JP2019054738A - 脂肪酸類の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
油脂を加水分解する方法としては、高温高圧分解法と酵素分解法がある(例えば、特許文献1、2)。酵素分解法は、リパーゼ等の油脂加水分解酵素を触媒として用い、油脂に水を加えて比較的低温の条件で反応を行うもので、トランス不飽和脂肪酸を生成しないという利点を有する。
従って、本発明は、固定化酵素を再使用して間隔を空けて油脂の加水分解反応を行っても、反応休止期間中の酵素の加水分解活性の低下を抑え、脂肪酸類を生産性良く製造できる方法を提供しようとするものである。
そこで更に検討したところ、加水分解反応に使用した固定化酵素と油脂を接触させる処理を行い、固定化酵素に付着して残っている水を消費させて固定化酵素の水分活性を所定値以下に低下させれば、反応休止期間中の酵素の加水分解活性の低下が抑えられることを見出した。
(A)含水率が10質量%以上である油水混合物を固定化酵素と接触させて油脂を加水分解し、脂肪酸類を得る工程、
(B)油脂の加水分解反応に使用した固定化酵素を油脂と接触させて、当該固定化酵素の水分活性を0.75以下に低下させる工程
を含む、脂肪酸類の製造方法。
本明細書において「脂肪酸類」は、脂肪酸の他、油脂を含んでいてもよい。
「油脂」は、「油」と同義であり、油脂(油)を構成する物質にはトリグリセリド(TAG)のみならずモノグリセリド(MAG)やジグリセリド(DAG)も含まれる。すなわち、油脂(油)は、モノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドのいずれか1種以上を含むものである。
本工程は、含水率が10質量%以上である油水混合物を固定化酵素と接触させて油脂を加水分解し、脂肪酸類を得る工程である。本明細書において「油水混合物」は、加水分解の対象となる油脂と水の混合物であるが、分相していても、乳化状態となっていてもよい。
加水分解の対象となる油脂は、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油、米油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ハトムギ油、小麦胚芽油、シソ油、アマニ油、エゴマ油、チアシード油、サチャインチ油、クルミ油、キウイ種子油、サルビア種子油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、ボラージ油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、やし油、パーム核油、カカオ脂、サル脂、シア脂、藻油等の植物性油脂;魚油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂;あるいはそれらのエステル交換油、水素添加油又は分別油等の油脂類を挙げることができる。これらの油脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
油水混合物の含水率をコントロールする方法としては、(1)あらかじめ、反応成分の水分量をカールフィッシャー法等により測定しておき、合計の水分量をコントロールする方法、(2)反応成分を完全に脱水して、後で所定量の水を加える方法等がある。
油脂加水分解酵素としては、リパーゼが好ましい。リパーゼは、特に制限されず、動物由来、植物由来、又は微生物由来のリパーゼを用いることができる。例えば、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属、キャンディダ(Candida)属等の起源のリパーゼが挙げられる。
なかでも、加水分解効率の点から、位置・鎖長選択性のない、所謂非選択性リパーゼを用いるのが好ましく、更にキャンディダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)によって生産される非選択性リパーゼを用いるのが好ましい。
このとき、用いる油脂加水分解酵素量は、担体質量に対して0.1〜300質量%、更に0.5〜200質量%、更に1〜150質量%が工業的生産性の点から好ましい。固定化の際、酵素を溶液状態にするが、緩衝剤を用いてpH3〜7に調整して用いることが好ましい。固定化時の温度は0〜60℃、更に3〜40℃が好ましい。
使用する脂溶性脂肪酸としては、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の、水酸基が置換していても良い脂肪酸が挙げられる。具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、リシノール酸等が挙げられる。またその誘導体としては、これらの脂肪酸と一価又は多価アルコールとのエステル、リン脂質、及びこれらのエステルにエチレンオキサイドを付加した誘導体が挙げられる。具体的には、上記脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、それらのエチレンオキサイド付加体、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル等が挙げられる。これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体は2種以上を併用しても良い。
