以下、本発明にかかる多接合型半導体素子の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
本発明による多接合型半導体素子の第1の実施形態として、図1に示す光が基板側から入射するスーパーストレート型の薄膜Si太陽電池を取り上げて説明する。図1では、まず透光性基板1上に、透明導電材料からなる表電極2、半導体多層膜3、裏電極4が順次形成される。また、半導体多層膜3は、第1の半導体光電変換ユニット31と第2の半導体光電変換ユニット32との間に導電性の透明中間層5が挟み込まれて形成されている。そして、第1の半導体光電変換ユニット31は、p型層31a、i型層である光活性層31b、およびn型層31cのpin接合を含み、第2の半導体光電変換ユニット32は、p型層32a、i型層である光活性層32b、およびn型層32cのpin接合を含んでいる。
ここで、通常は高効率化の観点から、半導体光電変換ユニットのうち光入射面側に位置するトップセルである第1の半導体光電変換ユニット31の光活性層31bにはバンドギャップエネルギーの大きい材料、例えば、水素化アモルファスシリコンに代表される非晶質シリコン材料が用いられる。一方、光入射面とは逆側に位置するボトムセルである第2の半導体光電変換ユニット32の光活性層32bにはバンドギャップエネルギーの小さい材料、例えば、微結晶シリコンに代表される結晶質シリコン材料が用いられる。
なお、本明細書において「結晶質シリコン」は、微結晶シリコン(μc−Si:H…microcrystalline silicon)や、ナノ(結晶)シリコン(nc−Si:H…nanocrystalline silicon)を含む概念である。これらの微結晶シリコンやナノシリコンには、シリコンの結晶相と非晶質相が含まれる。そして、ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率(結晶相ピーク強度/(結晶相ピーク強度+非晶質相ピーク強度))において、50〜100%の範囲となり、特に高品質のものでは、60〜80%の範囲となる。なお、シリコンの場合、結晶相ピーク強度は、500〜510cm−1でのピーク強度+520cm−1でのピーク強度とし、また、非晶質相ピーク強度は480cm−1でのピーク強度とすれば良い。
そして、本発明の多接合型半導体素子においては、第1の半導体光電変換ユニット31のpin接合部分と透明中間層5との間に、第1の半導体光電変換ユニット31のn型層31cと逆導電型を有するp型層31dが介在されている。さらに、第2の半導体光電変換ユニット32と透明中間層5との間に、第2の半導体光電変換ユニット32のp型層32aと逆導電型を有するn型層32dが介在されている。
なお、これら逆導電型半導体層であるp型層31dおよびn型層32dは、透明中間層5の片側に設けられていても、本発明の効果を奏するが、透明中間層5の両側に設けられていれば、より確実に本発明の効果を奏することができるので、望ましい。
さらに、n型層31cと逆導電型のp型層31d、およびp型層32aと逆導電型のn型層32dは、それぞれ組み合わされてpn逆接合部を形成して本発明の効果を奏するが、これらの接する領域、すなわちpn逆接合部において、各層のドーピング元素濃度を1×1018〜5×1021/cm3としておけば、これらのpn逆接合部をトンネル接合あるいはそれに準じた特性を有する接合とすることができるので、接合部において良好なオーミック特性を得ることができる。
ここで、本発明の多接合型半導体素子に、光(hν)が透光性基板1側から入射すれば、表電極2を透過し、第1の半導体光電変換ユニット31、および第2の半導体光電変換ユニット32において光電変換され、光起電力が生ずる。
上述のように、第1の半導体光電変換ユニット31はバンドギャップエネルギーの大きい非晶質シリコン材料を光活性層31bに含んでいるので、短波長光に対して高い光吸収特性を有する。また、第2の半導体光電変換ユニット32は、バンドギャップエネルギーの小さい結晶質シリコン材料を光活性層32bに含んでいるので、長波長光にまで高い光吸収特性を有する。そのため、入射光の広い波長範囲にわたって、光電変換が可能となる。
ここで、第1の半導体光電変換ユニット31と第2の半導体光電変換ユニット32との間に設けられた透明中間層5の屈折率と膜厚を調節することによって、光入射面から入射し、第1の半導体光電変換ユニット31を透過して、透明中間層5に到達した光のうち、第1の半導体光電変換ユニット31の光活性層31bで吸収しきれなかった短波長成分をより反射しやすく、第2の半導体光電変換ユニット32の光活性層32bで吸収する長波長成分をより透過しやすくすることができる。これによって、透明中間層5よりも光入射面側に位置する半導体光電変換ユニット31には短波長成分の光エネルギー密度が増し、一方、この透明中間層5よりも光透過下流側に位置する半導体光電変換ユニット32には長波長成分の光エネルギー密度が増すようにすることができる。
上述のように、本発明の多接合型半導体素子にかかる半導体光電変換ユニット/透明中間層の構造、すなわち半導体光電変換ユニット31と透明中間層5の間、あるいは光電変換ユニット32と透明中間層5の間にpn逆接合が導入された構造を有しているので、この部分での電気特性が大幅に向上する。すなわち、先に述べた本発明作用の原理・メカニズムによって電気特性が向上し、特性の向上と歩留まりの向上が実現できるものと推測される。
以下本発明の素子を形成するプロセスを説明する。
まず、基板1として透光性基板を用意する。具体的には、ガラス、プラスチック、樹脂などを材料とした板材あるいはフィルム材などを用いることができる。例えば、ガラスの場合は、厚さ数mm程度のいわゆる青板ガラス(ソーダ石灰ガラス)や白板ガラス(ホウケイ酸ガラス)を用いることができる。また、プラスチックや樹脂では、後のプロセスにおいて耐熱性や脱ガス性に問題がない範囲で材料を選択することができる。
次に、表電極2を形成する。電極の材料としては導電抵抗が低く、長期間その特性が変化しない材料を選択することができる。特に、薄膜太陽電池に形成する表電極2の場合、表面からの接合の深さや透光性の観点から透明導電膜を形成することが望ましい。
透明導電膜の材料としては、SnO2、ITO、ZnOなど公知の材料を用いることができる。なお、透明導電膜は、後にこの膜上にSi膜を形成するときに、SiH4とH2を使用することに起因した水素ガス雰囲気に曝されることになるので、耐還元性に優れるZnO膜を少なくとも最終表面として形成するのが望ましい。
