JP2006045597A - 溶接継手およびその溶接材料 - Google Patents

溶接継手およびその溶接材料 Download PDF

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Abstract

【課題】溶接継手およびその溶接材料の提供
【解決手段】母材および溶接金属がともに、C:0.01〜0.45%、Si:1%を超え4%以下、Mn:0.01〜2%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜35%、Ni:40〜78%、Al:0.005〜2%、N:0.001〜0.2%およびCu:0.015〜5.5%を含み、更に下記(1)式を満足するTiを含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする溶接継手。母材および溶接金属は、さらにCo、Mo、Ta、W、V、Zr、Nb、Hf、B、Ca、MgおよびREMの1種以上を含有してもよい。
{(Si-0.01)/30}+ 0.01Cu ≦ Ti ≦ 5 ・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号は、その元素の含有量(質量%)を意味する。
【選択図】なし

Description

本発明は、高温の腐食環境で使用される部材の溶接継手およびその溶接材料に関する。高温の腐食環境で使用される部材としては、例えば、石油精製、石油化学プラント等のGTLプラントにおける熱交換型炭化水素改質装置、廃熱回収装置等に使用される容器、反応管、部品等が挙げられる。
石油精製、石油化学プラント等における改質装置、石油等を原料とするアンモニア製造装置、水素製造装置等においては、エネルギー効率を高めるために廃熱回収のための熱交換が多用されるようになってきている。一方、今後、水素ガス、メタノールガス等のクリーンエネルギは、大幅な需要増加が予想され、これらの製造に欠かせない改質装置には大型で熱効率が高い、量産に適したものが要求される。
通常、上記の装置の反応管などの金属材料は、1000℃程度またはそれ以上の温度で、H2、CO、CO2、H2O、炭化水素(メタン等)を含む反応ガスに曝される。この温度域においては、金属材料の表面は、FeやNi等よりも酸化傾向の大きいCr、Si等の元素が選択的に酸化され、緻密な酸化皮膜を形成する。これにより金属材料の腐食が抑制される。
しかし、高温ガスの熱を有効活用するためには、従来よりも低い、400〜700℃の温度域における熱交換が重要であり、この温度域において反応管や熱交換器等に使用する高Cr−高Ni−Fe合金系金属材料の浸炭現象に伴う腐食が問題となる。即ち、熱交換器等の相対的に温度の低い部分では、腐食抑制効果のある酸化皮膜の形成が遅れるため、ガスからC原子が金属材料表面に吸着され、金属材料に浸炭が生じるのである。
金属材料中にCr、Fe等の炭化物を含む浸炭層が形成されると、その部分が膨張して微細な割れが生じやすくなる。更に、金属材料中の炭化物形成が飽和すると、金属材料の表面から炭化物が分解して発生する金属粉末が剥離して腐食消耗が進行する、いわゆるメタルダスティングが生じる。剥離した金属粉末は、金属材料の表面における炭素析出を促進させる。このような損耗、炭素析出等によって管内閉塞が拡大すると、装置の故障を招くおそれがあるので、装置部材としての材料選定に十分な配慮が必要である。
従来、このような装置部材としては高Cr-高Ni-Fe合金が用いられてきた。例えば、特許文献1には、化学組成を規定するとともに、Si、CuまたはSの含有量とNb、Ta、TiおよびZrの含有量との関係、ならびにNi、CoおよびCuの含有量の関係を一定範囲に規定した溶接継手が開示されている。特許文献1では、この溶接継手は硫酸環境下での耐食性および耐溶接割れ性に優れているとしている。
特許文献2には、Alを積極的に含有させるとともに、粒界溶融量と粒界固着力との関係式を規定したNi基耐熱合金溶接継手が開示されている。特許文献2では、この溶接継手は耐浸炭性および高温強度に優れているとしている。
特開2001-107196号公報 特開2002-235136号公報
特許文献1に開示された溶接継手は、Siの含有量が少ないため、メタルダスティングが生じる環境下での使用は困難である。特許文献2に開示された溶接継手は、耐メタルダスティング性を確保するために必要な最小限のSiを添加した場合、溶接凝固割れが生じ、優れた溶接性を確保することは困難である。
