JP2005015614A - 脱アレルゲン化天然ゴムラテックス及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】新鮮な天然ゴムラテックスに尿素系化合物からなる蛋白質変成剤を添加し、当該ラテックス中の蛋白質を変成処理した後に除去すること等により、天然ゴムラテックスの生ゴム中の蛋白質の含有量が、窒素含有率において0.01%以下のレベルであり、LEAP法により測定した天然ゴムラテックス中のアレルゲン濃度が1.5μg/ml以下であることを特徴とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを得る。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アレルギーを誘発するおそれをほとんど有しない脱蛋白天然ゴムラテックス及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
天然ゴムは伸びが大きい、弾性が高い、引張強度や引裂強度が高い、皮膜の強さが良好である等の特徴を有することから、手袋等の家庭用品、手術用手袋、各種カテーテル等の医療用具、授乳用具、避妊具等に幅広く利用されている。しかしながら、天然ゴムからなる手術用手袋、カテーテル等の医療用具を使用すると、呼吸困難やアナフィラキシー様症状(血管性浮腫、じんましん、チアノーゼ等)などの即時型(I型)アレルギーを引き起こす場合のあることが報告されており、かかる即時型アレルギーは天然ゴムに含まれる蛋白質が抗原となって誘発されると推測されている。
【0003】
天然ゴム中の蛋白質を除去する方法としては、天然ゴムラテックス中にアルカリプロテアーゼ等の蛋白分解酵素と界面活性剤とを加えて蛋白分解処理を施し、ついで遠心分離処理等によってラテックスを洗浄する方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、このような処理でも除去の困難なアレルゲン性蛋白を除去する方法として、天然ゴムラテックスにアルカリプロテアーゼを添加して蛋白分解処理を施した後に、エキソペプチダーゼ活性を有するプロテアーゼを添加して蛋白分解処理を施し、蛋白質及びその分解物を除去処理する方法が提案されている。(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−56902号公報
【特許文献2】
特開2002−145904号公報
【0005】
これらの特許文献に記載の方法によれば、天然ゴム中の蛋白質を高いレベルで分解、除去することができ、具体的には、天然ゴムに含まれる蛋白質の量をケルダール法(Kjeldahl’s method)による窒素含有量(N%)で表したときに、0.02%以下の極めて低い値とすることができるとされている。
また、上記公報に記載の方法で脱蛋白処理を施した場合、処理後の天然ゴムラテックスを用いて成膜されたゴムフイルムからは、ポリペプチドに特有な3280cm−1の赤外吸収が観察されず、蛋白質の分解・除去が高度に達成されていると記載されている。
【0006】
また、これらの特許文献には、「一般に天然ゴムは、その数平均分子量<Mn>が100万〜250万の高分子量成分と、10万〜20万の低分子量成分との混合体であって、前者の高分子量成分は、低分子量成分が天然ゴムに含まれているペプチド分子等を介して相互に結合したものと推測されている。ここで、本来の生合成で生成したと考えられる低分子量成分の分子量を10万とし、この低分子量成分のゴム1分子に対して分子間結合に介在するペプチド分子が1分子、すなわち窒素原子(原子量14)が1原子結合したと仮定すると、天然ゴムの窒素含有量が0.014重量%となる。従って、たとえ高度な脱蛋白処理を施したとしても不可避的に0.02重量%程度の窒素は残存すると考えられる。」と記載されている。
しかしながら、このような記載は実験的に証明されたものではなく、最近の研究によれば、天然ゴムに含まれる蛋白質の多くは、ゴムに結合しているのではなく単に吸着しているものであるとの指摘もあり、天然ゴム中の窒素含有量を0.01%以下に低減できる可能性がある。
【0007】
また、最近の研究によれば、これらの特許文献等に記載された従来の技術によって、天然ゴムの脱蛋白処理を行い、蛋白質を分解、除去した場合にも、赤外線吸収スペクトルにおいて3320cm−1のオリゴペプチドに特有な吸収が観察され、アレルギー性を示すおそれのあることが明らかになった。
そして、本発明者等がこのような脱蛋白処理を行なった天然ゴムラテックスについてアレルゲン濃度の測定を行なったところ、即時型アレルギーを誘発するのに充分な量のアレルゲン性蛋白質(アレルゲン)が含まれていることが判明した。
【0008】
ここで、「アレルゲン性蛋白質」とは、つぎのように定義される。
