以下に、必要に応じて添付図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
[回収方法]
本発明の回収方法は、少なくとも金属触媒成分の存在下、基質の酸化により生成したカルボン酸(又は基質に対応するカルボン酸、以下、単にカルボン酸ということがある)を含む反応混合物から、前記金属触媒成分を回収する方法であって、
(1)前記反応混合物から前記カルボン酸を含む晶析成分を晶析させる晶析工程と、
(2)晶析工程(1)により得られた晶析成分を洗浄する洗浄工程と、
(3)少なくとも洗浄工程(2)により得られた洗浄液から、前記カルボン酸を含む酸成分を分離する酸成分分離工程と、
(4)酸成分分離工程(3)により酸成分が分離された分離液を吸着処理し、前記金属触媒成分を回収する金属触媒回収工程とを含む。
(反応混合物)
反応混合物は、少なくとも金属触媒成分(以下、単に金属触媒などということがある)を用いて、基質に対応するカルボン酸を製造できれば特に限定されないが、通常、少なくとも金属触媒成分の存在下、前記基質と酸素とを接触させる反応工程を経ることにより得ることができる。なお、反応混合物は、このような反応工程を含む一連のプロセスを経て得られるリサイクル混合物であってもよい。このようなリサイクル混合物としては、公知のカルボン酸製造方法(例えば、特開2002−128726号公報に記載の製造方法など)により得られるリサイクル混合物であってもよく、後述する本発明のカルボン酸の製造方法により得られるリサイクル混合物であってもよい。
(金属触媒成分)
金属触媒成分(又は金属触媒)としては、金属化合物、例えば、遷移金属化合物やホウ素化合物などのような周期表13族元素(ホウ素B、アルミニウムAlなど)を含む化合物が含まれる。なお、反応混合物中の金属触媒成分は、金属触媒(金属化合物)が、イオン化した金属イオンなどであってもよい。金属触媒は、一種で又は二種以上組合わせて使用できる。
前記遷移金属の元素としては、例えば、周期表3族元素(例えば、スカンジウムSc、イットリウムYの他、ランタンLa、セリウムCe、サマリウムSmなどのランタノイド元素、アクチニウムAcなどのアクチノイド元素)、周期表4族元素(チタンTi、ジルコニウムZr、ハフニウムHfなど)、5族元素(バナジウムV、ニオブNb、タンタルTaなど)、6族元素(クロムCr、モリブデンMo、タングステンWなど)、7族元素(マンガンMnなど)、8族元素(鉄Fe、ルテニウムRu、オスミウムOsなど)、9族元素(コバルトCo、ロジウムRh、イリジウムIrなど)、10族元素(ニッケルNi、パラジウムPd、白金Ptなど)、11族元素(銅Cu、銀Ag、金Auなど)などが挙げられる。
特に、前記式(i)で表されるイミド単位を有する化合物(酸化触媒)との組合せにより、Ceなどのランタノイド元素、Tiなどの4族元素、Vなどの5族元素、Mo、Wなどの6族元素、Mnなどの7族元素、Fe、Ruなどの8族元素、Co、Rhなどの9族元素、Niなどの10族元素、Cuなどの11族元素を含む化合物は、高い酸化活性を示す。
金属触媒は、前記元素を含み、かつ触媒能を有する限り特に制限されず、水酸化物などであってもよいが、通常、前記元素を含む金属酸化物、塩(有機酸塩、無機酸塩など)、ハロゲン化物、前記金属元素を含む配位化合物(錯体)やヘテロポリ酸又はその塩などである場合が多い。また、ホウ素化合物としては、例えば、水素化ホウ素(例えば、ボラン、ジボラン、テトラボラン、ペンタボラン、デカボランなど)、ホウ酸(オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸など)、ホウ酸塩(例えば、ホウ酸ニッケル、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸マンガンなど)、B2O3などのホウ素酸化物、ボラザン、ボラゼン、ボラジン、ホウ素アミド、ホウ素イミドなどの窒素化合物、BF3、BCl3、テトラフルオロホウ酸塩などのハロゲン化物、ホウ酸エステル(例えば、ホウ酸メチル、ホウ酸フェニルなど)などが挙げられる。
有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩などのC1-30カルボン酸塩(C2-24カルボン酸塩など)が例示され、無機酸塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩又はリン酸塩などが挙げられる。また、ハロゲン化物としては、例えば、塩化物や臭化物などが例示できる。
錯体を形成する配位子としては、OH(ヒドロキソ)、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ基などのアルコキシ基、アセチル、プロピオニルなどのアシル基、メトキシカルボニル(アセタト)、エトキシカルボニルなどのアルコキシカルボニル基、アセチルアセトナト、シクロペンタジエニル基、塩素、臭素などハロゲン原子、CO、CN、酸素原子、H2O(アコ)、ホスフィン(例えば、トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィン)などのリン化合物、NH3(アンミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。錯体又は錯塩において、同種又は異種の配位子は一種又は二種以上配位していてもよい。
好ましい錯体には、前記遷移金属元素を含む錯体が含まれる。前記遷移金属元素と配位子とは適当に組合せて錯体を構成することができ、例えば、セリウムアセチルアセトナト、コバルトアセチルアセトナト、ルテニウムアセチルアセトナト、銅アセチルアセトナトなどであってもよい。
金属触媒として、周期表7族元素及び/又は9族元素で構成された助触媒[例えば、周期表第9族元素化合物、7族元素を含む化合物と9族元素を含む化合物との組み合わせ(特に、マンガン化合物とコバルト化合物との組み合わせ)など]を使用すれば、脂肪族ジカルボン酸(特にアジピン酸)を効率よく生成できる。
また、金属触媒成分は、後述する洗浄溶媒(例えば、水などの水性溶媒)に可溶であってもよい。洗浄溶媒に可溶であると、晶析成分から効率よく金属触媒成分を溶解でき、金属触媒成分の回収効率を向上できる。
これらのうち、好ましい金属触媒成分は、遷移金属化合物[周期表第7族元素および/または第9族元素、特に、コバルト化合物(酢酸コバルトなど)などの周期表第9族元素の化合物]であり、特に、水性溶媒に可溶(特に水可溶性)の遷移金属化合物(例えば、周期表第9族元素化合物などの遷移金属化合物など)が好ましい。
金属触媒成分の使用量は、例えば、基質1モルに対して1×10-6モル〜0.7モル、好ましくは1xl0-5モル〜0.3モル、さらに好ましくは1×10-5モル〜0.1モル(10モル%)程度であり、1×10-6モル〜1×10-2モル、特に1×10-3モル〜0.1モル程度であってもよい。
金属触媒成分の使用量(又は反応混合物中の金属触媒成分の割合)は、液相反応系において、重量基準で、通常、1〜10000ppm、好ましくは5〜5000ppm、さらに好ましくは10〜3000ppm程度であってもよい。
(酸化触媒)
前記反応混合物は、触媒成分として、さらに、下記式(i)で表されるイミド単位を有する酸化触媒(又は窒素原子含有環状化合物触媒)を含んでいてもよい。すなわち、前記反応混合物は、金属触媒成分および下記式(i)で表されるイミド単位を有する酸化触媒(又は下記式(i)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物)の存在下、基質の酸化により生成したカルボン酸を含む反応混合物であってもよい。
[式中、Xは酸素原子又は−OR基(式中、Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
式(i)において、窒素原子とXとの結合は単結合又は二重結合である。前記窒素原子含有環状化合物は、分子中に、式(i)で表される骨格を複数個有していてもよい。また、この窒素原子含有環状化合物は、前記Xが−OR基でありかつRがヒドロキシル基の保護基である場合、式(i)で表される骨格のうちRを除く部分が複数個、Rを介して結合していてもよい。
式(i)中、Rで示されるヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用のヒドロキシル基の保護基を用いることができる。このような保護基として、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、3−ブロモベンジル、2−ニトロベンジル、トリフェニルメチル基など);置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、ビス(2−クロロエトキシ)メチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル、1−イソプロポキシエチル、2,2,2−トリクロロエチル、2−メトキシエチル基など)、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1−ヒドロキシアルキル基(例えば、1−ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシヘキシル、1−ヒドロキシデシル、1−ヒドロキシヘキサデシル、1−ヒドロキシ−1−フェニルメチル基など)などのヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基など;アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1-20脂肪族アシル基等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基など)、スルホニル基(メタンスルホニル、エタンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、ナフタレンスルホニル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイル基など)、無機酸(硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸など)からOH基を除した基、ジアルキルホスフィノチオイル基(例えば、ジメチルホスフィノチオイル基など)、ジアリールホスフィノチオイル基(例えば、ジフェニルホスフィノチオイル基など)、置換シリル基(例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリベンジルシリル、トリフェニルシリル基など)などが挙げられる。
また、Xが−OR基である場合において、式(i)で表される骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個(例えば、2〜4個、特に2個)、Rを介して結合する場合、前記Rとして、例えば、オキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル、アジポイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイル基などのポリカルボン酸アシル基;カルボニル基;メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ベンジリデン基などの多価の炭化水素基(特に、2つのヒドロキシル基とアセタール結合を形成する基)などが挙げられる。
好ましいRには、例えば、水素原子;ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;カルボン酸、スルホン酸、炭酸、カルバミン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸などの酸からOH基を除した基(アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基等)などの加水分解により脱離可能な加水分解性保護基などが含まれる。
前記窒素原子含有環状化合物には、例えば、下記式(I)で表される環状イミド骨格(N−置換環状イミド骨格)を有する環状イミド系化合物が含まれる。
[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