本発明は、耐メタルダスティング性に優れ、かつ溶接凝固割れが生じない溶接継手を提供することを目的とする。
耐メタルダスティング性は、Si、Cu、P等の元素を含有させることで向上するが、これらの元素は、溶接凝固割れ感受性を著しく増大させる。そこで、本発明者らは、耐メタルダスティング性を確保しつつも、溶接凝固割れを抑制することを目的として、種々の検討を行った。
溶接凝固割れは、溶接凝固過程の終了期に近い、主として結晶粒界に膜状の液相が存在する段階において、凝固収縮または熱収縮により加わる歪みが溶接金属の変形能以上になった場合に発生する。溶接凝固割れ感受性を低減する方法としては、溶接金属の変形能を向上させることも考えられるが、基本成分系を変更する必要が生じて、耐メタルダスティング性を確保するという目的に逆行することになる。このため、本発明者らは、基本成分系を変更することなく、液相の融点低下を軽減して早期に凝固を完了させることができる化学組成について更に研究を重ねた。
NiおよびCrを高い濃度で含有する高合金鋼においては、溶接凝固割れが重大な溶接欠陥であり、それを防止する方法はいくつか知られている。例えば、P、S等の液相線を低温側に移動させる元素の含有量を低減する方法、Ni、C、Mn、Co等のオーステナイト生成元素の含有量を低減し、Cr、Si、Mo等のフェライト生成元素を増加することにより、初めにフェライト相を晶出させ、その後に包共晶反応によりオーステナイト相を晶出させて、凝固形態をフェライト・オーステナイト二相組織にする方法等である。
しかし、靱性の低下および熱間加工性の劣化を防止するために、35%を超えるCrを含有させることができない。また、高温強度、組織安定性、耐食性の向上のためには、Niを40%以上含有させる必要がある。このため、凝固形態を二相組織にする上記の方法を用いることはできない。
そこで、本発明者らは、耐メタルダスティング性と耐溶接凝固割れ性とを両立させることができる化学組成として、オーステナイト相が初晶として晶出し、オーステナイト単相で凝固を完了する高Ni基合金をベースとした。
Si、Cu、P等の元素は、液相線温度を著しく低下させるため、溶接凝固割れ感受性を増大させる。また、一般にオーステナイト単相の金属材料にTiを添加した場合、溶接凝固割れ感受性が増大することが知られている。
しかし、本発明者らの研究により、SiおよびCuの含有量と関係づけて、適量のTiを含有させると、溶接凝固割れ感受性を著しく小さくすることができることが判明した。これは、Si-Ti化合物が溶接金属凝固過程において液相中からオーステナイト相との共晶凝固組織の形態で晶出し、Si、Cu、P等の液相への濃化が抑制され、液相が早期に凝固を完了するからであると考えられる。
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、下記の(a)から(d)までのいずれかに示す溶接継手および下記の(e)から(h)までのいずれかに示す溶接材料を要旨とする。
(a) 母材および溶接金属がともに、質量%で、C:0.01〜0.45%、Si:1%を超え4%以下、Mn:0.01〜2%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜35%、Ni:40〜78%、Al:0.005〜2%、N:0.001〜0.2%およびCu:0.015〜5.5%を含み、更に下記(1)式を満足するTiを含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする溶接継手。
{(Si-0.01)/30}+ 0.01Cu ≦ Ti ≦ 5 ・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号は、その元素の含有量(質量%)を意味する。
(b) 上記の(a)に記載の溶接継手において、母材および溶接金属が、Feの一部に代えて、質量%で、Co:0.015〜5.5%、Mo:0.05〜10%、Ta:0.05〜5%、W:0.05〜5%、V:0.01〜1%、Zr:0.01〜1.4%、Nb:0.01〜1.4%およびHf:0.01〜1%から選択される1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする溶接継手。
