JP2005281331A - ポリ乳酸樹脂組成物並びにこれから得られる成形体及びその製造方法 - Google Patents

ポリ乳酸樹脂組成物並びにこれから得られる成形体及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 短い成形時間でも、成形体の変形が起こりにくく、また、耐熱性に優れる成形体が得られるポリ乳酸樹脂組成物、並びにポリ乳酸樹脂の成形体及びその成形方法を提供すること。
【解決手段】 ポリL乳酸及びポリD乳酸を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、
ポリD乳酸の含有量が、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計量を基準として0.01〜20重量%であり、且つ、結晶化促進剤をさらに含有する、ポリ乳酸樹脂組成物。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物並びにこれから得られる成形体及びその成形方法に関する。
ポリ乳酸は、微生物や酵素等の働きにより分解する性質である、いわゆる生分解性を示し、その分解生成物は乳酸、二酸化炭素及び水といった人体に無害な成分であることから、医療用材料や、汎用樹脂を代替する材料として注目されている。
しかし、ポリ乳酸は、その結晶化速度が遅いために、短時間で成形しようとすると充分に結晶化が進行せず、弾性率や耐熱性が低下してしまう傾向があった。そこで、ポリ乳酸の成形性を改善する方法として、これまでにも、例えばポリL乳酸とポリD乳酸とを混合する方法(例えば、特許文献1)や、ポリ乳酸にその結晶化を促進する成分を添加する方法(例えば、特許文献2)などが提案されている。
一方、ポリL乳酸に少量のポリD乳酸を混合したときに、ポリL乳酸とポリD乳酸とで形成されるステレオコンプレックス結晶が樹脂組成物中に少量生成し、このステレオコンプレックス結晶がポリ乳酸のホモ結晶の核剤として働くことが報告されている(例えば、非特許文献1及び2)。
特開平9−25400号公報 特開平9−278991号公報 ポリマー(Polymer)、米国、2003年、44巻、2569〜2575頁 ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス・パートB:ポリマー・フィジクス(Journal of Polymer Science Part B : Polymer Physics)、米国、2001年、39巻、p.300〜313
しかしながら、上記のような従来の方法の場合、成形性はある程度改善されるものの、より短時間で良好な成形品を得るためには、結晶化速度が必ずしも充分でない場合があった。特に、ポリ乳酸をより汎用的な用途へ適用するにあたっては、従来の汎用樹脂に匹敵する高い生産効率を達成することが望ましいが、そのためにも、ポリ乳酸の成形性のさらなる改良が求められていた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、短い成形時間でも、成形体の変形が起こりにくく、また、耐熱性に優れる成形体が得られるポリ乳酸樹脂組成物、並びにポリ乳酸樹脂の成形体及びその成形方法を提供するものである。
上記課題を解決するために、本発明は、ポリL乳酸及びポリD乳酸を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、ポリD乳酸の含有量が、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計量を基準として0.01〜20重量%であり、且つ、結晶化促進剤をさらに含有することを特徴とする。
従来、例えば上に挙げた非特許文献1及び2に開示されるように、ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶がホモ結晶の核剤として働く場合があることが知られており、これを根拠として、ポリL乳酸に少量のポリD乳酸を組み合わせるだけでも、充分な成形性が達成され得るものと考えられていた。ところが、本発明者らの検討の結果、ポリL乳酸に少量のポリD乳酸を添加した樹脂を単に用いただけでは、例えば射出成形のような、極めて短時間で成形するような成形方法で成形したときに、成形品の変形が多く見られたり、その耐熱性が充分でない場合があることが明らかとなった。また一方で、核剤として、ステレオコンプレックス結晶とは別の結晶化促進剤のみを加えたポリ乳酸の場合でも、射出成形等においてはその成形性が必ずしも充分でない場合があることも明らかとなった。したがって、核剤を配合するという考え方だけでは、射出成形等に対しては充分でない可能性があるとも考えられた。
しかし、本発明者らは、さらなる検討の結果、ステレオコンプレックス結晶と結晶化促進剤とを組み合わせることによって、従来よりも成形性が著しく改善されたポリ乳酸樹脂組成物が得られることを見出し、上記本発明の完成に至った。