製膜方法としては、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、スプレー法、およびゾルゲル法など公知の技術を用いることができ、中でも生産性、大面積製膜特性、および高品質のものが得られるという理由からCVD法やスパッタ法とすることが望ましい。
透明導電膜の膜厚は、反射防止効果と低抵抗化を考慮して60〜600nm程度の範囲で調節する。低抵抗化の目安としてはシート抵抗を約10Ω/□程度以下とするのが望ましい。
次に、シリコン系膜からなる半導体多層膜3を形成する。半導体多層膜3は第1の半導体光電変換ユニット31、酸化物透明導電膜などからなる透明中間層5、第2の半導体光電変換ユニット32が積層された構造を有する。
ここで、半導体光電変換ユニット31、32は、シリコン系膜によって製膜するが、その製膜方法としては、従来から知られているPECVD法(Plasma Enhanced CVD法)やCat−CVD法(Catalytic CVD法)などを用いることができるが、特に本発明者らが既に特許文献3、特許文献4などにおいて開示しているCat−PECVD法を用いれば高品質な膜を高速で形成することができる。またCat−PECVD法を用いれば、結晶化を非常に促進できるので、以下に述べる膜のうち結晶質膜の形成についてはとりわけ効果的である。
まず、第1の半導体光電変換ユニット31を形成する。これは、光が最初に入射するトップセルであり、光活性層31bに水素化アモルファスシリコン膜を含む。ユニットの構成は基板側からp型層31a/光活性層31b/n型層31c/p型層31dの順に積層された構造とし、光活性層31bはi型とするのが望ましい。したがって、第1の半導体光電変換ユニット31に含まれるpin接合(p型層31a/光活性層31b/n型層31c)と透明中間層5との間に、p型層31dを形成することによって、本発明の構造を得ることができる。
次に、透明中間層5を形成し、さらに第2の半導体光電変換ユニット32を形成する。これは、ボトムセルとして、光活性層32bに結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を含む。ユニットの構成は基板側からn型層32d/p型層32a/光活性層32b/n型層32cの順に積層された構造とし、光活性層32bはi型とするのが望ましい。したがって、透明中間層5と第2の半導体光電変換ユニット32に含まれるpin接合(p型層32a/光活性層32b/n型層32c)との間に、n型層31dを形成することによって、本発明の構造を得ることができる。
まず、第1の半導体光電変換ユニット31の製造プロセスについて説明する。
p型層31aについては、水素化アモルファスシリコン膜や、微結晶シリコン膜に代表されるような結晶シリコン相を含む結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)などを用いることができる。p型とするためドーピングする不純物については、B、Al、Gaなどを用いることができるが、その中でも水素化合物ガスが得られ、ドーピング効率も高いBが望ましい。
また、ドーピング元素濃度については1×1018〜5×1021/cm3程度として、実質的にはp+型とする。膜厚は材料に応じて2〜100nm程度の範囲で調節する。例えば水素化アモルファスシリコン材料を用いる場合は、特に光吸収ロスの低減を考慮して2〜20nm程度の範囲とし、結晶質シリコン材料を用いる場合は接合形成能力の低下を考慮して、10〜100nm程度の範囲とする。
なお製膜時に用いるSiH4、H2およびドーピング用ガスであるB2H6などのガスに加えてCH4などのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSixC1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない窓層形成に非常に有効であるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分低減にも有効である。このとき、Cの含有量を5〜20%程度とすれば、バンドギャップ拡大量を0.1〜0.3eV程度とすることができる。なお膜中のC含有量は、製膜中のCH4ガス/SiH4ガス分圧比(すなわちガス流量比)、および、CH4とSiH4とでは分解効率が異なることを考慮してプラズマパワーを調節すれば、所望の値にすることができる。また、C以外にもO(酸素)を含むガスやN(窒素)を含むガスを適量混合させてもよく、SixO1−x膜やSixN1−x膜を得ることができ、同様の効果を得ることができる。これらを混在させてもよい。
次に、上記p型層31a上にドーピングを行わないノンドープ層である光活性層31bを形成する。光活性層31bについては水素化アモルファスシリコン膜を用いる。実際にはノンドープ膜はわずかにn型特性を示すのが通例であるので、この場合はp型化ドーピング元素をわずかに含ませて実質的にi型となるように調整することができる。なお、内部電界強度分布の微調整を目的に、n−型あるいはp−型とする場合もある。
なお、入射光を効率的に光電変換すると同時に、トップセル(第1の半導体光電変換ユニット31)と後述のボトムセル(第2の半導体光電変換ユニット32)との間で電流をマッチングさせるために、膜厚は0.1〜0.5μm程度の範囲に調節する。
ここで水素化アモルファスシリコン膜の製膜方法としては、従来から知られているPECVD法やCat−CVD法を用いることもできるが、Cat−PECVD法を用いれば、高品質な水素化アモルファスシリコン膜を高速かつ大面積で、しかも高い生産性をもって製膜することができるので、高効率・低コスト薄膜Si太陽電池の製造にはとりわけ効果的である。
また、Cat−PECVD法によれば、原子状水素生成促進効果、あるいはガス加熱効果によって、膜中水素濃度を15atomic%以下にすることができるが、より好ましくは、従来のPECVD法では実現困難な10atomic%以下、さらに好ましくは5atomic%以下の低水素濃度の膜が得られるので、水素化アモルファスシリコン膜利用素子が長年抱えていた課題である光劣化の程度を大幅に低減することができる。
