JP2006136258A - 固定化酵素の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高活性かつハンドリング性に優れる固定化酵素を製造する方法の提供。
【解決手段】油脂分解用酵素を固定化用担体に吸着固定化した後、脂溶性脂肪酸、又はその誘導体を溶解した有機溶剤に接触させることにより、担体重量に対して1〜20%の残存水分量になるように酵素水分を調整する固定化酵素の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、油脂(モノ、ジ又はトリグリセライド)の加水分解反応、脂肪酸とアルコールのエステル化反応又は油脂のエステル交換反応における触媒として使用される、高い活性を有すると共に、ハンドリング性にも優れる固定化酵素を製造する方法に関する。
油脂(モノ、ジ又はトリグリセライド)の加水分解物、あるいは逆反応である脂肪酸とアルコールからのエステル化物、及び油脂のアシル基を交換して新しいグリセライドを製造する際に、触媒として油脂分解用酵素を利用するケースが増えている。特に機能性を持った油脂を製造する場合、位置特異性を有するリパーゼを利用することが多い。この酵素を回収再利用する方法として固定化酵素の利用がある。
現在入手可能な固定化酵素は、保存時の酵素失活の抑制やハンドリング性の良さを考慮して、いずれも乾燥物としての形態で提供されている。しかしながら、固定化酵素を減圧、真空又は加熱下で乾燥する工程では吸着した酵素の失活が起こり易く、実際の活性発現時に吸着時の最大活性を発現しない場合が多い。また、酵素を有機溶剤で処理することにより水分を除去する方法も知られているが(特許文献1参照)、やはり酵素吸着時の最大活性からの落ち込みが激しい。
一方、固定化酵素の乾燥を脂肪酸誘導体の接触下で行うことにより活性発現を高める方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では、緩慢に乾燥することが必要とされており、効率的でないと共に、その条件設定等が複雑であり、また高価な設備が必要となり、実用的でない。
また、酵素を固定化担体に吸着固定化した後、脂肪酸グリセライド等に接触させることにより、又は接触させつつ脱水することにより、固定化酵素の残存水分量を調整することで、酵素の失活を抑制し、高活性なエステル化反応用の固定化酵素を製造する方法も知られている(特許文献3、4参照)。しかし、この方法で調製された固定化酵素は脂肪酸グリセリド等が浸潤した状態であるために、取り扱いに便利な形態であるとはいえず、ハンドリング性という点で問題があった。
特開2000-253874号公報 特開昭62-134090号公報 特開2000-166552号公報 特開2004-81200号公報
本発明は、高い活性を有し、ハンドリング性にも優れる固定化酵素を提供することを目的とする。
本発明者は、酵素を固定化担体に吸着固定化した後、脂溶性脂肪酸又はその誘導体等を溶解した有機溶剤に接触させることにより、高い活性を維持したまま固定化酵素の水分を調整することができ、また、脂肪酸グリセライド等を残存させることがないためハンドリング性を改善することができることを見出した。
すなわち本発明は、油脂分解用酵素を固定化用担体に吸着固定化した後、脂溶性脂肪酸又はその誘導体を溶解した有機溶剤に接触させることにより、担体重量に対して1〜20%の残存水分量になるように酵素水分を調整する固定化酵素の製造方法を提供するものである。
本発明方法により、高活性かつハンドリング性に優れる固定化酵素を製造することができる。
本発明で使用する固定化用担体は、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられるが、特にイオン交換樹脂が望ましい。