天然ゴムラテックスの試料中に存在する全ての蛋白質およびその分解物(以下、「全蛋白質」という。)中には、ヒト血清中に抗体を産生し得る「抗原蛋白質」の群が含まれる。また、ヒト血清中に産生する抗体は、アレルギー反応を誘発し得るIgEクラスの抗体と、アレルギー反応を誘発しないIgEクラスの抗体とに分類される。ここで、「抗原蛋白質」の中で、アレルギー反応の原因となり得るIgEクラスの抗体を産生する抗原蛋白質については、他の抗原蛋白質と区別するために「アレルゲン性蛋白質」と定義する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明は、アレルギーを誘発するおそれが極めて低い、高度に脱アレルゲン化された天然ゴムラテックス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明では、上記課題を解決するために、次のような構成を採用する。
1.天然ゴムラテックスの生ゴム中の蛋白質が、窒素含有率において0.01%(w/w%、以下同様)以下のレベルであり、LEAP法により測定した天然ゴムラテックス中のアレルゲン濃度が1.5μg/ml以下であることを特徴とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックス。
2.前記ラテックスから得られた生ゴムフイルムの赤外線吸収スペクトルにおいて、ポリペプチドに特有な3280cm−1の吸収及びオリゴペプチドに特有な3320cm−1の吸収が実質的に認められないことを特徴とする1に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックス。
3.新鮮な天然ゴムラテックスに尿素系化合物からなる蛋白質変成剤を添加し、当該ラテックス中の蛋白質を変成処理した後に除去することを特徴とする1又は2に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
4.天然ゴムラテックスに蛋白質分解質酵素を添加して当該ラテックス中の蛋白質を分解した後、尿素系化合物からなる蛋白質変成剤を添加して当該ラテックス中の蛋白質及びその分解物を変成し、次いで蛋白質およびその分解物を除去することを特徴とする1又は2に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
5.尿素系化合物が、下記一般式(1)で表される尿素誘導体又は尿素複塩であることを特徴とする3又は4に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
RNHCONH2 (1)
(式中、RはH、炭素数1〜5のアルキル基を表す)
6.尿素複塩が、HNO3・CO(NH2)2、H3PO4・CO(NH2)2、H2C2O4・2CO(NH2)2、Ca(NO3)2・4CO(NH2)2、CaSO4・4CO(NH2)2、Mg(NO3)2・CO(NH2)2・2H2O、CaSO4・(5〜6)4CO(NH2)2・2H2Oからなる群から選択されたものであることを特徴とする5に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
7.蛋白質の酵素分解処理及び/又は蛋白質変成剤による変成処理を界面活性剤の存在下に行なうことを特徴とする3〜6のいずれかに記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
8.蛋白質変成剤による変成処理前に、ラテックスのpHを6〜13に調整することを特徴とする3〜7のいずれかに記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
9.変成された蛋白質の除去を遠心分離処理により行なうことを特徴とする3〜8のいずれかに記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスは、天然ゴムラテックスの生ゴム中の蛋白質が、窒素含有率において0.01%以下のレベルであり、LEAP法により測定したラテックス中のアレルゲン濃度が1.5μg/ml以下であることを特徴とする。
本発明の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスは、新鮮な天然ゴムラテックスに尿素系化合物からなる蛋白質変成剤を添加し、当該ラテックス中の蛋白質を変成処理した後に除去することにより、製造することができる。ここで、新鮮な天然ゴムラテックスとは防食処理されていないラテックスを意味し、好ましくはゴムの樹から採取後3箇月以内、特に好ましくは採取後7日以内、最も好ましくは採取後3日以内のラテックスを使用する。また、ゲル含有量が好ましくは40%以下、特に好ましくは10%以下のラテックスを使用する。本発明者等は、ゴムの樹から採取した直後の天然ゴムには蛋白質が結合しておらず、採取後時間の経過とともに天然ゴムに対する蛋白質の結合量が増加することを発見し、新鮮な天然ゴムラテックスを使用することによって、一段階の処理で効率良く目的とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを得ることができることを見出した。