次に、上記光活性層31b上に、n型層31cを形成する。n型層31cについては、水素化アモルファスシリコン膜や、結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を用いることができ、膜厚は材料に応じて2〜100nm程度の範囲で調節する。例えば、水素化アモルファスシリコン材料を用いる場合は、特に光吸収ロスの低減を考慮して2〜20nm程度の範囲とし、結晶質シリコン材料を用いる場合は接合形成能力の低下を考慮して、10〜100nm程度の範囲とする。
ドーピング元素濃度については1×1018〜5×1021/cm3程度として、実質的にはn+型とする。このドーピング濃度はn型層31c全域にわたって実現されている必要はなく、少なくとも後述するp型層31dと接する領域で実現されていればよい。具体的には、このn+とした箇所の厚みd2は図5の本発明の多接合型半導体素子において示したように、少なくとも一原子層以上n型層31cの全厚み以下の範囲で実現されていればよい。
なお製膜時に用いるSiH4、H2、およびドーピング用ガスであるPH3などのガスに加えてCH4などのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSixC1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない膜形成ができるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分の低減にも有効である。また、C以外にもO(酸素)を含むガスやN(窒素)を含むガスを適量混合させることでも同様な効果を得ることができる。
ここで後述するp型層31dとの間にトンネル接合あるいはそれに準じた特性を有する逆接合を形成するためには、バンドギャップの小さい結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を用いるのがより好ましい。もちろんn型層31c全域にわたって結晶質シリコン相とする必要はなく、p型層31dとの界面近傍だけでもよい場合がある。このようにすれば、狭バンドギャップ領域での光吸収ロスを極力低減することができる。
次に、n型層31c上に、本発明の構造にかかるp型層31dを形成する。p型層31dについては、水素化アモルファスシリコン膜や、微結晶シリコン膜に代表されるような結晶シリコン相を含んだ結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を用いることができる。ここで、水素化アモルファスシリコンは直接遷移型の高光吸収特性を示すのに対して、結晶シリコンは間接遷移型の比較的低い光吸収特性を示すため、光吸収ロスを低減するためには結晶シリコン相を含んだ結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を用いるのがより好ましい。
また、水素化アモルファスシリコンよりも結晶質シリコンの方が狭いバンドギャップを有しているため、上述のn型層31cとの間でトンネル接合あるいはそれに準じた特性を有するpn逆接合を形成するには結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を用いるのがより好ましい。もちろんp型層31d全域にわたって結晶質シリコン相とする必要はなく、n型層31cとの界面近傍だけでもよい場合がある。このようにすれば、狭バンドギャップ領域での光吸収ロスを極力低減することができる。
ここで、p型とするため、不純物をドーピングする。なお、シリコン半導体において、p型を得るためには、ドーピング元素としてはB、Al、Gaなどを用いることができるが、その中でも既述の理由によりBが望ましい。
そして、ドーピング元素濃度については1×1018〜5×1021/cm3以上として実質的なp+型とすることによって、先に形成したn型層31cとの間にトンネル接合あるいはそれに準じた特性を有する接合を形成することができる。このドーピング濃度はp型層31d全域にわたって実現されている必要はなく、少なくとも上述のn型層31cと接する領域で実現されていればよい。具体的には、このp+とした箇所の厚みd1は図5の本発明の多接合型半導体素子において示したように、少なくとも一原子層以上p型層31dの全厚み以下の範囲で実現されていればよい。
膜厚は20nm程度以下、より好ましくは10nm以下として、この層での光吸収ロスおよび抵抗ロスをできるだけ低減する。さらに好ましくは5nm以下とすることで、p型層31d自体をキャリアがトンネルできるようにさせれば、p型層31dに起因する抵抗ロスをほとんどゼロにすることができ、オーミック特性の低下がほとんどないpn逆接合部を得ることができる。
このp型層31dを作製する原料としては、SiH4、H2、およびドーピング用ガスであるB2H6などのガスを用いて形成することができる。ここで、Bは、B2H6ガスとSiH4ガスの分圧比にほぼ比例して膜中に取り込まれるため、目的のドーピング濃度に相当する分圧比(具体的にはガス流量比)を調節することで所望のドーピング濃度を実現することができる。また、膜厚は製膜速度に応じて製膜時間を調整すればよい。
さらに特に結晶化させるには、製膜表面の水素被覆が実現できている100〜400℃程度の基板温度範囲において、プラズマ励起周波数を、例えば40MHz程度以上のVHF領域としたり、ガス加熱を積極的に行ったりすることによって容易に実現することができる。
なお製膜時に用いるSiH4、H2およびドーピング用ガスであるB2H6などのガスに加えてCH4などのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSixC1−x膜が得られ、バンドギャップ拡大によって光吸収ロスが少なくなるので、いわゆる窓層の形成に非常に有効であるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分低減にも有効である。このとき、Cの含有量を5〜20%程度とすれば、バンドギャップ拡大量を0.1〜0.3eV程度とすることができる。なお膜中のC含有量は、製膜中のCH4ガス/SiH4ガス分圧比(すなわちガス流量比)、および、CH4とSiH4とでは分解効率が異なることを考慮してプラズマパワーを調節すれば、所望の値にすることができる。また、C以外にもO(酸素)を含むガスやN(窒素)を含むガスを適量混合させてもよく、SixO1−x膜やSixN1−x膜を得ることができ、同様の効果を得ることができる。これらを混在させてもよい。