本発明のポリ乳酸樹脂組成物において、結晶化促進剤は主としてホモ結晶の結晶化速度を向上させる成分として機能するのに対して、ステレオコンプレックス結晶は、結晶化速度向上に加えて、成形時の冷却過程において、結晶化が進行し始める時点での樹脂の結晶化度を高める成分としても機能させることができる。このようなステレオコンプレックス結晶の効果は、ステレオコンプレックス結晶の溶融温度が、ホモ結晶のそれと比較して高いことを利用することにより、発現させることができる。
すなわち、ポリL乳酸の混合比率を上記特定の範囲とした樹脂は、その大部分を占めるホモ結晶は溶融するが、ステレオコンプレックス結晶は実質的に溶融しないような条件で溶融成形することが可能であり、このような条件で成形することによって、成形品の結晶化度を高めることができる。この場合、成形時の冷却過程において、ステレオコンプレックス結晶を含んだ状態から結晶化が進行し始めるため、ステレオコンプレックス結晶が溶融する条件で成形した場合と比較して、冷却過程における結晶化速度自体は変わらないとしても、より短い時間で、脱型に耐えうる結晶化度に達する。
このように、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ステレオコンプレックス結晶の効果と、結晶化促進剤の効果とを相乗的に発現させて、上記課題を解決することができるものである。
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記の樹脂組成物とは逆に、ポリL乳酸の含有量が、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計量を基準として0.01〜20重量%であり、且つ、結晶化促進剤をさらに含有することを特徴とする。このポリ乳酸樹脂組成物はD体とL体とを互いにその比率を上述のポリ乳酸樹脂組成物のそれと入れ替えた構成であり、同様に、ステレオコンプレックス結晶及び結晶化促進剤による効果を発現させることができる。
さらに、本発明は、上記本発明のポリ乳酸樹脂組成物を成形する成形体の製造方法であって、ポリL乳酸とポリD乳酸とで形成されたステレオコンプレックス結晶が溶融しない条件で成形することを特徴するものであり、結晶化度が高く、弾性率や耐熱性の良好な成形体が得られる。また、本発明の成形体は、このような本発明の製造方法で得られることを特徴とする。
なお、ポリL乳酸とポリD乳酸とのステレオコンプレックス結晶とは、ポリL乳酸分子とポリD乳酸分子とがラセミ結晶構造となっている共晶体であり、ステレオコンプレックス結晶とも言われるものである。ポリL乳酸及びポリD乳酸それぞれのホモ結晶の融点(DSC測定による融解ピーク)が通常160〜180℃であるのに対して、ステレオコンプレックス結晶の融点(DSC測定による融解ピーク)は通常190〜240℃である。
本発明によれば、短い成形時間でも、成形体の変形が起こりにくく、耐熱性に優れる成形体が得られるポリ乳酸樹脂組成物、並びにポリ乳酸樹脂の成形体及びその製造方法が提供される。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリL乳酸及びポリD乳酸を含有し、ポリD乳酸の含有量が、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計量を基準として0.01〜20重量%であり、且つ、結晶化促進剤をさらに含有する。あるいは逆に、ポリL乳酸の含有量が、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計量を基準として0.01〜20重量%であり、且つ、結晶化促進剤をさらに含有するものである。以下の説明においては、前者の場合について主として説明し、後者についての重複する説明は省略する。
ポリL乳酸及びポリD乳酸は、主として、それぞれ下記化学式(1)(L体)及び下記化学式(2)(D体)で表されるポリマーである。ポリL乳酸は、上記L−体とD−体との共重合体からなる場合、L体の含有割合がL−体及びD−体の合計量に対して90mol%以上であることが好ましく、95mol%以上であることがより好ましく、98mol%以上であることがさらに好ましい。ポリD乳酸についても同様である。一方の光学異性体の含有割合が高い(すなわち、光学純度が高い)ものを用いたほうが、立体規則性が増して、本発明の効果がより顕著に発現しやすい。
Figure 2005281331
[式中、nは正の整数を示す。]
これらポリ乳酸の分子量は、重量平均分子量で5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましい。ポリ乳酸の重量平均分子量が5,000未満であると、成形体における強度、剛性等の機械物性が不十分となる傾向にある。また、ポリ乳酸の重量平均分子量は、成形時の流動性の点から、400,000以下であることが好ましい。
このようなポリ乳酸は、L−乳酸又はD−乳酸の直接重合や、乳酸の環状2量体であるL−ラクチド又はD−ラクチドの開環重合等で得られる。重合の際、これら乳酸又はラクチドに加えて、グリコリド、カプロラクトン等の他の重合単量体をさらに重合させて共重合体としてもよいが、他の重合性単量体に由来する繰り返し単位が占める割合は、ポリマー鎖全体に対してモノマー換算で50mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることがより好ましい。