前記環状イミド系化合物は、分子中に、式(I)で表されるN−置換環状イミド骨格を複数個有していてもよい。また、この環状イミド系化合物は、前記Xが−OR基でありかつRがヒドロキシル基の保護基である場合、N−置換環状イミド骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合していてもよい。
式(I)において、nは0又は1を示す。すなわち、式(I)は、nが0の場合は5員のN−置換環状イミド骨格を表し、nが1の場合は6員のN−置換環状イミド骨格を表す。
前記環状イミド系化合物の代表的な例として、下記式(1)
[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示し、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、二重結合、又は芳香族性もしくは非芳香族性の環を形成してもよい。前記R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、又はR
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性もしくは非芳香族性の環には、下記式(a)
(式中、n、Xは前記に同じ)
で表されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい]
で表される化合物が挙げられる。
式(1)で表されるイミド化合物において、置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうちハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素原子が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれる。
アリール基には、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが含まれる。アルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシ、オクタデシルオキシ基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)のアルコキシ基が含まれる。
置換オキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル基などのC1-30アルコキシ−カルボニル基(特に、C1-20アルコキシ−カルボニル基);シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル基などのシクロアルキルオキシカルボニル基(特に、3〜20員シクロアルキルオキシカルボニル基);フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル基などのアリールオキシカルボニル基(特に、C6-20アリールオキシ−カルボニル基);ベンジルオキシカルボニル基などのアラルキルオキシカルボニル基(特に、C7-21アラルキルオキシ−カルボニル基)などが挙げられる。
アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1-30脂肪族アシル基(特に、C1-20脂肪族アシル基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基などが例示できる。
アシルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、バレリルオキシ、ピバロイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、オクタノイルオキシ、デカノイルオキシ、ラウロイルオキシ、ミリストイルオキシ、パルミトイルオキシ、ステアロイルオキシ基などのC1-30脂肪族アシルオキシ基(特に、C1-20脂肪族アシルオキシ基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基;アセトアセチルオキシ基;シクロペンタンカルボニルオキシ、シクロヘキサンカルボニルオキシ基などのシクロアルカンカルボニルオキシ基等の脂環式アシルオキシ基;ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ基などの芳香族アシルオキシ基などが例示できる。
前記置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、二重結合、または芳香族性又は非芳香族性の環を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環は5〜12員環、特に6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。このような環には、例えば、非芳香族性脂環式環(シクロヘキサン環などの置換基を有していてもよいシクロアルカン環、シクロヘキセン環などの置換基を有していてもよいシクロアルケン環など)、非芳香族性橋かけ環(5−ノルボルネン環などの置換基を有していてもよい橋かけ式炭化水素環など)、ベンゼン環、ナフタレン環などの置換基を有していてもよい芳香族環(縮合環を含む)が含まれる。前記環は、芳香族環で構成される場合が多い。前記環は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
前記R1、R2、R3、R4、R5、R6、又はR1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、前記式(a)で表されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい。例えば、R1、R2、R3、R4、R5又はR6が炭素数2以上のアルキル基である場合、このアルキル基を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。また、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素−炭素結合と共に二重結合を形成する場合、前記二重結合を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。さらに、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成する場合、前記環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。
好ましいイミド化合物(環状イミド系化合物)には、下記式で表される化合物などが含まれる。
(式中、R
11〜R
16は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。R
17〜R
26は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子を示す。R
17〜R
26は、隣接する基同士が結合して、式(1c)、(1d)、(1e)、(1f)、(1h)又は(1i)中に示される5員又は6員のN−置換環状イミド骨格を形成していてもよい。式(1f)中、Aはメチレン基又は酸素原子を示す。Xは前記に同じ)
置換基R
11〜R
16におけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、前記R
1〜R
6における対応する基と同様のものが例示される。
置換基R17〜R26において、アルキル基には、前記例示のアルキル基と同様のアルキル基、特に炭素数1〜6程度のアルキル基が含まれ、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などの炭素数1〜4程度のハロアルキル基、アルコキシ基には、前記と同様のアルコキシ基、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基、置換オキシカルボニル基には、前記と同様の置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)が含まれる。また、アシル基としては前記と同様のアシル基(脂肪族飽和又は不飽和アシル基、アセトアセチル基、脂環式アシル基、芳香族アシル基等)などが例示され、アシルオキシ基としては前記と同様のアシルオキシ基(脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基、アセトアセチルオキシ基、脂環式アシルオキシ基、芳香族アシルオキシ基等)などが例示される。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示できる。置換基R17〜R26は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。
好ましいイミド化合物のうち5員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α−メチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α,β,β−テトラメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、α,β−ジアセトキシ−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(プロピオニルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(バレリルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(ラウロイルオキシ)コハク酸イミド、α,β−ビス(ベンゾイルオキシ)−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−4−メトキシカルボニルフタル酸イミド、4−クロロ−N−ヒドロキシフタル酸イミド、4−エトキシカルボニル−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−ペンチルオキシカルボニルフタル酸イミド、4−ドデシルオキシ−N−ヒドロキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−フェノキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(メトキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(エトキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(ペンチルオキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(ドデシルオキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(フェノキシカルボニル)フタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基でかつRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシフタル酸イミド、N−(2−メトキシエトキシメチルオキシ)フタル酸イミド、N−テトラヒドロピラニルオキシフタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基でかつRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシフタル酸イミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基でかつRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシフタル酸イミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(1)におけるXが−OR基でかつRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
