JP2004123561A - ヌートカトンの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】バレンセンから高品質のヌートカトンを効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明のヌートカトンの製造方法は、下記式(I)
【化1】
[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される環状イミド骨格を有するイミド化合物を含む触媒の存在下、バレンセンと酸素とを反応させてヌートカトンを製造する方法であって、(A)酸化反応混合物を加熱して副反応生成物を分解させる加熱処理工程、(B)加熱処理後の混合物からヌートカトンを抽出する抽出工程、(C)抽出工程後のヌートカトンを含む混合物を塩基性溶液で洗浄する塩基性溶液洗浄工程、及び(D)抽出工程後のヌートカトンを含む混合物を蒸留に付してヌートカトンを回収する蒸留工程を含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明のヌートカトンの製造方法は、下記式(I)
【化1】
[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される環状イミド骨格を有するイミド化合物を含む触媒の存在下、バレンセンと酸素とを反応させてヌートカトンを製造する方法であって、(A)酸化反応混合物を加熱して副反応生成物を分解させる加熱処理工程、(B)加熱処理後の混合物からヌートカトンを抽出する抽出工程、(C)抽出工程後のヌートカトンを含む混合物を塩基性溶液で洗浄する塩基性溶液洗浄工程、及び(D)抽出工程後のヌートカトンを含む混合物を蒸留に付してヌートカトンを回収する蒸留工程を含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の構造のイミド化合物を含む触媒の存在下、バレンセンと酸素とを反応させてヌートカトンを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヌートカトンは香料の原料であり、フレーバーやフレグランスとして幅広く使用されている極めて有用な化合物として知られている。
【0003】
ヌートカトンは、天然物として得られるほか、バレンセンを原料にして合成されており、その合成方法はいくつか知られている。例えば、イミド化合物触媒の存在下で反応して得られる反応混合物から、反応生成物と触媒やその変質体を分離するに際して、互いに分液可能な2種の有機溶媒を抽出溶媒として用い反応生成物を一方の有機溶媒層へ、イミド化合物触媒やその変質体を他方の有機溶媒層へ移行させることにより分離する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、より高純度のヌートカトンを効率よく得る方法が求められていた。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−145807号公報(第11〜12頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、バレンセンから高品質のヌートカトンを効率よく製造する方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、バレンセンと酸素とをイミド化合物触媒の存在下で反応させた後、特定の工程を設けることにより、バレンセンや反応生成物であるヌートカトンと前記触媒との副反応生成物を効果的に分解できるとともに、イミド化合物触媒及びその誘導体を容易に除去することができ、高い純度のヌートカトンを効率よく得られることを見い出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記式(I)
【化2】
[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される環状イミド骨格を有するイミド化合物を含む触媒の存在下、バレンセンと酸素とを反応させてヌートカトンを製造する方法であって、(A)酸化反応混合物を加熱して副反応生成物を分解させる加熱処理工程、(B)加熱処理後の混合物からヌートカトンを抽出する抽出工程、(C)抽出工程後のヌートカトンを含む混合物を塩基性溶液で洗浄する塩基性溶液洗浄工程、及び(D)抽出工程後のヌートカトンを含む混合物を蒸留に付してヌートカトンを回収する蒸留工程を含むヌートカトンの製造方法を提供する。
【0008】
本発明のヌートカトンの製造方法では、加熱処理工程(A)後に、混合物中に析出した不溶物を除去する濾過工程を設けてもよく、抽出工程(B)前に、加熱処理後の混合物から溶媒を留去する濃縮工程を設けてもよい。また、塩基性溶液洗浄工程(C)で得られた処理液から溶媒を留去する濃縮工程や該処理液を水で洗浄する水洗工程を設けてもよい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明では、前記式(I)で表される環状イミド骨格を有するイミド化合物を含む触媒の存在下、バレンセンと酸素とを反応させて、ヌートカトンを生成させる。
[イミド化合物]
式(I)において、窒素原子とXとの結合は単結合又は二重結合である。前記イミド化合物は、分子中に、式(I)で表されるN−置換環状イミド骨格を複数個有していてもよい。また、このイミド化合物は、前記Xが−OR基であり且つRがヒドロキシル基の保護基である場合、N−置換環状イミド骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合していてもよい。
【0010】
式(I)中、Rで示されるヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用のヒドロキシル基の保護基を用いることができる。このような保護基として、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1−4アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、3−ブロモベンジル、2−ニトロベンジル、トリフェニルメチル基など);置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、ビス(2−クロロエトキシ)メチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル、1−イソプロポキシエチル、2,2,2−トリクロロエチル、2−メトキシエチル基など)、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1−ヒドロキシアルキル基(例えば、1−ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシヘキシル、1−ヒドロキシデシル、1−ヒドロキシヘキサデシル、1−ヒドロキシ−1−フェニルメチル基など)等のヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基など;アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1−20脂肪族アシル基等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基など)、スルホニル基(メタンスルホニル、エタンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、ナフタレンスルホニル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイル基など)、無機酸(硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸など)からOH基を除した基、ジアルキルホスフィノチオイル基(例えば、ジメチルホスフィノチオイル基など)、ジアリールホスフィノチオイル基(例えば、ジフェニルホスフィノチオイル基など)、置換シリル基(例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリベンジルシリル、トリフェニルシリル基など)などが挙げられる。
【0011】
また、Xが−OR基である場合において、N−置換環状イミド骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合する場合、該Rとして、例えば、オキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル、アジポイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイル基などのポリカルボン酸アシル基;カルボニル基;メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ベンジリデン基などの多価の炭化水素基(特に、2つのヒドロキシル基とアセタール結合を形成する基)などが挙げられる。
【0012】
好ましいRには、例えば、水素原子;ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;カルボン酸、スルホン酸、炭酸、カルバミン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸などの酸からOH基を除した基(アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基等)などの加水分解により脱離可能な加水分解性保護基などが含まれる。
【0013】
式(I)において、nは0又は1を示す。すなわち、式(I)は、nが0の場合は5員のN−置換環状イミド骨格を表し、nが1の場合は6員のN−置換環状イミド骨格を表す。
【0014】
前記イミド化合物の代表的な例として、下記式(1)で表されるイミド化合物が挙げられる。
【化3】
[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す。R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示し、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよい。前記R1、R2、R3、R4、R5、R6、又はR1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、上記式(1)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい]
【0015】
前記式(1)で表されるイミド化合物において、置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうちハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素原子が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれる。
【0016】
アリール基には、フェニル、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが含まれる。アルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシオクタデシルオキシ基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)のアルコキシ基が含まれる。
【0017】
置換オキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、ヘプチルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル、テトラデシルオキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル、オクタデシルオキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基(特に、C1−30アルコキシ−カルボニル基);シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル基などのシクロアルキルオキシカルボニル基(特に、3〜20員シクロアルキルオキシカルボニル基);フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル基などのアリールオキシカルボニル基(特に、C6−20アリールオキシ−カルボニル基);ベンジルオキシカルボニル基などのアラルキルオキシカルボニル基(特に、C7−21アラルキルオキシ−カルボニル基)などが挙げられる。
【0018】
アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1−30脂肪族アシル基(特に、C1−20脂肪族アシル基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基などが例示できる。
【0019】
アシルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、バレリルオキシ、ピバロイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、ヘプタノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ノナノイルオキシ、デカノイルオキシ、ラウロイルオキシ、ミリストイルオキシ、パルミトイルオキシ、ステアロイルオキシ基などのC1−30脂肪族アシルオキシ基(特に、C1−20脂肪族アシルオキシ基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基;アセトアセチルオキシ基;シクロペンタンカルボニルオキシ、シクロヘキサンカルボニルオキシ基などのシクロアルカンカルボニルオキシ基等の脂環式アシルオキシ基;ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ基などの芳香族アシルオキシ基などが例示できる。
【0020】