【0012】
また、本発明の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスは、従来の天然ゴムラテックスに蛋白質分解酵素を添加して当該ラテックス中の蛋白質を分解した後、蛋白質変成剤を添加して当該ラテックス中の蛋白質およびその分解物をさらに変成し、次いで変成した蛋白質およびその分解物を除去することにより、製造することができる。
【0013】
(蛋白質変成剤)
蛋白質変成剤としては、尿素化合物を使用する。好ましい尿素系化合物としては、次の一般式(1)で表される尿素誘導体及び尿素複塩を使用することができる。
RNHCONH2 (1)
(式中、RはH、炭素数1〜5のアルキル基を表す)
【0014】
上記一般式(1)で表される尿素誘導体としては、尿素、メチル尿素、エチル尿素、n−プロピル尿素、i−プロピル尿素、n−ブチル尿素、i−ブチル尿素、n−ペンチル尿素等が挙げられるが、好ましい尿素誘導体としては尿素、メチル尿素、エチル尿素が挙げられる。
【0015】
また、尿素複塩としては、HNO3・CO(NH2)2、H3PO4・CO(NH2)2、H2C2O4・2CO(NH2)2、Ca(NO3)2・4CO(NH2)2、CaSO4・4CO(NH2)2、Mg(NO3)2・CO(NH2)2・2H2O、CaSO4・(5〜6)CO(NH2)2・2H2O等が挙げられる。
【0016】
(蛋白質分解酵素)
蛋白質分解酵素としては、特に限定されず、細菌由来のもの、糸状菌由来のもの、酵母由来のもの等いずれでも構わないが、これらの中では細菌由来のプロテアーゼ、特にアルカリプロテアーゼを使用するのが好ましい。
【0017】
(原料ラテックス)
本発明で目的とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを得るための出発原料となる天然ゴムラテックスとしては、天然ゴムの樹から得られたラテックス及び該ラテックスを処理したものを使用することができる。
新鮮なフィールドラテックスを使用する場合には、蛋白質変性剤による一段階の処理で目的とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを得ることができる。
蛋白質分解酵素による処理と、蛋白質変性剤による処理の二段階で目的とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを製造する場合には、原料ラテックスとして、防食処理されていないフィールドラテックスや、市販のアンモニア処理ラテックス等を使用することができる。
【0018】
〔一段階処理による脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造〕
蛋白質変性剤による一段階の処理で本発明により目的とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを製造するには、前記の蛋白質変成剤の1種又は2種以上を新鮮な天然ゴムラテックスに添加し、数分〜数時間処理してラテックス中の蛋白質を変成する。つぎに、変成された蛋白質及びその分解物をゴム分と分離、除去し脱蛋白質化天然ゴムラテックスを得る。
【0019】
変成剤の添加量は、使用する変成剤の性質に応じて設定されるものであって特に限定されるものではないが、通常、ラテックスのゴム固形分に対して約0.001〜10重量%の割合で変成剤を添加すればよい。
ラテックスの変成処理を安定に行なうには、ラテックス中に界面活性剤を存在させることが好ましい。界面活性剤は、変成剤による処理の前にあらかじめ、または当該処理中に、必要に応じて、ゴム固形分に対して約0.01〜10重量%の範囲で添加すればよい。
【0020】
蛋白質変成剤によりラテックスを処理する際のpHは適宜設定することができるが、pH6〜13程度、好ましくはpH9〜12程度のアルカリ性領域に調整することが好ましい。
蛋白質変成処理時のラテックスの温度は、使用する変成剤の至適温度に応じて設定されるものであって特に限定されるものではないが、通常、5〜90℃に設定するのが好ましく、ラテックスの安定性を勘案すれば30〜60℃に設定するのがより好ましい。
【0021】
蛋白質の変成処理を終えた天然ゴムラテックスには、さらに遠心分離、ゴム分の凝固、限外ろ過等の手段により、ゴム分と蛋白質との分離、ならびに除去処理が施される。
遠心分離により上記除去処理を行う場合には、遠心分離処理の回数は通常は1回で十分であるが、ゴム分の損失および歩留まりの低下に伴う不利益を被ることのない範囲であれば2回以上行ってもよい。
蛋白質変性剤による一段階の処理は、きわめて短時間で行なうことができるので、目的とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを低コストで効率良く製造することができる。