好ましいイミド化合物のうち6員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−β,β−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−デカリンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−デカリンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド(N−ヒドロキシナフタル酸イミド)、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基でかつRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メトキシメチルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基でかつRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メタンスルホニルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基でかつRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド又はN,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(1)におけるXが−OR基でかつRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
前記窒素原子含有環状化合物には、上記環状イミド系化合物の他に、さらに下記式(II)で表される環状アシルウレア骨格[−C(=O)−N−C(=O)−N−]を有する環状アシルウレア系化合物なども含まれる。
[式中、mは1又は2を示す。Gは炭素原子又は窒素原子を示し、mが2のとき、2つのGは同一でもよく異なっていてもよい。Rは前記に同じ]
前記環状アシルウレア系化合物は、分子中に、式(II)で表される環状アシルウレア骨格を複数個有していてもよい。また、この環状アシルウレア系化合物は、式(II)で表される環状アシルウレア骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状アシルウレア骨格)が複数個、Rを介して結合していてもよい。前記環状アシルウレア骨格を構成する原子G、及び該Gに結合している窒素原子は各種置換基を有していてもよく、また、前記環状アシルウレア骨格には非芳香族性又は芳香族性環が縮合していてもよい。さらに、前記環状アシルウレア骨格は環に二重結合を有していてもよい。
式(II)で表される環状アシルウレア骨格には、下記の式(IIa)で表される3−ヒドロキシ(又は3−置換オキシ)ヒダントイン骨格、式(IIb)で表される4−ヒドロキシ(又は4−置換オキシ)−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン骨格[4−ヒドロキシ(又は4−置換オキシ)−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン骨格を含む]、式(IIc)で表されるヒドロ−3−ヒドロキシ(又は3−置換オキシ)−1,3−ジアジン−2,4−ジオン骨格[ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ(又は1−置換オキシ)−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン骨格、ヘキサヒドロ−1,3−ジヒドロキシ(又は1,3−ビス置換オキシ)−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン骨格、3−ヒドロキシ(又は3−置換オキシ)ウラシル骨格を含む]、式(IId)で表されるヒドロ−4−ヒドロキシ(又は4−置換オキシ)−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン骨格、式(IIe)で表されるヒドロ−1−ヒドロキシ(又は1−置換オキシ)−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン骨格、及び式(IIf)で表されるヒドロ−5−ヒドロキシ(又は5−置換オキシ)−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン骨格が含まれる。
(式中、Rは前記に同じ)
前記環状アシルウレア系化合物の代表的な例として、下記式(2)で表されるヒドロ−1−ヒドロキシ(又は1−置換オキシ)−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン化合物が挙げられる。
(式中、R
a、R
dは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、又はアシル基を示し、R
b、R
cは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。R
a、R
b、R
c、R
dのうち少なくとも2つが互いに結合して、式中の環を構成する原子とともに二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、R
bとR
cは一体となってオキソ基を形成してもよい。Rは前記に同じ)
式(2)中、R
a、R
dにおけるアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基としては、上記R
1〜R
6におけるアルキル基等と同様のものが例示される。ヒドロキシル基の保護基としては、前記のものが挙げられる。
カルボキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用の保護基、例えば、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシなどのC1-6アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)、トリアルキルシリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ基など)、置換基を有していてもよいアミノ基(例えば、アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基などのモノ又はジC1-6アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
Rb、Rcにおけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、上記R1〜R6におけるアルキル基等と同様のものが例示される。
式(2)において、Ra、Rb、Rc、Rdのうち少なくとも2つが互いに結合して、式中に示される環を構成する原子(炭素原子及び/又は窒素原子)とともに二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、Rb、Rcは一体となってオキソ基を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環としては前記と同様のものが例示される。
好ましい環状アシルウレア系化合物の代表的な例として、例えば、3−ヒドロキシヒダントイン、1,3−ジヒドロキシヒダントイン、3−ヒドロキシ−1−メチルヒダントイン、3−アセトキシヒダントイン、1,3−ジアセトキシヒダントイン、3−アセトキシ−1−メチルヒダントイン、3−ベンゾイルオキシヒダントイン、1,3−ビス(ベンゾイルオキシ)ヒダントイン、3−ベンゾイルオキシ−1−メチルヒダントインなどの式(IIa)で表される骨格を有する化合物;4−ヒドロキシ−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−ヒドロキシ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−ベンゾイルオキシ−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−ベンゾイルオキシ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−ヒドロキシ−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン、4−ベンゾイルオキシ−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオンなどの式(IIb)で表される骨格を有する化合物;ヘキサヒドロ−3−ヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、ヘキサヒドロ−1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、ヘキサヒドロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、3−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、1,3−ジアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、3−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1−メチル−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、3−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、1,3−ビス(ベンゾイルオキシ)−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、3−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−1−メチル−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、1−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、1,3−ジアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、1,3−ビス(ベンゾイルオキシ)−ヘキサヒドロ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、3−ヒドロキシウラシル、3−アセトキシウラシル、3−ベンゾイルウラシルなどの式(IIc)で表される骨格を有する化合物;ヘキサヒドロ−4−ヒドロキシ−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン、ヘキサヒドロ−4−ヒドロキシ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン、4−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン、4−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン、4−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−1,2−ジメチル−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオンなどの式(IId)で表される骨格を有する化合物;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、1,3,5−トリス(ベンゾイルオキシ)−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(メトキシメチルオキシ)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオンなどの式(IIe)で表される骨格を有する化合物[例えば、式(2)で表される化合物];ヘキサヒドロ−5−ヒドロキシ−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン、ヘキサヒドロ−5−ヒドロキシ−1,2,3−トリメチル−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン、5−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン、5−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,2,3−トリメチル−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン、5−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン、5−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−1,2,3−トリメチル−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオンなどの式(IIf)で表される骨格を有する化合物が挙げられる。