(c) 上記の(a)または(b)に記載の溶接継手において、母材および溶接金属が、Feの一部に代えて、質量%で、B:0.0005〜0.3%、Ca:0.0005〜0.02%およびMg:0.0005〜0.02%から選択される1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする溶接継手。
(d) 上記の(a) から(c)までのいずれかに記載の溶接継手において、母材および溶接金属が、Feの一部に代えて、質量%で、REM:0.005〜0.3%を含む化学組成を有することを特徴とする溶接継手。
上記の本発明の溶接継手は、GTLプラント用の溶接継手として好適である。なお、GTLとは、「Gas To Liquid」の略称であり、天然ガスからの石油製品生産のことをいう。
(e) 質量%で、C:0.01〜0.45%、Si:1%を超え4%以下、Mn:0.01〜2%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜35%、Ni:40〜78%、Al:0.005〜2%、N:0.001〜0.2%およびCu:0.015〜5.5%を含み、更に下記(1)式を満足するTiを含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする上記の(a)に係る溶接材料をTIG溶接法により作製するために用いる溶接材料。
{(Si-0.01)/30}+ 0.01Cu ≦ Ti ≦ 5 ・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号は、その元素の含有量(質量%)を意味する。
(f) 上記の(e)に記載の溶接材料において、Feの一部に代えて、質量%で、Co:0.015〜5.5%、Mo:0.05〜10%、Ta:0.05〜5%、W:0.05〜5%、V:0.01〜1%、Zr:0.01〜1.4%、Nb:0.01〜1.4%およびHf:0.01〜1%から選択される1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする上記の(b)に係る溶接材料をTIG溶接法により作製するために用いる溶接材料。
(g) 上記の(e)または(f)に記載の溶接材料において、Feの一部に代えて、質量%で、B:0.0005〜0.3%、Ca:0.0005〜0.02%およびMg:0.0005〜0.02%から選択される1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする上記の(c)に係る溶接材料をTIG溶接法により作製するために用いる溶接材料。
(h) 上記の(e)から(g)までのいずれかに記載の溶接材料において、Feの一部に代えて、質量%で、REM:0.005〜0.3%を含む化学組成を有することを特徴とする上記の(d)に係る溶接材料をTIG溶接法により作製するために用いる溶接材料。
本発明に係る溶接継手は、耐メタルダスティング性に優れているので、石油精製や石油化学プラントなどにおける加熱炉管、配管、或いは熱交換器管などに利用することができ、装置の溶接施工性や耐久性、安全性を大幅に向上させることができる。また、本発明に係る溶接材料は、上記の溶接継手をTIG溶接法により作製するのに最適である。
本発明において、溶接継手の母材と溶接金属の化学組成を限定する理由は、下記のとおりである。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
C:0.01〜0.45%
Cは、溶接継手の母材および溶接金属の強度を高める作用を有する元素である。C含有量が0.01%未満では高温強度が不十分となる。しかし、その含有量が0.45%を超えると、溶接継手の靭性が低下する。従って、Cの含有量を0.01〜0.45%とした。Cの含有量は0.02〜0.4%が好ましく、最も好ましいのは0.04〜0.4%である。
Si:1%を超え4%以下
Siは、金属材料の溶製時に脱酸作用を有する元素である。Siは、また、溶接継手表面のCr酸化皮膜の下層にSi酸化皮膜を形成して溶接継手中へのCの侵入を抑制するとともに溶接継手中のCの活量を高めて、耐メタルダスティング性を大幅に向上させる作用も有する元素である。これらの効果は、1%以下では発揮されない。しかし、その含有量が4%を超えると、母材の熱間加工性や溶接性の低下が著しくなる。従って、Siの含有量は1%を超え4%以下とした。Siの含有量の下限は、1.2%が望ましく、更に望ましいのは1.5%である。