【0022】
〔二段階処理による脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造〕
原料ラテックスとして、ゴムの樹から採取後時間の経過したアンモニア未処理のフィールドラテックスや、市販のアンモニア処理ラテックス等を使用し、蛋白質分解酵素による処理と、蛋白質変性剤による処理の二段階で目的とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを製造する場合には、(1)蛋白質分解酵素により蛋白質を分解処理した後に、(2)尿素系化合物からなる蛋白質変成剤を使用してラテックスから蛋白質分解物を除去する。
【0023】
(蛋白質分解酵素処理)
上記(1)の蛋白質分解酵素による蛋白質の分解処理は、前述の蛋白質分解酵素を単独でまたは2種以上混合して天然ゴムラテックス中に添加し、数分〜数週間程度処理することによって行われる。上記蛋白質分解酵素の添加量は、使用する酵素の性質に応じて設定されるものであって特に限定されるものではないが、通常、未処理のフィールドラテックスやアンモニア処理ラテックスのゴム分に対して約0.001〜10重量%の割合で蛋白質分解酵素を添加すればよい。
【0024】
(蛋白質変成剤処理)
変成剤による蛋白質および蛋白質分解物の除去前処理は、前述の変成剤を単独でまたは2種以上混合して酵素処理ラテックス中に添加し、数分〜数時間程度処理することによって行われる。変成剤の添加量は、使用する変成剤の性質に応じて設定されるものであって特に限定されるものではないが、通常、酵素処理ラテックスのゴム分に対して約0.001〜10重量%の割合で変成剤を添加すればよい。
【0025】
蛋白質変成剤による蛋白質除去前処理時のラテックスのpHは、適宜設定することができる。蛋白質除去前処理時のラテックスの温度は、使用する変成剤の至適温度に応じて設定されるものであって特に限定されるものではないが、通常、5〜90℃に設定するのが好ましく、ラテックスの安定性を勘案すれば10〜60℃に設定するのがより好ましい。
【0026】
(蛋白質の除去処理)
蛋白質変成剤で処理された天然ゴムラテックスは、さらに遠心分離、ゴム分の凝固、限外濾過等の手段により、ゴム分と蛋白質及びその分解物を分離し、除去することにより精製され、工業用原料として使用可能な、アレルギーを誘発するおそれのない脱アレルゲン化天然ゴムラテックスが得られる。
除去処理を遠心分離により行う場合においては、遠心分離処理の回数は1回行えば十分であるが、ゴム分の損失および歩留まりの低下に伴う不利益を被ることのない範囲であれば、2回以上行ってもよい。
【0027】
(界面活性剤)
二段階処理により脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを製造する際には、蛋白質の除去前処理を施す前にまたは前処理中に、安定化剤としての界面活性剤をラテックス中に添加するのが好ましい。とりわけ、アンモニア処理ラテックスのpHを中性領域に調整する場合、蛋白質の除去処理を行う際に、ゴム分の凝固を防止する上で界面活性剤の添加が望まれる。
【0028】
本発明の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを製造する際に使用する界面活性剤としては、従来公知の種々のアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤およびカチオン界面活性剤はいずれも使用することができるが、具体的にはpH6〜13の範囲、より好ましくはpH9〜12の範囲において安定した界面活性を示すものを用いるのが好ましい。
【0029】
以下、本発明に使用可能な界面活性剤を示す。以下に例示の界面活性剤は単独で用いるほか、2種以上を混合して用いることもできる。
(アニオン界面活性剤)
アニオン界面活性剤には、例えばカルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、リン酸エステル系等が挙げられる。カルボン酸系のアニオン界面活性剤としては、例えば炭素数が6以上、30以下である脂肪酸塩、多価カルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマー酸塩、ポリマー酸塩、トール油脂肪酸塩などが挙げられ、中でも炭素数10〜20のカルボン酸塩が好適である。炭素数が6を下回ると蛋白質および不純物の分散・乳化作用が不十分となるおそれがあり、炭素数が30を超えると水に分散させにくくなるおそれがある。
【0030】
スルホン酸系のアニオン界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩等が挙げられる。
硫酸エステル系界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、トリスチレン化フェノール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0031】