遊離脂肪酸濃度は、油相の酸価及び脂肪酸組成から以下の式で示される。
遊離脂肪酸濃度(質量%)=x×y/56.11/10
(x=油相の酸価[mgKOH/g]、y=脂肪酸組成から求めた平均分子量)
なお、油相の酸価は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「酸価(2.3.1−1996)」により測定できる。
油相は脂肪酸類としてこのまま使用しても良く、クロマトグラフィー、分子蒸留、液液分配、結晶分別、脱酸法等の分別手段により遊離脂肪酸画分を分取してもよい。
加水分解反応に使用した固定化酵素は、分離、回収後、再び含水率が10質量%以上である油水混合物に作用させて油脂の加水分解に再利用する。
本工程は、油脂の加水分解反応に使用した固定化酵素を油脂と接触させて、当該固定化酵素の水分活性を0.75以下に低下させる工程である。
油脂の加水分解反応後、濾過や不活性ガスブローによって油水を分離し、回収した固定化酵素の水分量は、通常、15質量%以上であり、また、水分活性は、通常、0.9以上である。
このように油脂の加水分解反応後の固定化酵素は水が多く付着した状態にあるところ、当該固定化酵素を油脂と接触させることにより、油脂の加水分解に当該固定化酵素に付着して残っている水を消費させて固定化酵素の水分活性を0.75以下に低下させることができる。そのため、反応休止期間中の酵素の加水分解活性の低下が抑えられる。
油脂の加水分解反応に使用した固定化酵素に接触させる油脂の使用量は当該固定化酵素の水分活性を0.75以下に低下させることができればよい。水分活性低減効率の点、工業的生産性の点から、油脂の使用量は、反応系内の初期水分量に対して1000質量%以上、更に1250〜5000質量%、更に1500〜4000質量%、更に1750〜3000質量%であるのが好ましい。ここで、反応系内の初期水分は、工程(B)前、油脂の加水分解反応に使用した固定化酵素に付着して残っている水の他に、反応系内へ添加する油脂に含まれる水を含める。また、油脂の加水分解を固定化酵素を充填した酵素塔(反応塔)と油脂及び水を酵素塔へ供給する基質供給塔を備えた加水分解反応装置にて行う場合は、加水分解反応後、基質供給塔内や基質供給塔と酵素塔の間の供給路にも水が残っているため、反応系内の初期水分は、工程(B)前に当該加水分解反応装置内に残っている水も含む。あらかじめ、工程(B)前に、油脂の加水分解反応に使用した固定化酵素の残存水分量等の反応系内の残存水分量を見積もり、それに応じた油脂を供給して当該固定化酵素に接触させることで、当該固定化酵素の水分活性を0.75以下に低下させることができる。
当該固定化酵素と油脂との接触温度は、反応系内の残存水分が消費されて固定化酵素の水分活性が低下し、また、酵素の失活が起こらず、酵素特性に合わせればよく、前述の油脂の加水分解反応温度の範囲が好ましい。
当該固定化酵素と油脂との接触は、得られる部分分解油中の遊離脂肪酸濃度が平衡状態に到達した時点で終了することができる。例えば、遊離脂肪酸濃度が70質量%以下、更に5〜60質量%、更に10〜50質量%、更に15〜40質量%の範囲で終了する。得られる部分分解油は、以降の加水分解反応原料として利用することができる。
本発明では、加水分解反応終了から、間隔を空けて、例えば24時間以上後、更に72時間以上後、更に120時間以上後に、固定化酵素を再使用して油脂の加水分解反応を開始する場合に、本発明の効果がより有効に発揮される。
固定化酵素を再使用して油脂の加水分解反応を開始する際の固定化酵素の残存活性率は、脂肪酸類の生産性の点から高いのが好ましく、80%以上がより好ましく、更に85〜99%、更に90〜98%が好ましい。固定化酵素の残存活性率は、後述の〔分析方法〕(vi)に記載した方法に従って求めた値をいう。
固定化酵素を再使用する回数は、酵素活性によって相違するものの、酵素を効率的に使用する点から、1回以上、更に2回以上、更に5回以上、更に10回以上であるのが好ましい。
(i)酸価(AV)の測定
日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「酸価(2.3.1−1996)」に従って測定した。
以下の式(1)で、油脂を加水分解して得られる脂肪酸の遊離脂肪酸濃度を求めた。アマニ油の脂肪酸平均分子量は280とした。
遊離脂肪酸濃度[質量%]=加水分解油の酸価(AV)/アマニ油の脂肪酸平均分子量/56.11/10・・・・(1)
固定化酵素の水分活性は水分活性精密測定装置LabMaster−awを用いて測定した。
油分及び水分の付着した固定化酵素a質量部に対し10質量倍のヘキサン及びアセトンで交互に各3回ずつ洗浄後、70℃で15時間放置することにより脱溶剤し、固定化酵素のみの質量を秤量した(b質量部)。以下の式(2)で、固定化酵素の乾燥質量比率を求めた。
固定化酵素の乾燥質量比率=b/a×100[質量%]・・・・(2)
(a:油分及び水分の付着した固定化酵素質量、b:固定化酵素質量)
100mLの三つ口フラスコに固定化酵素5g及び菜種油50gを加え、三日月羽根(幅50mm×高さ20mm)で430r/minで撹拌しながら、ウォーターバスにて40℃に加温した。これに蒸留水30gを加え反応を開始した。継時でサンプリングを行い、遠心分離(3000r/min、1分)により油水分離した後、油相の酸価の測定を行った。酸価が175mgKOH/gに到達する時間を求め、以下の式(3)から加水分解活性を求めた。