ポリ乳酸樹脂組成物における、ポリL乳酸又はポリD乳酸のうち少量成分とするほうの含有割合は、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計量に対して0.01〜20重量%であり、0.1〜20重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%であることがより好ましい。少量成分の含有割合が少ないと、ステレオコンプレックス結晶の量が不足して成形性や耐熱性向上の効果が低下する傾向にあり、20重量%を超えると、ステレオコンプレックス結晶の含有量が多くなって、ステレオコンプレックス結晶が溶融しない条件で成形したときに、流動性が低下して成形性が低下する傾向にある。
結晶化促進剤は、ステレオコンプレックス結晶とは別の成分であって、ポリ乳酸のホモ結晶の核となる働き、及び結晶の成長速度を高める働きの少なくとも一方を有する成分であればよい。例えば、アミド基を有する低分子化合物、タルク及び層状粘度鉱物からなる群より選ばれる少なくとも一つを好適に用いることができる。これらのなかでも、結晶化速度の点から、アミド基を有する低分子化合物、タルク又は層状粘土鉱物を用いることが好ましく、特に、アミド基を有する低分子化合物と、タルク及び層状粘土鉱物の少なくとも一方とを併用することがより好ましい。
アミド基を有する低分子化合物としては、脂肪族モノカルボン酸アミド、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド、脂肪族ビスカルボン酸アミド、N−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド、N−置換尿素類などの脂肪族カルボン酸アミドや、芳香族カルボン酸アミド、あるいはこれらの化合物が水酸基でさらに置換されたヒドロキシアミドなどが挙げられる。これらの化合物が有するアミド基は1個でもよいし、2個以上でもよい。これらの中でも、ビスアミドは結晶化速度をより向上させることができる点で好ましく、また、ヒドロキシアミドはポリ乳酸中での安定性に優れ、耐熱性をさらに高めることができる点で好ましい。ビスヒドロキシアミドは、ビスアミド及びヒドロキシアミドを用いた場合に得られるそれぞれの効果を同時に得ることができる点で特に好ましい。
アミド基を有する低分子化合物の具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、乳酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N,N'−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N'−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N'−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N'−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N'−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N'−ジステアリルテレフタル酸アミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンオレイン酸アミド、N−ブチル−N'−ステアリル尿素、N−プロピル−N'−ステアリル尿素、N−ステアリル−N'−ステアリル尿素、N−フェニル−N'−ステアリル尿素、キシレンビスステアリル尿素、トルイレンビスステアリル尿素、ヘキサメチレンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスラウリル尿素などを例示することができる。これらの中でも、乳酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド及びポリオキシエチレンオレイン酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
アミド基を有する低分子化合物の分子量は、好ましくは1,000以下であり、より好ましくは100〜900である。分子量が1,000を超えると、ポリ乳酸との相溶性が低下して、分散性が低下したり成形体からブリードアウトしたりする傾向にある。
アミド基を有する低分子化合物の融点は、好ましくは20〜230℃である。この融点が20℃未満であると低分子化合物が成形体からブリードアウトして成形体の外観が損なわれる傾向にあり、230℃を超えると成形の際に溶融させにくいため、成形性が低下する傾向にある。
アミド基を有する低分子化合物の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物全体を基準として、0.1〜10重量%であることが好ましく、0.1〜8重量%であることがより好ましく、0.5〜8重量%であることがさらに好ましく、0.5〜5重量%であることが最も好ましい。アミド基を有する低分子化合物の含有量が上記範囲よりも小さいと、剛性及び結晶化速度の向上の程度が不十分となる傾向にあり、他方、上記範囲よりも大きいと、可塑剤的作用が過剰に強く発現するようになるため、成形体の剛性が低下する傾向にある。