イオン交換樹脂としては、多孔質の陰イオン交換樹脂が好ましい。このような多孔質担体は、大きな表面積を有するため、酵素のより大きな吸着量を得ることができる。樹脂の粒子径は100〜1000μmが好ましく、細孔径は10〜150nmが好ましい。材質としては、フェノールホルムアルデヒド系、ポリスチレン系、アクリルアミド系、ジビニルベンゼン系等が挙げられ、特にフェノールホルムアルデヒド系樹脂(例えば、Rohm and Haas社製Duolite A-568)が望ましい。
本発明で使用する油脂分解用酵素としては、リパーゼが好ましい。リパーゼは、動物由来、植物由来のものはもとより、微生物由来の市販リパーゼを使用することもできる。微生物由来リパーゼとしては、リゾプス(Rizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属、キャンディダ(Candida)属等の起源のものが挙げられる。特に機能性油脂を製造する目的とする場合、グリセリンの目的の位置に選択的に結合を作ることができる位置特異性のリパーゼである1,3位選択性リパーゼであるリゾプス(Rizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属を利用することが望ましい。
これらの酵素を固定化する場合、担体と酵素を直接吸着してもよいが、高活性を発現するような吸着状態にするため、酵素吸着前にあらかじめ担体を脂溶性脂肪酸又はその誘導体で処理して使用してもよい。使用する脂溶性脂肪酸としては、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の、水酸基が置換していてもよい脂肪酸が挙げられる。具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、リシノール酸、イソステアリン酸等が挙げられる。またその誘導体としては、これらの脂肪酸と一価又は多価アルコールとのエステル、リン脂質、及びこれらのエステルにエチレンオキサイドを付加した誘導体が挙げられる。具体的には、上記脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、モノグリセライド、ジグリセライド、それらのエチレンオキサイド付加体、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル等が挙げられる。これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体は、2種以上を併用してもよい。
これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体と担体の接触法としては、水又は有機溶剤中にこれらを直接加えてもよいが、分散性を良くするため、有機溶剤に脂溶性脂肪酸又はその誘導体を一旦分散、溶解させた後、水に分散させた担体に加えてもよい。この有機溶剤としては、クロロホルム、ヘキサン、エタノール等が挙げられる。脂溶性脂肪酸又はその誘導体の使用量は、担体重量に対して1〜500%、特に10〜200%が好ましい。接触温度は0〜100℃、特に20〜60℃が好ましく、接触時間は5分〜5時間程度が好ましい。この処理を終えた担体は、ろ過して回収するが、乾燥してもよい。乾燥温度は室温〜100℃が好ましく、減圧乾燥を行ってもよい。
酵素の固定化を行う温度は、酵素の特性によって決定することができるが、酵素の失活が起きない0〜60℃、特に5〜40℃が好ましい。また固定化時に使用する酵素溶液のpHは、酵素の変性が起きない範囲であればよく、温度同様酵素の特性によって決定することができるが、pH3〜9が好ましい。このpHを維持するためには緩衝液を使用するが、緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等が挙げられる。
上記酵素溶液中の酵素濃度は、固定化効率の点から酵素の飽和溶解度以下で、かつ十分な濃度であることが望ましい。また酵素溶液は、必要に応じて不溶部を遠心分離で除去した上澄や、限外濾過等によって精製したものを使用することもできる。また用いる酵素量は、担体重量に対して5〜1000%、特に10〜500%が好ましい。