加水分解活性[U/g(乾燥質量)]
=(酸価175到達時間[hr]/523.12)^(−1/1.0919)
×菜種油[g]/(固定化酵素[g]×乾燥質量比[-])・・・・(3)
以下の式(4)で、固定化酵素の残存活性率を求めた。
残存活性率[%]=保存後の加水分解活性[U/g(乾燥質量)]/工程(B)後の加水分解活性[U/g(乾燥質量)]×100・・・・(4)
アニオン交換樹脂Duolite A−568(Rohm and Haas社製、粒径分布150〜850μmの粒子が96質量%)を粉砕して分級し、粒度150〜425μmの粒子が97質量%である樹脂1質量部をN/10のNaOH溶液10質量部中で1時間攪拌した。ろ過した後10質量部のイオン交換水で洗浄し、500mMのリン酸緩衝液(pH7)10質量部でpHの平衡化を行った。ろ過後、50mMのリン酸緩衝液(pH7)10質量部で2時間ずつ2回pHの平衡化を行った。この後ろ過を行い、担体を回収した後エタノール4質量部でエタノール置換を30分行った。ろ過した後、菜種脂肪酸を0.58質量部含むエタノール4.22質量部を加え30分間、大豆脂肪酸を担体に吸着させた。ろ過によって担体を回収した後、50mMのリン酸緩衝液(pH7)5質量部で30分ずつ4回洗浄し、ろ過して担体を回収した。
次いで、市販のCandida cylindracea属由来のリパーゼAY「アマノ」400SD−K(天野エンザイム製)0.029質量部を50mMのリン酸緩衝液(pH7)18質量部に溶解した酵素液と2時間接触させ、固定化を行った。ろ過し、固定化酵素を回収して50mMのリン酸緩衝液(pH7)5質量部で洗浄を行うことにより、固定化していない酵素やタンパクを除去した。以上の操作はいずれも20℃で行った。その後菜種油を4質量部加え40℃で2時間攪拌した。ろ過後、菜種油を4質量部加え40℃で減圧しながら撹拌し、真空度が750Pa-absに到達したところで常圧に戻し、その後ろ過して油脂と分離し、固定化酵素とした。
固定化酵素の加水分解活性は3621U/g(乾燥質量)であった。
固定化酵素を乾燥重量で87.8g計量し、5L容の四つ口フラスコに仕込んだ。そこへアマニ油を2000gと蒸留水を1200g添加した。当該油水混合物の含水率は37.5質量%であった。窒素気流下で攪拌しながら40℃で加水分解反応を行った。遊離脂肪酸濃度が93質量%に到達したところで遠心分離により油水分離し、油相として脂肪酸類を得、また、ろ過して固定化酵素を回収した。
回収した固定化酵素の水分量は16.5質量%、水分活性0.94、加水分解活性は3585U/g(乾燥質量)であった。
工程(A)で回収した固定化酵素を50℃、136時間保存した後、加水分解活性を測定した。加水分解活性は2549U/g(乾燥質量)、残存活性率は71.1%となった。
〔工程(B)〕
500mL容の四つ口フラスコに、工程(A)で回収した固定化酵素を乾燥重量で20g計量し、アマニ油279gを添加した。アマニ油の使用量は、反応系内の初期水分量の2892質量%であった。40℃で撹拌し、固定化酵素とアマニ油を遊離脂肪酸濃度が平衡になるまで接触させた後、ろ過し、固定化酵素を回収した。
回収した固定化酵素は水分活性0.46、加水分解活性は3641U/g(乾燥質量)であった。
〔工程(B)〕
500mL容の四つ口フラスコに、工程(A)で回収した固定化酵素を乾燥重量で20g計量し、アマニ油172gを添加した。アマニ油の使用量は、反応系内の初期水分量の1786質量%であった。40℃で撹拌し、固定化酵素とアマニ油を遊離脂肪酸濃度が平衡になるまで接触させた後、ろ過し、固定化酵素を回収した。回収した固定化酵素は水分活性0.62、加水分解活性は3550U/g(乾燥質量)であった。
〔工程(B)〕
500mL容の四つ口フラスコに、工程(A)で回収した固定化酵素を乾燥重量で20g計量し、アマニ油118gを添加した。アマニ油の使用量は、反応系内の初期水分量の1225質量%であった。40℃で撹拌し、固定化酵素とアマニ油を遊離脂肪酸濃度が平衡になるまで接触させた後、ろ過し、固定化酵素を回収した。回収した固定化酵素は水分活性0.71、加水分解活性は3564U/g(乾燥質量)であった。
Claims (4)
- 次の工程(A)及び(B):
(A)含水率が10質量%以上である油水混合物を固定化酵素と接触させて油脂を加水分解し、脂肪酸類を得る工程、
(B)油脂の加水分解反応に使用した固定化酵素を油脂と接触させて、当該固定化酵素の水分活性を0.75以下に低下させる工程
を含む、脂肪酸類の製造方法。 - 工程(B)で用いる油脂の使用量が反応系内の初期水分量に対して1000質量%以上である請求項1記載の脂肪酸類の製造方法。
- 工程(B)の前に、油脂の加水分解反応に使用した固定化酵素に対して不活性ガスブローを行う工程を更に含む請求項1又は2記載の脂肪酸類の製造方法。
- 工程(B)において、油脂の加水分解反応終了から120時間以内に固定化酵素に対して油脂を接触させる請求項1〜3のいずれか1項記載の脂肪酸類の製造方法。
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