タルクは、耐熱性に優れ化学的に安定な鉱物であるため、好ましく用いることができる。タルクの組成は特に限定されないが、ポリ乳酸樹脂組成物中にできるだけ均一に分散させるために、その平均粒径は小さいほど好ましい。具体的には、平均粒径が30μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、7.0μm以下であることが特に好ましい。また、タルクは、ポリ乳酸との接着性を向上させるために、表面処理を施していてもよい。このようなタルクは、市販品として、日本タルク、富士タルク工業等から販売されているものを入手可能である。
タルクの含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物全体を基準として、0.1〜40重量%であることが好ましく、0.1〜30重量%であることがより好ましく、0.5〜30重量%であることがさらに好ましく、0.5〜20重量%であることが最も好ましい。タルクの含有量が上記範囲より小さいと、結晶化速度の向上の程度が不十分となる傾向にあり、上記範囲より大きいと、成形体が脆化して、その衝撃強度が低下する傾向にある。
層状粘土鉱物としては、具体的には、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト族、カオリナイト、ハロサイト等のカオリナイト族、ジオクタヘドラルバーミキュライト、トリオクタヘドラルバーミキュライト等のバーミキュライト族、テニオライト、テトラシリシックマイカ、マスコバイト、イライト、セリサイト、フロゴバイト、バイオタイト等のマイカ等が挙げられる。これらの層状粘土鉱物は、天然鉱物であってもよく、水熱合成、溶融法、固相法等による合成鉱物であってもよい。本発明では、上記の層状粘土鉱物のうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、層状粘土鉱物の陽イオン交換容量は30〜300meq/100gであることが好ましい。
層状粘土鉱物としては、有機化されたものを用いることがより好ましい。有機化された層状粘土鉱物は、市販として、例えば、Southern Clay Products、コープケミカル株式会社等から販売されているものが入手可能である。
ここで、有機化とは、有機物を層状粘土鉱物の層間及び/又は表面に物理的、化学的方法(好ましくは化学的方法)により吸着及び/又は結合させることを意味する。このような有機化には、有機オニウム塩が用いられる。この有機オニウム塩は、層状粘土鉱物を有機化してその層間距離を広げるものであり、これによりポリ乳酸樹脂組成物中での分散均一性を高めることができる。
有機オニウム塩としては、具体的には、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機ピリジニウム塩、有機スルホニウム塩等が挙げられる。
有機アンモニウム塩としては、例えば、NR4+[4個のRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を表し、Xはカウンターイオンを表す]で表されるものを好適に用いることができる。ここで、有機アンモニウム塩の炭素数(4個のRの炭素数の総和)は6以上であることが好ましい。有機アンモニウム塩の炭素数が6未満であると、層状粘土鉱物の層間距離が十分に広げられず、層状粘土鉱物をポリ乳酸中に均一に分散することが困難となる傾向にある。また、Rがアルキル基の場合、アルキル基は置換基を有していてもよく、この置換基としては水酸基が好ましい。さらに、Xで表されるカウンターイオンとしては、例えばCl、Brなどのハロゲンイオンが挙げられる。
上記NR4+で表される有機アンモニウムイオンの特に好ましい例として、下記一般式(2)又は(3)で表されるものを挙げることができ、これらは単独又は組み合わせて用いることができる。
Figure 2005281331
[式中、R、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を表し、pは6〜22の整数を表す。]
Figure 2005281331
[式中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を表し、RとRとの合計の炭素数は6以上であり、q及びrは同一でも異なっていてもよく、1〜20の整数を表す。]
上記一般式(3)中、R、R又はRは水素原子又はアルキル基を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のトリデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のペンタデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基等が挙げられるが、このアルキル基の炭素数は1〜4であることが好ましい。アルキル基の炭素数が4を超えると有機オニウム塩の合成が困難となる傾向にある。