前記置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、二重結合、または芳香族性又は非芳香属性の環を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環は5〜12員環、特に6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。このような環には、例えば、非芳香族性脂環式環(シクロヘキサン環などの置換基を有していてもよいシクロアルカン環、シクロヘキセン環などの置換基を有していてもよいシクロアルケン環など)、非芳香族性橋かけ環(5−ノルボルネン環などの置換基を有していてもよい橋かけ式炭化水素環など)、ベンゼン環、ナフタレン環などの置換基を有していてもよい芳香族環(縮合環を含む)が含まれる。前記環は、芳香族環で構成される場合が多い。前記環は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0021】
前記R1、R2、R3、R4、R5及びR6、又はR1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、上記式(1)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい。例えば、R1、R2、R3、R4、R5又はR6が炭素数2以上のアルキル基である場合、このアルキル基を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。また、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して二重結合を形成する場合、該二重結合を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。さらに、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成する場合、該環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。
【0022】
好ましいイミド化合物には、下記式で表される化合物が含まれる。
【化4】
(式中、R11〜R16は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。R17〜R26は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子を示す。Aはメチレン基又は酸素原子を示す。R17〜R26は、隣接する基同士が結合して、式(1c)、(1d)、(1e)、(1f)、(1h)又は(1i)中に示される5員又は6員のN−置換環状イミド骨格を形成していてもよい。Xは前記に同じ)
【0023】
置換基R11〜R16におけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、前記R1〜R6における対応する基と同様のものが例示される。
【0024】
置換基R17〜R26において、アルキル基には、前記例示のアルキル基と同様のアルキル基、特に炭素数1〜6のアルキル基が含まれ、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などの炭素数1〜4程度のハロアルキル基、アルコキシ基には、前記と同様のアルコキシ基、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基、置換オキシカルボニル基には、前記と同様の置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)が含まれる。また、アシル基としては前記と同様のアシル基(脂肪族飽和又は不飽和アシル基、アセトアセチル基、脂環式アシル基、芳香族アシル基等)などが例示され、アシルオキシ基としては前記と同様のアシルオキシ基(脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基、アセトアセチルオキシ基、脂環式アシルオキシ基、芳香族アシルオキシ基等)などが例示される。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示できる。置換基R17〜R26は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。
【0025】
好ましいイミド化合物のうち5員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α−メチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α,β,β−テトラメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、α,β−ジアセトキシ−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(バレリルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(ラウロイルオキシ)コハク酸イミド、α,β−ビス(ベンゾイルオキシ)−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−4−メトキシカルボニルフタル酸イミド、4−エトキシカルボニル−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−ペンチルオキシカルボニルフタル酸イミド、4−ドデシルオキシ−N−ヒドロキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−フェノキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(メトキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(エトキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(ペンチルオキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(ドデシルオキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(フェノキシカルボニル)フタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシフタル酸イミド、N−(2−メトキシエトキシメチルオキシ)フタル酸イミド、N−テトラヒドロピラニルオキシフタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシフタル酸イミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシフタル酸イミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0026】
好ましいイミド化合物のうち6員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−β,β−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−デカリンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−デカリンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド(N−ヒドロキシナフタル酸イミド)、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メトキシメチルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メタンスルホニルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド又はN,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0027】
前記イミド化合物のうち、Xが−OR基で且つRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により得ることができる。また、前記イミド化合物のうち、Xが−OR基で且つRがヒドロキシル基の保護基である化合物は、対応するRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)に、慣用の保護基導入反応を利用して、所望の保護基を導入することにより調製することができる。例えば、N−アセトキシフタル酸イミドは、N−ヒドロキシフタル酸イミドに無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。また、これ以外の方法で製造することも可能である。
【0028】
特に好ましいイミド化合物は、脂肪族多価カルボン酸無水物又は芳香族多価カルボン酸無水物から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなど);及び該N−ヒドロキシ環状イミド化合物のヒドロキシル基に保護基を導入することにより得られる化合物などが含まれる。
【0029】
式(I)で表されるN−置換環状イミド骨格を有するイミド化合物は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。前記イミド化合物は反応系内で生成させてもよい。
【0030】
前記イミド化合物触媒の使用量は、バレンセン1モルに対して、例えば0.0000001〜1モル、好ましくは0.00001〜0.5モル、さらに好ましくは0.0001〜0.4モル程度であり、0.001〜0.35モル程度である場合が多い。
【0031】
[助触媒]
前記イミド化合物は助触媒とともに使用することもできる。助触媒として、例えば特開平9−327626号公報にイミド化合物触媒の助触媒として記載されているものなどを使用できる。好ましい助触媒として、バナジウム化合物(例えば、バナジウムアセチルアセトナト、バナジルアセチルアセトナトなど)、コバルト化合物(例えば、酢酸コバルト、コバルトアセチルアセトナト、硝酸コバルトなど)、マンガン化合物(例えば、酢酸マンガン、マンガンアセチルアセトナト、硝酸マンガンなど)、周期表1族又は2族の金属元素化合物等の金属化合物;有機オニウム塩などが挙げられる。これらの助触媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。また、反応系内にラジカル開始剤やラジカル反応促進剤、酸化剤など初期活性化剤を添加してもよい。
【0032】
[バレンセン(基質)]
バレンセンは、市販のもの、又は慣用の方法で合成されたものであってもよい。
【0033】
[酸素]
酸化に利用される酸素としては、発生期の酸素であってもよいが、分子状酸素を用いるのが好ましい。分子状酸素は純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気を用いることもできる。酸素の使用量は、バレンセン1モルに対して0.5モル以上(例えば、1モル以上)、好ましくは1〜100モル、さらに好ましくは2〜50モル程度である。バレンセンに対して過剰モルの酸素を使用する場合が多い。
【0034】
[反応]
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;これらの混合溶媒などが挙げられる。溶媒としては、酢酸などの有機酸類、アセトニトリルやベンゾニトリルなどのニトリル類、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類などを用いる場合が多い。
【0035】
なお、本発明では、前記イミド化合物触媒を、反応系に逐次添加することができる。前記イミド化合物触媒を反応系に逐次添加すると、反応系に一括添加した場合と比較して、バレンセンの転化率が向上したり、副反応が抑制されて目的化合物としてのヌートカトンの選択率が向上する。また、基質濃度が高い場合に触媒活性が損なわれることがあるが、イミド化合物触媒を逐次添加することにより反応が円滑に進行し、ヌートカトンを高い収率で得ることができる。
【0036】
前記イミド化合物触媒は系内にそのまま添加してもよいが、適当な溶媒に溶解若しくは分散させて添加することもできる。また、イミド化合物触媒は系内に連続的に添加してもよく、間欠的に添加してもよい。なお、前記助触媒も反応系に逐次的に添加してもよい。
【0037】
反応温度は、例えば0〜300℃、好ましくは10〜250℃、さらに好ましくは20〜200℃程度である。反応は常圧または加圧下で行うことができ、加圧下で反応させる場合には、通常、0.1〜20MPa(例えば、0.15〜12MPa)程度である。
【0038】
本発明では、反応は回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。
【0039】
[ヌートカトン(反応生成物)]
本発明では、バレンセンの酸化反応生成物としてヌートカトンが生成する。本発明の方法において、反応機構は必ずしも明らかではないが、反応の過程で酸化活性種[例えば、イミドN−オキシラジカル(>NO・)]が生成し、これがバレンセンから水素を引き抜いて、不飽和結合の隣接位の炭素原子にラジカルを生成させ、このようにして生成したラジカルが酸素と反応して、ヌートカトンが生成するものと推測される。
【0040】
[副反応]
このようなイミド化合物を含む触媒を用いた酸素酸化反応においては、基質としてのバレンセンや酸化反応生成物としてのヌートカトンとイミド化合物との副反応が生じる場合がある。
【0041】
具体的には、バレンセンやヌートカトンは、末端二重結合を有するイソプロペニル基(1−メチルエテニル基)を有しており、該イソプロペニル基が、イミド化合物及び酸素と反応する下記の反応式(2)で示されるような副反応が生じる場合がある。
【化5】
(式中、nは0又は1を示す)
【0042】
より具体的には、例えば、バレンセンは、イミド化合物及び酸素との反応により、前記反応式(2)で表されるような反応が生じて、下記式(3)で表される化合物を、ヌートカトンは下記式(4)で表される化合物をそれぞれ副反応生成物として生成する場合がある。