前記窒素原子含有環状化合物のうち、Xが−OR基でかつRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)は、公知の方法に準じて、又は公知の方法の組み合わせにより製造することができる。また、前記窒素原子含有環状化合物のうち、Xが−OR基でかつRがヒドロキシル基の保護基である化合物は、対応するRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)に、慣用の保護基導入反応を利用して、所望の保護基を導入することにより調製することができる。
具体的には、前記環状イミド系化合物のうち、Xが−OR基でかつRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により得ることができる。例えば、N−アセトキシフタル酸イミドは、N−ヒドロキシフタル酸イミドに無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。また、これ以外の方法で製造することも可能である。
特に好ましいイミド化合物は、脂肪族多価カルボン酸無水物(環状無水物)又は芳香族多価カルボン酸無水物(環状無水物)から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなど);及び前記N−ヒドロキシイミド化合物のヒドロキシル基に保護基を導入することにより得られる化合物などが含まれる。
前記環状アシルウレア系化合物のうち、例えば、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリアセトキシイソシアヌル酸)は、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリヒドロキシイソシアヌル酸)に無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。
前記式(i)で表される骨格を環の構成要素に含む窒素原子含有環状化合物(前記式(i)で表されるイミド単位を有する酸化触媒)は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。例えば、式(I)で表される環状イミド骨格を有する環状イミド系化合物と、式(II)で表される環状アシルウレア骨格を有する環状アシルウレア系化合物などとを併用することもできる。窒素原子含有環状化合物触媒は反応系内で生成させてもよい。
なお、このような酸化触媒を前記金属触媒成分と組みあわせることにより、基質と酸素を接触させるだけで、基質に対応するカルボン酸(脂肪族ジカルボン酸又は芳香族カルボン酸、特に、脂肪族ジカルボン酸)を高い選択率及び収率で得ることができる。
酸化触媒の使用量は、広い範囲で選択でき、例えば、基質1モルに対して0.000001モル(0.0001モル%)〜1モル(100モル%)、好ましくは0.00001モル(0.001モル%)〜0.5モル(50モル%)、さらに好ましくは0.0001モル(0.01モル%)〜0.4モル(40モル%)程度であり、0.0001モル(0.01モル%)〜0.35モル(35モル%)程度であってもよい。
少なくとも前記金属触媒成分(前記金属触媒成分、前記金属触媒成分および前記酸化触媒など)で構成される触媒系は、均一系であってもよく、不均一系であってもよい。また、触媒系は、担体に触媒成分が担持された固体触媒であってもよい。担体としては、活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカ−アルミナ、ベントナイトなどの多孔質担体を用いる場合が多い。固体触媒における触媒成分(少なくとも金属触媒成分)の担持量は、特に限定されず、例えば、また、金属触媒成分の担持量は、担体100重量部に対して、金属換算で、0.1〜30重量部、好ましくは0.5〜20重量部程度であってもよい。また、担体100重量部に対して、前記酸化触媒0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部程度であってもよい。
前述の金属触媒成分と、必要により前記酸化触媒を含む触媒系(触媒溶液)は、例えば、以下に示す触媒溶液調製工程を経て調製してもよい。
(触媒溶液調製工程)
触媒溶液調製工程では、所定の触媒濃度に調整するため、前記金属触媒成分を、他の成分(例えば、シクロアルカンなどの基質、酸化触媒、溶媒など)と混合することにより、触媒溶液を調製してもよい。なお、触媒溶液は各成分が完全に溶解していてもよく、分散系であってもよい。
なお、酸化触媒(前記式(i)で表されるイミド単位を有する酸化触媒)を使用する場合、酸化触媒と金属触媒成分との割合は、例えば、酸化触媒/金属触媒成分=95/5〜2/98(モル比)、好ましくは80/20〜5/95(モル比)、さらに好ましくは50/50〜10/90(モル比)程度であってもよい。また、触媒濃度は、触媒溶液の供給量に応じて、前述の触媒濃度となるように調整される。
このように調製された触媒溶液は、酸化反応工程へ供される。
(基質)
基質としては、特開平9−327626号公報に開示されている種々の基質、例えば、炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類などが挙げられる。本発明において、好ましい基質としては、炭化水素類(シクロアルカン類など)、メチル基含有芳香族性化合物などが含まれ、特にシクロアルカン類が好ましい。
シクロアルカン類としては、例えば、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、ク口口シクロヘキサン、メトキシシクロヘキサン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロドデカン、シクロペンタデカン、シクロオクタデカンなどのC4-20シクロアルカン(好ましくはC4-16シクロアルカン、さらに好ましくはC4-10シクロアルカン)などが挙げられる。これらのシクロアルカン類は、一種で又は二種以上組合わせて使用してもよい。
好ましいシクロアルカン類には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シク口オクタンなどのC4-10シクロアルカン(好ましくはC5-8シクロアルカン、特に、シクロヘキサン)が挙げられる。通常、シクロヘキサンが使用される。また、シクロヘキサノンなどのケトン類、シクロヘキサノールなどのアルコール類、及びこれらの混合物(KAオイル)や、シクロヘキシルアセテートなどのエステル類も使用できる。
メチル基含有芳香族炭化水素類は、少なくとも一つ(例えば、1〜10、好ましくは1〜8個程度)のメチル基が芳香族性環に置換した化合物であればよく、芳香族性環は、芳香族性炭化水素環、芳香族性複素環のいずれであってもよい。メチル基含有芳香族炭化水素類には、例えば、トルエン、(o−,m−,p−)キシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、4−t−ブチル−1−メチルベンゼン、2−メトキシ−1−メチルベンゼン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、1,5−ジメチルナフタレン、2,5−ジメチルナフタレンなどの1〜6個程度のメチル基が置換した芳香族炭化水素類又はジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ジベンジル、スチルベンなどのジ又はトリアリール−C1-3アルカンなどが挙げられる。好ましいメチル基含有芳香族性炭化水素類には、メチル基の置換数が、分子中1〜4個(特に1〜2個)程度のC6-10芳香族炭化水素類(特に、キシレン)などが含まれる。特に好ましいメチル基含有芳香族炭化水素類は、パラキシレンである。
基質は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの基質のうち、好ましい基質はシクロアルカン類(特にシクロヘキサン)である。
なお、前記酸化反応において、アルデヒド類(特に、アセトアルデヒドなどのC1-6アルデヒド類)、シクロヘキサノンなどのケトン類や、KAオイルなどの共存下で反応させると、前記酸化反応を促進し、高効率でカルボン酸(脂肪族ジカルボン酸、芳香族カルボン酸など)を製造できる。また、ラジカル発生剤やラジカル促進剤などを併用すれば、反応が促進される場合もある。
(酸素)
基質の反応は、酸素雰囲気下で行われる。酸素源としては、特に制限されず、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素を使用してもよい。操作性及び安全性のみならず経済性などの点から、空気を使用するのが好ましい。酸素の使用量は、基質の種類に応じて選択でき、通常、基質1モルに対して、0.5モル以上(例えば、1モル以上)、好ましくは1〜100モル、さらに好ましくは2〜50モル程度であってもよい。
分子状酸素を反応装置内に供給する場合、予め十分な分子状酸素を供給した後、密閉系で反応を行ってもよく、連続的に分子状酸素を流通させて行ってもよい。連続的に流通させる場合、酸素の流通速度は、前記使用量に対応した速度で供給できる。
(反応溶媒)
反応は、反応に不活性な有機溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。有機溶媒としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸など)などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ペンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、ジクロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;水;これらの混合溶媒などが挙げられる。溶媒としては、有機酸、ハロゲン化炭化水素、ニトリル類、エステル類を用いる場合が多い。なお、基質(シクロアルカンなど)を溶媒として用いてもよい。
これらのうち、好ましい溶媒は、基質に応じて選択でき、例えば、基質がシクロアルカン類(例えば、シクロヘキサンなど)である場合、有機酸(特に、酢酸などの脂肪族モノカルボン酸)を好適に使用できる。本発明では、このような反応溶媒由来の有機酸(酢酸など)が反応混合物(又は後述する洗浄液)に含まれていても、効率よく金属触媒成分を回収できる。
反応温度は、例えば、0〜300℃、好ましくは15〜200℃、さらに好ましくは30〜170℃程度であり、通常、80〜160℃程度で反応する場合が多い。
また、反応は、常圧または加圧下で行なうことができ、加圧下で反応させる場合には、通常、1〜100atm(例えば、1.5〜80atm)、好ましくは2〜70atm、さらに好ましくは3〜50atm(約0.3〜5MPa)程度である場合が多い。反応時間(流通式反応においては滞留時間)は、反応温度及び圧力に応じて、例えば、1分〜48時間、好ましくは2分〜24時間、さらに好ましくは5分〜8時間程度の範囲から適当に選択できる。
前記反応操作は、連続式、回分式、又は半回分式で行ってもよい。また、反応は、水を除去しながら行う反応蒸留で行ってもよく、デカンターなどの水分離装置と組み合わせて水を除去する反応蒸留で行ってもよい。反応を二段階以上に分けて行ってもよい。反応装置としては、慣用の装置が使用でき、1又は複数の装置を使用してもよい。複数の装置を使用する場合、装置は直列及び/又は並列に接続してもよい。装置の形状は球形、円柱形などであってもよい。特に、反応装置内部には、特別な装置を必要としないが、多孔板のような内部を多量に分割するような装置を備えていてもよい。また、攪拌効率を高めるために、攪拌羽根のような機械的攪拌装置を有していてもよい。また、気泡塔を用いてもよい。