また、上記一般式(3)中、pは6〜22であるが、より好ましくは8〜18の整数である。pが6未満であると、層状粘土鉱物の層間距離が十分に広がらず、ポリ乳酸樹脂組成物中での層状粘土鉱物の分散均一性が低下する傾向にある。pが22を越えると、有機オニウム塩の合成が困難となる傾向にある。
上記一般式(4)中、R及びRは水素原子又はアルキル基を表す。このアルキル基としては、一般式(3)中のR、R及びRの説明において例示されたアルキル基が挙げられる。一般式(4)中のR及びRは同一でも異なっていてもよいが、それらの合計の炭素数は、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。RとRとの合計の炭素数が6未満であると、層状粘土鉱物の層間距離が十分に広がらず、ポリ乳酸樹脂組成物中での層状粘土鉱物の分散均一性が低下する傾向にある。例えば、Rが水素原子でRがドデシル基である化合物、Rがメチル基でRがオクタデシル基である化合物、R及びRがオクタデシル基である化合物は、上記の条件を満たす化合物として好ましく用いられる。
また、上記一般式(4)中、q及びrはそれぞれ1〜20の整数であるが、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1である。q又はrが20を越えると、層状粘土鉱物の親水性が過剰に高くなり、調整が困難となる傾向にある。なお、q及びrは互いに同一でも異なっていてもよい。
本発明では、上記一般式(3)又は(4)中のN(窒素原子)がP(リン原子)に置換された有機ホスホニウム塩を用いることもできる。
有機オニウム塩は、少なくともその一部が水酸基を有する有機オニウム塩であることが好ましい。この場合、水酸基を有する有機オニウム塩の含有量は、有機オニウム塩全量を基準として5mol%以上であることが好ましく、10mol%以上であることがより好ましく、15mol%以上であることが更に好ましい。水酸基を有する有機オニウム塩の配合割合が5mol%未満であると、ポリ乳酸又はその重合性単量体(乳酸、ラクチド)との親和性が不十分となり、これらが層状化合物の層間に安定的に保持されにくくなる傾向にある。
有機オニウム塩の含有量は、層状粘土鉱物100重量部に対して10〜150重量部であることが好ましく、20〜100重量部であることがより好ましい。有機オニウム塩の含有量が上記範囲よりも小さいと、層状粘土鉱物の層間距離が十分に広げられず、ポリ乳酸樹脂組成物中での層状粘土鉱物の分散均一性が低下する傾向にあり、上記範囲より大きいと、物理的吸着によって導入される有機オニウム塩の量が増加して、成形体の耐衝撃性等の物性が損なわれる傾向にある。
有機オニウム塩で有機化された層状粘土鉱物の層間距離は、各層の重心間の平均距離を基準として2.9nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。層状化合物の層間距離が2.9nm未満であると、ポリ乳酸樹脂組成物中での層状粘土鉱物の分散均一性が低下し、その結晶化促進効果が低下する傾向にある。
有機化された層状粘土鉱物の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物全量を基準として、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.01〜5重量%であることがより好ましく、0.1〜5重量%であることがさらに好ましく、0.3〜3重量%であることが最も好ましい。この含有量が上記範囲よりも小さいと、剛性及び結晶化速度の向上の程度が不十分となる傾向にあり、上記範囲より大きいと、成形体が脆化し、衝撃強度が低下する傾向にある。
なお、本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、上記の構成成分に加えて、その特性を実質的に損なわない範囲で、他の添加剤としてさらに可塑剤、顔料、安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、離型剤、滑剤、染料、抗菌剤、末端封止剤等を添加してもよい。
以上のような原料を、所定の比率で含有する本発明のポリ乳酸樹脂組成物を得るためには、ポリL乳酸、ポリD乳酸及び結晶化促進剤等を混合し、これを溶融混練する方法を好適に採用できる。この方法では、結晶化促進剤等を均一に分散させるために、ポリL乳酸及びポリD乳酸が溶融する条件で溶融混練して行うことが好ましい。具体的には、樹脂温度が150〜250℃で、二軸押出機等を用いて混練することが好ましい。150℃未満で混練すると、ポリ乳酸の溶融が不十分となり、結晶化促進剤がポリ乳酸樹脂組成物中に均一に分散しにくくなる傾向にある。また、250℃を超えると、ポリ乳酸の分子量が低下して、成形体の耐衝撃性などの物性が損なわれる傾向にある。
また、均一性の高いポリ乳酸樹脂組成物を得るための他の好適な方法として、L−乳酸、D−乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド等のポリ乳酸を生成させるための重合性単量体と、結晶化促進剤とを混合した状態で混練しながら、重合性単量体を重合させる方法がある。