【化6】
(式中、nは0又は1を示す)
【0043】
[加熱処理工程(A)]
加熱処理工程(A)では、酸化反応混合物を加熱して副反応生成物を分解させる。前記酸化反応混合物には、酸化反応の反応液そのもの、希釈、濃縮、溶媒交換、抽出処理等を施したものなどが含まれる。該抽出処理は、後述のヌートカトンを回収する抽出工程(B)と同様に行うことができる。
【0044】
具体的には、前記反応式(2)に示される副反応による副反応生成物(たとえば、前記式(3)及び(4)など)は、加熱により、元のイミド化合物やイミド化合物の誘導体(例えば、イミド化合物が5員のN−置換環状イミド骨格を有するイミド化合物である場合には、フタル酸、フタルイミドなどの該イミド化合物に由来する化合物など)の他、バレンセンやヌートカトンに由来する化合物などに分解することができる。
【0045】
前記副反応生成物を分解するための加熱温度としては、副反応生成物及びイミド化合物などの種類等に応じて適宜選択することができ、例えば、80℃以上であってもよい。本発明では、前記加熱温度としては、例えば80〜200℃、好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは110〜170℃程度の範囲から選択することができる。
【0046】
本発明では、加熱による副反応生成物の分解を、塩基性化合物及び/又は遷移金属化合物の存在下で行うと、副反応生成物の分解を促進することができる。すなわち、塩基性化合物及び/又は遷移金属化合物の添加により、加熱温度を低減しても、副反応生成物の分解を効果的に行うことができる。塩基性化合物としては、塩基性を示す化合物であれば特に制限されず、塩基性無機化合物、塩基性有機化合物のいずれであってもよい。また、塩基性化合物はルイス塩基であってもよい。塩基性化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
塩基性無機化合物には、例えば、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩などが含まれる。また、塩基性有機化合物としては、アミン、ピリジン等の塩基性含窒素複素環化合物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。前記塩基性有機化合物としてのアミンとしては、特に制限されず、脂肪族アミン、芳香族アミン、環状アミンの何れであってもよい。脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミンなどのモノアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミンなどのジアルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン;メタノールアミン、エタノールアミンなどのモノアルコールアミン;ジメタノールアミン、ジエタノールアミンなどのジアルコールアミン;トリメタノールアミン、トリエタノールアミンなどのトリアルコールアミンなどの他、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,2−ジアミノエタン(TMEDA)などが挙げられる。芳香族アミンには、例えば、N,N−ジメチルアニリンなどが含まれる。また、環状アミンとしては、例えば、モルホルリン、ピペリジン、プロリジンなどが挙げられる。
【0048】
遷移金属化合物としては、周期表3〜11属元素から選択された少なくとも一種の遷移金属元素から構成された遷移金属化合物を用いることができる。遷移金属化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。具体的には、遷移金属化合物を構成する遷移金属元素としては、例えば、周期表3族元素(Sc、Yなど)、4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、5族元素(V、Nb、Taなど)、6族元素(Cr、Mo、Wなど)、7族元素(Mn、Tc、Reなど)、8族元素(Fe、Ru、Osなど)、9族元素(Co、Rh、Irなど)、10族元素(Ni、Pd、Ptなど)、11族元素(Cu、Ag、Auなど)などが挙げられる。好ましい遷移金属元素には、5〜9族元素が含まれ、特にV等の5族元素、Mo、W等の6族元素、Fe等の8族元素が好ましい。
【0049】
遷移金属化合物としては、前記遷移金属元素の単体、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)、イソポリ酸やヘテロポリ酸等のポリ酸又はその塩などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物などが挙げられる。前記錯体を構成する配位子としては、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、アシル(アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、アセチルアセトナト、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、H2O(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH3(アンミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。
【0050】
遷移金属化合物の具体例としては、例えば、モリブデン化合物を例にとると、酸化モリブデン、モリブデン酸又はその塩(例えば、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウムなど)、リンモリブデン酸、2−エチルヘキサン酸モリブデン酸などが挙げられる。また、バナジウム化合物の例としては、酸化バナジウム(V2O5など)、塩化バナジウム、硫酸バナジウム、バナジン酸又はその塩(例えば、バナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウムなど)などの無機化合物;バナジウムアセチルアセトナト、バナジルアセチルアセトナトなどの錯体等の2〜5価のバナジウム化合物などが挙げられる。さらにまた、他の遷移金属化合物としては、前記モリブデン化合物やバナジウム化合物に対応する化合物、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄、鉄アセチルアセトナト等の鉄化合物、タングステン酸アンモニウムなどのタングステン化合物などが挙げられる。
【0051】
塩基性化合物及び/又は遷移金属化合物の使用量は、特に制限されないが、例えば、酸化反応後の反応混合物全量に対して0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%程度であってもよい。また、塩基性化合物又は遷移金属化合物の使用量は、イミド化合物触媒の仕込量に対して0.1〜2000重量%、好ましくは0.5〜1000重量%、さらに好ましくは2〜500重量%程度であってもよい。なお、遷移金属化合物(特に、鉄(III)アセチルアセトナト)は、少量であっても、副反応生成物の分解を促進させることができ、一方、塩基性化合物(特に、トリエチルアミン)は、通常、前記例示の使用量中多いほど副反応生成物の分解効果が高まる場合がある。
【0052】
なお、上記加熱処理等による副反応生成物の分解により生成した化合物(分解生成物)におけるイミド化合物の誘導体としては、例えば、下記式(5)で表されるN−置換又は無置換環状イミド化合物、下記式(6)で表される環状酸無水物、及びこれらの開環誘導体などが挙げられる。
【化7】
(式中、Raは水素原子又は置換オキシ基を示す。n及びR1〜R6は前記に同じ)
【0053】
上記式(5)中、Raにおける置換オキシ基としては、例えば、基質としてのバレンセンに対応する炭化水素基置換オキシ基などが挙げられる。また、前記イミド化合物触媒として、例えばN−ヒドロキシフタルイミドを用いた場合には、フタルイミド(式(5)においてRaが水素原子である化合物)、基質に対応するN−置換オキシフタルイミド(式(5)においてRaが置換オキシ基である化合物)、無水フタル酸(式(6)の化合物)、及びこれらの開環誘導体が生成しうる。
【0054】
なお、このようなイミド化合物の誘導体は、副反応生成物の分解以外にも、触媒としてのイミド化合物の変質により生成する場合がある。
【0055】
この加熱処理により、ヌートカトンの収率を高めることができると共に、イミド化合物及びその誘導体を、次の抽出処理により高い回収率で容易に分離することができる。
【0056】
また、加熱処理工程(A)後に、混合物中に析出した不溶物を除去する濾過工程を設けてもよい。濾過は慣用の方法により行うことができる。
【0057】
[抽出工程(B)]
抽出工程(B)では、加熱処理後の混合物からヌートカトンを抽出する。なお、抽出工程(B)前に、加熱処理後の混合物から溶媒を留去する濃縮工程を設けてもよい。濃縮は、1又は複数の蒸発器又は蒸留塔を用いて行うことができる。抽出を行う方法には、互いに分液可能な2種の有機溶媒を用いて抽出操作を行い、酸化反応生成物としてのヌートカトンを一方の有機溶媒層に、イミド化合物触媒又はその誘導体を他方の有機溶媒層にそれぞれ分配する方法が利用される。
【0058】
前記互いに分液可能な2種の有機溶媒の組み合わせとしては、非極性有機溶媒と極性有機溶媒との組み合わせが挙げられる。非極性有機溶媒には、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素等が含まれる。極性有機溶媒には、例えば、ニトリル、アルコール、ケトン、エステル、酸無水物、カルボン酸、アミド、アミン、含窒素複素環化合物、エーテル、スルホキシド、スルホン、ニトロアルカン等が含まれる。これらの溶媒はそれぞれ単独で使用してもよく、同種又は異種の溶媒を2以上混合して使用してもよい。なお、極性有機溶媒には水が含まれていてもよい。
【0059】
前記脂肪族炭化水素としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、2−メチルヘキサン、2−エチルヘキサン等の炭素数5〜15(好ましくは、炭素数5〜12)程度の脂肪族炭化水素などが挙げられる。前記脂環式炭化水素としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の炭素数5〜15(好ましくは、炭素数5〜12)程度の脂環式炭化水素などが挙げられる。
【0060】
前記ニトリルには、アセトニトリル等が含まれる。アルコールには、メタノール、エタノール、エチレングリコール等が含まれる。ケトンとしては、アセトン等が例示できる。エステルとしては、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル等が含まれる。酸無水物としては、無水酢酸などが挙げられる。カルボン酸には、ギ酸、酢酸等が含まれる。アミドとしては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。アミンには、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン等が含まれる。含窒素複素環化合物としては、ピリジン等が挙げられる。エーテルには、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテルなどが含まれる。スルホキシドとしては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。スルホンとしては、スルホラン等が挙げられる。ニトロアルカンとしては、ニトロメタン等が例示される。
【0061】
分液可能な2種の有機溶媒の組み合わせの具体例として、例えば、ヘキサン−アセトニトリル、シクロヘキサン−アセトニトリル等の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素とアセトニトリルとの組み合わせ;ヘキサン−メタノール、シクロヘキサン−メタノール、メチルシクロヘキサン−メタノール等の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素とメタノールとの組み合わせ;オクタン−アセトン等の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素とアセトンとの組み合わせ;シクロヘキサン−無水酢酸等の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素と無水酢酸との組み合わせなどが挙げられる。
【0062】
抽出は、前記加熱処理後の混合物に、前記2種の有機溶媒を加え、攪拌等により混合した後、分液させることにより行うことができる。抽出による有機溶媒を反応溶媒として用いた場合には、その反応溶媒をそのまま抽出に利用することができる。前記2種の有機溶媒の割合は、イミド化合物触媒やその誘導体の種類などに応じて適当に選択できる。
【0063】
この抽出処理により、ヌートカトン(酸化反応生成物)は非極性有機溶媒層に、イミド化合物触媒及びその誘導体は極性有機溶媒層にそれぞれ移行し、ヌートカトンと、イミド化合物触媒及びその誘導体とを分離できる。
【0064】
本発明では、溶媒による抽出は、バッチ式、連続式等の何れの方法でもよく、必要に応じて多段で行ってもよい。抽出温度は抽出効率等を考慮して適宜設定できる。また、抽出の際には、必要に応じて抽出効率を高めるため、剪断力を作用させてもよく、常圧又は加圧下で抽出してもよい。なお、未反応原料(バレンセン)や助触媒は、それぞれの特性に応じて、非極性有機溶媒層、又は極性有機溶媒層に分配される。
【0065】
[塩基性溶液洗浄工程(C)]
塩基性溶液洗浄工程(C)では、前記抽出工程(B)で得られたヌートカトンを含む抽出物を塩基性溶液で洗浄する。なお、塩基性溶液洗浄工程(C)と蒸留工程(D)とはその順序を問わず、何れの工程を先に設けてもよい。塩基性溶液洗浄は、塩基性溶液により、ヌートカトンを含む抽出物中になお存在するイミド化合物及びその誘導体を塩にして除去する工程であって、水性溶媒と塩基からなる塩基性溶液とこの水性溶媒に対して分液可能な非水溶性溶媒(疎水性溶媒)とを用いて抽出操作を行い、ヌートカトンを疎水性溶媒層へ、イミド化合物及びその誘導体を水性溶媒層へ移行させる方法により行われる。