なお、Nの含有量が0.055%を超える場合には、母材の溶接性や熱間加工性の観点からSiの含有量の上限を2%とするのがよい。
Mn:0.01〜2%
Mnは、不純物として含まれるSによる母材の熱間加工時の脆性を抑制する効果を有するとともに、溶製時の脱酸に有効な元素である。これら効果を得るためには、Mnは0.01%以上含有させることが必要である。しかし、Mnの含有量が2%を超えると、母材および溶接金属からなる溶接継手中のCの活量を低下させ、溶接継手表面におけるCrやAlの酸化皮膜の形成を阻害し、雰囲気中からのCの侵入を促進してメタルダスティングが発生しやすくなる。従って、Mnの含有量は0.01〜2%とした。Mnの含有量は0.05〜1.0%が好ましく、最も好ましいのは0.1〜0.8%である。
P:0.05%以下
Pは、金属材料を溶製する際に原料などから混入してくる不純物元素であり、耐食性の低下を招き、熱間加工性、溶接性を劣化させるので、可能な限り低減することが望ましい。従って、Pの含有量は0.05%以下とした。Pの含有量は、0.03%以下が好ましく、最も好ましいのは0.02%以下である。
S:0.01%以下
Sも金属材料を溶製する際に原料などから混入してくる不純物元素であり、耐食性の低下を招き、熱間加工性、溶接性を劣化させるので、可能な限り低減することが望ましい。従って、Sの含有量は0.01%以下とした。Sの含有量は、0.007%以下が好ましく、さらに好ましいのは0.002%以下である。
Cr:15〜35%
Crは、高温の使用環境において、溶接継手中に侵入したCと結合して浸炭層の成長を遅延する作用を有し、これによって良好な耐メタルダスティング性が確保される。この効果はその含有量が15%以上の場合に発揮される。しかし、その含有量が35%を超えると、靱性の低下、熱間加工性の劣化が生じて母材の製造が困難になる。従って、Crの含有量は15〜35%とした。Crの含有量は18〜33%が望ましく、更に望ましいのは、25.2〜33%である。
Ni:40〜78%
Niは、高温強度と組織安定性を維持し、Crと共存することによって耐食性を高める作用を有する元素である。また、Niはメタルダスティングの発生を抑制する効果も有する。これらの効果はNiの含有量が40%以上で発揮されるが、78%を超えてもその効果は飽和する。従って、Niの含有量は40〜78%とした。Niの含有量は、48〜78%が好ましく、更に50〜78%であれば一層好ましい。最も好ましいのは56〜78%である。
Al:0.005〜2%
Alは、金属材料の溶製時に脱酸作用を有する元素である。Alは、溶接継手表面のCr酸化皮膜の下層または溶接継手の最表面にAl酸化皮膜を形成し、Cの金属材料中への侵入を抑制するとともに金属材料中のCの活量を高めて、耐メタルダスティング性を大幅に向上させる作用も有する。これらの効果を得るためには、Alの含有量は0.005%以上とする必要がある。しかし、その含有量が2%を超えると、母材の熱間加工性や溶接性の低下が著しくなる。従って、Alの含有量は0.005〜2%とした。Alの含有量の上限は1.5%以下であれば更に好ましい。Alの含有量の下限が0.01%、上限が0.8%未満であれば一層好ましい。
N:0.001〜0.2%
Nは、母材中のCの活量を高めて、耐メタルダスティング性を向上させる作用を有する元素である。この効果は、その含有量が0.001%未満では不十分である。しかし、Nの含有量が0.2%を超えると、CrやAlの窒化物が多く形成されて、熱間加工性および溶接性が著しく低下する。従って、Nの含有量は0.001〜0.2%とした。
なお、Siが2%以下の場合には、Nの含有量の下限は0.005%とするのが望ましく、0.15%とすることがより好ましい。
一方、耐メタルダスティング性を大きく高めるために、前述のSiについて、その含有量を1.5%以上とした場合には、溶接性や熱間加工性の観点からNの含有量の上限は0.055%とするのがよい。この場合のNの含有量の上限は、0.035%とすることが一層好ましく、0.025%とすれば極めて好ましい。
Cu:0.015〜5.5%
Cuは、溶接継手中のCの活量を高めて浸炭層の成長を抑制して耐メタルダスティング性を向上させる元素である。この効果は、0.015%以上のCuを含有させることで発揮される。しかし、5.5%を超えてCuを含有させると、母材及び溶接金属の靱性が低下し、熱間加工性が著しく低下する。また溶接凝固割れ感受性を著しく増大させる。従って、Cuの含有量は0.015〜5.5%とした。Cuの含有量は0.04〜4.8%が好ましく、更に好ましいのは1.5〜4.2%である。