酵素の固定化の後、脂溶性脂肪酸又はその誘導体を溶解した有機溶剤に接触させることにより、固定化酵素の残存水分量を調整する。残存水分量は、担体重量に対して1〜20%に調整されるが、2〜15%、特に3〜10%に調整されることが好ましい。
上記処理に使用する脂溶性脂肪酸としては、菜種油、大豆油、ひまわり油等の植物性の液状油脂又はイワシ油、マグロ油、カツオ油等の魚油から生成された脂溶性脂肪酸が好ましく、その誘導体としては、これらの油脂自体、及びこれらの油脂から得られる低級アルコールエステルが挙げられる。これらは、2種以上併用してもよい。なお、使用する脂溶性脂肪酸又はその誘導体は、本発明方法により調製された固定化酵素を用いた実際の加水分解反応、エステル化反応又はエステル交換反応において基質とする油脂、又はその加水分解物若しくは低級アルコールエステルを選択することが好ましい。
使用される脂溶性脂肪酸又はその誘導体の量は、固定化酵素との接触を十分なものとし、かつ過剰量の使用による無駄を回避する観点から、担体重量に対して1〜500%が好ましく、特に10〜200%が好ましい。
上記処理に使用する有機溶剤としては、アセトン、エタノール、更にはこれらの混合物等が挙げられるが、酵素の失活防止、あるいは揮発性の点からアセトン、あるいはアセトンと他の有機溶剤の混合物が好ましい。
使用される有機溶剤の量は、固定化酵素との接触を十分なものとし、かつ過剰量の使用による無駄を回避する観点から、担体重量に対して100〜3000%、特に200〜2000%が好ましい。
固定化酵素と脂溶性脂肪酸又はその誘導体を溶解した有機溶剤との接触方法は、浸漬、分散、攪拌、固定化酵素を充填したカラムにポンプ等で通液する等、いずれの方法でもよい。接触温度は、接触中に油相が凝固しない温度であればよく、使用する脂溶性脂肪酸又はその誘導体及び有機溶剤の特性と酵素の特性に応じて適宜決定することができるが、0〜40℃、特に5〜30℃が好ましい。接触時間は、1〜30分、特に3〜10分が好ましい。また必要に応じ、複数回処理することも可能である。
酵素を担体に吸着固定化した際における固定化酵素の水分は、通常120〜300%対担体重量の範囲にあるが、脂溶性脂肪酸又はその誘導体を溶解した有機溶剤と接触することで、1〜20%対担体重量まで残存水分を低減させることができる。このような処理によって、通常行われる乾燥処理のような強制的な水分の除去時に発生する酵素に対するダメージを、極力軽減して、高い活性発現を有する固定化酵素を調製することができる。
この接触処理が終わった段階で、必要に応じて濾過を行った後、固定化酵素を回収する。
実施例1
Duolite A-568(Rohm and Haas社製)100gをN/10のNaOH溶液1L中で1時間攪拌した。濾過後、1Lの蒸留水で洗浄し、500mMの酢酸緩衝液(pH6)1LでpHを平衡化した。その後50mMの酢酸緩衝液(pH6)1Lで2時間ずつ2回、pH平衡化を行った。濾過して担体を回収した後、エタノール500mLで置換を30分行った。濾過後、リシノール酸を100g含むエタノール溶液500mLと担体を30分間接触させた。濾過後、50mMの酢酸緩衝液(pH6)500mLで0.5時間ずつ4回緩衝液置換を行った。濾過後、3%濃度のリパーゼF-AP15(アマノエンザイム社製)溶液1000mLと室温で2時間接触させ、酵素の吸着を行った。吸着後、濾過を行い、50mMのリン酸緩衝液(pH6)500mLで0.5時間洗浄した。洗浄後濾過によって固定化酵素を回収した。
この固定化酵素に、100gのオレイン酸を500gのアセトンに溶解したものを添加し、20℃、5分間撹拌した後、濾過して固定化酵素を回収した。この時、固定化酵素の残存水分量は対担体7.9重量%であった。
実施例2
実施例1と同様の手法により、固定化酵素を調製し、回収した。この固定化酵素に、200gのオレイン酸を800gのアセトンに溶解したものを添加し、20℃、5分間撹拌した後、濾過して固定化酵素を回収した。この時、固定化酵素の残存水分量は対担体6.5重量%であった。
実施例3