なお、接合特性をより改善するために、p型層31aと光活性層31bとの間や光活性層31bとn型層31cとの間に実質的にi型の非単結晶Si層や非単結晶SixC1−x層をバッファ層として挿入してもよい。このときの挿入層の厚さは0.5〜50nm程度とする。このとき膜中水素濃度やC濃度に傾斜をつけていわゆるグレーデッド層とするとこの領域での再結合量が低減できるので、特性向上の上でより好ましい。
上述の方法により、トップセルとして、第1の半導体光電変換ユニット31を形成することができる。
次に透明中間層5として、酸化物透明導電材料を用いて膜を形成する。この酸化物透明導電材料としては、SnO2、ITO、ZnOなどを用いることができ、製膜方法としては、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、スプレー法、およびゾルゲル法など公知の技術を用いることができる。
ここで透明中間層5の厚さdは使用する酸化物材料の屈折率(n5)、透明中間層5に接する半導体層の屈折率(n31、n32)、上述した第1の半導体光電変換ユニット31中の光活性層31bのバンドギャップエネルギー、および後述する第2の半導体光電変換ユニット32中の光活性層32bのバンドギャップエネルギーに応じて最適化を図る。
本実施例のように第1の半導体光電変換ユニット31中の光活性層31bに水素化アモルファスシリコンを用い、第2の半導体光電変換ユニット32中の光活性層32bに結晶質シリコンを用いた場合は、材質としてはZnOを用い、5〜500nmの範囲で調節するのが、この透明中間層5での光吸収ロスを低減する上で望ましい。
次に、この透明中間層5の上にボトムセルとして第2の半導体光電変換ユニット32を積層するが、第1の半導体光電変換ユニット31と同様の方法で形成できる箇所は説明を省略し、特徴的な箇所について述べる。
なお、この第2の半導体光電変換ユニット32において、本発明の多接合型半導体素子にかかる構造は、透明中間層5と第2の半導体光電変換ユニット32のp型層32aとの間に設けられた逆導電型のn型層32dである。この層は、上述の第1の半導体光電変換ユニット中のp型層31dと同様に、水素化アモルファスシリコン膜や、微結晶シリコン相を含む結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を用いることができる。p型層31dと異なる点は、ドーピング元素のみ、n型の導電性を示すP、As、Sbなどを用いる点であり、その他については、膜厚、ドーピング濃度など詳細な条件についても、ほぼ同じである。
次に、p型層32aを逆導電型のn型層32d上に形成する。この層は、上述の第1の半導体光電変換ユニット中のp型層31aと同様に水素化アモルファスシリコン膜や、微結晶シリコン相を含む結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を用いることができる。膜厚、ドーピング濃度など詳細な条件についても、ほぼ同じであるため省略する。
次に、上記p型層32a上にドーピングを行わないノンドープ層である光活性層32bを形成する。なお、第1の半導体光電変換ユニット31においては、光活性層31bは水素化アモルファスシリコン膜によって形成したが、第2の半導体光電変換ユニット32における光活性層32bは、微結晶シリコン膜に代表される結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)となるようにする。
実際にはノンドープ膜はわずかにn型特性を示すのが通例であるので、この場合はp型化ドーピング元素をわずかに含ませて実質的にi型となるように調整することができる。
なお、入射光を効率的に光電変換すると同時に、前記トップセルとこのボトムセルとの間で電流をマッチングさせるために、膜厚は1〜3μm程度の範囲で調節する。
さらに、膜構造としては、結晶面のうち(110)面が優先的に成長した結果として生ずる(110)面配向の柱状結晶粒の集合体として製膜後の表面形状が光閉じ込めに適した自生的な凹凸構造となるようにするのが望ましいが、PECVD法あるいはCat−PECVD法を用いれば、この構造を自生的に(自然に)形成できるメリットがある。
ここで結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)の製膜方法としては、従来から知られているPECVD法やCat−CVD法を用いることもできるが、Cat−PECVD法を用いれば、特に高品質な結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を高速かつ大面積で、しかも高い生産性をもって製膜することができるので、高効率・低コスト薄膜Si太陽電池の製造にはとりわけ効果的である。
このCat−PECVD法によれば、原子状水素生成促進効果、あるいはガス加熱効果によって、膜中水素濃度が10atomic%以下の結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を得ることができるが、より好ましくは5atomic%以下、さらに好ましくは3.5atomic%以下の低水素濃度の膜を得ることができる。
なお、低水素濃度の膜が好ましい理由は以下の通りである。結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)の場合、大部分の水素は結晶粒界部分に存在しており、水素のSiとの結合状態とその密度が結晶粒界の品質(結晶粒界でのキャリア再結合速度の逆数に比例)を決定づける。すなわち、結晶粒界に存在するSi原子1つにH原子が2つと他のSi原子が2つ結合した状態であるSiH2結合の密度が大きいほど、いわゆるポスト酸化現象(製膜後に膜が大気雰囲気に曝されると、大気中のO2、CO2、H2Oなどの酸素を含んだガス成分が膜中結晶粒界に拡散・吸着・酸化して結晶粒界の結合状態に変化をもたらす)が生じやすく、結晶粒界の品質劣化に起因した膜全体としての膜品質の経時劣化(すなわち特性の経時劣化)を招来してしまう。ここで、膜中水素濃度が低くなると、それに応じて結晶粒界のSiH2結合密度も低減するので、上述したポスト酸化現象に起因した経時劣化現象を低減することができる。
具体的には、膜中水素濃度を5atomic%以下にすると経時劣化率は数%程度以下に抑えることができ、さらに膜中水素濃度を3.5atomic%以下にすれば経時劣化率はほとんどゼロにすることができる。この結果、より高効率な太陽電池を製造することができる。