このような反応により、前記基質に対応するカルボン酸(例えば、アジビン酸などの脂肪族ジカルボン酸)が生成し、このようなカルボン酸を含む反応混合物が得られる。なお、前記反応(酸化反応)では、副生物又は副生成物[前記基質に対応するアルコール類(シクロアルカノールなど)又はその誘導体(エステルなど)、アルデヒド類、ケトン類、水などの低沸点副生物、目的化合物よりも低級の有機カルボン酸又はその誘導体(エステルなど)などの高沸点副生物]が生成する。すなわち、前記反応混合物には、前記基質に対応するカルボン酸、前記金属触媒成分(および活性が低下した金属触媒成分)に加えて、このような副生物、未反応の基質、反応溶媒を使用した場合には反応溶媒(例えば、酢酸などの有機酸など)、前記酸化触媒を使用した場合には酸化触媒(および活性が低下した酸化触媒)などが含まれている。
そこで、前記反応混合物から、高純度のカルボン酸を効率よく分離するため、反応混合物を晶析工程に供する。
(晶析工程)
晶析工程(1)では、前記反応混合物から前記カルボン酸を含む晶析成分を晶析させる。すなわち、晶析工程では、晶析を利用して、少なくとも前記カルボン酸を含む成分(晶析成分)と他の成分(非晶析成分)とを分離する。晶析成分には、通常、目的化合物であるカルボン酸(アジピン酸など)や高沸点副生物が多く含まれ、非晶析成分には、金属触媒成分、低沸点副生物、未反応基質、溶媒を使用した場合には反応溶媒などが含まれている。すなわち、このような晶析操作により、金属触媒成分の多くは、非晶析成分として晶析成分から分離されるが、このような晶析成分にも、金属触媒成分の一部が取り込まれる。また、晶析成分には、通常、副生物[目的生成物よりも低沸点のカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸)など]や反応溶媒(例えば、酢酸など有機酸など)などが含まれている。本発明では、このような晶析成分に含まれる金属触媒成分を、後述する洗浄工程、酸成分除去工程および金属触媒回収工程を組み合わせることにより高い回収率で効率よく回収する。
晶析は、冷却による晶析(冷却晶析)や晶析溶媒を用いる晶析(溶媒晶析)などにより行うことができる。本発明では、特に、冷却晶析を好適に利用できる。また、減圧することによって、晶析操作を行ってもよい。このような晶析を利用すると、晶析成分と非晶析成分とを、ろ過などの簡単な操作で分離できる。
冷却晶析は、慣用の方法で行われ、例えば、晶析温度は、−20〜200℃、好ましくは0〜150℃(例えば、5〜120℃)、さらに好ましくは10〜100℃(例えば、10〜80℃)程度の範囲から選択できる。また、冷却速度は、1〜60℃/hr、好ましくは5〜40℃/hr、さらに好ましくは10〜30℃/hr程度の範囲から選択でき、常圧下(例えば、1atm程度)、減圧下又は加圧下で行われる。また、熟成時間は、0.1〜5時間、好ましくは0.5〜4時間、さらに好ましくは0.5〜2時間程度の範囲から適当に選択できる。
また、晶析操作は、前記のように晶析溶媒を用いて行ってもよく、晶析溶媒としては、例えば、慣用の溶媒[メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソブタノールなどのアルコール類、エチルベンゼン、トルエン、p−キシレンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカンなどの飽和脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、シクロペンタン、デカリンなどの環状脂肪族炭化水素類、水、脂肪族モノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸など)などの有機酸、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリンなどのアルキルピリジン、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、アセトニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシド、二硫化炭素、四硫化炭素、石油エーテル、およびこれらの混合溶媒など]などが使用できるが、前記反応溶媒を使用することが経済的に好ましく、脂肪族ジカルボン酸(特に、アジピン酸)の場合、有機酸(特に、酢酸)が最も好ましい。
晶析成分と非晶析成分との分離方法は、特に限定されないが、通常、ろ過を利用できる。ろ過は、圧縮、遠心分離などを利用して行ってもよく、減圧ろ過であってもよい。晶析成分のろ過において、ろ過温度は、前記晶析温度に応じて選択され、適当な温度、例えば、−20℃〜200℃、好ましくは0〜150℃(例えば、5〜120℃)、さらに好ましくは20〜100℃(例えば、20〜80℃)程度の範囲から選択できる。また、圧縮ろ過を行う場合、ろ過圧力は、0.13kPa.A〜2MPa、好ましくは1.3kPa.A〜1MPa程度の範囲から選択できる。
(洗浄工程)
洗浄工程では、晶析成分を洗浄することにより、付着などにより晶析成分に含まれる金属触媒成分を分離する。晶析成分を洗浄するための洗浄溶媒としては、晶析成分の種類に応じて選択でき、前記反応溶媒や晶析溶媒の項で例示の溶媒、例えば、水性溶媒[水、有機酸類(酢酸、プロピオン酸など)、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類など)、ケトン類(アセトンなどのジアルキルケトン類など)など]、疎水性溶媒[アルカン類(ヘキサン、へプタン、オクタンなど)、シクロアルカン類(シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどのシクロアルカン類、デカリンなどのジシクロアルカン類など)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)などの炭化水素類など]などが例示できる。洗浄溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせ使用できる。
好ましい洗浄溶媒は、金属触媒成分の種類にもよるが、水性溶媒、特に、金属触媒成分を回収するという観点から、金属触媒成分を可溶な水性溶媒が好ましい。また、本発明では、後の工程において、酸成分を除去するため、酸成分の分離効率を高めるという観点から、洗浄溶媒は、非酸性溶媒(特に、非酸性水性溶媒)であるのが好ましい。そのため、非酸性水性溶媒、特に、少なくとも水を含む溶媒(特に、水)が好ましい。特に、水は、金属触媒成分を可溶であるとともに、基質に対応するカルボン酸成分の溶解を抑制でき、しかも、洗浄後の晶析成分に付着などにより含有されていても、コスト的・環境的にも有利であるため、最も好適に使用できる。
洗浄溶媒の使用量は、使用する洗浄溶媒の種類にもよるが、例えば、晶析成分1重量部に対して、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜4重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度であってもよい。
なお、洗浄方法は、特に限定されず、例えば、ろ過などにより分離した晶析成分をそのまま洗浄溶媒で洗浄し、得られた洗浄液を後述する酸成分分離工程に供してもよい。
洗浄操作は、適当な温度[例えば、−20〜200℃、好ましくは0〜150℃(例えば、5〜120℃)、さらに好ましくは10〜100℃(例えば、10〜80℃)程度]下で行ってもよい。また、洗浄時のろ過を圧縮ろ過により行う場合、例えば、圧力0.13kPa.A〜2MPa、好ましくは1.3kPa.A〜1MPa程度のろ過圧力で行ってもよい。
なお、晶析成分の洗浄は、少なくとも1回行えばよく、金属触媒の回収効率を高めるため、複数回(例えば、2〜4回、特に2回)行ってもよい。例えば、同一の晶析成分を複数回洗浄してもよく、晶析成分を洗浄したのち、洗浄した晶析成分をさらに再溶解および晶析させて洗浄してもよい。本発明では、再溶解および晶析させる後者の態様を好適に利用できる。
再溶解させる後者の具体的態様としては、例えば、前記晶析工程(第1の晶析工程)で得られた晶析成分(第1の晶析成分)を洗浄したのち、さらに洗浄された晶析成分(第1の晶析成分)を再溶解させて、第2の晶析工程により晶析させて、晶析成分(第2の晶析成分)と非晶析成分(第2の非晶析成分)とを前記と同様の方法(ろ過など)により分離し、得られた第2の晶析成分を前記と同様の洗浄溶媒(水など)により洗浄してもよい。
このような再溶解、晶析、分離および洗浄を経る一連の工程(精製工程)は、少なくとも1回行えばよく、必要に応じて、金属触媒の回収率を高めるとともに、高純度のカルボン酸を得ることができる限り繰り返してもよく、複数回(例えば、2〜10回、好ましくは2〜4回、さらに好ましくは2又は3回、特に2回)行ってもよい。すなわち、第2の晶析成分を再び再溶解し、第3の晶析工程により晶析させ、ろ過などにより分離して、得られた第3の晶析成分を洗浄してもよく、さらにこのような一連の工程を繰り返してもよい(例えば、第4の晶析工程、第5の晶析工程のように繰り返してもよい)。
なお、このような一連の工程において、再溶解溶媒や洗浄溶媒は、後の工程において使用した溶媒成分[例えば、洗浄液、非晶析成分(通常、ろ液)など]を使用することにより行ってもよい。通常、再溶解溶媒は、後の工程に使用した非晶析成分を用いて行ってもよく、洗浄溶媒は、後の工程により使用した洗浄液を利用して行ってもよい。例えば、第2の晶析成分(さらには第3の晶析成分)を洗浄して得られた洗浄液を、第1の晶析工程で得られた晶析成分(さらには第2の晶析成分)の洗浄溶媒として使用してもよい。また、第3の晶析工程(さらには第4の晶析成分)により得られた非晶析成分(通常、ろ液)を、第1の晶析成分(さらには第2の晶析成分)の再溶解に使用してもよい。
なお、第1の晶析成分を上記のような精製工程(1回又は複数の精製工程)により精製する場合、少なくとも第1の晶析成分を洗浄して得られた洗浄液(第1の洗浄液)を酸成分分離工程に供してもよい。例えば、(i)第1の洗浄液のみを酸成分分離工程に供し、後の工程の洗浄液や非晶析成分は、前の工程の溶媒(洗浄溶媒、再溶解溶媒など)に再利用(リサイクル)してもよく、(ii)第1の晶析成分を洗浄して得られた洗浄液(第1の洗浄液)および第2の晶析成分(さらに必要に応じて第3の晶析成分)を洗浄して得られた洗浄液(第2の洗浄液、さらに必要に応じて第3の洗浄液)を含む混合液(洗浄混合液)を酸成分分離工程に供してもよく、さらに、このような洗浄液[第1および第2の洗浄液(および第2の洗浄液)、又は洗浄混合液]と第2の晶析工程(さらに必要に応じて第3の晶析工程)で得られた非晶析成分(ろ液)とを含む混合液(洗浄混合液)を酸成分分離工程に供してもよい。
晶析成分の洗浄を複数回(特に2回)行う(すなわち、精製工程を少なくとも1回行う)と、金属触媒成分の回収率を高めることができるとともに、晶析成分(前記基質に対応するカルボン酸)の純度を高めることができる。
なお、再溶解において、再溶解溶媒としては、カルボン酸及び高沸点副生物の種類などに応じて選択でき、例えば、前記例示の晶析溶媒(例えば、水、有機酸、無機酸、アルコール類、ケトン類、エステル類、炭化水素類およびこれらの混合溶媒など)などが挙げられる。特に、目的生成物のカルボン酸と高沸点副生物とで溶解度の異なる溶媒を使用すれば、溶解速度の遅い(不溶性)成分が析出し、カルボン酸を含む成分と高沸点副生物を含む成分とをろ過などの簡単な操作で濾別できる。再溶解溶媒は、前記洗浄溶媒と同様の理由により、水性溶媒(特に、水などの非酸性水性溶媒)が好ましい。再溶解温度は、例えば、−20℃〜400℃、好ましくは0〜300℃(例えば、20〜300℃)、さらに好ましくは10〜200℃(例えば、15〜100℃)、特に20〜100℃程度の範囲から選択される。また、再溶解操作は、常圧下(例えば、1atm程度)、加圧又は減圧下で行ってもよい。
また、再溶解において、再溶解溶媒の使用量は、例えば、第1の晶析成分1重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部、さらに好ましくは1〜3重量部程度であってもよい。
また、第2以降の晶析工程(第2の晶析工程、第3の晶析工程など)において、晶析条件(晶析方法、晶析温度、晶析温度など)は前記と同様である。なお、第2の晶析成分を洗浄する洗浄溶媒は、前記再溶解溶媒の種類になどに応じて選択でき、適当な溶媒、例えば、前述の洗浄溶媒や再溶解溶媒(例えば、水、有機酸、無機酸、アルコール類、ケトン類、エステル類、炭化水素類およびこれらの混合溶媒など)が使用できるが、晶析成分に付着した溶媒のロスを考慮すると水性溶媒(特に水などの非酸性水性溶媒)が最も好ましい。