Ti:下記(1)式を満足する量
{(Si-0.01)/30}+0.01Cu ≦ Ti ≦ 5 ・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号は、その元素の含有量(質量%)を意味する。
Tiは、炭化物形成元素であり、浸炭層の成長を抑制して耐メタルダスティング性を高め、高温強度を高める作用を有する元素である。TiにはSiと高温にて化合物を形成して溶接凝固割れ感受性を低減させる作用もある。
溶接凝固割れ感受性を低減するためTiの含有量は、SiおよびCuの含有量との関係で、{(Si-0.01)/30}+0.01Cu ≦Tiとする必要がある。これは、SiおよびCu含有量が小さくなるほど、凝固割れ感受性を低減するために必要なTiの添加量は減少するからであり、{(Si-0.01)/30}+0.01Cu ≦Tiの範囲のTiを含有すれば、Pによる溶接凝固割れ感受性への悪影響も抑制することができる。
しかし、Tiの含有量が5%を超えると、Si-Ti化合物の晶出形態をオーステナイト相との共晶凝固組織から化合物のみの晶出成長を誘発し、凝固割れ感受性を逆に増大させる。しかも、Si-Ti化合物の晶出量が増大して熱間加工性の低下を招く。Tiの含有量の上限は4%であるのが望ましい。以上により、Tiは上記の(1)式を満足する範囲で含有させることとした。
本発明の溶接継手を構成する母材および溶接金属は、上記の化学組成を有し、残部はFeおよび不純物からなるものであればよい。また、耐メタルダスティング性を更に高める観点からは、Feの一部に代えて、Co:0.015〜5.5%、Mo:0.05〜10%、Ta:0.05〜5%、W:0.05〜5%、V:0.01〜1%、Zr:0.01〜1.4%、Nb:0.01〜1.4%およびHf:0.01〜1%から選択される1種以上を含むものであってもよい。これは、下記の理由による。
Coは金属材料中のCの活量を高め、浸炭層の成長を抑制して耐メタルダスティング性を向上させる作用を有する。また、Mo、Ta、W、V、Zr、NbおよびHfはいずれも炭化物形成元素であり、浸炭層の成長を抑制して耐メタルダスティング性を高める作用を有する。これらの効果が顕著となるのは、それぞれCoは0.015%以上、Mo、TaおよびWは0.05%以上、V、Zr、NbおよびHfは0.01%以上の場合である。しかし、これらの元素の含有量が多すぎると、熱間加工性、製造性、靱性および溶接性に悪影響を及ぼす。
従って、これらの元素から選択される1種以上を含有させる場合の含有量は、Coは0.015〜5.5%、Moは0.05〜10%、Taは0.05〜5%、Wは0.05〜5%、Vは0.01〜1%、Zrは0.01〜1.4%、Nbは0.01〜1.4%、Hfは0.01〜1%とするのが望ましい。これらの元素の含有量は、それぞれCoは0.02〜4.8%、Moは1〜10%、TaおよびWはいずれも0.5〜5%、ZrおよびNbはいずれも0.01〜0.8%、VおよびHfはいずれも0.01〜0.6%とするのが望ましく、更に、最も望ましいのは、それぞれCoは0.05〜4.2%、Moは1〜8%、TaおよびWはいずれも1〜3%、ZrおよびNbはいずれも0.02〜0.8%、Vは0.01〜0.3%、Hfは0.02〜0.6%である。
本発明の溶接継手の母材および溶接金属は、熱間加工性向上の観点からFeの一部に代えて、B:0.0005〜0.3%、Ca:0.0005〜0.02%およびMg:0.0005〜0.02%から選択される1種以上を含むものであってもよい。
これらの元素は、いずれも熱間加工性を高める作用を有する元素である。この効果が顕著となるのは、それぞれ0.0005%以上含有させた場合である。しかし、Bの含有量が0.3%を超えると、溶接継手が脆化するとともに融点が低下して熱間加工性と溶接性の低下を招く。
CaまたはMg含有量が0.02%を超えると、酸化物系介在物となって製品表面品質の劣化や耐食性の低下を招く。従って、これらの元素から選択される1種以上を含有させる場合の含有量は、それぞれBは0.0005〜0.3%、CaおよびMgはいずれも0.0005〜0.02%とするのが好ましい。いずれの元素も0.0005〜0.015%とするのがより望ましく、最も望ましいのは、0.0005〜0.012%である。
本発明の溶接継手の母材および溶接金属は、耐食性向上の観点から、Feの一部に代えて、REM:0.005〜0.3%を含むものであってもよい。なお、REMとは、ScおよびYとランタノイド元素の合計17元素の総称である。