次に、上記光活性層32b上に、n型層32cを形成する。この層は、上述の第1の半導体光電変換ユニット中のn型層31cと同様に水素化アモルファスシリコン膜や、結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を用いることができる。膜厚、ドーピング濃度など詳細な条件についても、ほぼ同じであるため省略する。
なお、接合特性をより改善するために、p型層32aと光活性層32bの間や光活性層32bとn型層32cの間に実質的にi型の非単結晶Si層を挿入してもよい。このときの挿入層の厚さは0.5〜50nm程度とする。
最後に、裏電極4として、金属膜を形成する。金属膜材料としては、導電特性および光反射特性に優れるAlやAgなどを主成分にしたものを用いるのが望ましい。これらの金属材料を用いることで裏面電極に到達した長波長光を高い反射率で反射させて前記半導体層に有効に再入射させることができる。
製膜方法としては、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、スクリーン印刷法などの公知の技術を使用でき、生産性、大面積製膜特性、および高品質のものが得られるという理由からスパッタリング法を用いることが望ましい。さらに、膜厚は、電気抵抗を充分に下げるために0.1μm以上とし、コストアップを避けるために1μm以下とすることが望ましい。
なお、裏電極4は、半導体層に接する面側から透明導電膜/金属膜の順に積層された構造とすることがより好ましい。このように、半導体層と金属膜の間に透明導電膜を挿入することによって金属膜成分が半導体層中に拡散して素子特性を劣化させる現象を抑えることができるからである。また、透明導電膜形成表面に適当な凹凸構造をもたせれば光が有効に散乱されるようになるので太陽電池の効率向上に有効な光閉じ込め効果を増進させることができる。このような凹凸構造は、膜形成時の条件や製膜後のエッチング処理により形成することができ、透明導電膜と金属膜との界面の凹凸の最大表面粗さRmaxが0.05μm以上となるように調節する。ここで透明導電膜材料としては、SnO2、ITO、ZnOなどを用いることができるが、低温形成の容易さ、安定性、凹凸構造の実現し易さなどの理由からZnOが望ましい。さらにこのとき、積層する金属膜はAgとすることが望ましい。
また、製膜方法としては、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、スプレー法、およびゾルゲル法など公知の技術を用いることができるが、生産性、大面積製膜特性、および高品質のものが得られるという理由からスパッタリング法が望ましい。
以上の方法により、本発明を適用した薄膜Si太陽電池を実現することができる。
なお、以上の説明では、透明中間層の両側に本発明の構造を適用した例について説明したが、透明中間層の一方の側にのみ適用した場合でも、本発明の効果を得ることができるのは言うまでもない。
また、多接合型半導体素子として、半導体光電変換ユニットが2つあるタンデム型の太陽電池について説明したが、半導体光電変換ユニットが3つあるトリプル接合型の太陽電池(不図示)、さらにはそれ以上の数の半導体光電変換ユニットを有する太陽電池(不図示)においても同様の効果が得られる。
また、半導体光電変換ユニットpinが受光面側からpinの順で形成した太陽電池について説明したが、受光面側からnipの順で形成した太陽電池についても同様の効果が得られる。
また以上の説明では、光が基板側から入射するスーパーストレート型太陽電池について説明したが、光が半導体膜側から入射するサブストレート型太陽電池(不図示)に対しても同様の効果が得られる。なお、サブストレート型とした場合は、基板は透光性基板に限定されるものではなくステンレスなどの不透光性基板を用いてもよく、この場合、表電極2は金属材料とし、裏電極4は透光性材料とする。
また以上の説明では、シリコン系半導体を例にとって説明したが、シリコン以外の半導体を用いても原理的な性格は同一であるので、本発明の構造を適用することで同様な効果を得ることができる。
次に、図3に本発明を適用した第2の実施形態として薄膜Siセルとバルク型Siセルとを積層した多接合型半導体素子である太陽電池を示す。
この本発明の多接合型半導体素子である太陽電池は、薄膜Siセルからなる第1の半導体光電変換ユニット53と、バルク型Siセルからなる第2の半導体光電変換ユニット54とが、透明中間層56を間に挟んで積層されている。そして、第1の半導体光電変換ユニット53には、反射防止膜52と表電極51が設けられ、第2の半導体光電変換ユニット54には、裏電極55が設けられている。
さらに、第1の半導体光電変換ユニット53は、n型層53a、光活性層53b、p型層53cが積層され、第2の半導体光電変換ユニット54は、n+型領域54a、p型光活性領域54b、p+型領域54cが積層されている。
そして、本発明の多接合型半導体素子にかかる構造として、第1の半導体光電変換ユニット53と透明中間層56との間に、n型層53dが介在して設けられ、第1の半導体光電変換ユニット53のp型層53cとpn逆接合部を形成している。また、第2の半導体光電変換ユニット54と透明中間層56との間に、p+型領域54dが介在して設けられ、第2の半導体光電変換ユニット54のn+型領域54aとpn逆接合部を形成している。
ここで光(hν)は、反射防止膜52側から入射し、第1の実施例で述べたのと同じ原理で入射側(トップ側)の第1の半導体光電変換ユニット53には短波長成分の光エネルギー密度が増し、一方、この透明中間層56よりも光透過下流側に位置する半導体光電変換ユニット54には長波長成分の光エネルギー密度が増すようにすることができる。
上述のように、本発明の多接合型半導体素子にかかる半導体光電変換ユニット/透明中間層の構造、すなわち半導体光電変換ユニット54と透明中間層56の間、あるいは光電変換ユニット53と透明中間層56の間にpn逆接合が導入された構造を有しているので、この部分での電気特性が大幅に向上する。すなわち、先に述べた本発明作用の原理・メカニズムによって電気特性が向上し、特性の向上と歩留まりの向上が実現できるものと推測される。
以下、図3に示した本発明を適用した薄膜Siセルとバルク型Siセルとを積層した多接合型半導体素子である薄膜セル/バルクセル積層型太陽電池素子を形成するプロセスを説明する。
まずp型Si基板を用意する。図3中、少なくともp型光活性領域54bは基板に含まれる。このときp型化ドーピング元素としてはB(硼素)あるいはGa(ガリウム)を用いることが望ましく、濃度は1×1016〜1×1017/cm3程度とする(このとき基板の比抵抗値は0.2〜2Ω・cm程度となる)。