(酸成分分離工程)
前記洗浄工程により得られた洗浄液(前記洗浄混合液を含む)には、金属触媒成分に加えて、前記基質の酸化により生成したカルボン酸(例えば、アジピン酸など)を少なくとも含む酸成分(又は残存する酸成分)が含まれている。このような酸成分には、前記カルボン酸(晶析成分の洗浄により溶解したカルボン酸など)に加えて、前記反応溶媒由来の酸成分(例えば、反応溶媒としての有機酸)や、目的生成物よりも低沸点のカルボン酸なども含まれる。酸成分分離工程では、金属触媒成分および種々の他の成分を含む洗浄液から、少なくとも前記酸成分[脂肪族ジカルボン酸などの前記カルボン酸、目的化合物よりも低級の有機カルボン酸、反応溶媒としての有機酸(酢酸など)など]を分離することにより、簡便にかつ効率よく金属触媒成分の回収効率を高いレベルで向上させる。特に、本発明では、前記カルボン酸に加えて、反応溶媒としての有機酸(および前記低級の有機カルボン酸など)を含む酸成分であっても、酸成分分離工程により、効率よく回収効率を向上できる。
酸成分分離工程では、少なくとも前記洗浄工程で得られた洗浄液から酸成分を分離すればよく、このような洗浄液に加えて、金属触媒成分を含む液(例えば、前記第2の晶析工程で得られた非晶析成分(例えば、ろ液)や第2の晶析成分を洗浄した洗浄液など)を合わせて酸成分を除去してもよい。
なお、前記反応混合物は、少なくとも金属触媒成分(例えば、金属触媒成分および前記酸化触媒)を用いて、基質を酸化させる一段酸化法により得られる。この一段酸化法(特に、金属触媒成分および酸化触媒を用いる方法)では、酸素酸化の後に硝酸酸化する二段酸化法に比べて、カルボン酸系副生物の生成しやすくなる場合が多い。本発明では、このような一段酸化法により得られ、酸成分が多い反応混合物(又は洗浄液)であっても、効率よく金属触媒成分を回収できる。
酸成分を分離する方法は、特に限定されず、抽出、蒸留(蒸発又は濃縮)、吸着(例えば、陰イオン交換樹脂を用いた酸成分の吸着など)や、これらを組み合わせた慣用の方法などを利用できる。本発明では、通常、分離効率を高めるため、少なくとも抽出により酸成分を分離する場合が多い。
抽出では、酸成分を抽出可能な抽出溶媒を用いて酸成分を抽出してもよく、金属触媒成分を抽出可能な抽出溶媒を用いて金属触媒成分を抽出してもよい。本発明では、通常、酸成分を抽出することにより酸成分を分離除去し、得られた分離液(抽出により酸成分が除去された分離液、通常、抽残液)を後述する回収工程に供する場合が多い。詳細には、抽出により、前記基質に対応するカルボン酸(アジピン酸など)、目的生成物(アジピン酸など)よりも低級のカルボン酸(コハク酸、グルタル酸など)や反応溶媒としての有機酸(酢酸など)などの酸成分を含む液(通常、抽出液)と、このような酸成分が分離除去され、少なくとも金属触媒成分[および洗浄溶媒(水など)]を含む分離液(通常、抽残液)とに分離され、この分離液が、後述する金属触媒回収工程に供される。
なお、抽出は、連続式、回分式又は半回分式で行ってもよい。
抽出溶媒としては、抽出する成分に応じて選択でき、慣用の溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソブタノールなどのアルコール類;脂肪族炭化水素類(n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカンなどの飽和脂肪族炭化水素類)、環状炭化水素類(シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリンなどの環状脂肪族炭化水素類など)、芳香族炭化水素類(トルエン、エチルベンゼン、p−キシレンなど)などの炭化水素類;鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、メチル−t−アミルエーテル、エチル−t−ブチルエーテルなどのジアルキルエーテル類)、環状エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサンなど)などのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類;カルボン酸アルキルエステル(酢酸メチル、酢酸エチルなど)などのエステル類;水;アルキルピリジン(α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリンなど)などのピリジン類;ハロゲン化炭化水素類(塩化メチレン、クロロホルムなど)などのハロゲン含有溶媒;アセトニトリルなどのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;二硫化炭素;四硫化炭素;石油エーテルなどが例示できる。抽出溶媒は、これらの溶媒を単独で使用してもよく、これらの溶媒のうち、2種以上の溶媒を組みあわせた混合溶媒(例えば、メチルエチルケトンとジエチルエーテルとの混合溶媒など)であってもよい。
なお、抽出溶媒として、特開昭57−197240号公報に記載の溶媒、特開平7−291890号公報に記載の溶媒、特開昭56−10131号公報に記載の溶媒(第3アミンと含酸素有機溶媒との混合溶媒)などを使用してもよい。
好ましい抽出溶媒は、酸成分の構成に応じて選択でき、例えば、前記酸成分が、反応溶媒としての脂肪族モノカルボン酸(特に、酢酸)と、基質に対応するカルボン酸[例えば、アジピン酸などのジカルボン酸(特に、脂肪族ジカルボン酸)]とで構成されている場合、エーテル類(特に、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル類)とエステル類(特に、酢酸エチルなどのカルボン酸アルキルエステル類)との混合溶媒を使用すると、効率よく酸成分を抽出除去できる。
抽出溶媒の使用量は、洗浄液中の酸成分の含有量にもよるが、例えば、洗浄液(又は酸成分分離工程に供する混合液、例えば、前記洗浄混合液など)1重量部に対して、0.25〜10重量部、好ましくは1〜8重量部、さらに好ましくは1.2〜3.5重量部(例えば、1.5〜3重量部)程度であってもよい。
なお、抽出溶媒として混合溶媒を使用する場合、第1の抽出溶媒(例えば、エーテル類)と、第2の抽出溶媒(例えば、エステル類)との混合割合は、前者/後者(重量比)=100/0〜5/95、好ましくは80/20〜10/90、さらに好ましくは50/50〜25/75程度であってもよい。
また、抽出は、常温下または加温下で行ってもよく、抽出温度は、例えば、25〜60℃、好ましくは30〜50℃、さらに好ましくは35〜45℃程度であってもよく、通常、30〜40℃程度であってもよい。なお、抽出は、常圧、減圧、又は加圧下で行ってもよい。
なお、酸成分分離工程では、前記洗浄液から酸成分を分離すればよく、必要に応じて、前記洗浄液からさらに分離操作を行ったのち、酸成分を分離してもよい。例えば、洗浄液をさらに金属触媒成分を可溶な溶媒(通常、水などの水性溶媒)を用いて前記金属触媒成分を抽出させた抽出液から酸成分を間接的に分離してもよい。このような間接的方法は、例えば、洗浄溶媒が、疎水性溶媒(例えば、シクロアルカン類など)である場合などに有用である。
このような酸成分分離工程により得られた分離液(通常、抽残液)では、金属触媒成分を含み、かつ酸成分が高レベルで分離除去されている。前記分離液(通常、抽残液)中の酸成分濃度は、例えば、分離液全体に対して8重量%以下(例えば、0〜7.0重量%程度)の範囲から選択でき、例えば、5重量%以下(例えば、0.1〜3重量%)、さらに好ましくは2重量%以下(例えば、0.3〜1.8重量%程度)、特に1.5重量%以下(例えば、0.5〜1.3重量%程度)であってもよい。
また、反応溶媒として有機酸(酢酸など)を使用した場合、分離液中の反応溶媒由来の有機酸濃度は、分離液全体に対して、例えば、2重量%以下(例えば、0〜2重量%)の範囲から選択でき、例えば、1重量%以下(例えば、0.01〜0.9重量%)、さらに好ましくは0.8重量%以下(0.05〜0.7重量%程度)、特に0.5重量%以下(例えば、0.1〜0.5重量%程度)であってもよい。さらに、分離液中のカルボン酸[前記基質に対応するカルボン酸(アジピン酸など)、目的化合物よりも低級の有機カルボン酸(コハク酸など)]濃度は、分離液全体に対して6.5重量%以下(例えば、0〜6.5重量%)の範囲から選択でき、例えば、3重量%以下(例えば、0.01〜2.5重量%程度)、好ましくは1.5重量%以下(例えば、0.03〜1.3重量%程度)、さらに好ましくは1.3重量%以下(例えば、0.05〜1.2重量%程度)、特に1重量%以下(例えば、0.1〜1重量%程度)であってもよい。
また、前記分離液のpHは、回収工程において使用する吸着剤(例えば、弱酸性陽イオン交換樹脂など)の種類にもよるが、例えば、3.50以上(例えば、3.6〜7程度)、好ましくは3.90以上(例えば、4.0〜6.5程度)、さらに好ましくは4.5以上(例えば、4.6〜5.5程度)であってもよい。上記範囲のpHで分離液を回収工程に供すると、弱酸性陽イオン交換樹脂を用いる場合には、分離液(又は洗浄液)中の金属触媒成分全体に対して少なくとも60重量%以上の金属触媒成分を回収できる場合が多い。
また、分離液中の金属触媒成分の濃度は、金属触媒成分の回収効率(吸着率)を高めるという観点から、比較的高濃度である場合が好ましく、例えば、金属触媒成分を構成する金属換算(重量換算)で、分離液全体に対して、10ppm以上(例えば、50〜50000ppm程度)の範囲から選択でき、例えば、100ppm以上(例えば、200〜10000ppm程度)、好ましくは500ppm以上(例えば、700〜8000ppm程度)、さらに好ましくは800ppm以上(例えば、1000〜6000ppm程度)であってもよい。なお、分離液中の金属触媒成分の濃度は、酸成分が除去されているため、通常、洗浄液中の金属触媒成分濃度よりも大きい場合が多い。また、分離液中の金属触媒成分濃度が低い場合には、蒸留などにより金属触媒成分濃度を高めてもよい。
(金属触媒回収工程)
金属触媒回収工程では、前記酸成分分離工程(3)により得られた分離液を吸着処理することにより、前記金属触媒成分を吸着させて回収する。吸着は、種々の吸着剤(イオン交換樹脂、活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカゲル、シリカ−アルミナ、チタニア、マグネシアなど)を用いて行うことができるが、本発明では、通常、イオン交換樹脂を用いて吸着を行う場合が多い。
イオン交換樹脂としては、金属触媒成分を回収できればよく、慣用のイオン交換樹脂、例えば、陰イオン交換樹脂[例えば、第4級アンモニウム塩基(トリメチルアンモニウム塩基、ジメチルエタノールアンモニウム塩基など)を有する強塩基性イオン交換樹脂、第1級、第2級又は第3級アミノ基を有する弱塩基性イオン交換樹脂など]、陽イオン交換樹脂[例えば、スルホン酸基を有する強酸性イオン交換樹脂、フッ化アルキルスルホン酸基を有する超強酸性イオン交換樹脂、カルボキシル基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基を有する弱酸性イオン交換樹脂など]などが含まれる。これらのイオン交換樹脂は、キレート型樹脂であってもよい。イオン交換樹脂は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
なお、イオン交換樹脂はゲル型であってもよく多孔質型であってもよい。また、イオン交換樹脂は、必要により、架橋構造を有していてもよい。
好ましいイオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂、特に弱酸性イオン交換樹脂である。弱酸性イオン交換樹脂を使用すると、酢酸などの弱酸により吸着した金属触媒成分を再生可能であり、しかも、このような弱酸の塩の形態で再生した金属触媒成分は、反応系にそのままリサイクル可能である。これに対して、(超)強酸性イオン交換性樹脂を使用すると、回収した金属触媒成分(金属イオン)の再生に、塩酸、硫酸、硝酸などの強酸を必要するため、回収した金属触媒成分をリサイクルする(例えば、酢酸塩などにする)ためには煩雑な工程を要する場合がある。