この方法における重合は、所定の触媒を用いるか、又は無触媒で、好ましくは100〜200℃で行うことができる。好適な触媒としては、オクチル酸スズ、塩化スズ、塩化亜鉛、酸化鉛、炭酸鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム等が挙げられ、その使用量は重合性単量体100重量部に対して0.001〜1重量部であることが好ましい。
ポリ乳酸樹脂組成物中には、混練後の冷却過程において、ホモ結晶とともに、均一に分散したステレオコンプレックス結晶が生成する。ポリ乳酸樹脂組成物中にステレオコンプレックス結晶が生成していることは、例えば、DSCを10℃/分の昇温速度で測定したときに、ステレオコンプレックス結晶に由来する融解吸熱のピークが190〜240℃に観測されることで確認できる。
混練後のポリ乳酸樹脂組成物は、好ましくはペレット状、パウダー状等の形態に加工された後、成形工程に用いられる。また、成形工程前に、ポリ乳酸樹脂組成物を50〜150℃で0.1〜20時間熱処理して、水分等の揮発性成分を除去するとともに、結晶化をさらに進行させておくことが好ましい。
本発明の成形体の製造方法は、以上説明したような本発明のポリ乳酸樹脂組成物を用いて、ステレオコンプレックス結晶が溶融しない条件で成形するものである。この製造方法により、短い成形時間でも、成形後の変形が起こりにくく、耐熱性等に優れる成形体が得られる。なお、成形過程においては、大部分のステレオコンプレックス結晶が未溶解のまま残存していればよく、本発明の効果を実質的に損なわない程度に、ステレオコンプレックス結晶の一部が溶解してもよい。
成形においては、ポリ乳酸樹脂組成物を流動性のある状態まで加熱し、金型内に充填する等して所定の形状とする。このとき、ポリ乳酸樹脂組成物の温度が、ステレオコンプレックス結晶は実質的に溶融しないが、ホモ結晶は溶融する温度となるように加熱することが好ましい。言い換えると、ステレオコンプレックス結晶の溶融温度よりも低く、且つ、ホモ結晶の溶融温度以上の温度となるように加熱することが好ましい。ここで、溶融温度は、ポリ乳酸樹脂組成物についてDSC(昇温速度:1〜20℃/分)を測定したときの、ステレオコンプレックス結晶又はホモ結晶に由来する融解吸熱ピークのピークトップ温度とする。ホモ結晶を溶融させることにより、充分な流動性が得られる。具体的には、ポリ樹脂組成物の温度が、好ましくは160℃〜210℃、より好ましくは170〜200℃となるように加熱することが好ましい。この温度が160℃未満であると、ホモ結晶が溶融しにくくなって、流動性が低下してしまう傾向があり、210℃を超えると、210℃以下の場合と比較して、ステレオコンプレックス結晶が溶融しやすくなる傾向にある。
本発明の成形体の製造方法では、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、異形押出成形、射出ブロー成形、真空圧空成形、紡糸等の成形方法を好適に採用することができる。特に、射出成形等において、成形時に樹脂材料の溶融物を金型内に充填し、金型内でそのまま結晶化させる方法(金型内結晶化法)を採用する場合、従来のポリ乳酸樹脂組成物では生産性や操作性が悪く、さらには結晶化が不十分となって目的の成形体が得られないことが多いが、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を用いて、上記のような条件で成形することによって、成形体の製造を効率よく且つ確実に行うことができる。
本発明の成形体は、上記のような製造方法によって得られるものであり、その形状、厚み等は特に制限されず、射出成形品、押出成形品、圧縮成形品、ブロー成形品、シート、フィルム、糸、ファブリック等のいずれでもよい。より具体的には、バンパー、ラジエーターグリル、サイドモール、ガーニッシュ、ホイールカバー、エアロパーツ、インストルメントパネル、ドアトリム、シートファブリック、ドアハンドル、フロアマット等の自動車部品、家電製品のハウジング、製品包装用フィルム、防水シート、各種容器、ボトル等が挙げられる。また、本発明の成形体をシートとして使用する場合には、紙又は他のポリマーシートと積層し、多層構造の積層体として使用してもよい。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<ポリ乳酸樹脂組成物の調製>
ポリL乳酸(トヨタ自動車社製、#5000、重量平均分子量約20万)と、ポリL乳酸及びポリD乳酸の合計量基準で1重量%のポリD乳酸(Purac社製、重量平均分子量約18万)とからなるポリ乳酸混合物100重量部に、1重量部のエチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド(日本化成社製、スリパックスH)、1重量部のタルク(日本タルク社製、Micro Ace P−6、平均粒径4.0μm)を混合した混合物からなる樹脂を、スクリューを備える二軸押出機(テクノベル社製、KZW15TW−60MG)を用い、スクリュー回転数200ppm、樹脂温度200℃、樹脂供給速度1kg/hで溶融混練して目的のポリ乳酸樹脂組成物を得た。
<成形性、耐熱性の評価>