基板厚は500μm以下にし、より好ましくは350μm以下にする。基板種としてはCZ法やFZ法といった製法で作られた単結晶Siインゴットをスライスして基板にした単結晶Si基板や、キャスト法で鋳造された多結晶Siインゴットをスライスして基板にした多結晶Si基板などを用いることができる。なおドーピングはドーピング元素単体を適量Siインゴット製造時に含ませてもよいし、既にドーピング濃度の分かっているB含有Si塊を適量含ませてもよい。
次にn+型領域54aを形成する。n型化ドーピング元素としてはP(燐)を用いることが望ましく、ドーピング濃度は1×1018〜5×1021/cm3とし、n+型とする。これによって上述のp型光活性領域54bとの間にpn接合が形成される。
製法としてはPOCl3(オキシ塩化リン)を拡散源とした熱拡散法を用いて温度700〜1000℃程度で、前記p型Si基板の表面にドーピング元素を拡散させることによって形成する。このとき拡散層厚は0.2〜0.5μm程度とするが、これは拡散温度と拡散時間を調節することで、所望の厚さとすることができる。
通常の拡散法では、目的とする面とは反対側の面にも拡散領域が形成されるが、その部分は後からエッチングして除去すればよい。あるいは、後述するように、裏面のBSF層をAlペーストによって形成する場合は、P型ドープ剤であるAlを充分な濃度で充分な深さまで拡散させることができるので、既に拡散してあった浅い領域のn型拡散層の影響は無視できるようにすることができる。
なお、n+型領域54aの形成方法は熱拡散法に限定されるものではなく、例えば上述の第1の実施形態で述べたような薄膜技術および条件を用いて水素化アモルファスシリコン膜や、結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)などを基板温度400℃程度以下で形成してもよい。
ここで水素化アモルファスシリコン膜を用いてこのn+型領域54aを形成する場合はその厚さは50nm以下、好ましくは20nm以下とし、結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を用いて形成する場合はその厚さは500nm以下、好ましくは200nm以下とする。
このとき、p型光活性領域54bとこのn+型領域54aとの間にi型Si領域(不図示)を厚さ20nm以下で形成すると特性向上に有効である。ただし薄膜技術を用いて形成する場合は、以下に述べる各プロセスの温度を考慮して後段プロセス程低いプロセス温度となるようにその形成順序を決める。
次にp+型領域54cを形成する。p型化ドーピング元素としてはB(硼素)、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)を用いることができ、ドーピング濃度は1×1018〜5×1021/cm3とする。これによって前記p型光活性領域54bとこのp+型領域54cとの間にLow−High接合(Back Surface Field領域とも称される)が形成される。
製法としてはBBr3を拡散源とした熱拡散法を用いて温度800〜1100℃程度で形成することができるが、特にAlの場合はAl粉末とガラスフリット、有機溶剤、バインダーなどからなるAlペーストを印刷法で塗布したのち温度700〜850℃程度で熱処理(焼成)してAlを拡散する方法を用いることができ(本明細書ではペースト印刷焼成法と称する)、低コスト化に非常に有利である。
なお、このp+型領域54c(裏面側)を熱拡散法で形成する場合は、既に形成してあるn+型領域54a(表面側)には酸化膜等の拡散バリアをあらかじめ形成しておく。またペースト印刷焼成法を用いる場合は、印刷面だけに所望の拡散層を形成することができるだけではなく、既に述べたようにn+型領域54a形成時に同時に裏面側にも形成されているn型層を除去する必要もなくすことができる。
なお、このp+型領域54cの形成方法は熱拡散法やペースト印刷焼成法に限定されることはなく、例えば前記第1の実施形態で述べたような薄膜技術および条件を用いて水素化アモルファスシリコン膜や、結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)などを基板温度400℃程度以下で形成してもよい。このとき膜厚は10〜200nm程度とする。このとき、p型光活性領域54bとこのp+型領域54cとの間にi型Si領域(不図示)を厚さ20nm以下で形成すると特性向上に有効である。ただし薄膜技術を用いて形成する場合は、以下に述べる各プロセスの温度を考慮して後段プロセス程低いプロセス温度となるようにその形成順序を決める。
次にp+型領域54dを形成する。p型化ドーピング元素としてはBあるいはGaを用いることが望ましく、ドーピング濃度は1×1018〜5×1021/cm3とする。このように高濃度にドープされることで、同じく高濃度にドープされたn+型領域54aとの間に本発明の構成要件となるトンネル接合特性あるいはそれに準じた特性を有した接合が形成される。このとき、上記のドーピング濃度はp+型領域54d全域にわたって実現されている必要はなく、少なくとも上述のn+型領域54aと接する領域、具体的には、少なくとも一原子層以上、領域厚以下の範囲で実現されていればよい。
ここで、このp+型領域54dの厚さは50nm程度以下、より好ましくは20nm以下として、この層での光吸収ロス及び抵抗ロスをできるだけ低減する。さらに好ましくは5nm以下とすることで、p+型領域54d自体をキャリアがトンネルできるようにせしめれば、p+型領域54dに起因する抵抗ロスをほとんどゼロにすることができ、オーミック特性の低下がほとんどない半導体/電極コンタクトを得ることができる。
製法としてはBBr3を拡散源とした熱拡散法を用いて温度800〜1000℃程度で形成することもできるが、この工程以前に形成した接合特性を損なわないために、本工程は特に第1の実施形態で述べたような薄膜技術及び条件を用いて水素化アモルファスシリコン膜や、結晶質シリコン膜(微結晶シリコン膜やナノシリコン膜)を基板温度400℃程度以下で形成することが好ましい。なお、もしn+型領域54aを薄膜技術で形成した場合、本工程も同様に薄膜技術を利用して形成する必要がある。
次に透明中間層56を形成する。この形成プロセスについては前記第1の実施形態において述べたものと同一であるので説明は省略する。
次に水素化アモルファスシリコンを光活性層53bに持つ第2の半導体光電変換ユニットを積層する。この接合ユニットの形成プロセスについては前記第1の実施形態において述べた内容と基本的には同一であり、図3に示した順番で積層製膜すればよいので説明は省略する。