【0066】
水性溶媒としては、例えば、メタノールなどのC1−2アルコール類、アセトンなどのケトン類、ジオキサン又はテトラヒドロフランなどのエーテル類などの水溶性有機溶媒、及び水;これらの混合溶媒などが挙げられる。なかでも、水が好ましく用いられる。
【0067】
塩基としては、無機塩基(例えば、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩など)、有機塩基(例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メチレンジアミン、エチレンジアミンなどのアミン類の他、ピリジン等の塩基性含窒素複素環化合物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)などが挙げられる。好ましくは、無機塩基が用いられ、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物がより好ましく用いられる。
【0068】
前記水性溶媒と組み合わせて抽出に用いられる疎水性溶媒としては、前記水性溶媒に対して分液可能であればよく、例えば、炭化水素類(例えば、脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類など)、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトロ化合物、ニトリル類、エーテル類、これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0069】
前記脂肪族炭化水素類や脂環式炭化水素類としては、前記例示の化合物(ヘキサンなどの炭素数5〜15の脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの炭素数5〜15の脂環式炭化水素など)を利用できる。芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの炭素数6〜12の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0070】
アルコール類には、例えば、ブタノール、ヘキサノールなどの炭素数4〜15の脂肪族アルコール;シクロヘキサノールなどの炭素数5〜15の脂環式アルコール;ベンジルアルコールなどの炭素数6〜12の芳香族アルコールなどが含まれる。ケトン類としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの炭素数4〜15の脂肪族ケトン;シクロヘキサノンなどの炭素数5〜15程度の環状ケトンなどが挙げられる。エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸2−エチルヘキシルなどのC2−10脂肪族カルボン酸−C1−10アルキルエステル;酢酸シクロヘキシルなどのC2−4脂肪族カルボン酸−C5−10シクロアルキルエステル;酢酸フェニルなどのアリールエステル;安息香酸メチルなどのC7−12芳香族カルボン酸−C1−10アルキルエステルなどが挙げられる。ニトロ化合物として、ニトロエタンなどの脂肪族ニトロ化合物;ニトロベンゼンなどの芳香族ニトロ化合物などが挙げられる。ニトリル類には、ベンゾニトリルなどのC7−12芳香族ニトリル類などが含まれる。エーテル類には、t−ブチルメチルエーテル、アニソールなどが含まれる。好ましい非水溶性溶媒には、炭化水素類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、エーテル類が含まれる。なかでも、炭素数5〜15の炭化水素類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンなど)、炭素数4〜15のケトン類(例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど)、炭素数3〜20のエステル化合物(例えば、酢酸エチル、酢酸フェニル、安息香酸メチルなど)、炭素数7〜12のニトリル類(例えば、ベンゾニトリルなど)、炭素数4〜12のエーテル類が好ましい。
【0071】
塩基性溶液洗浄は、抽出工程(B)後のヌートカトンを含む抽出物に、前記塩基性溶液と疎水性溶媒とを加え、攪拌等により混合した後、分液させることにより行うことができる。前記抽出物の溶媒が疎水性溶媒である場合には、その溶媒をそのまま塩基性溶液洗浄に利用することができる。この場合、前記抽出物の溶液量が少ない場合には、希釈溶媒として疎水性溶媒を添加することにより、例えばヌートカトン含有量が50重量%以下の溶液として塩基性溶液洗浄するのが好ましい。
【0072】
塩基性溶液洗浄に付す抽出物は、該抽出物の処理物であってもよく、例えば、該抽出物から溶媒を留去した濃縮液、該抽出物を蒸留した留出液などであってもよい。
【0073】
塩基性溶液の濃度は、例えば0.01〜50重量%、好ましくは1〜10重量%程度である。塩基性溶液の使用量は、疎水性溶媒(抽出物を含む)100重量部に対して、例えば5〜100重量部、好ましくは8〜50重量部程度である。塩基性溶液洗浄は、例えば0〜80℃、好ましくは15〜60℃程度の温度で行われる。なお、系内のpHは、イミド化合物及びその誘導体の種類により広い範囲で適宜選択できる。
【0074】
この塩基性溶液洗浄により、ヌートカトンは疎水性溶媒層に、イミド化合物触媒及びその誘導体は塩となって水性溶媒層にそれぞれ移行し、抽出物に残存するイミド化合物及びその誘導体を除去することができる。
【0075】
なお、塩基性溶液洗浄工程(C)で得られた処理液に対して、該処理液の溶媒を留去する濃縮工程を設けてもよい。濃縮は、1又は複数の蒸発器又は蒸留塔を用いて行うことができる。
【0076】
[水洗工程]
水洗工程は、塩基性溶液洗浄工程(C)後に設けて混合物の液性を調整したり、抽出工程(B)後に設けて非極性有機溶媒からなる抽出液に混入した極性有機溶媒を除去するなどの目的に利用される。水洗は、水又は塩化ナトリウムなどの塩を含む水溶液を用いて分液させることにより行われる。塩水溶液を用いることにより、分液速度を早めたり、2層の分離効果を高めることができる。塩水溶液の濃度は、例えば0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%程度である。20重量%を超えると、水洗工程後、混合物を濃縮する際に塩が析出してしまう。このため、より低濃度の塩水溶液を用いるのが好ましい。
【0077】
水洗は、各工程で得られた処理物に水又は塩水溶液を加え、攪拌等により混合した後、分液することにより行われる。水洗は、繰り返し行われてもよい。例えば、塩基性溶液洗浄工程(C)後に液性の調整を目的として水洗工程を設けた場合には、水洗の反復回数によって混合物のpHを調整する(所定の値まで下げる)ことができる。
【0078】
水又は塩水溶液の使用量は、前記処理物(供給混合物)100重量部に対して、例えば5〜100重量部、好ましくは8〜50重量部程度である。処理温度は、例えば0〜80℃、好ましくは15〜60℃程度である。
【0079】
[蒸留工程(D)]
前記抽出工程(B)における非極性有機溶媒層又は塩基性溶液洗浄工程(C)における疎水性有機溶媒層には、ヌートカトンが移行しており、バレンセンやヌートカトンとイミド化合物触媒との反応物である副反応生成物はほとんど含まれていない。また、イミド化合物及びその誘導体の割合も低い。そのため、該有機溶媒層に対して蒸留操作を行うことにより、目的化合物としてのヌートカトンをより一層高い純度で回収することができる。
【0080】
蒸留は、蒸留塔などの慣用の蒸留装置を用いて行われる。蒸留条件は、例えば圧力1〜2000Pa程度である。
【0081】
なお、前述のように、前記副反応生成物を予め加熱により分解せずに[加熱処理工程(A)前に]、ヌートカトンを分離精製するために蒸留すると、蒸留時の熱により副反応生成物が分解し、該分解により生成した化合物のうちイミド化合物及びその誘導体がヌートカトンとともに蒸留されるので、留出液中におけるヌートカトンの純度が低下する。さらに、蒸留工程(D)後に、触媒としてのイミド化合物を分離するために抽出する場合には[抽出工程(B)]、イミド化合物の回収割合が低下する。
【0082】
上記の理由により、本発明における蒸留工程(D)は、少なくとも加熱処理工程(A)及び抽出工程(B)より後に設けられる。蒸留工程(D)への供給液中にバレンセンやヌートカトンとイミド化合物の付加体が残存している場合には、例えば単蒸留を行うことにより、該付加体を分解できると共に高沸成分を分離除去できる。また、前記供給液中にイミド化合物触媒及びその誘導体を多く含んでいる場合には、蒸留工程(D)前に塩基性溶液洗浄工程(C)を設けることにより、前記触媒などを除去することができる。
【0083】
蒸留工程(D)は、上記処理工程の最終工程として設けるのが好ましい。なお、得られた留出液中に触媒が含まれている場合には、その後に前記塩基性溶液洗浄工程(C)を設けてもよい。最終工程として加熱を要する蒸留を行う場合には、副反応生成物はほとんど又は全く含まれていないので、処理液中にイミド化合物やその誘導体が生成せず、ヌートカトンをより一層高い純度で分離して回収することができる。
【0084】
上記の工程の他、各工程の間に濃縮、希釈、濾過、水洗などの工程を適宜設けてもよい。
【発明の効果】
本発明の方法によれば、N−ヒドロキシフタルイミドなどのイミド化合物触媒を用いたバレンセンの酸化反応終了後、副反応生成物を容易に分解でき、さらに分解により生成したイミド化合物触媒などを効率よく除去できるため、ヌートカトンを高い純度で効率よく得ることができる。
【0085】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
[酸化反応工程]
反応器に、バレンセン688.4g(3.37mol)、N−ヒドロキシフタルイミド(NHPI)110.3g(676mmol)、コバルト(III)アセチルアセトナト24.1g(67.7mmol)、酢酸コバルト(II)4水和物8.5g(34mmol)、硝酸コバルト(II)6水和物9.9g(34mmol)及び溶媒としてのアセトニトリル6057gの混合物を仕込み、空気を126L(標準状態)/hrで流通し、攪拌しながら、圧力13kgf/cm2(=1.3MPa)の条件下、40℃で3時間反応させた。反応混合物中の生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ヌートカトンが選択率62%、ヌートカトールが選択率8%で生成していた。バレンセンの転化率は99%であった。
一方、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、仕込んだNHPI(676mmol)に対して、酸化反応後、系内に残存しているNHPI及びその誘導体からなる触媒成分の割合は、NHPIが2mol%、NHPIの誘導体(失活したNHPI)が98mol%であった。NHPIの誘導体の構成成分の割合は、仕込んだNHPIに対して、フタル酸が2mol%、フタルイミドが4mol%であった。従って、他の92mol%(622mmol)は、原料成分又は反応生成物(バレンセン、ヌートカトール、ヌートカトン)との付加物であると推察される。
【0086】
[加熱処理工程]
反応器に、前記反応混合物(反応液)6815g、トリエチルアミン342.3g、モリブデン酸アンモニウム4水和物20.50g及び鉄(III)アセチルアセトナト6.83gを加え、窒素雰囲気下、攪拌しながら140℃で3時間加熱した。
加熱処理後の反応液に残存している触媒成分の割合は、仕込んだNHPIに対して、フタルイミドが48mol%、フタル酸が45mol%であった。従って、加熱処理によって増加した触媒成分の割合は、仕込んだNHPIに対してフタルイミドが44mol%、フタル酸が43mol%となる。
【0087】
[抽出工程]
前記加熱処理した反応液7060gを濾過して反応液中に生じた不溶解物を除去した。得られた濾液を蒸発器に仕込み、110℃で全重量が30%になるまで濃縮し(留出率70%)、その濃縮液に2重量倍のシクロヘキサンを加え、15分攪拌後15分静置し、ヌートカトンをシクロヘキサン層(上層)へ抽出した。この抽出操作を計4回繰り返した。全抽出液を蒸発器に仕込み、110℃で全重量が20%になるまで濃縮した(留出率80%)。
【0088】
[塩基性溶液洗浄工程]
得られた濃縮液に1重量倍の10重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、15分攪拌後15分静置し、残存するN−ヒドロキシフタルイミド、フタル酸、及びフタルイミドを水層(下層)へ除去した。抽出したシクロヘキサン層(上層)に1重量倍の0.5重量%塩化ナトリウム水溶液を加え、15分攪拌後15分静置し、分液させた。この水洗操作を計2回繰り返すことにより、シクロヘキサン層のpHを9未満に下げた。シクロヘキサン層(上層)を蒸発器に仕込み、110℃で全重量が15%になるまで濃縮した。
[蒸留工程]
得られた濃縮液を単蒸留装置に仕込み、留出温度60〜170℃、圧力1Torr(133Pa)の条件で全重量の90%を留出させ、ヌートカトンを含む留出液454gを得た。該留出液は、残存する付加体が単蒸留の際の熱により分解されて生成したと考えられるフタルイミドを0.40g含有していた。
【0089】
[塩基性溶液洗浄工程]
前記留出液に希釈溶媒としてシクロヘキサンを6重量倍加え、この希釈留出液に1重量倍の10重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、15分攪拌後15分静置し、残存するフタルイミドを水層(下層)へ除去した。抽出したシクロヘキサン層(上層)に1重量倍の0.5重量%塩化ナトリウム水溶液を加え、15分攪拌後15分静置し、分液させた。この水洗操作を計3回繰り返すことにより、シクロヘキサン層のpHを8未満に下げた。シクロヘキサン層(上層)を蒸発器に仕込み、110℃で全重量が14%になるまで濃縮したところ、ヌートカトン含有率64%の粗精製液が463g、精製収率95%で得られた。