リン酸エステル系のアニオン界面活性剤としては、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンリン酸エステル塩等が挙げられる。これらの化合物の塩としては、金属塩(Na,K,Ca,Mg,Zn等)、アンモニウム塩、アミン塩(トリエタノールアミン塩等)などが挙げられる。
【0032】
(ノニオン界面活性剤)
ノニオン界面活性剤には、例えばポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系等が挙げられる。
ポリオキシアルキレンエーテル系のノニオン界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリオールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンスチレン化フェノールエーテル、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノールエーテル、ポリオキシアルキレントリスチレン化フェノールエーテル等が挙げられる。前記ポリオールとしては炭素数2〜12の多価アルコールが挙げられ、例えばプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、シュクロース、ペンタエリトリトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0033】
ポリオキシアルキレンエステル系のノニオン界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられる。多価アルコール脂肪酸エステル系のノニオン界面活性剤としては、炭素数2〜12の多価アルコールの脂肪酸エステルまたはポリオキシアルキレン多価アルコールの脂肪酸エステルが挙げられる。より具体的には、例えばソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。また、これらのポリアルキレンオキサイド付加物(例えばポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル等)も使用可能である。
糖脂肪酸エステル系のノニオン界面活性剤としては、例えばショ糖、グルコース、マルトース、フラクトース、多糖類の脂肪酸エステル等が挙げられ、これらのポリアルキレンオキサイド付加物も使用可能である。
【0034】
アルキルポリグリコシド系のノニオン界面活性剤としては、例えばアルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、ポリオキシアルキレンアルキルグルコシド、ポリオキシアルキレンアルキルポリグルコシド等が挙げられ、これらの脂肪酸エステル類も挙げられる。また、これらのポリアルキレンオキサイド付加物も使用可能である。これらのノニオン界面活性剤におけるアルキル基としては、例えば炭素数4〜30のアルキル基が挙げられる。また、ポリオキシアルキレン基としては、炭素数2〜4のアルキレン基を有するものが挙げられ、例えば酸化エチレンの付加モル数が1〜50モル程度のものが挙げられる。脂肪酸としては、例えば炭素数が4〜30の直鎖または分岐した飽和または不飽和の脂肪酸が挙げられる。
【0035】
(カチオン界面活性剤)
カチオン界面活性剤には、例えばアルキルアミン塩型、アルキルアミン誘導体型およびそれらの第4級化物、ならびにイミダゾリニウム塩型等が挙げられる。アルキルアミン塩型のカチオン界面活性剤としては、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンの塩が挙げられる。アルキルアミン誘導体型のカチオン界面活性剤は、エステル基、エーテル基、アミド基のうちの少なくとも1つを分子内に有するものであって、例えばポリオキシアルキレン(AO)アルキルアミンおよびその塩、アルキルエステルアミン(AO付加物を含む)およびその塩、アルキルエーテルアミン(AO付加物を含む)およびその塩、アルキルアミドアミン(AO付加物を含む)およびその塩、アルキルエステルアミドアミン(AO付加物を含む)およびその塩、アルキルエーテルアミドアミン(AO付加物を含む)およびその塩等が挙げられる。
【0036】
前記塩の種類としては、例えば塩酸塩、リン酸塩、酢酸塩、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、脂肪酸、有機酸、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルカルボン酸、アルキルアミドエーテルカルボン酸、アニオン性オリゴマー、アニオン性ポリマー等が挙げられる。