代表的な弱酸性イオン交換樹脂としては、例えば、バイエル(Bayer)社製、「レバチットCNP80」(「レバチットCNP80WS」など);三菱化学(株)製、「ダイヤイオン(DIAION)WKシリーズ」(「WK10」、「WK40」など);ローム・アンド・ハース(Rohm and Harss)社製、「アンバーライト IRC」(「IRC−50」、「IRC−76」など)、「デュオライト C476」;ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー社製、「ダウエックス(DOWEX) MAC−3」、「ダウエックス(DOWEX) A−1」などとして入手できる。また、三菱化学(株)製、「ダイヤイオン(DIAION)CRシリーズ」(「CR20」など);Bio−Rad社製、「Chelex100」などのキレート樹脂も使用できる。前記抽残液では、「レバチットCNP80WS」が特に好ましい。
吸着剤の使用量は、前記分離液中の金属触媒成分1モルに対して、例えば、1.0〜10モル当量、好ましくは1.2〜5モル当量、さらに好ましくは1.5〜3モル当量程度であってもよい。
吸着剤による吸着処理は、少なくとも金属触媒成分を含む前記分離液(被処理液)と吸着剤(特に、弱酸性イオン交換樹脂)とを接触させる種々の方法、例えば、被処理液に吸着剤を添加して(必要に応じて攪拌下で)吸着処理する方法、吸着剤を含むカラムなどの処理装置に被処理液を通じて吸着処理する方法などが例示できる。
吸着処理条件(吸着剤の使用量、被処理液の流通量など)は、吸着剤の吸着特性に応じて選択でき、例えば、吸着処理温度は、例えば、0〜120℃、好ましくは20〜100℃、さらに好ましくは30〜80℃程度であってもよく、通常、10〜50℃程度であってもよい。また、吸着処理において、被処理液の流量(流通量)は、吸着剤(通常、イオン交換樹脂)の体積全体に対して、体積速度0.1〜20倍、好ましくは0.2〜5倍、さらに好ましくは0.5〜2.5倍程度であってもよい。
また、吸着した金属触媒成分の再生(又は脱着)は、吸着剤の種類によって、慣用の方法、例えば、金属触媒成分を吸着した吸着剤と、対応する再生剤(又は脱着剤)とを接触させる方法により行うことができる。例えば、金属触媒成分を吸着した吸着剤(例えば、弱酸性イオン交換樹脂)に、対応する再生剤(酸性又は塩基性溶液)を添加して(必要に応じて攪拌下で)再生させる方法、前記金属触媒成分を吸着した吸着剤(例えば、弱酸性イオン交換樹脂)を含むカラムなどの処理装置に対応する再生剤を通じて再生処理する方法などが例示できる。具体的には、吸着剤として弱酸性イオン交換樹脂を使用する場合には、弱酸(酢酸など)又はその水溶液などを再生剤として用い、このような再生剤と、金属触媒成分が吸着された弱酸性イオン交換樹脂とを接触させることにより、金属触媒成分を弱酸の金属塩(酢酸塩など)として再生してもよい。
なお、再生剤として、弱酸(特に酢酸)又はその水溶液を使用する場合、再生剤全体に対する酸(特に酢酸)濃度は、例えば、0.1〜100重量%、好ましくは1〜95重量%、さらに好ましくは10〜90重量%程度であってもよい。また、再生処理において、再生剤の流量(流通量)は、イオン交換樹脂の体積全体に対して、例えば、体積速度0.1〜20倍、好ましくは0.2〜5倍、さらに好ましくは0.5〜2.5倍程度であってもよい。
[カルボン酸の製造方法]
このような本発明の回収方法は、前記カルボン酸の製造工程に組み込むことにより、前記カルボン酸の製造方法に適用できる。このようなカルボン酸の製造方法は、前記回収方法を含む限り特に限定されず、例えば、以下のような製造方法を例示できる。
少なくとも前記金属触媒成分の存在下、基質の酸化により生成するカルボン酸を製造する方法であって、
(A)前記金属触媒成分の存在下、基質と酸素とを接触させる反応工程と、
(B)この反応工程(A)により得られる反応混合物から、前記カルボン酸を含む晶析成分を晶析させる第1の晶析工程と、
(C)第1の晶析工程(B)により得られた晶析成分と非晶析成分とを分離する分離工程と、
(D)この分離工程(C)により得られた晶析成分を洗浄する洗浄工程と、
(E)洗浄工程(D)により洗浄された晶析成分を精製する精製工程と、
(F)少なくとも洗浄工程(D)により得られた洗浄液から、前記カルボン酸を含む酸成分を分離する酸成分分離工程と、
(G)酸成分分離工程(F)により酸成分が分離された分離液を吸着処理し、前記金属触媒成分を回収する金属触媒回収工程とを含む。
なお、前記製造方法では、前記のように、触媒成分として、前記金属触媒に加えて、前記酸化触媒を使用してもよい。すなわち、前記製造方法では、金属触媒成分及び前記式(i)で表されるイミド単位を有する酸化触媒(すなわち、前記回収方法の項に記載の前記酸化触媒)の存在下、基質の酸化により生成するカルボン酸を製造してもよい。
図1は、本発明の製造方法の一例を説明するためのフロー図である。この例では、触媒成分として、前記金属触媒成分として水可溶性の遷移金属化合物(酢酸コバルト塩など)、前記酸化触媒(N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHSl)など)、反応溶媒として有機酸(酢酸など)を用いて、基質としてのシクロアルカン類(シクロヘキサンなど)に対応する脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸など)を製造している。
この例のプロセスでは、(a1)金属触媒成分および酸化触媒の存在下、シクロアルカン類と酸素とを接触させて反応1させる反応工程と、(b1)前記反応工程(a1)により得られる反応混合物から、冷却晶析により、晶析成分[前記脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸など)、基質より炭素数の小さい有機カルボン酸(コハク酸、グルタル酸など)などの高沸点副生物、前記有機酸(酢酸など)、金属触媒成分などを含む晶析成分]を晶析2させる第1の晶析工程(図1中の晶析1)と、(c1)第1の晶析工程(b1)により得られた晶析成分と、非晶析成分(金属触媒成分、未反応の基質、前記反応溶媒、低沸点副生物などを含む成分)とをろ過3により分離(又は分別)する分離工程と、(d1)この分離工程(c1)により得られた晶析成分を、非酸性水性溶媒(水など)により洗浄4する洗浄工程と、(e)(e1)洗浄工程(d1)により洗浄された晶析成分(残渣)に、非酸性水性溶媒(水など)を添加し、再溶解5して、冷却晶析により晶析6させる第2の晶析工程(図1中の晶析2)、および(e2)第2の晶析工程(e1)により得られた晶析成分(脂肪族ジカルボン酸を含む晶析成分)と非晶析成分(金属触媒成分、高沸点副生物などを含む非晶析成分)とを、ろ過7および非酸性水性溶媒(水など)を用いて洗浄8により分離するとともに、晶析成分を乾燥15させる分離精製工程で構成されている精製工程と、(f)洗浄工程(d1)により得られた洗浄液および分離精製工程(e2)で得られた非晶析成分(および洗浄液)から、抽出溶媒(エーテル系溶媒とエステル系溶媒との混合溶媒など)を用いて、脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸など)、高沸点副生物(グルタル酸、コハク酸など)や反応溶媒としての有機酸(酢酸など)などを含む酸成分を含む抽出液と、金属触媒成分および水性溶媒(水など)を含む抽残液とを抽出9により分離する酸成分分離工程と、(g)酸成分分離工程(f)により得られた抽残液を、弱酸性イオン交換樹脂に接触させ、前記金属触媒成分を吸着11させるとともに、金属触媒成分が吸着された前記樹脂を弱酸又はその水溶液(酢酸又は酢酸水溶液など)に接触させることにより、吸着した金属触媒成分を再生して反応系にリサイクルする金属触媒回収工程とを備えている。
なお、図1の例では、さらに、(h)分離工程(c1)により得られる非晶析成分を、静置により、金属触媒成分、副生物(ケトン類、アルコール類又はその誘導体(エステルなど)など)および有機酸(酢酸など)などを含む水相と、未反応のシクロアルカン類及び副生物(カルボン酸前駆体)などを含む有機相とにする分液(又は分配)10し、得られた水相および有機相を、必要により精製し、有価成分(シクロアルカン類、酸化触媒、金属触媒成分など)を回収して反応系にリサイクルしている。詳細には、前記有機相は、そのまま反応系にリサイクルするか、必要により蒸留14に供し、蒸留塔の塔頂から未反応基質を留出させ、サイドカットによりカルボン酸前駆体を分離して、反応系にリサイクルする。なお、缶底からの流出液は焼却処理してもよい。また、水相は蒸留(又は蒸発)12に供する。蒸留12では、蒸留塔を用い、蒸留塔の塔頂から低沸点成分(副生した水など)を留出(留去)させ、塔底から高沸点成分(金属触媒成分、溶媒(酢酸)、未反応基質、カルボン酸前駆体など)を流出し、そのまま反応系にリサイクルしてもよい。さらに、前記酸成分分離工程(f)により得られた抽出液(酸成分を含む酸性液)は、フラッシュにより有機酸(酢酸など)を留出させて溶媒回収13し、反応系にリサイクルされる。缶残である脂肪族ジカルボン酸、カルボン酸前駆体(ケトン、エステルなど)は、回収して一部再生し(さらに反応系にリサイクルし)、残りを焼却してもよい。
(反応工程(A)、第1の晶析工程(B))
前記製造方法において、反応工程(A)および第1の晶析工程は、前記回収方法の項で例示の反応工程および晶析工程と同様の工程により行うことができる。反応工程(A)において、触媒成分は、少なくとも金属触媒成分を使用すればよく、図1の例では、金属触媒成分および酸化触媒を使用している。金属触媒成分や酸化触媒(イミド化合物)、酸素の使用量、反応混合物なども前記と同様である。
(分離工程(C)、洗浄工程(D))
分離工程において、分離方法としては、特に限定されないが、通常、ろ過を利用できる。ろ過条件(ろ過温度、ろ過圧力など)は、前記回収方法の晶析工程の項で例示の条件と同様である。また、洗浄工程(D)において、洗浄方法(および洗浄条件)としては、前記回収方法の洗浄工程と同様の方法(および条件)を利用できる。
なお、図1の例では、非酸性水性溶媒(特に、水)を用いて晶析成分を洗浄しているが、このような非酸性水性溶媒で洗浄すると、金属触媒成分を効率よく溶解できるとともに、洗浄液中の酸成分の濃度の上昇を抑制でき、金属触媒回収の効率を向上できる。
(精製工程(E))
晶析成分(第1の晶析成分)には、基質に対応するカルボン酸基質に対応するカルボン酸(又は目的生成物)に加えて、通常、副生物(目的生成物よりも小さい炭素数のカルボン酸など)や金属触媒成分などが含まれている場合が多い。そのため、精製工程(E)では、前記洗浄工程(D)により洗浄された晶析成分(第1の晶析成分)を精製することにより、高純度の前記カルボン酸(精製物)を得る。また、このような第1の晶析成分から、精製工程を通じて、金属触媒成分を回収することにより、金属触媒成分の回収率をさらに向上できる。
精製工程(E)において、精製方法としては、特に限定されず、抽出などを利用してもよいが、好ましい態様では、少なくとも晶析を利用できる。例えば、(E1)洗浄工程により洗浄された晶析成分を再溶解して晶析させる第2の晶析工程と、(E2)第2の晶析工程により得られた晶析成分と非晶析成分とを分離する分離精製工程とで精製工程(E)を少なくとも構成してもよい。
再溶解方法や第2の晶析工程において、再溶解条件や晶析条件は、前記回収方法の洗浄方法の項で例示の条件と同様である。なお、第2の晶析工程は、減圧下で、溶媒を除去しながら、晶析成分を析出させてもよい。
また、分離精製工程(E2)において、分離方法としては、前記と同様に、ろ過などを利用できる。また、必要に応じて、分離精製工程(E2)により分離された晶析成分を、洗浄溶媒(前記例示の洗浄溶媒など)により洗浄してもよい。
なお、図1の例では、晶析成分を非酸性水性溶媒(特に、水)を用いて再溶解させるとともに、第2の晶析成分を非酸性水性溶媒(特に、水)により洗浄している。このような非酸性水性溶媒で再溶解および洗浄すると、第1の晶析成分からの金属触媒成分の回収率および目的生成物の純度を効率よく高めることができる。
第2の晶析工程により得られた晶析成分(第2の晶析成分)は、残存する洗浄溶媒などを除去するため、必要に応じて、乾燥させてもよい。乾燥は、洗浄溶媒やカルボン酸の種類に応じて、例えば、温度10〜300℃、好ましくは20〜200℃、さらに好ましくは40〜100℃程度で行ってもよい。また、乾燥は、圧力0.13kPa.A〜2MPa、好ましくは1.3kPa.A〜1MPa程度の範囲で行ってもよい。
また、第2の晶析工程により得られた晶析成分は、さらに慣用の精製処理(例えば、活性炭処理、水素還元処理など)に供してもよい。