【0090】
[蒸留工程]
得られた粗精製液を理論段数10段の蒸留塔に仕込み、バス温度220℃、圧力1Torr(133Pa)の条件で蒸留したところ、含有率85%のヌートカトン製品が279g得られた。
得られたヌートカトン製品を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、フタル酸、フタルイミド、無水フタル酸、金属などの触媒類は検出限界(2ppm)以下であった。
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の構造のイミド化合物を含む触媒の存在下、バレンセンと酸素とを反応させてヌートカトンを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヌートカトンは香料の原料であり、フレーバーやフレグランスとして幅広く使用されている極めて有用な化合物として知られている。
【0003】
ヌートカトンは、天然物として得られるほか、バレンセンを原料にして合成されており、その合成方法はいくつか知られている。例えば、イミド化合物触媒の存在下で反応して得られる反応混合物から、反応生成物と触媒やその変質体を分離するに際して、互いに分液可能な2種の有機溶媒を抽出溶媒として用い反応生成物を一方の有機溶媒層へ、イミド化合物触媒やその変質体を他方の有機溶媒層へ移行させることにより分離する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、より高純度のヌートカトンを効率よく得る方法が求められていた。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−145807号公報(第11〜12頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、バレンセンから高品質のヌートカトンを効率よく製造する方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、バレンセンと酸素とをイミド化合物触媒の存在下で反応させた後、特定の工程を設けることにより、バレンセンや反応生成物であるヌートカトンと前記触媒との副反応生成物を効果的に分解できるとともに、イミド化合物触媒及びその誘導体を容易に除去することができ、高い純度のヌートカトンを効率よく得られることを見い出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記式(I)
【化2】
[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される環状イミド骨格を有するイミド化合物を含む触媒の存在下、バレンセンと酸素とを反応させてヌートカトンを製造する方法であって、(A)酸化反応混合物を加熱して副反応生成物を分解させる加熱処理工程、(B)加熱処理後の混合物からヌートカトンを抽出する抽出工程、(C)抽出工程後のヌートカトンを含む混合物を塩基性溶液で洗浄する塩基性溶液洗浄工程、及び(D)抽出工程後のヌートカトンを含む混合物を蒸留に付してヌートカトンを回収する蒸留工程を含むヌートカトンの製造方法を提供する。
【0008】
本発明のヌートカトンの製造方法では、加熱処理工程(A)後に、混合物中に析出した不溶物を除去する濾過工程を設けてもよく、抽出工程(B)前に、加熱処理後の混合物から溶媒を留去する濃縮工程を設けてもよい。また、塩基性溶液洗浄工程(C)で得られた処理液から溶媒を留去する濃縮工程や該処理液を水で洗浄する水洗工程を設けてもよい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明では、前記式(I)で表される環状イミド骨格を有するイミド化合物を含む触媒の存在下、バレンセンと酸素とを反応させて、ヌートカトンを生成させる。
[イミド化合物]
式(I)において、窒素原子とXとの結合は単結合又は二重結合である。前記イミド化合物は、分子中に、式(I)で表されるN−置換環状イミド骨格を複数個有していてもよい。また、このイミド化合物は、前記Xが−OR基であり且つRがヒドロキシル基の保護基である場合、N−置換環状イミド骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合していてもよい。
【0010】
式(I)中、Rで示されるヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用のヒドロキシル基の保護基を用いることができる。このような保護基として、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1−4アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、3−ブロモベンジル、2−ニトロベンジル、トリフェニルメチル基など);置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、ビス(2−クロロエトキシ)メチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル、1−イソプロポキシエチル、2,2,2−トリクロロエチル、2−メトキシエチル基など)、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1−ヒドロキシアルキル基(例えば、1−ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシヘキシル、1−ヒドロキシデシル、1−ヒドロキシヘキサデシル、1−ヒドロキシ−1−フェニルメチル基など)等のヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基など;アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1−20脂肪族アシル基等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基など)、スルホニル基(メタンスルホニル、エタンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、ナフタレンスルホニル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイル基など)、無機酸(硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸など)からOH基を除した基、ジアルキルホスフィノチオイル基(例えば、ジメチルホスフィノチオイル基など)、ジアリールホスフィノチオイル基(例えば、ジフェニルホスフィノチオイル基など)、置換シリル基(例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリベンジルシリル、トリフェニルシリル基など)などが挙げられる。
【0011】
また、Xが−OR基である場合において、N−置換環状イミド骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合する場合、該Rとして、例えば、オキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル、アジポイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイル基などのポリカルボン酸アシル基;カルボニル基;メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ベンジリデン基などの多価の炭化水素基(特に、2つのヒドロキシル基とアセタール結合を形成する基)などが挙げられる。
【0012】
好ましいRには、例えば、水素原子;ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;カルボン酸、スルホン酸、炭酸、カルバミン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸などの酸からOH基を除した基(アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基等)などの加水分解により脱離可能な加水分解性保護基などが含まれる。
【0013】
式(I)において、nは0又は1を示す。すなわち、式(I)は、nが0の場合は5員のN−置換環状イミド骨格を表し、nが1の場合は6員のN−置換環状イミド骨格を表す。
【0014】
前記イミド化合物の代表的な例として、下記式(1)で表されるイミド化合物が挙げられる。
【化3】
[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す。R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示し、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよい。前記R1、R2、R3、R4、R5、R6、又はR1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、上記式(1)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい]
【0015】
前記式(1)で表されるイミド化合物において、置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうちハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素原子が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれる。
【0016】
アリール基には、フェニル、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが含まれる。アルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシオクタデシルオキシ基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)のアルコキシ基が含まれる。
【0017】
置換オキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、ヘプチルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル、テトラデシルオキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル、オクタデシルオキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基(特に、C1−30アルコキシ−カルボニル基);シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル基などのシクロアルキルオキシカルボニル基(特に、3〜20員シクロアルキルオキシカルボニル基);フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル基などのアリールオキシカルボニル基(特に、C6−20アリールオキシ−カルボニル基);ベンジルオキシカルボニル基などのアラルキルオキシカルボニル基(特に、C7−21アラルキルオキシ−カルボニル基)などが挙げられる。
【0018】
アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1−30脂肪族アシル基(特に、C1−20脂肪族アシル基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基などが例示できる。
【0019】
アシルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、バレリルオキシ、ピバロイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、ヘプタノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ノナノイルオキシ、デカノイルオキシ、ラウロイルオキシ、ミリストイルオキシ、パルミトイルオキシ、ステアロイルオキシ基などのC1−30脂肪族アシルオキシ基(特に、C1−20脂肪族アシルオキシ基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基;アセトアセチルオキシ基;シクロペンタンカルボニルオキシ、シクロヘキサンカルボニルオキシ基などのシクロアルカンカルボニルオキシ基等の脂環式アシルオキシ基;ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ基などの芳香族アシルオキシ基などが例示できる。
【0020】
前記置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、二重結合、または芳香族性又は非芳香属性の環を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環は5〜12員環、特に6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。このような環には、例えば、非芳香族性脂環式環(シクロヘキサン環などの置換基を有していてもよいシクロアルカン環、シクロヘキセン環などの置換基を有していてもよいシクロアルケン環など)、非芳香族性橋かけ環(5−ノルボルネン環などの置換基を有していてもよい橋かけ式炭化水素環など)、ベンゼン環、ナフタレン環などの置換基を有していてもよい芳香族環(縮合環を含む)が含まれる。前記環は、芳香族環で構成される場合が多い。前記環は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0021】