アルキルアミン誘導体型カチオン界面活性剤のうち、酢酸塩の具体例としては、例えばココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。上記アルキルアミン塩型およびアルキルアミン誘導体型カチオン界面活性剤におけるアルキル基は特に限定されるものではないが、通常炭素数8〜22の、直鎖状、分岐鎖状またはゲルベ状のものが挙げられる。
【0037】
上記アルキルアミン塩型およびアルキルアミン誘導体型カチオン界面活性剤の第4級化物としては、上記アルキルアミン塩およびアルキルアミン誘導体を、例えばメチルクロライド、メチルブロマイド、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等で第4級化したものが挙げられる。
具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウムハライド、セチルトリメチルアンモニウムハライド、ステアリルトリメチルアンモニウムハライド等のアルキルトリメチルアンモニウムハライド;ジステアリルジメチルアンモニウムハライド等のジアルキルジメチルアンモニウムハライド;トリアルキルメチルアンモニウムハライド;ジアルキルベンジルメチルアンモニウムハライド;アルキルベンジルジメチルアンモニウムハライド等が挙げられる。
【0038】
イミダゾリニウム塩型のカチオン界面活性剤としては、例えば2−ヘプタデセニル−ヒドロキシルエチルイミダゾリン等が挙げられる。上記例示の界面活性剤の中でも、特に、pHが6.5〜8.5の範囲において安定した界面活性を示すものとしては、例えば、ノニオン界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、アニオン界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0039】
(他の添加剤)
本発明の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法においては、上記例示の各成分のほかにも、必要に応じて他の添加剤を配合することができる。かかる他の添加剤としては、例えばpH調整剤としての、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸ナトリウム等のリン酸塩;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の酢酸塩;硫酸、酢酸、塩酸、硝酸、クエン酸、コハク酸等の酸類またはその塩;アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
また、酵素としての、リパーゼ、エステラーゼ、アミラーゼ、ラッカーゼ、セルラーゼ等が挙げられる。さらに、分散剤としての、スチレンスルホン酸共重合物、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸、多環式芳香族スルホン酸共重合物、アクリル酸および無水マレイン酸のホモポリマー/共重合物、イソブチレン−アクリル酸、イソブチレン−無水マレイン酸共重合物等が挙げられる。
【0040】
(脱アレルゲン化の程度)
本発明によれば、天然ゴムラテックスの生ゴム中の蛋白質を、窒素含有率として0.01%以下とし、LEAP法により測定したラテックス中のアレルゲン濃度として、1.5μg/ml以下のレベルにすることができる。
アレルゲン性蛋白質量は、抗原蛋白質測定のためのラテックス酵素結合免疫吸着検定法(LEAP)により測定した。試料に含まれる蛋白質をELISA試験用プレートに吸着し、牛血清アルブミンを反応させてから、ウサギの抗ラテックス抗体を反応させた。これにより、標識酵素の活性を測定することで、アレルゲン性蛋白質を定量した。
【0041】
この脱アレルゲン化天然ゴムラテックスから得られた生ゴムフイルムの赤外線吸収スペクトルにおいては、ポリペプチドに特有な3280cm−1の吸収、及びオリゴペプチドに特有な3320cm−1の吸収は実質的に認められず、従来の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスに比較して、高度に脱アレルゲン化されたものである。
【0042】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
以下の例では、界面活性剤として、アニオン界面活性剤ラウリル硫酸ナトリウム(キシダ化学工業製)を使用した。また、蛋白質分解酵素としては、アルカラーゼ2.0T(Novo社製、アルカリプロテアーゼ)を使用した。
【0043】
(実施例1)
原料ラテックスとして、ゴムの樹から採取後2日経過したアンモニア未処理の天然ゴムラテックスを使用し、これをゴム分の濃度が30重量%となるように希釈した。このラテックスのゴム分100重量部に対して、アニオン界面活性剤ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)1.0重量部を添加し、ラテックスを安定化させた。次いで、このラテックスのゴム分100重量部に対して変成剤として尿素0.2重量部を添加し、60℃で60分間静置することによって変成処理を行った。