実施例1と同様の手法により、固定化酵素を調製し、回収した。この固定化酵素に、100gの菜種油を500gのアセトンに溶解したものを添加し、20℃、5分間撹拌した後、濾過して固定化酵素を回収した。この時、固定化酵素の残存水分量は対担体7.7重量%であった。
比較例1
実施例1と同様の手法により、固定化酵素を調製し、回収した。この固定化酵素に、500gのアセトンを添加し、20℃、5分間撹拌した後、濾過して固定化酵素を回収した。この時、固定化酵素の残存水分量は対担体7.2重量%であった。
比較例2
実施例1と同様の手法により、固定化酵素を調製し、回収した。この固定化酵素に1000gのオレイン酸を添加し、40℃、2時間攪拌した後、濾過して固定化酵素を回収した。この時、固定化酵素の残存水分量は対担体134重量%であった。
比較例3
実施例1と同様の手法により、固定化酵素を調製し、回収した。この固定化酵素に1000gの菜種油を添加し、40℃、2時間攪拌した後、濾過して固定化酵素を回収した。この時、固定化酵素の残存水分量は対担体30重量%であった。
試験例1
各固定化酵素の相対活性値の測定と取り扱い易さの評価を、以下に示す方法に従って行った。
〔相対活性値の測定法〕
固定化酵素を乾燥重量として4g計量し、200mL容の四つ口フラスコに仕込んだ。そこへオレイン酸とグリセリンの混合物80g(モル比でオレイン酸/グリセリン=2.0)を添加し、50℃、400Paの減圧下でエステル化反応を行った。反応液を経時的にサンプリングし、グリセライド組成の経時変化を追跡した。なお、各反応液のグリセライド組成は、反応液をトリメチルシリル化した後、ガスクロマトグラフィーにて分析を行った。活性値はジグリセライド(DG)+トリグリセライド(TG)の合計が70%になった時間を基準とし、実施例1の活性値を100%とした場合の相対値で表現した。結果を表1に示した。
〔固定化酵素の取り扱い易さの評価〕
固定化酵素の取り扱い易さは、以下に示すふるい通過率により評価した。
固定化酵素を乾燥重量として約100g用い、ふるい分けを行った。目開き1.7mm、直径200mmの標準ふるいを用い、30秒間振とうした後、ふるい下の重量を測定することで、ふるい通過率を算出した。この結果を表1に示す。
ふるい通過率100%の場合は、固定化酵素の凝集が全くみられず、速やかにふるいを通過する。この場合、酵素塔への均一充填が容易であり、作業時間も短縮され、作業効率が非常に良好となる。
Figure 2006136258
表1の結果から、酵素固定化後に油脂処理のみを行ったもの(比較例3)は、酵素活性の維持は十分であるものの、固定化酵素中の残存水分量が多く、取り扱いに難があった。また、酵素固定化後に脂肪酸処理のみを行ったもの(比較例2)は、固定化酵素中の水分量の低減ができず、取り扱いが極めて困難である上に、酵素活性もやや低下していた。更に、溶剤処理のみを行ったもの(比較例1)は、取り扱いは容易であるものの酵素活性の低下が目立った。即ち、比較例1〜3の結果からは、溶剤処理と脂肪酸処理を同時に行った場合には、活性が低下し、取り扱いもさほど良くならないことが予想される。
ところが、酵素固定化後に、脂溶性脂肪酸又は油脂を溶解した溶剤に接触させた本発明方法による固定化酵素は、取り扱い性は溶剤処理品と全く同じでありながら、酵素活性を高く維持しており、予想を遙かに超える効果が得られた。

Claims (4)

  1. 油脂分解用酵素を固定化用担体に吸着固定化した後、脂溶性脂肪酸又はその誘導体を溶解した有機溶剤に接触させることにより、担体重量に対して1〜20%の残存水分量になるように酵素水分を調整する固定化酵素の製造方法。
  2. 有機溶剤に溶解する脂溶性脂肪酸又はその誘導体の量が、担体重量に対して1〜500%である請求項1記載の固定化酵素の製造方法。
  3. 有機溶剤に溶解する脂溶性脂肪酸又はその誘導体が、酵素の油相基質である請求項1又は2記載の固定化酵素の製造方法。
  4. 有機溶剤が、アセトンである請求項1〜3のいずれかに記載の固定化酵素の製造方法。
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