前記R1、R2、R3、R4、R5及びR6、又はR1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、上記式(1)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい。例えば、R1、R2、R3、R4、R5又はR6が炭素数2以上のアルキル基である場合、このアルキル基を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。また、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して二重結合を形成する場合、該二重結合を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。さらに、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成する場合、該環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。
【0022】
好ましいイミド化合物には、下記式で表される化合物が含まれる。
【化4】
(式中、R11〜R16は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。R17〜R26は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子を示す。Aはメチレン基又は酸素原子を示す。R17〜R26は、隣接する基同士が結合して、式(1c)、(1d)、(1e)、(1f)、(1h)又は(1i)中に示される5員又は6員のN−置換環状イミド骨格を形成していてもよい。Xは前記に同じ)
【0023】
置換基R11〜R16におけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、前記R1〜R6における対応する基と同様のものが例示される。
【0024】
置換基R17〜R26において、アルキル基には、前記例示のアルキル基と同様のアルキル基、特に炭素数1〜6のアルキル基が含まれ、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などの炭素数1〜4程度のハロアルキル基、アルコキシ基には、前記と同様のアルコキシ基、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基、置換オキシカルボニル基には、前記と同様の置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)が含まれる。また、アシル基としては前記と同様のアシル基(脂肪族飽和又は不飽和アシル基、アセトアセチル基、脂環式アシル基、芳香族アシル基等)などが例示され、アシルオキシ基としては前記と同様のアシルオキシ基(脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基、アセトアセチルオキシ基、脂環式アシルオキシ基、芳香族アシルオキシ基等)などが例示される。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示できる。置換基R17〜R26は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。
【0025】
好ましいイミド化合物のうち5員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α−メチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α,β,β−テトラメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、α,β−ジアセトキシ−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(バレリルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(ラウロイルオキシ)コハク酸イミド、α,β−ビス(ベンゾイルオキシ)−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−4−メトキシカルボニルフタル酸イミド、4−エトキシカルボニル−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−ペンチルオキシカルボニルフタル酸イミド、4−ドデシルオキシ−N−ヒドロキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−フェノキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(メトキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(エトキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(ペンチルオキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(ドデシルオキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(フェノキシカルボニル)フタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシフタル酸イミド、N−(2−メトキシエトキシメチルオキシ)フタル酸イミド、N−テトラヒドロピラニルオキシフタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシフタル酸イミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシフタル酸イミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0026】
好ましいイミド化合物のうち6員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−β,β−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−デカリンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−デカリンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド(N−ヒドロキシナフタル酸イミド)、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メトキシメチルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メタンスルホニルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド又はN,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0027】
前記イミド化合物のうち、Xが−OR基で且つRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により得ることができる。また、前記イミド化合物のうち、Xが−OR基で且つRがヒドロキシル基の保護基である化合物は、対応するRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)に、慣用の保護基導入反応を利用して、所望の保護基を導入することにより調製することができる。例えば、N−アセトキシフタル酸イミドは、N−ヒドロキシフタル酸イミドに無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。また、これ以外の方法で製造することも可能である。
【0028】
特に好ましいイミド化合物は、脂肪族多価カルボン酸無水物又は芳香族多価カルボン酸無水物から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなど);及び該N−ヒドロキシ環状イミド化合物のヒドロキシル基に保護基を導入することにより得られる化合物などが含まれる。
【0029】
式(I)で表されるN−置換環状イミド骨格を有するイミド化合物は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。前記イミド化合物は反応系内で生成させてもよい。
【0030】
前記イミド化合物触媒の使用量は、バレンセン1モルに対して、例えば0.0000001〜1モル、好ましくは0.00001〜0.5モル、さらに好ましくは0.0001〜0.4モル程度であり、0.001〜0.35モル程度である場合が多い。
【0031】
[助触媒]
前記イミド化合物は助触媒とともに使用することもできる。助触媒として、例えば特開平9−327626号公報にイミド化合物触媒の助触媒として記載されているものなどを使用できる。好ましい助触媒として、バナジウム化合物(例えば、バナジウムアセチルアセトナト、バナジルアセチルアセトナトなど)、コバルト化合物(例えば、酢酸コバルト、コバルトアセチルアセトナト、硝酸コバルトなど)、マンガン化合物(例えば、酢酸マンガン、マンガンアセチルアセトナト、硝酸マンガンなど)、周期表1族又は2族の金属元素化合物等の金属化合物;有機オニウム塩などが挙げられる。これらの助触媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。また、反応系内にラジカル開始剤やラジカル反応促進剤、酸化剤など初期活性化剤を添加してもよい。
【0032】
[バレンセン(基質)]
バレンセンは、市販のもの、又は慣用の方法で合成されたものであってもよい。
【0033】
[酸素]
酸化に利用される酸素としては、発生期の酸素であってもよいが、分子状酸素を用いるのが好ましい。分子状酸素は純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気を用いることもできる。酸素の使用量は、バレンセン1モルに対して0.5モル以上(例えば、1モル以上)、好ましくは1〜100モル、さらに好ましくは2〜50モル程度である。バレンセンに対して過剰モルの酸素を使用する場合が多い。
【0034】
[反応]
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;これらの混合溶媒などが挙げられる。溶媒としては、酢酸などの有機酸類、アセトニトリルやベンゾニトリルなどのニトリル類、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類などを用いる場合が多い。
【0035】
なお、本発明では、前記イミド化合物触媒を、反応系に逐次添加することができる。前記イミド化合物触媒を反応系に逐次添加すると、反応系に一括添加した場合と比較して、バレンセンの転化率が向上したり、副反応が抑制されて目的化合物としてのヌートカトンの選択率が向上する。また、基質濃度が高い場合に触媒活性が損なわれることがあるが、イミド化合物触媒を逐次添加することにより反応が円滑に進行し、ヌートカトンを高い収率で得ることができる。
【0036】
前記イミド化合物触媒は系内にそのまま添加してもよいが、適当な溶媒に溶解若しくは分散させて添加することもできる。また、イミド化合物触媒は系内に連続的に添加してもよく、間欠的に添加してもよい。なお、前記助触媒も反応系に逐次的に添加してもよい。
【0037】
反応温度は、例えば0〜300℃、好ましくは10〜250℃、さらに好ましくは20〜200℃程度である。反応は常圧または加圧下で行うことができ、加圧下で反応させる場合には、通常、0.1〜20MPa(例えば、0.15〜12MPa)程度である。
【0038】
本発明では、反応は回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。
【0039】
[ヌートカトン(反応生成物)]
本発明では、バレンセンの酸化反応生成物としてヌートカトンが生成する。本発明の方法において、反応機構は必ずしも明らかではないが、反応の過程で酸化活性種[例えば、イミドN−オキシラジカル(>NO・)]が生成し、これがバレンセンから水素を引き抜いて、不飽和結合の隣接位の炭素原子にラジカルを生成させ、このようにして生成したラジカルが酸素と反応して、ヌートカトンが生成するものと推測される。
【0040】
[副反応]
このようなイミド化合物を含む触媒を用いた酸素酸化反応においては、基質としてのバレンセンや酸化反応生成物としてのヌートカトンとイミド化合物との副反応が生じる場合がある。
【0041】
具体的には、バレンセンやヌートカトンは、末端二重結合を有するイソプロペニル基(1−メチルエテニル基)を有しており、該イソプロペニル基が、イミド化合物及び酸素と反応する下記の反応式(2)で示されるような副反応が生じる場合がある。
【化5】
(式中、nは0又は1を示す)
【0042】
より具体的には、例えば、バレンセンは、イミド化合物及び酸素との反応により、前記反応式(2)で表されるような反応が生じて、下記式(3)で表される化合物を、ヌートカトンは下記式(4)で表される化合物をそれぞれ副反応生成物として生成する場合がある。
【化6】
(式中、nは0又は1を示す)
【0043】
[加熱処理工程(A)]
加熱処理工程(A)では、酸化反応混合物を加熱して副反応生成物を分解させる。前記酸化反応混合物には、酸化反応の反応液そのもの、希釈、濃縮、溶媒交換、抽出処理等を施したものなどが含まれる。該抽出処理は、後述のヌートカトンを回収する抽出工程(B)と同様に行うことができる。
【0044】
具体的には、前記反応式(2)に示される副反応による副反応生成物(たとえば、前記式(3)及び(4)など)は、加熱により、元のイミド化合物やイミド化合物の誘導体(例えば、イミド化合物が5員のN−置換環状イミド骨格を有するイミド化合物である場合には、フタル酸、フタルイミドなどの該イミド化合物に由来する化合物など)の他、バレンセンやヌートカトンに由来する化合物などに分解することができる。
【0045】
前記副反応生成物を分解するための加熱温度としては、副反応生成物及びイミド化合物などの種類等に応じて適宜選択することができ、例えば、80℃以上であってもよい。本発明では、前記加熱温度としては、例えば80〜200℃、好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは110〜170℃程度の範囲から選択することができる。