次に反射防止膜52を形成する。反射防止膜材料としては、Si3N4膜、TiO2膜、SiO2膜、MgO膜、ITO膜、SnO2膜、ZnO膜などを用いることができる。厚さは材料によって適宜選択され入射光に対する無反射条件を実現する(材料の屈折率をnとし、無反射にしたいスペクトル領域の波長をλとすれば、(λ/n)/4=dを満たすdが反射防止膜の最適膜厚となる)。例えば、一般的に用いられるSi3N4膜(n=約2)の場合は、無反射目的波長を600nmとすれば、膜厚を75nm程度とすればよい。
製法としては、PECVD法、蒸着法、スパッタ法などを用い、温度400〜500℃程度で形成する。なお反射防止膜52は後述する表電極51を形成するために所定のパターンでパターニングしておく。ただし反射防止膜52が導電性を有している場合はこの限りではない(図3は導電性材料を用いた場合に対応している)。このパターニング法としてはレジストなどマスクに用いたエッチング法(ウェットあるいはドライ)や、反射防止膜形成時にマスクをあらかじめ形成しておき、反射防止膜形成後にこれを除去する方法を用いることができる。
次に表電極51を形成する。表電極材料としては、Ag、Cu、Alといった低抵抗金属を少なくとも1種含む材料を用いることが望ましい。製法としてはこれら金属を含んだペーストを用いた印刷法や、スパッタ法、蒸着法などの真空製膜法を用いることができる。
なお表電極51とSi半導体との接着強度を特に高めるため、印刷法ではTiO2などの酸化物成分をペースト中にわずかに含ませ、また真空製膜法では表電極51とSi半導体との界面にTiを主成分とした金属層を挿入するとよい。また表電極51の形状は一般的な櫛形パターンとすればよい。
次に裏電極55を形成する。裏電極材料としては、Siに対して反射率の高いAgを主成分に含む金属を用いることが望ましいが、Siに対しての反射率がAgよりもいくらか劣るAlを主成分に含む金属であっても特に高効率を望まない限り有効に用いることができる。
製法としてはこれら金属を含んだペーストを用いた印刷法や、スパッタ法、蒸着法などの真空製膜法を用いることができる。なお裏電極55とSi半導体との接着強度を特に高めたい場合は、印刷法ではTiO2などの酸化物成分をペースト中にわずかに含ませ、また真空製膜法では裏電極55とSi半導体との界面にTiを主成分とした金属層を挿入するとよい。後者の場合Ti主成分金属層の厚さは5nm以下として金属層が挿入されることによる反射率低減を抑制することが望ましい。なお、裏電極55は基板裏面全面に形成することが裏面に到達した長波長光の反射率を高めるために望ましい。
以上によって本発明を適用した薄膜Siセルとバルク型Siセルを積層した太陽電池が実現される。
なお、上記各工程の順序は上記順序に限られるものではなく、後段プロセスの温度が前段プロセスの温度よりも低い条件を満たすならば、いかなる順序であってもよい。
以上の説明では、透明中間層の両側に本発明の構造を適用した例について説明したが、もちろん透明中間層の一方の側にのみ適用した場合でも本発明の効果が得られることは言うまでもない。
また、p型Si基板を用いた太陽電池について説明したが、n型Si基板を用いた場合にも、上記説明中の極性を逆にすれば同様のプロセスによって本発明の効果が得ることができる。
さらに、シングル接合の場合について説明したが、第1の実施形態のところで述べたような半導体多層膜からなる薄膜接合層をバルク基板使用接合素子に積層して形成した多接合型であっても、本発明は適用できる。
以上、本発明の実施形態については、薄膜型Si太陽電池およびバルク型Si太陽電池を例にとって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の原理・目的を逸脱しない限り任意の形態とすることができる。
すなわち本発明はSi系太陽電池に限定されることなく、化合物系や有機物系の太陽電池にも適用できる。また本発明は太陽電池以外の光電変換装置にも適用できる。
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
本発明の第1の実施形態に基づき、薄膜Si太陽電池素子を作製した。条件を表1に示す。
表電極2はSnO2、裏電極4はZnO/Agの積層構造(第2の半導体光電変換ユニット32側がZnO)、透明中間層5は、透明導電材料であるZnOを用いた。
そして、本発明の多接合型半導体素子にかかる透明中間層5と半導体光電変換ユニット31、32との間に設けた逆導電型半導体層であるp型層31dおよびn型層32dはCat−PECVD法により条件を変更しながら製膜した。変更した条件は、ドーピング元素濃度、厚み、バンドギャップ拡大元素の添加(バンドギャップ値の調整)、Si結晶相含有の有無についてであり、具体的には、表1に記載したとおりである。
なお、前記逆導電型半導体層であるp型層31dおよびn型層32dと、それぞれpn逆接合部を形成するn型層31cおよびp型層32aは、Cat−PECVD法により、それぞれ製膜した。これらの半導体層は、表1に示すように、いずれもドーピング元素濃度が1×1018cm−3以上となるようにドーパント量を調整しながら製膜を実施した。
なお、表では省略したが、トップセルである第1の半導体光電変換ユニット31のうち、p型層31aについては、ドーパントとしてBを1×1019〜7×1020cm−3の濃度で添加した水素化アモルファスシリコン膜を10nmの厚さで、また、光活性層31bについては、i型の水素化アモルファスシリコン膜を0.3μmの厚さで作製し、双方ともCat−PECVD法により作製した。
さらに、ボトムセルである第2の半導体光電変換ユニット32のうち、光活性層32bについては、i型の微結晶シリコン膜を2μmの厚さで、n型層32cについては、ドーパントとしてPを3×1019〜1×1021cm−3の濃度で添加した微結晶シリコン相を含む結晶質シリコン膜を10nmの厚さで、双方ともCat−PECVD法により作製した。
また、透明中間層5については、ZnOをスパッタリング法により、約80〜100nmの厚さとなるように作製した。なお、この透明中間層5と同一条件で作製したZnOの屈折率をあらかじめエリプソメトリーによって評価したところ、約2であった。
表1中、試料No.1は、半導体光電変換ユニットと透明中間層の間に逆導電型半導体層を設けない従来の構造によるものである。他は全て本発明にかかる多接合型半導体素子にかかる構造である。