REMは、使用環境において溶接継手表面に生成するCrやAlを含む酸化皮膜の均一性を高めて密着性を向上させ、耐食性を高める作用を有する。この効果が顕著となるのは、0.005%以上の場合である。しかし、その含有量が0.3%を超えると、粗大な酸化物を形成して靱性や熱間加工性の低下を招くとともに、表面疵の発生を多くする。従って、REMを添加する場合の含有量は、0.005〜0.3%とするのがよい。REM含有量は0.005〜0.1%がより好ましく、最も好ましいのは0.005〜0.07%である。
以上、母材と溶接金属を構成する成分について説明した。母材と溶接金属は、ともに各成分同じ含有量の範囲内にある化学組成を有するのであるが、これは、母材と溶接金属の化学組成がまったく同一でなければならない、ということではない。即ち、母材と溶接金属のそれぞれの各成分が上述の含有量の範囲内あれがよいのである。例えば、母材のCが0.10%で、溶接金属のCが0.15%であっても差し支えはない。
本発明の溶接継手は、TIG溶接、MIG溶接等の種々の溶接方法で作製することができる。溶接材料は、採用する溶接方法と溶接条件に応じて、前記の溶接金属の組成が得られる組成のものを選べばよい。また、TIG溶接を採用する場合には、前述の(e)から(h)に示すものを用いるのが望ましい。
表1および表2に示す化学組成の金属材料を高周波加熱真空炉を用いて溶製した。各金属材料のインゴットを通常の方法で鍛造した後、1200℃で固溶化熱処理を施し、突き合わせ部1.5mmの60°V開先加工が施された厚さ12 mm、幅50 mm、長さ150 mmの拘束溶接割れ試験用試験片および厚さ4 mm、幅10 mm、長さ20 mmの耐メタルダスティング性評価用試験片を作製した。
得られた拘束溶接割れ試験用試験片を用いて、周囲を拘束溶接し、あらかじめ各母材から作製した外径1.2 mmの溶接材料(溶接ワイヤー)を使用して、溶接電流150 A、溶接電圧15V、溶接速度10 cm/minの条件でTIG溶接により多層盛り溶接を行った。ここで、溶接金属の化学組成は、TIG溶接の場合には希釈はほとんど生じないため、母材と同一である。
次いで、拘束溶接割れ試験片の溶接ビード長に対する凝固割れ発生率を測定した。その調査結果を表1および表2に併記する。また、各金属材料の耐メタルダスティング性評価用試験片を用いて、体積比で26 %H-60%CO-11.5%CO-2.5%HOの雰囲気中で630℃にて1000時間保持する試験を行い、その後、試験片の表面堆積物を除去し、超音波洗浄を施した後、光学顕微鏡にてピットの発生有無を調査した。この結果も表1および表2に併記する。なお、耐メタルダスティング性は200時間未満でピットが発生しないことを目標とする。
Figure 2006045597
Figure 2006045597
表1および表2中の「評価」の「溶接性」の「×」は、ビード両端を除いてビード内に少しでも割れが生じたものを意味し、「○」は、ビード内に割れが全く生じなかったものを意味する。また、「耐メタルダスティング性」の「×」は、200時間未満でピットが発生したもの、「△」は、200時間以上500時間未満でピットが発生したもの、「○」は500時間以上1000時間未満でピットが発生したもの、「◎」は100時間にてピットが発生しなかったものを意味する。
表1および表2に示すように、Tiの含有量が本発明で規定される範囲を下回るNo.1〜6では、溶接ビード全長に渡って溶接凝固割れが発生しており、溶接性に劣っていた。また、Tiの含有量が本発明で規定される範囲を上回るNo.29では、耐メタルダスティング性だけでなく、鍛造時に多数の凝固割れを生じ、溶接性も非常に劣っていた。Tiの含有量は本発明で規定される範囲内であるが、Cuを含有しないNo.7では、溶接凝固割れは発生しなかったが、十分な耐メタルダスティング性を確保できなかった。
Tiの含有量は本発明で規定される範囲内であるが、SiおよびCuの含有量が本発明で規定される範囲を外れるNo.33では、充分な耐メタルダスティング性を確保できなかった。また、Tiの含有量は本発明で規定される範囲内であるが、Alの含有量が本発明で規定される範囲を超えるNo.34は、耐メタルダスティング性は確保されていたが、溶接熱影響部に多数の割れが生じた。