【0046】
本発明では、加熱による副反応生成物の分解を、塩基性化合物及び/又は遷移金属化合物の存在下で行うと、副反応生成物の分解を促進することができる。すなわち、塩基性化合物及び/又は遷移金属化合物の添加により、加熱温度を低減しても、副反応生成物の分解を効果的に行うことができる。塩基性化合物としては、塩基性を示す化合物であれば特に制限されず、塩基性無機化合物、塩基性有機化合物のいずれであってもよい。また、塩基性化合物はルイス塩基であってもよい。塩基性化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
塩基性無機化合物には、例えば、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩などが含まれる。また、塩基性有機化合物としては、アミン、ピリジン等の塩基性含窒素複素環化合物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。前記塩基性有機化合物としてのアミンとしては、特に制限されず、脂肪族アミン、芳香族アミン、環状アミンの何れであってもよい。脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミンなどのモノアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミンなどのジアルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン;メタノールアミン、エタノールアミンなどのモノアルコールアミン;ジメタノールアミン、ジエタノールアミンなどのジアルコールアミン;トリメタノールアミン、トリエタノールアミンなどのトリアルコールアミンなどの他、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,2−ジアミノエタン(TMEDA)などが挙げられる。芳香族アミンには、例えば、N,N−ジメチルアニリンなどが含まれる。また、環状アミンとしては、例えば、モルホルリン、ピペリジン、プロリジンなどが挙げられる。
【0048】
遷移金属化合物としては、周期表3〜11属元素から選択された少なくとも一種の遷移金属元素から構成された遷移金属化合物を用いることができる。遷移金属化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。具体的には、遷移金属化合物を構成する遷移金属元素としては、例えば、周期表3族元素(Sc、Yなど)、4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、5族元素(V、Nb、Taなど)、6族元素(Cr、Mo、Wなど)、7族元素(Mn、Tc、Reなど)、8族元素(Fe、Ru、Osなど)、9族元素(Co、Rh、Irなど)、10族元素(Ni、Pd、Ptなど)、11族元素(Cu、Ag、Auなど)などが挙げられる。好ましい遷移金属元素には、5〜9族元素が含まれ、特にV等の5族元素、Mo、W等の6族元素、Fe等の8族元素が好ましい。
【0049】
遷移金属化合物としては、前記遷移金属元素の単体、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)、イソポリ酸やヘテロポリ酸等のポリ酸又はその塩などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物などが挙げられる。前記錯体を構成する配位子としては、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、アシル(アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、アセチルアセトナト、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、H2O(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH3(アンミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。
【0050】
遷移金属化合物の具体例としては、例えば、モリブデン化合物を例にとると、酸化モリブデン、モリブデン酸又はその塩(例えば、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウムなど)、リンモリブデン酸、2−エチルヘキサン酸モリブデン酸などが挙げられる。また、バナジウム化合物の例としては、酸化バナジウム(V2O5など)、塩化バナジウム、硫酸バナジウム、バナジン酸又はその塩(例えば、バナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウムなど)などの無機化合物;バナジウムアセチルアセトナト、バナジルアセチルアセトナトなどの錯体等の2〜5価のバナジウム化合物などが挙げられる。さらにまた、他の遷移金属化合物としては、前記モリブデン化合物やバナジウム化合物に対応する化合物、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄、鉄アセチルアセトナト等の鉄化合物、タングステン酸アンモニウムなどのタングステン化合物などが挙げられる。
【0051】
塩基性化合物及び/又は遷移金属化合物の使用量は、特に制限されないが、例えば、酸化反応後の反応混合物全量に対して0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%程度であってもよい。また、塩基性化合物又は遷移金属化合物の使用量は、イミド化合物触媒の仕込量に対して0.1〜2000重量%、好ましくは0.5〜1000重量%、さらに好ましくは2〜500重量%程度であってもよい。なお、遷移金属化合物(特に、鉄(III)アセチルアセトナト)は、少量であっても、副反応生成物の分解を促進させることができ、一方、塩基性化合物(特に、トリエチルアミン)は、通常、前記例示の使用量中多いほど副反応生成物の分解効果が高まる場合がある。
【0052】
なお、上記加熱処理等による副反応生成物の分解により生成した化合物(分解生成物)におけるイミド化合物の誘導体としては、例えば、下記式(5)で表されるN−置換又は無置換環状イミド化合物、下記式(6)で表される環状酸無水物、及びこれらの開環誘導体などが挙げられる。
【化7】
(式中、Raは水素原子又は置換オキシ基を示す。n及びR1〜R6は前記に同じ)
【0053】
上記式(5)中、Raにおける置換オキシ基としては、例えば、基質としてのバレンセンに対応する炭化水素基置換オキシ基などが挙げられる。また、前記イミド化合物触媒として、例えばN−ヒドロキシフタルイミドを用いた場合には、フタルイミド(式(5)においてRaが水素原子である化合物)、基質に対応するN−置換オキシフタルイミド(式(5)においてRaが置換オキシ基である化合物)、無水フタル酸(式(6)の化合物)、及びこれらの開環誘導体が生成しうる。
【0054】
なお、このようなイミド化合物の誘導体は、副反応生成物の分解以外にも、触媒としてのイミド化合物の変質により生成する場合がある。
【0055】
この加熱処理により、ヌートカトンの収率を高めることができると共に、イミド化合物及びその誘導体を、次の抽出処理により高い回収率で容易に分離することができる。
【0056】
また、加熱処理工程(A)後に、混合物中に析出した不溶物を除去する濾過工程を設けてもよい。濾過は慣用の方法により行うことができる。
【0057】
[抽出工程(B)]
抽出工程(B)では、加熱処理後の混合物からヌートカトンを抽出する。なお、抽出工程(B)前に、加熱処理後の混合物から溶媒を留去する濃縮工程を設けてもよい。濃縮は、1又は複数の蒸発器又は蒸留塔を用いて行うことができる。抽出を行う方法には、互いに分液可能な2種の有機溶媒を用いて抽出操作を行い、酸化反応生成物としてのヌートカトンを一方の有機溶媒層に、イミド化合物触媒又はその誘導体を他方の有機溶媒層にそれぞれ分配する方法が利用される。
【0058】
前記互いに分液可能な2種の有機溶媒の組み合わせとしては、非極性有機溶媒と極性有機溶媒との組み合わせが挙げられる。非極性有機溶媒には、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素等が含まれる。極性有機溶媒には、例えば、ニトリル、アルコール、ケトン、エステル、酸無水物、カルボン酸、アミド、アミン、含窒素複素環化合物、エーテル、スルホキシド、スルホン、ニトロアルカン等が含まれる。これらの溶媒はそれぞれ単独で使用してもよく、同種又は異種の溶媒を2以上混合して使用してもよい。なお、極性有機溶媒には水が含まれていてもよい。
【0059】
前記脂肪族炭化水素としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、2−メチルヘキサン、2−エチルヘキサン等の炭素数5〜15(好ましくは、炭素数5〜12)程度の脂肪族炭化水素などが挙げられる。前記脂環式炭化水素としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の炭素数5〜15(好ましくは、炭素数5〜12)程度の脂環式炭化水素などが挙げられる。
【0060】
前記ニトリルには、アセトニトリル等が含まれる。アルコールには、メタノール、エタノール、エチレングリコール等が含まれる。ケトンとしては、アセトン等が例示できる。エステルとしては、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル等が含まれる。酸無水物としては、無水酢酸などが挙げられる。カルボン酸には、ギ酸、酢酸等が含まれる。アミドとしては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。アミンには、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン等が含まれる。含窒素複素環化合物としては、ピリジン等が挙げられる。エーテルには、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテルなどが含まれる。スルホキシドとしては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。スルホンとしては、スルホラン等が挙げられる。ニトロアルカンとしては、ニトロメタン等が例示される。
【0061】
分液可能な2種の有機溶媒の組み合わせの具体例として、例えば、ヘキサン−アセトニトリル、シクロヘキサン−アセトニトリル等の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素とアセトニトリルとの組み合わせ;ヘキサン−メタノール、シクロヘキサン−メタノール、メチルシクロヘキサン−メタノール等の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素とメタノールとの組み合わせ;オクタン−アセトン等の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素とアセトンとの組み合わせ;シクロヘキサン−無水酢酸等の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素と無水酢酸との組み合わせなどが挙げられる。
【0062】
抽出は、前記加熱処理後の混合物に、前記2種の有機溶媒を加え、攪拌等により混合した後、分液させることにより行うことができる。抽出による有機溶媒を反応溶媒として用いた場合には、その反応溶媒をそのまま抽出に利用することができる。前記2種の有機溶媒の割合は、イミド化合物触媒やその誘導体の種類などに応じて適当に選択できる。
【0063】
この抽出処理により、ヌートカトン(酸化反応生成物)は非極性有機溶媒層に、イミド化合物触媒及びその誘導体は極性有機溶媒層にそれぞれ移行し、ヌートカトンと、イミド化合物触媒及びその誘導体とを分離できる。
【0064】
本発明では、溶媒による抽出は、バッチ式、連続式等の何れの方法でもよく、必要に応じて多段で行ってもよい。抽出温度は抽出効率等を考慮して適宜設定できる。また、抽出の際には、必要に応じて抽出効率を高めるため、剪断力を作用させてもよく、常圧又は加圧下で抽出してもよい。なお、未反応原料(バレンセン)や助触媒は、それぞれの特性に応じて、非極性有機溶媒層、又は極性有機溶媒層に分配される。
【0065】
[塩基性溶液洗浄工程(C)]
塩基性溶液洗浄工程(C)では、前記抽出工程(B)で得られたヌートカトンを含む抽出物を塩基性溶液で洗浄する。なお、塩基性溶液洗浄工程(C)と蒸留工程(D)とはその順序を問わず、何れの工程を先に設けてもよい。塩基性溶液洗浄は、塩基性溶液により、ヌートカトンを含む抽出物中になお存在するイミド化合物及びその誘導体を塩にして除去する工程であって、水性溶媒と塩基からなる塩基性溶液とこの水性溶媒に対して分液可能な非水溶性溶媒(疎水性溶媒)とを用いて抽出操作を行い、ヌートカトンを疎水性溶媒層へ、イミド化合物及びその誘導体を水性溶媒層へ移行させる方法により行われる。
【0066】
水性溶媒としては、例えば、メタノールなどのC1−2アルコール類、アセトンなどのケトン類、ジオキサン又はテトラヒドロフランなどのエーテル類などの水溶性有機溶媒、及び水;これらの混合溶媒などが挙げられる。なかでも、水が好ましく用いられる。
【0067】
塩基としては、無機塩基(例えば、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩など)、有機塩基(例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メチレンジアミン、エチレンジアミンなどのアミン類の他、ピリジン等の塩基性含窒素複素環化合物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)などが挙げられる。好ましくは、無機塩基が用いられ、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物がより好ましく用いられる。