なお、表1に記載したドーピング元素濃度となるようにするために、あらかじめドーパントガスの添加量を変えて作製した試料を、SIMS(二次イオン質量分析)により測定を行うことにより、製膜条件を決定した。SIMSでは、ドーピング元素のうち、Bについては1次イオン源としてO2+を用い、Pについては1次イオン源としてCs+を用いた。また、元素濃度を見積もるにあたっては、分析目的領域内の異なる数点を測定してその平均をとることで行った。
また、厚みについては、各製膜条件にてあらかじめダミー基板上に製膜した膜の膜厚を触針法段差測定器にて計測し、そこから割り出した製膜速度を用いて狙いの膜厚とした。
また、薄膜のバンドギャップ値については、薄膜をガラス基板上に製膜して、その分光透過率データから算出した光吸収係数αを用いて算出するいわゆるタウツプロット法をとった(αhν∝(hν−Eg)2の関係式を用い、αhνの平方根をhνに対してプロットすればEgが求まる;なお、前式において右辺を3乗とする場合は、αhνの3乗根をhνに対してプロットしてEgを求める)。表1に示した値は2乗根プロットによる値である。
さらに、Si結晶相を含有の有無については、ラマン分光評価法により結晶化率が60%以上の微結晶シリコン相となっている場合を含有有(図中○印)とし、それ未満である場合を含有無(図中×)として判定を行った。結晶化率については、ラマン散乱スペクトルにおける結晶相ピーク強度/(結晶相ピーク強度+非晶質相ピーク強度)で定義し、結晶相ピーク強度は、500〜510cm−1でのピーク強度+520cm−1でのピーク強度とし、また、非晶質相ピーク強度は480cm−1でのピーク強度として定義した。なお、ラマンスペクトルの測定は、励起光にHe−Neレーザー(波長632.8nm)を用いたRenishaw製Ramanscope Sytem 1000を使用した。
表1に示した各試料の薄膜太陽電池素子の平均特性(変換効率・短絡電流密度Jsc・開放電圧Voc・曲線因子FF)および歩留まり、総合評価について、表2に記載する。
ここで表2中の平均特性と歩留まりを出すにあたっては、10cm角基板上に48個の素子を作り、平均特性と歩留まりを評価した。総合評価は、試料No.1の従来構造を基準として、△:効果はあるがそれほど顕著ではないもの、○:良好な効果が得られたもの、◎:顕著な効果が得られたもの、の3種類で判定を行った。
表2より、本発明の構造を有する試料No.2〜24は全て、平均特性(変換効率・短絡電流密度Jsc・開放電圧Voc・曲線因子FF)、歩留まりは、本発明の範囲外の従来構造の試料No.1を上回る効果が得られ、概ね良好な結果となった。これにより、本発明多接合型半導体素子の構造を有する薄膜Si太陽電子素子に対して、特性向上および歩留まり向上に大きな効果を有することが確認できた。
(実施例2)
本発明の第2の実施形態に基づき、本発明の多接合型半導体素子の構造を有する薄膜セル/バルクセル積層型太陽電池素子を以下のようにして形成した。条件を表3に示す。
バルクの半導体多層膜からなる第2の半導体光電変換ユニット54については以下のように作製した。300μm厚のp型Si基板(ドーパントB濃度、2×1016cm−3)をp型光活性領域54bとし、その上に、n+型領域54aを熱拡散法によりPをドーピング元素濃度が1×1018cm−3以上、拡散深さが約0.1〜0.2μmとなるように作製した。さらに、p+型領域54cを、ペースト印刷焼成法によって、Alをドーピングした。そして、本発明の多接合型半導体素子の構造にかかる、n+型領域54aと透明中間層56との間に設けるp+型領域54dについては、ドーパントをBとして、実施例1でも示した薄膜形成法により作製した。なお、これらの領域のドーパント濃度および厚さについては、表3に示す条件となるように作製した。
透明中間層56については、実施例1の透明中間層5と同じく、ZnOをスパッタリング法により、約80〜100nmの厚さとなるように作製した。なお、この透明中間層5と同一条件で作製したZnOの屈折率をあらかじめエリプソメトリーによって評価したところ、約2であった。
また、薄膜の半導体多層膜からなる第1の半導体光電変換ユニット53については、実施例1に示した第2の半導体光電変換ユニット32と全く同様にして作製した。なお、本発明の多接合型半導体素子の構造にかかるp型層53cおよびn型層53dをCat−PECVD法により条件を変更しながら製膜した。変更した条件は、ドーピング元素濃度、厚み、Si結晶相含有の有無についてであり、具体的には、表3に記載したとおりである。
さらに、これらの領域の上に、ITOあるいはZnOからなる反射防止膜をスパッタリング法により約65〜90nmの膜厚で製膜し、その後、表電極51および裏電極55を、いずれもAgをスパッタにより形成した。なお、表電極51は櫛形パターンとし、裏電極55は全面に製膜を行った。
表3中、試料No.1は、半導体光電変換ユニットと透明中間層の間に逆導電型半導体層を設けない本発明の範囲外の従来構造によるものである。他は全て本発明の多接合型半導体素子の構造にかかる試料であるが、試料No.2は、逆導電型半導体層であるn型層53dを第1の半導体光電変換ユニット53の側のみに設けたもの、試料No.3は逆導電型半導体層であるp+型領域54dを第2の半導体光電変換ユニット54の側のみに設けたものであり、試料No.4は、逆導電型半導体層であるn型層53dとp+型領域54dとを透明中間層56の両側に設けたものである。
なお、ドーピング元素濃度や厚み、Si結晶相の含有の有無などの測定方法や判定方法については、実施例1に示したものと全く同様にして行った。
表3に示した各試料のバルク太陽電池素子の平均特性(変換効率・短絡電流密度Jsc・開放電圧Voc・曲線因子FF)および歩留まり、総合評価について、表4に記載する。
総合評価は、試料No.1の従来構造を基準として、○:良好な効果が得られたもの、◎:顕著な効果が得られたもの、の2種類で判定を行った。
表4より、本発明の構造を有する試料No.2〜4は全て、平均特性(変換効率・短絡電流密度Jsc・開放電圧Voc・曲線因子FF)、歩留まりは、本発明の範囲外の従来構造の試料No.1を上回る効果が得られ、概ね良好な結果となった。特に、逆導電型半導体層を透明中間層56の両側に設けた試料No.4は、非常に良好な結果が得られた。これにより、本発明の多接合型半導体素子の構造を有する薄膜セル/バルクセル積層型太陽電池素子に対して、特性向上および歩留まり向上に大きな効果を有することが確認できた。