変成処理を完了したラテックスについて13000rpmで30分間遠心分離処理を施した。こうして分離した上層のクリーム分を界面活性剤の1%水溶液にゴム分濃度が30%になるよう分散し、2回目の遠心分離処理を上記と同様にして行った。さらに、得られたクリーム分を界面活性剤の1%水溶液に再分散させることによって、脱蛋白質化天然ゴムラテックスを得た。
【0044】
(実施例2)
[工程(1):蛋白質分解酵素処理]
天然ゴムラテックスとしてソクテック社(マレーシア国)製の、ゴム分濃度60.2重量%、アンモニア分0.7重量%のハイアンモニアラテックス(HAラテックス)を使用し、これをゴム分の濃度が30重量%となるように希釈した。このラテックスのゴム分100重量部に対して、アニオン界面活性剤SLS1.0重量部を添加し、ラテックスを安定化させた。次いで、このラテックスのゴム分100重量部に対してアルカリプロテアーゼ0.04重量部を添加し、38℃で24時間静置することにより熟成させた。
【0045】
つぎに、蛋白質分解処理を完了したラテックスを、13000rpmで30分間遠心分離処理を施した。こうして分離した上層のクリーム分を、界面活性剤の1重量%水溶液にゴム分濃度が30重量%になるように分散し、2回目の遠心分離処理を上記と同様にして行った。さらに、得られたクリーム分を界面活性剤の1重量%水溶液に再分散させることによって、蛋白質分解酵素処理天然ゴムラテックスを得た。
【0046】
[工程(2):蛋白質変成剤処理]
得られた蛋白質分解酵素処理天然ゴムラテックスのゴム分100重量部に対して、尿素0.2重量部を添加し、60℃で60分間静置することによって、蛋白質変成剤処理を行った。
つぎに、蛋白質変成剤処理を完了したラテックスを、13000rpmで30分間遠心分離処理を施した。こうして分離した上層のクリーム分を、界面活性剤の1重量%水溶液にゴム分濃度が30重量%になるよう分散し、2回目の遠心分離処理を上記と同様にして行った。さらに、得られたクリーム分を界面活性剤の1重量%水溶液に再分散させることによって、脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを得た。
【0047】
(比較例1)
実施例2の工程(1)と同様にしてHAラテックスを処理し、蛋白質分解酵素処理天然ゴムラテックスを製造した。
【0048】
(窒素含有率の測定)
天然ゴム中に含まれる蛋白質の量を表す指標として、上記実施例及び比較例において、遠心分離後に生じたクリーム分をメタノールにて凝固させて固形ゴムを作製し、窒素含有率測定用のサンプルとした。
また、対照サンプルとして、実施例1で原料として使用した新鮮な天然ゴムラテックス(対照例1)、及び蛋白分解処理及び洗浄処理を施していないHAラテックス(対照例2)から直接キャストフイルムを作製した。実施例、比較例および対照例の各サンプルについて、その窒素含有率(N%)をRRIM試験法(Rubber Reseach Institute of Malaysia(1973),’SMR Bulletin No.7’)によって測定した結果を表1に示す。
【0049】
(アレルゲン濃度)
上記実施例1、2及び比較例1で得られた天然ゴムラテックス中のアレルゲン濃度を、LEAP法により測定し、その結果を表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1によれば、新鮮な天然ゴムラテックス(FNR)を蛋白質変性剤で一段階処理した実施例1の脱アレルゲン化天然ゴムラテックス中の窒素含有率は、未処理の対照例1や、市販のハイアンモニアラテックス(HANR)を酵素処理した比較例1に比べて大幅に減少している。また、HANRを酵素及び蛋白質変性剤で二段階処理した実施例2の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスに比べても、半分程度であった。
また、実施例1の脱アレルゲン化天然ゴムラテックス中のアレルゲン濃度は、実施例2のラテックス中のアレルゲン濃度とほぼ同程度であり、比較例1に比べて大幅に減少している。
【0052】
この結果によれば、新鮮な天然ゴムラテックスを原料として使用することによって、ハイアンモニアラテックスを酵素及び蛋白質変性剤で二段階処理したものと同程度の低アレルゲン濃度の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを、短時間で効率良く製造することができる。天然ゴムラテックスの酵素処理には長時間を必要とするので、この酵素処理工程を必要としない新鮮な天然ゴムラテックスを蛋白質変性剤で一段階処理する、脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法の実用的価値はきわめて高いものである。
