt%]≦Mo≦1[wt%] ・・・(3) - 前記窒化層は、次の式(4)〜(7)を満たすことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池のガス拡散層。
(Fe1-x-y-zCrxNiyMoz)4N0.8〜1.7 ・・・(4)
0.25≦x≦0.27 ・・・(5)
0.13≦y≦0.19 ・・・(6)
0≦z≦0.01 ・・・(7) - ガス拡散領域と、前記ガス拡散領域を画成する基材とを有する燃料電池のガス拡散層の製造方法であって、
Feを主成分とし、Crと、少なくともNi又はMoのいずれかの元素を含むステンレス鋼からなる基材を用意する工程と、
前記基材の表面をプラズマ窒化処理して窒化層を形成するプラズマ窒化工程とを有し、
前記プラズマ窒化工程により、前記基材の表面から深さ方向にFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型の結晶構造を有する窒化層を形成することを特徴とする燃料電池のガス拡散層の製造方法。 - 前記基材は繊維状ステンレス鋼材からなり、
前記プラズマ窒化工程は、窒素ガス及び水素ガスを放電させた低温非平衡プラズマ中で、前記繊維状ステンレス鋼材にマイナスのバイアス電圧をかけることにより前記繊維状ステンレス鋼材を400〜450[℃]の温度で窒化することを特徴とする請求項6に記載の燃料電池のガス拡散層の製造方法。 - 請求項1乃至請求項5のいずれか一項に係る燃料電池用セパレータを有することを特徴とする燃料電池スタック。
- 請求項8に係る燃料電池スタックを動力源として備えることを特徴とする燃料電池車両。
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JP2007073429A (ja) * | 2005-09-08 | 2007-03-22 | Nissan Motor Co Ltd | 燃料電池スタック及び燃料電池用導電性多孔質部材の製造方法 |
-
2005
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