これに対し、本発明で規定される条件を全て満たすNo.8〜28および30〜32、35、36では、拘束溶接割れ試験での溶接ビード内に溶接凝固割れが全く無く、溶接凝固割れ感受性が極めて低減されており、しかも、耐メタルダスティング性に優れていた。
本発明の溶接継手は、耐メタルダスティング性および溶接性に優れているので、石油精製や石油化学プラントなどにおける加熱炉管、配管、或いは熱交換器管などに利用することができ、装置の溶接施工性や耐久性、安全性を大幅に向上させることができる。

Claims (8)

  1. 母材および溶接金属がともに、質量%で、C:0.01〜0.45%、Si:1%を超え4%以下、Mn:0.01〜2%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜35%、Ni:40〜78%、Al:0.005〜2%、N:0.001〜0.2%およびCu:0.015〜5.5%を含み、更に下記(1)式を満足するTiを含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする溶接継手。
    {(Si-0.01)/30}+ 0.01Cu ≦ Ti ≦ 5 ・・・(1)
    但し、(1)式中の元素記号は、その元素の含有量(質量%)を意味する。
  2. 請求項1に記載の溶接継手において、母材および溶接金属がともに、Feの一部に代えて、質量%で、Co:0.015〜5.5%、Mo:0.05〜10%、Ta:0.05〜5%、W:0.05〜5%、V:0.01〜1%、Zr:0.01〜1.4%、Nb:0.01〜1.4%およびHf:0.01〜1%から選択される1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする溶接継手。
  3. 請求項1または2に記載の溶接継手において、母材および溶接金属がともに、Feの一部に代えて、質量%で、B:0.0005〜0.3%、Ca:0.0005〜0.02%およびMg:0.0005〜0.02%から選択される1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする溶接継手。
  4. 請求項1から3までのいずれかに記載の溶接継手において、母材および溶接金属がともに、Feの一部に代えて、質量%で、REM:0.005〜0.3%を含む化学組成を有することを特徴とする溶接継手。
  5. 質量%で、C:0.01〜0.45%、Si:1%を超え4%以下、Mn:0.01〜2%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:15〜35%、Ni:40〜78%、Al:0.005〜2%、N:0.001〜0.2%およびCu:0.015〜5.5%を含み、更に下記(1)式を満足するTiを含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする請求項1に係る溶接継手をTIG溶接法により作製するために用いる溶接材料。
    {(Si-0.01)/30}+ 0.01Cu ≦ Ti ≦ 5 ・・・(1)
    但し、(1)式中の元素記号は、その元素の含有量(質量%)を意味する。
  6. 請求項5に記載の溶接材料において、Feの一部に代えて、質量%で、Co:0.015〜5.5%、Mo:0.05〜10%、Ta:0.05〜5%、W:0.05〜5%、V:0.01〜1%、Zr:0.01〜1.4%、Nb:0.01〜1.4%およびHf:0.01〜1%から選択される1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする請求項2に係る溶接継手をTIG溶接法により作製するために用いる溶接材料。
  7. 請求項5または6に記載の溶接材料において、Feの一部に代えて、質量%で、B:0.0005〜0.3%、Ca:0.0005〜0.02%およびMg:0.0005〜0.02%から選択される1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする請求項3に係る溶接継手をTIG溶接法により作製するために用いる溶接材料。
  8. 請求項5から7までのいずれかに記載の溶接材料において、Feの一部に代えて、質量%で、REM:0.005〜0.3%を含む化学組成を有することを特徴とする請求項4に係る溶接継手をTIG溶接法により作製するために用いる溶接材料。
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