【0053】
(赤外線吸収スペクトル)
実施例2、比較例1ならびに対照例2のゴムラテックスから生ゴムフイルムを作製し、赤外線吸収スペクトルを測定した結果を図1に示す。
図1において、横軸は波数(cm−1)、縦軸は吸収強度を表す。また、Aは実施例2、Bは比較例1、そしてCは対照例2から得られたフイルムのスペクトルを表す。
【0054】
図1によれば、未処理の天然ゴムラテックスから得られたフイルムCでは、長連鎖のペプチド結合に由来する3280cm−1のピークが確認された。天然ゴムラテックスを、蛋白質分解処理酵素処理して得られたフイルムBでは、3280cm−1のピークは消失し、短鎖のペプチド結合に由来する3320cm−1のピークが確認された。
一方、本発明の実施例2のラテックスから得られたフイルムAでは、3280cm−1及び3320cm−1のピークはともに消失し、赤外線吸収スペクトルで検出可能な蛋白質及び蛋白質分解物は、実質的に全て除去されていることが判明した。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、高度に脱アレルゲン化された、アレルギーを誘発するおそれがきわめて低い脱アレルゲン化天然ゴムラテックスを得ることができる。この脱アレルゲン化天然ゴムラテックスは、原料として新鮮な天然ゴムラテックスを使用し、尿素系化合物からなる蛋白質変成剤による一段階の処理で効率良く製造することができる。
本発明の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスは、手袋等の家庭用品、手術用手袋、カテーテル等の医療用具、授乳用具、避妊具等に幅広く利用できるものであり、安全性の高いこれらの製品の製造原料としてきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の各例で得られたラテックスから作製した生ゴムフイルムの赤外線吸収スペクトルを示す図である。
Claims (9)
- 天然ゴムラテックスの生ゴム中の蛋白質の含有量が、窒素含有率において0.01%以下のレベルであり、LEAP法により測定した天然ゴムラテックス中のアレルゲン濃度が1.5μg/ml以下であることを特徴とする脱アレルゲン化天然ゴムラテックス。
- 前記ラテックスから得られた生ゴムフイルムの赤外線吸収スペクトルにおいて、ポリペプチドに特有な3280cm−1の吸収及びオリゴペプチドに特有な3320cm−1の吸収が実質的に認められないことを特徴とする請求項1に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックス。
- 新鮮な天然ゴムラテックスに尿素系化合物からなる蛋白質変成剤を添加し、当該ラテックス中の蛋白質を変成処理した後に除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
- 天然ゴムラテックスに蛋白質分解質酵素を添加して当該ラテックス中の蛋白質を分解した後、尿素系化合物からなる蛋白質変成剤を添加して当該ラテックス中の蛋白質及びその分解物を変成し、次いで蛋白質およびその分解物を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
- 尿素系化合物が、下記一般式(1)で表される尿素誘導体又は尿素複塩であることを特徴とする請求項3又は4に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
RNHCONH2 (1)
(式中、RはH、炭素数1〜5のアルキル基を表す) - 尿素複塩が、HNO3・CO(NH2)2、H3PO4・CO(NH2)2、H2C2O4・2CO(NH2)2、Ca(NO3)2・4CO(NH2)2、CaSO4・4CO(NH2)2、Mg(NO3)2・CO(NH2)2・2H2O、CaSO4・(5〜6)4CO(NH2)2・2H2Oからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項5に記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
- 蛋白質の酵素分解処理及び/又は蛋白質変成剤による変成処理を界面活性剤の存在下に行なうことを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
- 蛋白質変成剤による変成処理前に、ラテックスのpHを6〜13に調整することを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
- 変成された蛋白質の除去を遠心分離処理により行なうことを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載の脱アレルゲン化天然ゴムラテックスの製造方法。
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