得られたポリ乳酸樹脂組成物をストランド状に押出した後、水で急冷し、ストランドカッターでペレットとした。このペレットを、減圧下、100℃で12時間熱処理した後、射出成形機を用いて角柱状試験片(80mm×10mm×4mm)を成形[シリンダ設定温度185℃、樹脂温度(実測値)195℃)]したときの成形性を、下記の条件での試験片の変形度合いにより評価した。
1)金型温度80℃、冷却時間120秒
2)金型温度100℃、冷却時間90秒、60秒、45秒、30秒及び20秒
評価基準:
○=ほどんど変形しない(変形度1%未満)。
△=金型から取り出せるが、少し変形するため物性の評価が困難。
×=金型から取り出すのが困難で、成形できない。
また、耐熱性については、金型温度100℃で得られた試験片の荷重たわみ温度(HDT、荷重:0.45MPa)で評価した。成形性及び耐熱性の評価結果を、表1にまとめて示す。
(実施例2)
ポリD乳酸の比率を0.2重量%とした他は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を調製し、その成形性及び耐熱性の評価を行った。
(実施例3)
ポリD乳酸の比率を0.5重量%とした他は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を調製し、その成形性及び耐熱性の評価を行った。
(実施例4)
ポリD乳酸の比率を5重量%とした他は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を調製し、その成形性及び耐熱性の評価を行った。
(実施例5)
ポリD乳酸の比率を10重量%とした他は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を調製し、その成形性及び耐熱性の評価を行った。
(比較例1)
ポリL乳酸(トヨタ自動車社製、#5000、重量平均分子量約20万)に何も混合せずに、そのまま射出成形機を用いて角柱状試験片(80mm×10mm×4mm)を成形[シリンダ設定温度185℃、樹脂温度(実測値)195℃]したときの成形性を、実施例1と同様の条件で評価した。何れの条件でも、試験片が大きく変形した。
(比較例2)
エチレンビス−12−ヒドロキステアリン酸アミド及びタルクを添加しなかった他は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を調製し、その成形性を評価した。何れの成形条件でも、試験片が大きく変形した。
(比較例3)
ポリ乳酸混合物を、ポリL乳酸単独とした他は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を調製した。しかし、実施例1と同様のシリンダ温度設定では樹脂が溶融せず、成形できなかった。
(比較例4)
ポリD乳酸の比率を40重量%とした他は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を調製し、その成形性を評価した。何れの条件でも、試験片が大きく変形した。
(比較例5)
実施例1で得たポリ乳酸樹脂組成物について、シリンダ設定温度を215℃(樹脂温度(実測値)225℃)として、実施例1と同様に成形性及び耐熱性の評価を行った。
Figure 2005281331
表1に示す結果より、実施例1〜5によれば、十分に短い成形時間でも、成形体の変形が起こりにくく、且つ、耐熱性にも優れる成形体が得られることが分かった。これに対し、比較例1〜5によれば、短い成形時間では成形自体ができず、耐熱性の評価ができないことがわかった。また、実施例1〜5によれば、80℃という比較的低い金型温度でも正常な成形体が得られるのに対し、比較例1〜5によれば、金型温度80℃では成形できないことがわかった。したがって、本発明のポリ乳酸樹脂組成物によれば、短い成形時間、低い金型温度でも、成形体の変形が起こりにくく、また、耐熱性に優れる成形体が得られることが確認された。

Claims (4)

  1. ポリL乳酸及びポリD乳酸を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、
    前記ポリD乳酸の含有量が、前記ポリL乳酸及び前記ポリD乳酸の合計量を基準として0.01〜20重量%であり、且つ、結晶化促進剤をさらに含有する、ポリ乳酸樹脂組成物。
  2. ポリL乳酸及びポリD乳酸を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、
    前記ポリL乳酸の含有量が、前記ポリL乳酸及び前記ポリD乳酸の合計量を基準として0.01〜20重量%であり、且つ、結晶化促進剤をさらに含有する、ポリ乳酸樹脂組成物。
  3. 請求項1又は2に記載のポリ乳酸樹脂組成物を成形する成形体の製造方法であって、
    前記ポリL乳酸と前記ポリD乳酸とで形成されたステレオコンプレックス結晶が溶融しない条件で成形する、成形体の製造方法。
  4. 請求項1又は2に記載のポリ乳酸樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、
    前記ポリL乳酸と前記ポリD乳酸とで形成されたステレオコンプレックス結晶が溶融しない条件で成形して得られる、成形体。
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