なお、精製工程は、前記第2の晶析工程(E1)と、前記分離精製工程(E2)とで少なくとも構成してもよく、これらの工程に加えて、さらに、再溶解、晶析、分離(通常、ろ過)及び洗浄を経る一連の精製工程を、前記と同様に、繰り返し行ってもよい。また、前記回収方法の洗浄工程の場合と同様に、再溶解溶媒や洗浄溶媒は、後の工程において使用した溶媒成分[例えば、洗浄液、非晶析成分(通常、ろ液)など]を使用することにより行ってもよい。
図2は、本発明の製造方法の他の例を説明するためのフロー図である。この例のプロセルは、精製工程を繰り返し行う以外は、図1のフロー図に示すプロセスと基本的に共通している。すなわち、図2の例では、図1と同様にして、洗浄4された晶析成分(第1の晶析成分)を再溶解5aし、晶析6aし、ろ過7aにより晶析成分(第2の晶析成分)と非晶析成分とに分離し、得られた晶析成分(第2の晶析成分)を洗浄8aにより洗浄した後、洗浄された第2の晶析成分を、さらに再溶解5b、第3の晶析6b、ろ過7bおよび洗浄8bを経て、乾燥15することにより2回精製工程を行っている。そして、図2の例では、精製工程で得られる種々の溶媒成分を前の工程の溶媒として再利用している。すなわち、図2の例では、(i)第2の晶析成分の洗浄8aにより得られた洗浄液を、第1の晶析成分を洗浄4する洗浄溶媒として、(ii)第3の晶析6bおよびろ過7bにより得られた非晶析成分(ろ過7bにより得られたろ液)を、第1の晶析成分の再溶解5aの再溶解溶媒として、(iii)第3の晶析6bおよびろ過7bにより得られた第3の晶析成分を洗浄8bした洗浄液を、第2の晶析成分を洗浄8aする洗浄溶媒として、それぞれ再利用している。
このようなプロセスでは、精製を繰り返すことにより目的生成物の純度および金属触媒成分の回収率をさらに向上でき、しかも、溶媒成分を再利用しつつ精製することにより、精製プロセスを効率よく行うことができる。
(酸成分分離工程(F))
酸成分分離工程において、分離方法および分離条件などは、前記回収方法の酸成分分離工程の項で例示の方法および条件などと同様である。また、酸成分分離工程では、少なくとも前記洗浄工程で得られた洗浄液から酸成分を分離すればよく、このような洗浄液に加えて、前記第2の晶析工程で得られた非晶析成分(例えば、ろ液)や第2の晶析成分を洗浄した洗浄液なども合わせて酸成分を除去してもよい。
図1の例では、酸成分の分離効率および金属触媒成分の回収率を向上するため、(i)晶析成分(第1の晶析成分)を非酸性水性溶媒(水など)で洗浄した洗浄液(第1の洗浄液)、(ii)洗浄した第1の晶析成分をさらに再溶解および晶析(第2の晶析)して得られた非晶析成分(第2の非晶析成分)、および(iii)前記第2の晶析により得られた晶析成分(第2の晶析成分)を非酸性水性溶媒(水など)により洗浄して得られた洗浄液(第2の洗浄液)を混合した混合液から酸成分を分離している。
また、図2の例では、第2の晶析成分の洗浄液(第2の洗浄液)を洗浄溶媒として再利用して得られた第1の洗浄液、および第2の晶析成分で得られた非晶析成分(ろ液)を混合した混合液から酸成分を分離している。
(金属触媒回収工程(G))
金属触媒回収工程において、回収方法(吸着方法)、回収条件(吸着条件)、再生方法や再生条件などは、前記回収方法の金属触媒回収工程の項で例示の方法および条件などと同様である。なお、金属触媒回収工程で再生された金属触媒成分は、後述するように、反応系にリサイクルしてもよい。図1の例では、リサイクル効率を向上させるため、金属触媒成分を吸着した弱酸性イオン交換樹脂を弱酸又はその水溶液(酢酸又は酢酸水溶液など)を用いて再生することにより、弱酸の金属塩として回収し、そのまま反応系にリサイクルしている。
(有価成分回収工程(H))
前記カルボン酸の製造方法は、前記金属触媒回収工程で回収される金属触媒成分だけでなく、必要に応じて、反応に再利用可能な有価成分[例えば、金属触媒成分、酸化触媒を使用する場合には酸化触媒、未反応基質、カルボン酸前駆体(アルコール、エステル、ケトンなど)などの副生物、前記カルボン酸、反応溶媒など]を回収する有価成分回収工程を含んでいてもよい。このような有価成分は、例えば、前記非晶析成分(第1の非晶析成分)や、前記酸成分分離工程により分離された酸成分を含む酸性液などに含まれている。本発明では、通常、少なくとも、前記非晶析成分から、少なくとも金属触媒成分(および未反応基質)を回収する場合が多い。有価成分の回収は、慣用の操作(例えば、分配、晶析、吸着、加水分解、ケン化、中和、ろ過、蒸留、乾燥又はこれらを組みあわせた操作)を利用して行うことができる。以下では、好ましい有価成分の回収方法について説明する。
(非晶析成分からの有価成分回収)
前記分離工程(C)により得られる非晶析成分(第1の非晶析成分)は、金属触媒成分、酸化触媒を使用する場合には酸化触媒、未反応基質(シクロアルカン類など)、カルボン酸前駆体などの副生物、反応溶媒などを含んでおり、このような非晶析成分から有価成分(特に、少なくとも金属触媒成分)を回収してもよい。
例えば、金属触媒成分は、第1の晶析工程で分離された非晶析成分から、前記慣用の分離手段を利用して分離してもよい。特に、沸点の高い金属成分を含む金属触媒成分は、蒸留塔などの塔底から高沸点成分を留出させ、反応系にリサイクルしてもよく、分配(抽出)などの分離操作により金属成分を回収し、必要により再生して反応系にリサイクルしてもよい。また、副生物のうち、カルボン酸前駆体(基質に対応するアルコール類又はその誘導体、ケトン類、アルデヒド類など)は、第1の晶析工程で分離された非晶析成分から、分配(抽出など)、晶析、吸着、加水分解、ケン化、中和、蒸留(脱水蒸留など)、ろ過(ろ過洗浄など)、乾燥又はこれらを組合せた操作により分離でき、必要により反応系にリサイクルしてもよい。
具体的には、前記第1の非晶析成分は、通常、未反応基質や酸化触媒などを含む有機相と、副生した水を含む水相とを有しているため、分液したのち、各相から、必要に応じて有価成分を回収してもよい。
非晶析成分(第1の非晶析成分)の分液は、慣用の方法により行われ、例えば、温度−20℃〜200℃、好ましくは0〜150℃(例えば、5〜120℃)、さらに好ましくは10〜100℃(例えば、10〜80℃)程度の範囲、圧力0.13kPa.A〜2MPa、好ましくは1.3kPa.A〜1MPa程度の範囲で行われる。なお、分液性又は抽出性を高めるため、慣用の抽出溶媒、例えば、水及び/又は疎水性溶媒(炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、ニトリル類など)を使用してもよいが、図1の例では、非晶析成分を静置により分液している。
前記水相には、前記のように、金属触媒成分、反応溶媒(酢酸などの有機酸など)、前記カルボン酸、カルボン酸前駆体(エステル、アルコール、ケトンなど)などが含まれており、図1の例ではさらに酸化触媒なども含まれている。このような水相はそのまま回収(および反応系にリサイクル)してもよいが、このような水は、反応活性を低下させる場合が多く、通常、水を分離(除去)したのち回収される場合が多い。水の分離方法は、特に限定されないが、通常、蒸留を利用できる。水が留去された水相(残渣)は、必要に応じて、さらに慣用の方法により、分離・精製してもよく、そのまま反応系にリサイクルしてもよい。図1の例では、製造プロセスを向上させるため、蒸留により水を留去したのち、塔底から水よりも高沸点の成分(金属触媒成分、酸化触媒、反応溶媒(酢酸)、未反応基質、カルボン酸前駆体など)を回収して反応系にリサイクルしている。
蒸留は、通常、蒸留塔を用いて行われ、蒸留塔の段数は、例えば、1〜100段、好ましくは5〜80段、さらに好ましくは10〜50段、特に10〜30段程度であってもよい。蒸留操作は、低沸点成分(例えば、低沸点溶媒など)の種類に応じて、塔頂温度−20℃〜300℃(好ましくは0〜250℃、さらに好ましくは20〜200℃、特に40〜200℃)程度、塔底温度20〜400℃、好ましくは30〜300℃、さらに好ましくは50〜250℃程度、圧力0.13kPa.A〜2MPa、好ましくは1.3kPa.A〜1MPa程度で行うことができる。また、適当な還流比(例えば、0.01〜50、好ましくは0.1〜40、さらに好ましくは1〜30程度)で留出分を還流させながら行うことができる。
蒸留は、また、蒸発器を用いて行ってもよく、蒸発操作は、例えば、圧力0.13kPa.A〜2MPa、好ましくは1.3kPa.A〜1MPa程度、−20℃〜300℃、好ましくは0〜250℃、さらに好ましくは20〜250℃、特に40〜200℃程度の温度範囲で行うことができる。
また、前記有機相には、未反応基質、カルボン酸前駆体(エーテル、ケトンなど)などの有価成分が含まれている。このような有価成分を含む有機相は、そのまま回収(および反応系にリサイクル)してもよく、リサイクルなどにより不純物が蓄積する場合には、蒸留などにより回収(および反応系にリサイクル)してもよい。図1の例では、製造プロセスの効率を向上させるため、有機相をそのまま回収して反応系にリサイクルしている。
(酸成分分離工程により得られる酸成分含有液からの有価成分回収)
前記酸成分分離工程において、抽出などにより分離された酸成分を含む酸性液には、反応溶媒(酢酸などの有機酸など)、前記カルボン酸、抽出溶媒、洗浄溶媒などが含まれており、このような分離液からも有価成分(例えば、反応溶媒など)を回収してもよい。前記酸性液から有価成分を回収する方法は、特に限定されないが、通常、蒸留を利用できる。図1の例では、蒸留により、反応溶媒としての有機酸(酢酸など)を留出させて回収し、回収した有機酸をそのまま反応系にリサイクルしている。
(リサイクル工程)
前記製造方法において、基質、酸化触媒を使用する場合には酸化触媒、金属触媒成分、反応溶媒、副生物中の有効成分(基質に対応するアルコール類、アルデヒド類、ケトン類などのカルボン酸前駆体)、処理溶媒(例えば、洗浄溶媒、晶析溶媒、抽出溶媒)などは必ずしもリサイクルする必要はないが、工業的に有利に、効率よくカルボン酸を得るためには、前記成分を反応装置又は分離装置にリサイクルし、再使用するのが有利である。そのため、前記製造方法は、製造プロセスをより効率よく行うため、前記金属触媒回収工程により回収した金属触媒成分や、前記有価成分を反応系にリサイクルする工程を含んでいてもよい。
リサイクル工程では、少なくとも金属触媒回収工程(G)で回収された金属触媒成分を反応系にリサイクルしてもよく、特に、このような金属触媒成分および有価成分回収工程(H)で回収された有価成分(未反応基質、金属触媒成分、酸化触媒など、特に、少なくとも金属触媒成分)を反応系にリサイクルしてもよい。なお、分離した金属触媒成分は、精製することなく反応系にリサイクルしてもよい。図1の例では、金属触媒回収工程により回収された金属触媒成分、非晶析成分の水相および有機相から回収された有価成分、酸成分分離工程により分離された酸成分を含む酸性液からそれぞれ有価成分を反応系にリサイクルしている。
なお、各分離操作は、連続式、回分式、半回分式のいずれで行ってもよい。また、部分離装置は、1基又はそれ以上の多段でも多基であってもよい。
また、分離装置としては、慣用の装置が使用でき、1又は複数の装置を使用してもよい。複数の装置を使用する場合、装置は直列及び/又は並列に接続してもよい。装置の形状は球形、円柱形などであってもよい。特に、分離装置内部には、特別な装置を必要としないが、多孔板のような内部を多室に分割するような装置を備えていてもよい。また、撹拌効率を高めるために、攪拌羽根のような機械的攪拌装置を有していてもよい。なお、蒸留は、デカンターなどの水分離装置と組み合わせて水を除去しながら行ってもよい。
さらに、蒸留塔及び抽出蒸留塔としては、タナ段塔、多孔板塔、充填塔(規則充填塔、不規則充填塔)、泡鐘塔、バルブ塔などが使用できる。抽出装置としては、慣用の装置、例えば、ミキサーセトラー、多孔板塔、スプレー塔、充填塔、回転円板抽出塔(RDC)、カールカラム、遠心抽出器、リング&プレートなどが例示できる。ろ過装置としては、種々の装置、例えば、遠心ろ過、フィルタープレス、ヌッチェ、フィルタードライヤーなどが使用できる。濃縮装置としては、種々の装置、例えば、自然循環式、水平管型蒸発器、自然循環式垂直短管型蒸発器、水平管下降膜型蒸発器、垂直長管下降膜型蒸発器、強制循環式水平管型蒸発器、強制循環式垂直管型蒸発器、攪拌膜型蒸発器、FFE(Falling Film Evaporator)、WFE(Wiped Film Evaporator)などが例示できる。乾燥機としては、コニカルドライヤー、ナウターミキサー、フィルタードライヤーなどが例示できる。これらの装置は、単独で又は二種以上組合わせて使用してもよい。