【0068】
前記水性溶媒と組み合わせて抽出に用いられる疎水性溶媒としては、前記水性溶媒に対して分液可能であればよく、例えば、炭化水素類(例えば、脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類など)、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトロ化合物、ニトリル類、エーテル類、これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0069】
前記脂肪族炭化水素類や脂環式炭化水素類としては、前記例示の化合物(ヘキサンなどの炭素数5〜15の脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの炭素数5〜15の脂環式炭化水素など)を利用できる。芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの炭素数6〜12の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0070】
アルコール類には、例えば、ブタノール、ヘキサノールなどの炭素数4〜15の脂肪族アルコール;シクロヘキサノールなどの炭素数5〜15の脂環式アルコール;ベンジルアルコールなどの炭素数6〜12の芳香族アルコールなどが含まれる。ケトン類としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの炭素数4〜15の脂肪族ケトン;シクロヘキサノンなどの炭素数5〜15程度の環状ケトンなどが挙げられる。エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸2−エチルヘキシルなどのC2−10脂肪族カルボン酸−C1−10アルキルエステル;酢酸シクロヘキシルなどのC2−4脂肪族カルボン酸−C5−10シクロアルキルエステル;酢酸フェニルなどのアリールエステル;安息香酸メチルなどのC7−12芳香族カルボン酸−C1−10アルキルエステルなどが挙げられる。ニトロ化合物として、ニトロエタンなどの脂肪族ニトロ化合物;ニトロベンゼンなどの芳香族ニトロ化合物などが挙げられる。ニトリル類には、ベンゾニトリルなどのC7−12芳香族ニトリル類などが含まれる。エーテル類には、t−ブチルメチルエーテル、アニソールなどが含まれる。好ましい非水溶性溶媒には、炭化水素類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、エーテル類が含まれる。なかでも、炭素数5〜15の炭化水素類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンなど)、炭素数4〜15のケトン類(例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど)、炭素数3〜20のエステル化合物(例えば、酢酸エチル、酢酸フェニル、安息香酸メチルなど)、炭素数7〜12のニトリル類(例えば、ベンゾニトリルなど)、炭素数4〜12のエーテル類が好ましい。
【0071】
塩基性溶液洗浄は、抽出工程(B)後のヌートカトンを含む抽出物に、前記塩基性溶液と疎水性溶媒とを加え、攪拌等により混合した後、分液させることにより行うことができる。前記抽出物の溶媒が疎水性溶媒である場合には、その溶媒をそのまま塩基性溶液洗浄に利用することができる。この場合、前記抽出物の溶液量が少ない場合には、希釈溶媒として疎水性溶媒を添加することにより、例えばヌートカトン含有量が50重量%以下の溶液として塩基性溶液洗浄するのが好ましい。
【0072】
塩基性溶液洗浄に付す抽出物は、該抽出物の処理物であってもよく、例えば、該抽出物から溶媒を留去した濃縮液、該抽出物を蒸留した留出液などであってもよい。
【0073】
塩基性溶液の濃度は、例えば0.01〜50重量%、好ましくは1〜10重量%程度である。塩基性溶液の使用量は、疎水性溶媒(抽出物を含む)100重量部に対して、例えば5〜100重量部、好ましくは8〜50重量部程度である。塩基性溶液洗浄は、例えば0〜80℃、好ましくは15〜60℃程度の温度で行われる。なお、系内のpHは、イミド化合物及びその誘導体の種類により広い範囲で適宜選択できる。
【0074】
この塩基性溶液洗浄により、ヌートカトンは疎水性溶媒層に、イミド化合物触媒及びその誘導体は塩となって水性溶媒層にそれぞれ移行し、抽出物に残存するイミド化合物及びその誘導体を除去することができる。
【0075】
なお、塩基性溶液洗浄工程(C)で得られた処理液に対して、該処理液の溶媒を留去する濃縮工程を設けてもよい。濃縮は、1又は複数の蒸発器又は蒸留塔を用いて行うことができる。
【0076】
[水洗工程]
水洗工程は、塩基性溶液洗浄工程(C)後に設けて混合物の液性を調整したり、抽出工程(B)後に設けて非極性有機溶媒からなる抽出液に混入した極性有機溶媒を除去するなどの目的に利用される。水洗は、水又は塩化ナトリウムなどの塩を含む水溶液を用いて分液させることにより行われる。塩水溶液を用いることにより、分液速度を早めたり、2層の分離効果を高めることができる。塩水溶液の濃度は、例えば0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%程度である。20重量%を超えると、水洗工程後、混合物を濃縮する際に塩が析出してしまう。このため、より低濃度の塩水溶液を用いるのが好ましい。
【0077】
水洗は、各工程で得られた処理物に水又は塩水溶液を加え、攪拌等により混合した後、分液することにより行われる。水洗は、繰り返し行われてもよい。例えば、塩基性溶液洗浄工程(C)後に液性の調整を目的として水洗工程を設けた場合には、水洗の反復回数によって混合物のpHを調整する(所定の値まで下げる)ことができる。
【0078】
水又は塩水溶液の使用量は、前記処理物(供給混合物)100重量部に対して、例えば5〜100重量部、好ましくは8〜50重量部程度である。処理温度は、例えば0〜80℃、好ましくは15〜60℃程度である。
【0079】
[蒸留工程(D)]
前記抽出工程(B)における非極性有機溶媒層又は塩基性溶液洗浄工程(C)における疎水性有機溶媒層には、ヌートカトンが移行しており、バレンセンやヌートカトンとイミド化合物触媒との反応物である副反応生成物はほとんど含まれていない。また、イミド化合物及びその誘導体の割合も低い。そのため、該有機溶媒層に対して蒸留操作を行うことにより、目的化合物としてのヌートカトンをより一層高い純度で回収することができる。
【0080】
蒸留は、蒸留塔などの慣用の蒸留装置を用いて行われる。蒸留条件は、例えば圧力1〜2000Pa程度である。
【0081】
なお、前述のように、前記副反応生成物を予め加熱により分解せずに[加熱処理工程(A)前に]、ヌートカトンを分離精製するために蒸留すると、蒸留時の熱により副反応生成物が分解し、該分解により生成した化合物のうちイミド化合物及びその誘導体がヌートカトンとともに蒸留されるので、留出液中におけるヌートカトンの純度が低下する。さらに、蒸留工程(D)後に、触媒としてのイミド化合物を分離するために抽出する場合には[抽出工程(B)]、イミド化合物の回収割合が低下する。
【0082】
上記の理由により、本発明における蒸留工程(D)は、少なくとも加熱処理工程(A)及び抽出工程(B)より後に設けられる。蒸留工程(D)への供給液中にバレンセンやヌートカトンとイミド化合物の付加体が残存している場合には、例えば単蒸留を行うことにより、該付加体を分解できると共に高沸成分を分離除去できる。また、前記供給液中にイミド化合物触媒及びその誘導体を多く含んでいる場合には、蒸留工程(D)前に塩基性溶液洗浄工程(C)を設けることにより、前記触媒などを除去することができる。
【0083】
蒸留工程(D)は、上記処理工程の最終工程として設けるのが好ましい。なお、得られた留出液中に触媒が含まれている場合には、その後に前記塩基性溶液洗浄工程(C)を設けてもよい。最終工程として加熱を要する蒸留を行う場合には、副反応生成物はほとんど又は全く含まれていないので、処理液中にイミド化合物やその誘導体が生成せず、ヌートカトンをより一層高い純度で分離して回収することができる。
【0084】
上記の工程の他、各工程の間に濃縮、希釈、濾過、水洗などの工程を適宜設けてもよい。
【発明の効果】
本発明の方法によれば、N−ヒドロキシフタルイミドなどのイミド化合物触媒を用いたバレンセンの酸化反応終了後、副反応生成物を容易に分解でき、さらに分解により生成したイミド化合物触媒などを効率よく除去できるため、ヌートカトンを高い純度で効率よく得ることができる。
【0085】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
[酸化反応工程]
反応器に、バレンセン688.4g(3.37mol)、N−ヒドロキシフタルイミド(NHPI)110.3g(676mmol)、コバルト(III)アセチルアセトナト24.1g(67.7mmol)、酢酸コバルト(II)4水和物8.5g(34mmol)、硝酸コバルト(II)6水和物9.9g(34mmol)及び溶媒としてのアセトニトリル6057gの混合物を仕込み、空気を126L(標準状態)/hrで流通し、攪拌しながら、圧力13kgf/cm2(=1.3MPa)の条件下、40℃で3時間反応させた。反応混合物中の生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ヌートカトンが選択率62%、ヌートカトールが選択率8%で生成していた。バレンセンの転化率は99%であった。
一方、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、仕込んだNHPI(676mmol)に対して、酸化反応後、系内に残存しているNHPI及びその誘導体からなる触媒成分の割合は、NHPIが2mol%、NHPIの誘導体(失活したNHPI)が98mol%であった。NHPIの誘導体の構成成分の割合は、仕込んだNHPIに対して、フタル酸が2mol%、フタルイミドが4mol%であった。従って、他の92mol%(622mmol)は、原料成分又は反応生成物(バレンセン、ヌートカトール、ヌートカトン)との付加物であると推察される。
【0086】
[加熱処理工程]
反応器に、前記反応混合物(反応液)6815g、トリエチルアミン342.3g、モリブデン酸アンモニウム4水和物20.50g及び鉄(III)アセチルアセトナト6.83gを加え、窒素雰囲気下、攪拌しながら140℃で3時間加熱した。
加熱処理後の反応液に残存している触媒成分の割合は、仕込んだNHPIに対して、フタルイミドが48mol%、フタル酸が45mol%であった。従って、加熱処理によって増加した触媒成分の割合は、仕込んだNHPIに対してフタルイミドが44mol%、フタル酸が43mol%となる。
【0087】
[抽出工程]
前記加熱処理した反応液7060gを濾過して反応液中に生じた不溶解物を除去した。得られた濾液を蒸発器に仕込み、110℃で全重量が30%になるまで濃縮し(留出率70%)、その濃縮液に2重量倍のシクロヘキサンを加え、15分攪拌後15分静置し、ヌートカトンをシクロヘキサン層(上層)へ抽出した。この抽出操作を計4回繰り返した。全抽出液を蒸発器に仕込み、110℃で全重量が20%になるまで濃縮した(留出率80%)。
【0088】
[塩基性溶液洗浄工程]
得られた濃縮液に1重量倍の10重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、15分攪拌後15分静置し、残存するN−ヒドロキシフタルイミド、フタル酸、及びフタルイミドを水層(下層)へ除去した。抽出したシクロヘキサン層(上層)に1重量倍の0.5重量%塩化ナトリウム水溶液を加え、15分攪拌後15分静置し、分液させた。この水洗操作を計2回繰り返すことにより、シクロヘキサン層のpHを9未満に下げた。シクロヘキサン層(上層)を蒸発器に仕込み、110℃で全重量が15%になるまで濃縮した。
[蒸留工程]
得られた濃縮液を単蒸留装置に仕込み、留出温度60〜170℃、圧力1Torr(133Pa)の条件で全重量の90%を留出させ、ヌートカトンを含む留出液454gを得た。該留出液は、残存する付加体が単蒸留の際の熱により分解されて生成したと考えられるフタルイミドを0.40g含有していた。
【0089】
[塩基性溶液洗浄工程]
前記留出液に希釈溶媒としてシクロヘキサンを6重量倍加え、この希釈留出液に1重量倍の10重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、15分攪拌後15分静置し、残存するフタルイミドを水層(下層)へ除去した。抽出したシクロヘキサン層(上層)に1重量倍の0.5重量%塩化ナトリウム水溶液を加え、15分攪拌後15分静置し、分液させた。この水洗操作を計3回繰り返すことにより、シクロヘキサン層のpHを8未満に下げた。シクロヘキサン層(上層)を蒸発器に仕込み、110℃で全重量が14%になるまで濃縮したところ、ヌートカトン含有率64%の粗精製液が463g、精製収率95%で得られた。
【0090】
[蒸留工程]
得られた粗精製液を理論段数10段の蒸留塔に仕込み、バス温度220℃、圧力1Torr(133Pa)の条件で蒸留したところ、含有率85%のヌートカトン製品が279g得られた。
得られたヌートカトン製品を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、フタル酸、フタルイミド、無水フタル酸、金属などの触媒類は検出限界(2ppm)以下であった。
Claims (5)
- 加熱処理工程(A)後に、混合物中に析出した不溶物を除去する濾過工程を設ける請求項1記載のヌートカトンの製造方法。
- 抽出工程(B)前に、加熱処理後の混合物から溶媒を留去する濃縮工程を設ける請求項1又は2記載のヌートカトンの製造方法。
- 塩基性溶液洗浄工程(C)で得られた処理液から溶媒を留去する濃縮工程を設ける請求項1〜3の何れかの項に記載のヌートカトンの製造方法。
- 塩基性溶液洗浄工程(C)で得られた処理液を水で洗浄する水洗工程を設ける請求項1〜4の何れかの項に記載のヌートカトンの製造方法。
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